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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098644
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】管路設計システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/18 20200101AFI20250625BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20250625BHJP
   G06F 113/14 20200101ALN20250625BHJP
【FI】
G06F30/18
G06F30/27
G06F113:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214919
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004510
【氏名又は名称】弁理士法人維新国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】勝部 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古見 耕次郎
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA03
5B146DC03
(57)【要約】
【課題】管路のルートだけでなく、管路を構成する複数の種類の管とそれぞれの数、及び、それらの組み合わせについても最適に、且つ、効率良く自動で設計できる管路設計システムを提供する。
【解決手段】管路設計システム1は、地中において複数の管を順に繋いで構成される管路を設計する。設計空間設定部4aは、三次元の地中設計空間5Aを設定する。強化学習部4bは、管の種類とその延びる方向との選択を行動とするとともに当該行動によりそれぞれ選択する各管のデータを順に繋いだ先を遷移した状態として、地中設計空間5Aにおいて指定した始点から終点まで移動できた時の一連の各行動に基づいて得られる予め設定された報酬が合計で最も多くなる学習管路データを強化学習により1つ以上学習して出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中において複数の管を順に繋いで構成され、1つ以上の既設埋設物を迂回して延びる管路を設計可能な管路設計システムであって、
三次元の地中設計空間を設定する設計空間設定部と、
前記管の種類とその延びる方向との選択を行動とするとともに当該行動によりそれぞれ選択する前記各管のデータを順に繋いだ先を遷移した状態として、前記地中設計空間において指定した始点から終点まで移動できた時の一連の前記各行動に基づいてそれぞれ得られる予め設定された報酬が合計で最も多くなる学習管路データを強化学習により1つ以上学習して出力する強化学習部と、を備えていることを特徴とする管路設計システム。
【請求項2】
請求項1に記載の管路設計システムにおいて、
前記報酬は、前記既設埋設物のデータとの離隔距離、前記終点までの相対距離、前記終点への到達、及び、行動回数の少なくとも1つに応じて予め設定された点数であることを特徴とする管路設計システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の管路設計システムにおいて、
複数の前記学習管路データの特徴値をそれぞれ演算して抽出する特徴抽出部と、
前記各特徴値を予め決められた評価テーブルに基づいた評価値に換算してそれぞれ出力する評価値出力部と、を備えていることを特徴とする管路設計システム。
【請求項4】
請求項3に記載の管路設計システムにおいて、
前記特徴値は、前記学習管路データの全長、前記学習管路データの地表からの平均埋設深さ、及び、前記学習管路データが前記既設埋設物の下方を通過している回数の少なくとも1つであることを特徴とする管路設計システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の管路設計システムにおいて、
前記学習管路データが描かれた前記地中設計空間を上方から見た平面管路データ図と、所定の側方から見た縦断管路データ図と、をそれぞれ出力する図面出力部を備えていることを特徴とする管路設計システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中において内部に電線等を配設可能な管路を設計する管路設計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地中には、複数の管を順に繋いで構成される管路が多数埋設され、これら各管路内には、例えば、電線等が配設されている。従来、各管路については、設計者が情報処理端末等を用いて図面上の指定された始点から終点までの間において既設埋設物の領域を迂回させながら手作業で設計することが一般的に行われており、設計される管路の質が設計者の経験値に依存するといった課題や、設計ミスによる手戻りによって作業に多くの時間が費やされるといった課題があった。
