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  • 特開-逆起電圧可変モータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097867
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】逆起電圧可変モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/14 20060101AFI20250624BHJP
【FI】
H02K21/14 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214334
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】坂 啓太
【テーマコード(参考)】
5H621
【Fターム(参考)】
5H621AA03
5H621BB07
5H621PP03
5H621PP10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】巻線や結線方法の変更、あるいは磁石の脱磁再着磁を要することなく、逆起電圧を可変な構成の逆起電圧可変モータを提供する。
【解決手段】逆起電圧可変モータ10は、軸(バックヨーク)9、軸9に取り付けられているロータ6、ならびにステータ8からなるモータにおける逆起電圧可変な構成であって、ロータ8はマグネット7を備えており、軸9内には、逆起電圧変更用の部材として、磁性材からなる軸方向に位置調節可能な円筒状の可動バックヨーク2が備えられている構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸、該軸に取り付けられているロータ、ならびにステータからなるモータにおける逆起電圧可変な構成であって、
該ロータはマグネットを備えており、
該軸内には、逆起電圧変更用の部材として、軸方向に位置調節可能な磁性材製かつ円筒状の可動バックヨークが一または複数備えられている
ことを特徴とする、逆起電圧可変モータ。
【請求項2】
前記可動バックヨークが二以上備えられており、各可動バックヨークは独立して位置調節可能であることを特徴とする、請求項1に記載の逆起電圧可変モータ。
【請求項3】
少なくとも一の前記可動バックヨークの可動範囲が、前記マグネットの取付け範囲の少なくとも一部と重なるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の逆起電圧可変モータ。
【請求項4】
前記軸内に、前記可動バックヨークに加え、軸方向位置不変の円筒状の固定バックヨークが備えられていることを特徴とする、請求項1に記載の逆起電圧可変モータ。
【請求項5】
前記可動バックヨークの位置調節は複数の段階にて可能なように形成されていることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の逆起電圧可変モータ。
【請求項6】
前記可動バックヨークの位置調節は無段階で連続的に可能なように形成されていることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の逆起電圧可変モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は逆起電圧可変モータに係り、特に、巻線や結線方法の変更、あるいは磁石の脱磁再着磁を要することなく、逆起電圧を可変な構成の逆起電圧可変モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、同じ体格(フランジサイズなどの仕様)・構造を有するモータにおいて、逆起電圧を変更する場合には、巻線仕様を変更するという方法がある。または、外部にてコイルの回路数を変更することによって可変とすることもできる。また、後掲特許文献1には、逆起電圧を簡易に抑制し、高速域でのブレーキ力発生を防止する可変磁束モータドライブ方式として、磁石の脱磁再着磁を用いる方法が開示されている。
【0003】
これは、低保持力の永久磁石である可変磁石を有する可変磁束モータと、それを駆動する第一のインバータと、可変磁石の磁束を制御するための磁化電流を供給する機能を果たす第二のインバータと、可変磁石に対して減磁を行うべきか否かを判断してその結果に基づき減磁信号を生成する停止減磁判断部と、停止減磁判断部により生成された減磁信号に基づき可変磁石に対して減磁を行う機能を果たす第三のインバータとから構成される可変磁束ドライブシステムである。
