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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097622
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250624BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20250624BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20250624BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20250624BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20250624BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213913
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 鳴
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】細野 寛
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純也
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田代 貴文
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC14
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD17
3D232DE02
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC06
3D333CC38
3D333CE52
(57)【要約】
【課題】反力トルクの変化の大きさが過度に大きくことを抑制できるようにした操舵制御装置を提供する。
【解決手段】PUは、入力変数としての操舵角に応じて目標転舵相当角θp*0を設定する。PUは、目標転舵相当角θp*0が不連続的に変化する所定の条件をトリガとして、目標転舵相当角θp*0の前回値と今回値との差であるオフセット量を算出する。PUは、目標転舵相当角θp*からオフセット量に応じたオフセット補正量Δθpを減算することによって目標転舵相当角θp*を算出する。PUは、オフセット補正量Δθpの絶対値がゼロよりも大きい場合、ステアリングホイールの回転に抗する軸力Fを調整する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに反力を付与する反力モータと、転舵モータによって転舵輪を転舵させる転舵装置と、を備えるステアバイワイヤシステムに適用され、
目標転舵相当角設定処理、転舵操作処理、反力操作処理、および調整処理を実行するように構成され、
前記目標転舵相当角設定処理は、操舵要求に応じて目標転舵相当角を設定する処理であり、
前記目標転舵相当角は、前記転舵輪の転舵角を示す変数である転舵相当角の目標値であり、
前記転舵操作処理は、前記目標転舵相当角が制御量の目標値である制御の操作量に応じて前記転舵モータを操作する処理であり、
前記反力操作処理は、前記転舵装置の状態量に応じて前記反力モータのトルクを制御する処理であり、
前記調整処理は、前記操舵要求に対する前記反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況下、前記反力モータのトルクを調整する処理である操舵制御装置。
【請求項2】
前記目標転舵相当角設定処理は、ベース値設定処理、オフセット量算出処理、オフセット補正処理、およびオフセットキャンセル処理を実行するように構成され、
前記ベース値設定処理は、操舵要求に応じて目標転舵相当角のベース値を設定する処理であり、
前記オフセット量算出処理は、所定の条件が成立することをトリガとして前記目標転舵相当角と実際の前記転舵相当角との差分相当量であるオフセット量を算出する処理であり、
前記オフセット補正処理は、前記オフセット量に応じたオフセット補正量によって前記目標転舵相当角と実際の前記転舵相当角との乖離を減少させるように前記目標転舵相当角を補正する処理であり、
前記オフセットキャンセル処理は、前記オフセット補正量の大きさを減少させる処理であり、
前記操舵要求に対する前記反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況は、前記オフセットキャンセル処理が実行される状況である請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記反力操作処理は、アシスト量設定処理、軸力設定処理、および目標反力設定処理を含んで且つ前記反力モータのトルクを目標反力トルクに応じて制御する処理であり、
前記軸力設定処理は、運転者によるステアリングシャフトの回転操作に抗する力である軸力を設定する処理であり、
前記アシスト量設定処理は、操舵トルクを入力としてアシスト量を設定する処理であり、
前記アシスト量は、運転者が前記ステアリングシャフトを回転させるのをアシストする量であり、
前記目標反力設定処理は、前記アシスト量を前記軸力から減算した値に応じて前記目標反力トルクを設定する処理であり、
前記調整処理は、前記軸力設定処理によって設定される軸力を調整する処理である請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記軸力設定処理は、入力変数としての前記転舵モータの電流に基づき電流軸力を設定する処理を含み、
前記軸力は、前記電流軸力を含み、
前記調整処理は、前記電流軸力を調整する処理を含む請求項3記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記調整処理は、入力変数としての前記オフセット量の減少速度に基づき前記反力モータのトルクを調整する処理を含む請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記調整処理は、入力変数としての前記オフセット量に基づき前記反力モータのトルクを調整する処理を含む請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記調整処理は、操舵角速度の大きさが大きい場合の前記オフセット補正量の減少速度の大きさが前記操舵角速度の大きさが小さい場合の前記オフセット補正量の大きさの減少速度以下である条件で、前記操舵角速度に応じて前記オフセット補正量の減少速度の大きさを調整することによって、前記反力モータのトルクの大きさを調整する処理を含む請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項8】
トルク規定処理を実行するように構成され、
前記トルク規定処理は、入力としての舵角変数の値に基づきステアリングシャフトに加わるべきトルクを規定する処理であり、
前記調整処理は、前記トルク規定処理によって規定されたトルクの変化に近づけるように前記反力モータのトルクの変化を調整する処理を含む請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項9】
所定成分反映処理を実行するように構成され、
前記所定成分反映処理は、入力としての前記転舵モータのトルク変数の値に応じて前記転舵輪に付与される周波数信号のうちの所定成分を前記反力モータのトルクに反映させる処理であり、
前記操舵要求に対する前記反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況は、前記所定成分が前記反力モータのトルクに反映されている状況を含み、
前記調整処理は、前記所定成分を前記反力モータのトルクに反映させる度合いを調整する処理を含む請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項10】
前記オフセットキャンセル処理は、前記目標転舵相当角設定処理によって設定される目標転舵相当角の変化速度に応じて前記オフセット補正量の減少速度を設定する処理を含み、
前記調整処理は、前記オフセット補正処理が実行されている場合、前記オフセットキャンセル処理の入力変数としての前記目標転舵相当角と操舵角との舵角比を変更することによって前記反力モータのトルクの大きさを調整する処理を含む請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項11】
前記反力操作処理は、アシスト量設定処理、軸力設定処理、および目標反力設定処理を含んで且つ前記反力モータのトルクを目標反力トルクに応じて制御する処理であり、
前記軸力設定処理は、運転者によるステアリングシャフトの回転操作に抗する力である軸力を設定する処理であり、
前記アシスト量設定処理は、操舵トルクを入力としてアシスト量を設定する処理であり、
前記アシスト量は、運転者が前記ステアリングシャフトを回転させるのをアシストする量であり、
前記目標反力設定処理は、前記アシスト量を前記軸力から減算した値に応じて前記目標反力トルクを設定する処理であり、
