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特開2025-97712樹脂用摺動性向上剤およびこれを用いた樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097712
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】樹脂用摺動性向上剤およびこれを用いた樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/24 20060101AFI20250624BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250624BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20250624BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20250624BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20250624BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20250624BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20250624BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20250624BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20250624BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20250624BHJP
【FI】
C10M129/24
C08L101/00
C08K5/09
C08K5/07
C08K5/20
C10M133/16
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214059
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細木 龍智
(72)【発明者】
【氏名】巻口 琢郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 湧太郎
(72)【発明者】
【氏名】森重 貴裕
【テーマコード(参考)】
4H104
4J002
【Fターム(参考)】
4H104BB12C
4H104BB14R
4H104BE02R
4H104BE11C
4H104LA03
4H104LA20
4J002CB001
4J002CG001
4J002CL001
4J002EE036
4J002EE037
4J002EF058
4J002EP019
4J002GM00
4J002HA05
(57)【要約】
【課題】樹脂に添加して樹脂組成物とした際に、樹脂の機械物性を低下させることなく、樹脂組成物に摺動性を付与することが可能であり、さらには、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境下においても当該樹脂組成物の摺動性・曲げ特性・寸法を維持可能な樹脂用摺動性向上剤を提供すること。
【解決手段】上記課題を解決する樹脂用摺動性向上剤は、炭素数が29~61であり、平均炭素数がaであるジアルキルケトンA、および炭素数が25~57であり、平均炭素数がbであるジアルキルケトンBを含有し、前記aおよび前記bの差(a-b)が4以上8以下であり、かつ前記ジアルキルケトンAと前記ジアルキルケトンBとの質量比が95:5~99.9:0.1である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が29~61であり、平均炭素数がaであるジアルキルケトンA、および
炭素数が25~57であり、平均炭素数がbであるジアルキルケトンBを含有し、
前記aおよび前記bの差(a-b)が4以上8以下であり、かつ前記ジアルキルケトンAと前記ジアルキルケトンBとの質量比が95:5~99.9:0.1である、
樹脂用摺動性向上剤。
【請求項2】
炭素数が16~24の一価のカルボン酸と、ジアルキルアミンとから得られる脂肪酸アミドCをさらに含む、
請求項1に記載の樹脂用摺動性向上剤。
【請求項3】
β-ケトカルボン酸をさらに含む、
請求項1に記載の樹脂用摺動性向上剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂用摺動性向上剤、および樹脂を含み、樹脂100質量部に対して、前記樹脂用摺動性向上剤を0.01~20質量部含有する、
樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用摺動性向上剤およびこれを用いた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂等は、多くの用途に使用されている。上記の樹脂は、表面実装技術を利用する電気電子部品用途、エンジンルーム内の電装部品等の自動車部品用途、歯車や軸受け等の摺動部材等にも用いられるようになっており、これらの用途では、樹脂が本来有する性能を保持すること等が要求される。
