(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097803
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20250624BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
H01L21/78 U
H01L21/78 G
B28D5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214219
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南雲 裕司
(72)【発明者】
【氏名】植茶 雅史
(72)【発明者】
【氏名】奥田 勝
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
【テーマコード(参考)】
3C069
5F063
【Fターム(参考)】
3C069AA03
3C069BA03
3C069BA04
3C069BB01
3C069BB04
3C069BC02
3C069CA05
3C069CB02
3C069CB05
3C069EA05
5F063AA05
5F063BA45
5F063CB03
5F063CB10
5F063CB28
5F063DD34
5F063DD81
5F063DF12
5F063EE21
5F063EE85
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体ウェハに対するクラックの形成に起因する残留応力を低減する半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】方法は、結晶軸が第1表面の垂線に対して傾斜している半導体ウェハを準備する工程、第1表面において結晶軸の傾斜方向に沿う第1方向に沿って第1表面に第1の荷重で押圧部材を押し当てることで、半導体ウェハに、第1方向に沿うとともに半導体ウェハの厚み方向に延びる第1クラックを形成する工程、第1表面において第1方向に対して直交する第2方向に沿って第1表面に第1の荷重よりも小さい第2の荷重で押圧部材を押し当てることで、半導体ウェハに、第2方向に沿うとともに半導体ウェハの厚み方向に延びる第2クラックを形成する工程及び第1表面の裏側に位置する第2表面側から、第1クラック及び第2クラックに沿って半導体ウェハに分割部材を押し当てることで、各クラックに沿って半導体ウェハを分割する工程を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置(10)の製造方法であって、
結晶軸(A)が第1表面(2a)の垂線に対して傾斜している半導体ウェハ(2)を準備する工程と、
前記第1表面において前記結晶軸の傾斜方向に沿う第1方向に沿って前記第1表面に第1の荷重で押圧部材(32)を押し当てることにより、前記半導体ウェハに、前記第1方向に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びる第1クラック(5a)を形成する工程と、
前記第1表面において前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って前記第1表面に前記第1の荷重よりも小さい第2の荷重で前記押圧部材を押し当てることにより、前記半導体ウェハに、前記第2方向に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びる第2クラック(5b)を形成する工程と、
前記第1表面の裏側に位置する第2表面(2b)側から、前記第1クラック及び前記第2クラックに沿って前記半導体ウェハに分割部材(33)を押し当てることにより、前記第1クラック及び前記第2クラックに沿って前記半導体ウェハを分割する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項2】
前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程の前に、前記半導体ウェハの前記第2表面に複数の素子構造(6)がマトリクス状に配列されるように複数の前記素子構造を形成する工程をさらに備え、
