(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097965
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20250624BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20250624BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20250624BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20250624BHJP
B29B 9/06 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/14
C08L77/02
C08L77/06
B29B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024222317
(22)【出願日】2024-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2023214117
(32)【優先日】2023-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】小山 晃正
【テーマコード(参考)】
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F201AA29
4F201AB05
4F201AB17
4F201AB25
4F201BA02
4F201BC02
4F201BC13
4F201BC15
4F201BL08
4J002BC112
4J002CL011
4J002CL031
4J002DE047
4J002DE097
4J002DE117
4J002DE127
4J002DE187
4J002DK007
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD132
4J002FD137
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、組成物の難燃性および機械強度に優れており、特に燃焼試験時のドリップ抑制や成形体とした時の引張試験やウェルド強度に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂20~70質量%と、(B)難燃剤10~35質量%と、(C)難燃助剤1~15質量%と、(D)ガラス繊維10~60質量%とを含み、前記(D)ガラス繊維の繊維長分布において、前記(D)ガラス繊維の総質量に対する、繊維長が400μm以上500μm未満の前記(D)ガラス繊維の含有量が15質量%以上25質量%以下であり、繊維長が500μm未満の前記(D)ガラス繊維の含有量が50質量%以上60質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂20~70質量%と、(B)難燃剤10~35質量%と、(C)難燃助剤1~15質量%と、(D)ガラス繊維10~60質量%とを含み、
前記(D)ガラス繊維の繊維長分布において、前記(D)ガラス繊維の総質量に対する、繊維長が400μm以上500μm未満の前記(D)ガラス繊維の割合が15質量%以上25質量%以下であり、繊維長が500μm未満の前記(D)ガラス繊維の割合が50質量%以上60質量%以下である
ことを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、及びポリアミドMXD6、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)難燃剤が、ハロゲン系難燃剤を含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ハロゲン系難燃剤が、PBDE系、TBBA系、多ベンゼン環化合物、及び臭素化芳香族ポリマーからなる群より選択される1種以上の臭素系難燃剤を含む、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)難燃剤助剤が、酸化アンチモン類、酸化スズ類、酸化鉄類、金属水酸化物、金属ホウ酸塩、及びシリコーンからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)ガラス繊維の断面の平均真円度が、1以上4未満である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6(以下、「PA6」と略記する場合がある)及びポリアミド66(以下、「PA66」と略記する場合がある)等に代表されるポリアミドは、機械的強度、耐熱性などに優れることから、自動車部品、機械部品、電気・電子部品などの分野で使用されている。特に、電気・電子部品用途において、難燃性に対する要求レベルは高く、本来ポリアミド樹脂の有する自己消火性よりもさらに高度な難燃性能が要求される。このため、アンダーライターズ・ラボラトリーのUL94規格における評価V-0に適合するための検討が数多くなされている。
【0003】
このような難燃性ポリアミド樹脂の代表例として、臭素化ポリスチレンを用いた難燃性ポリアミド材料が挙げられる。例えば、特許文献1では、リフローはんだ工程における耐熱性、難燃性および流動性に優れるとともに、成形時における熱安定性が良好であるポリアミド樹脂組成物が開示されている。特許文献2では、成形加工時の発生ガス量が大幅に低減され、金型腐食性の極めて少ないポリアミド樹脂組成物が開示されている。特許文献3では、高い難燃性や高いウェルド強度とともに靭性を付与したポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/123469号
【特許文献2】特開平10-168307号公報
【特許文献3】特開2007-291250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最近では、電気・電子部品の構造の複雑化により、部品が薄肉化傾向にある。そのため、従来よりも難燃性、機械的特性に優れた材料がより一層求められており、上記文献に開示されている発明は、必ずしも上記特性を満足するものではなかった。また、機械強度を向上させる目的でポリアミド樹脂組成物にガラス繊維を添加する場合、加工時に、ガラス繊維の破断がしばしば起こり、燃焼試験時にドリップを引き起こすことでUL基準を満たさないことがあるが、上記の従来の技術では十分に検討されていなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、難燃性及び機械的特性に優れるポリアミド樹脂組成物及び該ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)(A)ポリアミド樹脂20~70質量%と、(B)難燃剤10~35質量%と、(C)難燃助剤1~15質量%と、(D)ガラス繊維10~60質量%とを含み、前記(D)ガラス繊維の繊維長分布において、前記(D)ガラス繊維の総質量に対する、繊維長が400μm以上500μm未満の前記(D)ガラス繊維の割合が15質量%以上25質量%以下であり、繊維長が500μm未満の前記(D)ガラス繊維の割合が50質量%以上60質量%以下であることを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物。
