(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025096160
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 19/06 20060101AFI20250619BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
B21B19/06 Z
B21B37/00 271
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024193635
(22)【出願日】2024-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2023210829
(32)【優先日】2023-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA15
4E124CC01
4E124DD09
4E124EE22
4E124GG10
(57)【要約】
【課題】傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および金属管の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の傾斜圧延設備は、パスラインを中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロールを備え、2個以上の圧延ロールの傾斜角を制御する制御手段を有し、制御手段は式(1)を満たすように2個以上の圧延ロールの傾斜角を設定する。
0.009×(t/D)
(-1.8)≦FA≦3.2+0.022×(t/D)
(-2.2) …(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パスラインを中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロールを備える傾斜圧延設備であって、
前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、式(1)を満たすように前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を設定する、傾斜圧延設備。
0.009×(t/D)(-1.8)≦FA≦3.2+0.022×(t/D)(-2.2) …(1)
ここで、式(1)に示す、
t:予め設定された圧延開始前の素管の肉厚[mm]、
D:予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径[mm]、
FA:圧延ロールの傾斜角[°]、である。
【請求項2】
前記制御手段は、さらに、
圧延時における、前記圧延ロールと被圧延管の管表面との接触範囲の大きさをCAとするとき、式(3)で表されるCAの値が式(4)を満たすように前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を設定する、請求項1に記載の傾斜圧延設備。
CA=((t/D)(-1.8))/FA …(3)
CA≦50 …(4)
ここで、各式に示す、
CA:前記接触範囲の大きさを表すパラメータ[-]、
t:予め設定された圧延開始前の素管の肉厚[mm]、
D:予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径[mm]、
FA:圧延ロールの傾斜角[°]、である。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の傾斜圧延設備を用いた傾斜圧延方法であって、
素管を、管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら圧延するに際し、前記制御手段により、前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を制御する、傾斜圧延方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の傾斜圧延設備を用いて金属管を製造する金属管の製造方法であって、
素管を管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら、前記2個以上の圧延ロールのロールギャップに当該素管を通過させて圧延を施すことで金属管とする圧延工程を有し、
前記圧延工程では、前記制御手段により前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を制御し、当該傾斜角で素管に圧延を施す、金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管を圧延する傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シームレス金属管製品を使用する分野において、特に優れた耐食性と高強度が求められる分野では、耐食性能を向上させるために、Cr、Mo、Ni等の耐食性向上元素を多く添加した2相ステンレス鋼(具体的にはJIS G3459 SUS 329J1、329J3L、329J4L相当)やオーステナイト系ステンレス鋼(具体的にはJIS G3459 SUS 301、302、304、305、309、310、312、315、316、317、836、890、321、347相当)のシームレス鋼管ならびにNi基合金(具体的にはJIS H4552 NW4400、NW6007、NW0276、NW6022、NW6002相当)のシームレス管が使用されている。
【0003】
これらの鋼種および合金は、優れた耐食性能を発揮させるために添加される合金元素を多量に含有する。そのため、組織としては、オーステナイト相単相またはオーステナイト相を多く含む多相組織となる。結晶構造が面心立方格子(fcc)構造であるオーステナイト相は、低温~常温程度の使用環境では、結晶構造が体心立方格子(bcc)構造であるフェライト相やマルテンサイト相に比べて、降伏強度が低い場合が多い。そのため、オーステナイト相が含まれる材料で、更に高い降伏強度が求められる場合には、当該材料に冷間で加工を付加し、加工による転位強化を利用して高降伏強度化を図っている。
【0004】
