(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095806
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】電力システムおよび電力システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/46 20060101AFI20250619BHJP
【FI】
H02J3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212105
(22)【出願日】2023-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅浩
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066HA15
5G066HB02
(57)【要約】
【課題】発電所の出力電力を適切に制御できる電力システムを提供する。
【解決手段】発電所40と、変電所70との間に送電線82,84を介して挿入される送電潮流抑制部50と、制御システム30と、を備え、制御システム30は、送電潮流抑制部50に対して、発電所40の出力電力Pを抑制すべき旨の送電潮流抑制信号CPを出力し、送電潮流抑制部50は、送電潮流抑制信号CPに基づいて送電線82,84を介して伝送される、発電所40の出力電力Pを抑制する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
復水器と、タービンと、蒸気を発生させる蒸気発生部と、前記蒸気発生部が発生した蒸気を前記復水器および前記タービンに分配するタービンバイパス弁と、前記タービンによって駆動される発電機と、を備える発電所と、変電所との間に送電線を介して挿入される送電潮流抑制部と、
制御システムと、を備え、
前記制御システムは、前記送電潮流抑制部に対して、前記発電所の出力電力を抑制すべき旨の送電潮流抑制信号を出力し、
前記送電潮流抑制部は、前記送電潮流抑制信号に基づいて前記送電線を介して伝送される、前記発電所の前記出力電力を抑制する
ことを特徴とする電力システム。
【請求項2】
前記制御システムは、前記送電潮流抑制信号によって抑制される前記出力電力の抑制量の上限値を、前記発電所の構成に応じた値に設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力システム。
【請求項3】
前記変電所は、電力系統に接続されるものであり、
前記制御システムは、前記発電所の前記出力電力を抑制した際の前記電力系統の系統安定度をSAとし、前記系統安定度の下限値をSBとし、前記系統安定度の上限値をSCとし、前記制御システムは、前記出力電力の抑制量の上限値を、「SB<SA<SC」を満たすように設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の電力システム。
【請求項4】
前記系統安定度の指標として、前記電力系統に含まれる発電機の位相角、前記電力系統における電圧、および前記電力系統における周波数のうち、少なくとも一つを含む
ことを特徴とする請求項3に記載の電力システム。
【請求項5】
前記制御システムは、前記タービンバイパス弁の絞り量最大値をC[%]とし、前記発電所の定格出力をBとした際に、前記抑制量の前記上限値を「B×C」以下の値に設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の電力システム。
【請求項6】
前記送電潮流抑制部はリアクトルを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電力システム。
【請求項7】
前記送電潮流抑制部はコンデンサを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電力システム。
【請求項8】
復水器と、タービンと、蒸気を発生させる蒸気発生部と、前記蒸気発生部が発生した蒸気を前記復水器および前記タービンに分配するタービンバイパス弁と、前記タービンによって駆動される発電機と、を備える発電所と、変電所との間に送電線を介して挿入される送電潮流抑制部と、
制御システムと、を備える電力システムの制御方法であって、
前記制御システムが、前記送電潮流抑制部に対して、前記発電所の出力電力を抑制すべき旨の送電潮流抑制信号を出力する過程と、
前記送電潮流抑制部が、前記送電潮流抑制信号に基づいて前記送電線を介して伝送される、前記発電所の前記出力電力を抑制する過程と、を有する
