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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009824
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】不定形耐火物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20250109BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067394
(22)【出願日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2023108191
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 善幸
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA06
4K051AB03
4K051AB05
4K051BE03
(57)【要約】
【課題】耐構造スポーリング性および耐熱スポーリング性に優れた不定形耐火物の使用方法を提供する。
【解決手段】質量基準で、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを7%以下と、ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを2%以上と、を合計で7%以上20%未満の量で配合した不定形耐火物を、1000℃以上の融体と接触する環境で用いる方法である。ストロンチウムアルミネート含むアルミナセメントを5%以上20%未満の量で配合した不定形耐火物を、1000℃以上の融体と接触する環境で用いる方法である。カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを7%以下と、ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを7%以上と、を合計で7%以上20%未満の量で配合した不定形耐火物を、800℃以上の融体と接触する環境で用いる方法である。耐火物原料がアルミナを主成分とし、マグネシアを含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物原料中に、カルシウムアルミネートとしてCaOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを7質量%以下と、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを2質量%以上と、を合計で7質量%以上20質量%未満の量で配合した不定形耐火物を、1000℃以上の融体と接触する環境で用いる、不定形耐火物の使用方法。
【請求項2】
ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを10質量%以上配合した不定形耐火物を用いる、請求項1に記載の不定形耐火物の使用方法。
【請求項3】
耐火物原料中に、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを配合せず、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%含むアルミナセメントを、5質量%以上20質量%未満の量で配合した不定形耐火物を、1000℃以上の融体と接触する環境で用いる、不定形耐火物の使用方法。
【請求項4】
耐火物原料中に、カルシウムアルミネートとしてCaOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを7質量%以下と、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを7質量%以上と、を合計で7質量%以上20質量%未満の量で配合した不定形耐火物を、800℃以上の融体と接触する環境で用いる、不定形耐火物の使用方法。
【請求項5】
ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを10質量%以上配合した不定形耐火物を用いる、請求項4に記載の不定形耐火物の使用方法。
【請求項6】
前記融体の温度が1200℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の不定形耐火物の使用方法。
【請求項7】
前記融体の温度が1400℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の不定形耐火物の使用方法。
【請求項8】
セメントを除く耐火物原料がアルミナを主成分とし、マグネシアを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の不定形耐火物の使用方法。
【請求項9】
前記融体が溶銑または溶鋼を含み、
前記不定形耐火物を製鋼容器に施工する、請求項8に記載の不定形耐火物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱間で高耐用を要求される不定形耐火物の使用方法に関する。本明細書において、数値の範囲を表す「x~y」は、x以上y以下を意味し、境界値を含む。
