(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009680
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】蒸熱処理方法および蒸熱処理装置
(51)【国際特許分類】
A01M 1/00 20060101AFI20250109BHJP
A01M 19/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A01M1/00 A
A01M19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185265
(22)【出願日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2023111551
(32)【優先日】2023-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000176051
【氏名又は名称】三州産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133271
【弁理士】
【氏名又は名称】東 和博
(72)【発明者】
【氏名】坂元 泉
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 義行
(72)【発明者】
【氏名】奥 竜郎
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121AA20
2B121DA43
2B121EA09
2B121EA10
(57)【要約】
【課題】処理室内に搬入された多段かつ多数列のコンテナに収容された収穫物を効率よく蒸熱処理することが可能な蒸熱処理方法と、蒸熱処理装置を提供する
【解決手段】処理室11の内部に、シート保持手段30を用いて、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナ1の周囲に装着可能な差圧シート20を、装着姿勢と装着前の待機姿勢に切替え可能に配設する。差圧シート20を待機姿勢に保持して各コンテナ1を搬入し、次いで、待機姿勢の差圧シート20を、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナ1の周囲に装着して、装着姿勢に保持し、次いで、処理室11を密閉し、蒸気流を処理室11内に導入して各コンテナ1の内部に通過させ、各コンテナ1に収容された対象物を蒸熱処理し、次いで、処理室11を開放し、装着姿勢の差圧シート20を待機姿勢に切替え、蒸熱処理後の各コンテナ1を処理室11から搬出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸熱処理を行う処理室の内部に、通気性を備え、蒸熱処理の対象物が収容された多段かつ多数列のコンテナが設置され、各コンテナの内部に蒸気流を通過させて内部に収容された対象物を蒸熱処理する蒸熱処理方法において、
前記処理室の内部に、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着可能な差圧シートを、装着姿勢と装着前の待機姿勢に切替え可能に配設し、
前記差圧シートを待機姿勢に保持して各コンテナを搬入し、
次いで、待機姿勢の差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着して、当該装着姿勢に保持し、
次いで、処理室を密閉し、蒸気流を処理室内に導入して各コンテナの内部に通過させ、各コンテナに収容された対象物を蒸熱処理し、
次いで、処理室を開放し、前記装着姿勢の差圧シートを待機姿勢に切替え、蒸熱処理後の各コンテナを処理室から搬出することを特徴とする蒸熱処理方法。
【請求項2】
蒸熱処理を行う処理室の内部に、上部空間および前部空間と左右の側部空間を残して、蒸熱処理の対象物が収容された多段かつ多数列のコンテナが設置されるコンテナ設置空間が設けられ、
各コンテナは上面が開口しかつ少なくとも蒸気流の通過方向に通気性を備えており、
前記処理室の内部に、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着可能な差圧シートを、装着姿勢と、前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張された待機姿勢に切替え可能に配設し、
前記差圧シートを待機姿勢に保持して各コンテナを前記コンテナ設置空間に搬入し、
次いで、待機姿勢の差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着して、当該装着姿勢に保持し、
次いで、処理室を密閉し、蒸気流を処理室内に導入して各コンテナの内部に通過させて各コンテナに収容された対象物を蒸熱処理し、
次いで、処理室を開放し、装着姿勢の差圧シートを拡張された待機姿勢に切替え、蒸熱処理後の各コンテナを処理室から搬出することを特徴とする蒸熱処理方法。
【請求項3】
前記処理室の内部の左右にシート保持手段を設置し、各コンテナの搬入前に、当該シート保持手段を用いて、前記差圧シートを前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張させた待機姿勢に保持し、
