(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095511
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 13/00 20060101AFI20250619BHJP
【FI】
B60C13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211561
(22)【出願日】2023-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】網本 光希
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC03
3D131BC47
3D131CB05
3D131GA03
3D131GA04
(57)【要約】
【課題】セレーションによる装飾効果を確保しながら、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性の向上を図ることができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】一対のサイドウォール部のうち少なくとも一方の外表面のタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側となる外周側領域に、リッジ31が配列されたセレーション30が形成されており、セレーション30は、サイドウォール部のプロファイル面PFよりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部50に配置され、且つ、プロファイル面PFから0.1mm以下の突出高さPhで突出している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のサイドウォール部を備え、
前記一対のサイドウォール部のうち少なくとも一方の外表面のタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側となる外周側領域に、リッジが配列されたセレーションが形成されており、
前記セレーションは、前記サイドウォール部のプロファイル面よりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部に配置され、且つ、前記プロファイル面から0.1mm以下の突出高さで突出している、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記プロファイル面を基準とした前記凹部の深さが0.4mm以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
回転方向が指定されており、
前記外周側領域において、前記凹部は、回転方向の前方側に凸となる向きに湾曲した輪郭を有している、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記凹部は、タイヤ径方向に対して傾斜する方向に延在しており、
前記リッジは、タイヤ径方向に対して前記凹部とは逆向きに傾斜する方向に延在している、請求項1~3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やEV(Electric Vehicle)シフトへの関心の高まりにより、タイヤの低燃費性の向上が一層求められるようになっている。タイヤの低燃費性には、転がり抵抗だけでなく、走行時の空気抵抗が少なからず影響する。空気抵抗を抑える観点では、サイドウォール部の外表面は滑らかに形成されていることが好ましい。
【0003】
一方で、サイドウォール部の外表面には、リッジが配列されたセレーションを含むデザインが付与されることがある。セレーションは、その凹凸によって陰影を生じ、タイヤの外観を向上させる装飾効果を奏する。よって、セレーションによる装飾効果を確保しながらも、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性を向上できるタイヤが望まれる。
【0004】
特許文献1及び2には、それぞれサイドウォール部の外表面にセレーションを形成した空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-274740号公報
【特許文献2】特開2021-59255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のタイヤでは、セレーションの最深部がタイヤ仮想外表面またはそれよりもタイヤ軸方向外側に位置する。かかる構成によれば、サイドウォール部のプロファイル面からセレーションが大きく突出した形態となるため、空気抵抗が大きくなる傾向にある。
【0007】
