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特開2025-9734不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法、及び水酸化カルシウムの不純物を低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009734
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法、及び水酸化カルシウムの不純物を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/22 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C01F5/22
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215934
(22)【出願日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2023108922
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】山本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓輝
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AB04
4G076AB06
4G076BA13
4G076CA02
4G076CA18
4G076CA36
(57)【要約】
【課題】不純物を低減した水酸化マグネシウムを簡易に製造することができる、石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法を提供する。
【解決手段】本第1の開示は、石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法に関する。本第1の開示に係る方法は、水酸化カルシウムスラリー形成工程と、固液分離工程と、水酸化マグネシウムスラリー形成工程とを含む。上記水酸化カルシウムスラリー形成工程では、前記石灰石に由来する酸化カルシウムと、水とを混合し、前記石灰石に由来する水酸化カルシウムの水溶液と、前記石灰石に由来する固形の前記不純物とを含むスラリーを形成する。上記固液分離工程では、前記スラリーを、前記固形の不純物と、前記水酸化カルシウムの水溶液とに固液分離する。上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程では、前記水酸化カルシウムの水溶液と、水溶性マグネシウム化合物とを反応させ、水酸化マグネシウムのスラリーを形成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法であって、
前記石灰石に由来する酸化カルシウムと、水とを混合し、前記石灰石に由来する水酸化カルシウムの水溶液と、前記石灰石に由来する固形の前記不純物とを含むスラリーを形成する水酸化カルシウムスラリー形成工程、
前記スラリーを、前記固形の不純物と、前記水酸化カルシウムの水溶液とに固液分離する固液分離工程、
前記水酸化カルシウムの水溶液と、水溶性マグネシウム化合物とを反応させ、水酸化マグネシウムのスラリーを形成する水酸化マグネシウムスラリー形成工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記固液分離工程において分離された前記水酸化カルシウムの水溶液は、50ppm以下のFeを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水酸化カルシウムスラリー形成工程における前記スラリーは、水酸化カルシウムの粒子を含み、
前記固液分離工程において、新たな水を供給して、前記水酸化カルシウムの粒子の少なくとも一部を、前記水酸化カルシウムの水溶液として回収する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記固液分離工程及び前記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも一方において、前記水酸化カルシウムの水溶液中の二酸化炭素の濃度を1.0ppm以下に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記固液分離工程及び前記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも一方において、前記水酸化カルシウムの水溶液を不活性ガス雰囲気中に保持する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも一部と、前記固液分離工程の少なくとも一部とを同時に実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の後、前記水酸化マグネシウムのスラリーから水酸化マグネシウムの粉末を形成する粉末形成工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記水酸化マグネシウムの粉末は、50ppm以下のFeを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水酸化マグネシウムの粉末は、0.60質量%以下のCaCO3を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記水酸化マグネシウムの粉末は、0.20ppm以下のCdを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記水酸化マグネシウムの粉末は、20ppm以下のMnを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記粉末形成工程は、前記水酸化マグネシウムのスラリー又はその脱水物を、塩化カルシウム、塩化カリウム及び塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の存在下で水熱処理する水熱処理工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
