(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097041
(43)【公開日】2025-06-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び被覆電線
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20250623BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250623BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20250623BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20250623BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20250623BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/22
C08L23/04
C08K3/34
H01B7/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213094
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 恭輔
【テーマコード(参考)】
4J002
5G309
【Fターム(参考)】
4J002BB021
4J002BB031
4J002BB041
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB081
4J002DE078
4J002DE088
4J002DE148
4J002DE258
4J002DJ006
4J002EJ007
4J002EJ017
4J002EN007
4J002EV007
4J002EW007
4J002FD016
4J002FD077
4J002FD138
4J002GQ01
5G309RA04
5G309RA12
(57)【要約】
【課題】環境法規制の懸念がある臭素系難燃剤を使用しなくても、難燃性及び耐熱性に優れ、吸湿及びブリードを抑制することが可能な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、ポリオレフィンと、ゼオライトと、酸化防止剤と、金属水酸化物とを含む樹脂組成物であって、樹脂組成物はポリオレフィン100質量部に対してゼオライトを0.1質量部以上3.5質量部以下含み、樹脂組成物はポリオレフィン100質量部に対して酸化防止剤を1質量部以上6.5質量部以下含み、ゼオライトの酸化防止剤に対する質量比は0.08以上3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンと、
ゼオライトと、
酸化防止剤と、
金属水酸化物と、
を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は前記ポリオレフィン100質量部に対して前記ゼオライトを0.1質量部以上3.5質量部以下含み、
前記樹脂組成物は前記ポリオレフィン100質量部に対して前記酸化防止剤を1質量部以上6.5質量部以下含み、
前記ゼオライトの前記酸化防止剤に対する質量比は0.08以上3以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゼオライトの細孔径は6.5Å以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゼオライトの細孔径は6.6Å以上9.0Å以下であり、前記ゼオライトにおけるアルミナに対するシリカのモル比は10以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィンは架橋されており、
前記ポリオレフィンはポリエチレン及びエチレン共重合体の少なくともいずれか一方を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記金属水酸化物は水酸化マグネシウムを含み、
前記樹脂組成物は前記ポリオレフィン100質量部に対して前記金属水酸化物を40質量部以上130質量部以下含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物のショアD硬度は45未満である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物は臭素系難燃剤を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
導体と、
前記導体を被覆し、請求項1又は2に記載の樹脂組成物によって形成された被覆層と、
を備える、被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に配索される被覆電線に、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物で形成された被覆層を設けることが知られている。また、ポリオレフィンのような熱可塑性樹脂は、実用に適した難燃性を付与するため、樹脂組成物に難燃剤が適宜添加される。
