(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009533
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】エネルギー貯蔵プラント
(51)【国際特許分類】
H02J 15/00 20060101AFI20250110BHJP
F02C 6/16 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
H02J15/00 E
F02C6/16
H02J15/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112600
(22)【出願日】2023-07-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】523260277
【氏名又は名称】ESREE Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】岩田 貴文
(57)【要約】 (修正有)
【課題】体積の小さい貯蔵タンクを用いて、効率的にエネルギーを貯蔵することの可能なエネルギー貯蔵プラントを提供する。
【解決手段】エネルギー貯蔵プラントは、常温・大気圧において気体、常温・高圧において液体である作動流体の圧縮及び膨張により充電及び放電を行うエネルギー貯蔵プラントであって、低圧側容器1と、圧縮機3と、電動機9と、膨張機6と、発電機10と、高圧側容器5と、第一熱交換器2と、第二熱交換器4と、第一蓄熱槽7と、第二蓄熱槽8と、を備え、圧側容器に貯蔵された作動流体を、第二熱交換器により加温し、第二熱交換器を流通後の作動流体により膨張機を作動させて発電機を駆動し、第一蓄熱槽に蓄熱されていた冷熱によって、膨張機を流通後の作動流体を前記第一熱交換器により冷却して液体の状態又は固体の状態にし、第一熱交換器を流通後の作動流体を低圧側容器に貯蔵する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温・大気圧において気体、常温・高圧において液体である作動流体の圧縮及び膨張により充電及び放電を行うエネルギー貯蔵プラントであって、
前記作動流体を液体の状態又は固体の状態で貯蔵するように構成された低圧側容器と、
前記作動流体を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機を駆動する電動機と、
前記作動流体が膨張することにより作動する膨張機と、
前記膨張機により駆動される発電機と、
前記作動流体を前記低圧側容器よりも高い圧力で貯蔵するように構成された高圧側容器と、
前記低圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記低圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第一熱交換器と、
前記高圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記高圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第二熱交換器と、
前記第一熱交換器と接続されるとともに、当該第一熱交換器において前記作動流体と熱交換する第一熱交換用流体を介して前記作動流体の冷熱を蓄熱する第一蓄熱槽と、
前記第二熱交換器と接続されるとともに、当該第二熱交換器において前記作動流体と熱交換する第二熱交換用流体を介して前記作動流体の熱を蓄熱する第二蓄熱槽と、
を備え、
前記充電を行う充電過程において、
前記低圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第一熱交換器により加温して気体の状態にするとともに、前記作動流体の冷熱を前記第一蓄熱槽に蓄熱し、
前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記圧縮機により圧縮し、
前記圧縮機を流通後の前記作動流体を前記第二熱交換器により冷却するとともに、前記作動流体の熱を前記第二蓄熱槽に蓄熱し、
前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体を前記高圧側容器に貯蔵し、
前記放電を行う放電過程において、
前記第二蓄熱槽に蓄熱されていた熱によって、前記高圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第二熱交換器により加温し、
前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体により前記膨張機を作動させて前記発電機を駆動し、
