(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009766
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】目的タンパク質の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20250109BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250109BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20250109BHJP
C12N 15/61 20060101ALN20250109BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C12P21/08
C12N1/21
C12N9/90 ZNA
C12N15/61
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025618
(22)【出願日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023105948
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西口 大貴
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064DA01
4B065AA15X
4B065AA15Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA25
4B065CA27
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】生産性が向上した、グラム陽性細菌を用いる目的タンパク質の生産方法の提供。
【解決手段】異種FK506結合タンパク質(FKBP)をコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養すること、又は異種FKBPをコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を混合培養することを含む、目的タンパク質の生産方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種FK506結合タンパク質(FKBP)をコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養すること、又は異種FKBPをコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を混合培養することを含む、目的タンパク質の生産方法。
【請求項2】
前記異種FKBPがBCFKクレードに属しかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチド、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記異種FKBPが配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記異種FKBPをコードする遺伝子が分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと作動可能に連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記グラム陽性細菌が枯草菌又はその変異株である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記グラム陽性細菌が少なくとも1種類の細胞外プロテアーゼ遺伝子が欠失又は不活性化されている枯草菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記目的タンパク質が少なくとも1箇所のプロリル結合異性化部位を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記目的タンパク質が抗体関連分子である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記目的タンパク質がFabである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
異種FKBPをコードする遺伝子、又は異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生産性が向上した目的タンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物による有用物質の工業的生産は、食品類、アミノ酸、有機酸、核酸関連物質、抗生物質、糖質、脂質、タンパク質等、その種類は多岐に渡っており、またその用途についても食品、医薬、洗剤、化粧品等の日用品、或いは各種化成品原料に至るまで幅広い分野に広がっている。産業的に有用な宿主微生物としては、大腸菌、枯草菌、酵母、糸状菌等が挙げられる。こうした微生物による有用物質の工業生産においては、その生産性の向上が重要な課題の一つである。
【0003】
プロリン異性化酵素(peptidylprolyl isomerase、PPIase)はプロリル結合の異性化を触媒し、タンパク質の折り畳みを補助しうる酵素である(非特許文献1)。PPIaseは、阻害剤に対する感受性が異なるシクロフィリン、FK506結合タンパク質(FK506-binding protein、FKBP)、パービュリンという3つのファミリーからなる。PPIaseの3つのファミリー間のアミノ酸配列の配列同一性は低いことが知られている。大腸菌のペリプラズムには3つのファミリー全てのPPIaseが存在する。中でもFKBPに属するFkpAは良く研究されており、その発現量の増大により目的タンパク質の生産性が向上しうることが報告されている(非特許文献2)。大腸菌において目的タンパク質の生産性向上に寄与するFkpAの領域はN末端側のシャペロン領域であることも報告されている(非特許文献3)。無細胞系においても3つのファミリーいずれのPPIase添加においても目的タンパク質の生産性を向上しうることが報告されている(特許文献1)。グラム陽性細菌における目的タンパク質の分泌生産においてはPrsAを含むパービュリンの発現増強が多く検討されている(非特許文献4)。
【0004】
グラム陽性細菌である枯草菌は内在性のシャペロン兼PPIaseとしてPrsAを有し(非特許文献5)、PrsAの発現量を増強することで目的のタンパク質生産性が向上することが報告されている(特許文献2、非特許文献6、7)。PrsAは細胞膜の外表面に固定されており、トランスロカーゼを介して輸送されたタンパク質の折り畳みを促進する。正しく折りたたまれなかったタンパク質は細胞壁や細胞膜-細胞膜界面に存在するプロテアーゼによる分解を受けるため、シグナルペプチドが切断された直後に正しく折りたたまれる必要がある(非特許文献4)。
【0005】
一方、グラム陽性細菌における目的タンパク質の生産にFKBPが如何なる影響を及ぼすのかはこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-253432号公報
【特許文献2】特許第4202985号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Molecular Biology, 2015, 427(7): 1609-1631
【非特許文献2】Biotechnol Prog. 2017, 33(1): 212-220
【非特許文献3】Microbial Cell Factories, 2010, volume 9, Article number: 22
【非特許文献4】Microbial Cell Factories, 2019, volume 18, Article number: 158
【非特許文献5】J Biol Chem. 2004, 279(18):19302-14
【非特許文献6】Journal of Bacteriology, 1998, 180(11): 2830-2835
【非特許文献7】Journal of Bacteriology, 2001, 183(6): 1881-1890
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生産性が向上した、枯草菌を代表とするグラム陽性細菌を用いる目的タンパク質の生産方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、グラム陽性細菌を用いる目的タンパク質の生産において、グラム陽性細菌に異種生物由来の特定のPPIaseを発現させることにより、目的タンパク質の生産性を向上できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)及び2)に係るものである。
1)異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養すること、又は異種FKBPをコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を混合培養することを含む、目的タンパク質の生産方法。
