(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025096749
(43)【公開日】2025-06-30
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20250623BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20250623BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20250623BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/378
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212648
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 開任
【テーマコード(参考)】
2G216
【Fターム(参考)】
2G216BA54
2G216CB11
(57)【要約】
【課題】精度をより向上して蓄電デバイスを評価する。
【解決手段】本開示の評価装置は、正極と負極とを備えた蓄電デバイスの評価を実行する評価装置であって、正極及び負極における電子抵抗と、イオン抵抗と、過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗と被膜抵抗とを含む電荷移動抵抗と、を含む伝送線モデルを用いて蓄電デバイスの評価を実行する制御部、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを備えた蓄電デバイスの評価を実行する評価装置であって、
前記正極及び前記負極における電子抵抗と、イオン抵抗と、過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗と被膜抵抗とを含む電荷移動抵抗と、を含む伝送線モデルを用いて前記蓄電デバイスの評価を実行する制御部、
を備えた評価装置。
【請求項2】
前記伝送線モデルは、前記反応抵抗と前記被膜抵抗とが直列で接続された前記電荷移動抵抗を含む、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記伝送線モデルは、正極及び負極をブロック化し各ブロックに前記電子抵抗と前記イオン抵抗と前記電荷移動抵抗とが接続された構造を有する、請求項1又は2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記伝送線モデルは、電子が伝導する固体部分に対して前記電子抵抗が各ブロック間に接続され、イオンが伝導するイオン伝導媒体部分に対して前記イオン抵抗が各ブロック間に接続された二層構造の回路として規定されており、電極反応によってイオンと電子との移動が切り替わるよう前記イオン抵抗と前記電子抵抗とが前記電荷移動抵抗で接続された構造を有する、請求項3に記載の評価装置。
【請求項5】
前記蓄電デバイスは、前記正極と前記負極との間にイオン伝導媒体を備え、
前記伝送線モデルは、前記イオン伝導媒体で分離されている正極ブロックと負極ブロックとの間では前記イオン抵抗により接続された構造を有する、請求項3に記載の評価装置。
【請求項6】
前記伝送線モデルは、Butler-Volmer式から得られた前記反応抵抗が導入されている、請求項1又は2に記載の評価装置。
【請求項7】
前記伝送線モデルは、Butler-Volmer式の非対称パラメータαを0.5とした式を用いて前記反応抵抗が導入されている、請求項6に記載の評価装置。
【請求項8】
前記伝送線モデルは、前記正極及び/又は前記負極に含まれる活物質を球の集合体と仮定した前記被膜抵抗が導入されている、請求項1又は2に記載の評価装置。
【請求項9】
正極と負極とを備えた蓄電デバイスの評価を実行する評価方法であって、
前記正極及び前記負極における電子抵抗と、イオン抵抗と、過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗と被膜抵抗とを含む電荷移動抵抗と、を含む伝送線モデルを用いて前記蓄電デバイスの評価を実行するステップ、
を含む評価方法。
【請求項10】
請求項9に記載の評価方法のステップを1又は複数のコンピュータに実現させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、評価装置、評価方法及びプログラムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしてのリチウム二次電池を評価する手法としては、内部抵抗を評価することを目的として、三次元電池構造の影響を考慮した伝送線モデルである三次元多孔体電極モデル(3D porous electrode model:3D-PEM)を提案している(例えば、特許文献1、非特許文献1など参照)。伝送線モデルは電池内の複雑な反応を単純な回路図に置き換えるため、電池内反応の時間発展を解く連続体モデルを使ったいわゆる電池シミュレーションと比較して高速に内部抵抗を評価することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】iScience, 23, 101317 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1の評価方法では、単純にした回路図を用いるため、その評価精度が十分でなく、その評価精度をより向上することが求められていた。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、精度をより向上して蓄電デバイスを評価することができる新規な評価装置、評価方法及びプログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、界面抵抗が電荷移動抵抗に強く依存する領域において、電流の依存性を導入すると、評価精度をより向上して蓄電デバイスを評価することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本開示の評価装置は、
正極と負極とを備えた蓄電デバイスの評価を実行する評価装置であって、
前記正極及び前記負極における電子抵抗と、イオン抵抗と、過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗と被膜抵抗とを含む電荷移動抵抗と、を含む伝送線モデルを用いて前記蓄電デバイスの評価を実行する制御部、