【0003】
これらに対応するために、近年、各管路の設計を自動で設計するシステムが考えられている。例えば、特許文献1に開示されている管路設計プログラムは、指定された始点から終点までの間の縦断面データ上において、既設埋設物が存在する領域を迂回するような台形状に延びる線を算出した後、始点から終点に向かって延ばす線と生成した台形状の線との交点の座標値を順に取得し、その後、取得した座標値を始点から終点に向けて順に結んで得られた折れ線を管路の最適ルートとして出力するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7086371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、管路を構成する各管は、直管と曲管とがそれぞれ存在し、さらには、それぞれ長さや曲率の異なるものが複数種存在するため、管路の設計の際に、これら複数の種類の管をどのように繋ぐかを考える必要があり、工事に必要な管の種類や数に加えて、それらの組み合わせを事前に把握しておかなければならない。
しかし、特許文献1では、管路の最適なルートが自動で出力されるものの、その出力されたルートにおける管路がどのような種類や数の管の組み合わせで成立するのかということを設計することについては、何ら考慮されていない。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、管路のルートだけでなく、管路を構成する複数の種類の管とそれぞれの数、及び、それらの組み合わせについても最適に、且つ、効率良く自動で設計できる管路設計システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明では、所定の区間における管路を構成する複数種の管の組み合わせを強化学習により取得可能にしたことを特徴とする。
具体的には、地中において複数の管を順に繋いで構成され、1つ以上の既設埋設物を迂回して延びる管路を設計可能な管路設計システムを対象とし、次のような対策を講じた。
【0008】
すなわち、第1の発明に係る管路設計システムでは、三次元の地中設計空間を設定する設計空間設定部と、前記管の種類とその延びる方向との選択を行動とするとともに当該行動によりそれぞれ選択する前記各管のデータを順に繋いだ先を遷移した状態として、前記地中設計空間において指定した始点から終点まで移動できた時の一連の前記各行動に基づいてそれぞれ得られる予め設定された報酬が合計で最も多くなる学習管路データを強化学習により1つ以上学習して出力する強化学習部と、を備えていることを特徴とする。
このように構成される管路設計システムでは、地中において指定する始点から終点まで既存埋設物を迂回させながら延びる管路の最適ルートが設計されると同時に、その最適ルートにおける管路を構成する複数の管について最適な種類とそれぞれの数、及び、それらの組み合わせが分かるように作用する。
【0009】
第2の発明の管路設計システムでは、第1の発明において、前記報酬は、前記既設埋設物のデータとの離隔距離、前記終点までの相対距離、前記終点への到達、及び、行動回数の少なくとも1つに応じて予め設定された点数であることを特徴とする。
このように構成される管路設計システムでは、強化学習により出力される学習管路データが、経験値の高い設計者が従来の手法で行った設計によるものに近づくように作用する。
【0010】
第3の発明の管路設計システムでは、第1又は第2の発明において、複数の前記学習管路データの特徴値をそれぞれ演算して抽出する特徴抽出部と、前記各特徴値を予め決められた評価テーブルに基づいた評価値に換算してそれぞれ出力する評価値出力部と、を備えていることを特徴とする。
このように構成される管路設計システムでは、強化学習により得られた複数の学習管路データの特徴が分かるようになり、設計者が各学習管路データを定量的に比較できるように作用する。
【0011】
第4の発明の管路設計システムでは、第3の発明において、前記特徴値は、前記学習管路データの全長、前記学習管路データの地表からの平均埋設深さ、及び、前記学習管路データが前記既設埋設物の下方を通過している回数の少なくとも1つであることを特徴とする。
このように構成される管路設計システムでは、強化学習により得られた複数の学習管路データを、管路設計をする上で重要であるポイントに則して定量的に比較検討できるように作用する。
【0012】
第5の発明の管路設計システムでは、第1又は第2の発明において、前記学習管路データが描かれた前記地中設計空間を上方から見た平面管路データ図と、所定の側方から見た縦断管路データ図と、をそれぞれ出力する図面出力部を備えていることを特徴とする。