ことを特徴とする電力システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力システムおよび電力システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が世界的に進んでいるが、再生可能エネルギーが連結される電力系統には、需給バランス、送電容量超過、電圧変動、周波数変動、安定性などの様々な課題が生じることが予想されている。これは、太陽光や風力発電などの変動型再生可能エネルギーの導入好適地が偏在化しており、発電地から需要地までの送電潮流が増加し、局所的な送電線の過負荷が生じやすいことに起因している。
【0003】
この種の問題に対応するため、例えば下記特許文献1の要約には、「系統安定化装置は、収集した電力系統の情報に基づいて系統データを作成する系統データ作成部103、所定のルールに基づいて、電力系統の安定性を維持する電源制限の対象発電機を選択する基本電制機選択部104、電源制限から所定の時間が経過した条件にて電力系統における周波数の応動を模擬した規範周波数モデルを作成する周波数モデル作成部105、作成したモデルを用いて周波数安定性を判別する周波数安定性判別部106、該判別結果に基づいて、基本電制機選択部が選択した電源制限の対象発電機を変更する電制機対象変更部107、決定した電制機変更情報を記憶する記憶部101及び系統事故発生時に電制機変更情報によって示される電源制限の対象発電機に対して制御信号を伝送する制御信号送信部108を備える。」と記載されている。また、非特許文献1には、STATCOM(自励式無効電力補償装置:Static Synchronous Compensator)に関する技術が記載されている。これら文献の記述は本願明細書の一部として包含される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】倉知政英、「用語解説 32回テーマ:無効電力補償装置(STATCOM)」、電気学会[online]、[令和5年11月15日検索]、〈 URL: https://www.iee.jp/pes/termb_032/ 〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した技術において、一層適切に発電所の出力電力を制御したいという要望がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、発電所の出力電力を適切に制御できる電力システムおよび電力システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の電力システムは、復水器と、タービンと、蒸気を発生させる蒸気発生部と、前記蒸気発生部が発生した蒸気を前記復水器および前記タービンに分配するタービンバイパス弁と、前記タービンによって駆動される発電機と、を備える発電所と、変電所との間に送電線を介して挿入される送電潮流抑制部と、制御システムと、を備え、前記制御システムは、前記送電潮流抑制部に対して、前記発電所の出力電力を抑制すべき旨の送電潮流抑制信号を出力し、前記送電潮流抑制部は、前記送電潮流抑制信号に基づいて前記送電線を介して伝送される、前記発電所の前記出力電力を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発電所の出力電力を適切に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】比較例による発電所の構成を示す模式図である。
【
図2】比較例における発電所と外部系統との連携関係を示す図である。
【
図3】比較例における発電機の出力電力の一例を示す図である。
【
図4】第1実施形態による電力システムのブロック図である。
【
図6】第1実施形態における送電線電圧、出力電力および回転速度の例を示す図である。
【
図7】第1実施形態における原子力発電所の模式的なブロック図である。
【
図9】第1実施形態における回転速度および出力電力の例を示す図である。
【
図10】第2実施形態のプラント制御装置によって表示される系統安定度評価画面の一例を示す図である。
【
図11】系統安定度評価画面の他の例を示す図である。
【
図12】第4実施形態による電力システムのブロック図である。
【
図13】第5実施形態による電力システムのブロック図である。
【
図14】第6実施形態における送電潮流抑制部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の前提]
まず、各実施形態を説明する前に、各実施形態の前提となる技術を説明する。
図1は、比較例による発電所202の構成を示す模式図である。
