(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009696
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】睡眠準備のための入浴方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20250109BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20250109BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20250109BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/365
A61K8/86
A61Q19/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191993
(22)【出願日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2023105650
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】512083883
【氏名又は名称】株式会社ホットアルバム炭酸泉タブレット
(74)【代理人】
【識別番号】100114672
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】小星 重治
(72)【発明者】
【氏名】上田 豊
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB281
4C083AB311
4C083AB312
4C083AB351
4C083AB361
4C083AC021
4C083AC291
4C083AC301
4C083AC302
4C083AC401
4C083AC791
4C083AC841
4C083AD041
4C083AD042
4C083AD051
4C083AD071
4C083AD091
4C083AD111
4C083AD131
4C083AD211
4C083AD221
4C083AD241
4C083AD261
4C083AD271
4C083AD281
4C083AD301
4C083AD351
4C083AD371
4C083AD411
4C083AD421
4C083AD431
4C083AD641
4C083BB42
4C083CC25
4C083DD15
4C083DD21
(57)【要約】
【課題】スムーズな入眠を促して睡眠の質を上げることができる睡眠準備のための入浴方法の提供。
【解決手段】入浴剤を溶解した湯水に入浴する、睡眠準備のための入浴方法であって、前記入浴剤は、組成物として、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムからなる重炭酸塩と、有機酸と、を含み、前記入浴剤を溶解した湯水が略中性となるように前記組成物の混合比が設定され、入浴者の深部体温が、通常の湯水に入浴した場合に比べて略0.2℃以上高くなる入浴条件で入浴を行い、入眠予定時刻の略60~120分前に、前記入浴を終了する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入浴剤を溶解した湯水に入浴する、睡眠準備のための入浴方法であって、
前記入浴剤は、組成物として、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムからなる重炭酸塩と、有機酸と、を含み、前記入浴剤を溶解した湯水が略中性となるように前記組成物の混合比が設定され、
入浴者の深部体温が、通常の湯水に入浴した場合に比べて略0.2℃以上高くなる入浴条件で入浴を行い、
入眠予定時刻の略60~120分前に、前記入浴を終了する、
ことを特徴とする睡眠準備のための入浴方法。
【請求項2】
前記入浴条件での入浴を、1週間以上、継続して実施する、
ことを特徴とする請求項1に記載の睡眠準備のための入浴方法。
【請求項3】
前記入浴条件は、前記湯水の温度が29~43℃、前記湯水に溶解した重炭酸イオンの濃度が0.1~10mmol/L、入浴時間が10分以上である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の睡眠準備のための入浴方法。
【請求項4】
前記入浴条件は、前記湯水の温度が32~40℃、前記湯水に溶解した重炭酸イオンの濃度が0.2~5mmol/L、入浴時間が20分以上である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の睡眠準備のための入浴方法。
【請求項5】
前記入浴剤は、塩素中和化合物及び滑沢剤を含み、
前記重炭酸塩は、炭酸水素ナトリウムであり、
前記有機酸は、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸から選ばれる少なくとも1つであり、
前記塩素中和化合物は、L-アスコルビン酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、茶カテキン、エリソルビン酸塩から選ばれる少なくとも1つであり、
前記滑沢剤は、炭素数6から18のアルカンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、ショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1つであり、
前記重炭酸塩に対する前記有機酸の重量比率は、1/8~2/7であり、
前記錠剤に対する前記塩素中和化合物の重量比率は、1/1500~1/30であり、
前記錠剤の硬度は、20kgf以上である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の睡眠準備のための入浴方法。
【請求項6】
前記入浴剤は、造粒促進剤を含み、
前記造粒促進剤は、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、カルボキシビニルポリマー、カチオン化ポリマー、スチレン重合体エマルション、ポリリン酸およびその塩、ピロリン酸およびその塩、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびその塩、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン澱粉、にかわ、寒天、ゼラチン、コラーゲンタンパク、流動パラフィン、カゼイン、ペクチン、アルギン酸およびその塩、カラギーナン、ファーセレラン、タマリンドガム、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、クインスシード、デキストリン、デキストランから選ばれる少なくとも1つであり、
