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特開2025-95303ゲンジボタルの検出キット、検出方法及びゲンジボタルの生息調査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095303
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】ゲンジボタルの検出キット、検出方法及びゲンジボタルの生息調査方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20250619BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20250619BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20250619BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20250619BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12N15/12
C12N15/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211223
(22)【出願日】2023-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 縁
(72)【発明者】
【氏名】寺井 学
(72)【発明者】
【氏名】洲▲崎▼ 雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼森 万貴
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS24
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】日本国内の特定の地域に生息するゲンジボタルを包括的に検出できる検出キット、検出方法及びゲンジボタルの生息調査方法を提供する。
【解決手段】特定の配列からなる塩基配列を含む第1のプライマーと、別の特定の配列からなる塩基配列を含む第2のプライマーと、からなる、ゲンジボタルに由来する核酸を増幅するためのプライマーセットを含むことを特徴とする、ゲンジボタルの検出キットを提供する。また、当該検出キットを用いて行うゲンジボタルの検出方法、及び当該検出方法を用いるゲンジボタルの生息調査方法も提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の塩基配列を含む第1のプライマーと、配列番号2の塩基配列を含む第2のプライマーと、からなる、ゲンジボタルに由来する核酸を増幅するためのプライマーセットを含むことを特徴とする、ゲンジボタルの検出キット。
【請求項2】
前記ゲンジボタルが、東北・関東地方に生息するゲンジボタルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の検出キット。
【請求項3】
請求項1に記載の検出キットを用いて、環境試料から抽出された核酸を鋳型とする核酸増幅反応を行う核酸増幅工程と、
前記核酸増幅反応による増幅産物を解析する解析工程と、を含むことを特徴とする、ゲンジボタルの検出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の検出方法を用いることを特徴とする、ゲンジボタルの生息調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲンジボタルの検出キット、検出方法及びゲンジボタルの生息調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲンジボタル(学名:Luciola cruciata)は、日本国内の各地に生息する水生のホタルの1種である。
【0003】
ゲンジボタルは清浄な水質で生育するため、豊かな環境の指標生物として注目されている。
しかし、そのような豊かな環境を備える地域において、道路の建設や最終処分場の開発等が行われると、当該地域における生物の生息環境を脅かすおそれがある。ゲンジボタルが生育可能な環境を保全することは、地域住民の憩いの場になること及び周辺環境の多様な生物への生息環境の創出に繋がるため、そのような環境の保全が求められている。
【0004】
ホタルの生息調査方法としては、飛翔ホタルの夜間発光の観察が一般的で、時期、時間ともに限定的という課題がある。
また、ホタルは幼虫として水の中で過ごす期間が長いことから、幼虫調査の実施も考えられる。しかし、その調査は専門家による採捕調査が必要なため、全容把握には時間と労力がかかる。
