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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025096862
(43)【公開日】2025-06-30
(54)【発明の名称】窒化ケイ素基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20250623BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20250623BHJP
【FI】
C04B35/587
C04B35/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212824
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】草野 大
(72)【発明者】
【氏名】石本 竜二
(57)【要約】
【課題】高度な均一性を備えた窒化ケイ素基板を簡便に得ること。
【解決手段】窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末を含むグリーンシートと、雰囲気調整剤とを、容器部と蓋部との接続部分に2個以上の角部を有する焼成容器中に配置し、1700℃~1900℃で焼成する焼成工程を含む、窒化ケイ素基板の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末を含むグリーンシートと、雰囲気調整剤とを、容器部と蓋部との接続部分に2個以上の角部を有する焼成容器中に配置し、1700℃~1900℃で焼成する焼成工程を含む、窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項2】
前記焼結助剤粉末がマグネシウムを含む化合物を含む、請求項1記載の窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項3】
前記焼成容器内に配置する雰囲気調整剤の量が、グリーンシート100g当たり5.0g以上15.0g以下である、請求項1または2記載の窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項4】
容器部と蓋部との接続部分に2個以上の角部を有する焼成容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化ケイ素基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は、機械的強度、熱伝導率、電気的絶縁性に優れることから、半導体モジュール用基板などに用いられている。一般的に窒化ケイ素基板は、窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末とを含む板状のグリーンシートを焼成容器内に格納し、1700~1900℃程度で焼成することで製造される。焼成容器としては、従来は図3図4に示されるような容器が広く使用されていた。
【0003】
窒化ケイ素のように高温で焼成する場合、焼成中に焼結助剤が揮発してしまうことにより、得られる窒化ケイ素基板の均一性が低下してしまうとの課題があった。このような課題に対して、焼結助剤の揮発を抑制するために、焼成容器内にグリーンシートとは別に焼結助剤成分(雰囲気調整剤)を配置し、これを揮発させて容器内の雰囲気を調節し、焼結助剤の揮発を防止するとの技術が知られている。
【0004】
例えば特許文献1では、窒化ケイ素基板の中央部と端部で助剤量が異なり、中央部と端部で物性に差が生じたり、基板に反りが発生したりしてしまう課題に対して、容器内に脱脂体(グリーンシート)と共に雰囲気調製用の窒化ケイ素基板を設置することが開示されている。これにより、基板中央部のマグネシウム量と基板端部のマグネシウム量の差が20%以下となる窒化ケイ素基板を製造することができ、その結果、窒化ケイ素基板の反りが改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2020/203787号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、焼結助剤の揮発を抑制するために雰囲気調整剤を使用することが開示されているが、高度な均一性を備えた窒化ケイ素基板を得るためには、単に雰囲気調整剤を使用するだけでは不十分であり、特許文献1では、焼成温度、焼成時間、降温速度もコントロールすることも必要とされており、製造条件に制約があった。そこで本発明は、高度な均一性を備えた窒化ケイ素基板を簡便に得ることができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った。雰囲気調整剤によってグリーンシートから焼結助剤の揮発を抑制するためには、揮発した雰囲気調整剤が容器内に留まることが重要である。