IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 根本 勇の特許一覧

特開2025-9603背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル
<>
  • 特開-背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル 図1
  • 特開-背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル 図2
  • 特開-背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル 図3
  • 特開-背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル 図4
  • 特開-背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル 図5
  • 特開-背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル 図6
  • 特開-背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009603
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】背圧を下げ、推力を下げず、最高温度を下げるターボファンサイクル
(51)【国際特許分類】
   F02K 3/02 20060101AFI20250109BHJP
   F02C 9/28 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F02K3/02
F02C9/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023120299
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】591217492
【氏名又は名称】根本 勇
(72)【発明者】
【氏名】根本 勇
(57)【要約】
【課題】 コアの排気ノズルを広くしてエンジン背圧を下げ、同時にタービン入口温度(TIT)を下げると、タービン膨張比が大きくなりファン回転数が上昇、流量が増して、TITを下げたにも拘らず推力を保てるという新しい概念を、コアの排気ノズルWNを固定したままで実現すること。
【解決手段】 TITの下げ幅、ファン回転数の上昇幅を定めるサイクルパラメータの値やタービンチョーク点を、部分負荷時にタービン膨張比が過大にならないよう、離陸定格のみでなく部分負荷も考慮して決め、全運転域で排気ノズル固定で運転できるようにサイクルを設計する。
【効果】 1)推力当りの燃料消費量を低減しSFCを改善できる。2)推力を落さずTITを下げることができるので、冷却空気量を減らせる。タービン寿命を伸ばせる。製造コストを低減できる。3)コアの排気ノズルを固定したままで上記1)2)を実現できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推力を落さずタービン入口温度(TIT)を下げる本発明の以下の方法。
1)高圧タービン(HPT)、低圧タービン(LPT)、コアの排気ノズル(WN)のチョーク点を離陸定格とし、
2)コアエンジンの排気ノズル面積を従来のターボファンのノズルより大きく設定して、
3)2)によりエンジン背圧を下げ、高圧圧縮機(HPC)の作動線をチョーク側に移動してコアの流量を増し、燃料空気混合比を低下させてTITを下げ、HPC圧力比の過昇を防ぎ、
4)2)3)により、広い排気ノズル面積でTITを下げると、タービン膨張比が大きくなる現象を作り出す方法。
5)4)の方法により、高圧軸を過回転にすることなく低圧軸回転数を高め、推力当りの燃料消費量を小さくする固定サイクル。
6)5)のサイクルを成立させるための条件として、最高温度とファン回転数、及び排気ノズル面積の設定は、巡航時にタービン膨張比がチョーク値を越えないよう、離陸定格のみでなく巡航時つまり部分負荷でも排気ノズル固定で運転可能な値とするサイクル設計とエンジン構成。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボファンエンジンのための新しいサイクルの創出である。このターボファンは排気として捨てられるエネルギーの一部を回収して、環境対策と経済性を両立させる特許文献1の改良案である。