前記重炭酸塩に対する前記造粒促進剤の重量比率は、1/50~1/8である、
ことを特徴とする請求項5に記載の睡眠準備のための入浴方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠準備のための入浴方法に関し、特に、重炭酸イオンが溶解した湯水に入浴することによる睡眠準備のための入浴方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のストレス社会において、心身を健全に保つためには睡眠が重要であり、良質な睡眠を得るためには寝付きをよくする必要がある。人の深部体温は覚醒時に高く睡眠時に低くなるように変化するが、寝付きは深部体温と関係していることから、入浴によって深部体温を変化させることによって、スムーズな眠りを促すことができる。
【0003】
このような入浴と体温と睡眠の関係に着目した技術として、例えば、下記特許文献1には、浴槽内に貯留され、入浴者が入浴する貯留湯の温度である湯温を検出する湯温検出手段と、前記湯温に基づいて、前記入浴者が前記貯留湯から退浴する退浴タイミングと、前記入浴者が睡眠を開始する入眠時刻と、を決定する決定手段と、前記退浴タイミング及び前記入眠時刻を前記入浴者に報知する報知手段と、を備える風呂システムが開示されており、前記決定手段は、前記体調情報に基づいて前記入浴者の深部体温を推定する第1ステップと、前記湯温及び前記深部体温に基づいて、前記入浴者が前記貯留湯に入浴している間における前記深部体温の上昇量を推定する第2ステップと、推定された前記上昇量に基づいて、前記入浴者の前記深部体温を所定の目標上昇量だけ上昇させる所要時間である前記推奨入浴時間を決定し、前記推奨入浴時間を前記退浴タイミングとする第3ステップと、前記湯温及び前記推奨入浴時間に基づいて前記入眠時刻を決定する第4ステップと、を実行することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-120604号公報
【特許文献2】特許第5588490号
【特許文献3】特許第5877778号
【特許文献4】特許第6525945号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】丸山修寛・小星重冶,「No.29 重炭酸イオンークエン酸入浴剤の開発と未病への対応」,日本温泉気候物理医学会雑誌,第78巻,第1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人は睡眠中に臓器や筋肉、脳を休ませるために深部体温が下がる。この深部体温は、筋肉や内臓による熱産生と手足からの熱放散によって調整されており、入眠前に手足が温かくなり手足からの熱放散が多くなることによって深部体温が低下するが、深部体温はホメオスタシスの影響下にあるため、簡単には低下しない。
【0007】
ここで、深部体温は、一時的に上がると、上がった分だけ大きく下がろうとする性質があることから、入浴によって深部体温を上げることができれば、入浴後しばらくすると深部体温は大きく下がる。その結果、深部体温の下げ幅が大きくなり、眠りにつくためのスイッチ(体温スイッチと呼ばれる。)が入ってスムーズに入眠することができる。
【0008】
しかしながら、通常の湯水に入浴するだけでは、皮膚温度を上げることができても効率的に深部体温を上げることはできない。この問題に対して、入浴剤を使用する方法が考えられるが、一般的に使用される入浴剤は中和反応で炭酸ガスを発生させるものであり、炭酸ガスの泡は湯水中で合併して大きくなり、その浮力によって炭酸ガスは速やかに上昇して空気中に出てしまうため、炭酸ガスによる入浴効果があまり得られず、深部体温を効率的に上げることができない。
【0009】
そこで、本願発明者らは、炭酸ガス発生源としての化合物、すなわち重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム)と中和反応をさせる化合物として、有機酸を用い、加えてポリエチレングリコールの存在下で、圧縮成型によって一定以上の高硬度で一定サイズの大きさの錠剤とする錠剤の製造方法と錠剤を提案している(特許文献2-4)。
【0010】
特許文献2-4の方法で製造した錠剤内部では、激しく効率よく中和反応が起こり、可能な限り小さなサイズの炭酸ガス泡を一定時間継続的に放出させることによって、発生した炭酸ガスの大部分を空気中に逃がさず水中に溶解させることができる。また、溶解直後のpHが中性となるよう設計することで水中の重炭酸イオンを高濃度にし、その水溶液のpHから皮膚に触れた炭酸ガスは容易に重炭酸イオンとなって本来存在する重炭酸イオンと相まって高濃度になり、皮膚からの血管への重炭酸イオンの吸収を限りなく多くすることができ、重炭酸イオンの経皮吸収によって血流を増加させ、深部体温を効率的に上げることができる。
【0011】
しかしながら、入浴剤として特許文献2-4のような入浴剤(中性重炭酸入浴剤と呼ぶ。)を用いたとしても、適切な条件で入浴しなければ、血流の促進によって深部体温を適切に上げることができず、また、入浴と入眠のタイミングを適切に設定しなければ、深部体温の下げ幅を大きく確保することができず、スムーズな入眠を促すことができない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、深部体温が適切に上がるように重炭酸イオンが溶解した湯水に入浴する入浴条件を設定し、深部体温の下げ幅を大きく確保できるように入浴と入眠のタイミングを設定し、スムーズな入眠を促して睡眠の質を上げることができる睡眠準備のための入浴方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、入浴剤を溶解した湯水に入浴する、睡眠準備のための入浴方法であって、前記入浴剤は、組成物として、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムからなる重炭酸塩と、有機酸と、を含み、前記入浴剤を溶解した湯水が略中性となるように前記組成物の混合比が設定され、入浴者の深部体温が、通常の湯水に入浴した場合に比べて略0.2℃以上高くなる入浴条件で入浴を行い、入眠予定時刻の略60~120分前に、前記入浴を終了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の睡眠準備のための入浴方法によれば、スムーズな入眠を促して睡眠の質を上げることができる。
【0015】
