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特開2025-97357鋼板圧延方法、鋼板圧延システム、反り推定装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097357
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】鋼板圧延方法、鋼板圧延システム、反り推定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/28 20060101AFI20250624BHJP
   B21B 38/02 20060101ALI20250624BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20250624BHJP
   B21B 39/14 20060101ALI20250624BHJP
   B21B 1/34 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
B21B37/28 140
B21B38/02
B21C51/00 L
B21B39/14 H
B21B1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213505
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】原 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕太
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 哲平
(72)【発明者】
【氏名】小林 明
【テーマコード(参考)】
4E002
4E124
【Fターム(参考)】
4E002AD01
4E002AD07
4E002BA03
4E002BB20
4E002CA07
4E124AA01
4E124AA19
4E124CC10
4E124EE02
4E124EE14
(57)【要約】
【課題】鋼板の反りを抑制することが可能な鋼板圧延方法を提供する。
【解決手段】鋼板圧延方法は、圧延機により圧延された鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を測定し、測定された端部の側面形状に基づいて、鋼板の反りを推定し、推定された鋼板の反りを抑制するように圧延条件を制御して、圧延機により鋼板を圧延する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機の上下一対のワークロールにより圧延された鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を測定し、
測定された前記端部の側面形状に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定し、
推定された前記反りを抑制するように圧延条件を制御して、前記圧延機により前記鋼板を圧延する、
鋼板圧延方法。
【請求項2】
前記圧延条件の制御は、前記圧延機の下ワークロールによる前記鋼板のピックアップ制御である、
請求項1に記載の鋼板圧延方法。
【請求項3】
前記反りの推定では、前記端部の側面形状、並びに前記鋼板が圧延されたときのピックアップシフト及び圧延形状比に基づいて、前記鋼板の反り方向及び反り量を推定する、
請求項1に記載の鋼板圧延方法。
【請求項4】
前記反りの推定では、前記鋼板の上下面温度差を前記反りの推定に用いない、
請求項3に記載の鋼板圧延方法。
【請求項5】
前記反りの推定では、前記端部の側面形状における上部と下部の形状差に基づいて、前記反りを推定する、
請求項1に記載の鋼板圧延方法。
【請求項6】
前記端部の側面形状は、形状計測装置により抽出される、
請求項1に記載の鋼板圧延方法。
【請求項7】
前記鋼板の反りは、前記側面形状に設定される、前記鋼板の上面を延長した延長線、前記端部の先端を通る板厚方向に延びた先端線、及び前記端部の前記先端より上部の輪郭線に囲まれる上部領域の面積と、前記鋼板の下面を延長した延長線、前記先端線、及び前記端部の前記先端より下部の輪郭線に囲まれる下部領域の面積との差又は比に基づいて推定される、
請求項6に記載の鋼板圧延方法。
【請求項8】
前記鋼板の反りは、前記上部領域の面積と前記下部領域の面積の差を前記鋼板の板厚に応じて正規化した指標に基づいて推定される、
請求項7に記載の鋼板圧延方法。
【請求項9】
前記鋼板の反りは、前記上部領域の面積と前記下部領域の面積の差を前記鋼板の板厚の二乗で除した指標に基づいて推定される、
請求項7に記載の鋼板圧延方法。
【請求項10】
鋼板を圧延する圧延機と、