このように構成される管路設計システムでは、作成された管路のルートを2つの図面上に表示できるように作用する。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明の管路設計システムでは、地中において指定する始点から終点まで既存埋設物を迂回させながら延びる管路の最適ルートが設計されると同時に、その最適ルートにおける管路を構成する複数の管について最適な種類とそれぞれの数、及び、それらの組み合わせが分かるようになる。したがって、地中における管路の設計を効率良く行うことができる。
【0014】
第2の発明の管路設計システムでは、強化学習に用いる報酬が、管路設計をする上で重要であるポイントに則して設定されているので、強化学習により出力される学習管路データが、例えば、経験値の高い設計者が従来の手法で行った設計によるものに近づくようになる。したがって、質の良い管路のルートやその管路を構成する管の種類とそれぞれの数、及び、それらの組み合わせを効率良く出力することができる。
【0015】
第3の発明の管路設計システムでは、強化学習により得られた複数の学習管路データの特徴が分かるようになるので、設計者が各学習管路データを定量的に比較可能になる。したがって、設計者は、複数の学習管路データの中から最も質の良い管路を見つけ出すことができる。
【0016】
第4の発明の管路設計システムでは、強化学習により得られた複数の学習管路データを、管路設計をする上で重要であるポイントに則して定量的に比較検討できるようになる。したがって、最も質の良い管路のルートを得ることができるとともに、そのルートにおける管の種類や数、及びそれらの組み合わせについて質の高いものを見つけ出すことができる。
【0017】
第5の発明の管路設計システムでは、作成された管路のルートを2つの図面上に表示できるようになる。したがって、例えば、現地で管路を施工する際に指示が行い易くなったり、或いは、他の人と管路の情報について共有し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例に係る管路設計システムのブロック図である。
図2】管路の施工例を示す図である。
図3】強化学習の更新式である。
図4】本発明の実施例に係る管路設計システムにて設計する管路が埋設される場所を示す図であり、(a)は、平面図を示し、(b)は、(a)のA-A’線における縦断図を示す。
図5】本発明の実施例に係る管路設計システムにて設計する管路が埋設される場所を構造化データにした地中設計空間であり、(a)は、図4(a)に対応する位置のデータであり、(b)は、図4(b)に対応する位置のデータである。
図6】本発明の実施例に係る管路設計システムにて管路を設計する際に設定する設定パラメータを示す表であり、(a)は、管路の条件を示し、(b)は、強化学習における学習条件を示す。
図7】(a)は、本発明の実施例に係る管路設計システムの強化学習時における行動の選択パターンを示す表であり、(b)は、本発明の実施例に係る管路設計システムの強化学習時における報酬に関するデータを示す表である。
図8】学習管路データにおけるルートの良否を評価する際に使用する評価テーブルである。
図9】本発明の実施例に係る管路設計システムの動作を示すフローチャートの前半部分である。
図10】本発明の実施例に係る管路設計システムの動作を示すフローチャートの後半部分である。
図11図5の地中設計空間に本発明の実施例に係る管路設計システムの強化学習において作成された3つの学習管路データを表示した図である。
図12】本発明の実施例に係る管路設計システムの強化学習において作成された3つの学習管路データを評価テーブルにて評価した結果を示す表である。
図13】最も評価が高い学習管路データが描かれた平面管路データ図の一例である。
図14】最も評価が高い学習管路データが描かれた縦断管路データ図の一例である。
図15】最も評価が高い学習管路データの接続材料図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施例の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る管路設計システム1のブロック図を示す。この管路設計システム1は、図2に示すように、地中において内部に電線等が配設される管路2を自動で設計するものであり、地中における最適なルートや管路2を構成する各管3の組み合わせ等を強化学習や評価判定処理によって出力可能なコンピュータ10を備えている。
【0021】
強化学習とは、図3に示すように、環境中において、エージェントがそのときの状況に応じた最適な行動aを取ることができるようにするための方策を学習するものである。本発明では、図1に示す強化学習部4bがエージェントに相当しており、与えられた環境において行動aを実行することで遷移した環境から状態s’及び報酬rを受け取ることを繰り返して行動aを決定するための行列(Qテーブル)を更新していくというものであって最終的に報酬rを最大化するための行動aを学習する方法である。
