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特開2025-98283硬化性熱伝導性接着剤、及びその供給形態
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098283
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】硬化性熱伝導性接着剤、及びその供給形態
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20250624BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20250624BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20250624BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
C09J201/00
C08G59/18
C09J163/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025061985
(22)【出願日】2025-04-03
(62)【分割の表示】P 2024526953の分割
【原出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023013583
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023013584
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023035923
(32)【優先日】2023-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023059573
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023059531
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023170651
(32)【優先日】2023-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳士
(72)【発明者】
【氏名】岩本 達矢
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】飯野 達哉
(72)【発明者】
【氏名】森本 晃平
(57)【要約】
【課題】低粘度で速硬化性を有しつつ、可使時間を長くできる硬化性熱伝導性接着剤を提供することを課題とする。
【解決手段】硬化可能なバインダーと、熱伝導性充填材とを含む硬化性組成物からなる硬化性熱伝導性接着剤であって、25℃の定温でレオメーター測定した際に、貯蔵弾性率と損失弾性率との値が等しくなるゲル化点が、前記レオメーター測定を開始してから5分以上60分以下で確認され、前記レオメーター測定を開始してから60分経過後の、25℃における貯蔵弾性率が9.0×10Pa以上である、硬化性熱伝導性接着剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化可能なバインダーと、熱伝導性充填材とを含む硬化性組成物からなる硬化性熱伝導性接着剤であって、
25℃の定温でレオメーター測定した際に、貯蔵弾性率と損失弾性率との値が等しくなるゲル化点が、前記レオメーター測定を開始してから5分以上60分以下で確認され、前記レオメーター測定を開始してから60分経過後の、25℃における貯蔵弾性率が9.0×10Pa以上である、硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項2】
前記レオメーターで測定した際に前記レオメーター測定を開始してから15分経過後の、25℃における前記硬化性熱伝導性接着剤の損失弾性率が3.0×10Pa以下である、請求項1に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項3】
前記バインダーが、エポキシ基含有化合物を含む、請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項4】
前記バインダーが、アミン及びチオールの少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項5】
前記バインダーが、エポキシ基含有化合物、及びアミンを含む、請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項6】
前記エポキシ基含有化合物が単官能エポキシ基含有化合物を含む、請求項3に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項7】
前記バインダーが、マンニッヒ塩基を含む、請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項8】
前記硬化性組成物が、多官能アクリレート化合物と、エポキシ基含有化合物と、アミンを含む、請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項9】
硬化性組成物に含有される主剤を構成する成分の官能基の当量に対する、硬化剤の活性水素の当量の比である当量比が1.05以上2.9以下である、請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤の供給形態であって、
前記バインダーの主剤を含む第1剤と、前記第1剤と混合することで硬化する硬化剤を含む第2剤と、を別の容器に充填する、硬化性熱伝導性接着剤の供給形態。
【請求項11】
前記第1剤の粘度と、前記第2剤の圧縮荷重の差が450N以下である、請求項10に記載の硬化性熱伝導性接着剤の供給形態。
【請求項12】
前記第1剤の官能基濃度に対する、前記第2剤の官能基濃度の比が、1.05以上2.9以下である、請求項10に記載の硬化性熱伝導性接着剤の供給形態。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリアセンブリなどの電子機器用途で使用される、硬化性熱伝導性接着剤、及び熱伝導性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性組成物は、例えば、発熱体と放熱体の間に充填して、発熱体で発生した熱を伝播させて放熱体から発散させるために使用される。熱伝導性組成物は、一般的に硬化性を有しており、充填された後に硬化され硬化物で使用されることが多い。熱伝導性組成物は、電気自動車(EV)向けのリチウムイオンバッテリ(LiB)アセンブリなどのバッテリアセンブリ、電力電子機器、電子パッケージング、LED、太陽電池、電気グリッドなどの多くの電子機器用途において重要な役割を果たす。
【0003】
例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂と、主鎖に三級アミドを含み、かつアミン末端化されているポリアミドを含むポリアミド組成物と、2~20個の炭素原子を含むアミノ官能性化合物と、多官能性(メタ)アクリレートと、無機充填剤を含み、バッテリーアセンブリなどの電子機器用途で好適に使用され得る熱伝導性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-512990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで今後EVの生産台数がますます増加していく中でその生産性を向上させるために熱伝導性組成物の室温硬化性の向上は重要な課題の一つである。アセンブルメーカーは工程での仮接着力を重視しており、一定の時間を過ぎると工程内では移動可能状態、すなわち、仮止めや縦置きなどが可能となる状態となることが求められる。その仮接着の際には、部材間の段差や凹みなどにも追従する必要があり、可使時間の間では、低荷重で容易に樹脂を基材上に広げることができるのが重要である。例えば1時間で縦置きが可能な状態となり、可使時間の間では低荷重で容易に樹脂を基材上に広げることができる接着剤が求められる。
また、アセンブルメーカーはアセンブル時間の短縮を考慮し、例えば1時間後には仮止めできる一方で、18時間後には接着した部材を輸送することを想定しており、短時間、一日後での接着力発現と可使時間の両立が、効率化及び作業性を考える際にも重要な課題である。
【0006】
特許文献1では、速硬化性を高めるためにアクリレートの添加、健康有害性懸念の観点でポリアミドを使用している。ポリアミドは分子量が低いがその相互作用によって粘度が高くなる問題がある。そのため、速硬化性はできても、高可使時間の達成ができていない。
【0007】
そこで本発明は、低粘度で速硬化性を有しつつ、可使時間を長くできる硬化性熱伝導性接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、レオメーター測定の開始から5分以上60分以下でゲル化点が確認され、かつ、レオメーター測定の開始から60分経過後の、25℃における貯蔵弾性率が一定以上となるように調整したことにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[13]を提供する。
【0009】
[1]硬化可能なバインダーと、熱伝導性充填材とを含む硬化性組成物からなる硬化性熱伝導性接着剤であって、25℃の定温でレオメーター測定した際に、貯蔵弾性率と損失弾性率との値が等しくなるゲル化点が、前記レオメーター測定を開始してから5分以上60分以下で確認され、前記レオメーター測定を開始してから60分経過後の、25℃における貯蔵弾性率が9.0×10Pa以上である、硬化性熱伝導性接着剤。
[2]前記レオメーターで測定した際に前記レオメーター測定を開始してから15分経過後の、25℃における前記硬化性熱伝導性接着剤の損失弾性率が3.0×10Pa以下である、[1]に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[3]前記バインダーが、エポキシ基含有化合物を含む、[1]又は[2]に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[4]前記バインダーが、アミン及びチオールの少なくとも一方を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[5]前記バインダーが、エポキシ基含有化合物、及びアミンを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[6]前記エポキシ基含有化合物が単官能エポキシ基含有化合物を含む、[3]又は[5]に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[7]前記バインダーが、マンニッヒ塩基を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[8]前記硬化性組成物が、多官能アクリレート化合物と、エポキシ基含有化合物と、アミンを含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[9]硬化性組成物に含有される主剤を構成する成分の官能基の当量に対する、硬化剤の活性水素の当量の比である当量比が1.05以上2.9以下である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の硬化性熱伝導性接着剤。