2)異種FKBPをコードする遺伝子、又は異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、枯草菌を代表とするグラム陽性細菌を用いて目的タンパク質を効率よく生産することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】Fab生産枯草菌株に各PPIaseを発現させた場合のFab生産量。
【
図2】Fab生産枯草菌株にPrsA又はFkpAを発現させた場合のFab生産量。
【
図3】Fab生産枯草菌株にFkpAの全領域(FkpA)、N末端領域(FkpA_N)又はC末端領域(FkpA_C)を発現させた場合のFab生産量。
【
図4】Fab生産枯草菌株にFkpAを分泌発現させた場合(FkpA_p)又は細胞膜にアンカーして発現させた場合(FkpA_m)のFab生産量。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science, 1985, 227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも80%の同一性」とは、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0015】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」又は「相当する領域」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号1のアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列又はヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Nucleic Acids Res, 1994, 22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clustal W2及びClustal omegaは、例えば、University College Dublinが運営するClustalのウェブサイト([www.clustal.org])、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI [www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ [www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。また、相当する位置により挟まれた領域、又は相当するモチーフからなる領域は、相当する領域とみなされる。
【0016】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の同一性又は類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の同一性又は類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン;グルタミン酸とアスパラギン酸;セリンとトレオニン;グルタミンとアスパラギン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0018】
本明細書において、制御領域と遺伝子との「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0019】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0020】
本明細書に記載の枯草菌の遺伝子の名称は、JAFAN:Japan Functional Analysis Network for Bacillus subtilis(BSORF DB)でインターネット公開([bacillus.genome.ad.jp/]、2006年1月18日更新)された枯草菌ゲノムデータに基づいて記載されている。本明細書に記載される枯草菌の遺伝子番号は、BSORF DBに登録されている遺伝子番号を表す。
【0021】
本明細書において、FK506結合タンパク質(FK506-binding protein、FKBP)は、プロリル結合の異性化を触媒し、タンパク質の折り畳みを補助しうるプロリン異性化酵素(peptidylprolyl isomerase、PPIase、EC5.1.2.8)の1ファミリーを構成する酵素をいう。FKBPは、PPIaseのうち、免疫阻害剤であるFK506と結合することで活性が阻害される一群の酵素である。
【0022】
本明細書において、「クレード」とは、共通の祖先と共通の祖先から派生したすべての子孫における配列から構成される集団である(evolution.berkeley.edu/evolibrary/article/0_0_0/evo_06)。クレードは系統樹として視覚化することができ、共通の特性を共有している。系統樹のクレード内で一群を形成するサブクレードもまた共通の特性を共有することができ、あるサブクレードにおける配列同志は、そのクレードにおける他のサブクレードの配列よりも近縁の関係にある。
【0023】
本明細書において、「BCFKクレード」とは、FKBPファミリーに属する一群の配列群である。BCFKクレードに属する配列は、
図6に記載の隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model;HMM)プロファイルに対してアミノ酸配列の全長で115以上のHMMスコアを有する配列として定義される。BCFKクレードに属する好ましい配列は、
図6に記載のHMMプロファイルに対してアミノ酸配列の全長で150以上のHMMスコアを有する配列である。
図6のHMMプロファイルは、BCFKクレードに属するFKBP配列群を用いてMAFFT v7.471によりマルチプルアラインメントを構築し、次いで、HMMER バージョン3.3.2(http://hmmer.org/)を用い、パラメーターとして――pnone ――wnoneを指定して作成した。BCFKクレードを定義するHMMプロファイルの作成に用いたFKBP配列群のUniprot番号は、後述の表3に示す。hmmpressを用いてHMMプロファイルをバイナリ化し、hmmscanを用いて相同性検索を行うことで、作成したBCFKクレードのHMMプロファイルに対する任意の配列のHMMスコアを計算することができる。
【0024】
本明細書において、「抗体関連分子」とは、イムノグロブリン、又はイムノグロブリンを構成するドメインから選択される単一のドメインもしくは2以上のドメインの組合せからなる分子種を含むタンパク質をいう。イムノグロブリンを構成するドメインとしては、イムノグロブリン重鎖のドメインであるVH、CH1、CH2及びCH3、ならびにイムノグロブリン軽鎖のドメインであるVL及びCLが挙げられる。抗体関連分子は、単量体タンパク質であってもよく、又は多量体タンパク質であってもよい。抗体関連分子が多量体タンパク質である場合には、単一の種類のサブユニットからなるホモ多量体であってもよく、又は2種類以上のサブユニットからなるヘテロ多量体であってもよい。好ましくは、抗体関連分子は、イムノグロブリンの抗原認識ドメインを含みタンパク質等の標的に特異的に結合可能な分子である。抗体関連分子の例としては、IgGなどのイムノグロブリン、ならびにFab、F(ab’)2、一本鎖抗体(single chain antibody、scFv)、diabody、重鎖抗体の重鎖可変ドメイン(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody、VHH)、などの低分子抗体が挙げられる。
【0025】
本明細書において、「Fab」とは、イムノグロブリン重鎖のVH-CH1ドメインとイムノグロブリン軽鎖のVL-CLドメインからなる抗体をいう。
【0026】
本明細書において、「VHH」とは、重鎖抗体の重鎖可変ドメイン(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)をいう。重鎖抗体はラクダ科動物、サメ等の軟骨魚類などから見出されている。なお、サメ等の軟骨魚類由来のものは、VNAR(single variable new antigen receptor domain antibody)とも呼ばれる。本明細書におけるVHHは、例えばラクダ科動物又はサメ由来であり、好ましくはラクダ科動物由来である。VHHは、単ドメインで抗原を認識できる分子であり、現在までに見つかっている抗体分子の中では最小の単位である。本発明で製造されるVHHは、重鎖抗体由来の重鎖可変ドメインを1つ以上含むことができ、該VHHに含まれる重鎖可変ドメインの数は限定されない。本発明で製造されるVHHに含まれる該重鎖可変ドメインは、天然の重鎖抗体由来の重鎖可変ドメインであっても、その改変体であってもよい。また本発明で製造されるVHHは、該イムノグロブリン重鎖由来の重鎖可変ドメイン以外のフラグメント(例えば重鎖抗体の定常領域のフラグメント、又はヒト由来フラグメント、リンカー配列など)や、安定化のためのアミノ酸変異などを含んでいてもよい。
【0027】
本明細書において、ラクダ科動物としては、フタコブラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーニャ、グアナコなどが挙げられ、好ましくはアルパカが挙げられる。
【0028】
本発明の目的タンパク質の生産方法は、異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養すること、又は異種FKBPをコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を混合培養することを含む。
