(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097179
(43)【公開日】2025-06-30
(54)【発明の名称】トリオキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 323/06 20060101AFI20250623BHJP
【FI】
C07D323/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213319
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】篠畑 雅亮
(57)【要約】
【課題】本発明は、エネルギー消費量を低減し、トリオキサンを効率良く回収することができる、ホルムアルデヒド水溶液からトリオキサンを製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ホルムアルデヒド水溶液と酸触媒とを接触させてトリオキサンを含む水溶液を得る工程(1)、工程(1)で得られたトリオキサンを含む水溶液と抽出剤とを混合し、抽出剤混合液を得る工程(2)、及び工程(2)で得られた抽出剤混合液から抽出剤を分離する工程(3)を含み、抽出剤は、90℃における含水量が0.10質量%以下であり、かつ、比重が0.80未満であることを特徴とする、トリオキサンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒド水溶液と酸触媒とを接触させてトリオキサンを含む水溶液を得る工程(1)、
前記工程(1)で得られた前記トリオキサンを含む水溶液と抽出剤とを混合し、抽出剤混合液を得る工程(2)、及び
前記工程(2)で得られた前記抽出剤混合液から前記抽出剤を分離する工程(3)を含み、
前記抽出剤は、90℃における含水量が0.10質量%以下であり、かつ、比重が0.80未満である
ことを特徴とする、トリオキサンの製造方法。
【請求項2】
前記抽出剤が有機化合物を95質量%以上含む、請求項1に記載のトリオキサンの製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物の90℃における含水量が0.10質量%以下である、請求項2に記載のトリオキサンの製造方法。
【請求項4】
前記有機化合物の比重が0.80未満である、請求項2に記載のトリオキサンの製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物が脂肪族炭化水素化合物である、請求項2に記載のトリオキサンの製造方法。
【請求項6】
前記有機化合物が、テトラデカン、ペンタデカン、及びヘキサデカンからなる群から選ばれる1種以上である、請求項5に記載のトリオキサンの製造方法。
【請求項7】
前記工程(2)において、前記トリオキサンを含む水溶液と前記抽出剤とを向流接触させる、請求項1に記載のトリオキサンの製造方法。
【請求項8】
前記工程(3)が10分未満で行われる、請求項1に記載のトリオキサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリオキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリオキサンはポリアセタール樹脂を製造するための原料として製造され、使用されている。
【0003】
トリオキサンを製造する方法としては、ホルムアルデヒド水溶液を原料とする方法が知られており、例えば、特許文献1には約30~70重量%のホルムアルデヒド水溶液を硫酸等の液体酸の存在下に加熱蒸留することによってトリオキサンを合成する方法が開示されている。
【0004】
また、上記方法における液体酸の代わりに合成触媒として各種の固体酸を用いる方法もある。例えば、特許文献2には高濃度ホルムアルデヒド水溶液を固体酸触媒(強酸性イオン交換樹脂)と接触させてトリオキサンを製造する方法が開示されている。
【0005】
