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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098900
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/2465 20160101AFI20250625BHJP
   H01M 8/2475 20160101ALI20250625BHJP
   H01M 8/04 20160101ALN20250625BHJP
【FI】
H01M8/2465
H01M8/2475
H01M8/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215319
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博之
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA28
5H126FF08
5H126FF10
5H126JJ03
5H127EE03
(57)【要約】
【課題】寸法公差等があっても意図通りの性能を発揮し得る燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池セルを積層した燃料電池積層体2と、燃料電池積層体2を収容する筐体3と、筐体3の上部に設けられ、筐体3内における燃料電池積層体2の動きを規制する規制機構6と、を備える燃料電池システム1において、燃料電池積層体2は、底部が固定部材4に固定され、筐体3は、底部に開口部を有する箱形状であり、規制機構6は、燃料電池積層体2の上部に押し当てられるプッシュロッド11と、プッシュロッド11を保持する球面滑り軸受10と、を備え、球面滑り軸受10は、プッシュロッド11が貫通する貫通孔を有し外周の一部に球面部7Aを有する筒体7と、球面部7Aを保持する保持部8、9と、を備え、球面部7Aの少なくとも一部は筐体3に接触している燃料電池システム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルを積層した燃料電池積層体と、
前記燃料電池積層体を収容する筐体と、
前記筐体の上部に設けられ、前記筐体内における前記燃料電池積層体の動きを規制する規制機構と、
を備える燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池積層体は、前記底部が固定部材に固定され、
前記筐体は、底部に開口部を有する箱形状であり、
前記規制機構は、前記燃料電池積層体の上部に押し当てられるプッシュロッドと、前記プッシュロッドを保持する球面滑り軸受と、を備え、
前記球面滑り軸受は、前記プッシュロッドが貫通する貫通孔を有し外周の一部に球面部を有する筒体と、前記球面部を保持する保持部と、を備え、
前記球面部の少なくとも一部は前記筐体に接触していることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記保持部は、前記プッシュロッドの長手方向で前記燃料電池積層体側から前記球面部を支持する下側保持部と、前記下側保持部と対向する側から前記球面部を支持する上側保持部と、からなり、
前記下側保持部は前記筐体の上部に形成されており、
前記上側保持部は前記下側保持部とは別部材であり、
前記上側保持部が前記球面部に押し付けられることにより前記球面部の動きが制限される、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記プッシュロッドを受ける受け部を前記燃料電池積層体の上部に備え、
前記プッシュロッドの前記燃料電池積層体側の端部は球面部となっており、
前記受け部は円錐状の凹部を有する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムにおいて、
前記凹部の、前記プッシュロッドの長手方向に沿った断面形状は正三角形であり、深さは前記プッシュロッドの球面部の直径と同じである、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記プッシュロッドの外径が前記プッシュロッドの前記球面部の直径より大きく、
