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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095055
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】傾斜圧延設備および金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 19/06 20060101AFI20250619BHJP
   B21B 27/02 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
B21B19/06 Z
B21B27/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210830
(22)【出願日】2023-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】吉村 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
【テーマコード(参考)】
4E016
【Fターム(参考)】
4E016AA09
4E016BA09
4E016DA07
4E016DA19
4E016DA20
(57)【要約】
【課題】傾斜圧延設備および金属管の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の傾斜圧延設備は、パスラインを中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロールを備え、圧延ロールは、圧延ロール入側に平行部を設け、かつ、当該平行部の終端側に入側面角を設けたものである。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パスラインを中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロールを備え、
前記圧延ロールは、圧延ロール入側に平行部を設け、かつ、当該平行部の終端側に入側面角を設けた、傾斜圧延設備。
【請求項2】
前記圧延ロールの前記平行部の長さは、式(1)を満たす、請求項1に記載の傾斜圧延設備。
1.45×(t/D)-0.95≦L≦1.98×(t/D)-1.6 …(1)
ここで、D:圧延前の素管外径(mm)、t:圧延前の素管肉厚(mm)、L:圧延ロールの平行部長さ(mm)である。
【請求項3】
前記圧延ロールの前記入側面角は、式(2)を満たす、請求項1に記載の傾斜圧延設備。
((t/D)/0.009) 0.71≦M≦((t/D)/0.02)3.3 …(2)
ここで、D:圧延前の素管外径(mm)、t:圧延前の素管肉厚(mm)、M:入側面角(°)である。
【請求項4】
前記圧延ロールの前記入側面角は、式(2)を満たす、請求項2に記載の傾斜圧延設備。
((t/D)/0.009) 0.71≦M≦((t/D)/0.02)3.3 …(2)
ここで、D:圧延前の素管外径(mm)、t:圧延前の素管肉厚(mm)、M:入側面角(°)である。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の傾斜圧延設備を用いて金属管を製造する金属管の製造方法であって、
素管を管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら、2個以上の前記圧延ロールのロールギャップに当該素管を通過させて圧延することで金属管とする圧延工程を有する、金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延後の金属管の円周断面形状に優れた傾斜圧延設備および金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無金属管が使用される分野、特に優れた耐食性と高強度が求められる分野では、高耐食性能を得るためにCr、Niなどの耐食性を向上させる元素が多く添加される。例えば2相ステンレス鋼(具体的にはJIS G3459 SUS 329J1、329J3L、329J4L相当)やオーステナイト系ステンレス鋼(具体的にはJIS G3459 SUS 301、302、304、305、309、310、312、315、316、317、836、890、321、347相当)ならびにNi基合金(具体的にはJIS H4552 NW4400、NW6007、NW0276、NW6022、NW6002相当)が挙げられる。
