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特開2025-9676空気極用触媒、空気極および空気二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009676
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】空気極用触媒、空気極および空気二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20250109BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20250109BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20250109BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20250109BHJP
   C25B 11/052 20210101ALN20250109BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/90 B
H01M12/08 K
B01J23/889 M
C25B11/067
C25B11/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184492
(22)【出願日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2023108193
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】打田 眞人
(72)【発明者】
【氏名】山際 勝也
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 将任
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 龍之介
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA06A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC01A
4G169BC08A
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC68B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EC22X
4G169EC23
4G169EC28
4G169EC30
4G169EE09
4G169FA01
4G169FB06
4G169FB30
4G169FB57
4K011AA04
4K011AA58
4K011AA64
4K011DA01
5H018AA01
5H018AA10
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB11
5H018BB12
5H018EE13
5H018HH03
5H018HH08
5H018HH09
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS11
5H032CC11
5H032EE02
5H032EE15
5H032HH01
5H032HH04
5H032HH06
(57)【要約】
【課題】触媒の単位量当りの活性を各材料の単位量当りの活性に比べて高くできる空気極用触媒、空気極および空気二次電池を提供する。
【解決手段】空気極用触媒は、Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつ第1の酸化物と第2の酸化物とを含み、X線吸収分光法により求められる動径分布関数における、Mn原子に近接する原子とMn原子との間の原子間距離が0.34nmから0.39nmの間に存在するピークは、酸素分圧が5.0×10-1Pa以下で温度が500℃以上800℃以下の雰囲気における熱処理後に低くなる又は消失する。また原子間距離が0.07nmから0.2nmの間に存在するピークは、その熱処理後に原子間距離が短くなる方へシフトする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつ第1の酸化物と、第2の酸化物と、を含む空気極用触媒であって、
X線吸収分光法により求められる動径分布関数における、Mn原子に近接する原子と前記Mn原子との間の原子間距離が0.34nmから0.39nmの間に存在するピークは、前記空気極用触媒の、酸素分圧が5.0×10-1Pa以下で温度が500℃以上800℃以下の雰囲気における熱処理後に低くなる又は消失する空気極用触媒。
【請求項2】
Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつ第1の酸化物と、第2の酸化物と、を含む空気極用触媒であって、
X線吸収分光法により求められる動径分布関数における、Mn原子に近接する原子と前記Mn原子との間の原子間距離が0.07nmから0.2nmの間に存在するピークは、前記空気極用触媒の、酸素分圧が5.0×10-1Pa以下で温度が500℃以上800℃以下の雰囲気における熱処理後に前記原子間距離が短くなる方へシフトする空気極用触媒。
【請求項3】
前記動径分布関数における、前記原子間距離が0.07nmから0.2nmの間に存在するピークは、前記熱処理後に前記原子間距離が短くなる方へシフトする請求項1記載の空気極用触媒。
【請求項4】