前記調整処理は、前記軸力設定処理によって設定される軸力の変化の大きさを小さい側に制限する処理を含む請求項1記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、ステアバイワイヤシステムにおける操舵制御装置が記載されている。この装置は、入力変数としての転舵輪の転舵角の目標値および転舵モータのトルクを示す電流値に基づき、ステアリングホイールの回転に抗する軸力を設定する処理を実行する。この装置は、制御の安定性を保つことができるように軸力の勾配を設定している。
【0003】
またたとえば下記特許文献2には、ステアバイワイヤシステムにおいて、所定の条件下、転舵輪の転舵角の目標値と転舵角との差に応じて目標値を補正した後、補正量をゼロに徐変する操舵制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-155295号公報
【特許文献2】特開2022-37765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように目標値を補正した後に補正量をゼロに徐変する処理を実行する場合には、同処理を実行しない場合と比較すると、転舵角の目標値の変化速度が大きくなる。そのため、徐変する処理を想定することなく軸力が設計されている場合、軸力の勾配が想定以上に大きくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.ステアリングホイールに反力を付与する反力モータと、転舵モータによって転舵輪を転舵させる転舵装置と、を備えるステアバイワイヤシステムに適用され、目標転舵相当角設定処理、転舵操作処理、反力操作処理、および調整処理を実行するように構成され、前記目標転舵相当角設定処理は、操舵要求に応じて目標転舵相当角を設定する処理であり、前記目標転舵相当角は、前記転舵輪の転舵角を示す変数である転舵相当角の目標値であり、前記転舵操作処理は、前記目標転舵相当角が制御量の目標値である制御の操作量に応じて前記転舵モータを操作する処理であり、前記反力操作処理は、前記転舵装置の状態量に応じて前記反力モータのトルクを制御する処理であり、前記調整処理は、前記操舵要求に対する前記反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況下、前記反力モータのトルクを調整する処理である操舵制御装置。
【0007】
上記構成では、反力操作処理の基本的な設定によって考慮されていない事情に起因して操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる場合、調整処理によって反力モータのトルクが調整される。そのため、反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなることを抑制できる。
【0008】
2.前記目標転舵相当角設定処理は、ベース値設定処理、オフセット量算出処理、オフセット補正処理、およびオフセットキャンセル処理を実行するように構成され、前記ベース値設定処理は、操舵要求に応じて目標転舵相当角のベース値を設定する処理であり、前記オフセット量算出処理は、所定の条件が成立することをトリガとして前記目標転舵相当角と実際の前記転舵相当角との差分相当量であるオフセット量を算出する処理であり、前記オフセット補正処理は、前記オフセット量に応じたオフセット補正量によって前記目標転舵相当角と実際の前記転舵相当角との乖離を減少させるように前記目標転舵相当角を補正する処理であり、前記オフセットキャンセル処理は、前記オフセット補正量の大きさを減少させる処理であり、前記操舵要求に対する前記反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況は、前記オフセットキャンセル処理が実行される状況である上記1記載の操舵制御装置。
【0009】
オフセットキャンセル処理が実行される場合には、実行されない場合と比較すると、目標転舵相当角の変化が大きくなる。そのため、オフセットキャンセル処理が実行される状況は、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況である。
【0010】
3.前記反力操作処理は、アシスト量設定処理、軸力設定処理、および目標反力設定処理を含んで且つ前記反力モータのトルクを前記目標反力トルクに応じて制御する処理であり、前記軸力設定処理は、運転者によるステアリングシャフトの回転操作に抗する力である軸力を設定する処理であり、前記アシスト量設定処理は、操舵トルクを入力としてアシスト量を設定する処理であり、前記アシスト量は、運転者が前記ステアリングシャフトを回転させるのをアシストする量であり、前記目標反力設定処理は、前記アシスト量を前記軸力から減算した値に応じて前記目標反力トルクを設定する処理であり、前記調整処理は、前記軸力設定処理によって設定される軸力を調整する処理である上記1または2記載の操舵制御装置。
【0011】
上記構成では、軸力を調整することによって、目標反力トルクの変化が過度に大きくなることを抑制できる。そのため、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなることを抑制できる。
【0012】
4.前記軸力設定処理は、入力変数としての前記転舵モータの電流に基づき電流軸力を設定する処理を含み、前記軸力は、前記電流軸力を含み、前記調整処理は、前記電流軸力を調整する処理を含む上記3記載の操舵制御装置。
【0013】
目標転舵相当角の変化が大きくなると、転舵モータのトルクの変化が大きくなる傾向がある。これは、転舵モータを流れる電流の変化が大きくなることから、電流軸力の変化が大きくなることを意味する。そのため、上記構成では、電流軸力を調整することにより、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなることを抑制できる。
【0014】
5.前記調整処理は、入力変数としての前記オフセット量の減少速度に基づき前記反力モータのトルクを調整する処理を含む上記2~4のいずれか1つ(上記2を含まないものを除く)に記載の操舵制御装置。
【0015】
オフセット量の減少速度が大きいほど、目標転舵相当角の変化が大きくなる。したがって、オフセット量の減少速度が大きいほど、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりやすい。そこで、上記構成では、オフセット量の減少速度に基づき反力モータのトルクを調整することにより、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなることを抑制できる。
【0016】
6.前記調整処理は、入力変数としての前記オフセット量に基づき前記反力モータのトルクを調整する処理を含む上記2~5のいずれか1つ(上記2を含まないものを除く)に記載の操舵制御装置。
【0017】
オフセット量の大きさが大きいほど、目標転舵相当角の変化が大きくなりやすい状況が顕在化しやすい。したがって、オフセット量の大きさが大きいほど、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなる状況が顕在化しやすい。そこで、上記構成では、オフセット量に基づき反力モータのトルクを調整することにより、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなる状況が顕在化することを抑制できる。
【0018】
7.前記調整処理は、操舵角速度の大きさが大きい場合の前記オフセット補正量の減少速度の大きさが前記操舵角速度の大きさが小さい場合の前記オフセット補正量の大きさの減少速度以下である条件で、前記操舵角速度に応じて前記オフセット補正量の減少速度の大きさを調整することによって、前記反力モータのトルクの大きさを調整する処理を含む上記2~6のいずれか1つ(上記2を含まないものを除く)に記載の操舵制御装置。
【0019】
操舵角速度の大きさが大きいほど、目標転舵角速度の大きさが大きくなる傾向がある。そして、目標転舵角速度の大きさが大きい場合には、操舵要求に対する反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりやすい。そこで、上記構成では、操舵角速度の大きさに対するオフセット量の減少速度の大きさに負の相関を付与する。これにより、目標転舵相当角の変化が過度に大きくなることを抑制できる。
【0020】
8.トルク規定処理を実行するように構成され、前記トルク規定処理は、入力としての舵角変数の値に基づきステアリングシャフトに加わるべきトルクを規定する処理であり、前記調整処理は、前記トルク規定処理によって規定されたトルクに近づけるように前記反力モータのトルクの大きさを調整する処理を含む上記1~7のいずれか1つに記載の操舵制御装置。
【0021】
ステアリングシャフトと転舵輪との動力伝達が可能な装置においては、操舵角等の舵角に応じて、ステアリングシャフトに加わるトルクが概ね定まる。そこで、上記構成では、舵角変数の値に応じてステアリングシャフトに加わるべきトルクを設定する。そして、このトルクの変化に近づけるように反力モータのトルクの変化の大きさを調整することにより、反力モータのトルクの変化を規定トルク設定処理によって定まるトルクの変化によって規制することができる。
【0022】
