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特開2025-98955基材上に可視光吸収性被覆を堆積させる方法
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  • 特開-基材上に可視光吸収性被覆を堆積させる方法 図1
  • 特開-基材上に可視光吸収性被覆を堆積させる方法 図2
  • 特開-基材上に可視光吸収性被覆を堆積させる方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098955
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】基材上に可視光吸収性被覆を堆積させる方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20250625BHJP
   B32B 37/14 20060101ALI20250625BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20250625BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20250625BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20250625BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20250625BHJP
   B41M 3/00 20060101ALI20250625BHJP
   G04B 37/22 20060101ALI20250625BHJP
   G04B 19/06 20060101ALI20250625BHJP
   G04B 19/04 20060101ALI20250625BHJP
【FI】
B05D7/24 303H
B32B37/14 Z
B32B7/023
B32B27/20 A
B05D7/00 K
B05D1/36 Z
B41M3/00 Z
G04B37/22 J
G04B19/06 B
G04B19/04 C
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024210873
(22)【出願日】2024-12-04
(31)【優先権主張番号】23218854.0
(32)【優先日】2023-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー・テレス
【テーマコード(参考)】
2H113
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
2H113AA04
2H113BA05
2H113BA09
2H113BA41
2H113BB07
2H113BB09
2H113BB10
2H113CA42
2H113CA46
2H113DA03
2H113EA07
4D075AA00
4D075AB00
4D075AC41
4D075AC45
4D075AC47
4D075CB02
4D075DA11
4D075EA07
4D075EB22
4D075EB33
4D075EB38
4D075EC11
4D075EC24
4D075EC31
4D075EC53
4D075EC54
4F100AA37
4F100AB01
4F100AD00
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK01E
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AK51B
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4F100AK51D
4F100AK51E
4F100AK53B
4F100AK53C
4F100AK53D
4F100AK53E
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA21B
4F100BA21C
4F100BA21D
4F100CA13
4F100CA13B
4F100CA13C
4F100CA13D
4F100CA13E
4F100DE01
4F100DE01C
4F100DE01D
4F100DE01E
4F100DE04
4F100DE04C
4F100DE04D
4F100DE04E
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4F100EH46E
4F100EH61
4F100EH66
4F100EJ65
4F100EJ65B
4F100EJ86
4F100EJ86B
4F100EJ86C
4F100EJ86D
4F100EJ86E
4F100GB90
4F100HB31
4F100JD08C
4F100JD08D
4F100JD08E
4F100JD14C
4F100JD14D
4F100JD14E
4F100JL10
4F100JL10B
4F100JL10C
4F100JL10D
4F100JL10E
