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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098809
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】エンジンの燃焼制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20250625BHJP
   F02P 17/00 20060101ALI20250625BHJP
   F02P 3/045 20060101ALI20250625BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20250625BHJP
【FI】
F02D45/00 369
F02P17/00 A
F02P3/045 301Z
F02P5/15 B
F02P5/15 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215190
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】中本 仁寿
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭峰
【テーマコード(参考)】
3G019
3G022
3G384
【Fターム(参考)】
3G019AB01
3G019BA01
3G019DA01
3G019DA02
3G019GA05
3G019GA09
3G019GA18
3G019KA23
3G022BA06
3G022EA02
3G022GA05
3G022GA06
3G022GA08
3G384AA01
3G384BA24
3G384DA55
3G384FA01
3G384FA06
3G384FA36
3G384FA58
3G384FA79
(57)【要約】
【課題】熱効率の向上を図りつつ異常燃焼の発生を未然に抑制する。
【解決手段】混合気の低温酸化反応の開始に合わせて点火プラグのプラグ電極間にバイアス電圧を印加するとともに、当該バイアス電圧を印加開始した時期から点火時期よりも早い所定時期までの期間である検出期間中に検出されたイオン電流に基づいて、イソオクタン割合等の燃料性状を推定する。そして、当該燃料性状を推定したサイクルと同一サイクルにおける点火時期を燃料性状に応じて補正し、補正後の点火時期で混合気に点火する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒と、当該気筒内に燃料を噴射するインジェクタと、当該インジェクタから噴射された燃料を含む混合気に点火する点火プラグと、を備えたエンジンに適用される燃焼制御装置であって、
一次コイルおよび二次コイルを含む点火コイルと、
前記一次コイルへの通電および通電停止を通じて前記二次コイルに高電圧を誘起し、誘起した当該高電圧により前記点火プラグのプラグ電極間で放電を生じさせるイグナイタと、
前記気筒内のイオンに起因して前記プラグ電極間に生じるイオン電流を検出するためのバイアス電圧を前記プラグ電極間に印加するバイアス電圧生成部と、
前記イオン電流を検出するイオン電流検出部と、
前記混合気の圧縮に伴い前記気筒内で生じる低温酸化反応の開始に合わせて前記プラグ電極間に前記バイアス電圧が印加されるように前記バイアス電圧生成部を制御するとともに、前記低温酸化反応の開始よりも遅い時期に設定された点火時期に前記プラグ電極間で放電が生じるように前記イグナイタを制御する点火制御部と、
前記バイアス電圧を印加開始した時期から前記点火時期よりも早い所定時期までの期間である検出期間中に前記イオン電流検出部が検出したイオン電流に基づいて、前記インジェクタから噴射された燃料の性状を推定する演算部と、を備え、
前記点火制御部は、前記燃料の性状が推定されたサイクルと同一サイクルにおける前記点火時期を前記燃料の性状に応じて補正し、補正後の点火時期で前記放電が行われるように前記イグナイタを制御する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記演算部は、前記燃料の性状として、前記燃料に含まれるイソオクタンの割合を推定し、
前記点火制御部は、前記イソオクタンの割合が小さいほど前記点火時期を遅角側に補正する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記演算部は、前記検出期間中に検出された前記イオン電流に基づいて、前記燃料の性状に相関するイオン電流特徴量を算出し、算出した当該イオン電流特徴量から前記イソオクタンの割合を推定する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記イオン電流特徴量は、前記検出期間中における前記プラグ電極間の電荷量の最大値である最大電荷量であり、
前記演算部は、前記最大電荷量が小さいほど前記イソオクタンの割合を大きいと推定する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記イオン電流特徴量は、前記検出期間中における前記イオン電流の最大値である最大イオン電流であり、
前記演算部は、前記最大イオン電流が小さいほど前記イソオクタンの割合を大きいと推定する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記点火制御部は、前記低温酸化反応の開始時から前記バイアス電圧が漸増しその後漸減するように、前記バイアス電圧生成部を制御する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記バイアス電圧生成部は、前記二次コイルに接続されたキャパシタ装置である、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記点火制御部は、エンジン回転数が高いほど前記バイアス電圧の印加開始が早まるように前記バイアス電圧生成部を制御する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記点火制御部は、エンジン負荷が高いほど前記バイアス電圧の印加開始が早まるように前記バイアス電圧生成部を制御する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼制御装置において、
前記イオン電流検出部が検出したイオン電流に基づいてプリイグニッションの発生を判定する異常燃焼判定部と、