9.所定成分反映処理を実行するように構成され、前記所定成分反映処理は、入力としての前記転舵モータのトルク変数の値に応じて前記転舵輪に付与される周波数信号のうちの所定成分を前記反力モータのトルクに反映させる処理であり、前記操舵要求に対する前記反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況は、前記所定成分が前記反力モータのトルクに反映されている状況を含み、前記調整処理は、前記所定成分を前記反力モータのトルクに反映させる度合いを調整する処理を含む上記1~8のいずれか1つに記載の操舵制御装置。
【0023】
反力モータのトルクに所定成分が反映される場合、反力モータのトルクの変化が所定成分によって変動する。そこで上記構成では、所定成分が反力モータのトルクに反映される度合いを調整することによって、反力モータのトルクの変化が過度に大きくなることを抑制できる。
【0024】
10.前記オフセットキャンセル処理は、前記目標転舵相当角設定処理によって設定される目標転舵相当角の変化速度に応じて前記オフセット補正量の減少速度を設定する処理を含み、前記調整処理は、前記オフセット補正処理が実行されている場合、前記オフセットキャンセル処理の入力変数としての前記目標転舵相当角と操舵角との舵角比を変更することによって前記反力モータのトルクの大きさを調整する処理を含む上記2~9のいずれか1つ(上記2を含まないものを除く)に記載の操舵制御装置。
【0025】
上記構成では、目標転舵相当角設定処理によって設定される目標転舵相当角の変化速度に応じてオフセット補正量の大きさの減少速度が定まる。一方、目標転舵相当角の変化速度は、舵角比に応じて変化する。そのため、上記構成では、舵角比を変更することによって、オフセット補正量の大きさの減少速度を調整できる。そしてこれにより、転舵操作処理の入力変数としての目標転舵相当角の変化を調整できる。
【0026】
11.前記反力操作処理は、アシスト量設定処理、軸力設定処理、および目標反力設定処理を含んで且つ前記反力モータのトルクを目標反力トルクに応じて制御する処理であり、前記軸力設定処理は、運転者によるステアリングシャフトの回転操作に抗する力である軸力を設定する処理であり、前記アシスト量設定処理は、操舵トルクを入力としてアシスト量を設定する処理であり、前記アシスト量は、運転者が前記ステアリングシャフトを回転させるのをアシストする量であり、前記目標反力設定処理は、前記アシスト量を前記軸力から減算した値に応じて前記目標反力トルクを設定する処理であり、前記調整処理は、前記軸力設定処理によって設定される軸力の変化の大きさを小さい側に制限する処理を含む上記1~10のいずれか1つに記載の操舵制御装置。
【0027】
上記構成では、軸力の変化の大きさを制限することによって、反力モータのトルクの変化の大きさが過度に大きくことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1の実施形態にかかる車両の構成を示す図である。
図2図1に示す操舵制御装置が実行する処理の一部を示すブロック図である。
図3図2に示す処理の一部の詳細を示すブロック図である。
図4図2に示す処理の一部の詳細を示すブロック図である。
図5図2に示す処理の一部の詳細な手順を示す流れ図である。
図6図2に示す処理の一部の詳細な手順を示す流れ図である。
図7】第1の実施形態の作用を示すタイムチャートである。
図8】第2の実施形態にかかる操舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図9】第3の実施形態にかかる操舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図10】第4の実施形態にかかる操舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図11】第5の実施形態にかかる操舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図12】第6の実施形態にかかる操舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図13】第7の実施形態にかかる操舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図14】第8の実施形態にかかる操舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1の実施形態>
以下、操舵制御装置にかかる第1の実施形態を図面に従って説明する。
「前提構成」
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置10は、反力アクチュエータArと、転舵アクチュエータAtとを備えている。本実施形態の操舵装置10は、ステアリングホイール12と、転舵輪44との間の動力伝達路が機械的に遮断された構造を有している。
【0030】
ステアリングホイール12には、ステアリングシャフト14が連結されている。反力アクチュエータArは、ステアリングホイール12に操舵反力を付与するためのアクチュエータである。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール12の操作方向とは反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール12に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。反力アクチュエータArは、減速機構16、反力モータ20、および反力用インバータ22を備えている。
【0031】
反力モータ20は、一例として、3相のブラシレスモータである。反力モータ20の回転軸は、減速機構16を介して、ステアリングシャフト14に連結されている。一方、転舵シャフト40は、図1中の左右方向である車幅方向に沿って延びる。転舵シャフト40の両端には、それぞれタイロッド42を介して左右の転舵輪44が連結されている。転舵シャフト40が直線運動することにより、転舵輪44の転舵角が変更される。
【0032】
転舵アクチュエータAtは、減速機構56、転舵モータ60、および転舵用インバータ62を備えている。転舵モータ60は、一例として、3相の表面磁石同期電動機である。転舵モータ60の回転軸は、減速機構56を介してピニオンシャフト52に連結されている。ピニオンシャフト52のピニオン歯は、転舵シャフト40のラック歯54に噛み合わされている。ラック歯54が設けられた転舵シャフト40とピニオンシャフト52とによって、ラックアンドピニオン機構50が構成されている。転舵モータ60のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト52を介して転舵シャフト40に付与される。転舵モータ60の回転に応じて、転舵シャフト40は図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0033】
操舵制御装置70は、PU72および記憶装置74を備えている。PU72は、CPU、およびGPU等のソフトウェア処理装置である。操舵制御装置70は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72が実行することにより制御量を制御する。
【0034】
操舵制御装置70は、ステアリングホイール12を制御対象とする。操舵制御装置70は、制御対象の制御量としての操舵反力を制御すべく、反力アクチュエータArを操作する。図1には、反力用インバータ22への操作信号MSsを記載している。また、操舵制御装置70は、転舵輪44を制御対象とする。操舵制御装置70は、制御対象の制御量としての転舵輪44の転舵角を制御すべく、転舵アクチュエータAtを操作する。図1には、転舵用インバータ62への操作信号MStを記載している。
【0035】
操舵制御装置70は、制御量を制御すべく、トルクセンサ80によって検出される、ステアリングシャフト14への入力トルクである操舵トルクThを参照する。また、操舵制御装置70は、回転角センサ82によって検出される反力モータ20の回転軸の回転角θaを参照する。また、操舵制御装置70は、反力モータ20に流れる電流iu1,iv1,iw1を参照する。電流iu1,iv1,iw1は、反力用インバータ22の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。操舵制御装置70は、制御量を制御すべく、回転角センサ84によって検出される転舵モータ60の回転軸の回転角θbを参照する。また、操舵制御装置70は、転舵モータ60に流れる電流iu2,iv2,iw2を参照する。電流iu2,iv2,iw2は、転舵用インバータ62の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。また、操舵制御装置70は、車速センサ92によって検出される車速Vを参照する。
【0036】
「制御」
図2に、操舵制御装置70によって実行される処理の一部を示す。
アシスト量設定処理M10は、入力変数としての操舵トルクThおよび車速Vに基づき、アシスト量Taを算出する処理である。アシスト量Taは、運転者の操舵方向と同一方向の量となっている。アシスト量Taの大きさは、運転者による操舵をアシストする力を大きくする場合に大きい値に設定される。
【0037】
図3に、アシスト量設定処理M10の詳細を示す。
基本アシスト量設定処理M40は、入力変数としての操舵トルクThおよび車速Vに基づき、基本アシスト量Tabを設定する処理である。基本アシスト量設定処理M40は、基本アシスト量Tabを、操舵トルクThと正の相関を有する値に設定する。この処理は、たとえば、記憶装置74にマップデータが予め記憶された状態において、PU52によって基本アシスト量Tabをマップ演算する処理であってもよい。マップデータは、操舵トルクThおよび車速Vが入力変数であって且つ、基本アシスト量Tabが出力変数であるデータである。
