IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ナノエッグの特許一覧

<>
  • 特開-リオトロピック液晶組成物 図1
  • 特開-リオトロピック液晶組成物 図2
  • 特開-リオトロピック液晶組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009864
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】リオトロピック液晶組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/31 20060101AFI20250109BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20250109BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20250109BHJP
【FI】
A61K8/31
A61K8/60
A61K8/39
A61K8/86
A61Q19/00
A61K9/107
A61K47/26
A61K47/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084191
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2023110161
(32)【優先日】2023-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506151235
【氏名又は名称】株式会社ナノエッグ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】山口 葉子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB31
4C076DD07
4C076DD34
4C076DD69
4C076EE23
4C076EE52
4C076FF16
4C083AC021
4C083AC022
4C083AC181
4C083AC182
4C083AC421
4C083AC422
4C083AD391
4C083AD392
4C083BB04
4C083BB13
4C083CC02
4C083DD01
4C083DD41
4C083DD44
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE11
(57)【要約】
【課題】ポリグリセリン型界面活性剤を含むリオトロピック液晶組成物を提供する。
【解決手段】ポリグリセリン型界面活性剤に、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質、油性成分、及び水性成分を加えてリオトロピック液晶組成物を製造する。本開示によれば、生体や環境への適合性が高く、しかも、有効成分の経皮吸収が高いリオトロピック液晶組成物を提供することができ、該組成物を含む皮膚外用剤や化粧料を製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性成分および水性成分と、または水性成分と次の各成分:
(A)単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質
(B)ポリグリセリン型界面活性剤
をそれぞれ1種又は2種以上を含有し、リオトロピック液晶相を有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
次の工程1及び2:
工程1:成分(A)、(B)及び必要に応じて油性成分を混合する工程
工程2:工程1で調製した混合物に水性成分を添加し、リオトロピック液晶相を有する組成物を製造する工程
によって製造される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分(A)がポリグリセリン脂肪酸エステル糖結合物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリグリセリン脂肪酸エステル糖結合物がジステアリン酸ポリグリセリル-3メチルグルコースである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
成分(B)のポリグリセリン型界面活性剤がポリグリセリン脂肪酸モノエステル又はポリグリセリンモノアルキルエーテルである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
ポリグリセリンの重合度が2~20である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルの疎水基が炭素数12~24の脂肪酸、ポリグリセリンモノアルキルエーテルの疎水基が炭素数12~24の高級アルコールである、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
リオトロピック液晶相がキュービック液晶相である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物がリンギングゲルである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
リオトロピック液晶相が前記組成物中に含まれる、または前記組成物と併用される有効成分の経皮吸収を促進させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、前記油性成分を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、以下
約35~約55重量%の成分AおよびBの合計と、
約10~約35重量%の油性成分と、
約25~約45重量%の水性成分と
を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
成分Aが約2~約7重量%であり、成分Bが約28~約53重量%である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
リオトロピック液晶相を有する組成物を製造する方法であって、該方法は、
工程1:以下の成分(A)、(B)及び必要に応じて油性成分を混合する工程
(A)1種又は2種以上の単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質
(B)1種又は2種以上のポリグリセリン型界面活性剤