特許文献2に記載のタイヤでは、サイドウォール部の外表面に形成された凹部にセレーションが配置され、その凹部の深さよりもリッジの高さが小さい。かかる構成によれば、プロファイル面からリッジが突出しないものの、必然的にリッジの高さよりも大きい深さを有する凹部が設けられるため、比較的大きな起伏が形成される。その結果、走行時に大きな空気渦を生じやすく、セレーションまたはその近傍で空気の剥離が発生して圧力抵抗が増すため、空気抵抗を抑える効果が十分でないと考えられる。
【0008】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、セレーションによる装飾効果を確保しながら、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性の向上を図ることができる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の空気入りタイヤは、一対のサイドウォール部を備え、前記一対のサイドウォール部のうち少なくとも一方の外表面のタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側となる外周側領域に、リッジが配列されたセレーションが形成されており、前記セレーションは、前記サイドウォール部のプロファイル面よりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部に配置され、且つ、前記プロファイル面から0.1mm以下の突出高さで突出している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る空気入りタイヤの一例を概略的に示す断面図
【
図2】タイヤ軸方向外側から見たサイドウォール部の外表面の一部を示す図
【
図6】比較例におけるセレーションの(A)断面図、(B)斜視図及び(C)断面図
【
図7】本実施形態におけるセレーションの(A)断面図、(B)斜視図及び(C)断面図
【
図8】タイヤ軸方向外側から見たサイドウォール部の外表面の一部を示す図
【
図9】
図8の(A)A-A矢視断面図、(B)B-B矢視断面図、及び、(C)C-C矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の空気入りタイヤの実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤTを概略的に示す断面図である。当該断面図は、タイヤの中心軸を含む平面で切断した断面、即ちタイヤ子午断面を示している。タイヤTは、一対のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備えた自動車用タイヤである。タイヤTは、好ましくは乗用車用の空気入りタイヤであるが、他のカテゴリーのタイヤでもよい。
【0013】
ビード部1には、環状のビードコア1aが埋設されている。ビードコア1aは、鋼線などの収束体をゴムで被覆して形成されている。ビードコア1aのタイヤ径方向外側には、ビードフィラー1bが配置されている。ビードフィラー1bは、ビードコア1aからタイヤ径方向外側に延びた断面三角形状のゴムにより形成されている。
【0014】
ここで、タイヤ径方向は、タイヤTの直径に沿った方向であり、
図1の上下方向に相当する。
図1において上側がタイヤ径方向外側となり、下側がタイヤ径方向内側となる。タイヤ軸方向は、タイヤTの回転軸と平行な方向であり、
図1の左右方向に相当する。タイヤ軸方向内側は、図示しないタイヤ赤道線に近付く側であり、
図1の左側に相当する。タイヤ軸方向外側は、タイヤ赤道線から離れる側であり、
図1の右側に相当する。タイヤ赤道線は、タイヤTのタイヤ軸方向中央に位置し、平面視においてタイヤ回転軸に直交する仮想線である。タイヤ周方向は、タイヤTの回転軸周りの方向である。
【0015】
タイヤTは、一対のビード部1の間に跨ってトロイド状に延在したカーカス4を備える。カーカス4は、ビードコア1a及びビードフィラー1bを挟み込むようにしてタイヤ軸方向の内側から外側に巻き上げられている。カーカス4は、カーカスコードをゴム被覆して形成されたカーカスプライにより形成されている。カーカスコードは、タイヤ周方向に対して交差する方向(例えば、タイヤ周方向に対して75~90度の角度となる方向)に引き揃えられている。カーカスコードの材料には、スチールなどの金属や、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維が好ましく用いられる。
【0016】
タイヤTは、カーカス4のタイヤ径方向外側に積層されたベルト5を備える。ベルト5は、互いに積層された複数(本実施形態では2枚)のベルトプライにより形成されている。ベルトプライは、それぞれベルトコードをゴム被覆して形成されている。ベルトコードは、タイヤ周方向に対して傾斜する方向(例えば、タイヤ周方向に対して20~30度の角度となる方向)に引き揃えられている。ベルトコードの材料には、スチールなどの金属が好ましく用いられる。複数のベルトプライは、それらの間でベルトコードが互いに逆向きに交差するように積層されている。
