(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095753
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F01P 11/08 20060101AFI20250619BHJP
F01M 5/00 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
F01P11/08 B
F01M5/00 H
F01M5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212029
(22)【出願日】2023-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】飛田 裕司
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313AA15
3G313AB01
3G313AB11
3G313BB02
3G313BB14
3G313BB23
3G313CA13
3G313DA05
3G313DA15
(57)【要約】
【課題】オイルクーラの寿命が低下するのを抑制することができるエンジンシステムを提供する。
【解決手段】本開示のエンジンシステムSYは、エンジンEのオイルパン14内からオイルOを吸引して排出するスカベンジポンプ30と、スカベンジポンプ30により排出されたオイルOを貯留するオイルタンク28と、オイルタンク28から導出されたオイルOを冷却するオイルクーラ40と、オイルクーラ40から導出されたオイルOをエンジンEの被潤滑部位に供給するフィードポンプ32とを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのオイルパン内からオイルを吸引して排出するスカベンジポンプと、
前記スカベンジポンプにより排出されたオイルを貯留するオイルタンクと、
前記オイルタンクから導出されたオイルを冷却するオイルクーラと、
前記オイルクーラから導出されたオイルを前記エンジンの被潤滑部位に供給するフィードポンプと、を備えたエンジンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンシステムにおいて、さらに、前記オイルタンクに冷却空気を供給する冷却機構を備えたエンジンシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンシステムにおいて、前記冷却機構は、エンジンの出力軸に取り付けられた回転体を含むエンジンシステム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエンジンシステムにおいて、前記オイルクーラが、アダプタを介して前記エンジンのクランクケースに取り付けられ、
前記アダプタは、前記スカベンジポンプから供給される前記オイルを前記オイルタンクに向かって流すクーラバイパス通路と、前記オイルタンクから供給されるオイルを前記オイルクーラに向かって流すクーラ入口通路とを有しているエンジンシステム。
【請求項5】
請求項1または2に記載のエンジンシステムにおいて、ピストンの往復方向とクランクシャフトの軸心方向の両方に直交する直交方向に関して、前記オイルクーラが、前記エンジンのクランクケースの前記直交方向における吸気側に配置されているエンジンシステム。
【請求項6】
請求項1または2に記載のエンジンシステムにおいて、前記オイルタンクが、エンジンの外部に配置されているエンジンシステム。
【請求項7】
エンジンのオイルパン内からオイルを吸引して排出するスカベンジポンプと、前記スカベンジポンプにより排出されたオイルを貯留するオイルタンクと、前記オイルタンクから導出されたオイルを冷却するオイルクーラと、前記オイルクーラから導出されたオイルを前記エンジンの被潤滑部位に供給するフィードポンプと、を有するエンジンシステムを備えた移動体。
【請求項8】
