(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009607
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】マイクロ波調理用加工食品
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20250109BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20250109BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23L5/10 C
A23D7/00 510
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023121134
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】520088269
【氏名又は名称】株式会社海心
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 忠広
【テーマコード(参考)】
4B026
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC02
4B026DG05
4B026DG06
4B026DG08
4B026DG09
4B026DG10
4B026DL07
4B026DP03
4B026DP04
4B026DP06
4B026DP10
4B026DX03
4B035LC12
4B035LE11
4B035LE16
4B035LG12
4B035LG42
4B035LK01
4B035LP12
4B035LP16
4B035LP25
4B035LP43
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4B035LP55
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD08
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG12
4B042AG16
4B042AG27
4B042AG34
4B042AG68
4B042AH01
4B042AK06
4B042AK10
4B042AK17
4B042AP10
4B042AP18
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】マイクロ波調理器を用いて、所定の出力と時間を設定して加熱調理した場合であっても、食品の外側から加熱調理して得た、焼き魚のような外観と食感を得ることができる、マイクロ波調理用加工食品の提供を目的とする。
【解決手段】魚介類と調味液とを、真空パックしてなる加工食品であって、調味液は調味液全体の油脂の量を、重量比で20%以上95%以下とし、水分量を、重量比で0%より多く10%以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類と調味液を、真空パックしてなる加工食品であって、前記調味液は調味液全体の油脂の量を、重量比で20%以上95%以下とし、前記調味液全体の水分量を重量比で、0%より多く、10%以下とすることを特徴とする、マイクロ波調理用加工食品。
【請求項2】
前記魚介類に対する前記調味液の添加量を、重量比で3%以上20%以下とすることを特徴とする、請求項1記載のマイクロ波調理用加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波調理用加工食品であって、冷蔵または冷凍状態で流通や保存が可能であり、電子レンジを用いて調理する加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
加工食品として、業務用、家庭用を問わず、マイクロ波調理器、いわゆる電子レンジを用いて手軽に調理できる加工食品の需要が増している。
【0003】
特許文献1には、魚介類を未処理の状態から電子レンジで加熱調理した際に、直火で魚を焼いた状態と同様な好ましい焼き色と適度に水分が蒸発して素材のうま味が濃縮された良好な香味および食感を得ることを目的として、魚介類材料に味付けした後、魚介類材料の表面を糖を含有する溶液で濡らす処理工程と、これを乾燥する工程と、油脂を魚介類材料の表面に塗布する工程を含む加工食品製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、特許文献1と同様の目的を達成するために、加工対象魚の皮目と身側に切れ目を入れる工程と、対象魚の表面に調味液を塗布する工程と、対象魚を専用トレーに乗せて加熱する焼き魚の調理方法と、小麦タンパク質加水分解物、酒、水あめ、食塩、甘味料、増粘剤、酸味料および酒糟を含む調味液と、底面から突出したリブを備えた専用トレーが記載されている。
【0005】