前記第一蓄熱槽に蓄熱されていた冷熱によって、前記膨張機を流通後の前記作動流体を前記第一熱交換器により冷却して液体の状態又は固体の状態にし、
前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記低圧側容器に貯蔵する、
エネルギー貯蔵プラント。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記低圧側容器は前記高圧側容器よりも高断熱である、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記第一熱交換器及び前記第二熱交換器が向流式である、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記第一熱交換器又は前記第一蓄熱槽と接続する補助冷却器を備える、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記低圧側容器の内部又は周囲に第一補助熱交換器を備えるとともに、当該第一補助熱交換器と連結する第一補助蓄熱槽を備え、
前記第一補助蓄熱槽は、前記第一補助熱交換器において前記低圧側容器と熱交換する第一補助熱交換用流体を介して前記低圧側容器の冷熱を蓄熱する、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記高圧側容器の内部又は周囲に第二補助熱交換器を備えるとともに、当該第二補助熱交換器と連結する第二補助蓄熱槽を備え、
前記第二補助蓄熱槽は、前記第二補助熱交換器において前記高圧側容器と熱交換する第二補助熱交換用流体を介して前記高圧側容器の熱を蓄熱する、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記圧縮機と前記膨張機は同一のものが兼用される、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記作動流体は二酸化炭素である、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項9】
請求項8に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
完全充電時において、前記高圧側容器の内部の圧力が55気圧から80気圧である、エネルギー貯蔵プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や風力発電などの変動性再生可能エネルギーによる発電では、日射状況や風況により、その発電出力が大きく変動する。例えば、太陽光発電は夜には発電できないし、昼間であっても雨天や曇天の場合は発電出力が小さい。風力発電も同様で、風向きや風速の変化により、発電出力が変動する。
【0003】
他方で、電力の周波数を一定の範囲に保ち、電力システムを安定化させるためには、電力が供給される地域内において常に電力の需要と供給が釣り合うようにする必要がある。
【0004】
このような変動性再生可能エネルギーの発電出力を平滑化又は平準化する技術としては、余剰発電電力が生じた際に電気を蓄えておき電力不足時に電気を補う蓄電池が代表的であるが、その他にも、余剰発電電力が生じた際に、その電力を使って空気を圧縮し、空気圧力及び熱としてエネルギーを蓄えておき、必要なときにタービン発電機等で電気に再変換する圧縮空気貯蔵(CAES: Compressed Air Energy Storage)といった技術が知られている。
【0005】
CAESでは、エネルギーを貯蔵する際に、圧縮した空気を貯蔵するための大規模な貯蔵庫となるものが必要である。しかしながら、高圧ガスタンクにおいて、内圧に対する強度を保つことと、大型化することを両立するのは困難である。そのほか、地下空洞の利用が検討されるが、そのような条件を満たす地下空洞を見つけることは困難である。このため、CAESはあまり普及していない。
【0006】
CAESの類似技術として、液化CO2エネルギー貯蔵という技術がある(例えば、特許文献1参照)。これは、作動流体に二酸化炭素を用いたものである。二酸化炭素は、常温でも65気圧程度で液化するため、CAESに比べ、高圧ガスタンクの容積を小さくすることが可能となる。
【0007】
