(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097116
(43)【公開日】2025-06-30
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20250623BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250623BHJP
B29C 55/28 20060101ALI20250623BHJP
C08F 10/14 20060101ALI20250623BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
C08J5/18 CES
B29C55/28
C08F10/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213218
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 彰太
(72)【発明者】
【氏名】安部 友裕
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F210
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA21
4F071AA82
4F071AA84
4F071AA87
4F071AA88
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4J100CA04
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA24
4J100JA43
4J100JA57
(57)【要約】
【課題】インフレーション成形に供した場合にバブルの安定性に優れる積層体をおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)を含むA層と、熱可塑性樹脂(B)を含むB層と、を備える、積層体およびその製造方法。要件(A1-1)~(A1-7)の詳細は明細書中に示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)を含むA層と、
熱可塑性樹脂(B)を含むB層と、
を備える、積層体;
要件(A1-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3;
要件(A1-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、190℃以上220℃未満;
要件(A1-3):融解エンタルピーΔHが35J/g未満;
要件(A1-4):示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以上であるか、または計測されない;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A1-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A1-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A1-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.6を超え4.0dl/g以下。
【請求項2】
前記A層における、前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の含有量が60~100質量%であり、
下記要件(A2-1)~(A2-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)の含有量が0~40質量%である(但し、前記重合体(A1)および前記重合体(A2)の合計含有量は100質量%である)、請求項1に記載の積層体;
要件(A2-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3;
要件(A2-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、210℃~240℃;
要件(A2-3):融解エンタルピーΔHが40J/g未満;
要件(A2-4):示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以下;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A2-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A2-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A2-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/g。
【請求項3】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)が、下記要件(A1-8)をさらに満たす、請求項1または2に記載の積層体;
要件(A1-8):260℃で測定した溶融張力が10mN以上である。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエチレンまたはポリプロプレンである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
厚さが1~70μmである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
インフレーションフィルムである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項7】
包装用である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項8】
下記要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および下記要件(A2-1)~(A2-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を含む樹脂組成物(X)と、熱可塑性樹脂(B)と、を、膨比(バブル比)が1.0を超え、かつ、成形温度が260℃未満となる条件で、積層インフレーション成形する工程を含む、積層体の製造方法;
要件(A1-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3;
要件(A1-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、190℃以上220℃未満;
要件(A1-3):融解エンタルピーΔHが35J/g未満;
要件(A1-4):示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以上、または計測されない;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A1-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A1-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A1-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.6を超え4.0dl/g以下;
要件(A2-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3;
要件(A2-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、220℃~240℃;
要件(A2-3):融解エンタルピーΔHが40J/g未満;
要件(A2-4):DSCにより下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以下;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A2-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A2-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A2-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/g。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-メチル-1-ペンテン系重合体は、ポリエチレンやポリプロピレンに比べて、耐熱性、透明性、軽量性、耐スチーム性、離型性、耐汚染性、ガス透過性、電気特性など優れた特徴を有する。このような優れた特性を他素材に付与することができることから、4-メチル-1-ペンテン系重合体の層と、他素材の層とを備える積層体は、食品容器、電子・情報部材用副資材、実験器具、文房具、架橋用工程部材、離型フィルム、電子・情報部材用フィルム、食品包材、合成紙など様々な分野での利用が期待される。
【0003】
膜厚にばらつきが少なく膜厚精度(厚薄精度)が良好で、耐熱性を有するフィルムとして、例えば、特許文献1には特定の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体組成物(X)を含むことを特徴とするフィルムが開示されている。
また、膜厚にばらつきが少なく膜厚精度(厚薄精度)が良好で、耐熱性を有する積層体として、例えば、特許文献2には特定の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体組成物(X)を含むX層と、熱可塑性樹脂(Y)を含むY層とを含むことを特徴とする積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-102070号公報
【特許文献2】特開2023-102071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
4-メチル-1-ペンテン系重合体を用いた積層フィルムの製造方法としては、キャストフィルム法が知られているが、キャストフィルム法では平板状のフィルムやシートしか得られないこと、またその端部の厚さが不均一となりやすく、不均一な部分(耳部)をトリミングで切除するため歩留まりが悪いことなどの問題がある。このため、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む層を有し、厚さの均質な積層体が求められ、特にインフレーションフィルム成形で得られる積層体が求められていた。
しかしながら、4-メチル-1-ペンテン系重合体は、一般に延伸性に乏しく、例えば、特許文献1および2に記載の組成物を用いて、延伸を伴うインフレーションフィルム成形した場合、安定成形が可能な程度のバブルの安定性については更なる改良が求められている。
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、インフレーション成形に供した場合にバブルの安定性に優れる積層体をおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、このような状況に鑑みて鋭意検討した結果、特定の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む層と熱可塑性樹脂を含む層とを備える積層体において、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)を含むA層と、
熱可塑性樹脂(B)を含むB層と、
を備える、積層体;
要件(A1-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が 0.82~0.88g/m3;
要件(A1-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、190℃以上220℃未満;
要件(A1-3):融解エンタルピーΔHが35J/g未満;
要件(A1-4):示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以上であるか、または計測されない;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A1-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A1-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィン から導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A1-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.6を超え4.0dl/g以下。
<2> 前記A層における、前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の含有量が60~100質量%であり、
下記要件(A2-1)~(A2-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)の含有量が0~40質量%である(但し、前記重合体(A1)および前記重合体(A2)の合計含有量は100質量%である)、<1>に記載の積層体;