4F100JN02C
4F100JN02D
4F100JN02E
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンの粒子の使用を回避しつつ高い光吸収率を有する被覆を基材上に堆積させる方法および被覆を含む物品を提供する。
【解決手段】携行型時計のコンポーネントのような物品10を形成するために可視光を吸収する被覆20を基材1上に堆積させる方法である。基材を用意する第1のステップと、バインダーと溶媒とd90値がナノメートルレベルの寸法である顔料とを含む第1の液体混合物を堆積させて前記基材の少なくとも一部を覆い、前記溶媒を蒸発させることによって形成される下地層21を堆積させる第2のステップと、バインダーと溶媒と粒径が異なる顔料とを含む複数種類の液体の混合物を順次的に堆積させることによって複数の層22、23、24の積層体25を堆積させる第3のステップとを含み、前記積層体の各層nの間で粒径が異なり、前記積層体の各層は前記溶媒を蒸発させることによって形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
携行型時計のコンポーネントのような物品(10)を形成するために可視光を吸収する被覆(20)を基材(1)上に堆積させる方法(100)であって、
基材(1)を用意する第1のステップ(110)と、
バインダーと、溶媒と、d90値がナノメートルレベルの寸法である顔料とを含む第1の液体混合物を堆積させることによって、前記基材(1)の少なくとも一部を覆い前記溶媒を蒸発させることによって形成される下地層(21)を堆積させる第2のステップ(120)と、
バインダーと、溶媒と、粒径が異なる顔料とを含む複数種類の液体の混合物を順次的に堆積させることによって、複数の層(22、23、24)の積層体(25)を堆積させる第3のステップ(130)とを含み、
前記積層体(25)の各層nの間で粒径が異なり、
前記積層体(25)の各層は、前記溶媒を蒸発させることによって形成され、
各層nは、先行する層n-1を少なくとも部分的に覆う
ことを特徴とする方法(100)。
【請求項2】
前記被覆(20)の前記下地層(21)を形成する前記第1の液体混合物は、5~10重量%の顔料を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
複数の層(22、23、24)の積層体(25)を堆積させる前記第3のステップ(130)は、複数種類の液体の混合物を順次的に堆積させることによって行われ、
前記積層体(25)の前記複数の層(22、23、24)を形成するための各液体混合物は、バインダーと、溶媒と、前記積層体(25)を形成する前記層の順次的な堆積ごとにd90値が大きくなっている顔料とを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項4】
前記積層体(25)の前記複数の層(22、23、24)の各層nは、d90値がn・k/10μmに対応する値である顔料を含み、
ここで、kは、前記積層体(25)の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項5】
複数の層(22、23、24)の積層体(25)を堆積させる前記第3のステップ(130)は、複数種類の液体混合物を順次的に堆積させることによって行われ、
前記積層体(25)の前記複数の層(22、23、24)を形成するための液体混合物はそれぞれ、バインダーと、溶媒と、前記積層体(25)の層の順次的な堆積の間でd90値が大きくなっている顔料とを含み、
各液体混合物における顔料の重量%の含有量は、顔料のd90値が大きくなるに従って減少する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項6】
前記積層体(25)の前記複数の層(22、23、24)を形成するための前記複数種類の液体の混合物は、0.5~10重量%の顔料を含む
ことを特徴とする請求項5に記載の方法(100)。
【請求項7】
積層体(25)を堆積させる前記第3のステップ(130)は、d90値がk/10μmに対応する値である0.5~10重量%の顔料を含む液体混合物によって前記積層体(25)の第1の層(22)を堆積させる第1のサブステップ(131)を含み、
ここで、kは、前記積層体(25)の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記積層体(25)の前記第1の層(22)を堆積させるための前記液体混合物は、4~10重量%の顔料を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の方法(100)。
【請求項9】
積層体(25)を堆積させる前記第3のステップ(130)は、d90値が2k/10μmに対応する値である0.5~10重量%の顔料を含む液体混合物によって前記積層体(25)の第2の層(23)を堆積させる第2のサブステップ(132)を含み、
ここで、kは、前記積層体(25)の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項10】