しかし、液化CO2エネルギー貯蔵の場合、作動流体であるCO2を、低圧側でも貯蔵しておかねばならない。つまり、CAESの場合は、放電後に低圧になった空気は大気中に放出してしまい、充電の際には大気圧の空気を外部から取り込むため、低圧側の容器を考える必要はないが、液化CO2エネルギー貯蔵の場合は低圧のCO2のための容器が必要となる。液化CO2エネルギー貯蔵の場合、その低圧側の容器の体積が大きくならざるを得ないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、液化CO2エネルギー貯蔵の低圧側の容器として、雰囲気と圧力の平衡状態にある大気以外の気相の作動流体の貯蔵のための筐体、つまり、伸縮可能なバルーンを用いることとしている。当該文献では、100MWhのエネルギー貯蔵のために、高圧タンクは約1,000m3に対し、バルーンの容積部は約400,000m3もの体積が必要とされている。
【0010】
しかしながら、例えば我が国のように、国土に平地が少なく、風水害が頻繁に起こるような地理的な条件下においては、巨大なドームで二酸化炭素を貯蔵することは現実的ではない。
【0011】
本発明は、作動流体の圧縮及び膨張により充電及び放電を行うエネルギー貯蔵プラントにおいて、体積の小さい貯蔵タンクを用いて、効率的にエネルギーを貯蔵することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、常温・大気圧において気体、常温・高圧において液体である作動流体の圧縮及び膨張により充電及び放電を行うエネルギー貯蔵プラントであって、前記作動流体を液体の状態又は固体の状態で貯蔵するように構成された低圧側容器と、前記作動流体を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機を駆動する電動機と、前記作動流体が膨張することにより作動する膨張機と、前記膨張機により駆動される発電機と、前記作動流体を前記低圧側容器よりも高い圧力で貯蔵するように構成された高圧側容器と、前記低圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記低圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第一熱交換器と、前記高圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記高圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第二熱交換器と、前記第一熱交換器と接続されるとともに、当該第一熱交換器において前記作動流体と熱交換する第一熱交換用流体を介して前記作動流体の冷熱を蓄熱する第一蓄熱槽と、前記第二熱交換器と接続されるとともに、当該第二熱交換器において前記作動流体と熱交換する第二熱交換用流体を介して前記作動流体の熱を蓄熱する第二蓄熱槽と、を備え、前記充電を行う充電過程において、前記低圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第一熱交換器により加温して気体の状態にするとともに、前記作動流体の冷熱を前記第一蓄熱槽に蓄熱し、前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記圧縮機により圧縮し、前記圧縮機を流通後の前記作動流体を前記第二熱交換器により冷却するとともに、前記作動流体の熱を前記第二蓄熱槽に蓄熱し、前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体を前記高圧側容器に貯蔵し、前記放電を行う放電過程において、前記第二蓄熱槽に蓄熱されていた熱によって、前記高圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第二熱交換器により加温し、前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体により前記膨張機を作動させて前記発電機を駆動し、前記第一蓄熱槽に蓄熱されていた冷熱によって、前記膨張機を流通後の前記作動流体を前記第一熱交換器により冷却して液体の状態又は固体の状態にし、前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記低圧側容器に貯蔵する、エネルギー貯蔵プラントが提供される。
【0013】
この構成によれば、放電過程において、気体の状態の前記作動流体を第一熱交換器が冷却して液体の状態又は固体の状態とし、容器に液体の状態又は固体の状態で貯蔵することで、低圧側の容器の体積を小さくすることができる。加えて、充電過程においては、作動流体の圧縮後、第二熱交換器が作動流体を冷却し、液化させることで、高圧側の容器の体積についても小さくすることができる。
【0014】
さらに、充電過程では、第一熱交換器で作動流体より得られた冷熱を第一蓄熱槽が蓄熱し、第二熱交換器で作動流体より得られた熱を第二蓄熱槽が蓄熱し、放電過程では、第二熱交換器において、充電過程で第二蓄熱槽が蓄熱した熱を使用し、第一熱交換器において、充電過程で第一蓄熱槽が蓄熱した冷熱を使用することで、効率的な充放電が可能となる。