【0022】
コンピュータ10は、図1に示すように、強化学習や評価判定処理を行う情報処理部4と、キーボードやマウス等で情報処理部4に入力するデータを保存する入力データベース5と、強化学習や評価判定処理に用いる各種データを保存する管路設計用データベース6と、情報処理部4により処理されて得られた各処理結果を保存する出力データベース7と、を備えている。
【0023】
入力データベース5は、図4乃至図6に示すように、設計する管路2が埋設される場所を構造化データにした地中設計空間5Aと、管路2の設計に必要な条件を設定する設計ルート条件データ5Bと、管路2の設計の際に行う強化学習のルート探索回数(行動aの回数)i及び学習回数kを設定する学習条件データ5Cと、を保存するようになっている。
地中設計空間5Aは、図4及び図5に示すように、管路2が埋設される場所をX軸、Y軸及びZ軸で定めた直交座標系において多数のブロック状の小領域に区分けして定義され、例えば、暗渠や水路等の埋設物がある位置に対応する各小領域には、これら埋設物が存在するという情報を持たすようにしたものである。地中設計空間5Aは、暗渠や水路等を表す複数の既設埋設物データ5aと、設計する管路2の始点S及び終点Gの位置データ5bと、地表Fの位置データ5cと、を有している。尚、図5では、便宜上、既設埋設物データ5aの領域をハッチングにて示している。
【0024】
設計ルート条件データ5Bは、図6に示すように、管路2の設計時に入力されて保存される設定パラメータであり、管路2の施工時に使用する管3の管路径、設計する管路2の各既設埋設物からの最低離隔距離、及び、管路2の必要埋設深さについてそれぞれ施工条件に合わせて入力する数値が保存されている。例えば、設計する管路2を構成する各管3の管路径を6つの選択肢から1つ選んで入力する数値が保存され、設計する管路2の各既設埋設物からの最低離隔距離を2つの選択肢から1つ選んで入力する数値が保存され、設計する管路2の必要埋設深さを3つの選択肢から1つ選んで入力する数値が保存されるようになっている。そして、最低離隔距離の領域5d及び必要埋設深さの領域5eは、図5に示すように、地中設計空間5Aにデータとして保存されるようになっている。
【0025】
学習条件データ5Cは、管路2の設計時に入力されて保存される設定パラメータであり、管路2の設計の際に行う強化学習のルート探索回数(行動aの回数)i及び学習回数kにおいてそれぞれ設計条件に合わせて入力される数値が保存されている。例えば、管路設計システム1が行う強化学習において設計する管路2のルート探索回数iを多くしたい場合には、上限値を100,000回として任意に入力した回数が保存され、少なくしたい場合には、下限値を100回として任意に入力した回数が保存されるようになっている。また、管路設計システム1が行う強化学習において設計する管路2について、ルートのパターンを数多く検討する場合には、上限値を100,000回として任意に入力した回数が保存され、少なくしたい場合には、下限値を100回として任意に入力した回数が保存されるようになっている。
【0026】
管路設計用データベース6は、図1に示すように、強化学習用データ6A及び評価テーブル6Bが保存されている。
強化学習用データ6Aは、強化学習を行うのに必要な行動データ6a及び報酬データ6bで構成されている。
行動データ6aは、図7(a)に示すように、強化学習における行動aの選択パターンが保存されている。本発明の実施例では、行動aの際に選ぶ管3について直線状に延びる直管を選ぶ場合に1通り、曲がって延びる曲管を選ぶ場合に曲率の異なる7種類についてそれぞれ延びる方向が4つあるとして28通り選択可能にしており、合計で29通りの選択パターンが保存されている。
【0027】
報酬データ6bは、図7(b)に示すように、強化学習において遷移後の環境や状況に応じて予め決められた報酬rとして付与される点数がそれぞれ保存されている。例えば、行動aを1回行う毎に報酬rとして-1点が付与されるようになっている。また、行動aを実施した後に終点Gまでの相対距離が減少した場合に報酬rとして+2点が付与されるようになっている。さらに、行動aを実施した後に既設埋設物から予め決められた最低離隔距離を下回った場合に報酬rとして-10点が付与されるようになっている。そして、行動aを実施した後に終点Gに到着した場合に報酬rとして+100が付与されるようになっている。
【0028】