【0017】
この例では採用していないが、ベルト5のタイヤ径方向外側にベルト補強材を積層した構造でもよい。ベルト補強材は、ベルト補強コードをゴム被覆して形成されたベルト補強プライにより形成される。ベルト補強コードは、タイヤ周方向に対して実質的に平行に引き揃えられる。ベルト補強プライは、例えば、ゴム被覆された1本又は複数本のベルト補強コードをタイヤ周方向に沿ってスパイラル状に巻回することにより形成される。ベルト補強コードの材料には、上述した有機繊維が好ましく用いられる。ベルト補強材はベルト5を全面的に覆う形態のほか、ベルト5を部分的に(例えば両端のみを)覆う形態でもよい。
【0018】
タイヤTの内面には、ブチルゴムなどの空気遮蔽性に優れるゴムにより形成されたインナーライナーゴム6が設けられている。ビードコア1a及びビードフィラー1bのタイヤ軸方向外側には、ビード部1の外表面を形成するリムストリップゴム7が設けられている。カーカス4のタイヤ軸方向外側には、サイドウォール部2の外表面を形成するサイドウォールゴム8が設けられている。ベルト5のタイヤ径方向外側には、トレッド部3の外表面を形成するトレッドゴム9が設けられている。トレッドゴム9には、要求されるタイヤ性能や使用条件に応じたトレッドパターンが形成されている。
【0019】
タイヤ最大幅位置Pmは、サイドウォール部2のプロファイル面PFがタイヤ軸方向においてタイヤ赤道線から最も離れる位置である。プロファイル面PFは、リッジなどの突起物を除いたサイドウォール部2の基本的な輪郭をなす面である。プロファイル面PFは、タイヤ軸方向外側に凸となる向きに湾曲した滑らかな曲面により形成されている。
【0020】
サイドウォール部2の外表面において、外周側領域Roは、タイヤ最大幅位置Pmよりもタイヤ径方向外側の領域であり、内周側領域Riは、タイヤ最大幅位置Pmよりもタイヤ径方向内側の領域である。走行時のタイヤの周辺では、進行方向の前方側から後方側へ流れる空気がトレッド部3やサイドウォール部2の外周側領域Roに接触した後、タイヤ最大幅位置Pmの近傍で剥離する傾向にある。このため、外周側領域Roでは、内周側領域Riと比べて、走行時の空気抵抗、とりわけ圧力抵抗に対する寄与が大きい。
【0021】
モールド割位置Psは、タイヤ最大幅位置Pmよりもタイヤ径方向外側に設定されている。モールド割位置Psは、トレッド部3を成形するトレッドモールドとサイドウォール部2を成形するサイドモールドとの境界(分割位置)である。モールド割位置Psは、サイドウォール部2の外表面に生じたパーティングラインから識別される。パーティングラインは、当該分割位置に生じる突起状の金型痕である。外周側領域Roは、タイヤ最大幅位置Pmとモールド割位置Psとの間の領域である。
【0022】
リムラインRLは、タイヤ最大幅位置Pmよりもタイヤ径方向内側に設定されている。リムラインRLは、タイヤ周方向に沿って環状に延びた突起により形成されている。リムラインRLは、タイヤTをホイールに組み付けたときにビード部1がリムに正しく装着されていることを確認するために用いられる。内周側領域Riは、タイヤ最大幅位置PmとリムラインRLとの間の領域である。
図1には示していないが、本実施形態では、モールド割位置PsとリムラインRLとの間に、タイヤ軸方向外側に突出した3本の周方向突起41~43が設けられている。
【0023】
図2は、サイドウォール部2の外表面の一部を示す図であり、モールド割位置Psと周方向突起43との間の領域をタイヤ軸方向外側から見たものである。
図3は、
図2の要部を示す拡大図である。
図4は、
図3のX-X矢視断面図であり、リッジ31の延在方向と直交する方向に沿った断面を示している。
図5は、
図3のY-Y矢視断面図であり、リッジ31の延在方向と平行な方向に沿った断面を示している。
【0024】
図2~5に示すように、このタイヤTでは、一対のサイドウォール部2のうち少なくとも一方の外表面のタイヤ最大幅位置Pmよりもタイヤ径方向外側となる外周側領域Roに、リッジ31が配列されたセレーション30が形成されている。セレーション30は、サイドウォール部2のプロファイル面PFよりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部50に配置され、且つ、プロファイル面PFから0.1mm以下の突出高さPhで突出している。
【0025】
本実施形態では、セレーション30の一部が内周側領域Riに配置されている。単体のセレーション30において、外周側領域Roに配置された部分の面積は、内周側領域Riに配置された部分の面積よりも大きい。これに限られず、セレーション30の全部が外周側領域Roに配置されていてもよい。
【0026】