請求項7に記載の移動体であって、オフロード車両である移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドライサンプ潤滑方式のエンジンシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗物の駆動源として、オイルパン内からオイルを吸引してオイルタンクに排出するスカベンジポンプを有するドライサンプ潤滑方式のエンジンが用いられることがある(例えば、特許文献1)。オイルタンクに貯留されたオイルは、フィードポンプにより、エンジンの被潤滑部に圧送される。また、オイルパン内からスカベンジポンプで排出されてからフィードポンプで圧送される前に、オイルはオイルクーラで冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなエンジンにおいて、スカベンジポンプの下流でオイルタンクの上流にオイルクーラを配置すると、スカベンジポンプからのエアがオイルクーラに噛み込んで、オイルクーラの寿命に影響を与える恐れがある。
【0005】
本出願の開示は、オイルクーラの寿命が低下するのを抑制することができるエンジンシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のエンジンシステムは、エンジンのオイルパン内からオイルを吸引して排出するスカベンジポンプと、前記スカベンジポンプにより排出されたオイルを貯留するオイルタンクと、前記オイルタンクから導出されたオイルを冷却するオイルクーラと、前記オイルクーラから導出されたオイルを前記エンジンの被潤滑部位に供給するフィードポンプとを備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示のエンジンシステムによれば、スカベンジポンプの下流側にオイルタンクが配置され、オイルタンクの下流側にオイルクーラが配置されている。これにより、スカベンジポンプからのエアがオイルタンク内で抜けるので、オイルクーラでのエアの噛み込みを回避できる。その結果、オイルクーラの寿命が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るエンジンシステムのエンジンを示す側面図である。
【
図3】同エンジンシステムのオイルの流れを示す概略図である。
【
図4】比較例のエンジンシステムのオイルの流れを示す概略図である。
【
図5】本開示の第2実施形態に係るエンジンシステムのオイルの流れを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の好ましい実施形態について
図1~3を参照しながら説明する。本実施形態のエンジンEは、レシプロエンジンであり、例えば、胴体の先端にプロペラが配置される飛行機に用いられる。この場合、胴体内にエンジンEが収容されて、エンジン動力がプロペラに伝達される。エンジンEの用途は、これに限定されず、例えば、船舶の駆動源としても適用可能であり、二輪車や四輪車などの車両の駆動源としても適用可能である。
【0010】
以下の説明において、「幅方向WD」とは、エンジンEのクランクシャフト2の延びる方向、すなわち、クランクシャフト2の軸心方向をいう。幅方向WDにおいて、幅方向中心に向かう方向を「幅方向内側」といい、幅方向中心から離れる方向を「幅方向外側」という。「往復方向VD」とは、エンジンEのピストンの往復動方向をいう。「幅方向WD」と「往復方向VD」の両方に直交する方向を「直交方向PD」という。
【0011】
本実施形態のエンジンEは、クランクシャフト2が延びる方向に6つの気筒が並んだ6気筒エンジンである。ただし、気筒の数はこれに限定されず、例えば、4気筒であってもよい。また、本実施形態のエンジンEは、ガソリンエンジンであるが、燃料はガソリンに限定されない。クランクシャフト2は、ピストン3の往復運動を回転運動に変える。
【0012】
エンジンEは、クランクシャフト2を支持するクランクケース4と、クランクケース4から往復方向VDの一方に突出するシリンダ6と、シリンダ6の突出端に連結されたシリンダヘッド8とを有している。以下の説明において、往復方向VDにおいて、クランクケース4からシリンダ6が突出する方向を「上方」といい、その反対側を「下方」という。
【0013】
クランクケース4は、上下2つ割であり、クランクケースロア4aと、クランクケースアッパ4bとを有している。本実施形態では、クランクケースアッパ4bとシリンダ6は、型成形により一体に形成されている。ただし、クランクケースアッパ4bとシリンダ6が別体であってもよい。以下の説明において、クランクケースアッパ4bとシリンダ6が一体となったものをシリンダブロック10という。
