(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009520
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20250110BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20250110BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20250110BHJP
H01M 50/533 20210101ALI20250110BHJP
【FI】
H01M10/058
H01G11/78
H01G11/06
H01M50/533
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112576
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓海
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊平
(72)【発明者】
【氏名】古川 一揮
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5E078AA06
5E078AA12
5E078AA14
5E078AB02
5E078AB06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM12
5H029HJ00
5H029HJ04
5H043AA19
5H043BA20
5H043JA06E
5H043LA00
5H043LA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた信頼性を確保することができる電気化学素子を提供する。
【解決手段】電気化学素子1は、底部111及び側壁部112を有する凹状容器11と凹状容器11の開口を覆う蓋材12とを有するケース10と、電極層21と電極層22と固体電解質層23とを積層した積層体を有し、底部111と電極層21とが対向するようにケース11の内部空間に収容される発電要素20と、凹状容器11の開口側において、電極層22と蓋材12との間に配置される導電板30とを備える。蓋材12は、ケース10の内部空間が減圧されていることにより、導電板に向かって凹んでいる。12蓋材における凹みの深さDは、0.02mm以上である。導電板と蓋材との間には、0.05mm以上の大きさの隙間Gが形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部及び側壁部を有する凹状容器と前記凹状容器の開口を覆う金属製の蓋材とを有するケースと、
前記ケース内に封止され、前記底部側に配置された第1電極層と前記蓋材側に配置された第2電極層と前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置された隔離層とを有する発電要素と、
前記発電要素と前記蓋材との間に配置された導電板とを備えた電気化学素子であって、
前記第1電極層は、前記ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されており、
前記第2電極層は、前記導電板を介して前記ケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されており、
前記蓋材は、前記ケースの内部空間が前記ケースの外部空間よりも減圧されていることにより、前記導電板に向かって凹んでおり、
前記蓋材における凹みの深さは、0.02mm以上であり、
前記導電板と前記蓋材との間には、0.05mm以上の大きさの隙間が形成されている、電気化学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学素子であって、
前記導電板は、前記発電要素に対向する平面部と、前記平面部から立ち上がり前記発電要素を前記凹状容器の底部方向へ押圧するバネ部とを含む、電気化学素子。
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学素子であって、
前記バネ部は、前記平面部に片持ち支持され、かつ、前記発電要素を前記凹状容器の底部方向へ押圧するバネ片を有する、電気化学素子。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学素子であって、
前記バネ片の先端部は、前記発電要素とは反対方向に折り曲げられている、電気化学素子。
【請求項5】
請求項1に記載の電気化学素子であって、
前記導電板は、平面視で前記発電要素の外縁よりも外方において前記凹状容器の側壁部に係止されている、電気化学素子。
【請求項6】
請求項1に記載の電気化学素子であって、
前記蓋材における凹みの深さは、0.2mm以下である、電気化学素子。
【請求項7】
請求項1に記載の電気化学素子であって、
前記導電板と前記蓋材との間に形成されている隙間の大きさは、0.5mm以下である、電気化学素子。
【請求項8】
請求項1に記載の電気化学素子であって、
前記発電要素は、前記第2電極層の表面にさらに多孔質金属層を有する、電気化学素子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気化学素子であって、
日本産業規格JIS-Z2331に記載された「ヘリウム漏れ試験方法」(ボンビング法)に基づくヘリウムガスのリーク量が、1×10-10Pa・m3/s以下である、電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケース内に発電要素を封止した電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凹状容器及び凹状容器の開口を覆う蓋材によって形成された内部空間に発電要素が収容された電池が種々開示されている。
【0003】
特開2012-69508号公報(特許文献1)は、電気化学特性が安定した電気化学セルを開示している。電気化学セルは、密封容器を有する。密封容器は、ベース部材とリッド部材とからなる。両部材の間には電気化学素子(電極体)が収納される収納空間が形成されている。リッド部材と電気化学素子との間には、電気化学素子を押圧する弾性部材が配設されている。特許文献1は、弾性部材として断面視においてV字形に屈曲した板バネ、よじれに起因する弾性復元力を利用するトーションバーユニット、又は、中央部から外周縁部に向かうにしたがって反った凹曲面状に形成されたダイヤフラム状バネなどを用いた実施態様を開示している。