を備えたものである。
【0009】
本開示の評価方法は、
正極と負極とを備えた蓄電デバイスの評価を実行する評価方法であって、
前記正極及び前記負極における電子抵抗と、イオン抵抗と、過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗と被膜抵抗とを含む電荷移動抵抗と、を含む伝送線モデルを用いて前記蓄電デバイスの評価を実行するステップ、
を含むものである。
【0010】
本開示のプログラムは、上述した評価方法のステップを1又は複数のコンピュータに実現させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示の評価装置、評価方法及びプログラムでは、精度をより向上して蓄電デバイスを評価することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、伝送線モデルにおいて、蓄電デバイスの電極内は、対応する抵抗がイオン抵抗であるイオンが流れるイオン伝導媒体部分と、対応する抵抗が電子抵抗である電子が流れる固体部分の二層構造の回路となっている。また、電極反応によって電流の担い手がイオンから電子に切り替わることから、イオン抵抗と電子抵抗は界面抵抗で繋がれている。この界面抵抗は、従来、回路を単純化するために、界面抵抗の電荷移動抵抗を放電電流に依存しない定数で近似した伝送線モデルとしていたが、放電開始時などには内部抵抗は電流に依存するものであり、実験と電池シミュレーションとの内部抵抗に誤差が生じることがあった。本開示では、電流依存する反応抵抗と電流依存しない被膜抵抗とを電荷移動抵抗に導入し、伝送線モデルに適用することによって、評価精度をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図5】3次元電池構造を生成する構造生成条件の一例の説明図。
【
図6】構造生成条件を用いて生成し評価に用いた3次元電池構造の説明図。
【
図7】LFPとLTOで構成される3次元電池構造の1Cでのエネルギー予測した結果図。
【
図8】LFPとLTOで構成される3次元電池構造の4Cでのエネルギー予測した結果図。
【
図9】NMC532とグラファイトで構成される3次元電池構造の1Cでのエネルギー予測した結果図。
【
図10】NMC532とグラファイトで構成される3次元電池構造の4Cでのエネルギー予測した結果図。
【
図11】過電圧ηに対して界面電流Iをプロットした関係図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(評価装置)
本明細書で開示する評価装置の実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、評価装置20の一例を示す概略説明図である。
図2は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。
図3は、3次元電極モデルの一例を示す説明図であり、
図3Aは正負極が平板ではない3次元電池の概念図であり、
図3Bは
図3Aの構造を考慮した回路図である。
図4は、3次元電池構造における電極反応の模式図である。評価装置20は、例えば、蓄電デバイス10の内部抵抗を計算によって評価する装置として構成されているものとしてもよい。
【0014】
蓄電デバイス10は、例えば、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池、空気電池などが挙げられる。このうち、蓄電デバイス10としては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイス10がリチウムイオン二次電池であるものとして主として説明する。蓄電デバイス10は、例えば、正極12と、負極15と、正極12及び負極15の間に介在するイオン伝導媒体18と、を備えるものとしてもよい。イオン伝導媒体18は、例えば、電解液と、電解液を含むセパレータとにより構成されているものとしてもよい。あるいは、イオン伝導媒体18は、正極12及び負極15の間に介在する固体電解質としてもよい。正極12は、集電体14と、集電体14の一面に形成された正極活物質層13とを備える。正極活物質層13には、正極活物質が含まれ、必要に応じて更に導電材や結着材を含むものとしてもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、鉄を含むリン酸化合物などが挙げられる、正極活物質は、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などを用いることができる。また、正極活物質としては、リン酸鉄リチウムなどが挙げられる。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。負極15は、集電体17と、集電体17の一面に形成された負極活物質層16とを備える。負極活物質層16には、負極活物質が含まれ、必要に応じて導電材や結着材を更に含むものとしてもよい。負極活物質としては、金属リチウムやその合金、炭素材料、リチウムを含む複合酸化物などを含むものとしてもよい。負極活物質は、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。セパレータには、例えば、支持塩を溶解した電解液が含まれているものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6やLiBF4、などのリチウム塩が挙げられる。電解液の溶媒は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類等が挙げられる。また、イオン伝導媒体18は、固体のイオン伝導性ポリマーや、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0015】
評価装置20は、正極12と負極15とを備えた蓄電デバイス10の評価を実行する装置である。この評価装置20は、例えば、正極12及び負極15の分布を含む所定の電池構造を有する蓄電デバイス10に対して、伝送線モデル24を用いて内部抵抗やセルエネルギーなどを評価するものとしてもよい。評価装置20は、制御部21と、記憶部22と、入力装置38と、表示装置39と、を備える。制御部21は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、装置全体を制御する。記憶部22は、例えば、HDDなど、大容量の記憶装置として構成されており、評価プログラム23や、伝送線モデル24などが記憶されている。入力装置38は、各種入力を行うマウスやキーボードなどを含む。表示装置39は、画面を表示するものであり、例えば液晶ディスプレイである。
