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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097855
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】ゴムアウトソールを有する靴
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/18 20060101AFI20250624BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20250624BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20250624BHJP
   A43B 13/14 20060101ALI20250624BHJP
   A43B 13/42 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
A43B13/18
C08L1/02
C08L21/00
A43B13/14 A
A43B13/42 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214314
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】馬場 敦志
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 淳禎
【テーマコード(参考)】
4F050
4J002
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BA03
4F050BA05
4F050BA33
4F050BA43
4F050HA01
4F050HA05
4F050HA16
4F050HA20
4F050HA53
4F050HA56
4F050HA57
4F050HA58
4F050HA59
4F050HA63
4F050LA01
4J002AB012
4J002AC011
4J002AC081
4J002AC111
4J002AC113
4J002FA042
4J002FD012
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】着用者の様々な動作に応じた適切な変形による動作し易さを示し、且つ耐久性にも優れる靴を提供する。
【解決手段】一態様において、アウトソールと、アッパーとを備える靴であって、前記アウトソールが、下記式:2.5MPa<M100a<10MPa 1.1≦M100a/M100b<3.0 (式中、M100a及びM100bは、それぞれ、アウトソール長さ方向及びアウトソール幅方向の、引張試験におけるひずみ100%における応力である。)を満たす異方性ゴム部材を有する、靴が提供される。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウトソールと、アッパーとを備える靴であって、
前記アウトソールが、下記式:
2.5MPa<M100a<10MPa
1.1≦M100a/M100b<3.0
(式中、M100a及びM100bは、それぞれ、アウトソール長さ方向及びアウトソール幅方向の、引張試験におけるひずみ100%における応力である。)
を満たす異方性ゴム部材を有する、靴。
【請求項2】
前記異方性ゴム部材が、少なくとも前足部に存在する、請求項1に記載の靴。
【請求項3】
前記異方性ゴム部材が、少なくとも前足部と中足部とに存在する、請求項2に記載の靴。
【請求項4】
前記異方性ゴム部材が、前足部と中足部とに亘って延びている、請求項3に記載の靴。
【請求項5】
シャンクを備える、請求項1又は2に記載の靴。
【請求項6】
前記シャンクが、前記アウトソールの一部として前記アウトソールの中足部に存在し、
前記異方性ゴム部材が、前記シャンクに接している、請求項5に記載の靴。
【請求項7】
前記靴が、ミッドソールを更に備え、
前記シャンクが、前記アウトソールと前記ミッドソールとの間に配置されている、請求項5に記載の靴。
【請求項8】
前記異方性ゴム部材が、前記アウトソールの露出面において凹凸パターンを有する、請求項1又は2に記載の靴。
【請求項9】
前記異方性ゴム部材が、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、及び天然ゴムからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の靴。
【請求項10】
前記異方性ゴム部材が、セルロースナノファイバーを更に含む、請求項1又は2に記載の靴。
【請求項11】
前記異方性ゴム部材が、中空フィラー不含有である、請求項1又は2に記載の靴。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の靴の製造方法であって、
前記異方性ゴム部材がセルロースナノファイバーを含み、
前記方法が、
セルロースナノファイバーと、第1のゴムとを含むマスターバッチを製造する工程、
前記マスターバッチと、第2のゴムとを混合して、ゴム組成物を得る工程、
前記ゴム組成物を硬化させて前記異方性ゴム部材を得る工程、及び
前記異方性ゴム部材を有するアウトソールと、アッパーとを備える靴を組み立てる工程、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムアウトソールを有する靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、靴のアウトソールには、クッション性、耐摩耗性、グリップ性等の観点から、ゴム成形体が広く利用されている。また、これらの特性を更に向上する目的で、ゴム成形体中にフィラーを含有させることも広く行われている。近年、環境問題への意識の高まりから、ゴム成形体に含有させるフィラーとして、低比重且つ再生可能な材料であるセルロースの利用が検討されている。中でも、セルロースナノファイバーは、各種ゴムと組合せてゴム成形体を構成した際の当該ゴム成形体に与える使用量当たりの物性向上効果が良好であることから、ゴム成形体用のフィラーとして有望である。
【0003】
特許文献1は、底面に複数の凸部が形成された耐滑性履物底であって、前記履物底が、ゴム(A)及びセルロース繊維(B)を含有するゴム組成物を加硫してなる非発泡ゴムからなり、セルロース繊維(B)の平均繊維径が2~1000nmであり、平均繊維長が0.1~1000μmであり、ゴム(A)100質量部に対するセルロース繊維(B)の含有量が0.05~35質量部であり、かつJISK6253に従ってタイプAデュロメータを用いて測定される前記非発泡ゴムの硬度が30~80である耐滑性履物底を記載する。
【0004】
特許文献2は、加硫された非発泡のゴムと、充填材と、セルロース繊維と、メルカプト系シランカップリング剤とを含有する靴底であって、JISK6264-2のウイリアムス摩耗試験B法により求めた摩耗量が470mm3/1000回転以下である靴底を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-15149号公報
【特許文献2】特開2021-122456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
靴の着用者の動作(歩行、走行等)に際し、靴のソールは屈曲するのが通常である。しかし、着用者の様々な動作に起因し、ソールに掛かる外力の方向及び大きさは様々である。このような動作時にソールが適切に変形して追随するためには、想定される外力の方向及び大きさに応じて所望程度の変形し易さを発現し得るソールが望まれる。加えて、ソールの材質には、長期間の着用に耐える高い耐久性も求められる。
【0007】
特許文献1及び2に記載される履物底は、セルロース繊維を使用していることで環境負荷の低減という利点を有し得る。しかし、これら技術では、着用者の様々な動作に応じた適切な変形による動作し易さを示し、且つ耐久性にも優れる靴は提供されていない。
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、着用者の様々な動作に応じた適切な変形による動作し易さを示し、且つ耐久性にも優れる靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の項目を包含する。
[項目1]
アウトソールと、アッパーとを備える靴であって、
前記アウトソールが、下記式:
2.5MPa<M100a<10MPa
1.1≦M100a/M100b<3.0
(式中、M100a及びM100bは、それぞれ、アウトソール長さ方向及びアウトソール幅方向の、引張試験におけるひずみ100%における応力である。)
を満たす異方性ゴム部材を有する、靴。
[項目2]
前記異方性ゴム部材が、少なくとも前足部に存在する、項目1に記載の靴。
[項目3]
前記異方性ゴム部材が、少なくとも前足部と中足部とに存在する、項目2に記載の靴。
[項目4]
前記異方性ゴム部材が、前足部と中足部とに亘って延びている、項目3に記載の靴。
[項目5]
シャンクを備える、項目1~4のいずれかに記載の靴。
[項目6]
前記シャンクが、前記アウトソールの一部として前記アウトソールの中足部に存在し、
前記異方性ゴム部材が、前記シャンクに接している、項目5に記載の靴。
[項目7]
前記靴が、ミッドソールを更に備え、
前記シャンクが、前記アウトソールと前記ミッドソールとの間に配置されている、項目5に記載の靴。
[項目8]
前記異方性ゴム部材が、前記アウトソールの露出面において凹凸パターンを有する、項目1~7のいずれかに記載の靴。
[項目9]
前記異方性ゴム部材が、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、及び天然ゴムからなる群から選択される1種以上を含む、項目1~8のいずれかに記載の靴。
[項目10]
前記異方性ゴム部材が、セルロースナノファイバーを更に含む、項目1~9のいずれかに記載の靴。
[項目11]
前記異方性ゴム部材が、中空フィラー不含有である、項目1~10のいずれかに記載の靴。
[項目12]
項目1~11のいずれかに記載の靴の製造方法であって、
前記異方性ゴム部材がセルロースナノファイバーを含み、
前記方法が、
セルロースナノファイバーと、第1のゴムとを含むマスターバッチを製造する工程、
前記マスターバッチと、第2のゴムとを混合して、ゴム組成物を得る工程、
前記ゴム組成物を硬化させて前記異方性ゴム部材を得る工程、及び
前記異方性ゴム部材を有するアウトソールと、アッパーとを備える靴を組み立てる工程、
を含む、方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、着用者の様々な動作に応じた適切な変形による動作し易さを示し、且つ耐久性にも優れる靴が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一態様に係る靴の構成例を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一態様に係る靴の構成例を示す概略図である。
図3図3は、図1及び図2に示す靴をアウトソール側からみた図である。
図4A図4Aは、図1に示す靴のアウトソール表面(露出面)の一例を示す図である。
図4B図4Bは、図1に示す靴のアウトソール表面(露出面)の一例を示す図である。
図5A図5Aは、図2に示す靴のアウトソール表面(露出面)の一例を示す図である。
図5B図5Bは、図2に示す靴のアウトソール表面(露出面)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示の実施形態(以下、本実施形態ともいう。)を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変更が可能である。なお、図中、同一符号を付した要素は、同様の機能を有することが意図される。
【0012】
図1及び2は、本発明の一態様に係る靴の構成例を示す概略図である。図1及び2を参照し、本発明の一態様は、アウトソール11,21と、アッパー12、22とを備える靴10,20を提供する。一態様において、図1に示すように、靴10がミドルソール13を更に有してよい。靴10,20は、一態様において、インソール(図示せず)を更に有してよい。アウトソール11,21は、靴の外部に露出しており、露出面の少なくとも一部、一態様においては全部が、接地面を構成してよい。アウトソール11,21の露出面の一部(例えば土踏まずに対応する部位)が接地しないこともできる。ミドルソール13は、アウトソール11とアッパー12との間に配置されている。インソール(図示せず)は、靴10,20の内部空間(すなわち足入れ部)に露出している。インソールは着脱可能であってもよい。
【0013】
一態様において、靴10,20は、シャンクSを有してよい。シャンクSの配置は限定されず、例えば、図1に示すように、アウトソール11とミッドソール13との間に配置されていてよく、又は、図2に示すように、アウトソール21の一部として存在してよい。靴の種類は限定されず、革靴、スニーカー、各種作業靴、サンダル等を例示できる。アッパーは、足全体を覆う形状を有してよく、又は、例えば、爪先部及び/又は踵部を覆わない形状を有してよい。
【0014】
図3は、図1及び図2に示す靴をアウトソール側からみた図である。一般に、靴の部位は、爪先側から踵側に向かって、前足部F、中足部M、及び踵部Hに区分される。中足部Mは、着用者の土踏まずに概略対応する部位を含む部位である。図3を参照し、アウトソール表面に外接する長方形のうち長辺長さが最大となる長方形R(複数存在する場合には短辺長さが最小のもの)の長辺長さをアウトソール長さL、短辺長さをアウトソール幅Wとしたとき、アウトソール長さL 100%に対して、前足部Fの長さは45%程度、中足部Mの長さは25%程度、踵部Hの長さは30%程度であってよい。シャンクSは、通常、靴の中足部Mに配置されている。
【0015】
アッパーの材質は限定されず、例えば、天然皮革、人工皮革、合成繊維、天然繊維等のうち1種以上を所望に応じて選択してよい。アッパーは、縫製、接着等の従来公知の様式で、アウトソール及び/又はミッドソールと結合されてよい。
【0016】
ミドルソールの材質は、特に限定されない。例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンなどの発泡体を例示できる。
【0017】
シャンクは、着用時にソールの前後方向、左右方向及び/又は斜め方向の変形を抑制し得る形状及び材質を有していればよい。アウトソールとミッドソールとの間に配置される場合のシャンクは、例えば板状物であり得る。アウトソールの一部として配置される場合のシャンクは、所望に応じて種々の形状を有してよく、アウトソールの他の部位と接着等によって接合されていてもよい。アウトソールのシャンクは、例えば表面に凹凸パターンを有してもよい。シャンクの材質は所望に応じて適宜選択してよく、例えば、ポリアミド、繊維強化プラスチック、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリスチレン等を例示できる。
【0018】
本実施形態のアウトソールは、モジュラスが制御された異方性ゴム部材を有する。図4A及び図4Bは、図1に示す靴のアウトソール表面(露出面)の一例を示す図であり、図5A及び図5Bは、図2に示す靴のアウトソール表面(露出面)の一例を示す図である。すなわち、図4A及び図4Bは、シャンクがアウトソール外に配置される場合を例示し、図5A及び図5Bは、シャンクがアウトソールの一部として存在する場合を例示する。図4Aを参照し、アウトソール11aは、異方性ゴム部材111で構成される単一部材であってよい。又は、図4Bを参照し、アウトソール11bは、異方性ゴム部材111と追加の部材112との組合せ物であってもよい。図5A及び図5Bを参照し、シャンクSがアウトソール21a,21bに存在する場合、図5Aに示すように、アウトソール21aが、異方性ゴム部材211と、シャンクSとで構成されてよく、図5Bに示すように、アウトソール21bが、異方性ゴム部材211と、シャンクSと、追加の部材212との組合せ物であってもよい。追加の部材の数、位置及び形状は限定されず、所望に応じて任意に設計してよい。追加の部材の材質は、異方性ゴム部材の成分として例示する成分のうち1つ以上を含むものであってよい。