(2)前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、及びポリアミドMXD6、並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択される1種以上である、(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)前記(B)難燃剤が、ハロゲン系難燃剤を含む、(1)又は(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)前記ハロゲン系難燃剤が、PBDE系、TBBA系、多ベンゼン環化合物、及び臭素化芳香族ポリマーからなる群より選択される1種以上の臭素系難燃剤を含む、(3)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)前記(C)難燃剤助剤が、酸化アンチモン類、酸化スズ類、酸化鉄類、金属水酸化物、金属ホウ酸塩、及びシリコーンからなる群より選択される1種以上を含む、(1)~(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)前記(D)ガラス繊維の断面の平均真円度が、1以上4未満である、(1)~(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性及び機械的強度に優れるポリアミド樹脂組成物及び該ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本明細書において、「ポリアミド樹脂」とは、主鎖に「-CO-NH-」(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。
【0011】
<ポリアミド樹脂組成物>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と略記する場合がある)は、(A)ポリアミド樹脂と、(B)難燃剤と、(C)難燃助剤と、(D)ガラス繊維を含む。
ポリアミド樹脂組成物中の(A)ポリアミド樹脂の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中20~70質量%であり、45~65質量%が好ましく、より好ましくは50~60質量%である。
ポリアミド樹脂組成物中の(B)難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中10~35質量%であり、13~30質量%が好ましく、より好ましくは15~25質量%である。
ポリアミド樹脂組成物中の(C)難燃助剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中1~15質量%であり、2~13質量%が好ましく、より好ましくは3~10質量%である。
ポリアミド樹脂組成物中の(D)ガラス繊維の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中10~60質量%であり、11~55質量%が好ましく、より好ましくは12~50質量%である。
【0012】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(D)ガラス繊維の繊維長分布において、(D)ガラス繊維の総質量に対する、繊維長が400μm以上500μm未満の(D)ガラス繊維の割合が15質量%以上25質量%以下であり、かつ繊維長が500μm未満の(D)ガラス繊維の割合が50質量%以上60質量%以下である。好ましくは、(D)ガラス繊維の繊維長分布において、(D)ガラス繊維の総質量に対する、繊維長が400μm以上500μm未満の(D)ガラス繊維の割合が15質量%以上20質量%以下であり、かつ繊維長が500μm未満の(D)ガラス繊維の割合が50質量%以上55質量%以下である。
ポリアミド樹脂組成物中の(D)ガラス繊維の繊維長分布が上記範囲内であることで、成形体としたときの難燃性、機械的強度に優れる
なお、(D)ガラス繊維の繊維長分布は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0013】
ポリアミド樹脂組成物中の(D)ガラス繊維の繊維長分布を上記範囲内とする方法としては、例えば、重量平均繊維長が2.0mm以上4.0mm以下のガラス繊維を原料として用い、且つ、溶融混練時の応力時間積分値(押出機による溶融混練の際に樹脂が受けるせん断応力を累積した値)を調整する方法等が有効である。応力時間積分値を調整する方法としては、例えば、ポリアミド樹脂組成物の粘度数(VN)を調整するとともに、押出機のスクリューデザインを調整する方法等が有効である。例えば、ツインスクリューシミュレーター(HASL社製)で、二軸押出機のスクリュー形状と操作条件、樹脂物性を入力することで、応力時間積分値の算出が可能である。一般的に応力時間積分値を大きくするには、ニーディングディスクや逆ディスクを多く組合せ、混練物にせん断応力を加える構成がとられる。
【0014】
[(A)ポリアミド樹脂]
(A)ポリアミド樹脂としては、以下特に限定されないが、例えば、(a)ラクタムの開環重合で得られるポリアミド樹脂;(b)ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド樹脂;(c)ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド樹脂;並びにこれらの共重合物等が挙げられる。(A)ポリアミド樹脂は、1種単独であってもよく、2種以上の組合せであってもよい。
以下、(A)ポリアミド樹脂の各種原料について説明する。
【0015】
上記(a)ポリアミド樹脂の原料となるラクタムとしては、特に限定されないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカラクタム、ドデカラクタム等が挙げられる。
上記(b)ポリアミド樹脂の原料となるω-アミノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、上記ラクタムの水による開環化合物であるω-アミノ脂肪酸等が挙げられる。
なお、上記(a)ポリアミド樹脂又は上記(b)ポリアミド樹脂は、それぞれ2種類以上のラクタム又はω-アミノカルボン酸を併用して縮合させたものであってもよい。
【0016】
上記(c)ポリアミド樹脂の原料となるジアミン(単量体)としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミン、2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐鎖状の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
上記(c)ポリアミド樹脂の原料となるジカルボン酸(単量体)としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
上記した単量体としてのジアミン及びジカルボン酸は、それぞれ1種単独又は2種以上組み合わせて縮合させてもよい。
【0017】
(A)ポリアミド樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド1010(ポリデカメチレンセバカミド)、ポリアミド1012(ポリデカメチレンドデカミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミド等が挙げられる。
【0018】