【0016】
制御部21は、正極12及び負極15における電子抵抗27と、イオン抵抗28と、電荷移動抵抗30を含む界面抵抗29と、を含む伝送線モデル24を用いて蓄電デバイス10の評価を実行する。伝送線モデル24は、蓄電デバイス10の内部抵抗を評価することを目的として、三次元電池構造の影響を考慮したモデルとして構築されている。この伝送線モデル24は、電池内の複雑な反応を単純な回路図に置き換える三次元多孔体電極モデル(3D porous electrode model:3D-PEM)であり、電池内反応の時間発展を解く連続体モデルを使ったいわゆる電池シミュレーションと比較して高速に内部抵抗などの蓄電デバイス10の評価を実行することが可能である。この評価装置20は、拡散抵抗の寄与が低い放電直後の内部抵抗を評価するものとしてもよい。この領域での評価では、界面抵抗29が電荷移動抵抗30に大きく依存するため、界面抵抗29を電荷移動抵抗30に近似して伝送線モデル24に適用して取り扱うことができる。ここでは、電荷移動抵抗30に、電流依存する反応抵抗31と、被膜抵抗32とを反映することによって、より高い評価精度で内部抵抗を評価することができる。
【0017】
伝送線モデル24は、
図3に示すように、正極12及び負極15をブロック化し、各ブロックに電子抵抗27と界面抵抗29とイオン抵抗28とが接続された構造を有する。この伝送線モデル24は、電子が伝導する固体部分に対して電子抵抗27が各ブロック間に接続され、イオンが伝導するイオン伝導媒体部分に対してイオン抵抗28が各ブロック間に接続された二層構造の回路として規定されており、電極反応によってイオンと電子との移動が切り替わるよう電子抵抗27とイオン抵抗28とが界面抵抗29で接続された構造を有する。更に、伝送線モデル24は、イオン伝導媒体18で分離されている正極ブロック25と負極ブロック26との間ではイオン抵抗28により接続された構造を有する。この伝送線モデル24は、
図4に示すように、反応抵抗31と被膜抵抗32とが直列で接続された電荷移動抵抗30を含む。伝送線モデル24では、分割された要素内の黒丸もしくは白丸が各要素の中心を表しており、その要素中心間を抵抗で繋いでいる。このモデルは多孔体電極をモデル化しているために、電極内は、対応する抵抗がイオン抵抗であるイオンが流れるイオン伝導媒体部分と、対応する抵抗が電子抵抗である電子が流れる固体部分の二層構造の回路となっている。また、電極反応によって電流の担い手がイオンから電子に切り替わるため、イオン抵抗28と電子抵抗27とは、界面抵抗29で繋がれている。これまで、3D-PEMでは電子抵抗27、イオン抵抗28、および界面抵抗29の三種類の抵抗を用いて電池セルの内部抵抗を評価していたが、実験や連続体モデルで評価された内部抵抗に対して誤差が大きいことが懸念された。このため、評価装置20では、3D-PEMへ電流に依存する反応抵抗31を導入した。
【0018】
なお、界面抵抗29は、
図3Aの同一座標上にある電子抵抗のノードとイオン抵抗のノード間に接続されていることに留意を要する。リチウムイオン電池は、例えば、電解液を用いているものについては、多孔体電極内に電解液が染み込んでいるため、それを正確に取り扱うには、
図3Aの正極と負極とは電極部分と染み込んでいる電解液部分がミクロレベルで複雑に入り組んだ構造を表現する必要がある(例えば、
図4を参照)。それをそのまま取り扱うのは困難であるため、このモデルでは、その具体的な構造情報、例えば電極固体と電解液の界面の情報を消して、電解液と電極材料が指定した割合で、同一空間上に平均的に存在しているという近似をしている。なお、上述の特許文献1や非特許文献1などの参照文献を含めてリチウムイオン電池の主流な連続体モデルも同様の取扱いをしている。その近似下では、
図3Aの各要素の中心(ノード)の座標は、現実の電池の座標(実空間座標)であるが、
図3Bの界面抵抗で繋がっているイオン抵抗用のノードと電子抵抗用のノードは実空間における同一座標を表している。つまり、イオン用、電子用のどちらのノードも
図3Aの対応する同じノードを表している。なお、電極部分と電解液部分の界面は、要素内で平均化された電解液と電極の間の界面の面積(と抵抗率)で定義され、その情報は平均化されているため
図3Aには図示されない。
【0019】
3D-PEMは、例えば、参考文献1(Ogihara et al., J. Electrochem. Soc., 159,A1034 (2012))などで開示されている通常の平板対向型構造における多孔体電極の解析で使用される伝送線モデル(transmission line model:TLM) を拡張したものである。3D-PEMでは、まず、
図3Aに示すように三次元電池を要素分割し、
図3Bに示すようにその要素の中心間を抵抗で繋ぐことで等価回路を作る。ここで、構造的特徴を反映するように要素分割することで、電極の三次元構造の効果を考慮に入れた内部抵抗の評価が可能となる。ここでは、この分割された要素を電極要素とも称する。なお、一般的なリチウムイオン電池などで使用される多孔体電極では電極内部に電解液が染み込んでおり、電極内で反応が起こる。それを表現するために、伝送線モデル24では電極内に細線で表現されている電子抵抗(電極内部の固体部分の抵抗)と太線で表されるイオン抵抗(電極内部の液体部分の抵抗)の二種類の回路を配置し、それを四角で表した界面抵抗で結合している。ここで、界面抵抗はモデル化する現象と解析の目的(内部抵抗評価やインピーダンス解析)によって内容が異なり、例えば、電荷移動反応のみを仮定した上で内部抵抗を評価する場合は電荷移動抵抗になる。
【0020】
これまで、3D-PEMでは、電子抵抗、イオン抵抗、および(界面抵抗として)電荷移動抵抗の三種類の抵抗を用いて電池セルの内部抵抗を評価していた。しかしながら、本来放電電流に依存する電荷移動抵抗をその寄与を無視した定数として近似していたため、特に電極/電解液界面の反応抵抗が大きいような場合に、実験や連続体モデルで評価された内部抵抗に対して誤差が大きくなることが懸念される。そこで、電荷移動抵抗を電流依存する形に改良した。3D-PEM を用いて内部抵抗Rinter
3D-PEMを評価する場合、イオン抵抗Rion、電子抵抗Re、および界面抵抗Rctが必要となる。同じ種類(例えば正極同士)の電極要素間を繋ぐイオン抵抗Rionと電子抵抗Re、および同じ集電体要素間の抵抗に関しては以下の式(1)で評価される。ここで、ρはイオン抵抗率ρionもしくは電子抵抗率ρeを表し、lとaは二つの電極要素の中心を繋ぐ抵抗の長さと断面積を表す。