前記圧延機により圧延された前記鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を測定する測定部と、
測定された前記端部の側面形状に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定する推定部と、
推定された前記反りを抑制するように圧延条件を制御して、前記圧延機に前記鋼板を圧延させる制御部と、
を備える、鋼板圧延システム。
【請求項11】
圧延機により圧延された鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を取得する取得部と、
測定された前記端部の側面形状における上部と下部の形状差に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定する推定部と、
を備える、反り推定装置。
【請求項12】
圧延機により圧延された鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を取得すること、
測定された前記端部の側面形状に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定すること、及び、
推定された前記反りを抑制するための圧延条件を算出すること、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板圧延方法、鋼板圧延システム、反り推定装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被圧延材を圧延ロールで圧延する際の形状比とピックアップ量の関係から、被圧延材の上反り量の発生を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-353511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では反りの予測精度が十分でなく、反りを十分に抑制することが困難である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、鋼板の反りを抑制することが可能な鋼板圧延方法、鋼板圧延システム、反り推定装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の態様1は、圧延機の上下一対のワークロールにより圧延された鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を測定し、測定された前記端部の側面形状に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定し、推定された前記反りを抑制するように圧延条件を制御して、前記圧延機により前記鋼板を圧延する、鋼板圧延方法である。これによれば、鋼板の反りを抑制することが可能となる。
【0007】
本発明の態様2は、上記態様1において、前記圧延条件の制御は、前記圧延機の下ワークロールによる前記鋼板のピックアップ制御であってもよい。これによれば、ピックアップ制御により鋼板の反りを抑制することが可能となる。
【0008】
本発明の態様3は、上記態様1または2において、前記反りの推定では、前記端部の側面形状、並びに前記鋼板が圧延されたときのピックアップシフト及び圧延形状比に基づいて、前記鋼板の反り方向及び反り量を推定してもよい。これによれば、鋼板の反りの推定精度を向上させることが可能となる。
【0009】
本発明の態様4は、上記態様3において、前記反りの推定では、前記鋼板の上下面温度差を前記反りの推定に用いなくてもよい。これによれば、鋼板の反りの推定を容易化することが可能となる。
【0010】
本発明の態様5は、上記態様1ないし4の何れかにおいて、前記反りの推定では、前記端部の側面形状における上部と下部の形状差に基づいて、前記反りを推定してもよい。これによれば、鋼板の反りの推定精度を向上させることが可能となる。
【0011】
本発明の態様6は、上記態様1ないし5の何れかにおいて、前記端部の側面形状は、形状計測装置により抽出されてもよい。これによれば、鋼板の側面形状を用いて鋼板の反りを推定することが可能となる。
【0012】
本発明の態様7は、上記態様6において、前記鋼板の反りは、前記側面形状に設定される、前記鋼板の上面を延長した延長線、前記端部の先端を通る板厚方向に延びた先端線、及び前記端部の前記先端より上部の輪郭線に囲まれる上部領域の面積と、前記鋼板の下面を延長した延長線、前記先端線、及び前記端部の前記先端より下部の輪郭線に囲まれる下部領域の面積との差又は比に基づいて推定されてもよい。これによれば、鋼板の反りの推定精度を向上させることが可能となる。
【0013】
本発明の態様8は、上記態様7において、前記鋼板の反りは、前記上部領域の面積と前記下部領域の面積の差を前記鋼板の板厚に応じて正規化した指標に基づいて推定されてもよい。これによれば、鋼板の板厚に関わらず、鋼板の反りの推定精度を向上させることが可能となる。