【0003】
難燃性の高い難燃剤としては、臭素系難燃剤が知られている。特許文献1には、熱可塑性樹脂と、臭素系難燃剤と、細孔径が8Å以下であるゼオライトとを含有する樹脂組成物が開示されている。
【0004】
一方、難燃剤として、金属水酸化物などのような非臭素系難燃剤も知られている。特許文献2には、樹脂成分と金属水酸化物とを含む材料で導体を被覆した非ハロゲン電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の樹脂組成物は、高い難燃性を維持しつつ、耐熱性も良好である。しかしながら、臭素系難燃剤の中にはポリ臭化ビフェニル(PBB)及びポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)などのように、環境法規制によって規制されている物質も存在する。そのため、将来的に、これら以外の臭素系難燃剤も、環境法規制の対象となるおそれがある。環境法規制が制定された場合、臭素系難燃剤を有する樹脂組成物の使用が制限されるおそれがある。
【0007】
また、特許文献2に記載の非ハロゲン電線において、臭素系難燃剤と同等の難燃性を満たすためには、金属水酸化物を多量に充填する必要がある。しかしながら、このような金属水酸化物は、樹脂成分の酸化劣化を促進するおそれがある。そのため、金属水酸化物を多量に充填した場合、樹脂組成物の耐熱性が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、環境法規制の懸念がある臭素系難燃剤を使用しなくても、難燃性及び耐熱性に優れ、吸湿及びブリードを抑制することが可能な樹脂組成物及び被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様に係る樹脂組成物は、ポリオレフィンと、ゼオライトと、酸化防止剤と、金属水酸化物を含んでいる。樹脂組成物はポリオレフィン100質量部に対してゼオライトを0.1質量部以上3.5質量部以下含んでいる。樹脂組成物はポリオレフィン100質量部に対して酸化防止剤を1質量部以上6.5質量部以下含んでいる。ゼオライトの酸化防止剤に対する質量比は0.08以上3以下である。
【0010】
本発明の他の態様に係る被覆電線は、導体と、導体を被覆し、上記樹脂組成物によって形成された被覆層とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境法規制の懸念がある臭素系難燃剤を使用しなくても、難燃性及び耐熱性に優れ、吸湿及びブリードを抑制することが可能な樹脂組成物及び被覆電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る被覆電線の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本実施形態に係る樹脂組成物、被覆電線、及びワイヤーハーネスについて詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0014】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリオレフィンと、ゼオライトと、酸化防止剤と、金属水酸化物とを含んでいる。以下、各構成について詳細に説明する。
【0015】
(ポリオレフィン)
ポリオレフィンは、オレフィン又はアルケンのモノマーを重合して得られた樹脂である。ポリオレフィンは、例えば、エチレン及びプロピレンの少なくともいずれか一方を含むモノマーが重合したポリマーであってもよい。具体的には、ポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン、エチレン共重合体、及びポリプロピレンなどからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含んでいてもよい。また、ポリオレフィンは、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)であってもよい。
【0016】
ポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、及び、超低密度ポリエチレン(VLDPE)などからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。ポリエチレンは、少量のコモノマーを含む共重合体であってもよい。ポリエチレンは、エチレン単量体の単独重合体、エチレン単量体と5mol%以下のα-オレフィン単量体との共重合体、又は、エチレン単量体と官能基に炭素、酸素若しくは水素原子だけを持つ1mol%以下の非オレフィン単量体との共重合体であってもよい。
【0017】