前記第2の酸化物は、ルドルスデン-ポッパー相を有する請求項1から3のいずれかに記載の空気極用触媒。
【請求項5】
前記第2の酸化物の結晶構造を化学式An+13n+1で表すとBサイトはNiを含む請求項4記載の空気極用触媒。
【請求項6】
前記第1の酸化物の結晶構造を化学式ABO3-δ(δ≦0.4)で表すとAサイトはLaを含み、
前記第2の酸化物のAサイトはLaを含む請求項5記載の空気極用触媒。
【請求項7】
前記第1の酸化物および前記第2の酸化物はアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含まない請求項1から3のいずれかに記載の空気極用触媒。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載の空気極用触媒を含む、空気二次電池の空気極。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載の空気極用触媒を含む空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気極用触媒、空気極および空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気二次電池の空気極の放電時の反応は酸素還元反応(ORR)であり、充電時の反応は酸素発生反応(OER)であるため、空気極用触媒はORRとOERの高い活性が要求される。特許文献1に開示された先行技術は、Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつ酸化物から選択される、ORRの活性が高い材料(ORR材料)とOERの活性が高い材料(OER材料)とを複合化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-190833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術では材料の複合比率に応じて触媒当りのORR材料およびOER材料の含有量は少なくなるため、触媒の単位量当りの活性が、各材料の単位量当りの活性に比べて低くなるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、触媒の単位量当りの活性を各材料の単位量当りの活性に比べて高くできる空気極用触媒、空気極および空気二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための第1の態様は、Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつ第1の酸化物と、第2の酸化物と、を含む空気極用触媒であって、X線吸収分光法により求められる動径分布関数における、Mn原子に近接する原子とMn原子との間の原子間距離が0.34nmから0.39nmの間に存在するピークは、空気極用触媒の、酸素分圧が5.0×10-1Pa以下で温度が500℃以上800℃以下の雰囲気における熱処理後に低くなる又は消失する。
【0007】
第2の態様は、Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつ第1の酸化物と、第2の酸化物と、を含む空気極用触媒であって、X線吸収分光法により求められる動径分布関数における、Mn原子に近接する原子とMn原子との間の原子間距離が0.07nmから0.2nmの間に存在するピークは、空気極用触媒の、酸素分圧が5.0×10-1Pa以下で温度が500℃以上800℃以下の雰囲気における熱処理後に原子間距離が短くなる方へシフトする。
【0008】
第3の態様は、第1の態様において、動径分布関数における、原子間距離が0.07nmから0.2nmの間に存在するピークは、熱処理後に原子間距離が短くなる方へシフトする。
【0009】
第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、第2の酸化物は、ルドルスデン-ポッパー相を有する。
【0010】
第5の態様は、第4の態様において、第2の酸化物の結晶構造を化学式An+13n+1で表すとBサイトはNiを含む。
【0011】
第6の態様は、第5の態様において、第1の酸化物の結晶構造を化学式ABO3-δ(δ≦0.4)で表すとAサイトはLaを含み、第2の酸化物のAサイトはLaを含む。
【0012】
第7の態様は、第1から第6の態様のいずれかにおいて、第1の酸化物および第2の酸化物はアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含まない。
【0013】
第8の態様は、第1から第7の態様のいずれかにおける空気極用触媒を含む空気極である。
【0014】
第9の態様は、第1から第7の態様のいずれかにおける空気極用触媒を含む空気二次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原子間距離が0.34nmから0.39nmの間に存在するピークも0.07nmから0.2nmの間に存在するピークも第1の酸化物のO原子に対応していると推定され、それらのピークが、酸素分圧が5.0×10-1Pa以下で温度が500℃以上800℃以下の雰囲気における熱処理後に低くなる、消失する又は原子間距離が短くなる方へシフトするため、第1の酸化物のMn-O原子間相関に影響が及ぶと推定される。これにより空気極用触媒、空気極および空気二次電池は、触媒の単位量当りの第1の酸化物による活性を、第1の酸化物の単位量当りの活性に比べて高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施の形態における空気二次電池の模式図である。
