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特開2025-96444一液型エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、及びシーリング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025096444
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】一液型エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、及びシーリング剤
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20250619BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20250619BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250619BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250619BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
C08G59/50
C09D163/00
C09D7/63
C09J11/06
C09J163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2025063628
(22)【出願日】2025-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 裕貴
(57)【要約】
【課題】低粘度性、指触乾燥性、及び得られる塗膜の平滑性に優れる一液型エポキシ樹脂組成物、及び、その硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、並びにシーリング剤を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)と、下記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させて得られるケチミン(B1)を含む潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)と、を含有する、一液型エポキシ樹脂組成物、及び、その硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、並びにシーリング剤である。
N-CH-X-CH-NH (1)
(式(1)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、
下記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させて得られるケチミン(B1)を含む潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)と、
を含有する、一液型エポキシ樹脂組成物。
N-CH-X-CH-NH (1)
(式(1)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるXがシクロヘキシレン基を含む、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記シクロヘキシレン基のシス体/トランス体の比率が95/5~30/70である、請求項2に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記ケトンがメチルイソプロピルケトンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記ケチミン(B1)が、前記ジアミン1モルに対し、前記ケトンを2~12モルの範囲で反応させて得られる、請求項1~4のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂(A)が芳香環又は脂環式構造を有する多官能エポキシ樹脂を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含む接着剤。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含む塗料。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含むコンクリート用プライマー。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含むシーリング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液型エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、及びシーリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミンとケトンとを反応させて得られるケチミン変性物は、一液型エポキシ樹脂組成物用の硬化剤として知られている。より詳細には、ケチミン変性物は大気中の水分と反応して解離し、放出されたポリアミンがエポキシ樹脂硬化剤として作用する、潜在性硬化剤である。
【0003】
例えば特許文献1には、ノルボルナンジアミンとカルボン酸類またはケトン類との脱水反応により得られる化合物が、臭気が少なく、外観、機械的物性及び耐水、耐薬品性に優れる樹脂を製造することが可能な樹脂用硬化剤として提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-235352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載の発明品は、一液型エポキシ樹脂組成物用の潜在性硬化剤として用いた場合に、得られる組成物の低粘度性、指触乾燥性、及び、得られる塗膜の平滑性において更なる改善が望まれる。
本発明の課題は、低粘度性、指触乾燥性、及び得られる塗膜の平滑性に優れる一液型エポキシ樹脂組成物、及び、その硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、並びにシーリング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、エポキシ樹脂と、特定のジアミンとケトンとを反応させて得られるケチミンを含む潜在性エポキシ樹脂硬化剤と、を含有する一液型エポキシ樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]エポキシ樹脂(A)と、