【0014】
エンジンEは、さらに、シリンダヘッド8の上端に連結されたヘッドカバー12を有している。シリンダヘッド8とシリンダヘッドカバー12とでカム室が形成されている。カム室には、クランクシャフト2の回転に連動して吸排気バルブを開閉する動弁機構が配置される。
【0015】
エンジンEは、さらに、クランクケース4の下端に連結されたオイルパン14を有している。オイルパン14には、エンジンEの被潤滑部位を潤滑するエンジンオイルが貯留される。
【0016】
シリンダヘッド8における直交方向PDの一方側(
図1の右側)の面に吸気ポート16が開口し、直交方向PDの他側端(
図1の左側)の面に排気ポート18が開口している。以下の説明において、直交方向PDにおける吸気ポート側を単に「吸気側」といい、排気ポート側を単に「排気側」という。
【0017】
吸気ポート16および排気ポート18はシリンダヘッド8の内部に形成された通路である。吸気ポート16の上流端は、シリンダヘッド8における直交方向PDの一方側に開口し、下流端はシリンダ6内部の燃焼室20に開口している。排気ポート18の上流端はシリンダ6内部の燃焼室20に開口し、下流端はシリンダヘッド8における直交方向PDの他方側前方に開口している。吸気ポート16は気筒毎に形成されている。同様に、排気ポート18も気筒毎に形成されている。
【0018】
吸気ポート16から外部の空気が吸気として燃焼室20に供給されるとともに、インジェクタ22から燃焼室20に燃料が噴射され、燃料と空気の混合気が形成される。燃焼室20内の混合気は点火プラグ24で点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは、排気ポート18からエンジン外部に導出される。
【0019】
図2は、エンジンEを直交方向PDの吸気側から見た正面図である。同図に示すように、エンジンEの幅方向WDの一方側(
図2の右側)に出力軸25および減速機構26が設けられている。クランクシャフト2の回転力が減速機構26で減速されて、出力軸25に伝達される。出力軸25には、直接または動力伝達部材を介して航空機のプロペラ、車両の車輪、タービンの動翼、圧縮機のインペラ、送風機のファン等の回転体RBが取り付けられている。
【0020】
本開示のエンジンEは、オイルパン14内からオイルOを吸引してオイルタンク28に排出するスカベンジポンプ30を有するドライサンプ潤滑方式のエンジンである。本実施形態では、エンジンEとオイルタンク28により、ドライサンプ潤滑方式のエンジンシステムSYが構成されている。スカベンジポンプ30から排出されたオイルOは、オイルタンク28に貯留された後、フィードポンプ32により加圧されて、エンジンEの被潤滑部位が潤滑される。被潤滑部位を潤滑後のオイルOはオイルパン14に戻される。
【0021】
以下の説明において、「上流」および「下流」とはそれぞれ、オイルOの流れ方向の「上流」および「下流」をいう。
【0022】
オイルタンク28には、スカベンジポンプ30により排出されたオイルOが貯留される。本実施形態では、オイルタンク28は、エンジンEの外部に、すなわちエンジンEから離間して設けられている。オイルタンク28は、例えば、金属製である。ただし、オイルタンク28の材質は、これに限定されない。
【0023】
本実施形態では、オイルタンク28は、エンジン幅方向WDにおける出力軸側(
図2の右側)に配置されている。つまり、オイルタンク28は、出力軸25に取り付けられた回転体RMの近くに設けられている。これによって、回転体RMの回転により発生した空気流がオイルタンク28に向かい、オイルタンク28およびその内部のオイルOの熱を奪う。このように、本実施形態では、回転体RMが、オイルタンク28に冷却空気を供給する冷却機構CMを構成している。
【0024】
冷却機構CMは、出力軸25に取り付けられた回転体RMに限定されず、例えば、エンジンEが航空機、車両等の移動体に搭載される場合、走行風であってもよい。また、冷却機構CMとして、別途、送風機を設けてもよい。冷却機構CMはなくてもよい。
【0025】
上述のとおり、スカベンジポンプ30は、エンジンEのオイルパン14内からオイルOを吸引してオイルパン14の外部に排出する。本実施形態では、スカベンジポンプ30はオイルパン14の内部に配置されている。