【0019】
一態様に係る靴は、シャンクを備える。この場合、アウトソールのうち、シャンク近傍の部位では当該シャンクの存在により変形が抑制されている一方、シャンクから離れている部位の少なくとも一部は、着用者の歩行、走行等の動作によって大きく変形する。アウトソールのうち、シャンク近傍の部位とは、一態様において、シャンクがアウトソールとミッドソールとの間に存在する場合の当該シャンクに重なっている部位であり、一態様において、シャンクがアウトソールの一部である場合の当該シャンクに隣接する部位である。アウトソールのうち、シャンクから離れており動作時に大きく変形する部位は、一態様において前足部である。したがって、アウトソールのうち、中足部は、靴の形状保持性の観点から、小変形時に変形し難いことが好ましく、前足部では、動作し易さの観点から、大変形時に変形し易いことが好ましい。
【0020】
≪異方性ゴム部材≫
図3を参照し、本実施形態の異方性ゴム部材は、アウトソール長さL方向のM100(100%モジュラス)が、アウトソール幅W方向のM100(100%モジュラス)よりも大きくなるように、モジュラスが制御されている。加えて、アウトソール長さL方向のM100(100%モジュラス)が所定範囲に制御されている。したがって、異方性ゴム部材は、着用者の様々な動作に応じた適切な変形による動作し易さを与え得る。具体的には、歩行、走行等の進行方向(すなわち足長方向)動作時と比べて、方向転換等の横方向(すなわち足幅方向)動作時の変形がより容易であることが、動作し易さの点で有利である。本実施形態の異方性ゴム部材は、上記のようにモジュラスが制御されていることで、着用者の様々な動作に応じた適切な変形による動作し易さを示し得る。なお、このような動作し易さを得る手法としては、複数部材の組合せ、アウトソール表面の凹凸パターン形成等も考えられる。しかし、本実施形態の異方性ゴム部材は、その材料特性自体によって所望の動作し易さを実現できることから、アウトソールの設計自由度が向上する。なお一態様において、異方性ゴム部材は、アウトソールの露出面において凹凸パターンを有してもよい。一態様において、凹凸パターンは、グリップ性向上等の目的で、アウトソールの露出面の一部(例えば接地面の少なくとも一部)、又はアウトソールの露出面の全部に設けられてよい。凹凸パターンの形状は限定されず、V字、波形等の溝が複数配列されていてよい。
【0021】
異方性ゴム部材は、好ましくは、少なくとも前足部に存在し、又は、少なくとも前足部と中足部とに存在し、又は、前足部と中足部とに亘って延びている。異方性ゴム部材は、アウトソール長さ方向において適度な(すなわち小さ過ぎず大き過ぎない)モジュラスを有するため、前足部に配置された場合には動作し易さに寄与し、中足部に配置された場合には靴形状保持性に寄与する。異方性ゴム部材が前足部と中足部とに亘って延びている場合(例えば、図4A図4B図5A及び図5Bに示すように)、動作し易さ、靴形状保持性、及び耐久性を、単一の異方性ゴム部材で実現できる。このような単一部材の使用は、部材数の低減による製造工程の簡略化等の点で有利である。
【0022】
図5A及び図5Bを参照し、一態様においては、シャンクSが、アウトソールの中足部Mに存在し、且つ異方性ゴム部材211が当該シャンクSに接している。典型的な態様において、異方性ゴム部材とシャンクとは接着等によって接合されている。又は、図4A及び図5Bを参照し、シャンクがアウトソール外に配置される態様においても、中足部Mに異方性ゴム部材111が存在してよい。
【0023】
一態様において、異方性ゴム部材は、下記式:
2.5MPa<M100a<10MPa
1.1≦M100a/M100b<3.0
(式中、M100a及びM100bは、それぞれ、アウトソール長さ方向及びアウトソール幅方向の、引張試験におけるひずみ100%における応力である。)
を満たす。
【0024】
M100a/M100b比が1.1以上であることは、アウトソール長さ方向のモジュラスが、アウトソール幅方向のモジュラスよりも大きいことを意味する。このような特性を有するゴム部材は、着用者の様々な動作に応じた適切な変形を得る点で有利である。すなわち、このようなゴム部材では、アウトソール長さ方向の変形追随性よりも、アウトソール幅方向の変形追随性がより高い。上記観点から、M100a/M100b比は、一態様において、1.1以上、又は1.3以上、又は1.4以上、又は1.5以上である。一方、靴形状保持性の観点から、M100bは小さ過ぎないことが有利である。上記観点から、M100a/M100b比は、一態様において、3.0未満、又は2.5以下、又は2.3以下、又は2.1以下、又は2.0以下である。
【0025】
M100aは、靴形状保持性の観点から、一態様において、2.5MPa超、又は3.0MPa以上、又は3.5MPa以上、又は4.0MPa以上、又は4.5MPa以上であり、動作のし易さの観点から、一態様において、10MPa未満、又は9.0MPa以下、又は8.5MPa以下、又は8.0MPa以下である。
【0026】
M100bは、靴形状保持性の観点から、好ましくは、1.5MPa以上、又は2.0MPa以上、又は2.5MPa以上、又は3.0MPa以上、又は3.5MPa以上であり、動作のし易さの観点から、好ましくは、5.0MPa以下、又は4.5MPa以下、又は4.0MPa以下である。
【0027】
モジュラスは、JIS K 6251に準ずる方法で測定される値である。
【0028】
異方性ゴム部材のショアA硬度は、靴の耐久性の観点から、好ましくは、40以上、又は50以上、又は55以上、又は60以上であり、着用感の観点から、好ましくは、85以下、又は80以下、又は75以下、又は70以下である。
硬度は、JIS K 6253-3に準ずる方法で測定される値である。
【0029】
異方性ゴム部材の引張強度は、靴の耐久性の観点から、好ましくは、4.0MPa以上、又は5.0MPa以上、又は5.5MPa以上であり、異方性ゴム部材の製造容易性の観点から、好ましくは、25MPa以下、又は20MPa以下、又は18MPa以下、又は17MPa以下、又は16MPa以下、又は15MPa以下である。
引張強度は、JIS K 6251-1に準ずる方法で測定される値である。
【0030】
異方性ゴム部材の引裂強度は、靴の耐久性の観点から、好ましくは、40N/mm以上、又は45N/mm以上、又は50N/mm以上であり、異方性ゴム部材の製造容易性の観点から、好ましくは、90N/mm以下、又は80N/mm以下、又は75N/mm以下である。
引裂強度は、JIS K 6252に準ずる方法で測定される値である。
【0031】
異方性ゴム部材の摩耗体積は、耐摩耗性の観点から、0.4cc以下、又は0.35cc以下、又は0.3cc以下であり、異方性ゴム部材の製造容易性の観点から、好ましくは、0.1cc以上、又は0.12cc以上、又は0.15cc以上である。
摩耗体積は、JIS K 6264-2に準じたDIN摩耗試験方法で測定される値である。
【0032】
異方性ゴム部材の貯蔵弾性率は、一態様において、2.5MPa以上、又は2.8MPa以上、又は3.0MPa以上、又は3.5MPa以上であってよく、一態様において、8.0MPa以下、又は7.5MPa以下、又は7.0MPa以下であってよい。
【0033】
異方性ゴム部材の損失正接は、運動時に地面からの反発力を生かす観点から、一態様において、0.15以下、又は0.13以下、又は0.10以下であってよく、グリップ性能の観点から、一態様において、0.05以上、又は0.06以上、又は0.07以上であってよい。
上記貯蔵弾性率及び損失正接は、レオメータを用い、ねじり方式で50℃、10Hzにて測定される値である。
【0034】
<ゴム(マトリクスゴム)>
異方性ゴム部材は、ゴムを含み、任意に他の成分を含む。以下、異方性ゴム部材のマトリクスを構成し得るゴム(本開示で、マトリクスゴムともいう。)について説明する。一態様において、マトリクスゴムは硬化物(一態様において架橋物)である。マトリクスゴムとしては、天然ゴム、共役ジエン系重合体、非共役ジエン系重合体、及び熱可塑性エラストマーを例示できる。マトリクスゴムは、好ましくは、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、及び天然ゴムからなる群から選択される1種以上を含む。ブタジエンゴムは主として耐摩耗性に寄与でき、スチレンブタジエンゴムは主としてグリップ性に寄与でき、イソプレンゴムは主として引張強度、引裂強度に寄与でき、アクリロニトリルブタジエンゴムは主としてオイルグリップ性に寄与でき、天然ゴムは主として引張強度、引裂強度に寄与できる。
【0035】
例えば、異方性ゴム部材を形成するためのゴム組成物は、第1のゴムを含むマスターバッチと、第2のゴムとの混合により得てよい。第1のゴム及び第2のゴムはマトリクスゴムを構成し得る。第1のゴムと第2のゴムとは、同種(特に、構成モノマー種及び分子量が同じ)であってもよいし、異種(特に、構成モノマー種及び/又は分子量が異なる)であってもよい。
以下、マトリクスゴムの例について説明する。
【0036】
[天然ゴム]
天然ゴムとしては特に限定されないが、例えば、高分子量成分が多く破壊強度に優れる観点から:スモーク乾燥タイプであるRSS(Ribbed Smoked Sheet)3~5号;機械乾燥のTSR(Technically Specified Rubber)として、SIR(Standard Indonesian Rubber)(インドネシア産)、STR(Standard Thai Rubber)(タイ産)、SMR(Standard Malaysian Rubber)(マレーシア産)等;及びエポキシ化天然ゴム等が挙げられる。
【0037】
[共役ジエン系重合体]
共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の共役ジエン単量体の共重合体若しくは共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。
【0038】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘプタジエン、及び1,3-ヘキサジエンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。
【0039】
一態様において、共役ジエン系重合体は、上記の共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体である。
芳香族ビニル単量体としては、共役ジエン単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、スチレン、又はp-メチルスチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン、及びジビニルベンゼンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。ゴム部材の成形加工性及び耐衝撃性の観点からは、スチレンが好ましい。
【0040】
ランダム共重合体としては、ブタジエン-イソプレンランダム共重合体、ブタジエン-スチレンランダム共重合体、イソプレン-スチレンランダム共重合体、及びブタジエン-イソプレン-スチレンランダム共重合体が挙げられる。共重合体鎖中の各単量体の組成分布としては、統計的ランダムな組成に近い完全ランダム共重合体、及び組成分布に勾配があるテーパー(勾配)ランダム共重合体が挙げられる。共役ジエン系重合体の結合様式、すなわち1,4-結合、1,2-結合等の組成は、分子間で均一又は異なっていてよい。
【0041】
ブロック共重合体は、2つ以上のブロックからなる共重合体であってよい。例えば、芳香族ビニル単量体のブロックAと、共役ジエン単量体のブロック及び/又は芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のブロックであるブロックBとが、A-B、A-B-A、A-B-A-B等の構造を構成しているブロック共重合体であってよい。なお各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はなく、例えば、ブロックBが芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体である場合、ブロックB中の芳香族ビニル単量体は均一又はテーパー状に分布してよい。また、ブロックBに、芳香族ビニル単量体が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数存在してもよい。さらに、ブロックBに、芳香族ビニル単量体含有量が異なるセグメントが複数存在してもよい。共重合体中にブロックA、ブロックBがそれぞれ複数存在する場合、それらの分子量及び組成は同一でも異なってもよい。
【0042】
ブロック共重合体は、結合形式、分子量、芳香族ビニル化合物種、共役ジエン化合物種、1,2-ビニル含量又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量、芳香族ビニル化合物成分含有量、水素添加率等のうち1つ以上が互いに異なる2種以上の混合物でもよい。
【0043】
共役ジエン系重合体における共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-又は3,4-結合)は、好ましくは、5モル%以上、又は10モル%以上、又は13モル%以上、又は15モル%以上であり、好ましくは、80モル%以下、又は75モル%以下、又は65モル%以下、又は50モル%以下、又は40モル%以下である。
共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-結合量)は、13C-NMR法(定量モード)によって求めることができる。すなわち、13C-NMRにおいて下記に現れるピーク面積を積分すれば、各構造単位のカーボン量に比例する値を得ることができ、結果として各構造単位の質量%に換算することができる。
スチレン 145~147ppm
ビニル 110~116ppm
ジエン(シス) 24~28ppm
ジエン(トランス) 29~33ppm
【0044】
共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体において、共役ジエン単量体と結合した芳香族ビニル単量体の量(本開示で、芳香族ビニル結合量ともいう。)は、共役ジエン系重合体の総質量に対して、好ましくは、5.0質量%以上70質量%以下、又は10質量%以上50質量%以下であってよい。芳香族ビニル結合量は、フェニル基の紫外線吸光度によって求めることができ、またこれに基づき共役ジエン結合量も求めることができる。
【0045】
共役ジエン系重合体は、部分水添又は完全水添されていてもよい。水素添加物の水素添加率は、加工時の熱劣化抑制の観点から、好ましくは、50%以上、又は80%以上、又は98%以上であり、低温靭性の観点からは、好ましくは、50%以下、又は20%以下、又は0%(すなわち非水添物)である。共役ジエン系重合体の水素添加物としては、上記で例示した共役ジエン系重合体の水素添加物が挙げられ、例えば、ブタジエン単独重合体、イソプレン単独重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の水素添加物であってよい。
【0046】
[非共役ジエン系重合体]
非共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の非共役ジエン単量体の共重合体若しくは非共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。非共役ジエン系重合体としては、
エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、エチレン-αオレフィン共重合体等のオレフィン系重合体、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α,β-不飽和ニトリル-アクリル酸エステル-共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
【0047】