【0021】
正/負極界面のイオン抵抗に関しては以下の式(2)で定義する。ここで、sはセパレータの厚みであり、ρion
pos、ρion
neg 、およびρion
sepはそれぞれ正極、負極、およびセパレータのイオン抵抗率を表す。ここで、ρion
pos、ρion
neg、およびρion
sepは屈曲率など電極、セパレータの性質から影響を受けるため、バルクの電解液のイオン抵抗率とは異なることに留意を要する。電荷移動抵抗に関しては以下の式(4)のように定義される。ここで、ρct
areaとAreacは電極内の活物質と電解液の界面での反応抵抗率(Ωcm2)および反応表面積を表す。反応表面積は以下の式(3)のように計算できると仮定する。ここで、Vはセパレータの体積を除いた一つの電極要素の体積であり、cは反応表面積と電極体積を変換する定数である。式(3)を式(4)に代入することで、式(5)が得られる。ここで、ρct(=ρct
area/c) を電荷移動抵抗率と称し、その単位はΩcm3である。以上から、イオン抵抗率ρion、電子抵抗率ρe、および電荷移動抵抗率ρctが材料パラメータとして得られれば内部抵抗の評価が可能となる。3D-PEM に関するさらなる詳細は文献(Miyamoto et al., iScience, 23, 101317(2020).) およびそのSupplemental Informationを参照されたい。なお、この参照文献では、ρctは定数であり電流依存しない。
【0022】
図4に三次元電池における電極反応の模式図を示す。
図4は、三次元電池の一つである櫛歯構造とその負極/セパレータ界面の拡大図を示している。なお、左・右の櫛歯はそれぞれ正・負極を表しており、正・負極の間の白色の領域はセパレータである。リチウムイオン電池では通常多孔体電極を用いるため、拡大図に示すように電極領域は活物質を含む合材電極の領域と電解液の領域が存在しており、電極反応はその界面で起こる。また、リチウムイオン電池の負極として広く利用されているグラファイトなどは、充放電電位が低いため、初回充電時に電極と電解液の界面に電解液の還元分解による被膜(Solid electrolyte interphase:SEI)を形成することが知られている。また、正極と電解液の界面にも被膜ができる場合があることも知られている。充放電に伴う負極領域の反応に着目すると、充電の際は、電解液中のリチウムイオンが電極表面に到達し、そこで電子を受け取ったあとに電極活物質内に挿入される。一方、放電の場合は、電極活物質内に存在するリチウムが電極表面上で電子を失い、イオンとなって電解液に放出される。充電・放電のいずれにおいても電極活物質と電解液を行き来する際に被膜を通過することを考えると、電極/電解液の界面抵抗R
ctは、以下の式(6)のように反応抵抗と被膜抵抗の直列接続でモデル化できる。ここで、R
reacとR
filmはそれぞれ反応抵抗と被膜抵抗である。
【0023】
3D-PEMにおいては、式(5)に示されるようにRct=ρct/Vであることから、RreacとRfilmも同様に、式(7),(8)と書くことができる。ここで、ρreacとρfilmはそれぞれ反応抵抗率と被膜抵抗率を表し、式(5)~(8)からρct=ρreac+ρfilmが導かれる。よって、ρreacとρfilmが決まれば、ρctが決まるため、3D-PEMで内部抵抗を評価することが可能となる。ρfilmの決定方法は、例えばJ. Electrochem. Soc., 143, 1890 (1996).に示されるように、材料の物性パラメータとしては、反応表面積あたりの被膜抵抗ρfilm
areaが定数として与えられている。これを使うと、Rfilmは式(3)~(5)と同様の議論で式(9)のように書くことができる。この式をρfilmで解くと、式(10)となり、VおよびAreacの比が分かれば、ρfilmを求めることができる。その一例として、例えば活物質が半径rsの球の集合体と仮定した場合は、Areac=3εsV/rsとなるため、式(11)となる。ここで、εsは電極内の固体の体積割合である。ρfilmは定数であり、電流に依存しない。
【0024】
ρ
reacの決定方法としては、リチウムイオン電池の連続体シミュレーションを実施する場合、電極/電解液界面を流れる電流Iは、1段階1電子移動のButler-Volmer式として式(12)で表現される。特に、酸化還元反応の非対称パラメータαを0.5とした式(13)が広く利用されている。ここで、I
0、F、R、T及びηはそれぞれ交換電流、ファラデー定数、気体定数、温度、および過電圧を表す。この式をηについて解くと、式(14)となる。R
reacは、過電圧ηを界面電流Iで微分することで求まるので、式(15)となる。ここで、電極/電解液界面を流れる電流Iは電流の保存則より、充・放電電流I
extと一致すること、および交換電流I
0は交換電流密度i
0を使ってI
0=i
0A
reacと書けることを使った。式(7)との対応から、式(16)となる。仮に、活物質が球であると仮定すると、ρ
filmと同様の議論で、式(17)とすることができる。式(15)、(16)は、電流I
extに依存するため、反応抵抗率ρ
reac、つまりρ
ctを電流依存する形式で規定することができる。なお、非対称パラメータαが0.5でない場合や、界面電流Iと過電圧ηとの関係がButler-Volmer式で表現されない場合は、解析的にはρ
reacを求めることができない場合があるが、そのような場合においても、電流Iを過電圧ηに対して評価し、その数値微分の逆数を計算することで、ρ
reacを求めることができる。その計算の一例は、詳しくは後述する(
図11)。なお、一般的な反応抵抗率ρreacの評価方法は、Butler-Volmer式の式(12)、もしくは式(13)を線形近似したあとに抵抗を求める方法であり、仮に活物質を球と仮定した場合は、式(18)となる。式(18)において、LFAはlow field assumptionを意味し、ρ
reac
LFAは電流に依存しない定数となる。
【0025】
【0026】
【0027】