【0004】
また、国際公開第2022/030424号(特許文献2)は、電池用パッケージ及び電池モジュールを開示している。電池用パッケージは、第1面の中央部に凹部が形成されたセラミックスから成る絶縁基板と、前記第1面において凹部を囲む枠部と、前記枠部を塞ぐ蓋体とを具備する。電池用パッケージと、その内部に収容された電池により電池モジュールが構成される。電池用パッケージの蓋体と電池との間には、電池を押圧しながら電池と電気的な接続を維持する金属製の導電性シートが配置される。導電性シートは、導電性接着剤などで構成された導電性接合材を介して、第1面上に設けられた第2電極と接合されており、外部端子である第2外部電極と電池の一方の電極とが電気的に接続されている。また、特許文献2では、蓋体に外部から応力が加わった場合などに備えるため、平板状の蓋体と導電性シートとのギャップ量は、組立て時に例えば0.1mm~0.8mmに設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-69508号公報
【特許文献2】国際公開第2022/030424号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記電池パッケージ内に収容される電池が水分と反応し易い材料を含む場合には、真空となる環境下において、電池パッケージの封止を行うことも考えられる。しかしながら、特許文献2の電池モジュールを真空となる環境下で封止した場合には、組立て後の電池モジュールを常圧環境に置くと、金属製の蓋体が内方(電池側)に変形してしまうことが分かった。そのため、組立て時に蓋体と導電性シートとの間に予め一定の隙間を設けた場合であっても、常圧環境下で電池モジュールを封止した場合に比べると、電池モジュールに強い衝撃が加えられた場合等には、蓋体と導電性シートとが接触するおそれが高くなり、電池モジュールの信頼性を確保しにくくなる。なお、真空とは、常圧(1気圧)よりも減圧された状態である。
【0007】
また、電池モジュールが確実に封止されたか否かについて、蓋体の変形の状態から確認することは可能である。しかしながら、電池モジュールが真空環境下で正しく封止された場合でも、電池モジュールを常圧環境に置いた際における蓋体の変形量が小さい場合には良好に封止されているか否かを判断しにくくなる。すなわち、電池モジュールの信頼性を確保しにくくなる。そのため、良好な封止状態を確認することも考慮すると、真空環境下で封止された電池モジュールを常圧環境に置いた際に、蓋体が一定以上変形することが望ましい。
【0008】
特許文献2は、電池モジュールが真空環境下で封止された場合において、蓋体の変形量と、変形後の蓋体及び導電性シートのギャップ量とをどのように設定すれば、上述した電池モジュールの信頼性を確保することができるかについて提案していない。
【0009】
そこで、本開示は、凹状容器と金属製の蓋材とで構成されたケースの内部空間が減圧された状態で封止される電気化学素子において、優れた信頼性を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示は次のように構成した。すなわち、本開示に係る電気化学素子は、底部及び側壁部を有する凹状容器と凹状容器の開口を覆う金属製の蓋材とを有するケースと、ケース内に封止され、底部側に配置された第1電極層と蓋材側に配置された第2電極層と第1電極層及び第2電極層の間に配置された隔離層とを有する発電要素と、発電要素と蓋材との間に配置された導電板とを備えている。第1電極層は、ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されている。第2電極層は、導電板を介して前記ケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されている。蓋材は、ケースの内部空間がケースの外部空間よりも減圧されていることにより、導電板に向かって凹んでいる。蓋材における凹みの深さは、0.02mm以上である。導電板と前記蓋材との間には、0.05mm以上の大きさの隙間が形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る電気化学素子によれば、ケースの内部空間での発電要素と水分との反応を防ぐことができるとともに、封止性を容易に確認することができ、衝撃等を受けた際に蓋材と導電板との接触による蓋材と第2電極層との導通を防ぐことができる。その結果、本開示に係る電気化学素子によれば、優れた信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る電気化学素子を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の電気化学素子の凹状容器を示す外観斜視図である。
【
図3】
図3は、電気化学素子の他の凹状容器を示す外観斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1の電気化学素子(蓋材及び導電板を除く。)を示す平面図である。
【
図5】
図5は、変形例に係る導電板を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る電気化学素子を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る電気化学素子を示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図1の電気化学素子における封止直後の状態、すなわち、蓋材が凹む前の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(構成1)
本開示の実施形態に係る電気化学素子は、底部及び側壁部を有する凹状容器と凹状容器の開口を覆う金属製の蓋材とを有するケースと、ケース内に封止され、底部側に配置された第1電極層と蓋材側に配置された第2電極層と第1電極層及び第2電極層の間に配置された隔離層とを有する発電要素と、発電要素と蓋材との間に配置された導電板とを備えている。第1電極層は、ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されている。第2電極層は、導電板を介して前記ケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されている。蓋材は、ケースの内部空間がケースの外部空間よりも減圧されていることにより、導電板に向かって凹んでいる。蓋材における凹みの深さは、0.02mm以上である。導電板と前記蓋材との間には、0.05mm以上の大きさの隙間が形成されている。