下記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させて得られるケチミン(B1)を含む潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)と、
を含有する、一液型エポキシ樹脂組成物。
N-CH-X-CH-NH (1)
(式(1)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。)
[2]前記一般式(1)におけるXがシクロヘキシレン基を含む、[1]に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
[3]前記シクロヘキシレン基のシス体/トランス体の比率が95/5~30/70である、[2]に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
[4]前記ケトンがメチルイソプロピルケトンを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
[5]前記ケチミン(B1)が、前記ジアミン1モルに対し、前記ケトンを2~12モルの範囲で反応させて得られる、[1]~[4]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
[6]前記エポキシ樹脂(A)が芳香環又は脂環式構造を有する多官能エポキシ樹脂を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物の硬化物。
[8][1]~[6]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含む接着剤。
[9][1]~[6]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含む塗料。
[10][1]~[6]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含むコンクリート用プライマー。
[11][1]~[6]のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含むシーリング剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低粘度性、指触乾燥性、及び、得られる塗膜の平滑性に優れる一液型エポキシ樹脂組成物、及び、その硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、並びにシーリング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[定義]
本明細書において「一液型エポキシ樹脂組成物」とは、エポキシ樹脂と、潜在性エポキシ樹脂硬化剤とを含有する組成物を意味する。また「潜在性エポキシ樹脂硬化剤」とは、大気中の水分と反応して解離することにより、ポリアミン等のエポキシ樹脂硬化剤を放出しうる成分を意味し、典型的にはケチミンが挙げられる。
【0009】
[一液型エポキシ樹脂組成物]
本発明の一液型エポキシ樹脂組成物(以下「本発明の(エポキシ樹脂)組成物」ともいう)は、エポキシ樹脂(A)と、下記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させて得られるケチミン(B1)を含む潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)と、を含有する、一液型エポキシ樹脂組成物である。
N-CH-X-CH-NH (1)
(式(1)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。)
本発明のエポキシ樹脂組成物は上記構成とすることにより、低粘度性、指触乾燥性、及び得られる塗膜の平滑性に優れる。これらは実施例に記載の方法により評価できる。
【0010】
また本発明のエポキシ樹脂組成物により得られる塗膜は、耐塩水性も良好である。本明細書において「塗膜の耐塩水性」とは、基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に形成した塗膜をJIS K5600-7-9:2006に準拠してクロスカットし、該塗膜に5%塩水を噴霧した後に塗膜の剥離及び基材上の錆発生が少ないことを意味する。塗膜の耐塩水性は、具体的には実施例に記載の方法により評価することができる。
【0011】
本発明の一液型エポキシ樹脂組成物が上記効果を奏する理由については定かではないが、以下のように推察される。
ケチミン(B1)の原料であるジアミン及びケトンがともに低粘度であることから、得られるケチミン(B1)及びこれを含む一液型エポキシ樹脂組成物も低粘度になると考えられる。
ケチミン(B1)の原料であるジアミンは、環構造を含むが、3次元的には嵩高くない分子構造である。よって、これを用いて得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物(塗膜)は、自由体積が比較的小さく、水分が侵入し難いと考えられる。これにより、本発明の一液型エポキシ樹脂組成物からなる塗膜は指触乾燥性が良好になり、且つ、塗膜に水分が侵入することによる表面ムラが抑えられ、平滑性も向上すると考えられる。
またケチミン(B1)の原料であるジアミンは3次元的に嵩高くないため、エポキシ樹脂(A)と反応しやすく、密な塗膜構造を形成できると考えられる。この効果により、本発明の一液型エポキシ樹脂組成物からなる塗膜は耐塩水性にも優れると考えられる。
【0012】
<エポキシ樹脂(A)>
エポキシ樹脂(A)(以下「成分(A)」ともいう)は、潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)(以下「成分(B)」ともいう)由来のジアミン中の活性水素と反応し得るエポキシ基を2以上有する樹脂であれば特に制限されず、飽和又は不飽和の脂肪族化合物や脂環式化合物、芳香族化合物、複素環式化合物のいずれであってもよい。指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点からは、エポキシ樹脂(A)は、好ましくは芳香環又は脂環式構造を有する多官能エポキシ樹脂を含む。
エポキシ樹脂(A)中の、芳香環又は脂環式構造を有する多官能エポキシ樹脂の含有量は、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0013】
芳香環又は脂環式構造を有する多官能エポキシ樹脂は、例えば、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及び/又はグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂又はその水添物、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂又はその水添物、及びフェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。これらのエポキシ樹脂は、2種以上混合して用いることもできる。