【0003】
これらの鋼種および合金は、耐食性を向上させるために合金元素を多量に含有させた結果、オーステナイト相単相、もしくはオーステナイト相を多く含む多相組織となる。オーステナイト相は、フェライト相やマルテンサイト相に比べ降伏強度が低い場合が多い。そのため、オーステナイト相が含まれる材料で、高い降伏強度が求められる場合は、冷間加工による転位強化を利用して高降伏強度化を図っている。
【0004】
例えば、油井管などに使われる外径3-1/2inch以上の高強度高耐食性鋼管では、冷間引抜加工や冷間ピルガー加工という冷間加工が多用されており、降伏強さが125ksi以上である高強度鋼管が実用化されている(非特許文献1を参照)。
【0005】
非特許文献1に記載の冷間加工法は、鋼管長手方向の強度向上に加え、鋼管の長手方向における肉厚分布の均一化にも有効な手法である。しかしながら、冷間加工前に、鋼管の軟化熱処理や、酸洗、潤滑被膜付与のための化成処理や、引抜時のつかみ部を作るための管端加工などの多くのプロセスが必要となる。また、冷間加工に必要な圧力の制限や工具への焼付き防止の観点から、減肉率が20%程度しか得られない。さらに、1回の冷間加工で減肉量が足りない場合には、再度前述の軟化熱処理からの一連のプロセスを繰り返す必要がある。また、冷間加工後の鋼管の形状は引抜に使用される工具寸法により一義的に決定されるため、サイズ変更時には工具の交換が必要であり、少量多品種の製造には不向きである。さらに冷間加工を実施する際に必要なプロセスが多いため設備投資やエネルギー消費量も多大になるという問題がある。
【0006】
一方、非特許文献1に記載の冷間ピルガー加工は、鋼管の予備処理が不要で、かつ高い減肉率が得られる。しかしながら、1パスでの送り量が数十ミリと小さく、生産能率が悪い。また、圧延ロールの形状が複雑であり、工具製造負荷(具体的には、圧延ロールを製造するための作業負荷や経済的負荷)が大きいという問題があることも知られている。
【0007】
上記の問題を解決する技術として、例えば特許文献1の技術が挙げられる。特許文献1の技術では、回転軸が金属管の圧延パス方向センターライン(以下、「パスライン」と称する場合もある)に対して傾斜して配置した2個以上の圧延ロールを有する傾斜圧延機のロールギャップに金属管を通過させて圧延する冷間圧延方法を提案している。これにより、加工前の被圧延管に対して表面被膜付与や、管端の加工などの予備処理を必要とせずに、高い加工能率で冷間加工による金属管の強度向上が可能になり、環境保護や、産業上において良好な効果を得られるとしている。また、内面を自由変形とすることで工具に生ずる面圧が過大になることを防ぎ、冷間引抜で発生する焼き付きのような表面疵の発生もなく所望の加工歪みを付加できるため、多品種少量生産にも好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6432614号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本鉄鋼協会、「鋼管の製造技術の現状と将来」、社団法人 日本鉄鋼協会出版、昭和61年5月6日、p.115-145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、特許文献1に記載の冷間圧延方法には多数の利点がある。この特許文献1に記載の冷間圧延方法に用いられる傾斜圧延機は、当該傾斜圧延機のロールギャップに被圧延管を通過させて圧延(同文献1では縮径圧延)を施して金属管を得るものである。しかしながら、当該圧延の際に、圧延ロール間に管材が張り出すことで管材に過大な変形が加わる恐れがある。そのため、特許文献1では、圧延後の金属管の円周方向断面形状をより真円に近づけること、すなわち金属管の真円度を向上させる技術としては、まだ十分とは言えない。
【0011】