前記プッシュロッドの中心軸を含む断面において、前記プッシュロッドの前記球面部と前記プッシュロッドの側面とを繋ぐ直線と前記中心軸とがなす角度が、前記凹部の母線と前記中心軸とがなす角度より小さい、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記筐体の上部は、前記規制機構を設ける部分が他の部分より上方に突出している、燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記プッシュロッドを前記燃料電池積層体に押し当てるための力を発生させるコイルばねと、
前記コイルばねの位置決めをするばねガイドと、をさらに備え、
前記ばねガイドは、前記コイルばねのセット長を調整するセット長調整機構の一部と、前記プッシュロッドが長手方向に移動する際の向きを規制する補助ガイド機構と、を備える、燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池システムにおいて、
前記セット長調整機構は、前記ばねガイドの一部であってねじ山を有するシャフト部と、前記シャフト部のねじ山に螺合する位置決めナットと、前記位置決めナットを保持するスプリングリテーナと、を備え、
前記スプリングリテーナは前記位置決めナットと当接するナット受け部を有し、前記ナット受け部は前記球面滑り軸受の回転中心を中心とする任意の半径を有する円弧形状を有し、かつ、前記シャフト部が貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔は、前記プッシュロッドの許容し得る傾きに応じた範囲での前記シャフト部の移動を許容する長孔となっている、燃料電池システム。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池システムにおいて、
前記スプリングリテーナは、前記ナット受け部が前記ナット受け部の中央を中心として360度回転可能かつ任意の回転角度で固定可能な構成である、燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の燃料電池を積層した燃料電池積層体を備える燃料電池システムは、外部からの入力に対して転倒等しないように固定する必要がある。特に、車載する場合には、定置用とは異なり、ロール、ピッチ、及びヨーの各方向の入力に対抗する必要があり、さらには、衝突等の際の大きな入力にも対抗する必要があるので、これらの入力に対して分解や位置ずれしないように固定する必要がある。また、システム停止時と発電時の温度差による積層方向の寸法変化を吸収する必要もある。
【0003】
これらの要求を満たす構成として、特許文献1には燃料電池モジュールを収容する第1ケース部材と、第1ケース部材及び流体部を収容する第2ケース部材とを備える燃料電池システムが開示されている。この燃料電池システムは、第1ケース部材の上部閉塞部に設けた筒状部が第2ケース部材の上部に設けた孔部に挿入され、下端が燃料電池モジュールに固定されたポール部材を筒状部に摺動可能に挿通させた構成となっている。上記の筒状部を設けることで燃料電池モジュールを第2ケース部材内で固定し、ポール部材を摺動可能にすることで積層方向の寸法変化を吸収可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-221630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、部品毎の寸法公差や組付公差等により、第1ケース部材の筒状部、第2ケースの孔部、及びポール部材の位置が設計通りになるとは限らない。そして、これらの位置がずれた状態で組み付けを行うと、ポール部材の摺動不良や、いわゆるかじりが発生して、意図通りの性能を発揮できなくなるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、寸法公差等があった場合でも意図通りの性能を発揮し得る燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、燃料電池セルを積層した燃料電池積層体と、燃料電池積層体を収容する筐体と、筐体の上部に設けられ、筐体内における燃料電池積層体の動きを規制する規制機構と、を備える燃料電池システムが提供される。