(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009555
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンA
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20250110BHJP
A61K 31/495 20060101ALI20250110BHJP
C07D 403/06 20060101ALI20250110BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20250110BHJP
A61K 36/062 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/495
C07D403/06 CSP
A61P37/08
A61K36/062
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112636
(22)【出願日】2023-07-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年4月12日、第77回日本栄養・食糧学会大会のウェブサイト(https://www2.aeplan.co.jp/jsnfs2023/contents/program.html)、において公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年5月14日、第77回日本栄養・食糧学会大会、において公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年4月28日、第77回日本栄養・食糧学会大会のウェブサイト(https://www2.aeplan.co.jp/jsnfs2023/contents/program.html)、において公開
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(71)【出願人】
【識別番号】590006398
【氏名又は名称】マルトモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127579
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100203301
【弁理士】
【氏名又は名称】都築 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 萌子
(72)【発明者】
【氏名】山内 聡
(72)【発明者】
【氏名】菅原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西 甲介
(72)【発明者】
【氏名】土居 幹治
(72)【発明者】
【氏名】木下 義浩
(72)【発明者】
【氏名】大福 美帆
【テーマコード(参考)】
4B018
4C063
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD18
4B018MD80
4B018ME07
4C063AA01
4C063BB03
4C063CC34
4C063DD06
4C063EE01
4C063EE10
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC47
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC05
4C087BC06
4C087CA10
4C087CA38
4C087NA14
4C087ZB13
(57)【要約】
【課題】海洋性真菌の二次代謝産物であるインドールアルカロイドであり、鰹節のカビ付けに用いられるAspergillus属やEurotium属によっても生産される(-)-ネオエキヌリンAの用途を広げること。
【解決手段】
脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンA。食品添加用の用途にも供することができる。(-)-ネオエキヌリンAは脱顆粒シグナルの上流に位置する非受容体型チロシンキナーゼであるLynの活性化には影響せず、その下流にある非受容体型チロシンキナーゼであるSykのリン酸化を抑制することが確認された。また、セリン/スレオニンキナーゼであるAktのリン酸化レベルの低下も確認された。
これらのことから、(-)-ネオエキヌリンAはSykおよびAktシグナル伝達経路を下方制御することで細胞外からのCa
2+流入を阻害し、脱顆粒を抑制することが示唆された。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式で表される脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンA。
【化1】
【請求項2】
用途が食品添加用である、請求項1に記載の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAに関し、詳しくは、食品添加用の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAに関する。
【背景技術】
【0002】
(-)-ネオエキヌリンAは、海洋性真菌の二次代謝産物であるインドールアルカロイドであり、鰹節のカビ付けに用いられるAspergillus属やEurotium属によっても生産されることが確認されている。
また、ネオエキヌリンBが抗ウイルス薬として使用できることも知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-545553号公報
【特許文献2】特表2022-531556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、(-)-ネオエキヌリンAがこれまで知られている事例以外に、具体的にどのような生理活性を有しているかは予測できないため、未判明の生理活性を有している可能性がある。
一方、新たに開発される医薬品は生体に対する副作用が懸念されるため、新たに開発された医薬品に具体的に生体に対する効能・効用が発見されても、安全性確認のためには長い年月と確認作業が必要になる。
本発明の目的は、従来食用に供されている安全な原料から得られる(-)-ネオエキヌリンAの用途を広げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討した結果、(-)-ネオエキヌリンAが、脱顆粒抑制用の用途に使用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
[1]脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAを提供するものである。
【化1】
【0007】
また本発明の一つは、
[2]用途が食品添加用である、上記[1]に記載の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAは、脱顆粒抑制による抗アレルギー効果を有する。本発明の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAは、鰹節のカビ付けに用いられるAspergillus属やEurotium属によっても生産されるから、従来食用として日常的に摂取されてきたものであり、安全性にも優れる。
さらに本発明の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAは、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に対して、0.25~1.0 mMの濃度で、脱顆粒抑制を示す一方、細胞毒性を示さないことから、安全性に優れる。
本発明の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAは、例えば、出汁、豆腐、野菜等の料理用途等、従来鰹節の用途に用いられてきた食品添加用の用途に広く活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、培養器で前培養を実施した際の、96ウェル培養プレートのラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液の設置状況を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、細胞破砕液と、培養上清を別の空のウェルに移した状態の96ウェル培養プレートを説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、細胞破砕液と細胞上清に対する(a)から(d)の4通りの操作に使用した96ウェル培養プレートを説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、コントロールを基準とした、相対的な顆粒中に含まれるβ-ヘキソサミニダーゼの放出率を示すグラフである。
