(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009526
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】歯科用組成物及びそれを用いた歯科用接着性組成物キット
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20250110BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20250110BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20250110BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/71
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112591
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亮
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089BA13
4C089BA14
4C089BC02
4C089BC10
4C089BC12
4C089BD01
(57)【要約】
【課題】硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい歯科用組成物及びそれを用いた歯科用接着性組成物キットを提供すること。
【解決手段】酸性基を有さない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含み、酸性基を有さない単量体(b)が、(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)を含み、フィラー(d)の含有量が、0.1~40質量%である、歯科用組成物(B)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有さない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含み、
酸性基を有さない単量体(b)が、(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)を含み、
フィラー(d)の含有量が、0.1~40質量%である、歯科用組成物(B)。
【請求項2】
酸性基を有する単量体(a)をさらに含む、請求項1に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル化合物(b-1)が、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)を含む、請求項1又は2に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル化合物(b-1)の含有量が、単量体の総量100質量部中、1~70質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル化合物(b-1)の少なくとも1つのガラス転移温度(Tg)が40℃未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項6】
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる構造及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレートである、請求項3~5のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項7】
歯科用組成物(B)が1剤型である、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項8】
歯科用組成物(B)が2剤型である、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項9】
歯科用組成物(B)が動揺歯固定材である、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項10】
歯科用組成物(B)が小窩裂溝填塞材である、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項11】
歯科用組成物(B)が矯正用ボンディング材である、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)。
【請求項12】
歯科用組成物(B)が歯科用仮着材である、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物(B)と、歯科用接着性組成物(A)とを含み、
歯科用接着性組成物(A)が、酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有さない単量体(b)、重合開始剤(c)及び/又は重合促進剤(e)、及び水(f)を含む、歯科用接着性組成物キット。
【請求項14】
硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離が0.010mm以上である、請求項13に記載の歯科用接着性組成物キット。
【請求項15】
歯科用接着性組成物(A)が歯科用ボンディング材である、請求項13又は14に記載の歯科用接着性組成物キット。
【請求項16】
歯科用接着性組成物(A)が歯科用プライマーである、請求項13又は14に記載の歯科用接着性組成物キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用組成物及びそれを用いた歯科用接着性組成物キットに関する。より詳細には、本発明は、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい歯科用組成物及びそれを用いた歯科用接着性組成物キットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙の修復治療のために、接着材料や充填材料が使用されている。これら接着材料や充填材料としては、(メタ)アクリル酸エステル、重合開始剤及びフィラーなどを含む歯科用重合性組成物からなる歯科材料が汎用されている。
【0003】
それらの歯科材料を使用した様々な歯科治療方法があるが、その中で、高齢などによる歯周病に伴い歯肉の退食が起こり、歯を充分に支えることが困難になり、ぐらついて脱落し易くなった歯を治療することがある。このぐらついた歯は動揺歯と呼ばれている。動揺歯の治療には、動揺歯固定材と言われる歯科材料を用いて動揺歯を健全な歯に固定する方法が取られている。治癒までの固定中に曲げ歪みがかかるが、歪みによって破壊しないことが必要である。一方、歯を壊さないように歪みを吸収するためにある程度撓むことも必要であり、単純に強度が高ければ良いというものでもない。すなわち、動揺歯固定材には、その硬化物が靭性に優れることが要求されている。一般に普及している材料は化学重合タイプであるが、所望のタイミングで硬化することができないため、操作が簡便な光重合タイプの材料が望まれている。
【0004】
近年光重合タイプの動揺歯固定材が開発されてきているが、動揺歯は動揺が小さい場合と大きい場合があり、光重合タイプの製品は操作性に優れるものの、歯の動揺が大きい場合には剥離するという課題があった。一方で化学重合タイプは動揺の大きい歯の場合でも剥離しないが、操作性が極めて悪いという課題があり、優れた操作性と歯質から剥離しない材料の両立が求められていた。
これに対して、動揺歯固定材の用途に対する各種の提案がなされていた(特許文献1~3等)。
【0005】
優れた操作性と歯質から剥離しない材料の両立という観点から、特許文献1では、組成物の繰り返し曲げ試験耐性が3回以上である歯科用接着性組成物により、硬化体の破壊や脱落を防止するだけでなく、簡便に操作できることを目的として、強度的に優れており、歯質に対して良好な接着性を有し、且つ使用時の操作を簡便にするために1成分の組成物形態の歯科用接着性組成物が提案されていた。
【0006】
特許文献2では、特定の組成の前処理材と(メタ)アクリル酸エステル単位を主として含み、ハードセグメントとして機能する重合体ブロックを少なくとも1個と、アクリル酸エステルを主として含み、ソフトセグメントとして機能する重合体ブロックを少なくとも1個有するアクリル系ブロック重合体を含む重合性組成物のキットにより、エナメル質に対する接着性に優れた動揺歯固定材キットが提案されていた。
【0007】
特許文献3では、該非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)が1種類の(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体及び/又は2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルのランダム共重合体を含む特定の組成を含む、1剤型歯科用重合性組成物により、優れた操作性、靭性と歯質に対する接着性を有する動揺歯固定材に好適な1剤型の歯科用重合性組成物が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-6040号公報
【特許文献2】特開2012-46468号公報
【特許文献3】特開2014-189504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、従来技術では、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離の観点において改善の余地があることが判明した。
【0010】
「50%応力緩和距離」とは、せん断接着強さを測定の際に最大応力到達後、応力が50%に低下するまでの距離である。
50%応力緩和距離が大きいと動揺が大きい歯に対しても脱落が起こりにくくなる。通常、接着材であればせん断接着強さは最大応力に到達した瞬間に試験片が歯質から剥離してしまうため、50%応力緩和距離はほとんど0となる。
粘着材のような材料の場合、最大応力に到達した段階で材料のすべてが剥離することなく、一部のみが剥離することから50%応力緩和距離が大きくなる。
【0011】
また、歯科用組成物において通常、接着強さは硬化直後が低く、重合率が進むに従って高くなる。歯の動揺の影響は硬化直後から受けることから、硬化直後の接着強さ、及び50%応力緩和距離が動揺歯の固定において重要となることが見いだされた。
【0012】
以上のように、従来技術において、動揺歯固定には動揺の大きい歯特有の課題があり、硬化直後にその影響を受けやすいという課題があった。
【0013】
そこで本発明は、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい歯科用組成物及びそれを用いた歯科用接着性組成物キットを提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の組成を有する歯科用組成物が上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]酸性基を有さない単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含み、
酸性基を有さない単量体(b)が、(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)を含み、
フィラー(d)の含有量が、0.1~40質量%である、歯科用組成物(B)。
[2]酸性基を有する単量体(a)をさらに含む、[1]に記載の歯科用組成物(B)。
[3]前記(メタ)アクリル化合物(b-1)が、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)を含む、[1]又は[2]に記載の歯科用組成物(B)。
[4]前記(メタ)アクリル化合物(b-1)の含有量が、単量体の総量100質量部中、1~70質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[5]前記(メタ)アクリル化合物(b-1)の少なくとも1つのガラス転移温度(Tg)が40℃未満である、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[6]前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる構造及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレートである、[3]~[5]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[7]歯科用組成物(B)が1剤型である、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[8]歯科用組成物(B)が2剤型である、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[9]歯科用組成物(B)が動揺歯固定材である、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[10]歯科用組成物(B)が小窩裂溝填塞材である、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[11]歯科用組成物(B)が矯正用ボンディング材である、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)。
[12]歯科用組成物(B)が歯科用仮着材である、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[13][1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物(B)と、歯科用接着性組成物(A)とを含み、
歯科用接着性組成物(A)が、酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有さない単量体(b)、重合開始剤(c)及び/又は重合促進剤(e)、及び水(f)を含む、歯科用接着性組成物キット。
[14]硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離が0.010mm以上である、[13]に記載の歯科用接着性組成物キット。