【0015】
加えて、第一熱交換用流体及び第二熱交換用流体を介して作動流体の冷熱及び熱を蓄熱することで、熱交換のための媒体と、熱貯蔵のための媒体を分けることができ、例えば、熱交換のための媒体には、融点及び沸点を基準に材料を選ぶとともに、熱貯蔵のための媒体は、熱容量やコストを基準に材料を選ぶことができる。
【0016】
好ましくは、前記低圧側容器は前記高圧側容器よりも高断熱である。
【0017】
これにより、完全放電時に、容器が液体又は固体の状態を長時間維持することが可能となる。
【0018】
好ましくは、前記第一熱交換器及び前記第二熱交換器が向流式である。
【0019】
熱交換器において向流式を採用することで、作動流体の熱交換器の入口での温度及び熱交換用流体の熱交換器の出口での温度の差、並びに、作動流体の熱交換器の出口での温度及び熱交換用流体の熱交換器の入口での温度の差をなるべく近くすることにより、圧縮又は膨張の前後の冷却又は加温において、補助的な温度調整装置をなるべく使用することなく、充電過程又は放電過程を実施することができる。
【0020】
好ましくは、記第一熱交換器又は前記第一蓄熱槽と接続する補助冷却器を備える。
【0021】
これにより、放電過程において、蓄熱槽に十分な冷熱がない場合においても、確実に作動流体を液化又は固体化することができる。
【0022】
好ましくは、前記低圧側容器の内部又は周囲に第一補助熱交換器を備えるとともに、当該第一補助熱交換器と連結する第一補助蓄熱槽を備え、前記第一補助蓄熱槽は、前記第一補助熱交換器において前記低圧側容器と熱交換する第一補助熱交換用流体を介して前記低圧側容器の冷熱を蓄熱する。
【0023】
これにより、充電過程において、容器内の作動流体を早期に気化させることが可能となり、プラント内部の作動流体の流通が容易になる。第一補助蓄熱槽は、第一蓄熱槽と連通する様態も考えられる。
【0024】
好ましくは、前記高圧側容器の内部又は周囲に第二補助熱交換器を備えるとともに、当該第二補助熱交換器と連結する第二補助蓄熱槽を備え、前記第二補助蓄熱槽は、前記第二補助熱交換器において前記高圧側容器と熱交換する第二補助熱交換用流体を介して前記高圧側容器の熱を蓄熱する。
【0025】
これにより、放電過程において、高圧側容器内の作動流体を早期に気化させることが可能となり、プラント内部の作動流体の流通が容易になる。第二補助蓄熱槽は、第二蓄熱槽と連通する様態も考えられる。
【0026】
好ましくは、前記圧縮機と前記膨張機は同一のものが兼用される。
【0027】
これにより、圧縮機と膨張機をそれぞれ設ける構成と比較してコスト効率的となり、省スペース化することも可能となる。
【0028】
好ましくは、前記作動流体は二酸化炭素である。
【0029】
これにより、簡単に入手可能な作動流体により、圧縮空気貯蔵と比べて高圧ガスタンクの容積を小さくすることが可能となる。
【0030】
好ましくは、完全充電時において、前記高圧側容器の内部の圧力が55気圧から80気圧である。
【0031】
これにより、高圧側容器において使用する材料をなるべく少なくすることができ、コスト効率的である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、低圧側容器においても作動流体を液体の状態又は固体の状態で貯蔵するように構成されていることから、体積の小さい貯蔵タンクを用いて、効率的にエネルギーを貯蔵するエネルギー貯蔵プラントを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエネルギー貯蔵プラントの概略構成図である。
【
図2】
図1のエネルギー貯蔵プラントの充電過程及び放電過程におけるT-s図である。
【
図3】
図1のエネルギー貯蔵プラントの充電過程及び放電過程におけるP-V図である。
【
図4】20℃における二酸化炭素の圧力と、圧力と体積の積との関係を示すグラフである。
【
図5】30℃における二酸化炭素の圧力と、圧力と体積の積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。なお、
図1の図面は本発明を説明するための単なる説明図であるため、装置構成は模式的あるいは概念的に示されている。
【0035】
1.エネルギー貯蔵プラントの構成
本発明の一実施形態に係るエネルギー貯蔵プラントは、
図1に示すように、低圧側容器1と、第一熱交換器2と、圧縮機3と、第二熱交換器4と、高圧側容器5と、膨張機6とを備える。また、エネルギー貯蔵プラントは、第一蓄熱槽7と、第二蓄熱槽8と、電動機9と、発電機10とを備える。さらに、エネルギー貯蔵プラントは、補助冷却器11と、第一補助熱交換器12と、第一補助蓄熱槽13と、第二補助熱交換器14と、第二補助蓄熱槽15とを備えている。
