(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009808
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】粒状硫酸アンモニウム製造方法および粒状硫酸アンモニウム製造設備
(51)【国際特許分類】
C01C 1/24 20060101AFI20250109BHJP
B01D 9/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C01C1/24 C
B01D9/02 601C
B01D9/02 602A
B01D9/02 603E
B01D9/02 608A
B01D9/02 625E
B01D9/02 625D
B01D9/02 619Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059081
(22)【出願日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2023107478
(32)【優先日】2023-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】木村 善洋
(57)【要約】
【課題】粒径の大きい粒状硫酸アンモニウムを安定して生産する。
【解決手段】アンモニア含有ガスを硫酸水溶液と反応させて硫酸アンモニウム水溶液とし、前記硫酸アンモニウム水溶液を結晶缶に導入し、前記結晶缶内で硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとし、前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜く、粒状硫酸アンモニウム製造方法であって、前記結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定し、前記固液比に基づいて前記スラリーの引抜量を制御する、粒状硫酸アンモニウム製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア含有ガスを硫酸水溶液と反応させて硫酸アンモニウム水溶液とし、前記硫酸アンモニウム水溶液を結晶缶に導入し、前記結晶缶内で硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとし、前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜く、粒状硫酸アンモニウム製造方法であって、
前記結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定し、前記固液比に基づいて前記スラリーの引抜量を制御する、粒状硫酸アンモニウム製造方法。
【請求項2】
アンモニア含有ガスを硫酸水溶液と反応させて硫酸アンモニウム水溶液とする吸収塔と、
前記硫酸アンモニウム水溶液から硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとする結晶缶と、
前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜く引抜手段と、
前記結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定する固液比測定手段と、
前記固液比に基づいて前記スラリーの引抜量を制御する引抜量制御手段とを備える、粒状硫酸アンモニウム製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状硫酸アンモニウムの製造方法および製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
粒状硫酸アンモニウムの工業的な製造方法として、結晶缶を用いる方法が広く用いられている。前記方法では、硫酸アンモニウム水溶液を結晶缶に導入し、前記結晶缶内で硫酸アンモニウム水溶液から粒状硫酸アンモニウムを析出させる。
【0003】
例えば、製鉄所においては、石炭を乾留してコークスを製造する際に発生するコークス炉ガス中にアンモニアが含まれているため、コークス炉ガスを硫酸水溶液と反応させてアンモニアを除去することが行われている。このようにしてアンモニアを除去すると硫酸アンモニウム水溶液が得られるため、前記硫酸アンモニウム水溶液を用いて結晶缶で粒状硫酸アンモニウムを製造することが行われている。