【0014】
このように、ケースの内部空間が減圧され、蓋材が導電板に向かって0.02mm以上凹んでいることにより、ケースの内部空間に含まれる水分が除去されて、発電要素との反応を防ぐことができるとともに、電気化学素子の封止が良好に行われているか否かを常圧環境下において容易に確認することができ、電気化学素子の信頼性を高めることができる。また、蓋材と導電板との間に一定以上の大きさの隙間が形成されているため、蓋材が第2電極層と導通するのを防ぐことができ、回路基板への実装等における電気化学素子の信頼性を高めることができる。
【0015】
(構成2)
構成1の電気化学素子において、導電板は、発電要素に対向する平面部と、平面部から立ち上がり発電要素を凹状容器の底部方向へ押圧するバネ部とを含んでよい。これにより、充放電により発電要素の厚みに変化が生じても、バネ部の弾性により導電板は発電要素を第1導通経路および第2導通経路とより安定的に導通させることができる。
【0016】
(構成3)
構成2の電気化学素子において、バネ部は、平面部に片持ち支持され、かつ、発電要素を凹状容器の底部方向へ押圧するバネ片を有してよい。これにより、導電板の平面部の一部にバネ片を形成すればよいため、導電板の製造、すなわち、電気化学素子の製造を容易に行うことができる。
【0017】
(構成4)
構成3の電気化学素子において、バネ片の先端部は、発電要素とは反対方向に折り曲げられてよい。これにより、バネ片の先端部の鋭利な箇所が発電要素に接触して傷つけるのを防ぐことができる。
【0018】
(構成5)
構成1~4のいずれかの電気化学素子において、導電板は、平面視で発電要素の外縁よりも外方において凹状容器の側壁部に係止されている。導電板を発電要素の外縁よりも外方で凹状容器の側壁部に係止するため、導電板の溶着などの工程が不要であり、また、導電板の発電要素と対向する部分を高さ方向(発電要素の厚み方向)で自由に位置決めすることができ、導電板と第2電極層との導電接続を種々の方法で行うことができる。
【0019】
(構成6)
構成1~5のいずれかの電気化学素子において、蓋材における凹みの深さは、0.2mm以下である。これにより、電気化学素子の組み立て時に蓋体と導電板との間に予め設ける必要のある隙間を小さくすることができる。
【0020】
(構成7)
構成1~6のいずれかの電気化学素子において、導電板と蓋材との間に形成されている隙間の大きさは、0.5mm以下である。これにより、電気化学素子の内容積の増大を抑制することができる。
【0021】
(構成8)
構成1~7のいずれかの電気化学素子において、発電要素は、第2電極層の表面にさらに多孔質金属層を有してよい。これにより、導電板から押圧された多孔質金属層が一定量圧縮され、発電要素の厚み又はケースの高さ等のばらつきを十分に吸収することができ、その結果、内部抵抗の値のばらつきを抑制することができる。或いは、多孔質金属層が予め第2電極層と一体化されている場合には、導電板と発電要素との導通箇所の電気抵抗を低減することができる。
【0022】
(構成9)
構成1~8のいずれかの電気化学素子において、日本産業規格JIS-Z2331に記載された「ヘリウム漏れ試験方法」(ボンビング法)に基づくヘリウムガスのリーク量が、1×10-10Pa・m3/s以下であってよい。
【0023】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態について、電気化学素子が全固体電池である場合を例にして、
図1~
図7を用いて具体的に説明する。まず、
図1に示すように、電気化学素子1は、ケース10と、ケース10に収容される発電要素20及び導電板30と、ケース10の外表面に配置される外部端子13及び外部端子14とから構成されている。
【0024】
ケース10は、凹状容器11と蓋材12とを有する。凹状容器11は、セラミックス製である。凹状容器11は、四角形状の底部111と、底部111の外周から連続して形成され、内部に発電要素20を収容するための円筒形状の空間を有する四角筒形状の側壁部112とを含んでいる。側壁部112は、縦断面視で、底部111に対して略垂直に延びるように設けられている。底部111の内部には、導体部113が形成されている。導体部113は、発電要素20に導電接続されるように発電要素20と底部111との間に延設されており、電極層21に対応する導通経路を形成している。側壁部112の内部には、導体部114が形成されている。導体部114の一部は、
図1に示すように、側壁部112の内周面において、後述する支持部115の下面及び側面に露出して形成されており、電極層22に対応する導通経路を形成している。凹状容器11の製造方法については、後述する。なお、凹状容器11の材質は、特に限定されず、樹脂、ガラス(硼珪酸ガラス、ガラスセラミックスなど)、金属及びセラミック等、種々のものを例示することができる。樹脂中にセラミックスやガラスの粉末が分散された複合材であってもよい。凹状容器11を金属材料で構成する場合は、凹状容器11と発電要素20との絶縁を確保するため、凹状容器11の底部111の内面及び側壁部112の内周面を樹脂材料又はガラス等の絶縁材で被覆することが好ましい。また、凹状容器11は、平面視において四角形状に限られず、円形状、楕円形状及び多角形状などであってもよい。発電要素20を収容するための内部の空間は、円筒形状に限られず、発電要素20の形状に応じて四角筒形状など多角筒形状に形成されてもよい。また、導体部114は、側壁部112の内部ではなく、側壁部112の内面に形成し、さらに底部111の内部を貫通させて外部端子14と導通させてもよい。この場合、発電要素20の外周面と導体部114とが接触しないように、発電要素20の外周面と導体部114との間、例えば、導体部114の内表面に絶縁層を形成するのが好ましい。
【0025】
側壁部112は、後述する導電板30を支持する複数の支持部115を有している。本実施形態において、支持部115は、側壁部112の内周面の上端部に形成され、内周面の周方向に沿って張り出した張出部である。より具体的に、支持部115は、
図2に示すように、平面視で側壁部112の内周面から外方に向かって形成された複数の窪みの天壁である。これにより、支持部115は、内周面の周方向へ張り出すように形成される。各々の支持部115の下面、すなわち、各々の天壁の下面は、平面視で発電要素20の外縁よりも外方において、後述する導電板30の被支持部31を係止して支持することができる。また、本実施形態では2つの支持部115が設けられているが、その数は限定されず、例えば、導電板30の被支持部31を4つにした場合は、被支持部31に対応する位置に4つの支持部115を設ければよい。