また、圧延後の金属管の真円度を向上する技術の提供は、冷間圧延だけでなく、熱間圧延や温間圧延などでも求められている。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、圧延後の金属管の円周断面形状をより真円に近づけることが可能な傾斜圧延設備および金属管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、金属管の真円度を向上させる製造方法について鋭意検討を行った。その結果、圧延ロールのロール形状を適正化することで、圧延後の金属管の円周方向断面形状をより真円形状に近づける方法があることが分かった。
【0014】
そして、本発明者らはさらなる検討により、以下の要旨からなる金属管の製造方法、およびこの製造方法を実現するための傾斜圧延設備を完成した。
[1] パスラインを中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロールを備え、
前記圧延ロールは、圧延ロール入側に平行部を設け、かつ、当該平行部の終端側に入側面角を設けた、傾斜圧延設備。
[2] 前記圧延ロールの前記平行部の長さは、式(1)を満たす、[1]に記載の傾斜圧延設備。
1.45×(t/D)-0.95≦L≦1.98×(t/D)-1.6 …(1)
ここで、D:圧延前の素管外径(mm)、t:圧延前の素管肉厚(mm)、L:圧延ロールの平行部長さ(mm)である。
[3] 前記圧延ロールの前記入側面角は、式(2)を満たす、[1]または[2]に記載の傾斜圧延設備。
((t/D)/0.009) 0.71≦M≦((t/D)/0.02)3.3 …(2)
ここで、D:圧延前の素管外径(mm)、t:圧延前の素管肉厚(mm)、M:入側面角(°)である。
[4] [1]~[3]のいずれか1つに記載の傾斜圧延設備を用いて金属管を製造する金属管の製造方法であって、
素管を管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら、2個以上の前記圧延ロールのロールギャップに当該素管を通過させて圧延することで金属管とする圧延工程を有する、金属管の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧延後の金属管の円周方向断面形状をより真円形状に近づけることが可能となるため、金属管の真円度向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の傾斜圧延設備の一実施形態を説明する模式図である。
図2図2は、図1に示す傾斜圧延設備を側面視した模式図である。
図3図3は、図1に示す傾斜圧延設備を上面視した模式図である。
図4図4は、本発明の傾斜圧延設備における圧延ロールの一例を説明する模式図である。
図5図5は、図4に示す圧延ロールを側面視した模式図である。
図6図6は、本発明の圧延ロールの平行部長さと圧延後の金属管の真円度との関係を示す相関図である。
図7図7は、本発明の圧延ロールと入側面角と圧延後の金属管の真円度との関係を示す相関図である。
図8図8は、圧延後の金属管の断面形状の一例を説明する模式図である。
図9図9は、従来の傾斜圧延設備の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
各図を参照して、本発明の傾斜圧延設備および当該傾斜圧延設備を用いた金属管の製造方法について説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な一実施形態を示すものであり、本発明はこの実施形態に限定されない。
【0018】
〔傾斜圧延設備〕
図1~7を参照して、本発明の傾斜圧延設備について説明する。
【0019】
図1は、本発明の傾斜圧延設備の一実施形態を示す図であり、傾斜圧延設備を圧延出側から正面視したものである。なお、図1には、一例として、2つの圧延ロールを有する傾斜圧延設備(すなわち、2ロール型の傾斜圧延設備)によって被圧延管に圧延を施している状態を示している。図2は、図1に示す傾斜圧延設備と被圧延管を側面から視た模式図である。図3は、図1に示す傾斜圧延設備と被圧延管を上方から視た模式図である。なお、理解しやすくするために、図3では2個の圧延ロール3のうち下側の圧延ロールの図示を省略している。図4、5は、本発明の傾斜圧延設備に用いる圧延ロールの形状を説明する図である。