発電所202は、例えば火力発電所であり、発電機210と、タービン211と、タービンバイパス弁212と、ボイラー214と、復水器215と、を備えている。ボイラー214は蒸気を発生させ、発生した蒸気は、タービンバイパス弁212を介してタービン211に供給され、タービン211を回転させる。発電機210はタービン211に直結され、タービン211とともに回転する。
【0011】
発電所202は、例えば中央給電指令所である制御システム201から、タービンバイパス調整信号CAを受信する場合がある。タービンバイパス調整信号CAを受信すると、発電所202は、タービン211への蒸気量を抑制するように、タービンバイパス弁212の開度を制御する。これにより、タービン211に送られる、ボイラー214からの蒸気量は抑制され、抑制された分の蒸気は復水器215に送られる。そして、タービン211への蒸気量が抑制された結果、発電機210の出力電力は抑制される。
【0012】
図2は、比較例における発電所と外部系統との連携関係を示す図である。
図2において、発電所202は、送電線206を介して変電所203に接続されている。そして、変電所203は電力系統220に接続されている。例えば電力系統220に含まれる送電線226が断線した際に、電力系統220における電力潮流を抑制することによって、電力系統220の局所的な過負荷を解消する必要が生じる。その場合、上述のように、制御システム201は、発電所202に対して、タービンバイパス調整信号CAを送信し、発電機210(
図1参照)の出力電力を抑制させる。これにより、送電線206を通じて変電所203に送られる送電潮流は抑制される。
【0013】
図3は比較例における発電機210の出力電力Pの一例を示す図である。なお、出力電力Pは、発電機210が出力する有効電力である。
時刻t1において、発電所202にタービンバイパス調整信号CAが供給されたとする。タービンバイパス調整信号CAが供給される前の出力電力PはP12であり、供給後はP14に下げられる。
【0014】
図1に戻り、上述したように、発電所202が火力発電所である場合には、タービンバイパス調整信号CAに応じてタービンバイパス弁212を調整できる。これにより、発電機210の出力を抑制でき、電力系統220に系統故障が生じた際の系統安定度を向上させることができる。しかし、発電所202が原子力発電所であった場合、制御システム201から発電所202の運転パターンを変更する信号(タービンバイパス調整信号CA等)を受信できないという問題がある。これは原子力発電所においては、原子炉の運用に異常を発生させるような外部からの擾乱をなくすため、発電所内のみで発電機210の運用を決定するように、制御シーケンスが構成されているためである。
【0015】
制御システム201からの信号を受けない代替手段として、系統側で発電機を系統から切り離す電源制限も考えられる。すなわち、発電所202と送電線206(
図2参照)とを切り離すことが考えられる。しかしながら原子力発電所においては、電源制限が実行された際には原子炉に制御棒が挿入され、その後(電源制限の解除後)の通常運転までに数週間を要する。
【0016】
そこで、後述する実施形態では、制御システム201と信号を直接入出力することなく、タービンバイパス弁の操作によって、発電機の出力を調整する。具体的な構成は後述するが、各実施形態においては、発電所と変電所との間に、送電潮流抑制部を設置し、送電線を流れる送電潮流を制御システム201からの信号で抑制する。発電所は、送電潮流が抑制されたことを受けて、発電所内のタービンパイパス弁の開閉を受動的に実行する。これにより、制御システム201と直接信号を入出力することなく、発電機のタービンバイパス弁調整により発電機の出力を調整することが可能となる。
【0017】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図4は、第1実施形態による電力システムSYS1のブロック図である。
図4において、電力システムSYS1は、原子力発電所40(発電所)と、変電所70と、送電潮流抑制部50と、送電線82,84と、制御システム30と、を備えている。送電線82は原子力発電所40と送電潮流抑制部50とを接続し、送電線84は送電潮流抑制部50と変電所70とを接続する。
【0018】
また、変電所は電力系統80に接続されている。送電潮流抑制部50の具体的な構成例は、後述する他の実施形態(
図12~
図14参照)において説明する。送電潮流抑制部50は、コンデンサ等を等価的に送電線82,84に挿入し、あるいは系統故障時に送電線82,84の接続を遮断する装置である。制御システム30には、プラント制御装置32が設けられている。
【0019】
プラント制御装置32は、原子力発電所40の他、火力、原子力等の他の発電プラント(図示せず)も含めて、発電機の運用状態を策定するものである。プラント制御装置32は、後述するコンピュータ980(
