IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本遮蔽技研の特許一覧

特開2025-9663ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター
<>
  • 特開-ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター 図1
  • 特開-ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター 図2
  • 特開-ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター 図3
  • 特開-ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター 図4
  • 特開-ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター 図5
  • 特開-ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター 図6
  • 特開-ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009663
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01T1/167 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171724
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2023108773
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】512029630
【氏名又は名称】株式会社日本遮蔽技研
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 正司
(72)【発明者】
【氏名】河野 孝央
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴浩
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA10
2G188CC20
2G188FF07
2G188GG02
2G188GG09
(57)【要約】
【課題】持ち運び可能な且つ現場で放射能測定が可能なポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターを提供する。
【解決手段】本発明のポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターは、線量計と距離計と表示部とを備え、測定対象物の線量率Dを求める機能、測定対象物までの距離Lを測定する機能を有し、更に、実測した代表距離Lに基づいて下記の式Aで実測放射能を求める機能と、距離計で計測した距離Lに基づいて最長距離LMaxを決定し、最長距離LMaxに基づいて下記の式Bで上限放射能を求める機能と、実測放射能及び上限放射能を表示部に表示する機能を有している。(式A)実測放射能=(DL 2)/Γ;(式B)上限放射能=(DLMax 2)/Γ
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線量計と距離計と表示部とを備え、作業者が携帯できるポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターであって、
前記線量計で測定対象物の線量率Dを求める線量演算部と、
前記測定対象物までの距離Lを測定する測距処理部と、
前記線量率に対応する1cm線量当量率定数Γを記憶したメモリと、
前記測定対象物に差し向けて測定対象物まで実測した代表距離Lに基づいて下記の式Aで実測放射能を求める実測放射能演算部と、
前記距離計で計測した距離Lに基づいて最長距離LMaxを決定する最長距離決定部と、
前記最長距離LMaxに基づいて下記の式Bで上限放射能を求める上限放射能演算部とを有し、
前記実測放射能及び前記上限放射能を前記表示部に表示することができることを特徴とするポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター。
(式A)実測放射能=(DL 2)/Γ
(式B)上限放射能=(DLMax 2)/Γ
【請求項2】
請求項1のポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターにおいて、
前記放射能演算部によって求められた上限放射能を、前記メモリに登録されている安全判定用のしきい値と対比して、前記測定対象物の安全性を評価する評価部を更に備え、
該評価部で評価した安全性が前記表示部に表示される、ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター。
【請求項3】
請求項2のポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターにおいて、
前記距離計で計測した距離Lに基づいて最短距離LMinを決定する最短距離設定部と、
下記の式Cに基づいて下限放射能を求める下限放射能演算部とを更に有し、
