(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098549
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】鋼板の搬送設備及び焼鈍鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/56 20060101AFI20250625BHJP
【FI】
C21D9/56 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214761
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘和
(72)【発明者】
【氏名】武田 玄太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉本 宗司
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 顕一
(72)【発明者】
【氏名】山城 研二
【テーマコード(参考)】
4K043
【Fターム(参考)】
4K043AA01
4K043CA01
4K043CA02
4K043CB01
4K043CB02
4K043CB03
4K043CB04
4K043CB06
4K043DA05
4K043EA06
4K043GA08
(57)【要約】
【課題】搬送ロールに付着する付着物の成長を抑制できる鋼板の搬送設備を提供する。
【解決手段】連続焼鈍設備において鋼板を搬送する鋼板の搬送設備であって、鋼板を搬送する搬送ロールと、搬送ロールを研磨する研磨部材と、を有し、搬送ロールは、周面から径方向に突出する複数の金属製のワイヤーを有するブラシロールである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続焼鈍設備において鋼板を搬送する鋼板の搬送設備であって、
前記鋼板を搬送する搬送ロールと、
前記搬送ロールを研磨する研磨部材と、
を有し、
前記搬送ロールは、周面から径方向に突出する複数の金属製のワイヤーを有するブラシロールである、鋼板の搬送設備。
【請求項2】
前記ワイヤーの直径は20μm以上500μm以下である、請求項1に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項3】
前記ワイヤーの長さは1mm以上30mm以下である、請求項1又は請求項2に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項4】
前記ワイヤーは、タングステン、モリブデン、コバルト、ニッケルクロム合金又はステンレスで構成される、請求項1又は請求項2に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項5】
前記ワイヤーは、タングステン、モリブデン、コバルト、ニッケルクロム合金又はステンレスで構成される、請求項3に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項6】
前記研磨部材は平板、砥石又は研磨ロールである、請求項1又は請求項2に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項7】
前記研磨部材は平板、砥石又は研磨ロールである、請求項3に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項8】
前記研磨部材は平板、砥石又は研磨ロールである、請求項4に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項9】
前記搬送ロールからの脱落物を回収する回収装置を有する、請求項1又は請求項2に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項10】
前記搬送ロールからの脱落物を回収する回収装置を有する、請求項3に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項11】
前記搬送ロールからの脱落物を回収する回収装置を有する、請求項4に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項12】
前記搬送ロールからの脱落物を回収する回収装置を有する、請求項5に記載の鋼板の搬送設備。
【請求項13】