前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程では、前記素子構造の境界に沿って前記第1クラック及び前記第2クラックが形成される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程の後であって、前記半導体ウェハを分割する前記工程の前に、前記第1表面に金属膜(8)を形成する工程をさらに備える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記半導体ウェハは、SiCにより構成されている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記結晶軸がc軸である、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スクライブアンドブレイクという工法により基板を分割する技術が開示されている。特許文献1では、第1方向に沿って基板の表面に押圧部材を押し当てることにより、基板に第1方向に沿って延びるクラックを形成した後、第1方向と交差する第2方向に沿って基板の表面に押圧部材を押し当てることにより、基板に第2方向に沿って延びるクラックを形成する。その後、分割部材を押し当てることにより、形成したクラックに沿って基板を分割する。
【0003】
特許文献1では、第1方向に沿うクラックを形成するときに基板の表面に押圧部材を押し当てる荷重が、第2方向に沿うクラックを形成するときに基板の表面に押圧部材を押し当てる荷重よりも大きい。これにより、第1方向に沿うクラックと第2方向に沿うクラックとの交点近傍における基板の不具合(例えば、チッピング)を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、半導体ウェハを分割するためにスクライブアンドブレイク工法が採用されることがある。半導体ウェハは、その表面の垂線に対して結晶軸が傾斜している場合がある。クラックは、半導体ウェハの厚み方向において、結晶軸に沿って半導体ウェハの内部に形成され易い。結晶軸の傾斜方向に交差する方向に沿ってクラックを形成する場合、半導体ウェハの厚み方向におけるクラックの形成方向(当該垂線に対して傾斜する方向)が、半導体ウェハの表面に対する押圧部材の押圧方向(当該垂線に沿う方向)に対して傾くため、半導体ウェハ内部に応力が生じる。すなわち、クラックを形成する方向によって、半導体ウェハ内部に生じる応力の大きさが異なる。その結果、半導体ウェハを分割した後も、当該応力が残留応力として存在し、製造される半導体装置の特性が悪化する。本明細書では、半導体ウェハに対するクラックの形成に起因する残留応力を低減する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する半導体装置(10)の製造方法は、結晶軸が第1表面(2a)の垂線に対して傾斜している半導体ウェハ(2)を準備する工程と、前記第1表面において前記結晶軸の傾斜方向に沿う第1方向に沿って前記第1表面に第1の荷重で押圧部材(32)を押し当てることにより、前記半導体ウェハに、前記第1方向に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びる第1クラック(5a)を形成する工程と、前記第1表面において前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って前記第1表面に前記第1の荷重よりも小さい第2の荷重で前記押圧部材を押し当てることにより、前記半導体ウェハに、前記第2方向に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びる第2クラック(5b)を形成する工程と、前記第1表面の裏側に位置する第2表面(2b)側から、前記第1クラック及び前記第2クラックに沿って前記半導体ウェハに分割部材(33)を押し当てることにより、前記第1クラック及び前記第2クラックに沿って前記半導体ウェハを分割する工程と、を備える。なお、第1クラック形成工程と第2クラック形成工程は、いずれを先に実施してもよい。
【0007】
