(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098899
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2465 20160101AFI20250625BHJP
H01M 8/2475 20160101ALI20250625BHJP
【FI】
H01M8/2465
H01M8/2475
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215318
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博之
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA28
5H126FF10
(57)【要約】
【課題】寸法公差等があった場合でも意図通りの性能を発揮し得る燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池積層体と、燃料電池積層体を収容する筐体と、筐体の上部に設けられ、筐体内における燃料電池積層体の動きを規制する規制機構と、を備える燃料電池システムにおいて、規制機構は、燃料電池積層体の上部に押し当てられるプッシュロッドと、プッシュロッドの保持及び位置調整をする偏芯軸受けと、を備え、偏芯軸受けは、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第1貫通孔を有する第1部材と、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第2貫通孔を有する第2部材と、を備え、第1部材が、筐体の上部に設けられた第3貫通孔に回転可能に嵌合し、第2部材が、第1部材の上部に設けられた第1貫通孔に回転可能に嵌合し、プッシュロッドが、第2貫通孔に摺動可能に支持されている燃料電池システム。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルを積層した燃料電池積層体と、
前記燃料電池積層体を収容する筐体と、
前記筐体の上部に設けられ、前記筐体内における前記燃料電池積層体の動きを規制する規制機構と、
を備える燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池積層体は、前記底部が固定部材に固定され、
前記筐体は、底部に開口部を有する箱形状であり、
前記規制機構は、前記燃料電池積層体の上部に押し当てられるプッシュロッドと、前記プッシュロッドの保持及び位置調整をする偏芯軸受けと、を備え、
前記偏芯軸受けは、
外周が正円で、中心が前記外周の中心から離間している正円の第1貫通孔を有する第1部材と、
外周が正円で、中心が前記外周の中心から離間している正円の第2貫通孔を有する第2部材と、
を備え、
前記第1部材が、前記筐体の上部に設けられた第3貫通孔に回転可能に嵌合し、
前記第2部材が、前記第1部材の上部に設けられた第1貫通孔に回転可能に嵌合し、
前記プッシュロッドが、前記第2貫通孔に摺動可能に支持されていることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記第2部材が前記第1貫通孔に回転可能に嵌合され、前記第1部材の中心から前記第1貫通孔の中心が離間する第1方向と、前記第2部材の中心から前記第2貫通孔の中心が離間する第2方向のなす角度が180度の状態で、前記第2貫通孔の中心が前記第1部材の中心から前記第2方向にずれた位置にある、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記第2部材が前記第1貫通孔に回転可能に嵌合され、前記第1部材の中心から前記第1貫通孔の中心が離間する第1方向と、前記第2部材の中心から前記第2貫通孔の中心が離間する第2方向のなす角度が180度の状態で、前記第2貫通孔の中心が前記第1部材の中心と重なる位置にある、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記第1貫通孔は第1ザグリ部を有するザグリ孔であって、前記第1ザグリ部の深さは前記第2部材の厚みより小さく、
前記第3貫通孔は第2ザグリ部を有するザグリ孔であって、前記第2ザグリ部の深さは前記第1部材の厚みより小さく、
