(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009856
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】電池用集電体、電池用電極、電池用集電体の製造方法及び剥離方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20250109BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024080296
(22)【出願日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2023108426
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000231202
【氏名又は名称】日本黒鉛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】辻 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】村田 学
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 享大
(72)【発明者】
【氏名】川上 尚
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 和人
(72)【発明者】
【氏名】今井 康人
(72)【発明者】
【氏名】小島 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】向井 瞳
【テーマコード(参考)】
5H017
5H031
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE01
5H017EE10
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH08
5H031HH03
5H031HH06
5H031HH08
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】本発明は、電極活物質層を導電体層から容易に剥離することを可能とする電池用集電体を提供する。
【解決手段】本発明の電池用集電体は、導電体層と、導電体層上に設けられたプライマーコート層とを備え、プライマーコート層は、散在している結晶性樹脂の層又は結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層であり、プライマーコート層が散在している結晶性樹脂の層である場合、プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂のすき間において導電体層が露出しており、プライマーコート層が結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層である場合、単位面積当たりのプライマーコート層の質量が0.1g/m
2以上10g/m
2より小さく、プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体層と、前記導電体層上に設けられたプライマーコート層とを備え、
前記プライマーコート層は、散在している結晶性樹脂の層又は結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層であり、
前記プライマーコート層が前記散在している結晶性樹脂の層である場合、前記プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂のすき間において前記導電体層が露出しており、
前記プライマーコート層が結晶性樹脂とカーボン粒子との前記混合物層である場合、単位面積当たりの前記プライマーコート層の質量が0.1g/m2以上10g/m2より小さく、
前記プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下であることを特徴とする電池用集電体。
【請求項2】
前記プライマーコート層は、結晶性樹脂とカーボン粒子との前記混合物層であり、かつ、結晶性樹脂100質量部に対して0.01質量部以上1000質量部以下のカーボン粒子を含む請求項1に記載の電池用集電体。
【請求項3】
前記プライマーコート層は、前記散在している結晶性樹脂の層であり、かつ、0.1μm以上40μm以下の平均粒径D50を有する結晶性樹脂粒子が散在している層であり、
単位面積当たりの前記プライマーコート層の質量は、0.1g/m2以上であり10g/m2より小さい請求項1に記載の電池用集電体。
【請求項4】
前記プライマーコート層は、結晶性樹脂とカーボン粒子との前記混合物層であり、
前記プライマーコート層における結晶性樹脂の大きさ又は厚さは、40μm以下であり、
単位面積当たりの前記プライマーコート層の質量は、0.1g/m2以上10g/m2以下である請求項1に記載の電池用集電体。
【請求項5】
前記プライマーコート層は、カーボン粒子の全体が結晶性樹脂で被覆されないように設けられた請求項4に記載の電池用集電体。
【請求項6】
前記導電体層は、金属箔である請求項1に記載の電池用集電体。
【請求項7】
前記プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂は、ポリオレフィンである請求項1に記載の電池用集電体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の集電体と、前記プライマーコート層上に設けられた電極活物質層とを含む電池用電極。
【請求項9】