【0029】
本発明の方法において、FKBPは、異種のFKBPである限り、特に限定されない。ここで、異種とは、目的タンパク質を生産するためのグラム陽性細菌が属する種以外に分類される微生物又は生物を意味する。斯かる異種FKBPとしては、目的タンパク質の生産性向上の観点から、BCFKクレードに属しかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチド、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドが好ましく、配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドがより好ましい。
【0030】
配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Methanococcus jannaschii由来のMJFKSである。配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、大腸菌由来のFkpAである。配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Lelliottia amnigena由来のFKBP_lである。配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Klebsiella quasipneumoniae由来のFKBP_Kである。配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Erwinia sp. B116由来のFKBP_Eである。配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Pantoea sp. Nvir由来のFKBP_Pである。配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、FKBPファミリーに属するポリペプチドであり、プロリル結合の異性化活性を有する。このうち、配列番号1~5のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、BCFKクレードに属するポリペプチドである。
【0031】
「プロリル結合の異性化活性」とは、タンパク質中のシス-トランス型プロリル結合を異性化する活性を意味する。プロリル結合の異性化活性は、当該技術分野において周知の方法を用いて評価され得る。例えば、該活性は、対象となるポリペプチドによるribonuclease T1(RNase)のリフォールディング速度を測定することによって決定することができる(Marika Vitikainen et al. Journal of Biological Chemistry, 2004, 279(18): 19302-19314)。
【0032】
異種FKBPをコードする遺伝子は、上述した異種FKBPをコードするポリヌクレオチドである。異種FKBPをコードする遺伝子としては、FkpAをコードする配列番号35で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、FKBP_lをコードする配列番号40で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、FKBP_Kをコードする配列番号41で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、FKBP_Eをコードする配列番号42で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、FKBP_Pをコードする配列番号43で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、MJFKSをコードする配列番号46で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが好ましく、配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドがより好ましい。
【0033】
異種FKBPをコードする遺伝子は、常法に従って調製することができる。例えば、異種FKBPをコードする遺伝子は、該異種FKBPを本来生産する微生物又は生物から常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。例えば、FkpAをコードする遺伝子(配列番号35)は、Escherichia coli(NBRC 3301)等から調製することができる。上記微生物は、公的微生物保存機関より購入することができる。上記の手順で得られた異種FKBPをコードする遺伝子に対して、さらに部位特異的変異導入を行うことにより、変異が導入された異種FKBPをコードする遺伝子を調製してもよい。あるいは、異種FKBPをコードする遺伝子は、該異種FKBPのアミノ酸配列に基づいて化学合成してもよい。また、異種FKBPをコードする遺伝子は、宿主細胞としてのグラム陽性細菌の種にあわせてコドン至適化されていてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
【0034】
異種FKBPをコードする遺伝子は、制御領域と作動可能に連結されていてもよい。「制御領域」とは、その下流に配置された遺伝子の細胞内における発現を制御する機能を有し、好ましくは、該下流に配置された遺伝子を構成的に発現又は高発現させる機能を有する領域である。より具体的には、遺伝子のコーディング領域の上流に存在し、RNAポリメラーゼが相互作用して該コーディング領域の転写を制御する機能を有する領域と定義され得る。好ましくは、本明細書における制御領域とは、遺伝子のコーディング領域の上流200~600ヌクレオチド程度の領域をいう。制御領域は、転写開始制御領域及び/又は翻訳開始制御領域、あるいは転写開始制御領域から翻訳開始制御領域に至るまでの領域を含む。転写開始制御領域はプロモーター及び転写開始点を含む領域であり、翻訳開始制御領域は開始コドンと共にリボソーム結合部位を形成するShine-Dalgarno(SD)配列に相当する部位である(Shine,J.,Dalgarno,L.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1974,71:1342-1346)。
【0035】
制御領域の好ましい例としては、グラム陽性細菌、好ましくはバチルス属菌で機能する制御領域、例えば、バチルス属細菌由来のα-アミラーゼ遺伝子、プロテアーゼ遺伝子、aprE遺伝子又はspoVG遺伝子の制御領域、バチルス・エスピーKSM-S237株のセルラーゼ遺伝子(特開2000-210081号公報)の制御領域、バチルス・エスピーKSM-64株のセルラーゼ遺伝子(特開2011-10387号公報)の制御領域、ならびに、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のカナマイシン耐性遺伝子又はクロラムフェニコール耐性遺伝子の制御領域(いずれも、特開2009-089708号公報を参照)、などが挙げられるが、特に限定されない。制御領域のより好ましい例として、バチルス属菌由来のプロモーター、例えば、バチルス・エスピーKSM-S237株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター(配列番号94)、バチルス・エスピーKSM-64株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター(配列番号95)、枯草菌spoVG遺伝子のプロモーター(配列番号96)、が挙げられる。また、好ましい制御領域としては、配列番号94~96のいずれかと少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなるプロモーターが挙げられる。
【0036】
また異種FKBPをコードする遺伝子は、目的タンパク質の生産性向上の観点から、発現されたFKBPを細胞外へ分泌させる機能を有する分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド(分泌シグナル配列と呼ぶ)と作動可能に連結されているのが好ましい。分泌シグナル配列の好ましい例としては、グラム陽性細菌、好ましくはバチルス属菌で機能する分泌シグナル配列、例えばバチルス属菌由来の分泌シグナル配列が挙げられる。バチルス属菌由来の分泌シグナル配列の好ましい例としては、バチルス・エスピーKSM-S237株のセルラーゼ遺伝子の分泌シグナル配列(配列番号97)、バチルス・エスピーKSM-64株のセルラーゼ遺伝子の分泌シグナル配列(配列番号98)、枯草菌アミラーゼ遺伝子amyEの分泌シグナル配列(配列番号99)などが挙げられる。バチルス属菌由来の分泌シグナル配列のさらなる例としては、配列番号97~99のいずれかと少なくとも80%の同一性を有し、かつ発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させる機能を有するヌクレオチド配列が挙げられる。これらのバチルス属菌由来の分泌シグナル配列に連結される異種FKBPをコードする配列は、天然型異種FKBPの分泌シグナル配列を含んでいてもいなくてもよい。