ホルムアルデヒド水溶液からトリオキサンを製造する方法では、生成したトリオキサンをホルムアルデヒド水溶液から回収する工程が必要となる。この工程について、例えば、特許文献1には、生成したトリオキサンを含むホルムアルデヒド水溶液を蒸留し蒸留液を得た後、水に不溶ないし難溶の溶剤で蒸留液からトリオキサンを抽出し、この抽出液を精留してトリオキサンを分離する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、トリオキサンを含むホルムアルデヒド水溶液とm-ジクロロベンゼンを接触させてトリオキサンをm-ジクロロベンゼンに抽出し、これを蒸留分離することによってトリオキサンを回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭41-6344号公報
【特許文献2】特開2001-199978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来開示されているこれらの方法は次のような課題がある。
【0009】
まず、特許文献1に開示されている方法は、トリオキサンとホルムアルデヒドと水を含む蒸留液を得、蒸留液から抽出によってトリオキサンを回収し、抽出液とトリオキサンを蒸留分離するため、蒸留分離操作が多く、回収されるトリオキサンに対して多大なエネルギーを消費することになる。
【0010】
また、特許文献2に開示されている、トリオキサンを含むホルムアルデヒド水溶液から直接、トリオキサンを抽出した後、抽出液とトリオキサンを蒸留分離する方法では、蒸留分離操作は少なくなるが、トリオキサンを抽出する際に水を多く抽出し、抽出剤とトリオキサンを蒸留分離する際に、抽出剤に混入する水とトリオキサンが共沸混合物を形成してトリオキサンを効率良く回収できなくなる場合がある。また、水を多く抽出する抽出液を使用する場合は、その親水性ゆえに抽出剤と水溶液とを液相分離する際に抽出剤層と水溶液層の分離に時間を要する場合が多い。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、エネルギー消費量を低減し、トリオキサンを効率良く回収することができる、ホルムアルデヒド水溶液からトリオキサンを製造する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために検討を重ね、その結果、トリオキサンを含む水溶液と接触させる抽出剤を特定範囲の含水量及び比重を有する抽出剤とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0013】
[1]ホルムアルデヒド水溶液と酸触媒とを接触させてトリオキサンを含む水溶液を得る工程(1)、
前記工程(1)で得られた前記トリオキサンを含む水溶液と抽出剤とを混合し、抽出剤混合液を得る工程(2)、及び
前記工程(2)で得られた前記抽出剤混合液から前記抽出剤を分離する工程(3)を含み、
前記抽出剤は、90℃における含水量が0.10質量%以下であり、かつ比重が0.80未満である
ことを特徴とする、トリオキサンの製造方法。
[2]前記抽出剤が有機化合物を95質量%以上含む、[1]に記載のトリオキサンの製造方法。
[3]前記有機化合物の90℃における含水量が0.10質量%以下である、[2]に記載のトリオキサンの製造方法。
[4]前記有機化合物の比重が0.80未満である、[2]または[3]に記載のトリオキサンの製造方法。
[5]前記有機化合物が脂肪族炭化水素化合物である、[2]~[4]のいずれかに記載のトリオキサンの製造方法。
[6]前記有機化合物が、テトラデカン、ペンタデカン、及びヘキサデカンからなる群から選ばれる1種以上である、[2]~[5]のいずれかに記載のトリオキサンの製造方法。
[7]前記工程(2)において、前記トリオキサンを含む水溶液と前記抽出剤とを向流接触させる、[1]~[6]のいずれかに記載のトリオキサンの製造方法。
[8]前記工程(3)が10分未満で行われる、[1]~[7]のいずれかに記載のトリオキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトリオキサンの製造方法によると、ホルムアルデヒド水溶液からトリオキサンを製造する際のエネルギー消費量を低減し、トリオキサンを効率良く回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態のトリオキサンの製造方法は以下の工程を含むものである。
工程(1);ホルムアルデヒド水溶液と酸触媒とを接触させてトリオキサンを含む水溶液を得る工程。
工程(2):前記工程(1)で得られた前記トリオキサンを含む水溶液と抽出剤とを混合し、抽出剤混合液を得る工程。
工程(3):前記工程(2)で得られた前記抽出剤混合液から前記抽出剤を分離する工程。