【0014】
上記の中でも、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、エポキシ樹脂(A)は、好ましくは芳香環を有する多官能エポキシ樹脂を含み、より好ましくはメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、更に好ましくはビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、より更に好ましくはビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含む。
【0015】
エポキシ樹脂(A)は、低粘度の一液型エポキシ樹脂組成物を得る観点から、芳香環又は脂環式構造を有する多官能エポキシ樹脂以外に、反応性希釈剤を含有してもよい。
該反応性希釈剤としては少なくとも1つのエポキシ基を有する低分子化合物が挙げられ、具体的には、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等の芳香族モノグリシジルエーテル;ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル等のアルキルモノグリシジルエーテル;1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の、脂肪族ジオールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらの中でも、低粘度の一液型エポキシ樹脂組成物を得る観点から、反応性希釈剤は、好ましくはアルキルモノグリシジルエーテル、及び脂肪族ジオールのジグリシジルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくはアルキルモノグリシジルエーテルを含む。当該アルキルモノグリシジルエーテルにおけるアルキルの炭素数は、低粘度の一液型エポキシ樹脂組成物を得る観点から、好ましくは3~18、より好ましくは4~12である。
上記反応性希釈剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
エポキシ樹脂(A)が反応性希釈剤を含む場合、エポキシ樹脂(A)中の反応性希釈剤の含有量は、低粘度の一液型エポキシ樹脂組成物を得る観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0017】
エポキシ樹脂(A)は、固体、液状のいずれでもよいが、低粘度の一液型エポキシ樹脂組成物を得る観点からは、好ましくは液状エポキシ樹脂を含む。本明細書において「固体エポキシ樹脂」とは、室温(25℃)で固体のエポキシ樹脂を意味し、「液状エポキシ樹脂」とは、室温(25℃)で液状のエポキシ樹脂を意味する。
【0018】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、好ましくは80g/当量以上、より好ましくは100g/当量以上、更に好ましくは120g/当量以上、より更に好ましくは150g/当量以上であり、低粘度の一液型エポキシ樹脂組成物を得る観点から、好ましくは1000g/当量以下、より好ましくは800g/当量以下、更に好ましくは500g/当量以下、より更に好ましくは300g/当量以下、より更に好ましくは250g/当量以下である。
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量とは、エポキシ樹脂(A)が2種以上のエポキシ樹脂の混合物である場合、該混合物のエポキシ当量を意味する。
【0019】
エポキシ樹脂(A)として、市販品を用いることもできる。市販のエポキシ樹脂としては、三菱ケミカル(株)製の「jER825」、「jER827」、「jER828」、「jER801N」、「jER801PN」、「jER802」、「jER811」、「jER813」、「jER819」、「jER806」、「jER806H」、「jER807」等が挙げられる。
【0020】
<潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)>
潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)は、下記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させて得られるケチミン(B1)を含む。
N-CH-X-CH-NH (1)
(式(1)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。)
【0021】
(ケチミン(B1))
ケチミン(B1)は、前記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させて得られる化合物である。
【0022】
〔一般式(1)で示されるジアミン〕
前記一般式(1)で示されるジアミンは、ケチミン(B1)の解離により放出され、アミン系のエポキシ樹脂硬化剤として作用する。
前記一般式(1)におけるXはフェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、半乾燥(dust free)状態となるまでの時間がより短いという観点から、好ましくはシクロヘキシレン基を含む。具体的には、前記一般式(1)におけるXは、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、及び1,4-シクロヘキシレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
また、低粘度性、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点からは、前記一般式(1)におけるXは、好ましくは1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,3-シクロヘキシレン基、及び1,4-シクロヘキシレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくは1,3-フェニレン基及び1,3-シクロヘキシレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0023】
なお本明細書におけるシクロヘキシレン基には、シス体、トランス体のいずれも含まれる。前記シクロヘキシレン基のシス体/トランス体の比率は、低粘度性、指触乾燥性、及び塗膜の平滑性向上の観点から、好ましくは95/5~30/70、より好ましくは90/10~40/60、更に好ましくは85/15~50/50、より更に好ましくは80/20~60/40の範囲である。
