(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009558
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】アピイン生産のための新規遺伝子およびそれを用いたアピインの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/10 20060101AFI20250110BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20250110BHJP
C12P 19/60 20060101ALI20250110BHJP
C12N 1/15 20060101ALN20250110BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20250110BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20250110BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12N15/54
C12P19/60
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112640
(22)【出願日】2023-07-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年8月20日 日本応用糖質科学会誌「応用糖質科学」第12巻 第3号、第37頁にて発表 (2)令和4年8月20日 日本応用糖質科学会誌「応用糖質科学」第12巻 第3号、第37頁にて発表 (3)令和4年8月31日 日本応用糖質科学会 2022年度大会(第71回)応用糖質科学シンポジウム タワーホール船堀にて発表 (4)令和4年8月31日 日本応用糖質科学会 2022年度大会(第71回)応用糖質科学シンポジウム タワーホール船堀にて発表 (5)令和5年5月23日 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.05.22.541790v1を通じて発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】石水 毅
(72)【発明者】
【氏名】大橋 貴生
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF52
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA18
4B065CA19
4B065CA29
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、アピゲニンをアピインに変換するためのアピオース転移酵素をコードする遺伝子およびグルコース転移酵素をコードする遺伝子を同定し、当該遺伝子にコードされるアピオース転移酵素およびグルコース転移酵素を用いて、アピゲニンからアピインを一貫して生産するための方法を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を含む、アピオース転移酵素を提供する。また、前記アピオース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させる工程を含む、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)~(iv)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、アピオース転移酵素:
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列、
(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列、
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
【請求項2】
以下の(i)または(ii)のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のアピオース転移酵素:
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列。
【請求項3】
以下の(i)~(iv)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、グルコース転移酵素:
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号8で表されるアミノ酸配列、
(iii)配列番号6で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列、
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
【請求項4】
以下の(i)または(ii)のアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のグルコース転移酵素:
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号8で表されるアミノ酸配列。
【請求項5】
請求項1または2に記載のアピオース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させる工程を含む、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産する方法。
【請求項6】
該工程が、請求項1または2に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-アピオースを生産する宿主細胞内で実施されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項3または4に記載のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させる工程を含む、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドを生産する方法。
【請求項8】
該工程が、請求項3または4に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースを生産する宿主細胞内で実施されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
以下の(i)および(ii)の工程を含む、アピゲニンからアピインを生産する方法:
(i)請求項3または4に記載のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させ、アピゲニン7-Oグルコシドを生産する工程、
(ii)請求項1または2に記載のアピオース転移酵素、該アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させ、アピインを生産する工程。
【請求項10】
工程(i)および(ii)が請求項3または4に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸および請求項1または2に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する、同一の宿主細胞内で実施されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
以下の(i)~(iii)を含む、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインの生産キット:
(i)請求項1または2に記載のアピオース転移酵素、
(ii)アピゲニン7-Oグルコシド、
(iii)UDP-アピオース。
【請求項12】
以下の(i)および(ii)を含む、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインの生産キット:
(i)請求項1または2に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-アピオースを生産する宿主細胞、
(ii)アピゲニン7-Oグルコシド。
【請求項13】
以下の(i)~(iii)を含む、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドの生産キット:
(i)請求項3または4に記載のグルコース転移酵素、
(ii)アピゲニン、
(iii)UDP-グルコース。
【請求項14】
以下の(i)および(ii)を含む、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドの生産キット:
(i)請求項3または4に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースを生産する宿主細胞、
(ii)アピゲニン。
【請求項15】
以下の(i)~(v)を含む、アピゲニンからアピインの生産キット:
(i)請求項3または4に記載のグルコース転移酵素、
(ii)請求項1または2に記載のアピオース転移酵素、
(iii)アピゲニン、
(iv)UDP-グルコース、
(v)UDP-アピオース。
【請求項16】
以下の(i)および(ii)を含む、アピゲニンからアピインの生産キット:
(i)請求項3または4に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸および請求項1または2に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する宿主細胞、
(ii)アピゲニン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アピゲニンとUDP-グルコースからアピゲニン7-Oグルコシドを生産する活性を有する新規のグルコース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドとUDP-アピオースからアピインを生産する活性を有する新規のアピオース転移酵素、それらを用いたアピゲニンからアピインを生産する方法および生産キットに関する。
【背景技術】
【0002】
植物で生成されるフラボンの1種であるアピゲニンには、抗不安作用、がん細胞増殖抑制作用があり、糖尿病、健忘症、うつ病など有益な適応症が報告されている。これまでに大腸菌でのアピゲニン(非特許文献1)やアピゲニンの一つ手前の前駆体であるナリンゲニン(非特許文献2)の生産方法は報告があるものの、ヒトに有効に投与するにはアピゲニンに糖を結合させて可溶化させる必要があった。
【0003】
アピゲニンの配糖体の1種としてのアピインが知られており、セリ科のパセリやセロリに多く含まれることが知られている。アピインは、アピゲニンにUDP-グルコースをドナー基質として、グルコース転移酵素によって生合成されるアピゲニン7-Oグルコシドを経由し、さらにUDP-アピオースをドナー基質としてアピオース転移酵素によってアピゲニン7-Oグルコシドにアピオースが転移して生成されると考えられている。しかし、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインの生成に至るためのアピオース転移酵素をコードする遺伝子は不明のままであるため、アピインの生産技術が確立されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Miyahisa et al., Appl Microbiol Biotehcnol, 71, 53-58 (2006)
【非特許文献2】Zhou et al., J Microbiol Biotechnol, 30, 1574-1582 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、アピゲニンをアピインに変換するためのアピオース転移酵素をコードする遺伝子およびグルコース転移酵素をコードする遺伝子を同定し、当該遺伝子にコードされるアピオース転移酵素およびグルコース転移酵素を用いて、アピゲニンからアピインを一貫して生産するための方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、パセリまたはセロリのRNA-Seq解析により、アピオース転移酵素候補遺伝子およびグルコース転移酵素候補遺伝子を選抜、クローニングし、その活性を確認することによって、新規のグルコース転移酵素をコードする遺伝子およびアピオース転移酵素をコードする遺伝子を同定することに成功した。また、発明者らは、同定したグルコース転移酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、得られた形質転換体から精製したグルコース転移酵素をアクセプター基質としてアピゲニンなどおよびドナー基質としてUDP-グルコースにin vitroで作用させることによって、アピゲニン7-O-グルコシドなどを生産させることに成功した。同様に、発明者らは、同定したアピオース転移酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、得られた形質転換体から精製したアピオース転移酵素をアクセプター基質としてアピゲニン7-O-グルコシドなどおよびドナー基質としてUDP-アピオースにin vitroで作用させることによって、アピインなどを生産させることに成功した。さらに、発明者らは、アピオース転移酵素をコードする遺伝子、グルコース転移酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、得られた形質転換体をアピゲニン存在下で培養することによって、アピゲニン7-O-グルコシドおよびアピインが生産されたことを確認した。
発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1]以下の(i)~(iv)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、アピオース転移酵素:
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列、
(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列、
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
[2]以下の(i)または(ii)のアミノ酸配列を含む、[1]に記載のアピオース転移酵素:
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列。
[3]以下の(i)~(iv)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、グルコース転移酵素:
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号8で表されるアミノ酸配列、
(iii)配列番号6で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列、
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
[4]以下の(i)または(ii)のアミノ酸配列を含む、[3]に記載のグルコース転移酵素:
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号8で表されるアミノ酸配列。
[5][1]または[2]に記載のアピオース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させる工程を含む、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産する方法。
[6]該工程が、[1]または[2]に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-アピオースを生産する宿主細胞内で実施されることを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7][3]または[4]に記載のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させる工程を含む、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドを生産する方法。