請求項1又は請求項2に記載の鋼板の搬送設備で鋼板を搬送し、前記連続焼鈍設備で鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板を製造する、焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項14】
請求項3に記載の鋼板の搬送設備で鋼板を搬送し、前記連続焼鈍設備で鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板を製造する、焼鈍鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続焼鈍設備において鋼板を搬送する鋼板の搬送設備及び焼鈍鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高張力鋼板の需要が高まり、高張力鋼板の製造割合が増加している。高張力鋼板は、SiやMn添加により、強度及び加工に有利な鋼板が製造できる可能性が示されている。一方、連続焼鈍工程において高張力鋼板を製造する場合、高強度化の観点から、加熱した鋼板を冷却する処理が必要である。またプレス成形性の観点から、冷却された鋼板を再度加熱する焼戻し処理が必要となる。
【0003】
鋼板は、たとえば、予熱帯で約150℃に予熱され、酸化・還元帯で約800℃に加熱され、急冷帯で500℃まで急冷されるという焼鈍工程を経て焼戻し処理される。その際、Si、Mn等の易酸化性元素を含む鋼板では、還元帯においてSi、Mn等の添加元素が鋼板表面に濃化し、これらの酸化物が生成される。これら酸化物が搬送ロールに付着したロール付着物は鋼板の押し疵(表面欠陥)の原因となる。
【0004】
ロール付着物による鋼板の押し疵を防止する技術として、特許文献1には、摩耗性コーティングを用いて、ロール付着物質が摩耗と共に脱落することで、押し疵を防止する方法が開示されている。特許文献2には、画像処理装置により付着物を検知し、接触体によりロール表面の付着物を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6538816号公報
【特許文献2】特公平3-21606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示された技術によってロール付着物を除去できるものの、連続焼鈍設備において、高温環境下で易酸化性元素であるMnやSiを含有する鋼板による搬送ロールへの急激な付着物の成長を抑制するには不十分であるという課題がある。本発明は、このような従来技術の課題を鑑みてなされた発明であり、その目的は、搬送ロールに付着する付着物の成長を抑制できる鋼板の搬送設備及び当該搬送設備で鋼板を搬送し、連続焼鈍設備で焼鈍鋼板を製造する焼鈍鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 連続焼鈍設備において鋼板を搬送する鋼板の搬送設備であって、前記鋼板を搬送する搬送ロールと、前記搬送ロールを研磨する研磨部材と、を有し、前記搬送ロールは、周面から径方向に突出する複数の金属製のワイヤーを有するブラシロールである、鋼板の搬送設備。
[2] 前記ワイヤーの直径は20μm以上500μm以下である、[1]に記載の鋼板の搬送設備。
[3] 前記ワイヤーの長さは1mm以上30mm以下である、[1]又は[2]に記載の鋼板の搬送設備。
[4] 前記ワイヤーは、タングステン、モリブデン、コバルト、ニッケルクロム合金又はステンレスで構成される、[1]から[3]のいずれかに記載の鋼板の搬送設備。
[5] 前記研磨部材は平板、砥石又は研磨ロールである、[1]から[4]のいずれかに記載の鋼板の搬送設備。
[6] 前記搬送ロールからの脱落物を回収する回収装置を有する、[1]から[5]のいずれかに記載の鋼板の搬送設備。
[7] [1]から[3]のいずれかに記載の鋼板の搬送設備で鋼板を搬送し、前記連続焼鈍設備で鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板を製造する、焼鈍鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鋼板の搬送設備では、鋼板を搬送する搬送ロールにブラシロールを用いることで付着物と搬送ロールとの接触面積が小さくなり、その付着力は低減する。