前記第2ザグリ部に回転可能に嵌合した前記第1部材の上部を押圧する第1押圧面と、前記第1ザグリ部に回転可能に嵌合した前記第2部材の上部を押圧する第2押圧面と、を有する押圧部材を備え、
前記押圧部材により押圧されることで、前記第1部材と前記第2部材、及び前記第1部材と前記筐体のそれぞれの相対回転が制限される、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記第1ザグリ部及び前記第2部材と、前記第2ザグリ部及び前記第1部材は、それぞれテーパ比が同じかつ上部側が大径で下部側が小径のテーパ形状となっており、
前記押圧部材に押圧された状態で、前記第1ザグリ部と前記第2部材の間、及び前記第2ザグリ部と前記第1部材との間のそれぞれに、締め代がある、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記第1ザグリ部の底部と前記第2部材との間、及び前記第2ザグリ部と前記第1部材との間に、ガスケットが配置されている燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の燃料電池を積層した燃料電池積層体を備える燃料電池システムは、外部からの入力に対して転倒等しないように固定する必要がある。特に、車載する場合には、定置用とは異なり、ロール、ピッチ、及びヨーの各方向の入力に対抗する必要があり、さらには、衝突等の際の大きな入力にも対抗する必要があるので、これらの入力に対して分解や位置ずれしないように固定する必要がある。また、システム停止時と発電時の温度差による積層方向の寸法変化を吸収する必要もある。
【0003】
これらの要求を満たす構成として、特許文献1には燃料電池モジュールを収容する第1ケース部材と、第1ケース部材及び流体部を収容する第2ケース部材とを備える燃料電池システムが開示されている。この燃料電池システムは、第1ケース部材の上部閉塞部に設けた筒状部が第2ケース部材の上部に設けた孔部に挿入され、下端が燃料電池モジュールに固定されたポール部材を筒状部に摺動可能に挿通させた構成となっている。上記の筒状部を設けることで燃料電池モジュールを第2ケース部材内で固定し、ポール部材を摺動可能にすることで積層方向の寸法変化を吸収可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、部品毎の寸法公差や組付公差等により、第1ケース部材の筒状部、第2ケースの孔部、及びポール部材の位置が設計通りになるとは限らない。そして、これらの位置がずれた状態で組み付けを行うと、ポール部材の摺動不良や、いわゆるかじりが発生して、意図通りの性能を発揮できなくなるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、寸法公差等があった場合でも意図通りの性能を発揮し得る燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、燃料電池セルを積層した燃料電池積層体と、燃料電池積層体を収容する筐体と、筐体の上部に設けられ、筐体内における燃料電池積層体の動きを規制する規制機構と、を備える燃料電池システムが提供される。このシステムにおいて、燃料電池積層体は、底部が固定部材に固定され、筐体は、底部に開口部を有する箱形状であり、規制機構は、燃料電池積層体の上部に押し当てられるプッシュロッドと、プッシュロッドの保持及び位置調整をする偏芯軸受けと、を備える。偏芯軸受けは、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第1貫通孔を有する第1部材と、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第2貫通孔を有する第2部材と、を備える。そして、第1部材が、筐体の上部に設けられた第3貫通孔に回転可能に嵌合し、第2部材が、第1部材の上部に設けられた第1貫通孔に回転可能に嵌合し、プッシュロッドが、第2貫通孔に摺動可能に支持されている。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、寸法公差等があった場合でも意図通りの性能を発揮し得る燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、燃料電池システムの斜視透視図である。
【
図2】
図2は、規制機構の周辺をy軸方向から見た側面図である。