【0004】
図1は、上述したコークス炉ガスから粒状硫酸アンモニウムを製造する方法を示す模式図である。
【0005】
まず、コークス製造過程で発生したコークス炉ガス1と硫酸水溶液2を吸収塔3で反応させて硫酸アンモニウム水溶液4とする。硫酸水溶液2は、例えば、硫酸5と水6とを中間槽7で反応させて調製し、ポンプ8によって吸収塔3へ送られる。吸収塔3の内部では、例えば、硫酸水溶液2を上部より散布して、硫酸水溶液2にアンモニアを吸収させる。
【0006】
得られた硫酸アンモニウム水溶液4は、結晶缶9へ送られる。結晶缶9の上部には、硫酸アンモニウム水溶液を濃縮するための蒸発缶10が備えられている。結晶缶9と蒸発缶10の間では、ポンプ11およびヒーター12を経由して硫酸アンモニウム水溶液4が循環される。
【0007】
蒸発缶10には真空装置13が接続されており、硫酸アンモニウム水溶液4が真空濃縮される。すなわち、減圧下で水分を蒸発、除去することにより硫酸アンモニウム水溶液4の過飽和度を上昇させる。飽和状態になった硫酸アンモニウム水溶液4は、蒸発缶10の下方に接続されている下降管14を通じて結晶缶9の底部付近に吐出される。これにより、結晶缶9の内部にすでに存在する硫酸アンモニウム結晶が巻き上げられると同時に、既存の結晶の表面で新たに硫酸アンモニウムが析出して結晶が成長する。このようにして結晶が成長することにより、粒状硫酸アンモニウムが得られる。
【0008】
その際、成長した結晶は、その重さによって結晶缶9の下方へ沈降する一方、比較的小さい結晶は結晶缶9の中段に滞留する。このように、結晶缶9の内部では分級効果が働くため、十分に成長した粒状硫酸アンモニウムは結晶缶9の下部に堆積する。そこで、成長した粒状硫酸アンモニウムを、結晶缶9の下部より、引抜きポンプ15を用いて粒状硫酸アンモニウム水溶液と混合したスラリー状態のままで抜出す。抜出された粒状硫酸アンモニウムを、脱水、乾燥することにより最終的な粒状硫酸アンモニウムが得られる。
【0009】
このようにして得られた粒状硫酸アンモニウムの主な用途は農業用の肥料であるが、散布性の観点から、粒径が大きいこと(例えば、1.4~4.75mm程度)が好まれる。そのため、粒径の大きい粒状硫酸アンモニウムを安定して生産する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平01-176214号公報
【特許文献2】特開平05-213615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従来の方法では、粒径の大きい粒状硫酸アンモニウムを安定して生産することは困難であった。その理由について、以下、説明する。
【0012】
最終的に得られる粒状硫酸アンモニウムの粒径を制御するためには、結晶缶の内部で進行する結晶成長を制御する必要があり、そのためには、結晶缶内に存在する結晶の数を制御することが重要となる。
【0013】
ここで、結晶缶内の結晶数Nは、下記(1)式で表される。
N=N0+Nin-Nout …(1)
N0:微結晶の発生数
Nin:種結晶として添加される結晶の数
Nout:結晶缶から引き抜かれる結晶の数
【0014】
上記(1)式から分かるように、結晶缶内の結晶数Nは3つの要素によって決まるが、そのうち微結晶の発生数N0は制御が極めて困難である。そのため、望まない微結晶の大量発生により、結晶缶内の平均粒子径が小さくなることがしばしばあった。
【0015】
結晶缶内の結晶数が急増した場合、引抜量を増やして対応することが一般的であるが、この方法では粒径を安定して制御することができない。その理由は次の通りである。
【0016】
まず、結晶缶内では、一般的に3~10時間程度かけて一つの結晶が成長し、粒状硫酸アンモニウムとして引き抜かれる。このように、結晶が結晶缶内に滞留する時間がかなり長いため、引抜量を調整しても、その効果が結晶缶内の状態に反映されるまで時間がかかる。そして、その間、小さい粒子径の結晶が生産され続けてしまう。かといって、前記のような応答の遅れを見越して、引抜量を過度に増やしてしまうと、オーバーアクションとなり、かえって微結晶の大量発生を招いてしまう。これは、引抜量を増やしすぎると、結晶缶内の結晶量が減少し、これに伴って結晶の総表面積も減少するためである。その結果、結晶表面で析出しきれない硫酸アンモニウムが微結晶として大量に析出してしまう。