[15]歯科用接着性組成物(A)が歯科用ボンディング材である、[13]又は[14]に記載の歯科用接着性組成物キット。
[16]歯科用接着性組成物(A)が歯科用プライマーである、[13]又は[14]に記載の歯科用接着性組成物キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい歯科用組成物及びそれを用いた歯科用接着性組成物キットを提供することができる。
また、本発明によれば、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きいため、剥離する際にも硬化物のすべてが剥離することなく、一部が剥離する程度に収まるため、硬化物の脱落を効果的に抑制することができる。
さらに、硬化物が十分柔らかい曲げ変位を有することにより、硬化物はしなるような柔軟性を備えることができ、歯の動揺による力がかかった際にも変形することで力を緩和することができ、硬化物の脱落をより効果的に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の歯科用組成物(B)は、酸性基を有さない単量体(b)、重合開始剤(c)、フィラー(d)を含む歯科用組成物(B)であり、酸性基を有さない単量体(b)に(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)を含み、歯科用組成物(B)の総量100質量%中、フィラー(d)を0.1~40質量%含む。
【0018】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称であり、これと類似の表現(「(メタ)アクリル酸」「(メタ)アクリロニトリル」等)についても同様である。
本明細書において、「硬化直後」とは、歯科用組成物を硬化させて硬化物とし、硬化後直ちに、該硬化物を蒸留水に浸漬した状態で容器内に静置し、37℃に設定した恒温器内に該容器を15分間放置し、蒸留水から取り出した直後であることを意味する。
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
また、本明細書において、各実施形態同士は、その全部又は一部を適宜組み合わせる等の変更が可能である。
また、本明細書において、歯科用接着性組成物(A)及び歯科用組成物(B)の成分(材料の種類等)及びその含有量について、別途記載した場合を除いて、両方に適用することが可能である。
【0019】
本発明の歯科用組成物が硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい理由は定かではないが、以下のように推定される。
(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)が配合されることにより、架橋密度のバランスが取れ、さらに特定量のフィラー(d)が配合されることにより、強度のバランスが取れるためと推定される。
その結果、光照射した直後に硬化物が十分柔らかい曲げ変位を有することにより、歯の動揺による力がかかった際にも変形することで力を緩和する。
さらに、硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離が大きくなることにより、動揺歯に接着した本材料が一部剥離したとしても、界面ですべて剥がれることなく、本材料の一部のみが剥離することによって、応力が緩和され、動揺の大きい歯に対しても動揺を固定できると推定される。
【0020】
硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離を高くするには、酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有さない単量体(b)、重合開始剤(c)及び/又は重合促進剤(e)、及び水(f)を含む歯科用接着性組成物(A)と、歯科用組成物(B)とからなる歯科用接着性組成物キットであることが好ましい。
歯科用組成物(B)の使用前に歯科用接着性組成物(A)を歯面に適用することにより、歯面と歯科用組成物(B)の界面の硬化性が高まり、結果、硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離が大きくなる。
【0021】
本発明の歯科用接着性組成物キットは、硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離は、硬化物の剥離を部分的な剥離に抑え、粘る性質により、硬化物の脱落を効果的に抑制することができる点から、0.010mm以上であることが好ましく、0.015mm以上がより好ましく、0.020mm以上がさらに好ましく、0.025mm以上が特に好ましい。
【0022】
歯科用組成物(B)の調整による硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離の調整について、以下に記載する。
酸性基を有さない単量体(b)は官能基数が大きいほど硬化物が硬くなり、50%応力緩和距離は小さくなる。一方で単官能の単量体が多くなりすぎると、硬化物が脆くなり、機械的強度などに影響が出る。(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)の含有量が多くなるほど、50%応力緩和距離は大きくなる傾向となるが、機械的強度も低下する傾向となる。
また、フィラー(d)の含有量が多くなるほど機械的強度が大きくなり、50%応力緩和距離は小さくなる傾向がある。
【0023】
以下、本発明の歯科用接着性組成物(A)、及び歯科用組成物(B)に用いられる各成分について、説明する。
【0024】
<酸性基を有する単量体(a)>
歯科用接着性組成物(A)は歯質への接着性の観点から、酸性基を有する単量体(a)を含む。
また、歯科用組成物(B)は歯質への接着性の観点から、酸性基を有する単量体(a)をさらに含むことが好ましい。
歯科用接着性組成物(A)及び歯科用組成物(B)において、酸性基を有する単量体(a)として、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。
酸性基を有する単量体(a)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。
これらの中でも、硬化性の観点から(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましい。
歯科用組成物(B)が酸性基を有する単量体(a)を含む実施形態において、歯科用接着性組成物(A)に用いる酸性基を有する単量体(a)と、歯科用組成物(B)に用いる酸性基を有する単量体(a)とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0025】
本発明に用いられる酸性基を有する単量体(a)としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する単量体が挙げられる。
酸性基を有する単量体(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸性基を有する単量体(a)の具体例を下記する。
【0026】
リン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(2-ブロモエチル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられ、炭素数6~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体が好ましい。
ある好適な実施形態としては、酸性基を有する単量体(a)が炭素数6~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体を含む、自己接着性歯科用コンポジットレジンが挙げられる。
【0027】
ピロリン酸基を有する単量体としては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
【0028】
チオリン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0029】
ホスホン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
カルボン酸基を有する単量体としては、1分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステル、1分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0031】
1分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸等及びこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物が挙げられる。
【0032】
1分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、例えば、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-2,3,6-トリカルボン酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル-1,8-ナフタル酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,8-トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0033】
スルホン酸基を有する単量体としては、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
また、上述の酸性基を有する単量体(a)の中でも、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)として用いた場合に接着強さが良好である観点から、リン酸基を有する単量体又はカルボン酸基を有する単量体を含むことが好ましく、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、及び、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物がより好ましく、さらに、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェートがさらに好ましく、硬化性とのバランスの観点から、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが特に好ましい。
【0035】
歯科用接着性組成物(A)における酸性基を有する単量体(a)の含有量は、歯質に対する接着性の観点から、単量体の総量100質量部中、1~40質量部であることが好ましく、2~35質量部であることがより好ましく、3~30質量部であることがさらに好ましく、5~25質量部であることが特に好ましい。
歯科用組成物(B)が酸性基を有する単量体(a)を含む実施形態においては、歯科用組成物(B)における酸性基を有する単量体(a)の含有量は、歯科用接着性組成物(A)における酸性基を有する単量体(a)の含有量と同様としてもよい。
また、歯科用組成物(B)が酸性基を有する単量体(a)を含む実施形態においては、歯科用組成物(B)における酸性基を有する単量体(a)の含有量は、歯質に対する接着性の観点から、歯科用組成物(B)の総量100質量%中、0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、2~10質量%がさらに好ましい。
また、歯科用接着性組成物(A)における酸性基を有する単量体(a)の含有量は、歯質に対する接着性の観点から、歯科用接着性組成物(A)の総量100質量%中、0.1~50質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましく、2~30質量%がさらに好ましい。
【0036】
<酸性基を有しない単量体(b)>
本発明における酸性基を有しない単量体(b)としては、(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)(以下、(メタ)アクリル化合物(b-1)とも称する。)が挙げられる。また、前記(メタ)アクリル化合物(b-1)には該当せず、25℃の水に対する溶解度が10質量%未満である酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)(以下、単に「疎水性単量体(b-2)」と称することがある)が挙げられる。また、前記(メタ)アクリル化合物(b-1)には該当せず、25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を有しない親水性単量体(b-3)(以下、単に「親水性単量体(b-3)」と称することがある)が挙げられる。
酸性基を有しない単量体(b)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
歯科用接着性組成物(A)に含まれる酸性基を有しない単量体(b)(例えば、疎水性単量体(b-2))と、歯科用組成物(B)に含まれる酸性基を有しない単量体(b)(例えば、疎水性単量体(b-2))とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0037】
・(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)
本発明の歯科用組成物(B)は、(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)を含む。
(メタ)アクリル化合物(b-1)は、本発明の歯科用組成物(B)において、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離を大きくし、かつ曲げ変位を大きくするために用いられる。
なお、本明細書において、酸性基を有しない単量体(b)において、(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物は、25℃の水に対する溶解度に関係なく、(メタ)アクリル化合物(b-1)とする。
【0038】
(メタ)アクリル化合物(b-1)は、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)と、ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリル化合物(b-1b)の2種類に大きく分類できる。