[10]請求項1又は2に記載の硬化性熱伝導性接着剤の供給形態であって、前記バインダーの主剤を含む第1剤と、前記第1剤と混合することで硬化する硬化剤を含む第2剤と、を別の容器に充填する、硬化性熱伝導性接着剤の供給形態。
[11]前記第1剤の粘度と、前記第2剤の圧縮荷重の差が450N以下である、[10]に記載の硬化性熱伝導性接着剤の供給形態。
[12]前記第1剤の官能基濃度に対する、前記第2剤の官能基濃度の比が、1.05以上2.9以下である、[10]又は[11]に記載の硬化性熱伝導性接着剤の供給形態。
[13]上記[1]~[10]のいずれか1項に記載の硬化性熱伝導性接着剤のバッテリセル間の間隙材、バッテリセルとモジュール筐体の間の間隙材、バッテリモジュールとバッテリパックの筐体の間の間隙材、及びバッテリセルとバッテリパックの筐体の間の間隙材、の少なくとも1つの間隙材としての使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低粘度で速硬化性を有しつつ、可使時間を長くできる硬化性熱伝導性接着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る容器セットを示す模式図である。
図2】別の一実施形態に係る容器セットを示す模式図である。
図3】本発明に係るバッテリモジュールの代表的構成を示す斜視図である。
図4】バッテリモジュールが有するバッテリセルの代表的構成を示す斜視図である。
図5】セルトゥパック構造を有するバッテリアセンブリを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[硬化性熱伝導性接着剤]
以下、本発明の硬化性熱伝導性接着剤について詳しく説明する。
本発明の硬化性熱伝導性接着剤は、硬化可能なバインダーと、熱伝導性充填材とを含む硬化性組成物からなる。本発明において、25℃における貯蔵弾性率及び損失弾性率をレオメーターで測定した際(以下、当該測定を「レオメーター測定」ともいう)、該測定の開始から5分以上60分以下で、貯蔵弾性率と損失弾性率とが等しくなるゲル化点(以下、単に「ゲル化点」ともいう)が確認される。さらに、該測定の開始から60分経過後の、25℃における貯蔵弾性率が9.0×10Pa以上である。
【0013】
<ゲル化点>
ゲル化点が、レオメーター測定の開始から5分未満で確認されると、可使時間が短くなり、接着剤を基材に塗布した後直ちに高粘度になり、接着剤を基材に広げることが困難となる。また、ゲル化点が、レオメーター測定の開始から60分を超えて確認されると、優れた接着力の発現が遅れ、接着剤が速硬化性を有することが難しくなる。これら観点から、ゲル化点は、レオメーター測定の開始から5分以上50分以下で確認されることが好ましく、レオメーター測定の開始から10分以上40分以下で確認されることがより好ましい。
ここで、ゲル化点とは、接着剤の貯蔵弾性率及び損失弾性率を、25℃環境下でレオメーターによりそれぞれ測定したときにおいて、貯蔵弾性率と損失弾性率とが等しくなる点をいう。レオメーターとしては、例えば、アントンパール社製のレオメーター「MCR-302e」などを用いるとよい。
なお、ゲル化点が確認される時間(以下「ゲル化時間」ともいう)の測定方法は、実施例に記載の通りである。
また、ゲル化点は、例えば、バインダー成分の主剤と、硬化剤の種類や量を適宜調整することで上記所定の範囲内に調整することができる。
【0014】
<貯蔵弾性率>
レオメーター測定の開始から60分経過後の、25℃における貯蔵弾性率(以下、「弾性率G’(60)」」ともいう)が9.0×10Pa未満であると、接着剤が優れた接着性を発現することが困難となる。こうした観点から、弾性率G’(60)は、9.2×10Pa以上であることが好ましく、1.0×10Pa以上であることがより好ましい。また、弾性率G’(60)の上限は、特に限定されないが、接着剤が適切な接着性を発現できる観点から、好ましくは1.0×10Pa以下であり、より好ましくは8.0×10Pa以下であり、さらに好ましくは5.0×10Pa以下である。
なお、弾性率G’(60)は、実施例に記載の測定方法により得ることができる。
【0015】
本発明の接着剤は、レオメーター測定の開始から15分経過後の、25℃における損失弾性率(以下、「弾性率G’’(15)」ともいう)が3.0×10Pa以下であることが好ましく、2.5×10Pa以下であることがより好ましく、2.0×10Pa以下であることがさらに好ましい。弾性率G’’(15)が上記上限値以下であることで、接着剤の硬化が早すぎず、可使時間を長くしやすくなる。また、例えば18時間後の接着力が一定以上となりやすくなる。他方、接着剤の速硬化性を一定程度担保する観点から、弾性率G’’(15)は、2.0×10Pa以上であることが好ましく、2.2×10Pa以上であることがより好ましく、2.5×10Pa以上であることがさらに好ましい。
なお、弾性率G’’(15)は、実施例に記載の測定方法により得ることができる。
【0016】
本発明の接着剤は、レオメーター測定の開始から15分経過後の、25℃における貯蔵弾性率(以下、単に「弾性率G’(15)」ともいう)が2.5×10Pa以下であることが好ましく、2.0×10Pa以下であることがより好ましく、1.7×10Pa以下であることがさらに好ましい。弾性率G’(15)が上記上限値以下であることで、接着剤の硬化が早すぎず、可使時間を長くしやすくなる。また、例えば18時間後の接着力が一定以上となりやすくなる。他方、接着剤の速硬化性を一定程度担保する観点から、弾性率G’(15)は、5.0×10Pa以上であることが好ましく、8.0×10Pa以上であることがより好ましく、1.0×10Pa以上であることがさらに好ましい。
なお、弾性率G’(15)は、実施例に記載の測定方法により得ることができる。
また、弾性率G’(60)、弾性率G’’(15)、及び弾性率G’(15)は、例えば、バインダー成分の主剤と、硬化剤の種類や量を適宜調整することで上記所定の範囲内に調整することができる。また、弾性率G’(60)及び弾性率G’(15)は、硬化性を速くすることでも高くしやすくなる。
【0017】
<熱伝導率>
本発明の接着剤は、その硬化物の熱伝導率が、1.3W/(m・K)以上であることが好ましく、1.5W/(m・K)以上であることがより好ましく、1.6W/(m・K)以上であることがさらに好ましい。接着剤は、硬化物の熱伝導率がこれら下限値以上とすることで、熱伝導性が良好となる。そのため、例えばバッテリセルアセンブリで使用する場合には、バッテリセルから発生する熱を、接着剤の硬化物(熱伝導性部材)を経由して、モジュール筐体やバッテリパックに効率的に伝えることができ、バッテリセルの温度の過度の上昇を抑えることができる。上記熱伝導率は、高ければ高いほどよいが、実用的には、例えば7.0W/(m・K)以下である。
熱伝導率は、ASTM D5470-06に準拠した方法で測定することができる。
具体的には、発熱体側となる測定ダイを覆うように接着剤を測定時の厚さより多めに配置し、その後放熱体で挟み込み、30psiの荷重で接着剤の厚さが1.0mm、1.5mm、2.0mmになるまで圧縮して各厚さの熱抵抗を測定する。厚さはスペーサーで調整することができる。これら3つの熱抵抗の値について、横軸が厚さ、縦軸が熱抵抗値のグラフを作成し、最小二乗法により3点の近似直線を求める。そして、その近似直線の傾きを熱伝導率とする。
【0018】
<接着力>
本発明の接着剤は、各成分の混合開始から1時間後における接着力(以下「接着力1」ともいう)が0.03MPa以上0.7MPa以下であることが好ましく、0.05MPa以上0.5MPa以下であることがより好ましく、0.08MPa以上0.3MPa以下であることがさらに好ましい。接着力1が上記下限値以上であると、部材の仮止めに必要最低限の接着力を確保することができる。また、接着力1が上記上限値以下であると、部材の仮止めした後、部材の位置修正などの際に部材を容易に剥離することができる。
【0019】
また、本発明の接着剤は、各成分の混合開始から18時間後における接着力(以下「接着力2」ともいう)が0.8MPa以上であることが好ましく、0.9MPa以上であることがより好ましく、1.2MPa以上であることがさらに好ましい。接着力2が上記下限値以上であると、接着剤が十分硬化したこととなり、例えば、接着剤を介して接着させた部材を輸送する際には、輸送に伴う振動がかかっても、部材が剥離することを防止することができる。接着力2の上限は、特に限定されないが、実用的には例えば5MPa以下であり、好ましくは3MPa以下であり、より好ましくは2MPa以下である。
なお、上記した各接着力は、いずれも、実施例に記載の測定方法により得ることができる。
【0020】
[バインダー]
本発明の接着剤は、硬化可能なバインダーを含む。硬化可能なバインダーは、熱硬化性でもよいし、光硬化性でもよいし、湿気硬化性でもよいが、熱硬化性であることが好ましい。また、バインダーは、1液硬化型、2液硬化型のいずれでもよいが、好ましくは2液硬化型である。
2液硬化型は、主剤を含む第1剤と、硬化剤を含む第2剤とを混合して使用するものであり、第1剤と第2剤を混合することで硬化を開始させるとよい。したがって、2液硬化型では、硬化剤として、第1剤の主剤に混合することで硬化するものを使用するとよい。また、硬化剤は、第1剤の主剤に混合して室温(25℃)で硬化できるものがよい。
【0021】
バインダーは、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系、または加水分解性シリル基を有する有機重合体のいずれかであることが好ましく、これらの中では、エポキシ系が好ましい。これら特定のバインダーを使用すると、接着剤に速硬化性を付与したり、可使時間を長くしたりしやすくなる。
バインダーは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ここで、ウレタン系バインダーは、例えば、主剤であるポリオール化合物と、硬化剤であるポリイソシアネート化合物からなるものが挙げられる。
シリコーン系バインダーは、縮合硬化型シリコーン樹脂、付加反応硬化型シリコーン樹脂のいずれでもよいが、付加反応硬化型シリコーン樹脂が好ましい。付加反応硬化型シリコーン樹脂は、主剤を構成するシリコーン樹脂と、主剤を硬化させる硬化剤からなるとよく、例えば、付加反応硬化型シリコーン樹脂の場合、主剤としてアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンを使用し、硬化剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用するとよい。
【0023】
エポキシ系バインダーは、主剤としてのエポキシ基含有化合物と、硬化剤とからなるとよい。