【0014】
本発明の態様9は、上記態様7または8において、前記鋼板の反りは、前記上部領域の面積と前記下部領域の面積の差を前記鋼板の板厚の二乗で除した指標に基づいて推定されてもよい。これによれば、鋼板の板厚に関わらず、鋼板の反りの推定精度を向上させることが可能となる。
【0015】
本発明の態様10は、鋼板を圧延する圧延機と、前記圧延機により圧延された前記鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を測定する測定部と、測定された前記端部の側面形状に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定する推定部と、推定された前記反りを抑制するように圧延条件を制御して、前記圧延機に前記鋼板を圧延させる制御部と、を備える、鋼板圧延システムである。これによれば、鋼板の反りを抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の態様11は、圧延機により圧延された鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を取得する取得部と、測定された前記端部の側面形状における上部と下部の形状差に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定する推定部と、を備える、反り推定装置である。これによれば、鋼板の反りの推定精度を向上させることが可能となる。
【0017】
本発明の態様12は、圧延機により圧延された鋼板の、圧延方向における端部の側面形状を取得すること、測定された前記端部の側面形状に基づいて、後の圧延で前記鋼板に生じる反りを推定すること、及び、推定された前記反りを抑制するための圧延条件を算出すること、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。これによれば、鋼板の反りの推定精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋼板の反りを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】鋼板圧延システムの例を示す図である。
図2】圧延機の要部を示す側面図である。
図3】圧延機の要部を示す平面図である。
図4】圧延機の要部を示す正面図である。
図5】ピックアップを説明するための図である。
図6】鋼板の反りを説明するための図である。
図7】圧延形状比を説明するための図である。
図8】鋼板の反りを説明するための図である。
図9】反り推定装置の例を示す図である。
図10】鋼板圧延方法の例を示す図である。
図11】撮像手段により生成される画像の例を示す図である。
図12】画像解析の例を示す図である。
図13】画像解析の例を示す術である。
図14】鋼板の反りを説明するための図である。
図15】従来技術の反りの予測例を示す図である。
図16】実施形態の反りの予測例を示す図である。
図17】ピックアップと反り高さの関係例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0021】
圧延プロセスにおける生産トラブルの1つに「反り」がある。反りが発生すると、反った鋼板が設備に衝突して設備故障及びライン停止等の操業トラブルになる他、反った鋼板を平坦に矯正するための精製工程(矯正、熱処理、プレス等)の追加によりコスト及び納期精度に悪影響を及ぼす。鋼板の反りは、圧延の上下非対称要因(上下変形抵抗差、摩擦差、ロール速度差、幾何学的非対称など)によって引き起こされることが知られている。
【0022】
以下に説明する本発明の実施形態では、鋼板の反りを予測して抑制すること、特に圧延最終パスでの下反りを防止すること、また、鋼板の反りを簡易に精度良く予測することを目的としている。
【0023】
図1は、鋼板圧延システム100の構成例を示す図である。図2図4は、圧延機1の要部を示す側面図、平面図、及び正面図である。図中の矢印Rは、圧延機1による鋼板Wの圧延方向を示している。鋼板圧延システム100は、圧延機1、カメラ71,72、反り推定装置8、及び制御部9を備えている。
【0024】
圧延機1は、鋼板Wを圧延するための上下一対のワークロール2,3と、鋼板Wを搬送するための搬送ロール4と、ワークロール2,3をそれぞれ支持するバックアップロール5,6とを備えている。圧延機1は、搬送ロール4により鋼板Wを往復させて、ワークロール2,3により鋼板Wを繰り返し圧延する。
【0025】