図5参照)を備えており、不図示の制御プログラムを実行することによって、各種の機能を具現化させる。
【0020】
制御システム30は、例えば中央給電指令所であるが、変電所70等に設けてもよい。制御システム30は、電力系統80の故障時に他の火力発電所(図示せず)や他の変電所(図示せず)に対し、発電機の出力調整信号や保護リレーの動作指示を出力する機能を有する。そして、制御システム30は、原子力発電所40の出力電力P、すなわち送電線潮流を抑制すべき場合には、送電線潮流の抑制を実行すべき旨の指令、および送電線潮流の抑制量を含む、送電潮流抑制信号CPを、送電潮流抑制部50に供給する。
【0021】
原子力発電所40は、タービン405と、発電機406と、原子炉407(蒸気発生部)と、復水器408と、タービンバイパス弁409と、バイパス開度制御装置440と、を備えている。原子炉407は蒸気を発生させ、発生した蒸気は、タービンバイパス弁409を介してタービン405に供給され、タービン405を回転させる。発電機406はタービン405に直結され、タービン405とともに回転する。
【0022】
バイパス開度制御装置440は、発電機406の出力電圧、出力電流および周波数等、発電機406の状態を監視する。そして、監視結果に応じて、タービンバイパス調整信号CBを増減し、これによってタービンバイパス弁409の開度を制御する。すなわち、バイパス開度制御装置440は、タービン405への蒸気量を抑制するように、タービンバイパス弁409の開度を制御する。これにより、タービン405に送られる、原子炉407からの蒸気量は抑制され、抑制された分の蒸気は復水器408に送られる。そして、タービン405への蒸気量が抑制された結果、発電機406が出力する有効電力である出力電力Pは抑制される。
【0023】
制御システム30が送電潮流抑制部50に対して送電潮流抑制信号CPを出力すると、原子力発電所40から見た送電潮流抑制部50の状態が変化する。これにより、発電機406の回転速度が上昇し、出力電圧も上昇する。この発電機406の状態変化に応じて、バイパス開度制御装置440は、タービンバイパス弁409に対して、タービン405への蒸気量を抑制するように、タービンバイパス調整信号CBを出力する。
【0024】
図5は、コンピュータ980のブロック図である。
図4に示したプラント制御装置32およびバイパス開度制御装置440は、何れも
図5に示すコンピュータ980を、1台または複数台備えている。
図5において、コンピュータ980は、CPU981と、記憶部982と、通信I/F(インタフェース)983と、入出力I/F984と、メディアI/F985と、を備える。ここで、記憶部982は、RAM982aと、ROM982bと、SSD(Solid State Drive)982cと、を備える。通信I/F983は、通信回路986に接続される。入出力I/F984は、入出力装置987に接続される。メディアI/F985は、記録媒体988からデータを読み書きする。ROM982bには、CPUによって実行されるIPL(Initial Program Loader)等が格納されている。SSD982cには、制御プログラムや各種データ等が記憶されている。CPU981は、SSD982cからRAM982aに読み込んだ制御プログラム等を実行することにより、各種機能を実現する。
【0025】
図6は第1実施形態における送電線電圧V、出力電力Pおよび回転速度Mの例を示す図である。
以下、
図6を参照して、第1実施形態において送電潮流が抑制される原理を説明する。
送電線電圧Vは、送電線82の電圧であり、発電機406の出力電圧に等しい。出力電力Pは、発電機406から送電線82を介して出力される有効電力である。また、回転速度Mは、発電機406の回転速度である。時刻t10以前において、送電線電圧Vは電圧V1Hである。そして、時刻t10において、プラント制御装置32が送電潮流抑制信号CP(
図4参照)を出力すると、送電潮流抑制部50は、送電潮流抑制信号CPに基づいて、送電線電圧Vを、所定の電圧階級以下の値である電圧V1Lになるように設定する。このため、送電潮流抑制部50には、リアクトルやコンデンサ等のリアクタンスを設けるとよい。
【0026】
送電線82を介して出力される出力電力Pには、送電線82の熱容量や、同期安定性の観点から、上限値が設定されている。例えば、図示の電力P1Hは、この上限値である。そして、送電潮流抑制部50は、時刻t10に送電潮流抑制信号CPを受信すると、出力電力Pの上限値を低下させる。この低下された上限値の指令は、送電潮流抑制信号CPの中に含まれる。低下された上限値は、例えば図示の電力P1Lである。出力電力Pの上限値の変更は、系統故障後の送電線電圧Vが、系統故障前の電圧V1Lより低下することで実現される。具体的な送電線潮流の設備、上限値の設定方法については後述する他の実施形態(