要件(A2-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が 0.82~0.88g/m3;
要件(A2-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、210℃~240℃ ;
要件(A2-3):融解エンタルピーΔHが40J/g未満;
要件(A2-4):示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以下;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A2-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A2-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A2-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/g。
<3> 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)が、下記要件(A1-8)をさらに満たす、<1>または<2>に記載の積層体;
要件(A1-8):260℃で測定した溶融張力が10mN以上である。
<4> 前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエチレンまたはポリプロプレンである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層体。
<5> 厚さが1~70μmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層体。
<6> インフレーションフィルムである、<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層体。
<7> 包装用である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層体。
<8> 下記要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および下記要件(A2-1)~(A2-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を含む樹脂組成物(X)と、熱可塑性樹脂(B)と、を、膨比(バブル比)が1.0を超え、かつ、成形温度が260℃未満となる条件で、積層インフレーション成形する工程を含む、積層体の製造方法;
要件(A1-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3;
要件(A1-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、190℃以上220℃未満;
要件(A1-3):融解エンタルピーΔHが35J/g未満;
要件(A1-4):示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以上、または計測されない;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A1-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A1-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A1-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.6を超え4.0dl/g以下;
要件(A2-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3;
要件(A2-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、220℃~240℃;
要件(A2-3):融解エンタルピーΔHが40J/g未満;
要件(A2-4):DSCにより下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以下;
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する;
要件(A2-5):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下;
要件(A2-6):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下(但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする);
要件(A2-7):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/g。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、インフレーション成形に供した場合にバブルの安定性に優れる積層体およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細を説明する。以下に記載する構成要件の内容の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
本明細書において、「~」を用いて表される数値の範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
なお、本明細書において、組成物中の各成分量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に拘らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後いずれか一方に記載される単位は、特に断りがない限り同じ単位を示すことを意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本開示における各種モノマーは、化石原料由来であってもよく、バイオマス由来であってもよい。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0009】
<積層体>
本発明に係る積層体は、要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)を含むA層と、熱可塑性樹脂(B)を含むB層と、を備える。
積層体は上記構成を有することでインフレーション成形に供した場合にバブルの安定性に優れる。この理由は明らかではないが以下のメカニズムが推察される。
A層に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は要件(A1-1)~(A1-7)を満たすので、結晶化速度を下げることが可能となり、冷却時のフィルムの破断を抑制でき、かつ、インフレ成形に適した溶融張力を有しているため熱可塑性樹脂(B)を含むB層とインフレーション成形に供した場合にバブルの安定性に優れる。
また、A層に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は、極限粘度[η]が0.6を超え4.0dl/g以下であり、かつ、融点(Tm)が、190℃以上220℃未満である条件を満たしているので、A層は、例えば、ポリエチレンなどの低融点のポリオレフィンからなる層との積層も可能となり、かつ、得られる積層体の外観が良好なインフレーション成形が可能となると推察している。
以下、本発明に係る積層体が備えるA層およびB層について詳細に説明する。
【0010】
<<A層>>
A層は、下記要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)(以下、単に「重合体(A1)」ともいう場合がある。)を含み、好ましくは、重合体(A1)と後述する重合体(A2)とを含む。
以下、各層に含まれる各成分について説明する。
【0011】
<<4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)>>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は、下記要件(A1-1)~(A1-7)を満たす。
【0012】
〔要件(A1-1)〕
要件(A1-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3であり、好ましくは0.82~0.86g/m3であり、より好ましくは0.82~0.84g/m3である。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の密度が前記範囲にあることにより、重合体(A1)を含む層を備える積層体をより軽量化させることができる。
【0013】
〔要件(A1-2)〕
要件(A1-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、190℃以上220℃未満であり、好ましくは190℃~215℃、より好ましくは190℃~210℃である。
一般的な4-メチル-1-ペンテン系重合体の融点(Tm)が220~250℃程度であるのに対して、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の融点(Tm)は、この融点範囲よりも低い範囲であることが好ましい。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の融点(Tm)が上記範囲であることにより、後述する熱可塑性樹脂(B)と同条件での成形が可能となり、熱可塑性樹脂(B)を含むB層との積層インフレーション成形を好適に行うことができるとともに、熱可塑性樹脂(B)を含むB層との密着性に優れた層を形成することができる。
【0014】
〔要件(A1-3)〕
要件(A1-3):融解エンタルピーΔHが35J/g未満であり、好ましくは5J/g以上35J/g未満であり、より好ましくは8~32J/gである。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の前記融解エンタルピーΔHが上記範囲にあることにより、成形性が向上し、後述する熱可塑性樹脂(B)を含むB層との積層インフレーション成形を好適に行うことができる。
前記融解エンタルピーΔHは、JIS K7122に準拠して測定した値である。
【0015】
〔要件(A1-4)〕
示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以上であるか、または計測されない。
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する。
前記半結晶化時間は、500秒以上であるか、または計測されないことが好ましく、800秒以上であるか、または計測されないことがより好ましく、1000秒以上であるか、または計測されないことがさらに好ましく、1500秒以上であるか、または計測されないことが特に好ましく、2000秒以上であるか、または計測されないことが最も好ましい。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の前記半結晶化時間が、220秒以上であるか、または計測されないことにより、溶融成形時の結晶化速度が遅くなり、延伸性が向上し、延伸を伴う積層インフレーション成形を好適に行うことができるという効果が得られる。
なお、上記半結晶化時間は、(株)パーキンエルマー製のDSC8500と同程度の機器を用いた場合でも同様の値が求められる。
【0016】
〔要件(A1-5)〕
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下であり、好ましくは1.0~6.0であり、より好ましくは1.5~5.0であり、さらに好ましくは2.0~4.0であり、特に好ましくは2.3~3.5である。
分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下であると、組成分布に由来する低分子量のポリマーの影響が少なく、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)を含む層を備える積層体は外観により優れる。
【0017】
また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で500~10,000,000が好ましく、1,000~5,000,000がより好ましく、5,000~2,500,000がさらに好ましい。
重量平均分子量(Mw)が上記の範囲内であると、積層体は適度な剛性と成形性を得られやすい。
上記重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、具体的には、後述する実施例に記載の測定方法により求められる。
【0018】
〔要件(A1-6)〕
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、好ましくは93.0~99.5モル%、より好ましくは93.0~99.0モル%であり、さらに好ましくは94.0~98.0モル%であり、特に好ましくは94~97.5モル%である。
炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量は、0モル%を超え10.0モル%以下であり、好ましくは0.5~7.0モル%、より好ましくは1.0~7.0モル%であり、さらに好ましくは2.0~6.0モル%であり、特に好ましくは2.5~6.0モル%である。
但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする。
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が、上記範囲内である場合、インフレーション成形を好適に行うことができ、得られる積層体の耐熱性、透明性および離型性に優れる。
【0019】
上記の炭素数10~20のα-オレフィンとしては、例えば、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。これらの中でも、炭素数10~20のα-オレフィンとしては、成形性の良い重合体が得られるという観点から、炭素数10~18のα-オレフィンが好ましい。具体的には、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセンおよび1-オクタデセンが好ましい。また、例えば、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンとを合わせて用いることがより好ましい。
【0020】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は、本発明の目的を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテン、および炭素数10~20のα-オレフィン以外の他の重合性化合物(以下、単に「他の重合性化合物」ともいう。)から導かれる構成単位をさらに有していてもよい。
他の重合性化合物としては、例えば、スチレン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等の環状構造を有するビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル;無水マレイン酸等の不飽和有機酸またはその誘導体;ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等の共役ジエン;1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペンル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等の非共役ポリエンが挙げられる。
【0021】
他の重合性化合物から導かれる構成単位の含有量は、重合体(A1)を構成する全構成単位100モル%中、通常は10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下であり、実質的に含まないことがさらに好ましい。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は、例えば、後述する4-メチル-1-ペンテン系重合体の製造方法により製造してもよい。また、市販の4-メチル-1-ペンテン系重合体を単独であるいは組み合わせて用いてもよい。
【0022】
〔要件(A1-7)〕
135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.6を超え4.0dl/g以下であり、好ましくは0.8~3.5dl/g、より好ましくは0.9~3.0dl/g、さらに好ましくは1.0~3.0dl/g、特に好ましくは1.5~3.0dl/gである。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は、前記範囲を満たす極限粘度を有することにより、バブル安定性に優れるので成形性が良好となり、延伸を伴う積層インフレーション成形を好適に行うことができる。また、得られる積層体の表面平滑性にも優れる。
極限粘度[η]は、後述する実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0023】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は、下記要件(A1-8)をさらに満たしていてもよい。
〔要件(A1-8)〕
260℃で測定した溶融張力(すなわち、メルトテンション:MT)が10mN以上であり、より好ましくは10~50mN、さらに好ましくは10~25mNである。溶融張力は、例えば重合体の分子量のコントロールにより調整することができる。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)が、前記範囲を満たす比較的高い溶融張力を有することにより、延伸を伴う方法でフィルムを形成することができ、特にインフレーション成形に適したものとなる。
溶融張力は、例えば重合体の分子量のコントロールにより調整することができる。
【0024】
A層において、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の含有量は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは55~100質量%であり、さらに好ましくは60~100質量%である。但し、重合体(A1)および後述する重合体(A2)の合計含有量は100質量%である。
A層は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0025】
<<重合体(A2)>>
A層は、下記要件(A2-1)~(A2-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)(以下、単に「重合体(A2)」という場合がある。)をさらに含んでいてもよい。
【0026】
〔要件(A2-1)〕
要件(A2-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3であり、好ましくは0.82~0.86g/m3であり、より好ましくは0.82~0.84g/m3である。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)の密度が前記範囲にあることにより、重合体(A2)を含む層を備える積層体をより軽量化させることができる。
【0027】
〔要件(A2-2)〕
要件(A2-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、210℃~240℃であり、好ましくは215℃~230℃である。
重合体(A2)の融点(Tm)が上記範囲であると、重合体(A2)を含む層を備える積層体は耐熱性に優れる。
【0028】
〔要件(A2-3)〕
要件(A2-3):融解エンタルピーΔHが40J/g未満であり、好ましくは15J/g以上40J/g未満であり、より好ましくは20~40J/gであり、さらに好ましくは25~40J/gであり、特に好ましくは25~35J/gである。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の前記融解エンタルピーΔHが前記範囲にあることにより、成形性が向上し、後述する熱可塑性樹脂(B)を含む層との積層インフレーション成形を好適に行うことができる。
前記融解エンタルピーΔHは、JIS K7122に準拠して測定した値である。
【0029】
〔要件(A2-4)〕
示差走査熱量計により下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以下であり、好ましくは500秒以上であり、より好ましくは800秒以上であり、さらに好ましくは1000秒以上であり、特に好ましくは1500秒以上であり、最も好ましくは2000秒以上である。
半結晶化時間の測定方法は、(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測し求められる。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)の前記半結晶化時間が、220秒以上であることにより、溶融成形時の結晶化速度が遅くなり、延伸性が向上し、延伸を伴う積層インフレーション成形を好適に行うことができるという効果が得られる。
なお、上記半結晶化時間は、(株)パーキンエルマー製のDSC8500と同程度の機器を用いた場合でも同様の値が求められる。
【0030】
〔要件(A2-5)〕
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下であり、好ましくは1.0~6.0であり、より好ましくは1.5~5.0であり、さらに好ましくは2.0~4.0であり、特に好ましくは2.3~3.5である。
分子量分布(Mw/Mn)が6.0以下であると、組成分布に由来する高分子量のポリマーの影響が少なく、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を含む層を備える積層体は外観により優れる。
【0031】
また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で500~10,000,000が好ましく、1,000~5,000,000がより好ましく、5,000~2,500,000がさらに好ましい。
重量平均分子量(Mw)が上記の範囲内であると、積層体は適度な剛性を得られやすい。
上記重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、具体的には、後述する実施例に記載の測定方法により求められる。
【0032】
〔要件(A2-6)〕
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、好ましくは95.0~99.5モル%、より好ましくは96.0~99.0モル%であり、さらに好ましくは96.5~98.0モル%であり、特に好ましくは97.0~98.0モル%である。
炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下であり、好ましくは0.5~5.0モル%、より好ましくは1.0~4.0モル%であり、さらに好ましくは1.5~3.5モル%であり、特に好ましくは1.5~3.0モル%である。
但し、前記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計含有量は100モル%とする。
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が、上記範囲内である場合インフレーション成形を好適に行うことができ、得られる積層体の耐熱性、透明性および離型性に優れる。
【0033】
上記の炭素数10~20のα-オレフィンとしては、例えば、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。これらの中でも、炭素数10~20のα-オレフィンとしては、成形性の良い重合体が得られるという観点から、炭素数10~18のα-オレフィンが好ましい。具体的には、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセンおよび1-オクタデセンが好ましい。また、例えば、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンとを合わせて用いることがより好ましい。
【0034】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)は、本発明の目的を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテン、および炭素数10~20のα-オレフィン以外の他の重合性化合物(以下、単に「他の重合性化合物」ともいう。)から導かれる構成単位をさらに有していてもよい。
他の重合性化合物としては、上述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)における他の重合性化合物が挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0035】
〔要件(A2-7)〕
135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/gであり、好ましくは1.0~3.5dl/g、より好ましくは1.5~3.0dl/g、さらに好ましくは2.0~3.0dl/g、特に好ましくは2.0~2.8dl/gである。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)は、前記範囲を満たす極限粘度を有することにより、バブル安定性に優れるので成形性が良好となり、延伸を伴う積層インフレーション成形を好適に行うことができる。また、得られる積層体の表面平滑性にも優れる。
極限粘度[η]は、後述する実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0036】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)は、下記要件(A2-8)をさらに満たしていてもよい。
〔要件(A2-8)〕
260℃で測定した溶融張力(すなわち、メルトテンション:MT)が10mN以上であり、好ましくは15~100mN、より好ましくは15~60mNである。溶融張力は、例えば重合体の分子量のコントロールにより調整することができる。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)が、前記範囲を満たす比較的高い溶融張力を有することにより、延伸を伴う方法でフィルムを形成することができ、特にインフレーション成形に適したものとなる。