【0037】
したがって、異種FKBPをコードする遺伝子は、オープンリーディングフレーム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。例えば、該遺伝子は、上述したプロモーター、分泌シグナル配列、及びターミネーターを含んでいてもよい。
【0038】
本発明の方法において、目的タンパク質をコードする遺伝子は、異種タンパク質をコードする外来遺伝子(異種遺伝子)であっても、外部から導入された同種由来のタンパク質をコードする遺伝子であっても、宿主細胞が本来発現することができるタンパク質をコードする内在遺伝子であってもよい。目的タンパク質としては、少なくとも1箇所のプロリル結合異性化部位を有するタンパク質が好ましい。ここで、目的タンパク質中のプロリル結合異性化部位とは、目的タンパク質の生産過程で異性化し得る部位、すなわちシス-プロリル結合部位であり、目的タンパク質中のシス-プロリル結合部位の有無及び/又は個数は、X線結晶構造解析によって得られる目的タンパク質の立体構造を参照することで確認することができる。目的タンパク質の種類は、特に限定されない。目的タンパク質の例としては、所望のタンパク質又は所望の目的物質の合成に関わる酵素が挙げられ、例えば、抗体関連分子、サイトカイン、ホルモン、その他生理活性ペプチド、トランスポーター、プロテアーゼなどの産業用酵素、代謝関連酵素などが挙げられる。
【0039】
好ましくは、目的タンパク質は抗体関連分子であり、より好ましくはFab、ScFv、VHHなどの低分子抗体である。さらに好ましくは、目的タンパク質はFab、ScFv及びVHHからなる群より選択され、さらに好ましくはFabである。
【0040】
目的タンパク質をコードする遺伝子は、常法に従って調製することができる。例えば、目的タンパク質をコードする遺伝子は、該目的タンパク質を本来生産する微生物又は生物から常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。あるいは、目的タンパク質をコードする遺伝子は、該目的タンパク質のアミノ酸配列に基づいて化学合成することができる。また、目的タンパク質をコードする遺伝子は、宿主細胞としてのグラム陽性細菌の種にあわせてコドン至適化されていてもよい。
【0041】
目的タンパク質をコードする遺伝子は、制御領域と作動可能に連結されていてもよい。また目的タンパク質をコードする遺伝子は、発現された目的タンパク質を細胞外へ分泌させる分泌シグナル配列と作動可能に連結されているのが好ましい。制御領域及び分泌シグナルの詳細は、異種FKBPをコードする遺伝子について述べたものと同様である。
【0042】
異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子は、同一のグラム陽性細菌に導入されていてもよいし、それぞれ異なるグラム陽性細菌に導入されていてもよい。異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子がそれぞれ異なるグラム陽性細菌に導入されている場合、各グラム陽性細菌は同種であっても異種であってもよいが、培養効率の観点から、同種であることが好ましい。また、異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子がそれぞれ異なるグラム陽性細菌に導入されている場合、各遺伝子はそれぞれ分泌シグナル配列と作動可能に連結されているのが好ましい。より好ましくは、異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子は、同一のグラム陽性細菌に導入されている。
【0043】
宿主細胞としてのグラム陽性細菌は、タンパク質の生産に使用できる限り特に限定されず、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・チューリンジェンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等のバチルス属菌、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)等のクロストリジウム属菌等が挙げられる。なかでも、バチルス属菌が好ましく、枯草菌がより好ましい。
【0044】
上記グラム陽性細菌は、野生株であってもよいが、変異を施した変異株であってもよい。例えば、枯草菌の変異株としては、細胞外に分泌されるタンパク質の細胞外における分解を効果的に防止してタンパク質の生産性を向上させるため、少なくとも1種の細胞外プロテアーゼ遺伝子が欠損した枯草菌株を用いるのが好ましい。ここで、細胞外プロテアーゼの「欠損」とは、細胞外プロテアーゼの活性が細胞外プロテアーゼ非欠損細胞(例えば野生株)の活性と比べて低下していることを意味する。細胞外プロテアーゼが欠損した細胞(細胞外プロテアーゼ欠損株)は、細胞における該細胞外プロテアーゼの遺伝子の部分的又は完全な欠失又は不活性化(いわゆるノックダウン又はノックアウトなど)によって作製することができる。好ましくは、細胞外プロテアーゼ欠損株は、該細胞外プロテアーゼの活性が、野生株に対して50%以下、より好ましくは25%以下に低下している。細胞外プロテアーゼ欠損枯草菌株で欠損している細胞外プロテアーゼ遺伝子は、好ましくは、aprE(BSORF DB遺伝子番号:BG10190)、epr(BG10561)、wprA(BG11846)、mpr(BG10690)、nprB(BG10691)、bpr(BG10233)、nprE(BG10448)、vpr(BG10591)及びaprX(BG12567)からなる群より選択される好ましくは少なくとも1種の遺伝子、より好ましくは3種の遺伝子、さらに好ましくは全遺伝子である。斯かる枯草菌変異株の好ましい例としては、細胞外プロテアーゼ欠損枯草菌株Dpr9(特許第4485341号参照)が挙げられる。また、枯草菌変異株は、sigF等のシグマ因子の欠失(特許第4336082号参照)、相同組み換え活性に関与するrecAの欠失(特許第6088282号参照)などを施されていてもよい。Dpr9株に、sigF及びrecAの一方又は両方の欠失を加えた枯草菌変異株も使用できる。
【0045】
宿主細胞としてのグラム陽性細菌への異種FKBPをコードする遺伝子、目的タンパク質をコードする遺伝子、又は異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子の導入は、定法に従って行うことができる。例えば、異種FKBPをコードする遺伝子は、異種FKBPをコードする遺伝子又はそれを含むベクターを宿主グラム陽性細菌細胞に導入することで、該宿主細胞のゲノムに組み込むことができる。目的タンパク質をコードする遺伝子は、目的タンパク質をコードする遺伝子又はそれを含むベクターを宿主グラム陽性細菌細胞に導入することで、該宿主細胞のゲノムに組み込むことができる。異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子は、異種FKBPをコードする遺伝子若しくはそれを含むベクター及び目的タンパク質をコードする遺伝子若しくはそれを含むベクター、又は異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子の両方を含むベクターを宿主グラム陽性細菌細胞に導入することで、該宿主細胞のゲノムに組み込むことができる。あるいは、異種FKBPをコードする遺伝子を含む発現ベクター、目的タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター、異種FKBPをコードする遺伝子を含む発現ベクター及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター、又は異種FKBPをコードする遺伝子及び目的のタンパク質をコードする遺伝子の両方を含む発現ベクターを宿主グラム陽性細菌細胞に導入してもよい。同一宿主細胞に2種の遺伝子又はベクターを導入する場合、その導入順は限定されず、いずれを先に導入してもよいし、同時に導入してもよい。
【0046】
グラム陽性細菌細胞への遺伝子やベクターの導入には、例えば、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法、プロトプラスト法、パーテイクルガン法、PEG法等の公知の形質転換技術を適用することができる。
【0047】
異種FKBPをコードする遺伝子を含むベクター、目的タンパク質をコードする遺伝子を含むベクター、又は異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターは、該異種FKBPをコードする遺伝子及び/又は該目的タンパク質をコードする遺伝子、並びに必要に応じて制御領域もしくは分泌シグナル配列を、常法により任意のベクター中に挿入し連結することにより構築することができる。該ベクターの種類は特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。また該ベクターは、好ましくは、宿主細胞内で増幅可能なベクターであり、より好ましくは発現ベクターである。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号公報)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pHY-S237(特開2014-158430号公報)、pAC3(Nucleic Acids Res,1988,16:8732)等のシャトルベクター;pUB110(J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Plasmid,1987,18:8-15)等のバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミド、等が挙げられる。また大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)を用いることもできる。