【0017】
このような、突然の微結晶発生量の変動やオーバーアクションによって、結晶缶内の結晶数が大きく変動するため、所望の大きさの粒状硫酸アンモニウムを安定的に製造することは困難であった。
【0018】
そこで、特許文献1では、製品硫安の平均粒径と、結晶缶内の液深圧力から測定した結晶粒子総体積から、結晶缶内の結晶数を予測し、製品硫安の引抜量と種結晶の添加量を制御する方法が提案されている。
【0019】
この方法では、製品硫安、すなわち、最終的に製造された製品としての粒状硫酸アンモニウムの平均粒径を制御に利用している。しかし、粒状硫酸アンモニウムが結晶缶から引き抜かれ、最終的に製品硫安になるまでには時間差がある。また、引き抜いた粒状硫酸アンモニウムを製品硫安とする過程において、乾燥工程の遠心分離機によって結晶が削れるなどの理由で粒径が小さくなる場合もある。そのため、製品硫安の粒径が、必ずしも結晶缶内の粒状硫酸アンモニウムの粒径を示しているとはいえない。さらに、この方法では結晶発生数を把握できていないことから、微結晶が多量に発生した場合、得られる粒状硫酸アンモニウムの粒径が小さくなる。
【0020】
また、特許文献2では、結晶高架槽から抜き出す母液中の結晶濃度を測定し、前記結晶濃度が高くなりすぎたときには結晶缶から結晶高架槽へ母液の供給を停止し、母液に変わってリサイクル液を結晶高架槽に供給する方法が提案されている。この方法では、結晶高架槽内の濃度や液面を一定に保つことで、後工程へと送る硫酸アンモニウム結晶中への硫酸液やタールといった不純物の混入を抑制することができる。しかし、前記方法は、結晶缶からスラリーを抜出した後の結晶高架槽で生じる事象に着目したものであって、実際に結晶成長が起こる結晶缶での結晶成長に着目したものではない。そのため、前記方法では結晶缶の内部で進行する結晶成長を制御することはできない。
【0021】
このように、従来の方法では、粒径の大きい粒状硫酸アンモニウムを安定して生産することは困難であった。
【0022】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、粒径の大きい粒状硫酸アンモニウムを安定して生産することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定し、前記固液比に基づいて前記スラリーの引抜量を制御することで粒径の大きい粒状硫酸アンモニウムを安定して生産できることを見出した。
【0024】
本発明は上記知見を元に完成されたものであり、その要旨は、次の通りである。
【0025】
1.アンモニア含有ガスを硫酸水溶液と反応させて硫酸アンモニウム水溶液とし、前記硫酸アンモニウム水溶液を結晶缶に導入し、前記結晶缶内で硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとし、前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜く、粒状硫酸アンモニウム製造方法であって、
前記結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定し、前記固液比に基づいて前記スラリーの引抜量を制御する、粒状硫酸アンモニウム製造方法。
【0026】
2.アンモニア含有ガスを硫酸水溶液と反応させて硫酸アンモニウム水溶液とする吸収塔と、
前記硫酸アンモニウム水溶液から硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとする結晶缶と、
前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜く引抜手段と、
前記結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定する固液比測定手段と、