図2】触媒のMn K吸収端付近で測定したX線広域微細構造(EXAFS)領域の信号のフーリエ変換によって求めた|F(R)|スペクトルである。
図3】原子間距離が0.14nm付近の|F(R)|スペクトルである。
図4】原子間距離が0.36nm付近の|F(R)|スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における空気二次電池10の模式図である。空気二次電池10は、空気中の酸素を正極活物質に用いる電池であり、空気極11(正極)と負極16とを備えている。空気極11は、空気(酸素)が拡散するガス拡散層12と、放電時に酸素還元反応(ORR)が起こり充電時に酸素発生反応(OER)が起こる触媒層14と、を含む。
【0018】
ガス拡散層12は、空気を透過すると共に外気からの水の侵入を防ぐ機能がある。ガス拡散層12は、疎水性が強いアセチレンブラック等のカーボンと、撥水性が高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダーと、を混合して成形したシート、カーボンメッシュ、多孔性PTFEフィルム等で作られる。ガス拡散層12には集電体13が埋め込まれている。集電体13はニッケル製やニッケルめっきが施された銅製の金属メッシュが例示される。
【0019】
触媒層14は、比表面積が高いカーボンブラックや活性炭等のカーボン、PTFEバインダー及び触媒15(空気極用触媒)を含む。負極16は、例えばLi,Zn,Al,Mg,Fe等を含む金属で作られており、電解液18にイオンを生成する機能がある。セパレータ17は空気極11(正極)と負極16とを電気的に絶縁すると共に、電解液18に含まれるイオンを通過する機能がある。触媒層14の反応は、固相(カーボン及び触媒15)と液相(電解液18)と気相(酸素)との三相界面で起こる。
【0020】
触媒15は、Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつ第1の酸化物と、第2の酸化物と、を含む。ペロブスカイト型の結晶構造をもつ第1の酸化物を化学式ABO3-δ(δ≦0.4)で表すと、AサイトはLa,Ce,Pr,Ndから選択される1種以上を含み、BはMnを含む。第1の酸化物は、AサイトやBサイトの元素の1部を、Cr,Fe,Co,Ni,Cu等の遷移金属から選択される1種以上の元素に置換しても良い。第1の酸化物は、Aサイトにアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含んでも良い。
【0021】
第2の酸化物は特に制限がないが、ペロブスカイト型の結晶構造をもつ酸化物、特にルドルスデン-ポッパー相を有する層状ペロブスカイト酸化物、スピネル型の結晶構造をもつ酸化物が例示される。ペロブスカイト型の結晶構造をもつ第2の酸化物を化学式ABO3-δ(δ≦0.4)で表すと、AサイトはLa,Ce,Pr,Ndから選択される1種以上を含み、BはCr,Mn,Fe,Co,Niから選択される1種以上を含む。第2の酸化物は、AサイトやBサイトの元素の1部を、Cr,Fe,Co,Ni,Cu等の遷移金属から選択される1種以上の元素に置換しても良い。第2の酸化物は、Aサイトにアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含んでも良い。
【0022】
ルドルスデン-ポッパー相を有する層状ペロブスカイト酸化物は、ペロブスカイト層ABOと岩塩層AOが交互に重なった層状構造をもつ。ルドルスデン-ポッパー相を有する第2の酸化物を化学式An+13n+1で表すと、AサイトはLa,Ce,Pr,Ndから選択される1種以上を含み、BはCr,Mn,Fe,Co,Niから選択される1種以上を含み、XはOを含む。第2の酸化物は、AサイトやBサイトの元素の1部を、Cr,Fe,Co,Ni,Cu等の遷移金属から選択される1種以上の元素に置換しても良い。第2の酸化物は、Aサイトにアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含んでも良い。
【0023】
スピネル型の結晶構造をもつ第2の酸化物を化学式ABで表すと、AサイトはMn,Zn,Fe,Mo,Cd,Ti,Ni,Coから選択される1種以上を含み、BサイトはCr,Al,Fe,Ni,Co,Mn,Vから選択される1種以上を含む。第2の酸化物は、Aサイトにアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含んでも良い。
【0024】
触媒15は、例えば第1の酸化物と第2の酸化物とをそれぞれ作製した後、それらを混合し、酸素分圧が5.0×10-1Pa以下の還元雰囲気下で500℃以上800℃以下の温度に加熱することによって得られる。第1の酸化物や第2の酸化物は、熱分解や固相反応を利用した固相法、沈殿法や溶媒蒸発法などの液相法、気相反応法や蒸発凝縮法などの気相法によって作製できる。
【0025】
触媒15の粒子径は特に制限がないが、2nm-10μmが例示される。触媒15は第1の酸化物の活性と第2の酸化物の活性とを活かすため、第1の酸化物の体積の割合を、第1の酸化物と第2の酸化物とを合わせた体積に対して20%以上80%以下とするのが好ましい。
【0026】
触媒15は、第1の酸化物や第2の酸化物以外に、他の元素や化合物を含むことができる。他の元素はPd,Pt,Ag等の貴金属が例示される。他の化合物は、ペロブスカイト型の結晶構造をもつ酸化物であって第1の酸化物や第2の酸化物とは異なるもの、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物が例示される。
