(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095562
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】中空回転翼
(51)【国際特許分類】
B64C 27/473 20060101AFI20250619BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20250619BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20250619BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20250619BHJP
B64C 11/24 20060101ALI20250619BHJP
B64U 20/65 20230101ALI20250619BHJP
B64U 30/29 20230101ALI20250619BHJP
【FI】
B64C27/473
B29C70/68
B29C70/42
B64C1/00 B
B64C11/24
B64U20/65
B64U30/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211648
(22)【出願日】2023-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清家 聡
(72)【発明者】
【氏名】山中 雄介
(72)【発明者】
【氏名】唐木 琢也
(72)【発明者】
【氏名】若林 宏樹
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AC03
4F205AD05
4F205AD08
4F205AD16
4F205AD17
4F205AG03
4F205AG07
4F205AH31
4F205AR12
4F205AR15
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
4F205HM13
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】回転翼として必要な強度・剛性を確保しつつ安価に製造可能であり、回転翼全体として軽量で、省エネルギー化にも適した回転翼とできる。
【解決手段】繊維強化複合材料で成形された翼の上面を模る上面スキン、繊維強化複合材料で成形された翼の下面を模る下面スキン、および、前記上面スキンと下面スキンとの間に存在してこれらを支えるシアウェブとを有し、前記上面スキンと下面スキンはその内層側表面に前記シアウェブを嵌合させるための嵌合部および重ね合わせ時に噛み合う段差部を有し、前記シアウェブが前記嵌合部に嵌合されている中空回転翼とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料で成形された翼の上面を模る上面スキン、繊維強化複合材料で成形された翼の下面を模る下面スキン、および、前記上面スキンと下面スキンとの間に存在してこれらを支えるシアウェブとを有し、前記上面スキンと下面スキンはその内層側表面に前記シアウェブを嵌合させるための嵌合部および重ね合わせ時に噛み合う段差部を有し、前記シアウェブが前記嵌合部に嵌合されている中空回転翼。
【請求項2】
前記段差部の隣接する平面部分の2面角が90°を超えている、請求項1に記載の中空回転翼。
【請求項3】
前記嵌合部に発泡接着層を有し、該発泡接着層を介して前記シアウェブと前記上面スキンおよび下面スキンとが接着され、または、前記段差部に発泡接着層を有し、該発泡接着層を介して前記上面スキンと下面スキンとが接着されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の中空回転翼。
【請求項4】
前記発泡接着層の厚みが0.05mm以上0.4mm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の中空回転翼。
【請求項5】
前記嵌合部または段差部を構成する繊維強化複合材料に含まれる強化繊維は、不連続繊維であることを特徴とする、請求項1または2に記載の中空回転翼。
【請求項6】
前記嵌合部が不連続な強化繊維がその中に分散された熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる繊維強化複合材料で形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の中空回転翼。
【請求項7】
前記シアウェブはその上面視において屈曲部を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載の中空回転翼。
【請求項8】
スキンに含まれる強化繊維の体積含有率およびシアウェブに含まれる強化繊維の体積含有率が何れも嵌合部に含まれる強化繊維の体積含有率よりも10%以上大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載の中空回転翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空回転翼に関し、とくにUAM(Urban Air Mobility:都市型航空交通)用飛行体(いわゆる「空飛ぶクルマ」)に好適に用いることができる、中空回転翼に関する。