前記プリイグニッションの発生が判定された場合に前記インジェクタに追加の燃料を噴射させる噴射制御部と、をさらに備えた、エンジンの燃焼制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒と、当該気筒内の混合気に点火する点火プラグと、を備えたエンジンに適用される燃焼制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に示されるエンジンの燃焼制御装置が知られている。この特許文献1の燃焼制御装置は、一次コイルおよび二次コイルを含む点火コイルと、一次コイルへの通電を制御するスイッチング素子と、二次コイルの誘起電圧を受けて放電する点火プラグと、点火プラグのプラグ電極間に流れるイオン電流を検出するイオン信号検出回路と、スイッチング素子およびイオン信号検出回路に電気的に接続されたECUと、を備える。ECUは、点火時期が到来して一次コイルへの通電期間が終了すると、一次コイルへの通電開始からのイオン電流の累積値を算出し、算出した累積値に基づいてプリイグニッション(過早着火)が起きたか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5888773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、プリイグニッションの発生が判定された場合には、プリイグニッションを抑制するための適宜の制御が実行されることになっている。しかしながら、上記特許文献1では、一次コイルへの通電開始から通電終了(換言すれば点火時期)までの期間に検出されたイオン電流の累積値に基づいてプリイグニッションが判定されるので、プリイグニッションが判定された時点では既に点火も終了しており、燃焼がかなり進行していると考えられる。このため、少なくとも次のサイクルにならないと実質的なプリイグニッションの抑制制御を実行できないという問題があった。また、このような問題の表面化を避けるべく、プリイグニッションのような異常燃焼ができるだけ起きないようにエンジンを安全サイドに設計することも考えられるが、このようにするとエンジンの熱効率が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、熱効率の向上を図りつつ異常燃焼の発生を未然に抑制することが可能なエンジンの燃焼制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒と、当該気筒内に燃料を噴射するインジェクタと、当該インジェクタから噴射された燃料を含む混合気に点火する点火プラグと、を備えたエンジンに適用される燃焼制御装置であって、一次コイルおよび二次コイルを含む点火コイルと、前記一次コイルへの通電および通電停止を通じて前記二次コイルに高電圧を誘起し、誘起した当該高電圧により前記点火プラグのプラグ電極間で放電を生じさせるイグナイタと、前記気筒内のイオンに起因して前記プラグ電極間に生じるイオン電流を検出するためのバイアス電圧を前記プラグ電極間に印加するバイアス電圧生成部と、前記イオン電流を検出するイオン電流検出部と、前記混合気の圧縮に伴い前記気筒内で生じる低温酸化反応の開始に合わせて前記プラグ電極間に前記バイアス電圧が印加されるように前記バイアス電圧生成部を制御するとともに、前記低温酸化反応の開始よりも遅い時期に設定された点火時期に前記プラグ電極間で放電が生じるように前記イグナイタを制御する点火制御部と、前記バイアス電圧を印加開始した時期から前記点火時期よりも早い所定時期までの期間である検出期間中に前記イオン電流検出部が検出したイオン電流に基づいて、前記インジェクタから噴射された燃料の性状を推定する演算部と、を備え、前記点火制御部は、前記燃料の性状が推定されたサイクルと同一サイクルにおける前記点火時期を前記燃料の性状に応じて補正し、補正後の点火時期で前記放電が行われるように前記イグナイタを制御するものである(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、点火時期よりも前に検出されたイオン電流に基づいて燃料の性状(以下、燃料性状ともいう)が推定されるとともに、推定された当該燃料性状に基づいて点火時期が補正されるので、燃料性状の相違を考慮した適切な時期に点火時期を調整することができる。すなわち、燃料性状の相違はノッキングの起き易さに影響するから、このような燃料性状に応じて点火時期が補正される本発明によれば、ノッキングが起きない範囲でできるだけ熱効率のよい点火時期で混合気に点火することができる。しかも、イソオクタン割合は点火時期よりも前に推定されるので、当該推定が行われたサイクルと同一サイクルにおける点火時期を、ノッキングを考慮した適切な時期に予め調整することができる。これにより、熱効率の向上を図りつつノッキングの発生を未然に抑制することができる。
【0008】
好ましくは、前記演算部は、前記燃料の性状として、前記燃料に含まれるイソオクタンの割合を推定し、前記点火制御部は、前記イソオクタンの割合が小さいほど前記点火時期を遅角側に補正する(請求項2)。
【0009】
燃料に含まれるイソオクタンの割合(以下、イソオクタン割合ともいう)は、ノッキングの起き易さを左右する代表的な燃料性状の1つである。すなわち、イソオクタン割合が大きいほどノッキングが起き難く、イソオクタン割合が小さいほどノッキングが起き易いという性質がある。したがって、イソオクタン割合が小さいほど点火時期を遅角側に補正する本態様によれば、燃料性状に起因したノッキングを効果的に抑制することができる。逆に、イソオクタン割合が大きいときは点火時期が進角側に設定されるので、ノッキングを抑制しつつ熱効率の向上を図ることができる。
【0010】
好ましくは、前記演算部は、前記検出期間中に検出された前記イオン電流に基づいて、前記燃料の性状に相関するイオン電流特徴量を算出し、算出した当該イオン電流特徴量から前記イソオクタンの割合を推定する(請求項3)。
【0011】
この態様では、検出期間中のイオン電流に基づいてイソオクタン割合に相関するイオン電流特徴量が算出されるので、当該イオン電流特徴量からイソオクタン割合を適切に推定することができる。
【0012】
好ましくは、前記イオン電流特徴量は、前記検出期間中における前記プラグ電極間の電荷量の最大値である最大電荷量であり、前記演算部は、前記最大電荷量が小さいほど前記イソオクタンの割合を大きいと推定する(請求項4)。
【0013】
この態様では、最大電荷量が小さいときはイソオクタン割合が大きいという知見を利用して、最大電荷量からイソオクタン割合を適切に推定することができる。
【0014】
前記イオン電流特徴量は、前記検出期間中における前記イオン電流の最大値である最大イオン電流であってもよい。この場合、前記演算部は、前記最大イオン電流が小さいほど前記イソオクタンの割合を大きいと推定することが好ましい(請求項5)。
【0015】
この態様によっても同様に、イソオクタン割合を適切に推定することができる。
【0016】
好ましくは、前記点火制御部は、前記低温酸化反応の開始時から前記バイアス電圧が漸増しその後漸減するように、前記バイアス電圧生成部を制御する(請求項6)。
【0017】
このように、バイアス電圧を山型に変化させた場合には、プラグ電極間の電荷量を同様の山型の傾向で変化させることができる。このことは、電荷量の最大値である上述した最大電荷量、またはイオン電流の最大値である上述した最大イオン電流の算出を容易にする。また、低温酸化反応の開始に伴って増加するイオン電流が、バイアス電圧の漸増によってさらに増幅されるので、イソオクタン割合の相違によって変化する最大電荷量または最大イオン電流の感度を向上させることができる。これにより、イソオクタン割合の推定精度を高めることができる。