【0005】
そこで、ホタルが生息していると予測される地域の環境試料(土壌、水等)を採取し、採取した試料から抽出された核酸を鋳型として、核酸増幅反応(PCR)を行い、その増幅産物を解析することで、当該地域に特定の種類のホタルが生息しているかどうかを、簡便かつ効率的に調査を行う方法が研究されている。
【0006】
そのようなホタルの検出方法として、例えば、特許文献1には、ミトコンドリアDNA中のシトクロームオキシダーゼサブユニットI(CO1)配列の所定領域を特異的に増幅することができる、第1のプライマーと第2のプライマーと、からなる、ゲンジボタルに由来する核酸を増幅するためのプライマーセット及び、プライマーセットを用いて、任意の試料から抽出された核酸を鋳型とする核酸増幅反応を行う核酸増幅工程と、核酸増幅反応による増幅産物を解析する解析工程とを含む、ゲンジボタルの検出方法が開示されている。
【0007】
また、非特許文献1では、国内62地点(494個体)のゲンジボタルのミトコンドリアDNAのCOII領域をPCR増幅し、その増幅産物を6種類の制限酵素で消化した後、電気泳動によって切断パターンを比較した結果、得られた泳動パターンから19のハプロタイプ遺伝子型が検出され、そのハプロタイプの種類と頻度から、東北、関東、中部、西日本、北九州、南九州の6つのグループに区分でき、かつ、6つのグループは、東北・関東、中部・西日本、北九州・南九州の3クレードに分けられた旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-195346号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Suzuki, H., Y. Sato and N.Ohba. (2002) “Gene Diversity and Geographic Differentiation in Mitochondrial DNA of the Genji Firefly, Luciola cruciata (Coleoptera: Lampyridae)” Mol. Phylogenet. Evol., 22, 193-205.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に示すように、日本国内に生息するゲンジボタルは細かくは19、大きくは3つのグループのハプロタイプに分けられることから、特許文献1に記載されたような、特定の箇所から採取されたゲンジボタルのみに対応したプライマーセットでは、日本各地に生息するゲンジボタルの検出及び生息調査を包括的に行うことが困難であった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、環境試料から、日本国内の特定の地域に生息するゲンジボタルを包括的に検出できる検出キット、検出方法及びゲンジボタルの生息調査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は鋭意検討を行い、核酸増幅反応において、ゲンジボタルのミトコンドリアDNAにおける所定領域を増幅するプライマーセットを含む検出キットを用いることで、環境試料から、特定の地域に生息するゲンジボタルを包括的に検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0013】
(1)本発明の第1の態様は、配列番号1の塩基配列を含む第1のプライマーと、配列番号2の塩基配列を含む第2のプライマーと、からなる、ゲンジボタルに由来する核酸を増幅するためのプライマーセットを含むことを特徴とする、ゲンジボタルの検出キットである。
【0014】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の検出キットであって、前記ゲンジボタルが、東北・関東地方に生息するゲンジボタルを含むことを特徴とするものである。
【0015】
(3)本発明の第3の態様は、(1)に記載の検出キットを用いて、環境試料から抽出された核酸を鋳型とする核酸増幅反応を行う核酸増幅工程と、前記核酸増幅反応による増幅産物を解析する解析工程と、を含むことを特徴とする、ゲンジボタルの検出方法である。
【0016】
(4)本発明の第4の態様は、(3)に記載の検出方法を用いることを特徴とする、ゲンジボタルの生息調査方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、日本国内の特定の地域に生息するゲンジボタルを包括的に検出できる検出キット、検出方法及びゲンジボタルの生息調査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の検出キットを用いた核酸増幅反応の定量結果を示すグラフである。