【背景技術】
【0002】
都市部の交通渋滞緩和や離島等への輸送手段の確保等を目的に、UAM用飛行体の開発が進められており、その過程で、UAM用飛行体向けの回転翼の設計をどのように行うかが課題の一つとなっている。
【0003】
従来の一般的な航空手段用回転翼は、セスナ機向けの航空機認定をとった高機能タイプと、ドローン向けの非認定/低コストタイプの2種類があるが、UAM用飛行体は比較的新しい分野であり、UAM用飛行体向けの回転翼はコスト面、信頼性面からどちらにも適合しないと考えられている。ただUAM用飛行体が都市部の上空を通過するものであることから、航空機に準ずる安全基準は設定されるものと考えられ、実際の設計に際しては、強度・剛性面やコスト面の要求に加え、軽量化や省エネルギー化の促進、さらに、性能上や成形上の改善が重要になると考えられる。
【0004】
上記のような観点から従来公知の回転翼を見渡してみると、例えば特許文献1~3が挙げられる。特許文献1には、炭素繊維に熱硬化性樹脂が含侵してなる表皮の内側に、熱硬化性樹脂が含浸してなる発泡体を含むコア部を有する無人航空機用回転翼が開示されている。特許文献2には、強化繊維と樹脂からなる複合材翼の背側部位と腹側部位との間に発泡剤を配置し、発泡剤を加熱膨張させて背側積層体と腹側積層体と内部発泡剤からなる複合材翼を成形する方法が開示されている。特許文献3には、第1、第2の複合繊維層間に配置された袋体を膨張させて風力タービン用の中空ブレードを成形する方法が開示されている。特許文献4、5には、スキンやシアウェブの嵌合箇所を含む風車用中空ブレード構造が開示されている。特許文献6には、上下スキンを接着・接合したヘリコプター用のローターブレード構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6971840号明細書
【特許文献2】特許第6789887号明細書
【特許文献3】特許第6066548号明細書
【特許文献4】特開2005-147086号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2020/0095978号
【特許文献6】欧州特許出願公開第2724847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に開示の構造や方法では、回転翼の内部が発泡体や発泡剤で構成されていることで、翼全体の軽量化がはかられているが、内部に設けられる発泡体や発泡剤は、翼成形後にもそのまま残されるため、軽量化には限界が生じることとなっており、軽量化の効果が不十分である。この点、特許文献3~6に開示の方法では、ブレードの内部が中空に形成されるためブレード全体の軽量化は可能であるが、風力タービンやヘリコプター用の中空ブレードであるため、UAM用飛行体向けの回転翼とは基本的にサイズ、用途、全体形状、構造が大きく異なり、UAM用飛行体向けの回転翼に適用することは困難である。
【0007】
本発明の課題は、とくにUAM用飛行体向けの回転翼に好適に適用でき、望ましい強度・剛性、安価なコストの要求に応えることが可能で、軽量化や省エネルギー化を促進可能であり、さらに、性能上や成形上の改善も可能な中空回転翼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のいずれかの手段を採用するものである。すなわち、
〔1〕 繊維強化複合材料で成形された翼の上面を模る上面スキン、繊維強化複合材料で成形された翼の下面を模る下面スキン、および、前記上面スキンと下面スキンとの間に存在してこれらを支えるシアウェブとを有し、前記上面スキンと下面スキンはその内層側表面に前記シアウェブを嵌合させるための嵌合部および重ね合わせ時に噛み合う段差部を有し、前記シアウェブが前記嵌合部に嵌合されている中空回転翼。
〔2〕 前記段差部の隣接する平面部分の2面角が90°を超えている、前記〔1〕に記載の中空回転翼。
〔3〕 前記嵌合部に発泡接着層を有し、該発泡接着層を介して前記シアウェブと前記上面スキンおよび下面スキンとが接着され、または、前記段差部に発泡接着層を有し、該発泡接着層を介して前記上面スキンと下面スキンとが接着されていることを特徴とする、前記〔1〕または〔2〕に記載の中空回転翼。
〔4〕 前記発泡接着層の厚みが0.05mm以上0.4mm以下であることを特徴とする、前記〔3〕に記載の中空回転翼。
〔5〕 前記嵌合部または段差部を構成する繊維強化複合材料に含まれる強化繊維は、不連続繊維であることを特徴とする、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の中空回転翼。
〔6〕 前記嵌合部が不連続な強化繊維がその中に分散された熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる繊維強化複合材料で形成されていることを特徴とする、前記〔5〕に記載の中空回転翼。