【0026】
蓋材12は、凹状容器11の開口を覆う四角形状の金属製薄板である。蓋材12の材質は、一定以上の強度を有している一方、封止後に常圧環境に置かれた時に、ある程度変形できるものが好ましく、炭素鋼(冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板など)、鉄-ニッケル合金(Ni含有量:36質量%の合金、Ni含有量:42質量%の合金など)、鉄-ニッケル-コバルト合金(Ni含有量:29質量%およびCo含有量:17重量%の合金、Ni含有量:31.5質量%およびCo含有量:5重量%の合金、Ni含有量:36質量%およびCo含有量:12重量%の合金など)などが好ましく用いられる。蓋材12の厚みは、例えば、一定以上の強度を確保するため、0.05mm以上とすることが好ましく、0.07mm以上とすることがより好ましく、蓋材12における凹みの深さDを一定以上の値とし封止の良否を確認しやすくするため、0.2mm以下とすることが好ましく、0.15mm以下とすることがより好ましい。
【0027】
蓋材12は、
図1及び
図3に示すように、その外周端部の下面と凹状容器11の上端との間に配された四角枠状のシールリング15によって凹状容器11に接合(シーム溶接)されている。これにより、ケース10の内部空間は完全に密閉される。ケース10の内部空間は、発電要素20への影響を考慮して真空状態とされている。この時のケース10の内部空間の圧力は、ケース10の内部空間に残留する水分を少なくするため、1Pa以下とすることが好ましく、0.1Pa以下とすることがより好ましく、10
-2Pa以下とすることが特に好ましい。
【0028】
このようなケース10の内部空間における減圧状態は、真空環境下において凹状容器11と蓋材12とを接合し、ケース10の内部空間を密閉することにより達成することができる。これにより、ケース10の内部空間を密閉する前に、すなわち、ケース10の封止前にケース10の内部空間に含まれる水分が除去され、ケース10の封止後においてもケース10の内部空間が減圧状態に維持されるため、水分と発電要素20との反応を防ぐことができる。また、蓋材12は、ケース10を封止後に常圧環境下に置くと、ケース10の内部空間の気圧よりも高い外気圧により内方(発電要素側)に変形して凹む。したがって、蓋材12に形成される凹みの深さDを見越して、変形後の蓋材12と導電板30との間に所定の隙間Gが形成されるよう、蓋材12を凹状容器11に接合する際に、予め蓋材12と導電板30との間隔を定めておく必要がある。本開示において、蓋材12における凹みの深さDとは、接合時における蓋材12の位置(
図8を参照。)から発電要素に向かって変形する最大変位量と定義することができる。
【0029】
蓋材12における凹みの深さDは、電気化学素子1の封止が良好に行われているか否かを常圧環境下において容易に確認できるという観点から、0.02mm以上とする必要があり、0.04mm以上であることが望ましい。深さDが0.02mmより小さくなると、封止が良好なものと不十分なものとで値の差が小さくなり、判別が難しくなる。また、電気化学素子1の組立て時に蓋材12と導電板30との間に予め設ける隙間を小さくして、電気化学素子1の厚みが増大するのを抑制するという観点から、深さDは、0.2mm以下とする必要があり、0.15mm以下であることが望ましく、0.1mm以下であることがより望ましい。
【0030】
蓋材12における凹みの深さDは、蓋材12の材質、厚み又は大きさ等により調整することができる。なお、蓋材12の材質や厚みが同じであっても、蓋材12が大きくなるほど、ケース10が常圧環境下に置かれた際の蓋材12の凹みの深さDが大きくなるため、蓋材12が一定以上の大きさであれば、種々の材質や厚みで必要な深さDを実現することができる。そのため、電気化学素子1の大きさ(凹状容器11の大きさ)に応じて設定することになる蓋材12の大きさは、例えば四角形であれば、一辺がおよそ5mmの正方形よりも大きくすることが望ましく、一辺がおよそ7mmの正方形よりも大きくすることが望ましく、したがって、電気化学素子1をこのような蓋材12の大きさに応じた大きさとすることが望ましい。一方、蓋材12が大きくなりすぎると、深さDを0.2mm以下とするのが難しくなるため、蓋材12の大きさは、例えば四角形であれば、一辺がおよそ30mmの正方形よりも小さくすることが望ましく、一辺がおよそ20mmの正方形よりも小さくすることがより望ましく、したがって、電気化学素子1をこのような蓋材12の大きさに応じた大きさとすることが望ましい。
【0031】
また、
図1に示すように、変形後の蓋材12と導電板30との間には、隙間Gが形成されている。隙間Gの大きさは、電気化学素子1が衝撃を受けた際に蓋材12と導電板30とが接触するのを防ぐため、0.05mm以上とする必要があり、0.07mm以上とすることが望ましい。一方、隙間Gが大きくなるほど、電気化学素子1の内容積が大きくなり余分なデッドスペースが形成されるため、隙間Gの大きさは、0.5mm以下とするのが望ましく、0.3mm以下とするのがより望ましい。
【0032】
なお、蓋材12は、接着剤によって凹状容器11と接着されてもよく、ケース10の内部空間を密閉できれば蓋材12と凹状容器11との接合方法は特に限定されない。また、蓋材12は、四角形状に限られず、凹状容器11の平面視における形状に応じて、円形状、楕円形状及び多角形状等に種々変更することができる。
【0033】
外部端子13は、凹状容器11の底部111の外面に配置されている。外部端子13は、導体部113を介して後述する電極層21に電気的に接続されている。電極層21は、後述するように正極層として機能する。したがって、導体部113は、外部端子13と正極層とを導通させる導通経路となり、外部端子13は、正極の端子として機能する。
【0034】
外部端子14は、凹状容器11の底部111の外面に外部端子13から離れて配置されている。外部端子14は、導体部114を介して後述する導電板30の被支持部31と電気的に接続されている。後述するように、導電板30は、負極層として機能する電極層22に電気的に接続される。したがって、導体部114は、外部端子14と負極層とを導通させる導通経路となり、導電板30は、この導通経路と電極層22とを導通させる接続端子となるため、外部端子14は、負極の端子として機能する。なお、外部端子13及び外部端子14の配置は、上記に限定されず、凹状容器11の側壁部112の外面に配置されてもよく、蓋材12を導体部114として機能させ、外部端子14を蓋材12の外面に形成することも可能である。ただし、これら両端子を凹状容器11の底部111の外面に一定の間隔を設けて配置することにより、回路基板の表面への実装が容易になる。