図12~
図14参照)にて詳細を説明する。
【0027】
回転速度Mは、時刻t10以前には、所定の基準速度M1Lに保たれている。そして、時刻t10において、出力電力Pが電力P1Lに変更されたことにより、発電機406から変電所70に送電できなくなった分の電力は、発電機406を加速させるために費やされる。その結果、送電潮流抑制部50が送電潮流抑制信号CPを受信した時刻t10以降は、発電機406の回転速度Mは、基準速度M1Lから徐々に上昇してゆく。バイパス開度制御装置440は、上述した発電機406の状態変化を検出すると、タービンバイパス弁409に対して供給するタービンバイパス調整信号CBを調節する。
【0028】
図7は、第1実施形態における原子力発電所40の模式的なブロック図である。
図7を参照して、タービンバイパス弁409の動作による出力調整の原理を説明する。
先に
図4にも示したように、原子力発電所40は、原子炉407と、タービンバイパス弁409と、タービン405と、発電機406と、復水器408と、を備えている。さらに、原子力発電所40は、抽気弁401を備えている。原子炉407から発生する蒸気は、タービンバイパス弁409によって、タービン405を通過した後に復水器408に流入するものと、直接的に復水器408に流入するものと、に分岐される。この
図7では、沸騰水型の原子炉407を備える原子力発電所40を例示しているが、原子炉407が加圧水型である原子力発電所40でも同様である。
【0029】
バイパス開度制御装置440は、発電機406の回転速度Mが基準速度M1L(
図6参照)に近づくように(好ましくは基準速度M1Lに一致するように)タービンバイパス弁409を自動的に制御する制御ロジックを備えている。従って、
図6の時刻t10以降のように、回転速度Mが基準速度M1Lよりも高くなると、バイパス開度制御装置440は、タービン405に流入する蒸気量を減少させるように、タービンバイパス弁409を制御する。
【0030】
図8は、バイパス開度制御装置440のブロック図である。
バイパス開度制御装置440は、タービンバイパス弁開度計算部442を備えている。バイパス開度制御装置440は、発電機406の出力に応じてタービンバイパス弁409の開度を決定するものである。発電機406の現在の出力電力Paと、目標出力電力Pbと、がタービンバイパス弁開度計算部442に入力される。ここで、出力電力Paは、例えば
図6に示した出力電力Pであり、目標出力電力Pbは、例えば
図6に示した電力P1Hである。
【0031】
タービンバイパス弁開度計算部442では、出力電力Paと、目標出力電力Pbと、タービンバイパス調整信号CBと、の関係を定めるテーブル444を有している。タービンバイパス弁開度計算部442は、このテーブル444を用いて、目標出力電力Pbを実現するタービンバイパス弁409の開度を求め、求めた開度を指定するタービンバイパス調整信号CBを出力する。
【0032】
図9は、第1実施形態における回転速度Mおよび出力電力Pの例を示す図である。
図9においては、制御システム30から、送電潮流抑制信号CPを受信した場合の回転速度Mおよび出力電力Pの例を示す。時刻t10において、制御システム30から送電潮流抑制部50に対して送電潮流抑制信号CPが出力されたとする。これにより、先に
図6において説明したように、発電機406が出力する出力電力Pは時刻t10においてP1HからP1Lに下がる。また、回転速度Mは時刻t10以前は基準速度M1Lであったが、時刻t10から徐々に上昇する。
【0033】
出力電力Pが電力P1Hから電力P1Lに低下したことにより、バイパス開度制御装置440は、時刻t12において、タービンバイパス調整信号CBを変更する。すなわち、タービンバイパス弁409(
図7参照)の開度を調節し、タービン405を介さずに復水器408へ流れる蒸気量を増加させる。これにより、時刻t12以降は、回転速度Mは、基準速度M1Lに徐々に戻り、その後は基準速度M1Lに保たれる。一方、出力電力Pは、時刻t10以降は電力P1Lに維持される。
【0034】
以上のアルゴリズムにより、原子力発電所40は、制御システム30からの送電潮流抑制信号CPを直接的に受信することなく、発電機406から出力される出力電力Pを抑制することができる。すなわち、送電潮流抑制部50が制御システム30から送電潮流抑制信号CPを受信し、出力電力Pの上限が設定されたことを反映して、受動的に発電機406の出力電力Pを抑制できる。
【0035】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態による電力システムについて説明する。
第2実施形態による電力システムの全体構成は、第1実施形態のもの(
