(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098732
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】ノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 7/09 20060101AFI20250625BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20250625BHJP
H01F 27/06 20060101ALI20250625BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20250625BHJP
【FI】
H03H7/09 A
H01F27/00 S
H01F27/06 103
H01F17/04 F
H01F17/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215061
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 崇
(72)【発明者】
【氏名】水野 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】壁谷 真人
【テーマコード(参考)】
5E070
5J024
【Fターム(参考)】
5E070AA05
5E070AB03
5E070BA08
5E070DB02
5E070DB08
5E070EA06
5J024AA01
5J024BA03
5J024CA02
5J024CA06
5J024CA09
5J024CA10
5J024DA03
5J024DA21
5J024DA26
5J024DA29
5J024DA33
5J024DA35
5J024EA09
5J024KA02
5J024KA04
(57)【要約】
【課題】ノイズフィルタを提供する。
【解決手段】ノイズフィルタは、第1および第2端子を備え、互いに重複している第1および第2領域を備える巻線を備える。ノイズフィルタは、第1および第2の配線端部を備える分岐配線を備える。第1の配線端部が第1領域に接続され、第2の配線端部が基準電位部位に接続されている。ノイズフィルタは、分岐配線に配置されているコンデンサを備える。ノイズフィルタは、第1および第2領域と、分岐配線の一部と、を取り囲む磁性体を備える。巻線は、第1端子から第1の配線端部が接続されている中間部までを接続している第1導電線と、中間部から第2端子までを接続している第2導電線と、を備える。第1領域は、磁性体に取り囲まれている特定領域を備える。第1の配線端部は、特定領域内に位置している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子および第2端子を備えるとともに、同一方向に電流が流れるように互いに重複している第1領域および第2領域を備える巻線と、
第1の配線端部と第2の配線端部を備える分岐配線であって、前記第1の配線端部が前記第1領域に接続されており、前記第2の配線端部が基準電位部位に接続されている、前記分岐配線と、
前記分岐配線の経路上に配置されているコンデンサと、
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を取り囲むとともに、前記分岐配線の一部を取り囲むように配置されている磁性体と、
を備え、
前記巻線は、前記第1端子から前記第1の配線端部が接続されている中間部までを接続している第1導電線と、前記中間部から前記第2端子までを接続している第2導電線と、を備えており、
前記第1領域は、前記磁性体に取り囲まれている特定領域を備えており、
前記第1の配線端部は、前記特定領域内に位置している、
ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記磁性体は、前記第1導電線と前記第2導電線を磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスによって前記コンデンサの等価直列インダクタンスと前記分岐配線の寄生インダクタンスを減ずるように構成されている、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記第1の配線端部が前記第1領域に接続される位置を、前記第1領域の長手方向において変更することが可能に構成されている、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