工程2:工程1で調製した混合物に水性成分を添加し、リオトロピック液晶相を有する組成物を製造する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体や環境への適合性が高いポリグリセリン型界面活性剤を含有することを特徴とする、リオトロピック液晶組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚外用剤や化粧料は、界面活性剤などを含む組成物から成り、その組成物をリオトロピック液晶の形態にすることによって、皮膚外用剤や化粧料に含まれる、またはこれと併用される有効成分の経皮吸収が促進されることが知られている。リオトロピック液晶の中でもキュービック液晶の形態をとる組成物は、有効成分の経皮吸収が特に高い。数多くの界面活性剤の内、汎用されているポリオキシエチレン型界面活性剤は、比較的容易に液晶組成物を形成するものの、ヒトや環境への影響が懸念されている。
【0003】
近年、環境問題が深刻化しており、持続可能な開発目標の実現を目指して石油由来ではなく、再生可能な植物資源を原料とした界面活性剤として、ポリグリセリン型界面活性剤が注目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ポリグリセリン型界面活性剤を含むリオトロピック液晶組成物を提供することを課題とする。ポリグリセリン型界面活性剤は生体や環境への適合性が高いものの、液晶組成物を安定的に調製することが困難であった。
【0005】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、親水基がグリセリンの重合物であるポリグリセリンに脂肪酸がエステル結合した構造をとる。そのポリグリセリンは分子内に複数親水基を有する為、合成過程において無差別な反応が起こり、幅広い重合分布のポリグリセリンならびにグリセリンが分子内脱水した環状化合物が含まれたエステル体が生成される。さらに疎水基の脂肪酸をエステル合成する際にグリセリンの同様の特徴から、ポリグリセリン脂肪酸エステルはモノエステル体だけでなく、ジエステル体などエステル化度の異なる化合物も含まれる。
【0006】
リオトロピック液晶は組成物中に周期性のある構造体が連続して形成されるものであり、例えばポリオキシエチレン脂肪酸エステルやポリオキシエチレン・ポリプロピレンブ共重合体のような親水基の重合分布が狭く、エステル化度を制御しやすい単一化合物が液晶構造を形成しやすく、安定的な相領域が存在することが知られている。
【0007】
液晶形成能を有する単一化合物を含む水性成分との組み合わせで形成したリオトロピック液晶でも、油相成分を配合するとなると相領域が変化し液晶構造を保持することが困難になる。
【0008】
環境に配慮された市販のポリグリセリン脂肪酸エステルにおいては不純物を起因とした複数の液晶構造が絡み合った形で存在することが分かっており、安定的かつ経皮浸透性を特に有する相領域が存在することはこれまで知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究をした結果、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質を、ポリグリセリン型界面活性剤、必要に応じて油性成分と混和した後、水性成分を加えて製造した組成物がリオトロピック液晶の形態を呈することを見出した。さらに、該リオトロピック液晶相が、本開示の組成物中に含まれる、または本開示の組成物と併用される有効成分の経皮吸収を促進すること、従来のリオトロピック液晶相を有する組成物と比べて毒性が低いことを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本開示の発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
(項目1)
油性成分および水性成分と、または水性成分と次の各成分:
(A)単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質
(B)ポリグリセリン型界面活性剤
をそれぞれ1種又は2種以上を含有し、リオトロピック液晶相を有することを特徴とする組成物。
(項目2)
次の工程1及び2:
工程1:成分(A)、(B)及び必要に応じて油性成分を混合する工程
工程2:工程1で調製した混合物に水性成分を添加し、リオトロピック液晶相を有する組成物を製造する工程
によって製造される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
成分(A)がポリグリセリン脂肪酸エステル糖結合物である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目4)
ポリグリセリン脂肪酸エステル糖結合物がジステアリン酸ポリグリセリル-3メチルグルコースである、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目5)
成分(B)のポリグリセリン型界面活性剤がポリグリセリン脂肪酸モノエステル又はポリグリセリンモノアルキルエーテルである、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目6)
ポリグリセリンの重合度が2~20である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目7)
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルの疎水基が炭素数12~24の脂肪酸、ポリグリセリンモノアルキルエーテルの疎水基が炭素数12~24の高級アルコールである、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目8)
リオトロピック液晶相がキュービック液晶相である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目9)
組成物がリンギングゲルである、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目10)
リオトロピック液晶相が前記組成物中に含まれる、または前記組成物と併用される有効成分の経皮吸収を促進させることを特徴とする、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目11)
リオトロピック液晶相を有する組成物を製造する方法であって、該方法は、
工程1:以下の成分(A)、(B)及び必要に応じて油性成分を混合する工程
(A)1種又は2種以上の単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質
(B)1種又は2種以上のポリグリセリン型界面活性剤
工程2:工程1で調製した混合物に水性成分を添加し、リオトロピック液晶相を有する組成物を製造する工程
を含む、方法。
(項目1A)
油性成分および水性成分と次の各成分:
(A)単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質
(B)ポリグリセリン型界面活性剤