凹部50は、プロファイル面PFを基準とした深さD50を有する。リッジ31は、凹部50の底面からタイヤ軸方向外側に向けて隆起している。リッジ31は、凹部50の底面に接続された底部から頂部までの高さH31を有する。高さH31は、リッジ31の延在方向に沿って実質的に一定に設定されている。リッジ31の高さH31は、凹部50の深さD50よりも大きく(即ち、H31>D50)、それらの差は突出高さPhに相当する。突出高さPhは、プロファイル面PFを基準にしたセレーション30(を形成するリッジ31)の高さである。
【0027】
セレーション30では、リッジ31に伴う凹凸がサイドウォールゴム8の色(黒色)の陰影を生じることによって装飾効果が奏される。高さH31が小さくなるほど陰影は薄くなるため、装飾効果を確保するうえでは、リッジ31の高さH31を確保することが有効である。このタイヤTでは、セレーション30が凹部50に配置されているので、プロファイル面PFからリッジ31を大きく突出させなくても高さH31を確保することができ、セレーション30による装飾効果を確保しやすい。
【0028】
当該タイヤTでは、プロファイル面PFからセレーション30が突出しているものの、その突出高さPhは僅かであり、具体的には0.1mm以下である。そのため、プロファイル面からセレーションが大きく突出した形態と比べて、走行時の空気抵抗が抑えられる。また、このようにセレーション30を僅かに突出させた構造は、
図6,7を用いて説明するように、プロファイル面からセレーションが突出していない構造(後述する比較例)と比べても、走行時の空気抵抗を抑えるうえで有効である。よって、このタイヤTによれば、セレーション30による装飾効果を確保しながら、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性の向上を図ることができる。
【0029】
図6は、比較例におけるセレーション30cを示している。セレーション30cは、プロファイル面PFから陥没した凹部50cに配置され、且つ、プロファイル面PFから突出していない。
図7は、本実施形態におけるセレーション30を示している。既述の通り、セレーション30は、プロファイル面PFから陥没した凹部50に配置され、且つ、プロファイル面PFから僅かに突出している。
図6,7は、それぞれ、(A)リッジの延在方向と直交する方向に沿った断面図、(B)斜視図、及び、(C)リッジの延在方向と平行な方向に沿った断面図を示す。
【0030】
図6,7では、それぞれ空気の流れを矢印で模式的に表現している。走行時のタイヤの周辺では進行方向の前方側から後方側へ空気が流れつつ、その進行方向に対するリッジの向きがタイヤの転動に応じて変化するため、リッジの延在方向と直交する方向に空気が流れる場面と、リッジの延在方向と平行な方向に空気が流れる場面とに分けて考え、前者における空気の挙動を(A)に示し、後者における空気の挙動を(B)及び(C)に示している。
【0031】
装飾効果を確保する観点から、比較例のリッジ31cは、本実施形態のリッジ31と同等の高さに設定されている。それ故、比較例における凹部50cの深さD50cは、本実施形態における凹部50の深さD50よりも大きい(即ち、D50c>D50)。比較例では、相対的に起伏が大きく且つセレーション30cが突出していないため、空気が凹部50cに深く潜り込みやすい。これに対して、本実施形態では、相対的に起伏が小さく且つセレーション30が突出しているため、比較例と比べて空気が凹部50に深く潜り込みにくい。
【0032】
図6(A)は、凹部50cに深く潜り込んだ空気がリッジ31cに沿って持ち上がり、比較的大きな空気渦となる様子を示している。
図6(B)は、セレーション30cが突出していないために凹部50cの内部で空気の乱流が生じる様子を示している。
図6(C)は、起伏の大きい凹部50cの壁面に沿って空気が持ち上がり、比較的大きな空気渦となる様子を示している。比較例では、かかる挙動によって空気の流れが不安定になりやすく、それに起因してセレーション30cまたはその近傍で空気の剥離が生じると、圧力抵抗が増す原因となり得る。
【0033】
図7(A)は、凹部50に潜り込む前に空気がリッジ31の頂部に接触して僅かに持ち上がり、比較的小さな空気渦となる様子を示している。
図7(B)は、プロファイル面PFから突出したセレーション30(のリッジ31)がガイドとして機能し、凹部50の内部で空気の整流が生じる様子を示している。
図7(C)は、起伏の小さい凹部50の壁面に沿って空気が持ち上がり、比較的小さな空気渦となる様子を示している。本実施形態では、かかる挙動によって空気の流れが安定しやすく、より後方で空気を剥離させることによって、比較例よりも圧力抵抗を抑えることができる。
【0034】