【背景技術】
【0002】
軽量、小型、高推力を要求される航空機用エンジンは、性能向上のため高温・高圧化が追求され続けてきた。ジェットエンジンの推力はタービン入口温度(TIT)に支配されTITは材料の融点により制約を受ける。そのため高度なタービン空冷技術や耐熱材料の革新的技術が開発されてきた。しかし高温化はタービン寿命を縮める。またそれを防ぐための冷却空気量が多すぎると高温化による性能向上を冷却空気過剰によるサイクル損失が上回ってしまう。その上燃焼器内の火炎温度の上昇に対しNOx(窒素酸化物)の排出量は指数関数的に増加する。NOxは温室効果ガスである。このように高性能化と省資源や環境対策は両立が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2022-117559
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】森田光男、関根静雄著 「多軸ターボファンエンジンの設計点外性能」航空宇宙技術研究所報告347号
【0005】
【非特許文献2】八田桂三著 「ガスタービンおよびジェットエンジン」共立出版株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ターボファンの技術開発動向として、推進効率を高めるために高バイパス比化が進められてきた。しかしながらバイパス比を高めるにはTITを高めねばならない。TITを高めれば上述のように多くの問題が生じ必ずしも環境対策に繋がらない。特許文献1では以上の点に鑑み、TITを高めず現実的な温度範囲で低圧タービン・ファン系の仕事を増しエンジン空気流量を増加、推力を保つオリジナリティに富んだ技術思想を生み出した。
【0007】
しかし特許文献1は、部分負荷で低圧タービン(LPT)膨張比が設計点の値を超えてしまう、即ち設計点(ここでは離陸定格)での排気ノズル面積が部分負荷より小さくなる。従って離陸定格で最大推力を得るためには、コアエンジンの排気ノズルを可変機構にしなければならなかった。可変機構は複雑で重量が増す。本発明の課題は、可変機構をなくして固定ノズルによりTITを下げても推力を維持できるサイクルを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
TITを下げても推力を維持するためには、高圧軸回転数を高めずに低圧軸回転数を高めエンジン流量を増さねばならない。解決策としてコアの排気ノズル面積を大きく設定し、TITを下げるとタービン膨張比が大きくなることを発見した。この現象を用いると、コアの排気ノズルを固定したままで高圧軸回転数を過昇にせずに低圧軸回転数を高めることが出来ることが分かった。この発想と計算による解析は実施例で詳しく記す。
【0009】
本発明では、排気ノズルを固定したままで、部分負荷時のタービン膨張比がチョーク値を超えないよう、TITの下げ幅や、ファン回転数の上昇幅、高圧タービン(HPT)やLPTのチョーク点の設定等のマッチング技術を改める事で排気ノズルの固定化を図り、特許文献1の弱点を改善し、推力当りの燃料消費量を低減するサイクルを実現した。
【0010】
本サイクルを実現するためのメカニズムとは、
1)本エンジンではファン前面面積が等しい従来のターボファンに対し、如何程TITを下げるか、ファン回転数を如何程上げるかの設定を、空力設計点(離陸定格)のみで決めず、上空における部分負荷での運転も配慮して選択する。つまり部分負荷でも排気ノズル固定で運転できることを必須の条件とする。
2)それはHPTやLPTのチョーク点の設定においても同じで、上空で両タービンの何れかでも膨張比がチョーク点を超えてはならない。
【発明の効果】
【0011】
1)推力当りの燃料消費量を低減できる。即ちSFCを改善できる(表1参照)。
2)推力を落さずTITを下げることができるので、冷却空気量を減らせる。タービン寿命を延伸できる。製造コストを低減できる。
3)コアの排気ノズルを固定して上記1)2)を実現できる(特許文献1との相違点)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明ターボファン・エンジンの概念図である。