エチレン-α-オレフィン共重合体において、エチレン単位と共重合できるモノマーとしては:プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、エイコセン-1、イソブチレンなどの脂肪族置換ビニルモノマー;スチレン、置換スチレンなどの芳香族系ビニルモノマー;酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステルなどのエステル系ビニルモノマー;アクリルアミド、アリルアミン、ビニル-p-アミノベンゼン、アクリロニトリルなどの窒素含有ビニルモノマー;ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレンなどのジエン、などを挙げることができる。
【0048】
好ましくはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、更に好ましくはエチレンと炭素数3~16のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、最も好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン1種以上とのコポリマーである。また、エチレン-α-オレフィン共重合体の数平均分子量は、耐衝撃性発現の観点から、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~100,000であり、より好ましくは10,000~80,000であり、更に好ましくは20,000~60,000である。また、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、流動性と耐衝撃性との両立の観点から、3以下が好ましく、さらには1.8~2.7がより好ましい。
なお、本開示で、各種ゴム(後述の添加剤ゴムも含む)の分子量及び分子量分布は、ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラム3本を連結して用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィを使用してクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用して検量線により計算して得られる値である。なお溶媒としてはテトラヒドロフランを使用する。
【0049】
また、エチレン-α-オレフィン共重合体の好ましいエチレン単位の含有率は、加工時の取り扱い性の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体全量に対し30~95質量%である。
【0050】
これら好ましいエチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、特公平4-12283号公報、特開昭60-35006号公報、特開昭60-35007号公報、特開昭60-35008号公報、特開平5-155930号公報、特開平3-163088号公報、米国特許第5272236号明細書等に記載されている製造方法で製造可能である。
【0051】
[変性ゴム]
ゴムは、変性ゴムであってもよく、例えば、前述で例示した共役ジエン系重合体又は非共役ジエン系重合体において、エポキシ基、酸無水物基、カルボキシ基、アルデヒド基、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基、イソシアネート基、メルカプト基等の変性基が導入されていてもよい。変性ゴムとしては、エポキシ変性天然ゴム、エポキシ変性ブタジエンゴム、エポキシ変性スチレンブタジエンゴム、カルボキシ変性天然ゴム、カルボキシ変性ブタジエンゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴム、酸無水物変性天然ゴム、酸無水物変性ブタジエンゴム、酸無水物変性スチレンブタジエンゴム等が例示される。
【0052】
全単量体単位100モル%に対する変性基の量は、セルロースナノファイバーとの親和性の観点から、好ましくは、0.1モル%以上、又は0.2モル%以上、又は0.3モル%以上であり、また好ましくは、5モル%以下、又は3モル%以下である。上記変性基量は、赤外吸収分光、固体NMR(核磁気共鳴)、溶液NMR、又は、予め特定された単量体組成と未変性ゴムに含まれない元素の元素分析による定量とを組み合わせて変性基のモル比を算出する方法によって確認できる。
【0053】
[熱可塑性エラストマー]
一態様において、ゴムは、熱可塑性エラストマーを含み又は熱可塑性エラストマーであることができる。本開示で、エラストマーとは、一態様において、室温(23℃)において弾性体である物質(具体的には天然又は合成の重合体物質)である。また、弾性体であるとは、一態様において、動的粘弾性測定で測定される23℃、10Hzでの貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下であることを意味する。熱可塑性エラストマーは、共役ジエン系重合体又は非共役ジエン系重合体であってよく、硬化物(一態様において架橋物)であってよい。熱可塑性エラストマーの好適な単量体組成は、上記の(共役ジエン系重合体)及び(非共役ジエン系重合体)の項で前述したのと同様であってよい。
【0054】
熱可塑性エラストマーの数平均分子量(Mn)は、衝撃強度と流動性との両立の観点から、好ましくは、10,000~500,000、又は40,000~250,000である。
【0055】
熱可塑性エラストマーは、コアシェル構造を有してもよい。コアシェル構造を有するエラストマーとしては、粒子状のゴムであるコアと、当該コアの外部に形成された、ガラス質のグラフト層であるシェルとを持つコア-シェル型のエラストマーが挙げられる。コアとしては、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合系ゴム等が好適である。また、シェルとしては、スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリル樹脂等のガラス状高分子が、好適である。
【0056】
熱可塑性エラストマーは、グリップ特性の観点から、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物、及びスチレンの単独重合体(ポリスチレン)から成る群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、及びポリスチレンからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【0057】
一態様においては、熱可塑性エラストマーの少なくとも一部が酸性官能基を有してよい。本開示で、熱可塑性エラストマーが酸性官能基を有しているとは、当該エラストマーの分子骨格中に、酸性官能基が化学結合を介して付加していることを意味する。また本開示で、酸性官能基とは、塩基性官能基などと反応可能な官能基を意味し、具体例としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホ基、酸無水物基等が挙げられる。
【0058】
エラストマー中の酸性官能基の付加量は、フィラーとの接着性の観点から、エラストマー100質量%基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%未満である。なお、酸性官能基の数は、あらかじめ酸性物質を混合した検量線用サンプルを赤外吸収スペクトル測定装置により測定し、酸の特性吸収帯を用いて作成しておいた検量線を元に、当該試料を測定することで得られる値である。
【0059】
酸性官能基を有するエラストマーとしては、アクリル酸等を共重合成分として用いて形成した層をシェルとして有するコアシェル構造を有するエラストマー、アクリル酸等をモノマーとして含むエチレン-αオレフィン共重合体、ポリオレフィン、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエン共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸又はその誘導体をグラフトさせた変性物であるエラストマー等が挙げられる。
【0060】
好ましい態様において、エラストマーは、酸無水物変性されたエラストマーである。
【0061】
これらの中では、ポリオレフィン、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエン共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸又はその誘導体をグラフトさせた変性物がより好ましく、中でも特にエチレン-α-オレフィンの共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体をグラフトさせた変性物が特に好ましい。
【0062】
α,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、及び無水フマル酸が挙げられ、これらの中で無水マレイン酸が特に好ましい。
【0063】
一態様において、エラストマーは、酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合物であってよい。酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合割合は、両者の合計を100質量%としたとき、酸性官能基を有するエラストマーが、ゴム硬化物の高靭性及び物性安定性を良好に維持する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上である。上限は特に限定されず、実質的にすべてのエラストマーが酸性官能基を有するエラストマーであってもよいが、流動性に課題を生じさせない観点から、80質量%以下が望ましい。
【0064】
<ゴム(添加剤ゴム)>
一態様において、異方性ゴム部材の形成に用いるゴム組成物は、上記<ゴム(マトリクスゴム)>の項で説明したゴムに加えて、添加剤としてのゴム(本開示で、添加剤ゴムともいう。)を更に含んでよい。一態様において、添加剤ゴムは液状ゴムである。液状ゴムとは、23℃において流動性を有しており、且つ架橋(より具体的には加硫)及び/又は鎖延長によってゴム弾性体を形成する物質を意味する。すなわち液状ゴムは一態様において未硬化物である。また流動性を有しているとは、一態様において、シクロヘキサンに溶解させた液状ゴムを23℃にて胴径21mm×全長50mmのバイアル瓶に入れた後乾燥させることによって、液状ゴムを当該バイアル瓶内に高さ1mmまで充填して密閉し、当該バイアル瓶を上下逆にした状態で24時間静置したときに高さ方向に0.1mm以上の物質の移動が確認できることを意味する。液状ゴムは、一般的なゴムの単量体組成を有してよく、取り扱いの容易性、及び良好なセルロースナノファイバーの分散性が得られる観点から、比較的低分子量であることが好ましい。液状ゴムは、一態様において、数平均分子量(Mn)が150,000以下であることによって液体形状を呈する。
【0065】
ゴム組成物を硬化させて、異方性ゴム部材を構成するゴム硬化物を形成する場合、ゴム硬化物の力学物性を向上させる観点から、液状ゴムは硬化時に加硫されることが望ましい。又は、液状ゴムは熱等により硬化してもよい。
【0066】
添加剤ゴムは、セルロースナノファイバーとマトリクスゴムとの混合前に当該セルロースナノファイバーと混合される第3のゴム、又は、セルロースナノファイバーとマトリクスゴムとの混合時に添加される第4のゴム、又は第3のゴムと第4のゴムとの組合せであってよい。
【0067】
第3のゴムの数平均分子量は、ゴム硬化物の機械特性を良好に得る観点から、好ましくは、1,000以上、又は1,500以上、又は2,000以上であり、流動性の観点、及び、硬くなり過ぎず良好なゴム弾性を有するゴム硬化物を得る観点から、好ましくは、150,000以下、又は145,000以下、又は140,000以下である。
【0068】
第4のゴムの数平均分子量は、ゴム硬化物の機械特性を良好に得る観点から、好ましくは、4,500以上、又は5,000以上、又は5,500以上であり、流動性の観点、及び、硬くなり過ぎず良好なゴム弾性を有するゴム硬化物を得る観点から、好ましくは、100,000以下、又は90,000以下、又は80,000以下である。
【0069】
第3のゴムの38℃での粘度η1は、流動性の観点、及び、硬くなり過ぎず良好なゴム弾性を有するゴム硬化物を得る観点から、好ましくは、100,000mPa・s以下、又は95,000mPa・s以下、又は90,000mPa・s以下であり、ゴム硬化物の機械特性を良好に得る観点から、好ましくは、5,000mPa・s以上、又は8,000mPa・s以上、又は10,000mPa・s以上である。
【0070】
第4のゴムの38℃での粘度η2は、流動性の観点、及び、硬くなり過ぎず良好なゴム弾性を有するゴム硬化物を得る観点から、好ましくは、800,000mPa・s以下、又は700,000mPa・s以下、又は600,000mPa・s以下であり、ゴム硬化物の機械特性を良好に得る観点から、好ましくは、100,000mPa・s以上、又は120,000mPa・s以上、又は140,000mPa・s以上である。
【0071】
なお本開示で、粘度は、B型粘度計を用いて、測定される値である。
【0072】
38℃において、第3のゴムの粘度η1に対する第4のゴムの粘度η2の比η2/η1は、第4のゴム同士の間、又は、第4のゴムとセルロースナノファイバーとの間に第3のゴムが入り込み易い点で、好ましくは、1.2以上、又は1.3以上、又は1.4以上であり、第3のゴムと第4のゴムとの良好な親和性を得る観点から、好ましくは、160以下、又は140以下、又は120以下である。
【0073】
液状ゴムは、共役ジエン系重合体若しくは非共役ジエン系重合体又はこれらの水素添加物であってよい。上記の重合体又はその水素添加物はオリゴマーであってもよい。
【0074】
[共役ジエン系重合体]
共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の共役ジエン単量体の共重合体若しくは共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。
【0075】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘプタジエン、及び1,3-ヘキサジエンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。
【0076】
一態様において、共役ジエン系重合体は、上記の共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体である。
芳香族ビニル単量体としては、共役ジエン単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、スチレン、m又はp-メチルスチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン、及びジビニルベンゼンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。ゴム組成物の成形加工性、及び成形体の耐衝撃性の観点からは、スチレンが好ましい。
【0077】
ランダム共重合体としては、ブタジエン-イソプレンランダム共重合体、ブタジエン-スチレンランダム共重合体、イソプレン-スチレンランダム共重合体、及びブタジエン-イソプレン-スチレンランダム共重合体が挙げられる。共重合体鎖中の各単量体の組成分布としては、統計的ランダムな組成に近い完全ランダム共重合体、及び組成分布に勾配があるテーパー(勾配)ランダム共重合体が挙げられる。共役ジエン系重合体の結合様式、すなわち1,4-結合、1,2-結合等の組成は、分子間で均一又は異なっていてよい。
【0078】
ブロック共重合体は、2つ以上のブロックからなる共重合体であってよい。例えば、芳香族ビニル単量体のブロックAと、共役ジエン単量体のブロック及び/又は芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のブロックであるブロックBとが、A-B、A-B-A、A-B-A-B等の構造を構成しているブロック共重合体であってよい。なお各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はなく、例えば、ブロックBが芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体である場合、ブロックB中の芳香族ビニル単量体は均一又はテーパー状に分布してよい。また、ブロックBに、芳香族ビニル単量体が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数存在してもよい。さらに、ブロックBに、芳香族ビニル単量体含有量が異なるセグメントが複数存在してもよい。共重合体中にブロックA、ブロックBがそれぞれ複数存在する場合、それらの分子量及び組成は同一でも異なってもよい。