〔7〕 前記シアウェブはその上面視において屈曲部を有していることを特徴とする、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の中空回転翼。
〔8〕 スキンに含まれる強化繊維の体積含有率およびシアウェブに含まれる強化繊維の体積含有率が何れも嵌合部に含まれる強化繊維の体積含有率よりも10%以上大きいことを特徴とする、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の中空回転翼。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る中空回転翼によれば、回転翼として必要な強度・剛性を確保しつつ安価に製造可能であり、回転翼全体として軽量で、省エネルギー化にも適した回転翼とできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施態様に係る中空回転翼の概略上面図である。
【
図3】
図1のA-A´断面におけるリーディングエッジ部分の拡大図である。
【
図4】
図1のA-A´断面におけるトレーリングエッジ部分の拡大図である。
【
図5】本発明の別な実施態様におけるシアウェブの配置を説明する概略上面透視図である。
【
図6】本発明の別な実施態様におけるシアウェブの配置を説明する概略上面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
本発明の中空回転翼は、繊維強化複合材料で成形された翼の上面を模る上面スキン、繊維強化複合材料で成形された翼の下面を模る下面スキン、および、シアウェブを少なくとも有しており、また、前記上面スキンと下面スキンとは、内層側表面に前記シアウェブを嵌合させるための嵌合部および上面スキンと下面スキンとを重ね合わせた時に噛み合う段差部とを有している。なお、内層側表面とは、回転翼の外面からみて遠い方の側の表面である。
図1は、プロペラブレードとして用いられる本発明の中空回転翼の一実施態様を示している。
図1は中空回転翼1の上面図を示しており、紙面右側が先端部2a、紙面左側が根元部2bである。
【0013】
この中空回転翼1のA-A´断面(すなわち中空回転翼1の長手方向に直交する方向の断面)が
図2に示される。この中空回転翼1は、翼の上面を模る上面スキン3aと翼の下面を模る下面スキン3bとシアウェブ4とを有している。上面スキン3aは下面スキンを重ねあわせたときに噛み合う段差5aおよび6aとシアウェブ4を嵌合させるための嵌合部7aとを備えており、下面スキン3bは上面スキンに対応して、上面スキンを重ねあわせたときに噛み合う段差5b、6bとシアウェブ4を嵌合させるための嵌合部7bを備えている。嵌合部7aおよび7bが備えられていることでシアウェブ4の位置決めを容易にでき、また接合部の耐荷重を増すことができる。また、段差部5aと5bはトレーリングエッジ側、段差部6aと6bはリーディングエッジ側に配置され、それぞれ、相手方のスキンが重ね合わされたとき、段差面が密接するような形状を有して、位置決めを容易としている。
【0014】
図3は、
図2のトレーリングエッジ側の拡大図であり、
図4は、
図2のリーディングエッジ側の拡大図であり、上面スキンと下面スキンとは段差部分が噛み合っている。本発明においては、
図3や
図4に示すように段差部の隣接する平面部分の2面角(例えば、
図3中のα、
図4中のβ)が90°を超えている。すなわち、2面角が鋭角となる隣接する2面を有していない。そのような設計とすることで接合面積が増え剥離荷重を高めることができる。また、上面スキンと下面スキンとを重ね合わせて成形する際に容易に重ね合わせることができ成形性を向上することが可能となる。また、段差部(5a、5b、6a、6b)の存在により上下スキンの位置決めや接合を容易にすることができる。またリーディングエッジ側の段差部(6a、6b)は鳥などの飛来物が衝突した際の耐衝撃性能も有することが可能である。なお、図では段差部を複数の平面で表しているが、上面スキンと下面スキンが噛み合うことができれば、曲面が含まれたものであっても構わない。
【0015】
本発明において、上面スキンと下面スキンはシアウェブを嵌合させるための嵌合部を有している。この嵌合部における上面スキンまたは下面スキンとシアウェブとの隙間(すなわち距離)の下限は、0.05m以上であることが好ましく、0.07mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましい。0.05mm未満の場合、シアウェブが嵌合部にはまらず目的とする外形状を実現できないおそれがある。一方、前記の隙間の上限は0.4mm以下であることが好ましく、0.35mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましい。0.4mmを超えるとシアウェブの耐荷重が小さくなってしまい、シアウェブによる補剛効果を減殺して、目的とするプロペラブレードの機械的特性を実現できないおそれがある。
【0016】