[8]該工程が、[3]または[4]に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースを生産する宿主細胞内で実施されることを特徴とする、[7]に記載の方法。
[9]以下の(i)および(ii)の工程を含む、アピゲニンからアピインを生産する方法:
(i)[3]または[4]に記載のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させ、アピゲニン7-Oグルコシドを生産する工程、
(ii)[1]または[2]に記載のアピオース転移酵素、該アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させ、アピインを生産する工程。
[10]工程(i)および(ii)が[3]または[4]に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸および[1]または[2]に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する、同一の宿主細胞内で実施されることを特徴とする、[9]に記載の方法。
[11]以下の(i)~(iii)を含む、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインの生産キット:
(i)[1]または[2]に記載のアピオース転移酵素、
(ii)アピゲニン7-Oグルコシド、
(iii)UDP-アピオース。
[12]以下の(i)および(ii)を含む、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインの生産キット:
(i)[1]または[2]に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-アピオースを生産する宿主細胞、
(ii)アピゲニン7-Oグルコシド。
[13]以下の(i)~(iii)を含む、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドの生産キット:
(i)[3]または[4]に記載のグルコース転移酵素、
(ii)アピゲニン、
(iii)UDP-グルコース。
[14]以下の(i)および(ii)を含む、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドの生産キット:
(i)[3]または[4]に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースを生産する宿主細胞、
(ii)アピゲニン。
[15]以下の(i)~(v)を含む、アピゲニンからアピインの生産キット:
(i)[3]または[4]に記載のグルコース転移酵素、
(ii)[1]または[2]に記載のアピオース転移酵素、
(iii)アピゲニン、
(iv)UDP-グルコース、
(v)UDP-アピオース。
[16]以下の(i)および(ii)を含む、アピゲニンからアピインの生産キット:
(i)[3]または[4]に記載のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸および[1]または[2]に記載のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する宿主細胞、
(ii)アピゲニン。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアピオース転移酵素をコードする遺伝子およびグルコース転移酵素をコードする遺伝子を、UDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する宿主細胞に導入し、アピゲニン存在下で培養することによって、アピゲニンからアピインを容易に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)AgApiTのアミノ酸配列を示す図である。C末端側の44アミノ酸はUGTに特徴的なPSPGモチーフである。(B)AgApiTの部分アミノ酸配列、セリ科のUGT94様タンパク質(UGT94P1、UGT89A2)の部分アミノ酸配列、Glehnia littoralis(ハマボウフウ)のGl16345の部分アミノ酸配列、Foeniculum vulgare(フェンネル)のFv4536、Fv22755.1およびFv18654.1の部分アミノ酸配列のアラインメントを示す図である。AgApiTの白抜きのIleは、ペントースの認識部位であると予想される。UGT94P1、UGT89A2の白抜きのIleは、ペントース認識部位のアミノ酸である。Gl16345、Fv4536、Fv22755.1およびFv18654.1の白抜きのValは、ペントース認識部位のアミノ酸である。
【
図2】AgApiT発現コンストラクトを示す図である。AgApiTのN末端にHisタグ、ProS2タグがついている。
【
図3】大腸菌で発現された組換えAgApiTのポリアクリルアミドゲル電気泳動像を示す図である。(-):発現誘導前の大腸菌培養液500 μLを遠心分離し、菌体を2×サンプルバッファー50 μLに溶かし、100 ℃で3分間インキュベート後、5 μLをアプライした。(+):0.8 mM IPTGを加え、15℃、24時間発現誘導後の大腸菌培養液を上記と同様に処理した。(AgApiT)計算分子量は49 kDa。(AgApiT+タグタンパク質)計算分子量は73 kDa。(タグタンパク質)計算分子量は24 kDa。
【
図4】AgApiTの活性検出を示す図である。上段のクロマトグラムはネガティブコントロール1(タグタンパク質)、中段のクロマトグラムはネガティブコントロール2(ドナー基質UDP-Apiなし)、下段のクロマトグラムは2時間反応後の結果を示す。▼はアピイン、▽はアピゲニン7-O-β-D-グルコシドを示す。
【
図6】(A)AgApiTによるアピイン生成反応の時間依存性を示す図である。(B)AgApiTによるアピイン生成反応の酵素量依存性を示す図である。
【
図7】(A)アピゲニン7-O-β-D-グルコシドに対する反応速度を示す図である。(B)UDP-Apiに対する反応速度を示す図である。
【
図8】AgApiTのドナー基質依存性を示す図である。50 μMアピゲニン7-O-β-D-グルコシド、0.5 mM糖ヌクレオチド、AgApiT 20 μgをpH 7.0、23℃で2時間反応させた。技術的反復実験を3回行い、結果の標準偏差をエラーバーとした。検出限界は20 pU/gである。
【
図9】AgApiTのアクセプター基質依存性を示す図である。50 μMアクセプター基質、0.5 mM UDP-Api、AgApiT 20 μgをpH 7.0、23℃で2時間反応させた。技術的反復実験を3回行い、結果の標準偏差をエラーバーとした。検出限界は20 pU/gである。
【
図10】AgApiTの様々なアクセプター基質に対する酵素活性を示す図である。50 μMアクセプター基質、0.5 mM UDP-Api、AgApiT 20 μgをpH 7.0、23℃で2時間反応させた。上段のクロマトグラムはネガティブコントロール(ドナー基質なし)、下段のクロマトグラムは2時間反応後の結果を示す。(A)アピゲニン7-O-β-D-グルコシド(B)ケルセチン7-O-β-D-グルコシド(C)ルテオリン7-O-β-D-グルコシド(D)ナリンゲニン7-O-β-D-グルコシド
【
図11】AgApiTの点変異体のUDP-Apiに対する酵素活性を示す図である。50 μMアピゲニン7-O-β-D-グルコシド、0.5 mM UDP-Api、AgApiTの点変異体20 μgをpH 7.0、23°Cで2時間反応させた。技術的反復実験を3回行い、結果の標準偏差をエラーバーとした。検出限界は20 pU/gである。
【
図12】セロリ発達段階ごとのAgApiT遺伝子の発現量を示す図である。
【
図13】AgGlcT候補遺伝子とUGTの系統樹を示す図である。セロリRNA-seqのリードデータ(SRR1023730)から発現量の高いUGT71、72、73、78、88のホモログを検索した。糖の結合位置に基づいてクラスターを分けた。丸は9つの候補遺伝子(セロリゲノムにコードされるUGT71、73、88)、四角は7つの候補遺伝子(セロリ葉RNA-seqで発現が見られた遺伝子)、星は3つの候補遺伝子(アピイン生合成酵素遺伝子AgFNS IとAgApiTと発現挙動が比較的類似していた遺伝子)を示す。
【
図14】AgGlcT候補遺伝子セロリ発達段階ごとの半定量PCRを示す図である。(A)アピイン生合成関連酵素遺伝子(FNS I、ApiT)と7つの候補遺伝子の発達段階ごとの遺伝子発現量を半定量PCRで定量した。GAPDHは内部標準として用いた。(B)アピイン生合成関連酵素遺伝子(FNS I、ApiT)と7つの候補遺伝子の発達段階ごとの遺伝子発現量を半定量PCRで定量した結果を示すグラフ。
【
図15】セロリ本葉発達段階ごとのアピイン生合成関連酵素遺伝子(AgGlcT, AgApiT, AgFNS I)の発現量を示す図である。(A)セロリ本葉発達段階ごとのAgGlcTの発現量。(B)セロリ本葉発達段階ごとのAgApiTの発現量。(C)セロリ本葉発達段階ごとのAgFNS Iの発現量。0.5 cmにおける各遺伝子の発現量を1とした。
【
図16】AgGlcT候補タンパク質の発現を示す図である。
【
図17】AgGlcT候補タンパク質の酵素活性を示す図である。(A)生成物の定量はHPCL<条件1>で行った。上からDN23862、DN16008、DN9954のピークを示す。▼はアピゲニン7-O-グルコシド、▽はアピゲニンのピークを示す。(B)生成物の酵素活性を示す。
【
図18】AgGlcTの酵素量依存性・時間依存性を示す図である。(A)1 mMアピゲニン、0.5 mM UDP-Glc、パセリ素酵素液1 μgをpH7.0、23℃、0~4時間で反応させた。生成物の定量はHPCL<条件1>で行った。(B)1 mMアピゲニン、0.5 mM UDP-Glc、セロリ素酵素液10~1.8 μgをpH7.0、23℃、2時間で反応させた。生成物の定量はHPLC<条件1>で行った。
【
図19】AgGlcTのアミノ酸配列アライメントを示す図である。下線は触媒残基、斜体はPSPGモチーフ、□はGSSモチーフを示す。
【
図20】AgGlcTの立体構造予測を示す図である。
【
図21】AgGlcTのpH依存性を示す図である。
【
図22】AgGlcTのドナー基質特異性を示す図である。(A)生成物の定量はHPCL<条件1>で行った。(B)酵素活性が検出された上位2つの基質の構造を示す。AgGlcTはUDP-Glcの丸で示した部分を認識している。
【
図23】AgGlcTのアクセプター基質依存性を示す図である。(A)生成物の定量はHPCL<条件1>で行った。(B)酵素活性が検出された6つの基質の構造を示す。AgGlcTはアピゲニン、ケルセチン、ルテオリン、クリソエリオールの丸で示した部分を認識している。
【
図24】AgGlcTの反応速度論的解析を示す図である。(A)UDP-Glcに対する反応速度を求めた。UDP-Glcは0~500 μMの複数の濃度を用いた。K
m = 192.2 μM、V
max = 36.2 p mol/min/μgであった。(B) アピゲニンに対する反応速度を求めた。アピゲニンは0~1,000 μMまでの複数の濃度を用いた。K
m= 190.0 μM、V
max = 37.6 p mol/min/μgであった。
【
図25】PcGlcTとAgGlcT、PcApiTとAgApiTのアミノ酸配列アライメントを示す図である。
【
図26】(A) 組換えPcGlcTタンパク質のための発現コンストラクトを示す図である。 (B) 精製した組換えPcGlcTタンパク質のSDS-PAGEを示す図である。(C) 組換えPcApiTタンパク質のための発現コンストラクトを示す図である。 (D) 精製した組換えProS2-PcApiT融合タンパク質とタグ切断したPcApiTタンパク質のSDS-PAGEを示す図である。
【
図27】(A) PcGlcTとPcApiTが触媒するアピイン生合成を示す図である。(B) PcGlcTの酵素反応のHPLC分析を示す図である。(C) PcApiTの酵素反応のHPLC分析を示す図である。
【
図28】(A) PcGlcTのアクセプター基質特異性を示す図である。(B) PcGlcTのドナー基質特異性を示す図である。 (C) PcApiTのアクセプター基質特異性を示す図である。(D) PcApiTのドナー基質特異性を示す図である。 3回測定した平均と標準偏差を示している
【
図29】(A) PcGlcTの至適pHを示す図である。(B) PcApiTの至適pHを示す図である。
【
図30】(A) qRT-PCRによる PcFNSIの各器官の発現パターンと本葉の発達段階での発現量を示す図である。 (B) qRT-PCRによる PcGlcTの各器官の発現パターンと本葉の発達段階での発現量を示す図である。 (C) qRT-PCRによるPcApiTの各器官の発現パターンと本葉の発達段階での発現量を示す図である。
【
図31】PcGlcTとPcApiTの遺伝子塩基配列(コーディング領域のみ)とタンパク質アミノ酸配列を示す図である。
【
図32】API001(左)およびAPI002(右)の可溶性画分のSDS-PAGEおよびウエスタンブロット解析の結果を示す図である。上段:CBB染色、中段:Anti-Hisタグを用いたウエスタンブロッティング、下段:Anti-Sタグを用いたウエスタンブロッティング。
【
図33】API001およびAPI002における逆相HPLCの結果を示す図である。NC:pColdProS2、pCDF-1b及びpACYCDuetのみが導入された大腸菌株。Apiin:アピイン標品のピーク位置。A7G:A7G標品のピーク位置。Apigenin:アピゲニン標品のピーク位置。
【
図34】API001及びAPI002におけるA7G及びアピインの生産量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.アピオース転移酵素およびグルコース転移酵素
本発明は、アピオース転移酵素(以下、本発明のアピオース転移酵素)を提供する。本発明はまた、グルコース転移酵素(以下、本発明のグルコース転移酵素)を提供する。
【0011】
本発明のアピオース転移酵素は、以下の(i)~(iv)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列。
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列。
(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
本発明のアピオース転移酵素は、好ましくは、以下の(i)または(ii)のアミノ酸配列を含む。
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列。
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列。
【0012】
本発明のグルコース転移酵素は、以下の(i)~(iv)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列。
(ii)配列番号8で表されるアミノ酸配列。
(iii)配列番号6で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列。
本発明のグルコース転移酵素は、好ましくは、以下の(i)または(ii)のアミノ酸配列を含む。
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列。
(ii)配列番号8で表されるアミノ酸配列。
【0013】
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むアピオース転移酵素および配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むグルコース転移酵素は、セロリから単離、精製されるタンパク質であってもよい。また、化学合成または無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。同様に、配列番号4で表されるアミノ酸配列含むアピオース転移酵素および配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むグルコース転移酵素は、パセリから単離、精製されるタンパク質であってもよい。また、化学合成または無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。
【0014】