起伏を小さくして走行時の空気抵抗を抑える観点から、凹部50の深さD50は0.4mm以下であることが好ましい。また、リッジ31の高さH31を適度に大きくしてセレーション30による装飾効果を確保する観点から、深さD50は0.2mm以上であることが好ましい。リッジ31の高さH31は、例えば0.3~0.5mmに設定される。上述した作用を適切に奏する観点から、突出高さPhは、好ましくは0.03mm以上であり、より好ましくは0.06mm以上である。突出高さPhは、例えばリッジ31の高さH31の10%以上且つ50%未満に設定される。
【0035】
延在方向に沿って見たリッジ31の形状は、タイヤ軸方向内側に向かって幅が漸増する形状であることが好ましく、三角形状であることが特に好ましい。かかる構成により、陰影を際立たせて(濃くして)装飾効果を良好に確保できる。この三角形状には、頂部が丸みを帯びた三角形状(
図4参照)も含まれ、その頂部の曲率半径R31は、例えば0.3mm以下である。開き角度θsは、例えば90±45度である。本実施形態では、隣り合うリッジ31が互いに接するように配列されているが、これに限られず、間隔を設けて配列されていてもよい。
【0036】
図3に示すように、本実施形態において、リッジ31は、タイヤ周方向と交差する方向に延在している。かかる構成によれば、陰影を生じやすくなるため、セレーション30による装飾効果を確保するうえで都合がよい。
【0037】
本実施形態のタイヤTは、回転方向が指定された、いわゆる回転方向指定型タイヤとして構成されている。回転方向の指定は、サイドウォール部2の外表面に付された表示によって行われる。図面中の矢印RD1は回転方向の前方側を示し、矢印RD2は回転方向の後方側を示している。尚、タイヤTは、回転方向指定型タイヤに限られるものではない。
【0038】
図3に示すように、外周側領域Roにおいて、凹部50は、回転方向の前方側RD1に凸となる向きに湾曲した輪郭を有している。かかる構成によれば、空気抵抗に対する寄与の大きい外周側領域Roで小さな空気渦を発生させ、空気の剥離を抑制できる。外周側領域Roにおいて、凹部50は、回転方向の後方側RD2に向かってタイヤ径方向外側に傾斜する方向に延在しつつ、回転方向の後方側RD2に向かって先細りに形成されている。外周側領域Roでは、かかる形状を有する凹部50が、タイヤ周方向に間隔を設けて複数(本実施形態では3つ)並べて配置されている。
【0039】
図4に示すように、凹部50の壁面51は、凹部50の開口を拡げる方向に傾斜している。プロファイル面PFの法線に対する壁面51の角度θ51は、15度以上であることが好ましい。これにより、凹部50から空気がスムーズに抜け出しやすくなり、壁面51を起点とした逆流渦の発生を抑制できるため、走行時の空気抵抗を抑えるうえで都合が良い。凹部50の輪郭を明確にして意匠の視認性を確保する観点から、角度θ51は45度以下であることが好ましい。
【0040】
図3に示すように、本実施形態では、外周側領域Roにおいて、リッジ31が、タイヤ径方向に対して傾斜する方向に延在している。また、リッジ31は、回転方向の後方側RD2に向かってタイヤ径方向内側に傾斜する方向に延在しており、凹部50とは逆向きに傾斜している。即ち、リッジ31は、タイヤ径方向に対して凹部50とは逆向きに傾斜する方向に延在している。かかる構成によれば、見る方向によって光の反射が異なることで陰影の見え方が変化することから、凹部50がなす意匠の視認性を向上できる。
【0041】
本実施形態では、
図3の如き複数の凹部50からなる模様が、
図2のようにタイヤ周方向の複数箇所(具体的には4箇所)に形成されている。このため、セレーション30による装飾効果を確保しながら、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性を向上する効果がより良好に得られる。本実施形態において、セレーション30は、タイヤ周方向に沿って延びた帯状領域BRに設けられている。帯状領域BRは、周方向突起41と周方向突起42との間に設定されている。
【0042】
図8及び9を参照しつつ、サイドウォール部2の外表面に関する他の構成について説明する。
図8は、サイドウォール部2の外表面の一部を示しており、
図2と実質的に同じ図面である。
図8に示すように、サイドウォール部2の外表面には、標章部10と、標章部10とタイヤ周方向に並んで配置された装飾部20とが設けられている。標章部10は、文字、数字、記号または図形などの標章により構成され、タイヤサイズやメーカー名、品種などの情報を表示する。装飾部20は、装飾的な図形や模様などにより構成され、前述のような情報は含んでいない。装飾部20は凹部50によって形成されており、その凹部50の内部にはセレーション30が配置されている。
【0043】
標章部10及び装飾部20は、それぞれ帯状領域BRに設けられている。標章部10及び装飾部20は、それぞれタイヤ周方向の複数箇所(本実施形態では4箇所)に設けられており、それらがタイヤ周方向に沿って交互に配置されている。複数箇所に設けられた標章部10の各々の開き角度θ10の総和と、複数箇所に設けられた装飾部20の各々の開き角度θ20の総和との合計は、例えば120度以上である。