【0038】
なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値が演算結果である処理であればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値が演算結果である処理であればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の入力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値が演算結果である処理であってもよい。
【0039】
ロードインフォメーション処理M50は、路面から転舵輪44に加わる力である路面反力に関する情報を、ステアリングホイール12に重畳するための処理である。ロードインフォメーション処理M50は、バンドパスフィルタM52、フィルタ係数設定処理M54、およびゲイン乗算処理M56を含む。バンドパスフィルタM52には、q軸電流iqtが入力される。q軸電流iqtは、転舵モータ60のq軸電流である。q軸電流iqtは、PU72によって、入力変数としての電流iu2,iv2,iw2および回転角θbに基づき算出される。q軸電流iqtは、路面反力による転舵輪44の振動成分を含む変数としてバンドパスフィルタM52に入力される。バンドパスフィルタM52は、路面の凹凸に起因した振動周波数帯の信号を選択的に抽出する処理である。ゲイン乗算処理M56は、バンドパスフィルタM52の出力値に、ゲインGbを乗算した値を、路面情報トルクTiに代入する処理である。フィルタ係数設定処理M54は、車速Vに応じてバンドパスフィルタM52のフィルタ係数τiを設定する処理である。フィルタ係数τiは、バンドパスフィルタM52が透過させる周波数帯を規定するための変数、または減衰のさせ方を規定するための変数である。ここで、透過させる周波数帯を規定する変数は、たとえば中心周波数を規定する変数であってもよい。また、減衰のさせ方を規定する変数は、たとえば減衰係数であってもよい。ここでは、フィルタ係数τiを1つの変数として記載しているが、実際には複数であってもよい。
【0040】
合成処理M60は、基本アシスト量Tabから、路面情報トルクTiを減算する処理である。こうして算出された値が、アシスト量Taである。
図2に戻り、操舵角算出処理M12は、入力変数としての回転角θaに基づき、ステアリングホイール12の回転角である操舵角θhを算出する処理である。操舵角算出処理M12は、回転角θaを、たとえば、車両が直進しているときのステアリングホイール12の位置であるステアリング中立位置からの反力モータ20の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。操舵角算出処理M12は、換算して得られた積算角に減速機構16の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θhを演算する処理を含む。なお、操舵角θhは、一例として、ステアリング中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負に設定される。
【0041】
軸力設定処理M14は、入力変数としての車速V、転舵モータ60のq軸電流iqt、および操舵角θhに基づき、軸力Fを設定する処理である。軸力Fは、転舵輪44を通じて転舵シャフト40に作用する力を制御によって表現する値である。ただし、軸力Fは、転舵シャフト40に作用する力を高精度に推定することを意図している必要はない。軸力Fは、たとえば転舵シャフト40に作用する力を仮想的に定めたものであってもよい。軸力Fは、ステアリングシャフト14に加わるトルクに換算されている。すなわち、転舵輪44とステアリングシャフト14との動力伝達が可能な状態と仮定した場合にステアリングシャフト14に加わるトルクに換算されている。
【0042】
図4に、軸力設定処理M14の詳細を示す。
角度軸力設定処理M70は、入力変数としての操舵角θhおよび車速Vに基づき、角度軸力Faを算出する処理である。角度軸力Faは、任意に設定する車両のモデル等により規定される軸力の推定値である。角度軸力Faは、路面情報が反映されない軸力として算出される。路面情報とは、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の情報である。角度軸力設定処理M70は、一例として、操舵角θhの絶対値が大きい場合の角度軸力Faの絶対値が操舵角θhの絶対値が小さい場合の角度軸力Faの絶対値以上となる条件で、操舵角θhに応じて角度軸力Faを変更する処理である。また、角度軸力設定処理M70は、一例として、車速Vが大きい場合の角度軸力Faの絶対値が車速Vが小さい場合の角度軸力Faの絶対値以上となる条件で、車速Vに応じて角度軸力Faを変更する処理であってもよい。
【0043】
なお、「Aが大きい場合のBをAが小さい場合のB以上にする条件でAに応じてBを変更する」との記載等において、Aが大きい場合とAが小さい場合とは、両者を比較した場合の相対的な大小関係を意味する。たとえば、「Aが大きい場合」は、「Aが第1の値」である場合に対応し、「Aが小さい場合」は、「Aが第1の値よりも小さい第2の値である場合」に対応する。そして、上記記載によれば、第1の値と第2の値との設定によっては、Aが第1の値である場合のBが、Aが第2の値である場合のBよりも大きくなることがあることを意味する。また、上記記載は、Bが大きい場合のAが、Bが小さい場合のAよりも大きくなるように、Aに応じてBを変更することを意味する。
【0044】
詳しくは、角度軸力設定処理M70は、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によって角度軸力Faをマップ演算する処理である。マップデータは、目標転舵相当角θp*および車速Vが入力変数であって且つ、角度軸力Faが出力変数であるデータである。
【0045】
電流軸力設定処理M72は、転舵モータ60のq軸電流iqtとして、電流軸力Fiを算出する処理である。電流軸力Fiは、転舵輪44を転舵させるべく動作する転舵シャフト40に実際に作用する軸力、すなわち転舵シャフト40に実際に伝達される軸力の推定値である。電流軸力Fiは、上記路面情報が反映される軸力として算出される。例えば、電流軸力設定処理M72は、転舵モータ60によって転舵シャフト40に加えられるトルクと、転舵輪44を通じて転舵シャフト40に加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、電流軸力Fiを算出する処理である。
【0046】
配分比算出処理M74は、入力変数としての車速Vおよび操舵角θhに基づき、割合Diを算出する処理である。割合Diは、角度軸力Faと、電流軸力Fiとの和に対する電流軸力Fiの割合である。割合Diは、ゼロ以上1以下の値を有する。配分比算出処理M74は、たとえば記憶装置74にマップデータが記憶された状態でPU72によって割合Diをマップ演算する処理であってもよい。ここで、マップデータは、車速Vおよび操舵角θhが入力変数であって且つ、割合Diが出力変数であるデータである。
【0047】
第2割合算出処理M76は、「1」から割合Diを減算することによって、第2割合「1-Di」を算出する処理である。第2割合は、角度軸力Faと、電流軸力Fiとの和に対する角度軸力Faの割合である。
【0048】
第1割合乗算処理M78は、電流軸力Fiに割合Diを乗算する処理である。第2割合乗算処理M80は、角度軸力Faに第2割合を乗算する処理である。加算処理M82は、第1割合乗算処理M78の出力値と、第2割合乗算処理M80の出力値とを加算した値を、軸力Fに代入する処理である。すなわち、軸力Fは、角度軸力Faと電流軸力Fiとの加重平均処理値となっている。
【0049】
図2に戻り、減算処理M16は、アシスト量Taから軸力Fを減算した値を、目標反力トルクTr*に代入する処理である。目標反力トルクTr*は、反力モータ20がステアリングシャフト14に加えるトルクの目標値である。なお、軸力Fが目標反力トルクTr*を構成する際には、減算処理M16によって軸力Fの符号が反転される。したがって、軸力設定処理M14が出力する軸力Fの符号は、操舵反力の符号とは逆となっている。これは単に演算上の設定である。
【0050】
反力用操作信号生成処理M18は、ステアリングシャフト14に加えるトルクが目標反力トルクTr*となるように、反力モータ20のトルクを制御すべく、反力用インバータ22に対する操作信号MSsを生成する処理である。詳しくは、反力用操作信号生成処理M18は、目標反力トルクTr*を反力モータ20の目標トルクに換算する処理を含む。また、反力用操作信号生成処理M18は、電流のフィードバック制御によって、反力モータ20を流れる電流を目標反力トルクTr*から定まる電流に近づけるべく、反力用インバータ22に対する操作信号MSsを算出する処理を含む。なお、操作信号MSsは、実際には、反力用インバータ22の6つのスイッチング素子のそれぞれに対する操作信号となっている。目標反力トルクTr*の符号は、通常、アシスト量Taの符号とは逆となっている。
【0051】