【
図4】
図4は、規制機構のz軸を含む平面に沿った断面図である。
【
図5】
図5は、偏芯軸受けの第1部材及び第2部材並びに筐体の偏芯軸受け取り付け部周辺の拡大図である。
【
図6】
図6は、燃料電池積層体の受け部20周辺の拡大図である。
【
図7】
図7は、第1部材及び第2部材の厚みと第1貫通孔の深さと第3貫通孔の深さを示す図である。
【
図8】
図8は、第1部材の直径と第3貫通孔の直径との関係、及び第2部材の直径と第1貫通孔の直径との関係を説明する図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態に係る燃料電池システムの第1部材及び第2部材をz軸方向から見た図である。
【
図11】
図11は、変形例に係る燃料電池システムの第1部材及び第2部材をz軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る燃料電池システム1の斜視透視図である。以下の説明において、図中のx軸方向を横方向、y軸方向を縦方向、z軸方向を上下方向または積層方向、とする。
【0012】
本実施形態では、燃料電池システム1が車載用であるものとして説明するが、定置用としての使用を排除するものではない。
【0013】
燃料電池システム1は、燃料電池セルを積層した燃料電池積層体2と、燃料電池積層体2を収容する筐体3と、筐体3の上部に設けられ、筐体3内における燃料電池積層体2の動きを規制する規制機構6と、を備える。なお、本実施形態では燃料電池が固体酸化物形であるものとして説明するが、これに限られるわけではない。
【0014】
燃料電池積層体2は、底部が固定部材4に固定されている。固定部材4は、燃料電池積層体とガスの授受を行う補機(例えば熱交換器、燃焼器等)を内包する補機構造体の一部である。
【0015】
筐体3は、底部に開口部を有する箱形状であり、底部が車体に設けられた支持部5に固定されている。
【0016】
[規制機構]
規制機構6について、
図2~
図10を参照して説明する。
【0017】
図2は規制機構6の周辺をy軸方向から見た側面図である。
図3は規制機構6の分解図である。
図4は規制機構6のz軸を含む平面に沿った断面図である。
図5は、偏芯軸受け10の第1部材7及び第2部材9並びに筐体3の偏芯軸受け10取り付け部周辺の拡大図である。
図6は、燃料電池積層体2の後述する受け部20周辺の拡大図である。
図7は、第1部材7及び第2部材9の厚みと第1貫通孔7Aの深さと第3貫通孔8の深さを示す図である。
図8は、第1部材7の直径と第3貫通孔8の直径との関係、及び第2部材9の直径と第1貫通孔7Aの直径との関係を説明する図である。
図9は、
図4の第3貫通孔8付近の拡大図である。
図10は、第1部材7及び第2部材9をz軸方向から見た図である。
【0018】
規制機構6は、燃料電池積層体2の上部に押し当てられるプッシュロッド11と、プッシュロッド11の保持及び位置調整をする偏芯軸受け10と、を備える。偏芯軸受け10は、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第1貫通孔7Aを有する第1部材7と、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第2貫通孔9Aを有する第2部材9と、を備える。なお、本実施形態の第2部材9は、第2貫通孔9Aの下面側の外縁から突出する筒部9Bを備える。これはプッシュロッド11と摺動する範囲を長手方向により長くするためである。
【0019】
第1部材7は、筐体3の上部に設けられた第3貫通孔8に回転可能に嵌合している。第2部材9は、第1部材7の上部に設けられた第1貫通孔7Aに回転可能に嵌合している。プッシュロッド11は、第2貫通孔9Aに摺動可能に支持されている。
【0020】
上記のような構成によれば、寸法公差や組み立て公差等により後述する受け部20の位置にずれが生じた場合でも、第1部材7と第2部材9とを回転させることで第2貫通孔9Aの位置を調整できるので、プッシュロッド11の摺動不良やかじりを抑制できる。
【0021】
また、規制機構6は、プッシュロッド11を燃料電池積層体2に押し当てるための力を発生させるコイルばね14と、コイルばね14の位置決めをするばねガイド16と、をさらに備える。ばねガイド16は、コイルばね14のセット長を調整するセット長調整機構の一部と、プッシュロッド11が長手方向に移動する際の向きを規制する補助ガイド機構と、を備える。つまり、ばねガイド16は、一部品でコイルばね14の位置決め、セット長調整、及び補助ガイド、の3つの機能を有する。これにより、機能毎に別部品を用いるのに比べて部品点数を削減できる。