水溶性有機化合物又は液状有機化合物と水を含む分散媒に結晶性樹脂粒子が分散している分散液を導電体層上に塗布し、塗布膜を乾燥させることによりプライマーコート層を形成するステップを含む電池用集電体の製造方法。
【請求項10】
導電体層及び前記導電体層上に設けられたプライマーコート層を備える集電体と、前記プライマーコート層上に設けられた電極活物質層とを備える電極に含まれる前記電極活物質層を前記導電体層から剥離する剥離方法であって、
前記プライマーコート層は、散在している結晶性樹脂の層又は結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層であり、
前記プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下であり、
前記剥離方法は、前記プライマーコート層の少なくとも一部を前記結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱し前記電極活物質層を前記導電体層から剥離する剥離ステップを含む剥離方法。
【請求項11】
前記剥離ステップは、100℃以上300℃以下の温度の炉、ホットプレート又は加熱ローラで前記電極を、0.5秒間以上20秒間以下の時間、加熱するステップを含む請求項10に記載の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用集電体、電池用電極、電池用集電体の製造方法及び剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高い、寿命が長いなどの優れた特性を有するため、様々な用途に用いられている。リチウムイオン電池の正極には、通常、コバルト、ニッケル、マンガンなどのレアメタルが含まれており、これらの鉱物資源を確保することが課題となっている。一方、使用済みのリチウムイオン電池からこれらのレアメタルを回収する方法が検討されている。
例えば、液槽内で金属箔上の電極活物質層に超音波を照射することにより、正極活物質層を破砕し金属箔から取り外す方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、超音波を照射する方法では、処理液の管理が必要であり処理コストが高い。また、金属箔が処理液中で摩耗し金属粉が処理液に混合するおそれがある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電極活物質層を導電体層から容易に剥離することを可能とする電池用集電体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、導電体層と、前記導電体層上に設けられたプライマーコート層とを備え、前記プライマーコート層は、散在している結晶性樹脂の層又は結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層であり、前記プライマーコート層が前記散在している結晶性樹脂の層である場合、前記プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂のすき間において前記導電体層が露出しており、前記プライマーコート層が結晶性樹脂とカーボン粒子との前記混合物層である場合、単位面積当たりの前記プライマーコート層の質量が0.1g/m2以上10g/m2より小さく、前記プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下であることを特徴とする電池用集電体を提供する。
本発明は、本発明の集電体と、前記プライマーコート層上に設けられた電極活物質層とを含む電池用電極も提供する。
本発明は、水溶性有機化合物又は液状有機化合物と水を含む分散媒に結晶性樹脂粒子が分散している分散液を導電体層上に塗布し、塗布膜を乾燥させることによりプライマーコート層を形成するステップを含む電池用集電体の製造方法も提供する。
本発明は、導電体層及び前記導電体層上に設けられたプライマーコート層を備える集電体と、前記プライマーコート層上に設けられた電極活物質層とを備える電極に含まれる前記電極活物質層を前記導電体層から剥離する剥離方法も提供する。前記プライマーコート層は、散在している結晶性樹脂の層又は結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層であり、前記プライマーコート層に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下であり、前記剥離方法は、前記プライマーコート層の少なくとも一部を前記結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱し前記電極活物質層を前記導電体層から剥離する剥離ステップを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電池用集電体を用いた電池用電極に含まれるプライマーコート層の少なくとも一部をその融点以上の温度に加熱することにより結晶性樹脂を溶融させることができ、導電体層から電極活物質層を容易に剥離することができる。このため、電極活物質層や集電体に含まれる有用な成分を再利用するコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)(b)はそれぞれ本発明の一実施形態の電池用集電体の概略断面図である。
【
図2】(a)(b)はそれぞれ本発明の一実施形態の電池用電極の概略断面図である。
【
図3】熱処理後の電池用正極の切断断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明の複数の実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0009】
第1実施形態