石灰石から形成された水酸化カルシウム中の不純物を低減する方法であって、
前記石灰石に由来する酸化カルシウムと、水とを混合し、前記石灰石に由来する水酸化カルシウムの水溶液と、前記石灰石に由来する固形の前記不純物とを含むスラリーを形成する水酸化カルシウムスラリー形成工程、
前記スラリーを、前記固形の不純物と、前記水酸化カルシウムの水溶液とに固液分離する固液分離工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法、及び石灰石から形成された水酸化カルシウムの不純物を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化マグネシウムを製造する方法が、種々、検討されている。
例えば、特許文献1には、不純物を含有した水酸化マグネシウムと、水に可溶性のカルシウム塩を含む水溶液及び炭酸ガスとを反応せしめ、マグネシウム塩の水溶液と炭酸カルシウムの沈殿を生成せしめ、かかる沈殿中に前記不純物を移行せしめてこれらを濾別し、次いでマグネシウム塩の水溶液とアンモニアとを反応せしめて水酸化マグネシウムスラリーとアンモニウム塩の水溶液を得、かかる水酸化マグネシウムスラリーを濾別し、高純度水酸化マグネシウムとアンモニウム塩,過剰アンモニア及び未反応マグネシウ塩を含む水溶液を得ることを特徴とする高純度水酸化マグネシウムの製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1の明細書には、「従来、水酸化マグネシウムは海水を原料とし、これに石灰乳を反応せしめて得られていた。しかしながら、このような水酸化マグネシウム中には、石灰乳等から混入する硼酸分、シリカやアルミナ分、鉄分、カルシウム分等が比較的多量に混入し、このままでは前記高級品の用途には不向きである」ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-155529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る方法では、水酸化マグネシウムを形成した後、複数の試薬を用いるとともに、複数の工程を経て高純度の水酸化マグネシウムを製造するものである。従って、特許文献1に係る方法は、簡易に実施できるものではなく、持続可能な開発目標(SDGs)の達成の観点から好ましいとは必ずしもいえないものであった。
従って、本開示は、不純物を低減した水酸化マグネシウムを簡易に製造することができる、石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の各態様を含む。
(第1の開示)
本第1の開示は、石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法に関する。本第1の開示に係る方法は、水酸化カルシウムスラリー形成工程を含む。上記水酸化カルシウムスラリー形成工程では、上記石灰石に由来する酸化カルシウムと、水とを混合し、上記石灰石に由来する水酸化カルシウムの水溶液と、上記石灰石に由来する固形の上記不純物とを含むスラリーを形成する。
【0007】
本第1の開示に係る方法は、固液分離工程を含む。上記固液分離工程では、上記スラリーを、上記固形の不純物と、上記水酸化カルシウムの水溶液とに固液分離する。本第1の開示に係る方法は、水酸化マグネシウムスラリー形成工程を含む。上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程では、上記水酸化カルシウムの水溶液と、水溶性マグネシウム化合物とを反応させ、水酸化マグネシウムのスラリーを形成する。
【0008】
(第2の開示)
本第2の開示では、第1の開示において、上記水酸化カルシウムの上記水溶液は、50ppm以下のFeを含む。
(第3の開示)
本第3の開示では、第1の開示又は第2の開示において、上記水酸化カルシウムスラリー形成工程における上記スラリーは、水酸化カルシウムの粒子を含む。また、本第3の開示では、上記固液分離工程において、新たな水を供給して、上記水酸化カルシウムの粒子の少なくとも一部を、上記水酸化カルシウムの水溶液として回収する。
【0009】
(第4の開示)
本第4の開示では、第1の開示から第3の開示において、上記固液分離工程及び前記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも一方において、上記水酸化カルシウムの水溶液中の二酸化炭素の濃度を1.0ppm以下に維持する。
(第5の開示)
本第5の開示では、第4の開示において、上記固液分離工程及び上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも一方において、上記水酸化カルシウムの水溶液を不活性ガス雰囲気中に保持する。
【0010】
(第6の開示)
本第6の開示では、第1の開示から第5の開示のいずれかにおいて、上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも一部と、上記固液分離工程の少なくとも一部とを同時に実施する。
(第7の開示)
本第7の開示に係る方法は、第1の開示から第6の開示のいずれかにおいて、上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の後に、粉末形成工程を含む。上記粉末形成工程では、上記水酸化マグネシウムのスラリーから上記水酸化マグネシウムの粉末を形成する。
(第8の開示)
本第8の開示では、第7の開示において、上記水酸化マグネシウムの粉末は、50ppm以下のFeを含む。
【0011】
(第9の開示)
本第9の開示では、第7の開示又は第8の開示のいずれかにおいて、上記水酸化マグネシウムの粉末は、0.60質量%以下のCaCO3を含む。
【0012】
(第10の開示)
本第10の開示では、第7の開示から第9の開示のいずれかにおいて、上記水酸化マグネシウムの粉末は、0.20ppm以下のCdを含む。
(第11の開示)
本第11の開示では、第7の開示から第10の開示のいずれかにおいて、上記水酸化マグネシウムの粉末は、20ppm以下のMnを含む。
