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特開2025-9751ベンゾトリアゾール系高分子体を含有するポリカーボネート樹脂組成物
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  • 特開-ベンゾトリアゾール系高分子体を含有するポリカーボネート樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009751
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ベンゾトリアゾール系高分子体を含有するポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20250109BHJP
   C08G 64/42 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08L69/00
C08G64/42
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005727
(22)【出願日】2024-01-17
(62)【分割の表示】P 2023110433の分割
【原出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】301000675
【氏名又は名称】シプロ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126549
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 信治
(72)【発明者】
【氏名】阪口 壽一
(72)【発明者】
【氏名】小原 真笑
(72)【発明者】
【氏名】橋本 保
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】上坂 敏之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002CG022
4J002FD052
4J002GA01
4J002GB00
4J002GC00
4J002GH01
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J029AA09
4J029AB07
4J029AD01
4J029AD10
4J029AE01
4J029BB13A
4J029JB192
4J029JC282
4J029JD01
4J029JD06
4J029KH01
4J029LA01
(57)【要約】
【課題】耐熱性を持ちながらポリカーボネート樹脂との相溶性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記のベンゾトリアゾール誘導体構造とビスフェノール誘導体構造とがカルボニル基を介して連結する化学構造を構成単位として一以上含むベンゾトリアゾール系高分子体とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造と下記の一般式(2)で表されるビスフェノール誘導体構造とが、カルボニル基を介して連結する化学構造を構成単位として一以上含むベンゾトリアゾール系高分子体をポリカーボネート樹脂に配合したことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
一般式(1)
【化2】
一般式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なベンゾトリアゾール系高分子体に関し、さらには前記ベンゾトリアゾール系高分子を用いた紫外線吸収剤、並びに前記ベンゾトリアゾール系高分子体を含有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性に優れた素材であり、自動車部材、建材、電子機器、医療器具、メガネレンズ、フィルム等、さまざまな分野で使用されている。ポリカーボネート樹脂は、自然光の紫外線の作用によって劣化を生じて、これらの性能低下や変色が起こることから、このような紫外線による劣化を防ぐため、従来より各種の紫外線吸収剤が樹脂の加工工程中に添加され、使用されている。ポリカーボネート樹脂に使用される紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系またはトリアジン系の各種有機化合物が知られている。
【0003】
しかし、ポリカーボネート樹脂に一般的に使用されている紫外線吸収剤は、樹脂加工時の高温状態でそれ自身の揮散や分解が起こることから、樹脂加工時における紫外線吸収剤の揮散による樹脂成型金型の汚染、紫外線吸収剤の熱分解による樹脂の着色等の問題がある。
【0004】
ポリカーボネート樹脂加工時のこれらの問題を解決するため、特許文献1および2では、2つのベンゾトリアゾール系化合物をメチレン基で連結して二量化することにより分子量を高めて、耐熱性を向上させた紫外線吸収剤が提案されている。しかしながら、二量化の影響により、これら紫外線吸収剤の吸収スペクトルが長波長化して可視光領域を吸収するために、これらをポリカーボネート樹脂に添加した場合、ポリカーボネート樹脂が黄色味を帯び、使用用途が制限される問題があった。
【0005】
また、特許文献3では、ベンゾトリアゾール系化合物に嵩高い置換基を付加することにより分子量を高めて、耐熱性を向上させた紫外線吸収剤が提案されている。しかしながら、本発明者が特許文献3に記載された紫外線吸収剤の耐熱性を評価したところ、一般的な紫外線吸収剤と比較して向上しているものの、十分な耐熱性を示すとは言えず、樹脂成型金型の汚染や熱分解による樹脂の着色等の問題があることがわかった。
【0006】
特許文献4および5では、(メタ)アクリロイル基を含有するベンゾトリアゾール誘導体と(メタ)アクリル酸エステルを共重合した高分子紫外線吸収剤が提案されており、紫外線吸収性の構造を高分子体の成分として組み込むことで、加工時の高温状態での紫外線吸収性成分の揮散および分解や、加工後の紫外線吸収性成分のブリードアウトを防ぐ提案がされている。