評価テーブル6Bには、図8に示すように、強化学習により得られた各学習管路データ20を評価する際の評価項目、評価方法及び総合評価の仕方が記憶されている。例えば、学習管路データ20の全長に応じて付与される点数が記憶されている。また、各学習管路データ20の平均掘削深さについて互いに比較して付与される点数の付け方が記憶されている。さらに、各学習管路データ20の防護対策の数について互いに比較して付与される点数の付け方が記憶されている。例えば、学習管路データ20の全長を演算するとともに、その全長について1mを1点として評価する評価方法が記憶されている。また、各学習管路データ20の平均掘削深さを演算するとともに、深さが浅い学習管路データ20の順に1点、2点、…、n点(nは自然数)と評価する評価方法が記憶されている。さらに、各学習管路データ20について防護対策の必要が少ない順に1点、2点、…、n点(nは自然数)と評価する評価方法が記憶されている。そして、各評価項目について評価された点数を学習管路データ20毎に合計して評価値とし、この評価値が一番低い学習管路データ20を最も良い管路2が施工できるものとして選択する評価方法が記憶されている。
【0029】
情報処理部4は、図1に示すように、設計空間設定部4a、強化学習部4b、特徴抽出部4c、評価値出力部4d、図面出力部4e、資材数量出力部4f、張力演算部4g及び側圧演算部4hで構成されている。
設計空間設定部4aは、図4及び図5に示すように、コンピュータ10に上記地中設計空間5Aを設定するようになっている。
【0030】
強化学習部4bは、管3の種類とその延びる方向との選択を行動aとするとともに、当該行動aによりそれぞれ選択する各管3のデータを順に繋いだ先を遷移した状態s’として、地中設計空間5Aにおいて指定した始点Sから終点Gまで移動できた時の一連の各行動aに基づいてそれぞれ得られる予め設定された報酬rが合計で最も多くなる学習管路データ20を強化学習により1つ以上学習して出力するようになっている。
【0031】
具体的には、強化学習部4bは、例えば、始点Sにおいて図7(a)の行動データ6aの選択パターンから「1mの直管」(以下、この管3を第1選択管データ3aと呼ぶ)を選択すると、延びる方向は「直線」のみであるため、終点Gに向かって真っすぐに延びるように第1選択管データ3aを配置し、その延びた第1選択管データ3aの先端位置を遷移した状態s’とする。このとき、第1選択管データ3aの延びた位置において報酬データ6bに基づいて報酬rが得られるようになっており、行動aを1回行ったので1点がマイナスされる一方、終点Gまでの相対距離が短くなったので2点がプラスされ、合計で報酬rが1点プラスされるようになっている。次に、強化学習部4bは、行動データ6aの選択パターンからランダムに管3の種類を選ぶ。もし、管3の種類として「管の種類=曲管(R5)」「延びる方向=上」(以下、この管3を第2選択管データ3bと呼ぶ)が選択されると、第2選択管データ3bが上側に曲がって延びるように第1選択管データ3aに繋がれ、その延びた第2選択管データ3bの先端位置を遷移した状態s’とするようになっている。このとき、第2選択管データ3bの延びた位置において報酬データ6bに基づいて報酬rが得られるようになっており、行動aを1回行ったので1点がマイナスされる一方、終点Gまでの相対距離が短くなったので2点がプラスされ、合計で報酬rが1点プラスされるようになっている。
【0032】
次いで、強化学習部4bは、行動データ6aの選択パターンからランダムに管3の種類を選ぶ。もし、管3の種類として「管の種類=曲管(R15)」「延びる方向=下」(以下、この管3を第3選択管データ3cと呼ぶ)が選択されると、第3選択管データ3cが下側に曲がって延びるように第2選択管データ3bに繋がれ、その延びた第3選択管データ3cの先端位置を遷移した状態s’とするようになっている。このとき、第3選択管データ3cの延びた位置において報酬データ6bに基づいて報酬rが得られるようになっていて、行動aを1回行ったので1点がマイナスされる一方、終点Gまでの相対距離が短くなったので2点がプラスされ、合計で報酬rが1点プラスされるようになっている。ここで、例えば、第3選択管データ3cの延びた位置が既設埋設物データ5aからの最低離隔距離を下回った場合には、報酬rが10点マイナスされるようになっている。つまり、設計する管路2のルートが既設埋設物を迂回しない場合、報酬rが少なくなるようになっている。このように、強化学習部4bは、行動aを選択して報酬rを得ながらランダムに選ばれる管3のデータを順に繋いでいき、例えば、図11に示すように、終点Gに到達する1つ以上の学習管路データ20(学習管路データ20A、20B、20C)を得るようになっていて、報酬rの合計が高い学習管路データ20は、既設埋設物を迂回して延びるルートになっている。
【0033】
特徴抽出部4cは、強化学習部4bで得られた各学習管路データ20の特徴値をそれぞれ演算して抽出するようになっている。特徴値は、図8に示すように、各学習管路データ20の全長、各学習管路データ20の地表Fからの平均埋設深さ、及び、各学習管路データ20が既設埋設物の下方を通過している回数、すなわち、防護対策を行う必要がある回数となっている。