【0035】
ここで、凹状容器11の製造方法について説明する。まず、セラミックのグリーンシートに金属ペーストを印刷塗布して導体部113及び導体部114となる印刷パターンを形成する。次に、これらの印刷パターンを形成したグリーンシートを複数積層し、焼成する。形状の異なる複数のグリーンシートを積層することにより、上述した支持部115が形成される。これにより、内部に導体部113及び導体部114を有し、且つ、側壁部112の内周面に上述した支持部115を有する凹状容器11を作製することができる。なお、側壁部112の内周面に支持部115を形成できれば、このような製法に限定されるものではない。なお、外部端子13及び外部端子14は、この金属ペーストの印刷パターンによって形成することもできる。
【0036】
発電要素20は、電極層(正極層)21と電極層(負極層)22と固体電解質層23とを積層した積層体を含んでいる。固体電解質層23は、隔離層として電極層21と電極層22との間に配置されている。すなわち、本実施形態において、隔離層は、固体電解質層23である。発電要素20は、円柱形状に形成されている。発電要素20は、凹状容器11の底部111側(図示の下方)から電極層21、固体電解質層23、電極層22の順で積層されている。すなわち、発電要素20は、その一方の端部である電極層21が凹状容器11の底部111側となるように配置され、且つ、その他方の端部である電極層22が蓋材12側となるように配置され、ケース10の内部空間に収容されている。なお、発電要素20は、円柱形状に限られず、直方体形状や多角柱形状等、種々変更することができる。また、発電要素20は、複数の積層体を有していてもよい。複数の積層体は、直列に接続されるように積層されていてもよい。
【0037】
電極層21は、正極活物質として、コバルト酸リチウムと、硫化物系固体電解質と、導電助剤であるグラフェンとを質量比で65:30:5の割合で含有した正極合剤を円柱形状に成形した正極ペレットである。なお、電極層21の正極活物質は、発電要素20の正極層として機能することができれば、特に限定されるものではなく、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、オリビン型複合酸化物等であってもよく、これらを適宜混合したものであってもよい。他の構成材や割合についても、特に限定されるものではない。また、電極層21のサイズや形状は、円柱形状に限定されるものではなく、電気化学素子1のサイズや形状に応じて種々変更可能である。
【0038】
電極層22は、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質として、LTO(Li4Ti5O12、チタン酸リチウム)と、硫化物系固体電解質と、グラフェンとを重量比で50:40:10の割合で含有した負極合剤を円柱形状に成形した負極ペレットである。なお、電極層22の負極活物質は、発電要素20の負極層として機能することができれば、特に限定されるものではなく、例えば、金属リチウム、リチウム合金のほか、黒鉛、低結晶カーボンなどの炭素材料や、SiOなどの酸化物等であってもよく、これらを適宜混合したものであってもよい。他の構成材や割合についても、特に限定されるものではない。また、電極層22のサイズや形状は、円柱形状に限定されるものではなく、電気化学素子1のサイズや形状に応じて種々変更可能である。
【0039】
固体電解質層(隔離層)23は、硫化物系固体電解質を含む。固体電解質層23は、円柱形状に成形されている。なお、電極層21、電極層22及び固体電解質層23に含まれる固体電解質は、特に限定はされないが、イオン伝導性の点から硫化物系固体電解質、特にアルジロダイト型の硫化物系固体電解質が好ましく用いられる。硫化物系固体電解質を用いる場合には、正極活物質との反応を防ぐために、正極活物質の表面をニオブ酸化物などのリチウムイオン伝導性材料で被覆することが好ましい。また、固体電解質層23、電極層21および電極層22に含まれる固体電解質は、水素化物系固体電解質や酸化物系固体電解質等であってもよい。また、固体電解質層23のサイズや形状は、円柱形状に限定されるものではなく、電気化学素子1のサイズや形状に応じて種々変更可能である。
【0040】
導電板30は、
図1及び
図4に示すように、ケース10の凹状容器11の開口部に設置される金属製の平面視において四角形状の板材である。導電板30は、平面視で発電要素20の外縁よりも外方において、上述した各々の支持部115の位置に対応する複数の被支持部31を有する。本実施形態において、被支持部31は、上述した支持部115、すなわち、天壁の下面に係止されるフック状の係止片である。より具体的に、被支持部31は、導電板30の縁端から上述の支持部115に向かって(
図1の下方に)延びている。被支持部31は、支持部115、すなわち、天壁の下面に向かって折り返された先端を有している。被支持部31の先端は、上述の天壁の下面及び側面において露出した導体部114に接触している。これにより、導電板30は、集電体として機能するとともに、電極層22と外部端子14に繋がる導通経路とを電気的に接続する接続端子として機能する。導電板30は、凹状容器11の内周面に形成された支持部115に支持され、凹状容器11の開口の一部を覆う。導電板30の平面視における面積は、凹状容器11の開口面積よりも小さい。なお、フック状の係止片が天壁の下面に係止されていなくても、フック状の係止片が側壁部112の内周面に形成された窪みに圧入された状態で導電板30を固定できていれば、導電板30は、凹状容器11の側壁部112に係止されているものとする。
【0041】
図1に示すように、導電板30は、発電要素20のもう一方の端部である電極層22の上面と接触するように、導電板30の平面部32から発電要素20の電極層22に向かって立ち上がるバネ部33を有する。バネ部33の形状は、発電要素20を凹状容器11の底部111の方向へ押圧することができれば、特に限定はされない。本実施形態では、バネ部33は、平面部32から発電要素20の電極層22に向かって傾斜しているバネ片である(以下、バネ部33をバネ片33と称する場合がある。)。