図2】FAN作動マップである。
図3】LPC作動マップである。
図4】HPC作動マップである。
図5】タービン流量特性曲線図。例1はHPT、例2はLPT(実線は本発明、点線は従来型エンジン)。
図6】従来型と本案のタービン膨張比の違いを示す図。
図7】HPTとLPTの空力的繋がりを示すタービン結合特性曲線図(例3は従来型、例4は特許文献1、例5は本発明の例)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明ターボファンエンジンの概念図を図1に示す。図においてFANはファン、LPCは低圧圧縮機、HPCは高圧圧縮機、COMBは燃焼器、HPTは高圧タービン、LPTは低圧タービン、WN(Wide Nozzle)は本案のコア排気ノズル(実線)であって、点線で示す従来型のノズルNN(Nomal Nozzle)より出口面積が大きい。特許文献1との違いは、コアの排気ノズルが固定である点であり、前述の効果を生むための空力設計点やチョーク点の設定方法、マッチング技術が違う点である。それらはマップを基に実施例で示す。図において数字はエンジン位置番号を表す。HPCの作動線を支配するのはコアの排気ノズルであり、下流に位置する排気ノズルWNの作動条件が上流のHPCに伝わるように、HPT、LPTともにその膨張比がチョーク値を超えてはならない。図1から本発明は従来のターボファンと機構上は何ら変わりなく見えるが、本発明は推力を落さずTITを下げると云う技術思想がまったく異なるのである。TITを下げれば必ず推力(出力)が落ちる。それがガスタービンの常識であった。
【0014】
離陸定格においてTITが低い本発明ターボファンのサイクル特性及びその効果を説明するには、エンジン前面面積が等しい従来のターボファンと本発明を比較してその違いを示す方法が分かり易い。よってこの作動説明では、ファン前面面積が等しく、FAN、LPC、HPCの幾何形状が同じ二つのエンジン、即ち通常の従来型ターボファンと本発明の離陸定格における性能を計算し、その作動の違いを比較して示す。
【0015】
図2、3、4にFAN、LPC、HPCの作動マップを示す。これらのマップは非特許文献1に掲載されているマップから、回転数に対する流量特性を、流量に対して放物線近似する方法で再現し、その作動線上に計算した各作動点をプロットしたものである。図5はタービン流量特性曲線を後記する数1を用いて描いた図である。図5の例1は、高圧タービンHPTの特性曲線図、例2は低圧タービンLPTの特性曲線図である。図において実線は本発明、点線は従来型の流量特性曲線である。また特性曲線端の黒点がそれぞれのタービンチョーク点である。図から明らかなようにここで比較する従来型と本エンジンはFAN、LPC、HPCは同一のハードウエアだが、タービンは異なるハードウエアである。特許文献1は部分負荷でLPT膨張比がチョーク点より大きくなっているが、本発明では排気ノズルを固定するためLPT膨張比をチョーク点より大きくしてはいけない。尚、航技研報告347号は工学単位系で書かれており、この明細書もそれに準じた。
【実施例0016】
先ずエンジン基本諸元の設定値を示し、計算方法を説明する。また計算に基づき本発明と従来型の作動の違いを示す。図2~4において点Aは従来型エンジン及び本エンジンの空力設計点(ADP;Aerodynamic Design Point)であり、ファン相対修正回転数Nfc=1である。従来型の離陸定格における作動点はA点であり、A点での従来型のTITは1820K(1547℃)、ファン流量は9kg/s、コア流量は1kg/s、BPRは8である。この計算では中小型機を対象に1820KをTITの上限温度とする。
【0017】
点TS(Top speed)は、ファンの相対修正回転数を従来型と同じ作動線上のNfc=1.03まで高めた作動点で、本エンジンの離陸定格での作動点である。本案のTSにおけるTITは1690K(1417℃)で点Aでの従来型より130度TITが低い。従来型エンジンの点Aにおける推力と本エンジンの点TSにおける推力は、表1に示す如くほぼ同じとなる。従来型と本エンジンのこの試算におけるノズル面積比は約1対1.235である。
【0018】