【0079】
ブロック共重合体は、結合形式、分子量、芳香族ビニル化合物種、共役ジエン化合物種、1,2-ビニル含量又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量、芳香族ビニル化合物成分含有量、水素添加率等のうち1つ以上が互いに異なる2種以上の混合物でもよい。
【0080】
共役ジエン系重合体における共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-又は3,4-結合)は、好ましくは、5モル%以上、又は10モル%以上、又は13モル%以上、又は15モル%以上であり、好ましくは、80モル%以下、又は75モル%以下、又は65モル%以下、又は50モル%以下、又は40モル%以下である。
共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-結合量)は、13C-NMR法(定量モード)によって求めることができる。すなわち、13C-NMRにおいて下記に現れるピーク面積を積分すれば、各構造単位のカーボン量に比例する値を得ることができ、結果として各構造単位の質量%に換算することができる。
スチレン 145~147ppm
ビニル 110~116ppm
ジエン(シス) 24~28ppm
ジエン(トランス) 29~33ppm
【0081】
共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体において、共役ジエン単量体と結合した芳香族ビニル単量体の量(本開示で、芳香族ビニル結合量ともいう。)は、共役ジエン系重合体の総質量に対して、好ましくは、5.0質量%以上70質量%以下、又は10質量%以上50質量%以下であってよい。芳香族ビニル結合量は、フェニル基の紫外線吸光度によって求めることができ、またこれに基づき共役ジエン結合量も求めることができる。
【0082】
共役ジエン系重合体は、部分水添又は完全水添されていてもよい。水素添加物の水素添加率は、加工時の熱劣化抑制の観点から、好ましくは、50%以上、又は80%以上、又は98%以上であり、低温靭性の観点からは、好ましくは、50%以下、又は20%以下、又は0%(すなわち非水添物)である。共役ジエン系重合体の水素添加物としては、上記で例示した共役ジエン系重合体の水素添加物が挙げられ、例えば、ブタジエン単独重合体、イソプレン単独重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の水素添加物であってよい。
【0083】
[非共役ジエン系重合体]
非共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の非共役ジエン単量体の共重合体若しくは非共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。非共役ジエン系重合体としては、
エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、エチレン-αオレフィン共重合体等のオレフィン系重合体、
ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α,β-不飽和ニトリル-アクリル酸エステル-共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
【0084】
エチレン-α-オレフィン共重合体において、エチレン単位と共重合できるモノマーとしては:プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、エイコセン-1、イソブチレンなどの脂肪族置換ビニルモノマー;スチレン、置換スチレンなどの芳香族系ビニルモノマー;酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステルなどのエステル系ビニルモノマー;アクリルアミド、アリルアミン、ビニル-p-アミノベンゼン、アクリロニトリルなどの窒素含有ビニルモノマー;ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレンなどのジエン、などを挙げることができる。
【0085】
好ましくはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、更に好ましくはエチレンと炭素数3~16のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、最も好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン1種以上とのコポリマーである。また、エチレン-α-オレフィン共重合体の数平均分子量は、耐衝撃性発現の観点から、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~100,000であり、より好ましくは10,000~80,000であり、更に好ましくは20,000~60,000である。また、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、流動性と耐衝撃性との両立の観点から、3以下が好ましく、さらには1.8~2.7がより好ましい。
【0086】
また、エチレン-α-オレフィン共重合体の好ましいエチレン単位の含有率は、加工時の取り扱い性の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体全量に対し30~95質量%である。
【0087】
これら好ましいエチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、特公平4-12283号公報、特開昭60-35006号公報、特開昭60-35007号公報、特開昭60-35008号公報、特開平5-155930号公報、特開平3-163088号公報、米国特許第5272236号明細書等に記載されている製造方法で製造可能である。
【0088】
液状ゴムは、好ましくは、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、ファルネセンゴム、及びイソプレンゴムからなる群から選択される1種以上である。
【0089】
一態様において、第3のゴムは未変性液状ゴムであってよい。未変性液状ゴムの好適例は、上記で例示した各重合体である。一態様において、第4のゴムは変性液状ゴムであってよい。変性液状ゴムは、上記で例示した各重合体に対して少なくとも1種の変性基が導入された構造を有してよい。変性基は、エポキシ基、酸無水物基、カルボキシ基、アルデヒド基、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトロ基、イソシアナト基、チオ基、メルカプト基等のうち1種又は2種以上であってよい。変性基は、好ましくは、無水マレイン酸基及び無水コハク酸基からなる群から選択される1種以上であり、又は無水マレイン酸基である。変性液状ゴムとしては、エポキシ変性天然ゴム、エポキシ変性ブタジエンゴム、エポキシ変性スチレンブタジエンゴム、エポキシ変性イソプレンゴム、カルボキシ変性天然ゴム、カルボキシ変性ブタジエンゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴム、カルボキシ変性イソプレンゴム、酸無水物変性天然ゴム、酸無水物変性ブタジエンゴム、酸無水物変性スチレンブタジエンゴム、酸無水物変性イソプレンゴム等が例示される。
【0090】
変性液状ゴムは、両末端に反応性基(例えば、水酸基、カルボキシ基、イソシアナト基、チオ基、アミノ基及びハロ基からなる群から選択される1種以上)を有してよく、したがって2官能性であってよい。これら反応性基は変性液状ゴムの架橋及び/又は鎖延長に寄与する。
【0091】
変性液状ゴムにおいて、全単量体単位100モル%に対する変性基の量は、セルロースナノファイバーと変性液状ゴムとの親和性が良好であることによってセルロースナノファイバーの分散性及び配向性が良好である点で、好ましくは、0.1モル%以上、又は0.2モル%以上、又は0.3モル%以上である。一方、変性基量が過多であると、変性液状ゴム同士、又は、変性液状ゴムとセルロースナノファイバーとが、密な構造を形成し、セルロースナノファイバーの分散性及び配向性が低下する傾向がある。ゴム硬化物に所望の機械特性及び表面平滑性を付与するためには、このような密な構造の形成は抑制されることが望ましい。上記観点から、全単量体単位100モル%に対する変性基の量は、好ましくは、5モル%以下、又は3モル%以下である。上記変性基量は、赤外吸収分光、固体NMR(核磁気共鳴)、溶液NMR、又は、予め特定された単量体組成と未変性ゴムに含まれない元素の元素分析による定量とを組み合わせて変性基のモル比を算出する方法によって確認できる。
【0092】
変性液状ゴムの変性基含有量は、セルロースナノファイバーと変性液状ゴムとの親和性が良好であることによってセルロースナノファイバーの分散性及び配向性が良好である点で、好ましくは、0.5質量%以上、又は0.8質量%以上、又は1.0質量%以上であり、上記の密な構造の形成を抑制する観点から、好ましくは、20質量%以下、又は15質量%以下、又は10質量%以下である。この変性基含有量は、一態様においてNMRで確認できる。
【0093】
変性液状ゴムを製造する手段は特に限定されないが、例えば特開2016-172859号公報に記載された方法を用いることができる。
【0094】
一態様において、変性液状ゴムの変性基は、ゴム組成物又はゴム硬化物の製造時、特に加熱混合時にセルロースナノファイバー及び/又は他のゴムと共有結合を形成し得る。共有結合は、セルロースナノファイバーによる補強効果を一層高める点で有利であり得る。一態様においては、ゴム組成物の製造時に変性液状ゴムとセルロースナノファイバーとの共有結合が形成され、ゴム硬化物製造時(すなわち硬化時)に変性液状ゴムとマトリクスゴムとの直接又は他の成分(一態様において加硫剤)を介した共有結合が形成されてよい。
【0095】
ゴム硬化物の機械特性を向上させる観点から、添加剤ゴムは、ゴム組成物の硬化時に加硫剤を介してマトリクスゴムと共有結合されてよい。
【0096】
一態様において、共有結合の存在は以下の方法で確認できる。ゴム組成物においては、ゴムを溶媒(例えば、ヘキサン又はシクロヘキサン)で除去した残渣について、一態様において核磁気共鳴(NMR)又は赤外吸収スペクトルで分析する。ゴム硬化物においては、一態様において電子顕微鏡又は原子間力顕微鏡(AFM)で分析する。セルロースナノファイバーに結合しているゴムの存在は、セルロースナノファイバー近傍に存在する相として(一態様において、ゴム硬化物におけるマトリクスゴムとは異なる物質の領域として)、一態様においてNMR、赤外吸収スペクトル又はNano-IRを用いた分析で確認される。
【0097】
第3のゴムは、セルロースナノファイバーとの親和性が良好であることによってセルロースナノファイバーの分散性及び配向性が良好である点で、好ましくは、芳香族ビニル単量体単位を含む。
【0098】
第4のゴムは、マトリクスゴムとの混和性、及びセルロースナノファイバーとの親和性の観点から、好ましくは、無水マレイン酸変性液状ポリイソプレンである。
【0099】
ゴム組成物において、第4のゴム100質量部に対する第3のゴムの量は、第3のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上であり、第4のゴムの利点を妨げないようにする観点から、好ましくは、300質量部以下、又は280質量部以下、又は260質量部以下である。
【0100】
ゴム組成物において、セルロースナノファイバー100質量部に対する第3のゴムの量は、第3のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上であり、成形体の機械特性を良好に維持する観点から、好ましくは、100質量部以下、又は90質量部以下、又は80質量部以下である。
【0101】
ゴム組成物において、セルロースナノファイバー100質量部に対する第4のゴムの量は、第4のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、10質量部以上、又は15質量部以上、又は20質量部以上であり、第4のゴム同士、又は第4のゴムとセルロースナノファイバーとの過剰な結合又は相互作用を抑制する観点から、好ましくは、300質量部以下、又は280質量部以下、又は260質量部以下である。
【0102】
ゴム組成物中、第4のゴムの含有率は、第4のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、5質量%以上、又は7質量%以上、又は10質量%以上であり、第4のゴム同士、又は第4のゴムとセルロースナノファイバーとの過剰な結合又は相互作用を抑制する観点から、好ましくは、60質量%以下、又は55質量%以下、又は50質量%以下である。
【0103】
第1のゴムを含むマスターバッチを用いてゴム組成物を形成する場合、マスターバッチ中の第3及び第4のゴムの合計含有率は、セルロースナノファイバーの分散性及び配向性を良好にする観点から、10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上であり、セルロースナノファイバーを所望量存在させて良好な補強効果を得る観点から、好ましくは、90質量%以下、又は85質量%以下、又は80質量%以下である。
【0104】
<マトリクスゴム及び添加剤ゴムの量>
異方性ゴム部材中のマトリクスゴム及び添加剤ゴム(これらは典型的には硬化物である)の合計含有率、又は異方性ゴム部材の形成に用いるゴム組成物中のマトリクスゴム及び添加剤ゴム(これらは典型的には未硬化物である)の合計含有率は、それぞれ、好ましくは、40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上であり、他の成分を所望量含有させる観点から、好ましくは、85質量%以下、又は80質量%以下、又は75質量%以下、又は70質量%以下である。
【0105】
例えば、異方性ゴム部材が、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、及びイソプレンゴムの組合せを含む場合、耐摩耗性、グリップ性及び引裂強度が高度に両立され得る。好ましい態様においては、異方性ゴム部材中、又はゴム組成物中で、マトリクスゴム及び添加剤ゴムの合計100質量部中、ブタジエンゴム60質量部~70質量部、スチレンブタジエンゴム10質量部~30質量部、及びイソプレンゴム10質量部~20質量部の量比を有してよい。
【0106】
<セルロースナノファイバー>
一態様において、異方性ゴム部材はセルロースナノファイバーを更に含む。一態様においては、セルロースナノファイバーがゴム中で配向していることが、異方性ゴム部材のモジュラスの異方性に寄与する。セルロースナノファイバーはセルロース繊維原料を解繊処理等により微細化された繊維である。セルロース繊維原料としては、天然セルロース及び再生セルロースを用いることができる。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。
【0107】
一態様において、解繊は乾式又は湿式の機械的処理であり、好ましくは、セルロース繊維原料を液体媒体に分散して得たスラリーに機械的処理を施す湿式処理である。解繊には単独の装置を1回以上用いても良いし、複数の装置をそれぞれ1回以上用いても良い。解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー、1軸、2軸又は多軸の混練機・押出機等があげられる。
【0108】
セルロース繊維原料は解繊前に前処理に供されてもよい。前処理によって繊維径、繊維長、フィブリル化度等を調整したり、セルロース以外の成分(リグニン等の酸不溶成分、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、等)の含有率を調整したり、分子量、結晶化度等を調整したりすることができる。