図4に示すように、バネ片33は、平面部32の一部をコ字型に切欠いて形成され、平面部32に片持ち支持されている。すなわち、本実施形態において、バネ片33は、板バネである。このように、平面部32の一部にバネ片33を形成すればよいため、導電板の製造、すなわち、電気化学素子の製造を容易に行うことができる。また、平面部32を切り欠いてバネ片33を形成することにより、導電板の製造、すなわち、電気化学素子の製造をさらに容易に行うことができる。バネ片33は、平面部32との境界331と、発電要素20の電極層22に接触させることによって電極層22と導通させる先端部332とを有する。バネ片33は、境界331において折り曲げられており、境界331から先端部332に向かって発電要素20側へ傾斜している。電気化学素子1を組み立てる前の平面部32の底面から先端部332までの高さ(バネ部33の高さ)は、電気化学素子1を組み立てた後の平面部32の底面から発電要素20までの高さよりも大きい。これにより、バネ片33の先端部332によって発電要素20を押圧することができ、導電板30と発電要素20との良好な電気的接続を維持することができる。また、バネ部33をバネ片で構成したことにより、被支持部31を除く導電板30の厚みを薄くすることができる。例えば、電気化学素子1を組み立てる前において、被支持部31を除く導電板30の厚みは、平面部32を構成する板材の厚みと、バネ片33の高さの和とすることができる。具体的には、板材の厚み:0.2mmとバネ片33の高さ:0.5mmとを合わせ、被支持部31を除く導電板30の厚みを0.7mmにすることができる。また、バネ片33の幅を1.5mmとし、長さを3mm等とすることができる。なお、バネ片33を複数設ける場合には、共振を防ぐなどの理由から、バネ片33の幅や長さ等を含む形状は、個々に異なっていてもよい。被支持部31を除く導電板30の厚みは、1.2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることが特に好ましい。一方、バネ部33で必要な押圧力を生じさせるために、被支持部31を除く導電板30の厚みは、0.3mm以上とすることが好ましく、0.4mm以上とすることがより好ましく、0.5mm以上とすることが特に好ましい。
【0042】
さらに、導電板30の縁端、すなわち、被支持部31の位置は、高さ方向(導電板30の厚み方向)に自由に設定できるため、蓋材12と導電板30との間に隙間を形成した場合でも、蓋材12とバネ片33の先端部332との距離が大きくならない。その結果、蓋材12と発電要素20との間の空隙が大きくなることを抑制できるため、電気化学素子1の高容量化を図ることができる。ここで、被支持部31を含めた導電板30の全体の厚みは、凹状容器11の側壁部112における底部111からの高さに応じて適宜調整することができる。被支持部31は、支持部115への係止に必要となる高さを有していればよい。そのため、被支持部31を含めた導電板30の全体の厚みは、例えば、3mm以下とすることができ、2.7mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましい。なお、厚み方向とは、
図1の上下方向(電気化学素子1の高さ方向)であり、図示において平面部32の底面に対して直交する方向とも言える。なお、バネ片33は、上述のように平面部32を切欠いて形成してもよく、後述する変形例も同様に、平面状の平面部32の底面に別途バネ片33を溶着する等により取付けてもよい。また、平面部32とは別にバネ片33を取り付けるための基部をあらかじめ設けておき、基部にバネ片33を取り付けて全体をバネ部としてもよい。すなわち、バネ片33は、平面部32から直接立ち上がってもよく、基部のような他の要素を介在させて平面部32から立ち上がるようにしてもよい。また、バネ片33は、発電要素20に向かって凸の形状となるようにバネ片33の両端が平面部32に支持されるのであってもよい。
【0043】
導電板30を構成する金属は、ニッケル、鉄、銅、クロム、コバルト、チタン、アルミニウム及びこれらの合金等が例示され、板バネとしての機能を発揮させやすくするため、SUS301-CSP、SUS304-CSP、SUS316-CSP、SUS420J2-CSP、SUS631-CSP及びSUS632J1-CSP等のバネ用ステンレス鋼が好ましく用いられる。
【0044】
また、導電板30の板材の厚みは、発電要素20への押圧力を一定以上とするために、0.05mm以上とすることが好ましく、0.07mm以上とすることがより好ましく、0.1mm以上とすることが特に好ましい。一方、導電板30の厚みが厚くなり過ぎてケース10内の収容容積が大きくなるのを防ぎ、また、導電板30を変形しやすくして側壁部112に容易に係止できるようにするため、導電板30の厚みは、0.5mm以下とすることが好ましく、0.4mm以下とすることがより好ましく、0.3mm以下とすることが特に好ましい。
【0045】
導電板30は、凹状容器11の内部に発電要素20が収容されたのち、発電要素20の上面に載置される。導電板30が発電要素20の上面に載置された状態で、被支持部31の先端は、発電要素20の軸方向(
図1の上下方向)において、発電要素20の上面と支持部115、すなわち、天壁の下面との間に位置付けられる。そして、導電板30の被支持部31を凹状容器11の底部111の方向へと押し込みながら、被支持部31を支持部115に支持させる。より具体的には、被支持部31の先端を支持部115、すなわち、天壁の下面に係止させる。導電板30のバネ片33は、被支持部31が下方へと押し込まれるため、発電要素20に接触した状態で電極層22とは反対方向へ押される。バネ片33は、その弾性力によって凹状容器11の底部111の方向へと発電要素20を押圧する。これにより、導電板30は、発電要素20とより安定的に接触し、振動等により位置ズレが生じることなく、良好な電気的接続を維持することができる。バネ片33は、その弾性力によって発電要素20を凹状容器11の底部111側へと押圧することがきれば、特に限定されるものではない。また、凹状容器11は2つの支持部115を有しているが、支持部115の数は2つ以上であってもよい。被支持部31は、支持部115の数に応じて形成すればよい。なお、導電板30の縁端(被支持部31)を凹状容器11の側壁部112の内周面に固定する方法としては、凹状容器11の側壁部112の内周面に導電板30の縁端を接着する方法なども例示される。
【0046】