エチレン共重合体は、2種類以上の単量体を重合させたポリマーであってもよい。エチレン共重合体は、エチレン単量体と5mol%を超えるエチレン単量体以外のオレフィン単量体との共重合体、又は、エチレン単量体と1mol%を超える非オレフィン単量体との共重合体であってもよい。エチレン共重合体は、例えば、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)及びエチレン-酢酸ビニル-エチルアクリレート共重合体などからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0018】
ポリプロピレンは、主成分のプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとを含んでいてもよい。なお、ここでいう主成分とは、ポリプロピレンを重合するのに用いられたモノマー全体に対してプロピレン単量体が50%以上であることを意味する。ポリプロピレンは、ブロック共重合体及びランダム共重合体の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。ポリプロピレンは、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、及び、プロピレン・エチレン-α-オレフィンランダム共重合体などからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0019】
樹脂組成物に含まれる樹脂成分におけるポリオレフィンの含有量は、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0020】
ポリオレフィンは架橋されていてもよい。ポリオレフィンを架橋することにより、樹脂組成物の機械的特性を向上させることができる。ポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン及びエチレン共重合体の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。このようなポリオレフィンは、柔軟性が高いため、電線の被覆層に適している。
【0021】
(ゼオライト)
樹脂組成物は、ゼオライトを含有する。樹脂組成物にゼオライトを添加することによって、耐熱性を向上させることができる。ゼオライトは、アルミノケイ酸塩の一種であり、一般式Mx/n・[(AlO2)x・(SiO2)y]・zH2Oで表すことができる。なお、一般式中、Mは価数nのカチオンであり、x+yは単位格子当たりの四面体数であり、zは水のモル数であり、yはxよりも大きい値である。価数1のカチオン種としては、Li+、Na+、K+などが挙げられ、価数2のカチオン種としてはCa2+、Mg2+、Ba2+などが挙げられる。
【0022】
樹脂組成物は、ポリオレフィン100質量部に対してゼオライトを0.1質量部以上3.5質量部以下含んでいる。ゼオライトの含有量を0.1質量部以上とすることにより、耐熱性を向上させることができる。また、ゼオライトの含有量を3.5質量部以下とすることにより、ゼオライトによる吸湿を抑制することができる。ゼオライトの含有量は、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、1.5質量部以上、2質量部以上、2.5質量部以上、又は3質量部以上であってもよい。また、ゼオライトの含有量は、3質量部以下、2.5質量部以下、2質量部以下、1.5質量部以下、1質量部以下、0.8質量部以下、又は、0.5質量部以下であってもよい。
【0023】
一般的に、ゼオライトは多孔質であり、細孔を有する。ゼオライトは、細孔径よりも小さい分子を吸着することができるが、細孔径よりも大きい分子は細孔の中に入ることができないため、分子篩効果及びイオン交換機能を有することが知られている。ゼオライトの細孔径は、ゼオライトの結晶構造に由来している。ゼオライトの細孔径は、例えば1Å以上10Å以下であってもよい。ゼオライトの細孔径は、2Å以上、3Å以上、4Å以上、5Å以上、6Å以上、7Å以上、又は、8Å以上であってもよい。また、ゼオライトの細孔径は、9Å以下、8Å以下、7Å以下、6Å以下、5Å以下、4Å以下、又は、3Å以下であってもよい。ゼオライトの細孔径は、例えばHorvath-Kawazoe法などによって測定することができる。
【0024】
ゼオライトにおけるアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3比)は特に限定されない。シリカ/アルミナ比は、例えば、1以上10000以下であってもよい。シリカ/アルミナ比は、2以上、5以上、20以上、80以上、500以上、又は、1000以上であってもよい。また、シリカ/アルミナ比は、2000以下、1000以下、200以下、50以下、30以下、10以下、又は、4以下であってもよい。
【0025】
ゼオライトの細孔径は6.5Å以下であるか、又は、ゼオライトの細孔径は6.6Å以上9.0Å以下であって、かつ、ゼオライトにおけるアルミナに対するシリカのモル比は10以下であってもよい。このようなゼオライトを含む樹脂組成物は、特に耐熱性に優れている。
【0026】
