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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009597
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】発酵物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20250109BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20250109BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20250109BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20250109BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L19/00 Z
A23L2/02 A
A23L2/02 E
A23L2/38 G
A23L2/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023119464
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】菅 美里
【テーマコード(参考)】
4B016
4B035
4B117
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC07
4B016LE05
4B016LG01
4B016LG08
4B016LK01
4B016LK08
4B016LK10
4B016LK13
4B016LK18
4B016LP02
4B016LP04
4B016LP05
4B016LP11
4B016LP13
4B035LC01
4B035LC06
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG01
4B035LG02
4B035LG15
4B035LG19
4B035LG32
4B035LG33
4B035LG50
4B035LG51
4B035LK19
4B035LP21
4B035LP41
4B035LP42
4B035LP43
4B035LP44
4B035LP56
4B117LC03
4B117LC04
4B117LG05
4B117LG08
4B117LG11
4B117LK01
4B117LK12
4B117LK15
4B117LK21
4B117LK24
4B117LL09
4B117LP05
4B117LP06
4B117LP13
4B117LP16
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】 本発明では、野菜汁又は果汁に含まれるグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させる方法、野菜汁又は果汁発酵物、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることでグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させることできることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させる工程を含み、該発酵により、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含む野菜汁又は果汁発酵物を得ることを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
【請求項2】
発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、請求項1記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、請求項1又は2記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
【請求項4】
グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含むことを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物。
【請求項5】
発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、請求項4記載の野菜汁又は果汁発酵物。
【請求項6】
乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、請求項4又は5記載の野菜汁又は果汁発酵物。
【請求項7】
グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させることを特徴とする、糖低減方法。
【請求項8】
発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、請求項7記載の糖低減方法。
【請求項9】
乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、請求項7又は8記載の糖低減方法。
【請求項10】
請求項4又は5に記載の野菜汁又は果汁発酵物を含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜汁又は果汁発酵物等に関する。
【背景技術】