そして、焼成容器の容器部と蓋部の接続部分の形状を工夫することにより、効率的に雰囲気調整剤を容器内に留まらせることが可能となり、グリーンシートからの焼結助剤の揮発を効率的に抑制し、均一性の高い窒化ケイ素基板が簡便に得られることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末を含むグリーンシートと、雰囲気調整剤とを、容器部と蓋部との接続部分に2個以上の角部を有する焼成容器中に配置し、1700℃~1900℃で焼成する焼成工程を含む、窒化ケイ素基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、均一性の高い窒化ケイ素基板を、焼成条件を詳細に制御することなく、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で使用した焼成容器の断面図である。
図2】実施例2で使用した焼成容器の断面図である。
図3】比較例1で使用した焼成容器(従来広く使用されていた焼成容器)の断面図である。
図4】比較例2で使用した焼成容器(従来広く使用されていた焼成容器)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の窒化ケイ素基板の製造方法は、窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末を含むグリーンシートと、雰囲気調整剤とを、容器部と蓋部との接続部分に2個の角部を有する焼成容器中に配置し、1700℃~1900℃で焼成する工程を含むものである。
【0012】
前記グリーンシートは、窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末とを含むものであれば特に限定されず、公知のグリーンシートを使用可能である。前記グリーンシートは、前記窒化ケイ素粉末と前記焼結助剤粉末とを混合して原料混合物を得る原料混合工程と、前記原料混合物を所望の形状に成形する成形工程を含む方法により得ることが可能である。
【0013】
前記原料混合工程における、前記窒化ケイ素粉末と前記焼結助剤粉末を混合する方法は特に限定されず、例えば、所定の配合量で各成分を計り取り、乾式で混合したり、分散媒を使用して湿式で混合したりすれば良い。乾式で混合する場合の混合装置としては、例えば、乾式ビーズミル、アトライター等を挙げることができる。湿式で混合する場合の混合装置としては、例えば、超音波分散装置、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等を挙げることができる。湿式で混合する場合の分散媒としては、例えば、水、アルコール、トルエンなどを使用することができる。
【0014】
前記窒化ケイ素粉末は特に限定されず公知の窒化ケイ素粉末が使用可能である。窒化ケイ素粉末は、α型窒化ケイ素からなるものであっても良く、β型窒化ケイ素からなるものであっても良く、これらの混合物でも良い。α粉末に比べてβ粉末は焼結時の粒成長が起こりにくく、均一性の制御がしやすいため、窒化ケイ素基板の均一性を重視する場合には、β型窒化ケイ素を含むことが好ましい。その場合、窒化ケイ素粉末のβ化率は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、99%以上であることがより好ましい。なお、窒化ケイ素粉末のβ化率とは、窒化ケイ素粉末におけるα相とβ相の合計に対するβ相のピーク強度割合[100×(β相のピーク強度)/(α相のピーク強度+β相のピーク強度)]を意味し、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)測定により求められる。より詳細には、C.P.Gazzara and D.R.Messier:Ceram. Bull.,56(1977),777-780に記載された方法により、窒化ケイ素粉末のα相とβ相の重量割合を算出することで求められる。
【0015】
前記窒化ケイ素粉末の粒径は特に限定されないが、平均粒径D50は、0.5~3.0μmであることが好ましく、1.0~2.0μmであることがより好ましい。また、前記窒化ケイ素粉末の比表面積は7~20m/gであることが好ましく、12~15m/gであることがより好ましい。なお、本発明において、平均粒径D50はレーザ回折散乱法により測定した50%体積基準での値を、比表面積は窒素ガス吸着によるBET1点法を用いて測定したBET比表面積を意味する。
【0016】
前記焼結助剤粉末は公知のものを特に制限なく使用することができ、例えば、イットリア、マグネシア、セリア、カルシア等の酸化物や、炭窒化物系の化合物、窒化物系の化合物などの酸素を持たない化合物が挙げられる。炭窒化物系の化合物としては、例えば、YSiC、YbSiC、CeSiC、MgSiCなどが挙げられる。窒化物系の化合物としては、例えば、MgSiNなどが挙げられる。
【0017】