【0020】
本発明の傾斜圧延設備とは、金属管の製造プロセスで利用する圧延設備の一つである。以下には、「圧延設備」の一例として、被圧延管に冷間加工を行うための冷間圧延設備について説明する。例えば、圧延ロールの回転軸が素管の圧延パス方向センターライン(パスライン。すなわち管軸方向。)に対して傾斜して配置された2個以上の圧延ロールを有する傾斜圧延設備が挙げられる。また、「圧延」の一例として、冷間圧延を行う場合について説明するが、本発明は、冷間圧延だけでなく、熱間圧延や温間圧延を行う場合にも適用可能である。なお、本発明における「金属管」とは、継目無鋼管や、電縫管、鍛接管、UOE管を指すものとする。
【0021】
図1等に示すように、本発明の傾斜圧延設備10は、パスライン6を中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロール3を備える。すなわち、圧延ロール3は、素管1および被圧延管2の管周方向に2個以上配設される。この傾斜圧延設備10のロールギャップに、当該傾斜圧延設備の入側(すなわち圧延入側)から素管1を供給する。そして、2個以上の圧延ロール3に当該素管1を挟圧させつつ、当該素管1を圧延方向(図2等に示す進行方向)に通過させることで、管材に傾斜圧延を施し、所望の外径寸法に縮径された金属管とする。
【0022】
なお、図1および図2に示す2ロール型の傾斜圧延設備の例では、傾斜圧延設備は2個の圧延ロール3を備え、一対の圧延ロール3で素管1を挟圧させつつ圧延方向に通過させることとなる。この冷間圧延設備の例では、得られる金属管とは冷間圧延管となる。
【0023】
次に、本発明の圧延ロール3について説明する。
【0024】
まず、図2および図3を参照して、圧延ロール3の交叉角γ、傾斜角βについて説明する。図2は、図1に示すA-A線断面図であり、圧延ロール3と被圧延管2などを側面からみた図である。図3は、図2に示すB-B矢視図であり、圧延ロール3と被圧延管2などを上方からみた図である。
【0025】
図2等に示すように、圧延ロール3とは、傾斜圧延設備10に供給された素管1を圧延するロールである。圧延ロール3は、その回転軸7がパスライン6に対して傾斜角βを設けて配置される。傾斜角βとは、図3に示すように圧延ロール3を上面視した場合に(すなわち、管軸方向に垂直な方向であって、素管1への圧延荷重のかかる方向に視た場合に)、管軸方向(パスライン6)の直線と、圧延ロール3の回転軸7とがなす角度(単位:°)を指す。
【0026】
このように、2個以上の圧延ロール3を傾斜した配置とすることにより、圧延ロール3の回転軸を中心に回転する圧延ロール3が、圧延ロール3と素管1との接触によって生じる摩擦力を利用し、ロールギャップに供給された素管1を圧延パス方向に引き込む。そのため、素管1は圧延ロール3によって回転を受けながららせん状に圧延される。すなわち、素管1は、管周方向に回転しつつ、管軸方向に進行しながら圧延される。このような圧延形態は、傾斜圧延設備の圧延ロール3のロールギャップを、素管1の外径より小さくし、かつ上述したように圧延ロール3のそれぞれを傾斜配置すれば実現可能である。
【0027】
傾斜角βは特に規定しない。圧延後の金属管の真円度をより良好な形状に制御する観点からは、傾斜角βを2°~5°の範囲に設定することが好ましい。
【0028】
圧延ロール3は、傾斜角βを設けることに加えて、圧延出側で交差角(交叉角)γを設けて配置してもよい。交叉角γとは、図2に示すように圧延ロール3を側面視した場合に(すなわち、管軸方向に垂直な方向であって、且つ素管1への圧延荷重のかかる方向と垂直な方向に視た場合に)、パスライン6と圧延ロール3の回転軸7とがなす角度(単位:°)を指す。交叉角γは特に規定しない。付加的な円周方向せん断ひずみ抑制の観点からは、交叉角γを0~45.0°の範囲に設定することが好ましい。
【0029】
上述の2個以上の圧延ロール3において、管軸方向に対して傾斜角βおよび交叉角γが形成される方向は互いに反対の方向としてよい。
【0030】
続いて、図4および図5を参照して、本発明の圧延ロール3の形状について詳細に説明する。各図には、本発明の圧延ロール外観の一例を示しており、図4が斜視図であり、図5が側面図である。なお、図5には平行部およびその周辺を拡大した一部拡大図も示している。
