(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095875
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】改築工法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20250619BHJP
【FI】
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212246
(22)【出願日】2023-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】許斐 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】須賀 順子
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA03
2E176AA04
2E176BB27
2E176BB36
(57)【要約】
【課題】既存建物において、途中階から最上階までの上階部分を解体して、最下階から途中階までの下階部分を改築後建物として残存させ、既存建物の途中階のスラブを改築後建物の屋上スラブとして利用する改築工法において、既存柱の切断箇所の下方側部分を改築後建物の柱として再利用するにあたり、その柱頭へフックを追加するフック追加作業を容易に実施しながら、途中階のスラブ上に設備用の基礎を容易に構築する。
【解決手段】上階部分U1を解体するにあたり、既存建物1が有する鉄筋コンクリート造の既存柱3において、途中階2のスラブS2よりも上方に突出する突出柱部分20を改築後建物10の屋上スラブS10上に設置される設備31用の基礎として残存させ、当該突出柱部分20の主筋5の上端にフック22を追加する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の既存建物において、途中階から最上階までの上階部分を解体して、最下階から途中階までの下階部分を改築後建物として残存させ、
前記既存建物の途中階のスラブを前記改築後建物の屋上スラブとして利用する改築工法であって、
前記上階部分を解体するにあたり、前記既存建物が有する鉄筋コンクリート造の既存柱において、前記途中階のスラブよりも上方に突出する突出柱部分を前記改築後建物の屋上スラブ上に設置される設備用の基礎として残存させ、当該突出柱部分の主筋の上端にフックを追加する改築工法。
【請求項2】
前記突出柱部分の主筋の上端に前記フックを追加するにあたり、当該突出柱部分に水平方向に貫通するアンカーを埋設し、当該アンカーを用いて前記突出柱部分の側面に、前記設備を設置する設備架台を固定する請求項1に記載の改築工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物において、途中階から最上階までの上階部分を解体して、最下階から途中階までの下階部分を改築後建物として残存させ、前記既存建物の途中階のスラブを前記改築後建物の屋上スラブとして利用する改築工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物において、利用状況の変化等に合わせて階を減らす減築が検討される場合がある。このような減築を目的とした改築工法では、既存建物において、途中階から最上階までの上階部分が解体され、最下階から途中階までの下階部分が改築後建物として残存される(例えば特許文献1を参照。)。また、既存建物の下階部分をそのまま改築後建物として利用する場合、当該下階部分の最頂部にある途中階のスラブが、改築後建物の屋上スラブとして利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような減築を目的とした従来の改築工法では、既存建物が有する既存柱は、途中階のスラブの高さで切断されて、その上方側部分が解体される。即ち、既存建物が有する既存柱において切断箇所の下方側部分が改築後建物の柱として残存され、その下方側部分の頂部が改築後建物での柱頭となるので、かぶり部分のコンクリートの割れや主筋の付着力の低下を防止するために、当該改築後建物での柱頭の主筋の上端にフックを追加することが求められる。
そして、改築後建物での柱頭の主筋の上端にフックを追加するためには、当該柱頭のコンクリートを斫って主筋の上端を露出させ、その露出させた主筋の上端にフックを取付け、斫り部分にコンクリートを打設して柱頭を復旧させる、というようなフック追加作業が必要となる。
そして、従来の改築工法では、改築後建物での柱頭は、改築後建物の屋上スラブとして利用される途中階のスラブの高さである切断箇所の下方側部分の頂部であることから、当該柱頭にフックを追加する上記フック追加作業を実施するにあたり、途中階のスラブが斫り部分の周囲に存在するので、作業性が非常に悪いという問題がある。