溶融張力は、例えば重合体の分子量のコントロールにより調整することができる。
【0037】
A層において、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)の含有量は、好ましくは0~40質量%であり、より好ましくは5~45質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%であり、かつ、上述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)の含有量は、好ましくは60~100質量%であり、より好ましくは55~95質量%であり、さらに好ましくは60~90質量%である。但し、重合体(A1)および重合体(A2)の合計含有量は100質量%である。
A層は4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0038】
<4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および(A2)の製造方法>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および(A2)は、公知の製造方法を用いることができ、例えば、4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じて炭素数10~20のα-オレフィンと、さらに必要に応じて前記他の重合性化合物とを重合することにより得ることができる。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および(A2)は、前記重合をメタロセン触媒の存在下で行うことにより好適に製造することができる。
【0039】
メタロセン触媒としては、例えば、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号公報、特開平02-41303号公報、国際公開第06/025540号または国際公開第2013/099876号中に記載のメタロセン触媒が挙げられる。
【0040】
メタロセン触媒としては、例えば、メタロセン化合物(a)と、担体(b)とから少なくとも構成される触媒が挙げられる。
【0041】
<<メタロセン化合物(a)>>
メタロセン化合物(a)は、例えば、一般式(1)または(2)で表される。
【0042】
【0043】
一般式(1)または(2)中の各記号の意味は以下のとおりである。
R1~R14は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基、置換炭化水素基またはケイ素含有基である。R1からR4までの隣接した置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。R5からR12までの隣接した置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。
【0044】
Yは、炭素原子またはケイ素原子である。
Aは、不飽和結合および/または芳香族環を含んでいてもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。Aは、Yと共に形成する環を含めて2つ以上の環構造を含んでいてもよい。
【0045】
Mは、周期表第4族から選ばれる金属(遷移金属)であり、例えば、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムが挙げられる。
Qは、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、アニオン配位子、または孤立電子対で配位可能な中性配位子である。jが2以上であるときは、各々のQは同一でも異なってもよい。
jは、1~4の整数であり、好ましくは2である。
【0046】
R1~R14における炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20の炭化水素基が挙げられ、具体的には、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数7~20のアリールアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基などが挙げられる。
【0047】
R1~R14における置換炭化水素基(ただし、ケイ素含有基は除く)は、前記炭化水素基に含まれる水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基およびアミノ基等の官能基で置換された基である。
【0048】
R1~R14におけるケイ素含有基としては、例えば、ケイ素原子数1~4かつ炭素原子数3~20のアルキルシリル基またはアリールシリル基が挙げられ、その具体例としては、トリメチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、トリフェニルシリルが挙げられる。
【0049】
フルオレン環上のR5からR12までの隣接した置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。そのような置換フルオレニル基として、例えば、ベンゾフルオレニル、ジベンゾフルオレニル、オクタヒドロジベンゾフルオレニル、オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニルが挙げられる。
【0050】
フルオレン環上のR5からR12の置換基は、合成上の容易さから左右対称、すなわちR5=R12、R6=R11、R7=R10およびR8=R9であることが好ましい。フルオレン環部分は、無置換フルオレン、3,6-二置換フルオレン、2,7-二置換フルオレンまたは2,3,6,7-四置換フルオレンが好ましい。フルオレン環上の3位、6位、2位、7位は、それぞれR7、R10、R6、R11に対応する。
R13およびR14は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基または置換炭化水素基であることが好ましい。
【0051】
一般式(1)の場合、R13およびR14はYと結合し、架橋部として置換メチレン基または置換シリレン基を構成する。置換メチレン基および置換シリレン基の具体例としては、例えば、ジアルキルメチレン、ジシクロアルキルメチレン、アルキルシクロアルキルメチレン、アルキルアリールメチレン、ジアリールメチレン、ジアルキルシリレン、ジシクロアルキルシリレン、アルキルシクロアルキルシリレン、アルキルアリールシリレン、ジアリールシリレン、これらがハロゲン化された基が挙げられる。
【0052】
一般式(2)の場合、Yは前記2価の炭化水素基Aと結合し、シクロアルキリデン基またはシクロメチレンシリレン基等を構成する。シクロアルキリデン基およびシクロメチレンシリレン基の具体例としては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、ビシクロ[3.3.1]ノニリデン、ノルボルニリデン、アダマンチリデン、テトラヒドロナフチリデン、ジヒドロインダニリデン、シクロジメチレンシリレン、シクロトリメチレンシリレン、シクロテトラメチレンシリレン、シクロペンタメチレンシリレン、シクロヘキサメチレンシリレン、シクロヘプタメチレンシリレンが挙げられる。
【0053】
Qにおいて、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ;炭素数1~20の炭化水素基としては、R1~R14の炭化水素基と同様の基が挙げられ;アニオン配位子としては、アルコキシ基、アリーロキシ基、カルボキシレート基、スルホネート基等が挙げられ;孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン等の有機リン化合物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類等が挙げられる。Qの少なくとも一つは、ハロゲン原子または炭素数1~20のアルキル基であることが好ましい。
【0054】
メタロセン化合物(a)の具体例として、例えば、国際公開第01/27124号、国際公開第2006/025540号または国際公開第2007/308607号中に例示される化合物が挙げられる。
【0055】
メタロセン化合物(a)は、国際公開第2014/050817号などに記載の、下記一般式(3)で表される化合物が特に好ましい。
【0056】
【0057】
一般式(3)中、R1bは炭化水素基、ケイ素含有基またはハロゲン含有炭化水素基であり、R2b~R12bは水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基、ハロゲン原子およびハロゲン含有炭化水素基から選ばれ、それぞれ同一でも異なっていてもよく、それぞれの置換基は互いに結合して環を形成してもよい。Mは周期表第4族遷移金属であり、nは1~3の整数であり、Qは前記一般式(1)または(2)中のQと同義であり、jは1~4の整数である。
【0058】
R1bからR12bにおける炭化水素基としては、例えば、直鎖状アルキル基、直鎖状アルケニル基等の直鎖状炭化水素基;分岐状アルキル基等の分岐状炭化水素基;シクロアルキル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の環状飽和炭化水素基;アリール基、シクロアルケニル基等の環状不飽和炭化水素基;アラルキル基等の、飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子を環状不飽和炭化水素基に置換してなる基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10である。
【0059】
R1bからR12bにおけるケイ素含有基としては、例えば、式-SiR3(式中、複数あるRはそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基またはフェニル基である。)で表される基が挙げられる。
【0060】
R1bからR12bにおけるハロゲン含有炭化水素基としては、例えば、トリフルオロメチル基等の、上記炭化水素基が有する1または2以上の水素原子をハロゲン原子に置換してなる基が挙げられる。
R2bからR12bにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0061】
一般式(3)において2つの置換基が互いに結合して形成された環(スピロ環、付加的な環)としては、例えば、脂環、芳香環が挙げられる。具体的には、シクロヘキサン環、ベンゼン環、水素化ベンゼン環、シクロペンテン環が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン環、ベンゼン環および水素化ベンゼン環である。また、このような環構造は、環上にアルキル基等の置換基をさらに有していてもよい。
【0062】
R1bは、遊離原子価を有する炭素(シクロペンタジエニル環に結合する炭素)が3級炭素である置換基であることが特に好ましい。R1bとしては、具体的には、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アダマンチル基である。
フルオレン環部分は公知のフルオレン誘導体から得られる構造であれば特に制限されないが、R4bおよびR5bは、分子量の観点から、好ましくは水素原子である。
【0063】
R2b、R3b、R6bおよびR7bは、好ましくは炭素数1~20の炭化水素基である。また、R2bとR3bが互いに結合して環を形成し、かつR6bとR7bが互いに結合して環を形成していてもよい。このような置換フルオレニル基としては、例えば、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレニル基、1,1,3,3,6,6,8,8-オクタメチル-2,3,6,7,8,10-ヘキサヒドロ-1H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基、1’,1’,3’,6’,8’,8’-ヘキサメチル-1’H,8’H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基が挙げられる。
【0064】
R8bは水素原子であることが好ましい。R9bは炭素数2以上のアルキル基であることが好ましい。また、合成上の観点からは、R10bおよびR11bは水素原子であることも好ましい。
あるいは、n=1である場合、R9bおよびR10bが互いに結合して環を形成していることがより好ましく、当該環がシクロヘキサン環等の6員環であることが特に好ましい。この場合、R11bは水素原子であることが好ましい。
R12bは、アルキル基であることが好ましい。
【0065】
Mは周期表第4族遷移金属であり、例えばTi、ZrまたはHfであり、好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0066】
nは1~3の整数であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。nが上記値であることにより、生成する重合体を効率的に得る観点から好ましい。