をそれぞれ1種又は2種以上を含有し、リオトロピック液晶相を有することを特徴とする乳化組成物。
(項目2A)
次の工程1及び2:
工程1:成分(A)、(B)及び油性成分を混合する工程
工程2:工程1で調製した混合物に水性成分を添加し、リオトロピック液晶相を有する乳化組成物を製造する工程
によって製造される、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目3A)
成分(A)がポリグリセリン脂肪酸エステル糖結合物である、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目4A)
ポリグリセリン脂肪酸エステル糖結合物がジステアリン酸ポリグリセリル-3メチルグルコースである、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目5A)
成分(B)のポリグリセリン型界面活性剤がポリグリセリン脂肪酸モノエステル又はポリグリセリンモノアルキルエーテルである、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目6A)
ポリグリセリンの重合度が2~20である、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目7A)
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルの疎水基が炭素数12~24の脂肪酸、ポリグリセリンモノアルキルエーテルの疎水基が炭素数12~24の高級アルコールである、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目8A)
リオトロピック液晶相がキュービック液晶相である、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目9A)
乳化組成物がリンギングゲルである、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目10A)
リオトロピック液晶相が前記組成物中に含まれる、または前記組成物と併用される有効成分の経皮吸収を促進させることを特徴とする、上記項目のいずれかに記載の乳化組成物。
(項目11A)
リオトロピック液晶相を有する乳化組成物を製造する方法であって、該方法は、
工程1:以下の成分(A)、(B)及び油性成分を混合する工程
(A)1種又は2種以上の単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質
(B)1種又は2種以上のポリグリセリン型界面活性剤
工程2:工程1で調製した混合物に水性成分を添加し、リオトロピック液晶相を有する乳化組成物を製造する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、生体や環境への適合性が高く、しかも、従来のリオトロピック液晶相を有する組成物と比べて毒性が低く、有効成分の経皮吸収が高いリオトロピック液晶組成物を提供することができ、該組成物を含む皮膚外用剤や化粧料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】処方例16、比較例9で製造された乳化組成物中のフルオレセインの経皮吸収を示す。縦軸は蛍光強度を示し、それぞれの測定値を平均±標準偏差で表す。横軸は測定検体を添加後の時間を示す。試験はn=3で実施し、統計処理はt検定でおこなった(*p<0.05、**p<0.001)。
図2】処方例1、比較例10で製造された乳化組成物の希釈濃度に対する乳化組成物中のフルオレセインの経皮吸収率を示す。縦軸は、経皮吸収率(%)(100-(対照に対する蛍光強度の比率))を示し、それぞれの測定値を平均±標準偏差で表す。試験はn=5で実施し、統計処理はt検定でおこなった(*p<0.05、**p<0.001、***p<0.005)。
図3】処方例1、比較例10で製造された乳化組成物の添加濃度に対する細胞数を示す。縦軸は、乳化組成物の添加無し(0%)に対する細胞数の相対値を示し、横軸は乳化組成物の培地における濃度(%)を示す。試験は各群n=3で実施し、有意差検定は陰性対照群(0%)とDunnet多重比較を用い、p<0.05を有意な差とした。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(定義)
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
本明細書中において、「及び/又は」なる表現については、「及び」と「又は」のいずれを選択した場合の意味も包含する。すなわち、「A及び/又はB」なる表現には、「A又はB」と「A及びB」のいずれの意味も包含される。
【0015】
本明細書中において、「液晶」とは、結晶のような構造的規則性と液体のような流動性とを兼ね備えた特性を有する物質を指し、サーモトロピック液晶およびリオトロピック液晶が存在する。サーモトロピック液晶は、温度の変化に依存して液晶または非液晶の状態となるものを指し、リオトロピック液晶は、溶媒の濃度の変化に依存して液晶または非液晶の状態となるものを指す。
【0016】
本明細書中において、「リオトロピック液晶」とは、水性成分、両親媒性分子(界面活性剤など)および油性成分を、これらの成分の混合比率を調整することによって形成される液晶であり、結晶のような構造的規則性と液体のような流動性とを兼ね備えた特性を有する。
【0017】
本明細書において、「キュービック液晶」とは、ミセルが立方格子に充填した構造を有する液晶を指し、最密充填構造により、単純立方格子、面心立方格子、体心立方格子、六方格子に分類される。
【0018】
本明細書中において、「乳化組成物」とは、水性成分および油性成分を含む組成物において、水性成分および油性成分が分散し均一な状態となっているものを指す。
【0019】
本明細書中において、「ポリグリセリン型界面活性剤」とは、ポリグリセリンと疎水基を有する分子がエステル結合またはエーテル結合を介して結合した界面活性剤を指す。
【0020】
本明細書中において、「油性成分」とは、親油性の物質を指し、例えば、油脂、炭化水素、シリコーン、エステル、油溶性ビタミンなどが挙げられるが、これらに限定されない。油性成分は、特段の指示がない限り、本開示の単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質とは異なる成分である。
【0021】
本明細書中において、「水性成分」とは、親水性の物質を指し、水、一価アルコール、多価アルコール、無機塩、水溶性ポリマー、その他の水溶性化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書中において、「リンギングゲル」とは、液体可溶化系の液晶相で粘弾性挙動を示す組成物で、物理的衝撃に対して振動する堅固で増粘性の高いゲルを指す。
【0023】