各コンテナの搬入後に、前記シート保持手段を用いて、待機姿勢の差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着して、当該装着姿勢に保持することを特徴とする、請求項2記載の蒸熱処理方法。
【請求項4】
前記処理室の内部において、前記差圧シートは、前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張された待機姿勢において、前記左右のシート保持手段によって少なくとも2か所で保持され、かつ、前記待機姿勢において、前記上部空間を左右に延びるとともに前記左右の側部空間を垂直に垂れ下がるように配置されていることを特徴とする請求項3記載の蒸熱処理方法。
【請求項5】
前記処理室の内部において、前記差圧シートの左右の垂れ下がり部の下端に重りが取り付けられていることを特徴とする請求項4記載の蒸熱処理方法。
【請求項6】
処理室の内部に蒸熱処理の対象物が収容された多段かつ多数列のコンテナを配置し、送風機と加熱手段と加湿手段により発生させた蒸気流を、前記処理室の内部に供給し、当該処理室の内部を循環させ、各コンテナに収容した蒸熱処理の対象物を蒸熱処理するようにした蒸熱処理装置において、
前記処理室の内部に、上部空間および前部空間と左右の側部空間を残して、蒸熱処理の対象物が収容された前記多段かつ多数のコンテナが設置されるコンテナ設置空間が設けられ、
各コンテナは上面が開口しかつ少なくとも蒸気流の通過方向に通気性を備えており、
前記処理室の内部に、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着可能な差圧シートが、装着姿勢と、前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張された待機姿勢に切替え可能に配設され、
前記処理室の内部に、前記差圧シートを保持するとともに、当該差圧シートを前記装着姿勢と前記待機姿勢に切り替え可能とするシート保持手段が設置され、
当該シート保持手段を用いて、各コンテナの搬入前に前記差圧シートを前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張させた待機姿勢に保持し、各コンテナの搬入後に待機姿勢の前記差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着し、
前記差圧シートを前記装着姿勢に保持して、各コンテナに収容された対象物を蒸熱処理するようにしたことを特徴とする蒸熱処理装置。
【請求項7】
前記シート保持手段が、前記処理室の左右の内側面で所定の高さに支持されて前後方向に延びるアーム支持軸と、当該支持軸の回りに回動し、前記差圧シートを、前記装着姿勢における角度と前記待機姿勢における角度に切り替えて保持する前後一対のアーム部材と、両アーム部材の先端の間に支持されて前記差圧シートを下方から支持するシート支持軸を備えていることを特徴とする請求項6記載の蒸熱処理装置。
【請求項8】
前記シート保持手段が、前記処理室の左右の内側面で所定の高さに支持されて前後方向に延びるアーム支持軸と、当該支持軸の回りに回動し、前記差圧シートを、前記装着姿勢における角度と前記待機姿勢における角度に切り替えて保持する前後一対のアーム部材と、両アーム部材の先端の間に支持されて前記差圧シートを下方から支持するシート支持軸と、回動操作により前記シート支持軸を前記装着姿勢における角度および前記待機姿勢における角度にそれぞれ保持し、回動操作にあたり前記シート支持軸の前記装着姿勢における角度および前記待機姿勢における角度の保持状態をそれぞれ解除する角度保持・解除機構を備えていることを特徴とする請求項6記載の蒸熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸熱処理に関するもので、特に大型の施設での蒸熱処理に好適な蒸熱処理方法と蒸熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸熱処理は、飽和蒸気と熱を使って、青果物に付着するミカンコミバエやウリミバエを殺虫する目的や、青果物の表面に発生する細菌類を殺菌する目的で行われる。近年、沖縄県や南九州地方を中心に甘藷に対する基腐(もとぐされ)病の発生が確認され、その対策として蒸熱処理が注目されている。
【0003】
本出願人は、先に、蒸熱処理に用いる装置として、差圧を利用して強制的に空気の流れを作り、果実や青果物の間の全ての隙間に差圧によって蒸熱を通過させて殺虫、殺菌するようにした装置(特許文献1、特許文献2)を提案し、また、同じく差圧を利用した蒸熱処理で、甘藷の基腐病対策に有効な装置(特許文献3)について提案を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61-1094号公報
【特許文献2】実用新案登録第3153127号公報