該下限放射能演算部によって求められた下限放射能を前記表示部に表示することができる、ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター。
(式C)下限放射能=(DLMin 2)/Γ
【請求項4】
請求項3において、
該表示部の表示モードとして択一的に選択可能な第1ないし第3の表示モードを有し、
第1表示モードでは、線量計4で計測した放射線量が表示され、
第2表示モードでは、距離計6で測定した実測距離や最長距離LMax、最短距離LMinが表示され、
第3表示モードでは、放射能に関する情報が表示される、ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはベクレルモニタに関連した技術であり、詳しくは携帯して現場で測定対象物全体の放射能測定が可能なポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターに関する。本発明のポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターによれば、現場でリアルタイムに測定対象物の安全性を評価することができる。
【背景技術】
【0002】
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の原子力事故の後、原子炉廃止措置や放射能汚染物貯蔵サイトなどの作業現場では、周辺環境の放射線量測定(μSv、μSv/h)や汚染土壌などの放射能測定(Bq、Bq/kg)が行われている。
【0003】
放射線量測定では、線量計(以下、「サーベイメーター」という。」)が用いられる(特許文献1)。サーベイメーターは、一般的には、小型軽量であり、また、持ち運びが容易であると共に、取り扱いもそれほど難しくないことから、現場において、作業員が、各自、比較的自由に使用することができる。
【0004】
一方、放射能測定では、ベクレルモニタが用いられる(特許文献2)。ベクレルモニタは、放射能測定に特化した装置であり、遮蔽体を含む大がかりな重量物である。このことから、多くのベクレルモニタは、専用の施設や部屋(測定室)に設置され、そして、特定の担当者によって測定が実行される。
【0005】
作業員は、現場でサーベイメーターを使って放射線量をリアルタイムに測定する一方で、必要に応じて、放射性物質、すなわち放射性核種を含む、あるいはその恐れのある測定対象物を採取し、採取した汚染土壌等を放射能測定施設に持ち込んで放射能測定を依頼する事が行われている。
【0006】
サーベイメーターとベクレルモニタとは、性能の維持/確認のための校正においても異なっている。サーベイメーターの場合、照射線量率の分かった照射線源が作る放射線場を利用して校正が行われる。これに対しベクレルモニタでは、標準線源が用いられる。この標準線源は、測定容器等に採取した測定対象物と物理化学的形状が同じか類似した材料で製作され、その含有放射能は、信頼できる機関によって値付けがされている。また、照射線源と標準線源は、ワーキングライフ(使用可能期間)の点でも大きく異なる。照射線源のワーキングライフは例えば15年であり、標準線源は例えば3年である。
【0007】
以上のことから分かるように、作業現場では、放射線量測定と放射能測定とは別の分野であると理解されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-109120号公報
【特許文献2】特開2020-193811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
福島第一原発事故から10年を経過した現在、事故に関連する中間貯蔵施設などの作業現場では、主としてCs-137から放出されるγ線の場が形成される(γ線場)。こうしたγ線場の放射線量を測定するのに適した携帯可能なサーベイメーターが用いられている。例えばSi半導体を用いたサーベイメーター、ガス検出器を用いたサーベイメーター、固体シンチレータを用いたサーベイメーター(以下、「シンチレーション式サーベイメーター」という)を例示的に挙げることができ、特にシンチレーション式サーベイメーターがよく用いられている。サーベイメーターによって現場でリアルタイムに放射線量を測定できる。
【0010】
作業現場では、作業者の安全を確保する上で、測定対象物全体の放射能が安全の範疇にあるか否かを評価したいという要請がある。すなわち、作業者の安全を確保するために、現場で、サーベイメーターの利便性と同等の利便性でリアルタイムに安全サイドの放射能評価を実行したいという要請がある。
【0011】
本発明の目的は、持ち運び可能な且つ現場で安全性の観点から放射能評価が可能なポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターを提供することにある。
【0012】
本発明の更なる目的は、持ち運び可能なサーベイメーターと同様の簡便さで且つ現場で迅速に安全側の放射能評価が可能なポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の技術的課題を解決するために、本発明は、
線量計と距離計と表示部とを備え、作業者が携帯できるポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターであって、