前記積層体(25)の前記第2の層(23)を堆積させるための前記液体混合物は、1~4重量%の顔料を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の方法(100)。
【請求項11】
積層体(25)を堆積させる前記第3のステップ(130)は、d90値が3k/10μmに対応する値である0.5~10重量%の顔料を含む液体混合物によって前記積層体(25)の第3の層(24)を堆積させる第3のサブステップ(133)を含み、
ここで、kは、前記積層体(25)の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項12】
前記積層体(25)の前記第3の層(24)を堆積させるための前記液体混合物は、0.5~4重量%の顔料を含む
ことを特徴とする請求項11に記載の方法(100)。
【請求項13】
前記下地層(21)、及び/又は前記積層体(25)の前記複数の層(22、23、24)は、噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって堆積される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項14】
前記被覆(20)の前記下地層(21)を形成する前記第1の液体混合物、及び/又は前記積層体(25)の前記複数の層(22、23、24)を形成する前記複数種類の液体の混合物は、バインダーと、溶媒と、顔料とを含み、さらに、随意的に、つや消し剤、ガラス溶球、及び/又は分散剤を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項15】
前記バインダーは、ポリマーによって作られている
ことを特徴とする請求項14に記載の方法(100)。
【請求項16】
前記バインダーは、アクリル、エポキシポリマー又はポリウレタンによって作られている
ことを特徴とする請求項15に記載の方法(100)。
【請求項17】
前記被覆(20)の前記下地層(21)を形成する前記第1の液体混合物、及び/又は前記積層体(25)の前記複数の層(22、23、24)を形成する前記複数種類の液体の混合物は、色が付いたインクである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法(100)。
【請求項18】
基材(1)と、
請求項1に記載の方法によって堆積され光を吸収し輝度成分L*が20未満である被覆(20)とを含む
ことを特徴とする物品(10)。
【請求項19】
携行型時計のコンポーネントである
ことを特徴とする請求項18に記載の物品(10)。
【請求項20】
請求項19に記載の携行型時計のコンポーネント(10)を含む
ことを特徴とする計時器(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾品や携行型時計(例、腕時計、懐中時計)のコンポーネントのような物品の表面処理の分野に関する。
【0002】
本発明は、特に、可視光を吸収する光学的性質を有する装飾性被覆を堆積させる方法に関する。
【0003】
本発明は、さらに、前記のような可視光を吸収する装飾性被覆で被覆された物品、例えば携行型時計のコンポーネント、に関する。
【0004】
本発明には、物品や計時器において用いられるコンポーネントの装飾のための、携行型時計の分野において、特に興味深い用途がある。このような物品やコンポーネントとしては、例えば、計時器のムーブメントや外側ケーシングの、プレート、ブリッジ、歯車列、ねじ、振動錘、表盤、インデックス、装飾、開口ディスク、針、又は他の任意のコンポーネントがある。
【背景技術】
【0005】
可視光を吸収し99.8%を超える光吸収率を有する被覆がある。
【0006】
特に、基材の面に垂直に向いており互いに押し付け合わされたカーボンナノチューブベースのVantablack(登録商標)被覆が知られている。このような被覆は、可視光において99.965%の吸収係数を有する黒色を与える。
【0007】
しかし、カーボンナノチューブベースの被覆は、非常に高価であり、健康上のリスクを発生させてしまう。なぜなら、このような粒子には、発がん性、突然変異誘発性、又は生殖毒性があることが知られているからである。
【0008】
使いやすく塗りやすいMusou(登録商標)アクリル塗料も知られており、可視光に対して最大99.4%の吸収率と10に近い輝度成分L*を有する。しかし、この被覆には非常に壊れやすいという特性があり、この被覆に軽く触れただけで被覆が剥離したり吸収率が低下したりしやすくなりうる。例えば、ほこりや繊維が堆積している場合、美的外観を損なわずにこの種の被覆をきれいにすることは非常に難しい。このような塗料は、携行型時計産業などにおいては、容易に利用可能ではない。
【0009】
