(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098209
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】抗体および機能性物質の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩、ならびにその製造に用いられる抗体誘導体および化合物またはそれらの塩
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20250624BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250624BHJP
C07K 5/10 20060101ALI20250624BHJP
C07K 5/06 20060101ALI20250624BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20250624BHJP
A61P 37/02 20060101ALN20250624BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20250624BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20250624BHJP
A61P 31/00 20060101ALN20250624BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20250624BHJP
A61P 19/00 20060101ALN20250624BHJP
A61P 7/00 20060101ALN20250624BHJP
A61K 49/00 20060101ALN20250624BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20250624BHJP
C07K 5/08 20060101ALN20250624BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K39/395 L
C07K5/10
C07K5/06
A61K47/68
A61P35/00
A61P37/02
A61P29/00
A61P25/00
A61P31/00
A61P27/02
A61P19/00
A61P7/00
A61K49/00
C07K16/00
C07K5/08
C07K16/00 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025054423
(22)【出願日】2025-03-27
(62)【分割の表示】P 2023551927の分割
【原出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021162299
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 豊
(72)【発明者】
【氏名】渡部 友博
(72)【発明者】
【氏名】畑田 紀子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 友博
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗体と機能性物質との結合比率が特定の範囲に制御され、かつ所望の性質に優れた抗体および機能性物質のコンジュゲートまたはその塩を提供する。
【解決手段】下記式(I’)で表される構造単位を含む、抗体および機能性物質の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩を提供する。
Dは、機能性物質を示し、rは、1.5~2.5である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I’):
【化1】
〔式中、
Igは、抗体を示し、かつ、2個の重鎖中の、Eu numberingに従う246/248位、288/290位、または317位に存在するリジン残基の側鎖中のアミノ基を介して、Igに隣接するL1と位置選択的に結合しており、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、またはアルキルを示し、
L
1がカルボニル基を有し、Igとの位置選択的な結合が、リジン残基の側鎖中のアミノ基、およびL
1中のカルボニル基の結合によるアミド結合により達成される、2価の基を示し、
L
2は、2価の基を示し、
Dは、機能性物質を示し、
2個の重鎖あたりの前記結合の平均比率rは、1.5~2.5であり、
(-L
HG-)が、下記式(a1)または(a2):
(a1) -CHR
HG-
(a2) -CHR
HG-(C=O)-NH-CHR
HG-
〔式中、
R
HGは、-CH
2-CH
2-COOH、で表される1価の基である。〕で表される2価の基を示し、R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、アシル基、またはベンジルオキシカルボニル基である。〕で表される構造単位を含む、位置選択的なコンジュゲートまたはその塩。
【請求項2】
抗体が、Fc領域タンパク質、またはFc領域融合タンパク質である、請求項1に記載の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩。
【請求項3】
下記式(III’):
【化2】
〔式中、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、またはアルキルを示し、
L
1、およびL
2は、それぞれ独立して、2価の基を示し、
B
1は、生体直交性官能基を示し、
Dは、機能性物質を示し、
(-L
HG-)が、下記式(a1)または(a2):
(a1) -CHR
HG-
(a2) -CHR
HG-(C=O)-NH-CHR
HG-
〔式中、
R
HGは、-CH
2-CH
2-COOH、で表される1価の基である。〕で表される2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、アシル基、またはベンジルオキシカルボニル基である。〕で表される、化合物またはその塩。
【請求項4】
下記式(VII’):
【化3】
〔式中、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
R
1は、水素原子、または1価の基を示し、
L
1は、2価の基を示し、
B
1は、生体直交性官能基を示し、
(-L
HG-)が、下記式(a1)または(a2):
(a1) -CHR
HG-
(a2) -CHR
HG-(C=O)-NH-CHR
HG-
〔式中、
R
HGは、-CH
2-CH
2-COOH、で表される1価の基である。〕で表される2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、アシル基、またはベンジルオキシカルボニル基である。〕で表される、生体直交性官能基を有する化合物またはその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体および機能性物質の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩、ならびにその製造に用いられる抗体誘導体および化合物またはそれらの塩などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)の研究開発が盛んに行われている。ADCはその名の通り、抗体に薬物(例、抗癌剤)をコンジュゲーションした薬剤であり、癌細胞などに対して直接的な殺細胞活性を有する。代表的なADCとしては、Immunogene社およびRoche社が共同開発したT-DM1(商品名:カドサイラ(登録商標))がある。
【0003】
ADCは、抗体中に存在する特定のアミノ酸残基の側鎖中の官能基を薬物に結合することにより作製されている。ADCの作製に利用されるこのような官能基の例は、抗体中に存在するリジン残基の側鎖中のアミノ基である。抗体中のリジン基(例、246/248位、288/290位、または317位のリジン残基)を位置選択的に修飾する技術として、幾つかの技術が報告されている(例、特許文献1~4)。
【0004】
ADCでは、リンカーを介して抗体および薬物が連結されている。ADCにおけるリンカーとしては、種々のものが存在する。例えば、抗癌剤として用いられるADCでは、ヒト血漿中で安定であり、かつ、癌細胞内で薬物を放出するために特定酵素で切断可能な構造を有するリンカーとして、バリン-シトルリンからなるジペプチド(Val-Cit:VC構造)を含むリンカーが存在する。このようなジペプチドを含むリンカーは、下記(A)に示されるように、ヒト血漿中では安定であるものの、下記(B)に示されるように、ヒト癌細胞内のリソソーム中のカテプシン(cathepsin)BによりVC構造が認識されて、シトルリンのカルボキシ末端側に存在するアミド結合が切断される。したがって、このようなジペプチドを含むリンカーを有するADCは、ヒト癌細胞内で薬物を放出して薬効を発現することができる。
【0005】
【0006】
【0007】
しかし、上記のようなジペプチドを含むリンカーを有するADCは、マウス血漿中では不安定である(非特許文献1および2)。これは、マウス血漿中には、VC構造を認識して、シトルリンのカルボキシ末端側に存在するアミド結合を切断するカルボキシラーゼであるCes1cが存在することから、上記のようなジペプチドを含むリンカーがCes1cにより血漿中で切断されてしまうためである。したがって、上記のようなジペプチドを含むリンカーを有するADCについては、マウスとヒトでは体内動態が大きく異なる。そのため、マウスでは、ヒトにおける薬効を評価し難いという問題がある。
【0008】
【0009】
上述のように「抗体-スペーサー-VC構造-スペーサー-薬物」という構造を有するADCについてマウス血漿中での不安定性を改善するため、リンカー(すなわち、スペー
サー-VC構造-スペーサー)の改変によるADCの安定化が試みられており、このような観点から、上記リンカーを介して抗体および薬物またはそのミミック(mimic)を連結しているADCが報告されている。例えば、上記リンカーを、抗体および薬物またはそのミミックを連結している主鎖中ではなく、その主鎖の側鎖中に含むADCとして、以下が報告されている(特許文献5)。
【0010】
【化4】
Ab:抗体
Cbz:ベンジルオキシカルボニル
Val:バリン残基
Cit:シトルリン残基
【0011】
ところで、非特許文献3には、ADCの疎水度が高ければ高い程、血漿クリアランスが早くなること、およびADCの疎水度はHIC(Hydrophobic Interaction Chromatography)-HPLCで評価可能なことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2018/199337号
【特許文献2】国際公開第2019/240288号
【特許文献3】国際公開第2019/240287号
【特許文献4】国際公開第2020/090979号
【特許文献5】国際公開第2015/038426号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Dorywalska et al.,Bioconjugate Chem.,2015,26(4),650-659
【非特許文献2】Dorywalska et al.,Mol Cancer Ther.,2016,15(5),958-70
【非特許文献3】Lyon et al.,Nat Biotechnol.,2015,33(7),733-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、抗体と機能性物質との結合比率を特定の範囲に制御しつつ、所望の性
質に優れた抗体および機能性物質のコンジュゲートまたはその塩を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、抗体および薬物(または薬物ミミック)を連結している主鎖の側鎖中に特定構造のリンカーを含み、かつ、イムノグロブリン単位と機能性物質との結合の平均比率(機能性物質/イムノグロブリン単位)を所望の範囲(1.5~2.5)で有する位置選択的なコンジュゲートが、優れた性質を有することを見出した。例えば、このような位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、優れたクリアランス(長い体内滞留時間)、低い凝集率(高いモノマー比率)、カテプシンBによる高い切断性(ヒト細胞内での機能性物質の高い放出能)、およびマウス血漿中での高い安定性を有する。このような位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、コンジュゲート分子表面に露出し易い側鎖先端またはその付近に親水性基を有するため分子全体の親水性を効率的に向上させることができ、また、上記のような優れた性質を示すことができる。
【0016】
本発明者らはまた、このような位置選択的なコンジュゲートの作製に有用な抗体誘導体および化合物を開発することに成功した。式(I)~(VII)のような構造で表される本発明の位置選択的なコンジュゲート、抗体誘導体、および化合物は、式(V)で表される構造単位のうちXおよびYを除く部分構造単位を共有するという技術的特徴を有する。本発明者らは、このような技術的特徴を有する一連の発明を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。先行技術は、本発明の位置選択的なコンジュゲートの化学構造、およびこのような化学構造と上述のような優れた性質との関係性を記載も示唆もしていない。先行技術はまた、このような位置選択的なコンジュゲートの作製に利用することができる本発明の抗体誘導体および化合物を記載も示唆もしていない。
【0017】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0018】
第1の実施形態では、本発明は、下記式(I):
【化5】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、かつ、2個の重鎖中のリジン残基の側鎖中のアミノ基を介して、Igに隣接するL
1と位置選択的に
結合しており、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、または1価の基を示し、
L
1、およびL
2は、それぞれ独立して、2価の基を示し、
Dは、機能性物質を示し、
2個の重鎖あたりの前記結合の平均比率rは、1.5~2.5である。〕で表される構造単位を含む、抗体および機能性物質の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩を提供する。
【0019】
特定の実施形態では、式(I)で表される構造単位は、下記式(I’):
【化6】
〔式中、
Ig、R
A、R
B、環A、R
1、R
2、L
1、L
2、D、およびrは、それぞれ、式(I)で示されるものと同じであり、
L
HGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示し、
少なくとも1つの親水性基が、L
HG、R
HG1、およびR
HG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれる。〕で表される構造単位であってもよい。
【0020】
第2の実施形態では、本発明は、下記式(II):
【化7】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、かつ、2個の重鎖中のリジン残基の側鎖中のアミノ基を介して、Igに隣接するL
1と位置選択的に結合しており、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、または1価の基を示し、
L
1、およびL
2は、それぞれ独立して、2価の基を示し、
B
2は、生体直交性官能基を示し、
2個の重鎖あたりの前記結合の平均比率rは、1.5~2.5である。〕で表される構造単位を含む、生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体誘導体またはその塩を提供する。
【0021】
特定の実施形態では、式(II)で表される構造単位は、下記式(II’):
【化8】
〔式中、
Ig、R
A、R
B、環A、R
1、R
2、L
1、L
2、B
2、およびrは、それぞれ、式(II)で示されるものと同じであり、
L
HGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示し、
少なくとも1つの親水性基が、L
HG、R
HG1、およびR
HG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれる。〕で表される構造単位であってもよい。
【0022】
第3の実施形態では、本発明は、下記式(III):
【化9】
〔式中、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、または1価の基を示し、
L
1、およびL
2は、それぞれ独立して、2価の基を示し、
B
1は、生体直交性官能基を示し、
Dは、機能性物質を示す。〕で表される、生体直交性官能基、および機能性物質を有する化合物またはその塩を提供する。
【0023】
特定の実施形態では、式(III)で表される化合物は、下記式(III’):
【化10】
〔式中、
R
A、R
B、環A、R
1、R
2、L
1、L
2、B
1、およびDは、それぞれ、式(III)で示されるものと同じであり、
L
HGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示し、
少なくとも1つの親水性基が、L
HG、R
HG1、およびR
HG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれる。〕で表される化合物であってもよい。
【0024】
第4の実施形態では、本発明は、上記第3の実施形態に従う化合物またはその塩を含む、抗体の誘導体化試薬を提供する。
【0025】
第5の実施形態では、本発明は、下記式(IV):
【0026】
【化11】
〔式中、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、または1価の基を示し、
L
1、およびL
2は、それぞれ独立して、2価の基を示し、
B
1は、第1生体直交性官能基を示し、
B
2は、第2生体直交性官能基を示す。〕で表される、第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩を提供する。
【0027】
特定の実施形態では、式(IV)で表される化合物は、下記式(IV’):
【化12】
〔式中、
R
A、R
B、環A、R
1、R
2、L
1、L
2、B
1、およびB
2は、それぞれ、式(IV)で示されるものと同じであり、
L
HGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示し、
少なくとも1つの親水性基が、L
HG、R
HG1、およびR
HG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれる。〕で表される化合物であってもよい。
【0028】
第6の実施形態では、本発明は、上記第5の実施形態に従う化合物またはその塩を含む、抗体または機能性物質の誘導体化試薬を提供する。
【0029】
第7の実施形態では、本発明は、下記式(V):
【化13】
〔式中、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
XおよびYは、それぞれ独立して、1価の基を示す。〕で表される、化合物またはその塩を提供する。
【0030】
特定の実施形態では、下記式(V)で表される化合物は、下記式(V’):
【化14】
〔式中、
R
A、R
B、環A、X、およびYは、それぞれ、式(V)で示されるものと同じであり、
L
HGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示し、
少なくとも1つの親水性基が、L
HG、R
HG1、およびR
HG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれる。〕で表される化合物であってもよい。
【0031】
第8の実施形態では、本発明は、下記式(VI):
【化15】
〔式中、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
Xは、1価の基を示し、
R
2は、水素原子、または1価の基を示し、
L
2は、2価の基を示し、
B
2は、生体直交性官能基を示す。〕で表される、生体直交性官能基を有する化合物またはその塩を提供する。
【0032】
特定の実施形態では、式(VI)で表される化合物は、下記式(VI’):
【化16】
〔式中、
R
A、R
B、環A、およびXは、それぞれ、式(VI)で示されるものと同じであり、
L
HGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示し、
少なくとも1つの親水性基が、L
HG、R
HG1、およびR
HG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれ、
R
2は、水素原子、または1価の基を示し、
L
2は、2価の基を示し、
B
2は、生体直交性官能基を示す。〕で表される化合物であってもよい。
【0033】
第9の実施形態では、本発明は、下記式(VII):
【化17】
〔式中、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示し、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
Yは、1価の基を示し、
R
1は、水素原子、または1価の基を示し、
L
1は、2価の基を示し、
B
1は、生体直交性官能基を示す。〕で表される、生体直交性官能基を有する化合物またはその塩を提供する。
【0034】
特定の実施形態では、式(VII)で表される化合物は、下記式(VII’):
【化18】
〔式中、
R
A、R
B、環A、およびYは、それぞれ、式(VII)で示されるものと同じであり、
L
HGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示し、
R
HG1、およびR
HG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性
基を含んでいてもよい1価の基を示し、
少なくとも1つの親水性基が、L
HG、R
HG1、およびR
HG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれ、
R
1は、水素原子、または1価の基を示し、
L
1は、2価の基を示し、
B
1は、生体直交性官能基を示す。〕で表される化合物であってもよい。
【0035】
好ましい実施形態では、上記イムノグロブリン単位は、ヒトイムノグロブリン単位であってもよい。
【0036】
より好ましい実施形態では、上記ヒトイムノグロブリン単位は、ヒトIgG抗体であってもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、上記リジン残基は、Eu numberingに従う246/248位、288/290位、または317位に存在するものであってもよい。
【0038】
好ましい実施形態では、位置選択的な結合は、リジン残基の側鎖中のアミノ基、およびL1中のカルボニル基の結合によるアミド結合により達成されるものであってもよい。
【0039】
好ましい実施形態では、上記rは、1.9~2.1であってもよい。
【0040】
好ましい実施形態では、親水性基は、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、ポリエチレングリコール基、ポリサルコシン基、および糖部分からなる群より選ばれる1以上の基であってもよい。
【0041】
好ましい実施形態では、環Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基であってもよい。
【0042】
好ましい実施形態では、機能性物質は、医薬、標識物質、または安定化剤であってもよい。
【0043】
好ましい実施形態では、上記位置選択的なコンジュゲートまたは抗体誘導体は、サイズ排除クロマトグラフィーにより分析したときに、2.6%以下の凝集率を示していてもよい。
【0044】
好ましい実施形態では、親水性基を含んでいてもよい2価の基(-LHG-)は、下記式(a):
-(C(RHG)2)n1-(C=O)n2-(NRHG)n3-(C(RHG)2)n4- (a)
〔式中、
複数のRHGは、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示し、
n1は、0~3の整数であり、
n2は、0または1の整数であり、
n3は、0または1の整数であり、
n4は、0~3の整数である。〕で表される2価の基であってもよい。
【0045】
より好ましい実施形態では、式(a)で表される2価の基は、下記式(a1)、(a2)、または(a3):
(a1) -(C(RHG)2)-;
(a2) -(C(RHG)2)-(C=O)-(NRHG)-(C(RHG)2)-;または
(a3) -(C=O)-(C(RHG)2)2-;
〔式中、
複数のRHGは、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含む炭素原子数1~6のアルキル基を示す。〕で表される2価の基であってもよい。
【0046】
好ましい実施形態では、親水性基は、それぞれ独立して、カルボン酸基、スルホン酸基、または水酸基であってもよい。
【0047】
より好ましい実施形態では、親水性基は、カルボン酸基であってもよい。
【0048】
好ましい実施形態では、生体直交性官能基は、マレイミド残基、チオール残基、フラン残基、ハロカルボニル残基、アルケン残基、アルキン残基、アジド残基、またはテトラジン残基であってもよい。
【発明の効果】
【0049】
本発明の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、長い体内滞留時間、高いモノマー比率(低い凝集率)、ヒト細胞内での機能性物質の高い放出能、およびマウス血漿中の高い安定性等の優れた性質を有し得る。
本発明の抗体誘導体および化合物またはそれらの塩、および試薬は、例えば、上記位置選択的なコンジュゲートの製造における合成中間体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、式(I)で表される本発明の位置選択的なコンジュゲート、式(II)で表される本発明の抗体誘導体、ならびに式(III)~(VII)で表される本発明の化合物の相互関係を示す図である。これらの物質は、式(V)で表される構造単位のうちXおよびYを除く部分構造単位を共有する。また、これらの物質は、
図1中に示したスキームにより合成することができる。したがって、本発明は、合成中間体および最終合成物の関係にある一連の発明を提供する。
【
図2】
図2は、式(I)で表される本発明の位置選択的なコンジュゲート、式(II)で表される本発明の抗体誘導体、ならびに式(III)および(IV)で表される本発明の化合物の合成概要を示す図である。
【
図3】
図3は、式(IV)~(VII)で表される本発明の化合物の合成概要の一例を示す図である。DIPEA:N,N-ジイソプロピルエチルアミン;DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
【発明を実施するための形態】
【0051】
1.一般的な用語の定義
本発明において、用語「抗体」は、以下のとおりである。また、用語「イムノグロブリン単位」は、このような抗体の基本構成要素である2価の単量体単位に対応するものであり、2個の重鎖および2個の軽鎖を含む単位である。したがって、イムノグロブリン単位について、その由来、種類(ポリクローナルもしくはモノクローナル、アイソタイプ、および全長抗体もしくは抗体断片)、抗原、リジン残基の位置、および位置選択性の定義、例、および好ましい例は、以下に説明する抗体のものと同様である。
【0052】
抗体の由来は、特に限定されず、例えば、哺乳動物、鳥類(例、ニワトリ)等の動物に由来するものであってもよい。好ましくは、イムノグロブリン単位は、哺乳動物に由来する。このような哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ)、愛玩動物(例、イヌ
、ネコ)、家畜(例、ウシ、ブタ、ヤギ)、使役動物(例、ウマ、ヒツジ)が挙げられ、好ましくは霊長類または齧歯類であり、より好ましくはヒトである。
【0053】