【0022】
セット長調整機構は、ばねガイド16の一部であってねじ山を有するシャフト部16Aと、シャフト部16Aのねじ山に螺合する位置決めナット17、18と、位置決めナット17を保持するスプリングリテーナ19と、を備える。
【0023】
補助ガイド機構は、ばねガイド16の一部であってコイルばね14に挿通する筒部16Cからなる。
【0024】
コイルばね14は、プッシュロッド11に設けられたフランジ部11Aと、ばねガイド16に設けられたフランジ部16Bとによって挟持される。なお、コイルばね14とばねガイド16のフランジ部16Bの間にはスプリングシート15が介装される。このコイルばね14は、プッシュロッド11を燃料電池積層体2に押し当てるための力を発生させるだけでなく、燃料電池積層体が膨張、収縮することによる積層方向寸法の変化を吸収する機能も果たす。
【0025】
スプリングリテーナ19は、位置決めナット17と当接するナット受け部19Aと、ナット受け部19Aの両端から下方に延びる一対の脚部19Bと、を備える門型の部材である。
【0026】
ナット受け部19Aはシャフト部16Aが貫通する貫通孔19Cを有する。貫通孔19Cは、プッシュロッド11の許容し得る移動範囲に応じた範囲でのシャフト部16Aの移動を許容する長孔となっている。これにより、位置決めナット17が不適切な位置にセットされるセット不良の発生を抑制できる。
【0027】
また、スプリングリテーナ19は、ナット受け部19Aがナット受け部19Aの中央を中心としてz軸回りに360度回転可能かつ任意の回転角度で固定可能な構成である。長孔の貫通孔19Cを有するスプリングリテーナ19を360度回転可能な構成にすることで、プッシュロッド11の位置がどの方向にずれても対応することができる。
【0028】
スプリングリテーナ19の回転角度の固定は、スプリングリテーナ19の脚部19Bの下端に設けたフランジを、リテーナホルダ21と筐体3とで挟持することにより行う。なお、リテーナホルダ21は筐体3の上部にボルト22により固定される。
【0029】
プッシュロッド11の下方の端部(以下、先端ともいう)を受ける受け部20は、燃料電池積層体2の上部に設けられている。なお、燃料電池積層体2の上部に、受け部20を備えるベースプレート32をボルト33で固定する構成であってもよい。本実施形態のプッシュロッドの先端は球面になっており、受け部20のプッシュロッド11の先端と当接する部分は円錐状の凹部20Aになっているが、これに限られるわけではない。例えば、プッシュロッド11の先端が平面で、受け部20のプッシュロッド11の先端と当接する部分が円柱状であってもよい。プッシュロッド11の先端を球面状とし、受け部20を円錐状にすることで、運転/停止で発生する熱膨張及び収縮や、車両からの入力によるX-Y軸方向の微小な変位によるプッシュロッド11の微小な傾きが発生しても、コイルばね14による押し付け圧を一定に保つことができる。
【0030】
第1部材7の第1貫通孔7Aは第1ザグリ部7Bを有するザグリ孔であって、第1ザグリ部7Bに第2部材9が収まる。第1ザグリ部7Bの深さCは第2部材9の厚みDより小さい。筐体3の第3貫通孔8は第2ザグリ部8Aを有するザグリ孔であって、第2ザグリ部8Aに第1部材7が収まる。第2ザグリ部8Aの深さAは第1部材7の厚みBより小さい(
図7参照)。なお、第1貫通孔7Aは、筐体3の上部に設けられた凹部8Bの底面に設けられている(
図5参照)。この凹部8Bは後述する押圧部材12が収まる部分である。
【0031】
また、規制機構6は、第2ザグリ部8Aに回転可能に嵌合した第1部材7の上部を押圧する第1押圧面12Aと、第1ザグリ部7Bに回転可能に嵌合した第2部材9の上部を押圧する第2押圧面12Bと、を有する押圧部材12を備える。この押圧部材12により押圧されることで、第1部材7と第2部材9、及び第1部材7と筐体3のそれぞれの相対回転が制限される。つまり、第1部材7及び第2部材9を回転させることによりプッシュロッド11の位置を受け部20の位置に合わせ、その状態でリテーナホルダ21を固定すると、第1部材7及び第2部材9は押圧部材12が押し付けられることにより相対回転が制限される。