【背景技術】
【0002】
主に製鉄所で使用される耐火物は、築炉工の減少に伴い、れんが等の定形耐火物から不定形耐火物への転換が進められている。特に取鍋の溶鋼に接触する鋼浴部は不定形耐火物への転換が早期に進み、多くの工場で採用されている。材質はアルミナを主成分とし、マグネシアやスピネルと配合されたアルミナ-マグネシア質、アルミナ-スピネル質耐火物が一般に使われている。
【0003】
一般に耐火物は温度の急変に弱く、特に冷却に伴う収縮発生時に弱い。たとえば、定形耐火物では多数存在する目地が少しずつ開き、寸法変化を吸収するため、耐火物の損傷はほとんど発生しない。一方、不定形耐火物では目地が存在しないため、耐火物全体で寸法変化を吸収せざるを得ず、とくに寸法変化が大きい場合、稼働面に垂直な亀裂を生じる熱スポーリング損傷を受ける場合も多い。
【0004】
また、取鍋は受鋼中および鋳造中に、鋼浴部の耐火物表面にスラグが接触しながら移動する際に、耐火物中へスラグが侵入し、浸潤層を形成することが多い。生じた浸潤層は、元の耐火物に対し、高密度、高弾性率となり、亀裂の発生や、元の耐火物との熱膨張率等の物性差に起因する稼働面に平行な構造スポーリングによる損傷を受けやすく、耐用低下につながる。特に浸潤層は前述のように亀裂を生じやすく、構造スポーリングによる亀裂との複合要因で耐火物の部分的な剥離とその進展で損傷が進む。
【0005】
スラグ浸潤の一因としてスラグ成分と低融点化合物を生成しやすい、酸化カルシウムの影響が知られている。酸化カルシウムは、不定形耐火物に一般的に使用されているアルミナセメント中にカルシウムアルミネートとして含まれている成分である。耐火物は施工すなわち非稼動期間を短くすることが要求されており、流し込み施工後、一般的には翌日もしくは24時間後に脱枠するための強度発現が求められている。そのため、ポルトランドセメントより養生強度の発現が早いアルミナセメントが使用されているのである。アルミナセメント中の酸化カルシウムは高温下でスラグと反応して、低融点化合物を生成し、液相を生じる。これにより、高温下での不定形耐火物の組織強度が低下し、前記の構造スポーリング亀裂の発生がさらに起きやすくなる。
【0006】
酸化カルシウムの存在による、スラグの影響を抑制するため、従来、低セメントや極低セメントキャスタブルなど、セメント量を減らす方向で改善が進められてきた。さらにセメント量の低減検討が進められ、例えば特許文献1ではアルミナゾルを使用して、アルミナセメントを使わない耐火物が提案されている。酸化カルシウム不使用が特徴で、流し込み施工可能であることと、養生強度、耐爆裂性に問題がなく、耐熱スポーリング性に優れるとしている。
【0007】
酸化カルシウムを含まないアルミナセメントの検討も行われている。例えば特許文献2ではカルシウムアルミネートの代わりに、ストロンチウムアルミネートを使用したセメントと、それを0.2体積%以上20体積%未満使用した耐火物が提案されている。特許文献3では同様にストロンチウムアルミネートを使用したセメントを0.5体積%以上10体積%以下使用した耐火物が提案されている。ストロンチウムアルミネートを使用したセメントは、酸化カルシウムの含有量がないか、あっても微量であるため、スラグとの反応性に乏しく、浸潤層がほとんど発生しないとされている。これらのストロンチウムアルミネートを使用したセメントを配合した耐火物は高温でのスラグに対する耐食性の他、養生後の強度について検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-203807号公報
【特許文献2】特開2010-120843号広報
【特許文献3】特開2017-066025号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1に記載の技術では、破壊エネルギーの検討がされておらず、熱間での損傷抑制の観点では不十分である。特許文献2に記載の技術では、不定形耐火物の熱間の機械特性については考慮されていない。特許文献3に記載の技術では、熱間の機械特性に関して、耐熱スポーリング性の改善について検討されているだけであり、最も重要な破壊エネルギーの検討はされておらず、熱間での損傷抑制の観点では不十分である。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、熱間破壊エネルギーに着目し、耐構造スポーリング性や耐熱スポーリング性に優れた不定形耐火物の使用方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる第一の不定形耐火物の使用方法は、耐火物原料中に、カルシウムアルミネートとしてCaOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを7質量%以下と、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを2質量%以上と、を合計で7質量%以上20質量%未満の量で配合した不定形耐火物を、1000℃以上の融体と接触する環境で用いることを特徴とする。なお、本発明にかかる第一の不定形耐火物の使用方法は、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを10質量%以上配合した不定形耐火物を用いることがより好ましい解決手段となる。