【実施例0027】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(第1の酸化物の調製)
LaMnOとなるようにLa(OH),Mn(どちらも試薬特級)を秤量し、秤量した原料およびエタノールをジルコニア製ボールと共にアルミナ製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。ポットから取り出したスラリーを乾燥後、アルミナ製るつぼに入れて1000℃で焼成した。焼成後の粉末およびエタノールをジルコニア製ボールと共にアルミナ製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕した。ポットから取り出したスラリーを乾燥した後、乳鉢を使って粉砕し、粉末(第1の酸化物)を得た。得られた粉末は粉末X線回折(XRD)によりペロブスカイト型の結晶構造をもつLaMnOであることが確認された。
【0029】
(第2の酸化物の調製)
LaNiOとなるようにLa(OH),NiO(どちらも試薬特級)を秤量し、秤量した原料およびエタノールをジルコニア製ボールと共にアルミナ製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。ポットから取り出したスラリーを乾燥後、アルミナ製るつぼに入れて1000℃で焼成した。焼成後の粉末およびエタノールをジルコニア製ボールと共にアルミナ製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕した。ポットから取り出したスラリーを乾燥した後、乳鉢を使って粉砕し、粉末を得た。得られた粉末(第2の酸化物)はXRDにより層状ペロブスカイト酸化物でありルドルスデン-ポッパー相を有するLaNiOであることが確認された。
【0030】
(実施例1における触媒の調製)
同じ体積の第1の酸化物と第2の酸化物とを(第1の酸化物:第2の酸化物=1:1(体積比))、エタノール及びジルコニア製ボールと共にアルミナ製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。ポットから取り出したスラリーを乾燥後、乳鉢を使って粉砕し粉末を得た。酸素分圧が5.0×10-1Paの窒素雰囲気下で粉末を室温から500℃まで昇温し、500℃で1時間加熱し、500℃から室温まで降温した。これにより第1の酸化物と第2の酸化物とを複合した実施例1における触媒を得た。
【0031】
(実施例2における触媒)
酸素分圧が5.0×10-1Paの窒素雰囲気下で粉末を室温から800℃まで昇温し、800℃で1時間加熱し、800℃から室温まで降温した以外は実施例1と同様にして、第1の酸化物と第2の酸化物とを複合した実施例2における触媒を得た。
【0032】
(参考例1における触媒)
第1の酸化物を参考例1における触媒とした。
【0033】
(参考例2における触媒の調製)
酸素分圧が5.0×10-1Paの窒素雰囲気下で第1の酸化物を室温から500℃まで昇温し、500℃で1時間加熱し、500℃から室温まで降温した。これにより参考例2における触媒を得た。
【0034】
(参考例3における触媒の調製)
酸素分圧が5.0×10-1Paの窒素雰囲気下で第1の酸化物を室温から800℃まで昇温し、800℃で1時間加熱し、800℃から室温まで降温した。これにより参考例3における触媒を得た。
【0035】
(参考例4における触媒の調製)
同じ体積の第1の酸化物と第2の酸化物とを、エタノール及びジルコニア製ボールと共にアルミナ製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。ポットから取り出したスラリーを乾燥後、乳鉢を使って粉砕し、参考例4における触媒を得た。
【0036】
実施例1,2及び参考例1-4における触媒の比表面積は、いずれも3.5m/gから5.0m/gの範囲にあった。
【0037】
(空気極作製用のインク調製)
5wt%のナフィオン分散溶液(富士フィルム和光DE521)とKOH(0.1M)水溶液とを混合し、3.33wt%のナフィオン分散溶液を調製した後、この分散溶液に1-プロパノール(富士フィルム和光)を添加し、溶液を調製した。この溶液に、実施例1,2及び参考例1-4における触媒の各々と、導電材であるアセチレンブラック(デンカLi-250)と、を分散させて6種のインクを調製した。インクの中の触媒、導電材およびナフィオンの割合(質量比)は、触媒:導電材:ナフィオン=5:1:1とした。調製した6種のインクを、回転ディスク電極上に約250μg/cmの触媒が担持されるようにそれぞれ滴下し、室温において蒸発乾固させ、空気極を想定した6種の電極を得た。
【0038】
(電気化学測定)
回転ディスク電極装置(BAS社 RRDE-3A)を用いて電気化学測定を行い、電極(空気極)のORR活性を評価した。回転ディスク電極(RDE)を作用電極とし、Hg/HgO(内部液は0.1M KOH水溶液)を参照電極とし、Ptコイルを対極として、酸素飽和させた0.1M KOH水溶液中で、はじめに、ポテンショスタットによりサイクリックボルタンメトリー(CV)を実施し、可逆水素電極(RHE)基準で1.0-0.0Vの範囲を100mV/sで30サイクル掃引した。その後、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)を実施し、RHE基準で1.0-0.0Vの範囲を10mV/sで掃引したときの電流を測定した。測定の間、電荷移動律速および気泡の付着を防ぐため、RDEは1600rpmで回転させた。LSVによる電流測定の結果から、電極の表面積を0.126cmとして電流密度が0.4mA/cmのときの電位を求めた。結果は表1に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