この製造方法では、第1方向が結晶軸の傾斜方向に沿っているため、第1方向に沿って第1クラックを形成すると、半導体ウェハの厚み方向における第1クラックの形成方向が、押圧部材による押圧方向に略一致する。このため、第1クラックの形成に起因して半導体ウェハ内部に生じる応力は小さい。一方、第2方向は結晶軸の傾斜方向に直交する方向であるため、第2方向に沿って第2クラックを形成すると、半導体ウェハの厚み方向における第2クラックの形成方向が、押圧部材による押圧方向に対して傾く。このため、第2クラックの形成に起因して半導体ウェハ内部に生じる応力は大きくなる。しかしながら、この製造方法では、第2クラックを形成するときの押圧部材の第2の荷重が、第1クラックを形成するときの押圧部材の第1の荷重よりも小さい。このため、第2クラックを形成するときに、第2クラックの形成方向と押圧部材の押圧方向との相違に起因する応力が低減する。その結果、半導体ウェハの分割後における半導体装置全体の残留応力が低減され、高い信頼性を有する半導体装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図6】クラックが形成された半導体ウェハの断面の走査電子顕微鏡画像。
【
図8】ダイシングテープ貼り付け工程を説明するための図。
【
図13】実施例と比較例の半導体装置の残留応力を、第1表面から第2表面に向かって測定したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程の前に、前記半導体ウェハの前記第2表面に複数の素子構造がマトリクス状に配列されるように複数の前記素子構造を形成する工程をさらに備えてもよく、前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程では、前記素子構造の境界に沿って前記第1クラック及び前記第2クラックが形成されてもよい。
【0010】
クラックを形成するときには、押圧部材を押し当てた表面の近傍に応力が生じ易い。上記の構成によれば、素子構造が設けられた第2表面側ではなく、その裏側に位置する第1表面側から押圧部材を押し当てる。このため、仮に第1表面近傍に残留応力が存在しても、半導体装置の機能を実現する素子構造に対する影響を低減することができる。
【0011】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程の後であって、前記半導体ウェハを分割する前記工程の前に、前記第1表面に金属膜を形成する工程をさらに備えてもよい。
【0012】
このような構成では、第1表面に形成した金属膜を半導体装置の電極として機能させることができる。
【0013】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記半導体ウェハは、SiCにより構成されていてもよい。また、前記結晶軸がc軸であってもよい。
【0014】
(実施例)
図面を参照して実施例の製造方法を説明する。
図1は、半導体装置の製造に用いる半導体ウェハ2の平面図を示している。半導体ウェハ2は、円板形状を有している。半導体ウェハ2の外周面には、オリエンテーションフラット2fが設けられている。半導体ウェハ2には、複数の素子領域3がマトリクス状に配置されている。
図1では、各素子領域3を実線により模式的に示している。素子領域3は、トランジスタやダイオード等の素子構造が形成される領域である。説明の便宜上、隣り合う素子領域3の間の境界であって、後に半導体ウェハ2を個々の素子領域3に分割する際の線を分割予定線4と称する。分割予定線4は、実際に半導体ウェハ2の上に記された線ではなく、仮想的な線である。分割予定線4は、目視できるように、実際に半導体ウェハ2の上に描かれた線や溝であってもよい。半導体ウェハは、SiCにより構成されている。なお、半導体ウェハ2は、SiやGaN等、他の半導体材料によって構成されていてもよい。
図3等に示すように、半導体ウェハ2は、第1表面2aと、第1表面2aの裏側に位置する第2表面2bを有している。
【0015】
半導体ウェハ2は、
図2に示す六方晶の結晶構造を有している。
図2に示すように、半導体ウェハ2は、複数の結晶面を有している。図示していないが、
図2の紙面に平行な面が(0001)面である。本実施例では、
図1に示すように、SiCの結晶軸A(すなわち、c軸)が、
図1に示すz方向(すなわち、半導体ウェハ2の第2表面2bに立てた垂線V)に対してx方向に約4°傾斜している。結晶軸Aは、垂線Vに対してy方向には傾斜していない。すなわち、結晶軸Aは、垂線Vに対してxz平面内で傾斜している。言い換えると、本実施例では、(0001)面(すなわち、c面)が半導体ウェハ2の第2表面2bに対してx方向に約4°傾斜しており、(1-100)面がオリエンテーションフラット2fに平行な面であり、(11-20)面がオリエンテーションフラット2fに垂直な面に対してx方向に約4°傾斜している。
【0016】