抗体の種類は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。抗体はまた、2価の抗体(例、IgG、IgD、IgE)、または4価以上の抗体(例、IgA抗体、IgM抗体)であってもよい。好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体としては、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、所定の糖鎖が付加された抗体(例、N型糖鎖結合コンセンサス配列等の糖鎖結合コンセンサス配列を有するように改変された抗体)、二重特異性抗体、Fc領域タンパク質、Fc融合タンパク質が挙げられる。モノクローナル抗体のアイソタイプとしては、例えば、IgG(例、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD、IgE、およびIgYが挙げられる。本発明では、モノクローナル抗体として、全長抗体、または可変領域ならびにCH1ドメインおよびCH2ドメインを含む抗体断片を利用できるが、全長抗体が好ましい。抗体は、好ましくはヒトIgGモノクローナル抗体であり、より好ましくはヒトIgG全長モノクローナル抗体である。
【0054】
抗体の抗原としては、任意の抗原を用いることができる。例えば、このような抗原としては、タンパク質〔オリゴペプチド、ポリペプチドを含む。糖等の生体分子で修飾されたタンパク質(例、糖タンパク質)であってもよい〕、糖鎖、核酸、低分子化合物が挙げられる。好ましくは、抗体は、タンパク質を抗原とする抗体であってもよい。タンパク質としては、例えば、細胞膜受容体、細胞膜受容体以外の細胞膜タンパク質(例、細胞外基質タンパク質)、リガンド、可溶性受容体が挙げられる。
【0055】
より具体的には、抗体の抗原であるタンパク質は、疾患標的タンパク質であってもよい。疾患標的タンパク質としては、例えば、以下が挙げられる。
【0056】
(1)癌領域
PD-L1、GD2、PDGFRα(血小板由来成長因子受容体)、CD22、HER2、ホスファチジルセリン(PS)、EpCAM、フィブロネクチン、PD-1、VEGFR-2、CD33、HGF、gpNMB、CD27、DEC-205、葉酸受容体、CD37、CD19、Trop2、CEACAM5、S1P、HER3、IGF-1R、DLL4、TNT-1/B、CPAAs、PSMA、CD20、CD105(エンドグリン)、ICAM-1、CD30、CD16A、CD38、MUC1、EGFR、KIR2DL1,2,、NKG2A、tenascin-C、IGF(Insulin-like growth factor)、CTLA-4、mesothelin、CD138、c-Met、Ang2、VEGF-A、CD79b、ENPD3、葉酸受容体α、TEM-1、GM2、グリピカン3、macrophage inhibitory factor、CD74、Notch1、Notch2、Notch3、CD37、TLR-2、CD3、CSF-1R、FGFR2b、HLA-DR、GM-CSF、EphA3、B7-H3、CD123、gpA33、Frizzled7受容体、DLL4、VEGF、RSPO、LIV-1、SLITRK6、Nectin-4、CD70、CD40、CD19、SEMA4D(CD100)、CD25、MET、Tissue Factor、IL-8、EGFR、cMet、KIR3DL2、Bst1(CD157)、P-カドヘリン、CEA、GITR、TAM(tumor associated macrophage)、CEA、DLL4、Ang2、CD73、FGFR2、CXCR4、LAG-3、GITR、Fucosyl GM1、IGF-1、Angiopoietin 2、CSF-1R、FGFR3、OX40、BCMA、ErbB3、CD137(4-1BB)、PTK7、EFNA4、FAP、DR5、CEA、Ly6E、CA6、CEACAM5、LAMP1、tissue factor、EPHA2、DR5、B7-H3、FGFR4、FGFR2、α2-PI、A33、GDF15、CAIX、CD166、ROR1、
GITR、BCMA、TBA、LAG-3、EphA2、TIM-3、CD-200、EGFRvIII、CD16A、CD32B、PIGF、Axl、MICA/B、Thomsen-Friedenreich、CD39、CD37、CD73、CLEC12A、Lgr3、トランスフェリン受容体、TGFβ、IL-17、5T4、RTK、Immune Suppressor Protein、NaPi2b、ルイス血液型B抗原、A34、Lysil-Oxidase、DLK-1、TROP-2、α9インテグリン、TAG-72(CA72-4)、CD70
【0057】
(2)自己免疫疾患・炎症性疾患
IL-17、IL-6R、IL-17R、INF-α、IL-5R、IL-13、IL-23、IL-6、ActRIIB、β7-Integrin、IL-4αR、HAS、Eotaxin-1、CD3、CD19、TNF-α、IL-15、CD3ε、Fibronectin、IL-1β、IL-1α、IL-17、TSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin)、LAMP(Alpha4 Beta 7 Integrin)、IL-23、GM-CSFR、TSLP、CD28、CD40、TLR-3、BAFF-R、MAdCAM、IL-31R、IL-33、CD74、CD32B、CD79B、IgE(免疫グロブリンE)、IL-17A、IL-17F、C5、FcRn、CD28、TLR4、MCAM、B7RP1、CXCR1,2 Ligands、IL-21、Cadherin-11、CX3CL1、CCL20、IL-36R、IL-10R、CD86、TNF-α、IL-7R、Kv1.3、α9インテグリン、LIFHT
【0058】
(3)脳神経疾患
CGRP、CD20、βアミロイド、βアミロイドプロトフィブリン、Calcitonin Gene-Related Peptide Receptor、LINGO(Ig Domain Containing1)、αシヌクレイン、細胞外tau、CD52、インスリン受容体、tauタンパク、TDP-43、SOD1、TauC3、JCウイルス
【0059】
(4)感染症
Clostridium Difficile toxin B、サイトメガロウイルス、RSウイルス、LPS、S.Aureus Alpha-toxin、M2eタンパク、Psl、PcrV、S.Aureus toxin、インフルエンザA、Alginate、黄色ブドウ球菌、PD-L1、インフルエンザB、アシネトバクター、F-protein、Env、CD3、病原性大腸菌、クレブシエラ、肺炎球菌
【0060】
(5)遺伝性・希少疾患
アミロイドAL、SEMA4D(CD100)、インスリン受容体、ANGPTL3、IL4、IL13、FGF23、副腎皮質刺激ホルモン、トランスサイレチン、ハンチンチン
【0061】
(6)眼疾患
Factor D、IGF-1R、PGDFR、Ang2、VEGF-A、CD-105(Endoglin)、IGF-1R、βアミロイド
【0062】
(7)骨・整形外科領域
Sclerostin、Myostatin、Dickkopf-1、GDF8、RNAKL、HAS、Siglec-15
【0063】
(8)血液疾患
vWF、Factor IXa、Factor X、IFNγ、C5、BMP-6、Ferroportin、TFPI
【0064】
(9)その他の疾患
BAFF(B cell activating factor)、IL-1β、PCSK9、NGF、CD45、TLR-2、GLP-1、TNFR1、C5、CD40、LPA、プロラクチン受容体、VEGFR-1、CB1、Endoglin、PTH1R、CXCL1、CXCL8、IL-1β、AT2-R、IAPP
【0065】
モノクローナル抗体の具体例としては、特定のキメラ抗体(例、リツキシマブ、バシリキシマブ、インフリキシマブ、セツキシマブ、シルツキシマブ、ディヌツキシマブ、オルタトキサシマブ)、特定のヒト化抗体(例、ダクリヅマブ、パリビズマブ、トラスツズマブ、アレンツズマブ、オマリヅマブ、エファリヅマブ、ベバシヅマブ、ナタリヅマブ(IgG4)、トシリヅマブ、エクリヅマブ(IgG2)、モガムリヅマブ、ペルツヅマブ、オビヌツヅマブ、ベドリヅマブ、ペンプロリヅマブ(IgG4)、メポリヅマブ、エロツヅマブ、ダラツムマブ、イケセキヅマブ(IgG4)、レスリヅマブ(IgG4)、アテゾリヅマブ)、特定のヒト抗体(例、アダリムマブ(IgG1)、パニツムマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、カナキヌマブ、オファツムマブ、デノスマブ(IgG2)、イピリムマブ、ベリムマブ、ラキシバクマブ、ラムシルマブ、ニボルマブ、デュピルマブ(IgG4)、セクキヌマブ、エボロクマブ(IgG2)、アリロクマブ、ネシツムマブ、ブロダルマブ(IgG2)、オララツマブ)が挙げられる(IgGサブタイプに言及していない場合、IgG1であることを示す)。
【0066】
抗体中のアミノ酸残基の位置、および重鎖の定常領域の位置(例、CH2ドメイン)についてはEU numberingに従う(http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.htmlを参照)。例えば、ヒトIgGを対象とする場合、246位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の16番目のアミノ酸残基に相当し、248位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の18番目のアミノ酸残基に相当し、288位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の58番目のアミノ酸残基に相当し、290位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の60番目のアミノ酸残基に相当し、317位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の87番目のアミノ酸残基に相当する。246/248位の表記は、246位または248位のリジン残基が対象であることを示す。288/290位の表記は、288位または290位のリジン残基が対象であることを示す。
【0067】
本発明によれば、抗体を構成するイムノグロブリン単位中の重鎖における特定のリジン残基(例、246/248位、288/290位、または317位のリジン残基)を位置選択的に修飾することができる(例、国際公開第2018/199337号、国際公開第2019/240288号、国際公開第2019/240287号、および国際公開第2020/090979号を参照)。本明細書において、「位置選択的」または「位置選択性」とは、抗体において特定のアミノ酸残基が特定の領域に偏在していないにもかかわらず、抗体中の特定のアミノ酸残基と結合できる所定の構造単位が、抗体中の特定の領域に偏在することをいう。したがって、「位置選択的に有する」、「位置選択的な結合」、「位置選択性での結合」等の位置選択性に関連する表現は、1個以上の特定のアミノ酸残基を含む標的領域における所定の構造単位の保有率または結合率が、標的領域における当該特定のアミノ酸残基と同種である複数個のアミノ酸残基を含む非標的領域における当該構造単位の保有率または結合率よりも有意なレベルで高いことを意味する。このような位置選択性は、50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、または100%であってもよい。
【0068】
本発明では、抗体中の重鎖における特定のリジン残基が位置選択的に修飾されている限り、他の位置の特定のアミノ酸残基がさらに位置選択的に修飾されていてもよい。例えば、抗体における所定の位置の特定のアミノ酸残基を位置選択的に修飾する方法は、国際公開第2018/199337号、国際公開第2019/240288号、国際公開第2019/240287号、および国際公開第2020/090979号に記載されている。このような特定のアミノ酸残基としては、修飾し易い側鎖(例、アミノ基、カルボキシ基、アミド基、ヒドロキシ基、チオール基)を有するアミノ酸残基(例、リジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、アスパラギン残基、グルタミン残基、スレオニン残基、セリン残基、チロシン残基、システイン残基)を利用できるが、好ましくは、アミノ基を含む側鎖を有するリジン残基、ヒドロキシ基を含む側鎖を有するチロシン残基、セリン残基、およびスレオニン残基、またはチオール基を含む側鎖を有するシステイン残基であり、より好ましくは、リジン残基であってもよい(すなわち、246/248位のリジン残基、288/290位のリジン残基、および317位のリジン残基のうちの、2つのリジン残基が位置選択的に二重修飾されていてもよく、3つのリジン残基が位置選択的に三重修飾されていてもよい)。
【0069】
(ハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0070】
(1価の基)
1価の基としては、例えば、1価の炭化水素基、および1価の複素環基が挙げられる。
【0071】
1価の基は、1個以上(例えば1~10個、好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらにより好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個)の後述する置換基により置換されていてもよい。
【0072】
(1価の炭化水素基、およびそれに関連する用語)
1価の炭化水素基としては、例えば、1価の鎖状炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、および1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0073】
1価の鎖状炭化水素基とは、鎖状構造のみで構成された炭化水素基を意味し、主鎖に環状構造を含まない。ただし、鎖状構造は直鎖状であっても分岐状であってもよい。1価の鎖状炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニルが挙げられる。アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、直鎖状、または分岐状のいずれであってもよい。
【0074】
アルキルとしては、炭素原子数1~12のアルキルが好ましく、炭素原子数1~6のアルキルがより好ましく、炭素原子数1~4のアルキルがさらに好ましい。アルキルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数1~12のアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシルが挙げられる。
【0075】
アルケニルとしては、炭素原子数2~12のアルケニルが好ましく、炭素原子数2~6のアルケニルがより好ましく、炭素原子数2~4のアルケニルがさらに好ましい。アルケニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数2~12のアルケニルとしては、例えば、ビニル、プロペニル、n-ブテニルが挙げられる。
【0076】
アルキニルとしては、炭素原子数2~12のアルキニルが好ましく、炭素原子数2~6のアルキニルがより好ましく、炭素原子数2~4のアルキニルがさらに好ましい。アルキニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数2~12のアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、n-ブチニルが挙げられる。
【0077】
1価の鎖状炭化水素基としては、アルキルが好ましい。
【0078】
1価の脂環式炭化水素基とは、環構造として脂環式炭化水素のみを含み、芳香族環を含まない炭化水素基を意味し、脂環式炭化水素は単環、多環のいずれであってもよい。ただし、脂環式炭化水素のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニルが挙げられ、これらは、単環、多環のいずれであってもよい。
【0079】
シクロアルキルとしては、炭素原子数3~12のシクロアルキルが好ましく、炭素原子数3~6のシクロアルキルがより好ましく、炭素原子数5~6のシクロアルキルがさらに好ましい。シクロアルキルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数3~12のシクロアルキルとしては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
【0080】
シクロアルケニルとしては、炭素原子数3~12のシクロアルケニルが好ましく、炭素原子数3~6のシクロアルケニルがより好ましく、炭素原子数5~6のシクロアルケニルがさらに好ましい。シクロアルケニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数3~12のシクロアルケニルとしては、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニルが挙げられる。
【0081】
シクロアルキニルとしては、炭素原子数3~12のシクロアルキニルが好ましく、炭素原子数3~6のシクロアルキニルがより好ましく、炭素原子数5~6のシクロアルキニルがさらに好ましい。シクロアルキニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数3~12のシクロアルキニルとしては、例えば、シクロプロピニル、シクロブチニル、シクロペンチニル、シクロヘキシニルが挙げられる。
【0082】
1価の脂環式炭化水素基としては、シクロアルキルが好ましい。
【0083】
1価の芳香族炭化水素基とは、芳香族環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族環のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素を含んでいてもよく、芳香族環は単環、多環のいずれであってもよい。1価の芳香族炭化水素基としては、炭素原子数6~12のアリールが好ましく、炭素原子数6~10のアリールがより好ましく、炭素原子数6のアリールがさらに好ましい。1価の芳香族炭化水素基が置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数6~12のアリールとしては、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
【0084】
1価の芳香族炭化水素基としては、フェニルが好ましい。
【0085】
これらの中でも、1価の炭化水素基としては、アルキル、シクロアルキル、アリールが好ましい。
【0086】
(1価の複素環基およびそれに関連する用語)
1価の複素環基とは、複素環式化合物の複素環から水素原子1個を除いた基をいう。1
価の複素環基は、1価の芳香族複素環基、または1価の非芳香族複素環基である。複素環基を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0087】
1価の芳香族複素環基としては、炭素原子数1~15の芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数1~9の芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数1~6の芳香族複素環基がさらに好ましい。1価の芳香族複素環基が置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。1価の芳香族複素環基としては、例えば、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、インドリル、プリニル、アントラキノリル、カルバゾニル、フルオレニル、キノリニル、イソキノリニル、キナゾリニル、及びフタラジニルが挙げられる。
【0088】
1価の非芳香族複素環基としては、炭素原子数2~15の非芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数2~9の非芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数2~6の非芳香族複素環基がさらに好ましい。1価の非芳香族複素環基が置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。1価の非芳香族複素環基としては、例えば、オキシラニル、アジリジニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、ジオキソラニル、テトラヒドロチオフェニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、オキサゾリジニル、ピペリジニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ジヒドロオキサジニル、テトラヒドロオキサジニル、ジヒドロピリミジニル、及びテトラヒドロピリミジニルが挙げられる。
【0089】
これらの中でも、1価の複素環基としては、5員または6員の複素環基が好ましい。
【0090】
(2価の基)
2価の基は、2価の直鎖炭化水素基、2価の環状炭化水素基、2価の複素環基、-C(=O)-、-C(=S)-、-NR7-、-C(=O)-NR7-、-NR7-C(=O)-、-C(=S)-NR7-、-NR7-C(=S)-、-O-、-S-、-(O-R8)m-、および-(S-R8)m1-からなる群より選ばれる1個の基、またはこれらの2個以上(例えば2~10個、好ましくは2~8個、より好ましくは2~6個、さらにより好ましくは2~5個、特に好ましくは2または3個)の基を含む主鎖構造を有する基である。R7は、水素原子、または後述する置換基を示す。R8は、2価の直鎖炭化水素基、2価の環状炭化水素基、または2価の複素環基を示す。m1は、1~10の整数であり、好ましくは1~8の整数であり、より好ましくは1~6の整数であり、さらにより好ましくは1~5の整数であり、特に好ましくは1~3の整数である。
【0091】
2価の直鎖炭化水素基は、直鎖アルキレン、直鎖アルケニレン、または直鎖アルキニレンである。
直鎖アルキレンは、炭素原子数1~6の直鎖アルキレンであり、炭素原子数1~4の直鎖アルキレンが好ましい。直鎖アルキレンとしては、例えば、メチレン、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレン、n-ペンチレン、n-へキシレンが挙げられる。
直鎖アルケニレンは、炭素原子2~6の直鎖アルケニレンであり、炭素原子数2~4の直鎖アルケニレンが好ましい。直鎖アルケニレンとしては、例えば、エチレニレン、n-プロピニレン、n-ブテニレン、n-ペンテニレン、n-へキセニレンが挙げられる。
直鎖アルキニレンは、炭素原子数2~6の直鎖アルキニレンであり、炭素原子数2~4の直鎖アルキニレンが好ましい。直鎖アルキニレンとしては、例えば、エチニレン、n-
プロピニレン、n-ブチニレン、n-ペンチニレン、n-へキシニレンが挙げられる。
2価の直鎖炭化水素基としては、直鎖アルキレンが好ましい。
【0092】
2価の環状炭化水素基は、アリーレン、または2価の非芳香族環状炭化水素基である。
アリーレンとしては、炭素原子数6~14のアリーレンが好ましく、炭素原子数6~10のアリーレンがより好ましく、炭素原子数6のアリーレンが特に好ましい。アリーレンとしては、例えば、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレンが挙げられる。
2価の非芳香族環状炭化水素基としては、炭素原子数3~12の単環式または多環式である2価の非芳香族環状炭化水素基が好ましく、炭素原子数4~10の単環式または多環式である2価の非芳香族環状炭化水素基がより好ましく、炭素原子数5~8の単環式である2価の非芳香族環状炭化水素基が特に好ましい。2価の非芳香族環状炭化水素基としては、例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロへキシレン、シクロへプチレン、シクロオクチレンが挙げられる。
2価の環状炭化水素基としては、アリーレンが好ましい。
【0093】
2価の複素環基は、2価の芳香族複素環基、または2価の非芳香族複素環基である。複素環を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子およびケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子および窒素原子からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
2価の芳香族複素環基としては、炭素原子数3~15の2価の芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数3~9の2価の芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数3~6の2価の芳香族複素環基が特に好ましい。2価の芳香族複素環基としては、例えば、ピロールジイル、フランジイル、チオフェンジイル、ピリジンジイル、ピリダジンジイル、ピリミジンジイル、ピラジンジイル、トリアジンジイル、ピラゾールジイル、イミダゾールジイル、チアゾールジイル、イソチアゾールジイル、オキサゾールジイル、イソオキサゾールジイル、トリアゾールジイル、テトラゾールジイル、インドールジイル、プリンジイル、アントラキノンジイル、カルバゾールジイル、フルオレンジイル、キノリンジイル、イソキノリンジイル、キナゾリンジイル、およびフタラジンジイルが挙げられる。
2価の非芳香族複素環基としては、炭素原子数3~15の非芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数3~9の非芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数3~6の非芳香族複素環基が特に好ましい。2価の非芳香族複素環基としては、例えば、ピロールジオンジイル、ピロリンジオンジイル、オキシランジイル、アジリジンジイル、アゼチジンジイル、オキセタンジイル、チエタンジイル、ピロリジンジイル、ジヒドロフランジイル、テトラヒドロフランジイル、ジオキソランジイル、テトラヒドロチオフェンジイル、ピロリンジイル、イミダゾリジンジイル、オキサゾリジンジイル、ピペリジンジイル、ジヒドロピランジイル、テトラヒドロピランジイル、テトラヒドロチオピランジイル、モルホリンジイル、チオモルホリンジイル、ピペラジンジイル、ジヒドロオキサジンジイル、テトラヒドロオキサジンジイル、ジヒドロピリミジンジイル、およびテトラヒドロピリミジンジイルが挙げられる。
2価の複素環基としては、2価の芳香族複素環基が好ましい。
【0094】
好ましくは、2価の基は、アルキレン、アリーレン、-C(=O)-、-NR7-、-C(=O)-NR7-、-NR7-C(=O)-、-O-、および-(O-R8)m-からなる群より選ばれる1個の基を含む主鎖構造を有する2価の基であるか、または、
アルキレン、アリーレン、-C(=O)-、-NR7-、-C(=O)-NR7-、-NR7-C(=O)-、-O-、および-(O-R8)m1-からなる群より選ばれる2個以上の基を含む主鎖構造を有する2価の基であり、
R7が、水素原子またはアルキルであり、
R8が、アルキレンまたはアリーレンであり、
m1が、1~5の整数(すなわち、1、2、3、4、または5)であってもよい。
アルキレン、アリーレン、アルキルは、上述したものと同様である。
【0095】
2価の基における主鎖構造は、1個以上(例えば1~10個、好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらにより好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個)の後述する置換基により置換されていてもよい。
【0096】
(置換基)
置換基としては、以下が挙げられる:
(i)ハロゲン原子;
(ii)1価の炭化水素基;
(iii)1価の複素環基;
(iv)アラルキル;
(v)Ra-O-、Ra-C(=O)-、Ra-O-C(=O)-、もしくはRa-C(=O)-O-(Raは、水素原子、もしくは1価の炭化水素基を示す。);または
(vi)NRbRc-、NRbRc-C(=O)-、NRbRc-C(=O)-O-、もしくはRb-C(=O)-NRc-(RbおよびRcは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは1価の炭化水素基を示す。);
(vii)ニトロ基、硫酸基、スルホン酸基、シアノ基、およびカルボキシル基。
【0097】
上記置換基におけるハロゲン原子、1価の炭化水素基、および1価の複素環基の定義、例、および好ましい例は、それぞれ、上述したものと同様である。