また、共重合ポリアミドとしては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド66及びポリアミド6Tの共重合物、ポリアミド66及びポリアミド6Iの共重合物、ポリアミド6T及びポリアミド6Iの共重合物等が挙げられる。
【0019】
上記で列挙したポリアミドの中でも、(A)ポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミドMXD6、及びこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミドMXD6、及びこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。このような(A)ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形体の機械的強度及び熱時剛性がより優れる傾向にある。
【0020】
ポリアミド樹脂の末端基には、一般に、アミノ基又はカルボキシ基が存在する。特に限定されないが、(A)ポリアミド樹脂のアミノ末端基量とカルボキシ末端基量との総量に対するアミノ末端基量の比率[アミノ末端基量/(アミノ末端基量+カルボキシ末端基量)]は、0.3以上1.0未満が好ましく、0.3以上0.8以下がより好ましく、0.3以上0.6以下がさらに好ましい。末端基量の比率が上記範囲内であることにより、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の、色調、機械的強度、及び耐振動疲労特性がより優れる傾向にある。
【0021】
(A)ポリアミド樹脂のアミノ末端基量は、10μmol/g以上100μmol/g以下が好ましく、15μmol/g以上80μmol/g以下がより好ましく、30μmol/g以上80μmol/gμmol/g以下がさらに好ましい。アミノ末端基量が上記範囲内であることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度がより優れる傾向にある。
【0022】
ここで、本明細書におけるアミノ末端基量及びカルボキシ末端基量の測定方法としては、例えば、1H-NMR法、滴定法等が挙げられる。1H-NMR法においては、各末端基に対応した特性シグナルの積分値によって求めることができる。滴定法においては、アミノ末端基については、例えば、ポリアミド樹脂のフェノール溶液を0.1N塩酸で滴定する方法、カルボキシ末端基については、例えば、ポリアミド樹脂のベンジルアルコール溶液を0.1N水酸化ナトリウムで滴定する方法等が挙げられる。
【0023】
ポリアミド樹脂の末端基量(末端濃度)の調整方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。調整方法としては、例えば、末端調整剤を用いる方法が挙げられる。具体例として、ポリアミドの重合時に所定の末端濃度となるように、モノアミン化合物、ジアミン化合物、モノカルボン酸化合物、及びジカルボン酸化合物からなる群より選択される1種以上の末端調整剤を添加することが挙げられる。末端調整剤の溶媒への添加時期については、末端調整剤として本来の機能を果たす限り特に限定されず、例えば、上記したポリアミドの原料を溶媒に添加する際があり得る。
【0024】
上記モノアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン、並びにこれらの任意の混合物等が挙げられる。中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性や価格等の観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン又はアニリンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記ジアミン化合物は、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミン、2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐鎖状の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記モノカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。これらのカルボン酸化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記ジカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン-4,4‘-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4‘-ジカルボン酸、4,4‘-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
[(B)難燃剤]
本実施形態で用いられる(B)難燃剤は、難燃特性を向上させるために添加するものである。(B)難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤を含むことが好ましい。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテルなどのPBDE系、テトラブロモビスフェノールAなどの誘導体を含むTBBA系、ポリ(2,6-ジブロモフェニレンオキシド)などの多ベンゼン環化合物、臭素化ポリスチレン、2,6-又は2,4-ジブロモフェノールホモポリマーなどの臭素化芳香族ポリマーなどの臭素系難燃剤を少なくとも1種含むものであることが好ましい。
【0029】
上記PBDE系に関しては、デカブロモジフェニルエーテル(10臭素化物)やオクタブロモジフェニルエーテル(8臭素化物)、ペンタブロモジフェニルエーテル(5臭素化物)などが挙げられる。
【0030】
上記TBBA系に関しては、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)の誘導体としてエポキシオリゴマー、カーボネートオリゴマー、ビス(ジブロモプロピルエーテル)、ビス(アリールエーテル)などが挙げられる。
【0031】
上記多ベンゼン環化合物に関しては、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジンなどが挙げられる。
【0032】
臭素化ポリスチレンは、流動性、熱安定性の観点から、重量平均分子量Mwが1000~10000であることが好ましく、より好ましくは1000~5000である。
また、臭素化ポリスチレンは、流動性、熱安定性の観点から、分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0~2.0であることが好ましく、より好ましくは1.05~1.30である。
なお、本明細書において、臭素化ポリスチレンの重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができ、具体的には、例えば、以下の条件により測定することができる。
<臭素化ポリスチレンの分子量測定>
GPC測定条件
GPC装置:HLC-8320GPC(東ソー製)
カラム:TSKgel GMHHR-H(7.8mmI.D.×30cm)×2本(東ソー製)
溶離液:クロロホルム(富士フイルム和光純薬製HPLC用アミレン添加品)
検出器:示差屈折率計(RI検出器),polarity=(+)
流速:1.0mL/min.