本明細書中において、「脂肪酸」とは、炭化水素鎖の末端にカルボキシ基を有する化合物を指す。炭化水素鎖中に不飽和結合を有する脂肪酸を不飽和脂肪酸といい、不飽和結合を有さない脂肪酸を飽和脂肪酸という。
【0024】
本明細書中において、「脂質」とは、水に不溶で有機溶媒に可溶である物質を指す。脂質としては、アルコールと脂肪酸のエステル、典型的にはグリセリンと脂肪酸のエステル(トリアシルグリセロール)、コレステロールと脂肪酸のエステル(コレステロールエステル)またはその加水分解物(コレステロール)、高級アルコールと脂肪酸のエステル(ろう)、リン酸を含むリン脂質(例えば、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書中において、「有効成分」とは、意図される任意の作用(例えば、疾患またはその症状の改善、治療または予防、あるいはシワ、しみ、ニキビ、肌乾燥の改善または予防などの美容作用等)を発揮するために、本開示の組成物中に含まれる、または本開示の組成物と併用される成分を指す。
【0026】
(液晶組成物)
本開示の液晶組成物は、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質と、ポリグリセリン型界面活性剤と、水性成分とを含有する。本開示の液晶組成物は、必要に応じて油性成分を含む。本開示の組成物は、乳化していても、乳化していなくてもよい。
【0027】
<液晶>
リオトロピック液晶の形態は組成物の成分によって異なり、キュービック液晶、ヘキサゴナル液晶、ラメラ液晶、逆ヘキサゴナル液晶、逆キュービック液晶などが挙げられる。キュービック液晶の中でも、最密充填構造により様々な構造が見いだされている(単純立方格子、面心立方格子、体心立方格子、六方格子など)。キュービック構造は、他のリオトロピック液晶相よりも結晶構造に近く、通常は粘弾性が高いために非常に硬いことが多い。キュービック液晶は、本開示の組成物中に含まれる、または本開示の組成物と併用される有効成分の経皮吸収促進の観点で好ましく、単純立法格子、若しくは、面心立法格子のキュービック液晶がより好ましい。液晶の形態は、例えば、偏光顕微鏡観察、小角X線散乱測定、粘度測定、及び色素染色法などにより判断することができる。
【0028】
キュービック液晶(I)は、ミセルが立方格子に充填した構造を持ち、逆キュービック液晶(I)は、逆ミセルが立方格子に充填した構造を持つ。ヘキサゴナル液晶(H)は、ミセルが二次元六方晶格子に充填された構造を持ち、逆ヘキサゴナル液晶(H)は、逆ミセルが二次元六方晶格子に充填された構造を持つ。ラメラ液晶(Lα)は、二分子膜が層状に積層した構造を持つ。
【0029】
界面活性剤は水に溶解すると、単分子分散、吸着(表面吸着や界面吸着)、結晶化、集合体形成(ミセルおよび液晶)などの挙動を示す。界面活性剤が低濃度では単分散し、高濃度になるに従って集合体形成が起こる。界面活性剤の濃厚系で形成されるリオトロピック液晶の形態は、親水基-疎水基バランス(HLB)、および臨界充填パラメータ(CPP)によって表される。
【0030】
HLBは「親水基の大きさ(=頭部面積)」と「疎水基の大きさ(=臨界鎖長)」の比を経験則で示した指標であり、0~20の値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなる。
【0031】
分子集合体を形づくる界面活性剤の充填構造は、親水基を外側に向けた界面活性剤膜の曲率を「正の曲率」、親水基を内側に向けたものを「負の曲率」と定義すると、界面活性剤の親水基が強いときに形成される構造は正の曲率をもち、その大きさは親水性が強いほど大きくなる。親水性が小さくなる、つまりはHLB値が小さくなると液晶構造の曲率は正の曲率から負の曲率へ変化するといえる。
【0032】
一方、リオトロピック液晶を形づくる充填構造は、疎水基の体積(下記に定義されるν)および有効鎖長(下記に定義されるl)、分子集合体の疎水基部の界面での有効断面積(下記に定義されるa)を用いた臨界充填パラメーター(CPP)によって表され、CPP<1/3では集合体は円錐となり球状ミセルを、1/3~1/2の範囲では切頭円錐で円筒状ミセルを、1/2~1の範囲では切頭円錐で屈曲性二分子膜を、~1では円筒状となり平面状二分子膜を、>1では逆転した切頭円錐で逆ミセルを形成するとされ、界面活性剤が集合体形成する場合には立体的、エネルギー的に最も安定な形態をとる。
【0033】
CPPは以下の数式によって算出される。
界面活性剤の疎水部の長さ(l)およびその体積(ν)に対し、Tanfordの式を応用して下式が与えられる。nは炭化水素鎖(アルキル鎖、脂肪酸鎖)中の炭素の数を示す。
(Å) = 1.5 + 1.265 n ・・・・・(1)
ν(Å) = 27.4 + 26.9 n ・・・・・(2)
【0034】
界面活性剤の占める面積、または親水基当たりの断面積(a)は分子間の相互作用によって決定され、すなわちファンデルワールス力(γa)と静電的な反発力eD/(2εa)の和が分子集合体の界面活性剤の化学ポテンシャル(μ)に寄与することから、μはaの関数で表され、μの値が最小になるようにaを求めると、aは次式として得られる。eは界面活性剤一分子あたりの電荷、γは表面張力、Dは界面の電気二重膜の厚さ、εは誘電率を表す。
(Å) = √(e2 D/2εγ) ・・・・・(3)
【0035】
界面活性剤1分子が占める面積(a)と疎水基の長さ(l)および体積(ν)からなる円筒の体積に対する、疎水部の体積比で定義される臨界充填パラメーター(CPP)は下記の式で与えられる。
CPP = ν/(a) ・・・・・(4)
【0036】
CPPの変化に従い、球状ミセル→非連続キュービック相→棒状ミセル相→ヘキサゴナル相→ラメラ相→連続逆キュービック相→逆ヘキサゴナル相→逆棒状ミセル相→逆非連続キュービック相→逆ミセルに変化する。これは分子集合体の単分子膜の曲率にも依存する。コレステロールやセタノールなどの乳化助剤を加えることで曲率を変化させ、リオトロピック液晶の形態を操作する研究がされてきた。その研究事例としては水添レシチン(ホスファチジルコリン)とコレステロールの組合せがあり、コレステロールを添加することで曲率を負の方向に変化させ、ラメラ液晶やリポソームの形成について盛んに検討がされてきた。これまで親油性の高い乳化助剤を添加することで界面膜を平面(無限周期構造の形成)にする工夫がされてきたが、逆に正の方向に曲面を変化させるような研究事例は前述と比較すると少なく、リオトロピック液晶の形態を操作する検討はこれまで報告がなかった。
【0037】
本発明者らは、(A)単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質を用いることで、(B)ポリグリセリン型界面活性剤がヘキサゴナル液晶ではなくキュービック液晶になることを見出した。理論に束縛されることは望まないが、(A)は、親水基(糖部分)の断面積が大きい(化学ポテンシャルが大きい)こと、および/または、親水性の高い側鎖を持つ(A)と(B)の親水基(糖およびポリグリセリン)がお互い反発し合って(例えば、静電相互作用および/または立体障害によって)、頭部(親水基)面積が単体と比べて大きいことが想定される。結果として、(B)と集合体化した際に、(B)の形成する曲率をより高める方向に行ったと考えられる。