その理由は、睡眠準備のために、入浴剤を溶解した湯水に入浴する際に、組成物として、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムからなる重炭酸塩と、有機酸と、を含み、溶解した水溶液が略中性となるように組成物の混合比が設定された入浴剤を用い、入浴者の深部体温が、通常の湯水に入浴した場合に比べて略0.2℃以上高くなる入浴条件で入浴を行い、入眠予定時刻の略60~120分前に、入浴を終了するからである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】重炭酸イオンの経皮吸収による血流量増加のメカニズムを説明する模式図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る入浴時間と血流量との相関を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る入浴温度と血流量との相関を示す図である。
【
図5】本発明の一実施例に係る重炭酸イオン濃度と血流量との相関を示す図である。
【
図6】本発明の一実施例に係る重炭酸入浴による深部体温上昇効果を示す図である。
【
図7】本発明の一実施例に係る重炭酸入浴を継続実施することによる深部体温上昇効果を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例に係る入浴後の深部体温変化を示す図である。
【
図9】ピッツバーグ睡眠質問票の項目と判定基準である。
【
図10】ピッツバーグ睡眠質問票による重炭酸入浴を継続実施することによる睡眠の質の改善効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
背景技術で示したように、人の深部体温は覚醒時に高く睡眠時に低くなるように変化する。また、深部体温は一時的に上がると、上がった分だけ大きく下がろうとする性質がある。これらのことから、入浴によって深部体温を上げることができれば、入浴後しばらくすると深部体温は大きく下がり、深部体温の下げ幅を大きくすることができ、体温スイッチが入って、スムーズに入眠することができる。
【0018】
例えば、入浴しなければ深部体温は夕方から明け方にかけてゆるやかに下がるが、
図1に示すように、入浴(ハッチング部分)を行うと、深部体温が一旦上がった後、大きく下がる。また、高体温の人(実線)は、低体温の人(破線)に比べて、入浴後(ここでは約90分後)に深部体温の下げ幅が大きくなり、その結果、よりスムーズに入眠することができ、睡眠の質を向上させることができる。
【0019】
従って、睡眠の質を向上させるためには深部体温をより大きく上げることができる入浴を実現することが重要であり、そのために使用する入浴剤として、本願発明者らは、湯中の重炭酸イオンを高濃度にし、血流の促進によって深部体温を上げることができる錠剤を提案している(特許文献2-4)。
【0020】
この重炭酸イオンの効果について説明する。一般的に、水に溶存した二酸化炭素は溶存無機炭素として存在するが、この溶存無機炭素は重炭酸塩平衡によって3種類の形態があり、溶液のpHに依存して形態が変化するとされている。pHによる3種類の溶存無機炭素の存在比は、溶液のpHが弱酸性以下の領域では重炭酸イオンの割合は低く炭酸が高くなり、中性から弱アルカリの領域では重炭酸イオンの割合が最も高く、アルカリ領域では対称的に重炭酸イオンは低く炭酸イオンが高くなることが知られている。
【0021】
また、二酸化炭素は皮膚の毛穴や汗腺などを経由する付属器官経路を経て皮膚表面から毛細血管に移行するとされているが、血液のpH域は重炭酸イオンの存在比が最も高いpH域と一致していることから、本願発明者らは、皮膚から血中に移行した二酸化炭素の多くが重炭酸イオンとして生理活性を発揮し、生体に対して有益な効果を与える可能性に着目し、重炭酸イオンの生体に与える効果について検討を行った(非特許文献1参照)。
【0022】
その結果、生体内試験において、対照群と比較して有意にマウスの血流を増加させ、その血液中の重炭酸イオン量や末梢血管における内皮型一酸化窒素合成酵素のリン酸化を介したNO産生の増加傾向が認められた。さらにヒト臍帯動脈内皮細胞を用いた試験管内試験では、中性重炭酸イオン水の存在下で内皮型一酸化窒素合成酵素のリン酸化の促進とNO産生の増加が検出され、中性重炭酸イオン水の活性酸素種消去活性は対照群よりも有意に高い結果を得た。
【0023】
これらのことから、重炭酸イオンは経皮的に吸収されることで血管内皮への直接作用により内皮型一酸化窒素合成酵素をリン酸化させ、NO産生の増加により血流を促進させることが明らかとなり、特許文献2-4の錠剤を入浴剤として用いることが有効であることを確認した。
【0024】
しかしながら、特許文献2-4のような中性重炭酸入浴剤を用いたとしても、適切な条件で入浴しなければ、血流の促進によって深部体温を適切に上げることができず、また、入浴と入眠のタイミングを適切に設定しなければ、深部体温の下げ幅を大きくして、スムーズな入眠を促すことができない。
【0025】
そこで、本願発明者は、中性重炭酸入浴剤を溶解した湯水に入浴する時間と血流量との相関、中性重炭酸入浴剤を溶解する湯水の温度と血流量との相関、湯水中の重炭酸イオン濃度と血流量との相関、中性重炭酸入浴剤を溶解した湯水に入浴する時間と深部体温との相関、入浴後の時間と深部体温との相関を調べ、睡眠準備のために適した入浴条件及び入浴と入眠のタイミングを調べた。
【0026】
その結果、重炭酸イオンを溶解した湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて、入浴時間の増加に伴って深部体温が大きく上昇し、通常の湯水に入浴した場合との深部体温の差は約0.2℃以上になった。このことから、重炭酸イオンを溶解した湯水に入浴することにより、通常の湯水に入浴する場合に比べて深部体温を約0.2℃以上上げることができ、その結果、深部体温の下げ幅を大きくし、スムーズな入眠を促して睡眠の質を向上させることができることが分かった。
【0027】
また、重炭酸イオンを溶解した湯水に入浴した場合は、血流の促進によって深部体温が上がることから、通常の湯水に入浴した場合に比べて深部体温の下がり方は緩やかになる。そのため、入浴から入眠までの時間を長くする必要があり、60~120分が適切な時間であることが分かった。このことから、入眠予定時刻の約60~120分前に入浴が終了するようにすれば、深部体温の下げ幅を確保することができ、スムーズな入眠を促して睡眠の質を向上させることができることが分かった。
【実施例0028】
上記した本発明の一実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の一実施例に係る睡眠準備のための入浴方法について、
図2乃至
図10を参照して説明する。
図2は、重炭酸イオンの経皮吸収による血流量増加のメカニズムを説明する模式図であり、
図3は、本実施例の入浴時間と血流量との相関を示す図、
図4は、本実施例の入浴温度と血流量との相関を示す図、
図5は、本実施例の重炭酸イオン濃度と血流量との相関を示す図である。また、
図6は、本実施例の入浴時間と深部体温との相関を示す図、
図7は、本実施例の重炭酸入浴を継続実施することによる深部体温の上昇効果を示す図であり、
図8は、本実施例の入浴後の経過時間と深部体温との相関を示す図である。また、