例えば、油井管などに使われる高強度高耐食性鋼管では、冷間引抜加工や冷間ピルガー加工といった冷間加工が多用されており、降伏強さが125ksi以上である高強度鋼管が実用化されている(非特許文献1を参照)。
【0005】
非特許文献1に記載の冷間引抜加工法は、鋼管長手方向の強度向上に加え、鋼管の長手方向における肉厚分布の均一化にも有効な手法である。しかしながら、引抜加工前に、鋼管の軟化熱処理や、酸洗、潤滑被膜付与のための化成処理や、引抜時のつかみ部を作るための管端加工などの多くのプロセスが必要となる。また、引抜加工に必要な圧力の制限や工具への焼付き防止の観点から、減肉率が20%程度しか得られない。さらに、1回の引抜加工で減肉量が足りない場合は、再度前述の軟化熱処理からの一連のプロセスを繰り返す必要がある。また、引抜加工後の鋼管の形状は引抜に使用される工具寸法により一義的に決定されるため、サイズ変更の際には工具の交換が必要となり、少量多品種の製造には不向きである。さらに、引抜加工を実施する際に必要なプロセスが多いため、設備投資やエネルギー消費量も多大になるという問題がある。
【0006】
一方の冷間ピルガー加工は、鋼管の予備処理が不要で、かつ高い減肉率が得られる。しかしながら、1パスでの送り量が数十mmと小さく、生産能率が悪い。また、圧延ロールの形状が複雑であり、工具製造負荷(具体的には、圧延ロールを製造するための作業負荷や経済的負荷)が大きい。
【0007】
これらの問題を解決する技術として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1に記載の技術では、回転軸が金属管の圧延パス方向センターライン(以下、「パスライン」と称する場合もある)に対して傾斜して配置した2個以上の圧延ロールを有する傾斜圧延機のロールギャップに、金属管を通過させて圧延する冷間圧延方法を提案している。これにより、加工前の被圧延管に対し表面被膜付与や、管端の加工などの予備処理を必要とせず、かつ高い加工能率で冷間加工による金属管の強度向上が可能になり、環境保護や、産業上において良好な効果を得られるとしている。また、内面を自由変形とすることで工具に生ずる面圧が過大になることを防ぎ、冷間引抜で発生する焼き付きのような表面疵の発生もなく所望の加工歪みを付加できるため、多品種少量生産にも好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本鉄鋼協会、「鋼管の製造技術の現状と将来」、社団法人 日本鉄鋼協会出版、昭和61年5月6日、p.115-145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、特許文献1に記載の冷間圧延方法には種々の利点がある。しかしながら、特許文献1で用いられる傾斜圧延機は、圧延の際に、圧延ロールからの圧延荷重によって管周方向に大きな応力が付与され、管材に過大な変形が加わる恐れがある。それゆえに、特許文献1では、圧延後の金属管の断面形状をより真円に近づけること、すなわち金属管の真円度を向上させる技術としては、まだ十分とは言えない。
【0011】
また、圧延後の金属管の真円度を向上する技術の提供は、冷間圧延だけでなく、熱間圧延や温間圧延などでも求められている。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、圧延後の金属管の断面形状をより真円に近づけることが可能な傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および金属管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、金属管の真円度を向上させる傾斜圧延方法および金属管の製造方法について鋭意検討を行うとともに、この方法を実現可能にする傾斜圧延設備についても鋭意検討を行った。その結果、圧延時における、圧延ロールと被圧延管との接触領域を適切に管理することで、圧延後の金属管の断面形状をより真円に近づける方法があることが分かった。また、これに加えて、素管および被圧延管が管軸方向に進む進行度合いの管理もより有効であることも分かった。
【0014】
本発明者らは更なる検討により、以下の要旨からなる発明を完成した。
[1] パスラインを中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロールを備える傾斜圧延設備であって、
前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、式(1)を満たすように前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を設定する、傾斜圧延設備。
0.009×(t/D)(-1.8)≦FA≦3.2+0.022×(t/D)(-2.2) …(1)
ここで、式(1)に示す、
t:予め設定された圧延開始前の素管の肉厚[mm]、
D:予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径[mm]、
FA:圧延ロールの傾斜角[°]、である。
[2] 前記制御手段は、さらに、
圧延時における、前記圧延ロールと被圧延管の管表面との接触範囲の大きさをCAとするとき、式(3)で表されるCAの値が式(4)を満たすように前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を設定する、[1]に記載の傾斜圧延設備。
CA=((t/D)(-1.8))/FA …(3)
CA≦50 …(4)
ここで、各式に示す、
CA:前記接触範囲の大きさを表すパラメータ[-]、
t:予め設定された圧延開始前の素管の肉厚[mm]、
D:予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径[mm]、
FA:圧延ロールの傾斜角[°]、である。
[3] [1]または[2]に記載の傾斜圧延設備を用いた傾斜圧延方法であって、
素管を、管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら圧延するに際し、前記制御手段により、前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を制御する、傾斜圧延方法。
[4] [1]または[2]に記載の傾斜圧延設備を用いて金属管を製造する金属管の製造方法であって、