【0007】
これらに記載された高分子紫外線吸収剤には、コンタクトレンズ、フィルム、塗料等の用途が示されている。しかしながら、いずれの文献の高分子紫外線吸収剤においても単独で成型または成膜されていることから、他の樹脂との相溶性は不十分と考えられる。このため、ポリカーボネート樹脂にこれら高分子紫外線吸収剤を添加する方法で使用することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61-118373号
【特許文献2】特開昭61-118374号
【特許文献3】特開昭51―21587号
【特許文献4】特開昭60-38411号
【特許文献5】特開2012-25811号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況下、本発明における課題は、新規のベンゾトリアゾール系高分子体を合成することで、これを用いた耐熱性を持ちながらポリカーボネート樹脂との相溶性に優れた紫外線吸収剤を含むポリカーボネート樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物では、下記の一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造と下記の一般式(2)で表されるビスフェノール誘導体構造とが、カルボニル基を介して連結する化学構造を構成単位として一以上含むベンゾトリアゾール系高分子体をポリカーボネート樹脂に配合したことを最も主要な特徴とする。
【0011】
【化1】
一般式(1)
【0012】
【化2】
一般式(2)
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成するベンゾトリアゾール系高分子体は、高温状態においても揮散や分解が少なく、ポリカーボネート樹脂との相溶性が高いため、ブリードアウトが起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】高分子体(a)の1H-NMRスペクトルである。
図2】高分子体(a)の紫外~可視吸収スペクトルである。
図3】高分子体(b)の1H-NMRスペクトルである。
図4】高分子体(b)の紫外~可視吸収スペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(ベンゾトリアゾール系高分子体)
以下、本発明を詳細に説明する。発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成するベンゾトリアゾール系高分子体では、上記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造と上記一般式(2)で表されるビスフェノール誘導体構造とがカルボニル基を介して連結した化学構造を構成単位として一以上含む高分子体である。
【0016】
以下、本発明を構成するベンゾトリアゾール誘導体化合物である一般式(1)についてさらに詳しく説明する。
【0017】
【化1】
一般式(1)
【0018】
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体を構成する、上記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造は、下記〔化3〕で表される化合物(a);5-ヒドロキシ-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールから得られる。
【0019】
【化3】
化合物(a)
【0020】
化合物(a)を合成する方法に特に限定はなく、従来公知の反応原理を広く用いることができ、例えば、下記の化4~8に示した反応式を経て合成することができる。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0021】
以下、本発明を構成する一般式(2)で表されるビスフェノール誘導体構造についてさらに詳しく説明する。
【化2】
一般式(2)
【0022】
(合成方法1)
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体は、上記〔化3〕で表される化合物(a)と、〔化2〕で表されるビスフェノール誘導体構造の重合体であるポリカーボネートとを用いたエステル交換反応によって合成することができる。
【0023】
ポリカーボネートとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを用いた一般ポリカーボネートを挙げることができる。また2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとともに、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン等を用いた特殊ポリカーボネートを加えて2種類以上のビスフェノール誘導体化合物を使用したポリカーボネート共重合体とすることもできる。
【0024】
ポリカーボネートを用いたエステル交換反応による本発明のベンゾトリアゾール系高分子体の合成方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。
【0025】
ポリカーボネートを用いたエステル交換反応の際には、触媒として次に示すものを挙げることができる。塩酸、硫酸、臭化水素酸等の無機酸;トリフロロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、4-ジメチルアミノピリジン等の塩基類;三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド等のルイス酸等。これらの触媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。触媒の使用量としては、使用する化合物(a)1モルに対して0.001~1.0モルが好ましく、0.005~0.25モルがより好ましい。
【0026】