【0002】
過剰な糖類の摂取が肥満や糖尿病、メタボリック症候群等の生活習慣病の発生率を高めることが知られており、健康維持において食事の糖類摂取量を低く抑えることが重要であると考えられている。果汁や野菜汁にはポリフェノールやカロテノイド等のファイトケミカルが含まれており様々な健康機能が期待できるが、糖類が多く含まれているため、果汁や野菜汁に含まれる糖類の低減が求められている。
【0003】
果汁や野菜汁に含まれる糖類の低減方法としては、果汁を限外濾過膜に通して得た透過液をナノ濾過膜に通して果汁糖分を除去する方法(特許文献1)、果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することを特徴とする低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料の製造方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2725889号公報
【特許文献2】特許第6529515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、野菜汁又は果汁に含まれるグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させる方法、野菜汁又は果汁発酵物、並びにその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることでグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させることできることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]の態様に関する。
[1]グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させる工程を含み、該発酵により、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含む野菜汁又は果汁発酵物を得ることを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
[2]発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、[1]記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
[3]乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、[1]又は[2]記載の野菜汁又は果汁発酵物の製造方法。
[4]グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させ、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下である野菜汁又は果汁発酵物であって、1重量%以上の乳酸を含むことを特徴とする、野菜汁又は果汁発酵物。
[5]発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、[4]記載の野菜汁又は果汁発酵物。
[6]乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、[4]又は[5]記載の野菜汁又は果汁発酵物。
[7]グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させることを特徴とする、糖低減方法。
[8]発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上である、[7]記載の糖低減方法。
[9]乳酸菌がラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス属、リジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属及びラクトコッカス属に属する菌からなる群のうちの少なくとも一種である、[7]又は[8]記載の糖低減方法。
[10][4]~[6]の何れかに記載の野菜汁又は果汁発酵物を含む飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、野菜汁又は果汁のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計量を低減させることが可能になり、該糖類を低減した野菜汁又は果汁発酵物を提供することが可能になった。また、簡便に該野菜汁又は果汁発酵物を製造できる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減でき、1重量%以上の乳酸を含む、野菜汁又は果汁発酵物を製造できる。また、本発明に記載の糖低減方法は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含む発酵用原料を、pH調整下で乳酸菌発酵させることで、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減できる。
【0010】
本発明に記載の発酵用原料は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁、植物性タンパク質加水分解物、並びにリン酸を含んでいればよく、さらにマンガンを含むのが好ましく、その他、一般的な培地成分を添加してもよい。
【0011】