【0003】
特許文献1には、ポリアセタール系樹脂に有機過酸化物を添加することで、樹脂部材の曲げ特性を維持しつつ、摺動性を向上させる技術が開示されている。しかし、上記樹脂部材の更なる用途拡大により、要求性能は更に高くなっている。特に、自動車業界においては急速に電気自動車への移行を推進し始めたため、車両重量の軽量化が緊急の課題となりつつある。自動車の軽量化には、金属部材から樹脂部材への代替が有効であり、摺動部位や特に容積の大きな外装部品の樹脂化は、軽量化への寄与が大きい。そこで、自動車メーカーは当該取り組みを強化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016―102207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車は、様々な環境下での使用が想定される。例えば、夏季と冬季では気温や湿度が大きく異なることが想定される。しかし、樹脂は温度や湿度の変化によって寸法変化が生じやすい。また、樹脂部材を摺動部位に使用する場合、寒冷地では、使用時と非使用時の摺動部位の温度差が大きくなる。そのため、高温および低温での温度サイクルが繰り返され、樹脂部材の摺動性と曲げ弾性率とが低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものである。樹脂に添加して樹脂組成物とした際に、樹脂の機械物性を低下させることなく、樹脂組成物に摺動性を付与することが可能であり、さらには、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境下においても当該樹脂組成物の摺動性・曲げ特性・寸法を維持可能な樹脂用摺動性向上剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の複数のジアルキルケトンを含む樹脂用摺動性向上剤によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、炭素数が29~61であり、平均炭素数がaであるジアルキルケトンA、および炭素数が25~57であり、平均炭素数がbであるジアルキルケトンBを含有し、前記aおよび前記bの差(a-b)が4以上8以下であり、かつ前記ジアルキルケトンAと前記ジアルキルケトンBとの質量比が95:5~99.9:0.1である、樹脂用摺動性向上剤を提供する。
【0009】
また本発明は、上記樹脂用摺動性向上剤、および樹脂を含み、樹脂100質量部に対して、樹脂用摺動性向上剤を0.1~20質量部含有する、樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂用摺動性向上剤は、樹脂に添加して樹脂組成物とした際、樹脂の機械物性を低下させることなく樹脂組成物に摺動性を付与可能であり、さらに、当該樹脂組成物が広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境下で使用されても摺動性・曲げ特性・寸法を維持させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限及び下限)の数値を含むものとする。例えば「2~10」は2以上10以下の範囲を表す。
【0012】
本発明の樹脂用摺動性向上剤(以下、単に「摺動性向上剤」とも称する)は、少なくとも2種類のジアルキルケトン、すなわちジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBを含有する。ジアルキルケトンは一般的に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したときに、分子量分布が見られることがある。そこで、本明細書における、ジアルキルケトンの「炭素数」とは、各ジアルキルケトンをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分析したときの、炭素の数の分布を意味する。また、炭素数が29~61であるとは、炭素数(炭素の数の分布)がこの範囲に収まっていることを意味し、炭素の数の分布が29から61まで必ず広がっていることを意味するものでない。また、本明細書において「平均炭素数」とは、ジアルキルケトンをGPCにより測定したときに見られる、炭素の数の分布におけるピークの炭素の数をいう。
【0013】
なお、本発明の摺動性向上剤は、3種類以上のジアルキルケトンを含んでいてもよい。ここで、本明細書では、摺動性向上剤が含む複数のジアルキルケトンのうち、炭素数が29~61であり、かつ最も含有量が多いジアルキルケトンをジアルキルケトンAとして取り扱う。一方で、平均炭素数(b)が、ジアルキルケトンAの平均炭素数aより4以上8以下少なく、かつ炭素数が25~57であるジアルキルケトンを、ジアルキルケトンBとして取り扱う。なお、摺動性向上剤は、ジアルキルケトンBを少なくとも一種含んでいればよく、二種以上含んでいてもよい。さらに、摺動性向上剤は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、炭素数が25~61であるジアルキルケトンであって、上記ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBに相当しない化合物(以下、「その他のジアルキルケトン」とも称する)をさらに含んでいてもよい。