カラム温度:40℃
試料濃度:2mg/mL
試料注入量:100μL
試料前処理:試料を秤量し、所定量の溶離液を加えて室温で一晩静置させ、50℃で1時間加熱溶解を行う。その後、緩やかに振り混ぜ、0.45μmのPTFEカートリッジフィルターでろ過する。
検量線:標準ポリスチレン(PS)(東ソー製)を用いた3次近似曲線を使用する。従って、得られる値はPS換算分子量となる。
【0033】
[(C)難燃助剤]
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(C)難燃助剤をさらに含有する。これにより、難燃性にさらに優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0034】
(C)難燃助剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどの酸化アンチモン類;一酸化スズ、二酸化スズなどの酸化スズ類;酸化第二鉄、γ酸化鉄などの酸化鉄類;水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、及びホウ酸アルミニウムなどの金属ホウ酸塩;並びにシリコーンなどが挙げられる。これら(C)難燃助剤は1種単独であってもよいし、2種類以上の組合せであってもよい。
(C)難燃助剤としては、難燃性効果の点から、酸化アンチモン類、酸化スズ類、酸化鉄類及び金属ホウ酸塩から選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、酸化アンチモン類がさらに好ましく、三酸化二アンチモンが特に好ましい。
【0035】
難燃効果を上げるためには、(C)難燃助剤の平均粒径が0.01~10μmであることが好ましい。
なお、本明細書において、(C)難燃助剤の平均粒径は、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置や精密粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0036】
[(D)ガラス繊維]
(D)ガラス繊維は、断面が円形状であってもよく、偏平状(楕円状、繭型形状等)であってもよいが、低反り性の観点から、偏平状が好ましい。
【0037】
断面が円形状の場合、機械的強度と外観の観点から、(D)ガラス繊維の数平均繊維径は3μm以上30μm以下が好ましく、9μm以上20μm以下がより好ましく、12μm以上19μm以下がさらに好ましい。偏平状の場合、機械的強度、外観、及び低反り性の観点から、ガラス繊維の平均短径が3μm以上15μm以下が好ましく、4μm以上10μm以下がより好ましく、5μm以上9μm以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において、繊維径(短径)は、例えば、ポリアミド樹脂組成物のペレットを、ポリアミド樹脂組成物の分解温度以上で加熱焼却し、残った灰分を、顕微鏡を用いて写真撮影し、ガラス繊維の繊維径(短径)を計測する方法により測定することができる。得られた測定値を平均化することにより、数平均繊維径を計算することができる。ここでいう短径及び長径とは、ガラス繊維の断面に外接する最小面積の長方形を想定したときに、その長方形の短辺の長さ(短径)および長辺の長さ(長径)を指す。
【0038】
ガラス繊維の扁平性を表す概念として、短径と長径の比(長径/短径)を真円度として表す場合、(D)ガラス繊維の断面の平均真円度は1以上4未満であることが好ましく、1.05以上3未満であることがより好ましく、1.1以上~2未満であることがさらに好ましく、1.15以上1.8以下であることが特に好ましい。断面が円形状である場合の平均真円度は1である。
なお、本明細書において、平均真円度は、顕微鏡を用いて(D)ガラス繊維の断面を写真撮影し、無作為に選択した50本以上の繊維について短径と長径との測定結果から真円度を計算し、平均化した値である。
【0039】
断面が円形状の場合でも、偏平状の場合でも、優れた機械的強度と外観の観点から、(D)ガラス繊維の平均断面積は50μm2以上350μm2以下が好ましく、100μm2以上300μm2以下がより好ましく、120μm2以上250μm2以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において、平均断面積は、顕微鏡を用いて(D)ガラス繊維の断面を写真撮影し、無作為に選択した50本以上の繊維について断面積を測定し、平均化した値である。
【0040】
ポリアミド樹脂組成物中の(D)ガラス繊維の重量平均繊維長は、機械的強度の観点から、100μm以上750μm以下が好ましく、200μm以上650μm以下がより好ましく、400μm以上600μm以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において、繊維長は、例えば、ポリアミド樹脂組成物のペレットを、ポリアミド樹脂組成物の分解温度以上で加熱焼却し、残った灰分を、顕微鏡を用いて写真撮影し、ガラス繊維の長さを計測する方法により測定することができる。得られた測定値から、下記式により重量平均繊維長を計算することができる。
[重量平均繊維長]=[ガラス繊維長の2乗和]/[ガラス繊維長の合計]
【0041】
ガラス繊維の具体的な組成としては、以下に限定されるものではないが、例えば、Eガラス(無アルカリガラス)組成、Cガラス(含アルカリガラス)組成、Sガラス(強化ガラス)組成、耐アルカリガラス組成等が挙げられる。これらの中でも、入手が容易である観点から、Eガラスが好ましい。
【0042】
(D)ガラス繊維は、表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかを有することが好ましい。例えば、(D)ガラス繊維に表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかが塗布されていてもよい。(D)ガラス繊維が表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかを有することにより、加工性、特に解繊性により優れる傾向にある。