この中でも、マグネシウム系の化合物は沸点が低く、焼成工程における焼結助剤の揮発が発生しやすいことから、マグネシウムを含む焼結助剤を使用した場合に、本発明の効果が特に大きいため好ましい。特には、焼結助剤全量におけるマグネシウム原子の割合が10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。焼結助剤全量におけるマグネシウム原子の割合の上限は特に限定はされないが、例えば、65質量%以下、特には50質量%以下としてもよい。
【0018】
前記原料混合物には、前記窒化ケイ素粉末と前記焼結助剤粉末以外のその他成分を含んでいてもよい。その他成分としては、前記分散媒の他、バインダー、分散剤、可塑剤、消泡剤などを挙げることができる。
【0019】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂、ポリアクリルアミド、ウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、メラミン、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、デンプン等が挙げられる。これらのバインダーは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。前記バインダーの量は適宜選択することができるが、例えば、前記窒化ケイ素粉末と前記焼結助剤粉末の合計量100質量部に対し、通常、1~30質量部、特には10~25質量部の範囲から選択することが出来る。
【0020】
分散剤は、窒化ケイ素粉末や焼結助剤粉末の分散性を高めるために使用するものであり、一般に、界面活性剤を好適に用いることができる。界面活性剤は、公知のものが何ら制限無く使用される。本発明において好適に使用しうる界面活性剤を具体的に例示すると、カルボキシル化トリオキシエチレントリデシルエーテル、ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンモノステアレート、カルボキシル化ヘプタオキシエチレントリデシルエーテル、テトラグリセリンモノオレート、ヘキサグリセリンモノオレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。なお、これら界面活性剤は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して使用しても良い。前記分散剤の量は適宜選択することができるが、例えば、前記窒化ケイ素粉末と前記焼結助剤粉末の合計量100質量部に対し、通常、0.1~5質量部の範囲から選択することができる。当該範囲の中でも、分散剤の量の上限値は、3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0021】
前記成形工程では、混合工程で得られた原料混合物から所望の形状の成形体を得る。成形体を得るための成形方法は特に限定されず、例えば、原料混合物からプレス成形により成形したり、分散媒を含む原料混合物のスラリーをスプレードライヤーなどで乾燥させて得られた顆粒を用いてプレス成形を実施したり、分散媒を含む原料混合物のスラリーをドクターブレード法などによってシート成形をしたりすれば良い。この中でも、簡便に製造できることから、ドクターブレード法によるシート成形が好ましい。
【0022】
成形工程で得られた成形体に、分散媒や、バインダー、分散剤、可塑剤、消泡剤などの有機成分が含まれる場合、焼成を行いやすくするために、焼成工程の前に、分散媒を除去する乾燥や、バインダーなどを除去するための脱脂を行い、グリーンシートを得ても良い。前記乾燥の条件は特に限定されないが、例えば分散媒が水の場合には、成形体を30℃~150℃程度に加熱することにより行えばよい。前記脱脂条件は、特に限定されないが、例えば、成形体を空気中又は窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中で450~650℃に加熱することにより行えばよい。
【0023】
焼成工程では、前記グリーンシートと雰囲気調整剤とを、容器部と蓋部との接続部分に2個の角部を有する焼成容器中に配置し、1700℃~1900℃で焼成する。雰囲気調整剤は、助剤成分の揮散を防止するために用いるものであり、具体的には、焼結助剤粉末と同等の化学組成を有するもの、もしくは焼結助剤に含まれる金属元素の化合物を使用する。前記の焼結助剤に含まれる金属元素の化合物としては、焼結助剤に含まれる金属元素の酸化物であることが好ましい。例えば、焼結助剤としてマグネシアを使用した場合には雰囲気調整剤としてマグネシアを、焼結助剤としてMgSiNを使用した場合には雰囲気調整剤としてMgSiNもしくはマグネシアを用いることが好ましい。
【0024】
焼結助剤粉末として複数の化合物を使用した際には、雰囲気調整剤に含まれる金属元素の存在比が、焼結助剤粉末との存在比との差が20%以内となるように調節すればよい。その場合、焼結助剤粉末と同等の化学組成を有するもの、もしくは焼結助剤に含まれる金属元素の酸化物を所望の存在比で混合して使用しても良いし、所望の存在比になるようにそれぞれを焼成容器中に配置しても良い。