従って、搬送ロールにブラシロールを用いることで、酸化物が付着しても容易に脱落させることができ、搬送ロールに付着する付着物の成長を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、連続焼鈍設備の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る鋼板の搬送設備の構成例を示す側面模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る鋼板の搬送設備の別の構成例を示す側面模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る鋼板の搬送設備の別の構成例を示す側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を通じて本発明を説明する。但し、以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの実施形態によって、本発明は何ら限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る鋼板の搬送設備は、連続焼鈍設備100において鋼板10を搬送するのに好適に用いられる。まず、連続焼鈍設備100について説明する。
図1は、連続焼鈍設備100の構成例を示す模式図である。連続焼鈍設備100は加熱帯12、均熱帯14、冷却帯16及び過時効帯18を含む。また、連続焼鈍設備100には、必要に応じて亜鉛鍍金など表面処理を施す設備が設けられていてもよい。
【0012】
加熱帯12には、鋼板10を昇温する設備が設けられる。加熱帯12では、直火又は輻射式の燃焼バーナが用いられる。加熱帯12において鋼板10は、その成分組成に応じて600~900℃程度の予め設定された温度に加熱される。
【0013】
均熱帯14には、鋼板10を所定温度に保持する設備が設けられる。鋼板10を所定温度に保持する設備は、炉体放散熱などを補う程度の加熱容量の設備である。
【0014】
冷却帯16には、鋼板10を所定の温度まで冷却する設備が設けられる。冷却帯16における冷却手段として液体冷却、ガスジェット冷却、ロール冷却、ミスト冷却(気液混合冷却)などが用いられる。液体冷却は、水を用いた水冷却(ウォータークエンチ)により行われることが多い。水冷却は、均熱帯14の下流側に設置された浸漬水槽に鋼板10を浸漬させて冷却する冷却手段である。ガスジェット冷却は、鋼板10の表面にノズルから気体を吹き付ける冷却手段である。ロール冷却は、鋼板10を水冷ロールに接触させて冷却する冷却手段である。ミスト冷却は、水を微細な霧状に噴霧してその気化熱の吸収により鋼板10を冷却する冷却手段である。ミスト冷却では、噴霧される水滴の大きさは0.1~1mm程度であることが多い。
【0015】
過時効帯18は、鋼板10を300~400℃程度の温度まで再加熱し、当該温度で所定時間保持する過時効処理を行う設備である。このような連続焼鈍設備100で、鋼板10は、水素、窒素等の混合ガスからなる還元雰囲気で加熱帯12、均熱帯14にて加熱及び還元処理され、冷却帯16で冷却され、過時効帯18で焼き戻し処理される。
【0016】
連続焼鈍設備100で処理される鋼板10のSiやMnの含有量が0.3質量%以上であると、当該鋼板10のSiやMnが酸化されて表層に濃化しやすくなる。Si及びMnは、鋼板10の機械的な特性改善に有効となる元素であり、SiとMnではSiの方が酸化されやすい。このため、Si添加鋼であれば、鋼板10の表層にSi酸化物が生成される一方、Mn酸化物の生成は抑制される傾向がある。しかしながら、Siの含有量が少ない鋼板では、Mnが最も表層に濃化しやすくなるので、鋼板10のMn酸化物が生成され、表層に濃化する。
【0017】
鋼板10の表層における酸化物の濃化と当該酸化物の搬送ロールへの付着は、鋼板10の温度と高い相関がある。鋼板10の温度が高くなるほど鋼板10の表層へのSi及びMnの酸化物の濃化が促進される。鋼板10の表層に濃化したSi及びMnの酸化物は搬送ロールの表面に付着する。搬送ロールの表面に付着したSi及びMnの酸化物が加熱されると、当該酸化物の焼結体が形成され、搬送ロールの表面に固着する。焼結体が形成される温度は、酸化物の融点の半分程度の温度であるので、搬送ロールの表面温度が700℃以上になると顕著になる。
【0018】
竪型の連続焼鈍設備では、搬送ロールに巻き付いて鋼板10が搬送されるので、搬送ロールのロール曲率に応じたひずみが導入される。搬送時のひずみの導入を少なくするため、竪型の連続焼鈍設備では、水平の連続焼鈍設備と比較して大きな直径の搬送ロールが用いられる。竪型の連続焼鈍設備では直径が400mm以上の搬送ロールが好適に用いられる。
【0019】