【0018】
好ましくは、前記バイアス電圧生成部は、前記二次コイルに接続されたキャパシタ装置である(請求項7)。
【0019】
この態様では、キャパシタ装置の帯電量を調整することでバイアス電圧を適切に制御することができる。
【0020】
好ましくは、前記点火制御部は、エンジン回転数が高いほど前記バイアス電圧の印加開始が早まるように前記バイアス電圧生成部を制御する(請求項8)。
【0021】
あるいは、前記点火制御部は、エンジン負荷が高いほど前記バイアス電圧の印加開始が早まるように前記バイアス電圧生成部を制御する(請求項9)。
【0022】
これらの態様では、エンジン負荷またはエンジン回転数が高いほど早まる低温酸化反応の開始に合わせてバイアス電圧を印加することができ、低温酸化反応の開始に伴って増加するイオン電流を適切に検出することができる。
【0023】
好ましくは、前記燃焼制御装置は、前記イオン電流検出部が検出したイオン電流に基づいてプリイグニッションの発生を判定する異常燃焼判定部と、前記プリイグニッションの発生が判定された場合に前記インジェクタに追加の燃料を噴射させる噴射制御部と、をさらに備える(請求項10)。
【0024】
この態様では、追加噴射された燃料の気化潜熱が気筒の内部温度を低下させるので、混合気の燃焼の進行を抑えることができ、プリイグニッションがもたらす影響を軽減することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明のエンジンの燃焼制御装置によれば、熱効率の向上を図りつつ異常燃焼の発生を未然に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る燃焼制御装置が適用されたエンジンの全体構成を示すシステム図である。
図2】点火プラグの先端部を拡大して示す図である。
図3】点火回路の構成を示す回路図である。
図4】放電電流の流れを示す図3相当図である。
図5】イオン電流の流れを示す図3相当図である。
図6】プラグ電極間に印加されるバイアス電圧の波形をチャージ信号と併せて示すグラフである。
図7】燃料のイソオクタン割合が異なる条件でのプラグ電極間の電荷量の変化を示すグラフである。
図8】イソオクタン割合と最大電荷量との関係を示すグラフである。
図9】エンジンの運転中に実行される燃焼制御の前半部の内容を示すフローチャートである。
図10】上記燃焼制御の後半部の内容を示すフローチャートである。
図11A】エンジン負荷と低温酸化反応の開始時期との関係を示すグラフである。
図11B】エンジン回転数と低温酸化反応の開始時期との関係を示すグラフである。
図12】イソオクタン割合と補正後の点火時期との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る燃焼制御装置が適用されたエンジンの全体構成を示すシステム図である。本図に示すエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの火花点火式エンジンである。エンジンは、エンジン本体1と、エンジン本体1に接続された吸気通路20および排気通路30と、エンジンの各部を制御するECU40と、を備える。なお、本実施形態では、図1を基準にして上、下の各方向を定義するが、これは説明の便宜のためであって、エンジンの据付け姿勢を限定する趣旨ではない。
【0028】
エンジン本体1は、内部に気筒2を画成するシリンダブロック3およびシリンダヘッド4と、気筒2に往復動可能に収容されたピストン5とを備える。ピストン5の上側には燃焼室Cが形成されている。なお、図1には1つの気筒2のみを図示するが、エンジン本体1は複数の気筒2を有する多気筒型のものとすることができる。
【0029】
シリンダヘッド4には、点火回路10、点火プラグ11、およびインジェクタ15が取り付けられている。インジェクタ15は、図外の燃料タンクから燃料供給管15aを通じて供給される燃料(例えばガソリン燃料)を燃焼室Cに向けて噴射する噴射弁である。点火プラグ11は、インジェクタ15から燃焼室Cに噴射された燃料が空気と混合することで生成される混合気に点火するプラグである。点火回路10は、点火プラグ11に点火用の火花を発生させるための高電圧を印加する回路である。点火プラグ11による点火をきっかけに燃焼室C内の混合気が燃焼すると、当該燃焼による膨張力を受けてピストン5が往復動する。
【0030】
図2は、点火プラグ11の先端部を拡大して示す図である。本図に示すように、点火プラグ11は、プラグ本体12と、中心電極13と、接地電極14と、を含む。プラグ本体12は、気筒2の中心軸であるシリンダ軸X1に沿って延びる筒状を呈するとともに、先端部が燃焼室Cに露出する状態でシリンダヘッド4に取り付けられている。中心電極13は、プラグ本体12の先端部中心から下方に突出するように形成されている。接地電極14は、プラグ本体12の先端部周縁からL字状に屈曲しつつ下方に延びるように形成されている。接地電極14の先端は、中心電極13と所定のギャップGを空けて対向している。
【0031】
中心電極13は、点火回路10の後述する二次コイル103に接続されている。接地電極14は、プラグ本体12およびシリンダヘッド4を介してグランドに接続されている。点火の際には、点火回路10から中心電極13に高電圧が印加されることにより、中心電極13と接地電極14との間で放電が行われる。そして、この放電に伴い発生する火花によって混合気が点火される。なお、以下では、中心電極13および接地電極14を総称して、プラグ電極13,14ということがある。
【0032】
図1に示すように、ピストン5の下方には、エンジンの出力軸であるクランク軸9が配設されている。クランク軸9は、シリンダブロック3に回転可能に支持されている。上述したピストン5の往復動は、コネクティングロッド7等を含むクランク機構を介してクランク軸9に伝達され、当該クランク軸9を回転させる。
【0033】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸9の回転角度であるクランク角とクランク軸9の回転数であるエンジン回転数とを検出するセンサである。
【0034】
シリンダヘッド4には、吸気ポート16および排気ポート17が形成されている。吸気ポート16は、燃焼室Cと吸気通路20とを連通するポートである。排気ポート17は、燃焼室Cと排気通路30とを連通するポートである。シリンダヘッド4には、クランク軸9の回転に連動して吸気ポート16および排気ポート17をそれぞれ開閉する吸気弁18および排気弁19が取り付けられている。
【0035】
吸気通路20は、吸気ポート16に連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路20には、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁21が設けられている。吸気通路20におけるスロットル弁21よりも上流側の位置には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。
【0036】