【0109】
前処理は、一態様において、化学処理、粉砕、磨砕、及び分級から選ばれる1つ以上であってよい。化学処理は薬品を用いた処理であり、例えば蒸解、漂白、精製、加水分解処理、酵素処理、再生セルロース化、化学修飾があげられる。粉砕は、セルロース繊維原料を乾式で粉砕する処理である。磨砕は、セルロース繊維原料を液体媒体に分散して得たスラリーに粉砕処理を施す処理であり、湿式である点で上記粉砕とは区別される。分級は、セルロース繊維原料の繊維長を揃えるための分離操作であり、乾式分級又は湿式分級であってよい。
【0110】
前記液体媒体としては、水並びに/又は他の媒体(例えば、有機溶媒、無機酸、塩基及び/若しくはイオン液体)が挙げられ、1種類又は2種類以上の媒体を含んでいても良い。
【0111】
有機溶媒としては、一般的に用いられる有機溶媒として、例えば:アルコール(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等);含硫黄溶媒(ジメチルスルホキシド)のうち1種以上が挙げられる。典型的な態様においては、スラリー中の液体媒体は実質的に水のみである。
【0112】
一態様において、セルロースナノファイバーの数平均繊維長Lは、セルロースナノファイバーによる物性向上効果を良好に発現する観点から、好ましくは、100nm以上、又は500nm以上、1μm以上、又は5μm以上、又は10μm以上、又は20μm以上であり、樹脂組成物中でセルロースナノファイバーを良好に分散させる観点から、好ましくは、1000μm以下、又は800μm以下、又は500μm以下、又は400μm以下、又は300μm以下、又は200μm以下である。
【0113】
一態様において、セルロースナノファイバーの数平均繊維径Dは、セルロースナノファイバーによる物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは2~1000nmである。セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、より好ましくは900nm以下、又は800nm以下、又は700nm以下、又は600nm以下、又は500nm以下、又は400nm以下、又は300nm以下、又は200nm以下である。
【0114】
セルロースナノファイバーの平均繊維長(L)/繊維径(D)比は、セルロースナノファイバーを含むゴム部材の機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで良好に向上させる観点から、好ましくは、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下、又は3000以下、又は2000以下、又は1000以下である。
【0115】
本開示で、セルロースナノファイバーの繊維長、繊維径、及びL/D比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて以下の手順で測定される値である。セルロースナノファイバーの水分散液をtert-ブタノールで置換し、0.001~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースナノファイバーが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースナノファイバーの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。そして、それぞれの数平均値を数平均繊維径L及び数平均繊維径Dとし、比(L/D)を算出する。
【0116】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロースナノファイバーとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースナノファイバーをゴムに分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた成形体が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロースナノファイバーが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースナノファイバーがより好ましい。
【0117】
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度が大きいほど、セルロース自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロースナノファイバーをゴムに分散した際に、ゴム硬化物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースナノファイバーの結晶化度について上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0118】
ここでいう結晶化度は、セルロースナノファイバーがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0119】
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースライン(2θ=8°および15°を結ぶ線)のピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =(h0-h1) /h0 ×100
【0120】
また、セルロースナノファイバーの重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
【0121】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロースナノファイバーの重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0122】
セルロースナノファイバーの重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0123】
一態様において、セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.6以下、又は5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロースナノファイバーのセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロースナノファイバー、及びセルロースナノファイバーとゴムとを含むゴム組成物が得られる。セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下、又は400000以下であってよい。セルロースナノファイバーの数平均分子量(Mn)は、セルロース繊維原料の入手容易性の観点から、例えば200000以下、又は150000以下、又は100000以下、又は80000以下、又は60000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は1.7以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。セルロース原料のMw及びMw/Mnの各々は一態様において上記範囲内であってもよい。
【0124】
ここでいうセルロースナノファイバーの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースナノファイバーを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0125】
セルロースナノファイバーが含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロースナノファイバーの強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0126】
一態様において、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロースナノファイバーの良好な分散性を得る観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0127】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
【0128】
一態様において、セルロースナノファイバー中の酸不溶成分平均含有率は、セルロースナノファイバーの耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0129】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出する。そして、1つのサンプルにつき3回酸不溶成分含有率を測定し、その数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
【0130】
[化学修飾]
セルロースナノファイバーは、化学修飾されたセルロースナノファイバー(化学修飾セルロースナノファイバーともいう)であってよい。化学修飾セルロースナノファイバーとして、例えば硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等が挙げられる。化学修飾セルロースナノファイバーは1種類又は2種類以上修飾基を含んでいても良い。
【0131】
好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化であり、特に好ましくはアセチル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステル、カルボン酸が好ましい。これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、及び酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。セルロースナノファイバーは、修飾化剤によって例えばセルロース繊維原料の段階、解繊処理中、又は解繊処理後に化学修飾されたものであっても良いし、分散体としてのスラリーの調製中又はその後、或いは乾燥工程中又はその後に化学修飾されてもよい。
【0132】
[アシル置換度(DS)]
セルロースナノファイバーが化学修飾(例えばアシル化等の疎水化によって)されている場合、セルロースナノファイバーのゴム中での分散性は良好である傾向がある。一方、例えば分散剤と組合される場合、セルロースナノファイバーが非置換又は低置換度であってもゴム中で良好な分散性を示すことが容易である。セルロースナノファイバーがエステル化セルロースナノファイバーである場合、アシル置換度(DS)は、熱分解開始温度が高いエステル化セルロースナノファイバーを得る点で、好ましくは、0.1以上、又は0.2以上、又は0.25以上、又は0.3以上、又は0.5以上であり、エステル化セルロースナノファイバー中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えたエステル化セルロースナノファイバーを得ることができる点で、好ましくは、2.0以下、又は1.8以下、又は1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下、又は0.8以下、又は0.7以下、又は0.6以下、又は0.5以下である。
【0133】
化学修飾セルロースナノファイバーの修飾基がアシル基の場合のアシル置換度(DS)は、エステル化セルロースナノファイバーの反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する。エステル化セルロースナノファイバーのDSは、後述するエステル化セルロースナノファイバーの固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
IRインデックス(1030)= H1730/H1030
式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
【0134】
固体NMRによるエステル化セルロースナノファイバーのDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロースナノファイバーについて13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0135】
セルロースナノファイバーの熱分解開始温度(TD)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、良好な機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、200℃以上、又は210℃以上、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は310℃以下、又は300℃以下であってもよい。
【0136】
[1%重量減少時温度(T1%),250℃重量減少率(T250℃)]
セルロースナノファイバーの1wt%重量減少時の温度(T1%)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、良好な機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、230℃以上、又は240℃以上、又は250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上、又は290℃以上である。T1%は高いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、330℃以下、又は320℃以下、又は310℃以下であってもよい。
【0137】
セルロースナノファイバーの250℃重量減少率(T250℃)は溶融混練時の熱劣化を回避し、良好な機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、15%以下、又は12%以下、又は10%以下、又は8%以下、又は6%以下、又は5%以下、又は4%以下、又は3%以下である。T250℃は低いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、0.1%以上、又は0.5%以上、又は0.7%以上、又は1.0%以上であってもよい。
【0138】

本開示で、TDとは、熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である。セルロースナノファイバーの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
【0139】
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
【0140】
セルロースナノファイバーの250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、セルロースナノファイバーを250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。セルロースナノファイバーの多孔質シートを窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持する。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求める。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
【0141】
[多孔質シート]
セルロースナノファイバーの各種物性(結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶分含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃等)の測定は測定サンプルの形態によって数値が大きく変動することがある。安定した再現性のある測定をするために、測定サンプルは歪みのない多孔質シートを用いる。多孔質シートの作製方法は以下のとおりである。
【0142】