図1(a)は本実施形態の電池用集電体の概略断面図であり、
図2(a)は本実施形態の電池用電極の概略断面図である。
本実施形態の電池用集電体10は、導電体層2と、導電体層2上に設けられたプライマーコート層3とを備え、プライマーコート層3は、散在している結晶性樹脂の層であり、プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂のすき間において導電体層2が露出しており、プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下である。
本実施形態の電池用電極20は、本実施形態の電池用集電体10と、プライマーコート層3上に設けられた電極活物質層5とを含む。
【0010】
電池用集電体10は、電池の電極用の集電体であり、電極活物質層5と電池端子との間の導電経路となる。前記電池は、特に限定されないが、リチウムイオン電池であることが好ましい。また、電池用集電体10は、電池の正極に用いられるものであってもよく、電池の負極に用いられるものであってもよい。また、電池用集電体10は、電極活物質層5のプラス電荷またはマイナス電荷を集電するための集電体であってもよい。
【0011】
導電体層2は、電池用集電体10の主要部材であり、電極活物質層5と電池端子との間の導電経路となる。導電体層2は、例えば金属箔であり、より具体的には、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス鋼箔、ニッケル箔などである。導電体層2は、プライマーコート層3を形成する前にコロナ放電処理が施されていてもよい。このことにより、導電体層2の表面の親水性を向上させることができ、プライマーコート層3の形成において水性分散媒を用いることができる。
【0012】
プライマーコート層3は、導電体層2上に設けられる層である。また、電池用電極20においては、プライマーコート層3は、導電体層2と電極活物質層5との間に位置する。プライマーコート層3が導電体層2と電極活物質層5とを接着するバインダーとして機能し、電池の充放電などにおいて電極活物質層5が導電体層2から剥離することを抑制することができる。
【0013】
プライマーコート層3は、散在している結晶性樹脂の層である。例えば、
図1(a)に示した集電体10のように、プライマーコート層3は、複数の結晶性樹脂粒子4が散在している層である。このため、複数の結晶性樹脂粒子4のすき間において導電体層2が露出している。プライマーコート層3がこのような構成を有することにより、電池用電極20において、このすき間において導電体層2と電極活物質層5とが接触することができ、電池用電極20の内部抵抗が高くなることを抑制することができる。
【0014】
プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂(結晶性高分子)は、結晶性を有する高分子であり、ガラス転移温度と融点とを有する。また、プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下である。このことにより、使用済みの電池用電極20に含まれる有用な成分をリサイクルする際に、プライマーコート層3の少なくとも一部を結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱して結晶性樹脂を溶融させることにより、プライマーコート層3と導電体層2との結合性又はプライマーコート層3と電極活物質層5との結合性を弱めることができ、電極活物質層5を導電体層2から容易に剥離することが可能になる。また、プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂の融点は、180℃以下であってもよく、160℃以下であってもよい。
【0015】
プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂は、例えば、ポリオレフィンであり、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などである。また、プライマーコート層3は、これらの樹脂のうち少なくとも2つを混合したものを含んでもよい。
【0016】
プライマーコート層3に含まれる複数の結晶性樹脂粒子4は、0.1μm以上40μm以下の平均粒径D50を有することができ、好ましくは0.1μm以上30μm以下の平均粒径D50を有することができ、さらに好ましくは0.1μm以上20μm以下の平均粒径D50を有することができる。このことにより、電池用電極20の内部抵抗が高くなることを抑制することができ、かつ、電池の充放電などにおいて電極活物質層5が導電体層2から剥離することを抑制することができる。
【0017】
単位面積当たりのプライマーコート層3の質量は、例えば、0.1g/m2以上であり10g/m2より小さく、好ましくは、0.3g/m2以上9g/m2以下である。このことにより、電池用電極20の内部抵抗が高くなることを抑制することができ、かつ、電池の充放電などにおいて電極活物質層5が導電体層2から剥離することを抑制することができる。
【0018】
プライマーコート層3は、例えば、水性分散媒に結晶性樹脂粒子4が分散している分散液(塗布液)を導電体層2上に塗布し、塗布膜を乾燥させることにより形成することができる。プライマーコート層用塗布液を導電体層2上に塗布する方法は特に限定されないが、例えば、グラビアコーティング法である。
また、プライマーコート層用塗布液の塗布膜の乾燥は、結晶性樹脂粒子4の融点以下の温度で行うことができる。
【0019】