本発明において、前記段差部分を含めた上面スキンと下面スキンとの接合、上面スキンとシアウェブとの接合、下面スキンとシアウェブとの接合の方法は融着や溶着による方法や接着剤を用いての方法が挙げられ、特に限定されるものではないが、接着剤による接着や熱可塑性樹脂による溶着などが適用できる。中でも成形時の熱で発泡し、2つの部材の隙間をしっかり埋めることが可能な発泡性接着剤を用いて接合が行われたものが好ましい。
【0017】
上面スキンおよび下面スキンの内層側表面に設けられた段差部および嵌合部は複雑な形状を有しているため、成形性の観点から不連続繊維によって強化された繊維強化複合材料で構成されていることが好ましい。不連続繊維の繊維長は50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましい。50mmを超えると繊維の存在確率が低い樹脂リッチな部分を発生して成形不良が発現する恐れがある。一方、不連続繊維の繊維長の下限は0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましい。0.1mm未満の場合、不連続繊維による補強効果が小さくて破壊の起点となるおそれがある。
【0018】
また、嵌合部は不連続な強化繊維がその中に分散された熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる繊維強化複合材料で形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の中空回転翼を構成する上面スキン、下面スキン、および、シアウェブは連続強化繊維によって強化された繊維強化複合材料で構成されていることが好ましい。ただし、先述したとおり、上面スキンおよび下面スキンにあっては、その段差部および嵌合部は、不連続繊維によって強化された繊維強化複合材料で構成されていることが好ましい。繊維強化複合材料の成分である強化繊維や樹脂については後述する。
【0020】
本発明の中空回転翼を構成するシアウェブが繊維強化複合材料で形成されている場合、スキンに含まれる強化繊維の体積含有率(Vfa)およびシアウェブに含まれる強化繊維の体積含有率(Vfb)は嵌合部に含まれる強化繊維の体積含有率(Vfc)よりも大きいことが好ましい。Vfa(体積%)、Vfb(体積%)とVfc(体積%)との差、具体的には(Vfa-Vfc)および(Vfa-Vfc)、は何れも10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。10%未満の場合、繊維未充填箇所が発生したり、所望の力学特性を得られない恐れがある。上限としては、特に制限はないが、50%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の中空回転翼は、上面スキンと下面スキンとで挟まれた空間に中空部を有するものであるが、その内部に形成される中空部(
図2の符号8a、8bを参照)は、中空部とすることで、内部に発泡剤や発泡体を含んだ構成に比べ回転翼全体がより軽量化され、それに伴って回転駆動動力の低減(例えば、駆動モータの小型化)も可能になるため、省エネルギー化の促進や機体の製造コストの低減も可能になる。また、中空回転翼1は樹脂と強化繊維からなる複合材で構成されるため、翼厚(翼の壁厚)を小さく抑えたとしても十分に高い強度・剛性の確保が可能であり、特に強化繊維として炭素繊維を使用する場合には、特に高い強度・剛性の確保が可能になる。中空部の容積は、翼全体の容積を100%としたとき、50%以上とすることが好ましい。一方で、十分な機械特性を具備せしめることに鑑みて、中空部の容積は、翼全体の容積を100%としたとき、80%以下とすることがすることが好ましい。
【0022】
本発明の中空回転翼の翼長は2m以下が好ましく、1.7m以下がより好ましく、1.5m以下がさらに好ましい。2mを超えると生産性に劣りコストアップに繋がる恐れがある。一方、翼長の下限は0.5m以上が好ましく、0.6m以上がより好ましく、0.7m以上がさらに好ましい。0.5m未満の場合、中空による軽量化効果が小さく、また、必要とされる揚力を得るにおいてコストアップに繋がる恐れがある。
【0023】
本発明の中空回転翼の翼根元部2bを起点とする翼長方向Xにおいて、翼長方向の位置0.2×Lから0.8×Lまでの範囲における任意の点の直交断面の翼厚方向中空部の中空比率は50%以上であることが好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。50%未満の場合、中空構造による軽量化の効果が小さくなる懸念がある。
【0024】
本発明に用いられるシアウェブの形状は、板状であることが好ましく、板状である場合に、その上面視における形状に特に制限はなく、直線状でも曲線状でも良いが、屈曲部を有していることが好ましい。なお、上面視とは、
図1、
図5および
図6に示すように、上側スキンの嵌合部から下側スキンの嵌合部に向かう方向である。
図5および
図6は、
図1の例とは異なるシアウェブの配置を示した例であり、また、
図5のシアウェブ4は屈曲部が折れ曲がっているジグザク線の形状、