【0013】
(第12の開示)
本第12の開示では、第7の開示から第11の開示のいずれかにおいて、上記粉末形成工程は、水熱処理工程をさらに含む。上記水熱処理工程では、上記水酸化マグネシウムのスラリー又はその脱水物を、塩化カルシウム、塩化カリウム及び塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の存在下で水熱処理する。
【0014】
(第13の開示)
本第13の開示は、石灰石から形成された水酸化カルシウム中の不純物を低減する方法に関する。本第13の開示に係る方法は、水酸化カルシウムスラリー形成工程を含む。上記水酸化カルシウムスラリー形成工程では、上記石灰石に由来する酸化カルシウムと、水とを混合し、上記石灰石に由来する水酸化カルシウムの水溶液と、上記石灰石に由来する固形の上記不純物とを含むスラリーを形成する。本第13の開示に係る方法は、固液分離工程を含む。上記固液分離工程では、上記スラリーを、上記固形の不純物と、上記水酸化カルシウムの水溶液とに固液分離する。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る、石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法は、不純物を低減した水酸化マグネシウムを簡易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示に係る石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法、及び石灰石から形成された水酸化カルシウムの不純物を低減する方法について、以下、詳細に説明する。なお、本開示に係る、石灰石を用いて、不純物を低減した水酸化マグネシウムを製造する方法を、単に「本開示に係る製造方法」と称する場合がある。また、本開示に係る、石灰石から形成された水酸化カルシウムの不純物を低減する方法を、単に「本開示に係る低減方法」と称する場合がある。
【0017】
本開示に係る製造方法及び本開示に係る低減方法は、水酸化カルシウムスラリー形成工程を含む。上記水酸化カルシウムスラリー形成工程では、上記石灰石に由来する酸化カルシウムと、水とを混合し、上記石灰石に由来する水酸化カルシウムの水溶液と、上記石灰石に由来する固形の上記不純物とを含むスラリーを形成する。なお、上記石灰石に由来する水酸化カルシウムと、上記石灰石に由来する固形の上記不純物とを含むスラリーを、以下、「石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリー」と称する場合がある。
【0018】
上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、例えば、以下の通り形成することができる。石灰石を900℃~1300℃で焼成し、酸化カルシウムを得る。得られた酸化カルシウムを、水に、例えば、200g/Lの濃度となるように投入して、例えば、90℃で酸化カルシウム及び水を反応させて反応物を得る。上記水としては、例えば、イオン交換水、工業用水及び水道水が挙げられる。上記反応物を、例えば、50メッシュの篩に通し、例えば、未反応の酸化カルシウム及び/又は炭酸カルシウムを除去する。未反応の酸化カルシウム及び/又は炭酸カルシウムを除去した反応物を水と混合して、上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーを得る。
【0019】
石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーを形成する温度は、好ましくは1℃以上、そしてより好ましくは15℃以上である。これにより、スラリーの凍結を抑制しながら、スラリー中に水酸化カルシウムの水溶液を形成しやすくなる。また、石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーを形成する温度は、好ましくは80℃以下、より好ましくは35℃以下、そしてさらに好ましくは35℃以下である。それにより、スラリー中の水酸化カルシウムの水溶液の比率を高めることができる。
【0020】
上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーでは、カルシウムの濃度が、好ましくは5.0mol/L以下、そしてより好ましくは3.5mol/L以下である。また、上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーでは、カルシウムの濃度が、好ましくは1.0mol/L以上である。それにより、生産効率を維持しながら、スラリーの粘度が上昇することを抑制することができる。
【0021】
なお、上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、原料となる石灰石によっても変化するが、粉末状態において、Feを、一般的には50ppm以上、より一般的は80ppm以上、そしてさらに一般的には100ppm以上含む。また、上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、粉末状態において、Feを、一般的には250ppm以下、より一般的は200ppm以下、そしてさらに一般的には150ppm以下含む。
【0022】
上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、原料となる石灰石によっても変化するが、粉末状態において、Cdを、一般的には0.1ppm以上、より一般的は0.2ppm以上、そしてさらに一般的には0.3ppm以上含む。また、上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、粉末状態において、Cdを、一般的には3.0ppm以下、より一般的は2.0ppm以下、そしてさらに一般的には1.0ppm以下含む。
【0023】