【0012】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる第二の不定形耐火物の使用方法は、耐火物原料中に、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを配合せず、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%含むアルミナセメントを、5質量%以上20質量%未満の量で配合した不定形耐火物を、1000℃以上の融体と接触する環境で用いることを特徴とする。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる第三の不定形耐火物の使用方法は、耐火物原料中に、カルシウムアルミネートとしてCaOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを7質量%以下と、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを7質量%以上と、を合計で7質量%以上20質量%未満の量で配合した不定形耐火物を、800℃以上の融体と接触する環境で用いることを特徴とする。なお、本発明にかかる第三の不定形耐火物の使用方法は、ストロンチウムアルミネートとしてSrOを10~40質量%の範囲で含むアルミナセメントを10質量%以上配合した不定形耐火物を用いることがより好ましい解決手段となる。
【0014】
なお、本発明にかかる上記いずれかの不定形耐火物の使用方法は、
(a)前記融体の温度が1200℃以上であること、
(b)前記融体の温度が1400℃以上であること、
(c)セメントを除く耐火物原料がアルミナを主成分とし、マグネシアを含むこと、
(d)前記融体が溶銑または溶鋼を含み、前記不定形耐火物を製鋼容器に施工すること、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる不定形耐火物の使用方法によれば、ストロンチウムアルミネートを含んだアルミナセメントを適正量配合する。さらに、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントの配合量を制限するか、または、配合しない。それにより、耐火物の熱間破壊エネルギーを大幅に向上させ、耐構造スポーリング性と耐熱スポーリング性を高度に併せ持つ、高耐用な不定形耐火物を得ることができる。そのため、耐火物の使用原単位の削減の他、施工頻度低減による作業負荷と、それぞれのコスト削減につながる。さらに、解体頻度も減少するため、解体屑の処理コストや環境負荷の軽減につながる。加えて、耐火物の使用原単位の削減により原料の製造に伴う環境負荷も軽減される。このように、経済的効果に加えて労働負荷軽減と自然環境への負荷軽減も享受できるなど、産業上有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための組成や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
本実施形態にかかる不定形耐火物の使用方法では、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントの一部を、カルシウムアルミネートに替えてストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントで置き換えて施工する。本実施形態の不定形耐火物は、第一に、1000℃以上の高温融体と接触する環境で用いる。その場合、粒径8mm以下の耐火物原料中の質量基準で、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを7%以下と、ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを2%以上と、を合計で7%以上20%未満の量で配合する。
【0018】
従来のアルミナセメントは、CaOを10~40質量%含む。CaOはカルシウムアルミネートとして、たとえば、3CaO・Al、CaO・Al、12CaO・7Alなどの組成でセメント中に含まれる。ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントは、上記CaOをSrOに置き換えたものであり、上記CaOの含有量は3質量%以下である。カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを上限超えで含む配合では、不定形耐火物中のCaO分が多すぎて、スラグの浸潤が進行し、1000℃以上の高温域での破壊エネルギーが低下する。それにより、耐構造スポーリング性と耐熱スポーリング性とが悪化する。ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントの配合が下限未満では、カルシウムアルミネートを置換する効果が小さすぎる。それにより、耐構造スポーリング性と耐熱スポーリング性の改善効果が期待できない。好ましくは、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを2質量%以下、ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを5質量%以上配合することである。