図2】先行技術文献のプライマーセットを用いた核酸増幅反応の定量波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0020】
<ゲンジボタルの検出キット>
本実施形態に係るゲンジボタルの検出キットは、ゲンジボタル(学名:Luciola cruciata)に由来する核酸を増幅するためのプライマーセットを含む検出キットである。
非特許文献1には、日本国内に生息するゲンジボタルは細かくは19、大きくは3つのグループのハプロタイプに分けられる旨が記載されているが、本発明のゲンジボタルの検出キットは、主に東北・関東地方に生息するゲンジボタルを検出するのに好適に用いることができる。
【0021】
なお、ゲンジボタルの検出キットには、本発明のプライマーセットとともに、DNA抽出用試薬、核酸増幅反応(PCR等)用試薬、核酸増幅反応産物の検出用試薬等が含まれていてもよい。
以下、プライマーセットについて詳細に説明する。
【0022】
(プライマーセット)
本発明のプライマーセットは、ゲンジボタル(学名:Luciola cruciata)に由来する核酸を増幅するためのプライマーセットであり、以下の2つのプライマーからなる。
(1)配列番号1の塩基配列(5’- CGGGCTTACTTCACCTAGC -3’)を含む第1のプライマー
(2)配列番号2の塩基配列(5’- TGCAAATACTGCYCCTATTGA -3’)を含む第2のプライマー
【0023】
本発明のプライマーセットは、核酸増幅反応において用いられ、ゲンジボタルのミトコンドリアDNA中、シトクロームオキシダーゼサブユニットI(CO1)配列の所定領域を特異的に増幅することができる。本発明のプライマーセットを用いた核酸増幅反応で得られる増幅産物の塩基配列長は、通常、約261bpである。ただし、核酸増幅反応時に生じる非特異的な塩基の侵入(insertion)や欠失(deletion)等により、この値は前後する場合がある。
【0024】
本発明のプライマーセットを用いて増幅される核酸は、DNAである。
なお、本発明のプライマーセットを構成するプライマーは、オリゴヌクレオチドの合成法として知られる任意の方法によって合成できる。
【0025】
(第1のプライマー)
配列番号1の塩基配列を含む第1のプライマー(以下、単に「第1のプライマー」とも称する。)は、核酸増幅反応におけるフォワードプライマー(センスプライマー)に相当する。第1のプライマーは、配列番号1の塩基配列からなるものであってもよく、配列番号1の塩基配列の5’末端及び/又は3’末端に、計1~30塩基が付加されたものであってもよいが、好ましくは配列番号1の塩基配列からなる。配列番号1の塩基配列に付加される塩基は、ゲンジボタルのCO1の塩基配列や、得られるプライマーのTm予測値等に基づき適宜設計できる。
【0026】
(第2のプライマー)
配列番号2の塩基配列を含む第2のプライマー(以下、単に「第2のプライマー」とも称する。)は、核酸増幅反応におけるリバースプライマー(アンチセンスプライマー)に相当する。第2のプライマーは、配列番号2の塩基配列からなるものであってもよく、配列番号2の塩基配列の5’末端及び/又は3’末端に、計1~30塩基が付加されたものであってもよいが、好ましくは配列番号2の塩基配列からなる。配列番号2の塩基配列に付加される塩基は、ゲンジボタルのCO1の塩基配列や、得られるプライマーのTm予測値等に基づき適宜設計できる。
【0027】
<ゲンジボタルの検出方法>
本発明の検出方法は、本発明のプライマーセットを用いて、環境試料から抽出された核酸を鋳型とする核酸増幅反応を行う核酸増幅工程と、該核酸増幅反応による増幅産物を解析する解析工程と、を含む。
【0028】
(核酸増幅工程)
核酸増幅工程は、環境試料から抽出された核酸を鋳型として、本発明のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行い、ゲンジボタルのCO1の所定領域の増幅産物を得る工程である。鋳型となる核酸は、通常、DNAである。
【0029】
本発明において「環境試料」としては、特に限定されないが、任意の環境(水辺地、飼育槽等)から、任意の方法で採取された試料を用いることができる。このような試料としては、例えば、水、土壌、底泥、排泄物、死骸(成虫、幼虫等)、脱皮ガラ、蛹室、卵等が挙げられる。
【0030】
試料からの核酸の抽出方法としては、特に限定されないが、従来知られた核酸抽出方法を採用できる。例えば、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(例えば、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(質量比)=25:24:1)溶液や、市販のキットを用いて核酸抽出を行ってもよい。また、抽出した核酸は、ろ過等により、適宜濃縮してもよい。