上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、原料となる石灰石によっても変化するが、粉末状態において、Mnを、一般的には3ppm以上、より一般的は5ppm以上、そしてさらに一般的には10ppm以上含む。また、上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、粉末状態において、Mnを、一般的には200ppm以下、より一般的は100ppm以下、そしてさらに一般的には50ppm以下含む。
【0024】
本明細書では、水酸化カルシウムのスラリー中のFeの量は、水酸化カルシウムのスラリーを粉末状態にした上で、株式会社リガク製,走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus4を用いて測定することができる。
また、本明細書では、水酸化カルシウムのスラリー中のCd及びMnの量は、水酸化カルシウムのスラリーを粉末状態にした上で、株式会社日立ハイテクサイエンス製,偏光ゼーマン原子吸光光度計ZA3000を用いて測定することができる。
また、本明細書では、石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、脱水し、恒量となるまで乾燥することにより、粉末状態とすることができる。
【0025】
上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーは、上記石灰石に由来する水酸化カルシウムの水溶液と、上記石灰石に由来する固形の不純物とに加えて、石灰石に由来する水酸化カルシウムの粒子をさらに含んでいてもよい。その場合には、後述する固液分離工程において、新たな水を添加して、水酸化カルシウムの粒子を水に溶解させ、液体として固液分離することができる。上記水としては、例えば、イオン交換水、工業用水及び水道水が挙げられる。
【0026】
本開示に係る製造方法及び本開示に係る低減方法は、固液分離工程を含む。上記固液分離工程では、上記スラリーを、上記固形の不純物と、上記水酸化カルシウムの水溶液とに固液分離する。上記固液分離工程は、固液分離機器を用いて実施することができる。上記固液分離機器としては、ヌッチェが挙げられる。上記固液分離機器がヌッチェである場合には、上記スラリーをヌッチェを用いて吸引濾過することにより、固形の不純物と、水酸化カルシウムの水溶液とに固液分離することができる。
【0027】
上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーが石灰石に由来する水酸化カルシウムの粒子をさらに含む場合には、上記固液分離工程において、水酸化カルシウムの粒子を、水酸化カルシウムの水溶液として回収することができる。例えば、固液分離機器に投入する前の上記石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーに新たな水を供給して、水酸化カルシウムの粒子を水に溶解させて水酸化カルシウムの水溶液とし、固液分離機器を用いて液体として回収することができる。また、石灰石由来の水酸化カルシウムのスラリーを、固液分離機器を用いて固液分離する際に、固液分離機器に残存する水酸化カルシウムの粒子を含む残渣に新たな水を供給して、水酸化カルシウムの粒子を水酸化カルシウムの水溶液として回収してもよい。
【0028】
上記固液分離工程により固液分離された水酸化カルシウムの水溶液は、好ましくは0.0001mol/L以上、そしてより好ましくは0.001mol/L以上のカルシウムの濃度を有する。また、上記固液分離工程により分離された水酸化カルシウムの水溶液は、好ましくは0.1mol/L以下、そしてより好ましくは0.01mol/L以下のカルシウムの濃度を有する。それにより、水酸化カルシウムの水溶液の全体量を抑制しながら、不純物の少ない水酸化カルシウムの水溶液を高収率で回収することができる。
【0029】
上記固液分離工程により分離された水酸化カルシウムの水溶液は、Feを、50ppm以下、より好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下、そしてさらにいっそう好ましくは10ppm以下の含有率で含む。なお、上記固液分離工程により分離された水酸化カルシウムの水溶液において、Feの含有率の下限は、特に制限されないが、例えば、0.1ppm以上である。
【0030】
本明細書では、水酸化カルシウムの水溶液中のFeの含有率は、以下の通り測定される。
(1)水酸化カルシウムの水溶液25mLに、6.79mol/Lの硝酸水溶液を5mL加え、イオン交換水で全量50mLとし、サンプルを形成する。
(2)サンプル中のFeの量を、株式会社日立ハイテクサイエンス ICP発光分光分析装置 PS3500を用いて測定する。
(3)測定されたFeの量を2倍し、水酸化カルシウムの水溶液中のFeの含有率とする。
【0031】
本開示に係る製造方法及び本開示に係る低減方法は、水酸化マグネシウムスラリー形成工程を含む。上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程では、上記水酸化カルシウムの水溶液と、水溶性マグネシウム化合物とを反応させ、水酸化マグネシウムのスラリーを形成する。
上記水溶性マグネシウム化合物としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、苦汁及び/又は海水が挙げられる。
【0032】
上記水溶性マグネシウム化合物としては、例えば、硝酸マグネシウムが挙げられる。
【0033】
上記水酸化カルシウムの水溶液と、水溶性マグネシウム化合物との反応は、例えば、以下の(i)~(iv)の少なくとも1つにて実施することができる。
(i)バッチ法-1:水酸化カルシウム水溶液と、水溶性マグネシウム化合物の溶液とを、反応槽に同時注加して、水酸化マグネシウムのスラリーを形成する。
(ii)バッチ法-2:水酸化カルシウムの水溶液に、水溶性マグネシウム化合物の溶液を注加して、水酸化マグネシウムのスラリーを形成する。
(iii)バッチ法-3:水溶性マグネシウム化合物の溶液に、水酸化カルシウムの水溶液を注加して、水酸化マグネシウムのスラリーを形成する。
(iv)連続法:水酸化カルシウムの水溶液と、水溶性マグネシウム化合物の溶液とを、反応槽に連続注加し、水酸化マグネシウムのスラリーを連続的に形成する。
生産効率を考慮すると、(iv)連続法が好ましい。
【0034】