【
図5】
図5は、WST-8法により評価した細胞毒性の評価結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、(-)-ネオエキヌリンAの細胞内カルシウムイオン濃度に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図7】
図7は、シグナル伝達因子に与える(-)-ネオエキヌリンAの影響を調べるためのウエスタンブロッティングの結果を示す図面代用写真である。
【
図8】
図8は、Lyn(非受容体型チロシンキナーゼの一種)のリン酸化において、Lynに対するP-Lyn(Sykをリン酸化するリン酸化非受容体型チロシンキナーゼ)の割合を示すグラフである。
【
図9】
図9は、Syk(P-Lynによりリン酸化を受ける非受容体型チロシンキナーゼ)のリン酸化において、Sykに対するP-Syk(P-Lynによってリン酸化されたリン酸化非受容体型チロシンキナーゼ)の割合を示すグラフである。
【
図10】
図10は、PI3K(Phosphoinositide3-kinase、脂質キナーゼ)のリン酸化において、PI3Kに対するP-PI3K(リン酸化脂質キナーゼ)の割合を示すグラフである。
【
図11】
図11は、Akt(セリン/スレオニンキナーゼ)のリン酸化において、Aktに対するP-Akt(リン酸化セリン/スレオニンキナーゼ)の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を、ジニトロフェニル(DNP)特異的IgEで感作した後、培地に(-)-ネオエキヌリンAを添加し、その後DNP-HSAによる抗原刺激で脱顆粒を誘導した。
顆粒中に含まれるβ-ヘキソサミニダーゼの放出率を指標として抗原誘導性脱顆粒に対する効果を評価した。また、細胞毒性の評価にはWST-8法、シグナル伝達因子への影響にはウェスタンブロッティング法を用いて検討した。
【0011】
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞の抗原誘導性脱顆粒に及ぼす影響を検討した結果、(-)-ネオエキヌリンAは細胞毒性を示すことなく脱顆粒を有意に抑制した。
脱顆粒を抑制する作用機構を明らかにするため、細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度に及ぼす影響を検討したところ、抗原誘導性の細胞内Ca2+濃度の上昇が(-)-ネオエキヌリンAにより抑制された。
またシグナル伝達因子に与える影響を検討したところ、(-)-ネオエキヌリンAは脱顆粒シグナルの上流に位置するLyn(非受容体型チロシンキナーゼ)の活性化には影響せず、その下流にあるSyk(非受容体型チロシンキナーゼ)のリン酸化を抑制することが確認された。
また、Akt(セリン/スレオニンキナーゼ)のリン酸化レベルの低下も確認された。
【0012】
なお、本発明の説明に使用する語句の意義は次の通りである。
【表1】
【0013】
次に実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0014】
[ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に対する脱顆粒の抑制実験の概要]
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を、ジニトロフェニル(DNP)特異的IgEで感作した後、培地にジメチルスルホキシド(DMSO: Dimethylsulfoxide)で溶解した(-)-ネオエキヌリンAを0.125 mM、0.25 mM、0.5 mMおよび1 mMの濃度で添加し、その後DNP-HSAによる抗原刺激で脱顆粒を誘導した。
顆粒中に含まれるβ-ヘキソサミニダーゼの放出率を指標として抗原誘導性脱顆粒に対する効果を評価した。
また、細胞毒性の評価にはWST-8法で行った。ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞の抗原誘導性脱顆粒に及ぼす影響を検討した結果、(-)-ネオエキヌリンAは細胞毒性を示すことなく0.25~1.0 mMの濃度で脱顆粒を有意に抑制した。
【0015】
[滅菌タイロード緩衝液(pH 7.4)の調製]
HEPES( 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)4.77 g、NaCl 7.89 g、KCl 0.37 g、CaCl2・2H2O 0.26 g、MgCl2・6H2O 0.20 g、グルコース 1.01 gおよびBSA 0.50 gを蒸留水に溶解させた後、水酸化ナトリウムを用いてpH 7.4に調整し、蒸留水で1Lの体積に合わせ、タイロード緩衝液(20 mM HEPES( 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineet hanesulfonic acid)、135 mM NaCl、5 mM KCl、1.8 mM CaCl2、1 mM MgCl2、5.6 mM グルコースおよび0.05%BSA)を調製した。
次に孔径0.22 mのメンブレンフィルターでろ過滅菌し、冷蔵保存したものを使用した。
【0016】
[ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞]
実施例1に使用したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞は、American Type Culture Collection(ATCC)から販売されている製品番号「CRL-2256」を使用した。RBL-2H3細胞(Rat basophilic leukemia cell line)は脱顆粒抑制効果を評価するために使用しているラット好塩基球様細胞株である。ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞は10%FBS-DMEM培地にて37℃、5%CO2条件で培養した。FBS(Fetal Bovine Serum)はウシ胎児血清のことで、細胞培養培地の増殖用添加剤として用いる。DMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)はダルベッコ改変イーグル培地のことであり、RBL-2H3細胞の培養に用いる。
【0017】
[播き込みとIgE感作]
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を10%FBS-DEME培地中に4.0×104 cells/mlの濃度になるように調整した細胞懸濁液を100mmディッシュに10ml入れ、4.0×105 cells/dishで37℃、5%CO2条件で培養した。48時間後にラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞が最初の状態(4.0×105 cells/dish)から100mmディッシュ中に70から80%増殖したことを目視で確認することができた。
滅菌した15 mL遠心管に、ウシ胎児血清(FBS、シグマアルドリッチ社製、製品名non-USA origin, sterile-filtered, suitable for cell culture)を1 mLおよびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を7 mL加え、混合液Aを調製した。
DMEM培地はDMEM(シグマアルドリッチ社製、製品番号D5648) 13.4 g、NaHCO3(富士フィルム和光純薬社製、製品番号191-01305) 3.7 g
、ストレプトマイシン(シグマアルドリッチ社製、製品番号S9137) 0.1 g、ペニシリン(シグマアルドリッチ社製、製品番号P7794) 0.0625 gを1 Lの蒸留水に溶解した後、加圧蒸気滅菌済ハウジングでろ過滅菌して調製した。
【0018】