ポリカーボネートを用いたエステル交換反応の際には、無溶媒で反応を行ってもよいが、溶媒を使用して反応させてもよい。使用可能な溶媒として、例えば、次に示すものを挙げることができる。ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;アセトニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド等。これらの溶媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。
【0027】
ポリカーボネートを用いたエステル交換反応を無溶媒で行う場合の反応温度は、100~350℃の範囲が好ましく、150~300℃の範囲がより好ましい。また、反応温度や用いる原材料の種類等に応じて、減圧下で反応させてもよい。反応時間は、反応温度や用いる原材料の種類等に応じて、反応が完結するように、適宜設定すればよい。
【0028】
ポリカーボネートを用いたエステル交換反応を溶媒中で行う場合の反応温度は、室温~200℃の範囲が好ましく、100~200℃の範囲がより好ましい。また、反応温度や、用いる溶媒や原材料の種類等に応じて、減圧下で反応させてもよい。反応時間は、反応温度や、用いる溶媒や原材料の種類等に応じて、反応が完結するように、適宜設定すればよい。
【0029】
(合成方法2)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成するベンゾトリアゾール系高分子体の合成は、上記〔化3〕で表される化合物(a)、上記〔化2〕で表されるビスフェノール誘導体構造を持つ化合物、およびカルボニル基を有する化合物の重合反応によっても行うことができる。
【0030】
重合反応に用いる、〔化2〕で表わされるビスフェノール誘導体構造を持つ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを挙げることができる。また2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとともに、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン等を加えた2種類以上のビスフェノール誘導体化合物を使用してもよい。
【0031】
重合反応に用いるカルボニル基を有する化合物としては、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等のカーボネート類;ホスゲン、トリホスゲン等のホスゲン類を用いることができる。
【0032】
重合反応による本発明のベンゾトリアゾール系高分子体の合成方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のポリカーボネート類の合成方法を広く用いることができる。例えば、カーボネート類を用いたエステル交換による重合反応や、ホスゲン類を用いた重縮合反応が挙げられる。
【0033】
前記カーボネート類を用いたエステル交換による重合反応は、前記合成方法1で示したポリカーボネートを用いたエステル交換反応と同様の手段によって合成することができる。
【0034】
前記ホスゲン類を用いた重縮合反応では、具体的には、上記〔化3〕で表される化合物(a)、上記〔化2〕で表されるビスフェノール誘導体構造を持つ化合物、アルカリ水、および非水溶性有機溶剤の混合物に、ホスゲン類を反応させる方法を用いることができる。
【0035】
前記ホスゲン類を用いた重縮合反応で用いるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。
【0036】
前記ホスゲン類を用いた重縮合反応で用いる非水溶性有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、四塩化炭素等の塩素系有機溶媒が挙げられる。
【0037】
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体に含まれる上記の一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造が、0.1~50重量%の範囲で含まれていることが好ましく、さらには0.2~25重量%の範囲で含まれていることがいっそう好ましい。
【0038】
(その他の構成要素)
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体には、下記の一般式(3)で示されるベンゾトリアゾール誘導体構造を含んでもよい。
【0039】
【化9】
一般式(3)
【0040】
一般式(3)中、Rは水素原子;塩素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等の炭素数1~8の直鎖または分岐のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基等の炭素数1~8の直鎖または分岐のアルコキシ基等が挙げられる。
【0041】
上記一般式(3)を含むベンゾトリアゾール系高分子体を合成する際には、フェニル基の4位にヒドロキシ基を有するベンゾトリアゾール誘導体化合物を用いて反応を行う。フェニル基の4位にヒドロキシ基を有するベンゾトリアゾール誘導体化合物としては、例えば、次に示すものを挙げることができる。2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、5-クロロ-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-メチル-2H-ベンゾトリアゾール、5-エチル-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-オクチル-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール、5-エトキシ-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-オクチルオキシ-2H-ベンゾトリアゾール等。これらのフェニル基の4位にヒドロキシ基を有するベンゾトリアゾール誘導体化合物は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。