jは1~4の整数であり、好ましくは2である。
【0067】
一般式(3)で表される化合物としては、(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドまたは(8-(2,3,6,7-テトラメチルフルオレン)-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドが特に好ましい。ここで、上記オクタメチルフルオレンとは1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレンのことである。
【0068】
<<担体(b)>>
担体(b)は、好ましくは粒子状であり、その表面および内部にメタロセン化合物(a)を固定化させることで、前記メタロセン触媒が形成される。このような形態の触媒は一般にメタロセン担持触媒と呼ばれる。
担体(b)は、有機アルミニウム化合物(b-1)、有機ホウ素化合物(b-2)、もしくは無機化合物(b-3)、またはこれらから選ばれる2種以上の複合体を主成分とする。
【0069】
有機アルミニウム化合物(b-1)としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド、トリシクロアルキルアルミニウムや、アルミノキサンに代表される有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。また、有機アルミニウム化合物(b-1)としては、例えば、ホウ素原子を含む有機アルミニウムオキシ化合物や、国際公開第2005/066191号、国際公開第2007/131010号に例示されているようなハロゲンを含むアルミノキサン、国際公開第2003/082879号に例示されているようなイオン性アルミノキサンを挙げることもできる。
【0070】
有機ホウ素化合物(b-2)としては、例えば、トリアルキルアンモニウムテトラアリールボレート、トリアルキルアンモニウムテトラ(ハロゲン化アリール)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラアリールボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラ(ハロゲン化アリール)ボレート、N,N-ジアルキルアニリニウムテトラアリールボレート、N,N-ジアルキルアニリニウムテトラ(ハロゲン化アリール)ボレートが挙げられる。
【0071】
無機化合物(b-3)としては、例えば、多孔質酸化物、無機ハロゲン化物、粘土、粘土鉱物、またはイオン交換性層状化合物が挙げられる。多孔質酸化物としては、例えば、SiO2、Al2O3、MgO、ZrO2、TiO2、B2O3、CaO、ZnO、BaO、ThO2等の酸化物、またはこれらを含む複合物もしくは混合物が挙げられる。例えば、天然または合成ゼオライト、SiO2-MgO、SiO2-Al2O3、SiO2-TiO2、SiO2-V2O5、SiO2-Cr2O3、SiO2-TiO2-MgOなどを例示することができる。無機ハロゲン化物としては、例えば、MgCl2、MgBr2、MnCl2、MnBr2が挙げられる。無機ハロゲン化物は、そのまま用いてもよいし、ボールミル、振動ミルにより粉砕した後に用いてもよい。また、アルコール等の溶媒に無機ハロゲン化物を溶解させた後、析出剤によって微粒子状に析出させたものを用いることもできる。
【0072】
担体(b)として、高活性かつ溶媒可溶部量をさらに抑制する観点から、アルミニウム原子を含有する担体が好ましい。担体(b)中のアルミニウム原子の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%、特に好ましくは35~47質量%である。
【0073】
このような担体(b)としては、固体状アルミノキサンが好適に用いられ、例えば、国際公開第2010/055652号、国際公開第2013/146337号、あるいは、国際公開第2014/123212号で開示される固体状アルミノキサンが特に好適に用いられる。
【0074】
「固体状」とは、固体状アルミノキサンが用いられる反応環境下において、当該アルミノキサンが実質的に固体状態を維持することを意味する。より具体的には、例えばオレフィン重合触媒を構成する各成分を接触させてオレフィン重合固体触媒成分を調製する際、反応に用いられるヘキサンやトルエン等の不活性炭化水素媒体中、特定の温度・圧力環境下において前記アルミノキサンが固体状態であることを表す。
【0075】
固体状アルミノキサンは、好ましくは下記式(4)で表される構成単位および下記式(5)で表される構成単位から選ばれる少なくとも1種の構成単位を有するアルミノキサンを含有し、より好ましくは下記式(4)で表される構成単位を有するアルミノキサンを含有し、さらに好ましくは下記式(4)で表される構成単位のみからなるポリメチルアルミノキサンを含有する。
【0076】
【0077】
【0078】
一般式(4)中、Meはメチル基である。
一般式(5)中、R1は炭素数2~20の炭化水素基、好ましくは炭素数2~15の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~10の炭化水素基である。炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基が挙げられる。
【0079】
固体状アルミノキサンの構造は必ずしも明らかにされておらず、通常は、式(4)および/または式(5)で表される構成単位が2~50程度繰り返されている構成を有すると推定されるが、当該構成に限定されない。また、その構成単位の結合態様は、例えば、線状、環状またはクラスター状と種々であり、アルミノキサンは、通常、これらのうちの1種からなるか、または、これらの混合物であると推定される。また、アルミノキサンは、式(4)または式(5)で表される構成単位のみからなってもよい。
【0080】
固体状アルミノキサンとしては、固体状ポリメチルアルミノキサンが好ましく、式(4)で表される構成単位のみからなる固体状ポリメチルアルミノキサンがより好ましい。
固体状アルミノキサンは、触媒担体として機能する。このため、固体状アルミノキサンの他に、触媒担体として、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、塩化マグネシウム等の固体状無機担体、またはポリスチレンビーズ等の固体状有機担体を用いなくともよい。
固体状アルミノキサンは、例えば、国際公開第2010/055652号および国際公開第2014/123212号に記載された方法により調製することができる。
【0081】
<<有機化合物成分(c)>>
メタロセン触媒は、さらに必要に応じて、有機化合物成分(c)を含有することもできる。有機化合物成分(c)は、必要に応じて、重合性能および生成ポリマーの物性を向上させる目的で使用される。有機化合物成分(c)としては、前述の有機アルミニウム化合物(b-1)を用いてもよい。その他に例えば、アルコール類、フェノール性化合物、カルボン酸、リン化合物、アミド、ポリエーテルおよびスルホン酸塩が挙げられる。
【0082】
<<重合条件>>
4-メチル-1-ペンテン共重合体を得るための4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じてエチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィンとの重合は、溶解重合、懸濁重合等の液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施できる。液相重合法においては、不活性炭化水素溶媒を用いることができ、具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;これらから選ばれる2種以上の混合溶媒が挙げられる。また、4-メチル-1-ペンテンを含むオレフィン自身を重合溶媒として用いることができる。
【0083】
上述した重合の際には、各成分の使用法、添加順序は任意に選ばれるが、以下のような方法が例示される。以下では、メタロセン化合物(a)、担体(b)および有機化合物成分(c)を、それぞれ「成分(a)~(c)」ともいう。また、有機アルミニウム化合物(b-1)、有機ホウ素化合物(b-2)および無機化合物(b-3)を、それぞれ「成分(b-1)~(b-c)」ともいう。
方法(i):成分(a)と成分(b)を任意の順序で重合器に添加する方法。
方法(ii):成分(a)を成分(b)に担持した触媒成分を重合器に添加する方法。
【0084】
上記(i)~(ii)の各方法においては、任意の段階でさらに成分(c)が添加されてもよい。また、各触媒成分の少なくとも2つは予め接触されていてもよい。
また、成分(b)に成分(a)が担持された固体触媒成分においては、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン等のオレフィンが予備重合されていてもよく、予備重合された固体触媒成分上に、さらに触媒成分が担持されていてもよい。
【0085】
メタロセン触媒を用いて4-メチル-1-ペンテン等の単量体の重合を行うに際して、メタロセン触媒を構成しうる各成分の使用量は以下のとおりである。また、メタロセン触媒において、各成分の含有量を以下のとおりに調節することができる。
【0086】
成分(a)は、反応容積1リットル当り、通常は10-10~10-2モル、好ましくは10-8~10-3モルとなるような量で用いられる。成分(b-1)は、成分(b-1)中のアルミニウム原子と成分(a)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔Al/M〕が通常は10~10000、好ましくは30~2000、特に好ましくは150~500となるような量で用いることができる。成分(b-2)は、成分(b-2)と成分(a)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(b-2)/M〕が通常は10~10000、好ましくは30~2000、さらに好ましくは150~500となるような量で用いることができる。成分(b-3)は、成分(b-3)と成分(a)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(b-3)/M〕が通常は10~10000、好ましくは30~2000、さらに好ましくは150~500となるような量で用いることができる。
【0087】
成分(c)を用いる場合は、成分(b)が成分(b-1)の場合には、成分(b-1)中のアルミニウム原子と成分(c)のモル比〔Al/(c)〕が通常は0.002~500、好ましくは0.01~60となるような量で、成分(b)が成分(b-2)の場合には、成分(b-2)と成分(c)のモル比〔(b-2)/(c)〕が通常は0.002~500、好ましくは0.01~60となるような量で、成分(b)が成分(b-3)の場合は、成分(b-3)と成分(c)のモル比〔(b-3)/(c)〕が通常は0.002~500、好ましくは0.01~60となるような量で用いることができる。
【0088】
重合温度は、通常は-50~200℃、好ましくは0~100℃、より好ましくは20~100℃である。重合圧力は、通常は常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧の条件下である。重合反応は、回分式、半連続式および連続式のいずれの方法でも行うことができる。生成重合体の分子量または重合活性を制御する目的で、重合系に水素を添加することができ、水素の添加量は、オレフィン1kgあたり0.001~100NL程度が適当である。
【0089】
重合条件としては、反応条件の異なる2段以上の重合を行う多段重合を採用することも可能である。例えば、水素使用量、または4-メチル-1-ペンテンと、炭素数10~20のα-オレフィンとの比率の異なる2種の条件で段階的に重合を実施することにより、所望の分子量分布または組成分布の重合体を得ることが可能である。
【0090】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)は、上述したメタロセン触媒などの重合用触媒の存在下で、4-メチル-1-ペンテンおよび炭素数10~20のα-オレフィンと、必要に応じて他の重合性化合物とを、重合あるいは共重合することにより製造することができる。
【0091】
〔多段重合法〕
A層が2種以上の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む場合、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体と第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体とを別々に製造して所望の配合比で混合してもよく、また、例えば、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体をスラリー重合により製造する工程(1)と、工程(1)で得られた重合体の存在下で、第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体を、第一および第二の重合体の合計量を100質量%とした場合に第二の重合体の量が所望の質量%となるように、スラリー重合により製造する工程(2)と、を有する多段重合法によっても製造することができる。
【0092】
前記多段重合法は、重合条件の異なる工程(1)と工程(2)とを有するが、工程(1)および(2)の二段式重合でもよく、工程(1)および(2)に加えて他の工程をさらに含む三段式以上の重合であってもよい。