特許文献3には、未加熱食材の水分率を50~65%に調整し、その周囲に食用油と醤油と穀物粉からなるペースト状の焼き目発生材を塗布し、電子レンジ加熱後に焼いたような焦げ目が施される電子レンジ加熱調理用食品が記載されている。実施例によれば、焼き目発生材は油分50質量%から70質量%、醤油27質量%から46質量%、残部は穀物粉からなり、醤油の配合量から少なくとも20質量%以上の水分を含む焼き目発生材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012―161286号公報
【特許文献2】特開2014―50348号公報
【特許文献3】特開2006―25773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子レンジに代表されるマイクロ波調理器は、マイクロ波の照射により食品に含まれる水分子をマイクロ波で振動させることで加熱することから、手軽に加熱調理できる反面、食品の内部から急速に温度が上昇し、食品全体への均一な加熱温度の調整が難しいとされている。その結果、水分が過度に蒸発し食品に、ぱさつきが生じる、逆に食品中に水分が多く残るという問題がある。
【0008】
本発明は、上述したマイクロ波調理器を用いて、所定の出力と時間を設定して加熱調理した場合に、食品の外側から加熱調理して得た、焼き魚のような外観と食感を得ることができる、マイクロ波調理用加工食品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、魚介類と調味液とを、真空パックしてなる加工食品であって、前記調味液は調味液全体の油脂の量を、重量比で20%以上95%以下とし、調味液全体の水分量を重量比で、0%より多く、10%以下とすることを特徴とする、マイクロ波調理用加工食品が得られる。
【0010】
本発明によれば、前記魚介類に対する前記調味液の添加量を、重量比で3%以上20%以下とすることを特徴とする前記マイクロ波調理用加工食品が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマイクロ波調理用加工食品は、調味液に重量比20%以上95%以下の油脂、好ましくは植物油脂を含有させることにより、調理対象となる魚介類を均一かつ高温に保持することができることから、焼き魚の外観を呈させることができる。
【0012】
調味液に例えば粉末醤油を用いる等により、油脂以外の添加材料は水分量が極めて少ない材料とし、調味液の水分量を重量比で10%以下に制御することにより、糖の塗布や穀物紛のような焼き目発生材を用いることなく、焼き魚の外観および食感や香味を得ることができる。
【0013】
さらに、調理対象となる魚介類に対して重量比で3%以上20%以下の調味液量を添加し、真空パックすることで、調理後の魚介類に含まれる油脂量を適切に調整し、焼き魚の食感や香味を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】オオメマトウダイの破断解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、生の魚介類と油脂を多く含み、水分量が少ない調味液を所定の分量添加し、真空パックしてなる、冷蔵または冷凍保存可能な加工食品である。
【0016】
本発明に使用する魚介類は、加熱加工していない、いわゆる生の魚介類であり、特に皮目を有する魚類の切り身が加工に適している。さらに、魚種としては例えば、いわゆるメヌケ(赤魚(アラスカメヌケ)、白身魚(キタノメヌケ)、アコウダイなど)、鯛の仲間(オオメマトウダイ、ツボ鯛など)、サバの仲間(マサバ、ゴマサバなど)、サケの仲間(銀ザケ、白鮭(秋鮭)など)、銀タラ、真鱈、ブリなどが特に好ましいが、上記以外の魚種でもよい。また、身質がしっかりした、いわゆる筋肉質な魚類であればより好ましい。さらに、イカ類、タコ類、エビ類、貝類等であってもよい。
【0017】
本発明は、調味液全体の油脂の量を、重量比で20%以上95%以下とし、水分量を重量比で、0%より多く、10%以下とすることを特徴としているが、油脂の量を多くすることで、電子レンジによる加熱時に食品の温度を高温に保ち、皮目に焼き魚のような焦げ目等の外観を生じさせることができるとともに、調味液に含まれる水分量を従来品よりも極めて少なくすることで、主に魚介類に含まれている水分で魚介類が蒸されることにより、ぱさつきやべたつきのない、焼き魚に類似した食感を得ることができると考えられる。
【0018】
電子レンジによる加熱は、2.4GHzの電磁波の照射により食品に含まれる水分子をマイクロ波で振動させる、つまり水の誘電体損失を利用するものである。水は周知のように1000ヘクトパスカルの気圧下では、100℃で沸騰するが、硫酸カルシウムなどの無機化合物の結晶格子を構成する結晶水は、無機化合物との相互作用により、100℃以上の温度でも遊離しない。同様に食用油の極性基と水は、水素結合などの相互作用により、100℃以上の温度でも遊離せず、魚介類に焦げ目が生じる温度まで昇温する。すなわち、調味液中に所定の量の油脂を含有させることで、魚介類に焦げ目や香味を生じさせると考えられる。一方で、魚介類の内部には一定量の水分があり、真空パック加工品の電子レンジ調理において、焼き魚のような食感を生じさせるには、この水分量で充分であり、液体調味料等に含まれる水分を必要以上に添加すると、ぱさつきやべたつきといった、いわゆる水っぽさを呈することが、種々の実験結果より判明した。