【0036】
本実施形態のエネルギー貯蔵プラントは、作動流体の圧縮及び膨張により充電及び放電を行うものである。充電を行う充電過程では作動流体を圧縮し、放電を行う放電過程では、作動流体を膨張させることで発電する。本実施形態において、作動流体は二酸化炭素である。
【0037】
図1にあるとおり、作動流体が流通する低圧側容器1、第一熱交換器2、圧縮機3又は膨張機6、第二熱交換器4及び高圧側容器5は、耐圧パイプで連通する。
【0038】
電動機9と発電機10については、電動機・発電機両用のものを用いて同一の機器としても構わない。
【0039】
圧縮機3及び膨張機6は、ターボ式を用いることが望ましい。ただし、充電電力の変動が大きい場合には、圧縮機の一部にスクリュー式を採用することが望ましい。また、圧縮機3及び膨張機6は、多段式を用いることが望ましい。加えて、圧縮機3と膨張機6についても、圧縮機・膨張機両用のものを用いて同一の機器としても構わない。
【0040】
第一熱交換器2及び第二熱交換器4は、プレート式又はシェルアンドチューブ式であることが望ましく、向流式で熱交換を行うことが望ましい。
【0041】
第一熱交換器2において用いられる第一熱交換用流体及び第一補助熱交換器12において用いられる第一補助熱交換用流体は、おおむね、最低温度マイナス50℃程度、最高温度30℃程度の範囲において、液体の状態を保つ流体を用いることが好ましい。この流体には、例えば、グリセリンとエタノールの混合液を用いることが考えられる。
【0042】
第二熱交換器4において用いられる第二熱交換用流体は、おおむね、最低温度0℃程度、最高温度210℃程度の範囲において、液体の状態を保つ流体を用いることが好ましい。この流体には、例えば、合成油のほか、水に圧力を加えて沸点を上昇させた加圧水を用いることも考えられる。
【0043】
第二補助熱交換器14において用いられる第二補助熱交換用流体の最高温度は、第二熱交換用流体よりも低くてよい。このため、第二補助熱交換用流体には、例えば水を用いることが考えられる。
【0044】
第一蓄熱槽7、第二蓄熱槽8、第一補助蓄熱槽13及び第二補助蓄熱槽15に用いる蓄熱材は、安価な固体材料、例えば、砂、土、灰、砂利などであってよい。この蓄熱材の周囲を、例えば、グラスウールで覆うことにより、断熱を行うことが望ましい。
【0045】
低圧側の容器である低圧側容器1は、作動流体を低温の液体の状態(又は個体の状態)で貯蔵する。低圧側容器1内の圧力は、充電過程においても放電過程においても、約7気圧に概ね一定にたれる。
【0046】
充電過程においては、充電が進むにつれて、低圧側容器1内の液体の割合が減少し、気体の割合が増加し、満充電時にはすべて気体となる。放電過程においては、放電が進むにつれて、低圧側容器1内の液体の割合が増加し、満放電時には、すべて液体となる。
【0047】
充電過程及び放電過程において、低圧側容器1の内圧が7気圧から乖離した場合には、熱交換の速度の調整により、内圧の調整を行う。特に、放電過程において、第一熱交換器2及び第一補助熱交換器12による作動流体の冷却が不十分である場合は、補助冷却器11を用いて作動流体を冷却する。低圧側容器1内の圧力を約7気圧に保つことで、液体である温度帯(概ねマイナス56℃からマイナス49℃の間の約7℃)を確保することができる。これは、低圧側容器1内の圧力が約5気圧を下回ると、液体を経ず気体と固体の間で状態変化してしまうため、流通が難しくなり、また、圧力が高すぎると、高圧側との圧力差が小さくなり、蓄電量が減少してしまうためである。
【0048】
低圧側容器(1)内の温度は、最低温度マイナス50℃程度、最高温度30℃程度の範囲において変動する。
【0049】
低圧側容器(1)の形状は、円筒形が想定される。低圧側容器(1)は、攪拌のため、地面に対して横置き(円筒の円の中心を通る軸が地面に対して平行の向き)に設置し、円筒の円の中心軸を中心に回転することが可能であることが望ましい。
低圧側容器(1)の断熱は、外槽に真空断熱材を用いたり、容器の周囲をグラスウール等によって覆ったりすることによって行われる。なお、低圧側容器(1)は、少なくとも高圧側容器(5)よりも高断熱となるよう構成される。
【0050】
第一補助熱交換器(12)は、ジャケットタンク方式を採用し、低圧側容器(1)の内槽と断熱層の間にジャケット部を設けるか、投げ込み式を採用し、低圧側容器(1)の内部に伝熱管を設置することが好ましい。
【0051】