排気通路30は、排気ポート17に連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。排気通路30には、排気ガス中の有害成分を浄化する図外の触媒等が設けられている。
【0037】
ECU40は、各種演算を行うプロセッサ(CPU)と、ROMおよびRAM等のメモリーと、各種の入出力バスと、を含むマイクロコンピュータを要部とする制御器である。ECU40は、エンジンに設けられたセンサ類からの入力情報を受け付ける。例えば、ECU40は、上述したクランク角センサSN1およびエアフローセンサSN2と電気的に接続されている。これら各センサSN1,SN2による検出情報、つまりクランク角、エンジン回転数、および吸気流量といった情報は、ECU40に逐次入力される。
【0038】
ECU40はまた、車両に設けられたセンサ類からの入力情報を受け付ける。例えば、ECU40は、車両に設けられた車速センサSN3およびアクセルセンサSN4と電気的に接続されている。車速センサSN3は、車両の走行速度つまり車速を検出するセンサであり、アクセルセンサSN4は、車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダル50の開度つまりアクセル開度を検出するセンサである。これら各センサSN3,SN4による検出情報(車速およびアクセル開度)は、ECU40に逐次入力される。
【0039】
ECU40は、上記各センサ(SN1~SN4等)からの入力情報に基づいて種々の演算や判定を実行しつつエンジンの各部を制御する。例えば、ECU40は、点火回路10およびインジェクタ15と電気的に接続されており、これら各要素に対し制御用の信号を適宜出力する。
【0040】
上記制御に関する機能的要素として、ECU40は、点火制御部41と、噴射制御部42と、演算部43と、イオン電流検出部44と、記憶部45と、を有する。点火制御部41は、点火回路10への通電制御を通じて点火プラグ11の点火動作を制御するモジュールである。噴射制御部42は、インジェクタ15の噴射動作を制御するモジュールである。演算部43は、点火制御部41および噴射制御部42による制御の内容を決定するのに必要な種々の演算や判定を行う制御モジュールである。イオン電流検出部44は、点火プラグ11のプラグ電極13,14間に生じるイオン電流を点火回路10からの信号に基づき検出するモジュールである。記憶部45は、制御または演算に必要な各種データを記憶するモジュールである。
【0041】
(2)点火回路の構成
図3は、点火回路10の構成を示す回路図である。本図に示すように、点火回路10は、点火プラグ11に放電用の高電圧を印加する点火コイル101と、点火コイル101への通電および通電停止等の動作を実現するコイルドライバ105と、を備える。
【0042】
点火コイル101は、図外のバッテリに接続された一次コイル102と、点火プラグ11の中心電極13に接続された二次コイル103と、を含む。一次コイル102および二次コイル103は、共通のコア(鉄心)に巻き付けられている。
【0043】
コイルドライバ105は、イグナイタ106と、キャパシタ装置107と、電流増幅回路110と、ツェナーダイオード111と、を含む。イグナイタ106は、一次コイル102とグランド(Gnd)との間に介設されたトランジスタであり、コレクタが一次コイル102に、エミッタがグランドに、それぞれ接続されている。キャパシタ装置107は、二次コイル103とグランドとの間に介設されている。ツェナーダイオード111は、キャパシタ装置107に並列に接続されている。電流増幅回路110は、ECU40のイオン電流検出部44につながる端子121と、キャパシタ装置107の負極側の端子125と、の間に介設されている。
【0044】
二次コイル103とコイルドライバ105との間には、並列に配置された抵抗115およびダイオード116が設けられている。すなわち、二次コイル103は、抵抗115またはダイオード116を介して、コイルドライバ105の端子122に接続されている。
【0045】
イグナイタ106は、一次コイル102への通電および通電停止を通じて二次コイル103に高電圧を誘起し、誘起した当該高電圧により点火プラグ11のプラグ電極13,14間で放電を生じさせる。
【0046】
具体的に、イグナイタ106は、点火時期が到来する前にON状態に切り替えられる。これにより、コレクタとエミッタとの間の電流の流れが許容されて、一次コイル102が通電される。すなわち、バッテリから一次コイル102およびイグナイタ106を通じてグランドに流れる電流が生じる。その後、点火時期が到来すると、イグナイタ106は、ON状態からOFF状態に切り替えられる。これにより、コレクタとエミッタとの間の電流の流れが禁止されて、一次コイル102の通電が停止される。すると、当該通電停止に伴う電磁誘導により、一次コイル102と二次コイル103の巻き線比に応じた高電圧が二次コイル103に誘起される。
【0047】
上記のようにして二次コイル103に高電圧が誘起されると、点火プラグ11のプラグ電極13,14間に、高電圧に起因した放電が起きて、火花が発生する。この火花により、燃焼室C内の混合気が点火される。図4は、この放電時の電流(放電電流)の流れを示す図である。本図に示すように、放電電流は、点火プラグ11の中心電極13から、二次コイル103、ダイオード116、ツェナーダイオード111等を介して、グランドへと流れる。
【0048】
キャパシタ装置107は、イオン電流を検出するためのバイアス電圧を点火プラグ11に印加する。すなわち、気筒2の内部つまり燃焼室Cには、混合気の反応に伴ってイオンが生成される。このようなイオンの生成中に、点火プラグ11にバイアス電圧が印加されていると、当該バイアス電圧によるプラグ電極13,14間の電位差に応じて、図5に示すようなイオン電流が生じる。イオン電流は、電流増幅回路110、キャパシタ装置107、抵抗115、および二次コイル103等を介して、点火プラグ11の中心電極13に向かって流れる。キャパシタ装置107は、このようなイオン電流の生成につながるバイアス電圧を点火プラグ11に印加する電圧供給源(バイアス電圧生成部)として機能する。
【0049】
キャパシタ装置107は、並列に配置されたキャパシタ108および電圧制御回路109を含む。キャパシタ108は、帯電可能な正負一対の極板を有する。電圧制御回路109は、上述したバイアス電圧の生成のためにキャパシタ108に電荷を供給する。すなわち、電圧制御回路109から電荷が供給されてキャパシタ108が帯電すると、キャパシタ108の極板間に電位差が生じるとともに、この電位差が点火プラグ11のプラグ電極13,14間にも電位差を生じさせ、これがバイアス電圧として機能する。キャパシタ108の帯電量、換言すればバイアス電圧の大きさは、電圧制御回路109からの電荷の供給量に応じて増減される。言い換えると、電圧制御回路109は、キャパシタ108への電荷供給量を通じてバイアス電圧を制御することが可能である。
【0050】
電流増幅回路110は、イオン電流を増幅する回路である。この電流増幅回路110によって増幅された電流が、イオン電流検出部44によって検出される。
【0051】