【0014】
また、本発明の摺動性向上剤は、ジアルキルケトン以外の成分を含んでいてもよく、例えば後述の脂肪酸アミドCやβ-ケトカルボン酸Dを含んでいてもよい。以下、各成分について説明する。
【0015】
〔ジアルキルケトンA〕
本発明に用いられるジアルキルケトンAは、カルボニル基を1つ含み、かつその両側に脂肪族鎖(アルキル基)が結合した化合物であって、その炭素数および平均炭素数aが29~61である化合物であればよい。ジアルキルケトンAは、単一の成分で構成されていてもよく、上述のように、ある程度の分子量分布を有する混合物であってもよい。ジアルキルケトンの炭素数および平均炭素数aは、好ましくは29~51であり、より好ましくは29~41である。
【0016】
ここで、ジアルキルケトンAにおける2つの脂肪族鎖は、同一であってもよく異なっていてもよい。ただし、ジアルキルケトンAの結晶性の観点で、2つの脂肪族鎖の炭素数の差は、2以下であることが好ましく、より好ましくは0である。各脂肪族鎖は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状が好ましい。また、各脂肪族鎖は飽和また不飽和のいずれであってもよいが、飽和であることが好ましい。
【0017】
ジアルキルケトンAに用いられるケトンとしては、例えば、ジペンタデシルケトン、ジヘキサデシルケトン、ジヘプタデシルケトン、ヘプタデシルペンタデシルケトン、ジオクタデシルケトン、ジノナンデシルケトン、ジエイコシルケトン、ジヘンエイコシルケトン、ジドコシルケトン、ジトリコシルケトン、ジテトラコシルケトン、ジオクタコシルケトン、ジデカコシルケトン等が挙げられる。
【0018】
上記ジアルキルケトンAの調製方法は特に限定はされないが、例えば金属酸化物触媒の存在下、所望の脂肪族鎖を有するカルボン酸を、高温(好ましくは300~350℃の温度)で、高圧(好ましくは0.1~5MPa)下で反応させ、脱炭酸して得ることができる。使用可能な金属酸化物触媒としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。カルボン酸は、所望の炭素数に応じて適宜選択されるが、その例として、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸等が挙げられる。
【0019】
一方、上記ジアルキルケトンAを調製する際、上記カルボン酸および金属酸化物触媒の代わりに、カルボン酸マグネシウム塩、カルボン酸カルシウム塩、カルボン酸亜鉛塩等のカルボン酸金属塩を用いてもよい。これらの代表例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、パルミチン酸マグネシウム、モンタン酸マグネシウム、エイコサン酸マグネシウム、ヘキサコサン酸マグネシウム、ヘプタデカン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0020】
〔ジアルキルケトンB〕
本発明に用いられるジアルキルケトンBは、カルボニル基を1つ含み、かつその両側に脂肪族鎖が結合した化合物であって、その炭素数が25~57であり、かつ平均炭素数bが上記ジアルキルケトンAの平均炭素数aより4以上8以下少ない化合物であればよい。当該ジアルキルケトンBの炭素数および平均炭素数bは、好ましくは25~47であり、より好ましくは25~39である。上述のように摺動性向上剤は、ジアルキルケトンBに相当する化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0021】
上記ジアルキルケトンAの平均炭素数aと上記ジアルキルケトンBの平均炭素数bとの差(a-b)は、4以上8以下であればよく、好ましくは4以上6以下である。ジアルキルケトンAの平均炭素数aと上記ジアルキルケトンBの平均炭素数bとの差が当該範囲であると、ジアルキルケトンAの結晶性を、ジアルキルケトンBによって、適度に低下させることができる。その結果、摺動性向上剤を樹脂に添加した際、より均一にジアルキルケトンが分散しやすくなる。そして、樹脂本来の機械的特性を損なうことなく、樹脂組成物に高い摺動性を付与することが可能となる。また、ジアルキルケトンAやジアルキルケトンBは耐加水分解性などに優れる。したがって、これらが樹脂組成物中に均一に分散することにより、気温・湿度が変化しても樹脂組成物の性能が局所的に変化することがなく、長期間にわたって、優れた摺動性や各種特性を維持可能である。なお、上記ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBの平均炭素数が過度に離れると、ジアルキルケトンAの結晶系が低下しすぎてしまうが、その差(a-b)を4以上8以下とすることで、樹脂組成物のバランスよく性能を高めることができる。