前記固液比に基づいて前記スラリーの引抜量を制御する引抜量制御手段とを備える、粒状硫酸アンモニウム製造設備。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、粒径の大きい粒状硫酸アンモニウムを安定して生産できる。すなわち、結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定することにより、結晶缶内で微結晶生成量の変化をいち早く観測することができる。そして、得られた固液比に基づいてスラリーの引抜量を制御することで、結晶缶内の結晶数の増減を素早く操業調整に反映することが可能となる。その結果、結晶缶の結晶数の変動を抑え、安定的に粒径の大きい硫酸アンモニウム結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、コークス炉ガスから粒状硫酸アンモニウムを製造する方法を示す模式図である。
【
図2】
図2は、結晶缶内における粒状硫酸アンモニウムの成長過程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施態様の例を示すものであり、本発明は、以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0030】
本発明の一実施形態における粒状硫酸アンモニウム製造方法においては、アンモニア含有ガスを硫酸水溶液と反応させて硫酸アンモニウム水溶液とし、前記硫酸アンモニウム水溶液を結晶缶に導入し、前記結晶缶内で硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとし、前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜くことにより粒状硫酸アンモニウムを製造する。
【0031】
また、本発明の他の実施形態における粒状硫酸アンモニウム製造設備は、アンモニア含有ガスを硫酸水溶液と反応させて硫酸アンモニウム水溶液とする吸収塔と、前記硫酸アンモニウム水溶液から硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとする結晶缶と、前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜く引抜手段と、前記結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定する固液比測定手段と、前記固液比に基づいて前記スラリーの引抜量を制御する引抜量制御手段とを備える。
【0032】
なお、本発明においては、後述するように固液比の測定と測定された固液比に基づく制御を行うこと以外は従来の粒状硫酸アンモニウムの製造方法と同様のプロセスを採用することができる。そのため、本発明においても特に断らない限り、
図1に示した製造プロセスや製造設備を用いることができる。以下の説明においても、必要に応じて
図1を参照する。
【0033】
[アンモニア含有ガス]
前記アンモニア含有ガスとしては、特に限定されることなく、アンモニアを含有するガスであれば任意のガスを用いることができる。前記アンモニア含有ガスとしては、例えば、コークス炉ガスを用いることができる。
【0034】
[硫酸アンモニウム水溶液]
上記アンモニア含有ガスを、硫酸水溶液と反応させることにより、硫酸アンモニウム水溶液とする。前記反応を行わせる方法は特に限定されないが、
図1に示したように吸収塔3を用いて行うことが好ましい。吸収塔3では、例えば、上方から硫酸水溶液2をスプレーするとともに、下方よりアンモニア含有ガス1を導入し、両者を向流接触させる。その結果、アンモニア含有ガスに含まれるアンモニアが硫酸水溶液に吸収され、硫酸アンモニウム水溶液4となる。
【0035】
前記硫酸水溶液2としては、
図1に示したように別の槽(中間槽7)で硫酸5と水6とを混合して濃度を調整した希硫酸を用いることが好ましい。
【0036】
[結晶缶]
次に、前記硫酸アンモニウム水溶液を結晶缶に導入し、前記結晶缶内で硫酸アンモニウムを析出させて粒状硫酸アンモニウムとする。前記結晶缶としては、特に限定されることなく、内部で硫酸アンモニウム水溶液から硫酸アンモニウムを析出させることができるものであれば任意のものを用いることができる。典型的には、
図1に示したように、上部に蒸発缶10を備えた結晶缶9を用いればよい。その場合、結晶缶9と蒸発缶10の間で、硫酸アンモニウム水溶液4が循環される。
【0037】
[引抜き]
結晶缶内で成長した粒状硫酸アンモニウムは、最終的に、前記結晶缶の下方から引き抜かれる。その際、前記粒状硫酸アンモニウムは、硫酸アンモニウム水溶液の一部と共にスラリー状態で引き抜かれる。したがって、本発明の粒状硫酸アンモニウム製造設備は、前記結晶缶の下方から前記粒状硫酸アンモニウムを含むスラリーを引き抜く引抜手段を備えている。前記引抜手段としては、とくに限定されず任意のものを用いることができるが、典型的には、