本発明に記載の野菜汁又は果汁は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか1以上を含む野菜汁又は果汁であればよく、野菜汁としては、アスパラガス、キャベツ、キュウリ、ケール、ゴボウ、ショウガ、セロリー、タマネギ、トマト、ニンジン、ニンニク、ハクサイ、ビート、ブロッコリー等の搾汁液が例示でき、果汁としては、イチゴ、ウメ、温州ミカン、オレンジ、カキ、グレープフルーツ、ザクロ、ナシ、パインアップル、バナナ、ブドウ、ブルーベリー、マンゴー、メロン、モモ、ユズ、リンゴ、レモン等の果汁が例示でき、少なくとも一種を使用でき、濃縮した野菜汁又は果汁を使用するのが好ましい。発酵開始時の発酵用原料中の野菜汁又は果汁由来のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計は、発酵用原料を100%とした場合に、2重量%以上が好ましく、3~20重量%がより好ましく、4~15重量%がさらに好ましく、4.5~10重量%又は5重量%以上が特に好ましく、例えば、発酵用原料を100%とした場合に、野菜汁又は果汁を好ましくは0.5~50重量%、より好ましくは1~40重量%、さらに好ましくは2~30重量%含有させることができる。
【0012】
本発明に記載の植物性タンパク質加水分解物は、酵素処理、熱処理、アルカリ処理等により加水分解された植物性タンパク質であればよく、植物性タンパク質を使用して加水分解させてもよい。植物性タンパク質加水分解物又は植物性タンパク質は、発酵用原料を100重量%とした場合に、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.2~8重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%含有していればよい。植物性タンパク質としては、大豆タンパク質、エンドウタンパク質、ソラマメ蛋白質、ヒヨコマメタンパク質、インゲンマメタンパク質等の豆類タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質等の穀類タンパク質、アーモンドタンパク質、ゴマタンパク質等の種実類タンパク質等が例示でき、分離タンパク質等、精製品が好ましい。酵素処理を行う場合は、タンパク質やペプチドを加水分解する酵素を使用すれば特に限定されず、動物、植物又は微生物由来のプロテアーゼ及び/又はペプチダーゼを使用できる。動物由来の酵素としてはペプシン、トリプシン、植物由来の酵素としてはパパインが例示でき、微生物由来の酵素としては細菌由来又は真菌由来であって、詳細にはバチルス属由来、ストレプトマイセス属由来又はアスペルギルス属由来の酵素が例示できる。例えば、オリエンターゼ(登録商標)22BF(エイチビィアイ株式会社)、スミチーム(登録商標)FP(新日本化学工業株式会社)、プロテアックス(登録商標)(天野エンザイム株式会社)等の市販酵素を一種又は二種以上を組み合わせて使用できる。酵素添加量は、加水分解反応が進む条件であれば特に限定されないが、例えば、酵素製剤として、前記植物性タンパク質100重量%に対して、0.1~30重量%が好ましく、0.5~20重量%がより好ましく、1~15重量%がさらに好ましい。また、酵素処理条件は酵素のpH又は温度の最適条件、安定性等を考慮して適宜設定できるが、例えば、pH3~9、15~70℃が例示でき、pH4~8、20~60℃が好ましく、発酵時に酵素添加することで、発酵と並行して酵素処理することができる。
【0013】
本発明に記載のリン酸は、発酵用原料中でリン酸イオンとして存在するものであれば特に限定されず、リン酸でも、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウム等のリン酸塩でもよく、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等が例示でき、発酵開始時の発酵用原料を100%とした場合に、好ましくは0.01~2%、より好ましくは0.05~1%含有していればよい。
【0014】
本発明に記載のマンガンとしては、硫酸マンガン、塩化マンガン等の無機マンガン塩、乳酸マンガン、クエン酸マンガン等の有機酸マンガン塩、マンガン酵母、マンガン乳酸菌等のマンガン含有微生物等を使用することができ、発酵開始時のマンガンとして0.0002~0.05%含むのが好ましく、0.0005~0.02%含むのがより好ましい。
【0015】
本発明の乳酸菌発酵は、pH調整下で、前記発酵用原料を乳酸菌で発酵させれば特に限定されず、乳酸菌は、グルコース、フルクトース及びスクロースの何れか一種以上を資化し、乳酸を生成できる菌であれば特に限定されず、ラクチプランチバチルス・プランタルム等のラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ等のラクチカゼイバチルス属、リモシラクトバチルス・ファーメンタム等のリモシラクトバチルス属、レヴィラクトバチルス・ブレビス等のレヴィラクトバチルス属、ラクトバチルス・ガセリ等のラクトバチルス属、リジラクトバチルス・サリバリウス等のリジラクトバチルス属、リコリラクトバチルス・マリ等のリコリラクトバチルス属、レンチラクトバチルス・ヒルガルディ等のレンチラクトバチルス属、ラチラクトバチルス・サケイ等のラチラクトバチルス属等に属する乳酸桿菌、ロイコノストック・メセンテロイデス等のロイコノストック属、ストレプトコッカス・サーモフィラス等のストレプトコッカス属、ペディオコッカス・ペントサセウス等のペディオコッカス属、ラクトコッカス・ラクチス等のラクトコッカス属等に属する乳酸球菌等が例示でき、1種又は2種以上を用いることできる。
【0016】