前記線量計で測定対象物の線量率Dを求める線量演算部と、
前記測定対象物までの距離Lを測定する測距処理部と、
前記線量率に対応する1cm線量当量率定数Γを記憶したメモリと、
前記測定対象物に差し向けて測定対象物まで実測した代表距離Lに基づいて下記の式Aで実測放射能を求める実測放射能演算部と、
前記距離計で計測した距離Lに基づいて最長距離LMaxを決定する最長距離決定部と、
前記最長距離LMaxに基づいて下記の式Bで上限放射能を求める上限放射能演算部とを有し、
前記実測放射能及び前記上限放射能を前記表示部に表示することができることを特徴とするポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターを提供する。
(式A)実測放射能=(DL 2)/Γ
(式B)上限放射能=(DLMax 2)/Γ
【0014】
本発明の作用効果、本発明の他の目的は、以下の実施例の詳細な説明から明らかになろう。なお、実施例の説明において、ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターを「ベクレル・シーベルトサーベイメーター」、「BSサーベイメーター」、あるいは「ポータブルベクレル計」と略記する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】仮想の円形汚染モデルで行った放射能測定シミュレーションの結果を説明するための図である。
図2】式4、式5に含まれるパラメーターの物理的意味を説明するための図である。
図3】実在線源が放出する理論放射能を求める理論を説明するための図である。
図4】面汚染における最短距離LMinと最長距離LMaxの用語の意味を説明するための図である。
図5】円柱形の立体汚染物を例に最短距離LMinと最長距離LMaxの用語の意味を説明するための図である。
図6】実施例のポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターのハード構成を説明するための図である。
図7】実施例のポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーターの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0016】
汎用のサーベイメーターによりCs-137を含むか、その恐れのある測定対象物(以下、「Cs-137線源」という)が作るγ線場(以下、「Cs-137γ線場」という)における放射線量を求める場合を典型例として、以下に本発明の概念の基盤を構成する考え方を説明する。この例において、サーベイメーターでは、Cs-137γ線場の放射線量として「1cm線量当量率(以下、「線量率」という)」が次の式1で求められる。
【数1】
【0017】
変形例として、線量率に代えて1cm線量当量(以下、「線量」という)を測定する場合がある。このとき測定で得られるオリジナルのデータは、計数率ではなく積算計数になる。積算計数の値を、機械的に積算時間で割り算することにより、式1の計算に必要な計数率Nを得ることができる。このことから、線量率と線量とは実質的に等価である。
【0018】
福島第一原発事故に関連する中間貯蔵施設などの作業現場は、主としてCs-137から放出されるγ線場であり、核種が決まっていることから、サーベイメーターで測定されたCs-137γ線場の線量率(μSv/h)は下記の式2で求めることができる。
【数2】
【0019】
上記式2を、放射能Aを求める式に書き換えると、次の式3になる。
【数3】
【0020】
上記式3において、距離測定の機能を付加したサーベイメーター(以下、「ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター」又はこれを略記した「ベクレ
ル・シーベルトサーベイメーター」、「BSサーベイメーター」、あるいは「ポータブルベクレル計」という場合もある。)で距離Lを測定すれば、上記の式3に基づいて現場で放射能Aを求めることができる。ここに、BSサーベイメーターで得られる線量率Dは点線源に関する。したがって、式3に基づいて算出した放射能は、測定対象物に含まれる一点の放射能ということになる。
【0021】
現場での作業員の安全性を担保する上で、作業者が知りたいのは、点ではなくて、面積、体積を有する測定対象物の放射能である。すなわち、作業者は、安全の範疇にあるか否かの目安(以下、「安全側の評価放射能)という。)をリアルタイムに知りたいのである。したがって、上記式3に基づいて算出した放射能は、必ずしも正しい放射能であるとは限らない。このことを確認するため、平面上に広がる円形汚染モデルを仮定して、放射能測定シミュレーションを行った。その結果を図1に示す。
【0022】
図1において、横軸は、10cm単位で、最大半径400cmまで広がった円形汚染を示している。〇印がその汚染に含まれる正しい放射能である。ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター(BSサーベイメーター)を用いて演算によって求めた測定結果を△印で示す。〇と△を比較すると、汚染半径50cm程度まで両者の差は10%以内であることが分かった。これであれば、安全性の目安となる放射能の評価を行うことができる。
【0023】