図1に示したように、引抜きポンプ15を用いることができる。
【0038】
前記引抜き後の処理は特に限定されないが、一般的には、遠心分離器を用いて固液分離した後、固体、すなわち粒状硫酸アンモニウムを乾燥することが好ましい。乾燥後は、任意に、篩などにより粒径に応じて粒状硫酸アンモニウムを分けることもできる。
【0039】
ここで、結晶缶の内部において粒状硫酸アンモニウムが成長し、最終的に引き抜かれるまでの過程を説明する。
【0040】
図2は、結晶缶9の内部における粒状硫酸アンモニウムの成長過程を示す模式図である。まず、蒸発缶10において真空濃縮された硫酸アンモニウム水溶液4が、蒸発缶10の下方に接続されている下降管14を通じて結晶缶9の底部付近に吐出される。これにより、結晶缶9の内部では、新たな微結晶が発生し、すでに存在する硫酸アンモニウム結晶とともに上方(主に中段域)へ巻き上げられる(
図2(a))。
【0041】
結晶缶9の内部では、徐々に結晶が成長し、粒径が大きくなる。成長した結晶は、その重さによって結晶缶9の下方へ沈降する一方、比較的小さい結晶は舞い上がって結晶缶9の中段に滞留する。このように、結晶缶9の内部では分級効果が働くため、十分に成長した粒状硫酸アンモニウムは結晶缶9の下部に堆積する(
図2(b))。
【0042】
成長した粒状硫酸アンモニウムを、結晶缶9の下部より、引抜きポンプ15を用いて粒状硫酸アンモニウム水溶液と混合したスラリー状態のままで抜出す(
図2(c))。抜出された粒状硫酸アンモニウムを、脱水、乾燥することにより最終的な粒状硫酸アンモニウムが得られる。
【0043】
なお、結晶の成長速度に比べて引抜き速度が不十分であると、結晶缶9内に残留した大粒がさらに成長し、所望の粒径の範囲を超えてしまう(
図2(d))。このように過剰に成長した粗大な粒状硫酸アンモニウムは、不良品として扱われる場合がある。
【0044】
このように、結晶缶の内部では分級効果が働いており、微結晶は結晶缶の主に中段まで舞い上る一方、結晶して大きくなった粒子は下段へ沈降している。
【0045】
[固液比の測定]
本発明においては、上述したような結晶缶内における結晶の状態を正確に把握するために、結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定することが重要である。固液比を測定することにより、当該測定を行った位置における結晶の量を定量的に評価することができる。そして、さらに、複数の高さで固液比を測定することにより、結晶缶内での結晶の分布を知ることができる。そのため、本発明の一実施形態における粒状硫酸アンモニウム製造設備は、前記結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定する固液比測定手段を備えている。
【0046】
ここで、「固液比」とは、総重量(固体と液体の合計重量)に対する固体の重量の比、すなわち、「固体の重量/(固体の重量+液体の重量)」である。
【0047】
上記固液比の測定方法は特に限定されず、任意の方法で測定することができる。
【0048】
本発明の一実施形態においては、結晶缶内部から、固体と液体とが混在した状態のサンプルを採取し、前記サンプルに含まれる固体と液体の重量を測定し、固体の重量を総重量(固体の重量+液体の重量)で割ることによって求められる。前記サンプルは、例えば、結晶缶内の予め定めた高さ(深さ)にサンプリング容器を沈めてサンプルを容器内に採取し、前記サンプリング容器を引上げることによって得ることができる。前記サンプルの採取は人手によって行ってもよく、機械によって自動的に行ってもよい。
【0049】
また、本発明の他の実施形態においては、前記固液比を間接的に測定することもできる。例えば、差圧計を用いて、大気と結晶缶内の予め定めた高さ(深さ)の間における差圧を測定し、前記差圧から固液比を算出することができる。言い換えると、前記固液比測定手段として、差圧測定手段と、前記差圧測定手段によって測定された差圧から固液比を算出する演算手段を備えることもできる。以下、差圧から固液比を算出する方法について説明する。
【0050】
まず、差圧測定手段を用いて、結晶缶内の予め定めた測定位置と、大気との間の差圧ΔPを測定する。前記測定位置の液面からの深さをΔh、前記測定位置における硫酸スラリーの比重をρ、重力加速度をgとすると、差圧ΔPは下記(2)式で表される。