【0093】
<<工程(1)>>
工程(1)では、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体をスラリー重合により製造する。工程(1)において、4-メチル-1-ペンテンと、炭素数10~20のα-オレフィンと、必要に応じて用いられる他の重合性化合物と、の比は、それぞれの単量体から導かれる構成単位の含有量が所望の量比となるように設定される。
【0094】
工程(1)では、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含むスラリーが得られる。スラリー濃度、すなわち第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体粒子濃度は、通常は0.015~45質量%、好ましくは0.03~35質量%である。
【0095】
<<工程(2)>>
工程(2)では、工程(1)で得られた第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体の存在下で、第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体をスラリー重合により製造する。工程(2)において、4-メチル-1-ペンテンと、炭素数10~20のα-オレフィンと、必要に応じて用いられる他の重合性化合物と、の供給量比は、それぞれの単量体から導かれる構成単位の含有量が所望の量比となるように設定される。
【0096】
工程(2)では、工程(1)で得られた第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体および工程(2)で得られる第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体の合計量を100質量%とした場合に、第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体の量が所望の質量%となるように、第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体を製造する。
【0097】
工程(2)の一実施態様では、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含むスラリーに、4-メチル-1-ペンテンと、炭素数10~20のα-オレフィンと、必要に応じて用いられる他の重合性化合物と、を添加し、これら単量体のスラリー重合を行う。
【0098】
工程(2)では、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体および第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する粒子を含むスラリーが得られる。スラリー濃度、すなわち粒子濃度は、通常は3~50質量%、好ましくは5~40質量%である。
【0099】
上記多段重合法ではスラリー重合を採用できる。なお、「スラリー重合」とは、重合により生じる重合体が、重合時に用いた上記媒体に実質的に溶解することなく、例えば微粒子として上記媒体に分散した形で存在する重合を指す。上記多段重合は目的とする4-メチル-1-ペンテン系重合体を得ることができれば上記スラリー重合に限定されず、例えば、溶液重合や気相重合であってもよい。
【0100】
<<固液分離工程>>
工程(2)で得られた、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体および第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する4-メチル-1-ペンテン系重合体粒子を含むスラリーを、固液分離する、例えば濾過することにより、前記粒子を分離回収することができる。
【0101】
<<後処理工程>>
上記多段重合法で得られた4-メチル-1-ペンテン系重合体粒子、例えば上記固液分離工程で得られた粒子に対しては、上記方法で製造した後に、必要に応じて公知の触媒失活処理工程、触媒残渣除去工程、乾燥工程等の後処理工程を行ってよい。
以上のようにして、第一の4-メチル-1-ペンテン系重合体および第二の4-メチル-1-ペンテン系重合体の混合物を得ることができる。
【0102】
(B層)
本発明に係る積層体はB層を備える。以下、B層の各成分について詳細に説明する。
【0103】
<熱可塑性樹脂(B)>
B層は、熱可塑性樹脂(B)を含む。熱可塑性樹脂(B)としては、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および(A2)以外の公知の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリオレフィン系重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、塩素系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸樹脂やこれらのアイオノマー樹脂、ビニルアルコール系樹脂、セルロース樹脂、熱可塑性エラストマー、各種共重合ゴムなどが挙げられる。
これらの中でも、熱可塑性樹脂(B)としては、250℃未満で成形可能な樹脂であることが好ましく、融点(Tm)が210℃以下であることがより好ましい。
【0104】
これらの中でも、熱可塑性樹脂(B)としては、ポリオレフィン系重合体が好ましく、ポリオレフィン系重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルブテン、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体などが挙げられる。
ポリオレフィン系重合体の中でも、熱可塑性樹脂(B)としては、ポリエチレンまたはポリプロピレンであることが特に好ましい。
【0105】
ポリエチレンは、エチレン単独重合体であってもよいし、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体であってもよい。
エチレンを主成分とし、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合したエチレン系共重合体としては、エチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。炭素原子数3~12のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられる。
ポリエチレンは、特に制限はなく、例えば、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等であってもよい。
【0106】
ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体であってもよいし、プロピレンを主成分とするプロピレンとプロピレン以外のモノマーとの共重合体であってもよい。プロピレンを主成分とするプロピレンとプロピレン以外のモノマーとの共重合体としては、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンと、の共重合体が好ましい。炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられる。
【0107】
なお、ポリエチレンを構成するエチレン以外のモノマー、あるいはポリプロピレンを構成するプロピレン以外のモノマーは、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよいし、α-オレフィン以外の共重合性モノマーを含んでいてもよい。
【0108】
熱可塑性樹脂(B)は、合成して得てもよいし、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、(株)プライムポリマー製、製品名:プライムポリプロ SP3010などが挙げられる。
【0109】
B層における熱可塑性樹脂(B)の含有量としては、B層に含まれる重合体の全質量に対して、好ましくは90~100質量%であり、より好ましくは95~100質量%であり、さらに好ましくは98~100質量%である。
B層は、熱可塑性樹脂(B)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0110】
本発明に係る積層体は、A層とB層とをそれぞれ少なくとも1層備えていれば、特に限定されるものではなく、A層とB層との間にA層およびB層以外の層(以下、「他の層」ともいう場合がある。)を備えていてもよいし、A層とB層とが接していてもよい。
積層体においてA層とB層とが接している場合、積層体の層構成としては、例えば、A層/B層、A層/A層/B層、A層/B層/A層、A層/B層/B層、B層/A層/B層、A層/B層/A層/B層などが挙げられる。
積層体は、耐熱性などに優れる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および/または重合体(A2)を含むA層を備えるため、高温でのヒートシールが可能であり、また、積層体の最外層にA層を有する場合には離型性にも優れる。
【0111】
積層体がA層を2層以上含む場合、A層はそれぞれ同一の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含むものであってもよく、異なる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含むものであってもよい。
また、積層体がB層を2層以上含む場合、B層はそれぞれ熱可塑性樹脂(B)を含むものであってもよく、異なる熱可塑性樹脂(B)を含むものであってもよい。
【0112】
積層体の形状としては、シート状あるいはフィルム状であることが好ましい。バブル安定性に優れ、延伸を伴う積層インフレーション成形により好適に製造できるという観点から、積層体がインフレーションフィルムであることが好ましい。
積層体の厚さは、延伸を伴う積層インフレーション成形により好適に製造できるという観点から、好ましくは0.1~100μm、より好ましくは1~70μmであり、さらに好ましくは1~50μmである。積層体を構成する各層の厚さは、同一の厚さであってもよいし、異なる厚さであってもよい。
【0113】
<積層体の製造方法>
積層体の製造方法は、特に制限はなく、従来公知の積層体の成形方法により製造することができる。
本発明に係る積層体の製造方法は、上記要件(A1-1)~(A1-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および上記要件(A2-1)~(A2-7)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を含む樹脂組成物(X)と、熱可塑性樹脂(B)と、を、膨比(バブル比)が1.0を超え、かつ、成形温度が260℃未満となる条件で、積層インフレーション成形する工程(以下、単に「積層インフレーション成形工程」ともいう。)を含む。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および(A2)が延伸性に優れ、比較的低い融点を有することから、積層体の製造方法として、上記樹脂組成物(X)と熱可塑性樹脂(B)との積層インフレーション成形法を好適に用いることができ、かかる製造方法では、積層インフレーション成形時のバブル安定性に優れ、積層体をより安定的に成形することができる。
また、本発明に係る積層体の製造方法は、上記インフレーション成形する工程を含むので、得られる積層体は、膜厚のばらつきが抑制され、かつ、膜厚精度にも優れる。また、積層インフレーション成形する工程を含む製造方法では、全体に膜厚の均一なフィルムが得られやすく、不均一な部分の除去が不要で、製造時の歩留まりにも優れる。
【0114】
積層体の製造方法において、上記要件(A1-1)~(A1-7)および(A2-1)~(A2-7)は、上述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)における要件(A1-1)~(A1-7)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)における(A2-1)~(A2-7)と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0115】
<<積層インフレーション成形工程>>
積層インフレーション成形工程は、上述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)と上述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)とを含む樹脂組成物(X)と、熱可塑性樹脂(B)とを、積層インフレーション成形する工程である。
積層体の製造方法に用いる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)は、上述の積層体が備えるA層に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)と同義であり、好ましい態様も同様である。また、積層体の製造方法に用いる熱可塑性樹脂(B)は、上述の積層体が備えるB層に含まれる熱可塑性樹脂(B)と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0116】