前記磁性体は、第1の磁性体部と第2の磁性体部とを備えており、
前記第1の磁性体部は、対向配置されている第1柱状部および第2柱状部と、前記第1柱状部の一端および第2柱状部の一端の間を接続している接続部と、を備えており、前記第1柱状部と第2柱状部との間に、第1方向に延びる溝部が形成されており、
前記第2の磁性体部は、前記第1柱状部の他端および前記第2柱状部の他端と対向して配置されており、
前記第2の磁性体部で塞がれている前記溝部の内部に、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部、および、前記第1の配線端部が配置されており、
前記分岐配線は、前記磁性体に取り囲まれている部分である特定配線部分を有しており、
前記特定配線部分は、前記第1の配線端部から前記第1方向と直交する第2方向に向かって延びているとともに、前記第1柱状部の他端と前記第2の磁性体部とが対向している領域を通過している、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項5】
前記第1柱状部の他端に位置する第1端面に垂直な方向から見たときに、前記第1端面の一部は、前記特定配線部分と重複しており、
前記第1端面の前記特定配線部分と重複していない領域の面積は、前記第2柱状部の他端に位置する第2端面の面積と略同一である、請求項4に記載のノイズフィルタ。
【請求項6】
前記分岐配線の前記特定配線部分は、前記第2方向以外の方向へ延びている部分を含んでいる、請求項4に記載のノイズフィルタ。
【請求項7】
前記第1柱状部の他端に位置する第1端面と前記第2の磁性体部との間にはギャップが形成されており、
前記特定配線部分は、前記ギャップに配置されている、請求項4に記載のノイズフィルタ。
【請求項8】
前記ギャップに配置されている絶縁性のスペーサをさらに備え、
前記スペーサは、前記第1端面に垂直な方向から見たときに、前記第1端面内の領域のうち前記特定配線部分が存在しない領域内に配置されている、請求項7に記載のノイズフィルタ。
【請求項9】
前記第1柱状部の他端に位置する第1端面には、前記第2方向へ延びているガイド溝が形成されており、
前記ガイド溝の内部に、前記特定配線部分が配置されている、請求項4に記載のノイズフィルタ。
【請求項10】
前記ノイズフィルタは、2つの貫通孔を備えた基板をさらに備えており、
前記基板は、前記第2方向に並んで配置された2つの貫通孔であって、前記第1領域および前記第2領域を挟んで対向する位置に配置されている前記2つの貫通孔を備えており、
前記第1の磁性体部と前記第2の磁性体部は、前記2つの貫通孔を介して組み合わされており、
前記分岐配線は、前記基板上に配置されている、請求項4に記載のノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
導電線に重畳する電磁ノイズを抑えるために、ノイズフィルタの開発が進められている。この種のノイズフィルタの多くは、電磁ノイズを導電線からグラウンドにバイパスさせるためのコンデンサを備えている。しかしながら、コンデンサには等価直列インダクタンス(ESL:Equivalent Series Inductance)と称される寄生インダクタンスが存在しており、さらに、そのコンデンサが接続する配線にも寄生インダクタンスが存在している。このため、このようなノイズフィルタは、これら寄生インダクタンスの影響により、高周波帯域の電磁ノイズに対して良好なフィルタ性能を発揮できないことが知られている。
【0003】
特許文献1には、入力側導電線と出力側導電線の磁気結合により発生する相互インダクタンスによって、コンデンサおよびグラウンド側導電線の寄生インダクタンスを低減するノイズフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、コンデンサおよびグラウンド側導電線の寄生インダクタンスと、入力側導電線と出力側導電線とで発生する相互インダクタンスと、のバランスが崩れてしまう場合がある。この場合、寄生インダクタンスが大きい場合と同様にして、フィルタ性能が悪化してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するノイズフィルタの一実施形態は、第1端子および第2端子を備えるとともに、同一方向に電流が流れるように互いに重複している第1領域および第2領域を備える巻線を備える。ノイズフィルタは、第1の配線端部と第2の配線端部を備える分岐配線を備える。第1の配線端部が第1領域に接続されており、第2の配線端部が基準電位部位に接続されている。ノイズフィルタは、分岐配線の経路上に配置されているコンデンサを備える。ノイズフィルタは、第1領域および第2領域の少なくとも一部を取り囲むとともに、分岐配線の一部を取り囲むように配置されている磁性体を備える。巻線は、第1端子から第1の配線端部が接続されている中間部までを接続している第1導電線と、中間部から第2端子までを接続している第2導電線と、を備えている。第1領域は、磁性体に取り囲まれている特定領域を備えている。第1の配線端部は、特定領域内に位置している。