図6のシアウェブ4は屈曲部が曲面である波形の形状の例である。シアウェブの上面視における形状は、中空回転翼の要求剛性や要求強度に応じて任意の形状を設計できる。
【0025】
また、中空回転翼においては、中空部内に、翼長方向に延びるシアウェブが1つ以上設けられていることが好ましく、この場合には、翼長方向の垂直断面でみたとき、シアウェブで仕切られた2つ以上の領域を認めることができる。
図2に示す例は、翼長方向に延在するシアウェブ4を有した例であり、断面図において2つの領域8a、8bを認めることができ、このようなシアウェブ4を設けることで回転翼の強度・剛性を全体的に増大させることが可能になる。翼長方向に延びるシアウェブの本数は中空回転翼の要求剛性や要求強度に応じて設定可能であるが、成形性やコストの観点から1本が好ましい。
【0026】
また、シアウェブは、中空回転翼の回転平面に垂直に平行光線を照射して得られる投影図に外接する面積が最小の長方形でみたとき、長辺方向(翼長方向)にあっては長辺の長さの70%以上に亘って存在していることが中空回転翼の剛性を高める観点から好ましい。また、短辺方向(翼幅方向)にあっては前記投影図に外接する面積が最小の長方形の短辺の長さの30%以上に亘って存在していることが好ましい。この場合において、複数のシアウェブを有する場合、長辺方向でシアウェブが占める割合は、シアウェブ全部の透視図を基に求めるものとする。また、嵌合部はシアウェブとスキンとの接面の全部をカバーするように存在していることが好ましい。
【0027】
以下、本発明の中空回転翼に使用される材料、および、中空回転翼の作製方法について例を挙げて説明する。
【0028】
<強化繊維>
本発明の中空回転翼を構成する繊維強化複合材料に用いられる繊維としては、強化の作用を奏する繊維であれば制限はないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維を用いることが好ましい。なかでも炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系の炭素繊維が力学特性の向上、軽量化効果の観点から好ましく使用でき、これらは1種または2種以上を併用しても良い。中でも、得られる中空回転翼の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。
【0029】
強化繊維の単繊維径は0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、4μm以上がさらに好ましい。また、強化繊維の単繊維径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。強化繊維のストランド強度は3.0GPa以上が好ましく、4.0GPa以上がより好ましく、4.5GPa以上がさらに好ましい。強化繊維のストランド弾性率は200GPa以上が好ましく、220GPa以上がより好ましく、240GPa以上がさらに好ましい。強化繊維のストランド強度または弾性率がそれぞれ、この範囲であれば、中空回転翼の力学特性を高めることができる。
【0030】
強化繊維は、連続繊維(長繊維)であっても不連続繊維(短繊維)であっても構わない。また、直交二軸織物、ノンクリンプファブリックやブレイディング基材などの多軸織物あるいは多軸編組織など、織物や編物の態様であっても構わない。
【0031】
<マトリックス樹脂>
本発明の中空回転翼を構成する繊維強化複合材料に用いられている樹脂は前記強化繊維を内包するマトリックス材料として用いられる。マトリックス樹脂としては特に限定されず、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いることが可能であり、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。また、これら樹脂をなす高分子の共重合体や変成体を用いることもできる。また、複数種の樹脂を用いることを妨げない。
【0032】
<中空回転翼の製造方法>
本発明の中空回転翼の典型的な製造工程には、(1)スキンの成形工程、(2)スキンへの嵌合部および段差部の形成工程、(3)シアウェブの成形工程、(4)スキンとシアウェブとの接合工程が含まれる。なお、これらの工程は1つの工程の中で行うことも可能(例えば、スキンの成形とスキンへの嵌合部および段差部の形成を同時に行う)であるが、便宜的に分けて説明する。各々の工程について、具体的な例を挙げて、以下説明する。
【0033】
(1)スキンの成形工程
シート状の繊維強化複合材料を用いて成形することが簡便である。特に、シート状の繊維強化複合材料としては強化繊維に樹脂をあらかじめ含浸させた中間基材として知られる熱硬化性プリプレグや熱可塑性プリプレグを好ましく用いることができる。また樹脂を含まない織物やブレイディング基材、NCF(ノンクリンプファブリック)に対して成形工程中に樹脂を含浸して用いることも使用できる。成形方法としてはオートクレーブ成形、プレス成形、トランスファー成形、AFP(オートファイバープレイスメント)、スタンピング成形等を適用できる。
【0034】
成形時には、翼の上面の模った型、翼の下面を模った型を用いることで、翼の上面を模った上面スキン、翼の下面を模った下面スキンを得る。