【0098】
アラルキルとは、アリールアルキルをいう。アリールアルキルにおけるアリールおよびアルキルの定義、例および好ましい例は、上述したとおりである。アラルキルとしては、炭素原子数3~15のアラルキルが好ましい。このようなアラルキルとしては、例えば、ベンゾイル、フェネチル、ナフチルメチル、ナフチルエチルが挙げられる。
【0099】
好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~12のアルキル、フェニル、もしくはナフチル;
(iii)炭素原子数3~15のアラルキル;
(iv)5員または6員の複素環;
(v)Ra-O-、Ra-C(=O)-、Ra-O-C(=O)-、もしくはRa-C(=O)-O-(Raは、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);(vi)NRbRc-、NRbRc-C(=O)-、NRbRc-C(=O)-O-、もしくはRb-C(=O)-NRc-(RbおよびRcは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);または
(vii)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0100】
より好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~12のアルキル;
(iii)Ra-O-、Ra-C(=O)-、Ra-O-C(=O)-、もしくはRa-C(=O)-O-(Raは、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);
(iv)NRbRc-、NRbRc-C(=O)-、NRbRc-C(=O)-O-、もしくはRb-C(=O)-NRc-(RbおよびRcは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);または
(v)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0101】
さらにより好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~6のアルキル;
(iii)Ra-O-、Ra-C(=O)-、Ra-O-C(=O)-、もしくはRa-C(=O)-O-(Raは、水素原子、もしくは炭素原子数1~6のアルキルを示す。);
(iv)NRbRc-、NRbRc-C(=O)-、NRbRc-C(=O)-O-、もしくはRb-C(=O)-NRc-(RbおよびRcは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~6のアルキルを示す。);または
(v)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0102】
特に好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~4のアルキル;
(iii)Ra-O-、Ra-C(=O)-、Ra-O-C(=O)-、もしくはRa-C(=O)-O-(Raは、水素原子、もしくは炭素原子数1~4のアルキルを示す。);
(iv)NRbRc-、NRbRc-C(=O)-、NRbRc-C(=O)-O-、もしくはRb-C(=O)-NRc-(RbおよびRcは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~4のアルキルを示す。);または
(v)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0103】
(親水性基)
親水性基は、式(I)~(VII)またはその下位概念の式で表される構造単位を、より親水性にすることができる基である。親水性基を、当該構造単位中の所定の部位に有することにより、マウス血漿中でコンジュゲートをより安定化することができる。このような親水性基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、ポリエチレングリコール基、ポリサルコシン基、糖部分が挙げられる。親水性基は、コンジュゲート中に1個以上(例、1個、2個、3個、4個、または5個)含まれていてもよい。
【0104】
ポリエチレングリコール(PEG)基は、-(CH2-CH2-O-)k1-で表される2価の基である。コンジュゲートがポリエチレングリコール基を有する場合、コンジュゲートは、ポリエチレングリコール基の一方の結合手が水素原子、または1価の基(例、1価の炭化水素基)と結合した1価の基を有していてもよい。k1は、例えば3以上の整数、好ましくは4以上の整数、より好ましくは5以上の整数、さらにより好ましくは6以上の整数であってもよい。k1はまた、15以下の整数、好ましくは12以下の整数、より好ましくは10以下の整数、さらにより好ましくは9個以下の整数であってもよい。より具体的には、k1は、3~15の整数、好ましくは4~12の整数、より好ましくは5~10の整数、さらにより好ましくは4~9の整数であってもよい。
【0105】
ポリサルコシン基は、-(NCH3-CH2-CO-)k2-で表される2価の基である。ポリサルコシン基は、PEGの代替物として使用することができる。k2は、例えば3以上の整数、好ましくは4以上の整数、より好ましくは5以上の整数、さらにより好ましくは6以上の整数であってもよい。k2はまた、15以下の整数、好ましくは12以下の整数、より好ましくは10以下の整数、さらにより好ましくは9個以下の整数であってもよい。より具体的には、k2は、3~15の整数、好ましくは4~12の整数、より好ましくは5~10の整数、さらにより好ましくは4~9の整数であってもよい。
【0106】
糖部分は、単糖、オリゴ糖(例、二糖、三糖、四糖、五糖)、または多糖である。糖部
分は、アルドースもしくはケトース、またはそれらの組合せを含むことができる。糖部分は、リボース、デオキシリボース、キシロース、アラビノース、グルコース、マンノース、ガラクトース、もしくはフルクトース、またはアミノ糖(例、グルコサミン)等の単糖、あるいはこのような単糖を含むオリゴ糖または多糖であってもよい。
【0107】
特定の実施形態では、糖部分は、低分子量の親水性基であってもよい。低分子親水性基とは、分子量1500以下の親水性基をいう。低分子親水性基の分子量は、好ましくは1200以下、1000以下、800以下、700以下、600以下、500以下、400以下、300以下、200以下、または100以下であってもよい。低分子親水性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、ならびに上記分子量を満たすポリエチレングリコール基、ポリサルコシン基、糖部分(例、単糖、オリゴ糖)が挙げられる。
【0108】
(生体直交性官能基)
生体直交性官能基は、生体構成成分(例、アミノ酸、タンパク質、核酸、脂質、糖、リン酸)とは反応しない、もしくは生体構成成分に対する反応の速度が遅いが、生体構成成分以外の成分に対して選択的に反応する基をいう。生体直交性官能基は、当該技術分野において周知である(例、Sharpless K.B.et al.,Angew.Chem.Int.Ed.40,2004(2015);Bertozzi C.R.et al.,Science 291,2357(2001);Bertozzi C.R.et al.,Nature Chemical Biology 1,13(2005)を参照)。
【0109】
本発明では、生体直交性官能基として、タンパク質に対する生体直交性官能基が用いられる。本発明の試薬により誘導体化されるべきチオール基導入抗体は、タンパク質であるためである。タンパク質に対する生体直交性官能基は、タンパク質を構成する天然の20種のアミノ酸残基の側鎖と反応しない、もしくは当該側鎖に対する反応の速度が遅いが、目的の官能基と反応する基である。タンパク質を構成する天然の20種のアミノ酸は、アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、バリン(V)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、およびリジン(K)である。これらの天然の20種のアミノ酸のうち、側鎖がない(すなわち、水素原子である)グリシン、ならびに側鎖が炭化水素基である(すなわち、硫黄原子、窒素原子、および酸素原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を側鎖に含まない)アラニン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、およびバリンは、通常の反応に対して不活性である。したがって、タンパク質に対する生体直交性官能基は、通常の反応に対して不活性である側鎖を有するこれらのアミノ酸の側鎖に加えて、アスパラギン、グルタミン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、およびリジンの側鎖に対して反応しない、または反応の速度が遅いが、目的の官能基と反応する基である。
【0110】
このような生体直交性官能基としては、例えば、アジド残基、アルデヒド残基、チオール残基、アルケン残基(換言すれば、炭素原子間二重結合を有する最小単位であるビニレン(エテニレン)部分を有していればよい。以下同様)、アルキン残基(換言すれば、炭素原子間三重結合を有する最小単位であるエチニレン部分を有していればよい。以下同様)、ハロゲン残基、テトラジン残基、ニトロン残基、ヒドロキシルアミン残基、ニトリル残基、ヒドラジン残基、ケトン残基、ボロン酸残基、シアノベンゾチアゾール残基、アリル残基、ホスフィン残基、マレイミド残基、ジスルフィド残基、チオエステル残基、α―ハロカルボニル残基(例、α位にフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を有
するカルボニル残基。以下同様)、イソニトリル残基、シドノン残基、セレン残基が挙げられる。
【0111】
より具体的には、生体直交性官能基は、下記からなる群より選ばれるいずれか一つの化学構造に対応していてもよい。
【化19】
〔ここで、
R
1a、単一もしくは複数のR
1b、および単一もしくは複数のR
1cは、同一もしくは異なって、上述の置換基、または電子吸引基であり、
・は、結合手である。〕
【0112】
電子吸引基としては、例えば、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されたアルキル(例、トリフルオロメチル)、ボロン酸残基、メシル、トシル、トリフレート、ニトロ、シアノ、フェニル基、ケト基(例、アシル)が挙げられ、ハロゲン原子、ボロン酸残基、メシル、トシル、トリフレートが好ましい。
【0113】
特定の実施形態では、生体直交性官能基は、保護されていてもよい。保護されていてもよい生体直交性官能基とは、未保護の生体直交性官能基、または保護された生体直交性官能基をいう。未保護の生体直交性官能基は、上述の生体直交性官能基に該当する。保護された生体直交性官能基は、保護基の切断により生体直交性官能基を生成する基である。保護基の切断は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない条件(温和な条件)下での特定の処理により行うことができる。このような特定の処理としては、例えば、(a)酸性物質、塩基性物質、還元剤、酸化剤、酵素からなる群より選ばれる1種以上の物質による処理、(b)光からなる群より選ばれる物理化学的刺激による処理、または(c)自己分解性の切断性部分を含む切断性リンカーを用いた場合の放置が挙げられる。このような保護基およびその切断条件は、当該分野における技術常識である(例、G.Leriche,L. Chisholm,A.Wagner,Bioorganic & Medicinal Chemistry.20,571(2012);Feng P. et al.,Jounal of American Chemical Society.132,1500(2010).;Bessodes M. et al.,Journal of Controlled Release, 99,423(2004).;DeSimone,J.M.,Journal of American Chemical Society.132,17928(2010);Th
ompson,D.H.,Journal of Controlled Release,91,187(2003);Schoenmarks,R.G.,Journal of Controlled Release,95,291(2004))。
【0114】
保護された生体直交性官能基としては、例えば、ジスルフィド残基、エステル残基、アセタール残基、ケタール残基、イミン残基、ビシナルジオール残基が挙げられる。
【0115】
より具体的には、保護された生体直交性官能基は、以下からなる群より選ばれるいずれか一つの化学構造に対応していてもよい。
【化20】
〔ここで、結合に直交する波線は、切断部位を示し、
単一もしくは複数のR
2aは、同一または異なって、水素原子、または上述の置換基からなる群より選ばれ、
・は、結合手である。〕
【0116】
好ましくは、保護されていてもよい生体直交性官能基は、未保護の生体直交性官能基である。
【0117】
(機能性物質)
機能性物質は、抗体に任意の機能を付与する物質である限り特に限定されず、例えば、薬物、標識物質、親和性物質、輸送用物質、安定化剤が挙げられるが、好ましくは薬物、標識物質、親和性物質、または輸送用物質であってもよく、あるいは薬物または標識物質であってもよい。機能性物質はまた、単一の機能性物質であってもよく、または2以上の機能性物質が連結された物質であってもよい。
【0118】
薬物としては、任意の疾患に対する薬物であってもよい。このような疾患としては、例えば、癌(例、肺癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、腎臓癌、肝臓癌、甲状腺癌、前立腺癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、骨癌、皮膚癌、脳腫瘍、黒色腫)、自己免疫疾患・炎症性疾患(例、アレルギー疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)、脳神経疾患(例、脳梗塞、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症)、感染症(例、細菌感染症、ウイルス感染症)、遺伝性・希少疾患(例、遺伝性球状赤血球症、非ジストロフィー筋緊張症)、眼疾患(例、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、網膜色素変性症)、骨・整形外科領域の疾患(例、変形性関節症)、血液疾患(例、白血病、紫斑病)、その他の疾患(例、糖尿病、高脂血症等の代謝異常症、肝臓疾患、腎疾患、肺疾患、循環器系疾患、消化器官系疾患)が挙げられる。薬物は、疾患の予防または治療薬、副作用の緩和薬であってもよい。
【0119】
より具体的には、薬物は、抗癌剤であってもよい。抗癌剤としては、例えば、化学療法
剤、毒素、放射性同位体またはそれを含む物質が挙げられる。化学療法剤としては、例えば、DNA損傷剤、代謝拮抗薬、酵素阻害剤、DNAインターカレート剤、DNA切断剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA結合阻害剤、チューブリン結合阻害剤、細胞傷害性ヌクレオシド、白金化合物が挙げられる。毒素としては、例えば、細菌毒素(例、ジフテリア毒素)、植物毒素(例、リシン)が挙げられる。放射性同位体としては、例えば、水素原子の放射性同位体(例、3H)、炭素原子の放射性同位体(例、14C)、リン原子の放射性同位体(例、32P)、硫黄原子の放射性同位体(例、35S)、イットリウムの放射性同位体(例、90Y)、テクネチウムの放射性同位体(例、99mTc)、インジウムの放射性同位体(例、111In)、ヨウ素原子の放射性同位体(例、123I、125I、129I、131I)、サマリウムの放射性同位体(例、153Sm)、レニウ
ムの放射性同位体(例、186Re)、アスタチンの放射性同位体(例、211At)、ビスマスの放射性同位体(例、212Bi)が挙げられる。更に具体的には、薬物として、オーリスタチン(MMAE、MMAF)、メイタンシン(DM1、DM4)、PBD(ピロロベンゾジアゼピン)、IGN、カンプトテシン類縁体、カリケアミシン、デュオカルミシン、エリブリン、アントラサイクリン、dmDNA31、ツブリシンが挙げられる。
【0120】
標識物質は、標的(例、組織、細胞、物質)の検出を可能にする物質である。標識物質としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジン、ビオチン、ジゴキシゲニン、アプタマー)、蛍光物質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウムエステル、トリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム、ルミノール)、放射性同位体(例、上述したもの)、またはそれを含む物質が挙げられる。
【0121】
親和性物質は、標的に対する親和性を有する物質である。親和性物質としては、例えば、抗体等の親和性タンパク質またはペプチド、アプタマー、レクチン、標的核酸に対する相補鎖が挙げられる。親和性物質は、好ましくは、親和性タンパク質または親和性ペプチドであり、より好ましくは、抗体であってもよい。機能性物質として用いられる抗体が由来する動物の種類は、上述したものと同様である。
【0122】
機能性物質として用いられる抗体の種類は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。抗体はまた、2価の抗体(例、IgG、IgD、IgE)、または4価以上の抗体(例、IgA抗体、IgM抗体)であってもよい。好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体としては、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、所定の糖鎖が付加された抗体(例、N型糖鎖結合コンセンサス配列等の糖鎖結合コンセンサス配列を有するように改変された抗体)、二重特異性抗体、Fc領域タンパク質、Fc融合タンパク質が挙げられる。モノクローナル抗体のアイソタイプとしては、例えば、IgG(例、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD、IgE、およびIgYが挙げられる。機能性物質として用いられる抗体としては、例えば、全長抗体およびそのフラグメント(フラグメント抗体)が挙げられる。フラグメント抗体は、所望の抗原に対する結合性を維持していればよく、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFvが挙げられる。
【0123】
機能性物質として用いられる抗体の抗原性は、本発明の抗体、抗体誘導体、およびコンジュゲートにおけるイムノグロブリン単位の抗原性と同じであっても異なっていてもよく、異なることが好ましい。また、機能性物質として用いられる抗体の由来は、当該イムノグロブリン単位の由来と、同じであっても異なっていてもよく、異なることが好ましい。したがって、機能性物質として用いられる抗体は、上述のモノクローナル抗体の具体例で
言及された、特定のキメラ抗体、特定のヒト化抗体、もしくは特定のヒト抗体、またはそれらに由来する抗体であってもよい。機能性物質として用いられる抗体はまた、上述のモノクローナル抗体の具体例で言及された、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4、またはそれに由来する抗体であってもよい。
【0124】
輸送用物質は、化合物の輸送能を有する物質である。輸送用物質としては、タンパク質外殻(例、マルチマー)中に化合物を内包できる物質(例、ヒトフェリチン等のフェリチン、ウイルス粒子、ウイルス様粒子)が好ましい。
【0125】
安定化剤は、抗体の安定化を可能にする物質である。安定化剤としては、例えば、ジオール類、グリセリン、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、天然系界面活性剤、サッカリド、およびポリオール類が挙げられる。
【0126】
機能性物質はまた、ペプチド、タンパク質、核酸、低分子有機化合物、糖鎖、脂質、高分子ポリマー、金属(例、金)、キレーターであってもよい。ペプチドとしては、例えば、細胞膜透過ペプチド、血液脳関門透過性ペプチド、ペプチド医薬品が挙げられる。タンパク質としては、例えば、酵素、サイトカイン、フラグメント抗体、レクチン、インターフェロン、血清アルブミン、抗体が挙げられる。核酸としては、例えば、DNA、RNA、人工核酸が挙げられる。核酸としてはまた、例えば、RNA干渉誘導性核酸(例、siRNA)、アプタマー、アンチセンスが挙げられる。低分子有機化合物としては、例えば、タンパク質分解誘導キメラ分子、色素、光分解性化合物が挙げられる。
【0127】
特定の実施形態では、機能性物質は、芳香族環を有する物質であってもよい。芳香族環を有する物質としては、例えば、モノメチルアウリスタチン(monomethylauristatin)〔例、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)〕、またはエキサテカン(Exatecan)が挙げられる。
【0128】
(塩)
本発明において、用語「塩」としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、およびアミノ酸との塩が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、硝酸との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、アルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)、および亜鉛、アルミニウム等の他の金属、ならびにアンモニウムとの塩が挙げられる。有機塩基との塩としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピレンジアミン、エチレンジアミン、ピリジン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンとの塩が挙げられる。アミノ酸との塩としては、例えば、塩基性アミノ酸(例、アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチン)、および酸性アミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩が挙げられる。塩は、好ましくは、無機酸(例、塩化水素)との塩、または有機酸(例、トリフルオロ酢酸)との塩である。
【0129】
2.位置選択的なコンジュゲートまたはその塩
本発明は、上記式(I)で表される構造単位を含む、抗体および機能性物質の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩を提供する。本発明のコンジュゲートの位置選択性は、上述したとおりである。
【0130】
本発明に関連して提示される式(I)および他の式において、-(ハイフン)は、その
両側に存在する2つの単位(例、原子、基)が共有結合していることを示す。
【0131】
抗体は、上述したようなイムノグロブリン単位を含む。このような抗体としては、例えば、2個の重鎖および2個の軽鎖を含み、かつ重鎖間および重鎖と軽鎖との間にジスルフィド結合を有するイムノグロブリン単位を含むIgG抗体、IgD抗体およびIgE抗体、4個の重鎖および4個の軽鎖を含み、かつ重鎖間および重鎖と軽鎖との間にジスルフィド結合を有するイムノグロブリン単位を含むIgA抗体、8個の重鎖および8個の軽鎖を含み、かつ重鎖間および重鎖と軽鎖との間にジスルフィド結合を有するイムノグロブリン単位を含むIgM抗体が挙げられ、IgG抗体(例、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)が好ましい。抗体は、好ましくはヒトIgGモノクローナル抗体であり、より好ましくはヒトIgG全長モノクローナル抗体である。
【0132】
位置選択的な結合は、リジン残基の側鎖中のアミノ基と、それと結合可能な原子または基(例、カルボニル基、チオカルボニル基)との間の結合により達成されることが好ましく、リジン残基の側鎖中のアミノ基とカルボニル基との間のアミド結合により達成されることがより好ましい。
【0133】
式(I)において、HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示す。親水性基、および1価の基は、上述したとおりである。好ましくは、HGは、親水性基を含む1価の基を示していてもよい。
【0134】
RAは、バリン残基の側鎖(すなわち、-CH(CH3)2)を示す。あるいは、RAは、フェニルアラニン残基、スレオニン残基、ロイシン残基、またはアラニン残基の側鎖であってもよい。RAにおけるアミノ酸残基の立体配置は、L体であってもD体であってもよく、L体が好ましい。
【0135】
RBは、シトルリン残基の側鎖(すなわち、-CH2CH2CH2NHCONH2)、またはアラニン残基の側鎖(すなわち、-CH3)を示す。あるいは、RBは、グルタミ
ン酸残基、グルタミン残基、リジン残基、アルギニン残基、スレオニン残基、またはメチオニン残基の側鎖であってもよい。RBにおけるアミノ酸残基の立体配置は、それぞれ、L体であってもD体であってもよく、L体が好ましい。
【0136】
RAおよびRBの組み合わせは、RAがバリン残基の側鎖であり、かつ、RBがシトルリン残基またはアラニン残基の側鎖であることが好ましい。あるいは、RAおよびRBの組み合わせの好ましい他の例は、以下である:
(a)RAがバリン残基の側鎖であり、かつ、RBがグルタミン酸残基、リジン残基、アルギニン残基、またはスレオニン残基の側鎖であること;
(b)RAがフェニルアラニン残基の側鎖であり、かつ、RBがリジン残基、アルギニン残基、またはグルタミン残基の側鎖であること;
(c)RAがスレオニン残基の側鎖であり、かつ、RBがスレオニン残基、またはメチオニン残基の側鎖であること;
(d)RAがロイシン残基の側鎖であり、かつ、RBがグルタミン酸残基の側鎖であること;および
(e)RAがアラニン残基の側鎖であり、かつ、RBがアラニン残基の側鎖であること。
【0137】
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示す。2価の芳香族環基は、上述したアリーレンまたは2価の芳香族複素環である。2つの隣接原子(炭素原子および窒素原子)が結合している2価の芳香族環基の位置は、カテプシンBによりシトルリンのカルボキシ末端側に存在するアミド結合が切断される場合、π電子の共役より-O-(C=O)-における酸素原子とカルボニル基との間で開裂が生じる限り(例、背景技術におけ
る「(B)ヒト癌細胞内のリソソーム中で説明」で示される切断反応を参照)、特に限定されない。このような位置は、当該分野における技術常識であり、2価の芳香族環基の種類等の因子に応じて、当業者であれば容易に決定することができる。
【0138】
好ましくは、環Aは、置換基を有していてもよい2価の単環式芳香族環基であってもよい。2価の芳香族環基は、フェニレン基、または2価の単環式芳香族複素環基である。
【0139】
より好ましくは、環Aは、2価の6員環式芳香族環基であってもよい。6員環式芳香族環基としては、例えば、上述した種々の基が挙げられる。この場合、2つの隣接原子が結合している2価の6員環式芳香族環基の位置は、オルト位、またはパラ位であり、好ましくはパラ位である。
【0140】
さらにより好ましくは、環Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基であってもよい。この場合、2つの隣接原子が結合しているフェニレン基の位置は、オルト位、またはパラ位であり、好ましくはパラ位である。
【0141】
置換基を有していてもよい2価の芳香族環基における置換基は、上述したとおりである。このような置換基は、上述したような電子吸引基であってもよい。
【0142】
R1、およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、または1価の基を示す。1価の基は、上述したとおりである。R1、およびR2における1価の基は、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基が好ましく、置換基を有していてもよいアルキルがより好ましく、アルキルがさらにより好ましい。アルキルとしては、上述したものが好ましい。
【0143】