100mmディッシュに70~80%増殖したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞の細胞上清を吸引除去した後、滅菌処理後のリン酸緩衝液(滅菌PBS)を10 mL添加して、軽くディッシュを揺らしてラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。PBS(Phosphate-buffered saline)はリン酸緩衝生理食塩水を示し、本試験でRBL-2H3細胞の洗浄などに使用している緩衝液である。
【0019】
滅菌PBSを吸引除去し、混合水溶液(0.25%トリプシン、0.02%エチレンジアミン四酢酸)1 mLと、滅菌PBS 1 mLとを、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、2分間、37℃、5%CO2条件で保温した。
【0020】
混合液Aを上記の2分間保温後のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、ピペットで吸い上げ操作と注入操作を繰り返して、100mmディッシュに密着したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を剥がして、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁溶液を得た。
【0021】
上記のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞濁溶液を15 mL遠心管に回収し、1000 rpm、5分間の条件で遠心分離した。rpm(rotations per minute)は遠心機の1分間での回転数である。
【0022】
遠心分離後、15 mL遠心管内の上清を吸引除去し、血球計算盤またはセルカウンターを用いて4.0×105 cells/mLとなるように、10% FBS-DMEM溶液を加えて、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を調製した。
【0023】
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を96ウェル培養プレートに、それぞれ100 μL/wellで播種した。
【0024】
500 μg/mLのモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液(シグマアルドリッチ社製、製品番号D8406)を10% FBS-DMEM溶液により5000倍希釈して、100 ng/mLとし、播種済みの上記96ウェル培養プレートに、それぞれ100 μL/wellで添加した。
DNP(Dinitrophenyl)は脱顆粒誘導に用いている不完全抗原であり、部分抗原抗体であるモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgEと結合するが、分子量が小さいため単独で抗体産生を誘起する活性を示さない物質である。
【0025】
IgE(Immunoglobulin E)は、免疫グロブリンの主要なクラスの一つであり、主にマスト細胞や好塩基球の細胞表面に存在し、アレルゲンと結合することで アレルギー応答反応を引き起こす。本試験では、RBL-2H3細胞をモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgEで感作してDNP-HSA(Dinitrophenyl-Human Serum Albumin)に対して敏感な状態にし、脱顆粒を誘導するために使用している。
【0026】
DNP-HSAはRBL-2H3細胞を抗原刺激して脱顆粒を誘導するために使用しているジニトロフェニルとヒト血清アルブミンが結合した完全抗原である。
【0027】
培地中のモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液の終濃度は50ng/mLであり、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞は4.0×104 cells/wellである。
【0028】
続いて、温度37℃、5%CO2条件で、18~24時間、培養器で前培養を実施した。
【0029】
図1は、培養器で前培養を実施した際の、96ウェル培養プレートのラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液の設置状況を説明するための模式図である。
図1に例示されるように、参照符号100で示される96ウェル培養プレートのうち、縦AからHまでの8行と、横1から6までの6列に実際にラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を配置した。それ以外の操作は上記の説明の通りである。
【0030】
[抗原刺激から脱顆粒評価まで]
前培養の実施後、上記96ウェル培養プレート内の各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞上清を吸引除去した。
先に調製した滅菌タイロード緩衝液を、上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに200 μL/wellでゆっくり添加し、各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
この洗浄を2回繰り返した。
【0031】
(-)-ネオエキヌリンAをジメチルスルホキシド(DMSO: Dimethylsulfoxide)で200 mMになるように溶解した。(-)-ネオエキヌリンAの200 mM溶液を20としてDMSOで21、22、および23倍にそれぞれ希釈した。ネオエキヌリンA200 mM溶液の20、21、22、および23倍希釈液を滅菌タイロード緩衝液に0.5%添加して0.125 mM、0.25 mM、0.5 mM、および1 mMの濃度に調製した。
上記96ウェル培養プレート内の滅菌タイロード緩衝液を吸引除去した後、滅菌タイロード緩衝液で0.125 mM、0.25 mM、0.5 mM、および1 mMの濃度に調製した各濃度の溶液を3ウェルずつ120 μL/wellになるように添加した。ブランク(DNP-HSAによる抗原刺激なし条件)、コントロール(DNP-HSAによる抗原刺激あり条件)はDMSOを滅菌タイロード緩衝液に0.5%添加した溶液をそれぞれ3ウェルずつ120 μL/wellになるように添加した。
【0032】
続いて、それぞれの96ウェル培養プレートを用いて、温度37℃、5%CO2条件で、培養器内で10分間培養した。
【0033】
この培養の間に、10 mg/mLのジニトロフェニル(DNP)-ヒト血清アルブミン(HSA)溶液(以下、「DNP-HSA溶液」と呼ぶ。)を滅菌タイロード緩衝液で16,000倍希釈(0.625 μg/mL)した。
【0034】
10分後、上記の16,000倍希釈(0.625 μg/mL)したDNP-HSA溶液を、上記の10分間培養後の96ウェル培養プレートに対して、培地中の最終のDNP-HSA溶液濃度が48.1 ng/mLとなる様に、それぞれ10 μL/wellずつ添加した。
この96ウェル培養プレートを用いて、温度37℃、5%CO2条件で、30分間、培養器内で培養した。
なお、ウェル内の溶液全量は130 μLであった。
【0035】
また、以降の操作は、全てクリーンベンチ外で実施した。
【0036】
上記の培養中に、次の試薬の調製を実施した。
(1)0.1% Triton X-100 -タイロード緩衝液の調製
HEPES( 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)4.77 g、NaCl 7.89 g、KCl 0.37 g、CaCl2・2H2O 0.26 g、MgCl2・6H2O 0.20 g、グルコース 1.01 g、およびBSA 0.50 gを蒸留水に溶解させた後、水酸化ナトリウムを用いてpH 7.4に調整し、蒸留水で1Lの体積に合わせ、タイロード緩衝液(20 mM HEPES( 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、135 mM NaCl、5 mM KCl、1.8 mM CaCl2、1 mM MgCl2、5.6 mM グルコース、および0.05%BSA)を調製した。タイロード緩衝液10 mLで10 mgのTriton X-100(シグマアルドリッチ製、製品番号T9284)を希釈し、0.1% Triton X-100 -タイロード緩衝液を調製した。
【0037】
(2)基質溶液