さらに好ましくは、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを配合しないことである。カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを配合しない場合には、不定形耐火物中にストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを5質量%以上配合することで、この不定形耐火物を1000℃以上の高温融体と接触する環境で用いることが可能となる。ただし、ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを10質量%以上配合すれば、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを7質量%以下の範囲で配合しても、1000℃以上の高温域での破壊エネルギーの低下を抑制することができる。
【0019】
また、第二に、不定形耐火物中にストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを7質量%以上配合し、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントの配合量を7質量%以下とすることで、この不定形耐火物を800℃以上の高温融体と接触する環境で用いて、従来材より熱間強度が向上する。さらに、ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを10質量%以上配合すれば、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを7質量%以下の範囲で配合しても、800℃以上の高温域での破壊エネルギーの低下を抑制することができる。
【0020】
アルミナセメントの配合量が合計で下限未満では、曲げ強度が低く、不定形耐火物として適さない。アルミナセメントの配合量が合計で上限以上では、可使時間が短くなりすぎ、現場施工の不定形耐火物として適さない。
【0021】
1000℃での破壊エネルギーが0.64N/mm以上であることが好ましく、0.70N/mm以上であることがより好ましく、0.85N/mm以上であることがさらに好ましい。1200℃での破壊エネルギーが0.52N/mm以上であることが好ましく、0.65N/mm以上であることがより好ましく、0.85N/mm以上であることがさらに好ましい。1400℃での破壊エネルギーが0.12N/mm以上であることが好ましく、0.23N/mm以上であることがより好ましく、0.30N/mm以上であることがさらに好ましい。また、800℃の熱間強度が21.0MPa以上であることが好ましく、22.0MPa以上であることがより好ましい。また、スラグの浸潤指数は、従来材を100として、100未満であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0022】
したがって、本実施形態にかかる不定形耐火物は、800℃以上や1000℃以上の高温融体と接触する環境に用いて、耐構造スポーリング性と耐熱スポーリング性を有する。1200℃以上の高温融体と接触する環境に用いて好適であり、1400℃以上の高温融体と接触する環境に用いてさらに好適である。
【0023】
本実施形態では、上記のセメントを除く耐火物原料がアルミナを主成分とし、マグネシアを含むことが好ましい。ここで、主成分とは、50質量%を超えることをいい、70質量%以上が好ましい。たとえば、Al-7質量%MgOキャスタブル材料である。MgOを2~15質量%の範囲で含むことができる。
【0024】
本実施形態にかかる不定形耐火物は、高炉から出銑される溶銑や精錬された溶鋼などを取り扱う容器や装置に幅広く適用できる。溶銑鍋、溶鋼取鍋、真空脱ガス装置、タンディッシュなどが例示できる。たとえば、アルミナを主成分とする既存の不定形耐火物のうち、耐構造スポーリング性や耐熱スポーリング性の亀裂が問題となる箇所に置換して用いて好適である。また、スラグとの反応を考慮して、現状は定形耐火物としている箇所に適用できる場合もある。高温融体として、溶銑や溶鋼を例に説明したが、他の高温融体にも適用できる。
【実施例0025】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメントを配合した不定形耐火物の熱間特性を調査した。
[試験水準]
比較例(No.12)として、マグネシアを7質量%配合された、粗骨材を含まない最大粒径8mm以下の耐火物原料で構成される不定形耐火物を用いた。この不定形耐火物には、7質量%のカルシウムアルミネートを含むアルミナセメントが用いられている。
【0026】
実施例No.1~11および13として、比較例No.12の不定形耐火物からアルミナセメントを除いたものをベース材として準備した。カルシウムアルミネートを含むアルミナセメント(以下、単にアルミナセメントという)として、市販のデンカ社製ハイアルミナセメントHを準備し、ストロンチウムアルミネートを含むアルミナセメント(以下、SrOセメントという)として、デンカ社製ハイアルミナセメントスーパーA09Nを準備した。
【0027】