【0032】
第1ザグリ部7B及び第2部材9と、第2ザグリ部8A及び第1部材7は、それぞれテーパ比が同じかつ上部側が大径で下部側が小径のテーパ形状となっている。そして、押圧部材12に押圧された状態で、第1ザグリ部7Bと第2部材9の間、及び第2ザグリ部8Aと第1部材7との間のそれぞれに、締め代がある(
図8参照)。これにより、押圧部材12が押し付けられたときに第1部材7と第2部材9がより回転し難くなるとともに、筐体3と第1部材7、第1部材7と第2部材9がそれぞれ密着することとなり、シール性が確保される。なお、第1ザグリ部7B及び第2部材9と、第2ザグリ部8A及び第1部材7をテーパ形状にすることは必須ではない。テーパ形状にしない場合には、シール性確保のため、第1ザグリ部7Bの底部と第2部材9との間、及び第2ザグリ部8Aと第1部材7との間にガスケット40、41を配置する(
図9参照)。
【0033】
ところで、偏芯軸受け10は、上記の通り外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第1貫通孔7Aを有する第1部材7と、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第2貫通孔9Aを有する第2部材9と、を備える。そして、第1部材7及び第2部材9のそれぞれの回転角度を変化させることにより、プッシュロッド11の位置が決まる。つまり、第1部材7における第1貫通孔7Aの位置と第2部材9における第2貫通孔9Aの位置とによって、プッシュロッド11の位置の調整可能な範囲が決まる。そこで本実施形態では、第1部材7の中心C1から第1貫通孔7Aの中心C2が離間する第1方向D1と、第2部材9の中心(つまり第1貫通孔7Aの中心)C2から第2貫通孔9Aの中心C3が離間する第2方向D2のなす角度を180度にしたときに、第2貫通孔9Aの中心C3が第1部材7の中心C1から第2方向D2にずれている構成とする(
図10参照)。なお、第1部材7、第2部材9の直径、第1貫通孔7A、及び第2貫通孔9Aの直径と、第1部材7の中心C1と第1貫通孔7Aの中心C2との距離と、第2部材9の中心C2と第2貫通孔9Aの中心C3との距離は、適用する燃料電池システム1の寸法公差、組立公差等に応じて適宜設定する。
【0034】
図10において、破線P1は、第1部材7を固定した状態で第2部材9を一回転させた場合の第2貫通孔9Aの中心C3の軌跡(以下、軌跡P1ともいう)である。同じく破線P2は、第1方向と第2方向が同一かつ第2部材9を第1部材7に対して固定した状態で、第1部材7を一回転させた場合の第2貫通孔9Aの中心C3の軌跡(以下、軌跡P2ともいう)である。
【0035】
上記構成によれば、第1部材7及び第2部材9の回転角を変化させることで、第2貫通孔9Aの中心C3を軌跡P1と軌跡P2に挟まれた領域(
図10の斜線領域)内で自由に設定できる。これにより、寸法公差や組み立て公差等により第3貫通孔8の中心(つまり第1部材7の中心C1)と受け部20の位置にずれが生じても、プッシュロッド11を傾けることなく受け部20に押し当てることができる。
【0036】
[変形例]
次に、上記実施形態の変形例について
図11を参照して説明する。本変形例も上記実施形態と同様に本発明の範囲に属する。
図11は、第1部材7及び第2部材9をz軸方向から見た図である。
【0037】
本変形例と上記実施形態との相違点は、第2貫通孔9Aの位置と第1部材7の中心C1との関係である。具体的には、本変形例では、第1方向D1と第2方向D2のなす角度を180度にしたときに、第2貫通孔9Aの中心C3が第1部材7の中心C1と重なる位置にある。第2貫通孔9Aを設定し得る領域(
図11の斜線領域)は上記実施形態のそれに比べて小さくはなるものの、本変形例によれば、第3貫通孔8の中心(つまり第1部材7の中心C1)と受け部20の位置が一致している場合に、第2貫通孔9Aの位置合わせが容易になる。
【0038】