例えば、特徴抽出部4cは、図11の学習管路データ20Aについて、全長が50mで、且つ、平均埋設深さが8mであって、そのルートが暗渠の上方を通過する一方、水道管の下方を通過しているので、防護対策を行う必要がある回数を1として抽出するようになっている。また、特徴抽出部4cは、図11の学習管路データ20Bについて、全長が52mで、且つ、平均埋設深さが6mであって、そのルートが暗渠及び水道管の上方を通過しているので、防護対策を行う必要が無いとして抽出するようになっている。さらに、特徴抽出部4cは、図11の学習管路データ20Cについて、全長が56mで、且つ、平均埋設深さが8mであって、そのルートが暗渠の下方を通過するとともに水道管の下方も通過しているので、防護対策を行う必要がある回数を2として抽出するようになっている。
【0034】
評価値出力部4dは、上述の各特徴値を予め決められた評価テーブル6Bに基づいた評価値に換算してそれぞれ出力するようになっている。本発明の実施例では、学習管路データ20の長さの評価値について1mを1点として換算するようになっている。また、地表Fからの平均埋設深さが浅い学習管路データ20の順に評価値を1点、2点、…、n点(nは自然数)と換算するようになっている。さらに、防護対策する必要が少ない学習管路データ20の順に評価値を1点、2点、…、n点(nは自然数)と換算するようになっている。そして、各学習管路データ20の評価値をそれぞれ合計し、合計点が一番低い学習管路データ20を最も評価の高い学習管路データ20として選択するようになっている。
評価値出力部4dは、図12に示すように、例えば、図11に示す学習管路データ20A、20B、20Cの各総合評価をそれぞれ54点、54点、62点とし、学習管路データ20Aか、或いは、学習管路データ20Bが最も評価の高い学習管路データ20として選択され、ルート評価データ7gとして出力データベース7に保存されるようになっている。
【0035】
図面出力部4eは、図13及び図14に示すように、評価値出力部4dにて選択された学習管路データ20が描かれた地中設計空間5Aを上方から見た平面管路データ図7aと、所定の側方から見た縦断管路データ図7bと、をそれぞれ出力して出力データベース7に保存するようになっている。
また、図面出力部4eは、図15に示すように、評価値出力部4dにて選択された学習管路データ20を構成する各管3の組み合わせや、数量、長さ寸法が記載された接続材料図データ7cを出力して出力データベース7に保存するようになっている。
【0036】
資材数量出力部4fは、評価値出力部4dにて選択された学習管路データ20を構成する各管3の種類とそれぞれの数量を算出して資材数量データ7dとし、それを出力データベース7に保存するようになっている。
張力演算部4gは、評価値出力部4dにて選択された学習管路データ20においてケーブル布設に必要な引入張力計算を行うようになっている。具体的には、張力演算部4gは、学習管路データ20の変化点毎に引入張力を、例えば、特開2013-54450号公報に記載の従来周知の計算式に基づいて計算して張力計算データ7eを出力して出力データベース7に保存するようになっている。
側圧演算部4hは、評価値出力部4dにて選択された学習管路データ20の側圧計算を行うようになっている。具体的には、側圧演算部4hは、学習管路データ20の曲管で構成された管3の側圧を、例えば、特開2013-54450号公報に記載の従来周知の計算式に基づいて計算して側圧計算データ7fを出力して出力データベース7に保存するようになっている。
【0037】
次に、本発明の実施例の管路設計システム1の情報処理部4において最も評価の高い学習管路データ20を出力する動作について詳述する。
図9に示すように、まず、ステップS1において、コンピュータ10に対し、設計する管路2が埋設される場所を構造化データにした地中設計空間5Aを入力した後、ステップS2に進む。
ステップS2では、コンピュータ10に対して設計ルート条件データ5Bを入力する。具体的には、コンピュータ10に対し、管路2に使用する管3の管路径、設計する管路2の各既設埋設物からの最低離隔距離、及び、管路2の必要埋設深さについてそれぞれ施工条件に合わせて数値を入力する。
【0038】
ステップS2にて設計ルート条件データ5Bを入力した後、ステップS3に進み、コンピュータ10に対して学習条件データ5Cを入力する。具体的には、コンピュータ10に対し、管路2の設計の際に行う強化学習のルート探索回数(行動回数)i及び学習回数kにおいてそれぞれ設計条件に合わせて数値m、n(m、nは自然数)を入力する。
【0039】
ステップS3にて学習条件データ5Cを入力した後、ステップS4に進んで学習回数kが初期化されて番号kに1が代入され、その後、ステップS5に進む。
また、ステップS5に進むと、強化学習における状態sが初期化(ルート探索回数が初期化)されて番号iに1が代入され、その後、ステップS6に進む。
【0040】