【特許文献3】実用新案登録第3236140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置は、比較的大規模の蒸熱処理装置であり、複数のパレット上に積まれた収穫箱内の青果物を、複数の差圧ファンを用いて一度に蒸熱処理するものであるが、特に熱交換率の点で改善の余地が大きい。特許文献2、3の装置は、小規模タイプの蒸熱処理装置であり、熱交換率は高いが、大規模施設に適用させるには工夫が必要となる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて提案されたもので、処理室内に搬入された多段かつ多数列のコンテナに収容された収穫物を効率よく蒸熱処理することが可能な蒸熱処理方法と、蒸熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明に係る蒸熱処理方法は、
蒸熱処理を行う処理室の内部に、通気性を備え、蒸熱処理の対象物が収容された多段かつ多数列のコンテナが設置され、各コンテナの内部に蒸気流を通過させて内部に収容された対象物を蒸熱処理する蒸熱処理方法において、
前記処理室の内部に、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着可能な差圧シートを、装着姿勢と装着前の待機姿勢に切替え可能に配設し、
前記差圧シートを待機姿勢に保持して各コンテナを搬入し、
次いで、待機姿勢の差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着して、当該装着姿勢に保持し、
次いで、処理室を密閉し、蒸気流を処理室内に導入して各コンテナの内部に通過させ、各コンテナに収容された対象物を蒸熱処理し、
次いで、処理室を開放し、前記装着姿勢の差圧シートを待機姿勢に切替え、蒸熱処理後の各コンテナを処理室から搬出することを主要な特徴とする。
【0008】
本発明に係る蒸熱処理方法は、
蒸熱処理を行う処理室の内部に、上部空間および前部空間と左右の側部空間を残して、蒸熱処理の対象物が収容された多段かつ多数列のコンテナが設置されるコンテナ設置空間が設けられ、
各コンテナは上面が開口しかつ少なくとも蒸気流の通過方向に通気性を備えており、
前記処理室の内部に、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着可能な差圧シートを、装着姿勢と、前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張された待機姿勢に切替え可能に配設し、
前記差圧シートを待機姿勢に保持して各コンテナを前記コンテナ設置空間に搬入し、
次いで、待機姿勢の差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着して、当該装着姿勢に保持し、
次いで、処理室を密閉し、蒸気流を処理室内に導入して各コンテナの内部に通過させて各コンテナに収容された対象物を蒸熱処理し、
次いで、処理室を開放し、装着姿勢の差圧シートを拡張された待機姿勢に切替え、蒸熱処理後の各コンテナを処理室から搬出することを第2の特徴とする。
【0009】
本発明に係る蒸熱処理方法は、
前記処理室の内部の左右にシート保持手段を設置し、各コンテナの搬入前に、当該シート保持手段を用いて、前記差圧シートを前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張させた待機姿勢に保持し、
各コンテナの搬入後に、前記シート保持手段を用いて、待機姿勢の差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着して、当該装着姿勢に保持することを第3の特徴とする。
【0010】
本発明に係る蒸熱処理方法は、
前記処理室の内部において、前記差圧シートは、前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張された待機姿勢において、前記左右のシート保持手段によって少なくとも2か所で保持され、かつ、前記待機姿勢において、前記上部空間を左右に延びるとともに前記左右の側部空間を垂直に垂れ下がるように配置されていることを第4の特徴とする。
【0011】
本発明に係る蒸熱処理方法は、
前記処理室の内部において、前記差圧シートの左右の垂れ下がり部の下端に重りが取り付けられていることを第5の特徴とする。
【0012】
本発明に係る蒸熱処理装置は、
処理室の内部に蒸熱処理の対象物が収容された多段かつ多数列のコンテナを配置し、送風機と加熱手段と加湿手段により発生させた蒸気流を、前記処理室の内部に供給し、当該処理室の内部を循環させ、各コンテナに収容した蒸熱処理の対象物を蒸熱処理するようにした蒸熱処理装置において、
前記処理室の内部に、上部空間および前部空間と左右の側部空間を残して、蒸熱処理の対象物が収容された前記多段かつ多数のコンテナが設置されるコンテナ設置空間が設けられ、
各コンテナは上面が開口しかつ少なくとも蒸気流の通過方向に通気性を備えており、
前記処理室の内部に、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着可能な差圧シートが、装着姿勢と、前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張された待機姿勢に切替え可能に配設され、
前記処理室の内部に、前記差圧シートを保持するとともに、当該差圧シートを前記装着姿勢と前記待機姿勢に切り替え可能とするシート保持手段が設置され、
当該シート保持手段を用いて、各コンテナの搬入前に前記差圧シートを前記上部空間および前記左右の側部空間に拡張させた待機姿勢に保持し、各コンテナの搬入後に待機姿勢の前記差圧シートを、蒸気流の通過方向を除き、各コンテナの周囲に装着し、