【0042】
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体に上記の一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造を含む場合は、0.1~10重量%の範囲で含まれていることが好ましく、さらには0.2~5重量%の範囲で含まれていることがいっそう好ましい。
【0043】
(ポリカーボネート樹脂組成物)
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体を添加可能なポリカーボネート樹脂素材としては、例えば、次に示すものを挙げることができる。2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを用いた一般ポリカーボネート;2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン等を用いた特殊ポリカーボネート;前記ビスフェノール誘導体化合物を2種類以上使用したポリカーボネート共重合体等。
【0044】
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体をポリカーボネート樹脂素材に添加する場合、紫外線吸収剤として前記ベンゾトリアゾール系高分子体のみでも使用できるが、前記ベンゾトリアゾール系高分子体と他の紫外線吸収剤を組み合わせて使用することもできる。前記ベンゾトリアゾール系高分子体以外の紫外線吸収剤としては、一般に市場で入手できるもので紫外領域を吸収できるものであれば特に限定されない。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系またはトリアジン系の化合物等が用いられる。これらの紫外線吸収剤は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0045】
本発明のベンゾトリアゾール系高分子体をポリカーボネート樹脂素材に添加する場合、本発明のベンゾトリアゾール系高分子体に含まれる上記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造が、ポリカーボネート樹脂組成物に対して0.01~20重量%の範囲で含まれていることが好ましく、さらには0.1~5重量%の範囲で含まれていることがいっそう好ましい。
【実施例0046】
以下に本発明を実施例により詳述するが、本発明はこれらの様態のみに限定されるものではない。
(中間体合成例1)
[化合物(a);5-ヒドロキシ-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールの合成]
【化3】
化合物(a)
【0047】
2000mlの4つ口フラスコに玉付きコンデンサー、温度計、撹拌装置を取り付け、4-メトキシ-2-ニトロアニリン200g(1.189モル)、水550ml、62.5%硫酸329g(2.097モル)を入れて混合し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液236g(1.231モル)を5~11℃で滴下し、同温度で2時間撹拌してジアゾニウム塩水溶液を得た。5000mlの4つ口フラスコに玉付きコンデンサー、温度計、撹拌装置を取り付け、レゾルシノール137.8g(1.251モル)、イソプロピルアルコール1800ml、水760mlを入れて溶解し、ジアゾニウム塩水溶液を5~10℃で滴下し、同温度で15時間撹拌した。32%水酸化ナトリウム水溶液396gを加えてpH4に調整し、60℃で静置して下層の水層を分液により除去し、4-(4-メトキシ-2-ニトロフェニルアゾ)レゾルシノールのスラリー液を得た。続いて、32%水酸化ナトリウム水溶液350g(2.800モル)、ハイドロキノン1.78g(0.0162モル)を加えて、45~50℃で60%ヒドラジン一水和物71.1g(0.852モル)を30分かけて滴下し、40~50℃で3時間撹拌した。62.5%硫酸245gを加えてpH6に調整し、水500mlを加えて60℃で静置して下層の水層を分液により除去し、イソプロピルアルコール100ml、水100mlを加えて、20℃に冷却して析出している結晶をろ過し、イソプロピルアルコール200ml、水300mlで洗浄を行い、乾燥して、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール N-オキシドを312.7g得た。
【0048】
2000mlの4つ口フラスコに玉付きコンデンサー、温度計、撹拌装置を取り付け、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール N-オキシドを281.5g(1.030モル)、メチルイソブチルケトン740ml、水360ml、亜鉛末91.6g(1.400モル)を加えて、62.5%硫酸250.7g(1.598モル)を40℃で滴下し、73~90℃で4時間撹拌を行った。その後静置して下層の水層を分液して除去し、水130mlを加えて70℃で静置して下層の水層を分液により除去する工程を2回繰り返し行い、減圧で溶媒を回収した後にトルエン350mlを加え、生成した沈殿物を7℃でろ過し、トルエン120mlで洗浄を行い、乾燥して、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾールを193.6g得た。
【0049】
2000mlの4つ口フラスコに玉付きコンデンサー、温度計、撹拌装置を取り付け、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール190.0g(0.739モル)、酢酸1000ml、水97ml、95%硫酸119.7g(0.763モル)を加えて、105~110℃で28時間撹拌した。その後10℃まで冷却し、析出した結晶をろ過し、水400mlで洗浄を行い、乾燥して、化合物(a)の粗結晶を162.3g得た。化合物(a)の粗結晶140.0g(0.576モル)をメチルイソブチルケトンで再結晶して、化合物(a)を126.2g(0.519モル)得た。収率60%(4-メトキシ-2-ニトロアニリンから)であった。融点261℃。