アクリル系バインダーは、硬化することでアクリル系ポリマーを構成する成分であればよく、例えば、アルキル(メタ)アクレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド類、ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、アクリル系バインダーは、上記アクリル系化合物と共重合可能なビニルモノマーなどを含んでもよい。さらに、アクリル系バインダーは、少なくとも一部がアクリル系化合物の重合物、アクリル系化合物とビニルモノマーの共重合物などであってもよい。また、アクリル系バインダーは、単官能アクリレート化合物であってもよいし、多官能アクリレート化合物であってもよい。
【0024】
加水分解性シリル基を有する有機重合体は、加水分解性シリル基を有し、湿気などの水分によって加水分解してシラノール基を形成した後、シラノール基同士若しくはシラノール基と加水分解性シリル基が縮重合することによってシロキサン結合を形成することができる。これにより、有機重合体が架橋構造を形成して、硬化することにより、ゴム状の弾性体が得られる。なお、シラノール基とは、ケイ素原子に直接結合しているヒドロキシ基(Si-OH)を意味する。また、加水分解性シリル基は、アルコキシシリル基が好適であり、具体的にはトリメトキシシリル基や、ジメトキシシリル基や、トリエトキシシリル基、ジエトキシシリル基が挙げられる。一方、有機重合体としてはポリアルキレンオキサイドなどのポリエーテルを挙げることができる。
以下、バインダーとして、エポキシ系を使用する場合について詳細に説明する。
【0025】
(エポキシ基含有化合物)
上記のとおり、バインダーは、エポキシ系である場合、エポキシ基含有化合物を含むとよい。エポキシ基含有化合物を使用することで、接着剤の接着力を適度な範囲に調整しやすくなる。エポキシ基含有化合物は、エポキシ基を1つ以上有する化合物であればよい。エポキシ基含有化合物は、エポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ基含有化合物であってもよいし、エポキシ基を1つ有する単官能エポキシ基含有化合物であってもよい。
【0026】
本発明の接着剤は、少なくとも多官能エポキシ基含有化合物を含有することが好ましい。接着剤は、多官能エポキシ基含有化合物を含有することで、主剤と硬化剤との反応速度が高まり、ゲル化点が確認される時間が早くなり、速硬化性を発現しやすくなる。
接着剤は、多官能エポキシ基含有化合物に加えて、単官能エポキシエポキシ基含有化合物をさらに含有してもよい。接着剤は、単官能エポキシ基含有化合物をさらに含有することで、主剤と硬化剤との反応速度が適切なものとなり、可使時間を長くしやすくなり、また、初期の粘度を低くしやすくなる。さらに、ゲル化点が確認される時間が早くなりすぎることを防止できる。
【0027】
多官能エポキシ樹脂と単官能エポキシ樹脂を併用する場合、多官能エポキシ樹脂に対する、単官能エポキシ樹脂の質量比(単官能/多官能)は、10/90以上90/10以下が好ましく、15/85以上75/25以下がより好ましく、20/80以上70/30以下がさらに好ましく、25/75以上60/40以下がさらに好ましい。
【0028】
多官能エポキシ基含有化合物としては、2官能又は3官能のものが挙げられ、好ましくは2官能エポキシ基含有化合物が使用される。多官能エポキシ基含有化合物の具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシ樹脂、キサンテン骨格を有するエポキシ樹脂、アントラセン骨格を有するエポキシ樹脂、ピレン骨格を有するエポキシ樹脂等の芳香族骨格を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
また、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂等の脂環式骨格を有するエポキシ樹脂も挙げられる。
さらには、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ樹脂も挙げられる。
また、上記例示した各エポキシ樹脂の水素添加物又は変性物もエポキシ樹脂として使用できる。
【0029】
上記したビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型又はビスフェノールS型のビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
上記したレゾルシノール型エポキシ樹脂としては、例えば、レゾルシノールジグリシジルエーテルが挙げられる。
上記ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂としては、1,2-ジグリシジルナフタレン、1,5-ジグリシジルナフタレン、1,6-ジグリシジルナフタレン、1,7-ジグリシジルナフタレン、2,7-ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、及び1,2,5,6-テトラグリシジルナフタレン等が挙げられる。
上記フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂としては、9,9-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3-ブロモフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3-フルオロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3-メトキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3,5-ジクロロフェニル)フルオレン、及び9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3,5-ジブロモフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0030】
上記ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂としては、4,4’-ジグリシジルビフェニル、及び4,4’-ジグリシジル-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル等が挙げられる。上記バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシ樹脂としては、1,1’-バイ(2,7-グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’-バイ(2,7-グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’-バイ(3,7-グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’-バイ(3,7-グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’-バイ(3,5-グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’-バイ(3,5-グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’-バイ(2,7-グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’-バイ(3,7-グリシジルオキシナフチル)メタン、及び1,2’-バイ(3,5-グリシジルオキシナフチル)メタン等が挙げられる。
【0031】
上記キサンテン骨格を有するエポキシ樹脂としては、1,3,4,5,6,8-ヘキサメチル-2,7-ビス-グリシジルメトキシ-9-フェニル-9H-キサンテン等が挙げられる。上記アントラセン骨格を有するエポキシ樹脂としては、1分子中に、1つ以上のアントラセン骨格と、2つ以上のエポキシ基またはグリシジル基とを有するものが挙げられる。
【0032】
上記ピレン骨格を有するエポキシ樹脂としては、1分子中に、1つ以上のピレン骨格と、2つ以上のエポキシ基またはグリシジル基とを有するものが挙げられる。
上記ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂しては、ジシクロペンタジエンジオキシド、及びジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシ樹脂が挙げられる。上記アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂としては、1,3-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)アダマンタン、及び2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)アダマンタン等が挙げられる。
【0033】
2官能エポキシ基含有化合物としては、上記の中でも、貯蔵弾性率を高くして、接着強度及び機械強度を向上させやすい観点から、芳香族骨格を有するエポキシ樹脂が好ましく、中でも、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂であるビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。また、芳香族骨格を有するエポキシ樹脂と脂肪族エポキシ樹脂とを併用することも好ましい。
2官能エポキシ基含有化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
単官能エポキシ基含有化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、4-t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテルで代表されるアルキルフェニルグリシジルエーテルなどのフェニル系グリシジルエーテル、1-グリシジルナフタレン、2-グリシジルナフタレンなどの芳香族環を有する単官能エポキシ基含有化合物などが挙げられる。芳香族環を有する単官能エポキシ基含有化合物は、フェニル基を有するエポキシ基含有化合物がより好ましい。芳香族環を有する単官能エポキシ基含有化合物を使用することで、貯蔵弾性率を高くして接着力が高くしやすくなる。
【0035】
また、単官能エポキシ基含有化合物としては、原料の安全性が高い観点からは、脂肪族の単官能エポキシ基含有化合物も好ましく、具体的には、脂肪族アルコールのグリシジルエーテル等が挙げられる。ここで、脂肪族アルコールとしては、分岐構造を有するものでもよいし、直鎖状のものでもよいが、伸びを良好にする観点からは直鎖状であることが好ましい。また、脂肪族アルコールとしては、例えば炭素数4~24程度であればよいが、好ましくは炭素数10~20である。また、脂肪族アルコールは、伸びを良好にする観点から、飽和脂肪族アルコールが好ましい。具体的な脂肪族アルコールのグリシジルエーテルとしては、ブチルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテル、セチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。単官能エポキシ基含有化合物は、上記以外でもよく、例えば、1,2-エポキシブタン、酸化プロピレンなどのエーテル基を有しない、グリシジル基を有する単官能エポキシ基含有化合物なども挙げられる。