ステップS6では、強化学習部4bが、行動データ6aの各選択パターンからランダムに1つ選択する。例えば、行動データ6aの選択パターンから「1mの直管」の第1選択管データ3aが選択されると、始点Sにおいて第1選択管データ3aを終点Gに向かって真っすぐに延びるように第1選択管データ3aを配置してステップS7に進み、その延びた第1選択管データ3aの先端位置を遷移した状態s’とするとともに、報酬データ6bに基づいて報酬rを受け取る。このとき受け取る報酬rは、行動aを1回行ったので1点がマイナスされる一方、終点Gまでの相対距離が短くなったので2点がプラスされ、合計で報酬rが1点プラスされる。
【0041】
ステップS7で報酬rを受け取ると、ステップS8に進み、状態s’が終点Gに到着した状態か否かを判定する。
このステップS8の判定がYESのとき、すなわち、状態s’が終点Gに到着した状態であると判定した場合には、学習管路データ20が得られ、その後、ステップS10に進む。
【0042】
一方、ステップS7の判定がNOのとき、すなわち、状態s’が終点Gに到着していないとい判定した場合には、ステップS9に進み、行動回数iがm回になったか否かを判定する。
ステップS9の判定がYESのとき、すなわち、行動回数iがm回になった場合には、ステップS5に戻って行動aを最初からやり直す。
一方、ステップS9の判定がNOのとき、すなわち、行動回数iがm回になっていない場合には、ステップS11に進んでi+1をiに代入した後、ステップS6に戻って次の行動aについての処理を行う。例えば、強化学習部4bが、行動データ6aの各選択パターンから「管の種類=曲管(R5)」「延びる方向=上」の第2選択管データ3bが選択されると、第2選択管データ3bが上側に曲がって延びるように第1選択管データ3aに繋がれてステップS7に進み、その延びた第2選択管データ3bの先端位置を遷移した状態s’として報酬データ6bに基づいて報酬rを得る。
【0043】
ステップS10に進むと、コンピュータ10は、学習回数kがn回になったか否かを判定する。このステップS10の判定がNOのとき、すなわち、学習回数kがn回でない場合には、ステップS12に進んで学習管路データ20を出力データベース7に保存する。その後、ステップS13に進んでk+1をkに代入した後、ステップS5に戻って行動aを最初からやり直す。
一方、ステップS10の判定がYESのとき、すなわち、学習回数kがn回になった場合には、図10に示すように、ステップS14に進み、出力された各学習管路データ20についてそれぞれ評価値を出力する。まず、特徴抽出部4cが強化学習部4bで得られた各学習管路データ20の全長、地表Fからの平均埋設深さ、及び、各学習管路データ20が既設埋設物の下方を通過している回数をそれぞれ演算する。具体的には、図11の学習管路データ20A、20B、20Cの3つが強化学習部4bにて得られたとすると、特徴抽出部4cは、学習管路データ20Aについて、例えば、全長が50mで、且つ、平均埋設深さが8mであって、そのルートが暗渠の上方を通過する一方、水道管の下方を通過しているので、防護対策を行う必要がある回数を1として抽出する。学習管路データ20B、20Cについても同様に特徴値を抽出する。その後、評価値出力部4dが上述で得た各特徴値を図8に示す評価方法に基づいて学習管路データ20A、20B、20Cの評価値を換算し、図12に示すように、総合評価を出力する。
【0044】
ステップS14において、各学習管路データ20の評価が終了すると、ステップS15に進み、図面出力部4eが評価値出力部4dにて選択された最も評価の高い学習管路データ20における平面管路データ図7a及び縦断管路データ図7bを出力してステップS16に進む。
ステップS16では、図面出力部4eが評価値出力部4dにて選択された最も評価の高い学習管路データ20を構成する各管3の組み合わせや、数量、長さ寸法が記載された接続材料図データ7cを出力してステップS17に進む。
【0045】
ステップS17では、資材数量出力部4fが評価値出力部4dにて選択された最も評価の高い学習管路データ20を構成する各管3の種類とそれぞれの数量を算出してステップS18に進む。
ステップS18では、張力演算部4gが評価値出力部4dにて選択された学習管路データ20においてケーブル布設に必要な引入張力計算を行って張力計算データ7eを出力する。また、側圧演算部4hが評価値出力部4dにて選択された学習管路データ20の側圧計算を行って側圧計算データ7fを出力し、その後、情報処理部4の処理を終了する。
【0046】
このように、本発明の実施例によると、地中において指定する始点Sから終点Gまで暗渠や水道管といった既存埋設物を迂回させながら延びる管路2の最適ルートが設計されると同時に、その最適ルートにおける管路2を構成する複数の管3について最適な種類とそれぞれの数、及び、それらの組み合わせが分かるようになる。したがって、地中における管路2の設計を効率良く行うことができる。
また、最適ルートの管路2を設計する際に強化学習に用いる報酬rが、管路2の設計をする上で重要であるポイントに則して設定されているので、強化学習により出力される学習管路データ20が、例えば、経験値の高い設計者が従来の手法で行った設計によるものに近づくようになる。したがって、質の良い管路2のルートやその管路2を構成する管3の種類とそれぞれの数、及び、それらの組み合わせを効率良く出力することができる。