しかしながら、半径が増加するに従って過小評価が進む。実際に、半径100cm、200cm、300cm、そして400cmの円形汚染に対する放射能測定シミュレーションの結果を相対放射能で表すと、0.80、0.57、0.44、0.35であった。これでは、安全側の評価放射能として不適である。
【0024】
とはいうものの、汚染土壌フレコンバッグなどのように形状や内容物がほぼ決まっている場合、測定や調査にもとづいて、あらかじめ適切な、安全側に評価するための補正係数(安全補正係数)を決めておき、測定値にかけることによって、過小評価にはならない、おおよその放射能を得ることができる。たとえば図1の最大半径400cmまでの円形汚染の場合、“5”を掛けることにより、過小評価にはならない、安全側へ補正した放射能を得ることができる。ただし、特別な場合に適用できる方法と言える。
【0025】
このような過小評価の問題を解決するため、作業者の安全を担保する観点から、放射能を決して過小評価することのない、実用的な測定量(実用測定量)を検討した。放射能を過小評価することのない安全側の解釈に基づく実用測定量として、下記の式4、式5に基づいて算出することにより実用測定量を得ることができる。
【数4】
【数5】
【0026】
上記式4、式5に現れるパラメーターの物理的意味を図2に図示の実在線源に基づいて説明する。図2を参照して、式4、式5のAsは安全側評価放射能である。Dは、BSサーベイメーターの一部を構成する線量計で測定される1cm線量当量率(μSv/h)である。またLは、前記式3に基づく演算で使用する実効中心から測定点までの距離(代表距離)である。この代表距離Lは作業者がBSサーベイメーターを実在線源に差し向けたときの測定点までの実測距離を意味する。
【0027】
上記式4と式5のLMin、LMaxは、実効中心から実在線源までの最短距離、最長距離である(図2)。通常、作業者は最も近いと思われる箇所にサーベイメーターを差し向ける。この実情を念頭に置くと、代表距離Lは最短距離LMinに相当する。代表距離L=最短距離LMinであるとみなしたときには、上記式4が式5になる。したがって、各点線源の放射能量A1、A2、、、、Anが作るγ線場の線量率DをD1、D2、Di、Dnとすると、その総和から実在線源全体の線量率Dを特定することができる。最短距離LMinの求め方に関し、作業者が距離計で実測した代表距離Lを表示し、BSサーベイメーターを差し向ける測定点を変える度に変化する代表距離Lの表示値を逐次リアルタイムに変えると共に、その中で最も小さな実測値つまり代表距離Lを最短距離LMinとして決定してもよい。
【0028】
図3を参照して、実在線源が放出する理論放射能を考察すると、実在線源に含まれる複数の点線源Piの放射能の総和が実在線源の放射能であると言うことができる。すなわち、実在線源は、N個の点線源Pi(i=1 to N )で構成されると考えることができる。図3に示す距離Liは、任意の点線源Piから実効中心までの距離である。Diは点線源Piが実効中心に形成する線量率を示す。Aiは点線源Piの放射能である。ATは実在線源の理論放射能である。上記式3に基づいて、点線源Piの放射能Aiは下記の式6に基づいて求めることができる。
【数6】
【0029】
実在線源の理論放射能ATは点線源Piの放射能Aiの総和であることから、次の式7に基づいて理論放射能ATを得ることができる。
【数7】
【0030】
現場での測定点から実効中心までの距離Lが、実在線源の全ての点線源PNの実効中心までの代表距離Lつまり実測距離であると仮定すると、測定で得られる実在線源の実測放射能Aは次の式8で表すことができる。
【数8】
【0031】
実在線源に含まれる全ての点線源Pにおいて、各点線源Pの実効中心までの距離が最短距離LMinであると仮定すると、実在線源の放射能は最小値AMinになる(「下限放射能」)。逆に、全ての点線源Pの実効中心までの距離が最大距離LMaxであると仮定すると、実在線源の放射能は最大値AMaxになる(「上限放射能」)。この関係を次の不等式9は表している。
【数9】
【0032】
上記不等式9は、下記の不等式10で表すことができる。
【数10】
【0033】
BSサーベイメーターによる測定で上限放射能、下限放射能を得るためには、最長距離LMaxと最短距離LMinを、実測またはその他の方法で決め、演算回路で算出する必要がある。以下、典型例として、円形の表面汚染と円柱形の立体汚染物を線源に仮定して、その決め方を概説する。
【0034】
(1)円形表面汚染の場合:
円形表面汚染の特長は、面積を有するが体積は持たないことである。そのため、線源には奥行きがない。このことから、線源上の最長位置と最短位置とを目視できる。したがって、BSサーベイメーターが備える距離計(例えばレーザ距離計)による直接測定で、最長距離LMaxと最短距離LMinを得ることができる。
【0035】
図4を参照して、図4は、円形表面汚染の中心からズレた位置にBSサーベイメーターを置いた場合を例示している。BSサーベイメーターの距離計が実測した距離が最短距離LMinとなり、測定点から一番離れた点までの距離が最長距離LMaxになる。仮に、BSサーベイメーターを円形表面汚染の中心位置に整合させて設置した場合には、最長距離LMaxが短くなるため、上限放射能は小さくなる。
【0036】