【0017】
<工程(1)>
工程(1)において、ホルムアルデヒド水溶液と酸触媒とを接触させることにより、トリオキサンを含む水溶液が得られる。より具体的には、ホルムアルデヒド水溶液を酸触媒存在下で加熱することによりトリオキサンを含む水溶液が製造される。
ホルムアルデヒドからトリオキサンを生成する反応は、ホルムアルデヒド側に平衡が大きく偏っている。そのため、工程(1)で得られるトリオキサンを含む水溶液は、水またはホルムアルデヒドが主成分であり、トリオキサンの含有率は低い。
以下、工程(1)において使用する化合物について説明する。
【0018】
ホルムアルデヒド水溶液は、ホルムアルデヒドと水を含むものであれば特に限定はなく、種々の濃度のものを使用できる。
ホルムアルデヒド濃度が余りに低い場合はトリオキサンの製造における効率が低下するため、ホルムアルデヒド濃度は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。一方で、ホルムアルデヒド濃度が余りに高い場合はホルムアルデヒド水溶液が固化しやすくなり、取り扱いが煩雑となるため、ホルムアルデヒド濃度は80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
ホルムアルデヒド水溶液は、ホルムアルデヒドの重合を避けるため、あるいはホルムアルデヒドの溶解性を高めるため、メタノールを含む場合があるが、このようなホルムアルデヒド水溶液を使用してもよい。
【0020】
ホルムアルデヒド水溶液は公知の方法を用いて製造することができ、例えば、書籍「2020年度版17120の化学商品」(化学工業日報社)626頁に記載されているメタノール過剰法や空気過剰法等を使用することができる。また、ポリアセタールを熱分解して得られるガスを、水を含む液に吹き込んで得られたホルムアルデヒド水溶液であってもよい。また、例えば、ホルマリンと称されるホルムアルデヒド濃度が37質量%前後のホルムアルデヒド水溶液を使用することもできる。
【0021】
酸触媒としては、硫酸等の液体酸触媒であってもよいし、イオン交換樹脂等の固体酸触媒であってもよい。
固体酸触媒としては、有機物固体酸、無機物固体酸のいずれでもよく、1種単独であっても、これらの2種以上の混合物であってもよい。有機固体酸としては、スルホン酸基、フルオロアルカンスルホン酸基等を有するイオン交換樹脂、イオン交換膜、イオン交換繊維等を挙げることができる。無機固体酸としては、酸性白土、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、アルミナボリア、ゼオライト等の無機物酸化物複合体、固体担体に硫酸、リン酸、ほう酸等を含浸させたもの等を挙げることができる。また、スルホン酸基を有するポリオルガノシロキサン等、有機無機ハイブリッドの固体酸でもよい。中でもスルホン酸基を有する有機固体酸が好ましく、強酸型イオン交換樹脂が好ましい。
【0022】
これらの固体酸触媒を含有する反応器本体としては、充填層型、パイプ管型、籠型、流動層型、段塔型など何れの形式でもよい。
【0023】
反応温度は任意に選定できるが、低い温度ではホルムアルデヒド水溶液が固化する場合があり、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上とする。一方で、高い温度ではホルムアルデヒド水溶液の沸騰により加圧系となる場合があるので、好ましくは120℃以下、より好ましくは115℃以下とする。
【0024】
反応器での滞留時間は、所望する収率となるよう任意に設定することができるが、例えば、30秒以上が好ましく、1分以上がより好ましく、3分以上がさらに好ましい。一方で、あまりに長時間の場合は使用する反応器が大きくなるばかりか、ホルムアルデヒドからトリオキサンが生成する反応は平衡反応であるため反応時間を長くしてもトリオキサンの収率に限度があるため、好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下、さらに好ましくは1時間以下、よりさらに好ましくは40分以下、特に好ましくは20分以下とする。
【0025】
〈工程(2)〉
工程(1)で製造されたトリオキサンを含む水溶液は、工程(2)において抽出剤と混合される。
【0026】
本開示において、抽出剤とは、トリオキサンを含む水溶液からトリオキサンを抽出するための抽出剤である。