カメラ71は、形状計測装置の一実施態様であり、例えばカラーカメラ又はモノクロカメラ等の撮像手段が例示されるが、特に限定されない。このカメラ71は、搬送ラインの側方に配置されており、搬送ロール4により搬送される鋼板Wを側方から撮像して画像を生成し、反り推定装置8に出力する。側方とは、圧延方向Rと直交する鋼板Wの幅方向であって、ワークロール2,3及び搬送ロール4の軸方向と平行な方向である。カメラ71は、搬送ラインの両側に設けられてもよい。
【0026】
カメラ71は、搬送ロール4により搬送される鋼板Wの圧延方向Rにおける端部ewを撮像する。鋼板Wの端部ewを撮像するため、鋼板Wの端部ewの位置を把握する必要があるが、例えば、カメラ71とペアで設けられた不図示の放射温度計で搬送ラインの温度を計測し、計測される温度が所定以上となるタイミングでカメラ71の撮像をオンにすることで、鋼板Wの端部ewを撮像する。または、画像を一定の時間間隔で撮像し、操業データ又は画像処理により画像を分別し、鋼板の端部ewが画角に収まった画像のみを測定データとして使用してもよい。
【0027】
カメラ71は、ワークロール2,3から排出された直後の鋼板Wよりも、ワークロール2,3に向けて搬送される途中の鋼板Wを撮像することが好ましい。これは、ワークロール2,3から排出された直後の鋼板Wは、デスケーリングの水の影響で撮像が困難なためである。
【0028】
また、カメラ71は、鋼板Wの圧延方向Rの前後両方の端部ewを撮像する。例えば、1つのカメラ71で前後両方の端部ewを撮像してもよいし、2つのカメラ71を設けて前側の端部ewと後側の端部ewを個別に撮像してもよい。
【0029】
カメラ72は、搬送ラインの斜め上方に位置しており、搬送ロール4により搬送される鋼板Wを斜め上方から撮像して画像を生成する。これに限らず、カメラ72も、カメラ71と同様に搬送ラインの側方に配置されてもよい。また、カメラ72は、搬送ラインの両側に設けられてもよい。
【0030】
カメラ72により生成される画像は、鋼板Wの反りを計測して予測モデルを生成するために用いられ、反り推定装置8による鋼板Wの反りの推定には用いられない。このため、カメラ72は、鋼板圧延システム100に含まれなくてもよい。
【0031】
また、カメラ72をステレオカメラとする又は投影光と組み合わせる等し、鋼板Wの3次元形状を測定して反り高さを求めてもよい。他にも、レーザ距離計又はマイクロ波等を用いて鋼板Wの上面を測定することで反り高さを求めてもよい。また、振り子を圧延機1の出側に設置し、鋼板Wと接触する振り子の回転角度から反り高さを求めてもよい。反り高さは、円近似や二次式近似による反り曲率として定量化してもよい。また、反りの種類によって反り高さの定量化手段を変更してもよい。
【0032】
反り推定装置8は、カメラ71により生成された画像から鋼板Wの端部ewの側面形状を取得し、これに基づいて後の圧延で鋼板Wに生じる反りを推定し、推定された反りを抑制するための圧延条件を算出する。反り推定装置8の構成及び動作の詳細については、後述する。
【0033】
制御部9は、反り推定装置8の算出結果に基づき、推定された反りを抑制するように圧延条件を制御して、圧延機1に鋼板Wを圧延させる。
【0034】
本実施形態では、圧延条件の制御は、圧延機1の下ワークロール3による鋼板Wのピックアップ制御である。反り推定装置8は、推定された反りを抑制するためのピックアップ制御量を算出し、制御部9は、算出結果に応じて油圧式の駆動部91を駆動して下ワークロール3の高さを調整する。
【0035】
図5を参照して、下ワークロール3による鋼板Wのピックアップについて説明する。入側の搬送ロール4の天面と下ワークロール3の天面との高さの差PUは、一般に「ピックアップ量」と呼ばれる。
【0036】
また、鋼板Wのうち、入側の搬送ロール4に搬送される搬送部分の上下面の中間線m4と、上下ワークロール2,3に挟み込まれたバイト部分の上下面の中間線m3との高さの差PSは「ピックアップシフト」と呼ばれる。
【0037】
ピックアップシフトPSがゼロであるとき、鋼板Wは、ワークロール2,3のギャップに水平に入射される。このときの鋼板Wの入射角をゼロとする。
【0038】
図5に示すように、搬送部分の中間線m4がバイト部分の中間線m3よりも下方にあるとき、鋼板Wは、ワークロール2,3のギャップに下側から斜め上方向に入射される。このときのピックアップシフトPSと入射角を正とする。
【0039】
一方、搬送部分の中間線m4がバイト部分の中間線m3よりも上方にあるとき、鋼板Wは、ワークロール2,3のギャップに上側から斜め下方向に入射される。このときのピックアップシフトPSと入射角を負とする。
【0040】
圧延において、ピックアップシフトPSがゼロ、すなわち入射角がゼロでないと、上面側と下面側に伸び差が生じ、鋼板Wに反りが発生する。また、反り方向は、圧延形状比に応じて変化することが知られている。
【0041】
例えば図6に示すように、鋼板Wがワークロール2,3のギャップに下側から斜め上方向に入射し、且つ圧延形状比が比較的小さい場合には、圧延された鋼板Wには下反りが発生する。鋼板Wに下反りが発生すると、鋼板Wが出側の搬送ロール4等の設備と衝突するおそれがある。
