(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009597
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】発酵物
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20250109BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20250109BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20250109BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20250109BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L19/00 Z
A23L2/02 A
A23L2/02 E
A23L2/38 G
A23L2/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023119464
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】菅 美里
【テーマコード(参考)】
4B016
4B035
4B117
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC07
4B016LE05
4B016LG01
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4B117LP05
4B117LP06
4B117LP13
4B117LP16
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】 本発明では、野菜汁又は果汁に含まれるグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させる方法、野菜汁又は果汁発酵物、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることでグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させることできることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させる工程を含み、該発酵により、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含む野菜汁又は果汁発酵物を得ることを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
【請求項2】
発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、請求項1記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、請求項1又は2記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
【請求項4】
グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含むことを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物。
【請求項5】
発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、請求項4記載の野菜汁又は果汁発酵物。
【請求項6】
乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、請求項4又は5記載の野菜汁又は果汁発酵物。
【請求項7】
グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させることを特徴とする、糖低減方法。
【請求項8】
発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、請求項7記載の糖低減方法。
【請求項9】
乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、請求項7又は8記載の糖低減方法。
【請求項10】
請求項4又は5に記載の野菜汁又は果汁発酵物を含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜汁又は果汁発酵物等に関する。
【背景技術】
【0002】
過剰な糖類の摂取が肥満や糖尿病、メタボリック症候群等の生活習慣病の発生率を高めることが知られており、健康維持において食事の糖類摂取量を低く抑えることが重要であると考えられている。果汁や野菜汁にはポリフェノールやカロテノイド等のファイトケミカルが含まれており様々な健康機能が期待できるが、糖類が多く含まれているため、果汁や野菜汁に含まれる糖類の低減が求められている。
【0003】
果汁や野菜汁に含まれる糖類の低減方法としては、果汁を限外濾過膜に通して得た透過液をナノ濾過膜に通して果汁糖分を除去する方法(特許文献1)、果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することを特徴とする低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料の製造方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2725889号公報
【特許文献2】特許第6529515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、野菜汁又は果汁に含まれるグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させる方法、野菜汁又は果汁発酵物、並びにその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることでグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させることできることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]の態様に関する。
[1]グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させる工程を含み、該発酵により、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含む野菜汁又は果汁発酵物を得ることを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
[2]発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、[1]記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
[3]乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、[1]又は[2]記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
[4]グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含むことを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物。