図9は、ピッツバーグ睡眠質問票の項目と判定基準であり、
図10は、ピッツバーグ睡眠質問票による重炭酸入浴を継続実施することによる睡眠の質の改善効果を示す図である。
【0029】
まず、重炭酸イオン濃度の効果により血流が増大するメカニズムについて説明する。
図2は、人の血管の構造を模式的に示しており、表皮1の内側に真皮/皮下脂肪組織2があり、真皮/皮下脂肪組織2の内側に血管5がある。血管5は平滑筋7を有する血管壁6とその内側の血管内皮細胞8とで構成され、血管内皮細胞8の内部が血管内9である。ここで、重炭酸イオンが溶解した湯水に入浴すると、
図2に示すように、重炭酸イオンは汗孔4などを介して、血管内9に浸透して血管内皮細胞8に存在する内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)をリン酸化し(P-eNOS)、L-アルギニン(L-Al)に作用して一酸化窒素(NO)を発生する。発生したNOはグアニル酸シクラーゼ酵素(sGC)によりグアノシン三リン酸(GTP)を介して環状グアイノシンリン酸(cGMP)を生成する。そして環状グアイノシンリン酸(cGMP)は血管壁6の平滑筋7を弛緩し、その結果、血管5が拡張して血流が増加する。
【0030】
従って、湯水中の重炭酸イオンの濃度を高めることにより、重炭酸イオンの経皮吸収によって血流を促進し、深部体温を上昇させるなどの入浴効果を高めることができるが、この入浴効果を最大限に発揮させるためには、重炭酸イオンの経皮吸収に関係する入浴条件(入浴剤を溶解した湯水に入浴する時間、入浴剤を溶解する湯水の温度、湯水中の重炭酸イオン濃度など)を最適化する必要がある。
【0031】
そこで、入浴効果を最大限に発揮させるための入浴条件を調べた。ここで、上述したように、重炭酸イオンが経皮吸収されると、血管に一酸化窒素(NO)が発生し、血管が一気に拡張して血流を早めることから、入浴時の被験者の血流量を測定することによって、入浴時間、入浴温度、重炭酸イオン濃度の最適値を調べた。この血流量の測定には、非接触型レーザードップラー血流計(株式会社アドバンス製のALF21N)を用い、レーザ光を生体組織に照射した際の組織からの反射光を電気信号に変換して処理することにより求めた。測定場所は、いわゆる「合谷(ごうこく)」に該当する手の背側の個所であり、皮膚に計測グローブを装着して測定した。なお、血流量の単位はmL/min/100g-組織であるが、ここでは入浴前の値に対する倍数として表記し、被験者が5日間実施したデータの平均値を使用した。
【0032】
まず、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を39℃に調整し、その中に、入浴剤を溶解した湯水が略中性となる特許文献2-4に代表される中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整し、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)に入浴させた時の血流量の時間変化を測定した。また、比較のために、39℃の通常の湯水に被験者10名を入浴させた時の血流量の時間変化を測定した。その結果を表1及び
図3に示す。
【0033】
【0034】
図3は、入浴時間と血流量との相関を示す図である。
図3の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合は、入浴によって体温が上昇し、自律神経の作用によって一時的に血流量が約2倍に増加するが、10分程度で血流量の増加は止まり、その後は入浴時間を長くしても血流量はほとんど変化しなかった。一方、
図3の実線に示すように、本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整した湯水に入浴した場合は、時間の経過に伴って重炭酸イオンが経皮吸収されて血管に一酸化窒素が発生し、一酸化窒素から生成された環状グアイノシンリン酸が平滑筋を弛緩して血管が拡張する。その結果、10分経過後には血流量は入浴前の約5倍(通常の湯水に入浴した場合に血流量が約2倍に増加することを考慮すると、重炭酸イオンが経皮吸収されることによる血流量の増加は実質的に約4倍)に増加し、20分経過後には血流量は入浴前の約6倍(同様に、通常の湯水に入浴した場合に血流量が約2倍に増加することを考慮すると、重炭酸イオンが経皮吸収されることによる血流量の増加は実質的に約5倍)に増加し、その後も入浴時間の増加に伴って血流量が徐々に増加した。
図3の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて明らかに血流量が増加しており、通常の湯水に入浴した場合との血流量の有意差を考慮すると、入浴時間は10分以上、好ましくは20分以上が最適な入浴条件であると言え、10分以上入浴した場合、血流量は入浴前の約4倍以上、20分以上入浴した場合、血流量は入浴前の約5倍以上になることが分かった。
【0035】
次に、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を変化させ、その中に本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整し、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)に20分入浴させた時の血流量を測定した。また、比較のために、温度を変化させた通常の湯水に被験者10名を20分入浴させた時の血流量を測定した。その結果を表2及び
図4に示す。
【0036】
【0037】
図4は、入浴温度と血流量との相関を示す図である。
図4の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合、入浴温度の上昇に伴って体温が上昇し、自律神経の作用によって血流量は徐々に増加するが、血流量の増加は約2.4倍以下であった。一方、
図4の実線に示すように、本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整した湯水に入浴した場合は、入浴温度の上昇に伴って、酵素(内皮型一酸化窒素合成酵素やグアニル酸シクラーゼ酵素など)の働きが高まり、一酸化窒素や環状グアイノシンリン酸の生成量が増加し、平滑筋の弛緩作用が強まって血管が大きく拡張する。その結果、29℃で血流量は入浴前の約3.1倍、32℃で血流量は入浴前の約5倍、40℃で血流量は入浴前の約6.1倍になり、その後、血流量の変化は緩やかになるものの43℃で血流量は入浴前の約6.2倍になった。
図4の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて明らかに血流量が増加しており、通常の湯水に入浴した場合との血流量の有意差を考慮すると、入浴温度は29℃から43℃、好ましくは32℃から40℃が最適な入浴条件であると言える。
【0038】