蓋材12と凹状容器11とが上述の通りシールリング15を介して溶接される場合、導電板30と蓋材12との間に隙間Gを設けたことにより、発電要素20への溶接熱の影響を抑制することができる。さらに、導電板30と蓋材12とが接触しないため、凹状容器11の側壁部112の上端面に蓋材12を接合する際に導電板30からの押圧の影響を受けなくなり、ケース10の封止性をより向上させることができる。
【0047】
(変形例)
図5に示すように、変形例の導電板30は、先端部332が電極層22とは反対方向に折り曲げられたバネ片33を有する。すなわち、先端部332は、電極層22に向かって凸状に形成されている。先端部332は、電極層22に向かって凸状の曲面を有することが好ましい。また、先端部332を複数折り曲げることにより、先端部332と電極層22とが面で接触するようにしてもよい。例えば、先端部322を2回折り曲げれば、先端部332に電極層22との接触面を形成することができる。これにより、電極層22に対して先端部332の鋭利な箇所が接触して傷つけるのを防ぐことができる。
【0048】
第1実施形態のバネ片33は種々の形状とすることができ、また、導電板30に対して複数設けてもよい。
【0049】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電気化学素子1について、
図6を用いて具体的に説明する。本実施形態の電気化学素子1において、第1実施形態の電気化学素子1と同じ構成については基本的には説明を省略し、第1実施形態の電気化学素子1とは異なる構成についてのみ説明する。
【0050】
本実施形態の電気化学素子1において、発電要素20は、多孔質金属層24を有する。多孔質金属層24は、電極層22の表面に配置されており、バネ片33の先端部332と接触することにより、電極層22と導電板30とを導通させている。
【0051】
多孔質金属層24は、発泡状金属多孔質体のように、空隙率が高く、一方の面から他方の面に貫通する空孔を有する多孔質の金属基体であり、押圧して圧縮することができ、集電体として機能するものである。多孔質金属層24は、電極層22の表面を被覆している。電気抵抗を低下させるためには、多孔質金属層24は、電極層22と接触しているだけでなく、その一部が電極層22の負極合剤に埋設されて電極層22と一体化していることが好ましい。なお、
図6に示すように、電極層21の下面、すなわち、底部111側において、電極層21の表面に多孔質金属層24を配置してもよく、その一部が電極層21の正極合剤に埋設されて電極層21と一体化するように多孔質金属層24を設けてもよい。
【0052】
多孔質金属層24の空隙率は、圧縮による発電要素20の厚みのばらつきなどを調整しやすくするため、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。一方、良好な導電性を確保するために、多孔質金属層24の空隙率は、99%以下であることが好ましい。電気化学素子1を組み立てる前の多孔質金属層24の厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましく、一方、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが特に好ましい。
【0053】
このように多孔質金属層24を設けたことにより、発電要素20の厚み又はケース10の高さ等のばらつきを十分に吸収することができ、その結果、内部抵抗の値のばらつきを抑制することができる。或いは、多孔質金属層24が予め第2電極層と一体化されている場合には、バネ部33と発電要素20との導通箇所の電気抵抗を低減することができる。
【0054】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電気化学素子1について、
図7を用いて具体的に説明する。本実施形態の電気化学素子1において、第1実施形態の電気化学素子1と同じ構成については基本的には説明を省略し、第1実施形態の電気化学素子1とは異なる構成についてのみ説明する。
【0055】
本実施形態の電気化学素子1は、電極層22と導電板30との間に導電シート40を有する。導電シート40は、本実施形態において、膨張黒鉛により構成された導電性のカーボンシート、すなわち、黒鉛シートである。黒鉛シートは、以下のように製造される。まず、天然黒鉛に酸処理を施した酸処理黒鉛の粒子を加熱する。そうすると、酸処理黒鉛は、その層間にある酸が気化して発泡することによって膨張する。この膨張化した黒鉛(膨張黒鉛)をフェルト状に成型し、さらに、ロール圧延機を用いて圧延することによりシート体を形成する。導電シート40は、この膨張黒鉛のシート体を円形状にくり抜くことにより製造される。上述の通り、膨張黒鉛は、酸が気化して酸処理黒鉛が発泡することによって形成される。そのため、黒鉛シートは、多孔質形状に形成されている。したがって、黒鉛シートは、黒鉛自体がもつ導電性とともに、従来の黒鉛製品にはない柔軟性をも有する。なお、黒鉛シートの製造方法はこれに限られず、膨張黒鉛以外の材料で構成されてもよく、どのような方法で黒鉛シートを製造してもよい。
【0056】
黒鉛シートのみかけ密度は、0.3g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.7g/cm3以上であり、1.5g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.3g/cm3以下とするのがよい。黒鉛シートのみかけ密度が低すぎると黒鉛シートが破損しやすくなり、みかけ密度が高すぎると柔軟性が低下するためである。なお、みかけ密度は、黒鉛シートに限られるものではなく、導電性テープなど他の素材によって形成された導電シート40においても適用可能である。
【0057】
黒鉛シートの厚みは、0.05mm以上が好ましく、より好ましくは0.07mm以上とするのがよく、0.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.2mm以下とするのがよい。黒鉛シートの厚みが小さすぎると黒鉛シートが破損しやすくなり、厚みが大きすぎると黒鉛シートが発電要素20を収容するケース10の内部空間を狭め、収容できる発電要素20の容積(厚み)が減少するためである。
【0058】
このように、導電板30よりも柔軟性の高い、すなわち変形容易な導電シート40を設けたことにより、上述した導電板30のバネ片33の押圧力がより均一に発電要素20に伝わり、発電要素20の破損を抑制するとともに、電気的接続の安定化を図ることができる。なお、導電シート40は、
図7に示すように、電極層21と凹状容器11の底部111との間に配置されてもよい。これにより、さらに発電要素20の破損の抑制及び電気的接続の安定化を図ることができる。