(メタ)アクリル基の導入の容易さと、所望の架橋密度が得られることで、歯科用接着性組成物(A)と組み合わせて使用した際に、硬化直後のせん断接着強さ測定時の50%応力緩和距離が大きくなることにより、動揺歯に接着した歯科用組成物(B)の硬化物が一部剥離したとしても、界面ですべて剥離せず、一部のみの剥離に留めることができ、さらに光照射した直後に硬化物が十分柔らかい曲げ変位を有することができ、歯の動揺による力がかかった際にも変形することで力を緩和することができるとともに特定量のフィラー(d)と組み合わせた際に機械的強度にも優れる点から、歯科用組成物(B)に含まれる(メタ)アクリル化合物(b-1)は、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)を含むことが好ましい。
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)は、例えば、後述するポリマー骨格を含有するポリオールと、イソシアネート基(-NCO)を有する化合物と、水酸基(-OH)を有する(メタ)アクリル化合物とを付加反応させることにより、容易に合成することができる。また、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)は、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物に、ラクトン又はアルキレンオキシドに開環付加反応させた後、得られた片末端に水酸基を有する化合物を、イソシアネート基を有する化合物に付加反応させることにより、容易に合成することができる。ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリル化合物(b-1b)は、例えば、水酸基を有する単量体の重合体に(メタ)アクリル酸を脱水縮合反応させることにより、得ることができる。
【0039】
・ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる構造(ポリマー骨格)及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレートであることが好ましく、1分子内に、分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位に由来する構造を有するポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
【0040】
前記構造において、例えば、ポリエステルとしては、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族ジオールの共重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族ジオールの共重合体、β-プロピオラクトンの重合体、γ-ブチロラクトンの重合体、δ-バレロラクトン重合体、ε-カプロラクトン重合体及びこれらの共重合体などが挙げられ、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族ジオールの共重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族ジオールの共重合体が好ましい。
ポリカーボネートとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~18の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートなどが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~12の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートが好ましい。
ポリウレタンとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールと炭素数1~18のジイソシアネートの重合体などが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールと炭素数1~12のジイソシアネートの重合体が好ましい。
ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリ(1-メチルブチレングリコール)などが挙げられる。
ポリ共役ジエン及び水添ポリ共役ジエンとしては、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-イソプレン)、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(イソプレン-スチレン)、ポリファルネセン、及びこれらの水添物が挙げられる。これらの中でも、機械的強度と耐水性に優れる点で、ポリエステル、ポリカーボネート及びポリ共役ジエンの構造が好ましい。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)の製造には、前記したポリマー骨格を有するポリオールを用いることができ、前記したポリマー骨格を有するポリオールを用いることが好ましい。
【0041】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、トリシクロデカンジイソシアネート(TCDDI)、及びアダマンタンジイソシアネート(ADI)等が挙げられる。
【0042】
水酸基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物;N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
目的のウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)が、(メタ)アクリレート化合物である場合は、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物を選択することで製造できる。
【0043】
前記分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオールとしては、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、2,8-ジメチル-1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,10-デカンジオール、2,9-ジメチル-1,10-デカンジオール、2-メチル-1,11-ウンデカンジオール、2,10-ジメチル-1,11-ウンデカンジオール、2-メチル-1,12-ドデカンジオール、2,11-ジメチル-1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,13-トリデカンジオール、2,12-ジメチル-1,13-トリデカンジオール、2-メチル-1,14-テトラデカンジオール、2,13-ジメチル-1,14-テトラデカンジオール、2-メチル-1,15-ペンタデカンジオール、2,14-ジメチル-1,15-ペンタデカンジオール、2-メチル-1,16-ヘキサデカンジオール、2,15-ジメチル-1,16-ヘキサデカンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジンが硬化性に優れる観点から、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、2,8-ジメチル-1,9-ノナンジオールなどのメチル基を側鎖として有する炭素数5~12の脂肪族ジオールをポリオール成分として使用することが好ましく、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオールがより好ましく、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールがさらに好ましい。
【0044】
イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との付加反応は、公知の方法に従って行うことができ、特に限定はない。
【0045】
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(b-1a)としては、前記の、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するポリオールと、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との任意の組み合わせの反応物が挙げられる。
【0046】
・ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリル化合物(b-1b)
ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリル化合物(b-1b)は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群から選ばれる構造(ポリマー骨格)を有することが好ましい。
前記構造において、例えば、ポリエステルとしては、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族ジオールの共重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族ジオールの共重合体、β-プロピオラクトンの重合体、γ-ブチロラクトンの重合体、δ-バレロラクトン重合体、ε-カプロラクトン重合体及びこれらの共重合体などが挙げられ、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族ジオールの共重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族ジオールの共重合体が好ましい。
ポリカーボネートとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~18の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートなどが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~12の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートが好ましい。
ポリウレタンとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールと炭素数1~18のジイソシアネートの重合体などが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールと炭素数1~12のジイソシアネートの重合体が好ましい。
ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリ(1-メチルブチレングリコール)などが挙げられる。
ポリ共役ジエン及び水添ポリ共役ジエンとしては、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-イソプレン)、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(イソプレン-スチレン)、ポリファルネセン、及びこれらの水添物が挙げられる。これらの中でも、柔軟性、耐水性に優れる点で、ポリエステル、ポリカーボネート及びポリ共役ジエンの構造が好ましい。ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリル化合物(b-1b)の製造には、前記したポリマー骨格を有するポリオールを用いることができる。
ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群から選ばれる構造(ポリマー骨格)の骨格や分子量を調整することで、ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリル化合物(b-1b)のガラス転移温度とアセトン溶解性を調整できる。
【0047】
水酸基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物;N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
目的の(メタ)アクリル化合物(b-1b)が、(メタ)アクリレート化合物である場合は、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物を選択することで製造できる。
【0048】
ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリル化合物(b-1b)としては、前記の、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との任意の組み合わせの反応物が挙げられる。
【0049】
(メタ)アクリル化合物(b-1)の重量平均分子量(Mw)は、50%応力緩和距離と曲げ変位向上の観点から、1,000~80,000が好ましく、2,000~50,000がより好ましく、3,000~20,000がさらに好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0050】
(メタ)アクリル化合物(b-1)における(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量は2,000以上20,000未満であり、2,500以上17,500以下が好ましく、3,000以上16,000以下がより好ましく、3,500以上15,000以下がさらに好ましい。
(メタ)アクリル化合物(b-1)の(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が上記範囲であると、適度な架橋が起こり、50%応力緩和距離と曲げ変位向上の観点に加えて、より効果的に、機械的強度を維持することが可能となる。
また、(メタ)アクリル化合物(b-1)に(メタ)アクリル基以外の重合性基、例えば、ビニル基、スチレン基などが含まれる場合、重合形態によっては所望の50%応力緩和距離と曲げ変位が得られなくなる恐れがあるため、(メタ)アクリル化合物(b-1)中の(メタ)アクリル基以外の重合性基の数は2つ以下が好ましく、0がより好ましい。
