(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097705
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】スチールコード被覆用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20250624BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
C08L7/00
B60C1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214050
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】松本 弥生
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA13
3D131AA15
3D131BC36
3D131LA28
4J002AC011
4J002AC022
4J002AC032
4J002DA030
4J002DA040
4J002DE100
4J002DE246
4J002DK006
4J002EG036
4J002FD346
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】接着性能及び老化接着性能に優れるとともに、高い破断強度を示す、スチールコード被覆用ゴム組成物、並びに、これを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】下記条件Aを満たす天然ゴムを含むジエン系ゴムと、コバルト化合物とを含有し、上記コバルト化合物の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、コバルト元素含有量として0.1~0.3質量部である、スチールコード被覆用ゴム組成物。
条件A:25℃1気圧の環境下で50mLのオートクレーブに2gの天然ゴムと12mLの水を入れて密閉し、120℃で2時間加熱する。オートクレーブを25℃1気圧に戻し、抽出液を得る。25℃1気圧の環境下で測定した抽出液のpHが6以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件Aを満たす天然ゴムを含むジエン系ゴムと、コバルト化合物とを含有し、
前記コバルト化合物の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、コバルト元素含有量として0.1~0.3質量部である、スチールコード被覆用ゴム組成物。
条件A:25℃1気圧の環境下で50mLのオートクレーブに2gの天然ゴムと12mLの水を入れて密閉し、120℃で2時間加熱する。オートクレーブを25℃1気圧に戻し、抽出液を得る。25℃1気圧の環境下で測定した抽出液のpHが6以上である。
【請求項2】
前記pHが6.5以上である、請求項1に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物を、スチールコードの被覆に用いた、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード被覆用ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、強い衝撃や大きな荷重がかかるため、通常、ゴム組成物によって被覆された複数のスチールコードからなるベルト層を有する。スチールコードを被覆するためのゴム組成物(スチールコード被覆用ゴム組成物)としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、安全に対する要求が高まるなか、スチールコード被覆用ゴム組成物に対して、スチールコードへの接着性(以下、「接着性能」とも言う)や破断強度のさらなる向上が望まれている。特に、老化後の接着性能(以下、「老化接着性能」とも言う)のさらなる向上が望まれていている。
このようななか、本発明者が特許文献1に記載のゴム組成物について検討したところ、今後さらに高まるであろう要求を考慮すると、接着性能(特に老化接着性能)及び破断強度のさらなる向上が望ましいことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、接着性能及び老化接着性能に優れるとともに、高い破断強度を示す、スチールコード被覆用ゴム組成物、並びに、これを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定の天然ゴムを使用することで上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 下記条件Aを満たす天然ゴムを含むジエン系ゴムと、コバルト化合物とを含有し、
上記コバルト化合物の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、コバルト元素含有量として0.1~0.3質量部である、スチールコード被覆用ゴム組成物。
条件A:25℃1気圧の環境下で50mLのオートクレーブに2gの天然ゴムと12mLの水を入れて密閉し、120℃で2時間加熱する。オートクレーブを25℃1気圧に戻し、抽出液を得る。25℃1気圧の環境下で測定した抽出液のpHが6以上である。
(2) 上記pHが6.5以上である、上記(1)に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
(3) 上記(1)又は(2)に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物を、スチールコードの被覆に用いた、タイヤ。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、接着性能及び老化接着性能に優れるとともに、高い破断強度を示す、スチールコード被覆用ゴム組成物、並びに、これを用いたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のタイヤの実施態様の一例を表す部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物及び本発明のタイヤについて説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
また、高い破断強度を示すことを「破断強度が優れる」とも言う。
また、接着性能、老化接着性能及び破断強度が優れることをまとめて「本発明の効果が優れる」とも言う。
【0011】
[スチールコード被覆用ゴム組成物]
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物(以下、「本発明の組成物」とも言う)は、
下記条件Aを満たす天然ゴム(以下、「特定NR」とも言う)を含むジエン系ゴムと、コバルト化合物とを含有し、
上記コバルト化合物の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、コバルト元素含有量として0.1~0.3質量部である、スチールコード被覆用ゴム組成物。
条件A:25℃1気圧の環境下で50mLのオートクレーブに2gの天然ゴムと12mLの水を入れて密閉し、120℃で2時間加熱する。オートクレーブを25℃1気圧に戻し、抽出液を得る。25℃1気圧の環境下で測定した抽出液のpH(以下、「特定pH」ともいう)が6以上である。
【0012】