【0044】
図9(A)は、
図8のA-A矢視断面図であり、標章部10を構成する標章の断面を示している。
図9(A)に示すように、標章部10は、プロファイル面PFよりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部50により形成されている。他の標章部10もこれと同様の断面を有する。
図9(B)は、
図8のB-B矢視断面図であり(
図4も参照可)、装飾部20を構成する模様の断面を示している。
図9(B)に示すように、装飾部20は、プロファイル面PFよりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部50により形成されている。他の装飾部20もこれと同様の断面を有している。
【0045】
故に、タイヤ最大幅位置Pmよりタイヤ径方向外側となる外周側領域Roでは、全ての標章部10及び全ての装飾部20が、プロファイル面PFよりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部50により形成されている。換言すると、標章部10及び装飾部20のうち外周側領域Roに配置された全て部分は、凹部50により形成されている。かかる構成によれば、走行時の空気抵抗に対する寄与の大きい外周側領域Roにおいて、標章部10及び装飾部20による起伏が全て凹形状となるため、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性の向上を図ることができる。
【0046】
帯状領域BRは、一定の幅を持ってタイヤ周方向の全周に亘って延びた環状の領域として設けられている。帯状領域BRは、タイヤ最大幅位置Pmを含むタイヤ径方向の一定領域に形成されている。標章部10及び装飾部20は、タイヤ最大幅位置Pmをタイヤ径方向に跨いで配置されている。本実施形態では、帯状領域BRに設けられた全ての標章部10及び全ての装飾部20が凹部50により形成されている。換言すると、帯状領域BRに設けられた標章部10及び装飾部20の全ての部分が凹部50により形成されている。
【0047】
図9(C)は、
図8のC-C矢視断面図であり、標章部10及び装飾部20の周囲をなす部分の断面を示している。
図9(C)に示すように、標章部10及び装飾部20の周囲は、平滑面60により形成されている。平滑面60は、突起などの凹凸が設けられていない滑らかな面であり、リッジなどによる装飾は施されていない。図面では表現されていないが、平滑面60はプロファイル面PFに沿って湾曲している。本実施形態において、平滑面60はプロファイル面PFと実質的に合致している。
【0048】
タイヤ最大幅位置Pmよりタイヤ径方向外側では、全ての標章部10及び全ての装飾部20の周囲が平滑面60により形成されている。換言すると、標章部10及び装飾部20における、タイヤ最大幅位置Pmよりタイヤ径方向外側に配置された全ての部分では、その周囲が平滑面60により形成されている。かかる構成によれば、走行時の空気抵抗に対する寄与の大きい領域において、標章部10及び装飾部20の周囲の起伏が小さくなるため、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性の向上を図ることができる。本実施形態において、帯状領域BRでは、標章部10及び装飾部20を除いた全ての部分が平滑面60により形成されている。
【0049】
平滑面60によって外表面の起伏を小さくすることは、走行時の空気抵抗を抑えるうえで有効である。しかし、平滑面60の表面粗さが過度に小さい場合は、サイドウォール部2の外表面に沿って流れる空気の密着により粘性抵抗が大きくなり、空気の流速が低下する傾向にある。その結果、サイドウォール部2の外表面に近い空気層と遠い空気層との間で速度差が大きくなり、空気の剥離が早期に発生し、圧力抵抗が増す恐れがある。かかる観点から、平滑面60の表面粗さは適度に大きくすることが望ましく、例えば平滑面60の算術平均粗さRaは1.0μm以上であることが好ましい。
【0050】
また、平滑面60での微小凹凸による空気の逆流渦を発生させないよう、平滑面60の表面粗さは適度に小さくすることが望ましく、例えば平滑面60の算術平均粗さRaは2.4μm以下であることが好ましい。故に、平滑面60の算術平均粗さRaは、例えば1.7±0.7μmに設定される。算術平均粗さRaは、JIS B0601:2013に規定され、その評価の方式及び手順はJIS B0633:2001の規定に準拠する。
【0051】