転舵相当角算出処理M20は、入力変数としての回転角θbに基づき、ピニオンシャフト52の回転角度である転舵相当角θpを算出する処理である。転舵相当角算出処理M20は、たとえば、車両が直進しているときの転舵シャフト40の位置であるラック中立位置からの転舵モータ60の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。転舵相当角算出処理M20は、換算して得られた積算角に減速機構56の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオンシャフト52の実際の回転角である転舵相当角θpを算出する処理を含む。なお、転舵相当角θpは、一例として、ラック中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負に設定される。転舵相当角θpは、転舵輪44の転舵角を示す変数である。
【0052】
ベース値設定処理M22は、入力変数としての操舵角θhおよび車速Vに基づき、目標転舵相当角θp*0を算出する処理である。目標転舵相当角θp*0は、運転者によるステアリングホイール12の操作に応じた転舵相当角θpの目標値である。ベース値設定処理M22は、操舵角θhと目標転舵相当角θp*との比である目標舵角比を、車速V等に応じて変更する処理を含む。
【0053】
オフセット補正量算出処理M24は、目標転舵相当角θp*0のオフセット補正量Δθpを算出する処理である。
オフセット補正処理M26は、目標転舵相当角θp*0からオフセット補正量Δθpを減算することによって、目標転舵相当角θp*を算出する処理である。
【0054】
転舵フィードバック処理M28は、転舵相当角θpが制御量であって且つ目標転舵相当角θp*が制御量の目標値であるフィードバック制御の操作量に応じて、転舵モータ60のトルクの指令値である転舵トルク指令値Tt*を算出する処理である。
【0055】
転舵用操作信号生成処理M30は、入力変数としての転舵トルク指令値Tt*、電流iu2,iv2,iw2、および回転角θbに基づき、転舵用インバータ62に対する操作信号MStを出力する処理である。転舵用操作信号生成処理M30は、転舵トルク指令値Tt*に基づきdq軸の電流指令値を算出する処理を含む。また、転舵用操作信号生成処理M30は、電流iu2,iv2,iw2および回転角θbに基づき、dq軸の電流を算出する処理を含む。そして、転舵用操作信号生成処理M30は、dq軸の電流が指令値となるように、転舵用インバータ62を操作すべく操作信号MStを算出する処理を含む。
【0056】
「オフセット補正量算出処理の詳細」
図5に、オフセット補正量算出処理の手順を示す。図5に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0057】
図5に示す一連の処理において、PU72は、まず、転舵相当角θpおよび目標転舵相当角θp*0を取得する(S10)。次にPU72は、フラグFLが「1」であるか否かを判定する(S12)。フラグFLの値は、オフセット補正量Δθpの絶対値がゼロよりも大きい値に設定されている場合に「1」に設定される。フラグFLの値は、オフセット補正量Δθpの絶対値がゼロの場合に「0」に設定される。
【0058】
PU72は、フラグFLが「0」であると判定する場合(S12:NO)、オフセット補正量Δθpによる補正が開始される所定の条件が成立するか否かを判定する(S14)。所定の条件は、目標転舵相当角θp*と転舵相当角θpとの乖離が大きくなる条件である。所定の条件は、以下の第1の条件、または第2の条件であってもよい。第1の条件は、目標転舵相当角θp*0が不連続的に変更される旨の条件である。
【0059】
具体的には、第1の条件は、たとえば、車速センサ92に異常が生じた旨の条件であってもよい。すなわち、車速センサ92を複数の車輪のそれぞれの速度を検出するセンサによって構成する場合、それら車輪速度センサのいずれか1つに異常が生じる場合には、車速Vの算出手法が変更されることがある。そしてその場合、車速Vが不連続的に変化することに起因して目標転舵相当角θp*0が不連続的に変化する。またたとえば、第1の条件は、操舵制御装置70による操作介入が開始される旨の条件であってもよい。操舵介入が開始されると、操舵角θhおよび車速Vとは独立に目標転舵相当角θp*0が設定されることから、目標転舵相当角θp*0が不連続的に変化する。
【0060】
第2の条件は、転舵輪44を転舵制御可能にもかかわらず目標転舵相当角θp*0と転舵相当角θpとが所定以上乖離する旨の条件である。第2の条件は、たとえば、車両の起動スイッチがオフ状態からオン状態に切り替わった旨の条件であってもよい。起動スイッチのオフ状態においてステアリングホイール12が回転操作される場合、操舵角θhと転舵相当角θpとが整合しなくなる。そのため、起動スイッチの上記切り替わりの時点において、転舵輪44を転舵制御可能な状態にもかかわらず、目標転舵相当角θp*0が転舵相当角θpから大きく乖離する。またたとえば、第2の条件は、転舵モータ60の電流制限が解除された旨の条件であってもよい。具体的には、たとえば転舵モータ60の電流制限がなされている状態で転舵輪44が縁石等の障害物に当たっている場合、転舵輪44は障害物に当たっている側へ転舵することが困難となる。この状態においてステアリングホイール12が障害物に当たっている側へ向けて操舵される場合、操舵角θhの変化に伴って目標転舵相当角θp*0が変化する。これに対し、転舵相当角θpは一定値に維持される。この状態において転舵モータ60の電流制限が解除されると、転舵輪44を転舵制御できる状態にもかかわらず、目標転舵相当角θp*0と転舵相当角θpとが大きく乖離する。
【0061】
PU72は、所定の条件が成立すると判定する場合(S14:YES)、フラグFLに「1」を代入する(S16)。そして、PU72は、目標転舵相当角θp*と実際の転舵相当角θpとの差分相当量であるオフセット量Δθp0を算出する(S18)。詳しくは、PU72は、S14の処理において第1の条件が成立すると判定した場合、目標転舵相当角θp*0の今回値「θp*0(n)」から前回値「θp*0(n-1)」を減算した値をオフセット量Δθp0に代入する。また、PU72は、S14の処理において第2の条件が成立すると判定した場合、目標転舵相当角θp*0から転舵相当角θpを減算した値をオフセット量Δθp0に代入する。なお、第1の条件が成立する直前における転舵相当角θpは、目標転舵相当角θp*0とほぼ等しいと考えられる。そのため、第1の条件が成立する場合における「目標転舵相当角θp*0の今回値から前回値を減算した値」は、目標転舵相当角θp*と実際の転舵相当角θpとの差とみなせる。換言すれば、第1の条件が成立する場合における「目標転舵相当角θp*0の今回値から前回値を減算した値」は、目標転舵相当角θp*と実際の転舵相当角θpとの差分相当量である。
【0062】
次に、PU72は、オフセット補正量Δθpにオフセット量Δθp0を代入する(S20)。
一方、PU72は、フラグFLが「1」であると判定する場合(S12:YES)、オフセット補正量Δθpがゼロであるか否かを判定する(S22)。PU72は、オフセット補正量Δθpの絶対値がゼロよりも大きいと判定する場合(S22:NO)、目標角速度ωp*を算出する(S24)。目標角速度ωp*は、目標転舵相当角θp*0の変化速度の絶対値である。目標角速度ωp*は、PU72によって、入力変数としての目標転舵相当角θp*0に基づき算出される。具体的には、目標角速度ωp*は、単位時間だけ離間した2つの目標転舵相当角θp*0の差分であってもよい。また、PU72は、目標転舵相当角θp*0の変化速度と目標角速度ωp*との間に不感帯を設けてもよい。すなわち、PU72は、たとえば、目標転舵相当角θp*0の変化速度の絶対値がゼロよりも大きくて且つ閾値以下の場合、目標角速度ωp*をゼロに設定してもよい。
【0063】
次に、PU72は、入力変数としての目標角速度ωp*にゲインGωおよび周期Tを乗算した値をオフセットキャンセル角Δに代入する(S26)。オフセットキャンセル角Δは、オフセット補正量Δθpの絶対値をゼロへと移行させる速度を定める変数である。また、周期Tは、図5に示す一連の処理が繰り返し実行される周期である。ゲインGωは、PU72により、入力変数としての車速Vに基づき算出される。PU72は、車速Vが大きい場合のゲインGωが車速Vが小さい場合のゲインGω以上となる条件で、車速Vに応じてゲインGωを算出する。詳しくは、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72は、車速Vに応じてゲインGωをマップ演算する。ここで、マップデータは、車速Vが入力変数であって且つゲインGωが出力変数であるデータである。
【0064】
PU72は、オフセット量Δθp0が正であるか否かを判定する(S28)。PU72は、オフセット量Δθp0が正であると判定する場合(S28:YES)、オフセット補正量Δθpからオフセットキャンセル角Δを減算した値とゼロとのうちの小さくない方を、オフセット補正量Δθpに代入する(S30)。一方、PU72は、オフセット量Δθp0が正ではないと判定する場合(S28:NO)、オフセット補正量Δθpにオフセットキャンセル角Δを加算した値とゼロとのうちの大きくない方をオフセット補正量Δθpに代入する(S32)。
【0065】
一方、PU72は、オフセット補正量Δθpがゼロであると判定する場合(S22:YES)、フラグFLに「0」を代入する(S34)。また、PU72は、S14の処理において否定判定する場合、オフセット補正量Δθpにゼロを代入する(S36)。