【0007】
上記実施形態のノイズフィルタでは、第1導電線および第2導電線の磁気結合により生じる相互インダクタンスによって、コンデンサの等価直列インダクタンスと分岐配線の寄生インダクタンスを減ずることができる。そして、特定領域の一端から中間部までの距離と、中間部から特定領域の他端までの距離と、を異ならせることで、相互インダクタンスを調整することができる。換言すると、相互インダクタンスは、特定領域の一端を中間部とした場合には小さくでき、特定領域の多端を中間部とした場合には大きくすることができる。よって、特定領域の一端から他端までの範囲内で中間部の位置を変えることで、相互インダクタンスを変化させることができる。これにより、等価直列インダクタンスおよび寄生インダクタンスと、相互インダクタンスと、のバランスを適宜調整することが可能となる。フィルタ性能の悪化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】LCL構成のT型のノイズフィルタのノイズ伝達特性を説明する図である。
【
図2】LCL構成のT型のノイズフィルタのノイズ伝達特性を説明する図である。
【
図3】実施例1に係るノイズフィルタ1の斜視図を模式的に示す図である。
【
図4】実施例1に係るノイズフィルタ1の分解斜視図である。
【
図7】巻き数n
2に対する相互インダクタンスMの変化を示すグラフである。
【
図8】実施例2に係るノイズフィルタ201の分解斜視図を模式的に示す図である。
【
図9】磁性体部271の変形例を示す斜視図である。
【
図10】磁性体部271の変形例を示す斜視図である。
【
図11】実施例3に係る磁性体部271の下面図である。
【
図12】実施例4に係る磁性体部271の下面図である。
【
図13】実施例4に係る磁性体部271の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ノイズ低減効果の原理)
本願明細書が開示するノイズフィルタを説明する前に、
図1を参照し、LCL構成のT型のノイズフィルタ1のノイズ伝達特性について説明する。ノイズフィルタ1は、電力導電線に直列接続されている一対のインダクタL1、L2と、電力導電線と基準導電線の間に接続されているコンデンサCと、を備えている。インダクタL1のインダクタンスがL
1であり、インダクタL2のインダクタンスがL
2である。なお、これらインダクタL1、L2は、電力導電線の寄生インダクタであってもよい。コンデンサCは、一端が一対のインダクタL1、L2の間の分岐部に接続されており、他端が基準導電線に接続されている。インダクタL3のインダクタンスL
3は、コンデンサCのESLと、コンデンサCが接続する配線の寄生インダクタンスとの和である。Z
1は、ノイズ源の内部インピーダンスであり、Z
2は負荷回路のインピーダンスである。このノイズフィルタ1では、インダクタL1とインダクタL2が磁気結合している。インダクタL1、L2のそれぞれを流れる電流I
1、I
2が図中の向きに流れるとし、これらインダクタL1、L2の間に正の相互インダクタンスMが生じているとする。ノイズ電圧をV
noiseとすると、負荷回路に加わるノイズ電圧V
Lは、以下の式で表される。
【0010】
【数1】
Z
L1:インダクタL1のインピーダンス(jω(L
1+M))
Z
L2:インダクタL2のインピーダンス(jω(L
2+M))
Z
L3:コンデンサCの等価直列インダクタとコンデンサCが接続される配線の寄生インダクタの和からなるインピーダンス(jω(L
3-M))
Z
C:コンデンサCのインピーダンス(1/jωC)
ω:角周波数(2πf)
【0011】
上記数式1に示されるように、負荷回路に加わるノイズ電圧V
Lを低減するためには、分子の「Z
L3+Z
C」を低減することが重要である。ノイズ電圧V
Lの振幅は絶対値で表されるので、上記数式1の絶対値をとり、その分子をV
numとすると、以下の数式で表すことができる。
【数2】
【0012】