プライマーコート層用塗布液(分散液)は、水溶性有機化合物又は液状有機化合物を含んでもよい。このことにより、結晶性樹脂粒子4が凝集することを抑制することができ、プライマーコート層3の均質性を向上させることができる。水溶性有機化合物又は液状有機化合物は、例えば、イソプロピルアルコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、メチルシクロヘキサン、酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、シクロヘキサノン、テトラヒドロナフタレン、ノルマル-ドデカンなどである。プライマーコート層用塗布液は、これらの有機化合物のうち2つ以上を含んでもよい。
プライマーコート層用塗布液における有機化合物の割合は、例えば0.5質量パーセント以上85質量パーセント以下であり、好ましくは0.5質量パーセント以上55質量パーセント以下であり、さらに好ましくは1.0質量パーセント以上35質量パーセント以下である。
【0020】
プライマーコート層3上に形成される電極活物質層5は、正極活物質層であってもよく、負極活物質層であってもよい。電極活物質層5は、多孔性を有することができ、電極活物質粒子とバインダーとを含むことができる。また、必要に応じて電極活物質層5は導電材を有することができる。
電極活物質層5は、電極活物質層用ペーストを塗工して形成した塗膜を乾燥させたものであってもよく、電極活物質を含むフィルムを電池用集電体10に張り付けたもの(例えば、ドライプロセスで作製した電池用電極、全固体電池用電極など)であってもよい。
また、水溶性有機化合物又は液状有機化合物を含むプライマーコート層用塗布液を用いて形成したプライマーコート層を有する電池用集電体10上に、電極活物質層5を有する電池用電極20では、電極活物質層5の電池用集電体10への密着性が高い。
リチウムイオン電池の正極の場合、電極活物質は、例えば、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどである。電極活物質粒子の平均粒径は、例えば0.1μm以上50μm以下である。
【0021】
第2実施形態
図1(b)は本実施形態の電池用集電体の概略断面図であり、
図2(b)は本実施形態の電池用電極の概略断面図である。
本実施形態の電池用集電体10は、導電体層2と、導電体層2上に設けられたプライマーコート層3とを備え、プライマーコート層3は、結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層であり、単位面積当たりのプライマーコート層3の質量が0.1g/m
2以上10g/m
2より小さく、プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂の融点は、200℃以下である。
【0022】
導電体層2については、第1実施形態で説明したため、ここでは省略する。
プライマーコート層3は、導電体層2上に設けられる層である。また、電池用電極20においては、プライマーコート層3は、導電体層2と電極活物質層5との間に位置する。
プライマーコート層3は、200℃以下の融点を有する結晶性樹脂とカーボン粒子との混合物層である。プライマーコート層3に含まれるカーボン粒子が導電体層2と電極活物質層5との間の導電経路となる。このため、導電体層2と電極活物質層5との間の電気抵抗が高くなることを抑制することができる。また、プライマーコート層3は、電解液から導電体層2を保護する機能も有することができる。
【0023】
プライマーコート層3に含まれるカーボン粒子は、例えば、黒鉛粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等の導電材料及びこれらのうち2つ以上の混合物などである。プライマーコート層3に含まれるカーボン粒子の平均粒径D50は、例えば50μm以下であり、好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。
【0024】
プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂(結晶性高分子)は、プライマーコート層3のバインダーとしての機能を有する。結晶性樹脂については、第1実施形態において説明したため、ここでは省略する。また、プライマーコート層3における結晶性樹脂の大きさ又は厚さは、0.1μm以上40μm以下であり、好ましくは0.1μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上20μm以下である。
【0025】
プライマーコート層3は、結晶性樹脂100質量部に対して0.01質量部以上1000質量部以下のカーボン粒子を含むことができ、好ましくは、0.1質量部以上800質量部以下のカーボン粒子を含むことができ、さらに好ましくは1質量部以上500質量部以下のカーボン粒子を含むことができる。プライマーコート層3がカーボン粒子を含むことにより、電池用電極20の内部抵抗が高くなることを抑制することができる。
【0026】
単位面積当たりのプライマーコート層3の質量(目付量)は、0.1g/m2以上10g/m2以下であり、好ましくは、0.3g/m2以上7.0g/m2以下であり、好ましくは0.5g/m2以上5.0g/m2以下である。プライマーコート層3の質量を0.1g/m2以上とすることにより、後述する剥離方法により電極活物質層5を導電体層2から剥離する際に、電極活物質層5の一部が導電体層2上に残ることを抑制することができる。また、プライマーコート層3の質量を10g/m2以下とすることにより、電極における電極活物質層5の量を増やすことができる。
プライマーコート層3は、実質的に均等な厚みを有する層であってもよい。
【0027】