【0026】
本実施形態では、スカベンジポンプ30は、クランクシャフト2の回転に連動して駆動する。詳細には、ドライブチェーンのような動力伝達部材34により、クランクシャフト2の回転力がスカベンジポンプ30に伝達されている。
【0027】
フィードポンプ32は、オイルタンク28に貯留されたオイルOを加圧し、エンジンEの被潤滑部位に圧送する。フィードポンプ32により圧送されたオイルOは、最初にメインオイルギャラリ36に供給される。メインオイルギャラリ36は、フィードポンプ32により加圧されたオイルOが流れるエンジン内部の通路のうち、フィードポンプ32からのオイルが最初に流入する最も径の大きな通路である。メインオイルギャラリ36は、エンジン内部の通路のうち、圧力も最も高い通路である。
図1に示すように、本実施形態では、メインオイルギャラリ36は排気側に設けられている。メインオイルギャラリ36には、ピストン3の裏にオイルOを噴射するオイルジェットが設けられる。
【0028】
図2に示すように、本実施形態では、フィードポンプ32もオイルパン14内に配置されている。詳細には、フィードポンプ32は、オイルパン14の内部におけるエンジンEの幅方向WDの他方側(
図2の左側)に配置されている。つまり、スカベンジポンプ30とフィードポンプ32は、エンジン幅方向WDに並んで配置されている。
【0029】
本実施形態では、フィードポンプ32もクランクシャフト2の回転に連動して駆動する。詳細には、ドライブチェーンのような動力伝達部材34により、クランクシャフト2の回転力がフィードポンプ32に伝達されている。
【0030】
本実施形態では、共通の動力伝達部材34により、クランクシャフト2の回転力がスカベンジポンプ30とフィードポンプ32の両方に伝達されている。詳細には、スカベンジポンプ30の回転軸30aとフィードポンプ32の回転軸32aが同軸に配置され、両回転軸30a,32aが連結されている。動力伝達部材34はフィードポンプ32の回転軸32aに掛け渡されており、クランクシャフト2の回転力が、動力伝達部材34を介してフィードポンプ32の回転軸32aと、これに連結されたスカベンジポンプ30の回転軸30aに伝達される。
【0031】
本開示のエンジンEは、オイルOを冷却するオイルクーラ40を備えている。本実施形態のオイルクーラ40では、エンジンEの冷却水との熱交換によりオイルOが冷却される。詳細には、エンジンEのクランクケース4における直交方向PDの吸気側の面に冷却水入口38が形成されており、該冷却水入口38に取り付けられた入口金具42とオイルクーラ40がバイパス通路44で接続されている。このバイパス通路44を通って、エンジン冷却水の一部がオイルクーラ40に供給されている。ただし、オイルクーラ40の形態はこれに限定されず、空冷式のオイルクーラであってもよく、また、オイル専用の冷却液でオイルが冷却される構造であってもよい。
【0032】
本実施形態では、オイルクーラ40が、エンジンEのクランクケース4における直交方向PDの吸気側に配置されている。具体的には、直交方向PDに関して、オイルクーラ40の直交方向中心はクランクケース4の直交方向中心よりも吸気側に位置している。これにより、排ガスの熱の影響を回避してオイルクーラ40の冷却効率を高めることができるうえに、バイパス通路44をコンパクト化できる。
【0033】
オイルクーラ40は、オイルタンク28の下流側で、フィードポンプ32の上流側に設けられている。すなわち、本実施形態では、オイルOは、スカベンジポンプ30、オイルタンク28、オイルクーラ40およびフィードポンプ32の順に流れる。つまり、オイルクーラ40は、オイルタンク28から導出されたオイルOを冷却する。
【0034】
本実施形態では、オイルクーラ40は、アダプタ46を介してエンジンEのクランクケース4に取り付けられている。詳細には、アダプタ46が、ボルトのような締結部材によりクランクケース4に着脱自在に取り付けられ、オイルクーラ40が、ボルトのような締結部材によりアダプタ46に着脱自在に取り付けられている。
【0035】
アダプタ46は、クランクケース4とオイルクーラ40の間に介在され、内部にオイルOの通路が形成されている。詳細には、