次に、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を39℃に調整し、その中に本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を変化させ、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)に20分入浴させた時の血流量を測定した。その結果を表3及び
図5に示す。なお、重炭酸イオン濃度が0mmol/Lの血流量が入浴前の2倍になっているのは、表1より39℃の通常の湯水に20分入浴した場合の血流量の増加が入浴前の2倍であることによる。また、
図5では、重炭酸イオン濃度が低い(1mmol/L以下の)条件での血流量の変化を分かりやすくするために、グラフの左右で重炭酸イオンの濃度範囲で変えている。
【0039】
【0040】
図5は、重炭酸イオン濃度と血流量との相関を示す図である。
図5の実線に示すように、本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を変化させた湯水に入浴した場合は、経皮吸収される重炭酸イオンが少量でも十分な一酸化窒素が発生し、一酸化窒素から生成された環状グアイノシンリン酸が平滑筋を弛緩して血管が拡張する。その結果、0.1mmol/Lで血流量は入浴前の約4.8倍、0.2mmol/Lで血流量は入浴前の約5.3倍に急激に増加し、その後、5mmol/Lで血流量は入浴前の約6.2倍、10mmol/Lで血流量は入浴前の約6.4倍に緩やかに増加した。
図5の結果から、重炭酸イオン濃度は、血流量が大幅に増加している0.1mmol/Lから10mmol/L、好ましくは0.2mmol/Lから5mmol/Lが最適な入浴条件であると言える。
【0041】
重炭酸イオンの経皮吸収によって血流量が増加すると深部体温が上昇すると考えられることから、入浴時間と深部体温の相関を調べた。この深部体温の測定には、深部体温計(GreenTEG社製のCORE)を用い、熱流束(単位時間当たりに単位面積を流れる熱エネルギー量)を高感度センサーで測定し、アルゴリズムで処理することによって皮膚表面の体温から体の内部の体温(深部体温)を求めた。測定場所は手首であり、3cm×3cmのパッチ型センサーをバンドで手首に固定して測定した。なお、ここでは入浴前の値からの変化として表記し、被験者が5日間実施したデータの平均値を使用した。
【0042】
入浴時間と血流量との相関を調べた時と同様に、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を39℃に調整し、その中に本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整し、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)を入浴させた時の深部体温の時間変化を測定した。また、比較のために、39℃の通常の湯水に被験者10名を入浴させた時の体温の時間変化を測定した。その結果を表4及び
図6に示す。
【0043】
【0044】
図6は、入浴時間と深部体温との相関を示す図である。
図6の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合、自律神経の作用によって血流量は増加するが、深部体温はそれほど上昇していない。一方、
図6の実線に示すように、本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整した湯水に入浴した場合は、重炭酸イオンが経皮吸収されて血管に一酸化窒素が発生し、一酸化窒素から生成された環状グアイノシンリン酸が平滑筋を弛緩して血管が拡張し、血流量が増加する。その結果、10分経過後には深部体温は入浴前の値から約0.7℃(通常の湯水の場合は約0.5℃)上昇し、20分経過後には体温は入浴前の値から約1.5℃(通常の湯水の場合は約1.1℃)上昇し、その後も入浴時間の増加に伴って深部体温が徐々に上昇した。
図6の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて明らかに深部体温が高く、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴することによって体が芯から温まっていることが分かった。
図6の結果からも、通常の湯水に入浴した場合との体温の有意差を考慮すると、入浴時間は10分以上、好ましくは20分以上が最適な入浴条件であると言え、その入浴条件で入浴した場合、深部体温は通常の湯水に入浴した場合に比べて約0.2℃以上高くなることが分かった。
【0045】
次に、上記の入浴条件での入浴を毎日継続して実施した場合に睡眠前の深部体温がどのように変化するかを調べた。入浴温度を38℃に調整し、その中に本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入し、30分入浴する入浴習慣を被験者50名(平均年齢46.8歳の男女)に4週間継続して毎日実施させた時の睡眠前の深部体温を測定した。また、比較のために、38℃の通常の湯水に30分入浴する入浴習慣を被験者50名に4週間継続して毎日実施させた時の睡眠前の深部体温を測定した。その結果を表5及び
図7に示す。
【0046】
【0047】
図7は、入浴継続期間と睡眠前の深部体温との相関を示す図である。
図7の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合、入浴を4週間継続して毎日実施しても、睡眠前の深部体温は約0.1℃程度しか上昇していない。一方、
図7の実線に示すように、本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入した湯水に入浴した場合は、1週間経過後には睡眠前の深部体温は約0.2℃上昇し、その後も深部体温は高い状態で維持した。
図7の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて明らかに睡眠前の深部体温を高い状態を維持することができ、入浴を1週間以上継続して毎日実施することにより睡眠前の深部体温を約0.2℃上げることができることが分かった。
【0048】
次に、入浴後に深部体温がどのように変化するかを調べた。被験者50名(平均年齢46.8歳の男女)に対して、入浴温度を38℃に調整し、その中に本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入して30分入浴した後、120分経過するまでの深部体温を測定した。また、比較のために、被験者50名に対して、38℃の通常の湯水に30分入浴した後、120分経過するまでの深部体温を測定した。その結果を表6及び
図8に示す。
【0049】
【0050】
図8は、入浴後の継続時間と深部体温との相関を示す図である。