素管を管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら、前記2個以上の圧延ロールのロールギャップに当該素管を通過させて圧延を施すことで金属管とする圧延工程を有し、
前記圧延工程では、前記制御手段により前記2個以上の圧延ロールの傾斜角を制御し、当該傾斜角で素管に圧延を施す、金属管の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧延後の金属管の断面形状をより真円に近づけることが可能となるため、金属管の真円度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の傾斜圧延設備の一実施形態を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す傾斜圧延設備を側面視した模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す傾斜圧延設備を上面視した模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の傾斜圧延設備を用いた傾斜圧延方法の一例を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の圧延ロールの傾斜角と圧延前の素管寸法と真円度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、圧延後の金属管の断面形状の一例を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、本発明における圧延ロールと管表面との接触範囲CAを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
各図を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な一実施形態を示すものであり、本発明はこの実施形態に限定されない。
【0018】
〔傾斜圧延設備〕
図1~4を参照して、本発明の傾斜圧延設備について説明する。
【0019】
図1は、本発明の傾斜圧延設備の一実施形態を示す図であり、傾斜圧延設備を圧延出側から正面視したものである。なお、
図1には、一例として、2個の圧延ロールを有する傾斜圧延設備(すなわち、2ロール型の傾斜圧延設備)によって被圧延管に圧延を施している状態を示している。
図2は、
図1に示す傾斜圧延設備と被圧延管を側面から視た模式図である。
図3は、
図1に示す傾斜圧延設備と被圧延管を上方から視た模式図である。
図4は、本発明の傾斜圧延設備を用いた傾斜圧延方法の一例を説明する図である。なお、理解しやすくするために、
図3では、2個の圧延ロール3のうち下側の圧延ロールの図示を省略し、また
図2~
図4では素管1および被圧延管2を断面図としている。
【0020】
本発明の傾斜圧延設備とは、金属管の製造プロセスで利用する圧延設備の一つである。以下には、「圧延設備」の一例として、被圧延管に冷間圧延を行うための冷間圧延設備について説明する。例えば、圧延ロールの回転軸が金属管の圧延パス方向センターライン(パスライン。すなわち管軸方向。)に対して傾斜して配置された2個以上の圧延ロールを有する傾斜圧延設備が挙げられる。また、「圧延」の一例として、冷間圧延を行う場合について説明するが、本発明は、冷間圧延だけでなく、熱間圧延や温間圧延を行う場合にも適用可能である。なお、本発明における「金属管」とは、継目無鋼管や、溶接鋼管や、鍛接鋼管や、UOE管を指すものとする。
【0021】
本発明の傾斜圧延設備10は、パスライン6を中心とした円周上に傾斜して配設された2個以上の圧延ロール3を備える設備である。この傾斜圧延設備10は、当該2個以上の圧延ロール3の傾斜角を制御する制御手段を有する。
図1等に示すように、圧延ロール3は、素管1および被圧延管2の管周方向に2個以上配設される。この傾斜圧延設備10のロールギャップに、当該傾斜圧延設備の入側(すなわち圧延入側)から素管1を供給する。そして、2個以上の圧延ロール3に当該素管1を挟圧させつつ、当該素管1を圧延方向に通過させることで、管材に傾斜圧延(以下、単に「圧延」と称する場合もある)を施し、所望の外径寸法に縮径された金属管とする。
【0022】
なお、
図1~
図4に示す、冷間圧延を行う2ロール型の傾斜圧延設備の例では、2個の圧延ロール3で素管1を挟圧させつつ圧延方向に通過させることとなる。この冷間圧延設備の例では、圧延終了後に得られる金属管は冷間圧延管となる。
【0023】
まず、圧延ロール3について説明する。
【0024】
図2および
図3には、圧延ロール3の交叉角γ、傾斜角FA、面角(具体的には入側面角Mおよび出側面角N)について説明する図を示す。
図2は、
図1に示すA-A線断面図であり、被圧延管2や圧延ロール3などを側面からみた図である。
図3は、
図2に示すB-B矢視図であり、被圧延管2や圧延ロール3などを上方からみた図である。
【0025】
図2および
図3等に示すように、圧延ロール3とは、傾斜圧延設備10に供給された素管1を圧延するロールである。圧延ロール3は圧延部3aを有し、この圧延部3aで素管に傾斜圧延を施す。圧延ロール3の形状は、例えば樽型ロールや、円錐型ロールが挙げられる。なお、
図1~4には、圧延ロール3として樽型ロールを用いた一例を示している。
【0026】
2個以上の圧延ロール3は、それらの回転軸7がパスライン6に対して傾斜角FAを設けて配置される。傾斜角FAとは、
図3に示すように圧延ロール3を上面視した場合に(すなわち、管軸方向に垂直な方向であって、素管1への圧延荷重のかかる方向に視た場合に)、管軸方向(パスライン6)の直線と、圧延ロール3の回転軸7とがなす角度(単位:°)を指す。
【0027】
このように、2個以上の圧延ロール3を傾斜した配置とすることにより、圧延ロール3の回転軸7を中心に回転する圧延ロール3が、圧延ロール3と素管1との接触によって生じる摩擦力を利用し、ロールギャップに供給された素管1を圧延方向(すなわち圧延パス方向)に引き込む。そのため、素管1は圧延ロール3によって回転を受けながららせん状に圧延される。すなわち、素管1は、管周方向に回転しつつ、管軸方向に進行しながら圧延される。このような圧延形態は、傾斜圧延設備の圧延ロール3のロールギャップを、素管1の外径より小さくし、かつ上述したように圧延ロール3のそれぞれを傾斜配置すれば実現可能である(
図1を参照)。後述するが、本発明は、この傾斜角FAを制御するものである。
【0028】