ΔP = ρΔh・g …(2)
【0051】
上記(2)式を変形すると、スラリーの比重ρは下記(3)式で表すことができる。
ρ = ΔP/(Δh・g) …(3)
【0052】
さらに、固液比をV、硫酸アンモニウム結晶の比重をd、粒状硫酸アンモニウム溶液の比重をDとした場合、硫酸スラリーの比重ρは、下記(4)式のとおり、硫酸アンモニウム結晶の比重dと硫酸アンモニウム溶液の比重Dの加重平均で表すことができる。
ρ=d・V + D(1-V) …(4)
【0053】
上記(3)式と(4)式から下記(5)式が導かれる。すなわち、下記(5)式を用いて、差圧ΔPから固液比Vを算出することができる。
V = ΔP/{Δh・g(d-D)}- D/(d-D) …(5)
【0054】
このように、差圧から固液比を求める方法であれば、結晶缶内の溶液をサンプリングする必要がないため、連続的な固液比のモニタリングを容易に行うことができる。したがって、本発明の一実施形態における粒状硫酸アンモニウム製造設備は、固液比測定手段として、差圧測定手段と、前記差圧測定手段で測定された差圧から固液比を算出する演算手段とを備えることができる。
【0055】
なお、前記差圧の測定には、バブラー管を利用することが好ましい。バブラー管とは、結晶缶の内部に装入され、その先端から気体をバブリングする管である。バブラー管を用いることにより、該バブラー管の先端の位置と、大気との間の差圧を測定することができる。したがって、本発明の一実施形態における粒状硫酸アンモニウム製造設備は、前記差圧測定手段として、バブラー管を備えることができる。
【0056】
固液比を測定する箇所の数は2以上であれば特に限定されず、任意の数であってよい。後述するように、2箇所の測定でも所望の効果が得られるが、さらに効果を高めるという観点からは、3箇所以上で測定を行うことが好ましい。一方、過度に多くの高さで測定を行っても効果が飽和することに加え、設備や操業に要するコストが増加する。そのため、固液比を測定する箇所の数は8以下とすることが好ましく、6以下とすることがより好ましく、4以下とすることがさらに好ましい。
【0057】
例えば、バブラー管で測定した差圧から固液比を算出する場合には、測定箇所ごとにバブラー管を設置すればよい。その際、バブラー管は、該バブラー管の先端(気体吐出口)が差圧の測定位置(すなわち固液比の測定位置)に位置するように設置すればよい。
【0058】
前記固液比の測定を行う具体的な高さは特に限定されず、任意の高さで行うことができるが、少なくとも結晶缶の下段および中段の2箇所で測定を行うことが好ましく、下段、中段、および上段の3箇所で測定することがより好ましい。以下、その理由について説明する。
【0059】
上述したように、結晶缶内では分級効果が働いており、成長した粒状硫酸アンモニウムは結晶缶の下段に堆積する一方、微結晶の多くは舞い上がって中段に存在する。したがって、下段と中段の両者で固液比を測定することにより、結晶缶内における結晶の状態をより正確に把握することができる。また、結晶缶の上段は、通常、結晶が存在しない領域であるが、この上段の固液比も測定することにより、さらに正確に結晶缶内における結晶の状態を把握できる。
【0060】
なお、本発明の一実施形態においては、前記下段、中段、および上段を以下のように定義する。
上段:固液比が1%未満である領域
中段:固液比が1%以上、65%未満である領域
下段:固液比が65%以上である領域
【0061】
上記の位置で固液比を測定する場合、通常の操業条件下で固液比が上記条件をみたす位置でサンプリングや差圧の測定を行えばよい。
【0062】
なお、本発明の他の実施形態においては、前記下段、中段、および上段を、結晶缶の底面からの相対高さに基づいて、以下のように定義することもできる。
上段:相対高さが70%以上、100%以下である領域
中段:相対高さが50%以上、70%未満である領域
下段:相対高さが0%以上、50%未満である領域
ここで、前記相対高さは、結晶缶の底面から液面までの高さを100%としたときの、底面からの高さである。
【0063】
また、本発明の他の実施形態においては、前記下段、中段、および上段を、結晶缶の底面からの相対容積に基づいて、以下のように定義することもできる。
上段:相対容積が65%以上、100%以下である領域