上記反応は、好ましくは1℃以上、そしてより好ましくは15℃以上の反応温度で実施することができる。また、上記反応は、好ましくは80℃以下、そしてより好ましくは35℃以下の反応温度で実施することができる。それにより、凍結を抑制しつつ、生産効率を向上させることができる。
【0035】
上記反応は、好ましくは9.0以上のpHにて実施することができる。また、上記反応は、好ましくは12.0以下のpHで実施することができる。それにより、水酸化マグネシウムのスラリーを安定的に形成することができる。
【0036】
本開示に係る製造方法及び本開示に係る低減方法は、上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の後、上記水酸化マグネシウムのスラリーから水酸化マグネシウムの粉末を形成する粉末形成工程をさらに含むことができる。
上記粉末形成工程では、水酸化マグネシウムのスラリーを、例えば、固液分離工程、洗浄工程、水熱工程、及び/又は乾燥工程に付すことにより、水酸化マグネシウムの粉末を得ることができる。
【0037】
上記固液分離工程では、固液分離機器により、水酸化マグネシウムのスラリーを、水酸化マグネシウムの粒子を含む固体成分と、液体成分とに固液分離することができる。上記固液分離機器としては、例えば、ヌッチェが挙げられる。
上記洗浄工程は、上記固液分離機器上の残渣である上記固形成分に水を添加することにより行うことができる。上記水の量としては、例えば、上記固形成分の20倍量が挙げられる。上記水としては、例えば、イオン交換水、工業用水及び水道水が挙げられる。
【0038】
上記水熱工程は、水酸化マグネシウムの粒子を含む上記固体成分を、イオン交換水に再乳化させて再乳化物を形成し、当該再乳化物を、例えば、100~200℃で、例えば、0.5~5.0時間水熱処理することにより実施することができる。
【0039】
また、上記水熱工程において、再乳化物に、例えば、塩化物を添加し、水酸化マグネシウムの溶解及び析出を促進し、水酸化マグネシウムの粒子の粒径を大きくすることができる。また、水酸化マグネシウムの粒子の粒径が大きくなるに伴い、形成される水酸化マグネシウムの粉末におけるD50が大きくなり、そして形成される水酸化マグネシウムの粉末におけるBET法による表面積が小さくなる傾向がある。
上記塩化物としては、塩化カルシウム、塩化カリウム及び塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、そして塩化カルシウムが好ましい。
【0040】
上記乾燥工程では、上記固形成分を、例えば、恒量となるまで乾燥することにより、水酸化カルシウムの粉末を得ることができる。
【0041】
上記水酸化マグネシウムの粉末は、Feを、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、さらにいっそう好ましくは20ppm以下、そしてさらにいっそう好ましくは10ppm以下の含有率で含む。なお、上記水酸化マグネシウムの粉末において、Feの含有率の下限は、例えば、1.0ppmである。水酸化マグネシウムの粉末において、Feの含有率を上記範囲にすることで、様々な用途に利用することができる。
【0042】
上記水酸化マグネシウムの粉末は、Cdを、好ましくは0.20ppm以下、より好ましくは0.17ppm以下、さらに好ましくは0.15ppm以下、そしてさらにいっそう好ましくは0.13ppm以下の含有率で含む。なお、上記水酸化マグネシウムの粉末において、Cdの含有率の下限は、例えば、0.05ppmである。水酸化マグネシウムの粉末において、Cdの含有率を上記範囲にすることで、様々な用途に利用することができる。
【0043】
上記水酸化マグネシウムの粉末は、Mnを、好ましくは20ppm以下、より好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、そしてさらにいっそう好ましくは7ppm以下の含有率で含む。なお、上記水酸化マグネシウムの粉末において、Mnの含有率の下限は、例えば、1ppmである。水酸化マグネシウムの粉末において、Mnの含有率を上記範囲にすることで、様々な用途に利用することができる。
【0044】
上記水酸化マグネシウムの粉末は、Siを、好ましくは0.020質量%以下、そしてより好ましくは0.015質量%以下の含有率で含む。なお、上記水酸化マグネシウムの粉末において、Siの含有率の下限は、例えば、0.001質量%である。水酸化マグネシウムの粉末において、Siの含有率を上記範囲にすることで、様々な用途に利用することができる。
【0045】
上記水酸化マグネシウムの粉末は、Alを、好ましくは0.005質量%以下、そしてより好ましくは0.003質量%以下の含有率で含む。なお、上記水酸化マグネシウムの粉末において、Alの含有率の下限は、例えば、0.0001質量%である。水酸化マグネシウムの粉末において、Alの含有率を上記範囲にすることで、様々な用途に利用することができる。
【0046】
上記水酸化マグネシウムの粉末は、Znを、好ましくは40ppm以下、より好ましくは30ppm以下、そしてさらに好ましくは20ppm以下の含有率で含む。なお、上記水酸化マグネシウムの粉末において、Znの含有率の下限は、例えば、1ppmである。水酸化マグネシウムの粉末において、Znの含有率を上記範囲にすることで、様々な用途に利用することができる。
【0047】
本明細書では、水酸化マグネシウムの粉末におけるSi、Al、Zn、Cl、S、Na及びNiの含有率は、株式会社リガク製,走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus IVで測定することができる。
本明細書では、水酸化マグネシウムの粉末におけるCd及びMnのそれぞれの含有率は、株式会社日立ハイテクサイエンス製,偏光ゼーマン原子吸光光度計ZA3000で測定することができる。
本明細書において、水酸化マグネシウムの粉末におけるFe及びCaCO3の含有率は、株式会社日立ハイテクサイエンス ICP発光分光分析装置 PS3500で測定することができる。
【0048】
上述のとおり製造される水酸化マグネシウムのスラリー又は水酸化マグネシウムの粉末は、石灰石に由来する水に溶解しにくい不純物を含みにくい。