表1および表2に示す配合の不定形耐火物を用いて施工性および熱間特性を評価した。No.12はSrOセメントを配合せず、アルミナセメントを7質量%配合した従来の不定形耐火物である。No.1、2は、No.12のアルミナセメントの一部をSrOセメントで置換した不定形耐火物である。No.3および4はアルミナセメントを配合せず、SrOセメントをそれぞれ5質量%および7質量%配合した不定形耐火物である。No.5~11および13は、No.4にSrOセメントを増量して配合した不定形耐火物である。No.14~18はSrOセメントを10質量%以上配合し、かつアルミナセメントも配合した不定形耐火物である。また、混練時の添加水量は全ての水準で耐火材料の総量に外掛けで6質量%の一定量とした。
【0028】
[評価方法]
<施工性>
施工性に関しては、各水準の不定形耐火物を混練後にビニール袋に入れて、混練直後および0.5時間毎にJIS R2521:1995に定められた方法に準じてタップフロー値(mm)を測定した。混練直後のタップフロー値および可使時間(Hr)を表1および表2に併記した。可使時間(Hr)は、タップフロー値が130mm未満となった時間と定義する。可使時間が2時間以上となることを、現地施工可能な指標とした。
【0029】
<熱間特性>
熱間特性は、スラグ浸潤性、熱間曲げ強度、熱間破壊エネルギー、スポーリング試験の動弾性率比を評価に用い、結果を表1および表2に併記した。スラグ浸潤性は、回転ドラム試験で評価した。酸化カルシウム成分値と二酸化ケイ素成分値の比が3:1であり、かつ、スラグ中の酸化鉄の含有量をFeに換算した値(T.Fe)が14質量%である、合成スラグを用いた。No.13以外の17水準の配合材をそれぞれ混練後、台形柱状の型枠に鋳込み、養生、乾燥を経て1650℃で3時間の大気焼成を行い、各水準5本ずつの試験片を得た。12水準の試験片を各1本ずつ円筒状に組み上げ、1650℃に加熱後、合成スラグを投入し、30分ごとにスラグの排出と、新規投入を繰り返し、合計2時間の試験を行った。試験は5回行い、試験後の、各試験片の溶損厚みとスラグ浸潤による変色部の厚みの合計値を測定し、5回の平均値を算出した。各水準の平均値とNo.12の測定値の平均値との比を、No.12を100とした指数で評価した。指数が小さいほど耐スラグ浸潤性が良好となる。
【0030】
熱間曲げ強度測定は800℃から1400℃までの間で200℃ごとに大気雰囲気で行い、荷重変位曲線から熱間破壊エネルギーを算出した。No.13以外の17水準の配合の耐火物原料をそれぞれ混練した後、サイズ40mm×40mm×160mmの直方体の鋳型に鋳込み、20℃室温で24時間養生した。その後、110℃で24時間の乾燥を経て1650℃で3時間の大気焼成を行い、各水準5本ずつの試験片を得た。試験片を熱間曲げ試験機にセットし、1400℃までの各温度に加熱した後、クロスヘッドスピード0.5mm/分、支点間距離100mmで3点曲げ試験を行った。さらに、試験の荷重変位曲線から熱間破壊エネルギーを算出した。評価は熱間曲げ強度、熱間破壊エネルギーともに各水準5本の平均値の比較により行った。
【0031】
スポーリング試験用に、No.13以外の17水準の配合をそれぞれ混練した後、サイズ30mm×30mm×120mmの直方体の鋳型に鋳込み、20℃室温で24時間養生した。その後、110℃で24時間の乾燥を経て1650℃で3時間の大気焼成を行い、各水準5本ずつの試験片を得た。試験片作成後に動弾性率E0を測定した。作成後1400℃に加熱した電気炉内に試験片を入れ、15分保持後、20℃の室内にて放冷し、室温まで温度低下後に動弾性率を測定した。これを繰り返し、試験3回目を終えた後の動弾性率E3と、試験前の値E0との比E3/E0を計算した。各水準5本ずつ試験を行い、各水準の平均値を算出して、比較評価を行った。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
施工性評価の結果、SrOセメント配合量が20質量%であるNo.13の試験片のみ、混練直後のタップフロー値が100mmとなり、全く流動性を示さなかった。その他の水準はタップフロー値が目標下限の130mmを上回った。No.13は流動性がなく、正常な鋳込みができなかったため、熱間特性の評価試験片が作れなかった。
【0035】
可使時間の評価結果を説明する。SrOセメント配合量が増えるに従い、可使時間が短くなる傾向が見られた。混練直後のタップフローが100mmで流動性を示さなかったNo.13以外の全ての水準で目標の2時間を上回った。したがって、No.1~11は従来の不定形耐火物と同様に現場施工に適している。
【0036】
スラグ浸潤性の評価結果について説明する。通常アルミナセメントの配合量に大きく影響を受け、通常アルミナセメントを使用しているNo.1,2および12と、SrOセメント単体使用の他の水準(No.3~11)との格差が大きい。SrOセメント単体使用の不定形耐火物はスラグ浸潤性指数が非常に小さかった。ただし、SrOセメント配合量が10質量%以上で、かつ通常アルミナセメントを使用した水準(No.14~18)では、SrOセメントと通常アルミナセメントとの合計量が同程度のSrOセメント単体使用の水準(No.8~10)と比較しても、同等のスラグ浸潤性指数が得られた。
【0037】