配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約93%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247:1306-1310 (1990)を参照)。
【0015】
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
【0016】
より好ましくは、配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約93%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0017】
配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むアピオース転移酵素としては、例えば、前記の配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列を含むアピオース転移酵素と実質的に同質の活性を有するタンパク質などが好ましい。また、配列番号6または8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むアピオース転移酵素としては、例えば、前記の配列番号6または8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号6または8で表されるアミノ酸配列を含むグルコース転移酵素と実質的に同質の活性を有するタンパク質などが好ましい。
【0018】
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むアピオース転移酵素と実質的に同質の活性としては、例えば、アクセプター基質としてアピゲニン7-O-グルコシド、ケルセチン7-O-グルコシド、ルテオリン7-O-グルコシドまたはナリンゲニン7-O-グルコシドを使用し、ドナー基質としてUDP-アピオースを使用して、アピイン、ケルセチン7-(2-O-アピオシルグルコシド)、ルテオリン7-(2-O-アピオシルグルコシド)またはナリンゲニン7-(2-O-アピオシルグルコシド)を生産する活性、好ましくは、アピゲニン7-O-グルコシドとUDP-アピオースからアピインを生産する活性などが挙げられる。また、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むアピオース転移酵素と実質的に同質の活性としては、例えば、アクセプター基質としてアピゲニン7-O-グルコシド、ケルセチン7-O-グルコシドまたはクリソエリオール7-O-グルコシドを使用し、ドナー基質としてUDP-アピオースを使用して、アピイン、ケルセチン7-(2-O-アピオシルグルコシド)、またはクリソエリオール7-(2-O-アピオシルグルコシド)を生産する活性、好ましくは、アピゲニン7-O-グルコシドとUDP-アピオースからアピインを生産する活性などが挙げられる。配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むグルコース転移酵素と実質的に同質の活性としては、例えば、アクセプター基質としてアピゲニン、ケルセチン、ルテオリン、クリソエリオール、ナリンゲニンまたはゲニステインを使用し、ドナー基質としてUDP-グルコースまたはUDP-キシロースを使用して、アピゲニン7-O-グルコシド、ケルセチン7-O-グルコシド、ルテオリン7-O-グルコシド、クリソエリオール7-O-グルコシド、ナリンゲニン7-O-グルコシド、ゲニステイン7-O-グルコシド、アピゲニン7-O-キシロシド、ケルセチン7-O-キシロシド、ルテオリン7-O-キシロシド、クリソエリオール7-O-キシロシド、ナリンゲニン7-O-キシロシドまたはゲニステイン7-O-キシロシドを生産する活性、好ましくは、アピゲニンとUDP-グルコースからアピゲニン7-Oグルコシドを生産する活性などが挙げられる。また、配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むグルコース転移酵素と実質的に同質の活性としては、例えば、アクセプター基質としてアピゲニン、ケルセチン、ルテオリン、クリソエリオール、ナリンゲニンまたはゲニステインを使用し、ドナー基質としてUDP-グルコースを使用して、アピゲニン7-O-グルコシド、ケルセチン7-O-グルコシド、ルテオリン7-O-グルコシド、クリソエリオール7-O-グルコシド、ナリンゲニン7-O-グルコシドまたはゲニステイン7-O-グルコシドを生産する活性、好ましくは、アピゲニンとUDP-グルコースからアピゲニン7-Oグルコシドを生産する活性などが挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、酵素学的または生化学的)に同じであることを示す。したがって、上記活性は同等(例えば、約0.5~約2倍)であることが好ましい。上記活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、HPLCを利用してアピインなどを定量することにより活性を測定することができる。
【0019】
また、配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、(1) 配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の置換を有するアミノ酸配列、(2) 配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の欠失を有するアミノ酸配列、(3) 配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の挿入を有するアミノ酸配列、(4) 配列番号2、4、6または8で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の付加を有するアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列なども含まれる。上記のようにアミノ酸配列が置換、欠失、挿入または付加されている場合、その位置は、上記のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素の活性が保持される限り特に限定されない。
【0020】
本発明のアピオース転移酵素は、好ましくは、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質である。より好ましくは、本発明のアピオース転移酵素は、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。また、本発明のグルコース転移酵素は、好ましくは、配列番号6または8で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質である。より好ましくは、本発明のグルコース転移酵素は、配列番号6または8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0021】
本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素は、前述したセロリ、パセリなどから自体公知のタンパク質の精製方法によって製造することができる。具体的には、セロリまたはパセリを破砕した後、遠心分離やろ過により可溶性タンパク質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。
このようにして得られた可溶性画分に含まれるアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素の単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0022】
本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素はまた、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。カルボキシ基と側鎖の官能基に保護基を付けたアミノ酸誘導体と、アミノ基と側鎖の官能基を保護したアミノ酸誘導体とを縮合し、保護基を脱離することにより目的とするタンパク質を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)~(5)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. BodanszkyおよびM.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers,
New York (1966年)
(2) SchroederおよびLuebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965年)
(3) 泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株) (1975年)
(4) 矢島治明および榊原俊平、生化学実験講座 1、タンパク質の化学IV 205 (1977年)
(5) 矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
【0023】
このようにして得られたアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素は、それをコードする塩基配列を有する核酸を導入された宿主細胞(本発明の宿主細胞)から生産される組換えタンパク質であってもよい。本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
【0025】
本発明のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸としては、例えば、配列番号2または4で表される塩基配列を含有する核酸、または配列番号2または4で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した本発明のアピオース転移酵素と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する核酸などが挙げられる。また、本発明のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸としては、例えば、配列番号6または8で表される塩基配列を含有する核酸、または配列番号6または8で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した本発明のグルコース転移酵素と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する核酸などが挙げられる。
配列番号2、4、6または8で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列としては、例えば、配列番号2、4、6または8で表される塩基配列と約80%以上、好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列などが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0026】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0027】
本発明のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸は、好ましくは、配列番号2または4で表される塩基配列を含む核酸、より好ましくは、配列番号2または4で表される塩基配列からなる核酸である。また、本発明のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸は、好ましくは、配列番号6または8で表される塩基配列を含む核酸、より好ましくは、配列番号6または8で表される塩基配列からなる核酸である。
【0028】
本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸は、セロリまたはパセリ由来のcDNAを鋳型として、本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素をコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだセロリまたはパセリ由来のcDNAを、本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸の一部を標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0029】
本発明の宿主細胞は、公知の手段で得ることができる。例えば、上記の通りにクローン化された本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を発現可能になるような態様で発現ベクターに連結し、細胞を該発現ベクターで形質転換することによって得ることができる。
【0030】
本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含む発現ベクターは、例えば、本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を切り出し、該核酸断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、エシェリヒア属菌で発現可能なプラスミド(例、pCold, pCDF-1b, pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)などが用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主細胞がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。
【0031】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、選択マーカーなどを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子(以下、amprと略称する場合がある)等が挙げられる。
また、必要に応じて、宿主細胞に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、YjbIをコードするDNAの5’末端側に付加(またはネイティブなシグナルコドンと置換)してもよい。例えば、宿主細胞がェリヒア属菌である場合、PhoAシグナル配列、OmpAシグナル配列などがそれぞれ用いられる。
【0032】
宿主細胞としては、例えば、エシェリヒア属菌などが用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),60巻,160 (1968)〕,エシェリヒア コリJM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),9巻,309 (1981)〕,エシェリヒア コリJA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),120巻,517 (1978)〕,エシェリヒア コリHB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459 (1969)〕,エシェリヒア コリC600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440 (1954)〕などが用いられる。
【0033】
形質転換は、宿主細胞の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
エシェリヒア属菌は、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110 (1972)やジーン(Gene),17巻,107 (1982)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
【0034】
本発明の宿主細胞はまた、UDP-アピオースまたはUDP-グルコースを生産する細胞であることが好ましく、UDP-アピオースおよびUDP-グルコースを生産する細胞であることが最も好ましい。本発明の宿主細胞がUDP-アピオースおよび/またはUDP-グルコースを生産できない場合、UDP-アピオースおよび/またはUDP-グルコースを生産するために必要な遺伝子を宿主細胞に導入することができる。例えば、本発明の宿主細胞がエシェリヒア属菌である場合、エシェリヒア属菌はUDP-グルコースを生産することができるが、UDP-アピオースを生産することはできないため、Arabidopsis thaliana由来AXS1遺伝子(AtAXS1)をエシェリヒア属菌に導入し、UDP-アピオース生産可能にすることができる。