実施例の製造方法は、素子構造形成工程、支持板貼り付け工程、第1クラック形成工程、第2クラック形成工程、金属膜形成工程、ダイシングテープ貼り付け工程、支持板剥離工程、保護部材被覆工程、分割工程を含む。
【0017】
(素子構造形成工程)
素子構造形成工程では、
図3に示すように、半導体ウェハ2の第2表面2bに複数の素子構造6を形成する。素子構造6は、第2表面2b側に設けられた電極、絶縁膜、n型領域及びp型領域の少なくとも1つを有する。素子構造6は、例えば、トレンチやゲート電極等、半導体装置の機能を実現するための構造を含む。この工程では、各素子領域3に対して、素子構造6がそれぞれ形成される。したがって、各素子構造6は、半導体ウェハ2の第2表面2b上にマトリクス状に配列されるように形成される。また、この工程では、素子構造6を形成するとともに、各素子領域3の半導体ウェハ2内部に、トランジスタやダイオードの機能を有する構造(不図示)を形成する。例えば、半導体ウェハ2の内部にMOSFETの構造を形成する場合、第2表面2bに露出する領域では、各素子構造6に対して個別にソース領域やボディ領域を形成する。一方、第1表面2aに露出する領域では、第1表面2aの略全域に亘ってドレイン領域を形成する。すなわち、ドレイン領域は、第1表面2aに露出する位置において、複数の素子領域3に跨るように形成される。
【0018】
(支持板貼り付け工程)
支持板貼り付け工程では、
図4に示すように、半導体ウェハ2の第2表面2bに対して、支持板12を貼り付ける。支持板12は、接着剤11を介して第2表面2bに貼り付けられる。支持板12は、例えばガラスにより構成されている。接着剤11は、例えばシリコン系接着剤であり、半導体ウェハ2を支持板12に接着する機能に加えて、半導体ウェハ2の第2表面2bに形成された素子構造6を保護する機能も有している。したがって、ここでは、接着剤11の厚さが素子構造6の厚さよりも厚くなるように、接着剤11が塗布される。その後、必要に応じて、半導体ウェハ2の第1表面2aを研削砥石により研削し、半導体ウェハ2を薄板化する。なお、
図4及び
図5では、第1表面2aを上にして半導体ウェハ2が描かれていることに留意されたい。
【0019】
(第1クラック形成工程)
半導体ウェハ2を薄板化した後、
図5に示す第1クラック形成工程を実施する。第1クラック形成工程では、支持板12に貼り付けられた半導体ウェハ2の第1表面2aに対して、スクライブホイール32を押し当てることにより、半導体ウェハ2の内部にクラック5を伴うスクライブラインを形成する。スクライブホイール32は、円板状(円環状)の部材であり、支持装置(不図示)に軸支されている。この工程では、スクライブホイール32を半導体ウェハ2の第1表面2aに押し当てながら、
図1のx方向に延びる各分割予定線4に沿って移動(走査)させる。スクライブホイール32は、分割予定線4に沿って移動する際に、路面上を転がるタイヤのように半導体ウェハ2の第1表面2a上を滑ることなく転がる。スクライブホイール32は、周縁部分が鋭くなっているが、半導体ウェハ2を切削することはなく、第1表面2aに対して押し付けられるだけである。第1クラック形成工程では、約2.0Nの荷重でスクライブホイール32が、第1表面2aに押し当てられる。第1表面2aがスクライブホイール32により押圧されると、半導体ウェハ2の内部には、第1表面2aの表層の領域に圧縮応力が生じる。スクライブホイール32による押圧箇所にはスクライブライン(すなわち、溝)が形成される一方で、圧縮応力が生じた領域の直下では、半導体ウェハ2の内部に引張応力が生じる。引張応力は、圧縮応力が生じる領域の直下において、半導体ウェハ2の第1表面2aに沿って、分割予定線4から離れる方向に生じる。この引張応力により、半導体ウェハ2の内部に、x方向に沿うとともに半導体ウェハ2の厚み方向に延びるクラック5が形成される。ここでは、スクライブホイール32を、第1表面2aに押し当てながら、x方向に沿う分割予定線4に沿って移動させることにより、y方向に隣り合う素子領域3の境界に沿うとともに、半導体ウェハ2の厚み方向に延びるように、クラック5が形成される。クラック5は、半導体ウェハ2の第1表面2aの表層近傍に形成される。スクライブホイール32が「押圧部材」の一例である。
【0020】
(第2クラック形成工程)
次に、第2クラック形成工程を実施する。第2クラック形成工程では、スクライブホイール32を半導体ウェハ2の第1表面2aに押し当てながら、