熱間曲げ強度の結果を説明する。No.12に対し、800℃および1000℃ではSrOセメント配合量が7質量%以上で高強度を示した。1200℃ではSrOセメント配合量2質量%以上で、1400℃ではSrOセメント配合量5質量%以上でそれぞれ高強度を示した。また、各温度において、通常のアルミナセメントを配合しない場合は、SrOセメント配合量の増加に伴い、強度の上昇が見られ、特にSrOセメント配合量が10質量%以上の場合に、高い強度を示した。SrOセメント配合量が14質量%以上ではほぼ強度変化がないか、逆に低下した。SrOセメント配合量が10質量%以上で、かつ通常アルミナセメントを使用した水準(No.14~18)では、SrOセメントと通常アルミナセメントとの合計量が同程度のSrOセメント単体使用の水準(No.8~10)と比較しても、同等の熱間曲げ強度が得られた。
【0038】
熱間曲げ試験結果から計算で得られた熱間破壊エネルギーについて説明する。800℃ではSrOセメント配合量5質量%までは漸減した後、上昇に転じていた。SrOセメント配合量9質量%から12質量%までの上昇率が高く、10質量%以上でNo.12より高い値となった。また、SrOセメント配合量11質量%以上ではほぼ同値か漸減傾向が見られた。1000℃から1400℃ではSrOセメント配合量14質量%までは、配合量の増加に伴い熱間破壊エネルギーが上昇した。SrOセメント配合量14質量%以上ではほぼ同値か漸減傾向が見られた。SrOセメント配合量5質量%以上での熱間破壊エネルギーの上昇傾向は800℃のそれとほぼ同じ傾向となった。SrOセメント配合量が10質量%以上で、かつ通常アルミナセメントを使用した水準(No.14~18)では、SrOセメントと通常アルミナセメントとの合計量が同程度のSrOセメント単体使用の水準(No.8~10)と比較しても、同等の熱間破壊エネルギーが得られた。
【0039】
スポーリング試験の結果を説明する。No.12、No.1、2、4にかけて、セメント合計量が同じでSrOセメント配合量の増加に伴いほぼ直線的に動弾性率比E3/E0が増加した。No.5からNo.7の間でSrOセメント配合量の増加に伴い急激に動弾性率比E3/E0が増加した。No.6とNo.7の間の増加が最も大きい。No.7からNo.10のSrOセメント配合量11質量%から17質量%まではほぼ同じの高い動弾性率比E3/E0を示した。No.11のSrOセメント配合量が19質量%の場合、動弾性率比E3/E0が若干低下した。No.1~11においてNo.12よりも高い動弾性率比、即ち、高い耐熱スポーリング性を示した。また、SrOセメント配合量が10質量%以上で、かつ通常アルミナセメントを使用した水準(No.14~18)においても、No.12よりも高い動弾性率比、即ち、高い耐熱スポーリング性を示した。特に通常のアルミナセメントを配合しないSrOセメント配合量が11質量%以上では、No.12よりも15%以上も高い数値を示した。また、動弾性率比E3/E0の大小関係は破壊エネルギーの大小関係とほぼ一致した。
【0040】
構造スポーリングは前述のようにスラグ浸潤と亀裂発生の双方の要因で発生する。No.1~11、14~18は、一般的な不定形耐火物であるNo.12に対して、実使用域である1000℃以上において、スラグ浸潤が少なく、高熱間強度と高熱間破壊エネルギーを有しており、耐構造スポーリング性が高い耐火物であるといえる。また、高熱間破壊エネルギーは、高い耐熱スポーリング性につながることが確認できた。また、カルシウムアルミネートを含むアルミナセメントを配合しないNo.3~11は、耐スラグ湿潤性により優れていることがわかった。SrOセメント配合量が10質量%以上で、かつ通常アルミナセメントを使用した水準(No.14~18)では、SrOセメントと通常アルミナセメントとの合計量が同程度のSrOセメント単体使用の水準(No.8~10)と比較しても、同等のスラグ浸潤性指数、熱間曲げ強度、熱間破壊エネルギーが得られ、通常アルミナセメントを配合しても耐構造スポーリング性および耐スラグ湿潤性に優れることがわかった。このことから、SrOセメント配合量が10質量%以上とすれば、通常アルミナセメントを配合しっても耐構造スポーリング性および耐スラグ湿潤性の低下が抑制可能であることがわかった。
【0041】
さらに、SrOセメントを7質量%以上配合したNo.4~11、14~18は、一般的な不定形耐火物であるNo.12に対して、800℃の熱間強度が優れていることがわかった。
【0042】
以上、本発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述により本発明は限定されることはない。また、一般的な取鍋用アルミナ-マグネシア質不定形耐火物を例にして説明したが、不定形耐火物に使用されるセメントの変更による効果であることから、上記実施例に挙げたもの以外の全ての不定形耐火物が本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の不定形耐火物の使用方法によれば、高温の融体と接触する不定形耐火物として使用して耐構造スポーリング性および耐熱スポーリング性に優れるので、高温融体を保持する容器に用いて高耐用である。耐火物の使用原単位の削減の他、施工頻度低減による作業負荷と、それぞれのコスト削減につながる。さらに、解体頻度も減少するため、解体屑の処理コストや環境負荷の軽減につながる。加えて、耐火物の使用原単位の削減により原料の製造に伴う環境負荷も軽減される。このように、本発明は経済的効果に加えて労働負荷と自然環境への負荷軽減も享受できるので、産業上有用である。