抽出剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本実施形態で使用される抽出剤は、90℃における含水量が0.10質量%以下である。一般的に、トリオキサンと水との混合物を蒸留分離しようとすると、トリオキサンの沸点よりも低い温度でトリオキサンと水とが共沸混合物を形成することが知られている。したがって、工程(3)後に抽出剤からトリオキサンを蒸留分離により回収する場合、抽出剤に多くの水が共存するとトリオキサンが水との共沸混合物として回収され、トリオキサンのみを回収することが難しくなる場合がある。したがって、抽出する際に抽出剤に含まれる水の量を少なくする観点から、抽出剤の90℃における含水量は0.10質量%以下であり、0.08質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。含水量の下限値は特に限定されず、0質量%以上としてよい。
【0028】
本実施形態で使用される抽出剤の比重は0.80未満である。以下、このような抽出剤が好ましい理由を説明する。
【0029】
上述のとおり、ホルムアルデヒドからトリオキサンを生成する反応の平衡は、ホルムアルデヒド側に大きく偏っている。したがって、ホルムアルデヒド水溶液から製造された、トリオキサンを含む水溶液は、水またはホルムアルデヒドが主成分であり、トリオキサンの含有率は低い。
【0030】
一般的に、ホルムアルデヒドを含有する水溶液は比重が大きく、例えば、「ホルムアルデヒド その化学と応用」(井本稔ら編、朝倉書店、昭和40年6月15日発行)22頁によると、ホルムアルデヒの含有量が多いほど液の比重は大きくなり、例えば、ホルムアルデヒド濃度40質量%では比重は1.1220であり、ホルムアルデヒド濃度50質量%では比重は1.1570である。
【0031】
したがって、本実施形態で使用される抽出剤は、トリオキサンを含むホルムアルデヒド水溶液との比重の差が大きいため分離速度が速く、界面での混濁が起こりにくいため有利である。このような観点から、トリオキサンを含むホルムアルデヒド水溶液の比重との差が大きくなるような抽出剤、すなわち比重が0.80未満の抽出剤を使用し、その比重が0.79未満であることが好ましく、0.78未満がさらに好ましい。
なお、一般的に、高温での比重の方が低温よりも小さくなることから、抽出剤の比重は室温(25℃)で上記範囲を満たしていればよい。
【0032】
抽出剤は、有機化合物を抽出剤全体量に対して95質量%以上含むことが好ましく、97質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
抽出剤には、有機化合物の他、水、ホルムアルデヒド等の化合物が含まれていてもよく、後述するようにトリオキサンを分離した後の抽出剤を再使用する場合はトリオキサン等を含んでいる場合もある。
【0033】
上記のように本実施形態で使用する抽出剤は、90℃における含水量が0.10質量%以下である。このような抽出剤を構成する有機化合物としては、例えば、90℃における含水量が0.10質量%以下のものが使用される。抽出剤に含まれる水の量を少なくする観点から、抽出剤を構成する有機化合物の90℃における含水量は0.10質量%以下が好ましく、0.08質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
また、上記のように、抽出剤の比重は0.80未満である。このような抽出剤を構成する有機化合物としては、比重が0.80未満であることが好ましく、0.79未満であることがより好ましく、0.78未満がさらに好ましい。
【0035】
当該有機化合物は、好ましくはその標準沸点がトリオキサンの標準沸点(例えば、114℃)よりも高いものを使用することが好ましい。
抽出に用いられる有機化合物の標準沸点としては、工程(3)後に抽出剤からトリオキサンを蒸留分離により回収する場合に、トリオキサンとの蒸留分離が容易となることから、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上とする。一方で、当該有機化合物の標準沸点があまりに高い場合は、当該有機化合物の蒸留精製が必要となった場合に必要となるエネルギーが大きくなることから、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは290℃以下とする。
【0036】