基質としてp-nitrophenyl-2-acetoamid-2deoxy-β-D-glucopyranoside(ナカライテスク株式会社製、製品番号24937-81)を100 mMクエン酸緩衝液(pH 4.5)に溶解して、3.3 mM基質溶液を得た(10 mLの100 mMクエン酸緩衝液に、11.3 mgの基質を溶解した)。
【0038】
培養器から温度37℃、5%CO2条件で、30分間、培養器内で培養した、ウェル内の溶液全量が130 μLの96ウェル培養プレートを取り出し、10分間氷上に静置して、脱顆粒反応を停止させた。
【0039】
10分間氷上に静置後の各130 μLの培養上清を、別の空のウェルまたは別の96ウェル培養プレートに移した。
【0040】
図2は、細胞破砕液と、培養上清を別の空のウェルに移した状態の96ウェル培養プレートを説明するための模式図である。
ここで
図2に例示されるように、参照符号120で示される96ウェル培養プレートのうち、縦AからHまでの8行と、横1から6までの6列に細胞破砕液が配置され、参照符号140で示される縦AからHまでの8行と、横7から12までの6列に移された培養上清が配置されている。それ以外の操作は上記の説明の通りである。
【0041】
培養上清除去後のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に対して、先に調製した0.1% Triton X-100 -タイロード緩衝液を130 μL/wellの割合で入れた。
次に氷冷しながら0.1% Triton X-100 -タイロード緩衝液を130 μL/well入れたラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に対して超音波破砕を実施し、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を破壊した。これを細胞破砕液とする。
1ウェル当たりの超音波破砕時間は5秒である。
【0042】
新しく準備した、清浄な96ウェル培養プレートに、4行6列の24ウェルを一つの単位として、培養上清を2単位および細胞破砕液を2単位に、それぞれ50μLずつ入れ、恒温室で、温度37℃で5分間保温した。
【0043】
次に、反応停止液として、2Mグリシン緩衝液を準備した。また基質溶液は上記の(2)で準備したものを使用した。
図3は、細胞破砕液と細胞上清に対する(a)から(d)の4通りの操作に使用した96ウェル培養プレートを説明するための模式図である。
図3で、それぞれ、左上が参照符号(a)、右上が参照符号(b)、左下が参照符号(c)および右下が参照符号(d)の関係になっている。
上記の4列6行の24ウェルを一つの単位とした4単位分の各ウェルに対して、下記の(a)から(d)の4通りの操作を実施した。
【0044】
(a)細胞破砕液(50 μL)に対して基質溶液100 μL/wellを追加
(b)細胞破砕液(50 μL)に対して反応停止液100 μL/wellを追加
(c)細胞上清(50 μL)に対して基質溶液100 μL/wellを追加
(d)細胞上清(50 μL)に対して反応停止液100 μL/wellを追加
これらの(a)から(d)に対して、恒温室で、温度37℃で25分間保温した。
【0045】
次に、上記の(a)から(d)に対して、下記の通り基質溶液または反応停止液を下記の通り100 μL/well添加して、酵素反応を停止させた。
(a)反応停止液100 μL/wellを添加
(b)基質溶液100 μL/wellを添加
(c)反応停止液100 μL/wellを添加
(d)基質溶液100 μL/wellを添加
【0046】
(-)-ネオエキヌリンAが吸光分析の際に、415 nmに吸収領域を持つ可能性があるため、反応停止液を入れた後に基質溶液を加えた条件である(b)(d)の吸光度を測定し、酵素反応におけるブランク(β-ヘキソサミニダーゼの放出率を算出するために、ネオエキヌリンAなど他の試薬の影響を除いて補正するための吸光度値)とした。
【0047】
次にマイクロプレートリーダー(バイオラッド社製、製品名:iMarkマイクロプレートリーダー、型番:1681135JA)を用いて、それぞれの上記(a)から(d)のウェルの415 nmの吸光度を測定した。
【0048】
ウェル条件とβ‐ヘキソサミニダーゼ放出率の計算式中の吸光度の表記対応表は次の通りである。
【表2】
【0049】
β-ヘキソサミニダーゼの放出率を以下の式により算出した。
【数1】
ここで、Aは各ウェルにおける吸光度の値を示す。
【0050】
結果を
図4に示す。
図4は、コントロールを基準とした、相対的な顆粒中に含まれるβ-ヘキソサミニダーゼの放出率を示すグラフである。
参照符号10は、(-)-ネオエキヌリンAを使用した場合である。参照符号20は、コントロールであり、参照符号30はブランクである。
図4に示される通り、(-)-ネオエキヌリンAは、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に対して、0.25~1.0 mMの濃度で、脱顆粒抑制を示すことが示された。
【0051】
[細胞毒性試験]
細胞毒性試験に使用した器具は次の通りである。
遠心分離には、滅菌した15 mL遠心管、接着用に100 mmディッシュおよび96ウェル培養プレートを使用した。
【0052】
また試薬として使用したDMEM、FBS、滅菌PBS、トリプシンとエチレンジアミン四酢酸の混合水溶液(トリプシン0.25%、エチレンジアミン四酢酸0.02%)、モノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液、DNP-HSA溶液および滅菌タイロード緩衝液はそれぞれ先に例示した場合と同様である。
細胞計数試薬として、Cell Count Reagent SF(ナカライテスク株式会社製)を使用した。
【0053】
[滅菌タイロード緩衝液(pH 7.4)の調製]
細胞毒性試験に使用した滅菌タイロード緩衝液(pH 7.4)の調製は、先に説明した場合と同様である。
【0054】
[播き込みとIgE感作]
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を10%FBS-DEME培地中に4.0×104 cells/mlの濃度になるように調整した細胞懸濁液を100mmディッシュに10ml入れ、4.0×105 cells/dishで37℃、5%CO2条件で培養した。48時間後にラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞が最初の状態(4.0×105 cells/dish)から100mmディッシュ中に70から80%増殖したことを目視で確認することができた。
滅菌した15 mL遠心管に、ウシ胎児血清(FBS、シグマアルドリッチ社製、製品名non-USA origin, sterile-filtered, suitable for cell culture)を1 mLおよびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を7 mL加え、混合液Aを調製した。
DMEM培地はDMEM(シグマアルドリッチ社製、製品番号D5648) 13.4 g、NaHCO3(富士フィルム和光純薬社製、製品番号191-01305) 3.7 g、ストレプトマイシン(シグマアルドリッチ社製、製品番号S9137) 0.1 g、ペニシリン(シグマアルドリッチ社製、製品番号P7794) 0.0625 gを1 Lの蒸留水に溶解した後、加圧蒸気滅菌済ハウジングでろ過滅菌して調製した。
【0055】
100mmディッシュに70~80%増殖したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞の細胞上清を吸引除去した後、滅菌処理後のリン酸緩衝液(滅菌PBS)を10 mL添加して、軽くディッシュを揺らしてラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
【0056】
滅菌PBSを吸引除去し、混合水溶液(0.25%トリプシン、0.02%エチレンジアミン四酢酸)1 mLと、滅菌PBS 1 mLとを、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、2分間、37℃、5%CO2条件で保温した。
【0057】
混合液Aを上記の2分間保温後のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、ピペットで吸い上げ操作と注入操作を繰り返して、100mmディッシュに密着したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を剥がして、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁溶液を得た。