【0031】
核酸増幅反応としては、従来知られた核酸増幅方法を採用でき、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等が挙げられる。
核酸増幅反応においては、本発明のプライマーセット及び鋳型となる核酸とともに、緩衝剤、4種の塩基(dNTP)、酵素(DNAポリメラーゼ等)、プローブ等を用いることができる。
【0032】
核酸増幅反応の条件は、用いる酵素の種類等に応じて適宜設定でき、通常、温度及び時間を適切に設定し、変性、アニーリング、及び伸張からなるサイクルを繰り返して行われる。また、核酸増幅反応によって得られた増幅産物は適宜精製してもよい。
【0033】
(解析工程)
核酸増幅反応によって、ゲンジボタルのCO1の所定領域を特異的に増幅することができる。例えば、ゲンジボタル以外の生物(ヘイケボタル等)に由来する核酸を用いても、核酸増幅反応によって目的の増幅産物(通常は約261bp)は得られない。かかる点を利用し、核酸増幅工程で得られた増幅産物が、ゲンジボタルのCO1の所定領域の増幅産物であるかの解析を行うことで、ゲンジボタルの検出を行うことができる。
【0034】
本発明において「ゲンジボタルを検出する」とは、解析対象である試料を採取した地域にゲンジボタルが存在していたかを判定することを意味する。例えば、解析工程において、目的の増幅産物(通常は約261bp)が得られれば、その試料を採取した地にゲンジボタルが存在していたと判定できる。さらに、解析工程において増幅産物を定量することで、試料を採取した地域におけるゲンジボタルの生息数を推定し得る。
【0035】
増幅産物の解析方法としては、目的とする増幅産物の存否の判定や、増幅産物の配列の特定や、増幅産物中の核酸(DNA等)の定量等ができる任意の方法を採用できる。このような方法としては、電気泳動法、塩基配列のシークエンス解析、定量PCR等が挙げられる。
【0036】
電気泳動法は、増幅産物をアガロースゲル等で電気泳動後、ゲル染色することで、目的の増幅産物(通常は約261bp)の存否を判定する方法である。
また、シークエンス解析は、増幅産物の塩基配列を特定する方法である。シークエンス解析の方法としては、サンガー法や次世代シーケンサーを用いた手法等が挙げられる。このように特定された塩基配列を、塩基配列データベース(例えば、NCBIのBLAST)を用いて照会し、ゲンジボタルの塩基配列との配列同一性が高ければ(例えば、配列同一性が好ましくは95~100%、より好ましくは97~100%)、目的とする増幅産物が得られたことがわかる。
【0037】
定量PCR(リアルタイムPCR等)は、蛍光プローブや、SYBRグリーンを用いて、核酸増幅反応と同時に蛍光強度を測定して増幅産物を定量する方法である。このような方法は、核酸増幅工程と解析工程とが同時に行われる方法に相当する。定量PCRにおいて用いられる好ましい蛍光プローブとしては、Hypercool法(日本遺伝子研究所)によって修飾されたものが挙げられる。
【0038】
定量PCRにおいて、本発明のプライマーセットとともに用いることができる好ましいプローブとして、配列番号3に記載された塩基配列(5’- CCACTATCCACGGARCCAA -3’)を含むものが挙げられる。このプローブには、5’末端側に蛍光物質が付加され、3’末端側にクエンチャーが付加されていてもよい。このような蛍光プローブとして、例えば、「5’- FAM-CCACTATCCACGGARCCAA-BHQ -3’」(「FAM」は、蛍光物質であるフルオレセインを意味し、「BHQ」は、ブラックホールクエンチャーを意味する。)が挙げられる。
【0039】
なお、配列番号3に記載された塩基配列において、8番目のヌクレオチド残基及び17番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNA修飾塩基であることが好ましい。
LNA修飾塩基であることにより、プローブのTm値を高めることができ、それによりDNAへの結合親和性を高めることもできる。
【0040】
<ゲンジボタルの生息調査方法>
また、ゲンジボタルの生息調査方法としては、本発明の検出方法によってゲンジボタルの検出を行うことで、試料を採取した地域のホタルの生息有無や、ホタルが蛹化した場所、ホタルの産卵有無を推定することができる。さらには、試料を採取した地域がホタルの生育に適しているかを評価することもできる。
【0041】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例0042】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(鋳型DNA)