本開示では、上記不純物としては、Fe、Mn、Cd、Al、Si、Cl、Na、Ni、Zn、S、Pb、As、P、V及びCrの少なくとも1種が挙げられる。
【0049】
上記水酸化マグネシウムのスラリー又は水酸化マグネシウムの粉末は、例えば、高分子材料の難燃剤、樹脂フィラー、蓄熱材料、紙のコーティング剤及び/又は触媒の用途に好適である。石灰石に由来する水に溶解しにくい不純物、例えば、Fe、Cd及びMnが低減されているためである。
【0050】
上記水酸化カルシウムスラリー形成工程、固液分離工程、及び水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも1つの工程では、上記水酸化カルシウムの水溶液と、二酸化炭素の接触を少なくする、例えば、上記水酸化カルシウムの水溶液中の二酸化炭素の濃度を大気中よりも低く維持することができる。それにより、水酸化カルシウムの水溶液中において、水酸化カルシウム及び二酸化炭素が反応して炭酸カルシウムが形成することを抑制することができ、ひいては水酸化マグネシウムの粉末中に炭酸カルシウムを残存させにくくすることができる。
【0051】
上述の観点から、上記水酸化カルシウムの水溶液における二酸化炭素の濃度は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1.0ppm以下、さらにいっそう好ましくは0.5ppm以下、そしてさらにいっそう好ましくは0.1ppm以下である。なお、上記水酸化カルシウムの水溶液における二酸化炭素の濃度の下限は、例えば、0.001ppmである。
【0052】
粉末形成工程、特に、粉末形成工程における固液分離工程では、水酸化マグネシウムのスラリーと、二酸化炭素の接触を少なくする、例えば、上記水酸化マグネシウムのスラリー中の二酸化炭素の濃度を大気中よりも低く維持することができる。それにより、水酸化マグネシウムのスラリー中において、残存するカルシウム及び二酸化炭素が反応して炭酸カルシウムが形成することを抑制することができ、ひいては水酸化マグネシウムの粉末中に炭酸カルシウムを残存させにくくすることができる。
【0053】
粉末形成工程において、水酸化マグネシウムのスラリーにおける二酸化炭素の濃度は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1.0ppm以下、さらにいっそう好ましくは0.5ppm以下、そしてさらにいっそう好ましくは0.1ppm以下である。なお、水酸化マグネシウムのスラリーにおける二酸化炭素の濃度の下限は、例えば、0.001ppmである。
【0054】
上記二酸化炭素の濃度を達成するために、上記水酸化カルシウムスラリー形成工程、固液分離工程、及び水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも1つの工程において、水酸化カルシウムの水溶液を不活性ガス雰囲気中に保持することができ、そして上記水酸化カルシウムスラリー形成工程、固液分離工程、及び水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも1つの工程を、不活性ガス雰囲気下で実施することもできる。
【0055】
同様に、粉末形成工程、特に、粉末形成工程における固液分離工程において、水酸化マグネシウムのスラリーを不活性ガス雰囲気中に保持することができ、そして不活性ガス雰囲気下で実施することもできる。
上記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス及び希ガスから成る群が挙げられる。上記希ガスとしては、例えば、ヘリウムガス及びアルゴンガスが挙げられる。
【0056】
上記二酸化炭素の濃度を達成するために、上記水酸化カルシウムスラリー形成工程、固液分離工程、及び水酸化マグネシウムスラリー形成工程の少なくとも1つの工程において、水酸化カルシウムの水溶液の表面に油層を形成してもよい。同様に、粉末形成工程、特に、粉末形成工程における固液分離工程において、水酸化マグネシウムのスラリーの表面に油層を形成してもよい。
上記油層を形成する油としては、例えば、ヘキサン、酢酸エチル、ベンゼン及びジエチルエーテルが挙げられる。
【0057】
上記二酸化炭素の濃度を達成するために、固液分離工程、水酸化マグネシウムスラリー形成工程、及び粉末形成工程の少なくとも一つの工程において、所定のS/V比を有する容器を用いることができる。なお、S(cm2)は、容器に収容された水酸化カルシウムの水溶液及び/又は水酸化マグネシウムスラリーが、二酸化炭素を含む気体、例えば、外気と接触する面積を意味し、V(cm3)は、容器に収容された水酸化カルシウムの水溶液又は水酸化マグネシウムスラリーの体積を意味する。
上記S/V比は、好ましくは0.10cm-1以下、そしてより好ましくは0.07cm-1以下である。それにより、水酸化カルシウム及び/又は水酸化マグネシウムスラリーと、二酸化炭素との接触を少なくすることができ、ひいては水酸化マグネシウムの粉末中に炭酸カルシウムを残存させにくくすることができる。
【0058】
上記水酸化カルシウムの水溶液及び二酸化炭素の接触を少なくするために、上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の一部又は全部と、上記固液分離工程の一部又は全部とを同時に実施することができる。また、上記水酸化カルシウムの水溶液及び水酸化マグネシウムのスラリーと、二酸化炭素との接触を少なくするために、上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の一部又は全部と、粉末形成工程における固液分離工程の一部又は全部とを同時に実施することができる。さらに、上記水酸化カルシウムの水溶液及び水酸化マグネシウムのスラリーと、二酸化炭素との接触を少なくするために、上記水酸化マグネシウムスラリー形成工程の一部又は全部と、上記固液分離工程の一部又は全部と、粉末形成工程における固液分離工程の一部又は全部と同時に実施することができる。
【0059】