ゼオライトには、天然ゼオライト、合成ゼオライト、人工ゼオライトが含まれる。天然ゼオライトは、自然界で産出され、廉価であるものが多いといった特徴を有する。合成ゼオライトは、純度の高い化学物質を原料とし、純度が高いといった特徴を有する。人工ゼオライトは、石炭灰に代表される未利用資源などを原料とし、天然ゼオライトと比較して純度が高く、人工ゼオライトと比較して廉価であるといった特徴を有する。これらのなかでも、ゼオライトは、合成ゼオライト及び人工ゼオライトの少なくともいずれか一方であることが好ましい。これらのゼオライトは、天然ゼオライトと比較すると、均一な構造を有している。
【0027】
ゼオライトの構造は、特に限定されず、例えば、A型、ベータ型、MCM-22、ZSM-5、フェリエライト、及びモルデナイトなどであってもよい。
【0028】
ゼオライトの平均粒子径は、特に限定されず、0.1μm以上、1μm以上、又は5μm以上であってもよい。また、ゼオライトの平均粒子径は、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよい。ゼオライトの平均粒子径は、樹脂組成物の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて観察し、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値である。
【0029】
ゼオライトのカチオン種は、特に限定されず、例えば、水素イオン(H+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)及びアンモニウムイオン(NH4
+)からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0030】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、ポリオレフィンの酸化劣化などを抑制する。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤などのラジカル連鎖防止剤、リン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤などの過酸化物分解剤、並びに、ヒドラジン系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤などの金属不活性剤など、ポリオレフィンに用いられる公知の酸化防止剤を使用することができる。酸化防止剤は、単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0031】
樹脂組成物は、ポリオレフィン100質量部に対して酸化防止剤を1質量部以上6.5質量部以下含んでいる。酸化防止剤の含有量を1質量部以上とすることにより、ポリオレフィンなどが酸化によって劣化するのを抑制することができる。また、酸化防止剤の含有量を6.5質量部以下とすることにより、ブリードアウトを抑制することができる。また、酸化防止剤の含有量を6.5質量部以下とすることにより、架橋処理時に酸化防止剤が反応して樹脂組成物の架橋度が低下したり、電線に通電した際に発煙特性が低下したりするのを抑制することができる。本実施形態では、ゼオライトの添加により耐熱性が向上するため、酸化防止剤を単体で用いる場合と比較して、少ない量で効果を発現させることが期待できる。また、酸化防止剤の含有量は6質量部以下であってもよく、4質量部以下であってもよく、2質量部以下であってもよい。
【0032】
ゼオライトの酸化防止剤に対する質量比(ゼオライト/酸化防止剤)は0.08以上3以下である。ゼオライト及び酸化防止剤の質量比を上記範囲内にすることにより、耐熱性を向上させることができる。上記質量比は、0.1以上であってもよく、0.3以上であってもよい。また、上記質量比は、2以下であってもよく、1以下であってもよく、0.7以下であってもよい。
【0033】
(金属水酸化物)
金属水酸化物は、難燃剤として機能する。金属水酸化物は、臭素系難燃剤と比較し、環境法規制の対象となる可能性が低い。そのため、本実施形態に係る樹脂組成物では、金属水酸化物を樹脂組成物の難燃剤として用いている。
【0034】
金属水酸化物は、金属イオンと水酸化物イオンとの塩、及び、金属酸化物の水和物の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。金属水酸化物は、例えば、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・Mg(OH)2・nH2O)、水和珪酸アルミニウム(ケイ酸アルミニウム水和物,Al2O3・3SiO2・nH2O)、及び水和珪酸マグネシウム(ケイ酸マグネシウム五水和物,Mg2Si3O8・5H2O)等からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。金属水酸化物は、具体的には、水酸化マグネシウムを含んでいてもよい。
【0035】