【0024】
前記一般式(1)で示されるジアミンは、キシリレンジアミン及びビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、半乾燥(dust free)状態となるまでの時間がより短いという観点から、好ましくはビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含む。なお、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス体/トランス体の比率は、低粘度性、指触乾燥性、及び塗膜の平滑性向上の観点から、好ましくは95/5~30/70、より好ましくは90/10~40/60、更に好ましくは85/15~50/50、より更に好ましくは80/20~60/40の範囲である。
具体的には、前記一般式(1)で示されるジアミンは、o-キシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン(PXDA)、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
また、低粘度性、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点からは、一般式(1)で示されるジアミンは、好ましくはメタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくはメタキシリレンジアミン及び1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0025】
(炭素数4以上9以下のケトン)
ケチミン(B1)の製造に用いられるケトンは、低粘度性、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、炭素数4以上9以下であり、好ましくは炭素数4以上8以下、より好ましくは炭素数4以上6以下のケトン、更に好ましくは炭素数4以上5以下のケトンである。
当該ケトンの具体例としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルペンチルケトン、エチルペンチルケトン、イソプロピルペンチルケトン、ジブチルケトン等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
上記の中でも、炭素数4以上9以下のケトンは、低粘度性、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、好ましくはメチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、及びメチルイソブチルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくはジエチルケトン及びメチルイソプロピルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、更に好ましくはメチルイソプロピルケトンを含む。
【0026】
ケチミン(B1)は、好ましくはメタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むジアミンと、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、及びメチルイソブチルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むケトンとを反応させて得られるケチミンを含み、より好ましくはメタキシリレンジアミンとジエチルケトンとを反応させて得られるケチミン、メタキシリレンジアミンとメチルイソプロピルケトンとを反応させて得られるケチミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとジエチルケトンとを反応させて得られるケチミン、及び、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとメチルイソプロピルケトンとを反応させて得られるケチミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、半乾燥(dust free)状態となるまでの時間がより短いという観点から、更に好ましくは1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとジエチルケトンとを反応させて得られるケチミン、及び、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとメチルイソプロピルケトンとを反応させて得られるケチミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0027】
ケチミン(B1)は、反応効率向上の観点から、前記一般式(1)で得られるジアミン1モルに対し、炭素数4以上9以下のケトンを、好ましくは2~12モル、より好ましくは3~10モル、更に好ましくは3~8モル、より更に好ましくは3~6モルの範囲で反応させて得られる。ここでいうモル量は、反応時の仕込み量(モル)を意味する。
なおケチミン(B1)は、少量の未反応ジアミンを含有していてもよいが、一液型エポキシ樹脂組成物の保存安定性向上の観点から、未反応ジアミンの含有量は少ない方が好ましい。ケチミン(B1)中の未反応ジアミンの含有量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、より更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0質量%である。
ケチミン(B1)中の未反応ジアミンの含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により求めることができる。
【0028】
(粘度)
ケチミン(B1)の25℃における粘度は、好ましくは1mPa・s以上であり、得られる一液型エポキシ樹脂組成物の低粘度性の観点から、好ましくは50mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以下、更に好ましくは20mPa・s以下、より更に好ましくは15mPa・s以下である。ケチミン(B1)の25℃における粘度は、E型粘度計を用いて、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
(ケチミン(B1)の製造方法)
ケチミン(B1)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、前記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを溶媒中で加熱し、Dean-stark装置を用いて副生する水を抜きながら還流させる方法が挙げられる。