コイルドライバ105は、ECU40の点火制御部41からの制御信号を受け付ける端子123を有している。上述したイグナイタ106およびキャパシタ装置107(電圧制御回路109)は、当該端子123を通じて入力される制御信号を受けて動作する。すなわち、点火制御部41は、イグナイタ106のON/OFF制御を通じて一次コイル102への通電および通電停止を制御するとともに、キャパシタ装置107(キャパシタ108)の帯電量の調整を通じて点火プラグ11のバイアス電圧を制御する。
【0052】
(3)イオン電流に基づく点火時期の決定
ここで、本実施形態のような火花点火式エンジンでは、できる限り熱効率のよいタイミングで混合気に点火したいというニーズがある。しかしながら、気筒2(燃焼室C)に噴射される燃料の性状によっては、熱効率がベストになるタイミングよりも点火時期を遅角させないと、混合気の燃焼途中にエンドガス(未燃ガス)が自着火する異常燃焼であるノッキングが起きるおそれがある。例えば、火花点火式エンジンに使用されるガソリン燃料は、ノッキングを起こしにくい(アンチノック性の高い)成分であるイソオクタンを主に含むものの、イソオクタンの割合が変動した場合には、通常の点火時期で混合気に点火するとノッキングが起きる可能性がある。これに関し、市場に出回っている車載用エンジンでは、多くの場合、アンチノック性を表す指標であるオクタン価の下限値が決められている。しかしながら、オクタン価は必ずしも実際のイソオクタンの割合(体積割合)と一致するわけでない。このため、実際のイソオクタンの割合によってはノッキングが起きる可能性がある。
【0053】
また、近年では、カーボンニュートラルの観点から、例えば、バイオマスから製造されるバイオエタノール等のバイオ燃料や、COと再生可能エネルギー由来のHとを合成して製造されるe-ガソリン等の合成燃料が注目されている。これらバイオ燃料や合成燃料は、特に普及期において、既存のガソリンや添加物などと混合して使用することが想定される。このような多様な燃料の使用を想定した場合、使用する燃料によってイソオクタンの割合が大きくばらつく可能性がある。
【0054】
このように、火花点火式エンジンでは、現在においても将来においても、使用される燃料中のイソオクタンの割合がばらつくことが想定される。特に、バイオ燃料や合成燃料の使用を念頭に入れた場合には、イソオクタンの割合は大きくばらつく可能性がある。このような性状の異なる燃料の使用を許容しつつ熱効率を向上させるには、燃料性状によって点火時期を調整してノッキングを抑制しながらも、できるだけ熱効率のよいタイミングで混合気に点火することが望まれる。
【0055】
そこで、本願発明者等は、燃料に含有されるイソオクタンの割合(以下、イソオクタン割合もという)と、上述したイオン電流との相関性に着目し、当該イオン電流に基づきイソオクタン割合を推定した上で点火時期を決定するという着想に至った。すなわち、点火プラグ11による点火を行う前にイオン電流を検出して、検出した当該イオン電流からイソオクタン割合ひいてはノッキングの起き易さを表現する所定の特徴量(後述する最大電荷量qmax)を算出し、さらに算出した当該特徴量に基づいて現サイクルにおける点火時期を決定する、というアイデアである。以下、詳しく説明する。
【0056】
(イオン電流とイソオクタン割合との相関性)
イオン電流は、気化・霧化した燃料を含む混合気の電離から生じるイオンに由来するから、燃料性状の相違はイオン電流の相違として現われると予想される。そこで、当該予想に基づく検証実験として、イオン電流と燃料中のイソオクタン割合との相関性を確認するための放電シミュレーションを行った。すなわち、イソオクタン割合が異なる種々の条件で、プラグ電極13,14間の荷電粒子(イオンまたは電子)の挙動等をモデル化したモデルを用いて、プラグ電極13,14間で仮想的な放電を行わせ、当該放電までの期間に生じるイオン電流について調べた。ここでは、イオン電流に関連する値として、プラグ電極13,14間の空間電荷である電荷量qを同定し、当該電荷量qがイソオクタン割合によってどのように変化するかを調べた。なお、電荷量qとしては、電子の空間電荷(負)を絶対値で表現したものを用いた。
【0057】
図6は、イオン電流を生じさせるためにプラグ電極13,14間に印加されるバイアス電圧のクランク角による変化を示すグラフである。本グラフでは、バイアス電圧の変化を、一次コイル102への通電信号であるチャージ信号と併せて示している。また、本グラフの横軸における第1クランク角CA1および第3クランク角CA3は、それぞれ、一次コイル102への通電(チャージ)を開始および停止したときのクランク角である。すなわち、第1クランク角CA1から第3クランク角CA3までの期間は、一次コイル102への通電が行われるチャージ期間である。上述したように、一次コイル102への通電(チャージ)の停止がプラグ電極13,14間の放電をもたらすから、チャージ期間の終了時点である第3クランク角CA3は、放電が行われる時期つまり点火時期と等価である。
【0058】
図6に示すように、本検証実験では、チャージ期間の開始から終了までの間にバイアス電圧を印加した。すなわち、チャージ期間が始まる第1クランク角CA1でバイアス電圧の印加を開始し、チャージ期間が終了する第3クランク角CA3でバイアス電圧の印加を停止した。さらに、本検証実験では、バイアス電圧を山型に変化させた。すなわち、第1クランク角CA1から、第1クランク角CA1と第3クランク角CA3との間の第2クランク角CA2にかけて、バイアス電圧を漸増させるとともに、第2クランク角CA2から第3クランク角CA3にかけて、バイアス電圧を漸減させた。言い換えると、本検証実験では、チャージ期間の中央付近にピークをもつ山型の波形に沿って電圧が変化するようにバイアス電圧を印加した。
【0059】
次に、上記のようにバイアス電圧を印加した場合に生じる電荷量qの変化を調べ、図7のような結果を得た。具体的には、燃料中のイソオクタン割合が異なる種々の条件において、図6のように山型に変化するバイアス電圧を点火プラグ11に印加し、そのときの電荷量qの変化を調べた。図7中の各波形間において、イソオクタン割合以外の条件、例えばエンジン負荷やエンジン回転数等の条件は同一である。
【0060】
図7に示すように、電荷量qは、バイアス電圧と同様に、チャージ期間の途中でピークをもつ山型の波形に沿って変化する。また、当該ピークの値、つまり電荷量qの最大値である最大電荷量qmaxは、イソオクタン割合によって変化する。すなわち、図7から明らかなように、最大電荷量qmaxは、イソオクタン割合が大きいほど小さくなる。
【0061】
図8は、図7の結果から得られた、イソオクタン割合と最大電荷量qmaxとの関係を直接的に示すグラフである。本図からも理解されるように、最大電荷量qmaxは、イソオクタン割合が大きいほど小さくなり、イソオクタン割合が小さいほど大きくなる。ここで、イソオクタン割合が大きいことは、ノッキングが起き難いことを意味し、イソオクタン割合が小さいことは、ノッキングが起き易いことを意味する。このことは、最大電荷量qmaxからノッキングを考慮した点火時期を決定できることを示唆している。
【0062】
(4)実際の制御