【0048】
本発明の方法においては、上記のような手順で得られた、異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養する、又は異種FKBPをコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を混合培養する。該グラム陽性細菌は、一般的なグラム陽性細菌の培養方法に従って培養すればよい。例えば、グラム陽性細菌の培養のための培地は、菌の生育に必要な炭素源及び窒素源を含む。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖、メタノールなどが挙げられる。窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが挙げられる。必要に応じて、該培地は、他の栄養素、例えば無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、カナマイシン、スペクチノマイシン、エリスロマイシン等)などを含んでいてもよい。培養条件、例えば温度、通気撹拌条件、培地のpH及び培養時間等は、菌種や形質、培養スケール等に応じて適宜選択され得る。
【0049】
当該グラム陽性細菌の培養により、グラム陽性細菌の細胞内に目的タンパク質が発現する。さらに目的タンパク質をコードする遺伝子が分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと連結されている場合、発現した目的タンパク質は細胞外に分泌される。本発明の方法により生産された目的タンパク質は、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、細胞の破砕、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養液から回収することができる。
【0050】
本発明の方法によれば、後述する実施例に示すように、グラム陽性細菌における目的タンパク質の発現の際に異種FKBPを発現させることで、目的タンパク質の単独発現の場合と比較して、目的タンパク質の生産性が大きく向上する。また、グラム陽性細菌における目的タンパク質の発現の際に枯草菌で目的タンパク質の生産性向上に寄与することが報告されているPrsA(前記特許文献2、非特許文献5、6)を共存させる場合と比較しても、目的タンパク質の生産性が大きく向上する。斯様に、本発明の方法は、グラム陽性細菌を用いて目的タンパク質を高い生産性で効率よく生産することができ、当該目的タンパク質の生産に必要な時間やコストの低減化を実現する。
【0051】
さらに、グラム陽性細菌における目的タンパク質の発現の際に異種FKBPを分泌発現させることで、目的タンパク質の発現の際に異種FKBPを細胞膜に係留された状態で発現させる場合と比較して、目的タンパク質の生産性が大きく向上する。枯草菌では生産されたタンパク質が細胞膜近傍で折りたたまれることが知られていたところ(前記非特許文献4)、タンパク質の折りたたみを補助しうるFKBPを細胞膜近傍ではなく分泌発現させた場合に目的タンパク質の生産性が向上することは全く予想外のことである。
【0052】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0053】
〔1〕異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養すること、又は異種FKBPをコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を混合培養することを含む、好ましくは異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養することを含む、目的タンパク質の生産方法。
〔2〕異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養すること、又は異種FKBPをコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を混合培養することを含む、好ましくは異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌を培養することを含む、目的タンパク質の生産性向上方法。
〔3〕前記異種FKBPがBCFKクレードに属しかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチド、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドであり、好ましくはBCFKクレードに属しかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチド又は配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記異種FKBPが配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドであり、好ましくは配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔5〕前記異種FKBPをコードする遺伝子が配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、好ましくは配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔6〕前記異種FKBPをコードする遺伝子が分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと作動可能に連結されている、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕前記グラム陽性細菌がバチルス属菌であり、好ましくは枯草菌又はその変異株である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕前記グラム陽性細菌が少なくとも1種類の細胞外プロテアーゼ遺伝子が欠失又は不活性化されている枯草菌であり、好ましくはaprE、epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr及びaprXからなる群より選択される少なくとも1種の細胞外プロテアーゼ遺伝子が欠失又は不活化されている枯草菌であり、より好ましくはaprE、epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr及びaprXが欠失又は不活化されている枯草菌である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔9〕前記目的タンパク質が少なくとも1箇所のプロリル結合異性化部位を有する、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の方法。
〔10〕前記目的タンパク質が抗体関連分子であり、好ましくはFab、ScFv及びVHHからなる群より選択されるものであり、より好ましくはFabである、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法。
〔11〕培養物から目的タンパク質を回収することをさらに含む、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
【0054】
〔12〕異種FKBPをコードする遺伝子、又は異種FKBPをコードする遺伝子及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むグラム陽性細菌。
〔13〕前記異種FKBPがBCFKクレードに属しかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチド、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドであり、好ましくはBCFKクレードに属しかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチド又は配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、〔12〕に記載のグラム陽性細菌。
〔14〕前記異種FKBPが配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドであり、好ましくは配列番号1~6のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、〔12〕に記載のグラム陽性細菌。
〔15〕前記異種FKBPをコードする遺伝子が配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列からなりかつプロリル結合の異性化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、好ましくは配列番号35、40~43及び46のいずれかで示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである、〔12〕に記載のグラム陽性細菌。