単官能エポキシ基含有化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
エポキシ基含有化合物は、例えば分子量が2000以下のものを使用するとよく、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下である。エポキシ基含有化合物は、分子量を一定値以下のものを使用することで、接着剤の粘度を低くでき、また、熱伝導性充填材を高充填にすることも可能になる。エポキシ基含有化合物の分子量は、例えば100以上、好ましくは150以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは250以上である。エポキシ基含有化合物の分子量は、一定値以上とすることで、架橋密度が必要以上に高くなることを防止でき、伸びを良好にしやすくなる。なお、エポキシ基含有化合物は、常温(25℃)で液体であるとよい。
【0037】
エポキシ基含有化合物のエポキシ当量は、好ましくは1000g/eq以下、より好ましくは500g/eq以下、さらに好ましくは375g/eq以下であり、また、好ましくは100g/eq以上、より好ましくは125g/eq以上、さらに好ましくは140g/eq以上である。
【0038】
エポキシ基含有化合物は、常温(25℃)で液体であるとよい。また、エポキシ樹脂の25℃の粘度は、特に限定されないが、例えば50Pa・s以下であればよく、好ましくは10Pa・s以下である。また、エポキシ樹脂の25℃の粘度は、特に限定されないが、例えば、0.5mPa・s以上であってもよいし、1mPa・s以上であってもよい。
エポキシ樹脂及び後述するアミン化合物の粘度は、E型粘度計を使用して10rpm、25℃の条件で測定した粘度である。
【0039】
接着剤におけるエポキシ基含有化合物の含有量は、硬化性組成物全量基準で例えば2質量%以上20質量%以下である。エポキシ基含有化合物の含有量が2質量%以上であると、接着強度や伸びを高めやすくなる。また20質量%以下であると、未硬化のエポキシ基含有化合物の成分が存在しにくくなり、未硬化成分により接着が阻害されたりすることを防止できる。
エポキシ基含有化合物の含有量は、硬化性組成物全量基準で、好ましくは3質量%以上15質量%以下、より好ましくは4質量%以上12質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0040】
(硬化剤)
バインダーは、主剤を硬化させる硬化剤を含むとよく、具体的には、アミン及びチオールの少なくともいずれかを含むことが好ましい。アミン及びチオールの少なくともいずれかは、バインダーにエポキシ基含有化合物が含まれる場合に使用されるとよい。バインダーは、硬化剤としてアミン又はチオールを含有することで、室温において実用的な硬化速度に調整されやすい。また、接着剤の接着力も高くしやすくなる。
【0041】
アミンとしては、ジアミン類、トリアミン類などのポリアミン類でもよいし、モノアミン類でもよいが、ジアミン類、トリアミン類などのポリアミン類が好ましい。
【0042】
具体的なアミンとしては、ポリオキシエチレンジアミン、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリ(オキシブチレン/オキシプロピレン)ジアミン、ポリエチレングリコールビス(プロピルアミン)、トリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミン、グリセリルポリ(オキシプロピレン)トリアミン、メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミンなどのポリオキシアルキレンアミン類、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、トリレン-2,4-ジアミン、トリレン-2,6-ジアミン、メシチレン-2,4-ジアミン、メシチレン-2,6-ジアミン、3,5-ジエチルトリレン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトリレン-2,6-ジアミン、ビフェニレンジアミン、4,4-ジアミノジフェニルメタン、2,5-ナフチレンジアミン、2,6-ナフチレンジアミン、m-キシリレンジアミンとスチレンの反応生成物などの芳香環含有アミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン、1,20-エイコサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,9-ノナンジアミン、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジアミン等の脂肪族アミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式アミン、アミドアミンなどが挙げられる。
アミドアミンとしては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、脂肪酸、ダイマー酸等のカルボン酸化合物と、脂肪族ポリアミンやポリオキシアルキレン鎖を有するポリアミン等を反応させて得られるものが挙げられる。
【0043】
また、アミンとしては、マンニッヒ塩基を使用してもよい。マンニッヒ塩基は、アミン硬化剤に使用できるマンニッヒ塩基を使用すればよいが、例えば、フェノール系化合物と、アルデヒド化合物と、アミン化合物との反応により得られたものを使用するとよい。フェノール系化合物を使用したマンニッヒ塩基を含有することで、マンニッヒ塩基に含まれるフェノール構造により、主剤と硬化剤との反応が促進され、ゲル化点が確認される時間を早くして、優れた速硬化性を発現しやすくなる。マンニッヒ塩基の中でも、フェナルカミン型マンニッヒ塩基を使用することが好ましい。
【0044】
上記した中でも、主剤との反応速度を一定以上とし、速硬化性を担保しやすくする観点から、ポリアミン類、中でもトリアミン類を使用することがより好ましく、ジアミン類とトリアミン類とを併用して使用することがさらに好ましい。ジアミン類とトリアミン類とでは、主剤との反応速度が異なり、反応速度の異なる2種以上のアミンを併用することにより、主剤と硬化剤の反応を部分的に進行させることが可能となるため、ゲル化点が確認される時間を所定の範囲にして、速硬化性を担保しつつ、可使時間を長くすることができる。この場合、ジアミン類とトリアミン類は、いずれもポリオキシアルキレンアミン類であることがより好ましい。
【0045】
また、アミドアミンを使用する場合には、アミドアミンと、アミドアミン以外のジアミン類やトリアミン類と併用することが好ましい。さらに、マンニッヒ塩基を使用する場合、アミン硬化剤としては、マンニッヒ塩基と、マンニッヒ塩基以外のジアミン類やトリアミン類を併用することが好ましく、中でもトリアミン類と併用することがより好ましい。これらの場合、ジアミン類とトリアミン類は、いずれもポリオキシアルキレンアミン類であることが好ましい。以上のように、アミン硬化剤として2種のアミンを使用することで、ゲル化点が確認される時間を所定の範囲にして、速硬化性を担保しつつ、可使時間を長くすることができる。
【0046】
硬化剤として使用されるアミンの分子量は、速硬化性を高める観点、接着剤の硬化前の粘度を低くできる観点から、好ましくは3000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは600以下、よりさらに好ましくは500以下である。また、アミン硬化剤の分子量は、特に限定されないが、例えば100以上、好ましくは150以上、より好ましくは200以上である。
【0047】
硬化剤として使用されるアミンの25℃における粘度は、速硬化性を高める観点、接着剤の硬化前の粘度を低くできる観点から、好ましくは15Pa・s以下、より好ましくは10Pa・s以下、さらに好ましくは5Pa・s以下が、よりさらに好ましくは3Pa・s以下である。また、アミン硬化剤の25℃における粘度は、特に限定されないが、例えば0.03Pa・s以上、好ましくは0.05Pa・s以上、より好ましくは0.07Pa・s以上である。
【0048】
接着剤におけるアミンの含有量は、硬化性組成物全量基準で例えば2質量%以上20質量%以下である。アミンの含有量が2質量%以上であると、主剤が十分に硬化され、弾性率G’(60)及び接着力を高めやすくなる。また20質量%以下であると、アミンを過剰に含有することなく主剤を硬化させることができる。
アミンの含有量は、硬化性組成物全量基準で、好ましくは3質量%以上15質量%以下、より好ましくは4質量%以上12質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0049】
チオールは、ジチオール類、トリチオール類などのポリチオール類が挙げられる。具体的なチオールとしては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)などのポリオールとメルカプト有機酸のエステル化物、アルカンジチオール等の脂肪族チオール、キシリレンジチオール等の芳香環含有チオールなどが挙げられる。
【0050】
接着剤に含有されるアミン及びチオールの活性水素当量は、特に限定されないが、例えば15g/eq以上、好ましくは25g/eq以上、より好ましくは30g/eq以上であり、また、例えば250g/eq以下、好ましくは200g/eq以下、より好ましくは150g/eq以下である。
【0051】
本発明において、バインダーとしては、エポキシ系を使用する場合には、エポキシ基含有化合物に加えて、主剤として多官能アクリレート化合物をさらに含有することが好ましい。すなわち、バインダーは、主剤としてのエポキシ基含有化合物と、アミンで代表される硬化剤からなるものでもよいが、主剤としてのエポキシ基含有化合物、及び多官能アクリレート化合物と、アミンで代表される硬化剤とからなるものでもよい。
エポキシ基含有化合物と併用して使用される多官能アクリレート化合物は、以下の通りである。
【0052】
(多官能アクリレート化合物)
多官能アクリレート化合物は、官能基数(すなわち、(メタ)アクリロイル基の数)が2以上である化合物である。多官能アクリレート化合物は、上記した硬化剤、特にアミンと迅速に反応するので、多官能アクリレート化合物を使用することでゲル化点が早期に確認されやすくなり、接着剤に速硬化性を付与し、硬化初期において一定の接着力が付与される。
多官能アクリレート化合物としては、多官能性(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、多官能ポリオールと、(メタ)アクリル酸のエステルを使用することがより好ましい。
また、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基のいずれかを意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートのいずれかを意味し、他の類似する用語も同様である。