【0043】
(D)ガラス繊維の表面処理剤としては、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤を使用することが好適である。上記シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類が挙げられる。この中でも、アミノシラン類が好ましい。なお、表面処理剤は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
(D)ガラス繊維の集束剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、前記アクリル酸のホモポリマー又はコポリマーと第1級、第2級又は第3級アミンとの塩、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。この中でも、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む共重合体、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、又はこれらの組み合わせが好ましく、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む共重合体、ポリウレタン樹脂、又はこれらの組み合わせがより好ましい。このような集束剤を用いることにより、樹脂組成物の機械的強度がより向上する傾向にある。
【0045】
上記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。この中でも無水マレイン酸が好ましい。
【0046】
上記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とは、上記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とは異なる不飽和ビニル単量体を意味する。このような不飽和ビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3-ジクロロブタジエン、1,3-ペンタジエン、シクロオクタジエン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート等が挙げられる。この中でもスチレン又はブタジエンが好ましい。
【0047】
カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む好ましい共重合体としては、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸とブタジエンとの共重合体、無水マレイン酸とエチレンとの共重合体、無水マレイン酸とスチレンとの共重合体、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0048】
また、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体と、を構成単位として含む共重合体の重量平均分子量の下限値は、2,000が好ましく、5,000がより好ましい。また、重量平均分子量の上限値は、1,000,000が好ましく、500,000がより好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
なお、本明細書において、上記共重合体の重量平均分子量は、GPCにより測定することができる。
【0049】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、少なくとも2つ以上のグリシジル基を有するものを用いるのが好ましく、中でもビスフェノールとエピハロヒドリンとを反応させることによって得られるエポキシ樹脂がより好ましい。エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル当量は、180g/モル当量以上が好ましく、450g/モル当量以上1900g/モル当量以下がより好ましい。エポキシ当量が上記範囲内であることにより、(D)ガラス繊維の集束性がより向上する傾向にある。
【0050】
ポリウレタン樹脂としては、(D)ガラス繊維の集束剤として一般的に用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、m-キシリレンジイソシアナート(XDI)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)(HMDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)等のイソシアネートと、ポリエステル系又はポリエーテル系のジオールとから合成されるものが挙げられる。
【0051】
上記アクリル酸のホモポリマーの重量平均分子量は、1,000以上90,000以下が好ましく、1,000以上25,000以下がより好ましく、1,000以上25,000以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において、アクリル酸のホモポリマーの重量平均分子量はGPCを用いた定法により測定することができる。
【0052】
アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマーについて、アクリル酸と共重合体を形成するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、水酸基及びカルボキシ基のうち少なくともいずれかを有するモノマーが挙げられる。このような水酸基及びカルボキシ基のうち少なくともいずれかを有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸よりなる群から選択される1種以上が挙げられる(但し、アクリル酸のみの場合を除く)。上記したモノマーのうちエステル系モノマーを1種以上有することが好ましい。
【0053】