【0031】
本発明では、圧延後の金属管の円周方向断面の真円度を悪化させないようにするために、圧延ロール3の特定領域に平行部3aおよび入側面角3bを設けたロール形状とすることが重要である(図4および図5を参照)。
【0032】
図5に示すように、平行部3aとは、圧延ロール3の回転軸7に対して平行な部分である。また、入側面角3bとは、管の進行方向に対して圧延入側となる圧延ロール3の側面(すなわち、圧延入側に向けて漸次断面形状が小さくなる圧延ロール3のテーパ側面)と管軸方向(パスライン)に平行な直線6aとがなす角度(M、単位:°)を指す。本発明の圧延ロール3は、圧延入側となるロール端と面角部との間の領域に平行部3aを設けるとともに、当該平行部3aの終端に続けて入側面角3bを設ける。
【0033】
まず、本発明の平行部3aによる作用効果について説明する。
【0034】
図9には、2ロール型の傾斜圧延設備21の従来例として、樽型ロール形状の圧延ロール22を用いて素管23に圧延を施している状態を示す。図9に示すように、圧延ロール22は、素管23を圧延するロール領域がテーパ形状となっており、本発明のような平行部を有さない。このようなロール形状となる従来の圧延ロールの場合、素管の曲げ剛性が低い状態で縮径されることになるため大きな曲げに耐えられず、局所的な座屈が発生して圧延後の金属管の真円度が悪化する。
【0035】
これに対し、図2、5に示すように、圧延ロール入側に平行部3aを設けた本発明の圧延ロール3の場合、平行部3aによってひずみが付与された素管1は加工硬化を受ける。加工硬化されたことで素管1は曲げ剛性が向上し、大きな曲げに耐えられるようになり、局所的な座屈が抑制される。これにより、圧延後の金属管の真円度が改善する。
【0036】
本発明者らの更なる検討により、平行部3aには、真円度と高い相関があることが分かった。
【0037】
図6を用いて、具体的に説明する。図6には、圧延ロール3の入側面角3b(M)を10°に固定した場合における、平行部3aの長さ(L)と圧延後の金属管の真円度(R)との相関図を示す。縦軸が真円度(単位:%)であり、横軸が平行部長さ(単位:mm)である。なお、入側面角(M)以外の条件は、後述の実施例と同様とし、傾斜角(β):3°、交叉角(γ):0°に配置した2ロール型傾斜圧延設備で素管に1パス圧延を施す。また後述のとおり、本発明では真円度(R)の値が1.30%以下の場合を「優れた真円度」であると定義する。図6から分かるように、平行部長さ(L)の増加に伴い真円度(R)は改善するが、平行部長さが200mm以降では真円度が悪化することが分かった。これは、平行部3aによって素管を軽圧下することで、素管は真円度を悪化させずに加工硬化を受ける。これにより、圧延中の被圧延管の曲げ剛性が増加した状態で、入側面角3bによって縮径されたことで、真円度が改善するためと考えられる。すなわち、平行部3aの長さ(L)には、適切な範囲があることを見出した。
【0038】
このことから、圧延ロール3の回転軸7に対して平行な部分である平坦な平行部3aを設けるとともに、当該平行部3aの長さ(L)を適切に管理することが、真円度向上により有効であることに着目した。
【0039】
続いて、本発明の入側面角3bによる作用効果について説明する。
【0040】
図9に示すような従来の2ロール型の傾斜圧延設備21であっても、圧延ロール22に入側面角を設けて配設することがある。しかし、従来の圧延ロール22には、本発明のような入側面角に隣接する平行部が存在しない。そのため、このようなロール形状となる従来の圧延ロールの場合、素管は上述した本発明の平行部による加工硬化を受けることができないために曲げ剛性を向上できず、その結果、入側面角による縮径中の大きな曲げに耐えられない。
【0041】
また、本発明者らの更なる検討により、入側面角3bには、真円度と高い相関があることも分かった。
【0042】