前記差圧シートを前記装着姿勢に保持して、各コンテナに収容された対象物を蒸熱処理するようにしたことを主要な特徴とする。
【0013】
本発明に係る蒸熱処理装置は、
前記シート保持手段が、前記処理室の左右の内側面で所定の高さに支持されて前後方向に延びるアーム支持軸と、当該支持軸の回りに回動し、前記差圧シートを、前記装着姿勢における角度と前記待機姿勢における角度に切り替えて保持する前後一対のアーム部材と、両アーム部材の先端の間に支持されて前記差圧シートを下方から支持するシート支持軸を備えていることを第2の特徴とする。
【0014】
本発明に係る蒸熱処理装置は、
前記シート保持手段が、前記処理室の左右の内側面で所定の高さに支持されて前後方向に延びるアーム支持軸と、当該支持軸の回りに回動し、前記差圧シートを、前記装着姿勢における角度と前記待機姿勢における角度に切り替えて保持する前後一対のアーム部材と、両アーム部材の先端の間に支持されて前記差圧シートを下方から支持するシート支持軸と、回動操作により前記シート支持軸を前記装着姿勢における角度および前記待機姿勢における角度にそれぞれ保持し、回動操作にあたり前記シート支持軸の前記装着姿勢における角度および前記待機姿勢における角度の保持状態をそれぞれ解除する角度保持・解除機構を備えていることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によると、処理室内に多段かつ多数列配置したコンテナに収容された処理物を、処理室内で装着姿勢と待機姿勢に切り替え可能な差圧シートを用いて、効率よく蒸熱処理することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る蒸熱処理装置の処理室の横断面図で、処理室内のコンテナ群に差圧シートを装着する様子を示す図、
【
図2】蒸熱処理装置の水平断面図で、処理室内のコンテナ群に差圧シートを装着した様子を示す図、
【
図3】蒸熱処理装置の縦断面図で、処理室内のコンテナ群に差圧シートを装着する前の状態を示す図、
【
図4】蒸熱処理装置の縦断面図で、処理室内のコンテナ群に差圧シートを装着した後の状態を示す図、
【
図7】農産物が収容されたコンテナを積んだパレットを示す図で、(A)は正面図、(B)は平面図、
【
図8】処理室の横断面図で、コンテナ搬入前の処理室内で差圧シートの待機姿勢を示す図、
【
図9】処理室の縦断面図で、処理室内で蒸熱処理を行っている様子を示す図、
【
図10】処理室の横断面図で、処理室内で蒸熱処理中に差圧シートに生じる作用を示す図、
【
図11】シート保持手段の他の例を示す要部構造図、
【
図12】シート保持手段のさらに他の例を示すもので、作用を示す説明図、
【
図13】
図12のシート保持手段におけるラチェット機構を示す要部斜視図、
【
図15】
図12のシート保持手段におけるストッパーを示す要部構造図、
【
図18】本発明の他の実施形態に係る蒸熱処理装置で差圧シートの待機状態を示すもので、(A)は水平断面図、(B)は横断面図、
【
図19】
図18に示す蒸熱処理装置で差圧シートの待機状態を示すもので、(A)は水平断面図、(B)は横断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1ないし
図10は本発明の実施形態に係る蒸熱処理装置を示す図で、符号Sは蒸熱処理装置を示している。
【0018】
蒸熱処理装置Sは、蒸気と熱を利用して果物や園芸作物、芋類などの処理対象物を蒸熱処理する装置である。本実施形態では甘藷を処理対象物とし、甘藷に感染した基腐病菌を殺菌、消毒する装置として用いる例を示している。
【0019】
蒸熱処理装置Sは、
図1ないし
図3に示すように、大型の処理室11の後部に送風室12を備えている。
【0020】
処理室11は、全体が前後に長い箱形の形状をしており、内部に甘藷2を収容した多数のコンテナ1を、前後および左右に多数列並べ、かつ、多段に積み上げて設置し、一度に処理することができる。処理室11は、天板パネル11Aと、左右の側板パネル11Bと、底板パネル11Cと、前板パネル11Dと、背板パネル11Eを備えている。前板パネル11Dには処理室11の開口部を密閉する気密扉19Aが設けられている。
【0021】
送風室12は、処理室11の内部に蒸気流を導入して循環させる差圧室で、ケーシング13の内部に差圧ファン(送風機)14が配置されている。差圧ファン14の下流に加熱器15と加湿器16が配置されている(図示例はそれぞれ処理室11の内部に配置されている)。
【0022】
加熱器15は温水コイルや電気ヒーターから構成され、差圧ファン14による空気流を加熱する。加湿器16は加熱された空気流から飽和蒸気を生成する。加湿器16は霧状の水分を処理室11の上部空間に噴霧する。
【0023】
送風室12と処理室11は、上部連通口17と下部連通口18を介して連通している。差圧ファン14の作動により、処理室11の内部に導入された蒸気流は、処理室11内に配置された多数列かつ多段の各コンテナ1の内部を横向きに通過し、下部連通口18から送風室12に戻り、上部連通口17から処理室11内に循環するようになっている。
【0024】