上記数式2によれば、{ω(L3-M)-1/ωC}が0となるように相互インダクタンスMを設定すると、フィルタ性能が最大化することが分かる。しかしながら、そのような条件は、ある任意の周波数のみで実現される。このため、幅広い周波数のノイズを低減するためのノイズフィルタ回路は、そのような条件で設定されない。
【0013】
ここで、インダクタL1とインダクタL2の間に生じる相互インダクタンスMは、結合係数kを用いて以下の数式で表すことができる。
【数3】
【0014】
結合係数kは磁気結合の度合いを示す値であり、本明細書が開示する構造では、0≦k≦1の値をとる。上記数式2及び上記数式3に示されるように、インダクタンスL3と相互インダクタンスMが一致するように、k、L1、L2の値を調整すれば、上記数式1の分子にはコンデンサCのインピーダンスと負荷回路のインピーダンスの積のみが残る。角周波数ωは周波数の増加とともに大きくなることから、インダクタンスL3と相互インダクタンスMを一致させれば、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能が向上する。
【0015】
即ち、
図2に示されるように、インダクタL1とインダクタL2を磁気結合させることにより、インダクタL1とインダクタL2の間に生じる相互インダクタンスMによってインダクタンスL
3を減じさせれば、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能を向上させることができる。本明細書が開示する技術は、この現象を利用して、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能を改善する。
【実施例0016】
(ノイズフィルタ1の構造)
図3に、実施例1に係るノイズフィルタ1の斜視図を示す。
図4に、ノイズフィルタ1の分解斜視図を示す。ノイズフィルタ1は、第1導電線CW1のインダクタンスと、分岐配線60とグラウンド板15との接続経路間に介挿されているコンデンサ31および32と、第2導電線CW2のインダクタンスと、で構成されているLCL構成のT型のノイズフィルタである。ノイズフィルタ1は、基板10、巻線2、グラウンド板15、コンデンサ31および32、分岐配線60、磁性体コア70、を主に備えている。
【0017】
巻線2は、上側バスバー3および下側バスバー4を備えている。上側バスバー3は、基板10の表面S2に配置されている。下側バスバー4は、基板10の裏面S1に配置されている。上側バスバー3と下側バスバー4とは、基板10を貫通するビア配線41によって接続されている。これにより、出力端子E1と入力端子E2とが電気的に接続されている。
【0018】
上側バスバー3および下側バスバー4は、直線の平板構造をしており、基板10を介して対向している。これにより、両バスバーは、互いに絶縁された状態で平行に配置されているとともに、直線状に近接して配置されている。なお、両バスバー間の距離は、自由に設定することができる。上側バスバー3および下側バスバー4それぞれが発生する磁束は、磁性体コア70に閉じ込められるためである。基板10を垂直上方(+z方向)からみたときに、下側バスバー4および上側バスバー3の各々は、互いに重複している第1領域A1および第2領域A2を備えている(
図4参照)。
【0019】
巻線2は、第1導電線CW1および第2導電線CW2を備えている。第1導電線CW1は、出力端子E1と中間部MPとを接続している部位である。第2導電線CW2は、中間部MPと入力端子E2とを接続している部位である。出力端子E1は、任意の負荷に接続される部位である。入力端子E2は、ノイズ源となるコンバータ又はインバータ等の電力変換器(不図示)に接続される部位である。中間部MPは、第1分岐配線61の第1の配線端部61E1が接続されている部位である。
【0020】
分岐配線60は、第1分岐配線61および第2分岐配線62を備えている。第1分岐配線61は、平板構造を備えている。第2分岐配線62は、基板10の表面S2に配置されている。第2分岐配線62は、プリントされた配線であってもよい。第1分岐配線61は、第1の配線端部61E1および接続端部61Ecを備える。第2分岐配線62は、第2の配線端部62E2および接続端部62Ecを備える。第1の配線端部61E1は、接続端子42によって、下側バスバー4の中間部MPに接続されている。接続端部61Ecは、接続端子43によって、ビア配線44に接続されている。ビア配線44は基板10を貫通しており、第2分岐配線62の接続端部62Ecに接続されている。
【0021】