【0035】
以上の通り、本発明の宿主細胞を得ることができる。なお、上記の細胞を培養することによって、本発明のアピオース転移酵素またはグルコース転移酵素を製造することもできる。
【0036】
2.アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産する方法およびその生産キット
本発明は、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産する方法(以下、本発明のアピイン生産方法1)を提供する。
【0037】
本発明のアピイン生産方法1は、本発明のアピオース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させる工程を含む。本発明のアピイン生産方法1は、1実施態様において、水性媒体中で実施されてよい。水性媒体としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、トリス-HCl緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。
【0038】
本発明のアピイン生産方法1における、水性媒体中における本発明のアピオース転移酵素の酵素活性は、例えば、1.0~5.0 μU/μgであってよい。また、水性媒体中におけるアピゲニン7-Oグルコシドの濃度は、例えば、10~100 μMであってよい。また、水性媒体中におけるUDP-アピオースの濃度は、例えば、0.1~10 mMであってよい。
【0039】
本発明のアピイン生産方法1において、水性媒体中で本発明のアピオース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させる場合、その反応条件は、当業者が適宜決定してよいが、例えば、pH6.0~8.0、反応温度20~30℃、反応時間0.5~5時間などが挙げられる。
【0040】
本発明のアピイン生産方法1はまた、別の実施態様において、宿主細胞中で実施されてよい。本発明のアピイン生産方法1が宿主細胞中で実施される場合、宿主細胞は本発明の宿主細胞であってよく、好ましくは、本発明のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-アピオースを生産する、宿主細胞であってよい。
【0041】
本発明のアピイン生産方法1において、宿主細胞中で本発明のアピオース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させる場合、宿主細胞を培養するための培地は、宿主細胞に併せて当業者が適宜決定することができる。例えば、宿主がエシェリヒア属菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(Millerら、Exp. Mol. Genet、Cold Spring Harbor Laboratory, p.431, 1972)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14~43℃、約3~24時間行うことができる。
【0042】
以上の通り、本発明のアピイン生産方法1によってアピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産することができる。
【0043】
本発明はまた、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産するキット(以下、本発明のアピイン生産キット1)を提供する。
【0044】
本発明のアピイン生産キット1は、一つの実施態様として、例えば、以下の(i)~(iii)を含む。
(i)本発明のアピオース転移酵素。
(ii)アピゲニン7-Oグルコシド。
(iii)UDP-アピオース。
【0045】
本発明のアピイン生産キット1は、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産するために必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、本発明のアピイン生産キット1は、水性媒体として、例えば、脱イオン水、蒸留水、または緩衝液(トリス-HCl緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液等)等をさらに含むことができる。
【0046】
本発明のアピイン生産キット1はまた、別の実施態様として、例えば、以下の(i)および(ii)を含む。
(i)本発明のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-アピオースを生産する宿主細胞。
(ii)アピゲニン7-Oグルコシド。
【0047】
本発明のアピイン生産キット1は、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産するために必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、本発明のアピイン生産キット1は、宿主細胞を培養するための培地をさらに含んでもよく、例えば、宿主がエシェリヒア属菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地等が例示される。
【0048】
3.アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドを生産する方法およびその生産キット
本発明は、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドを生産する方法(以下、本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法)を提供する。
【0049】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法は、本発明のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させる工程を含む。本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法は、1実施態様において、水性媒体中で実施されてよい。水性媒体としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、トリス-HCl緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。
【0050】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法における、水性媒体中における本発明のグルコース転移酵素の酵素活性は、例えば、1.0~5.0 μU/μgであってよい。また、水性媒体中におけるアピゲニンの濃度は、例えば、10~100 μMであってよい。また、水性媒体中におけるUDP-グルコースの濃度は、例えば、0.1~10 mMであってよい。
【0051】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法において、水性媒体中で本発明のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させる場合、その反応条件は、当業者が適宜決定してよいが、例えば、pH6.0~8.0、反応温度20~30℃、反応時間0.5~5時間などが挙げられる。
【0052】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法はまた、別の実施態様において、宿主細胞中で実施されてよい。本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法が宿主細胞中で実施される場合、宿主細胞は本発明の宿主細胞であってよく、好ましくは、本発明のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースを生産する、宿主細胞であってよい。
【0053】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法において、宿主細胞中で本発明のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させる場合、宿主細胞を培養するための培地は、宿主細胞に併せて当業者が適宜決定することができる。例えば、宿主がエシェリヒア属菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(Millerら、Exp.Mol.Genet、Cold Spring Harbor Laboratory,p.431,1972)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14~43℃、約3~24時間行うことができる。
【0054】
以上の通り、本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産方法によってアピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドを生産することができる。
【0055】
本発明はまた、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドを生産するキット(以下、本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産キット)を提供する。
【0056】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産キットは、以下の(i)~(iii)を含む。
(i)本発明のグルコース転移酵素、
(ii)アピゲニン、
(iii)UDP-グルコース。
【0057】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産キットは、アピゲニンからアピゲニン7-Oグルコシドを生産するために必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、本発明のアピイン生産キット1は、水性媒体として、例えば、脱イオン水、蒸留水、または緩衝液(トリス-HCl緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液等)等をさらに含むことができる。
【0058】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産キットはまた、別の実施態様として、例えば、以下の(i)および(ii)を含む。
(i)本発明のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースを生産する宿主細胞。
(ii)アピゲニン。
【0059】
本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産キットは、アピゲニン7-Oグルコシドからアピインを生産するために必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、本発明のアピゲニン7-Oグルコシド生産キットは、宿主細胞を培養するための培地をさらに含んでもよく、例えば、宿主がエシェリヒア属菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地等が例示される。
【0060】
4.アピゲニンからアピインを生産する方法およびその生産キット
本発明は、アピゲニンからアピインを生産する方法(以下、本発明のアピイン生産方法2)を提供する。
【0061】
本発明のアピイン生産方法2は、以下の(i)および(ii)の工程を含む。
(i)本発明のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させ、アピゲニン7-Oグルコシドを生産する工程。
(ii)本発明のアピオース転移酵素、工程(i)で得られるアピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させ、アピインを生産する工程。
【0062】
本発明のアピイン生産方法2は、1実施態様において、水性媒体中で実施されてよい。水性媒体としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、トリス-HCl緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。
【0063】
本発明のアピイン生産方法2における、水性媒体中における本発明のグルコース転移酵素の酵素活性は、例えば、1.0~5.0 μU/μgであってよい。また、水性媒体中におけるアピゲニンの濃度は、例えば、10~100 μMであってよい。また、水性媒体中におけるUDP-グルコースの濃度は、例えば、0.1~10 mMであってよい。また、水性媒体中における本発明のアピオース転移酵素の酵素活性は、例えば、1.0~5.0 μU/μgであってよい。また、水性媒体中におけるアピゲニン7-Oグルコシドの濃度は、例えば、10~100 μMであってよい。また、水性媒体中におけるUDP-アピオースの濃度は、例えば、0.1~10 mMであってよい。
【0064】
本発明のアピイン生産方法2において、水性媒体中で本発明のアピオース転移酵素、アピゲニン7-OグルコシドおよびUDP-アピオースを接触させる場合、その反応条件は、当業者が適宜決定してよいが、例えば、pH6.0~8.0、反応温度20~30℃、反応時間0.5~5時間などが挙げられる。また、水性媒体中で本発明のグルコース転移酵素、アピゲニンおよびUDP-グルコースを接触させる場合、その反応条件は、当業者が適宜決定してよいが、例えば、pH6.0~8.0、反応温度20~30℃、反応時間0.5~5時間などが挙げられる。
【0065】
本発明のアピイン生産方法2はまた、別の実施態様において、工程(i)および(ii)が同一の宿主細胞中で実施されてよい。本発明のアピイン生産方法2が同一の宿主細胞中で実施される場合、宿主細胞は本発明の宿主細胞であってよく、好ましくは、本発明のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸および本発明のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する、宿主細胞であってよい。
【0066】
本発明のアピイン生産方法2において、同一の宿主細胞中で工程(i)および(ii)が実施される場合、宿主細胞を培養するための培地は、宿主細胞に併せて当業者が適宜決定することができる。例えば、宿主がエシェリヒア属菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(Millerら、 Exp. Mol. Genet、 Cold Spring Harbor Laboratory, p.431, 1972)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14~43℃、約3~24時間行うことができる。
【0067】
以上の通り、本発明のアピイン生産方法2によってアピゲニンからアピインを一貫して生産することができる。
【0068】
本発明はまた、アピゲニンからアピインを生産するキット(以下、本発明のアピイン生産キット2)を提供する。
【0069】
本発明のアピイン生産キット2は、一つの実施態様として、例えば、以下の(i)~(v)を含む。
(i)本発明のグルコース転移酵素。
(ii)本発明のアピオース転移酵素。
(iii)アピゲニン。
(iv)UDP-グルコース。
(v)UDP-アピオース。
【0070】
本発明のアピイン生産キット2は、アピゲニンからアピインを生産するために必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、本発明のアピイン生産キット2は、水性媒体として、例えば、脱イオン水、蒸留水、または緩衝液(トリス-HCl緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液等)等をさらに含むことができる。
【0071】
本発明のアピイン生産キット2はまた、別の実施態様として、例えば、以下の(i)および(ii)を含む。