【0051】
(メタ)アクリル化合物(b-1)は、40℃未満のガラス転移温度(以下、単に「Tg」と略することがある)を少なくとも1つ含んでもよい。
Tgは、40℃未満であれば、特に限定されないが、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離、及び曲げ変位により優れる点から、-100℃~30℃の温度範囲にあることが好ましく、-75℃~15℃の温度範囲にあることがより好ましく、-60℃~10℃の温度範囲にあることがさらに好ましい。
(メタ)アクリル化合物(b-1)のTgが40℃以上のみである場合、重合時の温度でガラス状態になることから硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離、及び曲げ変位における優れた効果が発現しなくなる。後述するとおり、(メタ)アクリル化合物(b-1)は複数のTgを有していてもよく、その場合、そのうち1つのTgが40℃未満であればよく、他のTgは40℃以上の温度範囲にあってもよい。例えば、Tgを2つ有し、1つのTgが-42℃であり、もう一方のTgが44.6℃でもよい。ある実施形態においては、ガラス転移領域を40℃未満に調整するために、(メタ)アクリル化合物(b-1)のうち、ガラス転移温度が高くなることを防ぐために、芳香環を骨格に含まない(メタ)アクリル化合物(b-1)が好ましい。
他の実施形態としては、ガラス転移領域を40℃未満に調整するために、環状構造(芳香環、複素環、脂環構造)を骨格に含まない(メタ)アクリル化合物(b-1)が好ましい。
【0052】
本発明におけるガラス転移温度(Tg)とは、中間点ガラス転移温度(Tmg)のことを意味する。本発明で用いるガラス転移温度(Tg)は、具体的には、JIS K 7121-1987(2012年追補)に基づいて測定することで求められる。
【0053】
(メタ)アクリル化合物(b-1)としては、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、根上工業株式会社製の「アートレジン」シリーズ(UN-7600、UN-7700)等の末端に重合性基を有するウレタンポリマー、株式会社クラレ製のポリイソプレン骨格、もしくはポリブタジエン骨格である「クラプレン」シリーズ(LIR-30、LIR-50、LIR-390、LIR-403、LIR-410、UC-102M、UC-203M、LIR-700、LBR-302、LBR-307、LBR-305、LBR-352、LBR-361、L-SBR-820、L-SBR-841)、株式会社クラレ製のポリオール(P-6010、P-5010、P-4010、P-3010、P-2010、P-1010、F-3010、F2010、F-1010、P-2011、P-1020、P-2020、P-530、P-2030、P-2050、C-2090)、日本曹達株式会社製の液状ポリブタジエン「NISSO-PB」(B-1000、B-2000、B-3000、BI-2000、BI-3000、G-1000、G-2000、G-3000、GI-1000、GI-2000、GI-3000、TEAI-1000、TE-2000、TE-4000、JP-100、JP-200)等が挙げられ、UN-7600、UN-7700、LBR-302、LBR-307、LBR-305、LBR-352、LBR-361、L-SBR-820、UC-102M、UC-203M、C-2090、P-2020、P-2050、B3000、BI-2000、BI-3000、TEAI-1000、TE-2000、TE-4000が好ましく、柔軟性の点から、UN-7600、UN-7700、UC-102M、TE-2000、TE-4000がより好ましい。
【0054】
本発明の歯科用組成物(B)における(メタ)アクリル化合物(b-1)の含有量は、単量体の総量100質量部中、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい観点から、1~70質量部であることが好ましく、2.5~60質量部であることがより好ましく、3~55質量部であることがさらに好ましく、5~50質量部であることが特に好ましい。
また、歯科用組成物(B)における(メタ)アクリル化合物(b-1)の含有量は、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい観点から、歯科用組成物(B)の総量100質量%中、1~70質量%であることが好ましく、5~60質量%であることがより好ましく、8~50質量%であることがさらに好ましい。
また、歯科用接着性組成物(A)は、(メタ)アクリル化合物(b-1)を含めてもよいが、含まないことが好ましい。
【0055】
・酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)
酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)は、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)のハンドリング性、硬化物の機械的強度(曲げ強さ)などを向上させ、吸水量、溶解量を低下させる。
疎水性単量体(b-2)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。疎水性単量体(b-2)とは、酸性基を有さず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%未満の単量体を意味する。疎水性単量体(b-2)としては、例えば、芳香族化合物系の単官能性単量体、脂肪族化合物系の単官能性単量体、芳香族化合物系の二官能性単量体、脂肪族化合物系の二官能性単量体、三官能性以上の単量体などの架橋性の単量体が挙げられる。疎水性単量体(b-2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
単官能性疎水性単量体としては、例えば、n-ステアリル(メタ)アクリレート等の脂肪族化合物系の単官能(メタ)アクリレート系単量体;ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の平均付加モル数:9)等のエーテル結合含有の脂肪族化合物系の単官能(メタ)アクリレート系単量体;シクロへキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式化合物系の単官能(メタ)アクリレート系単量体;2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環基を有する単官能(メタ)アクリレート系単量体;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環基(例えば、環状エーテル基等)を含有する(メタ)アクリレート系単量体などが挙げられる。芳香環基を有する単官能(メタ)アクリレート系単量体としては、フェニル基を1つ又は2つ有するものが好ましい。複素環基を含有する(メタ)アクリレート系単量体としては、複素環基(例えば、環状エーテル基等)を1つ又は2つ有するものが好ましい。これらのうち、機械的強度、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きい観点、柔軟性等の観点から、フェノキシベンジルメタクリレート(通称:POB-MA)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(通称:THF-MA)、ベンジルメタクリレート(通称:BEMA)が好ましい。
【0057】
芳香族化合物系の二官能性疎水性単量体としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
これらの中でも、機械的強度、屈折率の調整、ハンドリング性の観点から、2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0058】
脂肪族化合物系の二官能性疎水性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミドなどが挙げられる。
これらの中でも、機械的強度、ハンドリング性の観点からはトリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(通称「DD」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましい。
50%応力緩和距離の観点からは1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、UDMA、DDが好ましい。歯質、特に象牙質への接着性の観点からはMAEA、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0059】
三官能性以上の疎水性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、機械的強度の観点からN,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
【0060】
上記の疎水性単量体(b-2)の中でも、機械的強度(曲げ強さ)、吸水量、溶解量及びハンドリング性の観点で、芳香族化合物系の二官能性疎水性単量体、及び脂肪族化合物系の二官能性疎水性単量体、単官能性疎水性単量体が好ましく用いられる。
芳香族化合物系の二官能性単量体としては、Bis-GMA、D-2.6Eが好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性単量体としては、3G、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、UDMA、DD、MAEAが好ましい。
単官能性疎水性単量体としては、THF-MA、BEMA、POB-MA、2-フェノキシエチルメタクリレート(通称:PEMA)が好ましい。
【0061】
疎水性単量体(b-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
歯科用組成物(B)における疎水性単量体(b-2)の含有量は、歯科用組成物(B)における単量体の総量100質量部中、15~98質量部であることが好ましく、30~95質量部であることがより好ましく、40~92質量部であることがさらに好ましい。
疎水性単量体(b-2)の含有量が前記上限値以下であることによって、歯科用組成物(B)の機械的強度の低下を抑制しやすく、同含有量が前記下限値以上であることで、所望の硬化物の機械的強度、ハンドリング性が得られやすい。
歯科用接着性組成物(A)における疎水性単量体(b-2)の含有量は、歯科用組成物(B)における疎水性単量体(b-2)の含有量と同様としてもよい。
また、歯科用組成物(B)における疎水性単量体(b-2)の含有量は、機械的強度、ハンドリング性の点から、歯科用組成物(B)の総量100質量%中、8~95質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましく、20~85質量%がさらに好ましい。
また、歯科用接着性組成物(A)における疎水性単量体(b-2)の含有量は、機械的強度、ハンドリング性の点から、歯科用接着性組成物(A)の総量100質量%中、8~75質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、20~65質量%がさらに好ましい。
【0062】
・酸性基を有しない親水性単量体(b-3)
親水性単量体(b-3)は、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の歯質への濡れ性、歯質(エナメル質/象牙質)への浸透性を向上させることで、歯質への接着強さを向上させることができる。
親水性単量体(b-3)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。親水性単量体(b-3)とは、酸性基を有さず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。親水性単量体としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましい。
【0063】
親水性単量体(b-3)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の平均付加モル数:9以上)などの親水性の単官能性(メタ)アクリレート系単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-トリヒドロキシメチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドなどの親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体などが挙げられる。
【0064】
これらの親水性単量体(b-3)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。親水性単量体(b-3)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
歯科用接着性組成物(A)における親水性単量体(b-3)の含有量は、単量体の総量100質量部中、0~50質量部であることが好ましく、0~40質量部であることがより好ましく、0~30質量部であることがさらに好ましい。親水性単量体(b-3)の含有量は単量体の総量100質量部において、0質量部であってもよい。歯科用接着性組成物(A)に親水性単量体(b-3)の含有量が前記下限値以上であることで、十分な接着強さの向上効果が得られやすく、前記上限値以下であることで、所望の硬化物の機械的強度、吸水量、溶解量が得られやすい。
歯科用組成物(B)における親水性単量体(b-3)の含有量は、歯科用接着性組成物(A)における親水性単量体(b-3)の含有量と同様としてもよい。
【0066】
歯科用接着性組成物(A)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きいという観点から、単量体の総量100質量部中、60~99質量部であることが好ましく、65~97.5質量部であることがより好ましく、70~95質量部であることがさらに好ましい。