結果として、このような可視光吸収性被覆を改善して、健康へのリスクなしで、物品の単純な接触や取り扱いによって被覆が損傷してしまうリスクなしに取り扱うことができるような、携行型時計のコンポーネントなどの物品に使用することができるようにする必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況に鑑み、本発明は、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンの粒子の使用を回避しつつ非常に高い光吸収率を有する被覆を含む物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このために、本発明は、携行型時計のコンポーネントのような物品を形成するために可視光を吸収する被覆を基材上に堆積させる方法に関し、この方法は、
- 基材を用意する第1のステップと、バインダーと、溶媒と、d90値がナノメートルレベルの寸法である顔料とを含む第1の液体混合物を堆積させることによって、前記基材の少なくとも一部を覆い前記溶媒を蒸発させることによって形成される下地層を堆積させる第2のステップと、
- バインダーと、溶媒と、粒径が異なる顔料とを含む複数種類の液体の混合物を順次的に堆積させることによって、複数の層の積層体を堆積させる第3のステップとを含み、
前記積層体の各層nの間で粒径が異なり、前記積層体の各層は、前記溶媒を蒸発させることによって形成され、各層nは、先行する層n-1を少なくとも部分的に覆う。
【0012】
本発明の目的の1つは、可視光を吸収し、実装が容易であり、様々なタイプの基材上に輝度成分L*が20未満である表面被覆を得ることを可能にする、装飾性被覆を堆積させる方法を提供することである。
【0013】
好ましくは、前記被覆の前記下地層を形成する前記第1の液体混合物は、5~10重量%の顔料を含む。
【0014】
好ましくは、複数の層の積層体を堆積させる前記第3のステップは、複数種類の液体の混合物を順次的に堆積させることによって行われ、前記積層体の前記複数の層を形成するための各液体混合物は、バインダーと、溶媒と、前記積層体を形成する前記層の順次的な堆積ごとにd90値が大きくなっている顔料とを含む。
【0015】
好ましくは、前記積層体の前記複数の層の各層(n)は、d90値がn・k/10μmに対応する値である顔料を含み、ここで、kは、前記積層体の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である。
【0016】
好ましくは、複数の層の積層体を堆積させる前記第3のステップは、複数種類の液体混合物を順次的に堆積させることによって行われ、前記積層体の前記複数の層を形成するための液体混合物はそれぞれ、バインダーと、溶媒と、前記積層体の層の順次的な堆積の間でd90値が大きくなっている顔料とを含み、各液体混合物における顔料の重量%の含有量は、顔料のd90値が大きくなるに従って減少する。
【0017】
好ましくは、前記積層体の前記複数の層を形成するための前記複数種類の液体の混合物は、0.5~10重量%の顔料を含む。
【0018】
好ましくは、積層体を堆積させる前記第3のステップは、d90値がk/10μmに対応する値である0.5~10重量%の顔料を含む液体混合物によって前記積層体の第1の層を堆積させる第1のサブステップを含み、ここで、kは、前記積層体の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である。
【0019】
好ましくは、前記積層体の前記第1の層を堆積させるための前記液体混合物は、4~10重量%、好ましくは4~8重量%、の顔料を含む。
【0020】
好ましくは、積層体を堆積させる前記第3のステップは、d90値が2k/10μmに対応する値である0.5~10重量%の顔料を含む液体混合物によって前記積層体の第2の層を堆積させる第2のサブステップを含み、ここで、kは、前記積層体の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である。
【0021】
好ましくは、前記積層体の前記第2の層を堆積させるための前記液体混合物は、1~4重量%の顔料を含む。
【0022】
好ましくは、積層体を堆積させる前記第3のステップは、d90値が3k/10μmに対応する値である0.5~10重量%の顔料を含む液体混合物によって前記積層体の第3の層を堆積させる第3のサブステップを含み、ここで、kは、前記積層体の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である。
【0023】
好ましくは、前記積層体の前記第3の層を堆積させるための前記液体混合物は、0.5~4重量%、好ましくは0.5~1重量%、の顔料を含む。
【0024】
好ましくは、前記下地層、及び/又は前記積層体の前記複数の層は、噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって堆積される。
【0025】
好ましくは、前記被覆の前記下地層を形成する前記第1の液体混合物、及び/又は前記積層体の前記複数の層を形成する前記複数種類の液体の混合物は、バインダーと、溶媒と、顔料とを含み、さらに、随意的に、つや消し剤、ガラス溶球、及び/又は分散剤を含む。
【0026】
好ましくは、前記バインダーはポリマーによって作られている。
【0027】
好ましくは、前記バインダーは、アクリル、エポキシポリマー又はポリウレタンによって作られている。
【0028】