なお中間部MPの下側バスバー4に対する接続位置は、第1領域A1の長手方向(すなわちx方向)に自在に変更可能に構成されている。例えば、接続端子42がボルト等の締結部材を備えており、下側バスバー4の任意の位置に固定可能とされていてもよい。
【0022】
第2分岐配線62の-y方向端部と第2の配線端部62E2とは、コンデンサ31を介して接続されている。第2の配線端部62E2とグラウンド板15とは、コンデンサ32を介して接続されている。すなわち、互いに直列に接続されているコンデンサ31および32によって、第2分岐配線62とグラウンド板15とが接続されている。複数のコンデンサが直列接続されている構造とすることで、何れかのコンデンサがショート故障した場合においても、第2分岐配線62がグラウンド板15とショートしないように冗長性を持たせること可能となる。
図3および
図4の例では、コンデンサ31および32は、4並列のチップコンデンサ(積層セラミックコンデンサ)である。
【0023】
図4に示すように、基板10は、y方向に並んで配置された2つの貫通孔H1およびH2を備える。貫通孔H1およびH2は、第1領域A1および第2領域A2を挟んで対向する位置に配置されている。磁性体コア70は、略U字形状の磁性体部71と、略I字形状の磁性体部72とを備えている。磁性体部71は、柱状部P1およびP2と、接続部J1とを備えている。接続部J1は、柱状部P1の+z方向側の端部と、柱状部P2の+z方向側の端部とを接続する部位である。柱状部P1は、-z方向側の端部に、端面P1Eを備えている。柱状部P2は、-z方向側の端部に、端面P2Eを備えている。柱状部P1とP2との間に、x方向に延びる溝部70tが形成されている。
【0024】
柱状部P1およびP2は、貫通孔H1およびH2にはめ合わせが可能な形状を有している。磁性体部72は、柱状部P1の端面P1Eおよび柱状部P2の端面P2Eに対向するように、配置されている。貫通孔H1およびH2を介して、磁性体部71および72を組み合わせることで、基板10を貫通して配置されている磁性体コア70を形成することができる。また、溝部70tを磁性体部72で塞ぐことにより、環状構造を形成することができる。溝部70tの内部には、第1領域A1および第2領域A2の少なくとも一部、および、中間部MPが配置されている。すなわち、第1領域A1および第2領域A2の少なくとも一部を取り囲むとともに、第1分岐配線61の少なくとも一部を取り囲むように、磁性体コア70が配置されている。なお、第1導電線CW1および第2導電線CW2の外周と、磁性体コア70の内周との間に、接触を防止するための絶縁層を配置してもよい。
【0025】
第1領域A1は、磁性体コア70に取り囲まれている領域である、特定領域SAを備えている。第1の配線端部61E1は、特定領域SA内に位置している。ここで、特定領域SAの-x方向の一端を、第1の領域端部SAe1とする。また、特定領域SAの+x方向の他端を、第2の領域端部SAe2とする。第1の領域端部SAe1から中間部MPまでの距離を、D1とする。中間部MPから第2の領域端部SAe2までの距離を、D2とする。距離D1とD2との大小関係は、適宜に設定することができる。距離D1とD2とは、異なっていてもよいし、等しくてもよい。本実施例では、距離D1とD2とは、異なっている。
【0026】
図5に、磁性体コア70の拡大斜視図を示す。
図5では、分かりやすさのために、基板10の記載を省略している。
図5に示すように、磁性体部71と72との接合部には、ギャップG1が形成されている。接続導電線61は、溝部70tの延びる方向(x方向)と直交するy方向へ延びている。そして接続導電線61は、中間部MPから、ギャップG1を通過して、磁性体コア70の外部に向かって延びている。第1分岐配線61のうち、ギャップG1に配置されている部分は、磁性体コア70に取り囲まれている。この磁性体コア70に取り囲まれている部分を、特定配線部分61sと定義する。特定配線部分61sは、y方向に向かって延びている。また特定配線部分61sは、柱状部P1の端面P1Eと磁性体部72とがz方向に対向している領域を通過している。
【0027】
ギャップG1には、絶縁性のスペーサ73が配置されている。具体的には、スペーサ73は、磁性体部71と72とによって挟み込まれている。スペーサ73の厚さによって、ギャップG1を調整することができる。これにより、第1導電線CW1と第2導電線CW2との間の相互インダクタンスの調整を行うことができる。スペーサ73の材料は様々であってよく、例えば高分子フィルムとすることができる。
【0028】