まず、固形分率が10質量%以上のセルロースナノファイバーの濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行う。セルロースナノファイバー固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整する。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過する。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させる。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得る。このシートの透気抵抗度Rがシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用する。
【0143】
透気抵抗度Rの測定は、23℃、50%RHの環境で1日静置した多孔質シートサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(例えば、旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定することで行う。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出する。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0144】
ゴム組成物、ゴム硬化物等に含まれるセルロースナノファイバーの各種物性(数平均繊維長、数平均繊維径、L/D比、結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶分含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃、DS等)は以下の方法で分析する。
ゴム組成物、ゴム硬化物等に含まれるに含まれるポリマー成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に当該ポリマー成分を溶解させ、セルロースナノファイバーを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒をtert-ブタノールに置換する。その後、セルロースナノファイバーtert-ブタノールスラリーを前記手法と同様の測定法を用いて分析し、ゴム組成物、ゴム硬化物中のセルロースナノファイバーの各種物性を算出する。
【0145】
一態様において、セルロースナノファイバーは液体媒体を含むスラリーの形態、又は粒子、フィルム、バルク等の乾燥体の形態として供されても良い。液体媒体としては水並びに/又は沸点を有する有機溶媒が挙げられ、1種類又は2種類以上の媒体を含んでいても良い。スラリーの形態は液体媒体含有率が50質量%以上であり、乾燥体中の液体媒体含有率は50質量%未満である。液体媒体含有率は、赤外加熱式水分計(例えばエー・アンド・デー株式会社製、商品名「MX-50」)を用いて180℃で加熱した際に測定される値である。
【0146】
異方性ゴム部材中のセルロースナノファイバーの量は、セルロースナノファイバーによる補強効果を良好に得る観点から、好ましくは、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であり、大変形時の変形し易さの観点から、好ましくは、10質量%以下、又は7質量%以下、又は5質量%以下である。
【0147】
異方性ゴム部材において、ゴム100質量部に対するセルロースナノファイバーの量は、セルロースナノファイバーによる補強効果を良好に得る観点から、好ましくは、1質量部以上、又は2質量部以上、又は3質量部以上であり、大変形時の変形し易さの観点から、好ましくは、10質量部以下、又は7質量部以下、又は5質量部以下である。
【0148】
<追加のフィラー>
異方性ゴム部材は、一態様において、セルロースナノファイバー以外の追加のフィラーを含んでよいが、好ましい一態様において、セルロースナノファイバー以外のフィラーを含まないことができる。追加のフィラーとしては、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスバルーン、ナイロン繊維、炭素繊維等を例示できる。シリカの添加は、硬度、引張強度等を向上させ得る。なお、シリカを添加する場合、シランカップリング剤を併用すると、異方性ゴム部材中でのシリカの分散性を向上させ、当該異方性ゴム部材の耐摩耗性を向上させ得る。追加のフィラーの量は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、例えば、0質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上であってよく、例えば、60質量部以下、又は50質量部以下、又は45質量部以下、又は40質量部以下、又は35質量部以下、又は30質量部以下であってよい。好ましい一態様において、異方性ゴム部材は、ガラスバルーン等の中空部材を含まないことができる。
【0149】
<分散剤>
一態様において、異方性ゴム部材は分散剤を含む。一態様において、分散剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを同一分子内に有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、異方性ゴム部材中にセルロースナノファイバーをより均一に分散させる観点で更に好ましい。
【0150】
[両親媒性分子]
両親媒性分子において、親水性セグメントは、親水性構造を含むことによって、セルロースナノファイバーとの良好な親和性を示す部分である。親水性構造としては、具体的には水酸基、チオール基、カルボキシ基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸基、ボロン酸基、シラノール基、ソルビタン及びショ糖等の糖類に由来する基、グリセリンに由来する基、-OM、-COOM、-SO3M、-OSO3M、-HMPO4、及び-M2PO4(但し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。)で表される基、並びに、1~3級アミン及び4級アンモニウム塩等を有する。上記4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、並びに、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェート、及びテトラフルオロボレート等からなる群から選ばれる1つ以上の親水性基が挙げられる。
【0151】
親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールのセグメント、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンのソフトセグメント(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましく、ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほどセルロースナノファイバーとの親和性が高まるが、異方性ゴム部材の所望の機械特性とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
【0152】
疎水性セグメントとしては、炭化水素を有するセグメント、フッ化炭素を有するセグメント、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、PPGブロック)、ポリマー構造を含むセグメント等を例示できる。
炭化水素を有するセグメントとしては、アルキル型、アルケニル型、アルキルエーテル型、アルケニルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型等が好ましい。疎水基のアルキル鎖、又はアルケニル鎖の炭素数(アルキルフェニル、又はアルケニルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、2以上、又は5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。
フッ化炭素を有するセグメントとしては、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル型等が好ましい。
ポリマー構造を含むセグメントとしては、アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等が好ましい。
これらの疎水性セグメントは、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また疎水性セグメントは、1本鎖状構造、又は2本以上の鎖状構造でもよく、2本以上の鎖状構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
【0153】
両親媒性分子の構造は特に限定されないが、親水性セグメントをA、疎水性セグメントをBとしたときに、AB型ブロック共重合体、ABA型ブロック共重合体、BAB型ブロック共重合体等の線状共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、AとBを含む4分岐型共重合体、AとBを含む星型共重合体、AとBを含む単環状共重合体、AとBを含む多環状共重合体、AとBを含むかご型共重合体、AとBを含むグラフト共重合体等が挙げられる。
分子中に複数存在する場合の親水性セグメントの分子構造は、1種単独又は2種以上の組合せであってよい。同様に、分子中に複数存在する場合の疎水性セグメントの分子構造は、1種単独又は2種以上の組合せであってよい。
【0154】
(界面活性剤)
両親媒性分子としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用可能である。分散剤は、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等であってもよい。
【0155】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ジアルカノールアミド(例:ラウリン酸ジエタノールアミド)、ポリオキシアルキレン脂肪酸アミド(例:ポリオキシエチレンステアリン酸アミド)、ポリオキシアルキレンアリールエーテル(例:ポリオキシエチレンフェニルエーテル)、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル(例:ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)、ポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテル(例:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル)、多価アルコールの脂肪酸エステル(例:ポリエチレングリコールモノ又はジステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノ又はジラウリン酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、グリセリン脂肪酸エステル(例:モノステアリン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン)、ソルビタン脂肪酸エステル(例:モノラウリル酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0156】
アニオン性界面活性剤(乳化剤)は、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等であってよく、例として、カルボン酸塩としては、脂肪族モノカルボン酸、アルキルエーテルカルボン酸塩、スルホン酸塩としては、ジアルキルスルホこはく酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、硫酸エステル塩としては、アルキル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩、リン酸エステル塩としては、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩が挙げられる。
【0157】
カチオン性界面活性剤としては、アミン塩、アミドアミン塩、4級アンモニウム塩、及びイミダゾリニウム塩等が挙げられる。具体例としては、特に限定されないが、アルキルアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩、アルキルアミドアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリン等のアミン塩型界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウム等の4級アンモニウム塩型界面活性剤等が挙げられる。
【0158】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミンオキシド類、アラニン類、イミダゾリニウムベタイン類、アミドベタイン類、酢酸ベタイン等が挙げられ、具体的には、長鎖アミンオキシド、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0159】
[親水性高分子]
一態様において、分散剤は、親水性高分子であることが好ましい。一態様において、親水性高分子は、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、アンモニウム基、スルホン酸基、リン酸基等から成る群から選択される親水性基を有する高分子である。親水性高分子としては、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、カチオン化グアガム、水溶性ポリウレタン、4級アンモニウム塩構造を含むポリマー、アミド、アミン等からなる群から選択される1種以上を使用することができる。中でも、セルロース誘導体、ポリアルキレングリコールがより好ましく、ポリアルキレングリコールが特に好ましい。
【0160】
異方性ゴム部材を形成するためのゴム組成物中の分散剤の量は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、好ましくは、1質量部以上、又は3質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上であり、好ましくは、200質量部以下、又は150質量部以下、又は100質量部以下、又は90質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は60質量部以下、又は50質量部以下である。
【0161】
ゴム組成物中の分散剤の含有率は、一態様において、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよく、一態様において、40質量%以下、又は35質量%以下、又は30質量%以下であってよい。
【0162】
<加硫剤、加硫促進剤>
ゴム組成物は、典型的には加硫剤を含み、任意に加硫促進剤を含んでよい。加硫剤及び加硫促進剤としては、従来公知のものをゴム組成物中の未架橋ゴムの種類に応じて適宜選択してよい。加硫剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物等を使用できる。硫黄化合物としては、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が挙げられる。
【0163】
ゴム組成物中の加硫剤の量は、ゴム組成物中の未架橋ゴム100質量部に対して、好ましくは、0.01質量部~20質量部、又は0.1質量部~15質量部である。
【0164】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系等の加硫促進剤が挙げられる。なお加硫助剤として亜鉛華、ステアリン酸等を使用してもよい。加硫促進剤の量は、ゴム組成物中の未架橋ゴム100質量部に対して、好ましくは、0.01質量部~20質量部、又は0.1質量部~15質量部である。
【0165】
<ゴム用添加剤>