【0042】
圧延形状比mは、下記数式1で表される。図7に示すように、Lは、鋼板Wがワークロール2,3に接触する接触長さである。hは、鋼板Wの平均板厚である。平均板厚hは、下記数式2で表される。hは圧延前の板厚であり、hは圧延後の板厚である。接触長さLは、下記数式3で表される。Rはロール半径である。ΔHは、下記数式4で表される。
【0043】
【数1】
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
【数4】
【0047】
また、図8に示すように、ピックアップシフトが0であっても、鋼板Wの上下面に温度差がある場合には、鋼板Wに反りが発生する。例えば、鋼板Wの下面側が比較的高温、上面側が比較的低温である場合には、鋼板Wの下面側が上面側よりも伸びるため、圧延された鋼板Wには上反りが発生する。
【0048】
なお、本実施形態では、鋼板Wの反りを抑制するためにピックアップ制御を行うが、鋼板Wの反りを抑制する手法はこれに限られず、例えばワークロール2,3の周速度差を制御してもよいし、鋼板Wの上下面温度差を制御してもよい。
【0049】
図9は、反り推定装置8の構成例を示すブロック図である。反り推定装置8は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、及び入出力インターフェース等を含むコンピュータである。CPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムに従って情報処理を実行する。
【0050】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して供給されてもよいし、例えばインターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0051】
反り推定装置8は、形状取得部11、反り推定部12、及び条件算出部13を備えている。これらの機能部は、CPUがプログラムに従って情報処理を実行することによって実現される。反り推定装置8がアクセス可能な記憶部19には、鋼板Wの反りを予測するための予測モデルが記憶されている。
【0052】
形状取得部11は、カメラ71により生成された画像から、鋼板Wの端部ewの側面形状を取得する。端部ewの側面形状は、端部ewを側方から見たときの端部ewの輪郭形状である。カメラ71と形状取得部11の組は、鋼板Wの端部ewの側面形状を測定する「測定部」に相当する。
【0053】
反り推定部12は、形状取得部11により取得された端部ewの側面形状に基づいて、後の圧延で鋼板Wに生じる反りを推定する。反り推定部12は、予め作成された予測モデルを用いて、鋼板Wの反りを推定する。予測モデルは、例えば回帰式である。
【0054】
条件算出部13は、反り推定部13により推定された反りを抑制するためのピックアップシフトを算出し、制御部9に出力する。制御部9は、条件算出部13により算出されたピックアップシフトを実現するように、圧延機1の下ワークロール3による鋼板Wのピックアップを制御する。
【0055】
図10は、鋼板圧延システム100において実現される鋼板圧延方法の手順例を示すフロー図である。鋼板圧延システム100に含まれる反り推定装置8は、プログラムに従って同図に示す情報処理を実行する。図11は、カメラ71により生成される画像MG1の例を示す図である。
【0056】
本実施形態の鋼板圧延方法は、例えば最終パスの前々パス後に実行される。すなわち、前々パス後の鋼板Wの端部ewの側面形状に基づいて最終パス後の鋼板Wの反りが推定され、推定された反りを抑制するための最終パス時のピックアップシフトが算出される。
【0057】
また、本実施形態では、鋼板Wの上下面温度差を用いず、鋼板Wの端部ewの側面形状における上部と下部の形状差に基づいて、鋼板Wの反りを推定する。すなわち、板厚全体に亘る上下面のメタルフローのバランスを代表する指標として、鋼板Wの端部ewの側面形状を計測し、反りの予測に活用した。
【0058】
板厚方向の温度プロフィールが上下で非対称である場合、先端形状も上下で非対称となる。例えば上面の温度が高い場合には圧延で上面側がより多く延伸されるため先端部で上面側が長くなり、逆に、下面の温度が高い場合には圧延で下面側がより多く延伸されるため先端部で下面側が長くなる。
【0059】
このため、鋼板Wの端部ewの側面形状を計測することで、板厚方向全体のメタルフローのバランスを推定することが可能である。
【0060】
図10に示すように、まず、反り推定装置8は、カメラ71により生成された画像MG1から鋼板Wの端部ewの側面形状を測定し、先端形状の代表値として「上下形状差指標」を算出する(S11~S16、形状取得部11としての処理)。
【0061】