歯科用組成物(B)が酸性基を有する単量体(a)を含む実施形態においては、歯科用組成物(B)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、歯科用接着性組成物(A)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量と同様である。
歯科用組成物(B)が酸性基を有する単量体(a)を含まない実施形態においては、歯科用組成物(B)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、単量体の総量100質量部中、100質量部としてもよい。
また、歯科用接着性組成物(A)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きいという観点から、歯科用接着性組成物(A)の総量100質量%中、10~75質量%が好ましく、15~70質量%がより好ましく、20~65質量%がさらに好ましい。
歯科用組成物(B)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、硬化直後のせん断接着強さの50%応力緩和距離が大きく、かつ曲げ変位が大きいという観点から、歯科用組成物(B)の総量100質量%中、60~99質量%が好ましく、65~97.5質量%がより好ましく、70~95質量%がさらに好ましい。
【0067】
<重合開始剤(c)>
単量体を硬化させるために、歯科用組成物(B)は重合開始剤(c)を含む。
単量体を硬化させるために、歯科用接着性組成物(A)においても重合開始剤(c)を含むことが好ましい。
重合開始剤(c)としては光重合開始剤(c-1)、化学重合開始剤(c-2)を用いることができ、それぞれ単独で配合してもよく、併用してもよい。
歯科用接着性組成物(A)が重合開始剤(c)を含む実施形態においては、歯科用接着性組成物(A)に含まれる重合開始剤(c)(例えば、光重合開始剤(c-1))と、歯科用組成物(B)に含まれる重合開始剤(c)(例えば、光重合開始剤(c-1))とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0068】
光重合開始剤(c-1)は水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)に分類される。
光重合開始剤(c-1)としては、水溶性光重合開始剤(c-1a)のみを用いてもよく、非水溶性光重合開始剤(c-1b)のみを用いてもよく、水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)を併用してもよいが、併用することが好ましい。
【0069】
・水溶性光重合開始剤(c-1a)
水溶性光重合開始剤(c-1a)は、親水的な歯面界面での重合硬化性を向上させ、高い接着強さを実現できる。水溶性光重合開始剤(c-1a)は、25℃の水に対する溶解度が10g/L以上であり、15g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、25g/L以上であることがさらに好ましい。同溶解度が10g/L以上であることで、接着界面部において水溶性光重合開始剤(c-1a)が歯質中の水に十分に溶解し、重合促進効果が発現しやすくなる。
【0070】
水溶性光重合開始剤(c-1a)としては、例えば、水溶性チオキサントン類;水溶性アシルホスフィンオキシド類;1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンの水酸基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したものなどのα-ヒドロキシアルキルアセトフェノン類;2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[(4-モルホリノ)フェニル]-1-ブタノンなどのα-アミノアルキルフェノン類のアミノ基を四級アンモニウム塩化したものなどが挙げられる。
【0071】
前記水溶性チオキサントン類としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
【0072】
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、下記一般式(1)、(2)又は(3)で表されるアシルホスフィンオキシド類が挙げられる。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
式(1)、(2)及び(3)中、R1~R9及びR11~R16は互いに独立して、C1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子であり、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+R17R18R19(式中、R17、R18、及びR19は互いに独立して、有機基又は水素原子)で示されるアンモニウムイオンであり、n及びqはそれぞれ1又は2であり、XはC1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、R10は-CH(CH3)COO(C2H4O)pCH3で表され、pは1~1000の整数を表す。
【0077】
R1~R9及びR11~R16のアルキル基としては、C1~C4の直鎖状又は分岐鎖状のものであれば特に限定されず、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基などが挙げられる。
R1~R9のアルキル基としては、C1~C3の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
Xとしては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。
Xとしては、C1~C3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0078】
Mがピリジニウムイオンである場合のピリジン環の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基などが挙げられる。Mとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+R17R18R19(式中、記号は上記と同一意味を有する)で示されるアンモニウムイオンが好ましい。
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。
アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオンが挙げられる。
R17、R18、及びR19の有機基としては、前記ピリジン環の置換基と同様のもの(ハロゲン原子を除く)が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、R1~R3がすべてメチル基である一般式(1)で表される化合物、R4~R9がすべてメチル基である一般式(2)で表される化合物、R11~R16がすべてメチル基である一般式(3)で表される化合物が、歯科用接着性組成物(A)及び歯科用組成物(B)の組成物中での保存安定性及び色調安定性の点から特に好ましい。また、アンモニウムイオンとしては、各種のアミンから誘導されるアンモニウムイオンが挙げられる。アミンの例としては、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアニリン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノメタクリレート、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、4-(N,N-ジエチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンなどが挙げられる。
【0080】
R10としては、接着性の観点から、pは1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましく、4以上が特に好ましく、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、75以下がさらに好ましく、50以下が特に好ましい。
【0081】
これらの水溶性アシルホスフィンオキシド類の中でも、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸ナトリウム、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸ナトリウム、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム、及び、R10で表される基に相当する部分が分子量950であるポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートから合成された一般式(2)で表される化合物が特に好ましい。
【0082】
このような構造を有する水溶性アシルホスフィンオキシド類は、公知方法に準じて合成することができ、一部は市販品としても入手可能である。例えば、特開昭57-197289号公報や国際公開第2014/095724号などに開示された方法により合成することができる。水溶性光重合開始剤(c-1a)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
水溶性光重合開始剤(c-1a)は、歯科用接着性組成物(A)、又は歯科用組成物(B)に溶解されていても歯科用接着性組成物(A)、又は歯科用組成物(B)の組成物中に粉末の形態で分散されていてもよい。
【0084】
水溶性光重合開始剤(c-1a)を粉末の形態で、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)中に分散させる場合、その平均粒子径が過大であると沈降しやすくなるため、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の組成物への分散可能な量が減少するため、0.01μm以上が好ましい。すなわち、水溶性光重合開始剤(c-1a)の平均粒子径は0.01~500μmの範囲が好ましく、0.01~100μmの範囲がより好ましく、0.01~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0085】
各々の水溶性光重合開始剤(c-1a)の粉末の平均粒子径は、粒子100個以上の電子顕微鏡写真をもとに画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View;株式会社マウンテック製)を用いて画像解析を行った後に体積平均粒子径として算出することができる。
【0086】
水溶性光重合開始剤(c-1a)を粉末の形態で分散させる場合の開始剤の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。水溶性光重合開始剤(c-1a)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法などの従来公知の方法で作製することができ、得られる粉末の平均粒子径の観点で、凍結乾燥法及び再沈殿法が好ましく、凍結乾燥法がより好ましい。
【0087】
水溶性光重合開始剤(c-1a)の含有量は、得られる歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の硬化性などの観点からは、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、歯質への接着性の点から、0.05~10質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。
水溶性光重合開始剤(c-1a)の含有量が前記下限値以上であることで、接着界面での重合が十分に進行し、十分な接着強さを得られやすい。一方、水溶性光重合開始剤(c-1a)の含有量が前記上限値以下であることで、十分な接着強さが得られやすい。
【0088】
・非水溶性光重合開始剤(c-1b)
歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)は、硬化性、機械的強度の観点から、水溶性光重合開始剤(c-1a)に加えて25℃の水への溶解度が10g/L未満である非水溶性光重合開始剤(c-1b)(以下、非水溶性光重合開始剤(c-1b)と称することがある。)を含むことが好ましい。本発明に用いられる非水溶性光重合開始剤(c-1b)は、公知の光重合開始剤を使用することができる。非水溶性光重合開始剤(c-1b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
非水溶性光重合開始剤(c-1b)としては、水溶性光重合開始剤(c-1a)以外の(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0090】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0091】
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
【0092】
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
【0093】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、dl-カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、dl-カンファーキノンが特に好ましい。
【0094】
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどの特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0095】
上述のクマリン類の中でも、特に、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0096】
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0097】
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0098】
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
【0099】