図4参照)と同様である。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0036】
上述の第1実施形態のものと同様に、本実施形態においても、制御システム30は、必要に応じて、送電潮流抑制部50に送電潮流抑制信号CPを送信する。ここで、送電潮流抑制信号CPを出力した際の電力系統80の系統安定度の観点から、送電潮流抑制信号CPを出力する必要性や、抑制する送電潮流の上限値を決定すると、一層好ましいと考えられる。これにより、送電潮流抑制部50に送電潮流抑制信号CPを供給することが、系統安定度の向上のために効果的なものになることが期待できる。そこで、本実施形態においては、制御システム30に設けられたプラント制御装置32において、
図10に示すような画面を表示することとした。
【0037】
図10は、第2実施形態のプラント制御装置32によって表示される系統安定度評価画面34の一例を示す図である。
系統安定度評価画面34は、系統図表示欄36と、評価結果表示部38と、を含んでいる。系統図表示欄36には、同期発電機、再生エネルギー電源、負荷、変圧器、母線、線路等の接続状態を表示する。
【0038】
また、評価結果表示部38は、様々な想定した故障(想定故障ケースC1~C5)における、電力系統80における安定度評価結果を表示する。ここで「故障」は、送電線の断線や、発電機の脱落、またそれ以外の電力系統の故障を対象としている。
【0039】
評価結果表示部38は、想定故障ケースC1~C5が発生した際の、発電機の出力電力、発電機の位相角、発電機の出力電圧および発電機の出力周波数を、安定度の指標として示している。図中において「○」は安定、「×」は不安定を意味する。
図10の例においては、想定故障C3が発生した場合には、発電機の位相角差が不安定(×)となる課題がある旨が示されている。
【0040】
図11は、系統安定度評価画面34の他の例を示す図である。
図11の評価結果表示部38の想定故障C3においては、「発電機A1」の出力電力Pが500[MW]から200[MW]に抑制されることが示されている。さらに、その結果として、発電機の位相角差が「不安定(×)」から「安定(○)」に変化し、発電機の位相角に対する課題が解消されたことを示している。なお、図中の「500[MW]」は、
図6における電力P1Hに対応し、「200[MW]」は電力P1Lに対応する。また、「P1H-P1L」を、出力電力Pの「抑制量ΔP」と呼ぶ。
上述したような解析結果を参照し、制御システム30は、送電潮流抑制部50に送電潮流抑制信号CPを出力するか否かを決定し、出力する場合には、出力電力Pの抑制量ΔPを決定する。
【0041】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態による電力システムについて説明する。
第3実施形態による電力システムの全体構成は、第1実施形態のもの(
図4参照)と同様である。また、プラント制御装置32が系統安定度評価画面34(
図10参照)を表示する点については第2実施形態と同様である。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0042】
第2実施形態において、プラント制御装置32は、電力系統80の安定度の観点から出力電力Pの抑制量ΔPを決定した。しかしながら、原子力発電所40における抑制量ΔPが大きすぎる場合には、タービンバイパス弁409から復水器408に流れる蒸気量を最大にしたとしても、目標となる発電機出力まで出力を抑制できない可能性がある。この場合、発電機406の加速を防ぐために、原子力発電所40においてはスクラムが作動し、原子炉407が停止する可能性が生じる。
【0043】
この課題を解決するため、本実施形態においては、プラント制御装置32によって決定される抑制量ΔPの上限値を、タービンバイパス弁409の開度から事前に算出することとした。換言すれば、プラント制御装置32は、抑制量ΔPの上限値Aを、原子力発電所40の構成に応じた値に設定する。具体的には、抑制量ΔPの上限値をA[MW]、発電機406の定格出力をB[MW]、タービンバイパス弁409の絞り量最大値をC[%]とし、下式(1)に基づいて、抑制量ΔPの上限値Aを算出する。
A[MW]=B[MW]×C[%] …式(1)
【0044】
ここで、絞り量最大値Cは、例えば33[%]や70[%]など、既存および新設する原子力発電所40に設けられるタービンバイパス弁409に応じて設定するとよい。また、若干の余裕を確保するため、制御システム30は、上限値Aを、「B[MW]×C[%]」以下の値に設定してもよい。
【0045】