このシステムにおいて、燃料電池積層体は、底部が固定部材に固定され、筐体は、底部に開口部を有する箱形状であり、規制機構は、燃料電池積層体の上部に押し当てられるプッシュロッドと、プッシュロッドを保持する球面滑り軸受と、を備える。球面滑り軸受は、プッシュロッドが貫通する貫通孔を有し外周の一部に球面部を有する筒体と、球面部を保持する保持部と、を備え、球面部の少なくとも一部は筐体に接触している。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、寸法公差等があった場合でも意図通りの性能を発揮し得る燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、燃料電池システムの斜視透視図である。
図2図2は、規制機構の周辺をy軸方向から見た側面図である。
図3図3は、規制機構の分解図である。
図4図4は、規制機構のz軸を含む平面に沿った断面図である。
図5図5は、規制機構及び筐体の断面図である。
図6図6は、燃料電池積層体の受け部周辺の拡大図である。
図7図7は、プッシュロッドの先端が受け部に押し付けられた状態を示す断面図である。
図8図8は、プッシュロッドの先端及び受け部の各寸法等を説明する図である。
図9図9は、変形例に係る燃料電池システムの規制機構周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る燃料電池システム1の斜視透視図である。以下の説明において、図中のx軸方向を横方向、y軸方向を縦方向、z軸方向を上下方向または積層方向、とする。
【0012】
本実施形態では、燃料電池システム1が車載用であるものとして説明するが、定置用としての使用を排除するものではない。
【0013】
燃料電池システム1は、燃料電池セルを積層した燃料電池積層体2と、燃料電池積層体2を収容する筐体3と、筐体3の上部に設けられ、筐体3内における燃料電池積層体2の動きを規制する規制機構6と、を備える。なお、本実施形態では燃料電池が固体酸化物形であるものとして説明するが、これに限られるわけではない。
【0014】
燃料電池積層体2は、底部が第1の固定部材4に固定されている。第1の固定部材4は、燃料電池積層体とガスの授受を行う補機(例えば熱交換器、燃焼器等)を内包する補機構造体の一部である。
【0015】
筐体3は、底部に開口部を有する箱形状であり、底部が車体に設けられた第2の固定部材5に固定されている。
【0016】
[規制機構]
規制機構6について図2図8を参照して説明する。
【0017】
図2は、規制機構6の周辺をy軸方向から見た側面図である。図3は規制機構6の分解図である。図4は規制機構6のz軸を含む平面に沿った断面図である。図5は、規制機構6及び筐体3の断面図である。図6は、燃料電池積層体2の後述する受け部20周辺の拡大図である。
【0018】
規制機構6は、燃料電池積層体2の上部に押し当てられるプッシュロッド11と、プッシュロッド11を保持する球面滑り軸受10と、を備える。これにより、プッシュロッド11を任意の方向に向けることができる。すなわち、寸法公差や組付公差等により筐体3の規制機構6が取り付けられる位置と燃料電池積層体2の後述する受け部20の位置にずれが生じていても、プッシュロッド11を傾けて組み付けることで、プッシュロッド11の摺動不良や、いわゆるかじりの発生を抑制できる。
【0019】
球面滑り軸受10は、プッシュロッド11が貫通する貫通孔を有し外周の一部に球面部7Aを有する筒体7と、球面部7Aを保持する保持部を備える。
【0020】
保持部は、プッシュロッド11の長手方向における燃料電池積層体2側(つまり下方)から球面部7Aを支持する下側保持部8と、下側保持部8と対向する側(つまり上方)から球面部7Aを支持する上側保持部(以下、リテーナともいう)9とからなる。
【0021】
下側保持部8は筐体3の上部に形成されている。これにより、球面部7Aの少なくとも一部は筐体3に接触することとなる。発電中の燃料電池は500℃以上の高温になることもあり、その熱は燃料電池積層体2及び後述する受け部20を介してプッシュロッド11に伝わる。本実施形態では、プッシュロッド11を保持する球面滑り軸受10の球面部7Aが筐体3に接触しているので、プッシュロッド11の熱が球面部7Aを介して筐体3へ放熱され易い。これにより、規制機構6の各部品の温度上昇が抑制されるので、規制機構6の信頼性が向上する。
【0022】