【0038】
<単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質>
単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質は、単糖又は二糖と、脂肪酸又は脂質とがエステル結合やエーテル結合などを介して結合した結合物である。該結合物は、単糖又は二糖と、脂肪酸又は脂質が直接又は間接的に結合していればよく、例えば、ポリグリセリンなどが更に結合した結合物も含まれる。
【0039】
糖は、複数の水酸基を有する多価アルコールの最初の酸化生成物で、ホルミル基又はカルボニル基を1つ有し、炭素数によってトリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトースなどに分類される。典型的には、単糖としては、例えば、グルコース、スクロース、ソルビトール、フルクトース、ガラクトース、ガラクトース、マンノース、リボースなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の糖は、水素や水酸基がメチル基などに置換されてもよい。二糖の場合は、それぞれの糖は同一であってもよく、また、異種であってもよい。二糖は、単糖2分子がグリコシド結合を介して結合した糖である。グリコシド結合としては、α(1→1)、α(1→2)、α(1→3)、α(1→4)、α(1→5)、α(1→6)、β(1→1)、β(1→2)、β(1→3)、β(1→4)、β(1→5)、β(1→6)、α(1→1)β、α(1→2)βなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい単糖は、グルコース、スクロース、またはソルビトールであり得る。好ましい二糖は、マンノシルエリスリトールであり得る。
【0040】
本開示における脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸の場合、不飽和脂肪酸は、最大6個、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下の二重結合を有していてもよい。脂肪酸の炭素鎖長は、任意の長さであってよく、例えば、炭素数8~24の任意の長さであり得る。脂肪酸は、長鎖脂肪酸であってもよく、例えば、炭素数15~24、炭素数15~20、炭素数15~18、の脂肪酸であり得る。炭素鎖長の長い脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。脂肪酸は、短鎖脂肪酸であってもよく、炭素数8~14、炭素数9~14、炭素数10~14の脂肪酸であり得る。炭素鎖長の短い脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい脂肪酸の鎖長は、炭素数12~16であり得る。
【0041】
本開示における脂質は、アルコールと脂肪酸のエステル、グリセリド、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、スフィンゴリン脂質、コレステロールなどが挙げられるがこれらに限定されない。脂質を構成する脂肪酸は、上記に記載の任意の脂肪酸であり得る。好ましい脂質は、スフィンゴ脂質であり得る。
【0042】
単糖又は二糖が結合した脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸グルコシルエステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルなどが挙げられる。一方、単糖又は二糖が結合した脂質としては、単糖又は二糖と炭化水素鎖が結合した糖脂質、単糖又は二糖と炭化水素鎖がグリセロールに結合したグリセロ糖脂質、単糖又は二糖がセラミドに結合したスフィンゴ糖脂質などが挙げられる。
【0043】
単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質として、単糖又は二糖、脂肪酸、及びポリグリセリンが結合したポリグリセリン脂肪酸エステル糖結合物が好ましい。更には、メチルグルコース、グリセリンが3分子重合したポリグリセリル-3、及びステアリン酸が2分子結合した、ジステアリン酸ポリグリセリル-3メチルグルコースが特に好ましい。その構造式を下に示す(nはグリセリンの重合度である)。nは2以上の整数、好ましくは2~20の整数、より好ましくは2~10の整数、さらに好ましくは4~10の整数である。
【0044】
【化1】
【0045】
好ましい実施形態において、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質は、ポリグリセリル-3メチルグルコースジステアレート、スクロースモノステアリン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、スフィンゴ糖脂質、マンノシルエリスリトールリピッド、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0046】
<ポリグリセリン型界面活性剤>
ポリグリセリン型界面活性剤は、ポリグリセリンと疎水基を有する分子がエステル結合やエーテル結合などを介して結合した結合物である。ポリグリセリンは複数のグリセリンが重合したもので、その重合度が2~20である単一又は複数種のポリグリセリンを含む混合物が好ましい。また、疎水基を有する分子としては、長鎖アルキル基を有する分子、典型的には、以下に示す炭素数12~24の脂肪酸、炭素数12~24の高級アルコールが挙げられる。長鎖アルキル基は、二重結合を含んでいても、含まなくてもよく、二重結合を含む場合は、最大6個、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下の二重結合を有し得る。
【0047】