ゴム組成物は、従来公知の各種ゴム用添加剤(安定剤、軟化剤、老化防止剤等)を含んでもよい。ゴム用安定剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート、2-メチル-4,6-ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の酸化防止剤を1種又は2種以上用いてよい。また、ゴム用軟化剤としては、プロセスオイル、エクステンダーオイル等を1種又は2種以上用いてよい。
【0166】
なお、加硫剤、加硫促進剤、及びゴム用添加剤は、典型的には、ゴムの架橋時に添加されるが、添加の態様はこれに限定されない。
【0167】
<追加の成分>
ゴム組成物は、その他の追加の成分を更に含んでもよい。追加の成分としては、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。任意の追加の成分のゴム組成物中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01~50質量%、又は0.1~30質量%であってよい。
【0168】
≪靴の製造≫
本発明の一態様はまた、本開示の靴の製造方法を提供する。一態様において、異方性ゴム部材がセルロースナノファイバーを含み、当該方法が、
セルロースナノファイバーと、第1のゴムとを含むマスターバッチを製造する工程、
前記マスターバッチと、第2のゴムとを混合して、ゴム組成物を得る工程、
前記ゴム組成物を硬化させて前記異方性ゴム部材を得る工程、及び
前記異方性ゴム部材を有するアウトソールと、アッパーとを備える靴を組み
立てる工程、
を含む。又は、別の一態様では、ゴム組成物の調製において、上記のようなマスターバッチの調製を経ないこともできる。
【0169】
<ゴム組成物の調製>
ゴム組成物は、セルロースナノファイバー、マトリクスゴム、任意に添加剤ゴム、及び任意に1種以上の追加の成分を含むゴム組成物成分を混合する方法で製造できる。ゴム組成物の製造方法としては、
(1)セルロースナノファイバー(スラリー又は乾燥体であってよい)と、第1のゴムとを含む混合物であるマスターバッチを得る第1の工程、及び
当該マスターバッチと、第2のゴムとを含む混合物であるゴム組成物を得る第2の工程、を含む方法(以下、マスターバッチ法ともいう。)、
(2)セルロースナノファイバー(スラリー又は乾燥体であってよい)と、マトリクスゴムとを含む混合物であるゴム組成物を得る工程、を含む方法(以下、一括混合法ともいう。)、
等が挙げられる。
【0170】
混合条件は特に限定されないが、例えば、ゴム組成物を構成する成分を、自転・公転式ミキサー、プラネタリミキサー、プロペラ式攪拌装置、ロータリー攪拌装置、電磁攪拌装置、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、二軸押出機等の撹拌手段で混合して、ゴム組成物を得てよい。また、剪断を効率的に行うために加熱下で撹拌してもよい。
上記(1)のマスターバッチ法では、第1のゴムを予めセルロースナノファイバーと組合せることで、セルロースナノファイバーと第2のゴムとの接触機会が適度且つ均一になるため、ゴム組成物、又はゴム硬化物の物性向上がより良好であり得る。
【0171】
マスターバッチ及び/又はゴム組成物は、これらを得た後乾燥させてもよく、乾燥条件を制御することで粉体を形成してもよい。
【0172】
マスターバッチ又はゴム組成物の製造においてセルロースナノファイバーをマトリクスゴムと混合する際、セルロースナノファイバーは、スラリー又は乾燥体の形態で添加して良い。一態様において、セルロースナノファイバーのスラリーをマトリクスゴムと混合した後、スラリー中の液体媒体を乾燥し除去し、セルロースナノファイバーを含むマスターバッチ又はゴム組成物を得て良い。
【0173】
<乾燥工程>
一態様において:マトリクスゴムとの混合に供される、セルロースナノファイバーを含む乾燥体;セルロースナノファイバーを含むマスターバッチ;又はセルロースナノファイバーを含むゴム組成物は、セルロースナノファイバー含有スラリーを乾燥させることによって製造できる。
乾燥機としては、特に限定はされないが、ニーダー、プラネタリミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、プロペラミキサー、リボンミキサー、単軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー、凍結乾燥機、棚乾燥機、スプレー噴霧乾燥機、流動層乾燥機、ドラムドライヤー等が挙げられる。
【0174】
乾燥温度は、乾燥効率、及びゴム組成物中のセルロースナノファイバーのナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる粉体特性のセルロースナノファイバーを含む乾燥体を形成する観点から、例えば20℃以上、又は30℃以上、又は40℃以上、又は50℃以上であってよく、セルロースナノファイバー及び追加の成分の熱劣化を生じ難くする観点、及びスラリーの急速乾燥によるセルロースナノファイバーを含む乾燥体の過度な微粉化を回避する観点から、例えば200℃以下、又は180℃以下、又は160℃以下、又は140℃以下、又は120℃以下、又は100℃以下であってよい。
乾燥温度は、スラリーに接触する熱源の温度であり、例えば、乾燥装置の温調ジャケットの表面温度、加熱シリンダーの表面温度、又は熱風の温度で定義される。
【0175】
圧力は、大気圧、又は減圧どちらでも良いが、乾燥効率、及びゴム組成物中のセルロースナノファイバーのナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる粉体特性のセルロースナノファイバーを含む乾燥体を形成する観点から、-1kPa以下、又は-10kPa以下、又は-20kPa以下、又は-30kPa以下、又は-40kPa以下、又は-50kPa以下であってよく、スラリーの急速乾燥によるセルロースナノファイバーを含む乾燥体の過度な微粉化を回避する観点から、-100kPa以上、又は-95kPa以上、又は-90kPa以上であってよい。
【0176】
乾燥工程に供するセルロースナノファイバー含有スラリー中のセルロースナノファイバーの濃度は、乾燥時のプロセス効率の観点から、好ましくは、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上であり、スラリーの粘度の過度な増大、及び凝集による固化を回避して良好な取扱い性を保持する観点から、好ましくは、50質量%以下、又は45質量%以下、又は40質量%以下、又は35質量%以下である。例えば、セルロースナノファイバーの製造は希薄な分散液中で行われることが多いが、このような希薄分散液を濃縮することで、スラリー中のセルロースナノファイバー濃度を前記好ましい範囲に調整してもよい。濃縮には、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心脱液、加熱等の方法を用いることができる。
【0177】
一態様において、マトリクスゴムとの混合に供される、セルロースナノファイバーを含む乾燥体には、第3のゴム及び/又は第4のゴム、任意の追加の成分(例えば、上述した分散剤)が含まれていても良く、セルロースナノファイバー含有スラリーの乾燥前、乾燥中、及び/又は乾燥後に添加してよい。
一態様において、第3のゴム及び/又は第4のゴム、並びに/或いは任意の追加の成分が、水及び/又は有機溶媒に分散、又は溶解した状態で添加されても良い。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、第1のゴム及び第2のゴムが溶解する溶媒が好ましく、クロロホルム、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等の非水溶性溶媒が挙げられる。
【0178】
[液体媒体含有率]
マトリクスゴムとの混合に供される、セルロースナノファイバーを含む乾燥体の液体媒体含有率は、作業性の観点で好ましくは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。液体媒体含有率は、0質量%であってよいが、セルロースナノファイバーを含む乾燥体の製造容易性の観点から、例えば、0.1質量%以上、又は1質量%以上、又は1.5質量%以上であってよい。液体媒体含有率は、赤外加熱式水分計を用いて測定される値である。
【0179】
[平均粒径]
一態様において、マトリクスゴムとの混合に供される、セルロースナノファイバーを含む乾燥体の平均粒径は、製造容易性の観点から好ましくは、1μm以上、又は10μm以上、50μm以上、又は100μm以上、又は200μm以上、又は500μm以上であり、セルロースナノファイバーを含む乾燥体がゴム組成物中で容易に崩壊してセルロースナノファイバーがゴム組成物中に良好に分散できる点で、好ましくは、10000μm以下、又は5000μm以下、又は4000μm以下、又は3000μm以下、又は2000μm以下である。上記平均粒径は、動的画像解析式粒径分布測定装置(Microtrac社製 CAMSIZER X2)で測定される値である。
【0180】
[ゆるめ嵩密度]
一態様において、マトリクスゴムとの混合に供される、セルロースナノファイバーを含む乾燥体のゆるめ嵩密度は、セルロースナノファイバーを含む乾燥体の流動性が良好でフィード性に優れる点、分散剤のゴム組成物への移行抑制の観点から、好ましくは、0.01g/cm3以上、又は0.05g/cm3以上、又は0.10g/cm3以上、又は0.15g/cm3以上、又は0.20g/cm3以上、又は0.25g/cm3以上、又は0.30g/cm3以上、又は0.35g/cm3以上、又は0.40g/cm3以上、又は0.45g/cm3以上、又は0.50g/cm3以上であり、セルロースナノファイバーを含む乾燥体がゴム組成物中で容易に崩壊してセルロースナノファイバーがゴム組成物中に良好に分散できる点、及び、セルロースナノファイバーを含む乾燥体が重質過ぎずセルロースナノファイバーを含む乾燥体とゴム組成物との混合不良を回避できる点で、好ましくは、0.85g/cm3以下、又は0.80g/cm3以下、又は0.75g/cm3以下である。
【0181】
[かため嵩密度]
一態様において、マトリクスゴムとの混合に供される、セルロースナノファイバーを含む乾燥体のかため嵩密度は、ゆるめ嵩蜜度及び圧縮度を本開示の範囲に制御するのに有用である範囲に制御され、一態様において、好ましくは、0.01g/cm3以上、又は0.1g/cm3以上、又は0.15g/cm3以上、又は0.2g/cm3以上、又は0.3g/cm3以上、又は0.4g/cm3以上、又は0.5g/cm3以上、又は0.6g/cm3以上であり、好ましくは、0.95g/cm3以下、又は0.9g/cm3以下、又は0.85g/cm3以下である。
【0182】
[圧縮度]
圧縮度は、圧縮度=(かため嵩密度-ゆるめ嵩密度)/かため嵩密度、で算出される値である。ゆるめ嵩密度及びかため嵩密度は、本開示の[実施例]の項に記載した方法で測定される値である。
一態様において、圧縮度は嵩減りの程度を表す。一態様において、セルロースナノファイバーを含む乾燥体の圧縮度は、セルロースナノファイバーを含む乾燥体の流動性が高過ぎない点で、好ましくは、1%以上、又は5%以上、又は10%以上、又は15%以上、又は20%以上、又は25%以上である。また、セルロースナノファイバーを含む乾燥体の流動性が良好でフィード性に優れる点、及び取扱い性に優れる(具体的には、飛散、浮遊、又は粉塵形成が生じ難い)点、ゴム組成物中にセルロースナノファイバーを含む乾燥体を良好に分散させる点、分散剤のゴムへの移行抑制の点で、圧縮度は、好ましくは、50%以下、又は45%以下、又は40%以下、又は35%以下、又は30%以下である。
【0183】
上記、ゆるめ嵩密度、かため嵩密度、及び圧縮度はホソカワミクロン株式会社製パウダーテスター(型番:PT-X)を用いて測定される。かため嵩密度測定のタッピング回数は180回で行う。
【0184】
より具体的な工程順の例としては、以下を例示できる。
(1)マスターバッチ法
(i)セルロースナノファイバー、任意に第3のゴム、及び任意に分散剤を含むスラリーを調製→乾燥して乾燥体を調製→当該乾燥体、第1のゴム、及び任意に第4のゴム(カップリング剤として)を含むマスターバッチを調製→当該マスターバッチ及び第2のゴムを含むゴム組成物を調製
(ii)セルロースナノファイバー及び任意に分散剤を含むスラリーを調製→乾燥して乾燥体を調製→当該乾燥体、及び任意に第3のゴムを含む第1のマスターバッチを調製→当該第1のマスターバッチ、第1のゴム、及び任意に第4のゴム(カップリング剤として)を含む第2のマスターバッチを調製→当該第2のマスターバッチ及び第2のゴムを含むゴム組成物を調製
(iii)セルロースナノファイバー、第3のゴム、第4のゴム、及び任意に分散剤を含むスラリーを調製→乾燥して乾燥体を調製→当該乾燥体及び第1のゴムを含むマスターバッチを調製→当該マスターバッチ及び第2のゴムを含むゴム組成物を調製
【0185】
(2)一括混合法
(i)セルロースナノファイバー、任意に第3のゴム、及び任意に分散剤を含むスラリーを調製→乾燥して乾燥体を調製→当該乾燥体及びマトリクスゴムを含むゴム組成物を調製
(ii)セルロースナノファイバー及び任意に分散剤を含むスラリーを調製→乾燥して第1の乾燥体を調製→当該第1の乾燥体及び第3のゴムを含む第2の乾燥体を調製→当該第2の乾燥体及びマトリクスゴムを含むゴム組成物を調製
【0186】
ゴム組成物において、第2のゴム100質量部に対する第1のゴムの量は、第1のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、1質量部以上、5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上であり、第2のゴムの利点を妨げないようにする観点から、好ましくは、300質量部以下、又は280質量部以下、又は260質量部以下である。
【0187】
ゴム組成物において、セルロースナノファイバー100質量部に対する第1のゴムの量は、第1のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上であり、成形体の機械特性を良好に維持する観点から、好ましくは、100質量部以下、又は90質量部以下、又は80質量部以下である。
【0188】
ゴム組成物において、セルロースナノファイバー100質量部に対する第2のゴムの量は、第2のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、10質量部以上、又は15質量部以上、又は20質量部以上であり、第2のゴム同士、又は第2のゴムとセルロースナノファイバーとの過剰な結合又は相互作用を抑制する観点から、好ましくは、300質量部以下、又は280質量部以下、又は260質量部以下である。
【0189】
ゴム組成物中、第2のゴムの含有率は、第2のゴムの利点を良好に得る観点から、好ましくは、5質量%以上、又は7質量%以上、又は10質量%以上であり、第2のゴム同士、又は第2のゴムとセルロースナノファイバーとの過剰な結合又は相互作用を抑制する観点から、好ましくは、60質量%以下、又は55質量%以下、又は50質量%以下である。
【0190】
ゴム組成物中、第1及び第2のゴムの合計含有率は、セルロースナノファイバーの分散性を良好にする観点から、10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上であり、セルロースナノファイバーを所望量存在させて良好な補強効果を得る観点から、好ましくは、90質量%以下、又は85質量%以下、又は80質量%以下である。
以上のようにして、異方性ゴム部材用のゴム組成物を製造できる。
【0191】
≪異方性ゴム部材、アウトソールの製造≫
一態様においては、異方性ゴム部材用のゴム組成物を、単独で、又は、アウトソールの追加の部材用の追加のゴム組成物と共に、所望の形状にて硬化させることにより、異方性ゴム部材(ゴム硬化物として)を有するアウトソールを得ることができる。例えば、ゴム組成物成分を混練し、シート化して得たゴム組成物シートを、所望形状の型に入れた状態で、JIS K6299に準拠した条件で加硫プレスしてよい。ゴム組成物の組合せ方法及び成形方法は特に限定されず、所望のアウトソールに応じて選択してよい。成形方法としては、これらに限定されないが、
(1)異方性ゴム部材用のゴム組成物を単独で、又は追加のゴム組成物とともに成形する際の成形前、成形中及び/又は成形後にゴム組成物を硬化させることによって、アウトソールを得る方法、