発酵は、乳酸菌を植菌し、攪拌又は振とうしながら発酵させるのが好ましく、植菌量は、一般的な植菌量であれば特に限定されず、例えば前培養した乳酸菌液を発酵用原料に対して0.05~10重量%、好ましくは0.1~5重量%接種することができる。発酵温度及び発酵期間は、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減できれば特に限定されないが、例えば10~50℃、2~72時間、好ましくは20~45℃、4~48時間、より好ましくは25~40℃、6~36時間に設定できる。
【0017】
pH調整下での発酵は、pH調整剤を用いて行うことができ、pH調整剤としては、発酵によって生成する酸を中和できるものであれば特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩又は炭酸水素塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア等を用いることができる。pH調整は、炭酸カルシウム等のカルシウム含有水不溶性組成物を発酵用原料に含ませてもよく、アルカリ溶液を添加して行ってもよく、乳酸菌が増殖し易いpHであれば特に限定されないが、発酵中のpHを3.5以上に調整するのが好ましく、pH4.0~7.0の範囲に調整するのがより好ましく、pH5.0~6.5の範囲に調整するのがさらに好ましい。カルシウム含有水不溶性組成物含有量は、発酵用原料を100重量%とした場合に、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.2~8重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%含んでいればよく、カルシウム含有量として、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~3重量%、さらに好ましくは0.2~2重量%含んでいればよい。カルシウム含有水不溶性組成物を含ませた場合、酸性で溶解するため、pHの低下を緩和し、pH調整ができることで、pH低下に伴う乳酸菌の増殖抑制が抑えられる。前記pH調整により、発酵開始時のpHは、pH3.5以上が好ましく、pH4.0~6.5がより好ましく、pH5.0~6.0がさらに好ましく、pH6.0未満でもよい。
【0018】
本発明の発酵物は、発酵後に殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば60~120℃で1~30分間又は80~100℃で5~20分間の加熱が好ましい。該発酵物は、濃縮し、濃縮品として利用してもよく、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等を行い、粉末化し、乾燥品として利用しても良い。
【0019】
上記に記載の方法により、野菜汁又は果汁を発酵させた本発明の発酵物を製造することができる。該発酵物は、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減させた野菜汁又は果汁発酵物であって、前記糖の低減量が3g以上が好ましく、3.5g以上がより好ましく、4g以上がさらに好ましく、5g以上が特に好ましく、また該発酵物は、グルコース、フルクトース及びスクロースの合計が3重量%以下であるのが好ましく、2重量%以下であるのがより好ましく、1重量%以下であるのがさらに好ましく、1重量%未満であるのが特に好ましい。発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計含量が発酵により低減される糖低減率が60%以上であるのが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。尚、発酵物においてグルコース、フルクトース及びスクロースが全て不検出だった場合を糖低減率100%とする。また、発酵物中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計濃度を、発酵用原料中のグルコース、フルクトース及びスクロースの合計濃度の40%以下に減少させるのが好ましく、30%以下に減少させるのがより好ましく、20%以下に減少させるのがさらに好ましく、10%以下に減少させるのが特に好ましい。さらに、該発酵物は、1重量%以上の乳酸を含む野菜汁又は果汁発酵物であって、2重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましく、4重量%以上がさらに好ましく、5重量%以上が特に好ましい。
【0020】
本発明の野菜汁又は果汁発酵物は、飲料として利用できる他、各種飲食品等に添加して使用してもよく、通常の野菜汁又は果汁に比べ、糖含有量が低減されているため、カロリーを抑えた飲食品や健康志向飲食品としての利用も期待できる。各種飲食品への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.1~95重量%、より好ましくは0.5~90重量%、さらに好ましくは1~80重量%である。添加する飲食品は特に限定されないが、非アルコール飲料、アルコール飲料等の飲料、アイスクリーム等の冷菓、ゼリー、ヨーグルト等の生菓子、ドレッシング、ソース等の調味料、健康食品、サプリメント、カルシウム吸収剤、乳酸菌剤等に利用できる。
【実施例0021】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例0022】