【0053】
多官能アクリレート化合物のうち2官能のものとして、例えば、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、カーボネートジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエーテルジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジオールジ(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
また、多官能アクリレート化合物のうち3官能以上のものとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのアルキレンオキシド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド付加ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0055】
多官能アクリレート化合物の官能基数は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。多官能アクリレート化合物の官能基数が多くなると、ゲル化点が確認される時間が早くなって速硬化性が高められ、硬化初期における接着力が高まりやすくなる。なお、多官能アクリレート化合物の官能基数の上限は、特に限定されないが、例えば10以下であってよいし、8以下であってもよい。
【0056】
多官能アクリレート化合物は、速硬化性を高める観点、接着剤の硬化前の粘度を低くできる観点から、その分子量は、一定以下であることが好ましい。具体的な多官能アクリレート化合物の分子量は、例えば、5000以下であればよいが、3000以下が好ましく、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは700以下である。また、多官能アクリレート化合物の分子量は、例えば150以上、好ましくは200以上、より好ましくは250以上、さらに好ましくは450以上のものを使用するとよい。上記多官能アクリレート化合物の分子量は、一定値以上とすることで、硬化初期における圧縮荷重が適度に低くなり、また、架橋密度が必要以上に高くなることを防止でき、伸びや接着力を良好にしやすくなる。
多官能アクリレート化合物は、硬化前の接着剤の粘度を低くしやすくする観点から常温(25℃)で液体であることが好ましい。
【0057】
多官能アクリレート化合物の官能基当量は、特に限定されないが、好ましくは500g/eq以下、より好ましくは300g/eq以下、さらに好ましくは150g/eq以下であり、また、好ましくは75g/eq以上、より好ましくは80g/eq以上、さらに好ましくは85g/eq以上である。
【0058】
接着剤において、エポキシ樹脂の官能基数に対する、多官能アクリレート化合物の官能基数の比は、0.1以上1.5以下程度であればよいが、好ましくは0.2以上1.2以下、より好ましくは0.3以上1.0以下、更に好ましくは0.4以上0.85以下である。多官能アクリレート化合物の官能基数の比を所定範囲内とすると、初期段階ではアミンと多官能アクリレート化合物が優先的に硬化され、速硬化性が発現される一方で、アミンとエポキシ樹脂の反応が抑制されるので、硬化初期における圧縮荷重が低く維持され、可使時間を長くできる。
【0059】
多官能アクリレート化合物の含有量は、硬化性組成物全量基準で、例えば、10質量%以下であるが、8質量%以下であることが好ましい。多官能アクリレート化合物の含有量を上記上限値以下とすると、多官能アクリレート化合物によって初期の硬化が進行しすぎることを防止して、可使時間を長くしやすくなる。また、多官能アクリレート化合物の含有量を少なくすると、耐湿性も向上する。そのため、例えば硬化後に高温高湿下で長時間使用しても、高い接着強度を維持できる。多官能アクリレート化合物の含有量は、6質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることがさらに好ましい。
また、多官能アクリレート化合物の含有量は、速硬化性を発現して、硬化初期における接着力を高くするためには、一定量以上としたほうが良く、硬化性組成物全量基準で、例えば、0.3質量%以上であるが、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上である。
【0060】
硬化性組成物における当量比は、1.05以上2.9以下であることが好ましい。なお、硬化性組成物における当量比は、バインダーを構成する主剤に対する、硬化剤の当量比であり、具体的には、硬化性組成物に含有される主剤を構成する成分の官能基数に対する、硬化剤の活性水素の数の比である。
したがって、バインダーが、エポキシ基含有化合物、アミンからなる場合には、エポキシ基含有化合物に含まれるエポキシ基の当量に対する、アミンに含まれるアミノ基の活性水素の当量である。また、バインダーが、エポキシ基含有化合物、多官能(メタ)アクリレート、及びアミンからなる場合には、エポキシ基含有化合物に含まれるエポキシ基の当量と多官能アクリレート化合物に含まれる(メタ)アクリロイル基の当量との合計に対する、アミノ基の活性水素の当量である。
さらに、バインダーが、エポキシ基含有化合物、及びチオールからなる場合には、エポキシ基含有化合物に含まれるエポキシ基の当量に対する、チオールに含まれるチオール基の活性水素の当量の比である。
また、バインダーが、エポキシ基含有化合物、アミン、及び、チオールからなる場合には、エポキシ基含有化合物に含まれるエポキシ基の当量に対する、チオールに含まれるチオール基の活性水素の当量とアミンに含まれるアミノ基の活性水素の当量の合計の比である。
上記官能基の当量比が、1.05以上であることで、アミノ基の活性水素の数が適切になり、硬化の初期においても一定の反応が進み、速硬化性を得やすくなる。また、2.9以下とすることで、アミノ基の活性水素の数が多くなりすぎず、硬化初期における圧縮荷重が低くなり、可使時間を長くしやすくなる。また、当量比を上記所定の範囲内とすることで接着力を適切な範囲に調整しやすくなる。
上記官能基の当量比は、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましく、1.4以上がよりさらに好ましく、また、2.6以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましく、1.8以下がよりさらに好ましい。
【0061】
なお、エポキシ基の当量は、硬化性組成物に含有されるエポキシ樹脂の含有量(g)をエポキシ当量(g/eq)で除して得ることができる。ただし、エポキシ樹脂が2種以上含まれる場合には、各エポキシ樹脂の含有量(g)をエポキシ当量(g/eq)で除して得た値を合計して得ることができる。
アミノ基の活性水素の当量は、硬化性組成物におけるアミンの含有量(g)をアミンの活性水素当量(g/eq)で除して得ることができる。ただし、アミンが2種以上含まれる場合には、各アミンの含有量(g)を活性水素当量(g/eq)で除して得た値を合計して得ることができる。
さらに、(メタ)アクリロイル基の当量は、硬化性組成物に含有されるアクリレート化合物の含有量(g)を(メタ)アクリロイル当量(g/eq)で除して得ることができる。ただし、アクリレート化合物が2種以上含まれる場合には、各アクリレート化合物の含有量(g)を(メタ)アクリロイル当量(g/eq)で除して得た値を合計して得ることができる。
なお、エポキシ当量(g/eq)は、エポキシ樹脂の分子量を1分子当りのエポキシ基の数で除して得ることができる。また活性水素当量(g/eq)は、アミンの分子量を1分子あたりの活性水素個数で除して得ることができる。さらに、(メタ)アクリロイル当量(g/eq)はアクリレート化合物の分子量を1分子当りの(メタ)アクリロイル基の個数で除して得ることができる。
チオール基の活性水素の当量は、例えば、接着剤におけるチオールの単位量当たりの活性水素の量(mol/g)にチオールの含有量を乗じて得た値である。ただし、チオールが2種以上含まれる場合には、各チオールの単位量当たりの活性水素の量(mol/g)に各チオールの含有量を乗じて得た値を合計したものである。
また、アミンとチオールの両方を含む場合は、アミノ基とチオール基の活性水素の当量は、接着剤における前記アミノ基の活水素の当量と、チオール基の活性水素の当量とを合計したものである。
【0062】
分子量、エポキシ基の当量、活性水素の当量、及び(メタ)アクリロイル基の個数は、質量分析装置(GC-MSまたはLC-MS)で測定することができる。また、質量分析装置で分子量のみしか特定できなかった場合には、1分子あたりのエポキシ基の個数(当量)および活性水素の個数(当量)は、NMR(H NMRなど)などで特定可能である。ただし試料が混合物である場合は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)またはHPLC(高速液体クロマトグラフ)で各成分を単離してからNMRを測定することが好ましい。なお、エポキシ樹脂の構造式が分かっている場合には、分子量及びエポキシ基の個数は、構造式から算出できるエポキシ樹脂の分子量及びエポキシ基の数である。また、アミンの構造式が分かっている場合には、分子量及び活性水素個数は、構造式から算出できるアミンの分子量及び活性水素の数である。アクリレート化合物の場合も同様である。チオールについても同様である。
なお、アミンの活性水素の数は、NHR(2級アミノ基)は1とし、NHR(1級アミノ基)は2とするものである(ただし、NHR、NHRにおいて、Rは活性水素以外の官能基、すなわちアミンの該NH又はNH以外の部分である)。
また、チオールの活性水素の数は、SHRを1とするものである(ただし、Rは活性水素以外の官能基、すなわち、チオールの該SH以外の部分である)。
【0063】
接着剤におけるバインダーの含有率は、接着剤全体の体積に対して、8体積%以上55体積%以下が好ましい。上記下限値以上であると、熱伝導性部材、接着剤中に熱伝導性充填材を適切に分散できるようになる。また、接着剤の粘度が必要以上に高くなったりすることも防止できる。また、上記上限値以下であることで、接着剤中に一定量以上の熱伝導性充填材を含有させやすくなる。接着剤におけるバインダーの含有率は、15体積%以上45体積%以下がより好ましく、18体積%以上38体積%以下がさらに好ましい。
【0064】
[熱伝導性充填材]
本発明の接着剤は、熱伝導性充填材を含有する。接着剤が熱伝導性充填材を含有することにより、接着剤により形成される熱伝導性部材の熱伝導性が向上する。
熱伝導性充填材としては、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、熱伝導性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
熱伝導性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、熱伝導性部材の放熱性向上の観点から、酸化アルミニウムが好ましく、難燃性を高めたい場合には水酸化アルミニウムが好ましい。また、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムを併用することも好ましい。