評価装置20において、制御部21は、上記定義に基づいて、正極12及び負極15における電子抵抗27と、イオン抵抗28と、界面抵抗29とを含む伝送線モデル24を用いて蓄電デバイス10の評価を実行する。この評価装置20は、例えば、界面抵抗29が電荷移動抵抗30に依存する領域において蓄電デバイス10の評価を行うものとする。この伝送線モデル24では、蓄電デバイス10に対する過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗31と被膜抵抗32とを含む電荷移動抵抗30を界面抵抗29として評価が実行される。伝送線モデル24は、反応抵抗31と被膜抵抗32とが直列で接続された電荷移動抵抗30を含むものとしてもよい。伝送線モデル24は、
図3に示すように、正極12及び負極15をブロック化し各ブロックに電子抵抗27とイオン抵抗28と界面抵抗29としての電荷移動抵抗30とが接続された構造を有するものとしてもよい。この伝送線モデル24は、電子が伝導する固体部分に対して電子抵抗27が各ブロック間に接続され、イオンが伝導するイオン伝導媒体部分に対してイオン抵抗28が各ブロック間に接続された二層構造の回路として規定されており、電極反応によってイオンと電子との移動が切り替わるようイオン抵抗28と電子抵抗27とが電荷移動抵抗30で接続された構造を有するものとしてもよい。更に、蓄電デバイス10は、正極12と負極15との間にイオン伝導媒体18を備え、伝送線モデル24は、イオン伝導媒体18で分離されている正極ブロック25と負極ブロック26との間ではイオン抵抗28により接続された構造を有するものとしてもよい。このような構造では、比較的簡素な構造として規定しつつ、評価結果の正確性をより高めることができる。
【0028】
この伝送線モデル24において、反応抵抗31は、Butler-Volmer式で規定されることが好ましい。Butler-Volmer式は、1段階1電子移動の式であり、蓄電デバイス10の連続体シミュレーションを実施するのに良好である。また、反応抵抗31において、Butler-Volmer式の非対称パラメータαは、0.5とするものとしてもよい。非対称パラメータαが0.5である場合は、酸化還元反応が同等に見積もられ、更に、過電圧ηと電流Iとの関数を微分する際の式展開をより容易にすることができるため、好ましい。Butler-Volmer式は、上記式(12)であり、α=0.5では、式(13)となる。また、これを展開して得られる反応抵抗31は、式(15)である。被膜抵抗32は、反応表面積あたりの抵抗値としてもよい。また、被膜抵抗32は、正極12及び/又は負極15に含まれる活物質を球の集合体と仮定して得られるものとしてもよい。被膜抵抗32は、活物質を球とした場合、上記式(9)に式(11)を代入することで表すことができる。
【0029】
(評価方法)
次に、こうして構成された本実施形態の評価装置20の処理、特に、評価装置20が実行する評価方法について説明する。この評価方法は、蓄電デバイス10の評価を実行する方法である。この評価方法は、例えば、正極及び負極の分布を含む所定の電池構造を有する蓄電デバイス10に対して、伝送線モデル24を用いて内部抵抗やセルエネルギーなどを評価するものとしてもよい。この評価方法は、正極12及び負極15における電子抵抗27と、イオン抵抗28と、界面抵抗29と、を含む伝送線モデル24を用いて蓄電デバイス10の評価を実行するステップ、を含む。この伝送線モデル24では、蓄電デバイス10に対する過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗31と被膜抵抗32とを含む電荷移動抵抗30を界面抵抗29として評価が実行される。なお、伝送線モデル24や評価に用いる式については、上述した蓄電デバイス10の内容を用いるものとして、ここでは、その詳細な説明は省略する。
【0030】
3D-PEMで電池セルの内部抵抗を評価する方法について説明する。評価装置20では、以下の処理によって電池セルの内部抵抗を評価する。以下では、電極活物質は同一の半径r
sの球で構成されると仮定する。これにより、電極(正極もしくは負極全体)の体積Vと反応表面積A
reacの比がr
s/3ε
sとなる。ここで、ε
sは、電極領域内の固体成分の体積である。また、ここでは
図3Aの3D電池の内部抵抗を一例として評価すると仮定する。
(1)電子抵抗率(ρ
e[Ωcm])とイオン抵抗率(ρ
ion[Ωcm])を有効電子伝導率および有効イオン伝導率から求める。この算出法は、Miyamoto et al., Cell Rep. Phys. Sci., 2, 100504 (2021).に詳しい。
(2)あらかじめ与えられた材料物性パラメータ(例えば、後述の表1のr
s[m]、ε
s、およびρ
film
area[Ωm
2])を式(11)に代入してρ
film[Ωm
3もしくはΩcm
3]を求める。
(3)あらかじめ与えられた材料物性パラメータ(例えば交換電流密度i
0や交換電流I
0)および設定した放電電流I
extなどを式(16)に代入してρ
reac[Ωm
3もしくはΩcm
3]を求める。
(4)電荷移動抵抗率ρ
ct[Ωm
3もしくはΩcm
3]をρ
ct=ρ
film+ρ
reacで求める。
(5)
図3Bの各要素中心間の距離とそれに垂直な断面積は分かっており、かつ、ρ
eとρ
ionが分かっているので、式(1)などを使って各要素中心間を繋ぐイオン抵抗R
ion[Ω]、もしくはR
e[Ω])が計算できる。また、界面抵抗R
ctは本開示の範囲内では、電荷移動抵抗[Ω]であるが、各要素内のR
ct[Ω]はρ
ctと各要素の体積を使って式(5)で求めることができる。
【0031】
これにより、
図3Bのすべての要素中心間を繋ぐ抵抗が決定できた。
図3Bの要素中心間の抵抗が決定されると、閉路電流法もしくは節点電位法といった標準的な方法で内部抵抗を評価できる(参考文献:服藤憲司著、グラフ理論による回路解析、森北出版株式会社(2014).)。内部抵抗は
図3Aの正極側の集電箔と負極側の集電箔との間の抵抗であるため、例えば、節点電位法を使用した場合は、外部電源と接続している節点の電位V1とV2(
図3B)を求めれば、キルヒホッフの第二法則を使うなどによって内部抵抗が評価できる。
【0032】
以上説明した本実施形態の評価装置20及び評価方法では、精度をより向上して蓄電デバイスを評価することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、伝送線モデル24において、蓄電デバイス10の電極内は、対応する抵抗がイオン抵抗28であるイオンが流れるイオン伝導媒体部分と、対応する抵抗が電子抵抗27である電子が流れる固体部分の二層構造の回路となっている。また、電極反応によって電流の担い手がイオンから電子に切り替わることから、イオン抵抗28と電子抵抗27は界面抵抗29で繋がれている。この界面抵抗29は、従来、回路を単純化するために、界面抵抗29の電荷移動抵抗30を放電電流に依存しない定数で近似したモデルとしていたが、放電開始時などには内部抵抗は電流に依存するものであり、実験と電池シミュレーションとの内部抵抗に誤差が生じることがあった。本開示では、電流依存する反応抵抗31と電流依存しない被膜抵抗32とを電荷移動抵抗30に導入し、伝送線モデル24に適用することによって、評価精度をより向上することができる。