【0066】
なお、PU72は、S20,S30~S36の処理を完了する場合には、図5に示す一連の処理を一旦終了する。
「電流軸力設定処理の詳細」
図6に電流軸力設定処理M72の詳細な手順を示す。図6に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。
【0067】
図6に示す一連の処理において、PU72は、まず、q軸電流iqtを取得する(S40)。次にPU72は、入力変数としてのq軸電流iqtに基づき、電流軸力Fiを算出する(S42)。詳しくは、PU72は、q軸電流iqtの絶対値が大きい場合の電流軸力Fiの絶対値がq軸電流iqtの絶対値が小さい場合の電流軸力Fiの絶対値以上となる条件で、q軸電流iqtに応じて電流軸力Fiを変更する。この処理は、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によって電流軸力Fiをマップ演算することによって実現される。なお、マップデータは、q軸電流iqtが入力変数であって且つ電流軸力Fiが出力変数であるデータである。
【0068】
次にPU72は、フラグFLが「1」であるか否かを判定する(S44)。PU72は、フラグFLが「1」であると判定する場合(S44:YES)、オフセット量Δθp0を取得する(S46)。そして、PU72は、入力変数としてのオフセット量Δθp0に基づきゲインGiを算出する(S48)。Giは、「1」以下の値に設定されている。PU72は、オフセット量Δθp0の絶対値が大きい場合のゲインGiがオフセット量Δθp0の絶対値が小さい場合のゲインGi以下となる条件で、オフセット量Δθp0に応じてゲインGiを変更する。この処理は、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によってゲインGiをマップ演算する処理であってもよい。このマップデータの入力変数は、オフセット量Δθp0であり、このマップデータの出力変数は、ゲインGiである。
【0069】
そして、PU72は、S42の処理によって算出した電流軸力FiにゲインGiを乗算した値を、電流軸力Fiに代入する(S50)。
なお、PU72は、S50の処理を完了する場合と、S44の処理において否定判定する場合と、には、図6に示す一連の処理を一旦終了する。
【0070】
「本実施形態の作用および効果」
図7の時刻t1は、上述の所定の条件が成立し、ベース値設定処理M22が目標転舵相当角θp*0を設定するための目標舵角比が変更されたタイミングを示す。その場合、PU72は、目標転舵相当角θp*0をステップ的に変化させる。また、PU72は、目標転舵相当角θp*0の前回値と今回値との差をオフセット量Δθp0に代入する。そして、PU72は、オフセット補正量Δθpの初期値をオフセット量Δθp0に設定して、目標転舵相当角θp*0をオフセット補正量Δθpにて補正した値を目標転舵相当角θp*に代入する。PU72は、目標転舵相当角θp*を目標転舵相当角θp*0に収束させるべく、オフセット補正量Δθpの絶対値を漸減させる。これにより、時刻t2に、目標転舵相当角θp*が目標転舵相当角θp*0に一致する。
【0071】
図7には、二点鎖線にて、オフセット量Δθp0がゼロであって且つ時刻t1において目標転舵相当角θp*0の不連続的な変化がないと仮定した場合の目標転舵相当角θp*の推移を示す。図7に示すように、オフセット補正量Δθpによって目標転舵相当角θp*0が補正される場合、オフセット量Δθp0がゼロの場合と比較すると、目標転舵相当角θp*の変化速度の絶対値がより大きくなる。そのため、転舵相当角θpの単位変化量当たりの転舵モータ60のトルクの変化量の絶対値が、オフセット量Δθp0がゼロの場合よりも大きくなる。
【0072】
ここで、本実施形態では、アシスト量設定処理M10、軸力設定処理M14およびベース値設定処理M22が、オフセット補正量Δθpによる目標転舵相当角θp*0の補正がないことを前提として適合されている。そのため、S44~S50の処理を設けない場合、転舵相当角θpの単位変化量当たりの電流軸力Fiの絶対値である電流軸力Fiの勾配が想定外に大きくなるおそれがある。そして、同勾配が想定外に大きくなる場合、ステアリングホイール12の操作が重くなることによって、操舵の安定性が低下する。
【0073】
これに対し、PU72は、電流軸力Fiの大きさをゲインGiによって小さい側に補正した。これにより、ゲインGiによる補正がなされない場合と比較すると、電流軸力Fiの勾配が小さくなる。そのため、オフセット補正量Δθpによる目標転舵相当角θp*0の補正に起因した安定性の低下を抑制できる。
【0074】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)PU72は、オフセット量Δθp0に応じてゲインGiを設定した。オフセット量Δθp0が大きい場合には小さい場合よりも目標転舵相当角θp*と目標転舵相当角θp*0との乖離が大きくなる。そのため、オフセット量Δθp0が大きい場合には小さい場合よりも目標転舵相当角θp*の変化に対する電流軸力Fiの変化が大きくなる期間が長くなる。そのため、オフセット量Δθp0が大きい場合には小さい場合よりも制御が不安定化しやすい。そのため、オフセット量Δθp0に応じてゲインGiを設定することによって、制御が不安定化することを抑制できる。
【0075】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0076】
図8に電流軸力設定処理M72の詳細な手順を示す。図8に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、図8において、図6に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与している。
【0077】
図8に示す一連の処理において、PU72は、S44の処理において肯定判定する場合、オフセットキャンセル角Δを取得する(S46a)。そして、PU72は、入力変数としてのオフセットキャンセル角Δに基づき、ゲインGiを算出する(S48a)。PU72は、オフセットキャンセル角Δが大きい場合のゲインGiがオフセットキャンセル角Δが小さい場合のゲインGi以下となる条件で、オフセットキャンセル角Δに応じてゲインGiを変更する。この処理は、記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によってゲインGiをマップ演算する処理であってもよい。このマップデータの入力変数は、オフセットキャンセル角Δであり、このマップデータの出力変数は、ゲインGiである。
【0078】
なお、PU72は、S48aの処理を完了する場合、S50の処理に移行する。
オフセットキャンセル角Δが大きいほど、オフセット補正量Δθpの絶対値の減少速度が大きくなる。そのため、オフセットキャンセル角Δが大きいほど、目標転舵相当角θp*の変化速度が大きくなる。したがって、S42の処理によって算出される電流軸力Fiの変化速度は、オフセットキャンセル角Δが大きいほど、大きくなる。これに対し、PU72は、オフセットキャンセル角Δが大きい場合にゲインGiを小さくすることにより、電流軸力Fiの変化速度が過度に大きくなることを抑制する。
【0079】
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0080】
本実施形態にかかる電流軸力設定処理M72は、S40,S42の処理である。すなわち、電流軸力設定処理M72は、図6のS44以降の処理を有しない。
図9に、オフセット補正量算出処理の手順を示す。図9に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、図9において、図5に示した処理に対応する処理については便宜上、同一のステップ番号を付している。
【0081】
図9に示す一連の処理において、PU72は、S22の処理において否定判定する場合、操舵角速度ωhを取得する(S24a)。操舵角速度ωhは、操舵角θhの変化速度である。操舵角速度ωhは、PU72によって入力変数としての操舵角θhに基づき算出される。
【0082】
そして、PU72は、入力変数としての操舵角速度ωhに基づき、オフセットキャンセル角Δを算出する(S26a)。PU72は、操舵角速度ωhの絶対値が大きい場合のオフセットキャンセル角Δが操舵角速度ωhの絶対値が小さい場合のオフセットキャンセル角Δ以下となる条件で、操舵角速度ωhに応じてオフセットキャンセル角Δを変更する。この処理は、一例として、記憶装置74にマップデータが予め記憶された状態で、PU72によってオフセットキャンセル角Δをマップ演算する処理である。このマップデータの入力変数は、操舵角速度ωhであり、マップデータの出力変数はオフセットキャンセル角Δである。なお、オフセットキャンセル角Δは、ゼロ以上の値である。
【0083】
PU72は、S26aの処理を完了する場合、S28の処理に移行する。
操舵角速度ωhの絶対値が大きい場合には小さい場合と比較して、目標転舵相当角θp*0の変化速度の絶対値も大きくなる。これに対し、PU72は、操舵角速度ωhの絶対値とオフセットキャンセル角Δとの間に負の相関を持たせる。これにより、目標転舵相当角θp*0の変化速度の絶対値が大きい場合には、オフセットキャンセル角Δが小さい値に設定される。したがって、目標転舵相当角θp*0の変化速度の絶対値が大きい場合には、オフセット補正量Δθpの変化速度の絶対値が小さい値に設定される。したがって、オフセット補正量Δθpによって補正された目標転舵相当角θp*0である目標転舵相当角θp*の変化速度の絶対値が過度に大きくなることが抑制される。