前記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとの反応モル比は、反応効率向上の観点から、前記一般式(1)で得られるジアミン1モルに対する炭素数4以上9以下のケトンのモル数が、好ましくは2~12モル、より好ましくは3~10モル、更に好ましくは3~8モル、より更に好ましくは3~6モルとなる範囲である。
【0030】
ケチミン(B1)の製造に用いられる溶媒は、前記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンの溶解が可能であって、水との共沸が可能な溶媒であることが好ましく、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
ケチミン(B1)の製造に用いられる溶媒の量は、反応効率向上の観点、及び、共沸脱水の容易性の観点から、前記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンの合計量に対し、好ましくは0.1~5質量倍、より好ましくは0.2~3質量倍、更に好ましくは0.3~2質量倍である。
【0031】
ケチミン(B1)の製造において、前記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させる際の反応温度は、還流下で反応を行う観点、及び反応効率向上の観点から、好ましくは80~140℃、より好ましくは90~130℃の範囲である。
前記一般式(1)で示されるジアミンと、炭素数4以上9以下のケトンとを反応させる際の反応時間は、反応を完結させる観点及び製造効率の向上の観点から、好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~18時間である。また、反応時に理論量の水が留出する場合は、上記反応時間は、理論量の水が抜けてから好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上である。
ここでいう反応時間とは、還流時間を意味する。
上記反応終了後、必要に応じ蒸留精製を行い、ケチミン(B1)を得ることができる。
【0032】
潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ケチミン(B1)以外の潜在性エポキシ樹脂硬化剤、例えば、ケチミン(B1)以外のケチミンを含むこともできる。
但し、低粘度性、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)中のケチミン(B1)の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0033】
<その他の成分>
本発明のエポキシ樹脂組成物には、更に、本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤等の改質成分、揺変剤等の流動調整成分、充填剤、顔料、レベリング剤、粘着付与剤、エラストマー、非反応性希釈剤、酸化防止剤、溶剤等の任意成分を含有させてもよい。
【0034】
<含有量>
一液型エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の含有量は、低粘度性、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~50質量%、更に好ましくは20~40質量%である。
【0035】
一液型エポキシ樹脂組成物中の潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量は、低粘度性、指触乾燥性、塗膜の平滑性、及び耐塩水性向上の観点から、好ましくは40~90質量%、より好ましくは50~85質量%、更に好ましくは60~80質量%である。
【0036】
また、一液型エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)と潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)との含有量比は、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の数に対する、潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)由来のジアミン中の活性水素数の比(潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)由来のジアミン中の活性水素数/エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基数)が、好ましくは1/0.5~1/2、より好ましくは1/0.7~1/1.5、更に好ましくは1/0.8~1/1.2となる量である。
「潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)由来のジアミン中の活性水素数」とは、潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)に含まれるケチミンから放出される理論量のジアミン中の活性水素数を意味する。
【0037】
一液型エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)及び潜在性エポキシ樹脂硬化剤(B)の合計含有量は、本発明の効果を有効に得る観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%以下である。
【0038】
なお、一液型エポキシ樹脂組成物は、保存安定性向上の観点から、水分含有量が少ない方が好ましい。一液型エポキシ樹脂組成物中の水の含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、更に好ましくは0質量%である。
【0039】
<粘度>
一液型エポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は、取り扱い性向上の観点、及び低粘度性の観点から、好ましくは50~2,000mPa・s、より好ましくは100~1,500mPa・s、更に好ましくは200~1,000mPa・s、より更に好ましくは300~900mPa・sである。
一液型エポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は、E型粘度計を用いて、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
<一液型エポキシ樹脂組成物の製造方法>
一液型エポキシ樹脂組成物の製造方法には特に制限はない。例えば、一液型エポキシ樹脂組成物に用いられる各成分を配合し、公知の装置を用いて混合することにより製造できる。