図7を用いて、具体的に説明する。図7には、圧延ロール3の平行部4aの長さ(L)を40mmに固定した場合における、入側面角3b(M)と圧延後の金属管の真円度(R)との相関図を示す。縦軸が真円度(単位:%)であり、横軸が入側面角(単位:mm)である。なお、平行部長さ(L)以外の条件は、後述の実施例と同様とし、傾斜角(β):3°、交叉角(γ):0°に配置した2ロール型傾斜圧延設備で素管に1パス圧延を施す。また上述と同様に、真円度(R)の値が1.30%以下の場合を「優れた真円度」であると定義する。図7に示されるように、入側面角8°までは入側面角の増加に伴い、真円度は改善した。また、入側面角8°から25°までは入側面角が増加しても真円度は略一定であり、入側面角30°以降は入側面角の増加に伴い、真円度は悪化した。図7より次のことが分かった。入側面角(M)を適正化することによって、入側面角(M)と被圧延管の縮径されるタイミングとが適正化され、その結果、圧延ロール入側の材料流速を増加させる。これにより、圧延中の被圧延管が円周方向に広がることを抑制することができるため、圧延ロール間に管材(被圧延管)が張り出すことがなくなり、真円度(R)が改善するためと考えられる。すなわち、入側面角(M)には適切な範囲があることを見出した。
【0043】
このことから、平坦な平行部3aの終端側に入側面角3bを隣接して設けるとともに、当該入側面角(M)を適切に管理することも、真円度向上により有効であることに着目した。
【0044】
そして、本発明者らは、圧延前の素管外径および素管肉厚が、圧延ロール3の平行部3aの長さ(L)および入側面角3b(M)にそれぞれ影響することを見出し、以下の式(1)および式(2)を導出するに至った。
【0045】
具体的には、図5に示すように、圧延ロール3は、圧延ロール入側に平行部3aを設け、当該平行部3aの終端に続けて入側面角3b(M)を設ける。この平行部3aの長さ(L)は、以下の式(1)を満たすように設定することが好ましい。
1.45×(t/D)-0.95≦L≦1.98×(t/D)-1.6 …(1)
この条件に加えて、入側面角3b(M)は、以下の式(2)を満たすように設定することがさらに好ましい。
((t/D)/0.009)0.71≦M≦((t/D)/0.02)3.3 …(2)
ここで、(1)式および(2)式における、D:圧延前の素管外径(mm)、t:圧延前の素管肉厚(mm)、L:平行部長さ(mm)、M:入側面角(°)である。
【0046】
以下に、式(1)の限定理由について説明する。
【0047】
平行部3aの長さ(L)が、式(1)の左辺値(すなわち、「1.45×(t/D)-0.95」の値)未満であると、平行部による加工硬化が不十分となり、曲げ剛性が低い状態で縮径されるため、局所的な座屈が発生しやすくなる。そのため、平行部3aの長さは、「1.45×(t/D)-0.95」の値以上とすることが好ましく、「1.14×(t/D)-0.99」の値以上とすることがより好ましい。
【0048】
一方、平行部3aの長さ(L)が、式(1)の右辺値(すなわち、「1.98×(t/D)-1.6」の値)を超えると、平行部3aによる圧下量が大きくなり、入側面角3bによる縮径の前から素管1の真円度が悪化した状態となることで、そのまま金属管も真円度が悪化した状態となる。そのため、平行部3aの長さは、「1.98×(t/D)-1.6」の値以下とすることが好ましく、「2.31×(t/D)-1.14」の値以下とすることがより好ましい。
【0049】
なお、素管肉厚と素管外径の比であるt/Dの値が小さいと、素管そのものの曲げ剛性が低い。そこで、素管の剛性が低い場合は、平行部3aを延長することで予加工による曲げ剛性向上量を大きくすることを、式(1)において考慮する。
【0050】
以下に、式(2)の限定理由について説明する。
【0051】
入側面角3b(M)が、式(2)の左辺値(すなわち、「((t/D)/0.009)0.71」の値)未満であると、圧延ロールのテーパは緩やかとなるため、圧延時に被圧延管と圧延ロールとが接触する時間が速くなることで、入側面角3bによって管材が縮径されるタイミングも早くなる。その結果、縮径による材料流速が過大となる。そのため、入側面角3bは、「((t/D)/0.009)0.71」の値以上とすることが好ましく、「((t/D)/0.02)1.9」の値以上とすることがより好ましい。
【0052】
一方、入側面角3b(M)が、式(2)の右辺値(すなわち、「((t/D)/0.02)3.3」の値)を超えると、圧延ロールのテーパは急になるため、圧延時に被圧延管が圧延ロールの入側面角3bによって縮径される距離が短くなり、これに起因して圧延方向における単位距離当たりの縮径量が過大となり圧延ロール間に被圧延管が張り出す。その結果、局所的な座屈が発生する。そのため、入側面角Mは、「((t/D)/0.02)3.3」の値以下とすることが好ましく、「((t/D)/0.018)2.9」の値以下とすることがより好ましい。