【0004】
また、後掲特許文献2には、簡易な構造でモータのトルク特性・出力特性を制御可能な方法として、ステータコアの両端面に一対のリアクトルを対向配置し、リアクトルコイルに流れる電流により、一方のリアクトルコアに発生した磁束をステータコアによって他方のリアクトルコアに通過させる構造が開示されている。かかる構成により、リアクトル電流を制御することで、永久磁石の回転に伴い発生する逆起電力を制御できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-17694号公報「可変磁束ドライブシステム」
【特許文献2】特開2023-117007号公報「モータの制御方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、同じ体格・構造を有するモータにおける逆起電圧変更の方法として、上述の巻線仕様変更の方法では、一個体当り一つの特性しか得られず、変更可能な逆起電圧の自由度が無い。一方、外部にてコイルの回路数を変更する方法では、回路数切り替え装置が別途必要となるため、コスト増加となり、好ましくない。磁石の脱磁再着磁を行う方法も、煩雑である。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、巻線や結線方法の変更、あるいは磁石の脱磁再着磁を要することなく、逆起電圧可変の逆起電圧可変モータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した。その結果、次のことに想到した。すなわち、ロータのマグネット部には磁路を設けて特性を確保するために磁性材を用いているが、その磁性材の形状を変更な構造とすることによって、一個体であってもある程度の逆起電圧可変が可能になる、ということである。この思想により上記課題を解決できる見通しが立ち、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 軸、該軸に取り付けられているロータ、ならびにステータからなるモータにおける逆起電圧可変な構成であって、該ロータはマグネットを備えており、該軸内には、逆起電圧変更用の部材として、軸方向に位置調節可能な磁性材製かつ円筒状の可動バックヨークが一または複数備えられていることを特徴とする、逆起電圧可変モータ。
〔2〕 前記可動バックヨークが二以上備えられており、各可動バックヨークは独立して位置調節可能であることを特徴とする、〔1〕に記載の逆起電圧可変モータ。
〔3〕 少なくとも一の前記可動バックヨークの可動範囲が、前記マグネットの取付け範囲の少なくとも一部と重なるように形成されていることを特徴とする、〔1〕に記載の逆起電圧可変モータ。
【0010】
〔4〕 前記軸内に、前記可動バックヨークに加え、軸方向位置不変の円筒状の固定バックヨークが備えられていることを特徴とする、〔1〕に記載の逆起電圧可変モータ。
〔5〕 前記可動バックヨークの位置調節は複数の段階にて可能なように形成されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の逆起電圧可変モータ。
〔5〕 前記可動バックヨークの位置調節は無段階で連続的に可能なように形成されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の逆起電圧可変モータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の逆起電圧可変モータは上述のように構成されるため、これらによれば、一台のモータ単体である程度の逆起電圧可変が可能であり、巻線や結線方法の変更、外部装置等の追加、あるいは磁石の脱磁再着磁を要することなく、逆起電圧可変の逆起電圧可変モータを提供することができ、モータの駆動域を拡大することができる。
【0012】
すなわち、一台のモータ単体で、逆起電圧を大きくする調整により高効率・高トルク出力、また逆起電圧を小さくする調整により高速回転出力、いずれの出力も可能となる。逆起電圧を小さくする調整の場合には、回生エネルギーを低減できるという利点もある。また、かかる逆起電圧の調整は、本モータ製造完了後においても、つまりモータ使用者による使用段階においても容易に可能であり、製造段階で仕様が固定されてしまう巻線・結線方法変更の方式と比べ、利便性が高い。
【0013】
なお、上記特許文献2開示技術は、逆起電圧を変化させる点では本発明と共通点があるが、ステータの軸方向両端にリアクトルコアとリアクトルコイルからなるリアクトルを設けて逆起電圧を変化させる方式であり、本発明のロータ側におけるバックヨーク可変の方式とは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の逆起電圧可変モータの基本構成を示す側断面図である。