【0033】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、本開示を評価装置及び評価方法として説明したが、特にこれに限定されず、評価方法を実行するプログラムとしてもよい。このプログラムは、上述した評価方法の各ステップを1又は複数のコンピュータに実現させるものである。このプログラムはコンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。
【0035】
本開示は、以下の[1]~[17]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 正極と負極とを備えた蓄電デバイスの評価を実行する評価装置であって、
前記正極及び前記負極における電子抵抗と、イオン抵抗と、過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗と被膜抵抗とを含む電荷移動抵抗と、を含む伝送線モデルを用いて前記蓄電デバイスの評価を実行する制御部、
を備えた評価装置。
[2] 前記伝送線モデルは、前記反応抵抗と前記被膜抵抗とが直列で接続された前記電荷移動抵抗を含む、[1]に記載の評価装置。
[3] 前記伝送線モデルは、正極及び負極をブロック化し各ブロックに前記電子抵抗と前記イオン抵抗と前記電荷移動抵抗とが接続された構造を有する、[1]又は[2]に記載の評価装置。
[4] 前記伝送線モデルは、電子が伝導する固体部分に対して前記電子抵抗が各ブロック間に接続され、イオンが伝導するイオン伝導媒体部分に対して前記イオン抵抗が各ブロック間に接続された二層構造の回路として規定されており、電極反応によってイオンと電子との移動が切り替わるよう前記イオン抵抗と前記電子抵抗とが前記電荷移動抵抗で接続された構造を有する、[3]に記載の評価装置。
[5] 前記蓄電デバイスは、前記正極と前記負極との間にイオン伝導媒体を備え、
前記伝送線モデルは、前記イオン伝導媒体で分離されている正極ブロックと負極ブロックとの間では前記イオン抵抗により接続された構造を有する、[3]又は[4]に記載の評価装置。
[6] 前記伝送線モデルは、Butler-Volmer式から得られた前記反応抵抗が導入されている、[1]~[5]のいずれか1つに記載の評価装置。
[7] 前記伝送線モデルは、Butler-Volmer式の非対称パラメータαを0.5とした式を用いて前記反応抵抗が導入されている、[6]に記載の評価装置。
[8] 前記伝送線モデルは、前記正極及び/又は前記負極に含まれる活物質を球の集合体と仮定した前記被膜抵抗が導入されている、[1]~[7]のいずれか1つに記載の評価装置。
[9] 正極と負極とを備えた蓄電デバイスの評価を実行する評価方法であって、
前記正極及び前記負極における電子抵抗と、イオン抵抗と、過電圧ηと電流Iとの関数を微分して得られ電流Iに依存する反応抵抗と被膜抵抗とを含む電荷移動抵抗と、を含む伝送線モデルを用いて前記蓄電デバイスの評価を実行するステップ、
を含む評価方法。
[10] 前記伝送線モデルは、前記反応抵抗と前記被膜抵抗とが直列で接続された前記電荷移動抵抗を含む、[9]に記載の評価方法。
[11] 前記伝送線モデルは、正極及び負極をブロック化し各ブロックに前記電子抵抗と前記イオン抵抗と前記電荷移動抵抗とが接続された構造を有する、[9]又は[10]に記載の評価方法。
[12] 前記伝送線モデルは、電子が伝導する固体部分に対して前記電子抵抗が各ブロック間に接続され、イオンが伝導するイオン伝導媒体部分に対して前記イオン抵抗が各ブロック間に接続された二層構造の回路として規定されており、電極反応によってイオンと電子との移動が切り替わるよう前記イオン抵抗と前記電子抵抗とが前記電荷移動抵抗で接続された構造を有する、[11]に記載の評価方法。
[13] 前記蓄電デバイスは、前記正極と前記負極との間にイオン伝導媒体を備え、
前記伝送線モデルは、前記イオン伝導媒体で分離されている正極ブロックと負極ブロックとの間では前記イオン抵抗により接続された構造を有する、[11]又は[12]に記載の評価方法。
[14] 前記伝送線モデルは、Butler-Volmer式から得られた前記反応抵抗が導入されている、[9]~[13]のいずれか1つに記載の評価方法。
[15] 前記伝送線モデルは、Butler-Volmer式の非対称パラメータαを0.5とした式を用いて前記反応抵抗が導入されている、[14]に記載の評価方法。
[16] 前記伝送線モデルは、前記正極及び/又は前記負極に含まれる活物質を球の集合体と仮定した前記被膜抵抗が導入されている、[9]~[15]のいずれか1つに記載の評価方法。
[17] [9]~[16]のいずれか1つに記載の評価方法のステップを1又は複数のコンピュータに実現させる、プログラム。
【実施例0036】
以下には、本開示の評価方法及び評価装置を具体的に検討した例を実験例として説明する。
【0037】
(評価条件)
本発明の効果を評価するために、三次元リチウムイオン電池を対象として、連続体モデルの放電計算から評価した内部抵抗に対する3D-PEMで評価された内部抵抗の誤差を評価した。さらに、参考文献1(Miyamoto et al., Cell Rep. Phys. Sci., 2, 100504(2021).)で報告されているように、この3D-PEMの内部抵抗を特徴量の一つとして使用することで3D電池の重要な特性であるエネルギーを予測するモデルが作成できる。そこで、そのエネルギー予測モデルの精度に関しても評価した。使用する材料に関しては、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LFP)とチタン酸リチウム(LTO)との組み合わせの第1電池と、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Li(1-x)NiaMnbCocO2(NMC532:a=0.5、b=0.3、c=0.2)と負極活物質としてグラファイトとした第2電池とを用いた。電解液は、LiPF6を1.0Mの濃度で、体積比1:2で混合した(EC+DMC)溶媒に溶解したものとポリマーとの混合によるポリマー電解質とした。これらの材料物性パラメータは、表1~3にまとめた。