これらの金属水酸化物は樹脂材料への相溶性を考慮して表面処理がなされたものが好ましいが、表面処理がなされなくても物性が悪化しない範囲であれば用いることができる。金属水酸化物への表面処理としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ステアリン酸のような脂肪酸、又はステアリン酸カルシウムのような脂肪酸金属塩等を用いて行うことが好ましい。
【0036】
樹脂組成物は、ポリオレフィン100質量部に対して金属水酸化物を40質量部以上130質量部以下含んでいてもよい。本実施形態に係る樹脂組成物では、上述の通り、ゼオライトと酸化防止剤との配合比が最適化されているため、金属水酸化物の含有量を上記のような範囲内にすることができる。また、金属水酸化物を40質量部以上とすることにより、難燃性をさらに向上させることができる。また、金属水酸化物の含有量を130質量部以下とすることにより、樹脂組成物の硬度を高くすることができるため、耐摩耗性を向上させることができる。金属水酸化物の含有量は、50質量部以上であってもよく、60質量部以上であってもよい。また、金属水酸化物の含有量は、120質量部以下、110質量部以下、100質量部以下、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、又は、60質量部以下であってもよい。
【0037】
樹脂組成物は、臭素系難燃剤を実質的に含んでいなくてもよい。臭素系難燃剤は、少なくとも1つ以上のハロゲンを有する有機化合物であり、ヒドロキシルラジカルを捕捉し、樹脂組成物の燃焼を抑制することができる。しかしながら、臭素系難燃剤は、将来的に環境法規制の対象となるおそれがある。環境法規制が制定された場合、臭素系難燃剤を有する樹脂組成物の使用が制限されるおそれがある。本実施形態に係る樹脂組成物は金属水酸化物を含んでいるため、樹脂組成物が臭素系難燃剤を実質的に含んでいなくても、樹脂組成物は難燃性を有している。なお、樹脂組成物が臭素系難燃剤を実質的に含んでいないとは、樹脂組成物はポリオレフィン100質量部に対して臭素系難燃剤を1質量部以下含むことを意味する。なお、樹脂組成物は、ポリオレフィン100質量部に対して臭素系難燃剤を0.5質量部以下含んでいてもよく、0.1質量部以下含んでいてもよい。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物には、本実施形態の効果を妨げない範囲で種々の添加剤を適量配合することができる。添加剤としては、架橋助剤、難燃助剤、金属不活性剤、銅害防止剤、老化防止剤、滑剤、充填剤、補強剤、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜定めることができる。
【0039】
樹脂組成物のショアD硬度は45未満であってもよい。樹脂組成物のショアD硬度を45未満とすることにより、樹脂組成物の耐摩耗性を向上させることができる。なお、樹脂組成物のショアD硬度は0以上であり、10以上であってもよい。樹脂組成物のショアD硬度は、JIS K7215:1986に準じて測定することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリオレフィンと、ゼオライトと、酸化防止剤と、金属水酸化物を含んでいる。樹脂組成物はポリオレフィン100質量部に対してゼオライトを0.1質量部以上3.5質量部以下含んでいる。樹脂組成物はポリオレフィン100質量部に対して酸化防止剤を1質量部以上6.5質量部以下含んでいる。ゼオライトの酸化防止剤に対する質量比は0.08以上3以下である。
【0041】
したがって、本実施形態に係る樹脂組成物は、環境法規制の懸念がある臭素系難燃剤を使用しなくても、難燃性及び耐熱性に優れ、吸湿及びブリードを抑制することができる。
【0042】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ゼオライト及び酸化防止剤の配合比を所定の範囲内としているため、酸化防止剤が熱処理中に消費する時間を長くすることができ、その結果耐熱性が優れていると考えられる。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、ゼオライト及び酸化防止剤の配合比を所定の範囲内としているため、ゼオライト及び酸化防止剤の添加量を低く抑えることができる。
【0043】
本実施形態に係る樹脂組成物によれば、ISO19642に準拠したFlexible導体及び薄肉仕様でも使用することができ、フィラーを多く充填することによって低コスト化を実現することも考えられる。
【0044】
[被覆電線]
次に、本実施形態に係る被覆電線1について
図1を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る被覆電線1は、導体2と、導体2を被覆し、上記樹脂組成物によって形成された被覆層3とを備えている。上述の通り、上記実施形態に係る樹脂組成物は、環境法規制の懸念がある臭素系難燃剤を使用しなくても、難燃性及び耐熱性に優れ、吸湿及びブリードを抑制することができる。そのため、被覆電線1は、例えば自動車用の被覆電線1として好ましく用いることができる。