熱伝導性充填材は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
熱伝導性充填材の平均粒径は0.1μm以上200μm以下であることが好ましく、0.5μm以上150μm以下であることがより好ましく、1μm以上110μm以下であることがさらに好ましい。
熱伝導性充填材は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下の小粒径熱伝導性充填材と、平均粒径が5μm超200μm以下の大粒径熱伝導性充填材を併用することが好ましい。平均粒径の異なる熱伝導性充填材を使用することにより、充填率を高めることができる。
なお、熱伝導性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の熱伝導性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0066】
硬化性組成物における熱伝導性充填材の含有率は、接着剤全体の体積に対して、40体積%以上90体積%以下が好ましい。上記下限値以上であると、一定の熱伝導性を接着剤に付与できる。また、熱伝導性充填材の含有量を上記上限値以下とすることで、熱伝導性部材中に熱伝導性充填材を適切に分散でき、接着剤の粘度が必要以上に高くなったりすることも防止できる。なお、本発明では、接着剤を低粘度化することで熱伝導性充填材の含有率を高めやすくなる。接着剤における熱伝導性充填材の含有率は、50体積%以上85体積%以下がより好ましく、60体積%以上78体積%以下がさらに好ましい。
硬化性組成物における熱伝導性充填材の含有量は、質量部で表すと、バインダー100質量部に対して、好ましくは150質量部以上3000質量部以下、より好ましくは200質量部以上2000質量部以下、さらに好ましくは300質量部以上1000質量部以下である。
【0067】
(分散剤)
本発明の硬化性組成物は、分散剤を含有してもよい。分散剤としては、高分子系分散剤が挙げられる。高分子系分散剤としては、官能基を有する高分子化合物が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、アクリル系、ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、エポキシ系、ポリスチレン系、アミノ系、シリコーン系等が挙げられる。また、官能基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸エステル基、スルホン酸エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、四級アンモニウム塩基、アミド基等が挙げられる。また、分散剤は、高分子分散剤以外を使用してもよく、例えばアルコキシシラン化合物を使用してもよい。
接着剤における分散剤の含有量は、バインダー100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.4質量部以上3質量部以下がさらに好ましい。
【0068】
(水)
本発明の硬化性組成物は、水を含有してもよい。接着剤は、水を含有することで、水が触媒として機能して、主剤と硬化剤、特にアクリル系化合物とアミンとの反応を促進させやすくなる。
水の含有量は、硬化性組成物全量基準で0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。水の含有量が、0.3質量%以上であると、水により主剤と硬化剤と反応を適切に促進することができる。また、2.0質量%以下であることで、過剰量の水により接着剤の硬化物の物性が低下したり、水により硬化が進行しすぎて可使時間が短くなったりする不具合が生じにくくなる。
水の含有量は、0.3質量%以上2.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。
また、接着剤は、水を含有する場合、硬化剤を比較的少量にしても、硬化反応を進行させやすくなり、当量比を比較的低くしてもゲル化点を比較的早くすることができる。
なお、硬化性組成物における上記水の含有量は、カールフィッシャー法で測定することで求めることができる。
【0069】
(その他の添加剤)
本発明の硬化性組成物は、上記以外の添加剤を含有してもよく、そのような添加剤としては、水以外の主剤と硬化剤との反応を促進する、ビスフェノールFなどの硬化触媒、主剤と硬化剤の反応を抑制する反応速度制御剤(反応遅延剤)、アマイドなどのチクソ性付与剤、難燃剤、可塑剤、フェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、着色剤などが挙げられる。
なお、可塑剤を用いる場合には、分子量が高いものを使用することが好ましく、また反応性可塑剤または実質的に不揮発性の可塑剤を用いることがより好ましい。
【0070】
<供給形態>
本発明の接着剤の供給形態は、1液型でもよいし、第1剤と第2剤を組み合わせてなる2液型でもよいが、保存安定性の観点から、2液型が好ましい。
2液型の接着剤において、第1剤と第2剤の体積比(第2剤/第1剤)は、1又は1に近い値であることが好ましく、具体的には0.9以上1.1以下が好ましく、0.95以上1.05以下がより好ましい。このように、第1剤と第2剤の体積比を1又は1に近い値とすることで、接着剤の調製が容易になる。
【0071】
また、2液型の接着剤において、第1剤と第2剤は、いずれも常温(25℃)で液状であり、第1剤と第2剤の圧縮荷重は、同一であるか、圧縮荷重が違っても圧縮荷重差が小さいことが好ましい。このように、第1剤と第2剤の圧縮荷重を互いに同一とし、又は近い値とすることで、接着剤を均一に混合しやすくなる。
具体的な第1剤の圧縮荷重(N)と、第2剤の圧縮荷重(N)との圧縮荷重差は、450N以下であることが好ましく、250N以下であることがより好ましく、50N以下であることがさらに好ましい。なお、圧縮荷重の測定方法は、実施例に示す通りである。
【0072】
2液型の接着剤は、より具体的には、第1剤がバインダーの主剤を含み、第2剤がバインダーの硬化剤を含むとよい。硬化剤は、第1剤と混合することで硬化する硬化剤を使用するとよい。以下、2液型の接着剤の構成について、バインダーがエポキシ系である場合を代表的に詳細に説明する。
【0073】
2液型の接着剤において、第1剤は、主剤を含むが、硬化剤を含有しなくてよい。一方で、第2剤は、硬化剤を含有するが、主剤を含有しなくてもよい。ただし、第2剤は、硬化剤と反応しない限り、主剤を含有してもよい。
【0074】
また、熱伝導性充填材は、第1剤及び第2剤の少なくとも一方に含有されるが、第1剤及び第2剤のいずれにも含有されることが好ましい。
したがって、第1剤は、主剤と、熱伝導性充填材を含み、かつ第2剤は、硬化剤と熱伝導性充填材を含むことが好ましい。そして、第1剤に硬化剤を含まず、第2剤に主剤を含まないことがさらに好ましい。したがって、接着剤の主剤は、全て第1剤に含まれ、接着剤の硬化剤は全て第2剤に含まれることがさらに好ましい。
【0075】
また、熱伝導性充填材は、上記の通り第1剤と第2剤の両方に含有されることが好ましいが、中でもおおよそ均等に第1剤及び第2剤に含有されることがより好ましい。具体的には、第1剤における熱伝導性充填材の含有量に対する、第2剤における熱伝導性充填材の含有量の比(体積比)は、0.67以上1.5以下が好ましく、0.83以上1.2以下がより好ましく、0.91以上1.1以下がさらに好ましい。熱伝導性充填材を第1剤と第2剤におおよそ均等に配分することで、第1剤と第2剤の圧縮荷重差を小さくしやすくなり、また、第1剤と第2剤の体積比も1に近づけやすくなる。
【0076】
また、前記第1剤と第2剤の圧縮荷重差は、用いるエポキシ基含有化合物やアミンなどの硬化剤の粘度によって調整することもできる。例えば、具体的には、エポキシ基含有化合物が含まれる第1剤の粘度を低めたい場合には、低粘度のエポキシ基含有化合物を用いるか、含有量を増やせばよい。また、分散剤や可塑剤を添加することで、粘度を低く調整しても良い。
【0077】
第1剤と第2剤の密度は、互いに近い方が混合しやすい場合があり、これらの密度の差は小さい方が好ましい。具体的には、第1剤の密度と第2剤の密度との比(密度比ともいう)は、0.7以上1.4以下が好ましく、0.8以上1.2以下がより好ましく、0.9以上1.1以下がさらに好ましい。密度比を小さくするためには、第1剤と第2剤の熱伝導性充填材の含有量を上記範囲内で調整すればよい。
2液型において、分散剤やその他の添加剤は、必要に応じて第1剤及び第2剤の一方又は両方に含有させるとよい。例えば、分散剤は、熱伝導性充填材が第1剤及び第2剤の両方に含有される場合には、第1剤及び第2剤の両方に含有させればよい。また、水は、第1剤又は第2剤のいずれかに含有させればよいが、第2剤に含有させ、第1剤に含有させないことが好ましい。
【0078】
2液型の接着剤において、第1剤の官能基濃度(mol/g)に対する、第2剤の官能基濃度(mol/g)の比は1.05以上2.9以下であることが好ましい。第1剤と第2剤の官能基濃度を上記範囲内とすることで、第1剤と第2剤を体積比1:1で混合すると、主剤と硬化剤が適切な当量比で反応して、速硬化性を有しつつ、可使時間も長くしやすくなる。
当該官能基濃度の比は、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましく、1.4以上がよりさらに好ましく、また、2.6以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましく、1.8以下がよりさらに好ましい。
【0079】
なお、官能基濃度とは、主剤又は硬化剤に含まれる、硬化剤又は主剤に反応し得る官能基の濃度であり、エポキシ基含有化合物ではエポキシ基が官能基となり、単位量(g)当たりのエポキシ基の数が官能基濃度となる。また、アミンやチオールでは活性水素が官能基となり、単位量(g)当たりの活性水素の数が官能基濃度となる。
例えば、好ましい態様において、第1剤がエポキシ基含有化合物及び多官能アクリレート化合物を含有するが、アミン及びチオールを含有せず、かつ第2剤がアミン及びチオールのいずれかを含有するが、エポキシ基含有化合物及び多官能アクリレート化合物を含有しない。その場合、第1剤のエポキシ基及び(メタ)アクリロイル基の合計濃度が第1剤の官能基濃度となり、第2剤のアミン及びチオールの活性水素の濃度が第2剤の官能基濃度となる。
【0080】
接着剤が2液型である場合、第1剤と第2剤は、別々の容器に充填されることが好ましく、具体的には第1剤が第1の容器に、第2剤が第2の容器に充填されるとよい。第1の容器と第2の容器は、別体であってもよいし、一体となってもよい。第1の容器と第2の容器が一体となることで、容器セットとして需要先への供給が容易となる。なお、本明細書では、第1剤が充填された第1の容器と、第2剤が充填された第2の容器を纏めて容器セットということがある。
【0081】