ポリグリセリン型界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸モノエステル又はポリグリセリンモノアルキルエーテルが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸モノエステルは、疎水基が炭素数12~24の脂肪酸が好ましく、炭素数12~24の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、カドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサトリエン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸など高級脂肪酸の単一成分、アーモンド油、アプリコット核油、アマニ油、アルガン油、アンズ核油、オリーブ油、ゴマ油、コメヌカ油、ザクロ種子油、シア脂、ヤシ油、スイカ種子油、マカデミア種子油、ヒマシ油、ヒマワリ種子油、ブラジルナッツ種子油、ヘーゼルナッツ種子油、ベニバナ種子油、カボチャ種子油など植物油脂由来の高級脂肪酸の混合成分が挙げられる。ポリグリセリンオレイン酸モノエステルの化学構造を下に示す(nはグリセリンの重合度である。)。nは2以上の整数、好ましくは2~20の整数、より好ましくは2~10の整数、さらに好ましくは4~10の整数である。疎水基は、不飽和結合を有していても有さなくてもよく、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。
【0048】
【化2】
【0049】
ポリグリセリンモノアルキルエーテルは、疎水基が炭素数12~24の高級アルコールが特に好ましく、炭素数12~24の高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール、リノレニルアルコール、エライドリノレニルアルコール、リシノレイルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール、リグノセリルアルコールが挙げられる。ポリグリセリンモノアルキルエーテルは、以下の一般式で表される(Rは炭素数12~24の必要に応じて置換された炭化水素基を示し、nはグリセリンの重合度である。)。nは2以上の整数、好ましくは2~20の整数、より好ましくは2~10の整数である。例えば、ポリグリセリル-4ラウリルエーテルやポリグリセリル-20ラウリルエーテルなどが挙げられる。
【0050】
【化3】
【0051】
好ましい実施形態において、ポリグリセリン型界面活性剤は、ポリグリセリン-10モノオレイン酸エステル、ポリグリセリン-10モノラウリン酸エステル、ポリグリセリン-5モノオレイン酸エステル、ポリグリセリン-5モノステアリン酸エステル、ポリグリセリン-5モノミリスチン酸エステル、ポリグリセリン-4ラウリルエーテルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0052】
<油性成分>
油性成分としては、小麦胚芽油やトウモロコシ油やヒマワリ油やダイズ油などの植物油;ジメチコンやメチコン、シクロペンタシロキサン、シクロヘキサシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、ジフェニルジメチコン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーなどのシリコーン油;イソプリピルミリステートやグリセリルトリオクタノエートやジエチレングリコールモノプロピレンペンタエリスリトールエーテルやペンタエリスリチルテトラオクタノエートなどのエステル油;スクアランやスクアレン、流動パラフィン、ドデカン、イソドデカン、ポリブテン、ポリイソブテン、オレフィンオリゴマーなどの炭化水素油;トコフェロールやトコトリエノール、レチノール、酢酸トコフェロール、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルなどの油溶性ビタミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。油性成分としては、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
<水性成分>
水性成分としては、水、一価アルコール、多価アルコール、無機塩、水溶性ポリマー、その他の水溶性化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。多価アルコールは、水酸基を2個以上有するアルコールであり、典型的には、2~6の水酸基を有するアルコールである。
【0054】
水は、これに限定されるものではないが、精製水、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。水は1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
多価アルコールは、これに限定されるものではないが、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン-3、ポリグリセリン-4、ポリグリセリン-6、ポリグリセリン-10、ポリグリセリン-20、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、ペンタン-1,2-ジオール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。多価アルコールは1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
無機塩は、これに限定されるものではないが、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、臭化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化鉄、酢酸亜鉛などが挙げられる。無機塩は1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
水溶性ポリマーは、これに限定されるものではないが、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポリリジン、キトサン、ポリペプチド、オキシエチレン-オキシプロピレン共重合体、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸アルキル共重合体などが挙げられる。水溶性ポリマーは1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
また、その他の水溶性化合物として、これに限定されるものではないが、例えば、尿素、有機酸、水溶性アミノ酸、ビタミン、糖類などを挙げることができる。
【0059】
本発明の液晶組成物は、リオトロピック液晶、例えばキュービック液晶を形成するのに十分な量の単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質、ポリグリセリン型界面活性剤、油性成分、及び水性成分を含み得る。当業者であれば、実施例4の方法を利用して、各成分のリオトロピック液晶、例えばキュービック液晶を形成するのに十分な量を適宜決定することができる。
【0060】
一実施形態において、本発明の液晶組成物において、油性成分は、約10~約35重量%、好ましくは約15~約30重量%であり得る。
【0061】
一実施形態において、本発明の液晶組成物において、水性成分は、約25~約45重量%、好ましくは約30~約40重量%であり得る。