(2)異方性ゴム部材用のゴム組成物を硬化させて異方性ゴム部材を形成した後、これを、別途形成した追加の部材と接着等により組合せて、アウトソールを得る方法、
等が挙げられる。成形は、射出成形、押出成形、押出異形成形、中空成形、圧縮成形等により行ってよい。
【0192】
<靴の組立>
上記のようにして得たアウトソールは、接着、縫製等の従来公知の方法で、アッパー、シャンク(アウトソール外に配置される場合)、及び、ミッドソール、インソール等等の任意部材と組合せて、本実施形態の靴を製造してよい。例えば、アッパー用のシートを抜き型で裁断したものを複数作製してこれらを縫製した後、足型を包み込んで成形することでアッパーを形成し、アウトソールとミッドソールとの間にシャンクを挟んでこれらを接着してソールを形成し、上記アッパーと上記ソールとを接着した後に足型を抜く方法を例示できる。
【実施例0193】
以下、実施例を挙げて本発明の例示の態様を更に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されない。
【0194】
≪評価方法≫
<セルロースナノファイバーの評価>
[多孔質シートの作製]
まず、濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。セルロースナノファイバー固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過した。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させた。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0195】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースナノファイバーを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
なお、アセチル化セルロースナノファイバーについては、アセチル化する前の原料の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比を採用した。
【0196】
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0197】
[数平均繊維径]
濃縮ケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、Regulus8220)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の短径(D)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
【0198】
[比表面積]
比表面積・細孔分布測定装置(Nova-4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)にて、多孔質シート約0.2gを真空下、120℃で5時間乾燥させた後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m2/g)を算出した。
【0199】
<CNF乾燥体の評価>
CNF乾燥体について以下の評価を実施した。測定には、ホソカワミクロン株式会社製パウダーテスター(型番:PT-X)を用いた。
[ゆるめ嵩密度]
容積100mLの円筒容器(材質:ステンレス)へCNF乾燥体を山盛りになるまで供給し、上面をすり切って秤量することによって測定した。なお、パウダーテスターの一般的な使用法では円筒容器上に篩及び漏斗をセットして、篩過された粉を供給するが、本実施例では篩はセットせずに、粉を直接自由落下で均一になるように供給した。
[かため嵩密度]
ゆるめ嵩密度を測定するために上面をすり切って秤量した後、さらにこの容器の上にキャップ(ホソカワミクロン社製パウダーテスターの備品)をはめ、この上縁まで粉体を加えてタッピングを180回行った。終了後、キャップを外して容器の上面で粉体をすり切って秤量することによって測定した。
[圧縮度]
圧縮度=(かため嵩密度-ゆるめ嵩密度)/かため嵩密度、で算出した。
【0200】
<ゴム部材(ゴム硬化物)の評価>
[引張強度:TBa及びTBb、モジュラス:M100a及びM100b]
JIS K-6251の引張試験法に準拠し、引張試験機(東洋精機製作所社製、型番ストログラフAEエラストマー AE2)を用いて評価した。ゴム硬化物シートを打ち抜いて、ロール混練方向を長手方向とする試験片1、及び、ロール混練方向と垂直の方向を長手方向とする試験片2を作製した。なおこれらの試験片は、ダンベル試験片(3号)である。試験片1について、引張強度(TBa)、及び100%伸び時引張応力(100%モジュラス、M100a)を測定し、試験片2について、引張強度(TBb)、及び100%伸び時引張応力(100%モジュラス、M100b)を測定した。
【0201】
[ショアA硬度]
JIS K6253-3に準拠して評価した。タイプAデュロメーター(テクロック社製、型番GX―02)により、硬化物シートの厚み方向の硬さを測定した。測定は、25℃で行った。
【0202】
[引裂強度]
JIS K-6252に準拠し、引裂試験機(東洋精機製作所社製、型番ストログラフAEエラストマー AE2)を用いて評価した。ゴム硬化物シートを打ち抜いて、ロール混練方向を長手方向とするアングル形試験片を作製した。試験片が切断に至るまでの最大引裂き力を計測した。
【0203】
[耐摩耗性]
JIS K-6264に準拠して評価した。直径16mm、高さ10mmの円柱状試験片を、加圧成型により作製した。DIN摩耗試験機(上島製作所製、型番DATAB―6112)を用い、空気中、室温(25℃)、B法(回転あり)、摩耗距離40m、荷重10Nにて試験を行い、摩耗試験前後の試験片の体積を計測した。
【0204】
[貯蔵弾性率、損失正接]
ゴム硬化物シートについて、粘弾性試験装置(TAインスツルメント社製、型番ARES-G2)を用い、ねじり方式により、50℃、周波数10Hz、歪み3%における貯蔵弾性率及び損失正接(tanδ)を評価した。
【0205】
≪使用材料≫
<マトリクスゴム(第1及び第2のゴム)>
共役ジエン系重合体(SBR-1):Asaprene Y031(旭化成(株)より入手可能)
天然ゴム(NR-1):RSS No.3(生産者:UNIMAC RUBBER CO.,LTD.(タイ)、供給者:丸紅テクノラバー)
【0206】
共役ジエン系重合体(SBR-2):以下の手順で製造した。
内容積が10Lであり、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、底部に入口を有し、頂部に出口を有し、撹拌機及び温度調整用のジャケットを有するオートクレーブ1基を使用した。さらに反応器の原料入口手前に、スタティックミキサーを1基連結した。予め水分等の不純物を除去した、1,3-ブタジエンを、20.2g/分、スチレンを16.8g/分、n-ヘキサンを137.6g/分で混合し、混合液を得た。この混合液が1基目の反応器に入る直前で、不純物不活性化処理用のn-ブチルリチウムを供給し、スタティックミキサーで混合した後、1基目の反応器の底部に連続的に供給した。さらに、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.320phmと、重合開始剤としてNBL(ノルマルブチルリチウム)を0.102phmとして、反応器の底部へ連続的に供給し、反応器内の温度を82℃に保持し、ゴム溶液を得た。
【0207】
反応器内で製造されたゴム溶液は、反応器の頂部よりスタティックミキサーへ供給し、スタティックミキサーの手前で、重合開始剤として供給したNBLのリチウムに対して、変性剤としてM1(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン)を1.0当量(ただし、M1が1molに対し、NBLが4mol反応するものとして添加量を算出した)の比で連続的に供給して反応を行い、共役ジエン系重合体(SBR-2)を得た。
【0208】
<添加剤ゴム(第3のゴム)>
液状ゴム:クレイバレー社製Ricon184(液状ブタジエン-スチレンランダム共重合体、Mn=9,400)
【0209】
<添加剤ゴム(第4のゴム)>
変性液状ゴム-1:クラレ社製LIR-403(無水マレイン酸変性液状ポリイソプレン、Mn=34,000、1分子鎖あたりの変性基の数は3個)
変性液状ゴム-2:クレイバレー社製Ricon184MA6(無水マレイン酸変性液状スチレンブタジエン共重合体、Mn=9,200、1分子鎖あたりの変性基の数は6個)
変性液状ゴム-3:クレイバレー社製Ricon131MA20(無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、Mn=7,000、1分子鎖あたりの変性基の数は11個)
【0210】
<セルロースナノファイバー(CNF):微小繊維状セルロース>
コットンリンターパルプ3質量部を水27質量部に浸漬させて、パルパーで分散を行った。パルパー処理したコットンリンターパルプスラリー30質量部(内、コットンリンターパルプ3質量部)に水を170質量部入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で徹底的に叩解を行い、叩解水分散体(固形分濃度:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で10回微細化処理し、微細セルロース繊維スラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。そして、脱水機により固形分率10質量%まで濃縮し、CNFの濃縮ケーキを得た。本セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は240,000、Mw/Mnは8.6、結晶化度は88%、数平均繊維径は53nm、比表面積は50m2/gであった。
【0211】
<分散剤>
ノニオン性分散剤:三洋化成社製サンニックスGL-3000(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリオール)
【0212】
<シリカ>
エボニック社製の商品名「Ultrasil VN3」
<シランカップリング剤>
エボニック社製の商品名「Si69」(ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
【0213】
<加硫助剤>
酸化亜鉛:富士フィルム和光純薬(株)より入手可能
ステアリン酸:富士フィルム和光純薬(株)より入手可能
<老化防止剤>
ノクラック6C:N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(大内新興化学(株)より入手可能)
<加硫促進剤>
加硫促進剤-1:サンセラー NS-G(N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(三新化学工業(株)より入手可能))
加硫促進剤-2:サンセラー M(2-メルカプトベンゾチアゾール(三新化学工業(株)より入手可能))
【0214】
≪CNF乾燥体の製造≫
上記CNF(CNFの濃縮ケーキ)に精製水を加えて、最終的なセルロースナノファイバーの含有量が5質量%となる水分散液を得た。これに液状ゴム(第3のゴム)、及びノニオン性分散剤を加え、最終的な組成として、水90質量%、セルロースナノファイバー5質量%、液状ゴム2.86質量%、ノニオン性分散剤2.14質量%となるように水分散体を調製した。当該水分散体を、株式会社シンキー製自転公転ミキサーARE-310を用いて5分間混合し、セルロースナノファイバー組成物の分散液を得た。得られた分散液を、エスペック株式会社製SPH-201を用いて80℃で乾燥させ、乾燥体を得た。得られた乾燥体をラボネクト株式会社製ミニスピードミルMS-05で30秒間粉砕し、CNF乾燥体(CNF-1)を得た。当該乾燥体のゆるめ嵩密度は0.43g/cm3、かため嵩密度は0.56g/cm3、圧縮度は18.4%であった。
【0215】
≪マスターバッチの製造≫
[製造例1~11]
温度制御装置を備える密閉混練機(内容量0.35L)を使用し、充填率65%、ローター回転数30~100rpmの条件で、表1に示す組成に従って、共役ジエン系重合体又は天然ゴム(第1のゴム)、CNF乾燥体、及び変性液状ゴム(第4のゴム)を混練りした。このとき、密閉混合器の温度を制御し、排出温度は155~160℃でマスターバッチを得た。
【0216】
≪ゴム部材(ゴム硬化物)の製造≫
[実施例1~17:マスターバッチ使用]
温度制御装置を備える密閉混練機(内容量0.35L)を使用し、第一段の混練りとして、充填率65%で、表2に示す配合に従い、共役ジエン系重合体又は天然ゴム(第2のゴム)、マスターバッチ、シリカ、シランカップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸、及び老化防止剤を加えて140℃で3分混練した。次に第二段の混練りとして、得られた混練り物を室温まで冷却後、セルロースナノファイバーの分散を向上させるため再度140℃で3分混練りした。冷却後、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、及び加硫促進剤を加えて混練し、シート状に成型した。その後、シート状の混練り物を厚み2.0mmの金型により、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫し、ゴム硬化物シートを得た。得られたゴム硬化物シートについて、各種評価を行った。その結果を表2に示す。別途、加硫前のシートを靴の製造に供した。
【0217】
[実施例18~28、比較例1~3:マスターバッチ不使用]
温度制御装置を備える密閉混練機(内容量0.35L)を使用し、第一段の混練りとして、充填率65%で、表3に示す配合に従い、共役ジエン系重合体又は天然ゴム(マトリクスゴム)、CNF乾燥体、変性液状ゴム(第4のゴム)、シリカ、シランカップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸、及び老化防止剤を加えて140℃で3分混練した。次に第二段の混練りとして、得られた混練り物を室温まで冷却後、セルロースナノファイバーの分散を向上させるため再度140℃で3分混練りした。冷却後、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、及び加硫促進剤を加えて混練し、シート状に成型した。その後、シート状の混練り物を厚み2.0mmの金型により、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫し、ゴム硬化物シートを得た。得られたゴム硬化物シートについて、各種評価を行った。その結果を表3に示す。別途、加硫前のシートを靴の製造に供した。
【0218】
≪靴の製造≫
上記で製造した加硫前のシート状の混練り物を、以下の手順で、市販靴(ビジネスシューズ)に貼り付けた。
市販の靴(ビジネスシューズ)のアウトソールを引きはがした。この靴はアウトソールとインソールとの間にスチール製のシャンクが埋め込まれていた。次に、実施例又は比較例で製造した加硫前のシート状の混練り物を、ロール方向がソールの長さ方向となるようにアウトソール用の金型に取り付け、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫し、アウトソールを得た。得られたアウトソールを上記の靴に貼り付けて実施例又は比較例の靴とした。
【0219】
[実靴評価]
作製した靴を着用した着用者に歩行させて、歩き心地を評価させた。
着用者10名のうち、歩き心地が優れていると答えた人数によって以下の基準で評価した。
A:歩き心地が優れていると答えた人数が7人以上
B:歩き心地が優れていると答えた人数が5人以上7人未満
C:歩き心地が優れていると答えた人数が5人未満
【0220】
【表1】
【0221】
【表2】
【0222】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0223】
本発明は、着用者の様々な動作に応じた適切な変形による動作し易さ、及び良好な耐久性が求められる各種の靴に好適に適用され得る。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B