【0058】
上記のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞濁溶液を15 mL遠心管に回収し、1000 rpm、5分間の条件で遠心分離した。
【0059】
遠心分離後、15 mL遠心管内の上清を吸引除去し、血球計算盤またはセルカウンターを用いて4.0×105 cells/mLとなるように、10% FBS-DMEM溶液を加えて、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を調製した。
【0060】
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を96ウェル培養プレートに、それぞれ100 μL/wellで播種した。
【0061】
500 μg/mLのモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液(シグマアルドリッチ社製、製品番号D8406)を10% FBS-DMEM溶液により5000倍希釈して、100 ng/mLとし、播種済みの上記96ウェル培養プレートに、それぞれ100 μL/wellで添加した。
培地中のモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液の終濃度は50ng/mLであり、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞は4.0×104 cells/wellである。
【0062】
続いて、温度37℃、5%CO2条件で、18~24時間、培養器で前培養を実施した。
【0063】
[抗原刺激から脱顆粒評価まで]
前培養の実施後、上記96ウェル培養プレート内の各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞上清を吸引除去した。
先に調製した滅菌タイロード緩衝液を、上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに200 μL/wellでゆっくり添加し、各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
この洗浄を2回繰り返した。
【0064】
(-)-ネオエキヌリンAをジメチルスルホキシド(DMSO)で200 mMになるように溶解した。(-)-ネオエキヌリンAの200 mM溶液を20としてDMSOで21、22、および23倍にそれぞれ希釈した。ネオエキヌリンA200 mM溶液の20、21、22、および23倍希釈液を滅菌タイロード緩衝液に0.5%添加して0.125 mM、0.25 mM、0.5 mM、および1 mMの濃度に調製した。
上記96ウェル培養プレート内の滅菌タイロード緩衝液を吸引除去した後、滅菌タイロード緩衝液で0.125 mM、0.25 mM、0.5 mM、および1 mMの濃度に調製した各濃度の溶液を3ウェルずつ120 μL/wellになるように添加した。ブランク(DNP-HSAによる抗原刺激なし条件)、コントロール(DNP-HSAによる抗原刺激あり条件)はDMSOを滅菌タイロード緩衝液に0.5%添加した溶液をそれぞれ3ウェルずつ120 μL/wellになるように添加した。
【0065】
続いて、それぞれの96ウェル培養プレートを用いて、温度37℃、5%CO2条件で、培養器内で10分間培養した。
【0066】
この培養の間に、10 mg/mLのジニトロフェニル(DNP)-ヒト血清アルブミン(HSA)溶液(以下、「DNP-HSA溶液」と呼ぶ。)を滅菌タイロード緩衝液で16,000倍希釈(0.625 μg/mL)した。
【0067】
10分後、上記の16,000倍希釈(0.625 μg/mL)したDNP-HSA溶液を、上記の10分間培養後の96ウェル培養プレートに対して、培地中の最終のDNP-HSA溶液濃度が48.1 ng/mLとなる様に、それぞれ10 μL/wellずつ添加した。
この96ウェル培養プレートを用いて、温度37℃、5%CO2条件で、30分間、培養器内で培養した。
なお、ウェル内の溶液全量は130 μLであった。
【0068】
上記の培養中に、細胞計数試薬として、Cell Count Reagent SF(ナカライテスク株式会社製、製品名:WST-8)を10%含むDMEM溶液を調製した(10% WST-8-DMEMとする)。WST(water-soluble tetrazolium)は水溶性テトラゾリウムのことで、細胞の生存率を測定するために使用している。本試験ではWST-8を用いてRBL-2H3細胞の細胞生存率を測定して細胞毒性を評価している。
【0069】
96ウェル培養プレートを用いた温度37℃、5%CO2条件下の30分間の培養後、細胞上清を吸引除去し、DMEMを上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに200 μL/wellでゆっくり添加し、各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
【0070】
上記96ウェル培養プレート内の各ウェルからDMEMを吸引除去後、先に調製した10% WST-8-DMEMを記96ウェル培養プレート内の各ウェルに100 μL/wellずつ添加し、温度37℃、5%CO2条件で、20分間、培養器内で培養した。
【0071】
先の場合と同様、マイクロプレートリーダーを用いて450 nm(リファレンス:655 nm)の吸光度を測定した。
【0072】
結果を
図5に示す。
図5は、WST-8法により評価した細胞毒性の評価結果を示すグラフである。
参照符号12は、(-)-ネオエキヌリンAを使用した場合である。参照符号22は、コントロールであり、参照符号32はブランクである。
ここでブランクは、DNP-HSAによる抗原刺激なしで、RBL-2H3細胞の脱顆粒を誘導しない条件を意味する。またコントロールは、DNP-HSAによる抗原刺激ありで、RBL-2H3細胞の脱顆粒を誘導した条件を意味する。また、(-)-ネオエキヌリンAを使用した場合とは、DNP-HSAによる抗原刺激ありの場合を示す。RBL-2H3細胞の脱顆粒を誘導した条件で(-)-ネオエキヌリンAを添加し、ブランク、コントロールのβ‐ヘキソサミニダーゼ放出率を比較対照にして脱顆粒が抑制されるかどうかを評価した。
図5に示される通り、(-)-ネオエキヌリンAは、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に対して、0.25~1.0 mMの濃度で、毒性を示さないことが示された。
【0073】
[細胞内カルシウムイオン濃度測定結果概要]
次に、(-)-ネオエキヌリンAが脱顆粒を抑制する作用機構を明らかにするため、細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度に及ぼす影響を検討した。
(-)-ネオエキヌリンAを1 mMの濃度で添加したところ、抗原誘導性の細胞内Ca2+の濃度の上昇が、(-)-ネオエキヌリンAにより抑制される結果となった。
【0074】
[細胞内カルシウムイオン濃度測定]
細胞内カルシウムイオン濃度測定に使用した器具は次の通りである。
遠心分離には、滅菌した15 mL遠心管、接着用に100 mmディッシュおよび96ウェル培養プレートを使用した。96ウェル培養プレートは黒色のものを使用した。
【0075】
また試薬として使用したDMEM、FBS、滅菌PBS、トリプシンとエチレンジアミン四酢酸の混合水溶液(トリプシン0.25%、エチレンジアミン四酢酸0.02%)、モノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液(シグマアルドリッチ社製)およびDNP-HSA溶液(シグマアルドリッチ社製)はそれぞれ先に例示した場合と同様である。
【0076】
加えて細胞内カルシウムイオン測定試薬として、Fluo 3-AM(1-[2-Amino-5-(2,7-dichloro-6-acetoxymethoxy-3-oxo-9-xanthenyl)phenoxy]-2-(2-amino-5methylphenoxy)ethane-N,N,N',N'-tetraacetic acid,tetra(acetoxymethyl)ester))(株式会社同仁化学研究所製)、2倍レコーディングミディアム(下記[2倍レコーディングミディアムの調製]参照)、プロベネシド(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品番号165-15472)およびクレモフォール EL(ナカライテスク株式会社製)を使用した。