【0035】
ここでプリプレグは、強化繊維とマトリックス樹脂とから構成される。プリプレグに含まれる強化繊維の体積含有率は下限として、40%以上であることが好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。40%を下回った場合、成形品とした際、所望の力学特性を得られない可能性がある。また、体積含有率の上限としては、80%以下であることが好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。80%を超えるとボイドを内包し、力学特性を損ねる恐れがある。
【0036】
プリプレグに含まれる強化繊維の目付量の下限としては、50g/m2以上が好ましく、100g/m2以上がより好ましく、150g/m2以上がさらに好ましい。50g/m2未満の場合、プリプレグの面内に強化繊維が存在しない空孔が生じ、破壊の起点となる場合がある。一方、プリプレグに含まれる強化繊維の目付量の上限としては、1000g/m2以下が好ましく、600g/m2以下がより好ましく、400g/m2以下がさらに好ましい。1000g/m2を超えると、成形時において内部へ熱を均一に伝えることできず所望の品位が得られない恐れがある。強化繊維の目付量の測定は、強化繊維のシート状物から10cm角の領域を切り出し、その質量を測り、面積で除することで実施する。測定は強化繊維のシート状物の異なる部位について10回行い、その平均値を強化繊維の目付量とする。
【0037】
(2)スキンへの嵌合部および段差部の形成工程
切り込みプリプレグや長繊維ペレット、短繊維ペレットなどの不連続繊維強化材料が好ましく用いられる。長繊維ペレット、短繊維ペレットを使用する場合、工程(1)で成形したスキン上に嵌合部や段差部となるべきカ所に長繊維ペレット、短繊維ペレットで射出成形あるいは3Dプリント成形で成形して作製することができる。ここで、切り込みプリプレグとは、その表面に切込みを入れたものである(かかるプリプレグを「切込プリプレグ」と称する)。切込プリプレグは、面内全域にわたって規則的に分布する切り込みを有することが好ましく、切り込みによってプリプレグに含まれた強化繊維が切り込みの存在部位で切断されている。このような規則的に分布する切り込みは、例えば特許第5272418号明細書に記載されている方法で設けることができる。
【0038】
切込プリプレグによると、切込を設けた箇所に開口、ずれが生じやすくなり、プリプレグの強化繊維方向への伸張性が向上する。また、圧縮成形時の流動で切込挿入箇所が開放して強化繊維の繊維束同士が離れることで、プリプレグとして柔軟性を示すようになり、流動性が高まる。このようにしてプリプレグが流動しあるいは変形しやすい構成とすることで、端部にまで強化繊維が到達し、また、樹脂過多となる領域が減じられ、力学特性と外観に優れた嵌合部を有するスキンをプレス成形することができる。切込プリプレグを使用することで工程(1)と工程(2)を同時に行い、嵌合部および段差部付きのスキンを1ステップで成形することも可能である。なお、流動性の点から、切り込みは、プリプレグの厚み方向に亘って全域に入れることが好ましい。
【0039】
(3)シアウェブの成形工程
シート状の繊維強化複合材料を用いて成形することが簡便である。特に、シート状の繊維強化複合材料としては強化繊維に樹脂をあらかじめ含浸させた中間基材として知られる熱硬化性プリプレグや熱可塑性プリプレグを好ましく用いることができる。また、樹脂を含まない織物やブレイディング基材、NCF(ノンクリンプファブリック)に対して成形工程中に樹脂を含浸して調製することもできる。成形方法としては、工程(1)と同様にオートクレーブ成形、プレス成形、トランスファー成形、引き抜き成形、AFP(オートファイバープレイスメント)、スタンピング成形等を適用できる。
【0040】
(4)スキンとシアウェブとの接合工程
工程(1)から(3)で成形した上面スキン、下面スキン、および、シアウェブを用い、段差部を含めた上面スキンと下面スキンの接面で上面スキンと下面スキンを接合し、上面スキンと下面スキンの内層側表面に設けられている嵌合部にはシアウェブを嵌合して接合を行う。接合では、上に説明したように、溶着や接着を適用できる。特に発泡性をもった接着剤を用いることが好ましく、成形時の熱で接着剤が発泡し硬化するため嵌合部に隙間なく接合することができる。
【0041】
以上本発明の一実施態様について説明したが、本発明はこの実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明で規定した要件を満たす範囲内において任意の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る中空回転翼は、とくにUAM用飛行体の回転翼として好適である。
【符号の説明】
【0043】
1 中空回転翼
2a 中空回転翼の先端部
2b 中空回転翼の根元部
3a 上面スキン
3b 下面スキン
4 シアウェブ
5a、5b トレーリングエッジ側の段差部
6a、6b リーディングエッジ側の段差部
7a、7b 嵌合部
8a、8b 中空部