特定の実施形態では、R1、およびR2で示される1価の基は、アミノ基の保護基であってもよい。このような保護基としては、例えば、アルキルカルボニル基(アシル基)(例、アセチル基、プロポキシ基、tert-ブトキシカルボニル基等のブトキシカルボニル基)、アルキルオキシカルボニル基(例、フルオレニルメトキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキル(アラルキル)オキシカルボニル基(例、ベンジルオキシカルボニル基)が挙げられる。
【0144】
好ましい実施形態では、R1、およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、またはアミノ基の保護基を示す。好ましくは、R1、およびR2は、それぞれ、水素原子であってもよい。
【0145】
L1、およびL2で示される2価の基は、上述したとおりである。
【0146】
特定の実施形態では、L1、およびL2で示される2価の基は、それぞれ、互いに反応可能な2つの生体直交性官能基の反応により生成する部分を含んでいてもよい。互いに反応可能な2つの生体直交性官能基の組合せは周知であるため、当業者は、このような組合せを適宜選択して、互いに反応可能な2つの生体直交性官能基の反応により生成する部分を含む2価の基を適宜設定することができる。互いに反応可能な生体直交性官能基の組合せとしては、例えば、チオール残基とマレイミド残基の組み合わせ、フラン残基とマレイミド残基の組み合わせ、チオール残基とハロカルボニル残基の組み合わせ(置換反応により、ハロゲンがチオールに置換される)、アルキン残基(好ましくは、上述したような置換基により置換されていてもよい、炭素原子間3重結合を有する環基)とアジド残基の組み合わせ、テトラジン残基とアルケン残基の組み合わせ、テトラジン残基とアルキン残基の組み合わせ、チオール残基と別のチオール残基の組み合わせ(ジスルフィド結合)が挙げられる。したがって、上記部分は、チオール残基とマレイミド残基の反応により生成する基、フラン残基とマレイミド残基の反応により生成する基、チオール残基とハロカルボ
ニル残基の反応により生成する基、アルキン残基とアジド残基の反応により生成する基、またはテトラジン残基とアルケン残基の反応により生成する基、チオール残基と別のチオール残基の組み合わせにより生成するジスルフィド基であってもよい。
【0147】
特定の実施形態では、上記部分は、下記構造式のうちのいずれか一つの構造式により表される2価の基であってもよい。
【化21】
〔ここで、白丸および黒丸は結合手を示す。〕
【0148】
L1では、白丸の結合手がIg結合部側に存在する原子に結合している場合、黒丸の結合手が「N-R1」中の窒素原子(N)結合部側に存在する原子に結合していてもよく、
白丸の結合手が「N-R1」中の窒素原子(N)結合部側に存在する原子に結合している場合、黒丸の結合手がIg結合部側に存在する原子に結合していてもよい。
【0149】
L2では、白丸の結合手が「N-R2」中の窒素原子(N)結合部側に存在する原子に結合している場合、黒丸の結合手が機能性物質(D)結合部側に存在する原子に結合していてもよく、
白丸の結合手が機能性物質(D)結合部側に存在する原子に結合している場合、黒丸の結合手が「N-R2」中の窒素原子(N)結合部側に存在する原子に結合していてもよい。
【0150】
Dで示される機能性物質は、上述したとおりである。
【0151】
rは、2個の重鎖あたりの前記結合の平均比率を示し、1.5~2.5である。このような平均比率は、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.7以上、さらにより好ましくは1.8以上、特に好ましくは1.9以上であってもよい。このような平均比率はまた、好ましくは2.4以下、より好ましくは2.3以下、さらにより好ましくは2.2以下、特に好ましくは2.1以下であってもよい。より具体的には、このような平均比率は、好ましくは1.6~2.4、より好ましくは1.7~2.3、さらにより好ましくは1.8~2.2、特に好ましくは1.9~2.1であってもよい。
【0152】
特定の実施形態では、本発明の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、凝集し難いという所望の性質を有するため、凝集率によって特定することができる。より具体的には、本発明のコンジュゲートまたはその塩の凝集率は、5%以下であってもよい。本発明によれば、抗体の凝集を回避し易いためである。凝集率は、好ましくは4.8%以下、より好ましくは4.6%以下、さらにより好ましくは4.4%以下、特に好ましくは4.2%以下、4.0%以下、3.8%以下、3.6%以下、3.4%以下、3.2%以下、3.0%以下、2.8%以下、または2.6%以下である。抗体の凝集率は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)-HPLCにより測定することができる(実施例およびChemistrySelect,2020,5,8435-8439を参照)。
【0153】
好ましい実施形態では、本発明の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、2.6%以下の凝集率であってもよい。凝集率はまた、2.4%以下、2.2%以下、2.0%以下、1.8%以下、または1.6%以下であってもよい。
【0154】
好ましくは、式(I)で表される構造単位は、式(I’)で表されるものであってもよい。式(I’)で示されるIg、RA、RB、環A、R1、R2、L1、L2、D、およびrは、それぞれ、式(I)で示されるものと同じである。
【0155】
式(I’)において、LHGは、結合、または親水性基を含んでいてもよい2価の基を示す。親水性基、および2価の基は、上述したとおりである。親水性基を含んでいてもよい2価の基は、LHGに隣接する窒素原子および炭素原子を連結する主鎖中、または当該主鎖の側鎖中に含まれていてもよく、当該主鎖の側鎖中に含まれることが好ましい。
【0156】
好ましくは、親水性基を含んでいてもよい2価の基(-LHG-)は、下記式(a)で表される2価の基であってもよい:
-(C(RHG)2)n1-(C=O)n2-(NRHG)n3-(C(RHG)2)n4- (a)
(両末端に配置されたハイフン(-)は結合手を示す。)
【0157】
式(a)において、複数のRHGは、それぞれ独立して、水素原子、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示す。親水性基および1価の基は、上述したとおりである。
【0158】
n1は、0~3の整数であり、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0または1の整数である。
【0159】
n2は、0または1の整数である。
【0160】
n3は、0または1の整数である。
【0161】
n4は、0~3の整数であり、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0または1の整数である。
【0162】
さらにより好ましくは、親水性基を含んでいてもよい2価の基(-LHG-)は、下記式(a1)、(a2)、または(a3)で表される2価の基であってもよい:
(a1) -(C(RHG)2)-;
(a2) -(C(RHG)2)-(C=O)-(NRHG)-(C(RHG)2)-;または
(a3) -(C=O)-(C(RHG)2)2-。
【0163】
式(a1)、(a2)、または(a3)において、複数のRHGは、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含む炭素原子数1~6のアルキル基を示す。親水性基、および炭素原子数1~6のアルキル基は、上述したとおりである。
【0164】
式(I’)において、RHG1、およびRHG2は、それぞれ独立して、水素原子、親水性基、または親水性基を含んでいてもよい1価の基を示す。親水性基、および1価の基は、上述したとおりである。
【0165】
特定の実施形態では、RHG1、およびRHG2で示される親水性基を含んでいてもよい1価の基は、アミノ基の保護基であってもよい。アミノ基の保護基としては、R1、およびR2について上述したものが挙げられる。例えば、RHG1、およびRHG2の一方
が、水素原子であり、他方が、アミノ基の保護基であってもよい。
【0166】
あるいは、RHG1、およびRHG2の一方が、水素原子であり、他方が、親水性基を含む1価の基であってもよい。親水性基を含む1価の基としては、例えば、親水性基を含むアルキル基、親水性基を含むカルボキシル基、親水性基を含むアルキルカルボニル基(例、上述した基)、親水性基を含むアルキルオキシカルボニル基、親水性基を含むオキシカルボニル基が挙げられる。
【0167】
式(I’)において、少なくとも1つの親水性基が、LHG、RHG1、およびRHG2からなる群より選ばれる1以上の部位において含まれる。少なくとも1つの親水性基が含まれる部位およびその組み合わせとしては、例えば、以下が挙げられる:
(i)LHG単独;
(ii)RHG1単独;
(iii)RHG2単独;
(iv)LHGおよびLHG1の組み合わせ;
(v)LHGおよびLHG2の組み合わせ;
(vi)LHG1およびLHG2の組み合わせ;ならびに
(vii)LHG、LHG1およびLHG2の組み合わせ。
これらのLHG部位、RHG1部位、RHG2部位の各々に1つの親水性基が含まれていてもよく、2つ以上の親水性基が含まれていてもよい。
【0168】
上記の一連の式において説明した記号、および記号中の要素(例、切断性部位のような特定要素、または特定式)の定義、例、および好ましい例は、他の式についても同様である。
【0169】
本発明の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、例えば、医薬、または試薬(例、診断薬、研究用試薬)として有用である。
【0170】
本発明のコンジュゲートまたはその塩は、医薬組成物の形態において提供されてもよい。このような医薬組成物は、本発明のコンジュゲートまたはその塩に加えて、医薬上許容され得る担体を含んでいてもよい。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。本発明のコンジュゲートまたはその塩はまた、安定性を実現する任意の修飾(例、PEG化)を有していてもよい。
【0171】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量のリガンドを溶解させた液剤、有効量のリガンドを固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の有効成分を懸濁させた懸濁液剤、有効量の有効成分を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である
。
【0172】
医薬組成物は、非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与)に好適である。このような非経口的な投与に好適な医薬組成物としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0173】
医薬組成物の投与量は、有効成分の種類・活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、適宜設定することができる。
【0174】
一実施形態では、本発明の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、生体直行性官能基を位置選択的に有する抗体誘導体またはその塩を、機能性物質と反応させることにより製造することができる(
図2)。このような反応は、抗体誘導体中の生体直行性官能基と機能性物質との間の反応により進行させることができる。
【0175】
機能性物質が、生体直交性官能基と反応し易い官能基を有する場合、機能性物質の当該官能基と、抗体誘導体中の生体直交性官能基とを適宜反応させることができる。生体直交性官能基と反応し易い官能基は、生体直交性官能基の具体的な種類によっても異なり得る。当業者であれば、適切な官能基を、生体直交性官能基と反応し易い官能基として適宜選択することができる(例、Boutureira et al., Chem. Rev.,2015,115,2174-2195)。生体直交性官能基と反応し易い官能基としては、例えば、生体直交性官能基がアジド残基の場合はアルキン残基が挙げられ、生体直交性官能基がチオール残基の場合はマレイミド残基およびジスルフィド残基が挙げられ、生体直交性官能基がアルデヒド残基またはケトン残基の場合はヒドラジン残基が挙げられ、生体直交性官能基がノルボルネン残基の場合はアジド残基が挙げられ、生体直交性官能基がテトラジン残基の場合はアルキン残基が挙げられるが、これらに限定されない。勿論、生体直交性官能基およびそれと反応し易い官能基の上記組み合わせでは、組み合わせを入れ代えることも可能である。したがって、上記組み合わせにおける最初の例を入れ替えた場合には、生体直交性官能基としてアルキン残基、および生体直交性官能基と反応し易い官能基としてアジド残基の組み合わせを用いることができる。
【0176】
機能性物質が、抗体誘導体中の生体直交性官能基と反応し易い官能基を有しない場合、薬物は、このような官能基を有するように誘導体化されてもよい。誘導体化は、当該分野における技術常識である(例、国際公開第2004/010957号、米国特許出願公開第2006/0074008号明細書、米国特許出願公開第2005/0238649号明細書)。例えば、誘導体化は、任意の架橋剤を用いて行われてもよい。あるいは、誘導体化は、所望の官能基を有する特定のリンカーを用いて行われてもよい。本発明では、誘導体化された機能性物質も、機能性物質の一種にすぎないことから、単に「機能性物質」と呼称される。
【0177】
上記反応は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない条件(温和な条件)下で適宜行うことができる。例えば、このような反応は、適切な反応系、例えば緩衝液中において、室温(例、約15~30℃)で行うことができる。緩衝液のpHは、例えば5~9であり、好ましくは5.5~8.5であり、より好ましくは6.0~8.0である。緩衝液は、適切な触媒を含んでいてもよい。反応時間は、例えば1分~20時間、好ましくは10分~15時間、より好ましくは20分~10時間、さらにより好ましくは30分~8時間である。このような反応の詳細については、例えば、G.J.L.Bernardes et al.,Chem.Rev.,115,2174(2015);G.J.L.Bernardes et al.,Chem.Asian.J.
,4,630(2009);B.G.Davies et al.,Nat.Commun.,5,4740(2014);A.Wagner et al.,Bioconjugate.Chem.,25,825(2014)を参照のこと。
【0178】
別の実施形態では、本発明の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩は、生体直行性官能基および機能性物質を有する化合物またはその塩を、Ig(イムノグロブリン単位)を有する原料抗体と反応させることにより製造することができる(
図2)。
【0179】
上記原料抗体は、生体直交性官能基で位置選択的に修飾されたリジン残基を含む。原料抗体における生体直交性官能基は、生体直行性官能基および機能性物質を有する化合物における生体直交性官能基と互いに反応できるように選択することができる。原料抗体における生体直交性官能基としては、上述した種々の生体直行性官能基を利用することができる。汎用性の高さ等の観点から、原料抗体における生体直交性官能基は、レイミド残基、チオール残基、フラン残基、ハロカルボニル残基、アルケン残基、アルキン残基、アジド残基、またはテトラジン残基であってもよい。
【0180】
特定の実施形態では、上記原料抗体は、下記式(VIII):
【化22】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、かつ、2個の重鎖中のリジン残基の側鎖中のアミノ基と、Igに隣接するカルボニル基との間でアミド結合を位置選択的に形成しており、
Lは、-(C(R)
2)
m-、-(O-C(R)
2-C(R)
2)
m-、および-(C(R)
2-C(R)
2-O)
m-からなる群より選ばれる2価の基であり、
Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~6のアルキル、炭素原子数2~6のアルケニル、または炭素原子数2~6のアルキニルであり、
mは、0~10の整数であり、
Bは、B
1で表される生体直交性官能基と反応可能な生体直交性官能基であり、
2個の重鎖あたりの前記結合の平均比率rは、1.5~2.5である。〕で表されるイムノグロブリン単位を含んでいてもよい。上記式(VIII)におけるIgおよびrについての定義、例および好ましい例は、上述したものと同じである。
【0181】
mは、好ましくは1以上の整数、より好ましくは2以上の整数、3以上の整数、4以上の整数、または5以上の整数であってもよい。mはまた、好ましくは9以下の整数、より好ましくは8以下の整数、7以下の整数、または6以下の整数であってもよい。特定の場合、mは、1~8の整数(好ましくは2~6の整数)であってもよい。
【0182】
Bで示される生体直交性官能基は、上述した生体直交性官能基と同じである。
【0183】
生体直行性官能基および機能性物質を有する化合物またはその塩と上記原料抗体との反応は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない上述の条件(温和な条件)下で適宜行うことができる。
【0184】
位置選択的なコンジュゲートまたはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生
成物の分子量にもよるが、例えば、還元条件下の逆相HPLC、または質量分析により行うことができる。位置選択性の確認は、例えば、ペプチドマッピングにより行うことができる。ペプチドマッピングは、例えば、プロテアーゼ(例、トリプシン、キモトリプシン、)処理および質量分析により行うことができる。プロテアーゼとしては、エンドプロテアーゼが好ましい。このようなエンドプロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、Glu-C、Lys-N、Lys-C、Asp-Nが挙げられる。コンジュゲートまたはその塩は、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー)等の任意の精製方法により適宜精製することができる。
【0185】
3.抗体誘導体またはその塩
本発明はまた、上記式(II)で表される構造単位を含む、生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体誘導体またはその塩を提供する。本発明の抗体誘導体の位置選択性は、上述したとおりである。
【0186】
式(II)において、Ig、HG、RA、RB、環A、R1、R2、L1、L2、およびrは、式(I)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I)において上述したものと同じである。
【0187】
B2で示される生体直交性官能基は、上述したとおりである。
【0188】
特定の実施形態では、生体直交性官能基は、マレイミド残基、チオール残基、フラン残基、ハロカルボニル残基、アルケン残基、アルキン残基、アジド残基、またはテトラジン残基であってもよい。これらの生体直交性官能基は、反応効率に優れ、汎用性が高いため好ましい。
【0189】
好ましくは、式(II)で表される構造単位は、式(II’)で表されるものであってもよい。式(II’)で表されるIg、RA、RB、環A、R1、R2、L1、L2、B2、およびrは、それぞれ、式(II)で示されるものと同じである。
【0190】
式(II’)において、LHG、RHG1、およびRHG2は、式(I’)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I’)において上述したものと同じである。
【0191】
本発明の抗体誘導体またはその塩は、例えば、本発明の位置選択的なコンジュゲートまたはその塩の作製のための中間体として有用である。
【0192】
本発明の抗体誘導体またはその塩は、例えば、第1生体直行性官能基および第2生体直行性官能基を有する化合物またはその塩を、Ig(イムノグロブリン単位)を有する原料抗体と反応させることにより製造することができる(
図2)。原料抗体は、上述したものと同じである。
【0193】
第1生体直行性官能基および第2生体直行性官能基を有する化合物またはその塩と上記原料抗体との反応は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない上述の条件(温和な条件)下で適宜行うことができる。
【0194】
抗体誘導体またはその塩の生成の確認は、本発明の位置選択的なコンジュゲートについて述べた方法と同様にして行うことができる(位置選択性の確認も同様)。抗体誘導体ま
たはその塩は、本発明の位置選択的なコンジュゲートについて述べたような任意の精製方法により適宜精製することができる。
【0195】
4.生体直交性官能基および機能性物質を有する化合物またはその塩
本発明はまた、上記式(III)で表される、生体直交性官能基および機能性物質を有する化合物またはその塩を提供する。
【0196】
式(III)において、HG、RA、RB、環A、R1、R2、L1、L2、およびDは、式(I)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I)において上述したものと同じである。
【0197】
B1は、生体直交性官能基を示す。生体直交性官能基は、上述したとおりである。
【0198】
特定の実施形態では、生体直交性官能基は、マレイミド残基、チオール残基、フラン残基、ハロカルボニル残基、アルケン残基、アルキン残基、アジド残基、またはテトラジン残基であってもよい。これらの生体直交性官能基は、反応効率に優れ、汎用性が高いため好ましい。
【0199】
好ましくは、式(III)で表される化合物は、式(III’)で表されるものであってもよい。式(III’)で表されるRA、RB、環A、R1、R2、L1、L2、B1、およびDは、それぞれ、式(III)で示されるものと同じである。
【0200】
式(III’)において、LHG、RHG1、およびRHG2は、式(I’)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I’)において上述したものと同じである。
【0201】
式(III)で表される本発明の化合物またはその塩は、例えば、本発明の位置選択的なコンジュゲートの作製のための中間体として有用である。式(III)で表される本発明の化合物またはその塩はまた、例えば、生体分子(例、抗体等のタンパク質、糖類、核酸、脂質)等の任意の物質の誘導体化に有用である。
【0202】
生体直交性官能基および機能性物質を有する化合物またはその塩は、例えば、第1生体直行性官能基および第2生体直行性官能基を有する化合物またはその塩を、機能性物質と反応させることにより製造することができる(
図2)。機能性物質の詳細は、上述したとおりである。
【0203】
第1生体直行性官能基および第2生体直行性官能基を有する化合物またはその塩と機能性物質との反応は、適切な反応系、例えば有機溶媒系または水溶液(例、緩衝液)系において、適温(例、約15~200℃)で行うことができる。反応系は、適切な触媒を含んでいてもよい。反応時間は、例えば1分~20時間、好ましくは10分~15時間、より好ましくは20分~10時間、さらにより好ましくは30分~8時間である。勿論、このような反応は、上述の温和な条件下で行うこともできる。
【0204】
生体直行性官能基および機能性物質を有する化合物またはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生成物の分子量にもよるが、例えば、NMR、HPLC、または質量分析により行うことができる。このような化合物またはその塩は、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー)等の任意の精製方法により適宜精製することができる。
【0205】
5.第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩
本発明はまた、上記式(IV)で表される、第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩を提供する。
【0206】
式(IV)において、HG、RA、RB、環A、R1、R2、L1、L2、およびDは、式(I)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I)において上述したものと同じである。
【0207】
B1は、第1生体直交性官能基を示す。第1生体直交性官能基は、生体直交性官能基について上述したものと同じである。
【0208】
B2は、第2生体直交性官能基を示す。第2生体直交性官能基は、生体直交性官能基について上述したものと同じである。
【0209】
好ましくは、第2生体直交性官能基は、第1生体直交性官能基と反応しない、または第1生体直交性官能基に対する反応性が低い生体直交性官能基であってもよい。この場合、式(IV)で表される化合物またはその塩の分子間反応を抑制することができる。したがって、第1および第2生体直交性官能基は、互いに反応しない、または互いの反応性が低い組み合わせで利用することができる。生体直交性官能基のこのような組み合わせは、当該分野において周知である。例えば、好ましい生体直交性官能基であるマレイミド残基、チオール残基、フラン残基、ハロカルボニル残基、アルケン残基、アルキン残基、アジド残基、およびテトラジン残基について、このような組み合わせの例は、以下のとおりである。
【0210】
【0211】
好ましくは、式(IV)で表される化合物は、式(IV’)で表されるものであってもよい。式(IV’)で表されるRA、RB、環A、R1、R2、L1、L2、B1、およびB2は、それぞれ、式(IV)で示されるものと同じである。
【0212】
式(IV’)において、LHG、RHG1、およびRHG2は、式(I’)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I’)において上述したものと同じである。
【0213】
式(IV)で表される本発明の化合物またはその塩は、例えば、本発明の抗体誘導体、および式(III)で表される本発明の化合物の作製のための中間体として有用である。式(IV)で表される本発明の化合物またはその塩はまた、例えば、生体分子(例、抗体等のタンパク質、糖類、核酸、脂質)、および機能性物質等の任意の物質の誘導体化に有用である。
【0214】
一実施形態では、第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩は、生体直行性官能基を有する式(VI)の化合物またはその塩を、B
1-L
1-NH-R
1で表される化合物と反応させることにより製造することができる(
図3)。B
1、L
1、およびR
1の定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。
【0215】
別の実施形態では、第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩は、生体直行性官能基を有する式(VII)の化合物またはその塩を、炭酸ビス(4-ニトリフェニル)、およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)と反応させ、次いで、B
2-L
2-NH-R
2で表される化合物と反応させることにより製造することができる(
図3)。B
2、L
2、およびR
2の定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。
【0216】
上記反応は、適切な反応系、例えば有機溶媒系または水溶液(例、緩衝液)系において、適温(例、約15~200℃)で行うことができる。反応系は、適切な触媒を含んでいてもよい。反応時間は、例えば1分~20時間、好ましくは10分~15時間、より好ましくは20分~10時間、さらにより好ましくは30分~8時間である。勿論、このような反応は、上述の温和な条件下で行うこともできる。
【0217】
第1生体直行性官能基および第2生体直行性官能基を有する化合物またはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生成物の分子量にもよるが、例えば、NMR、HPLC、または質量分析により行うことができる。このような化合物またはその塩は、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー)等の任意の精製方法により適宜精製することができる。