【0019】
以上の考察により、調味液全体の油脂の量は、使用する魚介類種にもよるが、香味や焼き魚食感をより重視する場合は、重量比で40%以上80%以下がより好ましい。
また、上記油脂は一般的に入手できる油脂であればいずれでもよいが、植物性のものが好ましく、例えば、サラダ油、オリーブ油、コーン油、サフラワー油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、グレープシード油、米(糠)油等がより好ましい。なお、これら油脂は単一でも複数を選択・混合したものでもよい。
なお、風味付けのために、調味液全体の重量比で1%未満程度の香味食用油やバター、マーガリン等の動物性油脂を上記油脂の他に添加する場合があるが、上記油脂には含まない。
【0020】
調味液には、風味付けのために粉末醤油、砂糖、塩、各種香料、香辛料、アミノ酸、色素、乳化剤等を添加してもよい。なお、以下に述べる理由により、これらの添加物は水分量の少ないものを選択するのがより好ましい。
【0021】
本発明は、油脂の量を従来品よりも多くすることに加えて、水分量を重量比で10%以下、好ましくは5%以下に制御すること、調理対象となる魚介類に対して重量比で3%以上20%以下の調味液量を添加し、真空パックすることを特徴としている。
前述のように、本発明者は、焼き魚のような外観や食感を生じさせるためには、油脂の量と水分量が重要であると推測した。これに基づき、実験を繰り返した結果、調味液の配合のみならず、対象となる魚介類の重量に対する調味液の添加量、すなわち、対象となる魚介類の重量に対して添加する油脂量と水分量の調整が、電子レンジ調理における、焼き魚のような外観と食感の獲得に大きく寄与するという知見を得た。
なお、調味液の添加量は、使用する魚介類種にもよるが、香味や焼き魚食感をより重視する場合は、重量比で5%以上15%以下がより好ましい。
【0022】
また、本発明は、魚介類と所定の配合の調味液を混合、浸漬等した後、真空パックすることで、魚介類の内部まで、調味液を浸透させることにより、上記効果をより、発現させることができる。
【0023】
魚介類に調味液を適切に浸透させるためには、種々の実験の結果、調味液は、20℃における粘性係数が20mPa・s以上1000mPa・s以下であることが好ましく、20℃における粘性係数が30mPa・s以上200mPa・s以下であることがより好ましい。
【0024】
魚介類に調味液を適切に浸透させるためには、調味液の表面張力が低いことも寄与する。本発明の調味液を構成する成分の中で、20℃における表面張力は、水が約73mN/mと最も高く、これに対し、油脂成分は、いずれも30~35mN/mと水よりも低い数値となっている。本発明において、調味液の水分量を重量比で、10%以下に調整していることが、調味液の魚介類への浸透性向上にも寄与していると考えられる。
また、調味料として添加するアミノ酸と食塩との付加体が、乳化剤として機能し、表面張力を低下させ、浸透性向上に寄与しているとも考えられる。
種々の実験の結果、調味液の表面張力は、0mN/mより大きく、50mN/m以下であることが好ましい。
【0025】
真空パックに用いる包装容器は、耐熱性や耐圧性を有するものであって、食品等の包装・真空パック用として提供・販売されている一般的な材料からなるものであれば、いずれでもよく、真空装置も食品等の加工用として提供・販売されている装置であればいずれも用いることができる。
なお、蒸気抜き機構や減圧機構を備えた真空パック包装容器を用いるのがより好ましい。
【0026】
電子レンジの出力と加熱時間は、魚介類や調味液の分量によって調整する必要があるが、魚介類が100gであれば、概ね出力500wで4分から5分の加熱時間とすることが好ましい。
【実施例0027】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
皮目付きの白身魚(キタノメヌケ)切り身100gと、油脂の含有量が異なる調味液10gを各々真空パックした加工物を用意し、各々を電子レンジ(500w)で5分間加熱し、パックから取り出した後、その外観と食感を比較した。その結果を表1に示す。
なお、調味液は、食塩、調味料(アミノ酸)、乳化剤、色素、粉末しょうゆ、香辛料からなり、調味液の水分量は重量比で5%のものを用いた。
表1に示したとおり、油脂の含有量が、20%より少ない場合は皮目の焦げ目が薄く、食感はべたつきが感じられ、生臭さが残り、焼き魚とは異なるとの評価が過半数を占めた。また、95%よりも多い場合は、焦げ目が付きすぎ、食感は、ぱさつきが感じられ、香味も焦げ臭さを感じるとの評価が過半数を占めた。なお、油脂の含有量が40%以上80%以下において、外観、食感および香味の総合評価がいずれも良かった。
油脂の含有量が40%以上80%以下における、調味液の20℃における粘性係数は、Anton Paar社製レオメーター(MCR302)を用いて測定した結果、30mPa・s以上200mPa・s以下であった。
なお、赤魚、オオメマトウダイ、マサバ、銀ザケ、銀タラ、メヌケ(アコウダイ)、ブリ、アカイカを用いてグリル調理品と比較したところ、同様の評価結果を得た。