(i)本発明のグルコース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸および本発明のアピオース転移酵素をコードする塩基配列を有する核酸を含み、かつUDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する宿主細胞。
(ii)アピゲニン7-Oグルコシド。
【0072】
本発明のアピイン生産キット2は、アピゲニンからアピインを生産するために必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、本発明のアピイン生産キット2は、宿主細胞を培養するための培地をさらに含んでもよく、例えば、宿主がエシェリヒア属菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地等が例示される。
【実施例0073】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されない。
【0074】
実施例1 セロリアピイン生合成アピオース転移酵素(AgApiT)の候補遺伝子の探索
1-1.実験材料と実験方法
本実施例は、京都大学植物栄養学研究室小林優准教授にご協力いただいた。セロリのRNAseqデータはアクセッション番号SRR1023730(https://trace.ddbj.nig.ac.jp/DRASearch/run?acc=SRR1023730)から入手した。このデータをTrinityを用いてde novoアセンブリーし、リファレンス配列を作った。それに対し、HISAT2を用いてマッピングし、StringTieでリードカウントした。その結果から、tblastnを用いてUGT79、UGT91、UGT94ホモログ(UGTの中でもアグリコンではなくその配糖体の糖部分に特異的に糖転移させる酵素はSugar-Sugar UGTまたはグリコシド特異的グリコシルトランスフェラーゼ(GGT:Glycoside specific GlycosylTransferase)と呼ばれ、UGT79、UGT91、UGT94が挙げられる)を検索した。また、京都大学植物栄養学研究室で独自に解析したセロリのRNA-Seqデータを用いて、各遺伝子のリードカウントからも発現量を推定した。
1-2.結果
セロリには、多くのアピオースが結合しているフラボノイド配糖体が比較的多く存在しているため、発現量の高いGGT遺伝子がアピオースを転移するUGTである可能性が高いと考えた。
RNA-seqデータ(SRR1023730)からGGT遺伝子を選び、発現量が高い順に並べた(表1)。
【0075】
【0076】
これらの遺伝子の発現量について、2種類のRNA-Seqデータ(SRR1023730)のリードカウントの相関を調べた。これらのデータに相関性があり、リードカウントが発現量が相関していることが分かった。このうちリードカウントが飛び抜けて高いDN15087をAgApiTの候補遺伝子として選抜した。DN15087がコードするタンパク質の分子量は49 kDa、等電点は5.7である。以前に報告されたパセリ酵素の部分精製による推定では、分子量は50 kDa、等電点は4.8であり、おおよそ一致する(Ortmann, R., et al., (1972) Biochim. Biophys. Acta 289, 293-302.)。DN15087のアミノ酸配列のC末端側44アミノ酸中には、UGTに保存されたPSPGモチーフが見られた(
図1A)。
【0077】
実施例2 AgApiTの大腸菌発現、およびAgApiTの活性測定・速度論的解析・生化学的解析
2-1.実験材料と実験方法
(1)AgApiTの大腸菌発現
大腸菌発現コンストラクト構築に用いたベクターはpColdProS2、鋳型は大腸菌発現用の人工合成遺伝子(DN15087)、プライマーはAgApiT FおよびAgApiT R(表2)、制限酵素はNde IとXba Iを使用した。
【0078】
【0079】
人工合成遺伝子を鋳型に、AgApiT FとAgApiT RをプライマーとしてKOD-Plus Neoを用いて、全長(1314 bp)が増幅するようにPCRクローニングを行った。PCRは変性を95℃、30秒、アニーリングを57℃、30秒、伸長を72℃、1.5分で行い、これを35サイクル行った。PCR産物とpColdProS2をそれぞれNde I、Xba Iで消化した。これをLigation Kit Mighty mixでライゲーションし、大腸菌DH5αを形質転換し、100 μg/mLアンピシリンを含むLB培地プレート上で培養した。Go-taq Green Master mixを用いてコロニーPCRを行い、pColdProS2-AgApiT発現コンストラクトで形質転換された大腸菌を得た(
図2)。塩基配列解析により、正しくコンストラクトが構築されていることを確認した。構築した発現コンストラクトで大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。形質転換大腸菌BL21をLB培地3 mLに懸濁し、37 ℃で一晩前培養した。培養液3 mLをLB培地100 mLに植菌し、OD
600=0.6~0.8になるまで37 ℃で培養した。氷上で培養液を冷却後、IPTG(終濃度0.8 mM)を添加し、15 ℃、100~110 rpmで24時間発現誘導を行った。
発現誘導後の大腸菌液を遠心分離(5,000×g、4 ℃、5分間)で集菌し、上清を取り除いた。集菌した菌体に大腸菌可溶化溶液(BugBuster Protein Extraction Reagent 5 mL、10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)4.5 mL、ベンゾナーゼヌクレアーゼ25 U、リゾチーム(Novagen:5 KU もしくは和光純薬工業:3.75 mg))を菌体1gに対して5 mL加えて懸濁した。20分間静置後、遠心分離(20,000×g、4 ℃、20分間)し、上清を粗酵素溶液とした。粗酵素溶液をNiイオンキレートカラム(HisTrap HP 1 mL)で精製した。流速は最大で1 mL/分で行った。まず、カラムを超純水3 mL で洗浄した。洗浄後、平衡化緩衝液1(50 mM イミダゾール塩酸塩、50 mM リン酸ナトリウム pH7.4、500 mM 塩化ナトリウム )3 mLで平衡化した。その後、粗酵素溶液を添加した。平衡化緩衝液1を菌液の5倍量流し、平衡化緩衝液2(100 mM イミダゾール塩酸塩、50 mM リン酸ナトリウム pH7.4、500 mM 塩化ナトリウム)を5 mL流し、非吸着成分を洗浄した。溶出緩衝液(200 mM イミダゾール塩酸塩、50 mM リン酸ナトリウム pH7.4、500 mM 塩化ナトリウム)3 mL で目的のタンパク質を溶出させた。発現タンパク質の検出は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で行った。ゲルは13 %のポリアクリルアミド、分子量マーカーにはXL-Ladder Broad、CBB染色にはCBB R-250を用いた。溶出の際、エッペンチューブに約300 μLずつ分画した。それぞれ10 μL分注し、150 μLのPierce 660nm Protein Assay 溶液を添加後、5分静置し、吸光度660 nmを測定した。
<タグを切断する場合>
タンパク質濃度が高いフラクション5本を2 mLチューブに集めた。HRV3Cプロテアーゼを用いて4℃で2時間反応(全量1.6 mL)させ、タグ(全長24kDa)を切断した。その溶液を、1×HRV 3C Cleavage Bufferで平衡化させたNiイオンキレートカラムに通し、フロースルーを回収した。溶出緩衝液(200 mM イミダゾール塩酸塩、50 mM リン酸ナトリウム pH7.4、500 mM 塩化ナトリウム)3 mL でタグタンパク質を回収した。発現タンパク質の検出は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で行った。ゲルは14 %のポリアクリルアミド、分子量マーカーにはXL-Ladder Broad、CBB染色にはCBB R-250を用いた。それぞれ集めた溶液は限外ろ過フィルター(Amicon Ultra-0.5 mL, Ultracel-10K)を用いて4℃、14,000×gで15分間遠心分離した。その後、新たなチューブにフィルターを逆さまにして入れ、4℃、1,000×gで2分間遠心分離し、濃縮したAgApiT、タグタンパク質を回収した。濃縮したAgApiT、タグタンパク質を適当な濃度に希釈した溶液10 μLとPierce 660nm Protein Assay 溶液150 μLを合わせ、5分間静置し、吸光度660 nmを測定した。BSAによる検量線から、タンパク質量を算出した。
<タグを切断しない場合>
タンパク質濃度が高いフラクション5本の溶液を限外ろ過フィルター(Amicon Ultra-0.5 mL、Ultracel-10K)を用いて4℃、14,000×gで15分間遠心分離した。その後、新たなチューブにフィルターを逆さまにして入れ、4℃、1,000×gで2分間遠心分離し、濃縮したAgApiTを回収した。濃縮したAgApiTを適当な濃度に希釈した溶液10 μLとPierce 660nm Protein Assay 溶液150 μLを合わせ、5分間静置し、吸光度660 nmを測定した。BSAによる検量線から、タンパク質量を算出した。
(2)AgApiTの活性測定・速度論的解析・生化学的解析
活性検出は以下の条件で行った。
50 μM アピゲニン7-O-β-D-グルコシド
1 mM UDP-Api
精製AgApiTタンパク質
反応緩衝液(100 mM トリス-HCl緩衝液、pH 7.0、50 mM NaCl)
これらを23℃、2時間で反応させた。反応停止は、100℃で3分間インキュベートして酵素を失活させた。反応生成物の定量は以下の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析を行った。
アピインの定量
装置: 島津LC2010C HT
カラム: GL Sciences Inertsil ODS-3(4.6×250 mm)5 μm
流速: 1.0 mL/min
移動相: A) 0.1%TFA B)アセトニトリル
グラジェント条件 B)20-40 T)5-25
検出: 330 nm
<速度論的解析>
AgApiTのK
m、V
max、およびk
cat値は、さまざまな濃度のアピゲニン7-O-β-D-グルコシド(50~200 μM)およびUDP-Api(125~1000 μM)で解析することにより決定した。標準偏差を含む3回の実験の平均値をMichaelis-Menten式にプロットし、Prism version 8を使用した非線形回帰分析によって速度論的パラメーターを計算した。
<生化学的解析>
ドナー基質には、UDP-Api、UDP-Araf、UDP-Rha、UDP-Glc、UDP-GlcUA、UDP-Gal、UDP-GalUA、UDP-Xyl、UDP-GlcNAc、GDP-Fucを用いた。
アクセプター基質には、アピゲニン7-O-β-D-グルコシド、ケルセチン7-O-β-D-グルコシド、ルテオリン7-O-β-D-グルコシド、ナリンゲニン7-O-β-D-グルコシド、アピゲニン、アピイン、ケルセチン3-O-β-D-グルコシドを用いた。
2-2.結果
組換えAgApiTタンパク質の発現は0.8 mM IPTGで誘導した。Niカラムで精製し、HisタグおよびProS2タグ付きの分子質量73 kDa(計算値73 kDa)のAgApiTを得た(
図3)。HRV3Cプロテアーゼで処理し、タグが切断された分子質量49 kDa(計算値49 kDa)のAgApiTを得た(
図3)。また、分子質量24 kDa(計算値24 kDa)のタグタンパク質(HisタグおよびProS2タグ)も検出した(
図3)。
pColdProS2ベクター以外にpET15bベクターを使用した発現コンストラクトを作成し、BL21に形質転換して培養・発現誘導を行ったが、目的のタンパク質はほとんど得られなかった。pColdProS2ベクターには可溶化タグであるProS2タグが付いており、可溶性が高められたことで、発現量が増えたと考えられる。
pH 7.0の反応緩衝液中で50 μMアピゲニン7-O-β-D-グルコシドをアクセプター基質、調製した0.5 mM UDP-Apiをドナー基質として、23℃で2時間反応させたところアピインと同じ位置に酵素反応生成物を検出した(
図4)。このためDN15087がアピイン生合成に関わるアピオース転移酵素AgApiTをコードする遺伝子であると結論づけた。また、タグタンパク質からはアピオース転移酵素活性は検出されなかったことから、この生成物はAgApiTによる酵素反応生成物であると言える(
図4)。
タグを切断したAgApiTの酵素活性(2.8 μU/μg)は、タグ付きのAgApiTの酵素活性(4.6 μU/μg)の1.6倍であった(
図5)。大腸菌培養液100 mLからタグを切断したAgApiTは300 μg程度しか回収できないのに対して、タグ付きのAgApiTは1.5 mg以上回収できる。高い酵素濃度でないと、生成物の量が少なく、定量解析が難しいので、より多くのタンパク質が回収できるタグ付きのAgApiTを用いて解析を行った。
AgApiTの反応生成物量は、酵素量依存的、時間依存的に増加した(
図6)。
AgApiTのアピゲニン7-O-β-D-グルコシドに対するK
mおよびV
max値は、それぞれ119±8 μMおよび0.539±0.019 nmol・min
-1・mg
-1であった(表3、
図7)。k
catおよびk
cat/K
m値は、それぞれ1.585 s
-1および0.0083 s
-1・μM
-1であった(表3)。UDP-Apiに対するK
mおよびV
max値は、それぞれ190±12 μMおよび0.183±0.004 nmol・min
-1・mg
-1であった(表3、
図7)。k
catおよびk
cat/K
m値は、それぞれ0.538 s
-1および0.0028 s
-1・μM
-1であった(表3)。これらの値は、同定されているUGTのものと似かよった値であった(Ono, E., et al. (2020) Plant J. doi: 10.1111)。
【0080】
【0081】
AgApiTの生化学的解析を行った。UDP-Api、UDP-Araf、UDP-Rha、UDP-Glc、UDP-GlcUA、UDP-Gal、UDP-GalUA、UDP-Xyl、UDP-GlcNAc、GDP-Fucを用いてAgApiTのドナー基質依存性を調べた(
図8)。AgApiTは、UDP-Api以外の糖ヌクレオチドとは反応せず、ドナー基質特異性が高いことが分かった。また、アピゲニン7-O-β-D-グルコシド、ケルセチン7-O-β-D-グルコシド、ルテオリン7-O-β-D-グルコシド、ナリンゲニン7-O-β-D-グルコシド、アピゲニン、アピイン、ケルセチン3-O-β-D-グルコシドを用いてAgApiTのアクセプター基質依存性を調べた(
図9、10)。アピゲニン7-O-β-D-グルコシドの活性が最も高く、ケルセチン7-O-β-D-グルコシド、ルテオリン7-O-β-D-グルコシド、ナリンゲニン7-O-β-D-グルコシドにおいても活性を検出した。アピゲニン、アピイン、ケルセチン3-O-β-D-グルコシドでは活性が検出されなかった。セロリに含まれるアグリコンの割合は、ルテオリンよりもアピゲニンの方が多いため、アピゲニン7-O-β-D-グルコシドに対する基質特異性はルテオリン7-O-β-D-グルコシドよりも高いことが予想された。
ペントースを転移するUGTに見られる特徴的なアミノ酸がホモロジーモデリングによって推定されており、140番目付近のIleをSerに変えるとUDP-ペントースではなく、UDP-Glcを認識するという報告がある(Ohgami, S., et al., (2015) Plant Physiol. 168, 464-477; Chen, H.Y., Li, X. (2017) Plant J. 89, 195-203)。AgApiTにおいてはIle139がその特徴的アミノ酸に相当し、ペントースの認識に関わっていると予想した(
図1B)。Ile139をValまたはSerに置換して基質特異性を調べた(
図11)。I139Vは野生型と同じ基質特異性・同程度の活性を示したが、I139SではUDP-Apiに対する活性がなくなった。UDP-Xyl、UDP-Glcに対しては、いずれも活性を持たなかった(データ示さず)。今後、AgApiTの結晶構造解析を行うことで、酵素の基質認識機構を解明できると考えられる。
【0082】
実施例3 発達段階ごとのAgApiT遺伝子の発現量解析
3-1.実験材料と実験方法