有機化合物としては、上記した要件を満たすものであれば特に制限されないが、中でも脂肪族炭化水素化合物が好ましく使用される。本発明者が検討したところ、特に、抽出剤を構成する化合物がハロゲン原子や、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含む場合は水を含みやすくなる傾向が顕著となる場合が多い。また、ハロゲン原子やヘテロ原子を含む化合物は比重が大きい傾向にあり、ホルムアルデヒド水溶液との比重差が小さくなることで分離に時間を要する場合や、相分離した抽出剤と水溶液が混濁する場合がある。
【0037】
このような脂肪族炭化水素としては、特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状のものを使用することができ、例えば、n-オクタン、n-ノナン、デカン(異性体含む)、ドデカン(異性体含む)、テトラデカン(異性体含む)、ペンタデカン(異性体含む)、ヘキサデカン(異性体含む)、オクタデカン(異性体含む)等を挙げることができる。
【0038】
これらの中でも、トリオキサンを抽出する際の水の吸収量が少ないこと、トリオキサンとの沸点差が大きいことから、テトラデカン(異性体含む)、ペンタデカン(異性体含む)、及びヘキサデカン(異性体含む)からなる群から選ばれる1種以上が好ましく使用される。
【0039】
工程(2)を行う温度は特に制限されないが、トリオキサンを含む水溶液中のホルムアルデヒド濃度が高い場合、低温では当該水溶液が固化する場合がある。したがって、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90℃以上で実施する。上述した工程(1)の反応温度を維持し、その温度で工程(2)を行うことも好ましい。
【0040】
工程(2)を行う装置は特に制限されず、撹拌槽、ドラム、ライン混合などの公知の装置を任意に使用してよく、必要に応じてこれらを組み合わせて実施することができる。後述する工程(3)を行う装置で工程(2)を実施することもできる。
【0041】
工程(2)で使用する抽出剤の量は特に制限されないが、より多くのトリオキサンを抽出するためには、トリオキサンを含む水溶液に対してより多くの抽出剤を使用すべきであり、好ましくは当該水溶液に対して体積比で0.5倍以上、より好ましくは1倍以上、さらに好ましくは2倍以上とする。一方で、あまりに多くの抽出剤を使用すると、工程(3)後に抽出剤からトリオキサンを蒸留分離により回収する場合に、蒸留分離におけるエネルギー使用量や、抽出剤の温度調整に使用するエネルギーの使用量が多くなることから、好ましくは50倍以下、より好ましくは20倍以下、さらに好ましくは10倍以下とする。
【0042】
トリオキサンを含む水溶液と抽出剤とを混合する方法は特に制限されず、例えば、向流あるいは並流の何れかで接触させる方法が挙げられ、好ましくは向流で接触させる。具体的には、工程(2)を行う装置の上部から水溶液を供給し、下部から抽出剤を供給することで、水溶液と抽出剤とを向流で接触させることができる。向流で接触させると抽出効率が向上し、短時間で平衡濃度に到達させることができる傾向にある。装置内での水溶液の下降速度と抽出剤の上昇速度は両者の比重差に依存するため、向流接触による抽出効率の向上は、本実施形態の抽出剤を使用することによって得られる効果の一つである。
【0043】
〈工程(3)〉
工程(3)は、工程(2)で得られた抽出剤混合液から抽出剤を分離する工程である。
【0044】
工程(3)を行う温度は特に制限されないが、トリオキサンを含む水溶液中のホルムアルデヒド濃度が高い場合、低温では当該水溶液が固化する場合がある。したがって、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90℃以上で実施する。上述した工程(2)の温度を維持し、その温度で工程(3)を行うことも好ましい、
【0045】