〔16〕前記異種FKBPをコードする遺伝子が分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと作動可能に連結されている、〔12〕~〔15〕のいずれか1項に記載のグラム陽性細菌。
〔17〕バチルス属菌、好ましくは枯草菌又はその変異株である、〔12〕~〔16〕のいずれか1項に記載のグラム陽性細菌。
〔18〕少なくとも1種類の細胞外プロテアーゼ遺伝子が欠失又は不活性化されている枯草菌であり、好ましくはaprE、epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr及びaprXからなる群より選択される少なくとも1種の細胞外プロテアーゼ遺伝子が欠失又は不活化されている枯草菌であり、より好ましくはaprE、epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr及びaprXが欠失又は不活化されている枯草菌である、〔12〕~〔16〕のいずれか1項に記載のグラム陽性細菌。
〔19〕前記目的タンパク質が少なくとも1箇所のプロリル結合異性化部位を有する、〔12〕~〔18〕のいずれか1項に記載のグラム陽性細菌。
〔20〕前記目的タンパク質が抗体関連分子であり、好ましくはFab、ScFv及びVHHからなる群より選択されるものであり、より好ましくはFabである、〔12〕~〔19〕のいずれか1項に記載のグラム陽性細菌。
【実施例0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
材料及び方法
(1)宿主菌株
宿主枯草菌には、Bacillus subtilis 168株の派生株を用いた。細胞外プロテアーゼ欠損枯草菌株Dpr9(特許第4485341号参照、細胞外プロテアーゼepr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprE及びaprXが欠損)から、特許第4336082号に記載されている方法に従ってsigF遺伝子欠損株(Dpr9ΔsigF)を作製した。
【0057】
(2)培地
・LB培地:1%BactoTM Tryptone、0.5%BactoTM Yeast Extract、1%塩化ナトリウム。平板培地には1.5%の寒天を加えた。必要に応じてテトラサイクリン(50ppm)を加えた。
・DM3培地:1%CMC(関東化学)、0.5%BactoTM Casamino Acids、0.5%BactoTM Yeast Extract、8.1%コハク酸二ナトリウム・6H2O、0.35%リン酸水素二カリウム、0.15%リン酸二水素カリウム、0.5%グルコース、20mM塩化マグネシウム、0.01%BSA、50ppmテトラサイクリン。平板培地には1%の寒天を加えた。
・2×L-mal培地:2%BactoTM Tryptone、1%BactoTM Yeast Extract、1%塩化ナトリウム、7.5%マルトース一水和物、7.5ppm硫酸マンガン、15ppmテトラサイクリン。
【0058】
実施例1 PPIase発現によるタンパク質高生産化
1-1.PPIase発現用プラスミドの構築
pHY300PLKをベースとして作製された組換えプラスミドpHY-S237(特開2014-158430号公報)をテンプレートとし、配列番号7と配列番号8のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、配列番号9と配列番号10のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込んだ。得られたプラスミド配列から配列番号11と配列番号12のプライマーセットを用いたPCRによりセルラーゼ配列を除去した。得られたプラスミドをテンプレートとし、配列番号11と配列番号13のプライマーセットを用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、配列番号14と配列番号15のプライマーセットを用いたPCRにより分泌シグナルDNAを増幅した。得られた分泌シグナルDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込むことでPPIase発現用プラスミドを構築した。
【0059】
1-2.PPIase発現用プラスミドの設計
1-1で構築したPPIase発現用プラスミドをテンプレートとし、配列番号11と配列番号13のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、配列番号16と配列番号17のプライマーセットを用いたPCRにより配列番号18に示すPrsAをコードするDNAを増幅した(配列番号19)。得られたPrsAをコードするDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込むことでPrsA発現用プラスミドを得た。1-1で構築したPPIase発現用プラスミドをテンプレートとし、配列番号13と配列番号20のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。大腸菌DH5αのゲノムをテンプレートとし、配列番号21と配列番号22、配列番号23と配列番号24、配列番号25と配列番号26、配列番号27と配列番号28のプライマーセットを用いたPCRによりSurA(配列番号29)、PpiA(配列番号30)、Tig(配列番号31)、FkpA(配列番号1)をそれぞれコードするDNAを増幅した(配列番号32~35)。得られたPPIaseをコードするDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込むことでSurA、PpiA、Tig、FkpA発現用プラスミドをそれぞれ得た。FKBP_l(配列番号2)、FKBP_K(配列番号3)、FKBP_E(配列番号4)、FKBP_P(配列番号5)、FKBP2(配列番号36)、FK153(配列番号37)、MJFKS(配列番号6)、FKBP52(配列番号38)、CyP40(配列番号39)のアミノ酸配列をコードする配列番号40~48に示す塩基配列をGenescript社のGenPlusクローニングによって1-1で構築したPPIase発現用プラスミドの配列番号49と配列番号50に示す領域の間に組み込む形で合成し、FKBP_l、FKBP_K、FKBP_E、FKBP_P、FKBP2、FK153、MJFKS、FKBP52、CyP40発現用プラスミドをそれぞれ得た。
【0060】
1-3.Fab発現株の構築
168株のゲノムをテンプレートとし、配列番号51と配列番号52、配列番号53と配列番号54のプライマーセットを用いたPCRによりybdO遺伝子領域を含むDNA断片(A)、ybxG遺伝子領域を含むDNA断片(B)を増幅した。プラスミドpC194 DNAを鋳型とし、配列番号55と配列番号56のプライマーセットを用いたPCRによりクロラムフェニコール耐性遺伝子領域(C)を増幅した。配列番号57と配列番号58に示す重鎖及び軽鎖からなるFab_c(CertolizumabのFab)をオペロンで発現可能な配列番号59に示す塩基配列をGenescript社のGenPlusクローニングによって1-1で構築したPPIase発現用プラスミドの配列番号60と配列番号50に示す領域の間に組み込む形で合成し、Fab_c発現用プラスミドを得た。Fab_c発現用プラスミドを鋳型に配列番号61と配列番号62のプライマーセットを用いたPCRによりFab_c発現領域を含むDNA断片(D)を増幅した。上記(A)(B)(C)(D)の4断片を混合して鋳型とし、配列番号51と配列番号54のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、4断片を連結しFab_c発現領域のゲノム組み込み用のDNA断片を得た。得られたFab_c発現領域のゲノム組み込み用のDNA断片を用いてコンピテントセル法により枯草菌Dpr9ΔsigF株を形質転換した。形質転換後、クロラムフェニコール(10μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。このようにして得られた菌株をFab_c生産株と命名した。
【0061】
1-4.枯草菌へのPPIase発現用プラスミドの導入
Fab_c生産株への1-2で構築したPPlase発現用プラスミドの導入は以下に示すプロトプラスト法によって行った。1mLのLB液体培地にグリセロールストックした枯草菌を植菌し、30℃、210rpmで一晩振とう培養した。翌日、新たな1mLのLB液体培地にこの培養液を10μL植菌し、37℃、210rpmで約2時間振とう培養した。この培養液を1.5mLチューブに回収し、1,2000rpmで5分間遠心し、上清を除去したペレットをLysozyme(SIGMA社製)4mg/mLを含むSMMP500μLに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去したペレットをSMMP400μLに懸濁した。この懸濁液33μLを各種プラスミドと混合し、さらに40%PEGを100μL添加してボルテックスした。この液にSMMPを350μL加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうした後、DM3寒天培地プレートに全量塗布し、30℃で2~3日間インキュベートした。