一方、搬送ロールの直径が大きくなると、熱膨張により搬送ロールの軸方向の中央部の径が両端部の径よりも大きくなり、当該中央部と両端部とのロール周長の差が大きくなる。これにより、搬送ロールの軸方向の位置によって鋼板10と搬送ロールとに速度差が生じ、鋼板10と搬送ロール表面とが擦れることで鋼板10の表層に濃化した酸化物が搬送ロールに付着しやすくなる。
【0020】
連続焼鈍設備100の搬送ロールには、付着物との反応性や密着性を低下させるためにサーメットやセラミックスを溶射したロールが用いられる。しかしながら、このようなロールを用いたとしても、鋼板10の表層に濃化した酸化物が搬送ロールに強固に固着してしまうと、ロール表面から容易に脱落せず、さらにその場所を起点に付着物が成長し、搬送される鋼板10に押し疵欠陥を生じさせる。
【0021】
このような押し疵欠陥の発生を抑制するため、本実施形態に係る鋼板の搬送設備では、搬送ロールにロールの周面から径方向に突出する複数の金属製のワイヤーを有するブラシロールを用いる。ブラシロールを用いることで、鋼板10の表層に濃化した酸化物が搬送ロールの表面に付着しても、当該付着物が付着する起点が面ではなく、ワイヤーの先端となり接触面積が小さくなるのでその付着力も小さくなる。このため、ブラシロールに付着した付着物は容易に脱落し、例えば、鋼板を通板する際の僅かな速度差や衝撃により付着物を脱落させることができ、付着物の成長を抑制できる。このように、搬送ロールにブラシロールを用いることで、搬送ロール表面における付着物の成長を抑制できるようになり、これにより、鋼板10への押し疵欠陥の発生を抑制できるようになる。
【0022】
また、上述したように、搬送ロールの表面温度が700℃以上になると酸化物が搬送ロールに付着し、固着しやすくなることから、本実施形態に係る鋼板の搬送設備は、連続焼鈍設備100において鋼板10が700℃以上に加熱される加熱帯12又は均熱帯14における鋼板10の搬送に用いることが好ましい。但し、700℃以下であっても搬送ロールに付着物が付着するので、700℃以下で搬送される鋼板10に対しても本実施形態に係る鋼板の搬送設備を適用してよい。
【0023】
図2は、本実施形態に係る鋼板の搬送設備20の構成例を示す側面模式図である。本実施形態に係る鋼板の搬送設備20は、搬送ロール22と、研磨ロール24と、回収容器26とを有する。搬送ロール22は、ロール周面から径方向に突出する複数の金属製のワイヤーを有するブラシロールである。なお、搬送ロール22を回転駆動する駆動装置には、従来のブラシロールではない搬送ロールを回転駆動する駆動装置をそのまま用いることができる。
【0024】
ロール周面から径方向に突出する複数の金属製のワイヤーの直径は20μm以上500μm以下であることが好ましい。これにより、ブラシロールの製造コストが上昇すること及びブラシロールの寿命が短くなることを抑制しつつ付着物の脱落性を高めることができる。一方、ワイヤーの直径が20μm未満であると、ブラシロールの量産が困難になり、ブラシロールの製造コストが上昇するので好ましくない。さらに、ワイヤーの直径が20μm未満であると、ワイヤーの摩耗が速くなり、ブラシロールの寿命が短くなるので好ましくない。また、ワイヤーの直径が500μmより大きくなると、付着物とワイヤーとの接触面積が大きくなって、付着物の脱落性が低下するので好ましくない。
【0025】
ロール周面から径方向に突出する複数の金属製のワイヤーの先端までの長さは1mm以上30mm以下であることが好ましい。これにより、ブラシロールの寿命が短くなることを抑制し、且つ、鋼板10を安定して搬送できるようになる。一方、ワイヤーの長さが1mm未満であると、ワイヤーの摩耗によりブラシロールの寿命が短くなるので好ましくない。また、ワイヤーの長さが30mmより長くなると、先端部の密度の低下によりワイヤーが変形し、鋼板10の搬送が不安定になるので好ましくない。
【0026】
ワイヤーは、耐熱性及び耐摩耗性を有するタングステン、モリブデン、コバルト、ニッケルクロム合金又はステンレスで構成されることが好ましい。これにより、700℃以上の高温環境下においても搬送ロールを研磨して付着物を除去できる。
【0027】
ブラシロールのロール部には、耐熱鋳鋼、クロム合金またはニッケル合金等の耐熱性に優れる金属を用いることが好ましい。また、ブラシロールにおけるワイヤー密度は、ワイヤーを埋め込むロール表面積に対し3/5以上であることが好ましい。ワイヤー密度が高い高密度のブラシロールを用いることで、摩耗によるワイヤーの損傷が少なくなり、ブラシロールの耐久性が向上する。
【0028】