処理室11の内部には、甘藷2が収容されたコンテナ1を、前後および左右に多数列並べ、かつ、上下に多段積み上げて設置できるコンテナ設置空間Kが設けられている。コンテナ設置空間Kは、天井パネル11Aとの間に所定の高さの上部空間s1、前板パネル11Dとの間に所定の奥行の前部空間s2、背板パネル11Eとの間に所定の奥行の後部空間s3、左右の側板パネル11Bとの間に所定の幅の側部空間s4が確保されている。
【0025】
コンテナ設置空間Kは、本実施形態の場合、コンテナ1を前後に多数列(図示例では9列)、左右に多数列(図示例では4列)並べるとともに、上下に多段(図示例では8段)積み上げることができる。
【0026】
甘藷2を収容するコンテナ1は、
図7に示すように、上面が開口し、各側面および底面にメッシュ状の多数の通気孔3が設けられている。コンテナ1は、甘藷2の収穫に用いる軽量プラスチック製のメッシュコンテナ、農業用コンテナを用いることができる。コンテナ1は、上面が開口し、前面と後面のみに多数の通気孔が設けられた構造でもよく、大型コンテナでもよい。
【0027】
処理室11の内部には、蒸熱処理時に用いる差圧シート20が配設されている。差圧シート20は、蒸気流の通過方向を除き、処理室11のコンテナ設置空間Kに設置された多数のコンテナ1(以下、コンテナ群Gと称する場合がある)の周囲に装着されるもので、差圧を利用して、各コンテナ1の前方から後方に向けて蒸気流を通過させ、蒸熱処理を効率よく行わせるものである。
【0028】
差圧シート20は、可撓性および耐久性のある樹脂製、布製、帆製などの素材からなり、コンテナ設置空間Kに多数列かつ多段に設置された各コンテナ1の全体を、前面および後面を除き、上方および左右の側方から覆うことのできる幅と奥行(長さ)の大きさを有している。
【0029】
差圧シート20は、処理室11の内面に取り付けられた左右のシート保持手段30、30によって、処理室11の内部で、
図8に示す待機姿勢(待機位置)と、
図1に示す装着姿勢(装着位置)に切り替えてそれらの姿勢を保持できるようになっている。
【0030】
待機姿勢は、パレット4に積まれた各コンテナ1を処理室11内に搬入する際に、差圧シート20がコンテナ設置空間Kと干渉しない高さおよび幅に拡張された姿勢を指している。装着姿勢は、パレット4に積まれた各コンテナ1が処理室11内にすべて搬入された後、待機姿勢から下方および内方に縮小して、各コンテナ1の全体を、前面および後面を除き、上方および左右の側方から覆うことのできる姿勢を指している。
【0031】
シート保持手段30は、処理室11の左右の側面パネル12Bの内面で所定の高さ(最上段のコンテナ1の上面高さと同等の高さ)に支持されて前後に延びる水平軸31と、この水平軸31の軸回りに回動し、前記差圧シート30を待機姿勢と装着姿勢にそれぞれ保持する前後一対のアーム部材32、32を備えている。
【0032】
前後のアーム部材32、32の先端の間には、前記水平軸31と平行に延び、前記差圧シート30を下方から支持するシート支持軸33が設けられている。前記水平軸31は、前後の支持部34を介して側面パネル12Bの内面に支持されている。
【0033】
水平軸31とアーム部材32、32の間にはアーム部材32の回動とアーム部材32の回動の停止と固定を可能とするラチェット機構35が介在されている。
【0034】
図5にラチェット機構35の構造を示す。ラチェット機構35は、アーム部材33の基端部で水平軸31と同軸上に固定された歯車35Aと、側面パネル12Bの内面に回動可能に取り付けられた爪部材35Bと、側面パネル12Bに取り付けられた支持片35Cの先端に支持されたバネ部材35Dと、支持片35Cの先端に取り付けられた紐部材35Eから構成されている。
【0035】
上記ラチェット機構35は、支持片35Cの先端に支持されたバネ部材35Dが爪部材35Bの先端を歯車35Aに向けて付勢し、付勢状態で爪部材35Bが歯車35Aの歯に噛み合っている。アーム部材32は、歯車35Aの歯の形状と爪部材35Bの相互作用により、
図6(A)に示すように、水平姿勢(装着姿勢)から起立姿勢(待機姿勢)に向けて操作稈36を用いて反時計回りに回動可能とされ、回動後は起立姿勢の角度を保持するようになっている。
【0036】
その一方、
図6(B)に示すように、紐部材35Eを引き下げて爪部材35Bを歯40車35Aの噛み合い姿勢から解除することにより、起立姿勢のアーム部材32を水平姿勢に向けて時計回りに回動させることができる。
【0037】
差圧シート20の左右両端部には前後に水平に延びる重り21が取り付けられている。左右の重り21により、差圧シート20は、待機姿勢~中間姿勢~装着姿勢の各段階で、左右のアーム32、32のシート支持軸33、33間で水平に張設される状態が維持され、また、シート支持軸33、33から垂直下方に張設される状態が維持されている。
【0038】
処理室11の後部空間s4には、多段かつ多数列に配置される各コンテナ1の最後列の後面と下部連通口18の間を接続するフード19Bが配置されている。フード19Bは各コンテナ1の内部を通過する蒸気流が各コンテナ1の最後列の後面から側方に漏れるのを防ぐ役目をする。差圧シート20は、このフード19Bに一部重なるように配設されている。
【0039】
図7(A)は、パレット4の上に、甘藷2を収納したコンテナ1を多段および多数列に並べた状態を示しており、
図7(B)は、それら多数のコンテナ1を平面視した状態を示している。パレット4は、軽量な樹脂製のメッシュ状や木製のものが使用され、搬送用のフォークリフトの爪が挿入可能な開口部が前面に設けられている。