Yanらの方法(Yan, J., et al., (2014) Sci. Hortic. (Amsterdam) 165、218-224)に従い、植物体の長さで、発達段階を以下のように分けた。1:0.5 cm以下、2:0.5~1 cm、3:1~1.5 cm、4:1.5 cm~2 cm、5:2~2.5 cm、6:2.5~3 cm、7:3 cm以上。発達段階ごとにサンプルを集め、RNeasy Plus Mini Kitを用いてRNAを抽出した。PrimeScript
TM II 1st strand cDNA Synthesis Kitを用いて、RNA 0.5 μgからcDNAを合成した。それぞれのcDNAを鋳型に、GAPDH F、GAPDH R、FNS I F、FNS I R、DN15087 F、DN15087 R(表1)をプライマーとして、Go-taq Green Master mixを用いてPCRを行い、半定量した。
3-2.結果
セロリの発達段階(1:0.5 cm以下、2:0.5~1 cm、3:1~1.5 cm、4:1.5 cm~2 cm、5:2~2.5 cm、6:2.5~3 cm、7:3 cm以上)ごとに2つの遺伝子(FNS I、AgApiT(DN15087))の発現量を解析した。GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)は内部標準として用いた。FNS I(フラボン合成酵素I)はナリンゲニンからアピゲニンを合成する酵素であり、Yanらによって遺伝子同定されている。Yanらの結果では、FNS I遺伝子は段階1から2にかけて発現量が増加し、段階5から減少していた。今回の結果では、Yanらの結果と同様に、FNS I遺伝子の発現量は段階5で減少していた(
図12)。FNS I遺伝子の発現量はアピゲニンの増加量と対応している。AgApiT遺伝子は、FNS I遺伝子と同様に段階4までは発現量が高く、段階5から減少していた(
図12)。アピインもアピゲニンと同時期に増加すると予想する。
【0083】
実施例4 セロリアピイン生合成グルコース転移酵素候補遺伝子の選抜
4-1.実験材料と実験方法
(1)実験材料
セロリ(新コーネル619)の種子はトーホクから購入した。種子はMS寒天培地上で、22℃、16時間明期/8時間暗期のサイクルで生育させた。10日後、苗をMetro-Mix 360 (Sun Gro Horticulture、Agawam、OH)とバーミキュライトを4:1の割合の混合土壌に移し、同じ条件下で生育させた。制限酵素Nde I、Xba I、pCold ProS2ベクター、HRV3C Proteaseはタカラバイオから購入した。Go-taq Green Master mixはプロメガから購入した。BugBuster Protein Extraction Reagent、ベンゾナーゼヌクレアーゼはNovagenから購入した。HisTrap HP 1 mLは、GEヘルスケアから購入した。Pierce 660nm Protein Assayはサーモフィッシャーサイエンティフィックから購入した。Inertsil ODS-3 (4.6×250 mm)はGLサイエンスアから購入した。Amicon Ultra-0.5 mLはメルクミリポアから購入した。アピゲニンはCayman Chemical (Ann Arbor, MI)から購入した。ナリンゲニン、ルテオリン、ケルセチン、およびゲニステインは東京化成から購入した。アピゲニン7-O-β-D-グルコシドはArk Pharm (Arlington Heights, IL)から購入した。ナリンゲニン7-O-β-D-グルコシド、ルテオリン7-O-β-D-グルコシド、およびケルセチン7-O-β-D-グルコシドはExtrasynthese(Lyon、France)から購入した。UDP-Glc、UDP-ガラクトース(Gal)、リゾチームは、富士フィルム和光ケミカルから購入した。UDP-グルクロン酸(GlcA)はSigma-Aldrichから購入した。
(2)セロリ由来GlcT(AgGlcT)遺伝子選抜
セロリゲノム配列はcleleryDBから入手した。セロリのRNA-seqデータ(SRR102370)はNCBIのSequence Read Archive(SRA) (http:/ww.ncbi.nlm.nih.gov/sra)から入手した。このデータをGalaxyサーバー上のTrinityでde novoアセンブルした。また、HISAT2を用いてマッピングし、StringTieを用いて各予測遺伝子についてTPM値を算出した。セロリRNAseqリードデータからフラボングルコース転移酵素が属するUGT71、UGT73、UGT88のホモログを検索した。UGT71、UGT73、UGT88のアミノ酸配列をClustalWでアセンブルし、隣接結合法で系統樹を作成した。セロリ以外の配列はUGT Nomenclature Committee Website (https://prime.vetmed.wsu.edu)または公開データベースからトランスクリプトームショットガンアセンブリとのBLASTにより取得した。
(3)グルコース転移酵素遺伝子発現解析
セロリ本葉は発達段階別に縦の長さにより7段階に分けた。段階1:0.5 cm以下、段階2:0.5~1.0 cm、段階3:1.0~1.5 cm、段階4:1.5~2.0 cm、段階5:2.0~2.5 cm、段階6:2.5~3.0 cm、段階7: 3.0cm以上。セロリ本葉は、回収後直ちに液体窒素を用いて凍結し、-80℃で保管した。RNeasy plus mini kit (Qiagen, Hilden, Germany) を用いてRNAを抽出し、PrimeScript II 1st strand cDNA synthesis kit (タカラバイオ) を用いてcDNAに逆転写した。逆転写PCRはセロリ各発育段階ごとのcDNAを鋳型として、AgGAPDH_F、AgGAPDH_R、AgFNS I_F、AgFNS I_R、AgApiT_F、AgApiT_R、AgGlcT_DN9954_F、AgGlcT_DN9954_R、AgGlcT_DN15140_F、AgGlcT_DN15140_R、AgGlcT_DN15830_F、AgGlcT_DN15830_R、AgGlcT_DN15918_F、AgGlcT_DN15918_R、AgGlcT_DN16008_F、 AgGlcT_DN16008_R、AgGlcT_DN23862_F、AgGlcT_DN23862_R、AgGlcT_DN41599_F、AgGlcT_DN41599_R(表4)をプライマーとして、Go-taq Green Master mixを用いて行った。GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)をコントロールとして使用した。TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Touch (タカラバイオ)を使用した。PCR反応は95℃で1分熱変性を行い、55℃で30秒、72℃で1分の加熱を30サイクル行った。PCR反応物にLoading Buffer(タカラバイオ)を添加し、1%アガロースゲルを用いて電気泳動(フナサブマリン、フナコシ)を行った。
リアルタイムPCRはセロリ各発育段階ごとのcDNAを鋳型にGAPDH_F、GAPDH_R、FNSI_F、FNSI_R、AgApiT_F、AgApiT_R、AgGlcT_F、AgGlcT_R(表4)をプライマーとして使用した。Step One Plus (Applied Biosystems)を使用した。50 ng/μL cDNA、0.4 μMプライマー、TB Green Premix Ex Taq II、ROX reference dye、滅菌精製水で反応液を調整した。PCR反応は95℃で30秒熱変性を行い、95℃で5秒、60℃で30秒の加熱を40サイクル行った。PCR反応物にLoading Buffer(タカラバイオ)を添加し、3%アガロースゲルを用いて電気泳動(フナサブマリン、フナコシ)を行った。
【0084】
【0085】
4-2.結果
フラボノイド糖転移酵素は3-O型糖転移酵素、5-O型糖転移酵素、7-O型糖転移酵素に分類される。セロリアピイン生合成グルコース転移酵素は、これまでに同定されたアピゲニン:グルコース転移酵素と同様のフラボノイド7-O型糖転移酵素UGT71、73、88のホモログであると考えられた。セロリゲノムには多くのUGTがコードされている。セロリ幼少期の本葉ではアピインの生合量が非常に高い(2.28 g/重量1 gあたり)ため、多くのUGT遺伝子の中でもアピインが多く生合成される幼少期の本葉で発現量の高い遺伝子がコードするものをセロリ由来アピイン生合成に関わるグルコース転移酵素(AgGlcT)であると推測した。候補遺伝子選抜のためにゲノム配列からUGT71、73、88のホモログを検索すると、23個のUGT遺伝子が見出された。これらと既知のグルコース転移酵素とを合わせて分子系統樹を作成した(
図13)。UGT71、73、88に属するセロリ遺伝子9種類(DN9954、DN15450、DN15830、DN15918、DN16008、DN19752、DN23862、DN41599)をアピイン生合成グルコース転移酵素の候補とした。UGT71、73、88に分類された9つの遺伝子の発現をRNA-seqデータを用いて解析したところ、7つの遺伝子の発現が見られた(表5)。そのうち、UGT71に属するDN9954遺伝子とUGT88に属するDN16008遺伝子とDN23862遺伝子のリードカウント(TPM値)が比較的高かった(表5)。
【0086】
【0087】
これらの7つの候補遺伝子について、セロリの発達段階(段階1:0.5 cm以下、段階2:0.5~1.0 cm、段階3:1.0~1.5 cm、段階4:1.5~2.0 cm、段階5:2.0~2.5 cm、段階6:2.5~3.0 cm、段階7: 3.0cm以上)ごとにAgGlcT候補遺伝子の発現量を半定量PCRによって解析した。このうち、UGT88に属するDN23862の発現量がアピイン生合成関連遺伝子(AgFNS I, AgApiT)と同様にセロリの段階1~3で増加し、段階4~6で減少した(
図14A, B)。その他の遺伝子では、DN9954とDN16008がDN23862と似た発現挙動を示した。このうち、DN23862の発現量をRT-PCRによって解析した。AgGlcTは段階3で最も発現量が増加し、段階6から発現量が大幅に減少した(
図15A)。アピイン生合成関連酵素遺伝子(AgFNS I, AgApiT)は段階2で最も発現量が増加し、段階5から発現量が大幅に減少し、発現パターンがAgGlcTのものと類似していた(
図15B、C)。また、アピインの含有量は段階1で最も多く、成長するにつれて減少する(
図15A)。これはAgGlcTの発現挙動とおおむね一致する。
これらの結果から、DN9954(UGT71)、DN16008(UGT88)、DN23862(UGT88)をセロリ由来アピイン生合成グルコース転移酵素の候補遺伝子とした。中でもアピイン生合成関連酵素遺伝子(AgFNS I、AgApiT)と発現挙動が最も似ていたDN23862(UGT88)を最有力候補とした。
【0088】
実施例5 セロリ由来GlcT遺伝子の同定
5-1.実験材料と実験方法
(1)グルコース転移酵素候補タンパク質の発現・精製
3種類のAgGlcT候補タンパク質を大腸菌でタンパク質発現させるために、コンストラクトを作成した。鋳型はセロリ由来のcDNA、プライマーはAgGlcT_DN9954_F、AgGlcDN9954_R、AgGlcT_DN16008_F、AgGlcDN16008_R、AgGlcT_DN23862_F、AgGlcDN23862_R(表4)を使用した。25 mM MgSO
4、2 mM dNTPs、10 μMプライマー(Forward、Reverse)、100 ng/μL cDNA、PCR Buffer for KOD Plus Neo、1.0 U/μL KOD Plus Neo、滅菌精製水を混合した。PCR反応は95℃で1分熱変性を行い、55℃で30秒、72℃で1分の加熱を30サイクル行った。PCR反応物にLoading Buffer(タカラバイオ)を添加し、1%アガロースゲルを用いて電気泳動(フナサブマリン、フナコシ)を行った。制限酵素はNde I、Xba Iを使用した。pColdProS2ベクターを制限酵素Nde IおよびXba I、37℃、2時間で処理した。In Fusion HD Cloning Kitを用いて、50℃、30分でインフュージョンクローニングを行なった。これを大腸菌DH5αに形質転換し、100 μg/mLアンピシリンを含むLB培地上で培養した。Go-taq Green Master mixを用いてコロニーPCRを行い、目的のコンストラクトを得た。塩基配列解析を行い、正しいコンストラクトが作成されていることを確認した。
精製プラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、LB培地3 mLに37℃で16時間振とう培養した。培養液3 mLを100 mLのLB培地に添加し、OD
600=0.6~0.8になるまで37℃で振とう培養した。氷上で10分間培養液を冷却し、1 mM IPTGを用いて15℃、24時間で発現誘導を行った。5,000 × g、4oC、15分間の遠心分離により集菌を行った。集菌後、大腸菌可溶化液(20 mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.4、5 U/mLベンゾナーゼおよび1 kU/mLリゾチーム)を菌体1 gに対して5 mL加えて懸濁した。20分間氷上で静置し、20,000 × g、4℃、20分間の遠心分離により、上清を回収し、粗酵素溶液を得た。この粗酵素溶液を50 mMイミダゾールを含む(50 mMリン酸ナトリウムおよび500 mM塩化ナトリウム、pH 7.4)で平衡化し、Niイオンキレートカラムにアプライし、200 mMイミダゾールを含む同じ緩衝液でタンパク質を溶出させた。このタンパク質をHRV3Cプロテアーゼで4℃、24時間処理し、タグを除去した。SDS-PAGEにより精製タンパク質を分析した。このタンパク質を Amicon Ultra-0.5 mL (10 kDa cutoff, Merck Millipore) を用いて、14,000 × g、4oC、15分の条件下で限外ろ過し、濃縮した。Pierce 660 nm protein assay kitを用いてタンパク質の濃度を測定した。
(2)グルコース転移酵素の活性検出
1 mMアピゲニンをアクセプター基質、0.5 mM UDP-Glcをドナー基質とし、200 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.0)を用いて反応液を調製した。反応条件は23℃、2時間で、100℃、3分間のインキュベーションで反応を停止した。反応生成物の定量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて以下の条件で行なった。
<HPLC条件1>
装置:日立Chromaster 5110 pump、5440 FL Detector 流速:1.0 mL/min
検出: 330 nmカラム:GL Sciences Inertsil ODS-3 (4.6×250 mm) 5 μm
移動相:A) 0.1%TFA B)100%アセトニトリル
グラジェント条件:5-25分 (25-55% B)
5-2.結果
候補遺伝子DN9954、DN16008、DN23862の全長をpColdProS2ベクターに組換え、大腸菌BL21株に形質転換した。ProS2タグ融合タンパク質を発現させ精製し、目的のタンパク質を得た。プロテアーゼ処理を行い、タグを除去した53、53、54 kDaのタンパク質(計算値53、53、54 kDa)をそれぞれ得た(
図16)。収量はそれぞれ、培養液100 mLあたり0.51、0.48、0.42 mgであった。
pH7.0の反応緩衝液中で、0.5 mM UDP-Glcをドナー基質、1 mM アピゲニンをアクセプター基質とし、23℃で2時間、発現させたタンパク質1 μgと反応させると、逆相クロマトグラフィーでアピゲニン7-O-グルコシドと溶出位置が同じ反応生成物が観察された(
図17A)。酵素活性はDN23862、DN9954、DN16008の順に高く、それぞれ63.5、4.2、3.1 μU/μgであった(
図17B)。DN23862は他の候補タンパク質と比べ15~20倍酵素活性が高かった。DN23862は酵素量依存的(0~1.8 μg)、反応時間依存的(0~4時間)に反応生成物の量が増加した(
図18A、B)。
DN23862遺伝子の発現パターンがAgFNS I、AgApiTと最も類似しており(
図15)、酵素活性が最も高かったことから(
図17)、DN23862をアピゲニンとUDP-Glcからアピゲニン7-O-グルコシドを生成するセロリ由来グルコース転移酵素AgGlcTであると結論づけた。これは、セロリで初めて同定されたアピイン生合成グルコース転移酵素である。
【0089】