研磨ロール24は、例えば、耐熱鋳鋼製のロールの周面にサーメット溶射又はセラミック溶射を施したロールである。研磨ロール24は、搬送ロール22の周面に接触して設けられ、搬送ロール22に付着した付着物を除去する。研磨ロール24は、搬送ロール22との接触位置において、搬送ロール22の回転方向に対して逆向きとなる方向に回転されることが好ましい。これにより、搬送ロール22からの付着物の脱落を促進できる。なお、研磨ロール24は、搬送ロール22を研磨する研磨部材の一例である。研磨部材として、研磨ロール24に代えて、搬送ロール22と同じ幅寸法の鋼製又はセラミック製の平板や砥石を用いてもよい。研磨部材として平板を用いる場合に、平板の取り付け角度は搬送ロール22のロール面とのなす角が90°より小さい鋭角であることが好ましい。これにより、搬送ロール22の回転を妨げることなく、搬送ロールのトルク負荷の増加や変動を抑制できる。
【0029】
なお、研磨ロール24と搬送ロール22とに周速差があれば、接触位置において研磨ロール24を搬送ロール22と逆方向に回転させなくてもよい。すなわち、研磨ロール24と搬送ロール22とに周速差がある場合には、研磨ロール24を搬送ロール22との接触位置において、搬送ロール22の回転方向に対して同じ向きに回転させてもよい。研磨ロール24と搬送ロール22との周速差は、1m/min以上1000m/min以下であればよい。これにより、研磨ロール24によって搬送ロール22の表面に付着した付着物を除去できる。
【0030】
研磨ロール24は、その回転負荷に基づいて搬送ロール22への押し付け力を制御できる制御構成(不図示)を有することが好ましい。このような制御構成を有することで搬送ロール22との接触によるワイヤーの過度の摩耗を回避し、付着物の除去に対して適正が外力を搬送ロール22に付与できるようになる。また、付着物の除去が必要な場合に研磨ロール24を搬送ロール22に接触させ、付着物の除去が必要ではない場合には研磨ロール24の押し付け力を0とする、すなわち、研磨ロール24を搬送ロール22に接触させないとしてもよい。これにより、ブラシロールにおけるワイヤーの摩耗をさらに少なくでき、ブラシロールの寿命を延ばすことができる。
【0031】
研磨ロール24として、搬送ロール20のロール径よりも小さく、ロール径が100mm以上のロールを用いることが好ましい。これにより、第1研磨ロール32のロール寿命の低下や撓みによる変形を抑制できる。また、研磨ロール24として、搬送ロール22よりも搬送ロール22の軸方向の長さが短いロールを用いることが好ましい。このように搬送ロール22よりも軸方向の長さが短い研磨ロール24を搬送ロール22の軸方向に移動させて搬送ロール22を研磨することで、サーマルクラウンによって変形した搬送ロール22のクラウン形状に沿って搬送ロール22を幅方向に均一に研磨できるようになる。さらに研磨ロール24は、軸方向の中央部の径が両端部の径よりも大きく、中央部と両端部とがテーパー形状やR形状によって滑らかに接続された樽形形状のロール(クラウンロール)であることがさらに好ましい。樽形形状のロールを用いることで、搬送ロール22との片当たりが抑制され、搬送ロール22を幅方向に均一に研磨できるようになる。
【0032】
回収容器26は、搬送ロール22から脱落する付着物(以後、「脱落物」と記載する。)を回収する鋼製の箱である。回収容器26を設けることで、搬送ロール22からの脱落物を回収でき、脱落物が鋼板10に再度付着したり、連続焼鈍設備100に付着することを抑制できる。なお、回収容器36は、搬送ロール22からの脱落物を回収する回収装置の一例である。
【0033】
図3は、本実施形態に係る鋼板の搬送設備の別の構成例を示す側面模式図である。
図3に示した鋼板の搬送設備30において、
図2に示した鋼板の搬送設備20と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
図3に示した鋼板の搬送設備30は、
図2に示した鋼板の搬送設備20に対し、研磨ロール32としてブラシロールを有する点と、当該ブラシロールを研磨する鋼製の平板34を有する点において異なる。
【0034】
図3に示すように、搬送ロール22を研磨する研磨ロール32としてロール表面に複数の金属製のワイヤーを有するブラシロールを用いてもよい。これにより、搬送ロール22に付着していた付着物が研磨ロール32に付着したとしても、当該研磨ロールと付着物の付着力が低くなるので、当該付着物を研磨ロール32から容易に脱落させることができる。さらに、研磨ロール32を研磨する平板34を設けることで、研磨ロール32から容易に付着物を脱落できるようになる。
【0035】
図4は、本実施形態に係る鋼板の搬送設備の別の構成例を示す側面模式図である。
図4に示した鋼板の搬送設備40において、