図1-2】図1に示す本発明逆起電圧可変モータにおける逆起電圧変更例を示す側断面図である。
図2】本発明の逆起電圧可変モータの別の基本構成を示す側断面図である。
図3図2に示す本発明逆起電圧可変モータにおける逆起電圧変更例を示す側断面図である。
図4図2に示す本発明逆起電圧可変モータにおける別の逆起電圧変更例を示す側断面図である。
図5】固定バックヨークを有する本発明逆起電圧可変モータの基本構成を示す側断面図である。
図6図5に示す本発明逆起電圧可変モータにおける逆起電圧変更例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の逆起電圧可変モータの基本構成を示す側断面図である。図示するように本逆起電圧可変モータ10は、軸(バックヨーク)9、軸9に取り付けられているロータ6、ならびにステータ8からなるモータにおける逆起電圧可変な構成であって、ロータ8はマグネット7を備えており、軸9内には、逆起電圧変更用の部材として、軸方向に位置調節可能な、磁性材製かつ円筒状の可動バックヨーク2が備えられていることを、主たる構成とする。
【0016】
図1-2は、図1に示す本発明逆起電圧可変モータにおける逆起電圧変更例を示す側断面図である。上述した基本構成を有する本逆起電圧可変モータ10は、最大の逆起電力が得られる位置に可動バックヨーク2がある際、すなわち図1で示した可動バックヨーク2がマグネット7の取付け範囲全体をカバーする位置に位置調節されている際と比べて、本図1-2中の(a)に示すような、可動バックヨーク2がマグネット7の取付け範囲の一部のみをカバーする位置に位置調節されている場合には、得られる逆起電力がより小さくなる。
【0017】
図1-2中の(b)に示す、可動バックヨーク2がマグネット7の取付け範囲から外れる位置に位置調節されている場合には、得られる逆起電力はさらに小さくなる。このように、軸9内に備えられた円筒状の可動バックヨーク2は、逆起電圧変更用の部材として作用し、これを軸方向に位置調節することによって、逆起電圧を変更することができる。なお、図1、1-2に示すように、可動バックヨーク2の可動範囲が、マグネット7の取付け範囲の少なくとも一部と重なるような構成とすることができ、また、それが望ましい。
【0018】
なお、軸9内に設けられているかかる円筒状の可動バックヨーク2は、軸9に固定されてはいない。したがって、軸9が回転しても可動バックヨーク2がそれに追従して回転することはなく、また、固定されていないゆえに、軸方向上の移動が可能であり、位置調節を可能ならしめる。可動バックヨーク2は、軸9の内壁に摺設されている形態でも、あるいは適宜の遊びをもって嵌め込まれている形態でもよい。かかる可動バックヨークの構造は、図2以降の各図により説明する本発明の別構成においても同様である。
【0019】
可動バックヨーク2の材料は、磁気回路を形成可能な磁性材であれば適宜のものを用いることができる。また、その厚さも適宜に設計可能である。磁性材の種類や厚さ如何によって逆起電圧可変範囲を設計することも、適宜に可能である。
【0020】
図2は、本発明の逆起電圧可変モータの別の基本構成を示す側断面図である。可動バックヨーク22、23として図に示すように、本発明の逆起電圧可変モータ210が軸29内に備える逆起電圧変更用の部材であるところの、軸方向に位置調節可能な磁性材製かつ円筒状の可動バックヨークは、複数備えられている構成とすることができる。図では、可動バックヨーク22、23の二個が設けられている構成だが、これに限定されず、三個以上であってもよい。ただし、二個でも十分に本発明所期の課題を解決することができる。
【0021】
図示するように、可動バックヨーク22、23は入れ子式の配置関係とすることができる。そして、それぞれが独立して軸方向上の移動が可能なように、相互に摺設されているか、またはある程度の遊びをもって嵌め合わされている形態とすることができる。本図に示す状態は、マグネット27の取付け範囲の全範囲に対して、軸(バックヨーク)29、可動バックヨーク22、および可動バックヨーク23が重なるように位置調節されている状態であり、磁気回路として十分な大きさを有し、逆起電圧は最大となる。
【0022】
このように、少なくとも一の可動バックヨーク22等の可動範囲が、マグネット27の取付け範囲の少なくとも一部と重なるように形成されている構成とすることで、逆起電圧の可変範囲をより大きくすることができ、用途範囲・適用範囲の広い逆起電圧可変モータとすることができる。なお、本逆起電力可変モータ210のその他の位置調節例については、追って図3、4にて説明する。