【0022】
ここで、ジアルキルケトンBにおける2つの脂肪族鎖は、同一であってもよく異なっていてもよい。ただし、2つの脂肪族鎖の炭素数の差は、2以下であることが好ましく、より好ましくは0である。各脂肪族鎖は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状が好ましい。また、各脂肪族鎖は飽和また不飽和のいずれであってもよいが、飽和であることが好ましい。
【0023】
ジアルキルケトンBに用いられるケトンとしては、例えば、ジデシルケトン、ジウンデシルケトン、ジドデシルケトン、ジトリデシルケトン、ジテトラデシルケトン、ジペンタデシルケトン、ジヘキサデシルケトン、ジヘプタデシルケトン、ヘプタデシルペンタデシルケトン、ジオクタデシルケトン、ジノナンデシルケトン、ジエイコシルケトン、ジヘンエイコシルケトン、ジドコシルケトン、ジトリコシルケトン、ジテトラコシルケトン、ジオクタコシルケトン等が挙げられる。
【0024】
ジアルキルケトンBの調製方法は特に制限されず、上記ジアルキルケトンAの調製方法と同様の方法とすることができる。
【0025】
〔ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBの含有量〕
本発明の摺動性向上剤では、ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBの質量比は、95:5~99.9:0.1であり、好ましくは99:1~99.5:0.5である。なお、ジアルキルケトンBに相当する化合物を2種以上含む場合には、ジアルキルケトンAの含有量と、ジアルキルケトンBに相当する化合物の総量との比が、上記範囲に収まることが好ましい。摺動性向上剤が、上記ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBをこのような範囲ずつ含むと、摺動性向上剤の結晶化速度が制御されやすく、局所的な結晶化が抑制される。これにより、摺動性向上剤を用いた樹脂組成物の摺動性を高めることが可能であり、さらには温度や湿度変化によって当該樹脂組成物の摺動性や曲げ特性、寸法が変化し難くなる。
【0026】
上述のように、本発明の摺動性向上剤には、ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンB以外のその他のジアルキルケトンをさらに含んでいてもよい。その他のジアルキルケトンの総量は、ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBの総量に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。
【0027】
〔脂肪酸アミドC〕
上述のように、本発明の摺動性向上剤は、一価のモノカルボン酸とジアルキルアミンとから得られる3級アミド化合物からなる脂肪酸アミドCをさらに含んでいてもよい当該脂肪酸アミドCと、上述のジアルキルケトンAおよびジアルキルBとを併用することで、摺動性向上剤を用いた樹脂組成物の摺動性を高めたり、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境下での樹脂組成物の寸法安定性を高めたりすることができる。
【0028】
脂肪酸アミドCに用いられる一価のモノカルボン酸としては炭素数が16~24のものが好ましく、より好ましくは16~22である。一価のモノカルボン酸としては、例えばステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸等が挙げられる。脂肪酸アミドCの合成に使用するジアルキルアミンは、2つのアルキル基を有するアミンであればよく、2つのアルキル基は同一であってもよく、異なっていてもよい。これらのアルキル基は、炭素数が1~3であるものが好ましい。ジアルキルアミンとしては、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等が挙げられる。
【0029】
脂肪酸アミドCの具体例としては、N,N-ジエチルステアリン酸アミド、N,N-ジプロピルステアリン酸アミド、N,N-ジエチルベヘニン酸アミド、N,N-ジプロピルベヘニン酸アミド、N,N-ジエチルパルミチン酸アミド、N,N-ジプロピルパルミチン酸アミド等が挙げられる。
【0030】
摺動性向上剤の脂肪酸アミドCの配合量としては、上述のジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBの総量に対して0.1~5質量%が好ましい。
【0031】
上記脂肪酸アミドの製造法としては、特に限定されないが、例えば前述のカルボン酸とジアルキルアミンとを、80~250℃の条件下で脱水縮合することで得ることができる。
【0032】
〔β-ケトカルボン酸D〕