〔樹脂組成物(X)〕
積層体の製造方法に用いる組成物(X)は4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を含む。
【0117】
樹脂組成物(X)は、従来の4-メチル-1-ペンテン系重合体が有する優れた耐熱性、透明性、軽量性、離型性、耐汚染性などの物性を備えながら、従来の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む組成物よりも長い半結晶化時間を有し、優れた延伸性を有する。また樹脂組成物(X)は、比較的低温での積層インフレーション成形を行うことが可能である。
【0118】
樹脂組成物(X)は、以下の要件(X-1)~(X-4)を満たすことが好ましく、さらに以下の要件(X-5)~(X-8)の一つ以上を満たすことがさらに好ましい。
【0119】
要件(X-1):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が0.82~0.88g/m3。
前記密度は、好ましくは0.82~0.86g/m3であり、より好ましくは0.82~0.84g/m3である。
樹脂組成物(X)の密度が前記範囲にあることにより、当該樹脂組成物(X)を含む積層体をより軽量なフィルムとすることができる。
【0120】
要件(X-2):示差走査熱量測定(DSC)で測定した融点(Tm)が、190℃~220℃。
前記融点(Tm)は、好ましくは190℃~215℃、より好ましくは190℃~210℃である。
樹脂組成物(X)の融点(Tm)は、一般的な4-メチル-1-ペンテン系重合体の融点(Tm)が220~250℃程度であるのに対して、比較的低い前記の範囲を満たす。
樹脂組成物(X)は、融点(Tm)が前記の比較的低い特定の範囲を満たすことにより、上記熱可塑性樹脂(B)と同条件での成形が可能となり、熱可塑性樹脂(B)との積層インフレーション成形を好適に行うことができるとともに、熱可塑性樹脂(B)を含む層との密着性に優れた層を形成することができる。
【0121】
要件(X-3):融解エンタルピーΔHが35J/g未満。
前記融解エンタルピーΔHは、樹脂組成物(X)を用いて、JIS K7122に準拠して測定した値である。
前記融解エンタルピーΔHは、好ましくは5J/g以上35J/g未満であり、より好ましくは8~32J/gである。
組樹脂成物(X)の前記融解エンタルピーΔHが前記範囲にあることにより、成形性が向上し、後述する熱可塑性樹脂(B)との積層インフレーション成形を好適に行うことができる。
【0122】
要件(X-4):DSCにより下記の測定方法で測定した215℃での半結晶化時間が220秒以上であるか、または計測されない。
半結晶化時間の測定方法:(株)パーキンエルマー製のDSC8500を用いて、500℃/分の昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、10分間温度を保持した後、500℃/分の降温速度で215℃まで降温したときの215℃状態での半結晶化時間を計測する。
前記半結晶化時間は、500秒以上であるか、または計測されないことが好ましく、800秒以上であるか、または計測されないことがより好ましく、1000秒以上であるか、または計測されないことがさらに好ましく、1500秒以上であるか、または計測されないことがまたさらに好ましく、2000秒以上であるか、または計測されないことが特に好ましい。
樹脂組成物(X)の前記半結晶化時間が、前記条件を満たすことにより、溶融成形時の結晶化速度が遅くなり、延伸性が向上し、延伸を伴う積層インフレーション成形を好適に行うことができるという効果が得られる。
なお、上記半結晶化時間は、(株)パーキンエルマー製のDSC8500と同程度の機器を用いた場合でも同様の値が求められる。
【0123】
要件(X-5):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量が90.0モル%以上100モル%未満であり、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0モル%を超え10.0モル%以下である。
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは95.0~99.5モル%、より好ましくは96.0~99.0モル%であり、さらに好ましくは96.5~98.5モル%である。炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは0.5~5.0モル%、より好ましくは1.0~4.0モル%であり、さらに好ましくは1.5~3.5モル%である。
樹脂組成物(X)の構成単位含有量が、前記範囲を満たすことにより、樹脂組成物(X)より形成される層は、耐熱性、透明性および離型性に優れる。
【0124】
要件(X-6):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~8.0dl/gである。具体的には、たとえば、後述する実施例に記載の測定方法により測定することができる。
前記極限粘度[η]は、好ましくは0.5~7.0dl/g、より好ましくは0.5~6.0dl/g、さらに好ましくは0.5~5.0dl/g、より一層好ましくは0.5~4.0dl/g、特に好ましくは0.5~3.5dl/gである。
樹脂組成物(X)は、前記範囲を満たす極限粘度を有することにより、バブル安定性に優れるので、成形性が良好となり、延伸を伴う積層インフレーション成形を好適に行うことができる。
【0125】
要件(X-7):260℃で測定した溶融張力(メルトテンション:MT)が25mN以上である。
前記溶融張力は、好ましくは26mN以上、より好ましくは26~100mN、さらに好ましくは27~50mNである。溶融張力は、例えば重合体の分子量のコントロールにより調整することができる。
樹脂組成物(X)が、前記範囲を満たす比較的高い溶融張力を有することにより、延伸性が向上し、延伸を伴う積層インフレーション成形を好適に行うことができる。
【0126】
要件(X-8):後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で測定した発熱および吸熱曲線(融解(吸熱)曲線)における吸熱終了温度(TmE)が、好ましくは230℃以下であり、より好ましくは228℃以下、さらに好ましくは225℃以下、さらに好ましくは220℃以下である。ここで、吸熱終了温度とは、融解が終了した温度を意味し、一般にいう、ベースラインと定常ライン接線との交点であるオンセット、オフセットとは異なる指標である。
前記吸熱終了温度は、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体を重合する際のオレフィン重合用触媒を適切に選択すること、構成単位の含有割合を制御することなどにより所望の値とすることができる。
吸熱終了温度が上記範囲にある樹脂組成物(X)は、耐熱性に優れる。このため、吸熱終了温度が上記範囲にある樹脂組成物(X)を含む層も耐熱性に優れる傾向がある。
【0127】
樹脂組成物(X)は、好ましくは前記の要件(X-1)~(X-4)を満たし、より好ましくはさらに要件(X-5)~(X-8)のうちの一つ以上を満たす。
さらに好ましい樹脂組成物(X)の態様としては、要件(X-1)~(X-6)を満たす組成物(X)、要件(X-1)~(X-4)と要件(X-7)を満たす樹脂組成物(X)、要件(X-1)~(X-7)をすべて満たす樹脂組成物(X)、要件(X-1)~要件(X-8)をすべて満たす樹脂組成物(X)などが挙げられる。
【0128】
樹脂組成物(X)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、二次抗酸化剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、充填剤、塩酸吸収剤などが挙げられる。その他の成分の含有量は特に制限されないが、重合体(A1)および/または重合体(A2)並びに熱可塑性樹脂(B)等の重合体成分100質量部に対して、それぞれ、通常は0~50質量部、好ましくは0~10質量部である。
その他の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0129】
積層インフレーション成形工程における成形温度は、260℃未満の条件である。ここで成形温度とは、成形する時点での温度を意味し、通常ダイス温度を意味する。
積層インフレーション成形工程における成形温度は、好ましくは、260℃未満であり、かつ、樹脂組成物(X)および熱可塑性樹脂(B)の融点以上の温度であり、より好ましくは180℃以上260℃未満、さらに好ましくは190℃以上260℃未満、特に好ましくは200~245℃の範囲である。
樹脂組成物(X)の融点(Tm)が通常の4-メチル-1-ペンテン系重合体よりも低く、半結晶化時間が長い場合、また好ましくは樹脂組成物(X)が通常の4-メチル-1-ペンテン系重合体よりも高い溶融張力をさらに有する場合、延伸性が良好となり、一般に4-メチル-1-ペンテン系重合体よりも融点の低い熱可塑性樹脂(B)との積層インフレーション成形に優れる。
【0130】
積層インフレーション成形に用いる成形装置としては、特に制限はなく、公知の積層(多層)成形可能なインフレーション成形用装置を用いることができる。積層インフレーション成形方法としては、好ましくは、樹脂組成物(X)および熱可塑性樹脂(B)をインフレーション用ダイから共押出しする方法である。
【0131】
積層インフレーション成形工程において、樹脂組成物(X)と熱可塑性樹脂(B)との共押出しは、特に限定されるものではないが、重力方向とは逆方向の上向き方向に共押出しすることが好ましい。
【0132】
積層インフレーション成形工程は、積層インフレーション成形を、膨比(バブル比)が1.0を超える条件で行う。ここで、膨比(バブル比)とは、ダイスの径に対するバブル最大径の比を指す。膨比(バブル比)が1.0を超える場合、共押出された組成物(X)および熱可塑性樹脂(B)が延伸されることとなる。
積層インフレーション成形工程において、膨比(バブル比)は、好ましくは1.1~5.0、より好ましくは1.2~4.5、さらに好ましくは1.5~4.0、特に好ましくは1.8~3.0である。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および(A2)が上述の要件を満たすので延伸性に優れ、また、膨比(バブル比)が1.0を超える延伸を伴う積層インフレーション成形を行うので、膜厚のばらつきが抑制され、かつ、得られる積層体の膜厚精度(厚薄精度)に優れる。
【0133】
積層インフレーション成形工程において、積層体である積層インフレーションフィルムの引き取り速度は、通常2~40m/分、好ましくは5~30m/分である。
また、得られる積層体の厚さは特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~100μm、より好ましくは1~50μmである。積層体を構成する各層の厚さは、同一であっても異なっていてもよい。
【0134】
積層体の製造方法は、積層インフレーション成形工程以外の工程(以下、「その他の工程」ともいう。)を含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を準備する工程、樹脂組成物(X)を調製する工程、熱可塑性樹脂(B)を準備する工程などが挙げられる。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を準備する工程としては、上述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)を製造する工程が挙げられる。
また、樹脂組成物(X)を調製する工程としては、例えば、上述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A1)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A2)製造する工程により得られた重合体(A1)および重合体(A2)と、必要に応じて、その他の成分とを混合する工程が挙げられる。
【0135】
本発明の積層体は、例えば、日用雑貨包装材、食品包材、食品容器、レトルト容器、保護フィルム、化粧フィルム・シート、シュリンクフィルム、輸液バッグ、熱融着フィルム、医療容器、離型フィルム等の材料として好適に使用でき、特に包装用に好適に使用することができる。また、本発明の積層体がインフレーションフィルム以外である場合、積層体の製造方法としては、特に制限はなく公知の成形方法が挙げられる。積層体の製造方法としては、例えば、Tダイキャスト法などが挙げられる。
【実施例0136】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0137】
<各構成単位の量>
下記製造例で得られた重合体中の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(4-メチル-1-ペンテン含量)および4-メチル-1-ペンテン以外のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(α-オレフィン含量)は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルより算出した。結果を表1および2に示す。