【0077】
[2倍レコーディングミディアムの調製]
HEPES( 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid) 9.53 g、NaCl 13.44 g、KCl 0.81 g、CaCl2・2H2O 0.53 g、MgCl2・6H2O 0.33 g、グルコース 4.972 gを蒸留水に溶解後、蒸留水で1Lの体積に合わせ、2倍レコーディングミディアム(40 mM HEPES、230 mM NaCl、1.6 mM MgCl2、10.8 mM KCl、3.6 mM CaCl2、および27.6 mM グルコース)を調製した。
2倍レコーディングミディアムの調製には、同人化学研究所社のウェブサイト(Dojindo、https://www.dojindo.co.jp/)を参照した。
【0078】
[播き込みとIgE感作]
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を10%FBS-DEME培地中に4.0×104 cells/mlの濃度になるように調整した細胞懸濁液を100mmディッシュに10ml入れ、4.0×105 cells/dishで37℃、5%CO2条件で培養した。
48時間後にラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞が最初の状態(4.0×105 cells/dish)から100mmディッシュ中に70から80%増殖したことを目視で確認することができた。
滅菌した15 mL遠心管に、ウシ胎児血清(FBS、シグマアルドリッチ社製、製品名non-USA origin, sterile-filtered, suitable for cell culture)を1 mLおよびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を7 mL加え、混合液Aを調製した。
DMEM培地はDMEM(シグマアルドリッチ社製、製品番号D5648) 13.4 g
、NaHCO3(富士フィルム和光純薬社製、製品番号191-01305) 3.7 g、ストレプトマイシン(シグマアルドリッチ社製、製品番号S9137) 0.1 g、ペニシリン(シグマアルドリッチ社製、製品番号P7794) 0.0625 g gを1 Lの蒸留水に溶解した後、加圧蒸気滅菌済ハウジングでろ過滅菌して調製した。
【0079】
100mmディッシュに70~80%増殖したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞の細胞上清を吸引除去した後、滅菌処理後のリン酸緩衝液(滅菌PBS)を10 mL添加して、軽くディッシュを揺らしてラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
【0080】
滅菌PBSを吸引除去し、混合水溶液(0.25%トリプシン、0.02%エチレンジアミン四酢酸)1 mLと、滅菌PBS 1 mLとを、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、2分間、37℃、5%CO2条件で保温した。
【0081】
混合液Aを上記の2分間保温後のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、ピペットで吸い上げ操作と注入操作を繰り返して、100mmディッシュに密着したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を剥がして、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁溶液を得た。
【0082】
上記のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞濁溶液を15 mL遠心管に回収し、1000 rpm、5分間の条件で遠心分離した。
【0083】
遠心分離後、15 mL遠心管内の上清を吸引除去し、血球計算盤またはセルカウンターを用いて4.0×105 cells/mLとなるように、10% FBS-DMEM溶液を加えて、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を調製した。
【0084】
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を96ウェル培養プレートに、それぞれ100 μL/wellで播種した。
【0085】
500 μg/mLのモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液(シグマアルドリッチ社製、製品番号D8406)を10% FBS-DMEM溶液により5000倍希釈して、100 ng/mLとし、播種済みの上記96ウェル培養プレートに、それぞれ100 μL/wellで添加した。
培地中のモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液の終濃度は50ng/mLであり、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞は4.0×104 cells/wellである。
【0086】
続いて、温度37℃、5%CO2条件で、18~24時間、培養器で前培養を実施した。
【0087】
[抗原刺激から細胞内カルシウムイオン濃度測定まで]
下記の表の配合通り、ローディング緩衝液とレコーディングミディアムを調製した。
(1)ローディング緩衝液
【表3】
【0088】
【0089】
[抗原刺激から脱顆粒評価まで]
前培養の実施後、上記96ウェル培養プレート内の各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞上清を吸引除去した。
先に調製した2倍レコーディングミディアムを滅菌した蒸留水で2倍希釈して1倍レコーディングミディアムとした。1倍レコーディングミディアムを、上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに200 μL/wellでゆっくり添加し、各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
この洗浄を2回繰り返した。
【0090】
1倍レコーディングミディアムを吸引除去した後、ローディング緩衝液を上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに100 μL/wellずつ添加し、温度37℃、5%CO2条件で、培養器内で1時間培養した。
【0091】
この培養の間に、10 mg/mLのモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-ヒト血清アルブミン(HSA)溶液(以下、「DNP-HSA溶液」と呼ぶ。)を1倍レコーディングミディアムで16,000倍希釈(0.625 μg/mL)した。
【0092】
1時間後、培養器内で1時間培養した96ウェル培養プレート内の各ウェルのローディング緩衝液の上清を吸引除去した。
次に、先に調製した1倍レコーディングミディアムを、上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに200 μL/wellでゆっくり添加し、各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
この洗浄を2回繰り返した。
【0093】
(-)-ネオエキヌリンAをジメチルスルホキシド(DMSO)で200 mMになるように溶解して(-)-ネオエキヌリンAの200 mM溶液を調製した。(-)-ネオエキヌリンAの200 mM溶液を表4の処方により調製したレコーディングミディアムに0.5%添加し、1 mMの(-)-ネオエキヌリンA溶液を調製した。
上記96ウェル培養プレート内の各ウェルの1倍レコーディングミディアムを吸引除去後、1 mMの濃度に調製した(-)-ネオエキヌリンAを上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに100 μL/wellずつ添加した。ブランク(DNP-HSAによる抗原刺激なし条件)、コントロール(DNP-HSAによる抗原刺激あり条件)はDMSOを表4で調製したレコーディングミディアムに0.5%添加した溶液を100 μL/wellになるように添加した。蛍光プレートリーダー(Tecan社製、製品名:蛍光マイクロプレートリーダー Infinite F200 Pro)で温度37℃、10分間保温した。