【0040】
次に、上記構成の蒸熱処理装置Sを用いて、コンテナ1に収納された甘藷2を蒸熱処理(殺菌処理)する手順について、
図8等を参照しながら、説明する。
【0041】
まず、甘藷2を収納したコンテナ1の搬入前に、
図8に示すように、処理室11の内部において、差圧シート20を拡張状態の待機姿勢に保持する。左右のシート保持手段30のアーム部材32が水平姿勢にある場合、
図6(A)に示すように、アーム部材32の先端のシート支持軸33に棒状の操作稈36を下から係止して押上げ操作すると、水平軸31回りにアーム部材32が反時計回りに回動して起き上がる。これを左右のアーム部材32について行う。
【0042】
左右のアーム部材32が起き上がると、左右のアーム部材32に保持された差圧シート20が上方に持ち上げられるとともに左右に拡大し、拡張状態の待機に保持される。
【0043】
次に、差圧シート20の待機姿勢(待機位置)で、甘藷2入りの多段および多数列のコンテナ1を載せたパレット4を処理室11内に搬入し、コンテナ設置空間Kの奥から手前にかけてパレット4ごと甘藷2入りのコンテナ1を順次設置する(
図3参照)。
【0044】
コンテナ設置空間Kに甘藷2入りの所定個数のコンテナ1の設置が完了したら、
図1に示すように、左右のシート保持手段30を操作して、待機姿勢の差圧シート20を装着姿勢に切り替える。
【0045】
差圧シート20を装着姿勢に切り替えるには、左右のシート保持手段30の紐部材35Eを引き下げ操作する。左右の紐部材35Eを引き下げ操作すると、歯車35Aから爪部材35Bが外れ、起立姿勢のアーム部材32がフリーで倒れるように回動し(
図6(B)参照)、左右のアーム部材32の回動に従って、差圧シート20が下方および左右から側方に縮小し、装着姿勢(装着位置)に保持される。
【0046】
差圧シート20を装着姿勢に切り替えるにあたり、左右の紐部材35Eの引き下げ操作に操作稈36を併用してよい。左右のアーム部材32のシート支持軸33を操作稈36で支持したまま左右の紐部材35Eを引き下げて爪部材35Bを外し、左右のアーム部材32を徐々に倒して水平姿勢になったら紐部材35Eを離す。これにより、差圧シート20が最上段のコンテナ1の上面に当接し、左右のアーム部材32が水平姿勢に保持される。
【0047】
コンテナ設置空間Kに設置された各コンテナ1は、
図2および
図4に示すように、装着姿勢の差圧シート20によって、前面および後面を除き、上方および左右の側方から全体が覆われる。差圧シート20の左右の下端部には重り21が設けられており、差圧シート20は最上段のコンテナ1の上面に当接して左右に張設され、また、左右の最外端の列のコンテナ1の外側面に沿って垂下し上下に張設される。
【0048】
次に、処理室11の気密扉19Aを閉じて庫内を密閉し、制御装置の操作により、差圧ファン14、加熱器15、加湿器16を順次作動させ、処理室11内に所定温度の蒸気流を循環させる。本実施形態において、処理室11の庫内の湿度は95%以上(97%)、蒸熱処理温度は48℃に設定される。
【0049】
蒸熱処理中、蒸気流は、
図9の矢印のように、送風室12から上部連通口17を経由して処理室11の上部空間s1を通り、前部空間s2で下向きに下降し、最前列の各コンテナ1の前面から各コンテナ1の内部を横向きに通過し、最後列の各コンテナ1の後面からフード19Bおよび下部連通口18を経由して、送風室12に戻る。
【0050】
送風室12に戻った蒸気流は、差圧ファン14によって上昇し、上部連通口17を経由して加熱器15および加湿16により加温および加湿されて、処理室11の内部で再び各コンテナ1の内部を通過し、蒸熱処理を行う。
【0051】
このようにして、処理室11内のコンテナ設置空間Kに配置された各コンテナ1内の甘藷2について蒸熱処理を行い、甘藷2に侵入した基腐菌を殺菌処理する。
【0052】
多段かつ多列に並べられたコンテナ群Gの周囲は、前面および後面を除き、装着姿勢の差圧シート20によって上方および左右の側方から覆われており、最前列のコンテナ1の前面から導入された蒸気流が、側方や上方に抜けることなく、最後列のコンテナ1まで無駄なく内部を通過し、フード19Bを経由して送風室12内部に還流する。
【0053】
本蒸熱処理装置Sは、差圧方式と呼ばれる通風方法で差圧を利用して強制的に空気の流れを作っており、各コンテナ1内の甘藷2と甘藷2の間のすべての隙間に蒸熱が通過し、すべての甘藷2にむらなく蒸熱が作用する。
【0054】
差圧によって、
図10に示すように、差圧シート20が最上段の各コンテナ1の上面に密着し、かつ、左右の最端列の各コンテナ1の側面に密着するので、この点においても、各コンテナ1に前方から導入された蒸気流が、側方や上方に抜けることなく、無駄なく全てのコンテナ1の内部を通過し、効果的に蒸熱処理を行わせる。
【0055】
蒸熱処理が終了したら、甘藷2の芯温度を下げる後処理を行い、後処理終了後、処理室11を開けて、差圧シート20を拡張状態の待機姿勢(待機位置)に戻す。
【0056】
差圧シート20を待機姿勢に戻すには、
図6(A)に示すように、左右の水平姿勢のアーム部材32のシート支持軸33に下から操作稈36を係止させ、操作稈19を押し上げて左右のアーム部材32を起立させる。これにより左右のアーム部材32に支持された差圧シート20が上方に持ち上げられるとともに左右に拡大し、拡張状態の待機姿勢に保持される。