【0059】
上述の第1~3の実施形態において、電極層21を正極層として機能させ、電極層22を負極層として機能させたが、電極層21を負極層として機能させ、電極層22を負極層として機能させてもよい。この場合、外部端子13が負極の端子として機能し、外部端子14が正極の端子として機能する。
【0060】
上述の第1~3の実施形態では、発電要素20を、電極層21と電極層22と固体電解質層23とを積層した積層体で構成したが、隔離層として、固体電解質層23に代えてセパレータ(図示せず。)を設け、ケース10の内部空間に発電要素20とともに電解液を収容することにより、電気化学素子をリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等とすることができる。この場合、セパレータ及び電解液は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ又は電気二重層キャパシタ等で通常に用いられるものである。また、電極層21と電極層22は、各種の電気化学素子1で通常に用いられる正極及び負極の合剤層に置き換えればよい。
【0061】
なお、本発明によれば、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」および目標12「つくる責任 つかう責任」に寄与することができる。
【実施例0062】
まず、以下の手順で
図8に示される電気化学素子(全固体電池)を作製した。なお、
図8の電気化学素子は、蓋材に凹みが形成されていないことを除き、
図1の電気化学素子と同じ構成となっている。
【0063】
より具体的には、厚さ0.2mmのSUS304-CSPで構成された導電板を用い、セラミックス製の凹状容器内に発電要素を収容した状態で導電板を凹状容器の側壁部に係止させることにより、導電板を介して、発電要素の負極層と凹状容器の側壁部の内周面に露出する導体部とを導通させた。さらに、およそ10
-3Paの真空環境下で、10mm×10mmの大きさで厚みが0.1mmの鉄-ニッケル-コバルト合金(Ni含有量:29質量%、Co含有量:17重量%)よりなる蓋材を、凹状容器の側壁部にシールリングを介して接合することにより、ケース内部を封止し、10.5mm×10.5mmの大きさで高さが4mmの
図8に示される電気化学素子Aを作製した。この状態で導電板と蓋材との間に形成された隙間は、0.3mmであった。
【0064】
また、蓋材の接合を完全に行わない以外は、電気化学素子Aと同様にして電気化学素子Bを作製した。さらに、導電板と蓋材との隙間を0.1mmとした以外は、電気化学素子Aと同様にして電気化学素子Cを作製した。
【0065】
それぞれの電気化学素子について、組立て後に大気中に放置したところ、
図1に示されるように蓋材が内方(発電要素側)に変形して凹みが形成された。レーザー変位計を用いて凹みの深さDを測定したところ、凹みの深さDは、電気化学素子A及び電気化学素子Cでは0.06mmであり、電気化学素子Bでは0.02mmであった。したがって、蓋材の変形後には、導電板と蓋材との間に形成されている隙間Gは、電気化学素子Aでは0.24mm、電気化学素子Bでは0.28mm、電気化学素子Cでは0.04mmとなった。
【0066】
〔封止性の評価〕
日本産業規格JIS-Z2331に記載された「ヘリウム漏れ試験方法」(ボンビング法)により、それぞれの電気化学素子のケースの封止性を確認した。タンク内に電気化学素子を入れてヘリウムガスで2時間加圧した後、真空チャンバー内で電気化学素子の周囲を1分間真空排気してヘリウムガスのリーク量を求めたところ、蓋材の凹みの深さDが0.06mmである電気化学素子A及び電気化学素子Cでは、10分後にはリーク量が1×10-10Pa・m3/s以下となり、優れた封止性を有することが確認された。一方、凹みの深さDが0.02mmと小さくなった電気化学素子Bでは、10分後のリーク量が1×10-9Pa・m3/sより大きく、蓋材の変形が小さい電池は封止が不十分であることが確認できた。したがって、正しく封止された電気化学素子の蓋材の凹みの深さDがどのような値になるか予め測定しておくことにより、蓋材の変形量から簡易に電気化学素子の封止の良否を判断することができる。
【0067】
なお、電気化学素子Bのように、封止が不十分であっても大気中に放置した直後には蓋材の凹みの深さDが0.02mm以上となる場合もある。しかしながら、封止が不十分な電気化学素子は、時間経過とともに、ケースの内部空間と外部空間との圧力差がなくなり、凹みの深さDが実際には0.02mmより小さくなる。したがって、そのような電気化学素子は本発明とは区別される。
【0068】
〔蓋材の寸法と凹みの深さDの関係〕
蓋材の寸法(一辺の長さおよび厚み)を変え、それに合わせて凹状容器などの部材の寸法を変えて封止を行った時の、蓋材の凹みの深さDを表1に示す。表1の結果から、蓋材の寸法を調整することにより、凹みの深さDを一定範囲に調整できることがわかった。
【0069】
【0070】
〔振動試験〕
電気化学素子A及びCの縦、横及び高さの3方向に対し、順に、正弦波の振動を加える試験を行った。正弦波の掃引は、周波数を変化させながら7Hz~200Hzの範囲を15分間で往復する対数掃引とし、当該掃引を3方向に対しそれぞれ12回繰り返した。なお、7Hz~18Hzの間は、ピーク加速度が1Gに維持されるように掃引し、18Hzからは、全振幅を0.8mmに維持しながらピーク加速度が8Gに達する周波数(約50Hz)まで掃引を行い、さらに、200Hzまでの間は、ピーク加速度が1Gに維持されるように掃引を行った。
【0071】
試験後の電気化学素子について、導電板と蓋材との接触が生じていないか確認したところ、電気化学素子Aは、導電板と蓋材との間隔が十分とれていたため、導電板と蓋材とが接触していなかったが、電気化学素子Cでは、導電板と蓋材との間隔が十分でなかったため、電気化学素子Cに衝撃が加えられることにより、導電板と蓋材とが接触し、負極層と蓋材とが導通する状態となっていた。
【0072】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
1 電気化学素子、 10 ケース、11 凹状容器、12 蓋材、13 外部端子、14 外部端子、15 シールリング、111 底部、112 側壁部、113 導体部、114 導体部、115 支持部、20 発電要素、30 導電板、31 被支持部、32 平面部、33 バネ片、331 境界、332 先端部、40 導電シート、G 隙間、D 深さ