【0025】
焼成工程で焼成容器内に配置する雰囲気調整剤の量は、グリーンシート100g当たり5.0g以上であることが好ましく、7.0g以上であることがより好ましい。雰囲気調整剤の量を前記範囲とすることにより、グリーンシートからの焼結助剤の揮発を効率的に抑制することができる。前記雰囲気調整剤の量の上限は特に限定されないが、多すぎると製造効率が悪いため、グリーンシート100g当たり好ましくは15.0g以下、より好ましくは10.0g以下である。
【0026】
雰囲気調整剤は粉末であっても良く、バルク体であっても良いが、効率的に揮発して焼成容器内に充満しやすいことから、粉末であることが好ましい。雰囲気調整剤が粉末の場合、効率的に焼成容器内に充満するとの観点から、粒径が1.0μm~2.0μmであることが好ましい。
【0027】
前記焼成容器としては、容器部と蓋部との接続部分に2個の角部を有する。このように接続部の角部の数を多くすることによって、焼成容器内部の気体が接続部を通じて焼成容器外部へ放出され難くなり、焼成容器の気密性が向上する。その結果として、焼成時に揮発した雰囲気調整剤が容器外に排出されることが高度に防止されて焼成容器内に充満し、グリーンシートからの焼結助剤の揮発を高度に抑制することで、簡便に窒化ケイ素基板の均一性を高めることが可能となると推察される。
【0028】
このような容器部と蓋部との接続部分に2個の角部を有する焼成容器としては、例えば断面図が図1図2に示すような焼成容器が使用可能である。図1に示す焼成容器は、容器部1と蓋部2を有し、容器部1と蓋部2との接続部分3に2個の角部を有するものである。図2に示す焼成容器は、接続部分3の構造が図1とは異なるが、同じく2個の角部を有している。
【0029】
一方で、従来広く用いられていた図3に示す焼成容器は、容器部と蓋部の接続部分に角部が1つのみであり、図4に示す焼成容器は容器部と蓋部の接続部分に角部が存在しない。このような焼成容器では、焼成時に揮発した雰囲気調整剤が容器外に排出されることを高度に防止できるほど気密性は高くなく、焼成容器内に十分に充満しないため、窒化ケイ素基板の均一性を高度に高めるためには、焼成条件などを詳細に制御する必要がある。
【0030】
前記焼成容器において、角部が3個以上あっても良いが、角部の数が多くなると、焼成容器の製造やメンテナンスに手間がかかるため、角部は5個以下が好ましく、3個以下がより好ましい。角部の角度が90°よりも鋭角であったり鈍角であったりしても良いが、気密性の確保と、焼成容器の製造やメンテナンスの容易さの観点から、45°~135°であることが好ましく、80°~100°であることがより好ましい。なお、密閉する必要性から、接続部における容器部側の形状と蓋部側の形状は同一であるため、容器部側の角度と蓋部側の角度を合計すると360°となるが、前記角部の角度は、容器本体側の角度と蓋側の角度のうち小さい方の値とする。
【0031】
前記焼成容器において、接続部分3の長さは、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。接続部分を長くすることで、焼成容器内部の気体が接続部を通じて焼成容器外部へ放出され難くなり、気密性を向上させることが容易となる。接続部分3の長さの上限は特に限定されないが、長くすると焼成容器が大きくなり製造や取り扱いが難しくなるため、通常は50mm以下、特には45mm以下である。なお、接続部分の長さは、焼成容器の容器部1と蓋部2が接する部分の、容器内側から外側までの最短長さである。前記のように接続部分における容器部側の形状と蓋部側の形状は同一であるため、接続部分の長さは容器部側で計測すればよい。
【0032】
前記焼成容器の容積は特に限定されないが、揮発した雰囲気調整剤を焼成容器内に十分に充満しやすくするために、雰囲気調整剤100g当たりの焼成容器の容積を5250m以下、特には5000m以下とすることが好ましい。焼成容器の容積の下限は特に限定されないが、小さすぎると揮発した雰囲気調整剤により内圧が高まって取り扱いにくくなるため、雰囲気調整剤100g当たりの焼成容器の容積を2500m以上、特には2600m以上とすることが好ましい。
【0033】
前期焼成容器の形状は特に限定されず、例えば、直方体形状であっても良いし円柱形状であってもよい。前期焼成容器の材質は特に限定されず、窒化ケイ素基板の焼成容器として使用される公知の材質であってよい。
【0034】
焼成容器中にグリーンシートを1枚のみ配置してもよいし、複数枚配置しても良い。複数枚配置する場合には、積層して配置しても差し支えない。
【0035】
焼成温度は1700℃~1900℃、好ましくは1820℃~1880℃である。焼成時間は特に限定されないが、1~30時間、特には3~20時間とすることが好ましい。焼成雰囲気は不活性雰囲気下で行うことが好ましい。焼成圧力は、常圧で行っても良いし、加圧下で行っても良い。
【実施例0036】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を記載するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各項目の測定は以下の方法によって測定した。