【0062】
一実施形態において、本発明の液晶組成物において、成分AおよびBの合計は、約35~約55重量%、好ましくは約40~約50重量%であり得る。
【0063】
一実施形態において、本発明の液晶組成物において、成分Aは、約2~約7重量%、好ましくは約4~約5重量%であり得る。
【0064】
一実施形態において、本発明の液晶組成物において、成分Bは、約28~約53重量%、好ましくは約35~約45重量%であり得る。
【0065】
(リオトロピック液晶組成物を製造する方法)
本発明の液晶組成物は、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質、ポリグリセリン型界面活性剤、及び油性成分を混合する工程と、前記混合物に水性成分を加えてリオトロピック液晶組成物を製造する工程、を含む方法によって製造されるリオトロピック液晶組成物が好ましい。
【0066】
成分A及び成分Bを80℃で撹拌混合して均一溶液とする。次に、80℃に加温した水性成分を添加して均一になるまで混合した後、撹拌しながら室温まで冷却する。
【0067】
単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質、ポリグリセリン型界面活性剤、及び油性成分を混合する方法としては、低いせん断力で撹拌する方法であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、手撹拌、プロペラ、ディスパーなどが挙げられる。前記混合物に水性成分を添加して液晶を形成する方法としては、加熱した水性成分に低いせん断力で撹拌しながら前記混合物を添加することで目的とする液晶を形成させることで本発明の液晶組成物を製造することができる。
【0068】
また、本発明の液晶組成物に、香料、着色剤、防腐剤、酸化防止剤、保湿剤、及び薬剤などを適宜配合して皮膚外用剤や化粧料を製造することができる。
【0069】
(リンギングゲル組成物)
リンギングゲルは、軽く叩くと振動してその元の構成に戻る堅固で低粘性のゲルで、一般的には、分枝したミセルの共連続ネットワーク又は共連続構造を有する溶融立方相から形成される。リオトロピック液晶組成物は、成分の種類や量比を調整することによってリンギングゲル組成物を形成する。
【実施例0070】
以下に、実施例に基づいて本開示の発明を詳細に説明するが、本開示の発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
実施例1:乳化組成物の液晶構造の確認
表1に示す処方例にしたがって、乳化組成物を調製した。まず、成分A、成分B及び油性成分を加えて80℃で撹拌混合して均一溶液とした。次に、80℃に加温した水性成分を添加して均一になるまで混合した後、撹拌しながら室温まで冷却した。表1中の数値は重量%を表す。
【0072】
表1に示す乳化組成物を測定検体として、小角X線散乱により乳化組成物の液晶構造を確認した。マイクロフォーカスX線源(Cu)のX線小角散乱装置(SAXSpoint 5.0、アントンパール社製)を用いて、露光時間10分、カメラ長1,000mmの測定条件で実施して散乱曲線を取得し、該散乱曲線上の各ピークについて散乱ベクトル長(q/nm-1)(q/nm-1)の比を測定した。
【0073】
液晶構造については次式に示す各ピークの散乱ベクトル長と液晶構造の関係性(X線散乱測定結果)および外観、曳糸性、反響(リンギング)の有無で判断した。リンギングは、ガラス容器に各乳化組成物を封入後、容器前面で手を叩き、反響の有無により確認した。その結果、表2に示すように処方例1~7の乳化組成物はキュービック液晶で形成し、ゲル状で曳糸性を有したリンギングゲル組成物であることが示された。
【0074】
これらの結果から、油性成分は約10~約35重量%、水性成分は約25~約45重量%、成分AおよびBの合計は約35~約55重量%とすることにより、キュービック液晶が形成される。一実施形態において、成分Aは約2~約7重量%、成分Bは約28~約53重量%であり得る。より好ましくは、油性成分は約15~約30重量%、水性成分は約30~約40重量%、成分AおよびBの合計は約40~約50重量%とすることにより、キュービック液晶が形成される。好ましい実施形態において、成分Aは約4~約5重量%、成分Bは約35~約45重量%であり得る。
・ラメラ液晶:
各ピークの散乱ベクトル長の比 = 1:2:3:4
・ヘキサゴナル液晶:
各ピークの散乱ベクトル長の比 = 1:√3:√2:√7
・キュービック液晶:
各ピークの散乱ベクトル長の比 = 1:√2:√3:√4
【表1】
【表2】
なお、表中のSAXS測定結果は、以下の意味を示す。
H:ヘキサゴナル液晶
I:キュービック液晶
-:会合体が特定できない二相領域
【0075】
実施例2:成分AおよびBの組合せの検討
(a)乳化組成物の調製
表3に示す処方例にしたがって、乳化組成物を調製した。まず、成分A、成分B及び油性成分を加えて80℃で撹拌混合して均一溶液とした。次に、80℃に加温した水性成分を添加して均一になるまで混合した後、撹拌しながら室温まで冷却した。表3中の数値は重量%を表す。
【表3】
※1:含まれる糖は、グルクロン酸、グルコサミン、ガラクトース、マンノース、グルコース、です。スフィンゴグルクロン酸、スフィンゴグルコサミン、スフィンゴガラクトースなどの混合物である。含まれる脂肪酸は、炭素数16~24の脂肪酸である。
※2:含まれる脂肪酸は、炭素数8~14の脂肪酸である。
【0076】
(b)外観、形状及び物性の評価
各乳化組成物の外観を観察した。また、指の触感により各乳化組成物の曳糸性の有無を判定した。更に、ガラス容器に各乳化組成物を封入後、容器前面で手を叩き、反響(リンギング)の有無を判定した。
【0077】
その結果、表4に示すように、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質(成分A)とポリグリセリン型界面活性剤(成分B)を含有する乳化組成物は、ゲル状で曳糸性を有したリンギングゲル組成物であり、キュービック液晶であることが示された。このように、成分Aおよび成分Bの種類にかかわらず、キュービック液晶を形成することができ、任意の単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質および任意のポリグリセリン型界面活性剤を使用することができるが、好ましくは、成分Aは、ポリグリセリル-3メチルグルコースジステアレート、スクロースモノステアリン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、スフィンゴ糖脂質、マンノシルエリスリトールリピッド、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、成分Bは、ポリグリセリン-10モノオレイン酸エステル、ポリグリセリン-10モノラウリン酸エステル、ポリグリセリン-5モノオレイン酸エステル、ポリグリセリン-5モノステアリン酸エステル、ポリグリセリン-5モノミリスチン酸エステル、ポリグリセリン-4ラウリルエーテルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【表4】