プライマーコート層3は、プライマーコート層3に含まれるカーボン粒子の全体が結晶性樹脂で被覆されないように設けられてもよい。このことにより、プライマーコート層3の電気抵抗が高くなることを抑制することができる。例えば、水性分散媒とカーボン粒子と結晶性樹脂粒子とを混合したプライマーコート層用塗布液を導電体層2上に塗布し、塗布膜を乾燥させることにより、このようなプライマーコート層3を形成することができる。言い換えると、結晶性樹脂は水性分散媒にほとんど溶けないため、カーボン粒子の全体が結晶性樹脂により被覆されることを抑制することができる。塗布方法及び塗布膜の乾燥については、第1実施形態で説明したため、ここでは省略する。
また、電極活物質層5及び電極活物質についても第1実施形態で説明したため、ここでは省略する。
第1実施形態における記載は、矛盾がない限り第2実施形態についても同様である。
【0028】
第3実施形態
本実施形態は、電極20に含まれる電極活物質層5を導電体層2から剥離する剥離方法を提供する。本実施形態の剥離方法は、電極20に含まれるプライマーコート層3の少なくとも一部を結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱し電極活物質層5を導電体層2から剥離する剥離ステップを含む。
【0029】
剥離ステップにおいて、プライマーコート層3の温度が結晶性樹脂の融点以上の温度である状態で、電極活物質層5を導電体層2から剥離してもよい。この状態では結晶性樹脂が溶融しているため、電極活物質層5を導電体層2から容易に剥離することができる。
また、剥離ステップにおいて、電極20に含まれるプライマーコート層3の少なくとも一部を結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱し(加熱処理)その後プライマーコート層3の温度が結晶性樹脂の温度よりも低い温度になった後に、電極活物質層5を導電体層2から剥離してもよい。この場合、加熱処理によりプライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂が溶融しプライマーコート層3と導電体層2との結合性が低下し又はプライマーコート層3と電極活物質層5との結合性が低下し、電極活物質層5を導電体層2から容易に剥離することができる。
【0030】
剥離ステップは、100℃以上300℃以下の温度(結晶性樹脂の融点よりも高い温度)の炉、ホットプレート又は加熱ローラで電極20を、0.5秒間以上20秒間以下の時間、加熱するステップを含んでもよい。このことにより、プライマーコート層3に含まれる結晶性樹脂を溶融させることができプライマーコート層3と導電体層2との結合性又はプライマーコート層3と電極活物質層5との結合性を低下させることができる。
【0031】
剥離ステップは、プライマーコート層3を導電体層2側から加熱するステップを含んでもよい。このことにより、プライマーコート層3と導電体層2との結合性を低下させることができる。例えば、ホットプレートで電極20を導電体層2側から加熱してもよく、加熱ローラで電極20を導電体層2側から加熱してもよい。また、集電体10の両面のそれぞれに、プライマーコート層3及び電極活物質層5が設けられている場合には、導電体層2のうちプライマーコート層3及び電極活物質層5が設けられていない部分を加熱することにより、導電体層2を介してプライマーコート層3を加熱してもよい。
【0032】
リチウムイオン電池の作製
実施例1~4、比較例1~4のリチウムイオン電池を作製した。表1に各リチウムイオン電池に含まれる正極のプライマーコート層に含まれるポリエチレン(PE)の量及び単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)を示している。また、表1には、実施例3、4、比較例2~4の各リチウムイオン電池に含まれる正極のプライマーコート層に含まれるカーボン粒子の量も示している。
【0033】
【0034】
[実施例1]
水と、ポリエチレン粒子(平均粒径:約10μm)とを混合してプライマーコート層用塗料を調製した。単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が6.4g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布した。そして塗布膜を乾燥させることによりプライマーコート層を形成した。実施例1では、プライマーコート層をポリエチレン粒子を用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子が散在している層となっていると考えられる。
正極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸リチウム(三元系NCM811、平均粒径10μm)とバインダーと溶剤とを混合して正極活物質ペーストを調製し、正極活物質ペーストをプライマーコート層上に塗工し乾燥させることにより正極活物質層を形成した。このようにして、実施例1の電池用正極を作製した。
【0035】
負極活物質である黒鉛粒子と水分散媒とを混合することにより負極活物質ペーストを調製し、負極活物質ペーストを銅箔上に塗工し乾燥させることにより負極活物質層を形成した。このようにして、電池用負極を作製した。
作製した電池用正極、電池用負極、セパレータ、電解液を用いて実施例1のコイン型リチウムイオン電池を作製した。
【0036】
[実施例2]
プライマーコート層の形成において、単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が1.0g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布したこと以外は実施例1の電池用正極及びリチウムイオン電池と同様に実施例2の電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。実施例2では、プライマーコート層をポリエチレン粒子を用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子が散在している層となっていると考えられる。