【0218】
6.一連の化合物またはその塩
(1)化合物またはその塩
本発明はまた、上記式(V)で表される化合物またはその塩を提供する。
【0219】
式(V)において、HG、RA、RB、および環Aは、式(I)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I)において上述したものと同じである。
【0220】
XおよびYは、それぞれ独立して、1価の基を示す。1価の基は、上述したとおりである。
【0221】
好ましくは、式(V)で表される化合物は、式(V’)で表されるものであってもよい。式(V’)で表されるRA、RB、環A、X、およびYは、それぞれ、式(IV)で示されるものと同じである。
【0222】
式(V’)において、LHG、RHG1、およびRHG2は、式(I’)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I’)において上述したものと同じである。
【0223】
式(V)で表される化合物またはその塩は、例えば、本発明の位置選択的なコンジュゲート、抗体誘導体、および本発明の他の化合物の合成中間体として有用である。
【0224】
式(V)で表される化合物またはその塩は、例えば、下記式(V-1):
【化23】
〔式中、
HGは、親水性基、または親水性基を含む1価の基を示し、
R
Aは、バリン残基の側鎖を示し、
R
Bは、シトルリン残基、またはアラニン残基の側鎖を示す。〕で表される化合物またはその塩を、
下記式(V-2):
【化24】
〔式中、
環Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、
XおよびYは、それぞれ独立して、1価の基を示す。〕で表される化合物またはその塩と反応させることにより製造することができる(
図3)。式(V-1)におけるHG、R
A、およびR
B、ならびに式(V-2)における環A、X、およびYの定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。このような反応は、第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩の製造について上述した反応条件と同様の条件下で行うことができる。
【0225】
(2)式(VI)で表される生体直交性官能基を有する化合物またはその塩
本発明はまた、上記式(VI)で表される化合物またはその塩を提供する。
【0226】
式(VI)において、HG、RA、RB、環A、R2、およびL2は、式(I)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素
の定義、例および好ましい例は、式(I)において上述したものと同じである。
【0227】
Xで示される1価の基は、上述したとおりである。
【0228】
B2で示される生体直交性官能基は、上述したとおりである。
【0229】
好ましくは、式(VI)で表される化合物は、式(VI’)で表されるものであってもよい。式(VI’)で表されるRA、RB、環A、X、R2、L2、およびB2は、それぞれ、式(IV)で示されるものと同じである。
【0230】
式(VI’)において、LHG、RHG1、およびRHG2は、式(I’)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I’)において上述したものと同じである。
【0231】
式(VI)で表される化合物またはその塩は、例えば、本発明の位置選択的なコンジュゲート、抗体誘導体、および本発明の所定の化合物の合成中間体として有用である。このような化合物またはその塩はまた、例えば、機能性物質の誘導体化に有用である。
【0232】
式(VI)で表される化合物またはその塩は、例えば、式(V)で表される化合物またはその塩を、炭酸ビス(4-ニトリフェニル)、およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)と反応させ、次いで、B
2-L
2-NH-R
2で表される化合物と反応させることにより製造することができる(
図3)。B
2、L
2、およびR
2の定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。このような反応は、第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩の製造について上述した反応条件と同様の条件下で行うことができる。
【0233】
(3)式(VII)で表される生体直交性官能基を有する化合物またはその塩
本発明はまた、上記式(VII)で表される化合物またはその塩を提供する。
【0234】
式(VII)において、HG、RA、RB、環A、R1、およびL1は、式(I)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I)において上述したものと同じである。
【0235】
Yで示される1価の基は、上述したとおりである。
【0236】
B1で示される生体直交性官能基は、上述したとおりである。
【0237】
好ましくは、式(VII)で表される化合物は、式(VII’)で表されるものであってもよい。式(VII’)で表されるRA、RB、環A、Y、R1、L1、およびB1は、それぞれ、式(IIV)で示されるものと同じである。
【0238】
式(VII’)において、LHG、RHG1、およびRHG2は、式(I’)において上述したとおりである。したがって、これらの要素および当該要素に関連する他の要素の定義、例および好ましい例は、式(I’)において上述したものと同じである。
【0239】
式(VII)で表される化合物またはその塩は、例えば、本発明の位置選択的なコンジュゲート、抗体誘導体、および本発明の所定の化合物の合成中間体として有用である。このような化合物またはその塩はまた、例えば、生体分子(例、抗体等のタンパク質、糖類、核酸、脂質)等の任意の物質の誘導体化に有用である。
【0240】
式(VII)で表される化合物またはその塩は、例えば、式(V)で表される化合物またはその塩を、B
1-L
1-NH-R
1で表される化合物と反応させることにより製造することができる(
図3)。B
1、L
1、およびR
1の定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。このような反応は、第1生体直交性官能基および第2生体直交性官能基を有する化合物またはその塩の製造について上述した反応条件と同様の条件下で行うことができる。
【0241】
式(V)、(VI)、または(VII)で表される化合物またはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生成物の分子量にもよるが、例えば、NMR、HPLC、または質量分析により行うことができる。このような化合物またはその塩は、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー)等の任意の精製方法により適宜精製することができる。
【実施例0242】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0243】
実施例1における以下ペプチド、Ac-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH、Z-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH、Ac-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH、SCA(OtBu)-Glu(OtBu)-Val-Cit-OHは、すべて同様の方法で調製した。なお、SCA(OtBu)はコハク酸モノ-tert-ブチル(mono-tert-butyl succinate)、SCAはコハク酸(succinic acid)の略である。
Fmoc法によるCl-TCP(Cl) ProTide Resin(CEM社)を用いたペプチド固相合成によって、N末端をアセチル基でキャッピングしたもの、N末端をコハク酸でキャッピングしたものを調製し、20%HFIP/ジクロロメタンの溶液にて終夜撹拌することで、アミノ酸側鎖を保護したまま樹脂からの切り出しを行った。樹脂をフィルトレーションにより除去し、溶液を濃縮後、これを分取HPLCにて精製し、生成物であるペプチドを得た。
【0244】
Ac-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH
【0245】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.50(brs,1H),8.22(d,J=7.2Hz,1H),8.05(d,J=8.0Hz,1H),7.69(d,J=8.8Hz,1H),5.95-5.93(m,1H),5.38(brs,2H),4.33-4.27(m,1H),4.22-4.18(m,1H),4.15-4.10(m,1H),2.96-2.95(m,2H),2.25-2.19(m,2H),2.00-1.93(m,1H),1.89-1.80(m,4H),1.73-1.66(m,2H),1.61-1.51(m,1H),1.46-1.34(m,11H),0.86(d,J=6.8Hz,3H),0.83(d,J=6.8Hz,3H).
【0246】
MS(ESI)m/z:502.30[M+H]+
【0247】
Z-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH
【0248】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.50(brs,1H),7.93-7.37(m,8H),6.05-6.00(m,1H),5.44(brs,2H),5.08(s,2H),4.17-3.81(m,3H),3.00-2.90(
m,2H),2.31-2.27(m,2H),2.10-1.34(m,16H),0.89-0.83(m,6H).
【0249】
MS(ESI)m/z:594.30[M+H]+
【0250】
Ac-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH
【0251】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.50(brs,1H),8.21(d,J=7.2Hz,1H),8.08(d,J=8.0Hz,1H),8.04(d,J=8.0Hz,1H),7.68(d,J=8.0Hz,1H),5.95(brs,1H),5.37(brs,2H),4.32-4.19(m,3H),4.16-4.11(m,1H),2.98-2.94(m,2H),2.27-2.13(m,4H),2.00-1.79(m,5H),1.76-1.52(m,5H),1.42-1.36(m,20H),0.86(d,J=6.8Hz,3H),0.82(d,J=6.8Hz,3H).
【0252】
MS(ESI)m/z:687.35[M+H]+
【0253】
SCA(OtBu)-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH
【0254】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.70(brs,1H),8.21(d,J=7.2Hz,1H),8.05(d,J=8.0Hz,1H),7.68(d,J=8.8Hz,1H),5.96(brs,1H),5.25(brs,2H),4.35-4.30(m,1H),4.21-4.18(m,1H),4.15-4.10(m,1H),2.98-2.94(m,2H),2.40-2.28(m,4H),2.24-2.18(m,2H),2.01-1.93(m,1H),1.90-1.81(m,1H),1.73-1.63(m,2H),1.61-1.51(m,1H),1.40-1.31(m,20H),0.86(d,J=6.8Hz,3H),0.83(d,J=6.8Hz,3H).
【0255】
MS(ESI)m/z:616.30[M+H]+
【0256】
Ac-Glu(OtBu)-Val-Ala-OH
【0257】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.50(brs,1H),8.25(d,J=6.8Hz,1H),8.03(d,J=8.0Hz,1H),7.68(d,J=9.2Hz,1H),4.33-4.27(m,1H),4.22-4.16(m,2H),2.23-2.18(m,2H),1.99-1.94(m,1H),1.89-1.80(m,4H),1.73-1.65(m,1H),1.39(s,9H),1.27(d,J=7.2Hz,3H),0.87(d,J=6.8Hz,3H),0.83(d,J=6.8Hz,3H).
【0258】
MS(ESI)m/z:416.20[M+H]+
【0259】
実施例1:Linker-payload mimicの合成
(1-1)Linker-payload mimic(1)の合成
Linker-payload mimic(1)は下記のように合成した。
【化25】
【0260】
【0261】
Ac-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH(19.9mg,39.7μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(400μL)に溶解させ、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3,トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(18.1mg,47.6μmol)、2,4,6-トリメチルピリジン(6.27μL,47.6μmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。続いて、4-アミノマンデル酸メチル(8.63mg,47.6μmol)を加えて室温にて21.5時間撹拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(2)(28.5mg,quant)を得た。
【0262】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ9.95(s,1H),8.07(d,J=7.4 Hz,1H),7.99(d,J=8.0 Hz,1H),7.66(d,J=8.4 Hz,1H),7.50(d,J=8.4 Hz,2H),7.25(d,J=8.4 Hz,2H),5.92(brs,1H),5.36(brs,2H),5.01(s,1H),4.34-4.29(m,1H),4.26-4.20(m,1H),4.14-4.10(m,1H),3.53(s,3H),3.00-2.83(m,2H),2.18-2.13(m,2H),1.94-1.89(m,2H),1.84-1.23(m,17H),0.79(d,J=6.8Hz,3H),0.75(d,J=6.8Hz,3H).
【0263】
MS(ESI)m/z:665.30[M+H]+
【0264】
【0265】
(1-1-1)で得られたアルコール(2)(28.5mg)をN,N-ジメチルホルムアミド(430μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(26.6mg,85.7μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(11.1μL,64.4μmol)を加え、室温にて1.5時間攪拌した。LCMSで反応を追跡したところ原料の残存が見られたため、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(13.3mg,42.9μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(5.54μL,32.2μmol)を追加し、室温にて5時間攪拌した。その後、氷冷し、Sarcosin-Pyrene(64.9mg,215μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(8.7mg,64μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(57.2μL,333μmol)を加え、室温にて16時間攪拌した。反応後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(3)(26.1mg,26.3μmol)を得た。
【0266】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.09-10.07(m,1H),8.63-8.60(m,1H),8.33-7.65(m,13H),7.60-7.57(m,2H),7.37-7.32(m,2H),5.94-5.91(m,1H),5.72-5.70(m,1H),5.37(brs,2H),4.98-4.96(m,1H),4.93-4.00(m,4H),3.85-3.75(m,1H),3.56-3.55(m,3H),2.97-2.87(m,5H),2.17-2.13(m,2H),1.93-1.17(m,19H),0.80-0.73(m,6H).
【0267】
MS(ESI)m/z:993.40[M+H]+
【0268】
【0269】
ピレン(3)(10.8mg,10.9μmol)をテトラヒドロフラン(700μL)、水(400μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、1M水酸化リチウム水溶液(109μL,109μmol)を加え、室温にて1時間攪拌した。反応終了後、0.1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(4)(4.5mg,4.6μmol)を得た。
【0270】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ13.05(brs,1H),10.08-10.05(m,1H),8.62-8.59(m,1H),8.33-7.56(m,15H),7.37-7.35(m,2H),5.92(brs,1H),5.61-5.60(m,1H),5.36(brs,2H),4.98-4.03(m,5H),3.88-3.74(m,1H),2.99-2.83(m,5H),2.15-2.13(m,2H),1.93-1.14(m,19H),0.84-0.73(m,6H).
【0271】
MS(ESI)m/z:979.40[M+H]+
【0272】
【0273】
ピレン(4)(3.7mg,3.8μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(400μL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.9μL,11μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(2.9mg,5.6μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(1.3mg、5.7μmol)を加えて室温に戻し2時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(5)(1.3mg,1.1μmol)を得た。
【0274】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.02-9.99(m,1H),8.85-7.88(m,14H),7.67-7.65(m,1H),7.60-7.51(m,2H),7.33-7.27(m,2H),6.91-6.87(m,2H),5.92-5.91(m,1H),5.63-5.62(m,1H),5.36(brs,2H),5.07-4.92(m,2H),4.35-3.76(m,5H),3.18-3.14(m,1H),2.99-2.83(m,7H),2.17-2.13(m,2H),1.95-1.89(m,1H),1.85-1.72(m,4H),1.66-1.45(m,3H),1.40-1.17(m,15H),1.05-1.01(m,2H),0.83-0.73(m,6H).
【0275】
MS(ESI)m/z:1143.45[M+H]+
【0276】
(1-1-5)Linker-payload mimic(1)の合成
【化30】
【0277】
ピレン(5)(2.2mg,1.9μmol)に1,4-ジオキサン(380μL)、4M塩化水素/ジオキサン溶液(95μL,380μmol)を順次加え、室温で4時間撹拌した。氷冷後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(71.8μL,418μmol)を加え、室温で10分間撹拌した。反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(1)(2.1mg,1.9μmol)を得た。
【0278】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.06(brs,1H),10.03-10.00(m,1H),8.84-7.88(m,14H),7.67-7.64(m,1H),7.56-7.51(m,2H),7.33-7.27(m,2H),6.90-6.87(m,2H),5.92-5.90(m,1H),5.63-5.61(m,1H),5.36(brs,2H),5.08-4.96(m,2H),4.35-3.76(m,5H),3.18-3.14(m,1H),2.97-2.83(m,7H),2.20-2.16(m,2H),1.93-1.88(m,1H),1.81-1.78(m,4H),1.69-1.53(m,3H),1.35-1.17(m,6H),1.08-1.01(m,2H),0.81-0.73(m,6H).
【0279】
MS(ESI)m/z:1087.45[M+H]+
【0280】
(1-2)Linker-payload mimic(6)の合成
Linker-payload mimic(6)は下記のように合成した。
【化31】
【0281】
【0282】
Z-Glu(t-Bu)-Val-Cit-OH(50.0mg,84.3μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(1.5mL)に溶解させ、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3,トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(38.4mg,101μmol)、2,4,6-トリメチルピリジン(13.3μL,101μmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。続いて、4-アミノマンデル酸メチル(18.3mg,101μmol)を加えて室温にて16時間撹拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(7)(49.1mg,64.9μmol)を得た。
【0283】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.04-9.95(m,1H),8.40-7.28(m,12H),6.00-5.97(m,1H),5.43(brs,2H),5.08-4.97(m,3H),4.43-4.37(m,1H),4.24-4.20(m,1H),4.16-4.05(m,1H),3.60-3.59(m,3H),3.04-2.91(m,2H),2.26-2.20(m,2H),2.03-1.22(m,16H),0.88-0.78(m,6H).
【0284】
MS(ESI)m/z:757.30[M+H]+
【0285】
【0286】
アルコール(7)(44.6 mg,58.9μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(650μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(53.8mg,177μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(22.5μL,133μmol)を加え、室温にて4時間攪拌した。その後、氷冷し、Sarcosin-Pyrene(89.1mg,295μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(11.9mg,88.4μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(77.7μL,457μmol)を加え、室温にて18時間攪拌した。反応後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(8)(49.2mg,45.3μmol)を得た。
【0287】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ10.11-9.97(m,1H),8.64-8.60(m,1H),8.36-7.95(m,11H),7.82-7.74(m,1H),7.65-7.57(m,2H),7.49-7.19(m,8H),5.91-5.90(m,1H),5.72-5.70(m,1H),5.36(brs,2H),4.98-4.86(m,4H),4.41-4.00(m,3H),3.85―3.75(m,1H),3.56-3.54(m,3H),3.00-2.82(m,5H),2.19-2.12(m,2H),1.92-1.17(m,16H),0.80-0.73(m,6H).
【0288】
MS(ESI)m/z:1085.45[M+H]+
【0289】
【0290】
ピレン(8)(44.8mg,41.3μmol)をテトラヒドロフラン(3.75mL)、水(1.25mL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、水酸化リチウム一水和物(8.7mg,210μmol)を加え、室温にて4時間攪拌した。反応終了後、0.1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(9)(18.4mg,17.2μmol)を得た。
【0291】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ13.02(brs,1H),10.09-9.97(m,1H),8.62-8.59(m,1H),8.32-7.78(m,12H),7.63-7.44(m,3H),7.37-7.35(m,2H),7.29-7.20(m,5H),5.91(brs,1H),5.61-5.60(m,1H),5.36(brs,2H),4.98-4.86(m,4H),4.45-4.30(m,1H),4.24-4.15(m,1H),4.07-4.02(m,1H),3.84-3.74(m,1H),2.97-2.82(m,5H),2.19-2.12(m,2H),1.93-1.11(m,16H),0.80-0.72(m,6H).
【0292】
MS(ESI)m/z:1071.45[M+H]+
【0293】
【0294】
ピレン(9)(15.6mg,14.6μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(1.0mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(5.0μL,29μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(11.4mg,21.9μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(4.8mg、22μmol)を加えて室温に戻し3時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(10)(15.4mg,12.5μmol)を得た。
【0295】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.11-10.01(m,1H),8.91-8.63(m,1H),8.40-7.96(m,12H),7.72-7.27(m,11H),6.97-6.94(m,2H),5.99(brs,1H),5.71-5.69(m,1H),5.43(brs,2H),5.14-4.96(m,4H),4.49-4.40(m,1H),4.30-4.23(m,1H),4.16-3.83(m,3H),3.25-3.22(m,1H),3.02-2.90(m,7H),2.26-2.22(m,2H),2.01-1.98(m,1H),1.92-1.84(m,1H),1.77-1.66(m,2H),1.65-1.04(m,16H),1.12-1.04(m,2H),0.88-0.80(m,6H).