端面P1Eに垂直な方向(z方向)から見たときに、スペーサ73は、第1分岐配線61に対応する領域に切れ込みSLが形成されている。すなわちスペーサ73は、端面P1E内の領域のうち、特定配線部分61sが存在しない領域内に配置されている。
なお、中間部MPの位置を変更する場合には、変更後の第1分岐配線61の位置に対応するように、スペーサ73の切れ込みSLの位置も変更すればよい。
【0029】
スペーサ73の厚さは、特定配線部分61sの厚さよりも厚くしてもよい。これにより、第1分岐配線61が通過するスペースを形成することが可能となる。
【0030】
(中間部MPの位置調整により得られる効果)
前述したように、第1分岐配線61の第1の配線端部61E1が下側バスバー4に接続されている位置(すなわち中間部MPの位置)は、変更可能である。また中間部MPの位置は、第1領域A1内で変更可能である。これにより、出力側の第1導電線CW1と、入力側の第2導電線CW2との相互インダクタンスMを可変に調整することができる。以下に理由を説明する。
【0031】
図6に、インダクタLLの等価回路を示す。インダクタLLのトータルのインダクタンスをLとし、トータル巻き数をnとする。出力側の第1導電線CW1において、自己インダクタンスをL
1とし、巻き数をn
1とする。入力側の第2導電線CW2において、自己インダクタンスをL
2とし、巻き数をn
2とする。第1導電線CW1と第2導電線CW2との相互インダクタンスを、M(>0)とする。インダクタンスLは、次式で表される。
L=L
1+L
2+2M
またトータル巻き数nは、次式で表される。
n=n
1+n
2
中間部MPの位置が変わってもトータル巻き数nは変わらないので、インダクタンスLは変化しない。
【0032】
自己インダクタンスL1は、巻き数n1の二乗に比例する。よって次式で表される。
L1=L0・n1
2
同様に、自己インダクタンスL2は、巻き数n2の二乗に比例する。よって次式で表される。
L2=L0・n2
2
ここでL0は、インダクタンスの比例定数である。
【0033】
第1導電線CW1と第2導電線CW2との結合が強い場合には、結合係数kは1におおよそ等しいと近似できる。この場合、相互インダクタンスMは、下式で表される。
【数4】
【0034】
ここで、インダクタンスの比例定数L
0=1、トータル巻き数n=1、と両者を正規化する。正規化した場合における、第2導電線CW2の巻き数n
2に対する相互インダクタンスMの変化を、
図7に示す。
図7から分かるように、巻き数n
2が大きくなるほど(巻き数n
2が1に近づくほど)、自己インダクタンスL
2は大きくなり、自己インダクタンスL
1は小さくなる。そして巻き数n
2が0.5である場合に、自己インダクタンスL
1とL
2とは等しくなり、相互インダクタンスMは最大値である0.25となる。
【0035】
そして、中間部MPの下側バスバー4への接続位置を変更することは、
図7において、第1導電線CW1の巻き数n
2を可変範囲VR内で変更することに該当する。巻き数n
2が0.5になるのは、中間部MPが出力端子E1と入力端子E2との中点PP(
図4参照)に位置する場合である。本実施例では、中間部MPが中点PPよりも出力端子E1側に位置している。従って可変範囲VRは、0.5よりも大きくなる。本実施例では、可変範囲VRは、おおよそ0.7から0.95の範囲である。中間部MPを出力端子E1へ近づけること(すなわち-x方向へ移動させること)は、第2導電線CW2を長くするとともに第1導電線CW1を短くすることに相当するため、巻き数n
2を1に近づけることに該当する。すなわち、中間部MPを出力端子E1へ近づけるほど、自己インダクタンスL
2を大きくすることができるとともに、自己インダクタンスL
1を小さくすることができる。従って
図7から分かるように、中間部MPを出力端子E1へ近づけるほど、相互インダクタンスMを小さくできることが分かる。
【0036】
(効果)
課題を説明する。本明細書の技術では、出力側の第1導電線CW1と入力側の第2導電線CW2との間に生じる相互インダクタンスMによって、コンデンサ31および32の等価直列インダクタンスと分岐配線60の寄生インダクタンスの和を減ずることができる。これにより、高周波帯域の電磁ノイズに対して高いフィルタ性能を発揮することが可能となる。しかし、コンデンサ31、32および分岐配線60の寄生インダクタンスと、相互インダクタンスMと、のバランスが崩れてしまう場合がある。例えば、ノイズフィルタ1の性能を高めるため、(磁性体コア70の透磁率を高めるなどによって)端部間のインダクタンスを大きくすることにより、寄生インダクタンスよりも相互インダクタンスMが大きくなってしまう場合が挙げられる。