容器としては、シリンジやカートリッジ、ペール缶やドラム缶等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、シリンジに充填される場合、2液並列タイプのシリンジとすることが好ましい。図1に示すとおりに、2液並列タイプのシリンジ30は、第1の容器を構成する第1のシリンジ31と、第2の容器を構成する第2のシリンジ32が並列されて一体となったものである。シリンジ31、32に充填された第1剤35及び第2剤36は、シリンジをディスペンサーとしてシリンジから吐出されて混合されるとよい。
【0082】
また、カートリッジを用いる場合、容器セットは、第1の容器を構成する第1のカートリッジと、第2の容器を構成する第2のカートリッジからなり、これらカートリッジは一体となっていてもよい。なお、カートリッジは、通常、シリンジ(例えば、第1のシリンジ、第2のシリンジ)などにセットされて、第1のカートリッジから送出された第1剤、第2のカートリッジから送出された第2剤が、各シリンジをディスペンサーとして、第1のシリンジ及び第2のシリンジそれぞれの吐出口から吐出されて混合されるとよい。
【0083】
第1剤及び第2剤の混合は、スタティックミキサーなどの混合器で行うとよい。例えば、図1に示すとおりに、スタティックミキサー38は、第1のシリンジ31の吐出口31Aと第2のシリンジ32の吐出口32Aに接続され、各吐出口31A,32Aから吐出された第1剤35及び第2剤36をミキサー38内部で混合させることが可能である。ミキサー38で混合されて得られた混合物(硬化性組成物)は、ミキサー38の吐出口39から吐出されるとよい。
各シリンジ31、32は、第1剤35及び第2剤36それぞれが充填されるバレル33A,34Aの開口が蓋体33B,34Bで閉じられた構造を有するとよい。図1に示すシリンジ30において、第1剤35及び第2剤36は、各蓋体33B,34Bが外され、開口から挿入されたピストン(図示しない)によって押し出されて、各吐出口31A,32Aからから吐出されるとよい。
【0084】
また、ペール缶を使用する場合、容器セットは、図2に示すとおりに、第1の容器を構成し、内部に第1剤45が充填される第1のペール缶41と、第2の容器を構成し、内部に第2剤46が充填される第2のペール缶42を備えるとよい。なお、各ペール缶41、42は、例えば、第1剤45及び第2剤46が内部に充填され、開口を有する容器本体43A、44Aと、各容器本体43A,44Aの開口を閉じる蓋体43B、44Bを備える。
【0085】
(接着剤の調製方法)
本発明の接着剤が2液型である場合、第1剤及び第2剤はそれぞれ、第1剤及び第2剤それぞれを構成する成分を混合して得るとよい。同様に1液型である場合には、接着剤を構成する各成分を混合して得るとよい。各成分を混合する方法は、特に限定されないが、例えば、バインダーに、必要に応じて配合される熱伝導性充填材、さらには、必要に応じて配合される分散剤などの添加剤などを添加し、その後攪拌ないし混練などすることで調製するとよい。
【0086】
また、熱伝導性充填材は、分散剤によって表面処理された上で、バインダーと混合してもよい。熱伝導性充填材は、分散剤によって予め表面処理されることで、予め分散剤によって表面修飾されることになる。そして、予め表面修飾された熱伝導性充填材をバインダーに混合させて、接着剤を調製するとよい。
分散剤を用いて予め表面処理をする方法は、特に制限はなく、公知の方法で行えばよく、例えば、湿式処理法、乾式処理法などを用いることができる。湿式処理法では、例えば、分散剤を溶媒に分散又は溶解した処理液中に、熱伝導性充填材を加えて混合し、その後、乾燥、加熱処理、洗浄などすることで、熱伝導性充填材の表面に分散剤を結合ないし付着させるとよい。また、乾式処理法は、分散媒を使用せずに表面処理する方法であり、具体的には、熱伝導性充填材に分散剤を混合しミキサー等で攪拌し、その後、加熱処理することで、熱伝導性充填材の表面に分散剤を結合ないし付着させる方法である。
【0087】
[熱伝導性部材]
本発明の接着剤は、熱伝導性部材として使用されるとよい。本発明の接着剤は、硬化することで熱伝導性部材となるものである。本発明の熱伝導性部材は、高分子マトリクスと、熱伝導性充填材とを含む。高分子マトリクスは、バインダーが硬化されてなるものであり、熱伝導性充填材は、高分子マトリクス中に分散されて高分子マトリクスに保持される。したがって、例えば、バインダーがエポキシ系である場合には、高分子マトリクスは、エポキシ樹脂硬化物からなるものである。
熱伝導性部材は、発熱体と放熱体などの2つの部材間に配置されて使用されるとよい。発熱体は、バッテリーなどの熱を発する電子部品が挙げられる。放熱体は、筐体や、ヒートシンク、冷却プレートなどの冷却部材が挙げられる。
【0088】
なお、熱伝導性充填材における熱伝導性充填材の詳細は、上記接着剤における熱伝導性充填材における詳細と同様であるのでその説明は省略する。また、高分子マトリクスを形成するためのバインダーについても上記接着剤におけるバインダーにおける詳細と同様であるのでその説明は省略する。分散剤やその他の添加剤についても同様である。
ただし、上記ではバインダーの含有率、及び熱伝導性充填材の含有率について、接着剤全体の体積基準で述べたが、熱伝導性部材は、接着剤から形成されたものであるので、上記で述べた接着剤全体の体積基準の含有率は、熱伝導性部材においては、熱伝導性部材全体の体積基準の含有率とみなすことができる。
【0089】
[用途]
本発明の接着剤及び熱伝導性部材は、様々な用途に使用でき、例えば、リチウムイオンバッテリ(LiB)アセンブリなどのバッテリアセンブリ、電力電子機器、電子パッケージング、LED、太陽電池、電気グリッドなどの各種の電子機器用途に使用できる。これらの中でも、好ましくはバッテリアセンブリに使用され、さらに好ましくはLiBアセンブリに使用される。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、上記した熱伝導性部材を備える、バッテリアセンブリを提供する。なお、LiBアッセンブリなどのバッテリアセンブリは、自動車向けに好ましくは使用できる。
【0090】
バッテリアセンブリ用途において、本発明の接着剤、及び熱伝導性部材は、バッテリアセンブリの間隙材に使用されることが好ましい。また、本発明の接着剤、及び熱伝導性部材は、一態様において、バッテリモジュールに使用されることが好ましく、バッテリモジュールの間隙材に使用されることがより好ましい。以下、本発明の熱伝導性部材がバッテリモジュールに適用された例を説明する。
【0091】
バッテリモジュールは、熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、間隙材は、モジュール筐体の内部に配置される。熱伝導性部材からなる間隙材は、バッテリセル相互間、及びバッテリセルとモジュール筐体間に充填されており、充填されている間隙材は、バッテリセル、及びモジュール筐体に密着する。これにより、バッテリセル間の間隙材は、バッテリセル相互間の離間状態を保持する機能を有している。また、バッテリセルとモジュール筐体との間の間隙材は、バッテリセルとモジュール筐体の双方に密着し、バッテリセルで発生する熱をモジュール筐体に伝える機能を有している。
【0092】
図3は、バッテリモジュールの具体的な構成を示す。図4は各バッテリセルの具体的な構成を示す。図3で示すように、バッテリモジュール10の内部には、複数のバッテリセル11が配置される。各バッテリセル11は、可撓性の外装フィルム内にラミネートして封入したものであり、全体的な形状は、高さや幅の大きさに比べて厚さが薄い偏平体である。こうしたバッテリセル11は、図4で示すように、正極11aと負極11bが外部に表れ、偏平面の中央部11cは圧着された端部11dよりも肉厚に形成されている。
【0093】
図3に示すように、各バッテリセル11は、その偏平面同士が対向するように配置されている。図3の構成において、間隙材13は、モジュール筐体12の内部に格納される、複数のバッテリセル11の全体を覆うようには充填されていない。間隙材13は、モジュール筐体12の内部の一部分(底側部分)に存在する間隙を満たすように充填されている。間隙材13は、バッテリセル11相互間、および、バッテリセル11とモジュール筐体12の間に充填され、この部分のバッテリセル11の表面、および、モジュール筐体12の内面と密着されている。
【0094】
バッテリセル11相互の間に充填される間隙材13は、双方のバッテリセル11の表面に接着されているが、間隙材13自体は、適度の弾性と柔軟性を有することで、バッテリセル11相互の間隔を変位する外力が印加されても、外力による歪み変形を緩和することができる。したがって、間隙材13は、バッテリセル11相互間の離間状態を保持する機能を有している。
バッテリセル11とモジュール筐体12の内面との間の間隙に充填されている間隙材13も、バッテリセル11の表面と、モジュール筐体12の内面に、密に接着されている。その結果、バッテリセル11の内部で発生する熱は、バッテリセル11の表面に接着している間隙材13を経由して、該間隙材13の他の面により密着されているモジュール筐体12の内面へと伝えられる。
【0095】
バッテリモジール10内への間隙材13の形成は、一般的なディスペンサーを用いて、液状の接着剤を塗布した後、その液状の接着剤を硬化させることで行うとよい。また、本発明の接着剤は、上記した通り、低粘度であるため、間隙材13の形成時の作業性が良好になる。
間隙材13を形成させる際、上記の通り2液型の接着剤を使用することが好ましい。2液型は、保管が容易であるとともに、使用直前に混合すればディスペンサーで塗布する作業時には硬化し難く、塗布後は速やかに硬化させることができる。また、ディスペンサーでの塗布は、バッテリモジュール10の筐体12内の比較的奥深くまで、液状の接着剤を充填させることができる点でも好ましい。
【0096】
バッテリセル11を覆う間隙材13は、バッテリセル11の一方側において、各バッテリセル11の20~40%覆うことが好ましい。20%以上とすることで、バッテリセル11を安定的に保持することができる。また、発熱量が大きいバッテリセルを十分に覆うことで、放熱効率が良好となる。一方で、40%以下とすることで、バッテリセル11から発生する熱の放熱を効率的に行うことができ、重量増大や、作業性の悪化等も防げる。また、放熱効率を良好にするために、バッテリセル11の電極11a,11bがある側を間隙材13で覆うことが好ましく、電極11a,11bの全体を間隙材13で覆うことがより好ましい。以上のとおり、バッテリモジュール10は、バッテリセル11から発生した熱を、間隙材13を経由して、モジュール筐体12に逃がすことができる。
【0097】
間隙材13は、複数のバッテリモジュール10を内部に備えるバッテリパックに使用することも好ましい。バッテリパックは、一般には、複数のバッテリモジュール10と、該複数のバッテリモジュール10を収容するバッテリパックの筐体とを備える。該バッテリパックにおいて、バッテリモジュール10とバッテリパックの筐体との間に間隙材13を設けることができる。これにより、上記のとおりモジュール筐体12に逃がした熱をさらに、バッテリパックの筐体に逃がすことができ、効果的な放熱が可能となる。
【0098】
また、以上の説明においては、バッテリアセンブリは、バッテリモジュールや、バッテリモジュールを備えるバッテリパックである例を説明したが、バッテリモジュールを有しないバッテリアセンブリに適用されてもよく、例えば、セルトゥパック構造を有するバッテリアセンブリに適用されることも好ましい。