図1のy方向に延びる各分割予定線4に沿って移動(走査)させる。この工程は、スクライブホイール32を走査させる方向、及び、スクライブホイール32を第1表面2aに押し当てる荷重が約1.5Nであることを除いて、第1クラック形成工程と同様である。
【0021】
図6は、スクライブホイール32によりクラック5を形成した後の半導体ウェハ2の断面の走査電子顕微鏡画像である。
図6(a)は、半導体ウェハ2の第1表面2a近傍におけるy-z面の断面図であり、
図6(b)は、半導体ウェハ2の第1表面2a近傍におけるx-z面の断面図である。
図6に示すように、分割予定線4に沿ってスクライブホイール32を押し当てることにより、半導体ウェハ2の内部に、素子領域3の境界に沿ってクラック5a、5bが形成されていることがわかる。また、半導体ウェハ2の第1表面2aは、スクライブホイール32による半導体ウェハ2の塑性変形によりスクライブラインが僅かに凹んで観察される。また、
図6(a)に示すように、y-z断面では、SiCの結晶軸Aが第1表面2aの垂線Vに対して傾斜していないので、第1クラック5aは、半導体ウェハ2の厚み方向において、スクライブホイール32の押圧方向と略一致する方向に延びるように形成される。一方、
図6(b)に示すように、x-z断面では、SiCの結晶軸Aが第1表面2aの垂線Vに対して傾斜しているので、第2クラック5bは、半導体ウェハ2の厚み方向において、スクライブホイール32の押圧方向に対して傾斜する方向に延びるように形成される。
【0022】
(金属膜形成工程)
次に、
図7に示す金属膜形成工程を実施する。金属膜形成工程では、半導体ウェハ2の第1表面2aに金属膜8を形成する。金属膜8を構成する材料は特に限定されないが、例えば、アルミニウム、ニッケル及び金を積層した多層膜である。金属膜8は、第1表面2aの略全域を覆うように形成される。すなわち、金属膜8は、複数の素子領域3に跨るように第1表面2a上に形成される。金属膜8は、完成した半導体装置の電極として機能する。
【0023】
(ダイシングテープ貼り付け工程)
次に、
図8に示すダイシングテープ貼り付け工程を実施する。ダイシングテープ貼り付け工程では、金属膜8の表面にダイシングテープ13を貼り付ける。ダイシングテープ13は、金属膜8の略全域を覆うように貼り付けられる。ダイシングテープ13は、ダイシングフレーム(不図示)に固定される。なお、
図8以降は、再び第2表面2bを上にして半導体ウェハ2が描かれていることに留意されたい。
【0024】
(支持板剥離工程)
次に、
図9に示す支持板剥離工程を実施する。支持板剥離工程では、支持板12及び接着剤11を半導体ウェハ2の第2表面2bから剥離する。ここでは、例えば、接着剤11を溶剤によって溶解することにより、第2表面2bから接着剤11とともに支持板12を剥離する。これにより、半導体ウェハ2は、ダイシングテープ13により支持された状態となる。
【0025】
(保護部材被覆工程)
次に、
図10に示す保護部材被覆工程を実施する。保護部材被覆工程では、半導体ウェハ2の各素子領域3の各素子構造6の表面に跨るように保護部材15を貼り付けることによって、半導体ウェハ2の第2表面2bを保護部材15によって被覆する。保護部材15の材料は特に限定されないが、例えば、樹脂等を用いることができる。保護部材15を被覆することにより、後の分割工程等において、半導体ウェハ2の第2表面2bが保護される。
【0026】
(分割工程)
次に、
図11に示す分割工程を実施する。分割工程では、分割予定線4に沿ってブレイクプレート33を押し当て、分割予定線4に沿って(素子領域3の境界に沿って)半導体ウェハ2を分割する。ここでは、まず、半導体ウェハ2を2つの支持台34上に載置する。2つの支持台34は、間隔を空けて配置されている。半導体ウェハ2を支持台34に載置するときには、分割すべき位置(ブレイクプレート33を押し当てる位置)の下方に当該間隔が位置するように、半導体ウェハ2が載置される。その後、保護部材15を介して半導体ウェハ2の第2表面2b側からブレイクプレート33を押し当てる。ブレイクプレート33は、板状の部材であり、下端(第2表面2bに押し当てられる端縁)部分が稜線状(鋭い刃状)になっているが、半導体ウェハ2を切削することなく、押し付けられるだけである。
【0027】