リテーナ9は下側保持部8とは別部材である。そして、リテーナ9が球面部7Aに押し付けられることにより球面部7Aの動きが制限される。リテーナ9は、シム12、ホルダ13及び後述するスプリングリテーナ19の脚部19Bを介してリテーナホルダ21により押し付けられる。なお、筐体3の上部には、シム12が収まる第1ザグリ31と、ホルダ13が収まる第2ザグリ30とが設けられている。このように、規制機構6は、その一部が筐体3に形成されるため、構造が簡素になり、かつ部品点数が少ない。そして、プッシュロッド11の向きを決めてからリテーナ9を固定するだけなので、調整が容易である。
【0023】
また、規制機構6は、プッシュロッド11を燃料電池積層体2に押し当てるための力を発生させるコイルばね14と、コイルばね14の位置決めをするばねガイド16と、をさらに備える。ばねガイド16は、コイルばね14のセット長を調整するセット長調整機構の一部と、プッシュロッド11が長手方向に移動する際の向きを規制する補助ガイド機構と、を備える。つまり、ばねガイド16は、一部品でコイルばね14の位置決め、セット長調整、及び補助ガイド、の3つの機能を有する。これにより、機能毎に別部品を用いるのに比べて部品点数を削減できる。
【0024】
セット長調整機構は、ばねガイド16の一部であってねじ山を有するシャフト部16Aと、シャフト部16Aのねじ山に螺合する位置決めナット17と、位置決めナット17を保持するスプリングリテーナ19と、を備える。
【0025】
補助ガイド機構は、ばねガイド16の一部であってコイルばね14に挿通する筒部16Cからなる。
【0026】
コイルばね14は、プッシュロッド11に設けられたフランジ部11Aと、ばねガイド16に設けられたフランジ部16Bとによって挟持される。なお、コイルばね14とばねガイド16のフランジ部16Bの間にはスプリングシート15が介装される。このコイルばね14は、プッシュロッド11を燃料電池積層体2に押し当てるための力を発生させるだけでなく、燃料電池積層体が膨張、収縮することによる積層方向寸法の変化を吸収する機能も果たす。
【0027】
スプリングリテーナ19は位置決めナット17と当接するナット受け部19Aを有し、ナット受け部19Aは球面滑り軸受10の回転中心を中心とする任意の半径を有する円弧形状を有する。このような円弧形状にすることで、ばねガイド16のセット長を変えることなくプッシュロッド11の傾きを変えることができる。
【0028】
また、スプリングリテーナ19は、ナット受け部19Aと、ナット受け部19Aの両端から下方に延びる一対の脚部19Bと、を備える。なお、位置決めナット17が位置調整用ナット18を介してナット受け部19Aと当接する構成としてもよい。
【0029】
ナット受け部19Aはシャフト部16Aが貫通する貫通孔19Cを有する。貫通孔19Cは、プッシュロッド11の許容し得る傾きに応じた範囲でのシャフト部16Aの移動を許容する長孔となっている。これにより、位置決めナット17が不適切な位置にセットされるセット不良の発生を抑制できる。
【0030】
なお、ナット受け部19Aの、貫通孔19Cの短手方向両側に、貫通孔19Cの長手方向と平行な一対の突出部を設けてもよい。この突出部は、位置決めナット17又は位置調整用ナット18のガイドレールとしての機能を果たすだけでなく、ナット受け部19Aの補強部材としての機能も果たす。
【0031】
また、スプリングリテーナ19は、ナット受け部19Aがナット受け部19Aの中央を中心としてz軸回りに360度回転可能かつ任意の回転角度で固定可能な構成である。長孔の貫通孔19Cを有するスプリングリテーナ19を360度回転可能な構成にすることで、プッシュロッド11の傾きがどの方向であっても対応することができる。
【0032】
スプリングリテーナ19の回転角度の固定は、スプリングリテーナ19の脚部19Bの下端に設けたフランジを、リテーナホルダ21と筐体3とで挟持することにより行う。なお、リテーナホルダ21は筐体3の上部にボルト22により固定される。
【0033】
プッシュロッド11の下方の端部(以下、先端ともいう)を受ける受け部20は、燃料電池積層体2の上部に設けられている。なお、燃料電池積層体2の上部に、受け部20を備えるベースプレート32をボルト33で固定する構成であってもよい。
【0034】