【0062】
1-5.Fab産生
1-4で作製した組換え枯草菌を500μLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、96穴プレート内で30℃で一晩培養し、前培養液とした。前培養液を800μLの15ppmテトラサイクリンを含む2×L-mal培地に1%接種し、96穴内で30℃で72時間培養した。培養終了時に4℃、3000rpm、20分間遠心し、上清を回収した。
【0063】
1-6.ELISA法によるFab生産量の定量
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno(商標)Plate(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに100μLの1μg/mL TNF-α(Wako)を添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったTNF-αを取り除いた後200μLのPBST(0.1%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。2%のスキムミルクを含むPBSTを添加し、室温で1時間インキュベートした。スキムミルクを含むPBSTを取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。1-5で回収した培養上清をPBSTで50倍に希釈し、さらに2%のスキムミルクを含むPBSTで10倍に希釈した。Certolizumab Recombinant Human Monoclonal Antibody(Invitrogen)の希釈系列についても同様の希釈操作を実施した。希釈後の溶液をTNF-αを固相化した各ウェルに対して100μLずつ添加し、室温で1時間インキュベートした。希釈した溶液を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。検出抗体にはGoat anti-Human IgG (H+L) Secondary Antibody,HRP(Invitrogen)を用いた。PBSTにより検出抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに100μLの検出抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。検出抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し、遮光下で10分間インキュベートした。100μLの0.5mol/L硫酸を添加したのち、Microplate Readerを用いて吸光度490nmを測定した。Certolizumab Recombinant Human Monoclonal Antibody(Invitrogen)の希釈系列濃度を元にFab_c生産量を算出し、pHY300PLKを導入したFab_c生産株に対する相対値を示した(
図1)。その結果、FkpA、FKBP_l、FKBP_K、FKBP_E、FKBP_P、MJFKS発現用プラスミドを保持したFab_c生産株においてFab_cの生産量が大きく向上することが確認された。枯草菌の内在性因子であるPrsA発現用プラスミドを保持したFab_c生産株ではFab_cの生産量が低下した。尚、Fab_cは、プロリル結合異性化部位、具体的にはシス型のプロリル結合を有する。
【0064】
1-7.ウエスタンブロッティングによるFab生産の確認
1-5で得られた培養上清をLaemmli Sample Buffer(BIO-RAD)を等量混和後、99℃で5分間熱処理してサンプルを調製した。ゲルはAny kD
TM Mini-PROTEAN TGX
TM Precast Gel(BIO-RAD)を用いた。各ウェルに5μLのサンプルをアプライした後に210Vで5分間泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus Blue standard(BIO-RAD)を用い、Certolizumab Recombinant Human Monoclonal Antibody(Invitrogen)も標品として同時に泳動した。SDS-PAGEゲルから、Trans-Blot Turbo Mini PVDF Transfer Packs(BIO-RAD)、及びTrans-Blot Turbo System(BIO-RAD)を用いてタンパク質をPVDF膜へ転写した。抗体はGoat anti-Human IgG (H+L) Secondary Antibody,HRP(Invitrogen)を、抗体反応にはiBind Western System(Invitrogen)を用いた。1-Step Ultra TMB-Blotting Solution(Thermo Scientific)を用いて目的タンパク質を検出した(
図2)。1-6に示したELISA法での定量と同様にFkpA発現用プラスミドを保持したFab_c生産株においてpHY300PLKを導入したFab_c生産株よりも生産性が向上していることが確認された。PrsA発現用プラスミドを保持したFab_c生産株においてpHY300PLKを導入したFab_c生産株よりも生産性が低下していることも確認された。
【0065】
実施例2 高生産化に必要なドメインの検証
2-1.各ドメイン発現用プラスミドの設計
1-2で構築したFkpA発現用プラスミドをテンプレートとし配列番号63と配列番号64、配列番号65と配列番号66のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりFkpAのC末端領域またはN末端領域を除去し、FkpAのN末端領域(配列番号67)を発現するFkpA_N発現用プラスミドとC末端領域(配列番号68)を発現するFkpA_C発現用プラスミドをそれぞれ得た。
【0066】
2-2.枯草菌へのPPIase発現用プラスミドの導入
Fab_c生産株への2-1で構築した各ドメイン発現用プラスミドの導入は1-4に示すプロトプラスト法によって行った。
【0067】
2-3.Fab産生
2-2で作製した組換え枯草菌を500μLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、96穴プレート内で30℃で一晩培養し、前培養液とした。前培養液を800μLの15ppmテトラサイクリンを含む2×L-mal培地に1%接種し、96穴内で30℃で72時間培養した。培養終了時に4℃、3000rpm、20分間遠心し、上清を回収した。
【0068】
2-4.ELISA法によるFab生産量の定量
Fab_cの生産量を1-6に示すELISA法によって定量した。Certolizumab Recombinant Human Monoclonal Antibody(Invitrogen)の希釈系列濃度を元にFab_c生産量を算出し、pHY300PLKを導入したFab_c生産株に対する相対値を示した(
図3)。その結果、枯草菌生産系において大きな生産性向上効果を得るためには、FkpAのN末端領域とC末端領域を共に発現する必要があることが確認された。
【0069】
実施例3 PPIaseの局在箇所によるタンパク質高生産化効果の検証
3-1.Fab発現用プラスミドの構築
pHY300PLKをベースとして作製された組換えプラスミドpHY-S237(特開2014-158430号公報)をテンプレートとし、配列番号7と配列番号8のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、配列番号9と配列番号10のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込んだ。得られたプラスミドをテンプレートとし、配列番号11と配列番号13のプライマーセットを用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。配列番号69と配列番号70に示す重鎖及び軽鎖からなるFab_l(リゾチームに対するFab)をオペロンで発現可能な配列番号71に示す塩基配列をサーモフィッシャー社で人工合成し、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込むことでFab_l発現用プラスミドを構築した。
【0070】
3-2.PPIase発現株の構築
168株のゲノムをテンプレートとし、配列番号72と配列番号73、配列番号74と配列番号75、配列番号76と配列番号77のプライマーセットを用いたPCRによりbglP遺伝子領域を含むDNA断片(A)、yxxE遺伝子領域を含むDNA断片(B)、spoVG遺伝子由来のプロモーターDNA(C)を増幅した。プラスミドpC194 DNAを鋳型とし、配列番号55と配列番号56のプライマーセットを用いたPCRによりクロラムフェニコール耐性遺伝子領域(D)を増幅した。大腸菌DH5αのゲノムを鋳型とし配列番号78と配列番号79、配列番号79と配列番号80のプライマーセットを用いたPCRにより分泌シグナル又は膜上にタンパク質をアンカーするためのシグナルを連結したFkpAをコードするDNAを増幅した(E)(E’)。上記(A)(B)(C)(D)(E)または(A)(B)(C)(D)(E’)の5断片を混合して鋳型とし、配列番号72と配列番号75のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、5断片を連結しFkpAを分泌又は膜にアンカーして発現するゲノム組み込み用のDNA断片を得た。得られたゲノム組み込み用のDNA断片を用いてコンピテントセル法により枯草菌Dpr9ΔsigF株を形質転換した。形質転換後、クロラムフェニコール(10μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。このようにして得られたFkpAを分泌発現可能な菌株をFkpA_p株、FkpAを膜にアンカーして発現可能な菌株をFkpA_m株と命名した。