【0038】
図5は、3次元電池構造を生成する構造生成条件の一例の説明図である。
図6は、構造生成条件を用いて生成した3次元電池構造の説明図である。この
図5は、
図6の3D電池構造をAutomatic geometry generatorで生成した際の構造生成条件である。
図5に示すように、三次元電池の寸法は、3000μm×600μm×3000μmであり、構造の設計解像度は50×10である。このセル内に、正・負極の体積割合が5:5、且つ点線の枠内のみを設計自由度とした。下半分は周期性から決定される、即ち、上半分の構造がコピーされる。左側にある直方体が正極、右側にある直方体が負極を表す。また、正・負極はセパレータによって分けられており、その厚みは20μmとした。集電箔は側面に設置されており、その面積は縦×奥行=3000μm×3000μm)とした。ここでは、
図6に示す構造を計算対象とした。これらは非特許文献1において、
図5の計算条件下でAutomatic geometry generatorを使って生成された50000構造のうちの1つの構造である。
【0039】
また、連続体シミュレーションの計算条件としては、温度はT=298Kとした。放電電流に関しては、基準となる電流Iext=3.16mA/cm2を1CRef.と称し、LFP/LTOで構成される三次元電池に関しては、1CRef.-4CRef.(ここで、4CRef.は1CRef.の4倍の電流量を表す)におけるシミュレーションを実行した。また、NMC532/Graphiteで構成される三次元電池に関しては、1CRef.-4CRef.におけるシミュレーションを実行した。3D-PEMの抵抗パラメータは表1~3の材料パラメータ(およびρreacは放電電流)から計算され、その値は表4~5にまとめた。その他の連続体モデルの計算条件や、エネルギー予測モデルの作成方法に関しては、後述の結果、および、参考文献1を参照した。
【0040】
表1にLFPとLTOを活物質としたときの合材電極の物性パラメータをまとめた。このパラメータ以外にLFPとLTOのOpen circuit potential(OCP)が必要となるが、それらは参考文献2:J. Appl. Electrochem., 47, 281(2017)、および参考文献3:J. Electrochem. Soc., 155, A253(2008).の関数を使用した。表2にNMC532とGraphiteを活物質としたときの合材電極の物性パラメータをまとめた。このパラメータ以外にNMC532とGraphiteのOCPが必要となるが、それらは参考文献4:J. Electrochem. Soc., 166, A1412(2019).および参考文献5:J. Power Sources, 185, 1398(2008).の関数を使用した。表3に電解液(LiPF6/1EC2DMC and PVdF-HFP)の物性パラメータをまとめた。このパラメータ以外に導電率の関数が必要となるが、それは、参考文献6:J. Electrochem. Soc., 143, 1890(1996).の関数を使用した。表4は、正・負極活物質をそれぞれLFPとLTOとした場合の3D-PEMの抵抗パラメータをまとめた。ここで、セパレータのイオン抵抗率は348.07[Ωcm]とした。表5は、正・負極活物質をそれぞれNMC532とGraphiteとした場合の3D-PEMの抵抗パラメータをまとめた。ここで、セパレータのイオン抵抗率は584.70[Ωcm]とした。表6は、正・負極活物質がLFPとLTOで構成される電池の電流量に依存した内部抵抗の比較をまとめた。CrateはxCRef.=x×3.16[mA/cm2]のxの値である。また、LFAは式(18)、つまりρreacが外部電流に依存しない場合の結果である。表7は、正・負極活物質がNMC532とGraphiteで構成される電池の電流量に依存した内部抵抗の比較をまとめた。CrateはxCRef.=x×3.16[mA/cm2]のxの値である。また、LFAは式(18)、つまりρreacが外部電流に依存しない場合の結果である。
【0041】
(エネルギー予測モデルの精度)
本開示を使用して算出した内部抵抗を特徴量の一つとして使用した主成分回帰によって三次元電池のエネルギーを予測するモデルを作成し、その精度を評価した。なお、この回帰モデルは、参考文献1において、正・負極体積割合が5:5の場合の回帰モデルの作成手順に従って作成されており、その性能評価法もこの文献の手順に従う。この文献の回帰モデル作成法と本検討の相違点は、以下の二点である。
(1) 特徴量として使用している3D-PEMで評価された内部抵抗が本発明によって計算されていること。
(2)1つの構造を表現する特徴量として、参考文献1に記載の14種類の値に加えて、
図3Aで定義される各ノードと最短距離にある対極ノードとの距離およびその二乗の平均、分散、および標準偏差を追加したこと。これらの値は
図3Aで定義される各ノード関して、最短距離にある対極ノードとの距離とその二乗値を、正・負極すべてのノードで評価し、その平均、分散、および標準偏差を計算することで求めた。
【0042】
図7は、LFPとLTOで構成される3次元電池構造の1Cでのエネルギー予測した結果図である。
図8は、LFPとLTOで構成される3次元電池構造の4Cでのエネルギー予測した結果図である。
図7、8において、True energyが連続体モデルで評価したエネルギーを表し、predicted energyが回帰モデルで予測したエネルギーを表す。黒の菱形がトレーニングデータを表し、丸がテストデータを表す。この回帰モデルは、参考文献1において、正・負極体積割合が5:5の場合の回帰モデルの生成方法に従って作成されており、その精度評価方法もこの文献に従った。この文献に対する本回帰モデル生成における相違点は、特徴量の一つとして使用している内部抵抗は本発明から得られていること、参考文献1で使用されている特徴量に加えて
図3Aの対極ノード間距離とその二乗値の最小値の平均値、分散、標準偏差が新たに特徴量として追加されていることである。また、4Cのトレーニングデータ数は文献の50ではなく49としている。これは、ある一つの構造の連続体モデルの計算が破綻したため、その点を除外したからである。また、図中のR
2(train.), R
2(test), 及びN
PCはそれぞれトレーニングデータにおける決定係数、テストデータにおける決定係数、および、主成分回帰モデルに使用した主成分の数である。