外周側領域Roには、タイヤ周方向に沿って環状に延びた周方向突起41が設けられている。帯状領域BRは、周方向突起41よりタイヤ径方向内側に設けられている。周方向突起41は、モールド割位置Psよりもタイヤ径方向内側に配置されている。内周側領域Riには、タイヤ周方向に沿って環状に延びた周方向突起42,43が設けられている。帯状領域BRは、周方向突起42よりタイヤ径方向外側に設けられている。帯状領域BRは、タイヤ軸方向外側に突出した一対の周方向突起41,42の間に設けられている。
【0052】
内周側領域Riでは、走行時の空気抵抗に対する寄与が小さいことから、プロファイル面PFよりもタイヤ軸方向外側に突出した標章部や装飾部が設けられていても構わない。本実施形態では、周方向突起42よりもタイヤ径方向内側に、製造年週などの情報を表示する標章部70が設けられており、この標章部70はプロファイル面PFよりもタイヤ軸方向外側に突出している。
【0053】
以上に説明したようなセレーション30は、一対のサイドウォール部2のうち少なくとも一方の外表面に設けられていればよい。
【0054】
特に断らない限り、タイヤ各部の寸法、角度及び位置関係などは、正規リムに装着したタイヤに正規内圧を充填した無負荷の状態で定められるものとする。正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば“Measuring Rim”である。
【0055】
正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、トラックバス用タイヤ、ライトトラック用タイヤの場合は、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載のLoad Indexに対応した値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。乗用車用タイヤの場合は通常250kPaとするが、Extra LoadまたはReinforcedと記載されたタイヤの場合は290kPaとする。
【0056】
上述した実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者によって理解される。
【0057】
[1]
本開示の空気入りタイヤは、一対のサイドウォール部を備え、前記一対のサイドウォール部のうち少なくとも一方の外表面のタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側となる外周側領域に、リッジが配列されたセレーションが形成されており、前記セレーションは、前記サイドウォール部のプロファイル面よりもタイヤ軸方向内側に陥没した凹部に配置され、且つ、前記プロファイル面から0.1mm以下の突出高さで突出しているものである。かかる構成によれば、セレーションによる装飾効果を確保しながら、走行時の空気抵抗を抑えて低燃費性の向上を図ることができる。
【0058】
[2]
上記[1]の空気入りタイヤにおいて、前記プロファイル面を基準とした前記凹部の深さが0.4mm以下であることが好ましい。凹部による起伏を小さくすることにより、走行時の空気抵抗を抑える効果が高められる。
【0059】
[3]
上記[1]または[2]の空気入りタイヤにおいて、回転方向が指定されており、前記外周側領域において、前記凹部は、回転方向の前方側に凸となる向きに湾曲した輪郭を有するものでもよい。かかる構成によれば、空気抵抗に対する寄与の大きい外周側領域で小さな空気渦を発生させ、空気の剥離を抑制できるため、走行時の空気抵抗を抑えるうえで都合がよい。
【0060】
[4]
上記[1]~[3]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記凹部は、タイヤ径方向に対して傾斜する方向に延在しており、前記リッジは、タイヤ径方向に対して前記凹部とは逆向きに傾斜する方向に延在しているものでもよい。かかる構成によれば、見る方向によって光の反射が異なることで陰影の見え方が変化することから、凹部がなす意匠の視認性を向上できる。
【0061】
本開示の空気入りタイヤTは、サイドウォール部2を上記の如く構成したこと以外は、通常の空気入りタイヤと同様に構成でき、従来公知の形状や材料などはいずれも採用することが可能である。
【0062】
本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、更に、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0063】
本開示の空気入りタイヤは、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものではない。本開示のタイヤは、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した実施形態で採用されている各構成を、任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
2 サイドウォール部
30 セレーション
31 リッジ
50 凹部
51 壁面