ブレイクプレート33の下方には支持台34が存在しない(2つの支持台34の間隔が位置している)ので、ブレイクプレート33を第2表面2bに押し当てると、2つの支持台34の間隔内に入り込むように、半導体ウェハ2が撓む。ここで、クラック5は、半導体ウェハ2の第1表面2a側に形成されている。このため、半導体ウェハ2に第2表面2b側からブレイクプレート33を押し当てると、押し当てられた部分(ライン)を軸として半導体ウェハ2が撓み、第1表面2a側ではクラック5に対して分割位置に隣接する2つの素子領域3を引き離す方向に力が加わる。また、上述したように、クラック5の周囲には引張応力が印加されている。このため、第2表面2bにブレイクプレート33を押し当てると、クラック5が半導体ウェハ2の厚み方向に伸展し、クラック5を起点として、半導体ウェハ2が結晶面に沿って劈開する。これにより、半導体ウェハ2が分割される。また、金属膜8は、半導体ウェハ2の第1表面2a上に形成されているので、金属膜8に対しても分割位置に隣接する2つの素子領域3を引き離す方向に力が加わり、金属膜8が引き離されるように変形して分割される。なお、2つの支持台34に代えて半導体ウェハ2の第1表面2aの全体を1つの弾性支持板(又は1つの弾性支持板を介して1つ又は複数の支持台)で支持してもよい。この場合、ブレイクプレート33の下方に弾性支持板が存在するが、半導体ウェハ2が撓むと半導体ウェハ2の撓みに応じて弾性支持板が変形するので、ブレイクプレート33を第2表面2bに押し当てると、2つの支持台34により支持する場合(ブレイクプレート33の下方に支持台34が存在しない場合)と同様に、クラック5に対して分割位置に隣接する2つの素子領域3を引き離す方向に力が加わることとなる。ブレイクプレート33は、「分割部材」の一例である。
【0028】
分割工程では、上述のブレイクプレート33を第2表面2bに押し当てる工程を、各分割予定線4に沿って繰り返し実施する。これにより、半導体ウェハ2と金属膜8を各素子領域3の境界に沿って分割することができる。その後、
図12に示すように、個片化された素子領域3及び金属膜8をダイシングテープ13から剥離する。これにより、金属膜8(電極)が表面に形成された複数の半導体装置10が完成する。
【0029】
以上に説明したように、本実施例の製造方法では、x方向が結晶軸の傾斜方向に沿っているため、x方向に沿って第1クラック5aを形成すると、半導体ウェハ2の厚み方向における第1クラック5aの形成方向(すなわち、
図6(a)の結晶軸Aが延びる方向)が、スクライブホイール32による押圧方向(すなわち、
図6(a)の垂線Vが延びる方向)に略一致する。このため、第1クラック5aの形成に起因して半導体ウェハ2内部に生じる応力は小さい。一方、y方向は結晶軸の傾斜方向に直交する方向であるため、y方向に沿って第2クラック5bを形成すると、半導体ウェハ2の厚み方向における第2クラック5bの形成方向(すなわち、
図6(b)の結晶軸Aが延びる方向)が、スクライブホイール32による押圧方向(すなわち、
図6(b)の垂線Vが延びる方向)に対して傾く。このため、第2クラック5bの形成に起因して半導体ウェハ2内部に生じる応力は大きくなる。これらの応力は、半導体ウェハ2を分割した後も残留応力として存在する。残留応力が存在すると、製造された半導体装置が繰り返し動作したときに、残留応力が存在する領域の近傍において負荷が加わり易く、半導体装置の信頼性が低下する。
【0030】
しかしながら、本実施例の製造方法では、第2クラック5bを形成するときのスクライブホイール32の荷重(約1.5N)が、第1クラック5aを形成するときのスクライブホイール32の荷重(約2.0N)よりも小さい。このため、第2クラック5bを形成するときに、第2クラック5bの形成方向とスクライブホイール32の押圧方向との相違に起因する応力が低減する。
図6の領域Ra、Rbは、スクライブホイール32による押圧によって、半導体ウェハ2内部に生じる圧縮応力を示している。
図6に示すように、第2クラック5bの形成におけるスクライブホイール32の荷重を、第1クラック5aの形成におけるスクライブホイール32の荷重よりも小さくすることによって、領域Rbの範囲(すなわち、圧縮応力の大きさ)を領域Raの範囲と略等しくすることができる。これにより、製造される半導体装置10全体としての残留応力を低減することができる。
【0031】
また、
図13は、比較例(
図13(a))と実施例(
図13(b))の半導体装置の残留応力を測定したグラフを示している。