図3に示すように、アダプタ46には、クーラバイパス通路48とクーラ入口通路50とが形成されている。クーラバイパス通路48は、スカベンジポンプ30から供給されるオイルOをオイルタンク28に向かって流す。つまり、クーラバイパス通路48内のオイルOは、オイルクーラ40を通過しない。クーラ入口通路50は、オイルタンク28から供給されるオイルOをオイルクーラ40に向かって流す。
【0036】
つぎに、
図2および
図3を用いて、本実施形態のエンジンシステムSYのオイルOの通路およびオイルOの流れを説明する。
図3において、破線は内部通路、すなわち外部から視認できない通路を示し、実線は、外部から視認できる外部通路を示す。
【0037】
図2に示すエンジンEが始動すると、クランクシャフト2の回転に連動して、スカベンジポンプ30およびフィードポンプ32が駆動される。オイルパン14内のオイルOは、スカベンジポンプ30により回収され、オイルパン14から排出される。
【0038】
スカベンジポンプ30によりオイルパン14から排出されたオイルOは、第1通路51を通ってアダプタ46に供給される。第1通路51は、クランクケース4の内部に形成された内部通路である。第1通路51は、クランクケース4の内部を上下方向に延びており、下端部がスカベンジポンプ30に接続され、上端部がアダプタ46のクーラバイパス通路48に連通している。
【0039】
クーラバイパス通路48に流入したオイルOは、クーラバイパス通路48を流れて第2通路52に供給される。第2通路52は、クランクケース4の内部に形成された内部通路である。第2通路52は、クランクケース4の内部をエンジン幅方向WDに延びており、上流端部がクーラバイパス通路48に連通し、下流端部が
図3に示すアダプタ46の第3通路53に連通している。
【0040】
第3通路53に流入したオイルOは、第3通路53を流れてオイルタンク28に供給される。第3通路53は、配管が外部に露出した外部通路である。第3通路53は、クランクケース4からエンジンEと離間して配置されたオイルタンク28まで延びており、上流端部が第2通路52に連通し、下流端部がオイルタンク28に接続されている。
【0041】
オイルタンク28に流入したオイルOは、オイルタンク28内に貯留される。オイルタンク28内のオイルOは、第4通路54を通ってアダプタ46に供給される。第4通路54は、配管が外部に露出した外部通路である。第4通路54は、オイルタンク28からクランクケース4まで延びており、上流端部が第2通路52にオイルタンク28に接続され、下流端部が
図3に示すアダプタ46のクーラ入口通路50に連通している。
【0042】
クーラ入口通路50に流入したオイルOは、クーラ入口通路50を流れてオイルクーラ40に供給される。オイルクーラ40を通過する際に、オイルOは冷却水と熱交換されて冷却される。オイルクーラ40で冷却されたオイルOは、第5通路55に流入する。
【0043】
第5通路55に流入したオイルOは、第5通路55を流れてフィードポンプ32に供給される。第5通路55は、配管が外部に露出した外部通路である。第5通路55は、上流端部がオイルクーラ40に接続され、下流端部がフィードポンプ32に接続されている。
【0044】
フィードポンプ32に供給されたオイルOは、フィードポンプ32により加圧されて第6通路56を介してメインオイルギャラリ36に供給される。第6通路56は、クランクケース4の内部に形成された内部通路である。第6通路56は、クランクケース4の内部を上下方向に延びており、上流端部がフィードポンプ32に接続され、下流端部がメインオイルギャラリ36に連通している。
【0045】
メインオイルギャラリ36に供給されたオイルOは、エンジンEの被潤滑部位に圧送する。被潤滑部位を潤滑後のオイルOは、自重中によりオイルパン14に戻される。
【0046】
図4は、比較例のエンジンシステムのオイルの流れを示す概略図である。
図4の例では、スカベンジポンプ30によりオイルパン14から排出されたオイルは、第1の通路101を通ってオイルクーラ40に供給される。オイルクーラ40で冷却された後、オイルは、第2の通路102および第3の通路103を通ってオイルタンク28に供給される。オイルタンク28内に貯留されたオイルは、第4の通路104を通ってフィードポンプ32に供給される。フィードポンプ32で加圧されたオイルは、メインオイルギャラリ36に供給される。