高圧側容器(5)は、作動流体を高温高圧の液体の状態で貯蔵する。高圧側容器(5)内の圧力は、低圧側容器(1)の圧力から最大70気圧程度の範囲で変動する。充電過程においては、充電が進むにつれて、高圧側容器(5)内の圧力が増加する。高圧側容器(5)内の圧力が、一定の値を超えたところで、気液混合となり、満充電時にはすべて液体となる。放電過程においては、放電が進むにつれて、高圧側容器(5)内の圧力が減少し、液体の割合が減少し、満放電時には、低圧側容器(1)の圧力と同等の圧力の気体となる。
【0052】
高圧側容器5内の温度は、概ね約29℃で一定に保たれる。充電過程及び放電過程において、高圧側容器5内の温度が約29℃から乖離した場合には、熱交換の速度の調整により、温度の調整を行う。高圧側容器5内の温度を約29℃に保つことで、充電過程では高圧側容器5内の圧力が約70気圧になったところで液化し、放電過程では減圧すればすぐに気化する。
【0053】
高圧側容器5の形状は、円筒形が想定される。高圧側容器5の材料は、アルミニウム合金、鉄鋼材料、炭素繊維などが想定される。高圧側容器5に大型のものを用いる場合には、アルミニウム合金や鉄鋼材料であると、重量による制限により運搬が困難となる場合があるため、比強度(強度/比重)の高い炭素繊維製が望ましい。
【0054】
第二補助熱交換器14は、ジャケットタンク方式を採用し、高圧側容器5の周囲を覆うような形状とするのが好ましい。高圧側容器5の内部は高圧となるため、熱交換のために、高圧側容器5の構造に変更を加えないためである。しかし、ジャケットタンク方式は熱交換の効率が高くないため、高圧側容器5はなるべく細長い構造とし、熱交換可能な面積を大きくすることが望ましい。
【0055】
2.エネルギー貯蔵プラントの充電動作及び放電動作
図2は、低圧側の圧力が約7気圧、高圧側の最高圧力が約70気圧である一様態におけるT-s図を示している。ここで示すように、充電過程においては、作動流体がまず液体から気体に変化(A→B)し、さらに気体の状態で加温され(B→C)、圧縮され(C→D)、気体の状態で冷却され(D→E)、さらに冷却されて気体から液体に変化する(E→F)。各状態における目安温度及び目安圧力は
図2に記載のとおりである。放電過程においては、逆方向に同様の過程を進むことになる。
【0056】
図3は、前記様態におけるP-V図を示している。各状態における目安温度及び目安体積は
図3に記載のとおりである。
【0057】
前記様態において、低圧側容器1の容積約55m3、高圧側容器5の容積約100m3を設置し、二酸化炭素約62トンを作動流体として用いた場合の蓄電量は、約3MWhである。この場合に、満充電時において、第一蓄熱槽7及び第一補助蓄熱槽13で貯蔵する冷熱の熱量は約25GJであり、第二蓄熱槽8及び第二補助蓄熱槽15で貯蔵する熱の熱量は約22GJである。満充電時において、第一蓄熱槽7及び第一補助蓄熱槽13の最低温度はマイナス49℃程度であり、第二蓄熱槽8及び第二補助蓄熱槽15の最高温度は210℃程度である。
【0058】
以上のように、本発明によれば、コスト効率的に液化CO2エネルギー貯蔵プラントを実現できる。液化CO2エネルギー貯蔵プラントのコスト上、高圧側容器5のコストが重要であり、そのコストは、完全充電時における高圧側容器5の内圧及び容積に依存する。高圧側容器が円筒状であるとした場合、高圧側容器に必要な材料の質量は、概ね、内圧に比例し、かつ、体積に比例する。このため、完全充電時における内圧及び容積の積がなるべく小さくなるようなサイクルの検討が必要である。
図4及び
図5はそれぞれ、20℃及び30℃における二酸化炭素の圧力と、圧力と体積の積との関係を示すグラフである。このように、常温液化貯蔵する場合のコスト効率的な貯蔵圧力は、55気圧からせいぜい80気圧程度と考えられる。これは、臨界圧力付近又はそれよりも低い水準である。
【0059】
3.変形例
なお、本発明は、以下の態様でも実施可能である。
【0060】
上記実施形態では、エネルギー貯蔵プラントは、補助冷却器11と、第一補助熱交換器12と、第一補助蓄熱槽13と、第二補助熱交換器14と、第二補助蓄熱槽15とを備えていた。しかしながら、低圧側容器1の圧力、高圧側容器5の温度を一定に保つことが可能であれば、これらの構成は必須ではない。
【0061】
上記実施形態において、低圧側容器1内の圧力は約7気圧に保つようにしていた。しかしながら、低圧側容器1内の作動流体を、完全放電時に液体又は固体として貯蔵できるのであれば、一定に保つ低圧側容器1内の圧力はこれに限られない。例えば、低圧側容器1内の圧力を、1気圧~高圧側容器5内の最大圧力の間とすることができる。また、低圧側容器1内の圧力を一定に保つのではなく、当該圧力を例えば、1気圧~高圧側容器5内の最大圧力の間に維持するような制御を行っても良い。さらに、低圧側容器1内の作動流体の状態を、圧力を一定の値又は一定の範囲内に維持しながら温度変化により制御するのではなく、温度を一定の値又は一定の範囲内に維持しながら圧力変化により制御するようにしても良い。