実施例6 AgGlcTのアミノ酸配列アライメントと立体構造予測
6-1.実験材料と実験方法
Clustalw(https://www.genome.jp/tools-bin/clustalw)でAgGlcTとPcGlcT、UGT88D5、UGT88D3、UGT88A1、UGT88A7、UGT73A17、PaUGT1のアミノ酸をアライメントした。AgGlcTの立体構造をAlphaFold2(https://colab.research.google.com/github/sokrypton/
ColabFold/blob/main/AlphaFold2.ipynb)で予測した。
6-2.結果
AgGlcTは、469アミノ酸残基で構成され7-O型糖転移酵素であるUGT88に属する。344~387番目にUGTに見られるPSPGモチーフ、454~456番目にGlcTに特異的に見られるGSSモチーフを含んでいた(
図19)。触媒残基であるHis19とAsp123を含んでいた。後述する、同じセリ科でアピインの含有量も多いパセリグルコース転移酵素(PcGlcT)と90%の相同性を示した。UGT88に属する他の植物種由来のGlcT遺伝子であるUGT88A1(アブラナ科)、UGT88D3(ゴボウ科)、UGT88D5(シソ科)、UGT88A7(シソ科)とは、それぞれ46%、47%、41%、44%の相同性を示した。アピゲニンにGlcを転移する酵素UGT73A17(ツバキ科)、PaUGT1(UGT72)(ゼニゴケ科)とは、それぞれ26%、22%の相同性を示した。AgGlcTはUGTに見られるPSPGモチーフ、GlcTに特異的に見られるGSSモチーフを含んでいた。このように、AgGlcTはアピゲニン:GlcTに特徴的なアミノ酸配列を持っていた。
AlphaFold2で予測したAgGlcTの立体構造を示した(
図20)。AgGlcTと同じUGT88に属するUGT88D7と立体構造が類似しており、触媒残基PSPGモチーフやGSSモチーフの相対的位置も類似していた。
【0090】
実施例7 AgGlcTの生化学的解析
7-1.実験材料と実験方法
1 mMアピゲニンをアクセプター基質、0.5 mM UDP-Glcをドナー基質とし、pH4.0、5.0、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0(200 mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.0、5.0、200 mM MES-水酸化カリウム緩衝液、pH6.0、6.5、200 mM HEPES-水酸化カリウム緩衝液、pH7.0、7.5、8.0)で反応液を調製した。反応条件は23℃、2時間で、100℃、3分間のインキュベーションで反応を停止した。反応生成物の定量はHPLC条件1で行なった。AgGlcTのアクセプター基質特異性は、1 mMアピゲニン、ルテオリン、ケルセチン、クリソエリオール、ナリンゲニン、ゲニステイン、アピゲニン7-O-グルコシド、アピインをそれぞれアクセプター基質、0.5 mM UDP-Glcをドナー基質とし、200 mM Tris-HCl緩衝液、pH 7.0存在下で反応させたものを解析して求めた。ドナー基質特異性は、1 mMアピゲニンをアクセプター基質、0.5 mM UDP-Glc、UDP-Xyl、UDP-GlcA、UDP-Gal、UDP-GalA、UDP-Araf、UDP-Apiをそれぞれドナー基質とし、200 mM Tris-HCl緩衝液、pH 7.0存在下で反応させたものを解析して求めた。
AgGlcTのアピゲニン、UDP-Glcに対するk
cat、K
m値は1 mMアピゲニンといくつかの濃度のUDP-Glc(15~500 μM)、いくつかの濃度のアピゲニン(30~1000 μM)と0.5 mM UDP-Glcをそれぞれ用いた。これら2つの物質を基質とし、200 mM Tris-HCl緩衝液、pH 7.0存在下で反応させた。3回の実験の平均値をPrism version 9.0を用いた非線形回帰分析により、Michaelis-Menten式から酵素力学定数を求めた。
7-2.結果
pH依存性:アピゲニンとUDP-Glcを基質とし、pH4.0~8.0の間で酵素活性を測定すると、pH7.0で最も酵素活性が高く、51.1 μU/μgあった(
図21)。他のグルコース転移酵素の至適pHと類似していた。本酵素は小胞体膜上にあるとされており、グルコース転移酵素の特徴に当てはまる。最大酵素活性の50%となるpHは5.75と7.50で、それぞれAsp123とHis19の側鎖のpK
aに相当すると考えられた。
ドナー基質特異性:ドナー基質特異性解析には7つの糖ヌクレオチドを用いた。UDP-Glcをドナー基質とした際、酵素活性が59.2 μU/μgであり、最も高かった。UDP-Xlyの場合も6.3 μU/μgの酵素活性が見られたが、その他の基質は酵素活性が見られなかった(
図22A)。UDP-XlyはUDP-Glcのグルコースの6位の-CH
2OHがない構造をしており、それらの共通構造をある程度認識していると考えられた (
図22B)。
アクセプター基質特異性:アクセプター基質特異性解析には8つのフラボノイドを用いた。アピゲニンをアクセプター基質とした際、酵素活性が69.7 μU/μgであり、最も高かった(
図23A)。次に、ケルセチン、ルテオリン、クリソエリオール、ナリンゲニン、ゲニステインの順に酵素活性が高くなった。アピゲニンに糖が結合したアピゲニン7-O-グルコシドとアピインには、酵素活性が見られなかった。これらの基質特異性からAgGlcTは、セロリで合成されるアピゲニン7-O-グルコシド、ルテオリン7-O-グルコシド、クリソエリオール7-O-グルコシドのすべての生合成に関与すると考えられた。本酵素は活性の高かった上位4つの基質に共通するフラボン骨格と1-2位間の二重結合を認識していると考えられた (
図23B)。
反応速度論的解析:1 mMアピゲニンといくつかの濃度のUDP-Glc(15~500 μM)、あるいはいくつかの濃度のアピゲニン(30~1000 μM)と0.5 mM UDP-GlcをAgGlcTと反応させて、AgGlcTのUDP-Glcあるいはアピゲニンの酵素動力学的定数を求めた。UDP-Glcに対するK
m、k
cat値は、それぞれ192 μM、0.0031 s
-1、k
cat/K
m値は0.17 s
-1 mM
-1であった。アピゲニンに対するK
m、k
cat値は、それぞれ190 μM、0.0032 s
-1、k
cat/K
m値は0.16 s
-1mM
-1であった(
図24A、B)(表6)。AgGlcTのk
cat/K
m値はコケやシソなど他の植物のグルコース転移酵素ものもと比べて、10~100倍程度低かった。セロリ由来アピオース転移酵素ApiTに対するUDP-Api、アピゲニン7-O-グルコースに対するk
cat/K
m値は、それぞれ0.076、0.058 s
-1 mM
-1であり、AgApiTもk
cat/K
m値が低い。AgGlcTのk
cat値が比較的低いが、RNA-seq解析からはAgGlcTの発現量が比較的高かった。これはアピインの生合成量がAgGlcTの発現量によって調節されていることを示唆している。
【0091】
【0092】
実施例8 PcApiTとPcGlcTの遺伝子同定
8-1.実験材料と実験方法
(1)実験材料
パセリ(品種カーリ・パラマウント)の種子はタキイ種苗から購入した。種子は、70%エタノールで1分間殺菌した後、蒸留水で3回洗浄し、次亜塩素酸ナトリウムを用いて20分間、表面殺菌した。 蒸留水で3回洗浄後、PPM(植物保存剤混合物、ナカライテスク)を2μL加え、4℃の暗所で1日春化した。メトロミックスとバーミキュライト(1:1)の混合土壌に種子を播種した。生育条件は、光周期、16時間/8時間明暗、光強度、132μmol・m-2・s-1、温度、22℃、蒸留水は毎日、ハイポネックスは3日に1回投与した。
(2)パセリ由来アピオース転移酵素・グルコース転移酵素の候補遺伝子選抜
パセリRNA-Seqデータセットは、NCBIのSequence Read Archive (SRA) (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/sra)から入手した。リードはtrimomatic version 0.39でトリミングし、Trinity version 2.8.5でk-mer size 32でde novoアセンブルした。Trinityの結果をもとにTransDecoder version 5.5.0でアミノ酸配列を推定し、Salmon version 0.14.1で発現量をカウントした。パセリアピオース転移酵素(PcApiT)候補遺伝子は、de novoアセンブルで作成した転写物カタログのうち、既知のUGT87、91、94(セロリアピオース転移酵素を含む)に類似する配列をBLAST 2.12.0+で検索して得た。そのうちTPM値が高いものを候補遺伝子とした。パセリグルコース転移酵素(PcGlcT)候補遺伝子については、発現量が高く、セロリグルコース転移酵素遺伝子が類似している遺伝子を候補遺伝子とした。
8-2.結果
パセリの幼少期の本葉からRNAを抽出し、RNA-Seq解析を行った。データセットをトリミングし、112154個の転写物をk-merサイズ32でde novoアセンブルし、その存在量をTranscripts Per Million(TPM)でカウントした(表7)。ApiTが属すると考えられるGGTに分類されるUGT79、91、94のうち、Ubk32_id_4398_c1_g5の発現量が高かった。この遺伝子は、セロリアピオース転移酵素AgApiTと90%のアミノ酸配列相同性があり(
図25)、これをPcApiTの候補遺伝子とした。PcGlcT候補遺伝子については、セロリAgGlcTと相同性の高いもの(78%)を候補遺伝子とした(
図25)。
【0093】
【0094】
実施例9 PcGlcTとPcApiTの発現と酵素活性・生化学的性質
9-1.実験材料と実験方法
(1)パセリアピオース転移酵素、グルコース転移酵素の大腸菌での発現
PcGlcTおよびPcApiTの候補遺伝子配列は、大腸菌細胞でのタンパク質発現のためにコドン最適化遺伝子(Eurofins社)として化学合成した。PcApiTのコドン最適化遺伝子は、pColdProS2_PcApiT_FおよびpColdProS2_PcApiT_Rプライマーで増幅し、NdeIおよびXbaIサイト間でpColdProS2ベクターへクローニングした。PcGlcTのコドン最適化遺伝子は、pET28b_PcGlcT_FおよびpET28b_PcGlcT_Rプライマーで増幅し、NdeIおよびXhoIサイトの間でpET28bベクターにクローニングした。pColdProS2_PcApiTおよびpET28b_PcGlcTクローン産物をヒートショックにより大腸菌DH5a細胞クローン産物に形質転換し、細胞をLB-アンピシリン寒天プレートにプレーティングして37℃にて12~16時間培養した。いくつかのコロニーを3mL LB-アンピシリン培地への植菌し、この培養物を37℃で12~16時間培養し、FastGene Plasmid Mini Kit (Nippon Genetics)を用いてプラスミドを単離した。プラスミド産物の塩基配列は、DNAシークエンスで確認した。
pColdProS2_PcApiTおよびpET28b_PcGlcTで形質転換した大腸菌BL21(DE3)を100mg/mLアンピシリンを含むLB培地で37℃、OD600が0.6になるまで培養した。IPTGを最終濃度1mMになるように添加し、15℃で24時間インキュベートした。5,000 × g、4 ℃で5 分間の遠心分離により回収した細胞を、10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4、5U/mLベンゾナーゼ、1kU/mLリゾチームを添加したBugBuster Protein Extraction Reagent (Millipore)で20分間溶解させた。細胞残渣は、20,000 × g、4 ℃で20 分間の遠心分離により除去した。上清を回収し、溶液が20mMのイミダゾールを含むように、上清に適量の緩衝液 (20mM リン酸ナトリウム緩衝液、200 mM 塩化ナトリウム, 20 mM イミダゾール pH 7.4) を添加した。次に0.45mmのフィルターを通し、濾過したサンプルを緩衝液1(50mMリン酸ナトリウム緩衝液と500mM塩化ナトリウム、20mMイミダゾールpH7.4)で平衡化した1mL HisTrap HPにアプライした。10カラム量の緩衝液1で洗浄し、続いて5カラム量の緩衝液2(50mMリン酸ナトリウム緩衝液、500mM塩化ナトリウム、50mMイミダゾールpH7.4)、緩衝液3(50mMリン酸ナトリウム緩衝液、500mM塩化ナトリウム、200mM イミダゾール pH 7.4)で溶出した。発現したProS2_PcApiT融合タンパク質をHRV3Cプロテアーゼで4 ℃、12時間消化し、proS2タグを除去した。得られたPcApiTタンパク質は、緩衝液1で平衡化した1 mL-HisTrap HPカラムでフロースルー画分として精製された。得られた発現タンパク質(PcGlcTとPcApiT)をAmicon Ultra-0.5 mL(10kDカットオフ)を用いて、14,000 × g、4 ℃、15 minで数回限外ろ過することにより濃縮した。このタンパク質をSDS-PAGEで分析した。
(2)PcApiTとPcGlcTの活性測定
精製した組換えタンパク質PcGlcTの基質特異性を解析するために、1 mMの糖供与体、1 mMの糖受容体、PcGlcT 0.2 μg、50 mM NaCl含有100 mM Tris-HCl 緩衝液(pH9.0)からなる10 μL容量の反応混合物を23℃で30分反応させた。糖受容体アピゲニン(Cayman Chemical)、アピゲニン7-O-グルコシド(Ark Pharm)、アピイン(Ark Pharm)、ナリンゲニン(TCI)、ルテオリン(TCI)、ケルセチン(TCI)、ゲニステイン(TCI)、クリソエリオール(Extrasynthase)、糖供与体UDP-Glc(富士フィルム和光ケミカル)、UDP-Gal(富士フィルム和光ケミカル)、UDP-GlcA(Sigma-Aldrich)、UDP-Araf(ペプチド研究所)を用いた。UDP-Xyl、UDP-Api、UDP-GalAは発明者らが調製したものを用いた。精製した組換えタンパク質PcApiTの基質特異性を解析するために、5μg/μLのPcApiT酵素を100μMの糖受容体、1mMの糖供与体、50mM NaCl (pH 7.0) 含有120mM Tris-HCl 緩衝液と23℃、1hインキュベートした。糖受容体アピゲニン7-O-グルコシド、アピイン、アピゲニン、クリソエリオール7-O-グルコシド(ChemFaces)、ナリンゲニン7-O-グルコシド(Extrasynthese)、ルテオリン7-O-グルコシド(Extrasynthese)、ケルセチン7-O-グルコシド(Extrasynthese)、ケルセチン 3-O-グルコシド (Extrasynthese)、糖供与体UDP-Araf、UDP-Glc、UDP-Gal、UDP-GalA、UDP-GlcNAc(富士フィルム和光ケミカル)、UDP-GlcA、GDP-Fuc(Sigma-Aldrich)、UDP-Api、UDP-Xyl、UDP-GalAを用いた。酵素反応は100℃で3分間インキュベートすることで止め、HPLC分析して、基質と生成物のピーク面積を定量することで酵素の生化学的特性を決定した。酵素活性は、上記の反応条件下で1μmolの生成物を生成する酵素量を1ユニットと定義した。
PcGlcTおよびPcApiTの酵素動力学パラメータ(Kmおよびkcat値)を求めるために、PcGlcTではアピゲニン(25-1500μM)、UDP-Glc(50-1500μM)、PcApiTではアピゲニン7-O-グルコシド(12.5-2000μM)、UDP-アピオース(2.4-500μM)の濃度で酵素活性を解析した。
PcGlcTとPcApiTの至適pHと至適温度を決定するために、100 mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH 4.0-5.0)、100 mM MES-KOH緩衝液 (pH 6)、100 mM HEPES-KOH緩衝液(pH7.0-8.0)、100 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5-9.5)、100 mM グリシン-NaOH緩衝液(pH10.0-10.5)、100 mM Britton-Robinson緩衝液(pH11.0-12.0)を用いた。至適温度を決めるために、各反応混合物を一連の温度(5~50℃、5℃刻み)で20分間インキュベートして、酵素活性を解析した。
(3)HPLC条件