上記水酸化カルシウムの水溶液と、二酸化炭素の接触を少なくすることにより形成される水酸化マグネシウムの粉末、そして水酸化マグネシウムのスラリーと、二酸化炭素の接触を少なくすることにより形成される水酸化マグネシウムの粉末は、好ましくは0.60質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以下、そしてさらにいっそう好ましくは0.10質量%以下のCaCO3を含む。なお、上記水酸化マグネシウムの粉末において、CaCO3の下限は、例えば、0.01質量%である。
【実施例0060】
以下、例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
[製造例1]
石灰石を900℃で焼成し、酸化カルシウムを得た。得られた酸化カルシウムを、イオン交換水に、酸化カルシウムの濃度が200g/Lとなるように投入し、液温を90℃に調整して、水酸化カルシウムを含む懸濁液を得た。得られた水酸化カルシウムを含む懸濁液を50メッシュの篩に通し、2.22mol/Lの水酸化カルシウムのスラリーNo.1を得た。水酸化カルシウムのスラリーNo.1を脱水し、乾燥して、水酸化カルシウムの粉末No.1を得た。水酸化カルシウムの粉末No.1の組成を、本明細書に記載の方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0061】
容器にイオン交換水1200mLを充填した。容器の内容物を200rpmで攪拌しながら、15mLの水酸化カルシウムのスラリーNo.1を容器に注加し、容器の内容物を20分間攪拌した。次いで、容器の内容物をヌッチェにて吸引濾過し、その濾液を水酸化カルシウムの水溶液No.1として得た。水酸化カルシウムの水溶液No.1におけるカルシウムの濃度は、0.0191mol/Lであった。水酸化カルシウムの水溶液No.1のFeの含有率を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
[比較製造例1]
容器にイオン交換水1200mLを充填した。容器の内容物を200rpmで攪拌しながら、15mLの水酸化カルシウムのスラリーNo.1を容器に注加し、20分攪拌を続けることにより、固形の不純物を含む水酸化カルシウムの水溶液No.2を得た。水酸化カルシウムの水溶液No.2を攪拌し、固形の不純物が均一に分散した状態で、水酸化カルシウムの水溶液No.2中のFeの含有率を測定した。結果を表2に示す。なお、水酸化カルシウムの水溶液No.2におけるカルシウムの濃度は、0.0292mol/Lであった。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例1]
375mLの水酸化カルシウムのスラリーNo.1と、30Lのイオン交換水とを常温で混合した後、18.5時間攪拌することにより、スラリーを得た。当該スラリーをヌッチェにて吸引濾過し、得られた濾液を水酸化カルシウムの水溶液No.3として得た。水酸化カルシウムの水溶液No.3の濃度は0.0194mol/Lであった。
【0066】
バッチ式反応槽に30Lの水酸化カルシウムの水溶液No.3を充填した。反応槽の内容物を300rpmで攪拌しながら、バッチ式反応槽に、1.61mol/Lの塩化マグネシウム水溶液402mLを5分で注加し、水酸化カルシウム及び塩化マグネシウムを反応させ、水酸化マグネシウムの第1スラリーNo.1を得た。反応時の温度は19.5℃であり、pHは10.72であった。
【0067】
水酸化マグネシウムの第1スラリーNo.1をヌッチェにて吸引濾過して、濾過残差を得た。当該濾過残差に、総量が600mLとなるよう濾液の一部を加えて、濾過残差を再乳化して再乳化物を得た。当該再乳化物を170℃で4時間水熱処理して、水酸化マグネシウムの第2スラリーNo.1を得た。
【0068】
水酸化マグネシウムの第2スラリーNo.1をヌッチェにて吸引濾過し、濾過残差を固形分量に対して20倍量のイオン交換水で水洗した。水洗後の濾過残差を105℃で12時間乾燥させて、水酸化マグネシウムの粉末No.1を得た。水酸化マグネシウムの粉末No.1のFe、Cd及びMnの含有率、D50、並びにBET法による比表面積を表3に示す。なお、Feの含有率は、株式会社リガク製,走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus IVで測定した。
【0069】
D50は、マイクロトラック・ベル株式会社製のレーザ回析・散乱式粒子径分布測定装置MT3300EX IIを用いて測定した。なお、D50は、体積基準の50%粒径を意味する。
また、BET法による比表面積は、マイクロトラック・ベル株式会社,比表面積・細孔分布測定装置,BELsorp-maxを用いて測定した。
【0070】
[実施例2]
375mLの水酸化カルシウムのスラリーNo.1と、30Lのイオン交換水とを常温で混合した後、15.5時間攪拌することにより、スラリーを得た。当該スラリーをヌッチェにて吸引濾過し、得られた濾液を水酸化カルシウムの水溶液No.4として得た。水酸化カルシウムの水溶液No.4の濃度は、0.0205mol/Lであった。
【0071】
バッチ式反応槽に、30Lの水酸化カルシウムの水溶液No.4を充填した。反応槽の内容物を300rpmで攪拌しながら、バッチ式反応槽に、1.61mol/Lの塩化マグネシウム水溶液424mLを5分で注加し、水酸化カルシウム及び塩化マグネシウムを反応させ、水酸化マグネシウムの第1スラリーNo.2を得た。反応の温度は21.2℃であり、pHは10.42であった。
【0072】
水酸化マグネシウムの第1スラリーNo.2をヌッチェにて吸引濾過して濾過残渣を得た。当該濾過残渣に、5.2mol/Lの塩化カルシウム水溶液50mLを加えて、次いで、総量が600mLとなるようにイオン交換水をさらに加えて、濾過残渣を再乳化し、再乳化物を得た。当該再乳化物を170℃で4時間水熱処理し、水酸化マグネシウムの第2スラリーNo.2を得た。
【0073】
水酸化マグネシウムの第2スラリーNo.2をヌッチェにて吸引濾過し、濾過残渣を固形分量に対して20倍量のイオン交換水で水洗した。水洗後の濾過残差を105℃で12時間乾燥させて、水酸化マグネシウムの粉末No.2を得た。水酸化マグネシウムの粉末No.2のFe、Cd及びMnの含有率、D50、並びにBETによる比表面積を表3に示す。なお、Feの含有率は、株式会社リガク製,走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus IVで測定した。