中段:相対容積が40%以上、65%未満である領域
下段:相対容積が0%以上、40%未満である領域
ここで、前記相対容積は、結晶缶の底面から液面までの容積を100%としたときの底面からの容積である。
【0064】
[引抜量の制御]
本発明の粒状硫酸アンモニウム製造方法では、上記のように結晶缶内の複数の高さにおける固液比を測定し、測定された固液比に基づいてスラリーの引抜量を制御する。また、本発明の粒状硫酸アンモニウム製造設備は、測定された固液比に基づいてスラリーの引抜量を制御する引抜量制御手段を備える。以下、引抜量の好適な制御方法の具体例を、いくつかのケースに分けて説明する。
【0065】
まず、固液比を上段、中段、下段の3箇所で測定した場合を例として、引抜量の好ましい制御方法を説明する。本実施形態では、下記(6)式に基づいて固液比から引抜量Wを決定する。なお、前記引抜量Wは、例えば、単位時間当たりに引き抜かれる固形分の重量(t/h)で表すことができる。前記固形分の重量としては、例えば、スラリー中に含まれる固形分(結晶)の乾燥重量を用いればよい。
W=α1×V1+α2×V2+α3×V3 …(6)
ここで、
V1:上段における固液比
V2:中段における固液比
V3:下段における固液比
α1~α3:係数
【0066】
係数α1、α2、およびα3の決定方法はとくに限定されず、所望の粒度の粒状硫酸アンモニウムが得られるよう適宜調整すればよい。なお、最終的に得られる粒状硫酸アンモニウムの粒度を指標として上記係数を調整することもできるが、下段固液比を指標として係数を調整することもできる。すなわち、上段、中断、下段の各位置における固液比の中では、下段固液比が最も粒状硫酸アンモニウムの粒度に影響する。そこで、予め粒状硫酸アンモニウムの粒度と下段固液比との相関を求めておき、前記相関に基づいて、所望の粒度が得られる下段固液比を、目標固液比とすればよい。
【0067】
粒状硫酸アンモニウムの粒度と下段固液比との相関は、例えば、次の手順で求めることができる。まず、対象とする粒状硫酸アンモニウム製造設備を運転して、粒状硫酸アンモニウムを製造する。その際、下段固液比を測定しておく。一方、結晶缶から引き抜かれた粒状硫酸アンモニウムを固液分離し、乾燥した後、粒度を測定する。前記粒度としては、例えば、質量基準の粒度分布における中央値(メジアン径)を用いることができる。粒度分布は、目開きの異なる複数の篩を用いることで測定できる。
【0068】
上記の測定を複数の条件で実施し、測定された下段固液比とメジアン径の関係から、粒状硫酸アンモニウムの粒度と下段固液比との相関を得ることができる。その際、粒状硫酸アンモニウムのメジアン径を、下段固液比の関数(例えば、一次関数)で近似することが好ましい。このようにして得た相関に基づいて、所望の粒度の粒状硫酸アンモニウムを得るための目標下段固液比を決定すればよい。
【0069】
目標下段固液比が決まれば、次は、前記目標下段固液比を指標として係数α1、α2、およびα3を決定する。その方法はとくに限定されないが、典型的には、仮の係数を用いて一定期間操業して下段固液比を測定し、測定された下段固液比が目標下段固液比より低い場合は引抜量Wを減らすように係数を調整し、反対に測定された下段固液比が目標下段固液比より高い場合は引抜量Wを増やすように係数を調整する。この手順を繰り返すことにより、下段固液比が目標下段固液比に近い値で安定する係数を求めることができる。
【0070】
その際、複数の係数を同時に調整するのではなく、α3、α2、α1の順番で、1つの係数ごとに調整することが好ましい。これは、下段固液比が最も粒度への影響が大きく、上段固液比が最も粒度への影響が小さいためである。例えば、α2、α1を一定にした状態で、下段固液比が目標下段固液比に最も近くなるようα3を調整する。次いで、α3、α1を一定にした状態で、下段固液比が目標下段固液比に最も近くなるようα2を調整する。最後に、次いで、α3、α2を一定にした状態で、下段固液比が目標下段固液比に最も近くなるようα1を調整する。なお、後述する(7)式を用いる場合には、前記最後の手順を省略すればよい。
【0071】
本発明の方法を用いて粒状硫酸アンモニウムを製造する際には、上記(6)式で求めた引抜量Wとなるよう、実際の引抜量を調整する。引抜量の調整は、例えば、結晶缶からスラリーを引く抜く配管に設けられた調整弁の開度を調整することによって行うことができる。
【0072】