[5]発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、[4]記載の野菜汁又は果汁発酵物。
[6]乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、[4]又は[5]記載の野菜汁又は果汁発酵物。
[7]グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させることを特徴とする、糖低減方法。
[8]発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、[7]記載の糖低減方法。
[9]乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、[7]又は[8]記載の糖低減方法。
[10][4]~[6]の何れかに記載の野菜汁又は果汁発酵物を含む飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、野菜汁又は果汁のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させることが可能になり、該糖類を低減した野菜汁又は果汁発酵物を提供することが可能になった。また、簡便に該野菜汁又は果汁発酵物を製造できる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減でき、1重量%以上の乳酸を含む、野菜汁又は果汁発酵物を製造できる。また、本発明に記載の糖低減方法は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減できる。
【0010】
本発明に記載の発酵用原料は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含んでいればよく、さらにマンガンを含むのが好ましく、その他、一般的な培地成分を添加してもよい。
【0011】
本発明に記載の野菜汁又は果汁は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁であればよく、野菜汁としては、アスパラガス、キャベツ、キュウリ、ケール、ゴボウ、ショウガ、セロリー、タマネギ、トマト、ニンジン、ニンニク、ハクサイ、ビート、ブロッコリー等の搾汁液が例示でき、果汁としては、イチゴ、ウメ、温州ミカン、オレンジ、カキ、グレープフルーツ、ザクロ、ナシ、パインアップル、バナナ、ブドウ、ブルーベリー、マンゴー、メロン、モモ、ユズ、リンゴ、レモン等の果汁が例示でき、少なくとも一種を使用でき、濃縮した野菜汁又は果汁を使用するのが好ましい。発酵開始時の発酵用原料中の野菜汁又は果汁由来のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計は、発酵用原料を100%とした場合に、2重量%以上が好ましく、3~20重量%がより好ましく、4~15重量%がさらに好ましく、4.5~10重量%又は5重量%以上が特に好ましく、例えば、発酵用原料を100%とした場合に、野菜汁又は果汁を好ましくは0.5~50重量%、より好ましくは1~40重量%、さらに好ましくは2~30重量%含有させることができる。
【0012】
本発明に記載の植物性タンパク質加水分解物は、酵素処理、熱処理、アルカリ処理等により加水分解された植物性タンパク質であればよく、植物性タンパク質を使用して加水分解させてもよい。植物性タンパク質加水分解物又は植物性タンパク質は、発酵用原料を100重量%とした場合に、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.2~8重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%含有していればよい。植物性タンパク質としては、大豆タンパク質、エンドウタンパク質、ソラマメ蛋白質、ヒヨコマメタンパク質、インゲンマメタンパク質等の豆類タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質等の穀類タンパク質、アーモンドタンパク質、ゴマタンパク質等の種実類タンパク質等が例示でき、分離タンパク質等、精製品が好ましい。酵素処理を行う場合は、タンパク質やペプチドを加水分解する酵素を使用すれば特に限定されず、動物、植物又は微生物由来のプロテアーゼ及び/又はペプチダーゼを使用できる。動物由来の酵素としてはペプシン、トリプシン、植物由来の酵素としてはパパインが例示でき、微生物由来の酵素としては細菌由来又は真菌由来であって、詳細にはバチルス属由来、ストレプトマイセス属由来又はアスペルギルス属由来の酵素が例示できる。例えば、オリエンターゼ(登録商標)22BF(エイチビィアイ株式会社)、スミチーム(登録商標)FP(新日本化学工業株式会社)、プロテアックス(登録商標)(天野エンザイム株式会社)等の市販酵素を一種又は二種以上を組み合わせて使用できる。酵素添加量は、加水分解反応が進む条件であれば特に限定されないが、例えば、酵素製剤として、前記植物性タンパク質100重量%に対して、0.1~30重量%が好ましく、0.5~20重量%がより好ましく、1~15重量%がさらに好ましい。また、酵素処理条件は酵素のpH又は温度の最適条件、安定性等を考慮して適宜設定できるが、例えば、pH3~9、15~70℃が例示でき、pH4~8、20~60℃が好ましく、発酵時に酵素添加することで、発酵と並行して酵素処理することができる。
【0013】
本発明に記載のリン酸は、発酵用原料中でリン酸イオンとして存在するものであれば特に限定されず、リン酸でも、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウム等のリン酸塩でもよく、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等が例示でき、発酵開始時の発酵用原料を100%とした場合に、好ましくは0.01~2%、より好ましくは0.05~1%含有していればよい。
【0014】
本発明に記載のマンガンとしては、硫酸マンガン、塩化マンガン等の無機マンガン塩、乳酸マンガン、クエン酸マンガン等の有機酸マンガン塩、マンガン酵母、マンガン乳酸菌等のマンガン含有微生物等を使用することができ、発酵開始時のマンガンとして0.0002~0.05%含むのが好ましく、0.0005~0.02%含むのがより好ましい。
【0015】
本発明の乳酸菌発酵は、pH調整下で、前記発酵用原料を乳酸菌で発酵させれば特に限定されず、乳酸菌は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか一種以上を資化し、乳酸を生成できる菌であれば特に限定されず、ラクチプランチバチルス・プランタルム等のラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ等のラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス・ファーメンタム等のリモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス・ブレビス等のレヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス・ガセリ等のラクトバチルス属、リジラクトバチルス・サリバリウス等のリジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス・マリ等のリコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス・ヒルガルディ等のレンチラクトバチルス属、ラチラクトバチルス・サケイ等のラチラクトバチルス属等に属する乳酸桿菌、ロイコノストック・メセンテロイデス等のロイコノストック属、ストレプトコッカス・サーモフィラス等のストレプトコッカス属、ペディオコッカス・ペントサセウス等のペディオコッカス属、ラクトコッカス・ラクチス等のラクトコッカス属等に属する乳酸球菌等が例示でき、1種又は2種以上を用いることできる。