【0057】
差圧シート20を待機姿勢に戻したら、処理室11内部の蒸熱処理後の甘藷2入りコンテナ1をパレット4ごと搬出する。このようにして、1回目の甘藷の蒸熱処理が終了したら、庫内温度の低下後、処理前の甘藷2入りコンテナ1を載せた2回目のパレットを搬入して、差圧シート20を装着姿勢に切り替え、庫内を密閉して、2回目以降の甘藷の蒸熱処理を行う。
【0058】
本実施形態によると、差圧シート20を用いて、コンテナ設置空間Kに設置した多段かつ多数列の各コンテナ1の内部に蒸気流を効果的に通過させ、品質の高い蒸熱処理を行うことができる。特に各コンテナ1を前後に多数列並べることが容易であり、大規模の蒸熱処理に対応することができる。
【0059】
また、差圧シート20は、シート保持手段30の操作によって、処理室11の内部で拡張された待機姿勢と、縮小された装着姿勢に容易に切替できるので、処理前の各コンテナ1の搬入、処理後の各コンテナ1の搬出を容易に行うことができ、大量の甘藷の蒸熱処理を効率よく行うことができる。
【0060】
【0061】
図11に示すシート保持手段40はガスダンパーまたはガススプリングを利用しており、アーム部材32の途中にガスシリンダ41の端部が回動可能に支持され、ガスシリンダ41内をピストンが移動する伸縮ロッド42の端部が、処理室11の側面パネル11Bの内面に取り付けられた支持部43に回動可能に支持されている。
【0062】
図11に示すシート保持手段40は、ガスシリンダ41と伸縮ロッド42の作用でアーム部材32を水平姿勢から起立姿勢、起立姿勢から水平姿勢に切り替えすることができる。アーム部材32の回動は、操作稈36をシート支持軸33に係止させ、操作稈36を引き上げ操作あるいは引き下げ操作することで実現できる。
【0063】
アーム部材32は上記したように手動で回動させるのがよいが、モータ駆動、空気圧シリンダーで正逆方向に回動させるようにしてもよい。
【0064】
図12ないし
図17はシート保持手段のさらに他の構造例を示している。
【0065】
図12に示すように、シート保持手段60は、左右の側面パネル11Bの内面で前後の支持部61を介して所定の高さ(最上段のコンテナ1の上面高さと同等の高さ)に支持されて前後に延びる水平軸31と、この水平軸31の軸回りに回動し、差圧シート20を待機姿勢(同図(A))と装着姿勢(同図(B))にそれぞれ保持する前後一対のアーム部材32、32を備えており、前後のアーム部材32、32の先端間に、差圧シート20を下方から支持するシート支持軸33が設けられている。
【0066】
水平軸31とアーム部材32、32の間にはアーム部材32の回動とアーム部材32の回動の停止と固定を可能とするラチェット機構62が介在されている。ラチェット機構62は、アーム部材32の基端部で水平軸31と同軸上に固定された歯車62Aと、支持部61の内面に回動可能に取り付けられた爪部材62Bと、支持部61の内面に支持されたバネ部材62Cとから構成されている。
【0067】
歯車62Aの周囲には、
図13および
図14に示すように、一定の範囲に多数の歯aが等間隔で突設され、爪部材62Bとこれらの歯aが噛合う噛合い領域bが形成されている。この噛合い領域bは、アーム部材32を差圧シート20の装着姿勢に保持する角度を超えた角度から、アーム部材32を差圧シート20の待機姿勢に保持する角度までの範囲に相当する範囲に形成されている。噛合い領域bの前後には、爪部材61Bと歯aの噛合いが解除される解除領域(フリー領域)が形成されている。
【0068】
歯車62Aの周囲で、前記噛合い領域bと180度反対側の領域には、等間隔で多数の歯aが突設されている。この領域は、予備の噛合い領域とされ、通常は使用されないが、上記の噛合い領域bにおいて歯aの摩耗や欠損等が生じた場合、水平軸31に対する歯車62Aの固定を解除して180度回転させて固定し直し、予備の噛合い領域を爪部材62Bとの噛合いに使用できるようになっている。
【0069】
アーム部材32の基端部には、
図13および
図15に示すように、アーム部材32を水平姿勢に支持する凸状のストッパー63が取り付けられている。ストッパー63は、起立姿勢のアーム部材32を水平軸31回りに水平に倒した際に、支持部61の内面に支持された取付部64に取り付けられたゴム脚(弾性体)65に当接してゴム脚65に係止されることにより、アーム部材32を水平姿勢に保持するようになっている。
【0070】
図16(A)は、アーム部材32が水平姿勢にある状態を示している。このとき、爪部材62Bは歯車62Aの歯aと噛合っておらず、解除状態(フリー状態)にある。先の
図6(A)に示すように、操作稈36を用いてシート支持軸33を下から押上げ操作することにより、アーム部材32を水平姿勢から起立させることができるが、
図16(B)に示すように、アーム部材32の上向きの回動時に爪部材62Bが歯車61Aの噛合い領域bにある多数の歯aに順次噛合わされるので、アーム部材32を安全にかつ確実に起立させることができる。これを左右のアーム部材32について行う。
【0071】
左右のアーム部材32を、