圧延ロール3は、傾斜角FAを設けることに加えて、圧延出側で交差角(交叉角)γを設けて配置してもよい。交叉角γとは、
図2に示すように圧延ロール3を側面視した場合に(すなわち、管軸方向に垂直な方向であって、且つ素管1への圧延荷重のかかる方向に垂直な方向で視た場合に)、パスライン6と圧延ロール3の回転軸7とがなす角度(単位:°)を指す。交叉角γは特に規定しない。管軸方向におけるロール周速の変化を小さくし、素管の進行を安定化させることで、断面形状すなわち真円度の悪化を防止する観点からは、交叉角γを0~45.0°の範囲に設定することが好ましい。なお、真円度については、後述するため、ここでの説明は省略する。
【0029】
図1等に示すように一対の圧延ロール3を有する傾斜圧延設備の場合、各圧延ロールは、管軸方向(パスライン6)に対して傾斜角FAおよび交叉角γが形成される方向を互いに反対の方向としてよい。図示は省略するが、圧延ロール3を3個以上有する場合であっても、同様に、圧延ロール毎に傾斜角FAおよび交叉角γが形成される方向を変えてよい。
【0030】
本発明では、圧延ロール3に面角を設定してもよい。一例として
図2を参照し、樽型ロールにおける面角(入側面角Mおよび出側面角N)について説明する。
【0031】
圧延ロール3の入側面角Mとは、
図2に示すように圧延ロール3を側面視した場合に、管の圧延方向に対して圧延入側となる圧延ロール3の側面(すなわち、圧延入側に向けて漸次断面形状が小さくなる圧延ロール3のテーパ側面)と管軸方向(パスライン6)に平行な直線6aとがなす角度(単位:°)を指す。また、圧延ロール3の出側面角Nとは、
図2に示すように圧延ロール3を側面視した場合に、管の圧延方向に対して圧延出側となる圧延ロール3の側面(すなわち、圧延出側に向けて漸次断面形状が小さくなる圧延ロール3のテーパ側面)と管軸方向に平行な直線6aとがなす角度(単位:°)を指す。
【0032】
なお、上記の「圧延ロール3を側面視した場合」とは、管軸方向に垂直な方向であって、且つ素管1への圧延荷重のかかる方向に垂直な方向で視た場合を意味する。
【0033】
本発明では、圧延ロールの面角は特に規定しない。素管の噛み込み性および被圧延管の進行の安定性の観点からは、面角は次のように設定することが好ましい。圧延ロール3の形状を樽型ロールとする場合には、傾斜角FAおよび交叉角γを共に0°とした状態での入側面角Mを0.2~20.0°の範囲に設定することが好ましく、また当該状態での出側面角Nを0.2~20.0°の範囲に設定することが好ましい。
【0034】
図示は省略するが、圧延ロール3の形状を円錐型ロールとする場合にも、入側面角Mと出側面角Nを設けることができる。上述と同様の観点から、入側面角Mは0.2~20.0°の範囲に設定することが好ましく、また出側面角Nは0.2~20.0°の範囲に設定することが好ましい。なお、入側面角Mと出側面角Nの定義は、上述の樽型ロールの説明と同様のため、省略する。
【0035】
続いて、
図4を参照して、制御手段について説明する。
【0036】
制御手段では、各圧延ロール3の傾斜角FAの制御を行う。後述するように、制御手段では、圧延開始前の素管サイズ(具体的には素管の寸法)に基づいて、圧延時の圧延ロール3の傾斜角FAの設定を行う。
【0037】
ここで、
図5を用いて、本発明者らが圧延ロール3の傾斜角FAの制御に着目した理由を詳細に説明する。
【0038】
図5には、傾斜圧延設備の圧延ロールの傾斜角と、素管サイズとを種々変更して素管に圧延を施し、圧延後の金属管の真円度を評価した結果を示す。
図5の縦軸が傾斜角(単位:°)であり、横軸が素管サイズを表す「肉厚/外直径(すなわちt/D)」の値(単位:-)である。真円度の評価は後述の式(2)を用いて行い、C/Dmaxの値が0.020以下の場合を「○」、C/Dmaxの値が0.020超えの場合を「×」として、
図5中に各評価結果を記す。
【0039】
なお、
図5の評価に用いた、素管サイズ、圧延ロールの個数及び傾斜角は次の通りである。
a)素管サイズ:D=80mm、t=7mm、圧延ロールの個数:3、傾斜角:0.55°、1.50°、4.50°、7.87°、11.00°
b)素管サイズ:D=60mm、t=12mm、圧延ロールの個数:3、傾斜角:0.10°、0.15°、1.00°、2.50°、3.95°、7.00°
c)素管サイズ:D=400mm、t=15mm、圧延ロールの個数:3、傾斜角:1.00°、12.00°、36.00°
d)素管サイズ:D=400mm、t=60mm、圧延ロールの個数:3、傾斜角:0.10°、3.00°、6.00°
【0040】
式(2)に示すとおり、本発明では、圧延終了後の金属管の管軸方向垂直断面における外径最大値(Dmax)と外径最小値(Dmin)との差(C)に基づき、真円度の評価を行う。これは次の理由による。被圧延管の断面形状の変化は、圧延ロールと被圧延管が接触している範囲(領域)に影響されると推測され、その範囲は傾斜角により変化する。また、傾斜角により被圧延管の加工速度が変化し、それにより断面形状が変化すると推測される。すなわち、外径最大値と外径最小値との差であるCは、圧延ロールの傾斜角に影響される。そこで、本発明者らは、圧延ロールの傾斜角に着目し、さらに検討を重ねた。
【0041】
図5に示すように、圧延ロール3の傾斜角FAが大きいと、圧延ロール3(具体的には、圧延入側となる圧延ロール3の側面)および管材の管表面が接触している範囲(領域)が狭くなる(
図3、4を参照)。すなわち、素管1および被圧延管2の管表面のうち圧延ロール3が接触していない範囲(以下「未接触域」と称する)が広くなる。未接触域が広いと、接触領域の被圧延材がより自由に変形しづらくなる。この未接触域からの拘束によって、真円に近い形に変形しようとする力が被圧延管2に働き、その結果、外径最大値と外径最小値との差(C)を小さくすることがある。一方で、圧延ロール3の傾斜角FAが大きいほど、素管1および被圧延管2が1回転する間に管軸方向に進む距離が大きくなる。すなわち、加工が急激に進むため、管の形状が乱れやすくなり、これに起因して、外径最大値と外径最小値との差(C)を大きくすることがある。
【0042】
また、圧延ロール3の傾斜角FAが小さすぎても、未接触域が狭くなる。すなわち未接触域からの拘束が弱くなり、被圧延管2に働く真円に近い形に変形させようとする力が弱くなる。これに起因して、外径最大値と外径最小値との差(C)を大きくすることがある。
【0043】