図4においても、破線は内部通路を示し、実線は外部通路を示す。
【0047】
図4の例では、スカベンジポンプ30の下流でオイルタンク28の上流にオイルクーラ40が配置されているので、スカベンジポンプ30からのエアがオイルクーラ40に噛み込んで、オイルクーラ40の寿命に影響を与える恐れがある。
【0048】
上記構成によれば、
図2に示すように、スカベンジポンプ30の下流側にオイルタンク40が配置され、オイルタンク40の下流側にオイルクーラ28が配置されている。これにより、スカベンジポンプ30からのエアがオイルタンク28内で抜けるので、オイルクーラ40でのエアの噛み込みを回避できる。その結果、オイルクーラ40の寿命が低下するのを抑制することができる。
【0049】
スカベンジポンプ30からのエアの噛み込みを防ぐために、フィードポンプ32の下流側にオイルクーラ40を配置することも考えられる。上記実施形態では、
図1に示すように、フィードポンプ32がオイルOを供給するメインギャラリ36が、クランクケース4における直交方向PDの排気側に配置されている。このため、フィードポンプ32の下流側にオイルクーラ40を配置するには、オイルクーラ40を排気側に配置する必要がある。
【0050】
しかしながら、上記実施形態では、
図2のオイルクーラ40に冷却水を供給する冷却水入口38の入口金具42が吸気側に配置されている。このため、オイルクーラ40を排気側に配置すると、冷却水配管が複雑になり好ましくない。上記実施形態では、オイルクーラ40を吸気側に配置して冷却水配管の簡素化を図りつつ、エアの噛み込みを回避してオイルクーラ40の寿命が低下するのを防いでいる。
【0051】
また、吸気側は排気側に比べて温度が低いので、オイルクーラ40が吸気側に配置されることで、オイルOや冷却水の温度上昇が抑制されるから、オイルクーラ40の冷却効果が向上する。
【0052】
本実施形態において、オイルタンク28が、エンジンEの外部に配置されている。この構成によれば、エンジンEからの熱がオイルタンク28に伝わることを防ぐことができ、オイルタンク28内のオイルOの温度が上昇するのを回避できる。また、オイルタンク28へ向かう通路内およびオイルタンク28内でオイルOが放冷される。このように、オイルタンク28を経由して温度が低下したオイルOがオイルクーラ40に送られるので、オイルOがオイルクーラ40で効果的に冷却される。これにより、オイルクーラ40の小形化も実現できる。
【0053】
本実施形態において、さらに、オイルタンク28に冷却空気を供給する冷却機構CMが設けられている。上記実施形態では、冷却機構CMとして、エンジンEの出力軸25に取り付けられた回転体RBである。この構成によれば、オイルタンク28内のオイルOを効果的に冷却できる。オイルタンク28で冷却されたオイルOがオイルクーラ40に送られるので、オイルOがオイルクーラ40で一層効果的に冷却される。これにより、オイルクーラ40の小形化も実現できる。
【0054】
本実施形態において、オイルクーラ40が、アダプタ46を介してクランクケース4に取り付けられている。さらに、アダプタ40は、スカベンジポンプ30から供給されるオイルOをオイルタンク28に向かって流すクーラバイパス通路48と、オイルタンク28から供給されるオイルOをオイルクーラ40に向かって流すクーラ入口通路50とを有している。
【0055】
図4のような比較例のエンジンでは、スカベンジポンプ30からオイルクーラ40に向かう第1の通路101と、オイルクーラ40からにオイルタンク28向かう第2の通路102が、クランクケース4の内部に形成された内部通路である。
【0056】
図3のアダプタ46を設けることで、既存の内部通路101,102を流用しながら、スカベンジポンプ30、オイルタンク28、オイルクーラ40およびフィードポンプ32の順にオイルOを流す構成を実現できる。詳細には、
図4の通路101,102が
図3の第1および第2通路51,52にそれぞれ相当し、クーラバイパス通路48を介して第1通路51と第2通路52が連通している。つまり、スカベンジポンプ30により排出されたオイルOは、オイルクーラ40を通らずに、オイルタンク28に向かう。
【0057】
このように、