上述のように、本発明の摺動性向上剤は、下記一般式(I)で表されるβ-カルボン酸Dを含むことが好ましい。上記ジアルキルケトンAおよび上記ジアルキルケトンBと、当該β-ケトカルボン酸Dとを併用することで、摺動性向上剤を含む樹脂組成物の摺動性を高めたり、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境下での樹脂組成物の寸法安定性を高めたりすることができる。
【0033】
また特に、ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBに対して、脂肪酸アミドCおよびβ-ケトカルボン酸Dを併用することで、さらに摺動性、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境下で使用後の寸法安定性を高めることができる。
【化1】
上記一般式(I)中、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数14~22の直鎖飽和アルキル基を表し、好ましくは炭素数16~22の直鎖飽和アルキル基である。
【0034】
β-ケトカルボン酸Dの具体例としては、2-ヘキサデシル-3-オキソエイコサン酸、2-テトラデシル-3-オキソオクタデカン酸、2-イコシル-3-オキソテトラコサン酸等が挙げられる。
【0035】
摺動性向上剤の好ましいβ-ケトカルボン酸Dの量は、ジアルキルケトンAおよびジアルキルケトンBの総量に対して0.01~2質量%であることが好ましい。
【0036】
上記一般式(I)で表されるβ-ケトカルボン酸の合成方法は特に制限されず、自体公知の方法またはそれに準ずる方法で行い得るが、例えば、脂肪酸クロライドを有機塩基中で二量化させ、その後加水分解させることによって得ることができる。この際、有機塩基は特に限定されないが、収率良く目的物を得るためには、脂肪酸クロライドとの反応性から、3級アミン化合物を用いることが好ましい。例えば、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリフェニルアミンなどが挙げられる。この中でも、生成物との分離が容易な点からトリエチルアミンを用いることが好ましい。
【0037】
また、加水分解には塩基性水溶液を用いることが好ましく、生成したβ-ケトカルボン酸化合物との中和塩が過剰に生成するのを抑制するために、塩基は生成するβ-ケトカルボン酸化合物の理論物質量に対して、1mol%以下が好ましく、更には0.5mol%以下が好ましい。用いる塩基に特に指定はなく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
〔摺動性向上剤の調製方法〕
本発明の摺動性向上剤を得るには、上述したジアルキルケトンA、ジアルキルケトンB、および必要に応じて脂肪酸アミドCやβ-ケトカルボン酸D等のその他の成分を、個別に合成した後に混合してもよい。一方で、一括で合成可能なものについては、一括で合成してもよい。なお、個別に混合した成分を混合する場合は、各成分の融点以上の温度で加熱溶解して均一に混合後、冷却固化して粉砕または造粒することにより、本発明の摺動性向上剤を製造することが好ましい。
【0039】
本発明の樹脂用ケトンワックス組成物は、樹脂と共にケトンワックス組成物に含有される。
【0040】
2.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、樹脂および上記摺動性向上剤を含んでいればよい。上記摺動性向上剤は、樹脂100質量部に対して0.01~20重量部の範囲で使用され、好ましくは0.05~10重量部の範囲で使用され、より好ましくは0.1~5重量部の範囲で使用される。
【0041】
樹脂は特に限定されず、汎用樹脂として従来用いられるもの、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エンジニアリングプラスチックスとして従来用いられるもの、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、熱硬化性樹脂として従来用いられるもの、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、スーパーエンジニアリングプラスチックとして従来用いられるもの、例えば、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンスルファイド等が挙げられ、好ましくはエンジニアリングプラスチックスとして従来用いられるもの、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【実施例0042】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0043】
1.材料の準備
(1)ジアルキルケトンの合成
(合成例1)ジアルキルケトンA1(ジヘプタデシルケトン)の合成