実施例1-1として、果汁として6倍濃縮マスカット果汁透明TN(Brix:68°、雄山株式会社)5%、植物性タンパク質としてエンドウタンパク質(ニュートラリス(登録商標)S85F、タンパク質含量:79%、ロケットジャパン株式会社)1%、pH調整剤として炭酸カルシウム(食品添加物)1%、リン酸としてリン酸一カリウム(食品添加物)0.2%、マンガンとしてマンガン含有酵母(マンガン含量:5%、メディエンス株式会社)0.02%及び水道水からなる発酵用原料50gをフラスコに入れて、105℃で10分間殺菌処理した後、冷却し、タンパク質分解酵素(プロテアックス(登録商標)、天野エンザイム株式会社)0.1%を添加するとともに、ラクチプランチバチルス・プランタルム NBRC14711株を植菌し、33℃で21時間振盪して発酵させ、発酵終了後、90℃で10分間殺菌処理して発酵ブドウ果汁(実施品1-1)を得た。また、マンガンを配合しない以外は、実施例1-1と同様にして発酵ブドウ果汁(実施品1-2)を得た。
【0023】
[比較例1]
植物性タンパク質を配合しない以外は、実施例1-1と同様にして発酵ブドウ果汁(比較品1-1)を得た。
pH調整剤を配合しない以外は、実施例1-1と同様にして発酵ブドウ果汁(比較品1-2)を得た。
リン酸を配合しない以外は、実施例1-1と同様にして発酵ブドウ果汁(比較品1-3)を得た。
【0024】
[評価試験]
発酵前の発酵用原料、実施品1-1、1-2及び比較品1-1~1-3の発酵ブドウ果汁について、pH、糖類(グルコース、フルクトース、スクロース)含量及び乳酸含量を測定した。結果を表1に示す。尚、糖類は下記のHPLCによる糖類測定条件で測定し、グルコース、フルクトース及びスクロースの各測定値、並びにそれらの合計を合計糖含量として記載し、乳酸は下記のキャピラリー電気泳動による乳酸測定条件で測定し、乳酸含量として記載した。また、発酵前の発酵用原料の合計糖含量と、実施品1-1、1-2及び比較品1-1~1-3の発酵物の合計糖含量とを比較して、発酵物においてグルコース、フルクトース及びスクロースが全て不検出だった場合を糖低減率100%として、各サンプルの糖低減率を算出し、さらに発酵用原料100g中のグルコース、フルクトース及びスクロースが、発酵後にどれだけ低減されたかを算出し、発酵用原料100gあたりのグルコース、フルクトース及びスクロースの合計低減量として、表1に記載した。
【0025】
<糖類測定条件:HPLC>
・検出器:示差屈折率検出器
・カラム:InertSustain NH2(内径4.6mm、長さ250mm)
・移動相:80%アセトニトリル水溶液
・流速:0.7ml/分
・カラム温度:40℃
・標品:フルクトース、グルコース、スクロース(何れも富士フィルム和光純薬株式会社製)を蒸留水で溶解して、検量線を作成した。
【0026】
<乳酸測定条件:キャピラリー電気泳動>
・機器:Agilent7100(アジレント・テクノロジー株式会社製)
・キャピラリー:Fused Silica(内径75μm、長さ720mm)
・泳動液:α-AFQ131
・電圧:-20kV
・キャピラリー温度:25℃
・検出器:シグナル/リファレンス=350nm/230nm
・標品:乳酸(特級試薬、富士フィルム和光純薬株式会社製)を蒸留水で希釈して検量線を作成した。
【0027】
【表1】
【0028】
何れの発酵ブドウ果汁も、発酵前の発酵用原料に比べてグルコース及びフルクトースが低減され、乳酸含量が増加していたが、実施品1-1及び1-2の発酵ブドウ果汁では、発酵用原料100gあたりグルコース及びフルクトースを合計で2g以上低減できており、発酵前に比べて60%以上も低減でき、また乳酸含量も2%以上となっていた。尚、スクロースは発酵前の発酵用原料自体に含まれていなかった。発酵用原料に、植物性タンパク質、pH調整剤である炭酸カルシウム又はリン酸を添加しなかった比較品1-1、1-2又は1-3の発酵ブドウ果汁は、発酵用原料100gあたりのグルコース及びフルクトース合計低減量が2g未満と、実施品に比べ、糖低減量が少なく、また乳酸含量も2%未満であり、植物性タンパク質、pH調整剤及びリン酸を含む発酵用培地で発酵させることで、グルコース及びフルクトースの合計量をより低減でき、乳酸含量もより高めることができることが分かった。
【実施例0029】
タンパク質分解酵素(プロテアックス(登録商標))を0.02%とする以外は、実施例1-1と同様にして発酵ブドウ果汁(実施品2)を得た。
【0030】
[比較例2]
タンパク質分解酵素(プロテアックス(登録商標))を配合しない以外は、実施例1-1と同様にして発酵ブドウ果汁(比較品2)を得た。
【0031】
発酵前の発酵用原料及び実施品2及び比較品2の発酵ブドウ果汁について、前記評価試験に従って測定し、pH、糖類(グルコース、フルクトース、スクロース)含量、合計糖含量、糖低減率、発酵用原料100gあたりのグルコース、フルクトース及びスクロースの合計低減量及び乳酸含量を表2に記載した。
【0032】
【表2】
【0033】
タンパク質分解酵素を含む発酵用原料を発酵させた実施品2の方が、該酵素を含まない発酵用原料を発酵させた比較品2より、発酵前の発酵用原料に比べてグルコース及びフルクトースがより低減され、乳酸含量が増加しており、発酵用原料100gあたりグルコース及びフルクトースを合計で2g以上低減できており、発酵前に比べて70%以上も低減でき、また乳酸含量も3%以上となっていた。尚、発酵原料中の植物性タンパク質100%に対するタンパク質分解酵素の添加量は2%だった。
【実施例0034】