また、改築後建物において屋上スラブとなる途中階のスラブ上に新たな設備用の基礎を構築する場合においても、当該途中階のスラブの一部を斫ってアンカーを埋設するなどの煩雑な作業が必要となる。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、既存建物において、途中階から最上階までの上階部分を解体して、最下階から途中階までの下階部分を改築後建物として残存させ、前記既存建物の途中階のスラブを前記改築後建物の屋上スラブとして利用する改築工法において、既存柱の切断箇所の下方側部分を改築後建物の柱として再利用するにあたり、その柱頭へフックを追加するフック追加作業を容易に実施しながら、途中階のスラブ上に設備用の基礎を容易に構築するための技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、鉄筋コンクリート造の既存建物において、途中階から最上階までの上階部分を解体して、最下階から途中階までの下階部分を改築後建物として残存させ、
前記既存建物の途中階のスラブを前記改築後建物の屋上スラブとして利用する改築工法であって、
前記上階部分を解体するにあたり、前記既存建物が有する鉄筋コンクリート造の既存柱において、前記途中階のスラブよりも上方に突出する突出柱部分を前記改築後建物の屋上スラブ上に設置される設備用の基礎として残存させ、当該突出柱部分の主筋の上端にフックを追加する点にある。
【0006】
本構成によれば、既存建物の上階部分を解体するにあたり、既存建物が有する鉄筋コンクリート造の既存柱において、改築後建物の屋上スラブとして利用される途中階のスラブよりも上方に突出する突出柱部分が残存されて、その突出柱部分が改築後建物での柱頭となる。そして、突出柱部分の周囲には途中階のスラブが存在しないので、この突出柱部分の主筋の上端に対して途中階のスラブが邪魔になることなく容易にフックを追加することができる。
更に、改築後建物の屋上スラブとして利用される途中階のスラブよりも上方に突出する突出柱部分を、改築後建物の屋上スラブ上に設置される設備用の基礎として有効に利用することができ、別の設備用の基礎の追加構築作業を省略又は簡略化し、新たな屋上スラブ上のスペースの有効利用に寄与することができる。
従って、本発明により、既存建物において、途中階から最上階までの上階部分を解体して、最下階から途中階までの下階部分を改築後建物として残存させ、前記既存建物の途中階のスラブを前記改築後建物の屋上スラブとして利用する改築工法において、既存柱の切断箇所の下方側部分を改築後建物の柱として再利用するにあたり、その柱頭へフックを追加するフック追加作業を容易に実施しながら、途中階のスラブ上に設備用の基礎を容易に構築するための技術を提供することがでえきる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記突出柱部分の主筋の上端に前記フックを追加するにあたり、当該突出柱部分に水平方向に貫通するアンカーを埋設し、当該アンカーを用いて前記突出柱部分の側面に、前記設備を設置する設備架台を固定する点にある。
【0008】
本構成によれば、フック追加作業の作業性を考慮して、改築後建物の屋上スラブとして利用される途中階のスラブに対する突出柱部分の突出高さを比較的大きくした場合であっても、突出柱部分に対してフックの追加と共にアンカーを埋設し、そのアンカーを用いて突出柱部分の側面に設備架台を固定して、当該設備架台に設備を設置することで、改築後建物の屋上スラブ上に設置する設備の設置高さをできるだけ低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】既存建物を改築して構成された改築後建物の状態を示す図
【
図2】改築工法における第1工程後の突出柱部分周辺の状態を示す図
【
図3】改築工法における第2工程後の突出柱部分周辺の状態を示す図
【
図4】改築工法における第3工程後の突出柱部分周辺の状態を示す図
【
図5】改築工法における第4工程後の突出柱部分周辺の状態を示す図
【
図6】改築工法における第5工程後の改築後建物における突出柱部分周辺の状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
本実施形態の改築工法(以下「本改築工法」と呼ぶ)は、
図1に示すように、鉄筋コンクリート造の既存建物1の減築を目的としたものであって、既存建物1において、途中階2から最上階までの上階部分U1を解体して、最下階から途中階2までの下階部分L1を改築後建物10として残存させ、既存建物1の途中階2のスラブS2を改築後建物10の屋上スラブS10として利用する工法である。
【0011】
そして、このように減築を目的とした本改築工法では、既存建物1が有する鉄筋コンクリート造の既存柱3が、途中階2における上階部分U1と下階部分L1との境界である切断箇所pで切断されて、上階部分U1が解体される。即ち、既存建物1が有する既存柱3は、切断箇所pよりも下方側の部分が改築後建物10の柱3Aとして残存され、その残存された柱3Aの頂部が、改築後建物10での柱頭になる。よって、改築後建物10(
図6参照)では、柱3Aの柱頭において、かぶり部分のコンクリートの割れや主筋5の付着力の低下を防止するために、当該柱頭の主筋5の上端にフック22を追加することが求められる。また、改築後建物10において屋上スラブS10となる途中階2のスラブS2上に新たな設備31用の基礎を構築する場合においても、当該途中階2のスラブS2の一部を斫ってアンカーを埋設するなどの煩雑な作業が必要となる。
そこで、本改築工法は、既存柱3の切断箇所pの下方側部分を改築後建物10の柱3Aとして再利用するにあたり、その柱頭へフック22を追加するフック22追加作業を容易に実施しながら、途中階2のスラブS2上に設備31用の基礎を容易に構築するための構成を採用しており、その詳細について以下に説明する。