本発明の組成物はこのような構成をとるために上述した課題が解決されるものと考えらえる。その理由は、明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
【0013】
天然ゴムラテックス(以下、単に「ラテックス」とも言う)中には微生物が混入することが知られている。本発明者は、ラテックス中に存在する非ゴム成分のうち、天然ゴムの強度発現に必要な成分が上記微生物によって分解されること、そのような分解によって接着性能や破断強度が低下することを知見している。また本発明者は、ラテックスから得られる天然ゴム(生ゴム)を特定の条件の熱水で抽出したときのpHが上記微生物の量と相関することを知見している。これは微生物による有機酸の生成に起因するものと考えらえる。本発明はこれらの知見等に基づくものである。すなわち、特定NRは強度発現に必要な非ゴム成分を十分に含むため、そのような特定NRを含有する本発明の組成物は優れた接着性能及び破断強度を示すものと推測される。
【0014】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について説明する。
【0015】
〔ジエン系ゴム〕
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴムは特定NRを含むジエン系ゴムであれば特に制限されない。上記ジエン系ゴムは特定NR以外のジエン系ゴム(その他のジエン系ゴム)を含んでいてもよい。
【0016】
<特定NR>
上述のとおり、本発明の組成物に含有されるジエン系ゴムは、下記条件Aを満たす天然ゴム(特定NR)を含む。
条件A:25℃1気圧の環境下で50mLのオートクレーブに2gの天然ゴムと12mLの水を入れて密閉し、120℃で2時間加熱する。オートクレーブを25℃1気圧に戻し、抽出液を得る。25℃1気圧の環境下で測定した抽出液のpH(特定pH)が6以上である。
上記天然ゴムは、天然ゴムラテックスを凝固させて乾燥させた生ゴムであり、加硫前のものである。
【0017】
特定pHは、本発明の効果がより優れる理由から、6.3以上であることが好ましく、6.5以上であることがより好ましい。特定pHの上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、7以下であることがさらに好ましい。
【0018】
特定NRを得る方法は特に制限されない。例えば、後述する実施例欄に示されるように、天然ゴムラテックスを凝固する際に使用する酸の種類やその濃度を調整することによって、特定pHが6以上の天然ゴムを得ることができる。また、市販の天然ゴムについて特定pHを評価することによって、特定pHが6以上の天然ゴムを選定することもできる。
【0019】
(含有量)
ジエン系ゴム中の特定NRの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
ジエン系ゴム中の特定NRの含有量の上限は特に制限されず、100質量%である。
【0020】
<その他のジエン系ゴム>
その他のジエン系ゴムとしては、例えば、特定NR以外の天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレン共重合ゴムなどが挙げられる。
【0021】
(含有量)
ジエン系ゴム中のその他のジエン系ゴムの含有量は特に制限されないが、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以下であることが特に好ましく、10質量%以下であることが最も好ましい。
ジエン系ゴム中のその他のジエン系ゴムの含有量の下限は特に制限されず、0質量%である。
【0022】
<分子量>
ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、100,000~5,000,000であることが好ましく、200,000~3,000,000であることがより好ましく、300,000~2,000,000であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、本明細書において重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0024】
〔コバルト化合物〕
本発明の組成物は、コバルト化合物(コバルト元素を含む化合物)を含有する。
コバルト化合物は、本発明の効果がより優れる理由から、有機酸コバルト塩であることが好ましい。
有機酸コバルト塩の具体例としては、酢酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、マロン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、プロピオン酸コバルト、安息香酸コバルト、p-ヒドロキシ安息香酸コバルト、脂肪酸コバルト・ホウ素化合物〔例えば、マノボンド CCP420(マンケム社製)、マノボンド CC680(マンケム社製)の市販品など〕、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルトなどが挙げられる。
有機酸コバルト塩は、本発明の効果がより優れる理由から、ナフテン酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、ステアリン酸コバルト、リノレン酸コバルト、パルチミン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、トール油酸コバルト、及び、ホウ素を含む有機酸コバルト塩からなる群より選択される化合物であるのが好ましい。ホウ素を含む有機酸コバルト塩は、本発明の効果がより優れる理由から、有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩であることが好ましく、ホウ酸三ネオデカン酸コバルトであることがより好ましい。
【0025】
<含有量>
本発明の組成物において、コバルト化合物の含有量は、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、コバルト元素含有量として0.1~0.3質量部である。以下、ジエン系ゴム100質量部に対するコバルト元素含有量としてのコバルト化合物の含有量を単に「コバルト元素含有量」とも言う。
【0026】
本発明の組成物において、コバルト化合物の含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~5質量部であることがより好ましく、0.5~3質量部であることがさらに好ましい。
【0027】
〔任意成分〕
本発明の組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに他の成分(任意成分)を含有することができる。
上記任意成分としては、例えば、充填剤(例えば、シリカ、カーボンブラック)、シランカップリング剤、テルペン樹脂(例えば、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、オイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0028】
<カーボンブラック>
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、カーボンブラックを含有するのが好ましい。
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、20~150m2/gであることが好ましく、40~140m2/gであることがより好ましい。なお、窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K6217-7に準拠して測定したものである。