工程(3)を行う装置は特に制限されず、分液漏斗、セトラを有する油水分離器、ミキサーセトラ、遠心抽出機、パルスカラム等の抽出装置を使用することができる。中でも、分液漏斗、セトラを有する油水分離器が好ましく使用することができる。一般的に、セトラは軽質相と重質相の2相を静的なデカンテーションにより分離する装置であり、内部に取り付けられた凝集版により軽質相と重質相とを分離し、軽質相はセトラをオーバーフローさせて後段に送られ、重質相は下部の堰から取り出される。セトラは相分離のために動力を使用しないため、本実施形態で使用される、トリオキサンを含むホルムアルデヒド水溶液と、それよりも比重の小さな抽出剤との分離に適する。また、セトラと同様に、内部の底から中腹までの高さまでの堰を具備するドラムを使用し、該ドラムの堰をオーバーフローする軽質相を後段に送り、堰の下部から重質相を回収する装置であってもよい。いずれも、本実施形態の抽出剤を使用することによって使用可能となる装置である。
【0046】
また、工程(3)は、工程(2)が完了した時点から10分未満の間に完了することが好ましい。工程(3)をバッチ式で実施する場合は、工程(2)の液を、工程(3)を行う装置に導入し終えた時点を工程(2)が完了した時点とし、ここから10分未満の間に工程(3)の分離が完了されることが好ましい。工程(3)を流通式で実施する場合は、工程(3)が行われる装置における液の平均滞留時間で評価することができ、例えば、工程(3)を行う装置の有効内容積(m3単位)を工程(2)の流量(水溶液流量と抽出剤流量の和、m3/分単位)で除して算出した時間が10分未満となるように設定されることが好ましい。工程(2)と工程(3)が同じ装置で行われる場合は、工程(2)の操作が完了してから10分未満の間に工程(3)の分離が完了されることが好ましい。
工程(3)が10分未満の間に完了すると、装置の内容積を小さくすることができ、予期せぬ副反応の併発も抑制することができるため好ましい。当該時間は、より好ましくは8分未満であり、さらに好ましくは5分未満である。
【0047】
〈蒸留分離工程〉
トリオキサンを抽出した後の抽出剤は、例えば、さらに蒸留分離することによってトリオキサンと抽出剤とに分離される。この時用いられる蒸留塔の形式は、棚段塔、ほう鐘塔、充填塔のいずれでもよく、使用する抽出剤と抽出剤に含有される成分、濃度に応じて各種方法を用いることができる。
【0048】
蒸留分離を行う温度と圧力は、使用する抽出剤と抽出剤に含有される成分、濃度に応じて設定することができるが、低い温度では抽出剤に微量含まれるホルムアルデヒドが固化し蒸留塔の内壁に析出して閉塞等の問題を引き起こす場合があるので、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上とする。一方で、高い温度では加圧系となる場合があるので、好ましくは120℃以下、より好ましくは115℃以下とする。工程(2)でトリオキサンの抽出を行った後の抽出剤を、加熱や冷却を行わず、そのままの温度で使用することも好ましい。蒸留分離を行う圧力は、抽出剤に含有される成分、濃度、温度に応じて適宜設定することができる。
【0049】
抽出剤の蒸留分離で回収された抽出剤は、トリオキサンを含むホルムアルデヒド水溶液からのトリオキサンの抽出に再利用することができる。
【0050】
蒸留分離されたトリオキサンはそのまま、ポリアセタールを製造するための原料として利用することができる。蒸留分離されたトリオキサンを更に精製して使用することもできる。
【実施例0051】
以下の実施例は本実施形態を制限することなく説明するものである。
【0052】
実施例及び比較例で用いた測定・評価方法は、以下のとおりである。
【0053】
<液中のホルムアルデヒド量の測定方法>
液中のホルムアルデヒド量はガスクロマトグラフィーを用いて下記の条件で測定を行い、事前に作成した検量線を用いて算出した。
ガスクロマトグラフィー:GC-2014(島津製作所製)
カラム:PorapakT(GLサイエンス社製)
注入口温度:180℃
検出器温度:180℃
検出器:熱伝導型検出器
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:125℃で8分間保持後、昇温速度20℃/分で180℃まで昇温し22分間保持
測定試料注入量:5μL
測定試料の調製方法:サンプル約0.1gをアセトン(富士フイルム和光純薬社製、超脱水グレード)約1gに溶解した。
【0054】
<液中のトリオキサン量の測定方法>
液中のトリオキサン量はガスクロマトグラフィーを用いて下記の条件で測定を行い、事前に作成した検量線を用いて算出した。
ガスクロマトグラフィー:GC-2014(島津製作所製)
カラム:SH-Stabilwax(島津GLC社製)
注入口温度:240℃
検出器温度:240℃
検出器:水素炎イオン化検出器
キャリアガス:窒素