【0084】
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0085】
本実施形態にかかる電流軸力設定処理M72は、S40,S42の処理である。すなわち、電流軸力設定処理M72は、図6のS44以降の処理を有しない。
そして、本実施形態において、PU72は、操舵角θhの変化から転舵シャフト40に加わる軸力の変化を推定する。そして、PU72は推定される軸力の変化によって軸力Fの変化を規制する。
【0086】
図10に、軸力Fの変化を規制する処理の手順を示す。図10に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。
【0087】
図10に示す一連の処理において、PU72は、まず操舵角θhを取得する(S60)。次に、PU72は、入力変数としての操舵角θhに基づいて規定軸力トルクFrを算出する(S62)。規定軸力トルクFrは、ステアリングシャフト14と転舵シャフト40とが機械的に連結されることによって、それらの間に動力伝達が可能な状態である場合における転舵シャフト40に加わる軸力の推定値である。ただし、規定軸力トルクFrは、転舵輪44とステアリングホイール12とが連結されていると仮定した場合にステアリングシャフト14に加わるトルクに換算された量とされている。
【0088】
次にPU72は、規定軸力トルクFrの今回値「Fr(n)」から前回値「Fr(n-1)」を減算した値を、規定変化量ΔFrに代入する(S64)。そして、PU72は、軸力Fを取得する(S66)。PU72は、軸力Fの今回値「F(n)」から前回値「F(n-1)」を減算した値の絶対値が規定変化量ΔFrの絶対値よりも大きいか否かを判定する(S68)。PU72は、減算した値の絶対値が規定変化量ΔFrの絶対値よりも大きいと判定する場合(S68:YES)、軸力Fの今回値「F(n)」の前回値「F(n-1)」からの変化量の大きさを規定変化量ΔFrの大きさに制限する(S70)。
【0089】
なお、PU72は、S70の処理を完了する場合と、S68の処理において否定判定する場合と、には、図10に示す一連の処理を一旦終了する。
上記処理によれば、軸力Fの変化量の大きさを、規定軸力トルクFrの変化量の大きさによって規制できる。規定軸力トルクFrは、転舵相当角θpが操舵角θhに応じて変化する場合において想定される軸力である。そのため、規定軸力トルクFrの変化速度は、オフセットキャンセル角Δによって増大しない。したがって、軸力Fの変化量の大きさが過度に大きくなることを抑制できる。
【0090】
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0091】
本実施形態では、オフセット補正量Δθpによる目標転舵相当角θp*0の補正がなされている場合、路面情報トルクTiに制限を加える。
図11に、ロードインフォメーション処理M50の手順を示す。図11に示す一連の処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。
【0092】
図11に示す一連の処理において、PU72は、まずフラグFLが「1」であるか否かを判定する(S80)。PU72は、フラグFLが「0」であると判定する場合(S80:NO)、ゲイン乗算処理M56において用いられるゲインGbに通常値GHを代入する(S82)。一方、PU72は、フラグFLが「1」であると判定する場合(S80:NO)、ゲインGbに制限値GLを代入する(S84)。制限値GLは、0以上であって且つ通常値GHよりも小さい値である。
【0093】
PU72は、S82,S84の処理を完了する場合、図11に示す一連の処理を一旦終了する。
ロードインフォメーション処理M50の出力である路面情報トルクTiは、目標反力トルクTr*の変化に影響する。しかし、路面情報トルクTiが路面の状態に応じた値であることから、路面情報トルクTiが目標反力トルクTr*の変化に影響を与える度合いを予め想定して制御器を設計することは困難である。そこで本実施形態は、オフセット補正量Δθpの大きさの漸減処理に起因して目標反力トルクTr*の変化が大きくなる状況において、路面情報トルクTiの大きさを小さい側に制限する。これにより、オフセット補正量Δθpの大きさの漸減処理と路面情報トルクTiとの協働で、目標反力トルクTr*の変化が過度に大きくなることを抑制できる。
【0094】
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0095】
本実施形態にかかる電流軸力設定処理M72は、S40,S42の処理である。すなわち、電流軸力設定処理M72は、図6のS44以降の処理を有しない。
一方、本実施形態では、オフセットキャンセル角Δを算出するために用いる転舵相当角のギア比を小さい側に制限する。
【0096】
図12に、オフセット補正量算出処理の手順を示す。図12に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、図12において、図5に示した処理に対応する処理については便宜上、同一のステップ番号を付している。
【0097】
図12に示す一連の処理において、PU72は、S22の処理において否定判定する場合、算出用転舵相当角θpl*を算出する(S24b)。操舵角θhに対する算出用転舵相当角θpl*の比は、操舵角θhに対する目標転舵相当角θp*0の比よりも小さい値に設定されている。PU72は、入力変数としての算出用転舵相当角θpl*に基づき算出用角速度ωpl*を算出する(S24c)。算出用角速度ωpl*は、算出用転舵相当角θpl*の変化速度の絶対値である。そして、PU72は、入力変数としての算出用角速度ωpl*にゲインGωおよび周期Tを乗算した値をオフセットキャンセル角Δに代入する(S26b)。なお、PU72は、S26bの処理を完了する場合、S28の処理に移行する。
【0098】
上記操舵角θhに対する算出用転舵相当角θpl*の比は、操舵角θhに対する目標転舵相当角θp*0の比よりも小さいことから、算出用角速度ωpl*は、目標角速度ωp*よりも小さい値になる傾向がある。そのため、算出用角速度ωpl*を用いて算出されるオフセットキャンセル角Δは、目標角速度ωp*を用いて算出されるオフセットキャンセル角Δよりも小さい値となる傾向がある。したがって、本実施形態では、目標角速度ωp*を用いて算出されるオフセットキャンセル角Δを用いる場合と比較して、オフセット補正量Δθpの絶対値の減少速度を小さい側に制限できる。
【0099】
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0100】
図13に電流軸力設定処理M72の詳細な手順を示す。図13に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、図13において、図6に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与している。
【0101】
図13に示す一連の処理において、PU72は、S40の処理を完了すると、フラグFLが「1」であるか否かを判定する(S90)。PU72はフラグFLが「0」であると判定する場合(S90:NO)、S42の処理において利用するマップデータとして通常のマップデータを選択する(S92)。一方、PU72は、フラグFLが「1」であると判定する場合(S90:YES)、S42の処理において利用するマップデータとして緩和マップデータを選択する(S94)。緩和マップデータは、通常マップデータと比較して、q軸電流iqtの絶対値の割に電流軸力Fiの絶対値が小さい値に設定されている。
【0102】
PU72は、S92,S94の処理を完了する場合、S42の処理に移行する。また、PU72は、S42の処理を完了する場合、図13に示す一連の処理を一旦終了する。
緩和マップデータを用いて算出される電流軸力Fiの絶対値の変化量は、通常マップデータを用いて算出される電流軸力Fiの絶対値の変化量よりも小さくなる傾向がある。そのため、オフセット補正量Δθpの絶対値の漸減処理に起因した電流軸力Fiの絶対値の変化量の増加を、緩和マップデータによって抑制できる。
【0103】
<第8の実施形態>
以下、第8の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0104】
本実施形態において、PU72は、都度算出される電流軸力Fiから把握される電流軸力Fiの変化が大きくなる場合、電流軸力Fiの変化を小さくするように電流軸力Fiを補正する。
【0105】
図14に、電流軸力設定処理M72の詳細な手順を示す。図14に示す処理は、記憶装置74に記憶されたプログラムをPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、図14において、図6に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与している。
【0106】