【0037】
(1)ナノインデンテーション試験による硬度分布の測定による均一性の評価
窒化ケイ素基板を10mm×10mmに切断して試験片を得た。次いで、主面に対して鏡面仕上げを行い、前記試験体の主面の表面粗さを0.2μm以下に加工した。なお、試験体の表面粗さは、非接触3次元測定装置(キーエンス社製:VR-5000)を用いて、試験体の任意の1000μm×1000μmの試験エリアの表面粗さRaを5箇所測定し、そのすべての試験エリアにおいてRaが0.2μm以下であることを確認した。前記試験体の鏡面仕上げをした面に対して、大気雰囲気中、荷重0.5mNの条件で30μm×30μmの範囲の3600箇所に等間隔で圧子を押し込みナノインデンテーション試験を行い、微小硬度を求めた。ナノインデンテーション試験を、試験片主面の中央付近と四隅付近の5点で行い、その結果から微小領域の硬度分布を得た。
ナノインデンテーション試験は、微小な圧子を使用して押込硬度の測定を行うものであり、微小領域の評価が可能である。硬度は、各測定箇所における窒化ケイ素粒子または助剤相の性質を反映したものであり、硬度分布がシャープであれば、均一性が高いと言える。硬度分布は、累積10%の硬度と、累積90%の硬度の比(累積10%の硬度を累積90%の硬度で除した値)で評価し、この値が理論上の最大値である1に近いほど硬度分布がシャープで均一性が高いものである。なお、一般的に窒化ケイ素粒子と助剤相は硬度が異なっており、窒化ケイ素粒子の方が高い硬度を示す。本評価において、窒化ケイ素粒子の性質は硬度15.00以上の領域によって、助剤相の性質は硬度15.00未満の領域によって、それぞれ評価した。表1中、HA10は硬度15.00未満の領域における累積10%の硬度を、HA90は硬度15.00未満の領域における累積90%の硬度を、HS10は硬度15.00以上の領域における累積10%の硬度を、HS10は硬度15.00以上の領域における累積90%の硬度を、それぞれ示す。
【0038】
(2)ナノインデンテーション試験によるヤング率分布の測定による均一性の評価
窒化ケイ素基板を10mm×10mmに切断して試験片を得た。次いで、主面に対して鏡面仕上げを行い、前記試験体の主面の表面粗さを0.2μm以下に加工した。なお、試験体の表面粗さは、非接触3次元測定装置(キーエンス社製:VR-5000)を用いて、試験体の任意の1000μm×1000μmの試験エリアの表面粗さRaを5箇所測定し、そのすべての試験エリアにおいてRaが0.2μm以下であることを確認した。前記試験体の鏡面仕上げをした面に対して、大気雰囲気中、荷重0.5mNの条件で30μm×30μmの範囲の3600箇所に等間隔で圧子を押し込みナノインデンテーション試験を行い、微小領域のヤング率を求めた。ナノインデンテーション試験を、試験片主面の中央付近と四隅付近の5点で行い、その結果から微小領域のヤング率分布を得た。
上記のようにナノインデンテーション試験は微小領域の評価が可能である。ヤング率は、各測定箇所における窒化ケイ素粒子または助剤相の性質を反映したものであり、ヤング率分布がシャープであれば、均一性が高いと言える。ヤング率分布は、累積10%の硬度と、累積90%の硬度の比(累積10%の硬度を累積90%の硬度で除した値)で評価し、この値が理論上の最大値である1に近いほど硬度分布がシャープで均一性が高いものである。なお、一般的に窒化ケイ素粒子と助剤相は硬度が異なっており、窒化ケイ素粒子の方が高いヤング率を示す。本評価において、窒化ケイ素粒子の性質はヤング率225GPa以上の領域によって、助剤相の性質はヤング率225GPa未満の領域によって、それぞれ評価した。表2中、EA10は硬度225GPa未満の領域における累積10%の硬度を、EA90は硬度225GPa未満の領域における累積90%の硬度を、ES10は硬度225GPa以上の領域における累積10%の硬度を、ES10は硬度225GPa以上の領域における累積90%の硬度を、それぞれ示す。
【0039】
窒化ケイ素基板の製造には、以下の窒化ケイ素粉末と焼結助剤とを含む原料を用いた。
【0040】
<窒化ケイ素粉末>
・WO2021/107021の実施例に記載された窒化ケイ素粉末Aと同様の方法で製造した窒化ケイ素粉末に対して、窒化ケイ素粉末の2倍量の水を入れたバットとを恒温槽に配置し、500℃に昇温して1時間静置することで、水蒸気加熱処理を行った窒化ケイ素粉末Y。β化率は99%。平均粒径D50は1.8μm。
・WO2021/107021の実施例に記載された窒化ケイ素粉末Aと同様の方法で製造した窒化ケイ素粉末を、35%塩酸と55%フッ化水素酸の1:1の混合水溶液を用い、60℃で2時間酸処理したのち、濾別して水洗、200℃で真空乾燥、振動ボールミルで4時間粉砕を行った。その後、窒化ケイ素粉末の2倍量の水を入れたバットとを恒温槽に配置し、500℃に昇温して1時間静置することで、水蒸気加熱処理を行った窒化ケイ素粉末Z。β化率は99%。平均粒径D50は1.8μm。