図2に示した鋼板の搬送設備20と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
図4に示した鋼板の搬送設備40は、
図2に示した鋼板の搬送設備20に対し、搬送ロール22が炉床側に設けられている点及び吸塵装置42を有し、回収容器26を有さない点において異なる。
【0036】
炉床側の搬送ロール22には、鋼板10の自重が搬送ロール22にかからないので、鋼板10による面圧が小さくなる。このため、搬送ロール22に付着する付着物の成長は、
図2に示した構成よりも少なくなる。しかしながら、
図4に示した構成においても搬送ロールに付着物が付着し、当該付着物を起点として成長することから本実施形態に係る鋼板の搬送設備40を用いることで、当該ロール表面に付着した付着物を容易に脱落させることができ、その結果、搬送ロール22の表面における付着物の成長を抑制できる。
【0037】
図4に示した構成では、
図2に示した構成のように、重力で落下した落下物を回収するスペースがないので、回収容器26に代えて吸塵装置42を設けることが好ましい。このように吸塵装置42を設けることで、搬送ロール22からの脱落物が鋼板10や搬送ロール22に再度付着することを抑制できる。なお、吸塵装置42は、搬送ロール22からの脱落物を回収する回収装置の他の例である。
【0038】
以上、説明したように本実施形態に係る鋼板の搬送設備を用いることで、搬送ロール表面に付着した付着物を容易に脱落させることができ、これにより、搬送ロール22の表面における付着物の成長を抑制できる。また、このように搬送ロール22において付着物の成長を抑制することで、当該付着物によって鋼板10に生じる押し疵欠陥の発生も抑制できるようになる。すなわち、連続焼鈍設備100において、本実施形態に係る鋼板の搬送設備で鋼板10を搬送することで押し疵欠陥が抑制された焼鈍鋼板の製造が実現できるようになる。
【0039】
なお、本実施形態において、鋼板の搬送設備20、30及び40が回収装置を有する例で説明したがこれに限らない。搬送ロール22に付着する付着物を容易に脱落させ、当該付着物の成長を抑制するという課題を解決するための構成としては、鋼板の搬送設備20、30及び40は回収装置を有さなくてもよい。但し、上述したように、回収装置を有することで搬送ロール及び第1研磨ロールからの脱落物が鋼板10や搬送ロール22に再度付着することが抑制されるので、鋼板の搬送設備20、30及び40は回収装置を有することが好ましい。
【実施例0040】
[実施例1]
次に、
図1に示した連続焼鈍設備100で、Si又はMnを0.3質量%以上含有する鋼板を2000トン以上連続焼鈍した後に搬送ロールに付着した100μm以上の付着物の個数を確認した実施例1を説明する。実施例1で連続焼鈍した鋼板の板厚は0.6~1.8mmの範囲内であり、板幅は800~1500mmの範囲内である。連続焼鈍条件は以下の通りである。
【0041】
雰囲気温度:700℃以上
雰囲気ガス:水素5体積%、窒素95体積%
露点:-35℃
【0042】
連続焼鈍後、連続焼鈍設備100内で鋼板の温度が最も高くなる均熱帯後段の炉頂側に設置された搬送ロールを取り出し、当該搬送ロールに付着した付着物の個数を確認した。
【0043】
発明例では搬送ロールにブラシロールを用いた。ブラシロールの直径は800mmであり、ワイヤーの材質はNi-Cr合金であり、ワイヤーの直径は10μmであり、ワイヤー先端までの長さは15mmであり、ワイヤー密度はワイヤー埋め込み面積とロール表面積の比で3/5である。また、搬送ロールを研磨する研磨部材を用いた場合には、当該研磨部材として耐熱鋳鋼のロールの周面にサーメットを溶射した研磨ロールを用いた。研磨ロールを所定の周速差でブラシロールに接触させることで、ブラシロールに付着した付着物を除去した。ブラシロールへの研磨ロールの押し付け力は0.02kgf/mmに調整した。また、除去した付着物(脱落物)は、回収容器に回収した。連続焼鈍後、ブラシロールを取り出し、ブラシロール表面をレーザー顕微鏡で100μm以上の付着物の個数を確認した。
【0044】
一方、比較例では、耐熱鋳鋼のロールの周面にサーメット又はセラミックスを溶射した搬送ロールを用いた。搬送ロールの直径は800mmである。また、搬送ロールを研磨する研磨部材を用いた場合には、当該研磨部材として耐熱鋳鋼のロールの周面にサーメットを溶射した研磨ロールを用いた。研磨ロールを所定の周速差で発明例と同じ押し付け力で搬送ロールに接触させて搬送ロールに付着した付着物を除去した。また、除去した付着物(脱落物)は、回収容器に回収した。連続焼鈍後、搬送ロールを取り出し、搬送ロール表面をレーザー顕微鏡で100μm以上の付着物の個数を確認した。実施例1の結果を下記表1に示す。