アクリル酸のホモポリマー及びコポリマーのうち少なくともいずれかのポリマーと塩を形成し得る第1級、第2級又は第3級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、グリシン等が挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤等)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20%以上90%以下が好ましく、30%以上80%以下がより好ましく、40%以上60%以下がさらに好ましい。
【0054】
第1級、第2級又は第3級アミンと塩を形成するアクリル酸のポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000以上50,000以下の範囲が好ましい。重量平均分子量が上記下限値以上であることにより、ガラス繊維の集束性がより向上する傾向にある。また、重量平均分子量が上記上限値以下であることにより、樹脂組成物の機械的特性がより向上する傾向にある。
【0055】
(D)ガラス繊維を、表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかを用いて処理する際には、潤滑剤を使用することが好ましい。潤滑剤としては、特に限定されないが、例えば、適宜目的に応じた通常の液体又は固体の任意の滑剤材料が使用可能である。このような潤滑剤としては、特に限定されないが、例えば、カルナウバワックス、ラノリンワックス等の動植物系又は鉱物系のワックス;脂肪酸アミド、脂肪酸エステル又は脂肪酸エーテル;芳香族系エステル又は芳香族系エーテル等の界面活性剤が挙げられる。
【0056】
((D)ガラス繊維の表面処理方法)
表面処理した(D)ガラス繊維は、例えば、上記の表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかを、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて(D)ガラス繊維に塗布(付与)し、得られた繊維ストランドを乾燥することによって連続的に反応させて得ることができる。
【0057】
なお、(D)ガラス繊維の状態としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維ストランドをロービングとしてそのまま使用してもよく、また、切断工程をさらに経て、長さ2mm以上5mm以下程度に切断されたチョップドストランドとして使用してもよい。なお、ストランドの乾燥は切断工程後に行っても、切断工程前に行なってもよい。
【0058】
上記表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかの付着量は、(D)ガラス繊維100質量%に対し、固形分率として、0.2質量%以上3質量%以下が好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかの付着量が上記下限値以上であることにより、ガラス繊維の集束性がより向上する傾向にある。一方、表面処理剤及び集束剤のうち少なくともいずれかの付着量が上記上限値以下であることにより、樹脂組成物の熱安定性がより向上する傾向にある。
【0059】
(D)ガラス繊維は、1種単独であってもよく、断面形状や平均断面積、ガラス組成、表面処理剤、集束剤等が異なる2種以上の組合せであってもよい。
【0060】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、単軸又は多軸の押出機によって(A)ポリアミド樹脂を溶融させた状態で混練する方法等を用いることができる。例えば、上流側供給口と下流側供給口とを備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口から(A)ポリアミド樹脂、(B)難燃剤、及び(C)難燃助剤を供給して溶融させた後、下流側供給口から(D)ガラス繊維を供給して溶融混練する方法を用いることが好ましい。また、(D)ガラス繊維のロービングを用いる場合も、公知の方法で複合することができる。
【0061】
上述のとおり、ガラス繊維原料の重量平均繊維長や溶融混練時の応力時間積分値を調整すること等により、樹脂組成物の製造時における(D)ガラス繊維の破断をコントロールすることで、成形体としたときの難燃性、機械的強度に優れるポリアミド樹脂組成物及び該ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することができる。
【0062】
<成形体>
本実施形態の成形体は、上記の本実施形態のポリアミド樹脂組成物を成形してなり、難燃性および機械的強度に優れる。
【0063】
成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、及び金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法が挙げられる。
【0064】
本実施形態の成形体は、上述したポリアミド樹脂組成物を含み、過酷な成形条件下における成形体の表面外観の安定性、ウェルド部の機械物性、靭性、耐熱性、難燃性に優れ、様々な用途に用いることができる。例えば、自動車分野、電気・電子分野、機械・工業分野、事務機器分野、航空・宇宙分野において、好適に用いることができる。
【実施例0065】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0066】
まず、実施例及び比較例で用いた原料、測定方法及び評価方法を以下に示す。
【0067】
<原料>
[(A)ポリアミド樹脂]
(A-1)ポリアミド66
粘度数(VN):141ml/kg、アミノ末端基:40μmol/g、カルボキシ末端基:80μmol/g
(A-2)ポリアミド66
粘度数(VN):120ml/kg、アミノ末端基:27μmol/g、カルボキシ末端基:84μmol/g
【0068】
[(B)難燃剤]
(B-1)臭素化ポリスチレン(ALBEMARLE社製、商品名:SAYTEX(登録商標)HP-3010PST(Mw=3557、Mn=2978、Mw/Mn=1.19)
(B-2)2,6-又は2,4-ジブロモフェノールホモポリマー(第一工業製薬(株)製、商品名:ピロガード(登録商標)SR-460B)