【0296】
MS(ESI)m/z:1235.50[M+H]+
【0297】
(1-2-5)Linker-payload mimic(6)の合成
【化36】
【0298】
ピレン(10)(12.1mg,9.79μmol)に1,4-ジオキサン(2.0mL)、4M塩化水素/ジオキサン溶液(490μL,1.96mmol)を順次加え、室温で4時間撹拌した。氷冷後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(366μL,2.15mmol)を加え、室温で10分間撹拌した。反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(6)(6.0mg,5.1μmol)を得た。
【0299】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.05(brs,1H),10.04-9.94(m,1H),8.84-8.57(m,1H),8.32-7.89(m,12H),7.72-7.20(m,11H),6.90-6.86(m,2H),5.90(brs,1H),5.64-5.62(m,1H),5.36(brs,2H),5.07-4.88(m,4H),4.42-4.29(m,1H),4.21-4.15(m,1H),4.08-3.76(m,3H),3.18-3.14(m,1H),2.95-2.82(m,7H),2.21-2.16(m,2H),1.92-0.97(m,13H),0.82-0.74(m,6H).
【0300】
MS(ESI)m/z:1179.50[M+H]+
【0301】
(1-3)Linker-payload mimic(11)の合成
Linker-payload mimic(11)は下記のように合成した。
【化37】
【0302】
(1-3-1)アルコール(12)の合成
【化38】
【0303】
Ac-Glu(t-Bu)-Glu(t-Bu)-Val-Cit-OH(50.0mg,72.8μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(800μL)に溶解させ、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3,トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(33.2mg,87.4μmol)、2,4,6-トリメチルピリジン(11.5μL,87.4μmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。続いて、4-アミノマンデル酸メチル(15.8mg,87.4μmol)を加えて室温にて16時間撹拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(12)(54.0mg,63.5μmol)を得た。
【0304】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.00(s,1H),8.26-7.88(m,3H),7.68-7.60(m,1H),7.57(d,J=8.4
Hz,2H),7.32(d,J=8.4 Hz,2H),6.00-5.97(m,1H),5.43(brs,2H),5.08(s,1H),4.40-4.37(m,1H),4.32-4.19(m,3H),3.60(s,3H),3.09-2.90(m,2H),2.25-2.18(m,4H),2.03-1.53(m,10H),1.46-1.36(m,20H),0.86(d,J=6.8Hz,3H),0.82(d,J=6.8Hz,3H).
【0305】
MS(ESI)m/z:850.40[M+H]+
【0306】
【0307】
アルコール(12)(50.3mg,59.2μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(650μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(54.0mg,178μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(22.7μL,133μmol)を加え、室温にて5時間攪拌した。その後、氷冷し、Sarcosin-Pyrene(89.5mg,296μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(12.0mg,88.8μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(78.1μL,459μmol)を加え、室温にて18時間攪拌した。反応後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(13)(34.0mg,28.9μmol)を得た。
【0308】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.14-10.12(m,1H),8.69-8.67(m,1H),8.40-7.82(m,13H),7.76-7.72(m,1H),7.68-7.65(m,2H),7.44-7.39(m,2H),5.99(brs,1H),5.79(d,J=6.4Hz,1H),5.44(brs,2H),5.05-4.97(m,2H),4.44-4.08(m,4H),3.93-3.80(m,1H),3.63-3.62(m,3H),3.05-2.92(m,5H),2.25-2.14(m,4H),2.00-1.28(m,30H),0.87-0.80(m,6H).
【0309】
MS(ESI)m/z:1178.50[M+H]+
【0310】
【0311】
ピレン(13)(30.7mg,26.1μmol)をテトラヒドロフラン(2.25mL)、水(0.75mL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、水酸化リチウム一水和物(5.5mg,0.13mmol)を加え、室温にて4時間攪拌した。反応終了後、0.1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(14)(17.2mg,14.8μmol)を得た。
【0312】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ13.06(brs,1H),10.13-10.10(m,1H),8.69-8.66(m,1H),8.40-7.85(m,13H),7.77-7.73(m,1H),7.67-7.64(m,2H),7.44-7.42(m,2H),5.99(brs,1H),5.68-5.67(m,1H),5.44(brs,2H),5.05-4.96(m,2H),4.46-4.10(m,4H),3.92-3.81(m,1H),3.05-2.90(m,5H),2.25-2.14(m,4H),2.03-1.29(m,30H),0.88-0.80(m,6H).
【0313】
MS(ESI)m/z:1164.55[M+H]+
【0314】
【0315】
ピレン(14)(14.7mg,12.6μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(1.0mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(4.29μL,25.2μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(9.8mg,19μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(4.1mg、19μmol)を加えて室温に戻し3.5時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(15)(7.0mg,9.2μmol)を得た。
【0316】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.08-10.05(m,1H),8.92-7.95(m,15H),7.75-7.73(m,1H),7.63-7.59(m,2H),7.40-7.34(m,2H),6.97-6.94(m,2H),6.00-5.98(m,1H),5.70-5.69(m,1H),5.43(brs,2H),5.14-5.01(m,2H),4.45-4.38(m,1H),4.32-3.83(m,5H),3.25-3.20(m,1H),3.10-2.90(m,7H),2.25-2.18(m,4H),2.08-1.24(m,34H),1.12-1.04(m,2H),0.88-0.81(m,6H).
【0317】
MS(ESI)m/z:1328.60[M+H]+
【0318】
(1-3-5)Linker-payload mimic(11)の合成
【化42】
【0319】
ピレン(15)(6.1mg,4.6μmol)に1,4-ジオキサン(920μL)、4M塩化水素/ジオキサン溶液(230μL,918μmol)を順次加え、室温で4時間撹拌した。氷冷後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(172μL,1.10mmol)を加え、室温で10分間撹拌した。反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(11)(3.7mg,3.0μmol)を得た。
【0320】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.04(brs,2H),10.01-9.98(m,1H),8.83-7.89(m,15H),7.71-7.69(m,1H),7.56-7.51(m,2H),7.33-7.26(m,2H),6.90-6.87(m,2H),5.91-5.90(m,1H),5.64-5.62(m,1H),5.36(brs,2H),5.08-4.92(m,2H),4.35-4.32(m,1H),4.25-3.76(m,5H),3.18-3.14(m,1H),2.99-2.82(m,7H),2.21-2.15(m,4H),1.93-1.17(m,16H),1.05-1.01(m,2H),0.82-0.74(m,6H).
【0321】
MS(ESI)m/z:1216.45[M+H]+
【0322】
(1-4)Linker-payload mimic(16)の合成
Linker-payload mimic(16)は下記のように合成した。
【化43】
【0323】
(1-4-1)アルコール(17)の合成
【化44】
【0324】
SCA(t-Bu)-Glu(t-Bu)-Val-Cit-OH(50.0mg,81.2μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(890μL)に溶解させ、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3,トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(37.0mg,97.4μmol)、2,4,6-トリメチルピリジン(12.8μL,97.4μmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。続いて、4-アミノマンデル酸メチル(17.6mg,97.4μmol)を加えて室温にて16時間撹拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(17)(60.4mg,77.5μmol)を得た。
【0325】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.01(s,1H),8.13(d,J=7.2 Hz,1H),8.07(d,J=8.4 Hz,1H),7.73(d,J=8.8 Hz,1H),7.57(d,J=8.4 Hz,2H),7.32(d,J=8.4 Hz,2H),5.99(brs,1H),5.43(brs,2H),5.08(s,1H),4.41-4.30(m,2H),4.21-4.17(m,1H),3.60(s,3H),3.04-2.95(m,2H),2.44-2.15(m,6H),2.03-1.95(m,1H),1.92-1.83(m,1H),1.74-1.58(m,3H),1.46-1.34(m,20H),0.86(d,J=6.8Hz,3H),0.83(d,J=6.8Hz,3H).
【0326】
MS(ESI)m/z:779.40[M+H]+
【0327】
【0328】
アルコール(17)(58.0 mg,74.5μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(820μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(68.0mg,223μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(28.5μL,168μmol)を加え、室温にて6時間攪拌した。その後、氷冷し、Sarcosin-Pyrene(113mg,373μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(15.1mg,112μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(98.3μL,578μmol)を加え、室温にて17時間攪拌した。反応後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(18)(37.1mg,33.5μmol)を得た。
【0329】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.15-10.13(m,1H),8.70-8.67(m,1H),8.40-8.03(m,11H),7.90-7.86(m,1H),7.75-7.72(m,1H),7.68-7.64(m,2H),7.44-7.39(m,2H),5.99(brs,1H),5.79(d,J=6.8Hz,1H),5.44(brs,2H),5.05-4.98(m,2H),4.40-4.08(m,3H),3.93-3.80(m,1H),3.63-3.62(m,3H),3.05-2.90(m,5H),2.44-2.15(m,6H),2.02-1.98(m,1H),1.91-1.85(m,1H),1.75-1.55(m,3H),1.50-1.30(m,20H),0.88-0.80(m,6H).
【0330】
MS(ESI)m/z:1107.55[M+H]+
【0331】
【0332】
ピレン(18)(17.4mg,15.7μmol)をテトラヒドロフラン(675μL)、水(225μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、1M水酸化リチウム水溶液(86.4μL,86.4μmol)を加え、氷冷下で5時間攪拌した。反応終了後、0.1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(19)(17.2mg,15.7μmol)を得た。
【0333】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ13.06(brs,1H),10.14-10.11(m,1H),8.68-8.66(m,1H),8.40-8.01(m,11H),7.89-7.85(m,1H),7.75-7.72(m,1H),7.67-7.64(m,2H),7.44-7.41(m,2H),5.99(brs,1H),5.68-5.67(m,1H),5.44(brs,2H),5.05-4.93(m,2H),4.44-4.10(m,3H),3.92-3.81(m,1H),3.05-2.94(m,5H),2.43-2.15(m,6H),2.02-1.97(m,1H),1.88-1.85(m,1H),1.77-1.66(m,3H),1.61-1.30(m,20H),0.88-0.80(m,6H).
【0334】
MS(ESI)m/z:1093.50[M+H]+
【0335】
【0336】
ピレン(19)(16.3mg,14.9μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(1.0mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(5.1μL,30μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(11.7mg,22.4μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(4.9mg、22μmol)を加えて室温に戻し3時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(20)(12.1mg,9.62μmol)を得た。
【0337】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.01-9.98(m,1H),8.85-7.88(m,14H),7.68-7.65(m,1H),7.56-7.51(m,2H),7.33-7.27(m,2H),6.90-6.87(m,2H),5.92-5.90(m,1H),5.63-5.62(m,1H),5.36(brs,2H),5.08-4.92(m,2H),4.36-3.76(m,5H),3.18-3.14(m,1H),3.00-2.83(m,7H),2.36-2.08(m,6H),1.95-1.89(m,1H),1.84-1.78(m,1H),1.68-1.50(m,3H),1.42-1.17(m,24H),1.07-0.97(m,2H),0.81-0.74(m,6H).
【0338】
MS(ESI)m/z:1257.55[M+H]+
【0339】
(1-4-5)Linker-payload mimic(16)の合成
【化48】
【0340】
ピレン(20)(10.5mg,8.35μmol)に酢酸エチル(1.7mL)、4M塩化水素/酢酸エチル(2.09mL,8.36mmol)を順次加え、室温で4.5時間撹拌した。氷冷後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(781μL,4.59mmol)を加え、室温で10分間撹拌した。反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(16)(7.5mg,6.6μmol)を得た。
【0341】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ12.02(brs,2H),10.04-9.98(m,1H),8.85-7.89(m,14H),7.65-7.62(m,1H),7.56-7.52(m,2H),7.33-7.27(m,2H),6.90-6.87(m,2H),5.92(brs,1H),5.63-5.62(m,1H),5.37(brs,2H),5.08-4.93(m,2H),4.36-3.76(m,5H),3.18-3.14(m,1H),3.02-2.80(m,7H),2.38-2.16(m,6H),1.96-1.77(m,2H),1.70-1.17(m,9H),1.06-0.98(m,2H),0.81-0.74(m,6H).
【0342】
MS(ESI)m/z:1145.45[M+H]+
【0343】
(1-5)Linker-payload mimic(21)の合成
Linker-payload mimic(21)は下記のように合成した。
【化49】
【0344】
(1-5-1)アルコール(22)の合成
【化50】
【0345】
Ac-Glu(OtBu)-Val-Ala-OH(20.9mg,50.3μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(700μL)に溶解させ、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3,トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(29.0mg,76.3μmol)、2,4,6-トリメチルピリジン(10.1μL,76.7μmol)を加え、室温にて12分間撹拌した。続いて、4-アミノマンデル酸メチル(11.0mg,60.7μmol)を加えて室温にて18時間撹拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(22)(20.3mg,35.1μmol)を得た。
【0346】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ9.98-9.89(m,1H),8.32-8.18(m,1H),8.07-7.85(m,1H),7.73-7.59(m,1H),7.55(d,J=8.4 Hz,2H),7.32(d,J=8.4
Hz,2H),5.08(s,1H),4.45-4.34(m,1H),4.32-4.27(m,1H),4.20-4.09(m,1H),3.59(s,3H),2.24-2.20(m,2H),2.01-1.96(m,1H),1.90-1.80(m,4H),1.72-1.67(m,1H),1.39-1.36(m,9H),1.30(d,J=7.2Hz,3H),0.86(d,J=6.8Hz,3H),0.82(d,J=6.8Hz,3H).
【0347】
MS(ESI)m/z:579.30[M+H]+
【0348】
【0349】
アルコール(22)(17.5 mg,30.2μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(174μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(18.9mg,60.8μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(7.80μL,45.4μmol)を加え、室温にて30分間攪拌した。LCMSを確認したところ原料が残っていたため、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(9.5mg,31μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.90μL,22.7μmol)を加え、室温にて1時間攪拌した。その後、氷冷し、Sarcosin-Pyrene(36.2mg,120μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(6.3mg,47μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(40.3μL,235μmol)を加え、室温にて1時間攪拌した。反応後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(23)(12.9 mg,14.2μmol)を得た。
【0350】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ10.05-10.02(m,1H),8.61-8.60(m,1H),8.30-7.78(m,12H),7.67-7.64(m,1H),7.57(d,J=8.8Hz,2H),7.37-7.33(m,2H),5.72-5.70(m,1H),4.98-4.89(m,2H),4.34-4.00(m,3H),3.85-3.75(m,1H),3.56-3.55(m,3H),2.93-2.87(m,3H),2.17-2.13(m,2H),1.94-1.91(m,1H),1.85-1.75(m,4H),1.65-1.61(m,1H),1.31-1.23(m,12H),0.80-0.73(m,6H).
【0351】
MS(ESI)m/z:907.35[M+H]+
【0352】
【0353】
ピレン(23)(11.8mg,13.0μmol)をテトラヒドロフラン(800μL)、水(400μL)に溶解したのち氷冷し、1M水酸化リチウム水溶液(65μL,65μmol)を加え、30分間攪拌した。反応終了後、0.1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(24)(8.9mg,10.0μmol)を得た。
【0354】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ13.05(brs,1H),10.04-9.91(m,1H),8.63-8.60(m,1H),8.33-7.77(m,12H),7.69-7.55(m,3H),7.37-7.35(m,2H),5.61-5.60(m,1H),4.98-4.86(m,2H),4.26-4.03(m,3H),3.84-3.74(m,1H),2.93-2.87(m,3H),2.18-2.13(m,2H),1.95-1.92(m,1H),1.85-1.77(m,4H),1.67-1.62(m,1H),1.31-1.24(m,12H),0.81-0.75(m,6H).
【0355】
MS(ESI)m/z:893.35[M+H]+
【0356】
【0357】
ピレン(24)(6.7mg,7.5μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(400μL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.9μL,22μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(5.9mg,11μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(2.4mg、11μmol)を加えて室温に戻し1時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(25)(4.1mg,3.9μmol)を得た。
【0358】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ9.98-9.95(m,1H),8.83-7.77(m,14H),7.67-7.65(m,1H),7.56-7.50(m,2H),7.34-7.27(m,2H),6.89-6.86(m,2H),5.63-5.61(m,1H),5.06-4.93(m,2H),4.37-3.76(m,5H),3.17-3.14(m,1H),2.95-2.83(m,5H),2.17-2.10(m,2H),1.95-1.89(m,1H),1.85-1.75(m,4H),1.65-1.62(m,1H),1.31-1.17(m,16H),1.02-1.00(m,2H),0.81-0.74(m,6H).
【0359】
MS(ESI)m/z:1057.45[M+H]+
【0360】
(1-5-5)Linker-payload mimic(21)の合成
【化54】
【0361】
ピレン(25)(2.4mg,2.3μmol)に1,4-ジオキサン(454μL)、4M塩化水素/ジオキサン溶液(568μL,2.27mmol)を順次加え、室温で4時間撹拌した。N,N-ジメチルホルムアミド(300μL)を加えたのち、氷冷下、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(214μL,1.25mmol)を加え、室温で10分間撹拌した。反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(21)(1.1mg,1.1μmol)を得た。
【0362】
1H NMR(400 MHz,DMSO-d6)δ11.99(brs,1H),9.98-9.96(m,1H),8.84-7.88(m,14H),7.66-7.63(m,1H),7.54-7.50(m,2H),7.34-7.27(m,2H),6.90-6.87(m,2H),5.63-5.61(m,1H),5.07-4.93(m,2H),4.36-3.76(m,5H),3.17-3.14(m,1H),2.95-2.83(m,5H),2.20-2.16(m,2H),1.95-1.90(m,1H),1.88-1.76(m,4H),1.67-1.62(m,1H),1.32-1.17(m,7H),1.02-1.01(m,2H),0.81-0.74(m,6H).