引抜量の調整を行う頻度はとくに限定されず、連続的に行っても断続的に行ってもよい。しかし、結晶缶からスラリーを引き抜いてから、結晶を乾燥して引抜量を測定するまでの間には、設備にもよるが、数十分~数時間程度のタイムラグがあることが一般的である。そのため、連続的または高頻度で引抜量を調整すると、オーバーアクションとなる場合がある。そのため、引抜量の調整は、断続的に行うことが好ましく、その際の時間間隔は10分以上とすることが好ましく、20分以上とすることがより好まく、30分以上とすることがさらに好ましい。一方、時間間隔が長すぎると、粒度を十分な精度で制御することが困難となる。そのため、前記時間間隔は、5時間以下とすることが好ましく、4時間以下とすることがより好ましく、3時間以下とすることがさらに好ましく、2時間以下とすることが最も好ましい。
【0073】
また、固液比を中段および下段の2箇所で測定する場合には、下記(7)式を用いて引抜量Wを求めることができる。
W=α2×V2+α3×V3 …(7)
【0074】
上述したように、微結晶は中段まで舞い上がるが、上段まではほとんど到達しないため、上段における固液比は、通常、1%未満である。そのため、3段の固液比を用いる場合であっても、引抜量を制御する上で上段の固液比の影響は中段、下段に比べて小さい。そのため、上記のように下段と中段の固液比のみを用いて引抜量を制御することも可能である。
【0075】
反対に、4段以上で固液比を測定する場合には、上記(6)式に、さらに、4段目以降の固液比Vnと係数αnの積で表される項を追加すればよい。
【0076】
下段の固液比V3については、上記(6)、(7)式のように、係数α3を乗算して引抜量Wの制御に用いてもよいが、下記(8)式のように定数項βを用いることが好ましい。
W=α1×V1+α2×V2+β …(8)
ここで、βは下段の固液比V3によって決まる定数である。
【0077】
例えば、以下に例示するように、下段固液比V3の範囲に応じて定数項βの値をいくつに設定するかを予め決めておく。そして、測定された下段固液比V3に基づいて、引抜量Xの算出に用いるβの値を変更する。
下段固液比V3が55%以下:β=1.5
下段固液比V3が55%超、60%以下:β=2.0
下段固液比V3が60%超:β=2.5
【0078】
上記のように定数項βを用いて引抜量を決定する場合、下段固液比が変化しても、その値が一定の範囲内であれば引抜量Wには影響しない。そのため、上記(6)式や(7)式を用いる場合に比べて、引抜量Wの変更頻度が少なくなる。実際の粒状硫酸アンモニウムの製造においては、スラリーを引き抜いた後、液体を分離して乾燥を行うが、引抜量Xの変更が頻繁にあると、その都度乾燥条件の調整を行う必要が生じてしまう。そのため、上記のように引抜量Wに対する影響が大きい下段固液比がV3を定数項として扱うことにより、乾燥をスムーズに行うことができる。
【実施例0079】
(実施例)
本発明の効果を確認するために、上記(8)式を用いて引抜量の制御を行い、2日間操業を行った。前記操業の間、4時間間隔で固液比の測定と引抜量の調整を実施した。また、(8)式における係数は、それぞれ、α1=0.15、α2=30とし、βは先に例示したとおりとした。
【0080】
前記操業によって得られた硫安結晶を乾燥後、メッシュの異なる複数の網で篩分けを行った。篩い分けされた硫安結晶のうち、粒径が1.4~4.75mmである大粒を合格とし、これ以外の粒径を不合格としたとき、前記操業期間における最終的な大粒歩留まりの平均値は73%であった。
【0081】
(比較例)
比較のため、下段固液比V3のみに基づいて引抜量Wを制御して、上記実施例1と同様の条件で操業した。すなわち、上記(9)式を用いて引抜量Wを制御した。
W=β …(9)
【0082】
その結果、前記操業期間における最終的な大粒歩留まりの平均値は70%であった。
【0083】
以上のように、本発明の方法によれば、73%という高い大粒歩留まりを達成することができた。この歩留まりは、下段固液比のみを用いて制御した場合(比較例)に比べて3%も優れていた。なお、本発明のようなアンモニア含有ガスからの粒状硫酸アンモニウムの製造は、製鉄所におけるコークス炉ガスを用いる場合のように極めて大規模に行われることが一般的である。そのため、歩留まりが1%違うだけでも年間の生産量としては数万トン規模の違いとなるため、本発明の効果は産業上極めて顕著なものといえる。