一液型エポキシ樹脂組成物の製造における各成分の混合温度及び混合時間には特に制限はなく、通常、混合温度は0~60℃、混合時間は5分~6時間の範囲で選択することができる。
【0041】
[硬化物]
本発明は更に、前記本発明の一液型エポキシ樹脂組成物の硬化物を提供する。
当該硬化物は、前記一液型エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる。一液型エポキシ樹脂組成物の硬化条件は、大気中等の水分存在下であればよく、その他の条件は用途、形態に応じて適宜選択される。例えば一液型エポキシ樹脂組成物の硬化温度は-10~150℃の範囲で、硬化時間は0.5分~7日間の範囲で選択することができる。
本発明の硬化物の形態も特に限定されず、用途に応じて選択することができる。
【0042】
[用途]
本発明は更に、前記本発明の一液型エポキシ樹脂組成物を含む接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、又はシーリング剤を提供する。
本発明の一液型エポキシ樹脂組成物は、そのまま接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、又はシーリング剤をして用いてもよい。また、本発明の一液型エポキシ樹脂組成物に、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に可塑剤等の改質成分、揺変剤等の流動調整成分、充填剤、顔料、レベリング剤、粘着付与剤、エラストマー、非反応性希釈剤、酸化防止剤、溶剤等の任意成分を添加して、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、又はシーリング剤として用いることもできる。
【0043】
接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、又はシーリング剤中の一液型エポキシ樹脂組成物の含有量は、本発明の効果を有効に発現する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【実施例0044】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、エポキシ樹脂硬化剤及び一液型エポキシ樹脂組成物の測定及び評価は、以下の方法で行った。
【0045】
(1)粘度
ケチミン及び一液型エポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は、E型粘度計「TVE-22H型粘度計 コーンプレートタイプ」(東機産業(株)製)を用いて、回転数20rpmにて測定した。
【0046】
(2)指触乾燥
一液型エポキシ樹脂組成物を、23℃、50%R.H.条件下、基材(リン酸亜鉛処理鉄板、パルテック(株)製「SPCC-SD PB-N144」、0.8×70×150mm)上にアプリケーターを用いて塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の塗膜厚み:200μm)。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で静置し、1、2、7日経過後に指触により以下の基準で指触乾燥評価を行った。
Ex:約50Nの力で親指を押し付けた際も塗膜のべたつきがなく、指紋の残存もなし
G:約50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきはないが、指触後の指紋の残存あり
F:約50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきがあるが、約5Nの力で親指を押し付けた際の塗膜のべたつきなし
P:約5Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきあり
【0047】
(3)RCI乾燥時間
一液型エポキシ樹脂組成物を、23℃、50%R.H.条件下、ガラス板(太佑機材(株)製 25×348×2.0mm)上にアプリケーターを用いて塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の塗膜厚み:200μm)。塗膜を形成したガラス板を塗料乾燥時間測定器(太佑機材(株)製)にセットし、測定器の針が塗膜表面を引っかいた際の条痕を観察して、各乾燥段階(Set to Touch、Dust Free、Dry Through)への到達時間を以下の基準で測定した。時間が短い方が、硬化速度が速いことを示す。
Set to Touch:塗膜上に針の跡が残り始めるまでの時間
Dust Free:針の跡が塗膜の中から塗膜表面上に浮き出てくるまでの時間
Dry Through:塗膜上に針の跡が残らなくなるまでの時間
【0048】
(4)塗膜の平滑性
前記(2)と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に一液型エポキシ樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した(塗布直後の塗膜厚み:200μm)。得られた塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、1日経過後に塗膜の外観を目視観察して、平滑性を以下の基準で評価した。
<評価基準>
Ex凹凸がない
G:わずかに凹凸がある
F:一部に凹凸があるが、使用上問題なし
P:ハジキがある、又は全面に凹凸がある
【0049】
(5)5%塩水噴霧試験
前記(2)と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に一液型エポキシ樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した(塗布直後の塗膜厚み:200μm)。これを23℃、50%R.H.条件下で7日間保存した後、非塗装部を錆止め塗料(関西ペイント(株)製ミリオンプライマー、ミリオンクリヤー)でシールして試験片を作製した。該試験片上の塗膜表面に、JIS K5600-7-9:2006に準拠してカッターナイフを用いて長さ50mmの対角状に交差する2本の切り込みを入れた。
塩水噴霧試験機(スガ試験機(株)製「STP-90」、槽内温度35℃)に上記試験片を設置し、塩水(濃度5質量%)を噴霧し続けた。1、2、3、及び4週間経過後の試験片の外観を目視観察して、全体外観、カット部外観、及び錆幅について、以下の基準で評価した。なお点錆の発生の有無は、塗膜と接している基材表面を目視観察することにより確認した。
【0050】
(全体外観)
塩水噴霧1週間経過後の試験片を目視観察し、下記基準で評価した。
Ex:基材上に点錆の発生がなく、塗膜外観も変化なし
G:基材上に2~3個の点錆が発生しているが、塗膜外観は変化なし