【0037】
[実施例3]
ポリエチレン粒子(平均粒径:約10μm)100質量部と、カーボン粒子(黒鉛粒子+カーボンブラック)33質量部と、水分散媒とを混合してプライマーコート層用塗料を調製したこと、及びプライマーコート層の形成において、単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が1.5g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布したこと以外は実施例1の電池用正極及びリチウムイオン電池と同様に実施例3の電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。実施例3では、プライマーコート層をポリエチレン粒子とカーボン粒子とを用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子とカーボン粒子との混合物層となっていると考えられる。
【0038】
[実施例4]
ポリエチレン粒子(平均粒径:約10μm)100質量部と、カーボン粒子(黒鉛粒子+カーボンブラック)20質量部と、水分散媒とを混合してプライマーコート層用塗料を調製したこと、及びプライマーコート層の形成において、単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が1.0g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布したこと以外は実施例1の電池用正極及びリチウムイオン電池と同様に実施例4の電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。実施例4では、プライマーコート層をポリエチレン粒子とカーボン粒子とを用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子とカーボン粒子との混合物層となっていると考えられる。
【0039】
[比較例1]
プライマーコート層の形成において、単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が10.0g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布したこと以外は実施例1の電池用正極及びリチウムイオン電池と同様に比較例1の電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。比較例1では、プライマーコート層をポリエチレン粒子を用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子の層となっていると考えられるが、単位面積当たりのプライマーコート層の質量が大きいため、ポリエチレン粒子の密度が高くなっていると考えられる。
【0040】
[比較例2]
ポリエチレン粒子(平均粒径:約10μm)100質量部と、カーボン粒子(黒鉛粒子+カーボンブラック)50質量部と、水分散媒とを混合してプライマーコート層用塗料を調製したこと、及びプライマーコート層の形成において、単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が0.4g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布したこと以外は実施例1の電池用正極及びリチウムイオン電池と同様に比較例2の電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。比較例2では、プライマーコート層をポリエチレン粒子とカーボン粒子とを用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子とカーボン粒子との混合物層となっていると考えられる。
【0041】
[比較例3]
ポリエチレン粒子(平均粒径:約10μm)100質量部と、カーボン粒子(黒鉛粒子+カーボンブラック)33質量部と、水分散媒とを混合してプライマーコート層用塗料を調製したこと、及びプライマーコート層の形成において、単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が0.2g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布したこと以外は実施例1の電池用正極及びリチウムイオン電池と同様に比較例3の電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。比較例3では、プライマーコート層をポリエチレン粒子とカーボン粒子とを用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子とカーボン粒子との混合物層となっていると考えられる。
【0042】
[比較例4]
ポリエチレン粒子(平均粒径:約10μm)100質量部と、カーボン粒子(黒鉛粒子+カーボンブラック)20質量部と、水分散媒とを混合してプライマーコート層用塗料を調製したこと、及びプライマーコート層の形成において、単位面積当たりのプライマーコート層の質量(目付量)が10.5g/m2となるように、コロナ放電処理済みのアルミニウム箔上にプライマーコート層用塗料をグラビアコーティング法を用いて塗布したこと以外は実施例1の電池用正極及びリチウムイオン電池と同様に比較例4の電池用正極及びリチウムイオン電池を作製した。比較例4では、プライマーコート層をポリエチレン粒子とカーボン粒子とを用いて作成しているため、プライマーコート層は、ポリエチレン粒子とカーボン粒子との混合物層となっていると考えられる。