これらの非水溶性光重合開始剤(c-1b)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)が得られる。
【0100】
非水溶性光重合開始剤(c-1b)の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の組成物の硬化性などの観点から、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.05~7質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。
なお、非水溶性光重合開始剤(c-1b)の含有量が前記上限値以下であることで、非水溶性光重合開始剤(c-1b)自体の重合性能が低い場合においても、十分な接着強さが得られやすく、さらには歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)からの重合開始剤(c-1b)自体の析出を抑制できる。
【0101】
水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)とを併用する場合、本発明における水溶性光重合開始剤(c-1a)と非水溶性光重合開始剤(c-1b)の質量比〔(c-1a):(c-1b)〕は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは7:1~1:7であり、さらに好ましくは5:1~1:5であり、特に好ましくは3:1~1:3である。
水溶性光重合開始剤(c-1a)が質量比10:1より多く含有されると、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)自体の硬化性が低下し、歯質への接着強さや曲げ強さが低下することにより、くさび状欠損窩洞において良好な窩洞の封鎖性を示す、本発明の効果を発現させることが困難になる場合がある。一方、非水溶性光重合開始剤(c-1b)が質量比1:10より多く含有されると、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)自体の硬化性は高められるものの接着界面部の重合促進が不十分になり、高い接着強さを発現させることが困難になる場合がある。
【0102】
・化学重合開始剤(c-2)
歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)は、化学重合を可能とする点からさらに化学重合開始剤(c-2)を含有してもよい。
例えば、歯科用組成物(B)において、光が届かない箇所の窩洞に対する封鎖性を向上させる観点からは、歯科用組成物(B)が化学重合開始剤(c-2)を含有することが好ましい。
化学重合開始剤(c-2)としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。前記有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。
代表的な有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。これらの有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
例えば、ハイドロペルオキシド類の具体例としては、t-ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、p-ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロペルオキシド等が挙げられる。
化学重合開始剤(c-2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
<フィラー(d)>
歯科用組成物(B)は、ハンドリング性の調整、50%応力緩和距離の調整、曲げ変位の調整、及び硬化物の機械的強度(曲げ強さ等)を高める点から、フィラー(d)を含む。
歯科用接着性組成物(A)はフィラー(d)を含んでいてもよい。
このようなフィラー(d)としては、無機フィラー、有機無機複合フィラー、有機フィラー等が挙げられる。フィラー(d)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
歯科用接着性組成物(A)に含まれるフィラー(d)(例えば、無機フィラー)と、歯科用組成物(B)に含まれるフィラー(d)(例えば、無機フィラー)とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0104】
無機フィラーの素材としては、各種ガラス類(シリカを主成分(シリカを5質量%以上含むもの、好ましくは10質量%以上含むもの)とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウムなどの酸化物)を含有することが好ましい。
無機フィラーとしては、例えば、溶融シリカ、石英、ソーダライムシリカガラス、Eガラス、Cガラス、ボロシリケートガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)などの一般的な組成のガラス粉末;バリウムガラス、ストロンチウム・ボロシリケートガラス、ランタンガラスセラミックス、フルオロアルミノシリケートガラス、各種セラミック類、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウム、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスなどの複合酸化物、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイトなど)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられ、これらは、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、得られる歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の機械的強度、透明性が優れる点で、石英、シリカ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムが好ましく、石英、シリカ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、シリカコートフッ化イッテルビウムがより好ましい。
【0105】
得られる歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましく、0.005~5μmであることがさらに好ましい。なお、本発明において、無機フィラーに、後記するように表面処理をした場合、無機フィラーの平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。
ある好適な実施形態としては、フィラー(d)が無機フィラーである、歯科用組成物(B)が挙げられる。
他のある好適な実施形態としては、歯科用接着性組成物(A)がフィラー(d)を含み、フィラー(d)が無機フィラーである、歯科用接着性組成物キットが挙げられる。
【0106】
無機フィラーは、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、アエロジル(登録商標)90、アエロジル(登録商標)130、アエロジル(登録商標)150、アエロジル(登録商標)200、アエロジル(登録商標)255、アエロジル(登録商標)300、アエロジル(登録商標)380、アエロジル(登録商標)OX50、アエロジル(登録商標)R972等のシリカ(以上、日本アエロジル株式会社製)、GM27884、8235(以上、SCHOTT社製)、商品コード「E-3000」(エステック社製)等のバリウムガラス、ストロンチウム・ボロシリケートガラス(E-4000、ESSTECH社製)、ランタンガラスセラミックス(GM31684、ショット社製)、フルオロアルミノシリケートガラス(GM35429、G018-091、G018-117、ショット社製)等が挙げられる。
【0107】
無機フィラーは非晶質であってもよいし、結晶質であってもよいし、両者の混合物であってもよいが、非晶質部分を少なくとも含むことが好ましい。
【0108】
無機フィラーの形状としては、特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができ、例えば、不定形フィラー(破砕状フィラー)及び球状フィラーが挙げられる。歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)のハンドリング性の観点からは球状フィラーを用いることが好ましい。球状フィラーとは、電子顕微鏡でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。
【0109】
前記無機フィラーは、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の機械的強度、流動性を調整するため、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理することが好ましい。例えば、表面処理剤で無機フィラーの表面に存在する水酸基を表面処理することで、該水酸基が表面処理された無機フィラーを得ることができる。
【0110】
表面処理剤としては、例えば、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられ、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0111】
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラーを激しく撹拌しながら上記表面処理剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ無機フィラーと上記表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法、あるいは水溶液中で上記表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー表面に付着させた後、水を除去する方法などがあり、いずれの方法においても、通常50~150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー表面と上記表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。なお、表面処理量は特に制限されず、例えば、処理前の無機フィラー100質量部に対して、表面処理剤を0.1~50質量部用いることができる。
【0112】
有機無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーに単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機無機複合フィラーは、無機フィラーと単量体の重合体とを含むフィラーを示す。前記有機無機複合フィラーとしては、例えば、Bis-GMAと3Gと表面処理シリカフィラーとを混和、重合させた後に粉砕したものなどを用いることができる。前記有機無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
有機無機複合フィラーもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができ、有機無機複合フィラーも機械的強度の観点から表面処理された方が好ましい。表面処理剤の例と好ましい種類については無機フィラーと同様である。得られる自己接着性歯科用コンポジットレジンの組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~20μmであることがより好ましく、0.005~15μmであることがさらに好ましい。
【0113】
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる自己接着性歯科用コンポジットレジンのハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~20μmであることがより好ましく、0.005~15μmであることがさらに好ましい。
【0114】
なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法による測定値である。なお、凝集粒子などの1次粒子が集まってなる粒子の場合、1次粒子の平均粒子径と2次粒子の平均粒子径が存在するが、フィラーの平均粒子径としては、粒子径が大きくなる2次粒子の平均粒子径とする。
【0115】
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0116】
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均粒子径が算出される。
【0117】
歯科用組成物(B)のフィラー(d)の含有量は50%応力緩和距離、及び曲げ変位の観点から、歯科用組成物(B)の総量100質量%中、0.1~40質量%の範囲であり、0.5~30質量%の範囲であることが好ましく、1~20質量%の範囲であることがより好ましく、2~15質量%の範囲であることがさらに好ましい。
歯科用接着性組成物(A)のフィラー(d)の含有量は特に制限されず、歯科用接着性組成物(A)はフィラー(d)を含まなくてもよい。
歯科用接着性組成物(A)がフィラー(d)を含む実施形態においては、フィラー(d)の含有量は、歯科用接着性組成物(A)の総量100質量%中、0.1~30質量%の範囲が好ましく、0.5~20質量%の範囲がより好ましく、1.0~10質量%の範囲がさらに好ましい。
【0118】
歯科用組成物(B)において、所望の50%応力緩和距離、及び曲げ変位に調整しやすい観点から、(メタ)アクリル化合物(b-1)の含有量とフィラー(d)の含有量との質量比は、(b-1):(d)=100:5~100:1000であることが好ましく、100:10~100:450であることがより好ましく、100:20~100:300であることがさらに好ましい。
フィラー(d)の含有量が前記した範囲内であり、かつ(メタ)アクリル化合物(b-1)の含有量とフィラー(d)の含有量との質量比が前記した範囲内であることによって、硬化物が硬くなりすぎず、より柔軟性に優れ、かつ剥離を一部に留めやすくなる。
【0119】
<重合促進剤(e)>