【0050】
また、HPLC分析により、化合物(a)の純度を測定した。
<測定条件>
装置:Chromaster - 5110((株)日立ハイテクノロジーズ製)
カラム:SUMIPAX ODS A-212 6×150mm 5μm
カラム温度:40℃
移動相:メタノール/水=95/5(リン酸3ml/L)
流速:1.0ml/min
<測定結果>
HPLC面百純度:99.0%
【0051】
また、化合物(a)の紫外~可視吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長λmaxは350nmであり、この時のモル吸光係数εは23500であった。スペクトルの測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:UV-1850((株)島津製作所製)
測定波長:250~450nm
溶媒:メタノール
濃度:10ppm
セル:1cm石英
【0052】
また、化合物(a)のNMR解析を行った結果、上記構造を支持する結果が得られた。測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:ECX―500II(日本電子(株)製)
共鳴周波数:500MHz(1H-NMR)
溶媒:ジメチルスルホキシド―d6
1H-NMRの内部標準物質として、テトラメチルシランを用い、ケミカルシフト値はδ(ppm)、カップリング定数はHertzで示した。またsはsinglet、dはdoubletの略とする。得られた1H-NMRスペクトルの内容は以下のとおりである。
δ=10.5(s,1H,OH),10.0(s,1H,OH),9.95(s,1H,OH),7.82(d,1H,J=9.0Hz,benzotriazole-H),7.61(d,1H,J=9.0Hz,benzotriazole-H),7.08(d,1H,J=10.0Hz,resorcinol-H),7.06(s,1H,benzotriazole-H),6.50(s,1H,resorcinol-H),6.41(d,1H,J=9.5Hz,resorcinol-H)
【0053】
(実施例1)
[高分子体(a);化合物(a)と一般ポリカーボネートのエステル交換反応による高分子体]
【化10】
高分子体(a)
【0054】
200mlのナスフラスコに、ポリカーボネート(FORMOSA IDEMITSU PETROCHEMICAL CORPORATION製TARFLON IR2200)4.99g(19.6ミリモル/繰り返し単位換算)、化合物(a)1.91g(7.86ミリモル)、4-アミノジメチルピリジン0.0165g(0.14ミリモル)を加えて、リービッヒコンデンサーを取り付け、0.4~1.0torrの減圧下、210~280℃で4時間撹拌した。室温まで冷却してクロロホルム50mlを加えてろ過し、高分子体(a)のクロロホルム溶液を得た。1000mlのビーカーに、撹拌子およびメタノール500mlを加え、上記クロロホルム溶液を滴下して再沈殿を行い、析出した結晶をろ過し、真空乾燥して、高分子体(a)6.25gを得た。
【0055】
また、高分子体(a)の分子量を測定した結果、重量平均分子量(Mw)は8560、数平均分子量(Mn)は2270、多分散度(Mw/Mn)は3.77であった。測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:LC-10AD((株)島津製作所製)
溶離液:クロロホルム
カラム:Shodex K-807L、Shodex K805L、Shodex K-804L(昭和電工(株)製)
【0056】
また、高分子体(a)のNMR解析を行った結果、上記構造を支持する結果が得られた。スペクトルを図1に示す。測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:ECX-500II(日本電子(株)製)
共鳴周波数:500MHz(1H-NMR)
溶媒:クロロホルム-d
なお、以下の高分子体(b)も高分子体(a)と同様の測定条件で1H-NMRスペクトルを測定した。
【0057】
高分子体(a)に含まれる化合物(a)由来の紫外線吸収性成分の含有量を、紫外~可視吸収スペクトルの最大吸収波長における吸光度により測定した。測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:U-3900H((株)日立ハイテクノロジーズ製)
溶媒:テトラヒドロフラン(化合物(a))、クロロホルム(高分子体(a))
濃度:5ppm(化合物(a))、5ppm(高分子体(a))
セル:1cm石英
<測定結果>
含有量:16wt%
【0058】
また、高分子体(a)の最大吸収波長λmaxは339nmであった。スペクトルを図2に示す。スペクトルの測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:UV-1850((株)島津製作所製)
測定波長:250~450nm
溶媒:クロロホルム
紫外線吸収性成分濃度:10ppm
セル:1cm石英
なお、以下の高分子体(b)も高分子体(a)と同様の測定条件で紫外~可視吸収スペクトルを測定した。
【0059】
(参考例)
[高分子体(b);化合物(a)と2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンおよびジフェニルカーボネートとの共重合による高分子体]
【化11】
高分子体(b)
【0060】
200mlのナスフラスコに、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン3.08g(12.0ミリモル)、ジフェニルカーボネート2.70g(0.0126モル)、化合物(a)0.584g(2.40ミリモル)、4-アミノジメチルピリジン0.0730g(6.00ミリモル)を加えて、回転子を入れてリービッヒコンデンサーを取り付け、17~20torrの減圧下、210~270℃で3時間撹拌した。室温まで冷却してクロロホルム60mlを加えてろ過し、高分子体(b)のクロロホルム溶液を得た。500mlの4つ口フラスコに温度計、撹拌装置を取り付け、メタノール350mlを加え、上記クロロホルム溶液を30分かけて滴下して再沈殿を行い、析出した結晶を20℃でろ過し、メタノール40mlで洗浄を行い、乾燥して、高分子体(b)2.62gを得た。