【0062】
上記実施形態において、高圧側容器5内の温度は約29℃に保つようにしていた。しかしながら、一定に保つ高圧側容器5内の温度は、一般的に常温とされる15℃~30℃の間であれば良い。また、一定に保つのではなく、温度を15℃~30℃の間に維持するような制御を行っても良い。高圧側の温度を常温の範囲で維持することで、実運用を容易にすることが可能となる。さらに、高圧側容器5内の作動流体の状態を、温度を一定の値又は一定の範囲内に維持しながら圧力変化により制御するのではなく、圧力を一定の値又は一定の範囲内に維持しながら温度変化により制御するようにしても良い。
【0063】
上記実施形態では、作動流体は二酸化炭素であった。しかしながら、作動流体は、常温・大気圧において気体、常温・高圧において液体である流体を用いれば、二酸化炭素に限られない。例えば、作動流体は、亜酸化窒素でもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 低圧側容器
2 第一熱交換器
3 圧縮機
4 第二熱交換器
5 高圧側容器
6 膨張機
7 第一蓄熱槽
8 第二蓄熱槽
9 電動機
10 発電機
11 補助冷却器
12 第一補助熱交換器
13 第一補助蓄熱槽
14 第二補助熱交換器
15 第二補助蓄熱槽
【手続補正書】
【提出日】2023-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温・大気圧において気体、常温・高圧において液体である作動流体の圧縮及び膨張により充電及び放電を行うエネルギー貯蔵プラントであって、
前記作動流体を液体の状態又は固体の状態で貯蔵するように構成された低圧側容器と、
前記作動流体を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機を駆動する電動機と、
前記作動流体が膨張することにより作動する膨張機と、
前記膨張機により駆動される発電機と、
前記作動流体を前記低圧側容器よりも高い圧力で貯蔵するように構成された高圧側容器と、
前記低圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記低圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第一熱交換器と、
前記高圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記高圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第二熱交換器と、
前記第一熱交換器と接続されるとともに、当該第一熱交換器において前記作動流体と熱交換する第一熱交換用流体を介して前記作動流体の冷熱を蓄熱する第一蓄熱槽と、
前記第二熱交換器と接続されるとともに、当該第二熱交換器において前記作動流体と熱交換する第二熱交換用流体を介して前記作動流体の熱を蓄熱する第二蓄熱槽と、
を備え、
前記充電を行う充電過程において、
前記低圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第一熱交換器により加温して気体の状態にするとともに、前記作動流体の冷熱を前記第一蓄熱槽に蓄熱し、
前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記圧縮機により圧縮し、
前記圧縮機を流通後の前記作動流体を前記第二熱交換器により冷却するとともに、前記作動流体の熱を前記第二蓄熱槽に蓄熱し、
前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体を前記高圧側容器に貯蔵し、
前記放電を行う放電過程において、
前記第二蓄熱槽に蓄熱されていた熱によって、前記高圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第二熱交換器により加温し、
前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体により前記膨張機を作動させて前記発電機を駆動し、
前記第一蓄熱槽に蓄熱されていた冷熱によって、前記膨張機を流通後の前記作動流体を前記第一熱交換器により冷却して液体の状態又は固体の状態にし、
前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記低圧側容器に貯蔵し、
前記作動流体は二酸化炭素または亜酸化窒素である、