【0043】
充放電サイクル試験
実施例1~4、比較例1~4の各リチウムイオン電池を用いて充放電サイクルを100サイクル行い、各リチウムイオン電池の充放電サイクル特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。表1では、100サイクル目の充放電効率が80%以上であったリチウムイオン電池の評価を「〇」で示し、100サイクル目の充放電効率が80%以下であったリチウムイオン電池の評価を「×」で示した。
実施例1~4、比較例2、3のリチウムイオン電池の評価は「〇」であり、これらの電池は高い充放電効率を有することがわかった。
比較例1のリチウムイオン電池の評価は「×」であった。これは、単位面積当たりのプライマーコート層の質量が大きくポリエチレン粒子の密度が高いために、正極の内部抵抗が高くなったためと考えられる。
比較例4のリチウムイオン電池の評価は「×」であった。これは、プライマーコート層の単位面積あたりの質量が多くなり、正極の内部抵抗が高くなったためと考える。
【0044】
剥離試験
充放電サイクルを100サイクル行った後の実施例1~4、比較例1~4の各リチウムイオン電池を解体し、電池から正極を取り出し正極に付着している電解液をきれいに拭き取った。その後、正極の正極活物質層の一部に接着テープを貼り付け、接着テープの上に100gの重りを置き3往復させ接着テープに荷重をかけ、接着テープを正極活物質層にしっかりと貼り付けた。その後、アルミニウム箔から接着テープを剥ぎ取った。そして、アルミニウム箔と接着テープとを観察し、正極活物質層がアルミニウム箔から剥離しているかどうかを評価した(「熱処理なし」の評価)。
【0045】
また、充放電サイクルを100サイクル行った後の実施例1~4、比較例1~4の各リチウムイオン電池から取り出した各正極を200℃のホットプレート上で約5秒間加熱した(熱処理)。熱処理後、十分に温度が下がった正極の正極活物質層の一部に接着テープを貼り付け、接着テープの上に100gの重りを置き3往復させ接着テープに荷重をかけ、接着テープを正極活物質層にしっかりと貼り付けた。その後、アルミニウム箔から接着テープを剥ぎ取った。そして、アルミニウム箔と接着テープとを観察し、正極活物質層がアルミニウム箔から剥離しているかどうかを評価した(「熱処理あり」の評価)。
【0046】
「熱処理なし」の評価及び「熱処理あり」の評価を表1に示す。表1において、正極活物質層のほとんど全部がプライマーコート層と共にアルミニウム箔から剥離した正極の評価を「◎」で示し、正極活物質層のほとんど全部がプライマーコート層と分かれてアルミニウム箔から剥離した正極の評価を「〇」で示し、正極活物質層の一部がアルミニウム箔上に残った正極の評価を「△」で示し、正極活物質層のほとんど全部がアルミニウム箔上に残った正極の評価を「×」で示した。
【0047】
熱処理を施していない実施例1、2の正極の剥離試験の評価(熱処理なしの評価)は「△」であったが、熱処理を施している実施例1、2の正極の剥離試験の評価(熱処理ありの評価)は「〇」又は「◎」となった。このため、これらの正極では、熱処理により正極活物質層がアルミニウム箔から剥がれ易くなることがわかった。このため、正極がポリエチレン粒子が散在しているプライマーコート層を有することにより、熱処理を施すことにより正極活物質層がアルミニウム箔から容易に剥がすことができることがわかった。
熱処理を施していない実施例3、4の正極の剥離試験の評価(熱処理なしの評価)は「△」であったが、熱処理を施している実施例3、4の正極の剥離試験の評価(熱処理ありの評価)は「〇」となった。このため、これらの正極では、熱処理により正極活物質層がアルミニウム箔から剥がれ易くなることがわかった。このため、正極がポリエチレンとカーボン粒子との混合物層であるプライマーコート層を有することにより、熱処理を施すことにより正極活物質層がアルミニウム箔から容易に剥がすことができることがわかった。
【0048】
熱処理を施していない比較例1の正極の剥離試験の評価(熱処理なしの評価)は「◎」であり、熱処理を施している比較例1の正極の剥離試験の評価(熱処理ありの評価)は「◎」であった。比較例1の正極では、プライマーコート層のポリエチレン粒子の密度が高くなっているため、剥離試験の評価が高くなったと考えられる。
熱処理を施していない比較例2、3の正極の剥離試験の評価(熱処理なしの評価)及び熱処理を施している比較例2、3の正極の剥離試験の評価(熱処理ありの評価)は、それぞれ「×」であった。比較例2、3の正極では、単位面積当たりのプライマーコート層の質量が小さいため剥離試験の評価が低くなったと考えられる。
熱処理を施していない比較例4の正極の剥離試験の評価(熱処理なしの評価)は「〇」であり、熱処理を施している比較例4の正極の剥離試験の評価(熱処理ありの評価)は「◎」であった。比較例4の正極では、プライマーコート層のポリエチレン含有率が高く、単位面積当たりのプライマーコート層の質量が大きいため剥離試験の評価が高くなったと考えられる。
【0049】
SEM観察
熱処理後の実施例3の正極の切断断面のSEM観察を行った。SEM写真を
図3に示す。
図3の写真からわかるように、アルミニウム箔と正極活物質層との間に空隙が形成されていることが分かった。この空隙は、熱処理によりプライマーコート層に含まれるポリエチレンが溶融することによりプライマーコート層がアルミニウム箔から剥離し形成されたと考えられる。熱処理後の実施例1~4の正極では、熱処理によりこのような空隙が形成されるため、正極活物質層がアルミニウム箔から剥がれやすくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0050】
2:導電体層 3:プライマーコート層 4:結晶性樹脂粒子 5:電極活物質層 10:電池用集電体 20:電池用電極