図8の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合、入浴後30分で深部体温は元に戻る。一方、
図8の実線に示すように、本実施例の中性重炭酸入浴剤を投入した湯水に入浴した場合は、血管が拡張して血流量が増加することによって深部体温が上昇するため、深部体温が元に戻るまでの時間は長くなり、入浴後約60分から120分で深部体温はほぼ一定の値になった。
図8の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、深部体温の下げ幅を確保するためには、入眠予定時刻の約60分以上前、好ましくは入眠予定時刻の約60~120分前に入浴を終了することが重要であることが分かった。
【0051】
次に、ピッツバーグ睡眠質問票を用いて、本発明の入浴方法を実施した場合の睡眠を評価した。このピッツバーグ睡眠質問票(PSQI:Pittsburgh Sleep Quality Index)は、最近1ヵ月間の睡眠について睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難、眠剤の使用、日中覚醒困難の項目から評価するもので、スコアが低いほど睡眠の質が高いことを示している。
図9は、ピッツバーグ睡眠質問票における質問する項目と質問に対する回答の判定基準とを示している。
【0052】
重炭酸イオンを溶解させた湯水の入浴を4週間継続して実施した被験者と通常の湯の入浴を4週間継続して実施した被験者に対して、入浴開始前と4週間継続後に
図9に示す項目を質問し、その回答に対して
図9に示す判定基準に基づいてスコアを計算し、そのスコアの変化率を調べた。その結果、
図10に示すように、通常の湯に入浴した被験者の睡眠スコア変化率は-23.5%であるのに対して、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した被験者の睡眠スコア変化率は-37.5%であり、重炭酸イオンを溶解させた湯水の入浴を継続して実施することにより、睡眠スコア変化率は大きく下がり(改善度が大きく)、本発明の入浴方法を実施することにより、睡眠の質の向上に効果があることが確認できた。
【0053】
以上説明したように、湯の温度が29~43℃、重炭酸イオン濃度が0.1~10mmol/Lの条件で、10分以上入浴(好ましくは、湯の温度が32~40℃、重炭酸イオン濃度が0.2~5mmol/Lの条件で、20分以上入浴)し、好ましくは、この入浴を1週間以上継続することにより、重炭酸イオンの経皮吸収による血流の促進により、深部体温を約0.2℃上げることができ、入眠予定時刻の約60分以上前、好ましくは約60~120分前に、この入浴条件での入浴を終了すれば、深部体温の下げ幅を大きく確保することができ、スムーズな入眠を促して睡眠の質を向上させることができることが分かった。
【0054】
次に、上述した重炭酸温浴に使用することができる代表的な中性重炭酸入浴剤(第1の中性重炭酸入浴剤及び第2の中性重炭酸入浴剤)について説明する。
【0055】
[第1の中性重炭酸入浴剤]
本実施例の重炭酸温浴に使用する第1の中性重炭酸入浴剤は、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)に対して所定の割合の有機酸及び所定の割合のポリエチレングリコール並びに必要に応じて所定の割合の無水物(無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム)を含む圧縮成型錠剤である。例えば、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)に対し1/10から1/3の有機酸及び1/100から1/5のポリエチレングリコール並びに1/100から1/10の無水物(無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム)を含む圧縮成型錠剤であって、錠剤を溶かした直後の水溶液のpHが5.5から8.5であるものである。
【0056】
有機酸としてはクエン酸、コハク酸、リンゴ酸などが用いられるが、少なくともクエン酸を含む有機酸を用いることで、錠剤中の中和反応をより効果的に持続させ、微細な泡を発生させることができる。
【0057】
また、重炭酸塩を流動層で造粒して造粒物を得る場合、実質的に空気を攪拌作用として使用しない機械式流動層造粒機を用いることによって、錠剤中の反応を効率的に高めることができる。機械式撹拌方式の流動層では、撹拌に空気を用いた流動を行わず、プロペラなどの機械式羽などを用いて粉体を流動させるため、造粒中に湿気のある空気から持ち込まれる水分が吸湿する事もない。
【0058】
実質的に空気を攪拌作用として使用しない機械式流動層造粒機は、横型ドラムの中にすき状ショベルを配し、遠心拡散及び渦流作用を起こさせ、三次元流動させる混合機であり、例えば、ドイツレーディゲ社製又は松坂技研社製として市場で販売されている。
【0059】
本造粒機には、減圧するための真空ポンプが付いていることがより好ましい。造粒中に減圧ポンプで真空にすることにより、ポリエチレングリコールの量を下げて造粒できるため、中和反応をより活発にしながら、発泡する泡の径を極めて小さくすることができる。更に、造粒した顆粒が冷却時に粗大粒子になるのを防止するためのチョッパーが付いていることが好ましい。即ち、チョッパーを冷却時に作動させて整粒することにより、炭酸ガス泡の径をミクロサイズより小さくする効果が発揮され、より好ましい造粒方法となる。
【0060】
本実施例の第1の中性重炭酸入浴剤では、重炭酸ナトリウムをポリエチレングリコールと機械式撹拌方式を用いた流動層造粒機によって造粒し、この造粒物に一定比率の量の有機酸とポリエチレングリコールを加え、混合後、高圧で圧縮成型し一定硬度以上一定サイズ以上の錠剤として得る。もちろん有機酸を主とする混合物もポリエチレングリコールを用いて造粒し、重炭酸塩を造粒せずにポリエチレングリコールと混合しただけで、有機酸造粒物と混合して圧縮成型し錠剤を得るようにしてもよく、造粒する化合物の量が相対的に少なく工程的な面からの製造方法としては好ましい。いずれにしろ、コストの面からは重炭酸塩もしくは有機酸のどちらか一方を造粒し、片方は混合するだけで製造することが望ましい。また、錠剤中での中和反応を長時間維持し溶解する炭酸ガスを増大させるには、重炭酸塩と有機酸塩の両方がいずれもポリエチレングリコールと混合もしくはコーテイングして使用することが好ましい製造方式となる。
【0061】
また、本実施例の第1の中性重炭酸入浴剤では、圧縮成型前のいずれかの工程に無水物を添加することが好ましい。無水物の量は、多すぎる場合は発泡する泡の量が少なくなってしまい、一方、少なすぎると浴中での炭酸ガスの発生が激しくなり、好ましくない。上記無水物とは、無水炭酸ナトリウム、無水炭酸カリウムから選ばれる1又は2以上の無水物であり、特に、無水炭酸ナトリウムが好ましい。
【0062】