【0041】
<焼結助剤>
・イットリア(信越化学工業株式会社製)
・マグネシア(宇部マテリアル株式会社製)
【0042】
<バインダーおよび分散剤>
・バインダー:アクリル系樹脂(藤倉化成株式会社製)
・分散剤:セルナD735(中京油脂株式会社製)
【0043】
<実施例1>
窒化ケイ素粉末Y100質量部、イットリア5質量部、マグネシア3質量部、分散剤0.5質量部を秤量し、水を溶媒として、樹脂ポットと窒化ケイ素ボールを用いて、24時間ボールミルで混合を行った。なお、水はスラリーの濃度が60質量%となるように予め秤量し、樹脂ポット内に投入した。前記混合後、バインダーを22質量部添加し、さらに12時間混合を行いスラリー状の成形用組成物を得た。次いで、真空脱泡機(サヤマ理研社製)を用いて該成形用組成物の脱泡をし、粘度調整を行い、塗工用スラリーを作製した。その後、この粘度調整した塗工用スラリーを用いて、ドクターブレード法によりシート成形を行い、空気中100℃で乾燥して溶媒を気化させ、幅750mm、厚さ420μmのグリーンシートを得た。
上記の通り得られたグリーンシートを、乾燥空気中550℃の温度で脱脂処理を行い、脱脂されたグリーンシートを得た。
その後、該脱脂されたグリーンシートを100mm×100mmに切断した後、焼成容器に入れて、窒素雰囲気及び0.9MPa・Gの圧力下において、1880℃で9時間焼成を行い、窒化ケイ素基板を得た。
なお、前記焼成容器としては図1に記載の、接続部分に2つの角部を有し、接続部分の長さが4.0mmである容器を使用し、さらに、雰囲気調整剤として、グリーンシート(成形体)100g当たり5gのイットリアと3gのマグネシアを焼成容器中に存在させた。
得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表1に示す。
【0044】
<実施例2>
焼成容器として図2に記載の、接続部分に2つの角部を有し、接続部分の長さが4.0mmである容器を使用した以外は、実施例1と同様にして、窒化ケイ素基板を得た。得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表1に示す。
【0045】
<比較例1>
焼成容器として図3に記載の、接続部分に1つの角部を有し、接続部分の長さが3.0mmである容器を使用した以外は、実施例1と同様にして、窒化ケイ素基板を得た。得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表1に示す。
【0046】
<比較例2>
焼成容器として図4に記載の、接続部分に角部を有さず、接続部分の長さが2.0mmである容器を使用した以外は、実施例1と同様にして、窒化ケイ素基板を得た。得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表1に示す。
【0047】
<実施例3>
窒化ケイ素粉末として、窒化ケイ素粉末Zを使用した以外は、実施例1と同様にいて窒化ケイ素基板を得た。得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表2に示す。
【0048】
<実施例4>
窒化ケイ素粉末として、窒化ケイ素粉末Zを使用した以外は、実施例2と同様にいて窒化ケイ素基板を得た。得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表2に示す。
【0049】
<比較例3>
窒化ケイ素粉末として、窒化ケイ素粉末Zを使用した以外は、比較例1と同様にいて窒化ケイ素基板を得た。得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表2に示す。
【0050】
<比較例4>
窒化ケイ素粉末として、窒化ケイ素粉末Zを使用した以外は、比較例2と同様にいて窒化ケイ素基板を得た。得られた窒化ケイ素基板の評価結果を表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1、2に示すように、同一のグリーンシートを使用し、焼成容器のみを変更して焼成を行った場合に、容器部と蓋部との接続部分に2個以上の角部を有する焼成容器を使用した場合は、接続部分の角部が1個以下の焼成容器を使用した場合と比較して、得られた窒化ケイ素基板の均一性が高かった。通常は焼成中にグリーンシートから助剤が無秩序に揮発するため、焼結の進行にむらが発生し、得られる窒化ケイ素基板の均一性を高度に高めることは難しい。しかし、焼成容器として容器部と蓋部との接続部分に2個以上の角部を有する焼成容器を使用し、且つ雰囲気調整剤を使用することにより、グリーンシートからの焼結助剤の揮発が抑制され、その結果として焼成条件を高度に制御することをしなくても焼結が均一に進行し、簡便に均一性が高い窒化ケイ素基板を得ることができたと考えられる。これにより、本発明の製造方法であれば、簡便に均一性が高い窒化ケイ素基板が得られることが示された。
【符号の説明】
【0054】
1 容器部
2 蓋部
3 接続部分
図1
図2
図3
図4