【0094】
次に、蛍光プレートリーダー(Tecan社製、製品名:蛍光マイクロプレートリーダー Infinite F200 Pro)で、抗原刺激前(0秒)の蛍光強度を測定した(λex = 485nm、 λem = 535nm)。
【0095】
先に調製したDNP-HSA溶液を上記96ウェル培養プレート内の各ウェルに10 μL/wellずつ添加し、蛍光プレートリーダーで10秒ずつ、60秒まで測定した。ブランク(DNP-HSAによる抗原刺激なし条件)のウェルにはDNP-HSA溶液のかわりに1倍レコーディングミディアムを10 μL/wellずつ添加した。
【0096】
結果を
図6に示す。
図6は、(-)-ネオエキヌリンAの細胞内カルシウムイオン濃度に及ぼす影響を示すグラフである。
参照符号14は、(-)-ネオエキヌリンAを使用した場合である。参照符号24はコントロールであり、参照符号34はブランクである。
ここでブランクは、DNP-HSAによる抗原刺激なしで、RBL-2H3細胞の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を誘導しない条件を意味する。またコントロールは、DNP-HSAによる抗原刺激ありで、RBL-2H3細胞の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を誘導する条件を意味する。また、(-)-ネオエキヌリンAを使用した場合とは、DNP-HSAによる抗原刺激ありの場合を示す。RBL-2H3細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる条件で(-)-ネオエキヌリンAを添加し、ブランク、コントロールのカルシウムイオン濃度(相対蛍光強度で評価)を比較対照にしてカルシウムイオン濃度の上昇が抑制されるかどうかを評価した。
図6の縦軸は、相対蛍光強度であり、横軸は反応時間(秒)である。
図6に示される通り、(-)-ネオエキヌリンAは、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に対して、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が抑えられることが確認された。
【0097】
[ウェスタンブロッティング法の概要]
シグナル伝達因子に与える(-)-ネオエキヌリンAの影響についてウェスタンブロッティング法を用いて検討した。(-)-ネオエキヌリンAは1 mMの濃度で添加した。
【0098】
[ウェスタンブロッティング法]
ウェスタンブロッティング法に使用した器具は次の通りである。
遠心分離には、滅菌した15 mL遠心管、接着用に100 mmディッシュおよび
6ウェル培養プレートを使用した。
【0099】
また試薬として使用したDMEM、FBS、滅菌PBS、トリプシンとエチレンジアミン四酢酸の混合水溶液(トリプシン0.25%、エチレンジアミン四酢酸0.02%)、モノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液、DNP-HSA溶液および滅菌タイロード緩衝液はそれぞれ先に例示した場合と同様である。
【0100】
核内タンパク質抽出キットとして、CelLutic NuCLEAR抽出キット(シグマアルドリッチ社製)、細胞内タンパク質分離用ゲルとして、ミニプロティアンTGXゲル(バイオラッド社製)、タンパク質の膜への転写キットとして、トランスブロットTurbo転写パック PVDF(バイオラッド社製)、電気泳動分子量確認マーカーとして、プレシジョン プラス プロテイン プレステイン スタンダード(バイオラッド社製)、ブロッキング剤として、ブロッキングワン(ナカライテスク株式会社製)、抗体として、各一次抗体(セルシグナリングテクノロジー社製)、二次抗体として、抗ウサギIgG-HRP結合抗体(セルシグナリングテクノロジー社製)を使用した。
【0101】
[滅菌タイロード緩衝液(pH 7.4)の調製]
細胞毒性試験に使用した滅菌タイロード緩衝液(pH 7.4)の調製は、先に説明した場合と同様である。
【0102】
[播き込みとIgE感作]
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を10%FBS-DEME培地中に4.0×104 cells/mlの濃度になるように調整した細胞懸濁液を100mmディッシュに10ml入れ、4.0×105 cells/dishで37℃、5%CO2条件で培養した。48時間後にラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞が最初の状態(4.0×105 cells/dish)から100mmディッシュ中に70から80%増殖したことを目視で確認することができた。
滅菌した15 mL遠心管に、ウシ胎児血清(FBS、シグマアルドリッチ社製、製品名non-USA origin, sterile-filtered, suitable for cell culture)を1 mLおよびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を7 mL加え、混合液Aを調製した。
DMEM培地はDMEM(シグマアルドリッチ社製、製品番号D5648) 13.4 g、NaHCO3(富士フィルム和光純薬社製、製品番号191-01305) 3.7 g、ストレプトマイシン(シグマアルドリッチ社製、製品番号S9137) 0.1 g、ペニシリン(シグマアルドリッチ社製、製品番号P7794) 0.0625 gを1 Lの蒸留水に溶解した後、加圧蒸気滅菌済ハウジングでろ過滅菌して調製した。
【0103】
100mmディッシュに70~80%増殖したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞の細胞上清を吸引除去した後、滅菌処理後のリン酸緩衝液(滅菌PBS)を10 mL添加して、軽くディッシュを揺らしてラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
【0104】
滅菌PBSを吸引除去し、混合水溶液(0.25%トリプシン、0.02%エチレンジアミン四酢酸)1 mLと、滅菌PBS 1 mLとを、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、2分間、37℃、5%CO2条件で保温した。
【0105】
混合液Aを上記の2分間保温後のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞に加えて、ピペットで吸い上げ操作と注入操作を繰り返して、100mmディッシュに密着したラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を剥がして、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁溶液を得た。
【0106】
上記のラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞濁溶液を15 mL遠心管に回収し、1000 rpm、5分間の条件で遠心分離した。
【0107】
遠心分離後、15 mL遠心管内の上清を吸引除去し、血球計算盤またはセルカウンターを用いて4.0×105 cells/mLとなるように、10% FBS-DMEM溶液を加えて、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を調製した。
【0108】
ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞懸濁液を6ウェル培養プレートに、それぞれ1mL/wellで播種した。
【0109】
500 μg/mLのモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液(シグマアルドリッチ社製、製品番号D8406)を10% FBS-DMEM溶液により5000倍希釈して、100 ng/mLとし、播種済みの上記6ウェル培養プレートに、それぞれ1mL/wellで添加した。
培地中のモノクローナル抗ジニトロフェニル(DNP)-IgE溶液の終濃度は50ng/mLであり、ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞は4.0×105 cells/wellである。