具体的には、反り推定装置8は、カメラ71から画像MG1を取得する(S11)。カメラ71は、画像MG1に鋼板Wの側面のみを抽出できるように、鋼板Wを側方から撮像する。
【0062】
次に、反り推定装置8は、画像MG1から鋼板Wの端部ewの輪郭を抽出する(S12)。輪郭の抽出には、微分フィルタ等のルールベースの手法を用いてもよいし、機械学習による手法を用いてもよい。
【0063】
鋼板Wの輪郭のうち、上側の直線部分は上面psとして、下側の直線部分は下面dsとして抽出され、上面psと下面dsを繋ぐ部分は端部ewの輪郭として抽出される。鋼板Wに反りが発生していると、図11に示すように上面psと下面dsは傾斜している。
【0064】
次に、反り推定装置8は、鋼板Wの上面psと下面dsが水平となるように画像MG1を回転させる(S13、図12を参照)。また、反り推定装置8は、鋼板Wの上面psと下面dsの間の板厚を算出する(S14)。
【0065】
次に、反り推定装置8は、画像MG1内の鋼板Wの端部ewに矩形枠RCを設定する(S15、図13を参照)。
【0066】
図13に示すように、矩形枠RCは、端部ewの先端ffを通る板厚方向に延びた先端線ftと、上面psを延長した上側延長線ptと、下面dsを延長した下側延長線dtと、板厚方向に延びた後端線btとで構成される正方形である。
【0067】
上面psを延長した上側延長線pt、端部ewの先端ffを通る先端線ft、及び端部ewの先端ffより上部の輪郭線pcに囲まれる領域を「上部領域PA」とする。
【0068】
下面dsを延長した下側延長線dt、端部ewの先端ffを通る先端線ft、及び端部ewの先端ffより下部の輪郭線dcに囲まれる領域を「下部領域DA」とする。
【0069】
なお、上記S13では、鋼板Wの上面psと下面dsが水平となるように画像MG1を回転させたが、これに限らず、画像MG1を回転させずに、上面psと下面dsの傾きに合わせて矩形枠RCを傾けて設定してもよい。
【0070】
次に、反り推定装置8は、上下形状差指標を算出する(S16)。上下形状差指標は、上記S15で設定された矩形枠RCにおける上部領域PAの面積と下部領域DAの面積との差又は比に基づく指標である。
【0071】
上下形状差指標は、上記S15で設定された矩形枠RCにおける上部領域PAの面積と下部領域DAの面積との差を鋼板Wの板厚に応じて正規化した指標であることが好ましい。これにより、板厚の異なる相似形状の端部について同一の値が算出される。
【0072】
具体的には、下記数式5で示すように、上下形状差指標ΔSは、上部領域PAの面積と下部領域DAの面積との差を鋼板Wの板厚THの2乗で除した指標である。式中のPAとDAは、上部領域PAと下部領域DAの面積を表す。
【0073】
【数5】
【0074】
そして、反り推定装置8は、上下形状差指標ΔSに基づいて鋼板Wの反りを推定し(S17、反り推定部12としての処理)、推定された鋼板Wの反りを抑制するためのピックアップシフトを算出する(S18、条件算出部13としての処理)。
【0075】
反り推定装置8は、端部ewの側面形状を表す上下形状差指標ΔSに加えて、鋼板Wが圧延されたときのピックアップシフト及び圧延形状比にさらに基づいて、鋼板Wの反り方向及び反り量を推定する。
【0076】
具体的には、反り推定装置8は、下記数式6に示す回帰式を用いて、上下形状差指標ΔS、ピックアップシフトPS、及び圧延形状比Γに基づいて鋼板Wの反りρを算出する。a~aは、係数である。鋼板Wの反りρは、例えば図14に示すように、鋼板Wの平坦な上面から端部ewの最上点までの高さとして定義される。
【0077】
【数6】
【0078】
予測モデルを生成する際、すなわち回帰式の係数a~aを求める際には、上述のカメラ72(図1図4を参照)により生成された画像から計測される鋼板Wの反り高さρを用いて回帰分析が行われる。
【0079】
上述したように、本実施形態では、反りの推定に鋼板Wの上下面温度差を用いていない。すなわち、数式6に示す回帰式には、上下面温度差の項が含まれていない。
【0080】
上下面温度差を用いる場合、測温の外乱としてデスケーリング等の鋼板上に流れる水やライン上の蒸気等の外乱があるため、上下面ともに安定的な測温を行うのは困難である。加えて、上下面温度差を正確に測定できたとしても、放射温度計で測定できるのはあくまで表面温度のみであり、反りの予測には困難が伴う。
【0081】
反りに影響するのは板厚全体に亘るメタルフローのバランスであり、反りを予測する上では板厚全体に亘る温度分布を知る必要があるが、板厚が厚い場合やデスケーリングを使用して表面を急冷した場合には、測温時点では鋼板は復熱過程にあり、板厚方向の温度分布が短時間で大きく変化する他、表面温度と深部温度の差も顕著であるため、板厚全体のメタルフローのバランスを、測定された表面温度を用いて精度良く推定することは一般に困難である。
【0082】