また、本実施例の第1の中性重炭酸入浴剤では錠剤成形のための離型剤を使用することができ、この離型剤としては一般的にショ糖やステアリン酸マグネシウムなどが使われるが、特に、n-(ノルマル)オクタンスルホン酸ナトリウムやラウリルスルホン酸ナトリウム、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ミリストイルメチルアラニンナトリウムなどから選ばれる1種を含むことで、錠剤を安定的かつ高速に圧縮成型することができるため好ましい。また、錠剤が湯水に溶解された際、ミクロサイズの発泡を行わせ、溶解後のこの湯水の透明性を維持する上でも、これらの離型剤が最も好ましく用いられる。なお、この離型剤の添加量は、公知公用の範囲であればよく、特別の制限はない。
【0063】
また、本実施例の第1の中性重炭酸入浴剤には、主成分に加えて、その他の成分(添加物)を必要に応じて混合することができる。その他の添加物として、ヒアルロン酸などの健康成分や香料、色素、ビタミンC、水道水の塩素を除去する還元性物質(アスコルビン酸Na、アミノ酸、亜硫酸Na、チオ硫酸Na)などが挙げられる。
【0064】
[第2の中性重炭酸入浴剤]
本実施例の重炭酸温浴に使用する第2の中性重炭酸入浴剤は、重炭酸塩と有機酸と塩素中和化合物と滑沢剤とを混合して圧縮成型したものである。更に、必要に応じて、錠剤の成形性及び湯水への溶解性を向上させるための水溶性高分子などの材料(以下、造粒促進剤と呼ぶ。)を加えて圧縮成型したものである。
【0065】
上記重炭酸塩として、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムなどを用いることができるが、特に、炭酸水素ナトリウムが好ましい。この炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム又は重曹)は、発泡剤としての役割を果たすものであり、有機酸とともに湯水に溶けると、中和反応で二酸化炭素を発泡しながら溶解水のpHにより重炭酸イオンと水素イオンに乖離し水に溶解する。この重炭酸イオンは、いわゆるニオイの元になる毛穴のミネラル皮脂汚れを洗浄する能力を発揮する。重炭酸入浴剤における重炭酸塩の含量は、他の成分との関係において規定される。その含量が規定量よりも少ないと、湯水への溶解時のpHが所定の値にならず、重炭酸イオンの湯水への溶解量が大幅に減じてしまう。一方、上記含量が規定量を超えると、炭酸ガスの発泡が大幅に減少してしまう。
【0066】
また、上記有機酸は、重炭酸塩を中和し炭酸ガスの発泡を生じさせる役割を果たし、湯水に溶ける場合に肌の洗浄効果や肌の柔軟効果なども発揮する。この有機酸として、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸などを用いることができるが、特に、クエン酸が好ましい。クエン酸を用いた場合、他の有機酸を用いた場合よりも中和反応がより効果的に起きる。有機酸の含量は、前記の通りに、他の成分との関係において規定される。その含量が規定量よりも少ないと、錠剤が溶ける間の炭酸ガス発泡量が減少し、溶解する重炭酸イオンの量が減少し、血流増進効果などが低下してしまう。一方、その含量が規定量を超えると、炭酸ガスの発泡量は増加するが泡の径が大きくなってガスが中和されにくくなり、溶解する重炭酸イオンの量が減少してしまう。
【0067】
また、上記塩素中和化合物として、L-アスコルビン酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、茶カテキン、エリソルビン酸塩などを用いることができるが、特に、L-アスコルビン酸塩が好ましい。L-アスコルビン酸としては、公知のものを特別の制限なく用いることができる。塩としては、ナトリウム塩やカルシウム塩が例として挙げられるが、特に、ナトリウム塩(L-アスコルビン酸ナトリウム)が好ましい。L-アスコルビン酸は、ビタミンCとして広く知られているが、水道水に添加すると、下記の反応式1、2の反応を経て水道水に含まれている塩素を除去することができる。また、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸塩や亜流酸塩、茶カテキンなどの還元剤もよく似た反応で塩素を中和し無害化することができる。
【0068】
[反応式1]C6H8O6+NaClO→C6H6O6+H2O+NaCl(1次殺菌のために投入される次亜塩素酸ナトリウムをビタミンCが還元し除去する反応)
【0069】
[反応式2]C6H8O6+Cl2→C6H6O6+2HCl(塩素の維持のために投入される塩素をビタミンCにより除去する反応)
【0070】
反応式1、2の反応を経てアスコルビン酸が水道水に溶けると、水道水に含まれている塩素が除去される。これにより、残留塩素が肌に及ぼす問題点である「酸化や老化、ふけ」等の発生を防止することができる。加えて、アスコルビン酸自体の効能である肌の張りの増加、小皺の予防、美肌、美白、アンチエージングなどの効果を発揮することができる。なお、反応式2に示すように、塩素の除去時に少量の塩酸が発生するが、重炭酸イオンと有機酸のバッファー効果により溶解水のpHは緩衝され、シャワー水や風呂水のpHが酸性になってしまうことはなく、水道水のpHは安定である。この塩素中和化合物の含量は、重炭酸入浴剤1錠当たりの湯水の量との関係において規定される。その含量が規定量よりも少ないと、水道水に含まれている塩素を十分に除去することができない。一方、その含量を規定量以上加えても除去すべき塩素がないため、塩素中和化合物が無駄になる。
【0071】
また、上記滑沢剤は粉体の流動性、圧縮性などを改善する物質である。この滑沢剤として、炭素数6から18のアルカンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、ショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1つなどを用いることができるが、特に、炭素数6から18のアルカンスルホン酸塩及び/又はオレフィンスルホン酸塩は、炭素数14から18のアルカンスルホン酸ナトリウム、テトラデセンスルホン酸ナトリウム、ノルマルオクタンスルホン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1つとすることが好ましい。
【0072】