【0023】
複数の可動バックヨーク22、23等それぞれにおける、材料たる磁性材の種類や厚さは、適宜に設計可能である。また、軸29方向上の可動範囲も、適宜に設計可能である。
【0024】
本逆起電圧可変モータ10等における可動バックヨーク2等の位置調節は、複数の段階にて可能なように形成されている構造とすることができる。つまり、位置調節用の特定位置を複数設定し、かかる複数の特定位置で一時的に、ねじ止めなど適宜の方法にて固定可能な構造であり、位置調節を不連続的・段階的に行える構造である。管楽器にたとえれば、リコーダやフルート的な構造である。
【0025】
一方、可動バックヨーク2等の位置調節を、無段階で連続的に可能なように形成されているとしてもよい。つまり、位置調節用の特定位置は設けず、任意の位置で一時的に、ねじ止めなど適宜の方法にて固定可能な構造であり、位置調節を連続的・無段階的に行える構造である。管楽器にたとえれば、トロンボーン的な構造である。
【0026】
図3は、図2に示す本発明逆起電圧可変モータにおける逆起電圧変更例を示す側断面図である。本図に示す状態は、可動バックヨーク22はマグネット27の取付け範囲の全範囲に対して重複する位置に調節され、一方、可動バックヨーク23は、その全体がマグネット27の取付け範囲から外れた位置に調節されている位置調節状態である。すなわち、マグネット27に対し、軸(バックヨーク)29、可動バックヨーク22のみが重複しており、それにより、図2に示した位置調節状態と比較して磁気回路が低下し、逆起電圧がより小さくなる。
【0027】
図4は、図2に示す本発明逆起電圧可変モータにおける別の逆起電圧変更例を示す側断面図である。本図に示す状態は、可動バックヨーク22、23ともに、その全体がマグネット27の取付け範囲から外れた位置に調節されている位置調節状態である。すなわち、マグネット27に対し、軸(バックヨーク)29のみが重複しており、それにより、図3に示した位置調節状態と比較してさらに磁気回路が低下し、さらに逆起電圧が小さくなり、図2、3、4に示した中では最小となる。
【0028】
図5は、固定バックヨークを有する本発明逆起電圧可変モータの基本構成を示す側断面図である。図示するように本逆起電圧可変モータ510は、軸59内に、可動バックヨーク52に加え、軸方向位置不変の円筒状の固定バックヨーク55が備えられている構成とすることができる。なお、図示する単一の可動バックヨーク22構成に関わらず、上述の通り、可動バックヨークは複数であってもよい。
【0029】
また、固定バックヨーク55はマグネット57の取付け範囲全部と重複するように設けられているが、これには限定されない。したがって、たとえば、マグネット57の取付け範囲の一部のみと重複するように固定バックヨーク55を設けることとしてもよい。
【0030】
本図に示す状態は、マグネット57の取付け範囲の全範囲に対して、軸(バックヨーク)59、固定バックヨーク55、および可動バックヨーク52が重なるように位置調節されている状態であり、磁気回路として十分な大きさを有し、逆起電圧は最大となる。
【0031】
図6は、図5に示す本発明逆起電圧可変モータにおける逆起電圧変更例を示す側断面図である。本図に示す状態は、固定バックヨーク55はマグネット57の取付け範囲の全範囲に対して重複する位置にあり、一方、可動バックヨーク52は、その一部がマグネット57の取付け範囲から外れた位置に調節されている位置調節状態である。すなわち、マグネット57に対し、軸(バックヨーク)59、固定バックヨーク55のみが完全に重複しており、それにより、図5に示した位置調節状態と比較して磁気回路が低下し、逆起電圧がより小さくなる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の逆起電圧可変モータによれば、巻線や結線方法の変更、あるいは磁石の脱磁再着磁を要することなく、逆起電圧を可変な構成の逆起電圧可変モータを提供することができる。したがって、モータ製造、使用分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0033】
2、22、23、52…可動バックヨーク
6、26、56…ロータ
7、27、57…マグネット
8、28、58…ステータ
9、29、59…軸(バックヨーク)
10、210、510…逆起電圧可変モータ
55…固定バックヨーク
図1
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6