このように、圧延ロール3の傾斜角FAには、外径最大値と外径最小値との差(C)を小さくする作用と当該差(C)を大きくする作用の相反する作用を持つことが分かった。また、真円度を向上させるための最適な圧延ロール3の傾斜角FAの範囲が存在することが、新たに判明した。そして、上記の「最適な圧延ロール3の傾斜角FAの範囲」は、圧延開始前の素管の寸法(具体的には「t/D」の値)によって異なることも分かった。
【0044】
本発明では、圧延後の金属管の断面形状(すなわち管軸方向垂直断面の形状)を真円に近づける方法として、各圧延ロール3の傾斜角FAを、圧延開始前の素管の肉厚(t)および外直径(D)に基づいて適切に設定することが重要である。これにより、圧延時における、圧延ロールと管材(具体的には被圧延管)との接触領域を適切に制御することが可能となり、真円度の低下を抑制することができるからである。すなわち、本発明では、制御手段によって、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差(C)が小さくなるように圧延ロールの傾斜角(FA)を設定する。
【0045】
以上の知見から、圧延開始前の素管1の肉厚および外径と圧延ロール3の傾斜角FAとの関係を規定する以下の式(1)を、本発明者らは導出した。
【0046】
具体的には、制御手段は、以下の式(1)を満たすように、各圧延ロール3の傾斜角FAを設定する。
0.009×(t/D)(-1.8)≦FA≦3.2+0.022×(t/D)(-2.2) …(1)
ここで、式(1)に示す、
t:予め設定された圧延開始前の素管の肉厚[mm]、
D:予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径[mm]、
FA:圧延ロールの傾斜角[°]、である。
【0047】
なお、上記の「予め設定された圧延開始前の素管の肉厚」および「予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径」には、実測した各値を用いてもよいし、あるいは造管時の条件から推定した各値を用いてもよいし、あるいは造管前に予め設定しておいた予定寸法を用いてもよい。
【0048】
以下、式(1)の限定理由について説明する。
【0049】
圧延ロール3の傾斜角FAが、式(1)の左辺値(すなわち、「0.009×(t/D)(-1.8)」で算出される値)未満であると、圧延ロール3および被圧延管の管表面が接触している範囲(領域)が広くなり、圧延ロールが接触していない範囲からの拘束が小さくなる。その結果、真円度が低下する。傾斜角FAは、好ましくは(0.011×(t/D)(-1.8))以上とする。
【0050】
一方、圧延ロール3の傾斜角FAが、式(1)の右辺値(すなわち、「3.2+0.022×(t/D)(-2.2)」で算出される値)を超えると、素管および被圧延管が1回転する間に管軸方向に進む距離が大きくなる。すなわち、加工が急激に進むため、金属管の形状が乱れやすくとなり、真円度が低下する。傾斜角FAは、好ましくは(3.0+0.022×(t/D)(-2.2))以下とする。
【0051】
また、上述のように、圧延ロールと被圧延管との接触領域は真円度に大きく影響する。そこで、本発明では、圧延ロールと被圧延管の管表面とが接触している範囲の大きさを表すパラメータを用いて傾斜角FAを決定することにも着目した。
【0052】
ここで、上記の「圧延ロールと被圧延管の管表面とが接触している範囲の大きさ」とは、
図7中の一部拡大図に示すように、両矢印で示した圧延ロールと被圧延管表面との接触範囲を指す。本発明者らの検討の結果、当該管表面が接触している範囲の大きさ(CA)を表すパラメータとして、以下に示す式(3)を用いることを見出した。
CA=((t/D)
(-1.8))/FA …(3)
なお、式(3)に示す、
CA:圧延ロールと被圧延管の管表面との接触範囲の大きさを表すパラメータ[-]、
t:予め設定された圧延開始前の素管の肉厚[mm]、
D:予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径[mm]、
FA:圧延ロールの傾斜角[°]、である。
【0053】
この式(3)で表されるCAの値が大きいほど、上記接触領域が大きいことを示す。すなわち、圧延開始前の素管の肉厚(t)が小さいほど、また圧延開始前の素管の外直径(D)が大きいほど、被圧延管が偏平しやすくなり、接触領域が大きくなる。上述のように、接触領域が大きいと未接触域が狭くなり、その結果、被圧延管2に働く真円に近い形に変形させようとする力が弱くなる。本発明者らは、CAの値が式(4)を満たすように圧延時の圧延ロールの傾斜角FAを設定することで、より効果的に、真円度の悪化を防止できることを見出した。
CA≦50…(4)
【0054】
以上に説明したとおり、本発明では、制御手段が、上記式(1)の規定に加えて、圧延時における圧延ロールと被圧延管の管表面との接触範囲の大きさをCAとするとき、式(3)で表されるCAの値が式(4)を満たすように2個以上の圧延ロールの傾斜角を設定することが好ましい。なお、CAの値は、48以下とすることがより好ましい。CAの下限は特に規定しないが、1以上とすることが好ましく、2以上とすることがより好ましい。
【0055】
また、上述のように、被圧延管が管軸方向に進む進行度合いも真円度に影響することが、本発明者らの検討により分かっている。このことから、本発明では、上述の制御に加えてさらに、被圧延管が管軸方向に進む進行度合いを表すパラメータを考慮して傾斜角FAを決定してもよい。
【0056】
本発明者らの検討の結果、被圧延管が管軸方向に進む進行度合い(SF)を表すパラメータとして、以下に示す式(5)を用いることを見出した。
SF=tan(FA) …(5)
ここで、式(5)に示す、
SF:被圧延管が管軸方向に進む進行度合いを表すパラメータ[-]、
FA:圧延ロールの傾斜角[°]、である。
【0057】
この式(5)で表されるSFの値が大きいほど、素管および被圧延管が1回転する間に管軸方向に進む距離が大きくなる。この距離が大きいと急激に変形が進行し、被圧延管の形状が乱れやすくなる。このことから、本発明者らは、SFの値が式(6)を満たすように圧延時の圧延ロールの傾斜角FAを設定することも、より効果的に真円度の悪化防止の観点から好適であることを見出した。
SF≦tan(3.0+0.022×(t/D)(-2.2)) …(6)
なお、式(6)に示す、