図17(A)に示す上昇端の位置(上昇端の保持位置)まで起立させると、操作稈36による上昇操作を停止する。差圧シート20は、左右のアーム部材32に保持されて上方に持ち上げられかつ左右に拡大し、上昇端の位置で拡張姿勢に保持される。このとき、爪部材62Bは歯車62Aの噛合い領域bで歯a(例えば端部に位置する歯a)に噛み合ったままであり、差圧シート20は拡張後の待機姿勢(待機位置)に保持される。
【0072】
差圧シート20を、待機姿勢から、(コンテナ設置空間Kに甘藷2入りの所定個数のコンテナ1を設置完了後)、装着姿勢に切り替えるには、左右のシート支持軸33を操作稈36でさらに押し上げ、左右のアーム部材32を、上昇端の位置(
図17(A))から上昇端のオーバー位置(
図17(B))まで回動させる。アーム部材32を上昇端のオーバー位置まで回動させると、同図(B)に示すように、歯車62Aの噛合い領域bから爪部材62Bが外れて爪部材62Bと歯aとの噛合いが解除される(フリー状態となる)。
【0073】
爪部材62Bと歯aとの噛合いが解除されると、上昇端のオーバー位置まで回動させたアーム部材32を、操作稈36を用いる等して反対向き(図の時計回り方向)に倒れるようにフリーで回動させることができる。このとき、爪部材62Bは歯aと噛合うことなくフリー状態を維持する。このようにして、差圧シート20が下方および左右から側方に縮小し、コンテナへの装着姿勢(装着位置)に保持される。また、左右のアーム部材32はそれぞれストッパー63がゴム脚65に当接して水平姿勢が保持される。
【0074】
以上のように、
図12~
図17に示すシート保持手段60によれば、差圧シート20の待機姿勢(待機位置)から、所定個数のコンテナ1の設置後、アーム部材32を上昇端のオーバー位置まで回動させることで爪部材61Bと歯aとの噛合いを解除し、差圧シート20の装着動作に直ちに移行することができ、また、蒸熱処理後は、アーム部材32を上昇端の待機姿勢の位置まで回動させて待機姿勢を保持し、直ちに搬出・搬入動作に移行することができ、蒸熱処理の作業をより効率よく行うことができる。
【0075】
【0076】
本実施形態の蒸熱処理装置S’は、小型の蒸熱処理装置であり、
図18(A)に示すように、ケーシング51の内部に左右に蒸気流発生装置52と処理室53を備えており、処理室53には多段かつ多数列の甘藷入りコンテナ1を設置し、蒸気流発生装置52で発生させた蒸気流を処理室53内に下から導入して各コンテナ1の内部を上向きに通過させ、各コンテナ1の内部の対象物を蒸熱処理するようになっている。
【0077】
本実施形態の蒸熱処理装置S’は、
図18(A)(B)に示すように、処理室53の内部に、多段積のコンテナ1の高さを有しかつ多段積のコンテナ1の周囲を覆う長さを有する差圧シート20’が、処理室53の奥面から左右の内面に沿って平面視してコ字形になるように配置されている。差圧シート20’の合わせ端部は、多段積のコンテナ1を処理室53内に搬入しやすいように、前方に平行に延びている。
【0078】
そして、
図19(A)(B)に示すように、差圧シート20’の合わせ端部が多段積のコンテナ1の前面で互いに係止状態に合わされ、これにより、上下面を除き、多段積のコンテナ1の周囲に差圧シート20’が装着される装着姿勢を保持できるようになっている。
【0079】
蒸気蒸熱処理装置S’は、差圧シート20’装着後、差圧を利用して、下部連通口54および上部連通口55を経由して蒸気流を循環させ、効率よく各コンテナ1の甘藷2を蒸熱処理することができる。差圧シート50は合わせ端部を脱着式にすることで、
図19(B)のように容易に開いて、内側の各コンテナ1の搬出と処理前のコンテナ1の搬入をスムーズに行い、差圧シート20’の装着を容易に行うことができる。
【0080】
以上説明したように、本発明によると、処理室内に農産物を収納した収納容器を多段かつ多数列に配置し、蒸気を循環させて、農産物を蒸熱処理することができ、甘藷に侵入した基腐病菌を効率よく殺菌することができる。
【0081】
本発明で蒸熱処理可能な対象物は、甘藷の他、果実、園芸作物、芋類などが可能である。甘藷は、種芋、生食用、でんぷん原料用、焼酎原料用など、用途および品種を問わない。いずれの甘藷に対しても基腐病対策に好適である。殺虫目的や検疫目的に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、蒸熱処理装置における蒸熱処理制御方法として、また、殺虫目的や検疫目的の処理制御方法としても利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 コンテナ
2 甘藷
3 通気孔
4 パレット
11,53 処理室
11A 天板パネル
11B 側板パネル
11C 底板パネル
11D 前板パネル
11E 背板パネル
12 送風室
14 差圧ファン
15,15’ 加熱器
16 加湿器
17,55 上部連通口
18,54 下部連通口
19A 扉
19B フード
20,20’ 差圧シート
21 重り
30,40,60 シート保持手段
31 水平軸
32 アーム部材
33 シート支持軸
34,43,61 支持部
35,62 ラチェット機構(角度保持・解除機構)
35A,62A 歯車
35B,62B 爪部材
35C 支持片
35D,62C バネ部材
35E 紐部材
36 操作稈
41 ガスシリンダ
42 伸縮ロッド
51 ケーシング
52 蒸気流発生装置
s1 上部空間
s2 前部空間
s3 後部空間
s4 側部空間
S,S’ 蒸熱処理装置