表面汚染が楕円表面や斜めに傾斜した傾斜表面であっても、表面汚染は奥行きの無い面汚染である限り、最長/最短の位置は、目視によって決めることができる。従って、BSサーベイメーターの距離計で最長距離LMaxと最短距離LMinとを測定して、これを演題回路に入力することで、上限/下限放射能を算出することができる。この最長距離LMax及び最短距離LMinの測定に関し、BSサーベイメーターを差し向ける測定点を変える度に変化する代表距離Lの表示値を逐次リアルタイムに変えると共に、その中で最も小さな代表距離を最短距離LMinとして決定する、あるいは、最も大きな代表距離を最長距離LMaxとして決定するようにしてもよい。
【0037】
立体汚染の場合:
除染廃棄物は、「フレコンバッグ」と呼ばれる袋に詰められた状態で、仮置き場に積み上げられている。この除染廃棄物を入れたフレコンバッグは概略円柱形である。これを「円柱形立体汚染物」と呼ぶと、円柱形立体汚染物の特長は、面積はもちろん、体積を有することである。そのため、線源には奥行きがある。このような線源でも、最長位置と最短位置が目視できる場合には、ベクレル・シーベルトサーベイメーターの距離計による直接測定で最長距離LMax及び最短距離LMinを得ることができる。したがって、この実測した最長距離LMax及び最短距離LMinに基づいて上限放射能、下限放射能を上述した式に基づく演算処理により求めることができる。しかしながら、多くの場合、最長距離LMaxの位置は、ベクレル・シーベルトサーベイメーターからは見えない線源の裏側にある。従って、直接、目視できないため最長位置までの距離LMaxを測定できない。この問題は、ベクレル・シーベルトサーベイメーターとは別の距離計や測定用具で測定する、あるいは、調査や経験にもとづく推定値を、演題回路に手動入力することで解決される。例えば、最短距離LMinを表示し、この最短距離LMinを見て、これに作業者が上記推定値、例えばフレコンバッグの直径を入力することで、推定値である最長距離LMaxを決定することができる。もちろん、最短距離LMinから最長距離LMaxを推定できるときには、作業者が手動入力することで最長距離LMaxを決定してもよい。
【0038】
図5を参照して、図示の立体汚染物は円柱形をしており、典型的にはフレコンバッグである。最短距離LMinの位置は、目視できるため、BSサーベイメーターの距離計で直接的に測定することができる。しかしながら最長距離LMaxの位置は、円柱形の裏側に存在するため目視できない。よって、BSサーベイメーターの距離計で直接的に測定できない。このような場合、線源の形状から最も遠い位置を仮定し、その位置までの距離を推測して、その値を手動で演題回路に入力すれば、上限/下限放射能を計算し、出力することができる。その利便性を高めるために、BSサーベイメーターの距離計で測定した最短距離LMinを表示すれば、作業者は、経験やフレコンバッグの直径に基づく、最長距離LMaxの推定値を、演題回路に手動入力することで解決される。
【0039】
図6は、実施例のBSサーベイメーターの概略全体構成図である。図6を参照して、実施例のBSサーベイメーター20は、線量計として、汎用されているシンチレーション式サーベイメーター4に、測定対象物(137Cs点線源)までの距離を測定する距離計6を付加したハード構造を備え、また、表示部8を備えている。既知のように距離計6では距離測定のために、一般的にはレーザ光が用いられるが、超音波、赤外線などを用いた距離計であってもよい。
【0040】
線量計4として採用したシンチレーション式サーベイメーターは、既に知られているように、シンチレータが放射線を検出することにより発光した蛍光を光電変換・増幅することにより、測定対象物から入射された放射線の計数率又は計数に基づいて線量率又は線量が求められる。BSサーベイメーター20に含まれる距離計6によって測定対象物までの距離Lを測定することができる。
【0041】
図7は、BSサーベイメーター20の機能ブロック図である。BSサーベイメーター20は、シンチレーション式サーベイメーター4で計測した線量に関する線量計測部22と、距離計6で計測した線源までの距離に関する距離計測部24と、線源の放射能に関する放射能計測部26とを有する。
【0042】
線量計測部22において、放射線検出器4つまりサーベイメーターで検出した線量は線量演算回路220で前述した演算によって線量率が求められ、線量率データが生成される。
【0043】
距離計測部24において、距離検出器6つまり典型的にはレーザ距離計で計測した線源までの距離は距離演算回路240で求められ、距離データが生成される。
【0044】
放射能計測部26は、データメモリ260と手動入力部262を含み、データメモリ260には、上述した複数の式及びこれらの式に基づく演算に必要な例えば1cm線量当量率定数Γや安全判定のためのしきい値などが登録されている。手動入力部262は、作業者が例えば最長距離LMaxやモデル化した汚染表面の輪郭形状や汚染立体のモデル、例えば円柱形などの選択や必要事項を入力するのに用いられる。放射能計測部26の放射能演算及び評価部264において、典型的には、上述した複数の式に基づいて線源の上限放射能、測定放射能、下限放射能が求められ、また、安全判定用のしきい値との対比で安全側の放射能評価が求められ、仮に安全でない場合には、アラーム信号が生成される。作業者が、手動入力部262を使って最長距離LMaxを設定したときには、当該入力された最長距離LMaxが最長距離LMaxであると決定され、この決定された最長距離LMaxに基づいて上限放射能が算出される。この場合には、放射能計測部26が「最長距離決定部」を構成することになる。