図3のアダプタ46を設けることで、既存の内部通路51,52を流用しながら、外部通路53,54,55の変更のみで、スカベンジポンプ30、オイルタンク28、オイルクーラ40およびフィードポンプ32の順にオイルOを流す構成を実現できる。したがって、既存のエンジンにも容易に適用できる。
【0058】
ただし、オイルOの通路の構成は上記実施形態に限定されない。例えば、既存の内部通路を流用する必要性がない場合、
図5の第2実施形態に示すように、アダプタ46は省略できる。
【0059】
図5の例では、スカベンジポンプ30によりオイルパン14から排出されたオイルOは、第1通路61を通ってオイルクーラ40に供給される。オイルクーラ40で冷却された後、オイルOは、第2通路62を通ってオイルタンク28に供給される。オイルタンク28内に貯留されたオイルOは、第3通路63を通ってフィードポンプ32に供給される。フィードポンプ32で加圧されたオイルOは、第4通路64を通ってメインオイルギャラリ36に供給される。
図5においても、破線は内部通路を示し、実線は外部通路を示す。
図5の例では、第3通路63は内部通路となっているが、外部通路であってもよい。
【0060】
本開示のエンジンシステムは、航空機、車両等の移動体に好適に搭載される。また、本開示のエンジンシステムは、例えば、四輪バギー(全地形型車両)、ユーティリティ・ビークル、レクリエーショナル・ビークル等のオフロード車両に好適に搭載される。
【0061】
本開示のエンジンシステムは、以下の態様1~8を含む。
[態様1]
エンジンのオイルパン内からオイルを吸引して排出するスカベンジポンプと、
前記スカベンジポンプにより排出されたオイルを貯留するオイルタンクと、
前記オイルタンクから導出されたオイルを冷却するオイルクーラと、
前記オイルクーラから導出されたオイルを前記エンジンの被潤滑部位に供給するフィードポンプと、
を備えたエンジンシステム。
[態様2]
態様1に記載のエンジンシステムにおいて、さらに、前記オイルタンクに冷却空気を供給する冷却機構を備えたエンジンシステム。
[態様3]
態様2に記載のエンジンシステムにおいて、前記冷却機構は、エンジンの出力軸に取り付けられた回転体を含むエンジンシステム。
[態様4]
態様1から3のいずれか一態様に記載のエンジンシステムにおいて、前記オイルクーラが、アダプタを介して前記エンジンのクランクケースに取り付けられ、
前記アダプタは、前記スカベンジポンプから供給される前記オイルを前記オイルタンクに向かって流すクーラバイパス通路と、前記オイルタンクから供給されるオイルを前記オイルクーラに向かって流すクーラ入口通路とを有しているエンジンシステム。
[態様5]
態様1から4のいずれか一態様に記載のエンジンシステムにおいて、ピストンの往復方向とクランクシャフトの軸心方向の両方に直交する直交方向に関して、前記オイルクーラが、前記エンジンのクランクケースの前記直交方向における吸気側に配置されているエンジンシステム。
[態様6]
態様1から5のいずれか一態様に記載のエンジンシステムにおいて、前記オイルタンクが、エンジンの外部に配置されているエンジンシステム。
[態様7]
態様1から6のいずれか一態様に記載のエンジンシステムを備えた移動体。
[態様8]
態様1から6のいずれか一態様に記載のエンジンシステムを備えたオフロード車両。
【0062】
本開示は、以上の形態に限定されるものでなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態のエンジンシステムは、自動二輪車、三輪車、四輪バギー(全地形型車両)等の鞍乗型車両にも適用できる。エンジンシステムは、船外機に用いられてもよいし、航空機の推進源として用いられてもよい。そのほか、エンジンシステムは、四輪車両や小型滑走艇の推進源として用いられてもよい。気筒数は、6気筒に限定されず、6気筒未満でも、7気筒以上でもよい。エンジンシステムには、ターボチャージャまたはスーパーチャージャなどの過給機が付与されてもよい。したがって、そのようなものも本開示の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
4 クランクケース
14 オイルパン
25 エンジンの出力軸
28 オイルタンク
30 スカベンジポンプ
32 フィードポンプ
40 オイルクーラ
46 アダプタ
48 クーラバイパス通路
50 クーラ入口通路
CM 冷却機構
E エンジン
RB 回転体
SY エンジンシステム