歯科用接着性組成物(A)及び歯科用組成物(B)は、硬化物の機械的強度の観点から、水溶性光重合開始剤(c-1a)、非水溶性光重合開始剤(c-1b)、及び化学重合開始剤(c-2)の少なくとも1つとともに重合促進剤(e)を含むことが好ましい。
歯科用接着性組成物(A)に含まれる重合促進剤(e)(例えば、アミン類)と、歯科用組成物(B)に含まれる重合促進剤(e)(例えば、アミン類)とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0120】
本発明に用いられる重合促進剤(e)としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
【0121】
重合促進剤(e)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミンなどの第一級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミンなどの第二級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の硬化性及び保存安定性の観点から、第三級脂肪族アミンが好ましく、その中でも2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
なお、本明細書において、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート等の重合性基を含む重合促進剤(e)は、単量体の総量100質量部に含めるものとする。
そのため、重合促進剤(e)において、重合性基を有し、重合性単量体にも相当する化合物(例えば、酸性基を有しない単量体(b)にも相当する化合物)は除いていてもよい。
【0122】
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0123】
スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、及びチオ尿素化合物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
前記した重合促進剤(e)のうち、チオ尿素化合物としては、例えば、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジ-n-プロピルチオ尿素、N,N’-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ-n-プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ-n-プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素、3,3-ジメチルエチレンチオ尿素、及び4,4-ジメチル-2-イミダゾリジンチオンなどが挙げられる。
バナジウム化合物としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、バナジルアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、及びメタバナジン酸アンモン(V)などが挙げられる。
【0124】
重合促進剤(e)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いられる重合促進剤(e)の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の硬化性などの観点からは、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)における単量体の総量100質量部に対して、0.001~30質量部であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。重合促進剤(e)の含有量が前記下限値以上であることで、重合が十分に進行し、十分な接着強さを得られやすい。一方、重合促進剤(e)の含有量が前記上限値以下であることで、十分な接着性が得られやすく、さらには歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)からの重合促進剤(e)自体の析出を抑制できる。
【0125】
<水(f)>
本発明の歯科用接着性組成物(A)は、水(f)を含む。
水は、歯質の表面を脱灰して歯質に対する接着性を向上させる。水は、接着性に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要があり、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。水の含有量が過少な場合、脱灰作用促進効果が十分に得られないおそれがあり、過多な場合は接着性が低下することがある。そのため、水(f)の含有量は、歯科用接着性組成物(A)の総量100質量%中、1~50質量%の範囲が好ましく、2~50質量%の範囲がより好ましく、3~20質量%の範囲がさらに好ましい。
【0126】
・有機溶媒
歯科用接着性組成物(A)は、有機溶媒をさらに含んでいてもよい。本発明の歯科用接着性組成物(A)が有機溶媒を含有する場合、接着性、塗布性、歯質への浸透性をより向上させることができ、組成物の各成分の分離をより防止することができる。有機溶媒としては、通常、常圧下における沸点が150℃以下であり、且つ25℃における水に対する溶解度が5質量%以上の、より好ましくは30質量%以上の、さらに好ましくは任意の割合で水に溶解可能な有機溶媒が使用される。
【0127】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類:テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;ヘキサン、トルエン、クロロホルム等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、有機溶媒が水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく、エタノール、2-プロパノール、アセトン、2-メチル-2-プロパノール及びテトラヒドロフランがより好ましい。前記有機溶媒の含有量は特に限定されず、実施形態によっては前記有機溶媒の配合を必要としないものもある。
前記有機溶媒を用いる実施形態においては、有機溶媒の含有量は、歯科用接着性組成物(A)の総量100質量%中、1~85質量%の範囲が好ましく、10~80質量%の範囲がより好ましく、15~75質量%の範囲がさらに好ましい。
【0128】
<フッ素イオン放出性物質>
歯科用接着性組成物(A)、及び歯科用組成物(B)は、さらにフッ素イオン放出性物質を含有してもよい。フッ素イオン放出性物質を含有することによって、歯質に耐酸性を付与することができる歯科用接着性組成物(A)、及び歯科用組成物(B)が得られる。
フッ素イオン放出性物質としては、例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体などのフッ素イオン放出性ポリマー;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物類などが挙げられる。
上記フッ素イオン放出性物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
また、歯科用接着性組成物(A)及び、歯科用組成物(B)には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を含有することができる。
添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、着色剤(顔料、染料)、紫外線吸収剤、蛍光剤、有機溶媒等の溶媒、増粘剤等が挙げられる。
添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ある実施形態では、歯科用組成物(B)における溶媒(例えば、水、有機溶媒)の含有量が歯科用組成物(B)の総量100質量%中、1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
【0130】
本発明の歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)は保存安定性、及び硬化性の調整の観点から、重合禁止剤を含むことが好ましい。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
重合禁止剤の含有量は、歯科用接着性組成物(A)、歯科用組成物(B)の単量体の総量100質量部に対して、0.001~1.0質量部が好ましい。
【0131】
歯科用接着性組成物(A)、及び歯科用組成物(B)の製造方法は、当業者に公知の方法により、容易に製造することができる。
【0132】
本発明の歯科用組成物(B)は、動揺歯固定材、小窩裂溝填塞材、ボンディング材(例えば、矯正用ボンディング材等)、歯科用仮着材等として好適に使用でき、動揺の大きい歯に対しても一部のみが剥離する程度に留めることができ、硬化物の脱落を効果的に抑制することができる点から、動揺歯固定材として特に好適に使用できる。
【0133】
本発明の歯科用組成物(B)は、特に限定されず、1剤型、2剤型のいずれの剤型としてもよい。
【0134】
本発明の歯科用接着性組成物キットにおいて、歯科用組成物(B)と、歯科用接着性組成物(A)に加えて、歯科用エッチング材、歯科用プライマーなどとを組み合わせてもよい。歯質との接着強さの観点から歯科用エッチング材と組み合わせることが好ましい。
また、本発明の歯科用接着性組成物キットにおいて、歯科用接着性組成物(A)として歯科用プライマーを使用して、歯科用組成物(B)と組み合わせてもよい。
ある好適な実施形態としては、歯科用接着性組成物(A)が歯科用ボンディング材である、歯科用接着性組成物キットが挙げられる。歯科用ボンディング材である場合、歯科用接着性組成物(A)が酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)(例えば、芳香族化合物系の二官能性疎水性単量体)を含有してもよい。
他のある好適な実施形態としては、歯科用接着性組成物(A)が歯科用プライマーである、歯科用接着性組成物キットが挙げられる。
【0135】
歯科用接着性組成物キットとしては、動揺の大きい歯に対しても一部のみが剥離する程度に留めることができ、硬化物の脱落を効果的に抑制することができる点から、動揺歯固定材用のキットとして特に好適に使用できる。
【0136】
<具体的な適用方法、手順>
歯科用接着性組成物キットの適用方法について、本発明の歯科用接着性組成物キットと、歯科用エッチング材とを組み合わせた実施形態を例に挙げて以下に説明する。
歯科用組成物(B)を適用する歯質表面に歯科用エッチング材を適用する。適用後水洗し、歯質表面を乾燥させる。次いで、歯科用接着性組成物(A)を適用する。エアブローで水、溶媒を揮発させた後、歯科用接着性組成物(A)が光重合開始剤を含む場合は歯科用光照射器で光照射を行い、硬化させる。歯科用組成物(B)を充填し、表面を整えた後に、光重合開始剤を配合した歯科用組成物(B)の場合は、歯科用光照射器で光照射を行い、硬化させる。場合によっては表面の形態修正、及び研磨を行う。
本発明の歯科用組成物(B)及び歯科用組成物(B)を含む歯科用接着性組成物キットを動揺の大きい歯の動揺歯固定に用いる場合、歯科用組成物(B)を歯と歯の間に直接塗布することができるペースト性状であり、歯科用組成物(B)及び歯科用組成物(B)を含む歯科用接着性組成物キットは、操作性にも優れる。
【実施例0137】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、例中の部は、特記しない限り質量部である。
【0138】
次に、実施例及び比較例の歯科用接着性組成物(A)、及び歯科用組成物(B)の成分を略号とともに以下に記す。
【0139】
[酸性基を有する単量体(a)]
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0140】
[酸性基を有しない単量体(b)]
D-2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
UDMA:[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
DD:1,10-デカンジオールジメタクリレート
DEAA:N,N-ジエチルアクリルアミド
MAEA:N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
POB-MA:フェノキシベンジルメタクリレート
DMAEMA:2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート
#801:1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン
UN-7700:ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製、重量平均分子量(Mw):15,000~25,000、ガラス転移温度(Tg):-41℃、ポリエステル骨格、重合性基の数:2、アクリル基1つ当たりの重量平均分子量:7,500~12,500)
UN-7600:ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製、重量平均分子量(Mw):11,500、ガラス転移温度(Tg):-42℃及び44.6℃、重合性基の数:2、アクリル基1つ当たりの重量平均分子量:5,750)
なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0141】
アクリル系ブロック共重合体の製造
アクリル系ブロック共重合体は、特開2012-046468号公報の方法に従って製造した。