【0045】
導体2は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。導体2の径、及び素線の径は特に限定されず、用途に応じて適宜定めることができる。導体2は、銅、アルミニウム、及びこれらの金属を含む合金であってもよい。
【0046】
被覆層3を形成する樹脂組成物は、上述の樹脂組成物を溶融混練することにより作製されるが、その方法は公知の手段を用いることができる。例えば、あらかじめヘンシェルミキサー等の高速混合装置を用いてプリブレンドした後、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等の公知の混練機を用いて混練することにより、樹脂組成物を得ることができる。
【0047】
導体2を被覆層3で被覆する方法も公知の手段を用いることができ、例えば、一般的な押し出し成形法によって被覆層3を形成してもよい。押し出し成形法で用いる押出機は、例えば単軸押出機又は二軸押出機を含んでいてもよい。溶融した樹脂を押し出し、導体2の外周上を溶融した樹脂組成物で被覆することにより、導体2の外周を被覆する被覆層3を形成することができる。
【0048】
このように、本実施形態の被覆電線1では、一般的な電線用樹脂組成物と同様に押し出し成形によって被覆層3を形成することができる。なお、被覆層3の強度を向上させるために、導体2の外周に被覆層3を形成した後、放射線を樹脂組成物に照射し、樹脂組成物を架橋処理してもよい。その結果、被覆層3の強度を向上させることができる。
【0049】
放射線は、例えば、γ線又は電子線を放射線源として使用することができる。被覆層3に樹脂組成物を照射することにより、分子中にラジカルが発生し、これらラジカル同士がカップリングして分子間の架橋結合を形成する。その結果、被覆層3の強度を向上させることが可能となる。なお、被覆層3に、放射線によって活性化する架橋剤を更に配合して、被覆層3の強度をより向上させてもよい。
【0050】
なお、樹脂組成物の加工方法に関して、樹脂組成物の混練方法、導体2への被覆方法、樹脂組成物の架橋方法は、目的に沿って最適な工法を選択することができ、特に限定されない。
【0051】
以上の通り、本実施形態に係る被覆電線1は、導体2と、導体2を被覆し、上述した樹脂組成物によって形成された被覆層3とを備えている。樹脂組成物は、環境法規制の懸念がある臭素系難燃剤を使用しなくても、難燃性及び耐熱性に優れ、吸湿及びブリードを抑制することができる。そのため、被覆電線1は、例えば自動車用の被覆電線1として好ましく用いることができる。また、樹脂組成物は、ポリオレフィンを含んでいるため、シリコーンゴム電線よりも安価な被覆電線1を提供することができる。
【0052】
[ワイヤーハーネス]
次に、本実施形態に係るワイヤーハーネスについて説明する。本実施形態に係るワイヤーハーネスは、上述した被覆電線1を備えている。被覆電線1の被覆層3は樹脂組成物によって形成されており、樹脂組成物は環境法規制の懸念がある臭素系難燃剤を使用しなくても、難燃性及び耐熱性に優れ、吸湿及びブリードを抑制することができる。そのため、本実施形態に係るワイヤーハーネスは、例えば電気自動車などの車両に配索されるワイヤーハーネスとして好ましく用いることができる。
【実施例0053】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態に係る樹脂組成物はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
下記の材料を、樹脂ミキサー(株式会社東洋精機製作所製)を用い、表に示す配合量(質量部)で溶融混練し、各例の樹脂組成物を作製した。樹脂組成物は、750kV×160kGyの条件で架橋した。
【0055】
[ポリオレフィン]
ENGAGE(登録商標)7256(ダウ社製)、エチレン-ブテン共重合体、ポリオレフィンエラストマー
【0056】
[ゼオライト]
(1)A型ゼオライト、細孔径3Å、SiO2/Al2O3=2、カチオン種K+、ゼオラム(登録商標)A-3(商品型番)(東ソー株式会社製)
(2)A型ゼオライト、細孔径4Å、SiO2/Al2O3=2、カチオン種Na+、ゼオラム(登録商標)A-4(商品型番)(東ソー株式会社製)
(3)A型ゼオライト、細孔径5Å、SiO2/Al2O3=2、カチオン種Ca2+、ゼオラム(登録商標)A-5(商品型番)(東ソー株式会社製)
(4)ZSM-5型ゼオライト、細孔径5.8Å、SiO2/Al2O3=40、カチオン種H+、HSZ(登録商標)840HOA(商品型番)(東ソー株式会社製)
(5)ZSM-5型ゼオライト、細孔径5.8Å、SiO2/Al2O3=1500、カチオン種H+、HSZ(登録商標)891HOA(商品型番)(東ソー株式会社製)
(6)ベータ型ゼオライト、細孔径6.5Å、SiO2/Al2O3=40、カチオン種H+、HSZ(登録商標)940HOA(商品型番)(東ソー株式会社製)
(7)Y型ゼオライト、細孔径9.0Å、SiO2/Al2O3=5.5、カチオン種H+、HSZ(登録商標)320HOA(商品型番)(東ソー株式会社製)