ここで、プッシュロッド11の先端と受け部20の形状について図7図8を参照して説明する。図7はプッシュロッド11の先端が受け部20に押し付けられた状態を示す断面図である。図8は、プッシュロッド11の先端及び受け部20の各寸法等を説明する図である。
【0035】
プッシュロッド11の燃料電池積層体2側の端部は球面部11Dとなっており、受け部20は円錐状の凹部20Aを有する。これにより、プッシュロッド11と受け部20とが線接触に近い接触形態となり、プッシュロッド11がz軸方向に対して傾いたとしても、その接触形態が変わることがない。また、z軸方向視でプッシュロッド11に対して受け部20がどの方向にずれたとしても、上記の接触形態を維持したまま追従できる。
【0036】
凹部20Aの、プッシュロッド11の長手方向に沿った断面形状は正三角形であり、深さBはプッシュロッド11の球面部11Dの直径Aと同じである。また、プッシュロッド11の外径Eは球面部11Dの直径Aより大きい。そして、プッシュロッド11の中心軸を含む断面において、球面部11Dとプッシュロッド11の側面とを繋ぐ直線L1と中心軸Cとがなす角度θcは、凹部20Aの母線L2と中心軸Cとがなす角度θdより小さい。これにより、球面部11Dは凹部20Aの比較的浅い位置、つまり直径が比較的大きい位置と接触することになるので、広い接触面積を確保できる。また、凹部20Aの上端よりも低い位置で接触するので、衝撃入力等があった場合でも、球面部11Dが凹部20Aから外れ難い。
【0037】
[変形例]
次に、上記実施形態の変形例について図9を参照して説明する。本変形例も上記実施形態と同様に本発明の範囲に属する。図9は本変形例に係る燃料電池システムの、規制機構6周辺の拡大図である。
【0038】
本変形例と上記実施形態との相違点は、筐体3の形状である。具体的には、本変形例の筐体3は、上部が、規制機構6を設ける部分が他の部分より上方に突出した形状を有する。つまり、筐体3の上部は、リテーナホルダ21が固定される部分だけが上方に突出しており、他の部位は上記実施形態と同様である。
【0039】
これにより、発熱体である燃料電池積層体から規制機構6までの距離を上記実施形態の構成よりも長くとることができるので、規制機構6が熱害を受け難くなる。
【0040】
また、規制機構6の取り付け部だけが上方に突出しているので、筐体3の上部に設けた下側保持部8からの放熱性が上記実施形態の構成に比べて向上する。これにより、規制機構6の耐久性及び信頼性が向上する。
【0041】
さらに、燃料電池積層体から規制機構6までの距離が長くなることで、球面滑り軸受10の回転中心から受け部20までの距離も長くなる。これにより、z軸方向視で球面滑り軸受10の回転中心と受け部20の中心とにずれが生じた場合の、プッシュロッド11のz軸に対する傾きが上記実施形態の構成に比べて小さくなる。これにより、プッシュロッド11に対する燃料電池積層体2からの反力の入力方向と、プッシュロッド11の摺動方向とのずれが小さくなるので、プッシュロッド11の摺動抵抗やプッシュロッド11にかかる曲げモーメント等が小さくなる。その結果、規制機構6の耐久性及び信頼性が向上する。
【0042】
以上のように本実施形態では、燃料電池セルを積層した燃料電池積層体2と、燃料電池積層体2を収容する筐体3と、筐体3の上部に設けられ、筐体3内における燃料電池積層体2の動きを規制する規制機構6と、を備える燃料電池システムが提供される。燃料電池積層体2は、底部が固定部材4に固定される。筐体3は、底部に開口部を有する箱形状である。規制機構6は、燃料電池積層体2の上部に押し当てられるプッシュロッド11と、プッシュロッド11を保持する球面滑り軸受10と、を備える。球面滑り軸受10は、プッシュロッド11が貫通する貫通孔を有し外周の一部に球面部7Aを有する筒体7と、球面部7Aを保持する保持部(下側保持部8、リテーナ9)と、を備え、球面部7Aの少なくとも一部は筐体3に接触している。これにより、寸法公差や組付公差等により筐体3の規制機構6が取り付けられる位置と燃料電池積層体2の後述する受け部20の位置にずれが生じていても、プッシュロッド11を傾けて組み付けることで、プッシュロッド11の摺動不良や、いわゆるかじりの発生を抑制できる。また、球面部7Aの少なくとも一部は筐体3に接触していることで、規制機構6の放熱性が向上する。
【0043】