本エンジンはノズル面積A7を通常の従来型エンジンより広く設定するので、HPT、LPTがチョークしていなければHPC下流の抵抗が減り、図4に示すようにHPC作動線がチョーク側に移動し作動点TSの流量が増して圧力比HPRが低下する。ここでHPT、LPT、ノズルの何れもチョークさせる。つまりタービンの流量特性を示す図5の例1、2において従来型のチョーク点はA、本エンジンのチョーク点はTSである。タービンノズル面積はHPTもLPTも、HPCの作動線の移動を許容する最小面積とする。
【0019】
これに対し特許文献1はFAN、LPC、HPCの空力設計点は何れもTSであり、可変ノズルの面積をもっと広げてTSでのFAN相対修正回転数を1.05まで上げいる。この違いは「排気ノズルを固定にする(可変機構を無くす)」「部分負荷でLPT膨張比が過大になることを防ぐ」。この2点を新たに制約条件とすることにより生じた。
【0020】
次に離陸定格における計算方法を説明する、ファン相対修正回転数を1から1.03に高めると、LPCはファンと同軸であるから機械回転数は同じで入口温度はファンより高いので、相対修正回転数は97.8%と低くなる。LPCマップ上で97.8%の等回転数曲線を描きその曲線と作動線の交点が本案のLPC作動点TSである。LPC出口条件から得られるHPC入口の相対修正流量1.02をHPCマップ図4に縦の点線で示す。
【0021】
この点線とHPC作動線の交点は、従来型のターボファンでファン相対修正回転数をNfc=1から1.03に高めたときのHPC作動点で、HPC圧力比はHPR=8.94、TIT=1983.5KとなってTITは許容温度を超え限界超過、運転不可となる。
【0022】
航空宇宙技術研究所報告347号(非特許文献1)ではタービンガス流量を膨張比の関数として、数1の楕円式で近似している。数1においてiは入口、eは出口である。i=4、e=5とすれば数1の左辺はHPT入口修正流量を表す。次にTITを1690Kに指定した燃焼器出口修正流量を数2に示す。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
ここでεは燃焼器全圧損失係数である。計算の初めの段階ではHPTがチョークすることを避けるため、数1の修正流量と膨張比のチョーク値を大きめに仮定した上で、数2の右辺第2項、分母のHPR=P03/P02をいろいろ変えて計算し、左辺の燃焼器出口修正流量と数1の左辺のHPT入口修正流量を一致させれば、図4に示す点TSのHPRの値を知ることが出来る。このHPRの値は、排気ノズルの作動条件が上流のHPCに伝わっている状態である。
【0026】
つまりHPC下流の絞りを開いてHPC作動線を大流量側に移動し、その作動線とLPC出口条件から導いたHPC相対修正流量(縦の点線)の交点の値がHPRとなる。よってコア流量Ghcが増し、HPC出口圧P03が過昇にならないマッチング点を見い出せる。数1と数2の左辺が等しくなった時点で数1の修正流量と膨張比のチョーク値を計算で得られた値とすれば本発明のHPTは図5例1の点TSでチョークすることになる。
【0027】
次に数1のエンジン位置番号をLPT入口、出口の位置番号5、6に替えて計算し、HPT出口修正流量とLPT入口修正流量を合致させれば、LPTの特性を知ることが出来る。ここでもLPTの入口修正流量及び膨張比のチョーク値は排気ノズルの動作条件が上流に伝わることを妨げない値とし計算後チョーク値を計算値に一致させる。つまりLPTも点TSでチョークさせる。よってHPT、LPT共にそのチョーク値は、上述のHPCの作動を許容する最小面積となる。流量と仕事の釣合の計算方法は既知なので省略する。
【0028】
次に図5に示したタービン膨張比がどのようにして得られるか説明する。推力を維持したままコアの排気ジェット速度を下げるにはエンジン流量を増す必要がある。エンジン流量を増すにはタービン膨張比を増して低圧タービン・ファン系の仕事を増せばよい。
【0029】
本発明ではタービン膨張比の増加を二つの方法により実現する。
1)コアエンジンの排気ノズル面積を広く設定しエンジン背圧を下げる。しかしこれだけでは十分な膨張比は得られない。
2)もう一つの方法は、タービン入口温度を下げることである。
上記1)2)について詳しく説明する。コアエンジンの排気ノズル面積を大きく設定するとLPT膨張比が増す。コアエンジンの排気ノズルはチョークしているので出口の流れは、静圧を用いた流れ関数より