【0099】
セルトゥパック構造を有するバッテリアセンブリの模式図を図5に示す。セルトゥパック構造を有するバッテリアセンブリ20は、複数のバッテリセル21と、バッテリパックの筐体を備え、バッテリパックの筐体を構成するベース部材25に複数のバッテリセル21が、熱伝導性部材(接着剤の硬化物)からなる間隙材23を介して接着されている。ベース部材25は、クーリングプレートなどを構成してもよい。なお、バッテリアセンブリ20における間隙材23の形成は、上記バッテリモジュールにおける間隙材13の形成と同様に行うとよく、例えば、一般的なディスペンサーを用いて行うとよい。本発明の接着剤は、粘度が低いため、間隙材23を形成するときの作業性も良好になる。また、本発明の接着剤は、速硬化性を有しながらも、硬化初期においては圧縮荷重を低くでき、可使時間を長くできるので、セルトゥパック構造を有するバッテリアセンブリにおいても、ベース部材25にバッテリセル21を高い作業性で接着することができる。
【実施例0100】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0101】
[熱伝導率]
接着剤の第1剤と第2剤の熱伝導率はASTM D5470-06に準拠した測定装置を用いて熱抵抗を測定する方法で求めた。
具体的には、発熱体側となる測定ダイを覆うように接着剤を測定時の厚さより多めに配置し、その後放熱体で挟み込み、30psiの荷重で接着剤の厚さが1.0mm、1.5mm、2.0mmになるまで圧縮して各厚さの熱抵抗を測定した。厚さはスペーサーで調整することができる。これら3つの熱抵抗の値について、横軸が厚さ、縦軸が熱抵抗値のグラフを作成し、最小二乗法により3点の近似直線を求めた。そして、その近似直線の傾きが熱伝導率となる。
熱抵抗の測定は、80℃にて行い、Long Win Science and Technology Corporation製のLW-9389により行った。また、測定ダイの面積は1インチ×1インチとした。
【0102】
[圧縮荷重]
大きさが50mm×50mm×厚さ12μmのアルミホイル上に、配合通りに調製した接着剤を2g置き、アルミホイルで包み35℃の恒温槽に6分入れて、測定サンプルを得た。その後、サンプルを載せずに荷重値が3.6kgになるように測定箇所に治具を押し付け、そこから10mm離した点を測定開始位置(ゼロ点)とした。下記に示す条件で測定サンプルの圧縮荷重を測定した。第1剤及び第2剤についても同様に測定した。
試験スピード:60mm/秒
治具サイズ:3cmφ
結果読み取り値:変位8.80mmの結果を圧縮荷重値とした。
試験環境:25℃、50%RH
得られた圧縮荷重の値より、以下の4段階で評価を行った。なお、圧縮荷重は、硬化初期における圧縮荷重を示すものであり、値が低いほど仮接着がしやすく、可使時間も長くなる傾向になる。
(評価基準)
AA:500N以下
A:800N以下
B:800N超1000N以下
C:1000N超1500N以下
D:1500N超
【0103】
[接着力(1時間後)]
接着剤の硬化物の18℃での接着力(1時間後)は、DIN EN 1465に準拠して以下の方法で測定した。まず、幅25mm、長さ100mmで厚み2mmのPET板(商品名「PET-6010」、タキロンシーアイ社製)を2枚用意した。そして、一方の板の長手方向端部に、板幅全体にわたって5mm分の長さで硬化後の厚みが1mmとなるように接着剤を塗布した。その後、塗布した接着剤の上にもう1枚の板の長手方向端部を重ね、その状態で18℃、50%RH環境下で1時間放置することで、接着剤を硬化させて測定サンプルを得た。測定サンプルは、2枚のPET板が長さ5mm分だけ幅全体にわたって重なり、その重なる部分でフィルム同士が接着剤の硬化物(サイズ:25mm×5mm、厚み1mm)を介して接着されて形成されたものであり、幅25mm、長さ195mmのサイズを有していた。
【0104】
[接着力(18時間後)]
接着剤の塗布後、18時間放置した以外は、接着力(1時間後)の測定と同様の測定方法により、接着力(18時間後)を測定した。
【0105】
[ゲル化時間]
第1剤及び第2剤を混合して得たサンプルを使用して、レオメーターにより弾性率G’、弾性率G’’を測定した。具体的には、アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、ペルチェプレートを用い25℃条件で歪(ひずみ)を発生させつつ、周波数を1Hzとし、120分連続で各試料の弾性率G’、G’’の変化を測定した。そして、測定開始から見て弾性率G’(貯蔵弾性率)と弾性率G’’(損失弾性率)とが等しくなったゲル化点までの時間をゲル化時間とした。測定は、第1剤及び第2剤を混合後に直ちに開始した。
【0106】
[弾性率G’(15分後)]
アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、上記ペルチェプレートを用い25℃条件で歪(ひずみ)を発生させつつ、周波数を1Hzとして測定し、該測定の開始から15分後における弾性率G’を記録した。測定手法及び条件は、上記のゲル化時間と同様にした。
【0107】
[弾性率G’’(15分後)]
アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、ペルチェプレートを用い25℃条件で歪(ひずみ)を発生させつつ、周波数を1Hzとして測定し、該測定の開始から15分後における弾性率G’’を記録した。測定手法及び条件は、上記のゲル化時間と同様にした。
【0108】
[貯蔵弾性率(60分後)]
アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、ペルチェプレートを用い25℃条件で歪(ひずみ)を発生させつつ、周波数を1Hzとして測定し、該測定の開始から60分後における弾性率G’を記録した。測定手法及び条件は、上記のゲル化時間と同様にした。
【0109】
[実施例1~6、比較例1~3]
表1及び2の配合に従って、各成分を混合して第1剤及び第2剤を調製した。調整した第1及び第2剤を各50ccの2液並列カートリッジに充填し、スタティックミキサーを使用して体積比1:1で室温下で混合して接着剤を得た。得られた接着剤の各物性値を求め、評価試験も実施した。
【0110】
各実施例、比較例で使用した各成分は、以下の通りであった。
(エポキシ基含有化合物)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂:商品名「jER806」、三菱ケミカル社製、エポキシ当量165g/eq、分子量330、粘度(25℃)2000mPa・s(カタログ値)
多官能エポキシ樹脂:商品名「EX-321」、ナガセケムテックス社製、分子量280、エポキシ当量140g/eq、粘度(25℃)130mPa・s(カタログ値)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル
単官能エポキシ樹脂:脂肪族グリシジルエーテル(脂肪族アルコールがC12-14)、商品名「エポゴーセーML」、四日市合成社製、エポキシ当量282g/eq、官能基数1、分子量282
グリシジルエーテル:商品名「デナコールEX146」、ナガセケムテックス社製、分子量225、4-t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、エポキシ当量225g/eq
【0111】
(多官能アクリレート化合物)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:商品名「DPHA」、ダイセル・オルニクス社製、分子量520
(アミン硬化剤)
トリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミン:商品名「T-403」、HUNTSMAN社製、分子量440、粘度(25℃)0.7Pa・s(カタログ値)、活性水素当量73.3g/eq
ポリ(オキシプロピレン)ジアミン:商品名「D-230」、HUNTSMAN社製、分子量230、粘度(25℃)0.1Pa・s(カタログ値)
ポリ(オキシプロピレン)ジアミン:商品名「D-400」、HUNTSMAN社製、分子量430、活性水素当量107.5g/eq、粘度(25℃)0.3Pa・s(カタログ値)
ポリアミドアミン:商品名「ancamide506」、EVONIK社製、活性水素当量110g/eq、粘度(25℃)0.3Pa・s、アミドアミン
フェナルカミン型マンニッヒ塩基:商品名「NC-540」、カードライトジャパン社製、活性水素当量85g/eq、粘度(25℃)2Pa・s
アミドアミン:商品名「TD-960」、DIC社製、活性水素当量77g/eq、粘度(25℃)75Pa・s(カタログ値)
(チクソ性付与剤)
アマイド粉末:商品名「6650」、楠本化成社製
(分散剤)
高分子系分散剤(酸性基含有コポリマー)
(熱伝導性充填材)
水酸化アルミニウム1:平均粒径1μm
水酸化アルミニウム2:平均粒径10μm
水酸化アルミニウム3:平均粒径50μm
水酸化アルミニウム4:平均粒径105μm
(触媒)
ビスフェノールF:商品名「ビスフェノールF」、本州化学社製
純水
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
以上の実施例から明らかな通り、本発明の要件を満たす硬化性熱伝導性接着剤は、ゲル化時間が適切であり、各成分を混合、塗布してから1時間後には仮接着可能な程度に接着力を発現できていた。また、混合直後の接着剤の圧縮荷重が低く低粘度であるため、十分に圧縮させた状態で被着体に貼り合わせることもできる。そして、各成分を混合、塗布してから18時間後には、十分な接着力を発現できていたため、速硬化性を有しつつ、可使時間が長い接着剤とすることができた。
これに対し、比較例1では、ゲル化時間が短すぎたことで、接着剤の圧縮荷重が高くて粘度が高い結果となり、そこから可使時間が短くなったことが見て取れた。
また、比較例2で作製した接着剤は、ゲル化時間が長すぎたり、各成分を混合、塗布してから60分後の貯蔵弾性率が低すぎたりしたため、接着剤の硬化が十分進行しなかったことで、各成分を混合、塗布してから18時間後においても十分な接着力を発現できなかった。
さらに、比較例3で作製した接着剤は、各成分を混合、塗布してから60分後の貯蔵弾性率が低すぎたため、接着剤の硬化が十分進行しなかったことで、各成分を混合、塗布してから18時間後においても十分な接着力を発現できなかった。
【符号の説明】
【0115】
10 バッテリモジュール
11、21 バッテリセル
12 バッテリモジュールの筐体(モジュール筐体)
13、23 間隙材
20 バッテリアセンブリ
25 ベース部材
30 シリンジ
31 第1のシリンジ
31A 第1のシリンジの吐出口
32 第2のシリンジ
32A 第2のシリンジの吐出口
33A、34A バレル
33B、34B バレルの蓋体
35、45 第1剤
36、46 第2剤
38 ミキサー
39 ミキサーの吐出口
41 第1のペール缶
42 第2のペール缶
43A、44A 開口を有する容器本体
43B、44B 容器本体の開口を閉じる蓋体
図1
図2
図3
図4
図5