日本電子(株)製のECP500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてo-ジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒を用い、試料濃度は55mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上とし、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として13C-NMRスペクトルを得た。得られた13C-NMRスペクトルにより、4-メチル-1-ペンテンおよびα-オレフィン含量を定量化した。
【0138】
<極限粘度[η]>
下記製造例で得られた重合体の極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。結果を表1および2に示す。
具体的には、重合体約20mgをデカリン15mLに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値である極限粘度[η]を、以下の式から求めた。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0139】
<融点(Tm)>
下記製造例で得られた重合体の融点(Tm)は、セイコーインスツル(株)製の示差走査熱量測定(DSC)装置(型番:DSC220C)を用い、以下の手順で測定した。結果を表1および2に示す。
まず、測定用アルミパンに重合体約5mgを入れ、封止した。100℃/minで290℃まで昇温し、290℃で5分間保持した後、10℃/minで-100℃まで降温させ、ついで-100℃から10℃/minで290℃まで昇温させた。2回目の昇温時における熱量曲線において観測される、結晶溶融ピークのピーク頂点から融点(Tm)を算出した。ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを融点(Tm)とした。
【0140】
<分子量分布(Mw/Mn)>
下記製造例で得られた重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(Waters社製、型番:Alliance GPC-2000型)を用い、以下のようにして測定した。分離カラムは、TSKgel GNH6-HTを2本およびTSKgel GNH6-HTLを2本であり、カラムサイズはいずれも直径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo-ジクロロベンゼン(富士フイルム和光純薬(株)製)および酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(武田薬品工業(株)製)0.025質量量%を用い、1.0mL/分で移動させ、試料濃度は15mg/10mLとし、試料注入量は500μLとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000、および、Mw>4×106については東ソー(株)製を用い、1000≦Mw≦4×106についてはプレッシャーケミカル社製を用いた。
【0141】
<溶融張力>
下記製造例で得られた重合体の260℃溶融張力は、(株)東洋精機製作所の装置であるキャピログラフ1Dを用いて測定した。260℃に設定した溶融炉(径9.55mm)に測定サンプルを仕込み十分溶融させた後に、押出速度15mm/minにて、L/D:8/2.095mm、流入角180°であるキャピラリーを通過させ、キャピラリー下部から58cmの位置に固定した滑車を通過させ、溶融樹脂を15m/minの速度で巻取った際に滑車部にかかる応力を測定し、その応力を溶融張力とした。
【0142】
[製造例A1-1~A1-14]
国際公開第2017/150265号の比較例1に記載の方法に準じて、α-オレフィン種を下記表1に記載のα-オレフィンに変更し、得られる重合体(A1)中の物性が下記表1の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、および水素の使用割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン重合体(A1-1)~(A1-14)を合成した。
【0143】
【0144】
[製造例A2-1~A2-6]
国際公開第2017/150265号の比較例1に記載の方法に準じて、α-オレフィン種を下記表2に記載のα-オレフィンに変更し、得られる重合体中の物性が下記表2の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、水素の使用割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン重合体(A2-1)~(A2-6)を合成した。
【0145】
[製造例A2-7およびA2-8]
国際公開第2006/054613号の比較例9に記載の方法に準じて、コモノマー種を下記表1に記載のα-オレフィンに変更し、得られる重合体中の物性が下記表2の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、水素の使用割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン重合体(A2-7)および(A2-8)を合成した。
すなわち、4-メチル-1-ペンテン重合体(A2-7)および(A2-8)は、無水塩化マグネシウム、2-エチルヘキシルアルコール、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパンおよび四塩化チタンを反応させて得られる固体状チタン触媒を重合用触媒として用いて単段重合で得られた重合体である。
【0146】
【0147】
[実施例1]
[樹脂組成物の調製]
前記製造例で得られた4-メチル-1-ペンテン重合体(A1-1)100質量部に対して、二次抗酸化剤としてトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを0.1質量部、および、耐熱安定剤としてn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量部配合して樹脂組成物を得た。
次いで、得られた樹脂組成物を、(株)プラスチック工学研究所製の二軸押出機BT-30(スクリュー径30mmφ、L/D=46)を用い、設定温度270℃、樹脂押出量60g/minおよび200rpmの条件で造粒し、樹脂組成物のペレットを調製した。
【0148】
<α-オレフィン含量および極限粘度[η]>
上記の物性値の測定において、4-メチル-1-ペンテン重合体の代わりに、上記で調製した樹脂組成物を用いた以外は、前記重合体における各構成単位の含量および極限粘度[η]の測定方法と同様にして、調製した樹脂組成物に含まれるα-オレフィン含量(すなわち、炭素数10~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含量)および極限粘度[η]を測定および算出した。その結果を表3および表4に示す。
【0149】
[多層フィルムの作製]
ダイス径30φの円形状のダイと、3つのホッパー投入口と、20mmφスクリューと、を有する3種3層式上吹きインフレーション成形機を用いて多層フィルムを作製した。
上記で調製した樹脂組成物のペレットを1つのホッパーに投入し、シリンダー温度は270℃に設定した。また、熱可塑性樹脂(B)として、ポリエチレン((株)プライムポリマー製、製品名:プライムポリプロ SP3010、MFR(230℃、2.16kg荷重):1.0g/10min)を、残りの2つのホッパーに投入し、これらのホッパーに関するシリンダー温度はそれぞれ200℃に設定した。
ダイス温度を260℃に設定し、ダイから、樹脂組成物のペレットおよびポリエチレンの溶融混練物それぞれを多層フィルムとして共押出し、空冷で引取速度2.0m/minの条件で引き取ることで、冷却固化され、全体の厚さが60μmである、「A層/B層/B層」の層構成を備える未延伸の多層フィルム(すなわち、原反フィルム)を得た。
得られた多層フィルムは、厚さが30μmであるA層と、それぞれの厚さが15μmであるポリエチレンを含むB層を2層と、がこの順で積層された積層体であった。なお、各層の厚さは、押出量から算出し、表3に示した。
【0150】
<ヒートシール後の収縮(HS収縮率)>
前記で得られた多層フィルムから、長さ150mmおよび幅30mmの試験片を2枚作製した。フィルムの長さ方向は、原反フィルム作製工程における流れ方向(MD方向)に対応する方向とした。
得られた試験片2枚を最外層であるポリエチレンを含むB層(すなわち、A層に接していないB層)が対向するように重ね合わせ、ヒートシーラーを用いて温度180℃、ゲージ圧2.0MPaの条件で2秒間ヒートシールした。
ノギスを用いてヒートシール前後の試験片の長さおよび幅を測定し、下記式からMD方向およびTD方向収縮率(%)を算出した。結果を表3および4に示す。
MD方向のHS収縮率=(LM0-LM1)/LM0×100(%)
TD方向のHS収縮率=(LT0-LT1)/LT0×100(%)
[LM0:ヒートシール前の試験片の長さ、LM1:ヒートシール後の試験片の長さ、LT0:ヒートシール前の試験片の幅、LT1:ヒートシール後の試験片の幅]
【0151】
<A層およびB層の厚み評価>
前記で得られた多層フィルムから長さ50mmおよび幅50mmの試験片を作製したこれを剃刀で裁断し、断面を上記光学顕微鏡で観察し、原反の厚みと、A層およびB層の合計厚みをそれぞれ計測した。
【0152】
<引張弾性率の測定>
上記で作製した多層フィルムを幅50mmおよび長さ150mmの短冊状に剃刀で裁断した。得られた試験片を用いて、引張試験機((株)エー・アンド・デイ製、型番:RTG-1250)で引張試験を行い、初期のひずみと応力の傾きから弾性率を算出した。測定温度は室温(23℃)、引張速度は50mm/minとした。
【0153】
<バブル安定性>
多層フィルムの作製において、インフレーション成形時のバブルの安定性を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:バブルが長時間にわたり安定し、良好なフィルムが得られた。
○:バブルに微動が生じるが、安定成形が可能であった。
×:バブルが上下に変動し、フィルム幅の変動が生じるか、または、成形ができなかった。
【0154】
<表面平滑性(メルトフラクチャー)>
上記で作製したフィルムの表面粗さを、(株)東京精密製の表面粗さ測定器を用いて測定し、得られた粗さ曲線からその平均線の方向に測定長さ(l)分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、下記の式によって求められる値をナノメートル(nm)で表したものを表面粗さ(Ra)とし、表面平滑性の指標とした。測定長さは10mmとした。
【0155】
【0156】
[実施例2~16および比較例3~6]
表3、表4または表5に示す重合体を用いた以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物とポリエチレンとを用いてインフレーション成形を行い、多層フィルムを作製した。得られた多層フィルムを用いて、各評価を行った。その結果を表3、表4または表5に示した。
【0157】
【0158】
[比較例1および2]
3機の押出機から表4に示す重合体のみを押し出しインフレーション成形した以外は実施例1と同様の方法で多層フィルムを作製した。得られた多層フィルムを用いて各評価を行った。その結果を表4に示した。
【0159】
【0160】
[実施例17]
表5に示す組成比で重合体A1-1およびA2-1と、重合体成分100質量部に対して、二次抗酸化剤としてトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを0.1質量部、および、耐熱安定剤としてn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量部配合した以外には、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを調製し、樹脂組成物に含まれるα-オレフィン含量および極限粘度[η]を測定および算出した。
さらに、実施例1と同様の多層フィルムの作製方法により、上記で調製した樹脂組成物ペレットと、熱可塑性樹脂(B)としてポリエチレン((株)プライムポリマー製、製品名:プライムポリプロ SP3010、MFR(230℃、2.16kg荷重):1.0g/10min)とを多層フィルムとして共押出し、実施例1の多層フィルムの作製方法と同様の条件でインフレーション成形を行い、多層フィルムを作製した。得られた多層フィルムを用いて、実施例1と同様の方法で各評価を行った。その結果を表5に示した。
【0161】
[実施例18~38並びに比較例7および8]
表5または表6に示す組成比で重合体A1およびA2を混合した以外は、実施例17と同様の方法で樹脂組成物を調製し、樹脂組成物のペレットを作製した。この樹脂組成物のペレットを用いた以外は、実施例1における積層体の作製方法と同様の条件にて、インフレーション成形を行い、多層フィルムを作製した。得られた多層フィルムを用いて各評価を行った。その結果を表5または表6に示した。
【0162】
【0163】
【0164】
実施例1~38の多層フィルムは、比較例1~8の多層フィルムと比べて、インフレーション成形に供した場合にバブルの安定性に優れる積層体であることがわかる。