【0029】
(含有量)
本発明のゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、その含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、10~100質量部であることが好ましく、30~70質量部であることがより好ましい。
【0030】
<酸化亜鉛>
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、酸化亜鉛を含有するのが好ましい。
【0031】
(含有量)
本発明のゴム組成物が酸化亜鉛を含有する場合、その含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、5~12質量部であることがより好ましい。
【0032】
<硫黄>
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、硫黄を含有するのが好ましい。
【0033】
(含有量)
本発明のゴム組成物が硫黄を含有する場合、その含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、4~9質量部であることがより好ましい。
【0034】
〔スチールコード被覆用ゴム組成物の製造方法〕
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄や加硫促進剤を含有する場合は、これらの成分以外の成分を先に高温(好ましくは130~190℃)で混合し、冷却してから、硫黄や加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0035】
〔用途〕
本発明の組成物は、スチールコードの被覆に好適に用いられる。なかでも、空気入りタイヤのスチールコードの被覆に好適であり、ベルト層、カーカス層、ビード部のスチールコードの被覆に特に好適である。
【0036】
[タイヤ]
本発明のタイヤは、上述した本発明の組成物をスチールコードの被覆に用いたタイヤである。本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。
【0037】
図1に、本発明のタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明のタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0038】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ここで、ベルト層7は本発明の組成物で被覆された複数のスチールコードからなる層である。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0039】
本発明のタイヤは、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例0040】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[天然ゴムの製造]
天然ゴムラテックスに酸を添加して凝固させ、さらに乾燥させることで、天然ゴム(生ゴム)を製造した。ここで、酸の種類、及び、酸の濃度(天然ゴムラテックス全体に対する質量%)を下記表1のとおり変更することで3種類の天然ゴム(NR1~3)を得た。
【0042】
【0043】
各天然ゴムの特定pHを表1に示す。NR1~2は特定pHが6以上であるため特定NRに該当する。一方、NR3は特定pHが6未満であるため特定NRに該当しない。
【0044】
[ゴム組成物の製造]
下記表2に示す成分を、同表に示す割合(質量部)で混合した。
具体的には、まず、下記表2に示す成分のうち硫黄及び加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて5分間混合して、160℃程度で放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキシングロールを用いて、得られたマスターバッチに硫黄及び加硫促進剤を混合し、ゴム組成物を得た。
【0045】
[評価]
得られたゴム組成物について以下の評価を行った。
【0046】
〔接着性能〕
得られたゴム組成物を使用し、12.7mm間隔で平行に並べたブラスめっきスチールコードを被覆すると共に、埋め込み長さ12.7mmで埋め込み、160℃×20分間の加硫条件で加硫接着してゴム付評価用サンプルを作製した。ASTM D-2229に準拠し、得られたゴム付評価用サンプルからスチールコードを引き抜き、その表面を被覆するゴム付着量(%)を評価した。
結果を表2に示す。結果は実施例1の値を100とする指数で表した。指数が大きいほど接着性能が優れることを意味する。実用上、指数は95以上であることが好ましい。
【0047】
〔老化接着性能〕
上述した接着性能の評価と同様にゴム付評価用サンプルを作製し、温度80℃、336時間の熱劣化の促進試験を行った。熱劣化させたサンプルを用い上述した接着性能の評価と同様にしてスチールコードを引き抜き、その表面を被覆するゴム付着量(%)を評価した。
結果を表2に示す。結果は実施例1の値を100とする指数で表した。指数が大きいほど老化接着性能が優れることを意味する。実用上、指数は95以上であることが好ましい。
【0048】
〔破断強度〕
得られたゴム組成物を所定形状の金型中で、170℃、10分間加硫して試験片を作製した。得られた試験片を用いて、JIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、500mm/分の引張り速度で試験を行って、破断強度を測定した。
結果を表2に示す。結果は実施例1の値を100とする指数で表した。指数が大きいほど破断強度が優れることを意味する。実用上、指数は95以上であることが好ましい。
【0049】
【0050】
表2に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR1~3:それぞれ上述のとおり製造したNR1~3
・NR4:天然ゴムラテックスを自然凝固させた生ゴムから作製した特定pHが5.8のTSR20
・BR:Nipol BR1220(日本ゼオン社製)
・カーボンブラック:シースト300(東海カーボン社製)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸(日油社製)
・老化防止剤:サントフレックス6PPD(フレキシス社製)
・コバルト化合物:ホウ酸三ネオデカン酸コバルト(コバルト元素含有量:22質量%)
・硫黄:クリステックスHS OT 20(アクゾノーベル社製)
・加硫促進剤:ノクセラーDZ(大内新興化学工業社製)
【0051】
表2から分かるように、天然ゴムとして特定NRを使用した実施例1~3は、いずれも優れた、接着性能、老化接着性能及び破断強度を示した。なかでも、特定NRの特定pHが6.5以上である実施例2~3は、より優れた、接着性能及び破断強度を示した。そのなかでも、ジエン系ゴム中の特定NRの含有量が90質量%以上である実施例2は、さらに優れた、接着性能、老化接着性能及び破断強度を示した。
【0052】
一方、特定NR以外の天然ゴムを使用した比較例1及び比較例4は、老化接着性能及び破断強度が不十分であった。また、コバルト化合物を含有しない比較例2は、接着性能、老化接着性能及び破断強度が不十分であった。また、コバルト元素含有量が0.3質量部を超える比較例3は、破断強度が不十分であった。