電位が高いほどORR活性が高いため、表1によればORR活性が高い順に、実施例2、実施例1、参考例3、参考例2、参考例1、参考例4であった。LaMnOとLaNiOとが複合された実施例1,2における触媒のORR活性は、LaMnO単体(参考例1-3)のORR活性よりも高いことが確認された。
【0041】
(X線吸収微細構造解析)
X線吸収分光法により実施例1,2及び参考例1-4における触媒のMn K吸収端付近でX線広域微細構造(EXAFS)領域のスペクトルを測定し、設定した窓関数の範囲でフーリエ変換を行い、動径分布関数を求めた。図2は実施例1,2における触媒のMn K吸収端付近で測定したEXAFS領域の信号のフーリエ変換によって求めた|F(R)|スペクトル(動径分布関数)である。
【0042】
図2に示すように実施例1における動径分布関数は、原子間距離が0.14nm付近、0.2nm付近、0.25nm付近、0.3nm付近、0.36nm付近にピークが見られた。実施例2における動径分布関数は、原子間距離が0.14nm付近、0.2nm付近、0.25nm付近、0.3nm付近にピークが見られた。実施例1における動径分布関数に見られた0.36nm付近のピークは、実施例2における動径分布関数では消失した。
【0043】
図3は実施例1,2及び参考例1-4における動径分布関数の、原子間距離が0.14nm付近を拡大したスペクトルである。図4は実施例1,2及び参考例1-4における動径分布関数の、原子間距離が0.36nm付近を拡大したスペクトルである。XRDで同定した触媒の構造の、既知の参照データの格子面間隔とピークの位置とを照合した結果、Mn原子との間の原子間距離が0.07nmから0.2nmの間に存在するピークも、原子間距離が0.34nmから0.39nmの間に存在するピークも、O原子に由来すると推定された。
【0044】
図3において、参考例1のピーク、参考例1における触媒を酸素分圧5.0×10-1Paの雰囲気下500℃で熱処理した参考例2のピーク、同雰囲気下800℃で熱処理した参考例3のピークは、順に原子間距離が長くなる方へシフトした。一方、参考例4のピーク、参考例4における触媒を酸素分圧5.0×10-1Paの雰囲気下500℃で熱処理した実施例1のピーク、同雰囲気下800℃で熱処理した実施例2のピークは、順に原子間距離が短くなる方へシフトした。さらに実施例1,2のピークは、参考例4のピークに比べて強度が小さかった。
【0045】
実施例1,2のピークの、原子間距離が短くなる方へのシフトは、LaMnOとLaNiOとの間の相互作用によってLaMnOのMn-O原子間相関に影響が及んだものと推定された。実施例1,2の高いORR活性は、ピークのシフトが関係していると推定された。
【0046】
図4において、実施例1,2のピークは参考例4のピークに比べて小さかった。特に実施例1は、参考例4のピークに対応するピークが消失した。ピークはO原子に由来すると推定されたため、実施例1,2はO原子の欠損が増加した可能性があった。実施例1,2の高いORR活性は、ピークの低減や消失が関係していると推定された。
【0047】
実施例1,2においてLaMnOと複合されたLaNiOは層状ペロブスカイト酸化物でありルドルスデン-ポッパー相を有するため、LaMnOのO原子の欠損によって生じたO原子を層間に取り込んだ可能性があると推定された。実施例1,2における触媒は、Mnを含むペロブスカイト型の結晶構造をもつLaMnO(第1の酸化物)と、ルドルスデン-ポッパー相を有するペロブスカイト型の結晶構造をもつLaNiO(第2の酸化物)とが複合されたため、第1の酸化物と第2の酸化物との間でO原子のやり取りが生じ易くなったと推定された。
【0048】
実施例1,2における触媒に、酸素分圧5.0×10-1Paの窒素雰囲気下500℃又は800℃の熱処理を再度行った後、触媒のMn K吸収端付近で測定したEXAFS領域の信号のフーリエ変換によって|F(R)|スペクトルを求め、熱処理前の|F(R)|スペクトルと比較すると、Mn原子との間の原子間距離が0.07nmから0.2nmの間に存在するピークは原子間距離が短くなる方へシフトし、原子間距離が0.34nmから0.39nmの間に存在するピークは低くなる又は消失した。従って熱処理前後のピークのシフト、強度の低下またはピークの消失は、実施例1,2における触媒の特性であることが明らかになった。
【0049】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0050】
実施例では、実施例2における触媒が、原子間距離が0.36nm付近の参考例4のピークに対応するピークが消失する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1の酸化物と第2の酸化物との混合の状態や粒子径などによって、実施例2における触媒は、参考例4のピークに対応するピークの強度が小さくなる(ピークは消失しない)ことがある。
【0051】
実施形態では空気二次電池10の空気極11を例示して、空気極11に配置される触媒15を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の空気極に触媒15を配置することは当然可能である。他の空気極は、燃料電池の空気極、水電解の空気極が例示される。
【符号の説明】
【0052】
10 空気二次電池
11 空気極
15 触媒(空気極用触媒)
図1
図2
図3
図4