【0016】
発酵は、乳酸菌を植菌し、攪拌又は振とうしながら発酵させるのが好ましく、植菌量は、一般的な植菌量であれば特に限定されず、例えば前培養した乳酸菌液を発酵用原料に対して0.05~10重量%、好ましくは0.1~5重量%接種することができる。発酵温度及び発酵期間は、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減できれば特に限定されないが、例えば10~50℃、2~72時間、好ましくは20~45℃、4~48時間、より好ましくは25~40℃、6~36時間に設定できる。
【0017】
pH調整下での発酵は、pH調整剤を用いて行うことができ、pH調整剤としては、発酵によって生成する酸を中和できるものであれば特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩又は炭酸水素塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア等を用いることができる。pH調整は、炭酸カルシウム等のカルシウム含有水不溶性組成物を発酵用原料に含ませてもよく、アルカリ溶液を添加して行ってもよく、乳酸菌が増殖し易いpHであれば特に限定されないが、発酵中のpHを3.5以上に調整するのが好ましく、pH4.0~7.0の範囲に調整するのがより好ましく、pH5.0~6.5の範囲に調整するのがさらに好ましい。カルシウム含有水不溶性組成物含有量は、発酵用原料を100重量%とした場合に、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.2~8重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%含んでいればよく、カルシウム含有量として、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~3重量%、さらに好ましくは0.2~2重量%含んでいればよい。カルシウム含有水不溶性組成物を含ませた場合、酸性で溶解するため、pHの低下を緩和し、pH調整ができることで、pH低下に伴う乳酸菌の増殖抑制が抑えられる。前記pH調整により、発酵開始時のpHは、pH3.5以上が好ましく、pH4.0~6.5がより好ましく、pH5.0~6.0がさらに好ましく、pH6.0未満でもよい。
【0018】
本発明の発酵物は、発酵後に殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば60~120℃で1~30分間又は80~100℃で5~20分間の加熱が好ましい。該発酵物は、濃縮し、濃縮品として利用してもよく、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等を行い、粉末化し、乾燥品として利用しても良い。
【0019】
上記に記載の方法により、野菜汁又は果汁を発酵させた本発明の発酵物を製造することができる。該発酵物は、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させた野菜汁又は果汁発酵物であって、前記糖の低減量が3g以上が好ましく、3.5g以上がより好ましく、4g以上がさらに好ましく、5g以上が特に好ましく、また該発酵物は、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下であるのが好ましく、2重量%以下であるのがより好ましく、1重量%以下であるのがさらに好ましく、1重量%未満であるのが特に好ましい。発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上であるのが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。尚、発酵物においてグルコース、フルクトース及びスクロースが全て不検出だった場合を糖低減率100%とする。また、発酵物中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計濃度を、発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計濃度の40%以下に減少させるのが好ましく、30%以下に減少させるのがより好ましく、20%以下に減少させるのがさらに好ましく、10%以下に減少させるのが特に好ましい。さらに、該発酵物は、1重量%以上の乳酸を含む野菜汁又は果汁発酵物であって、2重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましく、4重量%以上がさらに好ましく、5重量%以上が特に好ましい。
【0020】
本発明の野菜汁又は果汁発酵物は、飲料として利用できる他、各種飲食品等に添加して使用してもよく、通常の野菜汁又は果汁に比べ、糖含有量が低減されているため、カロリーを抑えた飲食品や健康志向飲食品としての利用も期待できる。各種飲食品への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.1~95重量%、より好ましくは0.5~90重量%、さらに好ましくは1~80重量%である。添加する飲食品は特に限定されないが、非アルコール飲料、アルコール飲料等の飲料、アイスクリーム等の冷菓、ゼリー、ヨーグルト等の生菓子、ドレッシング、ソース等の調味料、健康食品、サプリメント、カルシウム吸収剤、乳酸菌剤等に利用できる。
【実施例0021】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
実施例1-1として、果汁として6倍濃縮マスカット果汁透明TN(Brix:68°、雄山株式会社)5%、植物性タンパク質としてエンドウタンパク質(ニュートラリス(登録商標)S85F、タンパク質含量:79%、ロケットジャパン株式会社)1%、pH調整剤として炭酸カルシウム(食品添加物)1%、リン酸としてリン酸一カリウム(食品添加物)0.2%、マンガンとしてマンガン含有酵母(マンガン含量:5%、メディエンス株式会社)0.02%及び水道水からなる発酵用原料50gをフラスコに入れて、105℃で10分間殺菌処理した後、冷却し、タンパク質分解酵素(プロテアックス(登録商標)、天野エンザイム株式会社)0.1%を添加するとともに、ラクチプランチバチルス・プランタルム NBRC14711株を植菌し、33℃で21時間振盪して発酵させ、発酵終了後、90℃で10分間殺菌処理して発酵ブドウ果汁(実施品1-1)を得た。また、マンガンを配合しない以外は、実施例1-1と同様にして発酵ブドウ果汁(実施品1-2)を得た。
何れの発酵ブドウ果汁も、発酵前の発酵用原料に比べてグルコース及びフルクトースが低減され、乳酸含量が増加していたが、実施品1-1及び1-2の発酵ブドウ果汁では、発酵用原料100gあたりグルコース及びフルクトースを合計で2g以上低減できており、発酵前に比べて60%以上も低減でき、また乳酸含量も2%以上となっていた。尚、スクロースは発酵前の発酵用原料自体に含まれていなかった。発酵用原料に、植物性タンパク質、pH調整剤である炭酸カルシウム又はリン酸を添加しなかった比較品1-1、1-2又は1-3の発酵ブドウ果汁は、発酵用原料100gあたりのグルコース及びフルクトース合計低減量が2g未満と、実施品に比べ、糖低減量が少なく、また乳酸含量も2%未満であり、植物性タンパク質、pH調整剤及びリン酸を含む発酵用培地で発酵させることで、グルコース及びフルクトースの合計量をより低減でき、乳酸含量もより高めることができることが分かった。