【0030】
【数3】
【0031】
ここで添字7はコアエンジンのノズル出口を表す。数3の右辺は一定である。設計点でノズル面積A7を広く取るとノズル流量m7(G7/g)が増加するが、コア流量は上流のLPCにより制約を受ける。従って数3からSqrt(T07)/P7も大きくなるがT07=T06で、全温度T07はノズルで変化しないのでP7が小さくなりエンジン排圧が下がる。ノズル入口全圧P06(LPT出口全圧)は数4で表される。
【0032】
【数4】
【0033】
ノズルはチョークしているので数4の右辺は一定、よってP7が低下すればノズル入口全圧P06(LPT出口全圧)も低下する。このサイクルは離陸定格で圧縮機側の全圧力比はほとんど低下しないので、P06が低下するとLPT膨張比が増加しファン回転数が上昇、エンジン流量Gaが増す。もう一つタービンの膨張比を大きくする上で強力な方法はTITを下げることである。タービンの仕事Wは数5で表される。
【0034】
【数5】
【0035】
ここで添字iは入口、eは出口である。数5からLPT入口温度T05を下げると、LPTの仕事Wは減少する。これが常識的なT05とWの関係である。ここで排気ノズルA7を開いて数3、数4よりP0e(P06)を下げたとき、同時にLPT入口温度T0i(T05)を下げた場合と下げない場合どのような違いが生じるかを考える。
【0036】
数5でLPT入口温度T05が高いと所要のタービン仕事Wを得るのにLPT膨張比はさほど大きくなる必要はなくA7面積の拡大も僅かになる。一方LPT入口温度T05を下げると数5から、ファン側の要求に見合う所要のWを得るには大きなP05/P06が必要となりA7面積が大きくなる。従ってT05を下げ、即ちTITを下げ、同時にA7を広く取ると、先ほど述べたタービン仕事の常識とは異なる現象が生じ、大きなタービン膨張比を得ることができる。
【0037】
図6にコアエンジンの排気ノズル面積A7とTITを変化させた場合のHPT、LPTの膨張比の変化と排圧P7の大気圧への近付き方を示す。ここでA軸はこのサイクル計算の基準となる通常のターボファンで、相対修正回転数Nfc=1、TIT=1820K、B案は本案でNfcを1から1.03に高めTITを1650Kに下げた場合、C軸も本案でNfcを1.04に上げTITを=1650Kまで下げた場合である。従来型Aのノズル面積で割ったB、Cそれぞれのノズル面積比はBが1.235、Cが1.333である。図6から推力を落さずタービン膨張比を高めるには、A7を広げることとTITを下げることの両方を併せ行う必要があることが分かる。
【0038】
これが本発明の着眼点であり進歩性である。今迄TITを下げ、コア排気ノズル面積を広げることを併せて行うと、図6のように大きなLPT膨張比を生み出せるとは誰も気付かなかった。ましてやコアエンジンの排気ノズル面積A7固定でTITを下げ、正面面積当りの空気流量を増やし、推力当りの燃料消費量を減少させる発想を持った者は誰もいなかった。つまり本案の技術思想は、専門家なら誰でも容易に考えられることではない。
【0039】
エンジン性能向上のための方法に対する今迄の常識的な考え方と本発明の考え方(着眼点)の違いが本発明の進歩性を生み出した。ガスタービンの性能指標に比出力(比推力)と熱効率がある。比推力を大きくするためには最高温度を上げ、熱効率を高めるには圧力比を高める。ところが本発明では圧力比ほぼ一定でTITを下げている。
【0040】
またターボファンでは推進効率を向上させるためにBPRを高めるが、本発明ではBPRは寧ろ下がり推進効率の向上はない。では何故、推力当りの燃料消費量を減らせるのか。それはTITを下げることとエンジン背圧を下げることが同時に行われると、図6に示したようにタービン膨張比が非常に大きくなり、TITを下げたにも拘らず低圧軸系の仕事が増えて、正面面積当りの流量を増すことができるからである。
【0041】