次に、上述した知見に基づき行われるエンジンの燃焼制御の詳細について説明する。以下に示すように、本実施形態では、エンジンの運転状態から定まる標準点火時期Igrを、イオン電流の特徴量である最大電荷量qmaxから推定されるイソオクタン割合に応じて補正し、補正後の点火時期で混合気に点火する。しかも、このような点火時期決定のための演算が一次コイル102への通電中(チャージ期間中)に行われるので、当該演算が行われたサイクルと同一のサイクル内で点火時期を補正することが可能である。以下、詳しく説明する。
【0063】
図9および図10は、エンジンの運転中にECU40が行う燃焼制御の詳細を示すフローチャートである。この燃焼制御がスタートすると、ECU40の演算部43は、エンジンに関する各種情報を取得する(ステップS1)。具体的に、演算部43は、クランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、車速センサSN3、およびアクセルセンサSN4の各検出値から、クランク角、エンジン回転数、吸気流量、車速、およびアクセル開度といった情報を取得する。また、取得したアクセル開度および車速に基づいて、エンジンの負荷(要求トルク)を特定する。
【0064】
次いで、演算部43は、燃料の噴射量および噴射時期を決定する(ステップS2)。すなわち、演算部43は、上記ステップS1で取得した吸気流量およびエンジン負荷に基づいて、インジェクタ15から噴射すべき燃料の量である噴射量を決定する。また、演算部43は、決定した噴射量と上記ステップS1で取得したエンジン回転数とに基づいて、インジェクタ15からの燃料噴射を開始すべき時期である噴射時期を決定する。
【0065】
次いで、演算部43は、上記ステップS1で取得したエンジン負荷およびエンジン回転数を含む運転条件に基づいて、標準点火時期Igrを決定する(ステップS3)。標準点火時期Igrは、ノッキングが起きない範囲でできるだけ熱効率が高くなるような点火時期として、エンジンの運転条件ごとに、事前の実験等に基づいて予め定められている。また、標準点火時期Igrは、燃料のイソオクタン割合が所定の基準値であることを前提に定められている。イソオクタン割合の基準値は適宜設定可能であるが、例えば現在市販されているレギュラーガソリンまたはハイオクガソリンを念頭に、90~100%のいずれかに設定してもよい。
【0066】
ECU40の記憶部45には、エンジンの運転条件(負荷および回転数等)の条件から標準点火時期Igrが導き出せるように、両者の関係を規定したマップデータが予め記憶されている。演算部43は、記憶された当該マップデータを参照することにより、エンジンの運転条件から標準点火時期Igrを決定する。なお、標準点火時期Igrの導出のために記憶部45に記憶されるデータは、マップデータに限られず、例えば演算式であってもよい。
【0067】
次いで、演算部43は、混合気の圧縮に伴い生じる低温酸化反応の開始時期を予測する(ステップS4)。低温酸化反応とは、火炎を伴いながら高い熱エネルギーを発生させる高温酸化反応(実質的な燃焼反応)よりも前に生じる緩慢な酸化反応のことであり、燃焼室Cが高温になる圧縮行程の後半で生じ得る。低温酸化反応の開始時期は、事前の実験等に基づいて、エンジンの運転条件から予測することが可能である。
【0068】
図11Aは、エンジン負荷と低温酸化反応の開始時期との関係を示すグラフであり、図11Bは、エンジン回転数と低温酸化反応の開始時期との関係を示すグラフである。各グラフにおいて、横軸のパラメータ(エンジン負荷またはエンジン回転数)以外の条件は同一であるものとする。図11Aに示すように、低温酸化反応は、エンジン負荷が高いほど進角側のタイミングで開始される。また、図11Bに示すように、低温酸化反応は、エンジン回転数が高いほど進角側のタイミングで開始される。記憶部45には、これら図11A,11Bに対応するマップデータまたは演算式が予め記憶されている。演算部43は、記憶された当該マップデータまたは演算式を用いて、エンジンの運転条件(負荷および回転数等)から低温酸化反応の開始時期を予測する。
【0069】
次いで、演算部43は、点火回路10の一次コイル102への通電つまりチャージを開始する時期であるチャージ開始時期を決定する(ステップS5)。本実施形態において、チャージ開始時期は、低温酸化反応の開始と略同時になるように設定される。演算部43は、このようなタイミングでチャージが開始されるように、上記ステップS4で予測した低温酸化反応の開始時期に基づいてチャージ開始時期を決定する。
【0070】
次いで、ECU40の噴射制御部42は、上記ステップS2で決定した噴射時期が到来したタイミングで、インジェクタ15に燃料を噴射させる(ステップS6)。燃料噴射は、上記ステップS2で決定した噴射量の分の燃料が噴射完了するまで継続される。
【0071】
次いで、ECU40の点火制御部41は、上記ステップS5で決定したチャージ開始時期が到来したタイミングで、一次コイル102への通電つまりチャージを開始するとともに、点火プラグ11へのバイアス電圧の印加を開始する(ステップS7)。すなわち、点火制御部41は、低温酸化反応と略同時のチャージ開始時期が到来したタイミングで、一次コイル102への通電が開始されるようにイグナイタ106を制御するとともに、これと当時に点火プラグ11のプラグ電極13,14間にバイアス電圧が印加されるようにキャパシタ装置107(電圧制御回路109)を制御する。このように、本実施形態では、一次コイル102への通電およびバイアス電圧の印加が、低温酸化反応の開始に合わせた同一のタイミングで開始される。低温酸化反応の開始に合わせてバイアス電圧を印加するのは、低温酸化反応の開始に伴って増加する気筒2内のイオンの増加傾向を捉えるためである。
【0072】
ここで、低温酸化反応の開始時期は、図11A,11Bに示したとおり、エンジン負荷またはエンジン回転数が高いほど進角側になる。このことから、上記ステップS7でバイアス電圧の印加が開始される時期は、エンジン負荷またはエンジン回転数が高いほど進角側に設定される。
【0073】
また、上記ステップS7では、上述した検証実験のときと同様、電圧が山型に変化するようにバイアス電圧が印加される(図6参照)。すなわち、本実施形態において、点火制御部41は、チャージの開始から終了にかけて電圧が漸増した後漸減するように、バイアス電圧を印加する。より詳しくは、点火制御部41は、上記ステップS5で決定したチャージ開始時期に相当する第1クランク角CA1でバイアス電圧の印加を開始し、そこからバイアス電圧を漸増させる。さらに、点火制御部41は、チャージ期間の中央付近にあたる第2クランク角CA2で電圧がピークを迎え、かつチャージ期間が終了する第3クランク角CA3に向けて電圧が漸減するように、バイアス電圧を調整する。なお、第3クランク角CA3に相当するチャージ終了時期、換言すれば点火時期は、後述する各ステップの処理により、上記ステップS3で決定した標準点火時期Igrから変更(補正)される可能性があるが、ここでは標準点火時期Igrがチャージ終了時期であるとの仮定の上でバイアス電圧を調整する。
【0074】