【0045】
BSサーベイメーター20の表示部8(図6)には、次の表示項目が表示可能である。
(1)放射線量
(2)距離計6で計測した距離
(3)上限放射能
(4)下限放射能
(5)上限放射能と下限放射能
(6)測定放射能
(7)上限放射能と下限放射能と測定放射能
(8)上限放射能と、実測した測定放射能
(9)余裕度
(10)余裕度と測定放射能
(11)安全側の放射能評価などの測定結果通知
(12)アラーム(音を含む)
【0046】
BSサーベイメーター20の表示部8(図6)の表示に関し、表示モード切り替え可能であってもよく、作業者によって択一的に表示モードを選択できるのがよい。具体的には、第1モードとして線量計4で計測した放射線量を表示する放射線量表示モード、第2モードとして距離計6で測定した実測距離や最長距離LMax、最短距離LMinを表示する距離表示モード、第3モードとして放射能に関する上記の項目(3)ないし(12)を表示する放射能表示モードであり、第3の表示モードに関して、作業者が表示項目を選択できるようにしてもよい。
【0047】
もちろん、項目(1)の放射線量と、項目(3)ないし(12)の任意の項目を同時に表示部8(図6)に表示するようにしてもよい。また、項目(2)の距離と、項目(3)ないし(12)の任意の項目を同時に表示部8に表示するようにしてもよい。また、項目(1)の放射線量と、項目(2)の距離と、項目(3)ないし(12)の任意の項目を同時に表示部8に表示するようにしてもよい。ここに、上記項目(9)の「余裕度」とは、安全と判断できるしきい値を予め登録しておき、このしきい値と、測定した放射能または上限放射能との差分を意味する。例えば、測定した放射能または上限放射能がしきい値を大きく下回っているときには、二重丸を表示することで余裕度を表示することができる。また、余裕度が大きいときには、音声で「安全です。」と測定結果通知を行ってもよい。
【0048】
BSサーベイメーター20によれば、汎用されているシンチレーション式サーベイメーター4と同様に、現場でリアルタイムに放射能に関する情報を表示でき、作業者は、現場において、表示部8(図6)を見ることで、リアルタイムに安全性に関する目安を知ることができる。放射能量と距離とを同時に表示してもよいし、放射能量、線量率又は線量、距離との3つの値を同時に表示してもよい。
【0049】
現場の状況を考えると、作業者がリアルタイムで知りたい情報は、測定した放射能が安全側に位置しているか否かである。また、どの程度安全側であるかである。このことを念頭に置くと、作業者は、表示部8(図6)の表示に関し、多くの場合、上記項目(7)上限放射能と下限放射能と測定放射能、項目(8)上限放射能と測定放射能、項目(9)余裕度、(10)余裕度と測定放射能、(11)安全側の放射能評価などの測定結果通知のいずれかを選択することであろう。
【0050】
表示部8(図6)に数値表示した場合、作業者は測定対象物から目線を表示部8に移動させて測定値を認識することができる。作業現場において、測定対象物から目を離すことができない状況の場合、例えば、測定対象物を見ながら連続的に測定作業を進行させる場合、表示部8の表示を目で確認することができない。この状況を想定したときに、実施例のBSサーベイメーター20は、測定値のレベルや安全性の度合いに応じた数のクリック音(カウント/sec)を発生させる、または、測定値や測定結果、評価を音声で読み上げる測定結果通知に加えてもよい。上記項目(9)のアラーム発信についても同様である。
【0051】
また、上記の音による通知に代えて、又は、音による通知に加えて、測定値のレベルに応じた数の光の点滅、振動の強弱による通知であってもよい。これにより、作業者は、目線を表示部8(図6)に移動させることなく、音、光、振動を通じて、安全性に関する情報を察知することができる。
【0052】
上述した実施例において、実在線源を構成する点線源から測定器までの距離のうち、最大値となる最長距離LMax、そして最小値となる最短距離LMinを考慮した式に基づいて安全側評価放射能が得られることを説明した。
【0053】
具体的な実例では、距離以外に、例えば体積が原因となる自己遮蔽の影響を受ける。その結果、実在線源を構成するそれぞれの点線源iが作る線量率は、1/FPiに減少する。ここに、「FPi」を遮蔽等影響係数と呼ぶと、遮蔽等影響係数FPiは点線源iごとに異なる。遮蔽等影響係数FPiの最大値を「FMax」で表すと、安全側評価放射能は、下記の式11、式12で求めることができる。
【0054】
代表距離Lと最短距離LMinが一致する場合:下記の式11が適用される。
【数11】
【0055】
代表距離Lと最短距離LMinが一致しない場合:下記の式12が適用される。
【数12】
【0056】
上記の式11、式12は、距離離以外の影響がある場合において、実在線源の放射能が、これよりは大きくないことを保証する安全側評価放射能を表している。
【符号の説明】
【0057】
20 ポータブル・ベクレル・シーベルトサーベイメーター(BSサーベイメーター)
4 シンチレーション式サーベイメーター(線量計)
6 距離計
8 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7