F:基材上に少量の点錆が発生しているが、塗膜外観に変化はなく、使用上問題なし
P:基材上に多数の点錆が発生している、又は塗膜が剥離している
【0051】
(カット部外観)
塩水噴霧1週間経過後の試験片について、塗膜に切り込みを入れた部分の基材表面を目視観察し、下記基準で評価した。
Ex:基材上(カット部)に点錆の発生がなく、塗膜外観も変化なし
G:基材上(カット部)に2~3個の点錆が発生している
F:基材上に少量の点錆が発生しているが、使用上問題なし
P:基材上(カット部)に多数の点錆が発生している
【0052】
(錆幅)
塩水噴霧1、2、3、4週間経過後の試験片について、カット部で発生した基材上の錆幅(mm)を目視で確認した。錆幅が小さいほど防食性に優れることを示す。
【0053】
(6)ケチミン中の未反応ジアミンの含有量
製造例で得られたケチミン(B1)又は(B1’)0.10g、及び、内部標準としてジフェニルエーテル(関東化学株式会社製)0.03gを計量し、メタノール1.5gで希釈して測定試料を調製した。該試料を、ガスクロマトグラフィー(GC)分析装置を用いて下記条件で分析し、未反応ジアミンと内部標準のGC面積値から、ケチミン(B1)又は(B1’)中の未反応ジアミン含有量を算出した。
<GC測定条件>
装置;アジレント・テクノロジー(株)製「7890B GC」
カラム;アジレント・テクノロジー(株)製「CP-Sil 8 CB for Amines」(長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.25mm)
カラム温度;40℃10分→20℃/分昇温→250℃10分→20℃/分昇温→300℃10分
キャリアーガス:ヘリウム
キャリアーガス流速:2.2553mL/分
注入口圧力:22.474psi (定圧力モード)
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:310℃
【0054】
製造例1(メタキシリレンジアミン(MXDA)-ジエチルケトン(DEK)反応物の製造)
攪拌羽根、温度計、冷却管、及びDean-stark装置を備えた内容積1リットルのセパラブルフラスコに、メタキシリレンジアミン(MXDA、三菱瓦斯化学(株)製)136g(1モル)、ジエチルケトン(東京化成工業(株)製)345g(4モル、MXDAに対し4モル当量)、及び溶媒であるトルエン200gを仕込んだ。内温が110~120℃になるまでフラスコを加熱し、Dean-stark装置を用いて副生する水を抜きながら、合計8時間還流を行った。得られた反応液をナスフラスコに移し、残留ジエチルケトン及びトルエンをエバポレーターで留去して、ケチミン(B1)であるMXDA-ジエチルケトン反応物を得た。得られた反応物の25℃における粘度、及び、該反応物中の未反応ジアミン(MXDA)の含有量をGC測定により求め、表1に示した。
【0055】
製造例2(1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC)-ジエチルケトン(DEK)反応物の製造)
製造例1において、MXDAに替えて1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC、三菱瓦斯化学(株)製、シス/トランス比=77/23)を142g(1モル)用いたこと以外は、製造例1と同様に反応を行い、ケチミン(B1)である1,3-BAC-ジエチルケトン反応物を得た。
【0056】
製造例3(MXDA-メチルイソプロピルケトン(MIPK)反応物の製造)
製造例1において、ジエチルケトンに替えてメチルイソプロピルケトン(MIPK、東京化成工業(株)製)を345g(4モル)用い、且つ、反応(還流)時間を6時間に変更したこと以外は、製造例1と同様に反応を行い、ケチミン(B1)であるMXDA-メチルイソプロピルケトン反応物を得た。
【0057】
製造例4(1,3-BAC-メチルイソプロピルケトン(MIPK)反応物の製造)
製造例2において、ジエチルケトンに替えてメチルイソプロピルケトン(MIPK、東京化成工業(株)製)を345g(4モル)用い、且つ、反応(還流)時間を4時間に変更したこと以外は、製造例1と同様に反応を行い、ケチミン(B1)である1,3-BAC-メチルイソプロピルケトン反応物を得た。
【0058】
比較製造例1(ノルボルナンジアミン(NBDA)-ジエチルケトン(DEK)反応物の製造)
製造例1において、MXDAに替えてノルボルナンジアミン(NBDA、東京化成工業(株)製)を154g(1モル)用い、且つ、反応(還流)時間を5時間に変更したこと以外は、製造例1と同様に反応を行い、比較例用のケチミン(B1’)(以下、ケチミン(B1)以外のケチミンを「ケチミン(B1’)」と称する)であるNBDA-ジエチルケトン反応物を得た。
【0059】
比較製造例2(ノルボルナンジアミン(NBDA)-メチルイソプロピルケトン(MIPK)反応物の製造)
製造例3において、MXDAに替えてノルボルナンジアミン(NBDA、東京化成工業(株)製)を154g(1モル)用い、且つ、反応(還流)時間を4時間に変更したこと以外は、製造例3と同様に反応を行い、比較例用のケチミン(B1’)であるNBDA-メチルイソプロピルケトン反応物を得た。
【0060】
製造例及び比較製造例のケチミンについて表1に纏めた。なお前記測定条件によるGC測定結果によれば、製造例及び比較製造例で得られたケチミンは、ジアミン1モルに対しケトン2モルが付加した化合物であった。
【表1】
【0061】
実施例1~4、比較例1~2(一液型エポキシ樹脂組成物の調製、評価)
表2~3に記載の成分を室温(25℃)にて配合して混合し、一液型エポキシ樹脂組成物を調製した。得られた一液型エポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表2~3に記載の成分は下記である。なお、表中の配合量(質量%)は有効成分量である。
<エポキシ樹脂(A)>
ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する液状エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製「jER828」、エポキシ当量:186g/当量
【0065】
また表2~3に記載の「硬化剤(B)由来のジアミン中の活性水素数」とは、硬化剤(B)に含まれるケチミンから放出される理論量のジアミン中の活性水素数を意味する。
【0066】
表2~3より、本発明の一液型エポキシ樹脂組成物は比較例の一液型エポキシ樹脂組成物と比較して低粘度であり、形成した塗膜の指触乾燥性及び平滑性にも優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、低粘度性、指触乾燥性、及び、得られる塗膜の平滑性に優れる一液型エポキシ樹脂組成物、及び、その硬化物、接着剤、塗料、コンクリート用プライマー、並びにシーリング剤を提供することができる。