【0071】
3-3.枯草菌へのFab発現用プラスミドの導入
FkpA_p株及びFkpA_m株への3-1で構築したFab_l発現用プラスミドの導入は1-4に示すプロトプラスト法によって行った。
【0072】
3-4.Fab産生
3-3で作製した組換え枯草菌を500μLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、96穴プレート内で30℃で一晩培養し、前培養液とした。前培養液を800μLの15ppmテトラサイクリンを含む2×L-mal培地に1%接種し、96穴内で30℃で72時間培養した。培養終了時に4℃、3000rpm、20分間遠心し、上清を回収した。
【0073】
3-5.ELISA法によるFab生産量の定量
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno(商標)Plate(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに100μLの100μg/mL Lysozyme,from Egg White(Wako)を添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったLysozymeを取り除いた後200μLのPBST(0.1%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。2%のスキムミルクを含むPBSTを添加し、室温で1時間インキュベートした。スキムミルクを含むPBSTを取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。3-4で回収した培養上清を2%のスキムミルクを含むPBSTで10倍に希釈した。希釈後の溶液をLysozymeを固相化した各ウェルに対して100μLずつ添加し、室温で1時間インキュベートした。希釈した溶液を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。検出抗体にはMouse IgG Fab Antibody:HRP(biovalley)を用いた。PBSTにより検出抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに100μLの検出抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。検出抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し、遮光下で20分間インキュベートした。100μLの0.5mol/L硫酸を添加したのち、Microplate Readerを用いて吸光度490nmを測定した。得られた吸光度のFab_l発現用プラスミドをDpr9ΔsigFに導入した株に対する相対値を示した(
図4)。その結果、枯草菌は細胞膜付近でタンパク質を折りたたむことが知られているにも関わらず、FkpAを膜にアンカーして発現するよりも分泌発現させる方が目的タンパク質の高生産化に寄与することが明らかとなった。尚、Fab_lは、プロリル結合異性化部位、具体的にはシス型のプロリル結合を有する。
【0074】
実施例4 PPIase発現によるタンパク質高生産化
4-1.RNaseT1発現用プラスミドの構築
RNaseT1(配列番号100)のアミノ酸配列をコードする配列番号101に示す塩基配列をGenescript社のGenPlusクローニングによって1-1で構築したPPIase発現用プラスミドの配列番号49と配列番号50に示す領域の間に組み込む形で合成し、RNaseT1発現用プラスミドを得た。
【0075】
4-2.PPlase発現株へのRNaseT1発現用プラスミドの導入
枯草菌Dpr9ΔsigF株及び3-2で構築したFkpA_p株へのRNaseT1発現用プラスミドの導入は1-4に示すプロトプラスト法によって行った。
【0076】
4-3.RNaseT1産生
4-2で作製した組換え枯草菌を500μLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、96穴プレート内で30℃で一晩培養し、前培養液とした。前培養液を800μLの15ppmテトラサイクリンを含む2×L-mal培地に1%接種し、96穴内で30℃で72時間培養した。培養終了時に4℃、3000rpm、20分間遠心し、上清を回収した。
【0077】
4-4.SDS-PAGEによるRNaseT1生産量の定量
4-3で回収した培養上清とLaemmli Sample Buffer(BIO-RAD)を等量混和後、99℃で5分間熱処理してサンプルを調製した。ゲルはMini-PROTEIN TGX Stain-Free(BIO-RAD)を用いた。各ウェルに5μLのサンプルをアプライし、210Vで25分間泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus protein Unstained standard(BIO-RAD)を用いた。ChemiDoc MP Imaging Systemでタンパク質のバンドを検出した。リゾチーム標品(Sigma-Aldrich)をもとに作成した検量線によって検出したタンパク質を定量した(表1)。その結果、PPIaseの発現によりRNaseT1の生産量が大きく向上することが確認された。尚、RNaseT1は、プロリル結合異性化部位、具体的にはシス型のプロリル結合を有する。
【0078】
【0079】
参考例1 HMMプロファイルを用いたBCFKクレードに属するPPIase配列群の特定
・FKBPの系統解析
表2に示すPfamにPF00254ファミリーのSeed配列として登録されているFKBP配列群に配列番号81に示すFkpA配列を追加した配列群を用いて系統解析を行った。MAFFT v7.471のデフォルトパラメーターを用いてマルチプルアラインメントを構築したのち、trimAl v1.4.rev15によって保存領域を抽出し、ModelTest-NG v0.1.7を用いて進化モデルを選択した。系統解析にはIQ-TREE multicore version 2.0.3を用い、進化モデルにはLG+G4+Fを指定した。Figtree(http://tree.bio.ed.ac.uk/software/FigTree/)を用いて可視化した系統樹を
図5に示す。
図5のBCFKクレードに属するFKBP配列群のUniprot番号を表3に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
(2)BCFKクレードに属するFKBP配列群の特定
表3に示すBCFKクレードに属するFKBP配列群をFasta形式でまとめたファイルBCFK.fastaを用意した。MAFFT v7.471でmafft ――auto BCFK_mafft.fasta>BCFK.fastaのコマンドを実行し、マルチプルアラインメントを構築した。次に、HMMER バージョン3.3.2を用いて、hmmbuild ――pnone ――wnone BCFK_mafft.hmm BCFK_mafft.fastaのコマンドを実行し、
図6に示すHMMプロファイルを作成し、さらにhmmpress BCFK_mafft.hmmのコマンドを実行してバイナリ化した。表2に含まれるFKBP配列群のうち、BCFKクレードに属さないFKBP配列群をFasta形式でまとめたファイルNo_BCFK.Fastaを用意した。hmmscan ――tblout BCFK.tblout BCFK_mafft.hmm No_BCFK.Fastaのコマンドを実行することで、BCFKクレードを定義するHMMプロファイルに対してFKBP配列のうち、BCFKクレードに含まれない配列の相同性検索を行った。その結果、BCFKクレードに含まれない配列は全て112.3以下のHMMスコアとなることが確認された。次に、配列番号18、81~93で表されるPPIase(PrsA、FkpA、FKBP_l、FKBP_K、FKBP_E、FKBP_P、MJFKS、SurA、PpiA、Tig、FKBP2、FK153、FKBP52、CyP40)配列をFasta形式でまとめたファイルExpress_PPIase.Fastaを用意した。hmmscan ――tblout BCFK.tblout BCFK_mafft.hmm Express_PPIase.Fastaのコマンドを実行することで、BCFKクレードを定義するHMMプロファイルに対して実施例1に記載のPPIase配列の相同性検索を行った。相同性が見られない配列のHMMスコアは0として示した。結果を表4に示す。実施例1の1-6で高い生産性向上効果を示したFkpA、FKBP_l、FKBP_K、FKBP_E、FKBP_Pは150以上のHMMスコアを持っており、BCFKクレードに属するFKBP配列であると言える。このように任意のPPIase配列がBCFKクレードに属するPPIase配列かどうかを確認することができる。
【0083】