【0045】
【0046】
表1において周速差「>160-500」は、周速差が160~500m/minの範囲内で変動したことを意味する。この周速差の変動は、ライン速度の変動により搬送ロールの周速が変動することによるものであるが、平均的には300m/min程度であった。表1に示すように、搬送ロールにブラシロールを用いた発明例1-5では、研磨部材の有無に関わらず、比較例である従来の搬送ロールを用いた比較例1-4よりも連続焼鈍後に搬送ロール表面に付着する100μm以上の付着物の個数が少なくなった。また、研磨部材として研磨ロールを用い、周速差が1m/min以上となる条件で研磨ロールを搬送ロールに接触させることで、搬送ロールに付着する付着物の個数は大きく減少した。
【0047】
一方、従来の搬送ロールを用いた比較例1-4では、160m/min以上の周速差で研磨ロールを搬送ロールに接触させて付着物を除去した場合であっても、発明例1-5のいずれの場合よりも付着物の個数が多くなった。これらの結果から、本実施形態に係る鋼板の搬送設備を用いることで、搬送ロール表面に付着した付着物を容易に脱落させることができ、これにより、搬送ロール22の表面における付着物の成長を抑制できることが確認された。また、このように搬送ロール表面に付着した付着物の個数を少なくできるので、連続焼鈍設備において、本実施形態に係る鋼板の搬送設備で鋼板を搬送することで、押し疵欠陥の少ない高品質の焼鈍鋼板の製造が実現できることがわかる。
【0048】
[実施例2]
次に、ブラシロールにおけるワイヤーの直径の影響を確認した実施例2を説明する。実施例2では、炉内温度を800℃に制御した炉内で、Siの含有量が1.6質量%であり、Mnの含有量が0.3質量%である鋼板とブラシロールの小型サンプルを摺動させて、鋼板の搬送時にブラシロールに付着する付着物の付着状況を確認した。実施例2の試験条件は以下の通りである。
【0049】
ワイヤー材質:Ni-Cr合金
ワイヤー長さ:12mm
摺動時間:30h
摺動速度:300mm/min
鋼板とブラシロールとの面圧:0.001kg/mm2
ブラシロールのワイヤー密度:ワイヤー埋め込み面積とロール表面積の比で3/5
【0050】
上記試験条件で鋼板をブラシロールに30時間摺動させた後、ブラシロールに付着した30μm以上の付着物の個数と、摺動後のワイヤーの摩耗量を測定した。ブラシロールの表面に付着した30μm以上の付着物の個数は、ブラシロールの表面をレーザー顕微鏡で観察することで計測した。ワイヤーの摩耗量は、摺動試験前後のワイヤー長さを測定し、これらの差分を摩耗量とした。実施例2の結果を下記表2に示す。
【0051】
【0052】
表2に示すように、ブラシロールのワイヤーの直径を小さくするとワイヤーの摩耗量が長くなった。特に、ワイヤーの直径が20μm未満になると、ワイヤーの摩耗量が顕著に長くなることが確認された。この結果から、ワイヤーの直径は20μm以上であることが好ましく、これにより、ワイヤーの摩耗を抑制できることが確認された。
【0053】
一方、ワイヤーの直径が大きくなると付着物との接触面積が大きくなり、ブラシロール表面に対する付着物の付着力が大きくなる。特に、ワイヤーの直径が500μmより大きくなると、ブラシロールに付着する付着物の付着力が大きくなり、ブラシロール表面に付着する30μm以上の付着物の数が顕著に多くなった。この結果から、ブラシロールのワイヤーの直径は500μm以下であることが好ましく、これにより、付着物の付着を抑制できることが確認された。
【0054】
[実施例3]
次に、実施例1と同じ条件でブラシロールのロール表面から半径方向におけるワイヤー先端までの長さを変更して、鋼板の蛇行挙動を確認した実施例3を説明する。ブラシロールの直径は800mmである。ワイヤー材質は高Ni-Cr合金であり、ワイヤー直径は50μmであり、ロール表面からロール半径方向におけるワイヤー先端までの長さを20、30、40mmに変更した。鋼板の蛇行量は、均熱帯出側で鋼板の蛇行を制御するステアリングロール位置で確認した。
【0055】
鋼板の蛇行量を確認した結果、ブラシロールのワイヤーの長さを20、30mmとした場合の鋼板の平均蛇行量はそれぞれ32、35mmであったのに対し、ワイヤーの長さを40mmとした場合の鋼板の平均蛇行量は59mmになり、鋼板の蛇行量が大幅に悪化した。この結果から、ブラシロールのワイヤーの長さは30mm以下が好ましく、これにより、鋼板の搬送が安定し、鋼板の蛇行を抑制できることが確認された。