【0363】
MS(ESI)m/z:999.35[M-H]―
【0364】
比較例1:Linker-payloadの合成
(1-1)Linker-Payload(26)の合成
Linker-Payload(26)は下記のように合成した。
【化55】
【0365】
Linker-Payload(26)は下記のスキームに従い合成した。
【化56】
【0366】
Linker-Payload(26)のMS分析結果は下記の通りであった。
【0367】
MS(ESI)m/z:1050.55[M+H]+
【0368】
実施例2:ADC mimicの合成
(2-1)ADC mimicの合成
以降の比較例および実施例では、チオール基導入抗体として、国際公開第2019/240287号(WO2019/240287A1)の実施例81-7に記載される抗体誘導体(チオール基導入トラスツズマブ)を用いた。この抗体誘導体は、抗体重鎖の246位または248位のリジン残基の側鎖のアミノ基を介して、トラスツズマブ(ヒト化IgG1抗体)にチオール基が位置選択的に導入されている下記構造を有する(リジン残基の位置はEU numberingに従う)。
【化57】
(上記構造において、抗体重鎖から伸びているNH-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-は、リジン残基の側鎖に対応し、このリジン残基の側鎖中のアミノ基に対してチオール含有基であるHS-CH
2-CH
2-C(=O)が付加されている。本抗体は、ペプチドマッピング法で他のリジン残基での修飾が検出されなかったことから、抗体重鎖の246位または248位での位置選択性が100%であると解される。)
【0369】
チオール基導入抗体のbuffer(pH7.4PBSバッファー)溶液(20μM)に実施例1で合成したLinker-payload mimicのDMF溶液(10mM)を10当量加え、室温にて2時間静置後、NAP-5 Columns(GEヘルスケア社製)を用いて精製してADC mimicを得た。
【0370】
実施例1-1で合成したLinker-payload mimic(1)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 1を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(1)が2個導入された150350にピークが確認された。
【化58】
【0371】
同様に実施例1-2のLinker-payload mimic(6)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 2を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(6)が2個導入された150535にピークが確認された。
【化59】
【0372】
同様に実施例1-3のLinker-payload mimic(11)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 3を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(11)が2個導入された150609にピークが確認された。
【化60】
【0373】
同様に実施例1-4のLinker-payload mimic(16)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 4を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(16)が2個導入された150466にピークが確認された。
【化61】
【0374】
同様に比較例1のLinker-payload mimic(26)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 5を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(26)が2個導入された150276にピークが確認された。
【化62】
【0375】
(2-2)ADC mimicのDAR解析
実施例2-1で合成したADC mimicのESI-TOFMS分析は既報(WO2019/240287A1)に従って行い、DARは2であることを確認した。
【0376】
【0377】
実施例3:疎水性カラムクロマトグラフィー(HIC-HPLC)による、ADCおよびADC mimicの疎水性度の評価
既報(Anal.Chem.,2019,91,20,12724-12732)に従い、HIC-HPLC分析を行った。測定は下記の条件を用いて行った。HICクロマトグラムにおける、ADCのリテンションタイムによってADCの疎水性度を評価することができる。
【0378】
測定システム:Chromaster(登録商標)(日立社製)
カラム:東ソーバイオサイエンス社製Tosoh Biobuthyl NPR 2.5μm 4.6×35mmカラム
グラジエント:溶離液A/Bの線形グラジエント
流速:0.8mL/分
溶離液A:1.1M (NH4)2SO4,25mM Na2HPO4/NaH2PO4(pH6.0)
溶離液B:25mM Na2HPO4/NaH2PO4(pH6.0、25v/v% イソプロパノール添加)
検出器:UV(280nm)
【0379】
【0380】
その結果、実施例1-1,1-2,1-3,1-4で合成したADC mimicはリテンションタイムが早い傾向であることが確認され、親水性度が高いことがわかる。よって、実施例1-1,1-2,1-3,1-4で合成したADC mimicは、血漿クリアランスが遅く、体内に留まる時間が長いと考えられることから、好ましいADCであることが確認された。
【0381】
実施例4:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)による、ADCおよびADC mimicの凝集率の評価
既報(ChemistrySelect,2020,5,8435-8439)に従い、SEC-HPLC分析を行った。測定は下記の条件を用いて行った。
【0382】
測定システム:1260 HPLC system(Agilent社製)
カラム:Agilent社製AdvanceBio SEC 300Å 2.7μm,4.6mm×150mm
流速:0.25mL/分
溶離液:100mMリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素ナトリウム,250mM塩化ナトリウムの水溶液(pH6.8),10%v/vイソプロパノール
検出器:UV(280nm)
【0383】
【0384】
実施例5:酵素カテプシンBを用いた、ADC mimicの評価
各種ADC mimicのカテプシンBによる切断能は下記のように、ADC mimicから脱落した蛍光分子の量を解析することで評価した。
【0385】
(5-1)カテプシンB切断性試験
既報(Nature Communications 2018,9,2512)に従って下記の通り実施した。MES buffer(10mM MES,40μM DTT,pH5.0)180μLに対し、1mg/mLの濃度になるようにADC mimicを加えたのち、6本のエッペンチューブに30μLずつ分注した。6本のサンプルのうち3本は、0℃にて即座にアセトニトリルを100μLずつ加えてボルテックスで攪拌したのち遠心分離を行うことで、沈殿物を得た。生じた上澄み溶液を回収し、HPLC分析を行った。残りの3本は37℃で6時間インキュベーションした。各サンプルにアセトニトリルを100μLずつ加えてボルテックスで攪拌したのち遠心分離を行うことで、沈殿物を得た。生じた上澄み溶液を回収し、HPLC分析を行った。
【0386】
(5-2)HPLC分析を用いた、脱落した蛍光分子の量の解析
測定は、液体クロマトグラフィー/蛍光検出法を用いて、ADC mimicから脱落した蛍光分子量を測定した。実施例7-1で0℃にて即座にアセトニトリルを加えた3本のサンプルを0時間のものとし、実施例7-1に記載されるように37℃で6時間インキュベーションした3本のサンプルを6時間のものとし、6時間サンプルと0時間サンプルの蛍光強度の差分を解析した。
【0387】
別途Pyreneを用いて、HPLCによる蛍光強度のエリア面積と、濃度の相関を算出した。その算出式を用いて上記各ADC mimicの蛍光強度の差分を濃度に変換した。0時間の濃度を100%としたときの、前述の蛍光強度の差分の割合を脱落率として算出した。
【0388】
【0389】
表4に示した通り、合成したADC mimicは十分なカテプシンB切断を有していることが分かった。
【0390】
実施例6:マウス血漿を用いた、ADC mimicの評価
(6-1)ADC mimicの血漿中安定性試験
マウス血漿(Charles River社製)500μLに対し、0.1mg/mLの濃度になるようにADC mimicを加えたのち滅菌ろ過を行った。この溶液を6本のエッペンチューブに50μLずつ分注した。6本のサンプルのうち3本は、37℃に設定したインキュベーターで4日間保管した。残りの3本は-80℃の冷凍庫の中で同様に4日間保管した。各サンプルにアセトニトリルを100μLずつ加えてボルテックスで攪拌したのち遠心分離を行うことで、沈殿物を得た。生じた上澄み溶液を回収し、HPLC分析を行った。
【0391】
(6-2)HPLC分析を用いた、脱落した蛍光分子の量の解析
測定は、液体クロマトグラフィー/蛍光検出法を用いて、ADC mimicから脱落した蛍光分子量を測定した。実施例9-1で冷凍庫保管した3本のサンプルをDay=0のものとし、実施例9-1で37℃保管した3本のサンプルをDay=4のものとし、Day=4とDay=0の蛍光強度の差分を解析した。
【0392】
蛍光分子の脱落率の算出は、実施例5-2に従って実施した。
結果は下記の表の通り蛍光分子の脱落率を評価した。
【0393】
【0394】
その結果、比較例1で合成したADC mimicに対し、実施例1-1,1-2で合成したADC mimicは3倍以上の安定性を示し、実施例1-3,1-4で合成したADC mimicは10倍以上もの安定性を示した。
【0395】
実施例7:Linker-payloadの合成
(7-1)Linker-payload(35)の合成
Linker-payload(35)は下記のように合成した。
【化63】
【0396】
(7-1-1)カーボネート(36)の合成
【化64】
【0397】
(1-1-1)で得られたアルコール(2)(105mg,0.158mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(100mg,0.329mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(83μL,0.48mmol)を加え、窒素雰囲気下、室温にて19.5時間攪拌した。エバポレーターでN,N-ジメチルホルムアミドを除去した後、得られた
粗生成物に酢酸エチル(3mL)を加えて溶解させたのち、ジエチルエーテル(3mL)を加えた。得られた溶液をフィルトレーションにより残渣を除去したのち、真空ポンプによって有機溶媒を除去し、カーボネート(36)(102mg,0.123mmol)を得た。
【0398】
MS(ESI) m/z:830.1[M+H]+,852.1[M+Na]+
【0399】
【0400】
(7-1-1)で得られた化合物(36)(69mg,0.083mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(3.5mL)に溶解させ、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(16mg,0.10mmol)、市販のmonomethylauristatin E(MMAE,61mg,0.085mmol)を室温にて加えた。続いて、ジイソプロピルエチルアミン(29μL,0.17mmol)を加えたのち、室温、窒素雰囲気下22.5時間攪拌した。エバポレーターにて有機溶媒を除去したのち、アセトニトリル:水=1:1の溶液を加え、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥を行うことにより、化合物37(79mg,0.056mmol)を得た。
【0401】
MS(ESI) m/z:1408.9[M+H]+
【0402】
【0403】
(7-1-2)で得られた化合物(37)(97mg,0.069mmol)をテトラヒドロフラン(7mL)、水(2mL)に溶解させ、水酸化リチウム(1.0M、1.4mL,1.4mmol)を氷冷下加え、そのまま1時間攪拌した。反応溶液に塩酸を加え、pH6に調製した後、アセトニトリル:水=1:1を加え、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥を行うことにより、化合物38(70mg,0.050mmol)を得た。
【0404】
MS(ESI) m/z:1394.7[M+H]+
【0405】
【0406】
(7-1-3)で得られた化合物(38)(34mg,0.024mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(3mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(25μL,0.14mmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(20mg,0.038mmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(8.7mg,0.040mmol)を加えて室温に戻し20時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、化合物(39)(29mg,0.019mmol)を得た。
【0407】
MS(ESI) m/z:1558.9[M+H]+
【0408】
(7-1-5)Linker-payload(35)の合成
【化68】
【0409】
(7-1-4)で得られた化合物(39)(29mg,0.019mmol)にアセトニトリル(500μL)、85wt%リン酸水溶液(0.50mL,7.3mmol)を順次加え、室温で3時間撹拌した。反応完結後、水(2mL)を加え、反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload (35)(18mg,0.012mmol)を得た。
【0410】
MS(ESI) m/z:1502.9[M+H]+
【0411】
(7-2)Linker-payload(40)の合成
Linker-payload(40)は下記のように合成した。
【化69】
【0412】
【0413】
(7-1-3)で得られた化合物(38)(10mg,0.0072mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(1mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(10μL,0.057mmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(7.0mg,0.013mmol)を加えた。次にDBCO-ヘキシルアミン(4.7mg,0.015mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(0.5mL)溶液を加えて室温に戻し20時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、化合物(41)(5.8mg,0.0034mmol)を得た。
【0414】
MS(ESI) m/z:1696.0[M+H]+
【0415】
(7-2-2)Linker-payload(40)の合成
【化71】
【0416】
(7-2-1)で得られた化合物(41)(13mg,0.0077mmol)にアセトニトリル(500μL)、85wt%リン酸水溶液(0.50mL,7.3mmol)を順次加え、室温で4時間撹拌した。反応完結後、水(2mL)を加え、反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload(40)(7.4mg,0.0045mmol)を得た。
【0417】
MS(ESI) m/z:1638.9[M+H]+
【0418】
(7-3)Linker-payload(42)の合成
Linker-payload(42)は下記のように合成した。
【化72】
【0419】
(7-3-1)カーボネート(43)の合成
【化73】
【0420】
(1-1-1)で得られたアルコール(2)(140mg,0.165mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(4mL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(108mg,0.355mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(100μL,0.574mmol)を加え、窒素雰囲気下、室温にて18時間攪拌した。エバポレーターにて有機溶媒を除去したのち、アセトニトリル:水=1:1の溶液を加え、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥を行うことにより、化合物43(130mg,0.128mmol)を得た。
【0421】
MS(ESI) m/z:1015.6[M+H]+
【0422】
【0423】
(7-3-1)で得られた化合物(43)(85mg,0.084mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解させ、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(20mg,0.13mmol)、市販のmonomethylauristatin E(
MMAE,63mg,0.088mmol)を室温にて加えた。続いて、ジイソプロピルエチルアミン(75μL,0.43mmol)を加えたのち、室温、窒素雰囲気下23時間攪拌した。エバポレーターにて有機溶媒を除去したのち、アセトニトリル:水=1:1の溶液を加え、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥を行うことにより、化合物44(94mg,0.059mmol)を得た。
【0424】
MS(ESI) m/z:1593.6[M+H]+
【0425】
【0426】
(7-3-2)で得られた化合物(44)(94mg,0.059mmol)をテトラヒドロフラン(5mL)、水(2mL)に溶解させ、水酸化リチウム(1.0M、0.6mL,0.6mmol)を氷冷下加え、そのまま1時間攪拌した。反応溶液に塩酸を加え、pH5に調製した後、アセトニトリル:水=1:1を加え、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥を行うことにより、化合物45(77mg,0.049mmol)を得た。
【0427】
MS(ESI) m/z:1579.7[M+H]+
【0428】
【0429】
(7-3-3)で得られた化合物(45)(77mg,0.049mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(3mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(50μL,0.29mmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(87mg,0.17mmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(35mg,0.16mmol)を加えて室温に戻し20時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、化合物(46)(65mg,0.037 mmol)を得た。
【0430】
MS(ESI) m/z:1744.7[M+H]+
【0431】
(7-3-5)Linker-payload(42)の合成
【化77】
【0432】
(7-3-4)で得られた化合物(46)(65mg,0.037mmol)にアセトニトリル(2mL)、85wt%リン酸水溶液(1.00mL,14.6mmol)を順次加え、室温で6時間撹拌した。反応完結後、水(2mL)を加え、反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload(42)(49mg,0.030mmol)を得た。
【0433】
MS(ESI) m/z:1631.6[M+H]+
【0434】
(7-4)Linker-payload(47)の合成
Linker-payload(47)は下記のように合成した。
【化78】
【0435】
【0436】
(7-3-1)で得られた化合物(43)(67mg,0.066mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解させ、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(17mg,0.11mmol)、市販のExatecan mesylate(CAS:169869-90-3、35mg,0.066mmol)を室温にて加えた。続いて、ジイソプロピルエチルアミン(50μL,0.29mmol)を加えたのち、室温、窒素雰囲気下4時間攪拌した。エバポレーターにて有機溶媒を除去したのち、アセトニトリル:水=1:1の溶液を加え、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥を行うことにより、化合物48(57mg,0.043mmol)を得た。
【0437】
MS(ESI) m/z:1311.7[M+H]+
【0438】
【0439】
(7-4-1)で得られた化合物(48)(57mg,0.043mmol)をテトラヒドロフラン(3mL)、水(1.5mL)に溶解させ、水酸化リチウム(1.0M、0.5mL,0.5mmol)を氷冷下加え、そのまま1時間攪拌した。反応溶液に塩酸を加え、pH5に調製した後、アセトニトリル:水=1:1を加え、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥を行うことにより、化合物49(45mg,0.035mmol)を得た。
【0440】
MS(ESI) m/z:1297.6[M+H]+
【0441】
【0442】
(7-4-2)で得られた化合物(49)(45mg,0.035mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(3mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(30μL,0.17mmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(55mg,0.11mmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(22mg,0.10mmol)を加えて室温に戻し18時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、化合物(50)(22mg,0.015mmol)を得た。
【0443】
MS(ESI) m/z:1462.7[M+H]+
【0444】
(7-3-5)Linker-payload(47)の合成
【化82】
【0445】
(7-4-3)で得られた化合物(50)(22mg,0.015mmol)にアセトニトリル(1mL)、85wt%リン酸水溶液(1.0mL,14.6mmol)を順次加え、室温で1.5時間撹拌した。反応完結後、水(1mL)を加え、反応液を逆相分取クロマトグラフィーにて精製し、生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload(47)(18.8mg,0.0139mmol)を得た。
【0446】
1H NMR(300MHz;DMSO-d6) δ 10.04(s,1H),8.10-8.05(m,4H),7.80-7.77(m,2H),7.59-7.55(m,2H),7.35-7.30(m,3H),6.99(d,J=8.8Hz,2H),6.54-6.53(m,1H),6.01(brs,1H),5.74(d,J=9.0Hz,1H),5.43(brs,4H),5.33-5.28(m,2H),4.29-4.15(m,4H),3.19-2.98(m5H),2.43-2.38(m,5H),2.27-2.20(m,7H),1.95-1.83(m,8H),1.73-1.62(m,4H),1.42-1.30(m,7H),1.23-1.13(m,3H),0.84(m,9H).
【0447】
MS(ESI) m/z:1349.2[M+H]+
【0448】
(7-5)Linker-payload(125)の合成
下記に示すLinker-payload(125)は、Linker-payloadmimic(120)の合成において、sarcosine-pyreneの代わりにMMAEを用い、同様の方法で合成した。
【化83】
【0449】
MS(ESI)m/z:1968.14[M+H]+
【0450】
(7-6)Linker-payload(126)の合成
下記に示すLinker-payload(126)は、Linker-payloadmimic(35)の合成において、MMAEの代わりにExatecan mesylateを用い、同様の方法で合成した。
【化84】
【0451】
MS(ESI)m/z:1220.50[M+H]+
【0452】
実施例8:ADCの合成
(8-1)ADC4の合成
以降の比較例および実施例では、チオール基導入抗体として、国際公開第2019/240287号(WO2019/240287A1)の実施例81-7に記載される抗体誘導体(チオール基導入トラスツズマブ)を用いた。この抗体誘導体は、抗体重鎖の246位または248位のリジン残基の側鎖のアミノ基を介して、トラスツズマブ(ヒト化IgG1抗体)にチオール基が位置選択的に導入されている下記構造を有する(リジン残基の位置はEU numberingに従う)。
【化85】
(上記構造において、抗体重鎖から伸びているNH-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-は、リジン残基の側鎖に対応し、このリジン残基の側鎖中のアミノ基に対してチオール含
有基であるHS-CH
2-CH
2-C(=O)が付加されている。本抗体は、ペプチドマッピング法で他のリジン残基での修飾が検出されなかったことから、抗体重鎖の246位または248位での位置選択性が100%であると解される。)
【0453】
チオール基導入抗体のbuffer(pH7.4PBSバッファー)溶液(20μM)に実施例12-1で合成したLinker-payload (35)のDMF溶液(10mM)を10当量加え、室温にて2時間静置後、NAP-5 Columns(GEヘルスケア社製)を用いて精製してADC 4を得た。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload(35)が2個導入された151414にピークが確認された。
【化86】
【0454】
(8-2)ADC5の合成
(8-1)に従って、Linker-payload(42)よりADC5を得た。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload(42)が2個導入された151673にピークが確認された。
【化87】
【0455】
(8-3)ADC6の合成
(13-1)に従って、Linker-payload(47)よりADC6を得た。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload(47)が2個導入された151109にピークが確認された。
【化88】
【0456】
(8-4)ADC8の合成
(13-1)に従って、Linker-payload(125)よりADC8を得た
。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload(125)が2個導入された150524にピークが確認された。
【化89】
【0457】
(8-5)ADC11の合成
(13-1)に従って、Linker-payload(126)よりADC11を得た。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload(126)が2個導入された150615にピークが確認された。
【化90】
【0458】
実施例9:ADCのHIC-HPLC分析
実施例3の条件を用いて、HIC-HPLC分析を行った。
【表7】
【0459】
続いて、HIC-HPLCを用いてADCの疎水性評価を行った。測定は実施例3に従って行った。HICクロマトグラムにおける、ADCのリテンションタイムによってADCの疎水性度を評価することができる。比較対象に原料抗体でありTrastuzumabを用いた。
【表8】
【0460】
エキソ型ADCであるADC4,5,6は、HICクロマトグラムにおけるリテンションタイムが原料抗体と遜色なく、より親水性のADCであることが分かる。
【0461】
実施例10:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)による、ADCの凝集率の評価
実施例4に従い、SEC-HPLC分析を行った。
【表9】
【0462】
その結果、(8-1)、(8-2)および(8-3)で合成したADCは、凝集率が低い傾向であることが確認され、より安定性が高いことがわかる。よって、実施例8で合成したADCは、好ましいADCであることが確認された。
【0463】
実施例11:Linker-payload mimicの合成
(11-1)Linker-payload mimic(56)の合成
Linker-payload mimic(56)は下記のように合成した。
【化91】
【0464】
(11-1-1)アルコール(57)の合成
【化92】
【0465】
Ac-Asp(OtBu)-Val-Cit-OH(51.7mg,103μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(520μL)に溶解させ、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3,トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(46.9mg,123μmol)、2,4,6-トリメチルピリジン(15.9μL,123μmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。続いて、4-アミノマンデル酸メチル(22.3mg,123μmol)を加えて室温にて19時間撹拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(57)(56.3mg,86.5μmol)を得た。
【0466】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ9.99(s,1H),8.27(d,J=8.4Hz,1H),8.17(d,J=8.4Hz,1H),7.59(d,J=8.8Hz,1H),7.56(d,J=8.8Hz,2H),7.31(d,J=8.8Hz,2H),5.98(brs,1H),5.41(brs,2H),5.08(s,1H),4.64-4.59(m,1H),4.39-4.34(m,1H),4.22-4.18(m,1H),3.59(s,3H),3.01-2.94(m,2H),2.69-2.63(m,1H),2.44-2.38(m,1H),2.00-1.95(m,1H),1.83(s,3H),1.69―1.66(m,1H),1.62-1.53(m,1H),1.43-1.34(m,11H),0.84(d,J=6.8Hz,3H),0.79(d,J=6.8Hz,3H).
【0467】
MS(ESI)m/z:651.35[M+H]+
【0468】
【0469】
アルコール(57)(55.0mg,84.5μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(423μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(77.1mg,254μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(32.3μL,190μmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。その後、氷冷し、Sarcosin-Pyrene(76.7mg,254μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(17.1mg,127μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(53.9μL,317μmol)を加え、室温にて1.5時間攪拌した。反応後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(58)(60.9mg,62.2μmol)を得た。
【0470】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ10.14-10.11(m,1H),8.68-8.66(m,1H),8.39-8.01(m,10H),7.89-7.85(m,1H),7.67-7.58(m,3H),7.44-7.39(m,2H),5.98(brs,1H),5.79-5.77(m,1H),5.42(brs,2H),5.04-4.97(m,2H),4.65-4.59(m,1H),4.39-4.36(m,1H),4.28-4.07(m,2H),3.92-3.82(m,1H),3.62-3.61(m,3H),2.99-2.91(m,5H),2.69-2.63(m,1H),2.44-2.38(m,1H),2.01-1.97(m,
1H),1.83(s,3H),1.70-1.60(m,2H),1.44-1.30(m,11H),0.86-0.77(m,6H).
【0471】
MS(ESI)m/z:979.45[M+H]+
【0472】
【0473】
ピレン(58)(24.9mg,25.4μmol)をテトラヒドロフラン(1.88mL)、水(625μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、1M水酸化リチウム水溶液(30.5μL,30.5μmol)を加え、室温にて50分間攪拌した。反応終了後、0.1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(59)(8.3mg,8.6μmol)を得た。
【0474】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ13.06(brs,1H),10.13-10.09(m,1H),8.68-8.65(m,1H),8.39-8.00(m,10H),7.88-7.84(m,1H),7.67-7.59(m,3H),7.44-7.41(m,2H),5.98(brs,1H),5.68-5.67(m,1H),5.42(brs,2H),5.04-4.93(m,2H),4.64-4.61(m,1H),4.41-4.35(m,1H),4.32-4.09(m,2H),3.91-3.80(m,1H),2.99-2.91(m,5H),2.70-2.64(m,1H),2.44-2.38(m,1H),2.01-1.98(m,1H),1.83(s,3H),1.70-1.57(m,2H),1.45-1.30(m,11H),0.86-0.77(m,6H).
【0475】
MS(ESI)m/z:965.45[M+H]+
【0476】
【0477】
ピレン(59)(7.2mg,7.5μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(150μL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.5μL,14.9μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(5.8mg,11.2μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(2.4mg、11.2μmol)を加えて室温に戻し1時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(60)(5.7mg,5.1μmol)を得た。
【0478】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ10.07-10.04(m,1H),8.91-8.88(m,1H),8.65-7.95(m,12H),7.62-7.58(m,3H),7.40-7.36(m,2H),6.96-6.94(m,2H),5.97(brs,1H),5.70-5.68(m,1H),5.41(brs,2H),5.14-5.00(m,2H),4.65-4.61(m,1H),4.42-4.37(m,1H),4.25-4.19(m,1H),4.15-3.82(m,2H),3.30-3.21(m,2H),3.04-2.89(m,7H),2.70-2.64(m,1H),2.44-2.38(m,1H),2.01-1.97(m,1H),1.83(s,3H),1.75-1.60(m,2H),1.48-1.24(m,15H),1.12-1.03(m,2H),0.86-0.78(m,6H).