果汁として5倍濃縮ピーチ透明果汁(Brix:40°、日本果実加工株式会社)15%、植物性タンパク質として粉末状大豆タンパク(フジプロ(登録商標)RK、タンパク質含量:86%、不二製油株式会社)2%(実施例3-1)、1%(実施例3-2)、0.5%(実施例3-3)、0.2%(実施例3-4)又は0.1%(実施例3-5)、pH調整剤として炭酸カルシウム(食品添加物)2%、リン酸(食品添加物)0.2%、マンガンとしてマンガン含有酵母(マンガン含量:5%)0.02%、及び水道水からなる発酵用原料各50gをフラスコに入れて、105℃で10分間殺菌処理した後、冷却し、タンパク質分解酵素(スミチーム(登録商標)FP、新日本化学工業株式会社)0.1%を添加するとともに、ラクチプランチバチルス・プランタルム NBRC14711株を植菌し、33℃で20時間振盪して発酵させ、発酵終了後、90℃で10分間殺菌処理して発酵モモ果汁(実施品3-1~3-5)を得た。
【0035】
発酵前の発酵用原料及び実施品3-1~3-5の発酵モモ果汁について、前記評価試験に従って測定し、pH、糖類(グルコース、フルクトース、スクロース)含量、合計糖含量、糖低減率、発酵用原料100gあたりのグルコース、フルクトース及びスクロースの合計低減量及び乳酸含量を表3に記載した。
【0036】
【表3】
【0037】
何れの発酵モモ果汁も、発酵前の発酵用原料に比べてグルコース、フルクトース及びスクロースが低減され、乳酸含量が増加しており、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で2g以上低減できており、発酵前に比べて50%以上も低減でき、また乳酸含量も2%以上となっていた。また、植物性タンパク質の濃度依存的に糖低減率及び乳酸含量の向上がみられた。
【実施例0038】
野菜汁としてニンジン汁(キャロットエキスAK-1850、Brix:70°、池田糖化工業株式会社)10%、植物性タンパク質として粉末状大豆タンパク(フジプロ(登録商標)RK、タンパク質含量:86%)1%、pH調整剤として炭酸カルシウム(食品添加物)2%、リン酸(食品添加物)0.2%、マンガンとしてマンガン含有酵母(マンガン含量:5%)0.02%及び水道水からなる発酵用原料各50gをフラスコに入れて、105℃で10分間殺菌処理した後、冷却し、タンパク質分解酵素(スミチーム(登録商標)FP)0.05%を添加するとともに、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ NBRC3533株(実施例4-1)、リモシラクトバチルス・ファーメンタム NBRC15885株(実施例4-2)、レヴィラクトバチルス・ブレビス NBRC12005株(実施例4-3)又はロイコノストック・メセンテロイデス NBRC100496株(実施例4-4)を植菌し、33℃で23時間振盪して発酵させ、発酵終了後、90℃で10分間殺菌処理して発酵ニンジン汁(実施品4-1~4-4)を得た。
【0039】
発酵前の発酵用原料及び実施品4-1~4-4の発酵ニンジン汁について、前記評価試験に従って測定し、pH、糖類(グルコース、フルクトース、スクロース)含量、合計糖含量、糖低減率、発酵用原料100gあたりのグルコース、フルクトース及びスクロースの合計低減量及び乳酸含量を表4に記載した。
【0040】
【表4】
【0041】
何れの発酵ニンジン汁も、発酵前の発酵用原料にグルコース、フルクトース及びスクロースが合計で5.14%含まれていたが、全て不検出となり、また乳酸含量が増加しており、発酵用原料100gあたりグルコース、フルクトース及びスクロースを合計で5g以上低減できており、発酵前に比べて100%低減でき、また乳酸含量も2%以上となっていた。ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ、リモシラクトバチルス・ファーメンタム、レヴィラクトバチルス・ブレビス及びロイコノストック・メセンテロイデスの何れの株を使用して得られた発酵物でも、グルコース、フルクトース及びスクロースを低減でき、乳酸含量を増加できることが分かった。
【実施例0042】
植物性タンパク質としてエンドウタンパク質(ニュートラリス(登録商標)S85F、タンパク質含量:79%)1%、マンガンとしてマンガン含有酵母(マンガン含量:5%、メディエンス株式会社)0.02%及び水道水88.78%からなる898gを2Lジャーに入れて、121℃で5分間殺菌処理した後、冷却し、果汁として6倍濃縮マスカット果汁透明TN(Brix:68°、雄山株式会社)10%及びリン酸としてリン酸一カリウム(食品添加物)0.2%を添加した全1kgを、90℃達温後、冷却し、20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを5.5に調整し、タンパク質分解酵素(スミチーム(登録商標)FP)0.05%を添加するとともに、ラクチプランチバチルス・プランタルム NBRC14711株を植菌し、20%水酸化ナトリウム水溶液で、pHを5.5に維持しながら、35℃で22時間撹拌しながら発酵させ、発酵終了後、90℃で10分間殺菌処理して発酵ブドウ果汁(実施品5)を得た。
【0043】
発酵前の発酵用原料及び実施品5の発酵ブドウ果汁について、前記評価試験に従って測定し、pH、糖類(グルコース、フルクトース、スクロース)含量、合計糖含量、糖低減率、発酵用原料100gあたりのグルコース、フルクトース及びスクロースの合計低減量及び乳酸含量を表5に記載した。
【0044】
【表5】
【0045】
アルカリ溶液で発酵中のpHを5.5に維持した結果、発酵用原料100gあたりグルコース及びフルクトースを合計で約5g低減できており、発酵前に比べて70%以上も低減でき、また乳酸含量も6%以上となっていた。実施例1~4では、発酵用原料に炭酸カルシウムを入れて発酵させることで、発酵中のpHを3.5以上に調整していたが、アルカリ溶液で発酵中にpHを維持する方法も、糖含量の低減に有効なことが分かった。