【0012】
本改築工法では、既存建物1に対し、後述する第1工程(
図2参照)、第2工程(
図3参照)、第3工程(
図4参照)、第4工程(
図5参照)、及び第5工程(
図6参照)を順に実施することにより、改築後建物10が完成される。以下、各工程について順に説明する。
【0013】
(第1工程)
図2に示すように、第1工程では、既存建物1において、途中階2から最上階までの上階部分U1を解体される。このとき、既存建物1が有する既存柱3が、途中階2における所定の切断箇所pにて切断される。そして、この既存柱3の切断箇所pは、途中階2のスラブS2よりも例えば1m程度上方の箇所とされている。即ち、切断後の既存柱3である柱3Aにおいて途中階2のスラブS2よりも上方に突出する突出柱部分20が、
図1に示すように、改築後建物10の屋上スラブS10上に設置される設備31用の基礎として残存されることになる。また、既存柱3の切断にあたり、当該既存柱3に埋設されている主筋5についても、上記切断箇所pにて切断される。この切断箇所pでの既存柱3の切断作業は、当該切断箇所pが途中階2のスラブS2に対して上方に離間した箇所であることから、スラブS2が邪魔にならずに容易に実施される。
【0014】
(第2工程)
図3に示すように、第2工程では、切断後の柱3Aにおいて、途中階2のスラブS2よりも上方に突出するように残存された突出柱部分20に対し、当該突出柱部分20を構成するコンクリート部分である既存コンクリート部分C1が斫られる。そして、既存コンクリート部分C1が斫られることにより、突出柱部分20の主筋5等が露出された状態になる。
尚、本実施形態では、スラブS2の上面までの突出柱部分20の全体において既存コンクリート部分C1を斫っているが、後述するフック22の追加を可能とする範囲内において、既存コンクリート部分C1の斫り範囲を適宜変更しても構わない。
【0015】
(第3工程)
図4に示すように、第3工程では、既存コンクリート部分C1が斫られた突出柱部分20において露出された主筋5の上端にフック22が追加される。尚、主筋5に対するフック22の接合は、継手による方法や溶接による方法等、任意の接合方法を採用することができる。このフック22の追加作業は、切断箇所p(
図2参照)に位置する突出柱部分20における主筋5の上端が、途中階2のスラブS2に対して上方に離間した箇所であることから、当該スラブS2が邪魔にならずに容易に実施される。
【0016】
(第4工程)
図5に示すように、第4工程では、フック22が追加された突出柱部分20の周囲にコンクリート打設用の型枠50が設置される。このとき、型枠50に支持させる形態で、突出柱部分20に水平方向に貫通するアンカー25が設置される。
そして、この型枠50内にコンクリートが打設されて、改築後建物10における突出柱部分20を構成する復旧コンクリート部分C10が復旧される。そして、復旧後については、切断後の柱3Aにおける主筋5等やそれに追加されたフック22は復旧コンクリート部分C10に完全に埋設され、アンカー25は、端部を突出柱部分20の両側面20aから側方に突出させた状態で復旧コンクリート部分C10に埋設される。
【0017】
(第5工程)
図6に示すように、第5工程では、既存建物1の途中階2のスラブS2が適宜防水処理が施された上で、改築後建物10の屋上スラブS10として利用される。そして、上記第4工程にて復旧された突出柱部分20の側面20aに、設備31が設置される水平姿勢の設備架台30が、当該突出柱部分20に埋設されたアンカー25を用いて固定される。即ち、改築後建物10の屋上スラブS10として利用される途中階2のスラブS2よりも上方に突出する状態で残存された突出柱部分20が、改築後建物10の屋上スラブS10上に設置される設備31用の基礎として有効に利用されることになる。
更に、上述の第3工程におけるフック22追加作業の作業性を考慮して、上記第1工程にて切断後の柱3Aにて途中階2のスラブS2より上方に突出させて残存させた突出柱部分20の突出高さが、比較的大きく設定されている。この場合であっても、突出柱部分20の側面20aに設備架台30を固定して、当該設備架台30に設備31を設置することで、改築後建物10の屋上スラブS10上に設置する設備31の設置高さができるだけ低く抑えられている。
【0018】
尚、上記実施形態では、突出柱部分20に水平姿勢のアンカー25を埋設し、そのアンカー25を用いて突出柱部分20の側面20aに設備架台30を固定したが、突出柱部分20に対する設備架台30の固定箇所については適宜変更可能であり、例えば突出柱部分20の頂部に設備架台30を固定しても構わない。また、設備架台30が不要な場合や、当該設備架台30を別の箇所に固定可能である場合において、突出柱部分20に対して設備架台30を固定する構成を採用しなくてもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 既存建物
2 途中階
3 既存柱
3A 柱
5 主筋
10 改築後建物
20 突出柱部分
20a 側面
22 フック
25 アンカー
30 設備架台
31 設備
U1 上階部分
L1 下階部分
S10 屋上スラブ
S2 途中階のスラブ