【0479】
MS(ESI)m/z:1129.50[M+H]+
【0480】
(11-1-5)Linker-payload mimic(56)の合成
【化96】
【0481】
ピレン(60)(4.7mg,4.2μmol)にアセトニトリル(208μL)を加え、氷冷下で85%リン酸溶液(72.4μL,1.25mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(56)(3.1mg,2.9μmol)を得た。
【0482】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ12.38(brs,1H),10.05-10.01(m,1H),8.91-8.88(m,1H),8.65-7.94(m,12H),7.63-7.58(m,3H),7.40-7.34(m,2H),6.96-6.93(m,2H),6.00(brs,1H),5.70-5.68(m,1H),5.44(brs,2H),5.15-4.99(m,2H),4.64-4.60(m,1H),4.43-4.37(m,1H),4.25-4.22(m,1H),4.15-3.82(m,2H),3.30-3.21(m,2H),3.04-2.89(m,7H),2.73-2.69(m,1H),2.46-2.44(m,1H),2.04-1.96(m,1H),1.84-1.83(m,3H),1.77-1.59(m,2H),1.44-1.04(m,8H),0.86-0.77(m,6H).
【0483】
MS(ESI)m/z:1073.50[M+H]+
【0484】
(11-2)Linker-payload mimic(66)の合成
Linker-payload mimic(1)は下記のように合成した。
【化97】
【0485】
(11-2-1)アルコール(67)の合成
【化98】
【0486】
Ac-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Val-Cit-OH(50.2mg,47.3μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(237μL)に溶解させ、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3,トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(21.6mg,56.8μmol)、2,4,6-トリメチルピリジン(7.48μL,56.8μmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。続いて、4-アミノマンデル酸メチル(10.3mg,56.8μmol)を加えて室温にて20時間撹拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(67)(47.7mg,39.1μmol)を得た。
【0487】
MS(ESI)m/z:1220.65[M+H]+
【0488】
【0489】
(1-1-1)で得られたアルコール(67)(46.3mg,37.9μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(380μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(34.6mg,114μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(14.5μL,85.3μmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。その後、氷冷し、Sarcosin-Pyrene(34.5mg,114μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(7.7mg,56.9μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(24.2μL,142μmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。反応後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(68)(37.1mg,24.0μmol)を得た。
【0490】
MS(ESI)m/z:775.30[M+H]+
【0491】
(11-2-3)ピレン(69)の合成
【化100】
【0492】
ピレン(68)(20.3mg,13.1μmol)をテトラヒドロフラン(983μL)、水(327μL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、1M水酸化リチウム水溶液(31.4μL,31.4μmol)を加え、室温にて2.5時間攪拌した。反応終了後、1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(69)(16.7mg,10.9μmol)を得た。
【0493】
MS(ESI)m/z:1534.85[M+H]+
【0494】
(11-2-4)ピレン(70)の合成
【化101】
【0495】
ピレン(69)(14.9mg,9.71μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(486μL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.3μL,19.4μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(7.6mg,14.6μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(3.2mg、14.6μmol)を加えて室温に戻し1時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(70)(13.1mg,7.71μmol)を得た。
【0496】
MS(ESI)m/z:1698.90[M+H]+
【0497】
(11-2-5)Linker-payload mimic(66)の合成
【化102】
【0498】
ピレン(70)(5.25mg,3.09μmol)にアセトニトリル(309μL)を加え、氷冷下で85%リン酸溶液(53.8μL,μ927mol)を加え、室温で25時間撹拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(66)(3.7mg,2.51μmol)を得た。
【0499】
MS(ESI)m/z:1474.00[M+H]+
【0500】
(11-3)Linker-payload mimic(11)の合成
Linker-payload mimic(11)は下記のように(1-3)とはことなる経路でも合成した。
【化103】
【0501】
(11-3-1)アルコール(96)の合成
【化104】
【0502】
実施例(1-3-1)で得られたアルコール(12)(80.0mg,94.1μmol)をテトラヒドロフラン(7.0mL)、水(2.35mL)に溶解させ、氷冷下5分間攪拌した後、1M水酸化リチウム水溶液(226μL,226μmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。反応終了後、1M塩酸を用いて約pH6に調整し、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記アルコール(96)(61.5mg,73.6μmol)を得た。
【0503】
MS(ESI)m/z:836.40[M+H]+
【0504】
(11-3-2)アルコール(97)の合成
【化105】
【0505】
アルコール(96)(60.5mg,72.4μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(3.6mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(25μL,145μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(56.5mg,109μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(23.7mg、109μmol)を加えて室温に戻し3時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、アルコール(97)(68.0mg,72.4μmol)を得た。
【0506】
MS(ESI)m/z:1000.50[M+H]+
【0507】
(11-3-3)化合物(98)の合成
【化106】
【0508】
アルコール(97)(10.0mg,10.0μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(0.1mL)に溶解させたのち氷冷し、炭酸ビス(4-ニトロフェニル)(30.4mg,100μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.8μL,22.5μmol)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応後、順相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記化合物(98)(5.6mg,4.8μmol)を得た。
【0509】
MS(ESI)m/z:1163.50[M+H]+
【0510】
(11-3-4)ピレン(15)の合成
【化107】
【0511】
化合物(98)(10.0mg,8.6μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(86μL)に溶解させたのち氷冷し、Sarcosin-Pyrene(2.2mg,7.2μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1.5mg,11μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.8μL,11μmol)を加え、室温にて4時間攪拌した。反応後、順相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、凍結乾燥することにより、上記ピレン(15)(3.0mg,2.3μmol)を得た。
【0512】
MS(ESI)m/z:1328.60[M+H]+
【0513】
(11-3-5)Linker-payload mimic(15)の合成
実施例(1-3-5)と同様の方法でLinker-payload mimic(15)は合成された。
【0514】
(11-4)Linker-payload mimic(120)の合成
Linker-payload mimic(120)は下記のように合成した。
【化108】
【0515】
(11-4-1)化合物(122)の合成
【化109】
【0516】
21-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]-4,7,10,13,16,19-ヘキサオキサヘンエイコサン酸(121)(70.0mg,154μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(7.72mL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(52.0μL,309μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(120mg,232μmol)を加えた。次にN-(5-アミノペンチル)マレイミド塩酸塩(50.6mg、232μmol)を加えて室温に戻し4時間攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、化合物(122)(83.4mg,135μmol)を得た。
【0517】
MS(ESI)m/z:618.50[M+H]+
【0518】
(11-4-2)化合物(123)の合成
【化110】
【0519】
化合物(122)(82.0mg,133μmol)をジクロロメタン(13.3mL)、トリフルオロ酢酸(6.64mL)に溶解させ、室温にて30分間攪拌した。反応終了後、減圧濃縮によってジクロロメタンおよびトリフルオロ酢酸を除去し、上記化合物(123)(71.8mg,quant)を得た。
【0520】
MS(ESI)m/z:518.40[M+H]+
【0521】
(11-4-3)ピレン(124)の合成
【化111】
【0522】
ピレン(14)(16.0mg,14.0μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(690μL)に溶解させたのち氷冷し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(9.3
μL,55.0μmol)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(11mg,21.0μmol)を加えた。次にPEG6(11.0mg、21.0μmol)を加えて室温に戻し2時間半攪拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ピレン(124)(11.2mg,6.73μmol)を得た。
【0523】
MS(ESI)m/z:1664.80[M+H]+
【0524】
(11-4-4)Linker-payload mimic(120)の合成
【化112】
【0525】
ピレン(124)(5.0mg,3.0μmol)にアセトニトリル(200μL)を加え、氷冷下で85%リン酸溶液(60.0μL,880μmol)を加え、室温で25時間撹拌した。反応終了後、逆相分取クロマトグラフィーにて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し減圧濃縮しアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、Linker-payload mimic(120)(2.4mg,1.5μmol)を得た。
【0526】
MS(ESI)m/z:1552.65[M+H]+
【0527】
実施例12:ADC mimicの合成
(12-1)ADC mimicの合成
以降の実施例では、実施例2と同様の方法でADC mimicの調製を行った。
【0528】
(11-1)のLinker-payload mimic(56)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 22を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(56)が2個導入された150322にピークが確認された。
【化113】
【0529】
同様に(11-2)のLinker-payload mimic(66)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 24を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(66)が2個導入された151125にピークが確認された。
【化114】
【0530】
同様に(11-4)のLinker-payload mimic(120)とチオール含有抗体より、下記構造のADC mimic 33を合成した。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload mimic(120)が2個導入された151279にピークが確認された。
【化115】
【0531】
(12-2)ADC mimicのDAR解析
実施例12-1で合成したADC mimicのESI-TOFMS分析は既報(WO2019/240287A1)に従って行い、DARは2であることを確認した。
【表10】
【0532】
実施例13:疎水性カラムクロマトグラフィー(HIC-HPLC)による、ADCおよびADC mimicの疎水性度の評価
既報(Anal.Chem.,2019,91,20,12724-12732)に従い、HIC-HPLC分析を行った。測定は下記の条件を用いて行った。HICクロマトグラムにおける、ADCのリテンションタイムによってADCの疎水性度を評価することができる。
【0533】
測定システム:Chromaster(登録商標)(日立社製)
カラム:東ソーバイオサイエンス社製Tosoh Biobuthyl NPR 2.5μm 4.6×35mmカラム
グラジエント:溶離液A/Bの線形グラジエント
流速:0.8mL/分
溶離液A:1.1M (NH
4)
2SO
4,25mM Na
2HPO
4/NaH
2PO
4(pH6.0)
溶離液B:25mM Na
2HPO
4/NaH
2PO
4(pH6.0、25v/v% イソプロパノール添加)
検出器:UV(280nm)
【表11】
【0534】
その結果、実施例11-1,11-2,11-4で合成したADC mimicはリテンションタイムが早い傾向であることが確認され、親水性度が高いことがわかる。よって、実施例11-1,11-2,11-4で合成したADC mimicは、血漿クリアランスが遅く、体内に留まる時間が長いと考えられることから、好ましいADCであることが確認された。
【0535】
実施例14:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)による、ADCおよびADC mimicの凝集率の評価
既報(ChemistrySelect,2020,5,8435-8439)に従い、SEC-HPLC分析を行った。測定は下記の条件を用いて行った。
【0536】
測定システム:1260 HPLC system(Agilent社製)
カラム:Agilent社製AdvanceBio SEC 300Å 2.7μm,4.6mm×150mm
流速:0.25mL/分
溶離液:100mMリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素ナトリウム,250mM塩化ナトリウムの水溶液(pH6.8),10%v/vイソプロパノール
検出器:UV(280nm)
【表12】
【0537】
実施例15:酵素カテプシンBを用いた、ADC mimicの評価
各種ADC mimicのカテプシンBによる切断能は下記のように、ADC mimicから脱落した蛍光分子の量を解析することで評価した。
【0538】
(15-1)カテプシンB切断性試験
実施例5と同様の方法で試験を行った。
【0539】
(15-2)HPLC分析を用いた、脱落した蛍光分子の量の解析
実施例5と同様の方法で分析、解析を行った。
【表13】
【0540】
表12に示した通り、合成したADC mimicは十分なカテプシンB切断を有していることが分かった。
【0541】
実施例16:マウス血漿を用いたADC mimicの評価
(16-1)ADC mimicの血漿中安定性試験
実施例6と同様の方法で試験を行った。
【0542】
(16-2)HPLC分析を用いた、脱落した蛍光分子の量の解析
実施例6と同様の方法で分析、解析を行った。
【表14】
【0543】
その結果、比較例1で合成したADC mimicに対し、実施例12-4で合成したADC mimicは2倍以上の安定性を示し、実施例12-1,12-2で合成したADC mimicは10倍以上もの安定性を示した。
【0544】
実施例17:Linker-payloadの合成
実施例(7-3-5)で合成したLinker-payload (42)のNMRスペクトルデータは次の通りであった。
【0545】
1H NMR (300MHz;DMSO-d6) δ12.06(brs,2H),10.05-10.07(m,1H),8.47-8.28(m,1H),8.29-8.19(m,1H),8.13-8.04(m,3H),7.91-7.56(m,5H),7.39-7.17(m,7H),6.99(s,2H),5.99(s,1H),5.86-5.67(m,1H),5.43-5.35(m,3H),4.77-4.16(m,6H),4.00-3.98(m,2H),3.80-3.76(m,1H),3.52-3.18(m,12H),3.01-2.73(m,9H),2.26-2.14(m,6H),2.12-2.09(m,2H),1.97-1.90(m,2H),1.84(s,6H),1.76-1.69(m,5H),1.43-1.35(m,10H),1.23-1.14(m,3H),1.01-0.96(m,7H),0.83-0.68(m,24H).
【0546】
実施例18:ADCの合成
(18-1)リンカー中間体の合成
(18-1-1)リンカー中間体(115)の合成
【化116】
【0547】
5-アジドペンタン酸(800mg,5.59mmol)をTHF(14mL)に溶解させ、クロロギ酸イソブチル(808μL,6.15mmol)、N-メチルモルホリン(873μL,8.39mmol)を加え0℃にて30分攪拌した後、1M NaOH水溶液(4mL)に溶解したヒドラジン水和物(1.36g,6.71mmol)を加えて室温にて3時間攪拌した。減圧下濃縮した後、1M NaOH水溶液を加え、系内のpHをpH10に調整し、酢酸エチルで洗浄後、水層に1M HCl水溶液を加え、系内のpHを3.0に調整し、酢酸エチルを加えて洗浄し、得られた酢酸エチル溶液に硫酸ナトリウムを加えた。フィルトレーションにより硫酸ナトリウムを取り除き、減圧下濃縮カラム
クロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=10:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することにより、リンカー中間体(115)を得た。
【0548】
1H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ6.29(d,J=7.7Hz,1H),4.56(td,J=8.0,4.9Hz,1H),3.32(t,J=6.6Hz,2H),2.53-2.38(m,3H),2.36-2.16(m,3H),2.12(s,2H),1.96(dq,J=14.7,7.6Hz,1H),1.84-1.59(m,4H),1.50(s,9H).
【0549】
MS(ESI)m/z:329[M+H]+
【0550】
(18-1-2)リンカー中間体(117)の合成
【化117】
【0551】
リンカー中間体(116)(2.41g,5.59mmol)をジクロロメタン(28mL)に溶解させ、チオフェノール(627μL,6.15mmol)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ(3.49g,6.71mmol)、DIPEA(1.42mL,8.39mmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。その後、減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより、リンカー中間体(117)を得た(2.20g,5.23mmol)。
【0552】
1H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.43(s,5H),6.10(d,J=7.8Hz,1H),4.55(td,J=7.7,4.9Hz,1H),3.31(t,J=6.7Hz,2H),2.87-2.63(m,2H),2.28(dd,J=8.7,5.9Hz,2H),2.16-1.98(m,1H),1.83-1.58(m,4H),1.50(s,9H),1.37-1.22(m,2H),0.91(t,J=6.7Hz,1H).
【0553】
MS(ESI)m/z:421[M+H]+
【0554】
(18-1-3)リンカー中間体(118)の合成
【化118】
【0555】
リンカー中間体(117)(2.20g,5.23mmol)をジクロロメタン(10mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(10mL)を加えて、室温にて1時間攪拌した後、減圧下濃縮しジクロロメタンを除去し、水を加えて凍結乾燥することにより、リンカー
中間体(118)を得た(1.98g,5.43mmo)。
【0556】
1H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.44(s,J=6.3,4.6,2.4Hz,5H),6.76(s,1H),4.62(td,J=7.5,4.9Hz,1H),3.31(t,J=6.6Hz,2H),2.88(qt,J=16.8,6.8Hz,2H),2.33(dt,J=12.4,6.8Hz,3H),2.18(dq,J=14.4,7.4Hz,1H),1.74(dq,J=11.8,7.5,6.9Hz,2H),1.63(ddd,J=17.7,10.5,4.8Hz,2H).
【0557】
MS(ESI)m/z:365[M+H]+
【0558】
(18-1-4)リンカー中間体(119)の合成
【化119】
【0559】
リンカー中間体(118)(100mg,0.274mmo)をジクロロメタン(3mL)に溶解させ、(40.6μL,0.280mmol)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ(150mg,0.288mmol)、DIPEA(70.1μL,0.412mmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。1M HCl水溶液を加えて系内をpH3に調整し、ジクロロメタンを加えて希釈し、水、食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムを加えた。フィルトレーションにより、硫酸ナトリウムを除去した後、減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより、リンカー中間体(119)を得た(84.7mg,0.171mmol)。
【0560】
1H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.50-7.38(m,5H),6.33(d,J=8.4Hz,1H),4.78(tdd,J=7.8,4.6,3.0Hz,1H),3.70-3.54(m,2H),3.32(dt,J=9.1,6.7Hz,2H),2.96-2.67(m,2H),2.30(pd,J=7.1,4.5Hz,2H),1.85-1.60(m,6H),1.49(d,J=2.8Hz,9H).
【0561】
MS(ESI)m/z:495[M+H]+
【0562】
(18-1-5)リンカー中間体(120)の合成
【化120】
【0563】
リンカー中間体(119)(84.7mg,0.171mmol)をジクロロメタン(5mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(5mL)を加えて、室温にて1時間攪拌した後
、減圧下濃縮しジクロロメタンを除去し、水を加えて凍結乾燥した後、カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=10:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することによりリンカー中間体(120)を得た(46.8mg,0.107mmo)。
【0564】
1H NMR(400MHz,Methanol-d4)δ7.44(dq,J=2.3,1.5Hz,5H),4.69-4.57(m,1H),3.79-3.67(m,2H),3.40-3.30(m,2H),2.89-2.71(m,2H),2.44-2.23(m,4H),2.08-1.95(m,1H),1.82-1.61(m,4H).
【0565】
MS(ESI)m/z:439[M+H]+
【0566】
(18-2)アジド基を有する親和性試薬(18)の調製
【化121】
(上記アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列である。)
【0567】
既報(WO2019/240287A1)記載のAc-RGNCAYHKGQIIWCTYH-NH2(配列番号1、30.9mg,14.9μmol、ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)をジメチルホルムアミド(468μL)に溶解し、実施例18-1-5で合成したリンカー中間体(120)46.8mg,0.107mmol)、WSC・HCl(29.7mg,0.155mmol)を加え、室温にて5時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより、溶出した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することによりアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥を行い、上記修飾試薬(121)を得た(15.1mg,6.02μmol)。
【0568】
(18-3)2分子のペプチド試薬のTrastuzumabへの導入
【化122】
(上記アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列である。)
【0569】
続いて、実施例18-2で調製したペプチド試薬(121)を用いて、トラスツズマブに対して既報(WO2019/240287A1)の手法に従い、コンジュゲーションを実施した。結果、修飾試薬(121)が導入された抗体を得た。ペプチド試薬(121)が導入された抗体のDAR分析は既報(Anal.Chem.,2019,91,20,12724-12732)に従い、HIC-HPLC分析を行い、2つのペプチド試薬が導入されたことを確認した。
【0570】
(18-4)アジド基が導入されたトラスツズマブ(T-1)の合成
【化123】
(上記アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列である。)
【0571】
実施例18-3で得た修飾試薬(121)が導入された抗体に対して、既報(WO2019/240287A1)の手法を参考に、メトキシアミン溶液を加え、室温で3時間振盪することで、切断反応を実施した。結果、アジド基が導入された抗体を得た。分析は既報(Anal.Chem.,2019,91,20,12724-12732)に従い、HIC-HPLC分析を行い、アジド基が導入されていることを確認した。
【0572】
(18-5)ADC7の合成
上記アジド導入抗体に対して、Linker-payload(40)を加え、ADC(7)を得た。ESI-TOFMS分析を行い、反応生成物はLinker-payload(40)が2個導入された151276にピークが確認された。また、ESI-TOFMS分析を既報(WO2019/240287A1)に従って行い、DARは2であることを確認した。
【化124】
【0573】
実施例19:マウス血漿を用いた、ADCの評価
(19-1)ADCの血漿中安定性試験
マウス血漿(Charles River社製)500μLに対し、0.1mg/mLの濃度になるようにADC mimicを加えたのち滅菌ろ過を行った。この溶液を6本のエッペンチューブに50μLずつ分注した。6本のサンプルのうち3本は、37℃に設定したインキュベーターで4日間保管した。残りの3本は-80℃の冷凍庫の中で同様に4日間保管した。各サンプルにアセトニトリルを100μLずつ加えてボルテックスで攪拌したのち遠心分離を行うことで、沈殿物を得た。生じた上澄み溶液を回収し、HPLC分析を行った。
【0574】
(19-2)HPLC分析を用いた、脱落したpayloadの量の解析
測定は、液体クロマトグラフィー質量分析法(タンデム質量分析法を含む)を用いて、ADCから脱落したペイロード量を測定した。実施例19-1で-80℃の冷凍庫の中で同様に4日間保管したサンプルを0日目のものとし、実施例19-1にて37℃で4日間インキュベーションした3本のサンプルを4日目のものとし、4日目サンプルと0日目サンプルから検出されたペイロードのMS強度を抽出イオンクロマトグラムによってそれぞれ算出し、それらの差分を解析した。
【0575】
別途MMAEを用いて、HPLCによるTICのエリア面積と、濃度の相関を算出した。その算出式を用いて上記各ADCの蛍光強度のTICを濃度に変換した。Day0の濃度を100%としたときの、前述のイオンクロマトグラムの差分の割合を脱落率として算出した。
【表15】
【0576】
その結果、実施例7-1,7-2,7-3で合成したADCは高い安定性を持つことが分かった。