SF:被圧延管が管軸方向に進む進行度合いを表すパラメータ[-]、
t:予め設定された圧延開始前の素管の肉厚[mm]、
D:予め設定された圧延開始前の素管の管軸方向垂直断面における外直径[mm]、である。
なお、SFの値は、(0.9×tan(3.0+0.022×(t/D)(-2.2)))以下とすることがより好ましい。SFの下限は特に規定しないが、0.001以上とすることが好ましく、0.002以上とすることがより好ましい。
【0058】
上述のように、制御手段によって式(1)を満たすように傾斜角FAが設定されていれば、上述の作用効果を得られる。なお、この作用効果をより有効に得る観点からは、式(1)に加えて式(3)および式(4)を満たすように傾斜角FAを設定することが好ましい。あるいは、式(1)、式(3)~式(6)の全てを満たすように傾斜角FAを設定することがより好ましい。例えば、制御手段は、傾斜圧延設備10の制御装置(図示せず)によって制御することも可能であり、この場合には、当該制御装置は、金属管の製造プロセスの操業を管理するプロセスコンピュータ(図示せず)からの命令によって、傾斜圧延設備10の動作の制御を行えばよい。
【0059】
次に、
図6を参照して、本発明における真円度について説明する。
図6には、傾斜圧延後の金属管の管軸方向垂直の断面形状の一例として、楕円形に変形したものを示す。
【0060】
図6に示す、傾斜圧延後の金属管21の管軸方向垂直断面において、金属管21の外径のうち最大値(すなわち楕円形の長径)をDmaxとし、外径のうち最小値(すなわち楕円形の短径)をDminとするとき、両者の差、すなわち金属管21の管軸方向垂直断面における外径最大値と外径最小値の差(Dmax-Dmin)を、Cとする。この外径最大値と外径最小値は実測値である。そして、当該Cの値と当該Dmaxの値を式(2)に代入し、得られる値Rを真円度と定義する。本発明では、この真円度(R)の値が0.020以下である場合に、「良好な真円度」(すなわち「優れた真円度」)であると評価する。
R=C/Dmax …(2)
ここで、式(2)に示す、R:真円度、C:圧延終了後の金属管の管軸方向垂直断面における、外径最大値と外径最小値の差、Dmax:圧延終了後の金属管の管軸方向垂直断面における外径最大値、とする。
【0061】
なお、金属管の外径(単位:mm)は、例えばノギスを用いて測定することができる。管端部の外径を測定する場合には、定規を用いてもよい。
【0062】
また、管端部以外の外径を測定する場合には、測定箇所で金属管を管軸方向に対して垂直となるように切断し、切断面の形状を測定する。本発明では、上記の外径の最大値および最小値は、切断面における管の外径を、管周方向に等間隔で24点測定し、それらの最大値をDmax、それらの最小値をDminとすることにより得る。なお、ノギス又は定規を用いて外径を測定する際、管軸方向垂直断面において、管周上の測定位置(すなわち、ノギス又は定規の設置位置)となる2点間の管周方向における距離は、管周長の1/2となるように設定する。
【0063】
金属管の管軸方向での測定位置は、いずれの箇所でもよいが、金属管の先尾端を含む領域には非定常部変形が起こりやすいため、先尾端からそれぞれ20mmを除いた箇所、より好ましくは先尾端からそれぞれ40mmを除いた箇所で、外径を測定することが望ましい。また、管軸方向での測定位置を複数個所とし、得られた値の平均値を用いてもよい。例えば、測定箇所の数を10点とし、当該10点での測定値の平均値を用いてもよい。
【0064】
以上のとおり、
図1等を用いて2ロール型の傾斜圧延機について説明したが、本発明によれば、管周方向に3個以上の圧延ロールが配設された傾斜圧延機で素管を圧延する場合であっても、同様の作用効果を得ることができる。
【0065】
〔傾斜圧延方法〕
続いて、上述の本発明の傾斜圧延設備を用いた金属管の傾斜圧延方法について説明する。なお、圧延ロールおよび制御手段に関する説明は、既述しているため省略する。
【0066】
本発明の傾斜圧延方法では、圧延ロール3の回転軸7がパスライン6(管軸方向)に対して傾斜角βを設けて配置された2個以上の圧延ロール3を備えた傾斜圧延設備10を用いて、当該傾斜圧延設備が有する当該2個以上の圧延ロール3の傾斜角FAを制御する制御手段によって傾斜角FAを設定し、素管1を管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら圧延する。なお、圧延ロール3は、さらに交叉角γや面角を設けて配置してもよい。
【0067】
図4等に示すように、この傾斜圧延設備10のロールギャップに、該傾斜圧延設備10の入側(すなわち、
図4に示す紙面右側)から素管1を供給する。各圧延ロール3で素管1を挟圧させつつ、該素管1を圧延方向に通過させることで、素管1に傾斜圧延を施す。これにより、所望の外径寸法に縮径された、金属管を得られる。
【0068】
圧延に際し、制御手段により各圧延ロール3の傾斜角FAが制御される。具体的には、制御手段は、圧延開始前の金属管の肉厚および外直径に基づいて、各圧延ロール3の傾斜角FAを設定し、当該傾斜角FAに設定された圧延ロール3を用いて素管1に圧延を施す。なお、真円度を向上させる観点から、制御手段は上述の式(1)を満たすように傾斜角FAを制御する。なお、より効果的に真円度を向上させる観点から、式(1)に加えて式(3)および式(4)を満たすように傾斜角FAを制御することが好ましい。あるいは、式(1)、式(3)~式(6)の全てを満たすように傾斜角FAを制御することがより好ましい。
【0069】
〔金属管の製造方法〕
続いて、上述の本発明の傾斜圧延設備を用いて金属管を製造する金属管の製造方法について説明する。すなわち、この製造方法は、上述の傾斜圧延方法によって被圧延管に圧延を施して金属管を製造する方法である。なお、圧延ロールおよび制御手段に関する説明は、既述しているため省略する。
【0070】
本発明の金属管の製造方法は、素管1を管周方向に回転させると共に管軸方向に進行させながら、2個以上の圧延ロール3のロールギャップに当該素管1を通過させて傾斜圧延することで、金属管を得る圧延工程を有する。
【0071】