このように、本実施形態によれば、式(1)に示された上限値A以下の範囲内で抑制量ΔPを設定できる。これにより、原子力発電所40の平常時の運用の範囲内で、制御システム30等の外部系統からの信号を直接受け取ることなく、発電機406の出力電力Pに対する抑制量ΔPを決定することが可能となる。
【0046】
評価結果表示部38における「不安定(×)」は、各種想定故障に応じた系統安定度SA(図示せず)が、所定の下限値SB(図示せず)未満であることを示す。一方、「安定(○)」は、系統安定度SAが下限値SB以上であることを示す。ここで、系統安定度SAの上限値をSCとすると、制御システム30は、抑制量ΔPの上限値Aを、「SB<SA<SC」を満たすように設定する。
【0047】
ここで、系統安定度SAの指標として、
図10、
図11に示した例では、発電機の出力電力、発電機の位相角、発電機の出力電圧および発電機の出力周波数の全てを含んでいた。しかし、必ずしも、これらの項目の全てを系統安定度SAとして含む必要はない。すなわち、発電機の出力電力、発電機の位相角、電圧または周波数のうち、少なくとも一つを、系統安定度SAの指標として含めるとよい。
【0048】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明する。
図12は、第4実施形態による電力システムSYS4のブロック図である。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
電力システムSYS4は、電力システムSYS1(
図4参照)と同様に、原子力発電所40と、変電所70と、送電潮流抑制部50と、送電線82,84と、制御システム30と、を備えている。これらの機能は、第1実施形態のものと同様である。
【0049】
但し、本実施形態の送電潮流抑制部50は、送電線82,84の間に挿入されたリアクトル52を備える。さらに、送電潮流抑制部50は、他のリアクトルやコンデンサ54等のリアクタンスを備えるとよい。これにより、第1実施形態のものと同様に、送電潮流抑制部50は、送電潮流抑制信号CPに基づいて、発電機406の出力電力Pを抑制できる。
【0050】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明する。
図13は、第5実施形態による電力システムSYS5のブロック図である。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
電力システムSYS4は、電力システムSYS1(
図4参照)と同様に、原子力発電所40と、変電所70と、送電線82,84と、制御システム30と、を備えている。これらの機能は、第1実施形態のものと同様である。
【0051】
また、本実施形態においては、第1実施形態における送電潮流抑制部50に代えて、送電潮流抑制部60を備えている。そして、送電潮流抑制部60は、リアクトル62と、インバータ64と、を備えている。送電潮流抑制部60において、送電線82,84は直結されている。そして、その直結点とインバータ64との間にリアクトル62が挿入されている。すなわち、リアクトル62は、送電線82,84に接続され、送電線電圧Vを変更するために用いられる。
【0052】
送電潮流抑制部60は、上述した非特許文献1に示されたSTATCOM(自励式無効電力補償装置:Static Synchronous Compensator)と類似の構成を備える。すなわち、送電潮流抑制部60は、送電潮流抑制信号CPに応じて、送電線82,84に無効電流を供給することによって、発電機406の出力電力Pを抑制する。
【0053】
インバータ64の出力電圧をViとし、送電線82,84の送電線電圧をVとし、リアクトル62のリアクタンス値をXとし、送電線82,84に流れる電流をIとすると、以下の式が成り立つ。
V = Vi + jXI …式(2)
上記の式(2)は、リアクトル62に代えてコンデンサ(図示せず)を適用した場合にも、共通に成り立つ関係式となる。式(2)により、インバータ64の出力電圧Viと、リアクタンス値Xと、を変更することで、送電線電圧Vを変更することが可能となる。
【0054】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明する。
第6実施形態による電力システムの全体構成は、第1実施形態のもの(
図4参照)と同様である。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
図14は、第6実施形態における送電潮流抑制部50のブロック図である。
本実施形態における送電潮流抑制部50は、低域通過フィルタ部102と、整流回路104と、点弧角制御部106と、コンデンサ108と、インバータ110と、を備えている。
【0055】