本実施形態では、保持部は、プッシュロッド11の長手方向で燃料電池積層体2側から球面部7Aを支持する下側保持部8と、下側保持部8と対向する側から球面部7Aを支持する上側保持部(リテーナ)9と、からなる。下側保持部8は筐体3の上部に形成されており、リテーナ9は下側保持部8とは別部材であり、リテーナ9が球面部7Aに押し付けられることにより球面部7Aの動きが制限される。これにより、構造の簡素化、部品点数の削減、及び調整の容易化を図ることができる。
【0044】
本実施形態では、プッシュロッド11を受ける受け部20を燃料電池積層体2の上部に備え、プッシュロッド11の燃料電池積層体2側の端部は球面部11Dとなっており、受け部20は円錐状の凹部20Aを有する。これにより、プッシュロッド11と受け部20とが線接触に近い接触形態となり、プッシュロッド11がz軸方向に対して傾いたとしても、上記の接触形態を維持したまま追従できる。
【0045】
本実施形態では、凹部20Aの、プッシュロッド11の長手方向に沿った断面形状は正三角形であり、深さBはプッシュロッド11の球面部11Dの直径Aと同じである。これにより、球面部11Dは凹部20Aの比較的浅い位置、つまり直径が比較的大きい位置と接触することになるので、広い接触面積を確保できる。
【0046】
本実施形態では、プッシュロッド11の外径Eがプッシュロッド11の球面部11Dの直径Aより大きく、プッシュロッド11の中心軸Cを含む断面において、プッシュロッド11の球面部11Dとプッシュロッド11の側面とを繋ぐ直線L1と中心軸Cとがなす角度θcが、凹部20Aの母線L2と中心軸Cとがなす角度θdより小さい。これにより、プッシュロッド11と受け部20とが凹部20Aの上端よりも低い位置で接触するので、衝撃入力等があった場合でも、球面部11Dが凹部20Aから外れ難い。
【0047】
本実施形態では、プッシュロッド11を燃料電池積層体2に押し当てるための力を発生させるコイルばね14と、コイルばね14の位置決めをするばねガイド16と、をさらに備える。ばねガイド16は、コイルばね14のセット長を調整するセット長調整機構の一部と、プッシュロッド11が長手方向に移動する際の向きを規制する補助ガイド機構と、を備える。このように、ばねガイド16にコイルばね14の位置決め、セット長調整、及び補助ガイド、の3つの機能を持たせることで、機能毎に別部品を用いるのに比べて部品点数を削減できる。
【0048】
本実施形態では、セット長調整機構は、ばねガイド16の一部であってねじ山を有するシャフト部16Aと、シャフト部16Aのねじ山に螺合する位置決めナット17と、位置決めナット17を保持するスプリングリテーナ19と、を備える。スプリングリテーナ19は位置決めナット17(図3では位置調整用ナット18)と当接するナット受け部19Aを有し、ナット受け部19Aは球面滑り軸受10の回転中心を中心とする任意の半径を有する円弧形状を有し、かつ、シャフト部16Aが貫通する貫通孔19Cを有する。貫通孔19Cは、プッシュロッド11の許容し得る傾きに応じた範囲でのシャフト部16Aの移動を許容する長孔となっている。これにより、ばねガイド16のセット長を変えることなくプッシュロッド11の傾きを変えることができる。また、位置決めナット17が不適切な位置にセットされるセット不良の発生を抑制できる。
【0049】
本実施形態では、スプリングリテーナ19は、ナット受け部19Aがナット受け部の中央を中心として360度回転可能かつ任意の回転角度で固定可能な構成である。これにより、プッシュロッド11の傾きがどの方向であっても対応することができる。
【0050】
本変形例では、筐体3の上部は、規制機構6を設ける部分が他の部分より上方に突出している。これにより、規制機構6が熱害を受け難くなる。また、規制機構6からの放熱性が向上する。さらには、規制機構6と受け部20との位置ずれに対するプッシュロッド11の傾きが小さくなり、規制機構6の耐久性及び信頼性が向上する。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0052】
1 燃料電池システム、 2 燃料電池積層体、 3 筐体、 6 規制機構、 7 筒体、 8 下側保持部、 9 上側保持部(リテーナ)、 10 球面滑り軸受、 11 プッシュロッド、 16 ばねガイド、 19 スプリングリテーナ、 20 受け部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9