【0053】
なお、本発明の平行部3aは、上述のように、圧延ロール3の全長に対して圧延ロール入側の領域にあることが好ましい。この範囲に平行部を設けることにより、素管の真円度を損なうことなく、加工硬化によって曲げ剛性が向上するからである。
【0054】
次に、図8を参照して、本発明における真円度について説明する。図8には、傾斜圧延後の金属管の管軸方向垂直の断面形状の一例として、楕円形に変形したものを示す。
【0055】
図8に示す、傾斜圧延後の金属管20の管軸方向垂直断面において、金属管20の外径のうち最大値(すなわち楕円形の長径)をDmaxとし、外径のうち最小値(すなわち楕円形の短径)をDminとするとき、両者の差、すなわち金属管20の管軸方向垂直断面における外径最大値と外径最小値の差(Dmax-Dmin)を、Cpとする。また、金属管20の外径の平均値(平均外径)をDaveとする。
【0056】
そして、当該Cpの値と当該Daveの値を式(3)に代入し、得られる値Rを真円度と定義する。本発明では、この真円度(R)の値が1.30%以下である場合に、「良好な真円度」(すなわち「優れた真円度」)であると定義する。
R=(Cp/Dave)×100 …(3)
ここで、式(3)に示す、R:真円度(%)、Cp:管軸方向垂直断面における外径最大値と外径最小値の差(mm)、Dave:管軸方向垂直断面における外径の平均値(mm)である。
【0057】
なお、金属管の外径(単位:mm)は、例えばノギスを用いて測定することができる。管端部の外径を測定する場合には、定規を用いてもよい。
【0058】
また、管端部以外の外径を測定する場合には、測定箇所で金属管を管軸方向に対して垂直となるように切断し、切断面の形状を測定する。本発明では、上記の外径の最大値および最小値は、切断面における管の外径を、管周方向に等間隔で24点測定し、それらの最大値をDmax、それらの最小値をDminとすることにより得る。また、上記の平均外径(Dave)は、当該24点測定して得られた値の平均とする。
【0059】
ノギス又は定規を用いて外径を測定する際、管軸方向垂直断面において、管周上の測定位置(すなわち、ノギス又は定規の設置位置)となる2点間の管周方向における距離は、管周長の1/2となるように設定する。
【0060】
また、金属管の管軸方向での測定位置は、いずれの箇所でもよいが、金属管の先尾端を含む領域は非定常部変形を起こすため、先尾端からそれぞれ20mmを除いた箇所、より好ましくは先尾端からそれぞれ40mmを除いた箇所で、外径を測定することが望ましい。また、管軸方向での測定位置を複数個所とし、得られた値の平均値を用いてもよい。例えば、測定箇所の数を10点とし、当該10点での測定値の平均を用いてもよい。
【0061】
以上の説明では、図1を用いて2ロール型の傾斜圧延機を示したが、本発明によれば、管周方向に3個以上の圧延ロールが配設された傾斜圧延機であっても、同様の作用効果を得られるため、被圧延管(素管)を圧延することができる。
【0062】
〔金属管の製造方法〕
以下には、上述の本発明の傾斜圧延設備を用いて金属管を製造する金属管の製造方法について説明する。なお、圧延ロールに関する説明は、傾斜圧延設備の説明で既にしているため省略する。
【0063】
本発明の金属管の製造方法は、素管1を、管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら、2個以上の圧延ロールのロールギャップに当該素管を通過させて傾斜圧延することで金属管を得る圧延工程を有する。
【0064】
本発明の金属管の製造方法では、例えば、上記の圧延工程後の金属管に熱処理を施してもよい。また例えば、上記の圧延工程後の金属管を酸洗して金属管表面のスケールを取り除く処理を施してもよい。熱処理や酸洗処理の条件は、金属管の組成などに応じて、適宜設定すればよい。
【0065】
なお、本発明では、上述の圧延工程を行う前の素管の製造条件は、特に限定されず、通常公知の製造条件を採用することができる。また、圧延工程を行う前の素管についても特に限定されず、中空の管材でよい。