当該圧延工程では、制御手段により、圧延ロール3の傾斜角が適切な範囲となるように制御する。具体的には、制御手段により、圧延開始前の金属管の肉厚および外直径に基づいて圧延ロールの傾斜角FAを設定し、当該傾斜角FAに設定された圧延ロール3で素管1に圧延を施す。これにより、金属管の圧延後の断面形状における真円度の低下を抑制することができる。なお、真円度を向上させる観点から、制御手段は上述の式(1)を満たすように圧延ロールの傾斜角FAを制御する。なお、より効果的に真円度を向上させる観点から、式(1)に加えて式(3)および式(4)を満たすように傾斜角FAを制御することが好ましい。あるいは、式(1)、式(3)~式(6)の全てを満たすように傾斜角FAを制御することがより好ましい。
【0072】
本発明の金属管の製造方法では、例えば、上記の圧延工程後の金属管に熱処理を施してもよい。また例えば、上記の圧延工程後の金属管を酸洗して金属管表面のスケールを取り除く処理を施してもよい。熱処理や酸洗処理の条件は、金属管の組成などに応じて、適宜設定すればよい。
【0073】
なお、本発明では、上述の圧延工程を行う前の素管の製造条件は、特に限定されず、通常公知の製造条件を採用することができる。また、圧延工程を行う前の素管についても特に限定されず、例えば中空の管材であってよい。
【0074】
また、圧延工程を行う前の素管の形状として、当該素管の実測をした際に、素管外径最大値と素管外径最小値との差があるとしても、本発明の上記作用効果は得られる。その理由は、素管の真円度によらず接触領域の被圧延材がより自由に変形できることを防ぐ効果は得られるからである。
【0075】
なお、本発明の作用効果をより一層有効に得る観点からは、圧延工程を行う前の素管は、管軸方向垂直断面が楕円形状または円形状であって、かつ、素管外径最大値と素管外径最小値との差を素管外径最大値で割った値(すなわち、((素管外径最大値-素管外径最小値)/素管外径最大値)×100(単位:%))が10%以下であることが好ましく、当該値が7%以下であることがより好ましい。
【0076】
以上に説明したとおり、本発明によれば、各圧延ロールの傾斜角を適切に制御可能な制御手段を有する傾斜圧延設備を用いて素管に傾斜圧延を行うため、圧延後に得られる金属管の断面形状の真円度の低下を抑制することができる。特に、傾斜圧延前の素管に対して、表面被膜付与や、管端の加工などの予備処理を必要としない。また、傾斜圧延による金属管の硬度向上を実現しつつ、傾斜圧延後の断面形状の真円度の低下を抑制することが実現できる。
【実施例0077】
以下、本発明の実施例について説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能である。
【0078】
〔実施例1〕
まず、表1に示すJIS G 4303:2012規格のステンレス鋼棒(素材:SUS329J3L)から機械加工により外直径(D):80mm(素管外径最大値と素管外径最小値の差:0mm)、肉厚(t):7mm、長さ:250mmの素管を採取した。
【0079】
【0080】
次いで、採取した素管に圧延を施した。当該圧延を施す冷間圧延を行う設備として、表2に示すロール数の傾斜圧延設備(すなわち、2ロール型傾斜圧延設備および3ロール型傾斜圧延設備)を用いた。これらの圧延ロールには、傾斜角および交叉角を共に0°とした状態において、入側面角Mが2.5°、出側面角Nが3.0°となる樽型ロールを用いた。圧延に際しては、圧延ロールの交叉角γを0°とし、圧延ロール3のロールギャップを70mmとした。実施例1では、圧延ロール3の傾斜角FAを表2に示すように種々変更して、常温の素管に圧延(ここでは冷間圧延)を施し、金属管を得た。
【0081】
圧延後の金属管(ここでは冷間圧延管)を用いて、上述の方法で真円度Rの評価を行った。なお、金属管の外径の測定にはノギスを用いた。上述のように、外径を管周方向に等間隔に24点測定することで得た外径最大値Dmaxおよび外径最小値Dminから両者の差Cを算出した。得られた値を用いて、C/Dmaxの値を算出し、表2の「圧延後のC/Dmax」欄に示した。
【0082】
本実施例では、C/Dmaxの目標値は0.020以下とし、表2の「C/Dmax(目標値)」欄には「0.020」と記した。すなわち、圧延後のC/Dmaxの値が0.020以下である場合に、「合格(すなわち、優れた真円度)」であると評価した。特に、圧延後のC/Dmaxの値が0.011以下である場合には、より一層優れた真円度であるとして、表2の評価結果欄に記号「◎」を記し、圧延後のC/Dmaxの値が0.011超え0.020以下である場合には、表2の評価結果欄の記号「〇」を記した。圧延後のC/Dmaxの値が0.020超えの場合に、「不合格」であると評価し、表2の評価結果欄に記号「×」を記した。なお、管軸方向での測定位置は、金属管の中央位置(すなわち、管端から管全長の半分の長さの位置)とした。評価結果を表2に示した。
【0083】
【0084】
表2に示す管No.1~9は、ロール数が2個の2ロール型傾斜圧延設備で傾斜圧延を実施して得られた管であった。管No.1、2、8、9は、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されておらず、式(1)を満たさない傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値(0.020)より大きくなり、真円度の低下を抑制することができなかった。
【0085】
これに対し、管No.3~7では、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されており、式(1)を満たす傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度の低下を抑制することができた。
【0086】
また、表2に示す管No.10~17は、ロール数が3個の3ロール型傾斜圧延設備で圧延を実施して得られた管であった。管No.10、11、16、17は、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されておらず、式(1)を満たさない傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より大きくなり、真円度の低下を抑制することができていなかった。
【0087】
これに対し、管No.12~15では、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されており、式(1)を満たす傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度の低下を抑制することができた。
【0088】
〔実施例2〕