好ましくは、前記被覆の前記下地層を形成する前記第1の液体混合物、及び/又は前記積層体の前記複数の層を形成する前記複数種類の液体の混合物は、色が付いたインクである。
【0029】
本発明は、さらに、基材と、本発明に係る方法によって堆積された被覆とを含む物品に関する。
【0030】
したがって、このような物品は、輝度成分L*が20未満である光吸収面被覆を含む。
【0031】
好ましくは、前記物品は、携行型時計のコンポーネントである。
【0032】
本発明は、さらに、このような携行型時計のコンポーネントを含む計時器に関する。
【0033】
図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の目的、利点及び特徴が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】基材と、本発明に係る可視光を吸収する被覆とを含む、携行型時計のコンポーネントのような物品の断面図を概略的に示している。
図2】本発明に係る、基材上に可視光を吸収する被覆を堆積させて、携行型時計のコンポーネントのような物品を作るための方法の例のいくつかの主な順次的なステップを示している。
図3】本発明に係る物品の一実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書において、本発明に係る被覆を堆積させる方法に従って得られた光吸収性被覆の比色性質は、CIE L*a*b*比色空間を用いて表され、磨かれたサンプルに対して、KONICA MINOLTA CM-3610-A分光光度計を用いて、以下のパラメーターを使用して、CIE 1976標準に従って測定されるものである。すなわち、照明源CIE D65(昼光6500K)、10°傾斜、SCI測定(鏡面反射を含む)、直径4mmの測定領域である。
【0036】
CIELAB色空間(CIE標準No. 15、ISO 7724/1、DIN 5033 Teil 7、ASTM E-1164に準拠)には、材料の光反射性を表す輝度成分L*があり、これは輝度のことであり、他に、緑/赤成分であるa*成分と、青/黄成分であるab*成分がある。
【0037】
本出願において、粒子と顔料の大きさは、粒径分布のd90値に関連して特徴を表す。粒径分布において、d90値の使用は、用いられる粒子集合における粒子ないし顔料の少なくとも90%がその所与のd90値未満の大きさであることを意味する。
【0038】
図1は、基材1と、本発明に係る堆積方法100を使用して基材1の少なくとも一部を覆う可視光吸収性被覆20とを含む、携行型時計のコンポーネントのような物品10の断面図を概略的に示している。このような本発明に係る光吸収性被覆20は、好ましくは層数が大きくなるに従って粒径が大きくなるように、層の間で粒径が異なる顔料を含む多層構造を形成する。
【0039】
好ましくは、被覆20の異なる層の間の顔料の密度も、好ましくは層数が大きくなるに従って減少するように、変わっている。
【0040】
物品10は、光を反射せず、輝度成分L*が20未満であり、深く強度が高い色の印象を与えることが望まれる、携行型時計のコンポーネントなどであり、例えば、携行型時計用ムーブメント、又は計時器のケーシングのためのコンポーネントの、プレート、ブリッジ、車、ねじ、振動錘、表盤、インデックス、装飾、開口ディスク、針、又は任意の他のコンポーネントや機構である。
【0041】
図3は、本発明に係る物品10を含む計時器200を示している。この実施形態において、本発明に係る物品10は、表盤である。
【0042】
基材1は、任意の材料によって作られていることができ、例えば、金属、ポリマー、セラミックス、又は複合材料によって作られていることができる。
【0043】
本発明に係る方法のおかげで、様々な基材を用いて、輝度成分L*が20未満である被覆20を含む物品10を得ることができる。比較のために、物理蒸着(PVD)被覆プロセスでは、堆積層のトポロジーのために、輝度成分L*が20未満である被覆を形成することはできない。PVDの場合、つや消し被覆の輝度成分L*は、25~30である。
【0044】
本発明に係る光吸収性被覆20の特定の多層構造のおかげで、この被覆20の可視面における反射現象を避けることが可能になる。また、この被覆20のおかげで、この被覆20を構成する顔料の粒径の違いによって形成された構造内に光が捕捉されるまで光を拡散させて、光吸収を最大にすることが可能になる。
【0045】
被覆20は、基材1の少なくとも一部にわたって基材1を覆うように構成している、ベース層を形成する下地層21を含む。
【0046】
好ましくは、下地層21は、基材1の少なくとも1つの面を完全に覆う。
【0047】
この下地層21は、この下地層21が均質で不透明であり基材1の光学的外乱が活性でないことを確実にするために十分な厚みを有する。例えば、下地層21は、1μm以上20μm未満の厚みを有し、より好ましくは5μm~10μmの厚みを有する。
【0048】
好ましくは、下地層21は、バインダーと、顔料と、溶媒とを含む第1の液体混合物を基材1上に堆積させることによって形成される。
【0049】
例えば、下地層は、30~40重量%のバインダーと、50~60重量%の溶媒と、5~10重量%の顔料とを含む第1の液体混合物を堆積させることによって形成される。