【0066】
また、圧延工程を行う前の素管の形状において、外径最大値と外径最小値との差があるとしても、本発明の上記効果は得られる。本発明の作用効果をより一層有効に得る観点からは、圧延工程を行う前の素管は、管軸方向垂直断面が楕円形状または円形状であって、かつ、外径最大値と外径最小値との差を外径最大値で割った値(すなわち、((外径最大値-外径最小値)/外径最大値)×100)が10%以下であることが好ましく、当該値が7%以下であることがより好ましい。
【0067】
上述のように、本発明の傾斜圧延設備で素管に圧延を施すことで、平行部3aでの加工硬化による圧延中の曲げ剛性が増加した状態で、平行部に続く入側面角3bによって被圧延管を縮径できるため、素管の成分組成に因らず、圧延後の金属管は降伏強さを700MPa以上とすることができる。また、上述の用途(例えば油井用)の金属管の製造に本発明を好適に用いる観点からは、金属管の外径は8~600mmとすることが好ましく、金属管の肉厚は0.2~40.0mmとすることが好ましい。該肉厚は、1.0~32.0mmとすることがより好ましい。
【0068】
以上に説明したとおり、本発明によれば、圧延ロール入側に適切な長さの平行部と、当該平行部の終端側に適切に面角を付与した入側面角とを設けた圧延ロールを有する傾斜圧延設備を用いることで、圧延後の金属管断面形状の真円度が良好な状態で圧延できる。特に、本発明では、傾斜圧延前の素管に対して、表面被膜付与や、管端の加工などの予備処理は必要としない。また、傾斜圧延による金属管の硬度向上も実現しつつ、傾斜圧延後の断面形状の真円度の低下を抑制することが実現できる。
【実施例0069】
以下、本発明の実施例について説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能である。
【0070】
まず、JIS G 4303:2012規格のステンレス鋼棒(素材:SUS329J3L)から機械加工により外径88mm(外径最大値と外径最小値の差:0mm)、肉厚5mm、長さ250mmの素管を採取した。次いで、常温の当該素管に対して、1パス圧延を施した。
【0071】
当該圧延には、冷間圧延を行う設備として、2ロール型傾斜圧延設備や3ロール型傾斜圧延設備を用いた。これらの傾斜圧延設備の圧延ロールの形状は、表2に示すロール形状とした。なお、圧延に際して、圧延ロール3の傾斜角βを3°とし、交叉角γを0°とし、圧延ロール3のロールギャップを76mmとした。
【0072】
そして、圧延後の金属管(ここでは、冷間圧延管)を用いて、上述の方法で真円度Rの評価を行った。なお、金属管の外径の測定にはノギスを用いた。上述のように、外径を管周方向に等間隔に24点測定することで得た外径最大値Dmaxおよび外径最小値Dminから両者の差Cpを算出し、また平均外径Daveを求めた。得られた値と上記の式(3)とを用いて真円度Rを算出し、真円度を評価した。
【0073】
なお、算出された真円度Rの値を基に、表1の備考欄にA~Dを付与した。Aは真円度Rの値が1.10%以下とし、Bは真円度Rの値が1.10超~1.20%とし、Cは真円度Rの値が1.20超~1.30%とし、Dは真円度Rの値が1.30%超えとした。ここでは、算出された真円度Rの値が1.30%以下である場合に、「優れた真円度」であると評価した。管軸方向での測定位置は、金属管の中央位置(すなわち、管全長の半分の長さとなる位置)とした。
【0074】
【表1】
【0075】
表1より、本発明のロール形状となる圧延ロールを備えた傾斜圧延設備で被圧延管の圧延を施すことで、金属管の真円度が悪化することなく、圧延可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0076】
1 素管
2 被圧延管
3 圧延ロール
3a 平行部
3b 入側面角
6 パスライン
7 圧延ロールの回転軸
10 傾斜圧延設備
20 金属管
21 傾斜圧延設備
22 圧延ロール
23 素管
24 被圧延管
β 傾斜角
γ 交叉角
L 平行部の長さ
M 入側面角
Dmax 外径最大値
Dmin 外径最小値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9