【0110】
続いて、温度37℃、5%CO2条件で、18~24時間、培養器で前培養を実施した。
【0111】
[抗原刺激からタンパク質抽出まで]
前培養の実施後、上記6ウェル培養プレート内の各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞上清を吸引除去した。
先に調製した滅菌タイロード緩衝液を、上記6ウェル培養プレート内の各ウェルに2 mL/wellでゆっくり添加し、各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
この洗浄を2回繰り返した。
【0112】
(-)-ネオエキヌリンAをジメチルスルホキシド(DMSO)で200 mMになるように溶解して(-)-ネオエキヌリンAの200 mM溶液を調製した。(-)-ネオエキヌリンAの200 mM溶液を滅菌タイロード緩衝液に0.5%添加し、1 mMの(-)-ネオエキヌリンA溶液を調製した。滅菌タイロード緩衝液を吸引除去した後、滅菌タイロード緩衝液に溶解させた1 mMの(-)-ネオエキヌリンA溶液を、上記6ウェル培養プレート内の各ウェルに1.9 mL/wellずつ添加した。ブランク(DNP-HSAによる抗原刺激なし条件)、コントロール(DNP-HSAによる抗原刺激あり条件)はDMSOを滅菌タイロード緩衝液に0.5%添加した溶液を6ウェル培養プレート内の各ウェルに1.9 mL/wellずつ添加した。
【0113】
続いて、それぞれの6ウェル培養プレートを用いて、温度37℃、5%CO2条件で、培養器内で10分間培養した。
【0114】
この培養の間に、10 mg/mLのジニトロフェニル(DNP)-ヒト血清アルブミン(HSA)溶液(以下、「DNP-HSA溶液」と呼ぶ。)を滅菌タイロード緩衝液で10,000倍希釈(1 μg/mL)した。
【0115】
10分後、上記の10,000倍希釈(1 μg/mL)したDNP-HSA溶液を、上記の10分間培養後の6ウェル培養プレートに対して、培地中の最終のDNP-HSA溶液濃度が50 ng/mLとなる様に、それぞれ0.1 mL/wellずつ添加した。
この6ウェル培養プレートを用いて、温度37℃、5%CO2条件で、5分間、培養器内で培養した。
なお、ウェル内の溶液全量は2 mLであった。
【0116】
5分後、培養後の6ウェル培養プレートの各ウェルの上清を吸引除去し、滅菌PBSを2 mL/wellずつゆっくり添加し、各ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞を洗浄した。
【0117】
CelLutic NuCLEAR抽出キット(シグマアルドリッチ社製)に指定された操作手順に従い、細胞内タンパク質を抽出した。
【0118】
4~15%ミニプロティアンTGXゲル(15ウェル)に、電気泳動分子量確認マーカーを3 μLずつ、各細胞タンパク質を10 μLずつ添加し、150 V定電圧で1時間ほど電気泳動を行った。
【0119】
電気泳動後、トランスブロットTurbo転写システム(バイオラッド社、製品番号1704150J1)を用いてPVDF膜に細胞内タンパク質を転写した。
転写膜としての各PVDF膜1枚につき、10 mLのブロッキング剤(ブロッキングワン、ナカライテスク株式会社製)を用い、室温で30分間ブロッキングした。
【0120】
[0.1% Tween-20-TBSの調製方法]
Tris Base 24.2 g、NaCl 80 gを蒸留水に溶解し、HClでpH7.6に調整後、蒸留水で1Lの体積に合わせて、10倍TBS(Tris-buffered saline)を調製した。10倍TBSを蒸留水で10倍希釈し、Tween-20を0.1%の濃度で添加して0.1% Tween-20-TBSを調製した。0.1% Tween-20-TBS(t-TBS)は本試験でウェスタンブロッティングに用いている緩衝液である。
0.1% Tween-20-TBSを10 mL/膜でゆっくり添加し、3分間洗浄した。
この操作を三回繰り返した。
【0121】
5%BSA-t-TBSを用いて1000倍に希釈した各1次抗体に転写膜を浸け、4℃で終夜振とうしながら反応させた。
【0122】
【0123】
一次抗体の反応後、0.1% Tween-20-TBSを10 mL/膜でゆっくり添加し、3分間洗浄した。
この操作を三回繰り返した。
【0124】
5%スキムミルク-t-TBSを用いて1000倍に希釈した二次抗体としての抗ウサギIgG-HRP結合抗体(セルシグナリングテクノロジー社製)に転写膜を浸け、室温で1時間振とうしながら反応させた。
【0125】
【0126】
二次抗体の反応後、0.1% Tween-20-TBSを10 mL/膜でゆっくり添加し、3分間洗浄した。
この操作を三回繰り返した。
【0127】
イムノスタ-LD(富士フイルム和光純薬株式会社製)の発光液にPVDF膜のタンパク質結合面を下にして接触させ、30秒間反応させた。
【0128】
ChemiDoc XRSシステム(バイオラッド社製)により、目的タンパク質の発光を確認した。
【0129】
結果を
図7に示す。
図7は、シグナル伝達因子に与える(-)-ネオエキヌリンAの影響を調べるためのウエスタンブロッティングの結果を示す図面代用写真である。
参照符号Blankはブランク、参照符号Controlはコントロールおよび参照符号NeoAは(-)-ネオエキヌリンAを含む場合を示す。以下、同様である。
ここでブランクは、DNP-HSAによる抗原刺激なしで、脱顆粒誘導に関わるキナーゼ(Lyn、Sky、PI3Kp38およびAkt)のリン酸化を誘導しない条件を意味する。またコントロールは、DNP-HSAによる抗原刺激ありで、脱顆粒誘導に関わるキナーゼ(Lyn、Sky、PI3Kp38、Akt)のリン酸化を誘導する条件を意味する。また、(-)-ネオエキヌリンAを使用した場合とは、DNP-HSAによる抗原刺激ありの場合を示す。脱顆粒誘導に関わるキナーゼ(Lyn、Sky、PI3Kp38、Akt)のリン酸化を誘導する条件で(-)-ネオエキヌリンAを添加し、ブランク、コントロールのLyn、Sky、PI3Kp38、Aktのリン酸化割合を比較対照にして、(-)-ネオエキヌリンAがキナーゼのリン酸化を抑制するかどうかを評価した。この関係は、以下の
図8から
図11の場合もそれぞれ同様である。
また
図7中のLynは非受容体型チロシンキナーゼを、p-Lynはリン酸化非受容体型チロシンキナーゼを、Sykは非受容体型チロシンキナーゼを、p-Sykはリン酸化非受容体型チロシンキナーゼをそれぞれ示す。
PI3K p85は、脂質キナーゼサブユニットを示し、p-PI3K p85はリン酸化脂質キナーゼサブユニットを示す。
Aktはセリン/スレオニンキナーゼを示し、p-Aktはリン酸化セリン/スレオニンキナーゼを示す。また、Actinは、タンパク質のアクチンを示す。
以下の場合も同様である。
【0130】
図8は、Lyn(非受容体型チロシンキナーゼの一種)のリン酸化において、Lynに対するP-Lyn(Sykをリン酸化するリン酸化非受容体型チロシンキナーゼ)の割合を示すグラフである。
図9は、Syk(P-Lynによりリン酸化を受ける非受容体型チロシンキナーゼ)のリン酸化において、Sykに対するP-Syk(P-Lynによってリン酸化されたリン酸化非受容体型チロシンキナーゼ)の割合を示すグラフである。
図10は、PI3K(Phosphoinositide3-kinase、脂質キナーゼ)のリン酸化において、PI3Kに対するP-PI3K(リン酸化脂質キナーゼ)の割合を示すグラフである。
図11は、Akt(セリン/スレオニンキナーゼ)のリン酸化において、Aktに対するP-Akt(リン酸化セリン/スレオニンキナーゼ)の割合を示すグラフである。
【0131】
その結果、(-)-ネオエキヌリンAは脱顆粒シグナルの上流に位置する非受容体型チロシンキナーゼであるLynの活性化には影響せず、その下流にある非受容体型チロシンキナーゼであるSykのリン酸化を抑制することが確認された。また、セリン/スレオニンキナーゼであるAktのリン酸化レベルの低下も確認された。
これらのことから、(-)-ネオエキヌリンAはSykおよびAktシグナル伝達経路を下方制御することで細胞外からのCa2+流入を阻害し、脱顆粒を抑制することが示唆された。
本発明の脱顆粒抑制用(-)-ネオエキヌリンAは鰹節のカビ付けに用いられるAspergillus属やEurotium属によっても生産され安全性に優れることからアレルギーを抑える脱顆粒抑制用の用途に広く応用できる。
加えて、従来鰹節の用途に使用されてきた日本食等の食品添加用の用途にも供することができる。