また例えば、コンデンサの配置を変更して寄生インダクタンスが変化してしまう場合が挙げられる。このように、寄生インダクタンスと相互インダクタンスMとのバランスが大きく崩れる場合にも、フィルタ性能が悪化してしまう。そこで本実施例の技術では、第1分岐配線61が引き出される部位である中間部MPの位置を、下側バスバー4の特定領域SA内において変更することが可能に構成されている。そして、第1の領域端部SAe1から中間部MPまでの距離D1と、中間部MPから第2の領域端部SAe2までの距離D2とを適宜に調整することで、相互インダクタンスMを調整することができる。これにより、等価直列インダクタンスおよび寄生インダクタンスと、相互インダクタンスと、のバランスを適宜調整することができるため、フィルタ性能の悪化を抑制することが可能となる。
【0037】
本実施例の技術では、ギャップG1に第1分岐配線61を配置することで、第1分岐配線61が磁性体コア70に取り囲まれている構造を実現している。すなわち、磁性体コア70が分割構造を備えるために必然的に存在しているギャップG1を、第1分岐配線61を通過させるための経路として流用することができる。磁性体コア70に特殊な加工等を行うことなく、特定配線部分61sを形成することが可能となる。また本実施例の技術では、スペーサ73に形成した切れ込みSL内に、第1分岐配線61を配置している。すなわち、ギャップG1が存在するために必然的に配置されているスペーサ73を、第1分岐配線61を所定位置に固定するためのガイドとして流用することができる。特殊な固定部材を追加することなく、特定配線部分61sの位置を固定することが可能となる。
平板構造の巻線202は、z方向に重複している上側巻線および下側巻線を備えている。下側巻線の両端部には、-y方向へ突出している接続部202c1および202c2が形成されている。また基板210は、3つの貫通孔H1、H2aおよびH2bを備えている。貫通孔H2aとH2bとの間には、y方向に延びている分岐配線260が配置されている。貫通孔H1と、貫通孔H2aおよびH2bとの間には、x方向に延びている並列配線280が配置されている。並列配線280の両端部には、結合部280c1および280c2が配置されている。結合部280c1および280c2の各々は、接続部202c1および202c2と電気的に接続することが可能に構成されている。これにより、巻線202の下側巻線と並列配線280とを、並列接続することができる。巻線202および並列配線280の各々は、互いに重複している第1領域A1および第2領域A2を備えている。
第1領域A1は、磁性体コア70に取り囲まれている領域である、特定領域SAを備えている。第1の領域端部SAe1から中間部MPまでの距離を、D1とする。中間部MPから第2の領域端部SAe2までの距離を、D2とする。距離D1は、距離D2よりも小さい。
分岐配線260は、基板210の表面S2に配置されている。分岐配線260は、第1の配線端部260E1および第2の配線端部260E2を備えている。第1の配線端部260E1は、並列配線280の中間部MPに接続されている。第2の配線端部260E2とグラウンド板15とは、コンデンサ32を介して接続されている。なお、並列配線280および分岐配線260は、表面S2に一体にプリントされた配線であってもよい。
磁性体部271の端面P1Eには、y方向へ延びているガイド溝GTが形成されている。ガイド溝GTの+y方向の端部は溝部270tへ連通しており、-y方向の端部は柱状部P1の側壁に到達している。貫通孔H1、H2aおよびH2bを介して、磁性体部271および272を組み合わせることで、ガイド溝GTの内部に、分岐配線260の一部を収容することができる。分岐配線260のうち、ガイド溝GTの内部に配置されている部分は、磁性体コア270に取り囲まれている。この磁性体コア270に取り囲まれている部分を、特定配線部分260sと定義する。
実施例2のノイズフィルタ201においても、実施例1と同様の効果が得られる。すなわち、第1の領域端部SAe1から中間部MPまでの距離D1と、中間部MPから第2の領域端部SAe2までの距離D2とを適宜に調整することで、相互インダクタンスMを調整することが可能となる。
なお、距離D1およびD2を調整する方法は、様々であってよい。中間部MPおよび分岐配線260をx方向の任意の位置に移動させるとともに、移動後の分岐配線260の位置に合わせてガイド溝GTを形成すればよい。例えば、分岐配線260がプリント配線で形成されている場合には、基板210のマスクを変更すればよい。