図13では、横軸が残留応力の値を示しており、縦軸が分割面(すなわち、スクライブホイールにより押圧された表面)からの距離を示している。残留応力は、引張応力を正の値で示し、圧縮応力を負の値で示している。比較例では、第1クラック5aと第2クラック5bを形成するときのスクライブホイール32の荷重が略等しい。上述したように、x-z断面では、結晶軸Aがスクライブホイール32の押圧方向に対して傾斜しているため、
図13(a)に示すように、比較例の半導体装置では、分割面の近傍(すなわち、クラックの近傍)において、大きな残留応力(約84MPa)が存在していることがわかる。一方、実施例の半導体装置10では、第2クラック5bの形成におけるスクライブホイール32の荷重を、第1クラック5aの形成におけるスクライブホイール32の荷重よりも小さくすることにより、
図13(b)に示すように、x-z断面における残留応力をy-z断面における残留応力(約55MPa)と同等の値まで低減することができる。このように、本実施例の製造方法によれば、半導体装置10全体の残留応力が低減され、信頼性の高い半導体装置10を得ることができる。
【0032】
また、本実施例では、素子構造6を、スクライブホイール32を押し当てる第1表面2a側ではなく、第1表面2aの裏側に位置する第2表面2bに形成する。このため、第1表面2a側に残留応力が存在しても、製造される半導体装置10の機能を実現する素子構造6に対する影響を低減することができる。
【0033】
なお、上述した実施例において、支持板貼り付け工程、ダイシングテープ貼り付け工程、及び保護部材被覆工程は実施されなくてもよい。また、金属膜形成工程は、第1クラック形成工程及び第2クラック形成工程の前に実施されてもよいし、実施されなくてもよい。すなわち、本明細書に開示の技術では、少なくとも、結晶軸が半導体ウェハの表面の垂線に対して傾斜している半導体ウェハに対して、第1クラック形成工程、第2クラック形成工程、及び分割工程を実施すればよい。
【0034】
以下に、本明細書に開示の製造方法の構成を列記する。
(構成1)
半導体装置の製造方法であって、
結晶軸が第1表面の垂線に対して傾斜している半導体ウェハを準備する工程と、
前記第1表面において前記結晶軸の傾斜方向に沿う第1方向に沿って前記第1表面に第1の荷重で押圧部材を押し当てることにより、前記半導体ウェハに、前記第1方向に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びる第1クラックを形成する工程と、
前記第1表面において前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って前記第1表面に前記第1の荷重よりも小さい第2の荷重で前記押圧部材を押し当てることにより、前記半導体ウェハに、前記第2方向に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びる第2クラックを形成する工程と、
前記第1表面の裏側に位置する第2表面側から、前記第1クラック及び前記第2クラックに沿って前記半導体ウェハに分割部材を押し当てることにより、前記第1クラック及び前記第2クラックに沿って前記半導体ウェハを分割する工程と、
を備える、製造方法。
(構成2)
前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程の前に、前記半導体ウェハの前記第2表面に複数の素子構造がマトリクス状に配列されるように複数の前記素子構造を形成する工程をさらに備え、
前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程では、前記素子構造の境界に沿って前記第1クラック及び前記第2クラックが形成される、構成1に記載の製造方法。
(構成3)
前記第1クラックを形成する前記工程及び前記第2クラックを形成する前記工程の後であって、前記半導体ウェハを分割する前記工程の前に、前記第1表面に金属膜を形成する工程をさらに備える、構成1又は2に記載の製造方法。
(構成4)
前記半導体ウェハは、SiCにより構成されている、構成1~3のいずれかに記載の製造方法。
(構成5)
前記結晶軸がc軸である、構成4に記載の製造方法。
【0035】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0036】
2:半導体ウェハ、2a:第1表面、2b:第2表面、2f:オリエンテーションフラット、3:素子領域、4:分割予定線、5a:第1クラック、5b:第2クラック、6:素子構造、8:金属膜、10:半導体装置、32:スクライブホイール、33:ブレイクプレート