<臭素化ポリスチレンの分子量測定>
GPC測定条件
GPC装置:HLC-8320GPC(東ソー製)
カラム:TSKgel GMHHR-H(7.8mmI.D.×30cm)×2本(東ソー製)
溶離液:クロロホルム(富士フイルム和光純薬製HPLC用アミレン添加品)
検出器:示差屈折率計(RI検出器),polarity=(+)
流速:1.0mL/min.
カラム温度:40℃
試料濃度:2mg/mL
試料注入量:100μL
試料前処理:試料を秤量し、所定量の溶離液を加えて室温で一晩静置させ、50℃で1時間加熱溶解をした。その後、緩やかに振り混ぜ、0.45μmのPTFEカートリッジフィルターでろ過した。尚、試料溶液の目視において、全試料で不溶解物は確認されなかった。
検量線:標準ポリスチレン(PS)(東ソー製)を用いた3次近似曲線を使用した。従って、得られる値はPS換算分子量となる。
【0069】
[(C)難燃助剤]
(C-1)三酸化二アンチモン(キャンパイン製、商品名:三酸化二アンチモン、平均粒径0.8-1.0μm)
(C-2)ホウ酸亜鉛(水澤化学工業製、商品名:アルカネックス(登録商標)FRC-500)
【0070】
[(D)ガラス繊維]
(D)ガラス繊維
チョップドストランド状、断面の形状:円状(平均真円度:1)、数平均繊維径:10.5μm、重量平均繊維長:3.0mm、モノフィラメントの引張弾性率:84GPa、表面処理:シランカップリング剤(固形分率で0.35質量%)
【0071】
[物性1]
(末端濃度)
ポリアミド樹脂のアミノ基末端濃度は、中和滴定により以下のとおり測定した。
まず、得られたポリアミド3.0gを90質量%フェノール水溶液100mLに溶解した。次いで、得られた溶液を用い、0.025Nの塩酸で滴定を行い、アミノ基末端濃度(μmol/g)を求めた。終点はpH計の指示値から決定した。
【0072】
ポリアミド樹脂のカルボキシ基末端濃度は、中和滴定により以下のとおり測定した。
まず、得られたポリアミド4.0gをベンジルアルコール50mLに溶解した。次いで、得られた溶液を用い、0.1NのNaOHで滴定を行い、カルボキシ基末端濃度(μmol/g)を求めた。終点はフェノールフタレイン指示薬の変色から決定した。
【0073】
[物性2]
(ガラス繊維の断面の直径)
ガラス繊維の断面の直径(μm)は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いてガラス繊維の断面を写真撮影し、無作為に選択した50本の繊維について直径を測定して平均化することで算出した。
【0074】
[物性3]
(ガラス繊維の重量平均繊維長)
後述する実施例及び比較例で製造したポリアミド樹脂組成物のペレットを、650℃の電気炉にて2時間加熱して焼却処理した。残渣分から、2万本のガラス繊維を任意に選択し、倍率1000倍でのSEM写真を用いて2万本のガラス繊維の繊維長を計測した。次いで、下記式を用いて、重量平均繊維長(μm)を求めた。また、ガラス繊維の繊維長分布(繊維長が300μm未満、300μm以上400μm未満、400μm以上500μm未満、500μm以上1000μm未満、1000以上の割合)も求めた。
[重量平均繊維長]=[ガラス繊維長の2乗和]/[ガラス繊維長の合計]
【0075】
<評価方法>
[評価1]
<引張強度>
射出成形機は日精樹脂工業(株)製、NEXIVを用いた。シリンダー温度をポリアミドの融点+20℃、金型温度をポリアミドのガラス転移温度+20℃に設定し、射出10秒、冷却10秒の射出成形条件で、各ポリアミド組成物を用いて成形を行い、成形体(ISO試験片)を得た。ISO試験片を用いて、ISO 527に準じて、引張速度5mm/分で引張強度を測定した。測定値はn=6の平均値とした。
【0076】
[評価2]
<ウェルド強度>
長さ127mm、幅12.7mm、厚み1.6mmの形状の長さ方向の両端から、溶融樹脂が流れ込み、長さ方向の中央部にウェルドが形成されるような金型を取り付けた、射出成形機(日精樹脂工業製NEXIV)において、シリンダー温度をポリアミドの融点+20℃、金型温度をポリアミドのガラス転移温度+20℃に設定し、成形を行い、試験片を得た。この成形した試験片をチャック間距離50mm、引張速度50mm/minにした以外は、ISO 527に準拠した方法で引張試験を実施し、引張強度を求めた。測定値はn=6の平均値とした。
【0077】
[評価3]
<難燃性の評価>
UL94(米国Under Writers Laboratories Incで定められた規格)の方法を用いて測定を行った。なお、試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚みは0.3mm)は、射出成形機(日精工業(株)製PS40E)にUL試験片の金型(金型温度=ポリアミドのガラス転移温度の+20℃)を取り付け、シリンダー温度をポリアミドの融点+20℃としてポリアミド樹脂組成物を成形することにより作製した。射出圧力はUL試験片を成形する際の完全充填圧力+2%の圧力で行った。難燃等級は、UL94規格(垂直燃焼試験)に準じた。以下に概要を示す。
V-0:5本の試験片の合計燃焼時間50秒以下、最大燃焼時間10秒以下、ドリップなし
V-1:5本の試験片の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、ドリップなし
V-2:5本の試験片の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、ドリップあり
【0078】
<ポリアミド樹脂組成物の製造>
[実施例1~8]
(ポリアミド樹脂組成物の製造)
押出機の上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、且つ7番目のバレルに下流側供給口を有する、L/D(押出機のバレルの長さ/押出機のバレル径)=48(総バレル数:12。以下、バレルを順に、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11及びC12と表す。バレルの構成については以下に示すとおりである。)の二軸押出機(ZSK-26MC:コペリオン社製(ドイツ))を用いた。