次いで、演算部43は、バイアス電圧のピーク時期(第2クランク角CA2)からやや遅れた検出終了時期CAxが到来したか否かを判定する(ステップS8)。検出終了時期CAxは、次のステップS9で行われる最大電荷量qmaxの算出に必要なイオン電流のデータが揃うと見込まれる時期であって、バイアス電圧がピークを迎える第2クランク角CA2よりも所定の小クランク角だけ遅角した時期に設定される。言い換えると、バイアス電圧が印加開始される第1クランク角CA1から検出終了時期CAxまでの期間は、最大電荷量qmaxの算出のために必要なイオン電流の検出期間である。
【0075】
上記ステップS8でNOと判定されて検出終了時期CAxが未だ到来していないことが確認された場合、演算部43は、ECU40のイオン電流検出部44が検出したイオン電流に基づいて、混合気の着火が検出されたか否かを判定する(ステップS12)。この段階で混合気が着火したということは、点火プラグ11による点火の前に混合気が自着火する異常燃焼つまりプリイグニッションが起きたことを意味する。プリイグニッションの発生、つまりチャージ期間中の混合気の自着火は、イオン電流が異常な上昇率で上昇する現象として現われる。当該ステップS12において、演算部43は、このようなイオン電流の異常な上昇が確認された場合に、プリイグニッションが発生したと判定する。なお、プリイグニッションの発生を判定する演算部43は、本発明における「異常燃焼判定部」に相当する。
【0076】
上記ステップS12でYESと判定されてプリイグニッションの発生が確認された場合、噴射制御部42は、インジェクタ15に追加の燃料を噴射させる(ステップS13)。すなわち、上記ステップS6で一旦規定量の燃料を噴射し終わったインジェクタ15に対し、さらにいくらかの量の追加燃料を噴射させる。噴射された追加燃料は、気化潜熱による温度低下をもたらし、燃焼の進行を抑える役割を果たす。
【0077】
一方、上記ステップS12でNOと判定されてプリイグニッションが発生していないことが確認された場合、演算部43は、上記ステップS8に戻って検出終了時期CAxの到来を待つ。
【0078】
上記ステップS8でYESと判定されて検出終了時期CAxの到来が確認された場合、演算部43は、これまでにイオン電流検出部44が検出したイオン電流に基づいて、プラグ電極13,14間の電荷量qの最大値である最大電荷量qmaxを算出する(ステップS9)。具体的に、演算部43は、バイアス電圧の印加開始時期である第1クランク角CA1から検出終了時期CAxまでの検出期間(図6)中にイオン電流検出部44が検出したイオン電流のデータと、同期間中のバイアス電圧のデータとに基づいて、所定の演算式を用いて最大電荷量qmaxを算出する。このようにして算出される最大電荷量qmaxは、上記検出期間中のイオン電流を特徴付ける値つまりイオン電流特徴量の1つということができる。
【0079】
ここで、検出終了時期CAxは、既述のとおり、バイアス電圧がピークを迎える第2クランク角CA2(図6)よりもいくらか遅れた時期である。一方、図6および図7から理解されるように、プラグ電極13,14間の電荷量q(空間電荷)は、バイアス電圧の傾向と概ね同様の山型の波形に沿って変化する。したがって、検出終了時期CAxを迎えた直後である上記ステップS9のタイミングでは、プラグ電極13,14間の電荷量qが最大になる時期を既に過ぎているはずである。すなわち、本実施形態において、検出終了時期CAxは、電荷量qが最大になると予測される時期よりもやや遅れたタイミングに設定されている。このため、バイアス電圧の印加途中である上記ステップS9のタイミングであっても、電荷量qの最大値である最大電荷量qmaxを算出することができる。
【0080】
次いで、演算部43は、上記ステップS9で算出した最大電荷量qmaxに基づいて、燃料のイソオクタン割合を推定する(ステップS10)。イソオクタン割合は、既述のとおり、気筒2に噴射された燃料に含まれるイソオクタンの割合のことであり、最大電荷量qmaxとの関係で図8のような傾向で定められる。すなわち、イソオクタン割合は、最大電荷量qmaxが大きいほど小さくなる。記憶部45には、エンジン負荷およびエンジン回転数を含む運転条件ごとに、この図8に対応するマップデータまたは演算式が予め記憶されている。演算部43は、現在の運転条件に適合する当該マップデータまたは演算式を用いて、最大電荷量qmaxからイソオクタン割合を推定する。
【0081】
次いで、演算部43は、上記ステップS10で推定したイソオクタン割合から、標準点火時期Igrの補正量ΔIgを決定する(ステップS15)。補正量ΔIgは、標準点火時期Igrを定めるための仮定のイソオクタン割合である基準値と、上記ステップS10で得られたイソオクタン割合の推定値とのずれ量に応じて設定される。具体的に、補正量ΔIgは、これら基準値と推定値とのずれ量が大きいほど大きくなるように設定される。
【0082】
また、補正量ΔIgによる補正の方向は、イソオクタン割合の基準値と推定値との大小関係によって変化する。例えば、イソオクタン割合の推定値が基準値よりも小さかった場合は、想定よりもノッキングが起き易い燃料が使用されていることになる。したがって、この場合の補正量ΔIgは、標準点火時期Igrを遅角側に補正するための遅角補正量となる。一方、イソオクタン割合の推定値が基準値よりも大きかった場合は、想定よりもノッキングが起き難い燃料が使用されていることになる。したがって、この場合の補正量ΔIgは、標準点火時期Igrを進角側に補正するための進角補正量となる。なお、イソオクタン割合の基準値が100%に近い値であった場合、補正量ΔIgは基本的に全て遅角補正量になる。
【0083】
次いで、点火制御部41は、上記ステップS15で決定したΔIgだけ標準点火時期Igrを補正した時期を、点火プラグ11による点火時期として決定する(ステップS16)。このようにして決定される点火時期は、上述した補正量ΔIgの設定方法より、図12に示すような傾向で定められることになる。図12に示すように、当該ステップS16で決定される点火時期、つまり標準点火時期IgrをΔIgだけ補正した補正後の点火時期は、イソオクタン割合が小さいほど遅角側に設定され、イソオクタン割合が大きいほど進角側に設定される。
【0084】
次いで、点火制御部41は、上記ステップS16で決定した点火時期、つまり標準点火時期IgrをΔIgだけ補正した時期が到来したタイミングで、点火プラグ11に点火を行わせる(ステップS17)。すなわち、点火制御部41は、当該点火時期の到来に伴って一次コイル102への通電(チャージ)が停止されるように、イグナイタ106を制御する。これにより、二次コイル103に高電圧が誘起され、誘起された当該高電圧を受けて点火プラグ11のプラグ電極13,14間で放電が行われる。
【0085】
次いで、演算部43は、上記ステップS17の点火によって生じた燃焼の燃焼重心を推定する(ステップS18)。燃焼重心とは、噴射された燃料の50%質量が燃焼した時期のことである。このような燃焼重心は、例えば燃焼に伴う熱発生量の算出を経て推定することができる。熱発生量を算出する方法は特に限定されないが、例えば燃焼室Cの圧力である筒内圧力を検出する筒内圧センサを備えたエンジンの場合には、当該筒内圧センサの検出値から熱発生量を算出し、算出した当該熱発生量の変化から燃焼重心を推定することができる。