以上のように本実施形態では、燃料電池セルを積層した燃料電池積層体2と、燃料電池積層体2を収容する筐体3と、筐体3の上部に設けられ、筐体3内における燃料電池積層体2の動きを規制する規制機構6と、を備える燃料電池システム1が提供される。このシステムにおいて、燃料電池積層体2は、底部が固定部材4に固定され、筐体3は、底部に開口部を有する箱形状であり、底部が支持部材5に固定されている。規制機構6は、燃料電池積層体2の上部に押し当てられるプッシュロッド11と、プッシュロッド11の保持及び位置調整をする偏芯軸受け10と、を備える。偏芯軸受け10は、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第1貫通孔7Aを有する第1部材7と、外周が正円で、中心が外周の中心から離間している正円の第2貫通孔9Aを有する第2部材9と、を備える。そして、第1部材7が、筐体3の上部に設けられた第3貫通孔8に回転可能に嵌合し、第2部材9が、第1部材7の上部に設けられた第1貫通孔7Aに回転可能に嵌合し、プッシュロッド11が、第2貫通孔9Aに摺動可能に支持されている。これにより、第1部材7及び第2部材9の回転角度を変えることで、プッシュロッド11のx方向及びy方向の位置を調整できる。すなわち、寸法公差や組み立て公差等により筐体3に対する燃料電池積層体2の位置がずれたとしても、プッシュロッド11を適切な角度で燃料電池積層体2に押し当てることが可能となり、摺動抵抗の低減により燃料電池システム1の耐久性及び信頼性が向上する。
【0039】
本実施形態では、第2部材9が第1貫通孔7Aに回転可能に嵌合され、第1部材7の中心C1から第1貫通孔7Aの中心C2が離間する第1方向D1と、第2部材9の中心C2から第2貫通孔9Aの中心C3が離間する第2方向D2のなす角度が180度の状態で、第2貫通孔9Aの中心C3が第1部材7の中心C1から第2方向D2にずれた位置にある。これにより、プッシュロッド11のx方向及びy方向の調整可能領域をより大きくすることができる。
【0040】
本実施形態では、第1貫通孔7Aは第1ザグリ部7Bを有するザグリ孔であって、第1ザグリ部7Bの深さCは第2部材9の厚みDより小さい。第3貫通孔8は第2ザグリ部8Aを有するザグリ孔であって、第2ザグリ部8Aの深さAは第1部材7の厚みBより小さい。そして、第2ザグリ部8Aに回転可能に嵌合した第1部材7の上部を押圧する第1押圧面12Bと、第1ザグリ部7Bに回転可能に嵌合した第2部材9の上部を押圧する第2押圧面12Aと、を有する押圧部材12を備える。押圧部材12により押圧されることで、第1部材7と第2部材9、及び第1部材7と筐体3のそれぞれの相対回転が制限される。上記のように第1部材7及び第2部材9をそれぞれザグリ部8A、7Bに収めるので、第1部材7及び第2部材9の位置決めが容易である。さらに、第1部材7及び第2部材9の上面はそれぞれザグリ部8A、7Bから突出するので、押圧部材12が上記の各上面と確実に接触することとなり、第1部材7及び第2部材9を簡単な構成で固定することができる。
【0041】
本実施形態では、第1ザグリ部7B及び第2部材9と、第2ザグリ部8A及び第1部材7は、それぞれテーパ比が同じかつ上部側が大径で下部側が小径のテーパ形状となっており、押圧部材12に押圧された状態で、第1ザグリ部7Bと第2部材9の間、及び第2ザグリ部8Aと第1部材7との間のそれぞれに、締め代がある。これにより、第1部材7及び第2部材9は、押圧部材12に押圧されることで、それぞれ第2ザグリ部8A、第1ザグリ部7Bに締り嵌めされることとなり、振動等による位置ずれが抑制されるとともに、シール性を確保できる。
【0042】
本実施形態では、第1部材7及び第2部材9を上記のテーパ形状にする代わりに、第1ザグリ部7Bの底部と第2部材9との間、及び第2ザグリ部8Aと第1部材7との間に、ガスケット40、41を配置してもよい。この構成であっても、押圧部材12に押圧されることで第1部材7及び第2部材9の位置ずれは抑制され、シール性も確保できる。
【0043】
本変形例では、第2部材9が第1貫通孔7Aに回転可能に嵌合され、第1部材7の中心C1から第1貫通孔7Aの中心C2が離間する第1方向D1と、第2部材9の中心C2から第2貫通孔9Aの中心C3が離間する第2方向D2のなす角度が180度の状態で、第2貫通孔9Aの中心C3が第1部材7の中心C1と重なる位置にある。これにより、第2貫通孔9Aと受け部20の位置が設計通りであった場合の第1部材7及び第2部材9の位置決めが容易になる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0045】
1 燃料電池システム、 2 燃料電池積層体、 3 筐体、 6 規制機構、 7 第1部材、 8 第3貫通孔、 9 第2部材、 10 偏芯軸受、 11 プッシュロッド、 16 ばねガイド、 19 スプリングリテーナ、 20 受け部