【0079】
(バレルの構成)
上流側供給口:C1
可塑化部:C2~C5
輸送部:C6
下流側供給口:C7
混練部:C8~12
【0080】
上記二軸押出機において、上流側供給口から押出口(ダイ)までを280℃の温度、スクリュー回転数300rpm、(減圧度-0.06MPa)及び吐出量25kg/時間に設定した。かかる条件下で、下記表1に記載の組成及び配合量となるように、上流側供給口より上記ポリアミド樹脂、難燃剤、難燃助剤を供給し、下流側供給口よりガラス繊維を供給した。次いで、二軸押出機の混練条件を以下に示すスクリューパターンAとして、これらを溶融混練することで、各ポリアミド樹脂組成物のペレットを製造した。
【0081】
(スクリューパターンA)
・上流側供給口1:C1
・可塑化部2:C4~C5(構成:バレル径Dと同じ長さのニーディングディスクを7枚とその後に0.4Dの逆ディスク1枚の組合せ、長さ約190mm)
・下流側供給口3:C7
・混練部4:C8~C12(構成:バレル径Dと同じ長さのニーディングディスク7枚とその後に0.4Dの逆ディスク1枚の組合せ、長さ約190mm)
【0082】
(応力時間積分値)
溶融混練時の応力時間積分値をHASL社製Twin Screw Simulatorにより計算した。シミュレーションソフトに付属の下記の低密度ポリエチレンLDPEデータを使用した。
(条件)
・ソフトウェア:HASL社製Twin Screw Simulator(Ver.6.0.0)
・吐出量:25kg/hr
・スクリュー回転数:300rpm
・バレル温度:280℃
・入口温度30℃
・熱伝達係数:0.6W/cm2/K
・解析方法:未充満解析(出口樹脂圧1MPa)
・フィード:トップ
・処方:ソフト付属LDPEベースで計算
・その他のパラメータはデフォルトで解析
・モデルフィッティングソフト:HASL社製Materialfit(Ver.4.0.0)
・樹脂データ:Crossモデルでフィッティング
・溶融密度:770kg/m2
・固体密度:960kg/m2
・溶融体比熱:2250J/kg/K
・固体比熱:2303J/kg/K
・熱伝導率:0.25W/m/K
・溶融温度:130℃
・Nerton粘度:1000Pa・s
・潜熱:201189J/kg
・Tadmorモデル適応
【0083】
[比較例1]
(ポリアミド樹脂組成物の製造)
下記表1に記載の組成及び配合量となるように、上流側供給口より上記ポリアミド樹脂、難燃剤、難燃助剤を供給し、下流側供給口よりガラス繊維を供給した。次いで、二軸押出機の混練条件を以下に示すスクリューパターンBとして、これらを溶融混練することで、ポリアミド樹脂組成物のペレットを製造した。
【0084】
(スクリューパターンB)
・上流側供給口1:C1
・可塑化部2:C4~C5(構成:バレル径Dと同じ長さのニーディングディスク10枚とその後に0.4Dの逆ディスク1枚の組合せ、長さ約270mm)
・下流側供給口3:C7
・混練部4:C8~C12(構成:バレル径Dと同じ長さのニーディングディスク10枚とその後に0.4Dの逆ディスク1枚の組合せ、長さ約270mm上)
【0085】
[比較例2]
(ポリアミド樹脂組成物の製造)
下記表1に記載の組成及び配合量となるように、上流側供給口より上記ポリアミド樹脂、難燃剤、難燃助剤を供給し、下流側供給口よりガラス繊維を供給した。次いで、二軸押出機の混練条件を以下に示すスクリューパターンCとして、これらを溶融混練することで、ポリアミド樹脂組成物のペレットを製造した。
【0086】
(スクリューパターンC)
・上流側供給口1:C1
・可塑化部2:C4~C5(構成:バレル径Dと同じ長さのニーディングディスク3枚とその後に0.4Dの逆ディスク1枚の組合せ、長さ約90mm)
・下流側供給口3:C7
・混練部4:C8~C12(構成:バレル径Dと同じ長さのニーディングディスク7枚とその後に0.4Dの逆ディスクの組合せ、長さ約270mm)
【0087】
得られたポリアミド樹脂組成物について、上記方法を用いて物性を測定し、各種評価を行なった。結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1から、スクリューパターンAで製造され、(A)ポリアミド樹脂20~70質量%と(B)難燃剤10~35質量%と(C)難燃助剤1~15質量%と(D)ガラス繊維10~60質量%を含み、ポリアミド樹脂組成物中の(D)ガラス繊維の繊維長分布において、繊維長が400μm以上500μm未満の(D)ガラス繊維の含有量が15質量%以上25質量%以下であり、繊維長が500μm未満の(D)ガラス繊維の含有量が50質量%以上60質量%以下であるポリアミド樹脂組成物(実施例1~8)は、ガラス繊維原料の重量平均繊維長や溶融混練時の応力時間積分値を調整することにより組成物の製造時におけるガラス繊維長をコントロールすることで、UL94燃焼試験にて燃焼時のドリップを抑えることができ、V-0を達成しながら、機械的強度(引張強さ、ウェルド強度)に優れる成形体が得られた。
また、(D)ガラス繊維において、重量平均繊維長よりも短い繊維長(300μm未満、300μm以上400μm未満)の割合が少ないほど、燃焼時においてドリップし難いと考えられる。
【0090】
一方で、表1から、スクリューパターンB、Cで製造されたポリアミド樹脂組成物中(比較例1、2)では、ガラス繊維の繊維長分布において、400μm以上500μm未満の割合が15質量%以上25質量%未満を外れた範囲であった。適度な長さのガラス繊維が残存することでガラス繊維がネットワーク状に絡まり、ドリップを抑制することができると考えられるところ、比較例1、2では、繊維長の短いガラス繊維が多く存在することでネットワーク構造が保てなくなり、燃焼時のドリップを引き起こしてしまうことで難燃性が悪くなるとともに、機械的強度の低下も起こったと考えられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、組成物の難燃性および機械強度に優れており、特に燃焼試験時のドリップ抑制や成形体とした時の引張試験やウェルド強度に優れるため、自動車分野、電気・電子分野、機械・工業分野、事務機器分野、航空・宇宙分野等において好適に用いることができる