【0061】
また、高分子体(b)の分子量を測定した結果、重量平均分子量(Mw)は10270、数平均分子量(Mn)は5800、多分散度(Mw/Mn)は1.77であった。測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:LC-20AD((株)島津製作所製)
溶離液:クロロホルム
カラム:Shodex KF-804L(昭和電工(株)製)
【0062】
また、高分子体(b)のNMR解析を行った結果、上記構造を支持する結果が得られた。スペクトルを図3に示す。
【0063】
また、高分子体(b)に含まれる化合物(a)由来の紫外線吸収性成分の含有量を、紫外~可視吸収スペクトルの最大吸収波長における吸光度により測定した。測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:UV-1850((株)島津製作所製)
測定波長:250~450nm
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:5ppm(化合物(a))、10ppm(高分子体(b))、
セル:1cm石英
<測定結果>
含有量:10wt%
【0064】
また、高分子体(b)の最大吸収波長λmaxは341nmであった。スペクトルを図4に示す。
【0065】
[耐熱性の測定]
実施例1と参考例で得られた高分子体(a)、(b)、および比較例として、従来のポリカーボネート対応の紫外線吸収剤である化合物(b); 2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、従来のポリカーボネート対応の高耐熱性紫外線吸収剤である化合物(c);2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノールの耐熱性を、示差熱熱重量同時測定装置を用いて測定した結果を、表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
[ポリカーボネート樹脂組成物の作製]
実施例1と参考例で得られた高分子体(a)、(b)、および比較例の化合物(b)、(c)を、各種ポリカーボネート樹脂素材およびジクロロメタンと表2で示す比率で混合し、紫外線吸収剤を含有したポリカーボネート樹脂組成物の溶液を得た。得られた紫外線吸収剤を含有したポリカーボネート樹脂組成物の溶液20mlを、直径12cmのシャーレに移し、25℃での常圧乾燥を48時間実施して溶媒を除去し、膜厚0.05mmの紫外線吸収性成分を1wt%含む、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。ポリカーボネート樹脂素材として、一般ポリカーボネート(a);FORMOSA IDEMITSU PETROCHEMICAL CORPORATION製TARFLON IR2200、特殊ポリカーボネート(a);2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを使用した重合体を用いた。
【0068】
【表2】
【0069】
[光沢度の測定]
上記で得られた紫外線吸収性成分を1wt%含んだポリカーボネート樹脂組成物表面の光沢度を、表3に示す。ポリカーボネート樹脂素材と紫外線吸収剤の相溶性が不十分な場合、紫外線吸収剤がポリカーボネート樹脂組成物表面にブリードアウトしてくることから、ポリカーボネート樹脂組成物表面にざらつきが出て、光沢度が低下する。よって光沢度は、ポリカーボネート樹脂素材と紫外線吸収剤の相溶性の指標となる。
【0070】
【表3】
【0071】
表1より、ベンゾトリアゾール系高分子体(a)、(b)は、ポリカーボネートに使用されている従来の紫外線吸収剤である化合物(b)、(c)と比較して、5%重量減少温度が高く、高温時の揮散や分解が起こりにくい高い耐熱性をもつことがわかる。また、表3より、高分子体(a)、(b)を含むポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネートに使用されている従来の紫外線吸収剤である化合物(b)、(c)を含むポリカーボネート樹脂組成物と比較して、優れた光沢度を示していることから、ポリカーボネート樹脂素材と相溶性が高く、ブリードアウトが起こりにくい性質をもつことがわかり、有用なポリカーボネート樹脂組成物であることがわかる。なお、耐熱性および光沢度の測定条件は、以下の通りである。
【0072】
<耐熱性測定条件>
装置:TG/DTA STA7200RV((株)日立ハイテクノロジーズ製)
測定温度:50~500℃
昇温速度:10℃/min
測定雰囲気:窒素
【0073】
<光沢度測定条件>
装置:UNI GLOSS60(コニカミノルタセンシング(株)製)
測定角度:60°
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成するベンゾトリアゾール系高分子体は、耐熱性が高いことから、加工工程における紫外線吸収性成分を含む高分子体の揮散や分解がなく、さらにポリカーボネート樹脂素材と前記高分子体との相溶性が高いことから、ブリードアウトが起こりにくく、ポリカーボネート樹脂向けの紫外線吸収剤として好適に利用できる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-10-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体構造と下記の一般式(2)で表されるビスフェノール誘導体構造とが、カルボニル基を介して連結する化学構造を構成単位として一以上含むベンゾトリアゾール系高分子体を他のポリカーボネート樹脂に配合したことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
一般式(1)
【化2】
一般式(2)