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ステアリン酸マグネシウムを700.0g秤取り、窒素吹き込み下、250℃まで昇温した。その後、窒素を2MPa圧入し、温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた。続いて、100℃まで冷却して、粗ジアルキルケトン化合物を得た。窒素吹き込み下、100℃で、100メッシュの金属ストレーナを用い、得られた粗ジアルキルケトン化合物をろ過し、副生成物として生成した酸化マグネシウムを除去した。また、ろ過して得られたジアルキルケトン化合物をステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕することにより、ジアルキルケトンA1(ジヘプタデシルケトン)を得た。
【0044】
(合成例2)ジアルキルケトンA2(ジヘンエイコシルケトン)の合成
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ベヘニン酸を600.0g(1.8モル)と酸化マグネシウム35.6g(0.9モル)とを秤取り、窒素吹き込み下、250℃まで昇温した。その後、窒素を2MPa圧入し、温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた。続いて、100℃まで冷却して、粗ジアルキルケトン化合物を得た。窒素吹き込み下。100℃で、100メッシュの金属ストレーナを用い、得られた粗ジアルキルケトン化合物をろ過し、過剰の酸化マグネシウムを除去した。また、ろ過して得られたジアルキルケトン化合物をステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕することにより、ジアルキルケトンA2(ジヘンエイコシルケトン)を得た。
【0045】
(合成例3)ジアルキルケトンA3/B1(ジペンタデシルケトン)の合成
ステアリン酸マグネシウムの代わりに、同モル量のパルミチン酸マグネシウムを用いた以外は、合成例1と同様にして、ジアルキルケトンA3/B1(ジペンタデシルケトン)を得た。
【0046】
(合成例4)ジアルキルケトンA4(ジオクタコシルケトン)の合成
ベヘニン酸の代わりに、同モル量のモンタン酸を用いた以外は、合成例2と同様にして、ジアルキルケトンA4(ジオクタコシルケトン)を得た。
【0047】
(合成例5)ジアルキルケトンB2(ジエイコシルケトン)の合成
ベヘニン酸の代わりに、同モル量のアラキジン酸を用いた以外は、合成例2と同様にして、ジアルキルケトン化合物B2(ジエイコシルケトン)を得た。
【0048】
(合成例6)ジアルキルケトンB3(ジトリデシルケトン)の合成
ステアリン酸マグネシウムの代わりに、同モル量のミリスチン酸マグネシウムを用いた以外は、合成例1と同様にして、ジアルキルケトン化合物B3(ジトリデシルケトン)を得た。
【0049】
(合成例7)ジアルキルケトンB4(ジヘキサコシルケトン)の合成
ベヘニン酸の代わりに、同モル量のセロチン酸を用いた以外は、合成例2と同様にして、ジアルキルケトンB4(ジヘキサコシルケトン)を得た。
【0050】
(2)脂肪酸アミドの合成
(合成例8)脂肪酸アミドC1(N,N-ジエチルステリン酸アミド)の合成
温度計、窒素導入管、空冷管を取り付けた300mLの5つ口フラスコにステアリン酸(100g、0.35mol)を仕込み、滴下ロートにてジエチルアミン(102g、1.4mol)を徐々に投入した。その後、220℃で反応を行い、1時間当たりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、脂肪酸アミドC1(N,N-ジエチルステアリン酸アミド)を80g得た。
【0051】
(合成例9)脂肪酸アミドC2(N,N-ジエチルベヘニン酸アミド)の合成
ステアリン酸の代わりに、同モル量のベヘニン酸を用いた以外は、合成例8と同様にして、脂肪酸アミドC2(N,N-ジエチルベヘニン酸アミド)を得た。
【0052】
(3)その他の化合物の合成
(合成例10)β-ケトカルボン酸D1(2-ヘキサデシル-3-オキソエイコサン酸)の合成
温度計、窒素導入管、攪拌羽および冷却管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、トルエン300mL、およびステアリン酸クロライド50g(0.17mol)を加え、系内を攪拌しながら、トリエチルアミン18.2g(0.18mol)を滴下した。滴下完了後、2時間反応を継続させ、その後水50gを用いた分液処理を10回実施し、そこに炭酸カリウム1.2g(0.01mol)と水(118.8g)とを加え、70℃にて15分反応させ、静置後に水層を除去した。更に、50℃で静置し、生じた沈殿物および炭酸カリウムの残渣を濾過にて除去した。濾液からトルエンを減圧留去することで、β-ケトカルボン酸D1(2-ヘキサデシル-3-オキソエイコサン酸)を10g得た。
【0053】
(4)各化合物のまとめ
上記合成例1~9で調製した化合物名等を書き表1~3に示す。
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
2.樹脂用摺動性向上剤の調製
撹拌羽、窒素導入管を取り付けた0.3L容のセパラブルフラスコに、上述の合成例で調製したジアルキルケトンA、ジアルキルケトンB、脂肪酸アミドC、およびβ-ケトカルボン酸化合物Dを、表4に示す質量比で入れた。そして、これらを溶融混合させ、窒素気流下、150℃で1時間撹拌した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、組成物1~9を得た。