このため、本実施形態では、反りの推定に鋼板Wの上下面温度差を用いず、端部ewの側面形状を表す上下形状差指標ΔSを用いることで、鋼板Wの反りを簡易に精度良く予測することを実現している。
【0083】
図15は、従来技術の上下面温度差に基づく反りの予測例を示す図である。図16は、本実施形態の上下形状差指標に基づく反りの予測例を示す図である。横軸は反り高さの予測値を表し、縦軸は反り高さの実績値を表している。
【0084】
反り高さが0より大きい場合は上反りを意味し、反り高さが0より小さい場合は下反りを意味する。閾値CLは、鋼板Wに下反りが発生したときに、鋼板Wの先端が搬送ロール4と接触して腰折れが発生することが予測される反り高さである。
【0085】
本実施形態における反り高さの予測には、上記数式6に示した上下形状差指標ΔSを含む回帰式が用いた。一方、従来技術における反り高さの予測には、数式6における上下形状差指標ΔSを上下面温度差ΔTに置き換えた回帰式を用いた。
【0086】
図15の上下面温度差に基づく反りの予測例(従来技術)を見ると、反り高さの実績値が閾値CLを下回るほどの、すなわち腰折れが発生し得るほどの大きな下反りが発生しているにも関わらず、反り高さの予測値はゼロ近傍と、下反りの程度を過小に予測している点が存在する。
【0087】
一方、図16の上下形状差指標に基づく反りの予測例(実施形態)を見ると、全体的な反り高さの予測精度は、図15の従来技術と同程度であるものの、鋼板Wに下反りが発生すると、鋼板Wが圧延機1の出側の搬送ロール4等の設備と衝突するおそれがあり、下反りを予測する重要性は極めて高く、この点において、閾値CLを下回る大きな下反りの発生を精度良く予測できており、技術的意義が大きいものである。
【0088】
以上の検討により、反りの推定に鋼板Wの上下面温度差を用いず、端部ewの側面形状を表す上下形状差指標ΔSを用いることで、顕著な下反りの発生を予測できることが実証できた。
【0089】
以下、反りを抑制するためのピックアップシフトの算出について説明する。図17は、ピックアップシフトと反り高さの関係例を示す図であり、ピックアップシフトに応じた反りの低減効果を評価した結果を示している。検証は、FEM(Finite Element Method)計算により行った。
【0090】
まず、先端形状の入力値を決定するために、先端が矩形の鋼板に対して所定の上下面温度差を付与して圧延の計算を行い、上下面温度差がある場合に発生する先端形状を計算した。次に、計算された先端形状を、同じ所定の上下面温度差を付与した反りのない鋼板の先端形状として改めて付与した上で圧延の計算を行い、圧延後の反りを評価した。
【0091】
図17には、圧延前の先端形状から回帰式で予測した反り高さと、FEMで計算した反り高さとを比較した結果を示している。上述の実機試験での実証例と同様に、FEM計算においても先端形状を用いることで上下面温度差を用いることなく、反りを予測できることが確認できる。
【0092】
次に、予測された反りに対してピックアップシフトの最適値を導出する方法について説明する。これは例えば、下反りの発生が予見される鋼板に対して、同じ反り予測の回帰式を用いてピックアップシフトのみを様々に変更した計算を行い、反り量が0となるピックアップシフトを求める等の手法で実現できる。
【0093】
本検討においては、下反りの発生が予見される上下面温度差が10℃の条件において、ピックアップシフトのみを様々に変更した計算を行い、反り量を線形回帰することでピックアップシフトと反り高さの関係式を求め、その関係式を用いて、反り量をゼロとするピックアップシフトを求めた。
【0094】
本手法の実施例として、反り高さがゼロとなると推定したピックアップシフトを与えたFEM計算により、反り高さが0近傍となることを確認した。
【0095】
以上に説明したとおり、本実施形態によれば、先端形状の測定結果から下反りを予測して、予測された下反りに対してピックアップシフトを適切に設定することで、下反りの発生を回避できることが確認できた。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が当業者にとって可能であることはもちろんである。
【0097】
上記実施形態では、上下面温度差ΔTを用いずに上下形状差指標ΔSを用いて反りを予測する例を説明したが、このことは上下面温度差ΔTの適用を排除するものではなく、上下形状差指標ΔSとともに上下面温度差ΔTが反りの予測に用いられてもよい。なお、上下面温度差ΔTは、不図示の放射温度計等により算出される。
【符号の説明】
【0098】
1 圧延機、2,3 ワークロール、4 搬送ロール、5,6 バックアップロール、71,72 カメラ、8 反り推定装置、9 制御部、91 駆動部、11 形状取得部、12 反り推定部、13 条件算出部、19 記憶部、W 鋼板、ew 端部

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