それなら従来型でもT04=1820Kのままで、排気ノズル面積を広げてファン回転数をNfc=1.03に上げれば一層性能アップできそうだが、TIT一定ではタービン膨張比がP04/P06=6.734となり本案のP04/P06=7.922より小さく、大きな膨張比を得られない。するとコアの排気速度に対するバイパス側の排気速度の比がVF/VT=0.372となり本案のVF/VT=0.393より小さくなる。よってSFCが高くなる。本発明の進歩性とは、この点に着目し新しいサイクルを創造したことである。以上述べてきたマッチング計算から、本発明はコア排気ノズルを広くし背圧を下げることで燃料流量を増さずにファン流量を増し、TITを下げてLPT膨張比をより一層大きくして、正面面積当りの流量を増すことが出来るのである。
【0042】
次にこのように大きな膨張比をもつHPTとLPTの結合特性について図7に基づき説明する。図7の例3は通常の2軸直列フリータービンの結合特性であり、例4は特許文献1の巡航時における結合特性、例5は本願のものである。図7例3のコアノズル固定の従来型ターボファンは、設計点では両タービン間の関係は実線で示されるように結ばれるが、部分負荷時に全膨張比が減ると点線のようになりHPTでは膨張比減少が少なく、LPTで大きく減少する。即ちTITを下げるとHPTの仕事とLPTの仕事の比は大きくなりLPTの出力は急激に減少する(非特許文献2、26頁より)。
【0043】
例4はコアの排気ノズル面積を可変にして大きく広げ、離陸定格でTITを2000Kから1773Kに227度下げる特許文献1の巡航時(高度10km、マッハ=0.9)のタービン空力結合特性である。図示するように特許文献1は部分負荷でLPT膨張比がチョーク値を超え計算上部分負荷の燃費が非常に良くなる。しかし例4の図から明らかなようにこのサイクルは部分負荷のLPT出口修正流量が離陸定格よりはるかに大きくなってしまう。よってコアの排気ノズルを固定ノズルとすれば離陸定格の推力を最大にすることが出来ない。例4のノズルを固定化するためサイクルを変更し実現性を高めたのが本発明であり、例5に示す如く部分負荷でLPT膨張比が設計点の値を超えないよう、二つのタービンの結合特性を定めサイクル設計している。離陸定格のサイクル計算の結果を表1に示す。
【0044】
表1においてGaはファン入口空気流量、GhcはHPC流量、Gfは燃料流量、全圧比は全圧力比のこと、Fnは正味推力のことである。A7はコアの排気ノズル面積を従来型のそれで割った比である。表1のAは従来型ターボファン、Bは本発明のファン相対修正回転数Nfc=1.03、TIT=1690Kの計算値、Cは本発明でNfcを1.04に高め、TITを1650Kに下げた場合である。二つの本発明の内Cの方がBよりSFCが低いが上空におけるLPT膨張比の増大が限界になる。表1から本発明は従来型より推力当りの燃料消費量(Gf/Fn)が低くなるが、A7を広げ、TITを下げることによってタービン膨張比を増して得られた効果であることがこの表より分かる。
【0045】
【表1】
【0046】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は環境対策としてSFCの低減によってCO2の排出量を削減し、燃焼ガス温度を下げることによってNOx排出量を低減する。その上経済性向上策として、推力を落さずタービン入口温度を下げ、タービン寿命の延伸を図りライフサイクル・コストを節減して、環境と経済の両立を図ることが出来る。また将来的には水素燃焼の弱点であるNOxの生成を抑え水素燃料ターボファンエンジンの実現に寄与できる。高温高圧化を至上命題としてきたターボファンに、このサイクルは、低い温度で性能を高める新しい世界をもたらすであろう。
【符号の説明】
【0048】
A Nfc=1の作動点、または面積
ADP 空力設計点 BPR バイパス比
COMB 燃焼器 Cpt タービン部定圧比熱
FAN ファン f 燃料空気混合比
G 実流量 HPC 高圧圧縮機
HPT 高圧タービン LPC 低圧圧縮機
LPT 低圧タービン M マッハ数
N 回転数 Nfc ファン相対修正回転数
Nhc HPC相対修正回転数 Nlc LPC相対修正回転数
Sqrt() 自乗根 TS 最高速回転域(トップスピード)
(G√θi/δi)/(G√θi/δi)des 相対修正流量
δ P/Ps ε 全圧損失係数 θ T/Ts
数字
a. 大気 1.ファン入口
22.ファン出口 2.LPC出口
3.HPC出口(燃焼器入口) 4.燃焼器出口(HPT入口)
5.LPT入口 6.LPT出口
7.コアノズル出口 8.バイパスノズル出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7