図7,8に示すように、電流量が1Cにおいても4CにおいてもテストデータのR
2値が0.955以上と極めて高精度な予測モデルができていることが分かった。
【0043】
図9は、NMC532とグラファイトで構成される3次元電池構造の1Cでのエネルギー予測した結果図である。
図10は、NMC532とグラファイトで構成される3次元電池構造の4Cでのエネルギー予測した結果図である。
図9のA、
図10のBどちらの回帰モデルもトレーニングデータとして参考文献1に記載の50構造を使用していることを除いて、生成方法およびその性能評価方法は
図7,8と同様である。
図9、10に示すように、こちらも
図7,8と同様にテストデータのR
2値として0.988以上という極めて高精度な予測モデルができたことが明らかとなった。
【0044】
(内部抵抗の比較)
次に、電流I
extに依存した3D-PEMの内部抵抗(R
inter
3D-PEM)を、対応する連続体モデルから評価された放電初期の内部抵抗(R
inter
CM)と比較した。ここで、比較対象を放電初期の内部抵抗とした理由は、放電初期は(今回3D-PEMで考慮に入れていない)拡散抵抗に起因する抵抗がないため、界面抵抗R
ctのI
ext依存性が明確に評価できるためである。なお、R
inter
CMは、シミュレーションの最初期の電池の過電圧(開回路電圧から実際の電池電圧を差し引いたもの)をI
extで除算することで計算できる。評価した三次元電池の構造は、
図6に示した。
【0045】
(正・負極活物質がLFPとLTOで構成された第1電池の結果)
正、負極活物質をそれぞれLFP、LTOとした場合の三次元電池の内部抵抗の電流依存性を評価した(表6)。この表のCレートが1-4における正・負極のρreacの値から、電流量の増大と共にρreacが低下する様子が確認できた。つまり、外部電流量に依存してρreacが変化する様子が確認できた。続いて3D-PEMで評価した電池の内部抵抗Rinter
3D-PEMを連続体モデルで評価した放電初期の内部抵抗Rinter
CMと比較した結果、両者は良く一致していることが分かった。LFAで評価した場合、式(17)のRinter
3D-PEMが連続体モデルの値に対して200Ω以上と誤差が大きいことから、本開示の有効性を確認することができた。
【0046】
(正・負極活物質がNMC532とGraphiteで構成された電池の結果)
正、負極活物質をそれぞれNMC532、Graphiteとした場合の三次元電池の内部抵抗の電流依存性を評価した(表7)。表6と同様に外部電流量によってρreacが変化する様子が確認され、Rinter
3D-PEMは、本発明の方がLFAの場合と比較してRinter
CMに対する誤差が小さかった。なお、表6と表7の比較から、正・負極活物質がNMC532、Graphiteの場合はρreacの電流依存性が小さいことが分かった。しかし、その依存性は、反応抵抗や材料の濃度、粒子半径や合材電極中の固体成分の体積割合などに依存するため事前予測することは難しいと推察された。よって、そのような事前検討をする必要なく、どのような材料系においても内部抵抗評価が可能となる本開示は特に材料探索をする上で重要であるものと推察された。
【0047】
(数値的にρ
reacを求める方法)
ρ
reacを解析的な式(16)ではなく、数値的に求める方法を以下に説明する。この例では、表6のLFPの1C
Ref.と4C
Ref.のρ
reacをステップバイステップで求める。その場合、式(16)を導出した際に用いた界面電流Iと過電圧ηの関係式は、式(13)である。まず、式(13)を使用してηに対してIをプロットする。
図11は、過電圧ηに対して界面電流Iをプロットした関係図である。この例では、式(13)に対して、LFPの材料パラメータ(I
0=7.06×10
-5[A]) 、温度はT=298Kを使ってプロット点を求めた。特定のプロット点は、表6の1C
Ref.および4C
Ref.におけるデータである。また、破線はこれらの点における接線である。界面電流Iの過電圧ηに対する数値微分(近似的なdI/dη)は特定点の左右の点を使って標準的な中心差分法を使って求めるものとする。
図11から界面電流Iが1C
Ref.と4C
Ref.の放電電流I
extと一致する過電圧ηを探す。なお、放電電流I
extと界面電流Iとを一致させるのは電流保存則によるものである。また、今回の例(
図6)の集電箔の面積が0.09cm
2であるので、例えば、
図11の1C
Ref.のI
ext=0.000284[A]は、3.16[mA/cm
2]となる。次に、見つかった1C
Ref.と4C
Ref.に対応するデータ点に対して数値的に微分を求める(dI/dη)。
図11には、特定の丸の左右の点のデータを使って標準的な中心差分法を使用して計算した結果を掲載した。次に、dI/dηの逆数がR
reac[Ω]となる。つまり、dI/dη=6.1716×10
-3の場合はR
reac=1/(6.1716×10
-3)=162.03[Ω]となる。次に、式(7)を使ってR
reac[Ω]からρ
reacを求める。
図6の場合は、正極の体積が2.2518×10
-9[m
3]なので、1C
Ref.のρ
reacは0.3649[Ωcm
3]となり、また、4C
Ref.のρ
reacは0.1011[Ωcm
3]となる。これらの値は表6の解析式(16)で求めた値と一致する。このように、この方法の場合は、式(16)のような解析的な式は不要であり、
図11のようにIがηに対してプロットすることさえできれば、非対称パラメータαを0.5に規定しなくとも、ρ
reacを求めることができる。一方、解析的な式(16)を使用するメリットは、以下の二点である。一つ目は、数値的な解法と比較して簡便であること、二つ目は、値が正確であることである。なお、今回の例では、表示されている桁数において数値が一致しているが、数値的な解法は近似的に求める式であり、誤差が含まれていることに留意を要する。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
なお、本明細書で開示した評価装置、評価方法及びプログラムは、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、18 イオン伝導媒体、20 評価装置、21 制御部、22 記憶部、23 評価プログラム、24 伝送線モデル、25 正極ブロック、26 負極ブロック、27 電子抵抗、28 イオン抵抗、29 界面抵抗、30 電荷移動抵抗、31 反応抵抗、32 被膜抵抗、38 入力装置、39 表示装置。