図14に示す一連の処理において、PU72は、S42の処理を完了する場合、操舵角θhを取得する(S100)。そしてPU72は、電流軸力Fiの今回値「Fi(n)」から前回値「Fi(n-1)」を減算した値を、操舵角θhの今回値「θh(n)」から前回値「θh(n-1)」を減算した値で除算した値を、電流軸力勾配ΔFiに代入する(S102)。次にPU72は、電流軸力勾配ΔFiの絶対値が閾値ΔFithよりも大きいか否かを判定する(S104)。閾値ΔFithは、オフセット補正量Δθpによる目標転舵相当角θp*0の補正がなされていない場合において想定される電流軸力Fiの勾配の最大値程度に設定されている。
【0107】
PU72は、電流軸力勾配ΔFiの絶対値が閾値ΔFithよりも大きいと判定する場合(S104:YES)、電流軸力勾配ΔFiの絶対値が閾値ΔFithとなるように、電流軸力Fiを補正する(S106)。なお、PU72は、S104の処理において否定判定する場合と、S106の処理を完了する場合と、には、図14に示す一連の処理を一旦終了する。
【0108】
上記処理によれば、オフセット補正量Δθpの絶対値の漸減処理によって電流軸力勾配ΔFiが過度に大きくなることを抑制できる。
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]目標転舵相当角設定処理は、ベース値設定処理M22、オフセット補正量算出処理M24およびオフセット補正処理M26に対応する。転舵操作処理は、転舵フィードバック処理M28および転舵用操作信号生成処理M30に対応する。反力操作処理は、アシスト量設定処理M10、軸力設定処理M14、減算処理M16、および反力用操作信号生成処理M18に対応する。転舵装置の状態量は、q軸電流iqtに対応する。調整処理は、図6のS44~S50の処理と、図8のS44,S46a,S48a,S50の処理と、図9のS24a,S26aの処理と、図10のS68,S70の処理と、に対応する。また、調整処理は、図11のS84の処理と、図12のS24b,S24c,S26bの処理と、図13のS94の処理と、図14のS104,S106の処理と、に対応する。[2]オフセットキャンセル処理は、S28~S32の処理に対応する。[3]目標反力設定処理は、減算処理M16に対応する。[4]調整処理は、図6のS44~S50の処理と、図8のS44,S46a,S48a,S50の処理と、図13のS94の処理と、図14のS104,S106の処理と、に対応する。「5」調整処理は、図8のS44,S46a,S48a,S50の処理に対応する。[6]調整処理は、図6のS44~S50の処理に対応する。[7]調整処理は、図9のS24a,S26aの処理に対応する。[8]トルク規定処理は、S62の処理に対応する。調整処理は、図10のS68,S70の処理に対応する。[9]所定成分反映処理は、ロードインフォメーション処理M50に対応する。調整処理は、図11のS84の処理に対応する。[10]調整処理は、図12のS24b,S24c,S26bの処理に対応する。[11]調整処理は、S104,S106の処理に対応する。
【0109】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0110】
「トルク規定処理について」
・トルク規定処理の入力変数としての舵角変数が操舵角θhであることは必須ではない。舵角変数は、たとえば目標転舵相当角θp*0であってもよい。
【0111】
「角度軸力設定処理について」
・角度軸力設定処理の入力変数は、操舵角θhおよび車速Vに限らない。たとえば舵角を示す変数として操舵角θhに代えて、目標転舵相当角θp*0を用いてもよい。また、たとえば角度軸力設定処理の入力変数は、車速Vを含まなくてもよい。
【0112】
「調整処理について」
・規定軸力トルクFrの変化に軸力Fの変化を近づける処理は、図10において例示した処理に限らない。たとえば、PU72は、フラグFLが「1」の場合、強制的に軸力Fに規定軸力トルクFrを代入してもよい。
【0113】
・規定軸力トルクFrを、電流軸力Fi相当の量としてもよい。その場合、S66~S70の処理における軸力Fを電流軸力Fiと読み替えればよい。
・電流軸力Fiの大きさを小さい側に制限するためのゲインGiを、オフセット量Δθp0の絶対値と、オフセットキャンセル角Δとの双方に応じて変更してもよい。また、ゲインGiを固定値としてもよい。
【0114】
図6図8等に例示したような電流軸力Fiの大きさを小さい側に制限する処理と、図9等に例示したオフセット補正量Δθpの絶対値の減少速度を小さい側に制限する処理との双方を実行してもよい。またたとえば、オフセット補正量Δθpの絶対値の減少速度を小さい側に制限する処理と、図10図14等の例示した処理との双方を実行してもよい。またたとえば、図6図8等に例示した処理と、図10図14等の例示した処理との双方を実行してもよい。さらにたとえば、図6図8等に例示した処理と、図10図14等の例示した処理と、オフセット補正量Δθpの絶対値の減少速度を小さい側に制限する処理とを実行してもよい。
【0115】
・調整処理によって対処する状況である、操舵要求に対する反力トルクの変化の大きさが過度に大きくなりうる状況は、オフセット補正量Δθpの大きさがオフセットキャンセル角Δによって漸減される状況を前提としない。
【0116】
図14の電流軸力Fiを、軸力Fと読み替えてもよい。
図14の処理において、電流軸力勾配ΔFiを、単位時間当たりの電流軸力Fiの変化量と読み替えてもよい。
【0117】
「オフセットキャンセル処理について」
・オフセットキャンセル角Δは、目標角速度ωp*に車速Vに依存したゲインGωを乗算した値に限らない。たとえば、ゲインGωを固定値としてもよい。
【0118】
・記憶装置74にマップデータが記憶された状態で、PU72によって、オフセットキャンセル角Δを、目標角速度ωp*および車速Vに応じてマップ演算してもよい。ここで、マップデータは、目標角速度ωp*および車速Vが入力変数であって且つオフセットキャンセル角Δが出力変数であるデータである。
【0119】
・オフセットキャンセル角Δは、角速度依存キャンセル量Δωと、車速依存キャンセル量Δvとの和であってもよい。ここで、PU72は、次の条件の下で目標角速度ωp*に応じて角速度依存キャンセル量Δωを算出すればよい。その条件は、目標角速度ωp*の絶対値が大きい場合の角速度依存キャンセル量Δωの大きさが目標角速度ωp*の絶対値が小さい場合の角速度依存キャンセル量Δωの大きさ以上となる条件である。また、PU72は、次の条件の下、車速Vに応じて車速依存キャンセル量Δvを算出すればよい。その条件は、車速Vが大きい場合の車速依存キャンセル量Δvが車速Vが小さい場合の車速依存キャンセル量Δv以上となる旨の条件である。
【0120】
・オフセットキャンセル角Δは、オフセット量Δθp0に0よりも大きく1よりも小さい所定値を乗算した値であってもよい。このように、オフセット補正量Δθpの1周期当たりの減少量がオフセット量Δθp0の絶対値と正の相関を有する場合には、S48の処理が特に有効である。
【0121】
「転舵操作処理について」
・転舵操作処理が、転舵フィードバック処理M28および転舵用操作信号生成処理M30を含むことは必須ではない。たとえば、転舵操作処理は、目標転舵相当角θp*が制御量の目標値である開ループ制御の操作量のみに基づいて転舵モータ60のトルクを制御する処理であってもよい。
【0122】
「反力付与処理について」
・反力付与処理が、アシスト量設定処理M10および軸力設定処理M14を含むことは必須ではない。たとえば、記憶装置74にマップデータが記憶された状態において、PU52によって、入力変数としての操舵トルクTh、q軸電流iqtおよび車速Vに応じて目標反力トルクTr*をマップ演算する処理であってもよい。その場合、たとえば、図14の電流軸力Fiを、転舵トルク指令値Tt*と読み替えてもよい。
【0123】
「操舵制御装置について」
・操舵制御装置としては、PUによって各種処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行された処理の少なくとも一部を実行するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、操舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの処理回路を備えていてもよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える処理回路。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える処理回路。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える処理回路。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0124】
「転舵アクチュエータについて」
・転舵アクチュエータAtとして、たとえば、転舵シャフト40の同軸上に転舵モータ60を配置するものを採用してもよい。またたとえば、ボールねじ機構を用いたベルト式減速機を介して転舵シャフト40に連結するものを採用してもよい。
【符号の説明】
【0125】
10…操舵装置
12…ステアリングホイール
14…ステアリングシャフト
16…減速機構
20…反力モータ
22…反力用インバータ
40…転舵シャフト
42…タイロッド
44…転舵輪
50…ラックアンドピニオン機構
52…ピニオンシャフト
54…ラック歯
56…減速機構
60…転舵モータ
62…転舵用インバータ
70…操舵制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14