【0057】
【表4】
【0058】
3.評価材の作製
実施例1~7、ならびに比較例1および2の樹脂用摺動性向上剤を、表5に示す樹脂と、表6に示す組み合わせでブレンドすることにより評価材を作製した。具体的には、各樹脂99質量部に対して樹脂用摺動性向上剤1質量部をドライブレンドした。そして、二軸押出機(PCM-30:池貝社製)にて250℃の設定温度で混練造粒することにより、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を射出成形機にてシリンダ温度290℃、金型温度90℃の設定で射出成形し、評価材(80mm×55mm×2mm)を作製した。
【0059】
【表5】
【0060】
4.樹脂用摺動性向上剤の評価
各樹脂用摺動性向上剤について、以下の項目を評価した。
【0061】
<摺動性の評価(摩擦係数の評価)>
上記で得られた評価材について、バウデン試験機にて接触子(半円柱ステンレス、1cm)、荷重:100g、速度:2.5mm/s、測定距離:25mm、試験回数:5回の条件下摩擦係数を測定し、平均値を算出した。評価基準は下記の通りである。
◎:平均摩擦係数が0.050未満
○:平均摩擦係数が0.050以上0.075未満
△:平均摩擦係数が0.075以上0.100未満
×:平均摩擦係数が0.1以上
【0062】
<曲げ弾性率の評価>
上記で得られた評価材についてJIS K-7203に準拠し、試験速度2mm/minとして曲げ弾性率を測定した。評価基準は下記の通りである。
◎:曲げ弾性率が2.5GPa以上
○:曲げ弾性率が2.25以上2.5GPa未満
△:曲げ弾性率が2.0以上2.25GPa未満
×:曲げ弾性率が2.0GPa未満
【0063】
<加速試験>(冷熱サイクル試験)
上記で得られた評価材について、-25℃・湿度80%で48時間、昇温時間1時間、60℃・湿度10%で48時間、および降温時間1時間を1サイクルとした条件を10サイクル繰り返す冷熱サイクル試験を行い、試験前後での評価材の、摺動性(摩擦係数の評価)、機械的物性(曲げ弾性率)、および寸法安定性の変化率をそれぞれ評価した。摺動性および曲げ弾性率の評価基準は上記と同様である。
【0064】
冷熱サイクル試験前後の摩擦係数の変化率の計算式および評価基準は下記の通りである。
変化率(%)=|(初期の値)-(加速試験後の値)|/(初期の値)×100
◎:変化率が10.0未満
○:変化率が10.0以上15.0未満
△:変化率が15.0以上30.0未満
×:変化率が30.0以上
【0065】
冷熱サイクル試験前後の曲げ弾性率の変化率の計算式および評価基準は下記の通りである。
変化率(%)=|(初期の値)-(加速試験後の値)|/(初期の値)×100
◎:変化率が3.5未満
○:変化率が3.5以上7.0未満
△:変化率が7.0以上10未満
×:変化率が10以上
【0066】
冷熱サイクル試験前後の寸法安定性については評価材において最も長い部分の値を用いて、下記式より変化率を算出した。
変化率(%)=|(初期の値)-(加速試験後の値)|/(初期の値)×100
寸法安定性の評価基準は下記の通りである。
◎:変化率が0.75未満
○:変化率が0.75以上1.00未満
△:変化率が1.00以上1.50未満
×:変化率が1.50以上
【0067】
実施例1~9、ならびに比較例1および2に係る評価材についての評価結果を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
実施例1~9に使用した樹脂用摺動性向上剤(組成物1~7)は、炭素数が29~61であり、平均炭素数がaであるジアルキルケトンA、および炭素数が25~57であり、平均炭素数がbであるジアルキルケトンBを含有し、aおよびbの差(a-b)が4以上8以下であり、かつジアルキルケトンAと前記ジアルキルケトンBとの質量比が95:5~99.9:0.1である、本発明の樹脂用摺動性向上剤であった。上記評価結果によると、本発明の樹脂用摺動性向上剤(組成物1~7)を用いた場合には、樹脂の良好な曲げ弾性率を有し、かつ良好な動摩擦係数(摺動性)が得られた(実施例1~9)。さらに、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境下においても、摺動性・曲げ特性・寸法が維持されていた。
【0070】
一方、比較例1の樹脂用摺動性向上剤(組成物8)はジアルキルケトンBを含有しないものであった。比較例1では、初期の摺動性および曲げ特性は優れるものの、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境に置いた後、摺動性および寸法安定性が低下した。
【0071】
また、比較例2の樹脂用摺動性向上剤(組成物9)もジアルキルケトンBを含有しないものであった。比較例2でも、初期の摺動性および曲げ特性が優れるものの、広範囲の温度・湿度変化が繰り返される環境に置いた後には、摺動性、曲げ特性および寸法安定性が低下した。