エネルギー貯蔵プラント。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記低圧側容器は前記高圧側容器よりも高断熱である、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記第一熱交換器及び前記第二熱交換器が向流式である、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記第一熱交換器又は前記第一蓄熱槽と接続する補助冷却器を備える、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記低圧側容器の内部又は周囲に第一補助熱交換器を備えるとともに、当該第一補助熱交換器と連結する第一補助蓄熱槽を備え、
前記第一補助蓄熱槽は、前記第一補助熱交換器において前記低圧側容器と熱交換する第一補助熱交換用流体を介して前記低圧側容器の冷熱を蓄熱する、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記高圧側容器の内部又は周囲に第二補助熱交換器を備えるとともに、当該第二補助熱交換器と連結する第二補助蓄熱槽を備え、
前記第二補助蓄熱槽は、前記第二補助熱交換器において前記高圧側容器と熱交換する第二補助熱交換用流体を介して前記高圧側容器の熱を蓄熱する、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
前記圧縮機と前記膨張機は同一のものが兼用される、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のエネルギー貯蔵プラントであって、
完全充電時において、前記高圧側容器の内部の圧力が55気圧から80気圧である、エネルギー貯蔵プラント。
【請求項9】
常温・大気圧において気体、常温・高圧において液体である作動流体の圧縮及び膨張により充電及び放電を行うエネルギー貯蔵プラントであって、
前記作動流体を液体の状態又は固体の状態で貯蔵するように構成された低圧側容器と、
前記作動流体を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機を駆動する電動機と、
前記作動流体が膨張することにより作動する膨張機と、
前記膨張機により駆動される発電機と、
前記作動流体を前記低圧側容器よりも高い圧力で貯蔵するように構成された高圧側容器と、
前記低圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記低圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第一熱交換器と、
前記高圧側容器と前記圧縮機との間であって、且つ前記高圧側容器と前記膨張機との間に配置され、前記作動流体を加温又は冷却する第二熱交換器と、
前記第一熱交換器と接続されるとともに、当該第一熱交換器において前記作動流体と熱交換する第一熱交換用流体を介して前記作動流体の冷熱を蓄熱する第一蓄熱槽と、
前記第二熱交換器と接続されるとともに、当該第二熱交換器において前記作動流体と熱交換する第二熱交換用流体を介して前記作動流体の熱を蓄熱する第二蓄熱槽と、
を備え、
前記充電を行う充電過程において、
前記低圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第一熱交換器により加温して気体の状態にするとともに、前記作動流体の冷熱を前記第一蓄熱槽に蓄熱し、
前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記圧縮機により圧縮し、
前記圧縮機を流通後の前記作動流体を前記第二熱交換器により冷却するとともに、前記作動流体の熱を前記第二蓄熱槽に蓄熱し、
前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体を前記高圧側容器に貯蔵し、
前記放電を行う放電過程において、
前記第二蓄熱槽に蓄熱されていた熱によって、前記高圧側容器に貯蔵された前記作動流体を前記第二熱交換器により加温し、
前記第二熱交換器を流通後の前記作動流体により前記膨張機を作動させて前記発電機を駆動し、
前記第一蓄熱槽に蓄熱されていた冷熱によって、前記膨張機を流通後の前記作動流体を前記第一熱交換器により冷却して液体の状態又は固体の状態にし、
前記第一熱交換器を流通後の前記作動流体を前記低圧側容器に貯蔵し、
前記低圧側容器は、前記作動流体を1気圧から前記高圧側容器の最大圧力の間の圧力で貯蔵し、
前記高圧側容器は、前記作動流体を前記低圧側容器の圧力から70気圧までの間の圧力で貯蔵する、エネルギー貯蔵プラント。