(1)1リットルの三口フラスコに三方コックを付け内部を脱気し、窒素で置換した後、室温にてトルエン390g、N,N’,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン1.4ml、及びイソブチルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェキシ)アルミニウム11mmolを含有するトルエン溶液18mlを加え、さらに、sec-ブチルリチウム2.2mmolを含有するシクロヘキサンとn-ヘキサンの混合溶液1.7mlを加えた。これにメタクリル酸メチル35mlを加え、室温で1時間反応させた。この時点で反応液1gを採取してサンプリング試料1とした。引き続き、重合液の内部温度を-15℃に冷却し、アクリル酸n-ブチル75mlを5時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応液1gを採取してサンプリング試料2とした。続いてメタクリル酸メチル35mlを加えて反応液を室温に昇温して、約10時間撹拌した。この反応液にメタノール1gを添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールと水の混合溶液(メタノール90質量%)に注ぎ、析出した白色沈殿物を回収してサンプリング試料3とした。
【0142】
(2)上記(1)の採取又は回収したサンプリング試料1~3について、上記した方法でGPC測定、1H-NMR測定を行って、その結果に基づいて、各重合段階で得られた重合体及びブロック共重合体のMw、Mw/Mn、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸-n-ブチル重合体(PnBA)ブロックの質量比を求めたところ、上記の(1)で最終的に得られた白色沈殿物は、PMMA-PnBA-PMMAからなるトリブロック共重合体であり、その全体のMwは85,000、Mw/Mnは1.03、各重合体ブロックの割合はPMMA(25質量%)-PnBA(50質量%)-PMMA(25質量%)であること(PMMAの合計50質量%)が判明した。
また、試料1は、PMMAであって、そのMwは18,000、Mw/Mnは1.05であり;試料2はPMMA-PnBAのジブロック共重合体であって、そのMwは67,000,Mw/Mnは1.14であった。
【0143】
[光重合開始剤(c-1)]
CQ:カンファーキノン
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
Li-TPO:フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム
[化学重合開始剤(c-2)]
THP:1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロペルオキシド
【0144】
[フィラー(d)]
無機フィラー1:シラン処理シリカ
Ar130(日本アエロジル株式会社製、親水性ヒュームドシリカ、超微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)130」、平均粒子径:16nm、屈折率:1.46)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン30g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温超音波分散下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、90℃で3時間加熱処理を行い、無機フィラー1を得た。
無機フィラー2:シラン処理珪石粉(石英)
珪石粉(株式会社ニッチツ製、商品名:ハイシリカ、屈折率:1.55)を乾式ボールミル(Φ10mmアルミナボール)で粉砕し、粉砕珪石粉を得た。得られた粉砕珪石粉の平均粒子径をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて体積基準で測定したところ、2.2μmであった。この粉砕珪石粉100g、常法により4質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン4g、及び酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温超音波分散下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、90℃で3時間加熱処理を行い、無機フィラー2を得た。
R972:日本アエロジル株式会社製、疎水性ヒュームドシリカ、超微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)R972」、平均粒子径:16nm(シリカ)、屈折率:1.46
Ar380:日本アエロジル株式会社製、超微粒子シリカ「アエロジル380」、平均粒子径:7nm
【0145】
[重合促進剤(e)]
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
DEPT:N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
DMETU:4,4-ジメチル-2-イミダゾリジンチオン
VOAA:バナジルアセチルアセトナート(IV)
【0146】
[その他]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(重合禁止剤)
【0147】
〔実施例1~9及び比較例1~5〕
[歯科用接着性組成物(A)、及び歯科用組成物(B)の調製]
表1に示す各成分を、常温(23℃)下において混合し、液状の歯科用接着性組成物(A)を作製した。
表2に示す歯科用接着性組成物(A)以外の各成分を常温(23℃)暗所で混合、及び混練して均一にしたものを真空脱泡することにより、ペースト状の歯科用組成物(B)を調製した。
実施例8については、歯科用組成物(B)として、試験の直前に別途準備した練和紙上で表2中のAのペーストとBのペーストを10秒以上練和して得られたペーストを使用した。
【0148】
試験例1 せん断接着強さ(リン酸エッチング処理後のエナメル質)
ISO29022:2013に準拠して試験を実施した。具体的には以下の通りである。
牛歯唇面を流水下にて#80のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、エナメル質の平坦面を露出させたサンプルを得た。
まず、エナメル質の平坦面を露出させたサンプルを用いて、以下の方法でエナメル質に対するせん断接着強さを測定した。
別途用意した15穴を有するモールド(15-hole mold、ウルトラデント社製、φ35mm×高さ25mm)の底面にテープを貼り、その上に前記サンプルの牛歯を固定した。
次いで、歯科印象トレー用レジン(商品名「トレーレジンII」、株式会社松風製)を前記モールド内に充填し、約30分静置し、該歯科印象トレー用レジンを硬化させて、牛歯とレジン硬化物の複合物を得た。前記モールドから、該複合物をサンプルとして取り出した。
前記複合物は、牛歯がレジン硬化物の上部表面に出ている状態のものとした。該サンプルの上部表面を流水下にて#600のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で被着面が確保できる大きさ(φ2.38mm以上)まで研磨し、被着面を超音波で5分間水洗した。
【0149】
続いて、リン酸エッチング材(商品名「Kエッチャントシリンジ」、クラレノリタケデンタル株式会社製)(別途用意したφ2.38mmのCR充填用モールド(Bonding Mold Insert、ウルトラデントジャパン株式会社製))を被着面であるエナメル質に塗布し、10秒間放置した。その後水洗し、エナメル質表面を乾燥した。
次いで、歯科用接着性組成物(A)を適用した実施例及び比較例(実施例1~8及び比較例2~5)については、リン酸エッチング材を適用した部分に歯科用接着性組成物(A)を塗布し、10秒間放置した後、マイルドなエアを5秒以上ブローすることで溶媒を揮発させた。
実施例9及び比較例1では、リン酸エッチング材を適用した部分に歯科用接着性組成物(A)を塗布しない以外は、実施例1と同様にした。
【0150】
揮発後、歯科用LED光照射器(商品名「VALO」、ウルトラデントジャパン株式会社製)にて10秒間光照射することにより、歯科用接着性組成物(A)硬化させた。
次に、専用器具(Bonding Clamp、ウルトラデントジャパン株式会社製)を取り付け、前記専用器具に取り付けられたCR充填用モールドが、前記サンプルの被着面と密着するように、CR充填用モールドを下げて、該サンプルを固定した。
次に、作製した歯科用組成物(B)を前記CR充填用モールドが有する穴に厚さが1mm以内となるように薄く充填した。その後再度、前記CR充填用モールド内に歯科用組成物(B)を充填し(モールドの2/3ぐらいまで、2mm厚程度)、10秒間放置した後、歯科用LED光照射器(商品名「VALO」、ウルトラデントジャパン株式会社製)にて10秒間光照射することにより、歯科用組成物(B)を硬化させて硬化物を得た。
前記CR充填用モールドから硬化物を外し、接着試験供試サンプルとした。該接着試験供試サンプルを10個作製した。
【0151】
得られた硬化物を、硬化後直ちに蒸留水で満たした容器内に静置した。
5つの接着試験供試サンプルを容器内で蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に該容器を15分間放置し、蒸留水から取り出し後直ちにエナメル質に対するせん断接着強さを測定した。測定結果の平均値を表2では「硬化直後」として示す。
残りの接着試験供試サンプルを容器内で蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に該容器を24時間放置し、蒸留水から取り出し後直ちにエナメル質に対するせん断接着強さを測定した。結果の平均値を測定結果の平均値を表2では「37℃24時間後」として示す。
接着強さ(せん断接着強さ)の測定は、接着試験供試サンプルを専用ホルダー(Test Base Clamp、ウルトラデントジャパン株式会社製)に取り付け、専用冶具(Crosshead Assembly、ウルトラデントジャパン株式会社製)と万能試験機(株式会社島津製作所製)を用い、クロスヘッドスピードを1mm/分に設定して測定し、平均値を表に示した(n=5)。
測定の際に最大応力時点の変位と、最大応力到達後に応力が50%になった時点の変位から50%応力緩和距離を算出した。
【0152】
歯質に対する接着性等の観点から、エナメル質に対するせん断接着強さは、高いほど好ましく、直後では10MPa以上が好ましく、12Pa以上がより好ましく、15MPa以上がさらに好ましい。37℃24時間後では、エナメル質に対するせん断接着強さは、18MPa以上が好ましく、20MPa以上がより好ましく、23MPa以上がさらに好ましい。
50%応力緩和距離は動揺歯固定の観点から高いほど好ましく、「硬化直後」、及び「37℃24時間後」いずれも0.008mm以上が好ましく、0.010mm以上がより好ましく、0.040mm以上がさらに好ましい。
【0153】
試験例2 曲げ物性(曲げ強さ、曲げ変位)
ISO 4049:2019に準拠して曲げ試験により曲げ強さ及び曲げ変位を評価した。具体的には以下の通りである。
作製した歯科用組成物(B)をSUS製の金型(縦2mm×横25mm×厚さ2mm)に充填し、ペーストの上下(2mm×25mmの面)をスライドガラスで圧接した。次いで、圧接した状態でスライドガラス越しに歯科用可視光照射器(商品名「ペンキュアー2000」、株式会社モリタ製)を用いて、標準モードで10秒間ずつ片面につき5箇所に分けてペーストの上下から裏表に光照射(片面について合計50秒光照射)してペーストを硬化させて硬化物を得た。硬化物は各実施例及び比較例について10個作製した。
内5個は容器内で蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に15分間放置した後、万能試験機(オートグラフAG-I 100kN、株式会社島津製作所製)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minで3点曲げ強さ及び曲げ弾性率を測定し(n=5)、平均値を算出した。測定結果の平均値を表2では「硬化直後」として示す。
残り5個は容器内で蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に24時間放置した後、万能試験機(オートグラフAG-I 100kN、株式会社島津製作所製)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minで3点曲げ強さ及び曲げ変位を測定し(n=5)、平均値を算出した。測定結果の平均値を2表では「37℃24時間後」として示す。
なお、曲げ変位は試験片に応力がかかり始めた時点から試験片が破断するまでの変位であり、大きいほど柔軟性のある材料となる。
【0154】
曲げ強さ(硬化直後)は硬化物の機械的強度の観点から、20MPa以上が好ましく、30MPa以上がより好ましく、40MPa以上がさらに好ましい。
曲げ強さ(37℃24時間後)も同様に機械的強度の観点から、10MPa以上が好ましく、20MPa以上がより好ましく、30MPa以上がさらに好ましい。
曲げ変位は、「硬化直後」及び「37℃24時間後」のいずれにおいても、動揺歯固定の観点から、3.0mm以上が好ましく、3.5mm以上がより好ましく、4.0mm以上がさらに好ましい。
【0155】
【0156】
【0157】
表2の結果より、実施例の歯科用組成物は、硬化直後のせん断接着強さが10MPa以上であり、50%応力緩和距離が0.008mm以上であり、曲げ強さが26MPa以上であり、曲げ変位が3.1mm以上であった。
また、実施例の歯科用組成物は、37℃24時間後のせん断接着強さが12MPa以上であり、50%応力緩和距離が0.008mm以上であり、曲げ強さが15MPa以上であり、曲げ変位が3.2mm以上であった。
このように、本発明の歯科用組成物は、50%応力緩和距離の値が高いことにより、最大応力に到達した段階で硬化物のすべてが剥離することなく、一部が剥離する程度に留まるため、硬化物の脱落を効果的に抑制することができる。
また、本発明の歯科用組成物は、曲げ変位が高いことにより、硬化物は柔軟性を備えることができ力がかかった際にも変形することで力を緩和することができ、硬化物の脱落をより効果的に抑制できる。
【0158】
一方、比較例の中で、比較例1~3、5ではいずれも50%応力緩和距離が0.007mm以下と小さく、曲げ変位が2.4mm以下と小さい結果であった。比較例4では曲げ変位が1.2mm以下と小さい結果であった。
比較例1、比較例4についてはフィラー量が多いことによって硬化物が脆い点が影響していると推測される。比較例2(特許文献2に相当する)、比較例3及び比較例5は(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が2,000以上20,000未満である(メタ)アクリル化合物(b-1)を含まなかったことにより、適切な架橋密度を形成できなかったと推測される。