【0047】
また、強化学習により得られた複数の学習管路データ20の特徴が特徴抽出部4cにより出力される数値によって分かるようになるので、設計者が各学習管路データ20を定量的に比較可能になる。したがって、設計者は、複数の学習管路データ20の中から最も質の良い管路2を見つけ出すことができる。
また、特徴抽出部4cによって出力される特徴値が管路2の設計をする上で重要であるポイントに則して設定されているので、強化学習により得られた複数の学習管路データ20を、管路2の設計をする上で重要であるポイントに則して定量的に比較検討できるようになる。したがって、最も質の良い管路2のルートを得ることができるとともに、そのルートにおける管3の種類や数、及びそれらの組み合わせについて質の高いものを見つけ出すことができる。
さらに、作成された管路2のルートは、図面出力部4eによって2つの図面上に表示できるようになる。したがって、例えば、現地で管路2を施工する際に指示が行い易くなったり、或いは、他の人と管路2の情報について共有し易くすることができる。
【0048】
尚、本発明の実施例では、強化学習における報酬rについて、既設埋設物との離隔距離、終点Gまでの相対距離、終点Gへの到達、及び、行動回数iに応じて予め設定された点数を付与するようにしているが、既設埋設物との離隔距離、終点Gまでの相対距離、終点Gへの到達、及び、行動回数iの少なくとも1つに応じて予め設定された点数を付与するようにしてもよい。
また、本発明の実施例では、学習管路データ20の評価値を出力する際に用いる学習管路データ20の特徴値として、学習管路データ20の全長、学習管路データ20の地表Fからの平均埋設深さ、及び、学習管路データ20が既設埋設物の下方を通過している回数を使用しているが、学習管路データ20の全長、学習管路データ20の地表Fからの平均埋設深さ、及び、学習管路データ20が既設埋設物の下方を通過している回数の少なくとも1つを使用すればよい。
【0049】
また、本発明の実施例では、強化学習における行動aの選択パターンにおける直管が1mの1種類しかないが、長さの異なる2種類以上の直管を選択できる選択パターンにしてもよいし、曲率のことなる曲管を6種類以下の選択パターンにしたり、8種類以上選択できる選択パターンにしてもよい。
また、本発明の実施例では、図7(b)に示すように、報酬データ6bの各環境や状況に応じた付与点数を決めているが、付与点数はその他の数であってもよい。
また、本発明の実施例では、設計ルート条件データ5Bとして、図6(a)に示すような設定パラメータが設定可能であるが、その他の値の設計ルート条件を設定可能となるようにしてもよい。
また、本発明の管路設計システム1にて出力された最も評価の高い学習管路データ20を既設埋設物データ5aとして地中設計空間5Aに保存した後、管路設計システム1を再度作動させてもよい。そうすると、先に出力された最も評価の高い学習管路データ20を迂回する学習管路データ20を出力することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、地中において内部に電線等を配設可能な管路を設計する管路設計システムに適している。
【符号の説明】
【0051】
1…管路設計システム 2…管路 3…管 3a…第1選択管データ 3b…第2選択管データ 3c…第3選択管データ 4…情報処理部 4a…設計空間設定部 4b…強化学習部 4c…特徴抽出部 4d…評価値出力部 4e…図面出力部 4f…資材数量出力部 4g…張力演算部 4h…側圧演算部 5…入力データベース 5A…地中設計空間 5B…設計ルート条件データ 5C…学習条件データ 5a…既設埋設物データ 5b…始点・終点位置データ 5c…地表位置データ 5d…最低離隔距離の領域 5e…必要埋設深さの領域 6…管路設計用データベース 6A…強化学習用データ 6B…評価テーブル 6a…行動データ 6b…報酬データ 7…出力データベース 7a…平面管路データ図 7b…縦断管路データ図 7c…接続材料図データ 7d…資材数量データ 7e…張力計算データ 7f…側圧計算データ 7g…ルート評価データ 10…コンピュータ 20…学習管路データ 20A…学習管路データ 20B…学習管路データ 20C…学習管路データ S…始点 G…終点 F…地表
図1
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図3
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図6
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図8
図9
図10
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