(8)Y型ゼオライト、細孔径9.0Å、SiO2/Al2O3=100、カチオン種H+、HSZ(登録商標)385HUA(商品型番)(東ソー株式会社製)
【0057】
[酸化防止剤]
Irganox(登録商標)1010(BASF製)、ペンタエリスリトールテトラキス[3-[3,5-ジ(tert-ブチル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオナート]
【0058】
[金属水酸化物]
高級脂肪酸によって表面処理された水酸化マグネシウム KISUMA(登録商標)5A(協和化学工業株式会社)
【0059】
[評価]
上記のようにして作製した樹脂組成物の難燃性、耐熱性、吸湿性、ブリード性及び硬度を以下のようにして評価した。
【0060】
(難燃性)
JIS K7201-2に準拠し、架橋処理を施した厚み3mmの樹脂組成物の酸素指数測定を実施し、難燃性評価とした。酸素指数が21.0以上の場合を「〇」、21.0以下の場合を「×」とした。
【0061】
(耐熱性)
架橋した樹脂組成物を1mm厚の樹脂シートに成形した後、JIS K6251:2010に規定されたダンベル状3号形で打ち抜いた。打ち抜いたダンベル状シートを、JIS K7212:1999に準拠し、170℃で150時間加熱した。加熱したシートをオーブンから取り出し、室温(約23℃)で12時間放置した。そして、室温まで冷却したシートを試験サンプルとして、室温(23℃)において200mm/分の引張速度で引張試験を実施した。そして、試験サンプルの伸び率が100%以上であった場合には「〇」、試験サンプルの伸び率が100%未満であった場合には「×」として耐熱性を評価した。
【0062】
(吸湿性)
架橋した樹脂組成物でペレットを作製し、当該ペレットを、真空乾燥機を用いて40℃で真空脱気し、その後室温(23℃)かつ湿度40%~60%の条件にて168時間放置した。この試験サンプルの水分含有率を、JIS K7251:2002に規定されたA法(無水メタノール抽出法)によって測定した。水分含有率が1,500ppm未満の場合には「〇」、水分含有率が1,500ppm以上の場合には「×」として吸湿性を評価した。
【0063】
(ブリード性)
樹脂組成物を0.5mm厚かつ50mm幅の樹脂シートに成型し、200mm長に切断した。この樹脂シートに架橋処理を施し、アセトンを用いて樹脂シート上のブリード物を拭き取った。その後、室温(23℃)かつ湿度40%~60%の条件にて1,000時間放置した。その後、再度アセトンを用いて樹脂シート上のブリード物を拭き取った。そして、1回目の拭き取り前のサンプル重量と、2回拭き取り後のサンプル重量との重量差を、樹脂シート表面にブリードアウトしたブリード物のブリード量として求めた。ブリード量は、樹脂シートの長さ及び幅から単位面積当たりの質量に換算した。ブリード量が0.150mg/cm2未満の場合には「〇」、ブリード量が0.150mg/cm2以上の場合には「×」としてブリード性を評価した。
【0064】
(硬度)
架橋した樹脂組成物を2mm厚の樹脂シートに成型した後、JIS K7215:1986に規定されたサイズに打ち抜いて試験サンプルを作製した。そして、厚さが6mm以上になるように、打ち抜いた試験サンプルを3枚以上重ねた。このサンプルを、タイプDデュロメータを用いてショアD硬度を測定した。ショアD硬度が45未満の場合には「〇」、ショアD硬度が45以上の場合には「×」として硬度を評価した。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表1及び表2に示すように、実施例1~実施例19に係る樹脂組成物は、難燃性、耐熱性、吸湿性及びブリード性が優れていた。さらに、実施例1~実施例18に係る樹脂組成物は、金属水酸化物を130質量部以下含んでいるため、金属水酸化物を140質量部含む実施例19に係る樹脂組成物と比較し、硬度が高かった。
【0069】
一方、表3に示すように、ゼオライトを含まない比較例1に係る樹脂組成物では、十分な耐熱性が得られなかった。また、比較例2に係る樹脂組成物は、ゼオライトを4質量部含み、ゼオライトの酸化防止剤に対する質量比が4であるため、吸湿性の評価が「×」になってしまった。また、比較例3に係る樹脂組成物は、ゼオライトの酸化防止剤に対する質量比が0.07であるため、ブリード性の評価が「×」になってしまった。また、比較例4に係る樹脂組成物は、比較例2と同様に、ゼオライトを4質量部含み、ゼオライトの酸化防止剤に対する質量比が4であるため、吸湿性の評価が「×」になってしまった。また、比較例5に係る樹脂組成物は、水酸化マグネシウムを添加していないため、難燃性の評価が「×」になってしまった。
【0070】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
前記ゼオライトの細孔径は6.6Å以上9.0Å以下であり、前記ゼオライトにおけるアルミナに対するシリカのモル比は10以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。