【0086】
次いで、演算部43は、上記ステップS18で推定した燃焼重心が目標燃焼重心からずれているか否かを判定する(ステップS19)。目標燃焼重心は、エンジン負荷およびエンジン回転数を含む運転条件ごとに予め定められて記憶部45に記憶されている。演算部43は、記憶された当該目標燃焼重心と、上記ステップS18で推定した燃焼重心とを比較して、両者にずれがあるか否かを判定する。
【0087】
上記ステップS19でYESと判定されて燃焼重心のずれが存在することが確認された場合、点火制御部41は、当該ずれに応じて標準点火時期Igrを補正する(ステップS20)。例えば、推定した燃焼重心が目標燃焼重心に対し遅角側にずれていた場合、点火制御部41は、標準点火時期Igrを進角側に補正する。逆に、推定した燃焼重心が目標燃焼重心に対し進角側にずれていた場合、点火制御部41は、標準点火時期Igrを遅角側に補正する。
【0088】
一方、上記ステップS19でNOと判定されて燃焼重心のずれが存在しないことが確認された場合、標準点火時期Igrは補正されず、フローは上記ステップS1に戻される。
【0089】
(5)作用効果
以上説明したとおり、本実施形態では、低温酸化反応の開始に合わせて点火プラグ11のプラグ電極13,14間にバイアス電圧が印加されるとともに、当該バイアス電圧の印加が開始される時期(CA1)から点火時期(CA3)よりも前の検出終了時期CAxまでの検出期間中に検出されたイオン電流に基づいて、燃料に含まれるイソオクタンの割合つまりイソオクタン割合が推定される。そして、当該推定が行われたサイクルと同一サイクルにおける点火時期がイソオクタン割合に応じて補正され、補正された点火時期で点火プラグ11による点火が行われる。このような構成によれば、熱効率の向上を図りつつノッキングの発生を未然に抑制できるという利点がある。
【0090】
すなわち、本実施形態では、点火時期よりも前に検出されたイオン電流に基づいて燃料のイソオクタン割合が推定されるとともに、推定された当該イソオクタン割合に応じて点火時期が補正されるので、イソオクタン割合の相違を考慮した適切な時期に点火時期を調整することができる。具体的に、イソオクタン割合は、ノッキングの起き易さを左右する代表的な燃料性状の1つである。したがって、当該イソオクタン割合に応じて点火時期が補正される本実施形態によれば、イソオクタン割合が大きいほど点火時期を進角側に設定することができ、ノッキングが起きない範囲でできるだけ熱効率のよい点火時期で混合気に点火することができる。しかも、イソオクタン割合は点火時期よりも前に推定されるので、当該推定が行われたサイクルと同一サイクルにおける点火時期を、ノッキングを考慮した適切な時期に予め調整することができる。これにより、熱効率の向上を図りつつノッキングの発生を未然に抑制することができる。
【0091】
より具体的に、本実施形態では、イソオクタン割合と相関するイオン電流特徴量として、上記検出期間中のプラグ電極13,14間の電荷量q(空間電荷)の最大値である最大電荷量qmaxが算出され、算出された当該最大電荷量qmaxが小さいほどイソオクタン割合が大きいものと推定される(図8参照)。このような構成によれば、最大電荷量qmaxとイソオクタン割合との相関性を利用してイソオクタン割合を適切に推定することができる。
【0092】
また、本実施形態では、バイアス電圧の印加中、電圧が漸増した後漸減するように、バイアス電圧が調整される(図6参照)。このように、バイアス電圧を山型に変化させた場合には、プラグ電極13,14間の電荷量qを同様の山型の傾向で変化させることができる。このことは、電荷量qの最大値である上述した最大電荷量qmaxの算出を容易にする。また、低温酸化反応の開始に伴って増加するイオン電流が、バイアス電圧の漸増によってさらに増幅されるので、イソオクタン割合の相違によって変化する最大電荷量qmaxの感度を向上させることができる。これにより、イソオクタン割合の推定精度を高めることができる。
【0093】
また、本実施形態では、二次コイル103にキャパシタ装置107(図3)が接続されるとともに、当該キャパシタ装置107の帯電によってプラグ電極13,14間にバイアス電圧が印加される。このような構成によれば、キャパシタ装置107の帯電量を調整することでバイアス電圧を適切に制御することができる。
【0094】
また、本実施形態では、バイアス電圧の印加開始時期が、エンジン負荷またはエンジン回転数が高いほど早まるように調整される。このような構成によれば、エンジン負荷またはエンジン回転数が高いほど早まる低温酸化反応の開始に合わせてバイアス電圧を印加することができ(図11A,11B参照)、低温酸化反応の開始に伴って増加するイオン電流を適切に検出することができる。
【0095】
また、本実施形態では、検出されたイオン電流に基づいてプリイグニッションの発生が判定されるとともに、プリイグニッションの発生が判定された場合には追加の燃料が噴射される。このような構成によれば、追加噴射された燃料の気化潜熱が気筒2の内部温度を低下させるので、混合気の燃焼の進行を抑えることができ、プリイグニッションがもたらす影響を軽減することができる。
【0096】
(6)変形例
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0097】
例えば、上記実施形態では、イソオクタン割合と相関するイオン電流特徴量として、プラグ電極13,14間の電荷量q(空間電荷)の最大値である最大電荷量qmaxを算出したが、イオン電流特徴量は、イオン電流検出部44が検出するイオン電流から算出可能で、かつイソオクタン割合と相関する値であればよく、最大電荷量qmaxに限られない。例えば、イオン電流検出部44が検出するイオン電流の最大値である最大イオン電流を、イオン電流特徴量として算出してもよい。この場合でも、算出した最大イオン電流からイソオクタン割合を推定することができる。すなわち、最大イオン電流が小さいほどイソオクタン割合が大きいと推定することができる。
【0098】
また、上記実施形態では、所定の検出期間中に検出されたイオン電流(もしくはイオン電流特徴量)から、燃料のイソオクタン割合を推定したが、推定の対象はノッキングの起き易さに関連する燃料性状であればよく、イソオクタン割合に限定されない。
【0099】
上記実施形態では、一次コイル102への通電(チャージ)とプラグ電極13,14間へのバイアス電圧の印加とを同時に開始したが、これらを異なるタイミングで開始してもよい。すなわち、低温酸化反応の開始に合わせてプラグ電極13,14間にバイアス電圧を印加するとともに、当該バイアス電圧の印加開始から幾分早いかまたは遅れた時期に一次コイル102への通電を開始してもよい。
【符号の説明】
【0100】
2 気筒
11 点火プラグ
15 インジェクタ
41 点火制御部
42 噴射制御部
43 演算部(異常燃焼判定部)
44 イオン電流検出部
101 点火コイル
102 一次コイル
103 二次コイル
106 イグナイタ
107 キャパシタ装置(バイアス電圧生成部)
qmax 最大電荷量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12