実施例2では、実施例1と素管の寸法が異なる場合について検討した。
【0089】
まず、表1に示すJIS G 4303:2012規格のステンレス鋼棒(素材:SUS329J3L)から機械加工により外直径(D):60mm(素管外径最大値と素管外径最小値の差:0mm)、肉厚(t):12mm、長さ:250mmの素管を採取した。
【0090】
次いで、採取した素管に表3に示す条件で圧延を施した。なお、傾斜圧延設備や圧延ロールなどの条件は、実施例1と同様とした。実施例2では、圧延ロール3の傾斜角FAを表3に示すように種々変更して、常温の素管に圧延(ここでは冷間圧延)を施し、金属管を得た。
【0091】
圧延後の金属管(ここでは冷間圧延管)を用いて、実施例1と同じ方法で真円度Rの評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0092】
【0093】
表3に示す管No.18~24は、ロール数が2個の2ロール型傾斜圧延設備で傾斜圧延を実施して得られた管であった。管No.18、19、23、24は、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されておらず、式(1)を満たさない傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値(0.020)より大きくなり、真円度の低下を抑制することができなかった。
【0094】
これに対し、管No.20~22では、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されており、式(1)を満たす傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度の低下を抑制することができた。
【0095】
また、表3に示す管No.25~31は、ロール数が3個の3ロール型傾斜圧延設備で圧延を実施して得られた管であった。管No.25、26、30、31は、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されておらず、式(1)を満たさない傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より大きくなり、真円度の低下を抑制することができていなかった。
【0096】
これに対し、管No.27~29では、圧延工程後の金属管の外径最大値と外径最小値との差が小さくなるように圧延ロールの傾斜角FAが設定されており、式(1)を満たす傾斜角FAとなっていた。その結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度の低下を抑制することができた。
【0097】
〔実施例3〕
実施例3では、実施例1と素管の寸法が異なる場合について検討した。上述同様に、表1に示すJIS G 4303:2012規格のステンレス鋼棒(素材:SUS329J3L)から機械加工により外直径(D):400mm(素管外径最大値と素管外径最小値の差:0mm)、肉厚(t):15mm、長さ:250mmの素管を採取した。
【0098】
次いで、採取した素管に表4に示す条件で圧延を施し、金属管を得た。なお、傾斜圧延設備や圧延ロールなどの条件は、実施例1と同様とした。そして、圧延後の金属管を用いて、実施例1と同じ方法で真円度Rの評価を行い、評価結果を表4に示した。
【0099】
【0100】
表4に示す管No.32~35は、2ロール型傾斜圧延設備で作製した管であった。管No.32、35は、式(1)を満たさない傾斜角FAであった結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より大きくなり、真円度低下を抑制できなかった。これに対し、管No.33、34は、式(1)を満たす傾斜角FAであったため、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度低下を抑制できた。
【0101】
また、表4に示す管No.36~38は、3ロール型傾斜圧延設備で作製した管であった。管No.36、38は、式(1)を満たさない傾斜角FAであった結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より大きくなり、真円度低下を抑制できなかった。これに対し、管No.37は、式(1)を満たす傾斜角FAであったため、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度低下を抑制できた。
【0102】
〔実施例4〕
実施例4では、実施例1と素管の寸法が異なる場合について検討した。上述同様に、表1に示すJIS G 4303:2012規格のステンレス鋼棒(素材:SUS329J3L)から機械加工により外直径(D):400mm(素管外径最大値と素管外径最小値の差:0mm)、肉厚(t):60mm、長さ:250mmの素管を採取した。
【0103】
次いで、採取した素管に表5に示す条件で圧延を施し、金属管を得た。なお、傾斜圧延設備や圧延ロールなどの条件は、実施例1と同様とした。そして、圧延後の金属管を用いて、実施例1と同じ方法で真円度Rの評価を行い、評価結果を表5に示した。
【0104】
【0105】
表5に示す管No.39~42は、2ロール型傾斜圧延設備で作製した管であった。管No.39、42は、式(1)を満たさない傾斜角FAであった結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より大きくなり、真円度低下を抑制できなかった。これに対し、管No.40、41は、式(1)を満たす傾斜角FAであったため、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度低下を抑制できた。
【0106】
また、表5に示す管No.43~45は、3ロール型傾斜圧延設備で作製した管であった。管No.43、45は、式(1)を満たさない傾斜角FAであった結果、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より大きくなり、真円度低下を抑制できなかった。これに対し、管No.44は、式(1)を満たす傾斜角FAであったため、C/Dmaxの測定値はC/Dmaxの目標値より小さくなり、真円度低下を抑制できた。
【0107】
以上に説明した実施例1~実施例4より、本発明例では真円度の低下を抑制できることが分かった。