また、上記造粒促進剤は、重炭酸塩、有機酸、塩素中和化合物などの材料を圧縮成形して錠剤を作製したり、錠剤を湯水中に溶解しやすくしたり、錠剤を湯水中に溶解した時に炭酸ガス成分を重炭酸イオンとして最大に溶解させたりする役割を果たす。この造粒促進剤として、第1の中性重炭酸入浴剤と同様に、ポリエチレングリコール(PEG)を用いることができるが、特に、PEG6000が好ましい。なお、ポリエチレングリコールは、製造工程において、発がん性物質であるエチレンオキシドや発がん性が疑われる1,4-ジオキサンなどの溶媒が使用されることから、これらの溶媒に汚染されることが懸念されている。また、ポリエチレングリコールは、体内に長く存在することから、アレルギーを引き起こすことも懸念されている。ポリエチレングリコールに代わる材料として、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、カルボキシビニルポリマー、カチオン化ポリマー、スチレン重合体エマルション、ポリリン酸およびその塩、ピロリン酸およびその塩、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびその塩、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン澱粉、にかわ、寒天、ゼラチン、コラーゲンタンパク、流動パラフィン、カゼイン、ペクチン、アルギン酸およびその塩、カラギーナン、ファーセレラン、タマリンドガム、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、クインスシード、デキストリン、デキストランなどを使用することができる。この造粒促進剤の含量は、前記の通りに、他の成分との関係において規定される。その含量が規定量よりも少ないと、炭酸ガス泡の径が大きくなって発泡時間も短くなり、湯水に溶解する炭酸ガス成分を多くできない。一方、その含量が規定量を超えると、発生する泡の量が抑えられてしまい、同じように湯水に溶解する炭酸ガス成分が少なくなってしまう。
【0073】
次に、これらの材料を用いて第2の中性重炭酸入浴剤を製造する方法について説明する。
【0074】
第2の中性重炭酸入浴剤の製造方法としては、(1)重炭酸塩の造粒物を作製(必要に応じて重炭酸塩を造粒促進剤でコーティングして造粒物を作製)し、その造粒物に有機酸と塩素中和化合物と滑沢剤の混合物を混合する方法と、(2)有機酸の造粒物を作製(必要に応じて有機酸を造粒促進剤でコーティングして造粒物を作製)し、その造粒物に重炭酸塩と塩素中和化合物と滑沢剤の混合物を混合する方法と、(3)重炭酸塩の造粒物を作製(必要に応じて重炭酸塩を造粒促進剤でコーティングして造粒物を作製)すると共に、有機酸の造粒物を作製(必要に応じて有機酸を造粒促進剤でコーティングして造粒物を作製)し、それらの造粒物に塩素中和化合物と滑沢剤を混合する方法などがある。
【0075】
いずれの方法を用いても重炭酸イオンの効果を発揮する第2の中性重炭酸入浴剤を製造することができるが、(1)の方法は、ミクロサイズの泡を長時間発泡させ、湯水の中に溶解する炭酸ガス成分を最大にできると共に、工程を大幅に省略できることから、第2の中性重炭酸入浴剤の製造方法としては、(1)の方法、すなわち、重炭酸塩の造粒物を作製(ここでは重炭酸塩を造粒促進剤でコーティングして造粒物を作製)し、その造粒物に有機酸と塩素中和化合物と滑沢剤の混合物を混合する方法が好ましい。以下、この方法を前提にして説明する。
【0076】
まず、重炭酸塩を造粒促進剤でコーティングして造粒物を作製する。本実施例では、重炭酸塩として炭酸水素ナトリウムを用い、造粒促進剤としてPEG6000を用いる。本願発明者の実験によれば、重炭酸塩に対する造粒促進剤の重量比を1/50~1/8に設定することによって、毛細血管をダブルサイズに拡張し、血流を一気に5倍以上に高めることができる。
【0077】
次に、有機酸と塩素中和化合物と滑沢剤の混合物を作製する。本実施例では、有機酸としてクエン酸を用い、塩素中和化合物としてL-アスコルビン酸ナトリウムを用い、滑沢剤として、テトラデセンスルホン酸ナトリウムとオクタンスルホン酸ナトリウムを用いる。本願発明者の実験によれば、重炭酸塩に対する有機酸の重量比を1/8~2/7に設定し、錠剤に対する塩素中和化合物の重量比を1/1500~1/30に設定することによって、毛細血管をダブルサイズに拡張し、血流を一気に5倍以上に高めることができる。なお、有機酸と塩素中和化合物と滑沢剤の混合物を造粒しない場合は、造粒促進剤を添加しなくてもよいが、打錠性を良くするために造粒促進剤を添加してもよい。
【0078】
次に、造粒物(重炭酸塩及び造粒促進剤)に混合物(有機酸と塩素中和化合物と滑沢剤)を混合した材料を圧縮成形して錠剤を作製する。錠剤を作製する圧縮成形には公知の圧縮成形機を使用することができるが、例えば、油圧プレス機、単発式打錠機、ロータリー式打錠機、ブリケッティングマシンなどを用いることができる。
【0079】
この圧縮成形の際に、錠剤の硬度(ここでは破壊強度)が所定値以上となるようにする。硬度は高いほど錠剤中での炭酸ガスの発生がより効果的に起こり湯水中への炭酸ガスの溶解が効率的に行われ、泡の径が細かくなり、好ましい結果を生じる。本願発明者の実験によれば、錠剤の硬度を20kgf以上にすることによって、毛細血管をダブルサイズに拡張し、血流を一気に5倍以上に高めることができる。この直径方向の破壊強度(kgf)は、岡田精工社製デジタル錠剤硬度計ニュー・スピードチェッカーTS75NLを用いて測定することができる。
【0080】
第2の中性重炭酸入浴剤では、無水炭酸ナトリウムや無水炭酸カリウム、無水炭酸カルシウム、無水炭酸マグネシウムなどの無水物を添加してもよい。無水物を添加することにより、炭酸ガスの泡径を最適な小さなものとしながら、発泡量をより大きく、且つ長時間持続させることができ、特に無水物として無水炭酸ナトリウムを添加した場合に上記効果を顕著に発揮させることができる。この無水物は、造粒物を作製する工程や造粒物と混合物を混合する工程など、圧縮成型前のいずれかの工程で添加することができるが、重炭酸塩の造粒物に有機酸と塩素中和化合物と滑沢剤の混合物を混合する段階で無水物を添加することが望ましく、特に、造粒物を冷却後、有機酸、塩素中和化合物、滑沢剤、無水物を同時に添加し混合して直ちに打錠することが最も望ましい。無水物は、量が多すぎると発泡する泡の量が少なくなってしまい、一方、量が少なすぎると湯水中での炭酸ガスの発生が激しくなり、好ましくない。
【0081】
また、第2の中性重炭酸入浴剤には、錠剤成形のための離型剤を使用することができる。この離型剤としては、一般的にショ糖やステアリン酸マグネシウムなどが使われるが、ステアリン酸マグネシウムが、錠剤を安定に連続かつ高速に圧縮成型できることから最も好ましい。更に、重炭酸入浴剤には、その他の成分を必要に応じて混合することができる。その他の成分として、ヒアルロン酸などの健康成分や香料、色素、界面活性剤などが挙げられる。
【0082】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、その構成は適宜変更可能である。
【0083】
例えば、上記実施例の第1の中性重炭酸入浴剤では、本願発明者らが発明した錠剤を中性重炭酸入浴剤として用いた場合の入浴条件について記載したが、第2の中性重炭酸入浴剤で示したように、湯水中に重炭酸イオンを同程度に溶解させることができる他の錠剤を入浴剤として用いた場合でも、本発明の睡眠準備のための入浴方法を同様に適用することができる。