【0078】
(c)フルオレセインの経皮吸収の測定
各乳化組成物を精製水で希釈して20%水溶液を調製し、0.2%フルオレセイン-Na(SIGMA製、カタログ番号:E6377)水溶液と当量で混合して測定検体とした。また、0.1%フルオレセイン水溶液を対照の測定検体とした。
【0079】
試験紙付きのフィルム(パッチテスター「トリイ」)に試験紙1枚あたり20μLの測定検体を滴下し、被験者3名の前腕部に20分間貼付した。軽く流水洗浄した後、紫外線ランプ(UVGL-58、UVP社製)を前腕部に照射して写真撮影を行った。撮影画像を二値化し、対照に対する蛍光強度の比率を求め、下式で示される経皮吸収率(%)を算出した。
経皮吸収率(%)=100-(対照に対する蛍光強度の比率)
【0080】
その結果、表5に示すように、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質(成分A)とポリグリセリン型界面活性剤(成分B)を含有する乳化組成物(処方例1、8~15)は、成分Aを含まない乳化組成物(比較例7~8)よりもフルオレセインの経皮吸収を促進させることが示された。尚、表5の数値は、経皮吸収率の平均値を表す。
【表5】
【0081】
実施例3:処方例16、比較例9.工程の違いで製造される乳化組成物による化合物の経皮吸収の比較
(a)乳化組成物の調製、外観、形状及び物性の評価
表1の処方例1で示す処方において、表6に示す工程によって乳化組成物をそれぞれ調製した(処方例16および比較例9)。尚、両工程共に80℃で攪拌しながら各成分を混合した。調製された各乳化組成物の外観を観察し、粘弾性及びリンギングの有無を判定した。
【0082】
その結果、表6に示すように、処方例16で示す工程で製造された乳化組成物は、ゲル状で粘弾性を有したリンギングゲル組成物であることが示された。したがって、最後に水性成分を添加することが好ましい。
【表6】
【0083】
(b)フルオレセインの経皮吸収の測定
各乳化組成物をPBS(-)で希釈して2%溶液を調製し、1%フルオレセイン-Na PBS(-)溶液と当量で混合して測定検体とした。また、0.5%フルオレセインPBS(-)溶液を対照の測定検体とした。
【0084】
37℃、5%COのインキュベーター中で一晩馴化させた3次元培養皮膚LabCyte EPI-MODEL24 6D(J-tec製、カタログ番号:4111224E)に200μLの測定検体を添加し、1、3及び6時間後に受容器中の培地(1mL)の蛍光強度(励起波長:487nm、検出波長:528nm)をプレートリーダーPOWERSCAN HT(DSファーマバイオメディカル製)を用いて測定した。尚、試験はN=3で実施した。
【0085】
その結果、図1に示すように、処方例16の工程で製造された乳化組成物は、比較例9の工程で製造された乳化組成物よりもフルオレセインの経皮吸収を促進させることが示された。
【0086】
実施例4:新規乳化組成物と既知組成物の有効性検討
(a)乳化組成物の調製
表1に示す処方例1および表7に示す比較例10にしたがって、乳化組成物を調製した。まず、成分A、成分B及び油性成分を加えて80℃で撹拌混合して均一溶液とした。次に、80℃に加温した水性成分を添加して均一になるまで混合した後、撹拌しながら室温まで冷却した。表7中の数値は重量%を表す。
【表7】
【0087】
(b)フルオレセインの経皮吸収の測定
各乳化組成物を精製水で希釈して5%、10%、15%、20%水溶液を調製し、0.2%フルオレセイン-Na(SIGMA製、カタログ番号:E6377)水溶液と当量で混合して測定検体とした。また、0.1%フルオレセイン水溶液を対照の測定検体とした。
【0088】
試験紙付きのフィルム(パッチテスター「トリイ」)に試験紙1枚あたり20μLの測定検体を滴下し、被験者3名の前腕部に20分間貼付した。軽く流水洗浄した後、紫外線ランプ(UVGL-58、UVP社製)を前腕部に照射して写真撮影を行った。撮影画像を二値化し、対照に対する蛍光強度の比率を求め、下式で示される経皮吸収率(%)を算出した。
経皮吸収率(%)=100-(対照に対する蛍光強度の比率)
【0089】
その結果、図2に示すように、単糖又は二糖が結合した脂肪酸又は脂質(成分A)とポリグリセリン型界面活性剤(成分B)を含有する乳化組成物(処方例1)は、既知のキュービック液晶組成物(比較例10)(参照により本明細書に組み込まれる特許第6019024号明細書)と比較して、5%の濃度においてフルオレセインの経皮吸収を有意に促進させることが示された。
【0090】
(c)細胞毒性の比較
各組成物の細胞毒性について表皮不死化角化細胞(PSVK1)を用いて比較した。PSVK1細胞を96ウェルプレートに5×10cells/wellの細胞密度で播種し、HuMedia-KG2培地(クラボウ)中で一晩前培養した。処方例1と比較例10それぞれを量り取って10%となるようにHuMedia-KG2培地で分散液を作製した。分散にはローテーターを使用し、30分攪拌を実施した。この分散液を所定の濃度(0.001%、0.005%、0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、1%、5%)となるようHuMedia-KG2培地で希釈し試験標品とした。一晩前培養したPSVK1細胞をPBS(-)で洗浄し、所定の濃度の被験物質が分散された培地を100μL/wellになるように添加した。24時間培養後、各ウェルをPBS(-)で洗浄し、Cell Counting Kit-8(同人化学研究所)により生細胞数測定に供した。450nmの吸光度から生細胞数を測定し、相対値を算出した。試験は各群n=3で実施し、有意差検定は陰性対照群(0%)とDunnet多重比較を用い、p<0.05を有意な差とした。その結果、図3に示すように、処方例1は0.001%から0.1%までは毒性がみられず、0.5%以上で有意な差が見られた。一方、比較例10は0.001%でも有意に毒性が見られた。また得られた結果から半数細胞毒性濃度(50% inhibition concentrations:IC50)を算出すると、比較例10は0.005%であったのに対し、処方例1では0.445%と89倍の差が示された。このことから、処方例1は比較例10と比べて表皮細胞への毒性が低下し、安全性が大幅に向上したことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本開示は、生体や環境への適合性が高く、しかも、有効成分の経皮吸収が高いリオトロピック液晶組成物を提供することができ、化粧品および医薬の産業において利用可能である。
図1
図2
図3