カラム温度:50℃で5分間保持後、昇温速度20℃/分で240℃まで昇温し5分間保持
測定試料注入量:5μL
測定試料の調製方法:サンプル約0.1gをアセトン(富士フイルム和光純薬社製、超脱水グレード)約1gに溶解した。
【0055】
<液中の水量の測定方法>
カールフィッシャー法により液中の水量を定量した。
装置:CA-200(三菱ケミカルアナリティック社製)
陽極液:アクアミクロン(登録商標)AKX
陰極液:アクアミクロン(登録商標)CXU
測定方法:サンプルを注射器に約1g秤取し、装置に注入した。サンプル注入後、検出速度が0.02μg/secとなるまでに検出された水分量の合計値を、注入したサンプル量で除し、含水量(質量ppm)を算出した。
【0056】
[製造例1]ホルムアルデヒド水溶液からのトリオキサン合成
イオン交換樹脂アンバーリスト35(オルガノ社製)を、メスシリンダーで40mL測り取り、内容積100mLのテフロン(登録商標)内筒型密閉容器に投入して100℃に加熱した。ここに67質量%のホルムアルデヒド水溶液を50mL投入し、密閉して100℃に加熱したオイルバスに浸漬した。24時間経過後、内容物を濾過してトリオキサンを含む水溶液(反応液)を回収した。反応液のトリオキサン濃度は5.0質量%であった。
以上の操作を繰り返してトリオキサンを含む水溶液(反応液)を調製した。
【0057】
[実施例1]
オイル循環により100℃に加熱したジャケット付分液漏斗に、製造例1の反応液255.9gとn-デカン767.1gを投入した。
なお、反応液とn-デカンは予め100℃に加熱したものを使用した。また、反応液に対するn-デカンの体積比は4.8倍である。
分液漏斗を振とうした後5分間静置し、有機層と水層が十分に分離したことを目視で確認したのち分液を開始し、静置開始後5分で分液を終えた。有機層の含水量は120質量ppmであった。
【0058】
留出管と冷却器を取り付けた内容積200mLの3口フラスコに有機層を入れ、n-デカンとトリオキサンの蒸留分離を行った。初留でトリオキサンと水を含む混合物が回収され、次の留分でトリオキサンを回収した。初留の含水量は26質量%であった。反応液に含まれるトリオキサンに対する回収率は48%であり、該トリオキサンの含水量は0.1質量%であった。
【0059】
[実施例2]
表1に示すようにn-デカンの代わりにヘキサデカンを使用したこと以外は実施例1と同様の方法を実施し、トリオキサンを得た。分液操作では、分液漏斗を振とうした後5分間静置し、有機層と水層が十分に分離したことを目視で確認したのち分液を開始し、静置開始後5分で分液を終えた。トリオキサンの回収率は42%であった。該トリオキサンの含水量は0.1質量%であった。有機層の含水量は210質量ppmであった。
【0060】
[比較例1]
表1に示すようにn-デカンの代わりにニトロベンゼンとトリクロロベンゼンの混合液を使用したこと以外は実施例1と同様の方法を行った。分液操作において、分液漏斗を振とうした後5分間静置した時点では有機層と水層の分離が不十分であったため、10分間静置後に分液を開始し、静置開始後15分程度で分液を終えた。有機層の含水量は1.6質量%であった。蒸留分離において初留でトリオキサンと水を含む混合物が回収され、初留の含水量は24質量%であった。次の留分の主成分はニトロベンゼンであり、含水量の少ないトリオキサンは回収されなかった。
【0061】
[比較例2]
表1に示すようにn-デカンの代わりにテトラクロロエタンを使用したこと以外は実施例1と同様の方法を行った。分液操作において、分液漏斗を振とうした後5分間静置した時点では有機層と水層の分離が不十分であったため、10分間静置後に分液を開始し、静置開始後15分程度で分液を終えた。有機層の含水量は0.8質量%であった。蒸留分離において初留でトリオキサンと水を含む混合物が回収され、初留の含水量は25質量%であった。次の留分の主成分はテトラクロロエタンであり、含水量の少ないトリオキサンは回収されなかった。
【0062】
以上の結果を表1に示す。このように、90℃における含水量が0.10質量%以下であり、かつ比重が0.80未満である抽出剤を用いた実施例1と実施例2ではトリオキサンを回収することができたが、比較例1と比較例2では有機層の含水量が増加し、蒸留分離の際にほとんどのトリオキサンが、それぞれ水を24質量%、25質量%含む混合物として回収され、含水量の少ないトリオキサンを回収することができなかった。
【0063】