低域通過フィルタ部102は、送電線82に直列接続されたリアクトル(図示せず)と、送電線82の三相の線間に接続されたコンデンサ(図示せず)と、を備えている。これにより、低域通過フィルタ部102は、送電線82に流れる電流の高調波成分を抑制する。整流回路104は、6個のサイリスタ(図示せず)をブリッジ状に接続したものであり、低域通過フィルタ部102を介して入力された交流電流を整流し、コンデンサ108を充電する。点弧角制御部106は、送電潮流抑制信号CPに基づいて、整流回路104内のサイリスタの点弧角を制御する。すなわち、送電潮流抑制信号CPが供給されていない場合には点弧角を「0°」とし、送電潮流抑制信号CPに含まれる抑制量が大きくなるほど点弧角を大きくする。
【0056】
点弧角が大きくなるほど、発電機406(
図4参照)から見た送電潮流抑制部50のインピーダンスが高くなるため、発電機406から出力される電流が抑制される。インバータ110は、コンデンサ108の端子電圧を変調し、系統周波数の交流電圧を生成し、交流電流を送電線84を介して出力する。これにより、第1実施形態のものと同様に、送電潮流抑制部50は、送電潮流抑制信号CPに基づいて、発電機406の出力電力Pを抑制できる。
【0057】
[実施形態の効果]
以上のように上述した実施形態によれば、制御システム30は、送電潮流抑制部50に対して、発電所(40)の出力電力Pを抑制すべき旨の送電潮流抑制信号CPを出力し、送電潮流抑制部50は、送電潮流抑制信号CPに基づいて送電線82,84を介して伝送される、発電所(40)の出力電力Pを抑制する。これにより、発電所(40)の出力電力Pを適切に制御できる。
【0058】
また、制御システム30は、送電潮流抑制信号CPによって抑制される出力電力Pの抑制量ΔPの上限値Aを、発電所(40)の構成に応じた値に設定すると一層好ましい。これにより、発電所(40)の構成に応じて、抑制量ΔPの上限値Aを設定できるため、発電所(40)の出力電力Pを一層適切に制御できる。
【0059】
また、変電所70は、電力系統80に接続されるものであり、制御システム30は、発電所(40)の出力電力Pを抑制した際の電力系統80の系統安定度をSAとし、系統安定度SAの下限値をSBとし、系統安定度SAの上限値をSCとし、制御システム30は、出力電力Pの抑制量ΔPの上限値Aを、「SB<SA<SC」を満たすように設定すると一層好ましい。これにより、系統安定度SAを、下限値SBと上限値SCとの間になるように設定でき、発電所(40)の出力電力Pを一層適切に制御できる。
【0060】
また、系統安定度SAの指標として、電力系統80に含まれる発電機の位相角、電力系統80における電圧、および電力系統80における周波数のうち、少なくとも一つを含むと一層好ましい。これにより、適切な指標に基づいて、発電所(40)の出力電力Pを一層適切に制御できる。
【0061】
また、制御システム30は、タービンバイパス弁409の絞り量最大値CをC[%]とし、発電所(40)の定格出力BをBとした際に、抑制量ΔPの上限値Aを「B×C」以下の値に設定すると一層好ましい。これにより、タービンバイパス弁409によって実現可能な値に抑制量ΔPを設定でき、発電所(40)の出力電力Pを一層適切に制御できる。
【0062】
また、送電潮流抑制部50はリアクトル52を含むと一層好ましい。これにより、リアクトル52の特性を活用して、発電所(40)の出力電力Pを一層適切に制御できる。
【0063】
また、送電潮流抑制部50はコンデンサ54を含むと一層好ましい。これにより、コンデンサ54の特性を活用して、発電所(40)の出力電力Pを一層適切に制御できる。
【0064】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0065】
(1)上記実施形態におけるプラント制御装置32のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体(プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0066】
(2)上述した各種処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0067】
30 制御システム
40 原子力発電所(発電所)
50 送電潮流抑制部
52 リアクトル
54 コンデンサ
70 変電所
80 電力系統
82 送電線
82,84 送電線
84 送電線
405 タービン
406 発電機
407 原子炉(蒸気発生部)
408 復水器
409 タービンバイパス弁
A 上限値
B 定格出力
C 絞り量最大値
P 出力電力
CP 送電潮流抑制信号
SA 系統安定度
SB 下限値
SC 上限値
ΔP 抑制量
SYS1,SYS4,SYS5 電力システム