【0074】
[比較例1]
水酸化カルシウムのスラリーNo.1にイオン交換水を加えて、1.05mol/Lの水酸化カルシウムのスラリーを得た。
バッチ式反応槽に、1.79mol/Lの塩化マグネシウムの水溶液365mLを充填した。反応槽の内容物を200rpmで攪拌しながら、バッチ式反応槽に1.05mol/Lの水酸化カルシウムのスラリー529mLを5分で注加し、水酸化カルシウム及び塩化マグネシウムを反応させ、水酸化マグネシウムの第1スラリーNo.3を得た。反応の温度は23.0℃であり、pHは9.10であった。
【0075】
水酸化マグネシウムの第1スラリーNo.3を170℃で4時間水熱処理し、水酸化マグネシウムの第2スラリーNo.3を得た。
水酸化マグネシウムの第2スラリーNo.3をヌッチェにて吸引濾過し、濾過残差を固形物量に対して20倍量のイオン交換水で水洗した。水洗後の濾過残差を105℃で12時間乾燥させて、水酸化マグネシウムの粉末No.3を得た。水酸化マグネシウムの粉末No.3のFe、Cd及びMnの含有率、D50、並びにBETによる比表面積を表3に示す。なお、Feの含有率は、株式会社リガク製,走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus IVで測定した。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例1及び実施例2における水酸化マグネシウムの粉末No.1及びNo.2は、比較例1における水酸化マグネシウムの粉末No.3と比較して、Fe、Cd及びMnの含有率が少ないことが分かる。
【0078】
[実施例3]
製造例1で製造した水酸化カルシウムのスラリーNo.1を122mLと、イオン交換水10Lとを室温で混合し、30分攪拌することにより、水酸化カルシウムのスラリーNo.2を得た。室温において、1.7mol/Lの濃度の塩化マグネシウム水溶液131mLをろ過瓶に入れ、マグネチックスターラーを用いて800rpmで攪拌し続けた。上記ろ過瓶にブフナー漏斗を取付け、当該ブフナー漏斗を用いて水酸化カルシウムのスラリーNo.2をろ過することにより、水酸化カルシウムの水溶液の固液分離と、水酸化カルシウム及び塩化マグネシウムの反応とを同時に行った。
【0079】
注加終了後、反応物を30分間攪拌し、水酸化マグネシウムのスラリーNo.3を得た。反応時のS/V比は0.02cm-1であった。水酸化マグネシウムのスラリーNo.3を減圧ろ過後、水酸化マグネシウムの20質量倍のイオン交換水で洗浄することで、水酸化マグネシウムのケーキを得た。水酸化マグネシウムのケーキを105℃で24時間乾燥させることにより、水酸化マグネシウムの粉末No.4を得た。水酸化マグネシウムの粉末No.4のFe及びCaCO3の含有率を表4に示し、Cl、Si、S、Al、Zn、Fe,Na及びNiの含有率を表5に示す。
【0080】
[実施例4]
以下を除いて、実施例3と同様にして、水酸化マグネシウムの粉末No.5を得た。
-水酸化カルシウムのスラリーNo.2を得る際に、水酸化カルシウムのスラリーNo.1を12.2mL、イオン交換水を1Lとした。反応時のS/V比は0.06cm-1であった。
-水酸化カルシウムスラリーNo.2を得る工程から水酸化マグネシウムのケーキを得る工程までを、グローブバッグを用いて窒素雰囲気下で実施し、二酸化炭素の濃度を1.0ppm以下とした。
水酸化マグネシウムの粉末No.5のFe及びCaCO3の含有率を表4に示す。
【0081】
[比較例2]
ブフナー漏斗及びろ過瓶を用いて水酸化カルシウムのスラリーNo.2を減圧ろ過することで、水酸化カルシウムの水溶液を得た。得られた水酸化カルシウム水溶液の濃度は0.02mol/Lであった。室温において、新たなろ過瓶に1.7mol/Lの塩化マグネシウム水溶液129mLを入れ、マグネチックスターラーを用いて800rpmで攪拌し続けた。上記水酸化カルシウムの水溶液を、新たなろ過瓶に注加し、上記水酸化カルシウムの水溶液と、塩化マグネシウム水溶液とを反応させた。注加終了後、反応物を30分間攪拌することで水酸化マグネシウムのスラリーNo.4を得た。反応時のS/V比は0.02cm-1であった。実施例1と同様にして、水酸化マグネシウムのスラリーNo.4から水酸化マグネシウムの粉末No.6を得た。水酸化マグネシウムの粉末No.6のFe及びCaCO3の含有率を表4に示し、Cl、Si、S、Al、Zn、Fe,Na及びNiの含有率を表5に示す。
【0082】
[比較例3]
1.7mol/Lの塩化マグネシウム水溶液410mLをステンレス製反応槽に入れ、ケミスターラーを用いて200rpmで攪拌しながら、水溶液の温度を35℃に調整した。上記ステンレス製反応槽に、35℃に調整した、製造例1で製造した、2.22mol/Lの水酸化カルシウムのスラリー290mLを5分かけて注加し、水酸化マグネシウムのスラリーNo.5を得た。反応時のS/V比は0.14cm-1であった。水酸化マグネシウムのスラリーNo.5を減圧ろ過後、水酸化マグネシウムの20質量倍の脱イオン水で洗浄することで、水酸化マグネシウムのケーキを得た。水酸化マグネシウムのケーキを105℃で24時間乾燥させることにより、水酸化マグネシウムの粉末No.7を得た。水酸化マグネシウムの粉末No.7のFe及びCaCO3の含有率を表4に示し、Cl、Si、S、Al、Zn、Na及びNiの含有率を表5に示す。
【0083】
実施例3及び実施例4で得られた水酸化マグネシウムの粉末No.4及びNo.5は、比較例2で得られた水酸化マグネシウムの粉末No.6と比較して、CaCO3の量が低減されていることが分かる。これは、実施例3及び実施例4では、水酸化カルシウムの水溶液が二酸化炭素を吸収し、炭酸カルシウムが生成することが抑制されたことに起因すると思われる。
【0084】
実施例3で得られた水酸化マグネシウムの粉末No.4は、比較例3で得られた水酸化マグネシウムの粉末No.7と比較して、Si、Al及びZn、並びにClの量が低減されていることが分かる。Si、Al及びZnは、固液分離工程において固形の不純物として除去されたことに起因すると思われる。Clは、反応条件によるものと思われる。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】