Inertsil ODS-3 逆相カラム (4.6 × 250 mm、GL Sciences)を用いて、基質と生成物に対応するピーク面積を定量することにより、PcGlcTとPcApiTの活性を測定した。10 μL反応混合物をカラムにアプライし、1.0 mL/min の流速で分析した。PcGlcTは0.1%TFAを含む25%アセトニトリルで5分、その後20分で55%までアセトニトリル濃度を上げた。PcApiTは0.1%TFAを含む20%アセトニトリルで5分、その後20分で40%までアセトニトリル濃度を上昇させた。アピゲニン、クリソエリオール、ルテオリン、ナリンゲニン、 とケルセチンは、それぞれ330、330、350、280、254 nmの吸光度により検出、定量した。
(4)遺伝子発現解析
パセリの各器官および各発達段階におけるPcGlcTおよびPcApiTの発現プロファイルをqRT-PCRにより解析した。パセリの種子、根、茎、葉の各発達段階(~0.5cm,0.5~1.0cm,1.0~1.5cm,1.5~2.0cm,2.0cm~)の組織からRNeasy Mini Kit(Qiagen)により RNAを調製した。PrimScript II 1st strand cDNA synthesis Kit(タカラバイオ)を用いてcDNAを合成した。2.0μLのcDNA(50ng/μL)、0.8μLのプライマー(最終濃度0.4μM)、10μL TB Green Premix Ex Taq II(Tli RNaseH Plus)、0.4μL ROX reference dye、6.0μL RNA-free water5を含むqRT-PCRの反応混合物(20μL)を95℃30秒、95℃5秒・60℃30秒(40サイクル)、95℃15秒、60℃1分、95℃15秒、反応させた。ハウスキーピング遺伝子EF-1αを参照遺伝子として選択した。相対発現量はΔΔCt法を用いて算出し、0.5cm以下の葉での発現量を1とした。結果は3反復の平均値として表した。
9-2.結果
大腸菌発現のためにコドンを最適化したPcGlcT候補遺伝子をpET28bベクターにクローニングし、大腸菌で発現させた。Ni-キレートアフィニティークロマトグラフィーで分子質量53kDaのタンパク質を精製した(
図26)。精製したPcGlcTタンパク質を、アピゲニン(糖受容体)とUDP-グルコース(糖供与体)に作用させると、アピゲニン7-O-グルコシドが定量的に生成した(
図27)。PcGlcTのアクセプター基質特異性を調べた。PcGlcTはアピゲニン、ルテオリン、ケルセチン、ナリンゲニン、ゲニステイン、クリソエリオールなどのフラボノイドに対して活性を示した(
図28)。ドナー基質としては、PcGlcTはUDP-グルコースのみ好んだ(
図28)。
コドンを最適化したPcApiTをpColdProS2ベクターにクローニングし、大腸菌で発現させた。Ni-キレートアフィニティークロマトグラフィーで分子質量73kDaのProS2-ApiT融合タンパク質を精製した。ProS2タグを切断し、タグがないPcApiTタンパク質(分子質量49kDa)を精製した(
図26)。これをアピゲニン7-O-グルコシド(糖受容体)とUDP-アピオース(糖供与体)に作用させると、アピインが定量的に生成した(
図27)。
PcApiTのアクセプター基質特異性は、主にフラボノイド7-O-グルコシド(アピゲニン7-O-グルコシド、ケルセチン7-O-グルコシド、クリソエリオール7-O-グルコシド)に特異性があった(
図28)。PcApiTは糖供与体として、UDP-アピオースのみに活性を示し、特異性が高かった(
図28)。
PcGlcTとPcApiTの至適pHはともに9.0であった(
図29)。PcGlcTのUDP-グルコースに対するK
m値は610 μM、k
cat値は0.62 s
-1であった(表8)。PcGlcTのアピゲニンに対するK
m値は430 μM、k
cat値は0.60 s
-1であった。PcApiTのUDP-アピオースに対するK
m値は81 μM、k
cat値は1.98 s
-1であった。PcGlcTのアピゲニン7-O-グルコシドに対するK
m値は64 μM、V
max値は3.20 s
-1であった。
【0095】
【0096】
PcGlcTとPcApiT遺伝子の発現をqRT-PCR法により解析した(
図30)。両酵素遺伝子は共に、本葉で最も発現し、本葉でも幼少期(葉の長さ0.5~1.0 cm)の時に最も発現していた。これはアピインの生合成する時空間と一致し、これらの酵素がアピインの生合成に関わることを示している。
PcGlcTとPcApiT遺伝子の塩基配列とタンパク質のアミノ酸配列を示す(
図31)。
【0097】
実施例10 アピイン生産
10-1.実験材料と実験方法
(1)使用した培地
大腸菌の生育培地として2×YT培地を用いた。以下に組成を示す。
(2×YT培地(1 L))
ハイポリペプトン 16 g
乾燥酵母エキス 10 g
塩化ナトリウム 5 g
(寒天末 15 g)
(2)使用した大腸菌発現用ベクター
アピイン生産のための大腸菌発現用ベクターを5種類使用した(表9)。pCDF-1b-AgGlcT、pCDF-1b-AgApiT及びpACYCDuet-AtAXS1は本実施例で構築した。以下に構築方法を記載する。
【0098】
【0099】
まず、pCDF-1b-AgApiT、pCDF-1b-AgGlcTの構築を行った。AgApiT及びAgGlcT発現カセット(cspAプロモーターからT7ターミネーターまでを含むDNA断片)を、鋳型としてpColdProS2-AgApiTまたはpColdProS2-AgGlcTを、プライマー対としてpColdProS2-FとpColdProS2-Rを、PCR酵素としてKOD One DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を使用しPCR増幅した。次に、pCDF-1bからT7プロモーターからT7ターミネーターを除くDNA断片を、pCDF-1bを鋳型にpCDF-1b-FとpCDF-1b-Rを用いて、KOD One DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を使用しインバースPCR法で増幅した。その後、それぞれの増幅断片をGel/PCR Extraction kit(FastGene)を用いて精製した後、NE-Builder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB)を用いて連結させた。
次に、pACYCDuet-AtAXS1の構築を行った。鋳型としてpET28b-AtAXS1を、プライマー対としてAtAXS1-Bgl-FとAtAXS1-Kpn-Rを、PCR酵素としてKOD-Plus-NEO DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用いて、AtAXS1遺伝子断片を増幅した。PCR産物とpACYCDuet-1(Merck)をBglIIとKpnIで制限酵素処理し、それぞれの断片をGel/PCR Extraction kit(FastGene)を用いて精製した後、Ligation High Ver2 DNAリガーゼ(TOYOBO)を用いてライゲーション反応を行い連結させた。ベクター構築のために使用したプライマー配列を表10に示す。
【0100】
【0101】
以下に、PCR及びDNA連結反応条件を記載する。
(KOD One)
98 ℃ 10 sec
(Tm-5)℃ 5 sec
68 ℃ 1~10 sec/kbp
(30 cycles)
68 ℃ 5 min
12 ℃ ∞
(KOD Plus Neo)
98 ℃ 10 sec
Tm ℃ 30 sec
68 ℃ 30 sec/kbp
(30 cycles)
68 ℃ 5 min
12 ℃ ∞
(NE-Builder HiFi DNA Assembly Master Mix)
2×NE builder HiFi DNA Assembly Master Mix:1.2 μL
線状化ベクター + 精製済インサート:1.2 μL
上記の混合溶液を50 ℃で15分インキュベートした後、氷上で静置した。
(Ligation High Ver2)
Ligation High Ver2 :5.0 μL
線状化ベクター + 精製済インサート:5.0 μL
上記の混合溶液を16 ℃で30分インキュベートした後、氷上で静置した。
(3)コロニーPCR
大腸菌の形質転換体を得た後、Go Taq Green Master Mixを用いてコロニーPCRを行い、目的の遺伝子を持つかどうかを確かめた。以下に反応条件を示す。
95 ℃ 2 min
95 ℃ 30 sec
(Tm値-5) ℃ 30 sec
(30 cycles)
72 ℃ 60 sec / 1 kbp
72 ℃ 5 min
12 ℃ ∞
(4)アピイン生産のための形質転換体の作製
アピイン生産宿主として、BL21(DE3)を使用した。導入したプラスミドの組合わせと菌株名前を表11に示す。それぞれ、API001、API002と形質転換体に名前を付けた。
【0102】
【0103】
(5)タンパク質発現解析のためのサンプル調製
API001及びAPI002株のフリーズストックから、一部の菌体を2×YT+Amp+Cm+Sm寒天培地に植菌して一晩37 ℃で静置培養した。寒天培地上に生育した菌体の一部をかき取り、3 mLの2×YT+Amp+Cm+Sm 液体培地に植菌し、37 ℃で18 h前培養した。その後、20 mLの2×YT+Amp+Cm+Sm 液体培地にOD
600=0.2になるように前培養液を植菌しOD
600=0.6~0.8になるまで37 oCで培養した。その後、アピゲニンを終濃度50 μMとなるように添加し、15 ℃、200 spm、24 hでタンパク質の発現を誘導した。
(6)タンパク質発現解析及び逆相HPLC解析のためのサンプル調製
発現誘導後、菌体を回収し、菌体を破砕緩衝液(1×PBS、1 mM PMSF)に懸濁し液体窒素で5 mm径程度の球状に凍結した。その後、マルチビーズショッカー(YASUI KIKAI)を用いて球状の菌体を微粒子になるまで破砕(2500 rpm、20 sec)し、その後氷上で融解させた。融解後、破砕後の懸濁溶液を新しい1.5 mLチューブへ移し、1000 rpm、4 ℃、5 minし上清と沈殿に分けた。上清には2×SDS Sample Bufferを上清と等量を、沈殿には1×SDS Sample Bufferを上清に加えた2×SDS Sample Bufferの2倍量を添加し、100 ℃で5 min処理したものをSDS-PAGE用サンプルとした。以下に2×SDS Sample Bufferの組成を示す。
(2×SDSサンプルバッファー(10 mL))
0.5 M Tris-HCl (pH 6.8) 2.0 mL
10 % SDS 4.0 mL
Glycerol 2.0 mL
β-Mercaptoethanol 1.2 mL
蒸留水 0.8 mL
1 % BPB 数滴
また、逆相HPLC解析用のサンプルとして、発現誘導後の菌体懸濁液を遠心分離し、菌体と培養上清に分けた後、培養上清に等量のメタノールを加えた。
(7)CBB染色とウエスタンブロッティングによるタンパク質検出
SDS-PAGE用サンプルを10 %のアクリルアミドゲルにアプライしSDS-PAGEを行った。泳動後のゲルから分離ゲルのみ切り離し、CBB染色またはPVDF膜への転写を行った。
エレクトロブロッティング用に濾紙(Absorbent Paper CB-09A (ATTO))をBlotting Buffer A、 Blotting Buffer B、Blotting Buffer Cに30 min浸した。また、PVDF膜はメタノールに浸し前処理を行った後、Blotting Buffer Cに浸した。SDS-PAGE終了後、転写装置に陰極側からBlotting Buffer C→泳動ゲル→PVDF膜→Blotting Buffer B→Blotting Buffer Aの順番で重ね合わせ、1 mM/1 cm
2で、10-15Vの条件でPVDF膜へ90 min転写した。
転写後、PVDF膜をブロッキングバッファー{5 %スキムミルク、PBS + 0.05 % Tween 20(PBS-T)}に浸し、室温で1 h振とうさせながらブロッキングを行った。その後、室温でPBS-Tを用いて5 minの振とうを3回繰り返し、PVDF膜の洗浄を行った。洗浄後、PBS-Tで希釈した一次抗体(1:10,000、Anti 6×Histidine, Monoclonal Antibody Lot.CAR2715;1:5,000、Anti-S-tag Antibody,Rabbit)に1 h浸した。その後再度室温でPBS-Tを用いて5 minの振とうを3回繰り返しPVDF膜の洗浄を行った。次に、PBS-Tで希釈した二次抗体(1:10,000、Anti-Mouse IgG (H+L) Lot.144601;1:10,000、Anti-IgG (H+L chain)(Rabbit) pAb-HRP)に1 h浸した。最後に再度5 minの洗浄を3回繰り返した後、化学発光基質であるImmobilon Forte Western HRP Substrate (Millipore) 500 μLに浸し、ChemiDocTM XRS+ with Image LabTM Software を使用し、化学発光量を測定し、目的タンパク質を検出した。
(8)逆相HPLC解析
発酵生産後、調製した逆相HPLC解析用サンプルを用いて以下の条件で解析を行った。
(逆相HPLC解析条件)
カラム:InterSustain AQ-C18 5 μm (4.6 × 150 mm)
溶液:A) 20 % CH3CN,0.1 % TFA
B) 40 % CH
3CN,0.1 % TFA
流速:1.0 mL/min
検出:吸光度330 nm
カラム温度:30 ℃
グラジエント:時間(min)0→5→25→30→31
B(%)0→0→100→100→0
10-2.結果
(1)タンパク質発現解析
SDS-PAGE、ウエスタンブロッティングを用いたタンパク質発現解析の結果を
図32に示す。左側がAPI001、右側がAPI002を用いた際の結果を示している。3種類のAgGlcT、AgApiTおよびAtAXS1遺伝子が導入されていないネガティブコントロール株および3種類のAgGlcT、AgApiT、AtAXS1遺伝子を全て導入した株(API001またはAPI002株)について、それぞれアピゲニン無添加およびアピゲニン添加の条件で培養した。培養後の菌体より、それぞれ可溶性画分を調製し、合計4種類のSDS-PAGE用サンプルを調製した。その際、AgGlcT、AgApiT、AtAXS1と思われる特異的なバンドを確認することができた。
(2)逆相HPLCによるA7G及びアピインの生産量解析
次に、生産物の逆相HPLC解析結果を
図33に示す。 API001及びAPI002から調製した逆相HPLCサンプルにおいてネガティブコントロール(NC)には見られない2本の特異的なピークを確認した。これらのピークはアピゲニン-7-O-Glc(A7G)及びアピインの標品と共溶出していたため、API001及びAPI002のどちらにおいてもA7G及びアピインが生産されたと考えられる。
(3)A7G及びアピインの生産量と収率
逆相HPLCの結果から、各ピーク面積より定量したA7G及びアピインの生産量と収率を
図34に示す。A7Gは、API001では19 mg/L、API002では15 mg/L 生産された。アピインは、API001では1.4 mg/L、API002では0.38 mg/L 生産された。また、A7GはAPI001では78 %、API002では75 %、アピインは、API001では4.6 %、API002では1.4 %の収率であった。 A7Gに関しては両株において生産量に大きな差は見られなかったものの、アピインに関しては、API001の方がAPI002に比べて約3.6倍の生産量を示した。2種類の株でアピインの生産量に差が生まれた原因として、A7Gにアピオースを転移する、AgApiT遺伝子の発現量が関係していると考えられる。
今回用いた2種類のアピイン生産株において、API001はpCDF-1bに、API002はpColdProS2にAgApiTを導入している。pCDF-1bの複製起点ColDF13はコピー数20-40、ColdProS2の複製起点ColE1はコピー数15-20である。これらのことから、AgApiTを導入するベクターのコピー数が影響している可能性が考えられ、コピー数が多い、pCDF-1bに導入したAPI001株の方がアピインの生産量が多い結果となった。
本発明のアピオース転移酵素をコードする遺伝子およびグルコース転移酵素をコードする遺伝子を、UDP-グルコースおよびUDP-アピオースを生産する宿主細胞に導入し、アピゲニン存在下で培養することによって、アピゲニンからアピインを容易に生産することが可能となり、医薬品や食料品としての使用が容易となる。