関東地方のゲンジボタルのDNAは、人工合成したものを用いた。また、対照実験として、ゲンジボタルと同じ地域に生息している可能性が高いハネカクシ科の昆虫(学名:Astenus pulchellus)のDNAを人工合成したものを同様に用いた。
【0044】
(プライマーセットの設計)
プライマーセットとして、表1に示す配列に従って設計したフォワードプライマー、リバースプライマー及び(フォワード)プローブを用いた。なお、表1に記載された「Forward probe」において、「FAM」は、蛍光物質であるフルオレセインを、「BHQ」は、ブラックホールクエンチャーをそれぞれ意味する。
【表1】
【0045】
(定量PCR)
上記の抽出DNA及びプライマーセットを用いて、表2に示す反応液組成と、表3に示す反応条件の下で、定量PCRを行った。なお、PCR試薬は環境DNA学会の公式マニュアルに記載されているTaqMan(登録商標) Environmental Master Mix 2.0(ThermoFisher)を用いた。また、LightCycler(登録商標) Uracil-DNA GlycosylaseはRoche社の試薬を用い、表3に示すPCR反応条件は各種試薬の手順書を参照した。
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表4に、ゲンジボタル由来のDNAに対する定量PCRの結果として、各濃度におけるCq値を示す。また、表5にはハネカクシ由来のDNAに対する定量PCRの結果を同様に示す。
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
また、表4における定量結果をグラフ化したものを図1に示す。
【0050】
表4及び図1に示すように、本発明の検出キットに含まれるプライマーセットを用いた定量PCRにより、ゲンジボタル由来のDNAを、良好に増幅することができた。
【0051】
一方で、表5に示すように、ハネカクシ由来のDNAは、通常のPCRにおける濃度では、本発明の検出キットに含まれるプライマーセットを用いた定量PCRにより増幅されなかった。このことから、本発明の検出キットに含まれるプライマーセットを用いた定量PCRにより、ゲンジボタル由来のDNAを特異的に増幅できることがわかった。
【0052】
<先行技術文献のプライマーによる千葉県産ゲンジボタルの検出>
本発明に係るゲンジボタルの検出キットと比較して、先行技術文献(特開2020-195346号公報)に記載されたプライマーセット及び検出キットを用いて、東北・関東地方の中でも、千葉県に生息するゲンジボタルのDNAが検出可能かどうかを検証した。
【0053】
(鋳型DNA)
千葉県産のゲンジボタルのDNAは、過去に解析済みの千葉県産ゲンジホタルのCOI遺伝子配列の一部である、表6に示す389bpの塩基配列(配列番号7)を合成したものを用いた。
また、プライマーセットとして、表6に示す配列に従って設計したフォワードプライマー(配列番号4)、リバースプライマー(配列番号5)及び(フォワード)プローブ(配列番号6)を用いた。
【表6】
【0054】
(定量PCR)
PCR試薬及び反応条件は、先行技術文献に記載された情報を基本とした。なお、キャリーオーバーコンタミネーション防止するため、Uracil-DNA-Glycosylase(UNG)の反応系への添加及び活性化反応を追加した。PCR組成を表7に、PCR反応条件を表8にそれぞれ示した。
【表7】
【0055】
【表8】
【0056】
そして、表9に示すように、各人工合成遺伝子を10倍段階希釈したDNA溶液(6.6×10copies/μL~6.6×10copies/μL)を鋳型とし、それぞれを3反復(n=3)で分析した(表における「copies」は表4における「cp」、「反応」は表4における「reaction」と同じものを意味する)。
【表9】
【0057】
図2に、先行技術文献のプライマーセットを用いた千葉県産のゲンジボタルのDNAに対する定量PCRの結果として、各濃度における蛍光の定量波形を示す。
【0058】
図2に示すように、千葉県産のゲンジボタルにおけるDNA配列では、1.3×10copies/反応液から1.3×10copies/反応液までの間のいずれのサンプルも、定量的な蛍光は得られなかった。これは、配列の解析によるとプローブ配列に1塩基分のミスマッチが生じているためであり、これにより検出することができなかったと考えられる。
【0059】
以上の実施例により、本発明によれば、日本国内の特定の地域に生息するゲンジボタルを包括的に検出できる検出キット、検出方法及びゲンジボタルの生息調査方法を提供できることが確認された。
図1
図2
【配列表】
2025095303000001.xml