【0050】
例えば、下地層は、30重量%のアクリルバインダーと、60重量%の溶媒と、10重量%のEmperor(登録商標)1600 カーボンブラック顔料とを含む第1の液体混合物を堆積させることによって形成される。
【0051】
随意的に、第1の液体混合物は、さらに、被覆20の強度をさらに目立つようにするために、つや消し剤、例えば、ナノシリカ、を含むことができる。
【0052】
随意的に、第1の液体混合物は、さらに、液体混合物において顔料を懸濁させることに寄与する分散剤を含むことができる。
【0053】
好ましくは、下地層21を形成する第1の液体混合物におけるバインダーは、ポリマー、例えば、アクリル、エポキシポリマー又はポリウレタン、によって作られている。
【0054】
例えば、第1の液体混合物は、色が付いたインクである。
【0055】
例えば、第1の液体混合物は、カーボンブラック顔料を含む黒色インクである。
【0056】
例えば、第1の液体混合物は、噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって基材1に塗布される。
【0057】
液体混合物が基材1に塗布されると、溶媒が蒸発し、顔料のまわりにてバインダーが収縮し、これによって、被覆20の下地層21が形成される。
【0058】
好ましくは、下地層21における顔料は、d90値が、ナノメートルレベルの寸法であり、例えば20~120nmであり、好ましくは100nm未満である。このように、下地層21は、粗さが低い均質な層となっている。
【0059】
下地層21は、互いに重なり合ったいくつかの層22、23、24の積層体25で覆われ、この積層体25の各層に含まれる顔料は、d90値が、その層の下の層にある顔料の粒径とは異なる。
【0060】
好ましくは、積層体25に含まれる顔料は、d90値が、基材の方から被覆20の面の方へと移るに従って大きくなるように分布している。このようにして、積層体25の各層に含まれる顔料は、d90値が、その層の下の層における顔料のd90値よりも大きい。
【0061】
好ましくは、積層体25の各層nに含まれる顔料は、d90値がn・k/10μmである。ここで、kは、その前に堆積した層(n-1)の顔料のd90値と、堆積される層nの顔料のd90値の間、すなわち、積層体25の2つの連続する層の間、の相似係数である。
【0062】
好ましくは、相似係数は、5~1000である。
【0063】
図1に示している実施形態において、積層体25は、順次的に堆積した3つの層22、23、24を含む。当然、積層体25は、下地層21を覆う積層体25の特定の構造を形成するように、少なくとも2つの順次的な層を含むことができ、また、3つを超える数の順次的な層を含むことができる。
【0064】
積層体25の第1の層22に含まれる顔料は、d90値が、下地層21における顔料のd90値よりも大きく、例えば、マイクロメートルレベルの大きさであって、20μm未満であり、好ましくは15μm以下である。
【0065】
積層体25の第1の層22を少なくとも部分的に覆う積層体25の第2の層23は、d90値が、例えば、80μm以下である、顔料を含む。積層体25の第2の層23を少なくとも部分的に覆う積層体25の第3の層24は、d90値が、例えば、250μm以下である、顔料を含む。
【0066】
各層22、23、24はそれぞれ、バインダーと、顔料及び溶媒を含む液体混合物の順次的な堆積によって形成され、異なる液体混合物における顔料のd90値は、下の層と比べて各堆積層の粗さが増えるように粒径が大きくなる異なる層を形成するように前記比率に従って変わっている。
【0067】
噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって各混合物を塗布した後、溶媒が蒸発して、顔料のまわりのバインダーの重合と収縮を可能にし、これによって、下の層又は下地層21を少なくとも部分的に覆う固体層を形成し、新しい層は、下の層よりも粗さが大きい。
【0068】
好ましくは、積層体25の様々な層22、23、24を堆積させるための液体混合物を形成するために用いられるバインダー、顔料及び溶媒の性質は同じである。
【0069】
随意的に、積層体25を形成するための液体混合物は、積層体25の強度、より一般的には被覆20の強度、をさらに目立つようにするために、つや消し剤、例えば、ナノシリカ、を含むことができる。
【0070】
随意的に、積層体25を形成するために用いられる液体混合物は、顔料を第1の液体混合物において懸濁させることに寄与する分散剤を含むことができる。
【0071】
随意的に、積層体25を形成するための前記液体混合物は、さらに、積層体の粗さを増加させるためにガラス溶球を含むことができる。好ましくは、ガラス溶球は、積層体25の最後の層において用いられる。
【0072】
好ましくは、積層体25を形成する液体混合物のバインダーは、ポリマー、例えばアクリル、エポキシポリマー又はポリウレタン、である。
【0073】
例えば、積層体25を形成する液体混合物は、色が付いたインクである。
【0074】
好ましくは、積層体25の層を形成するために用いられるバインダーと溶媒は、下地層21を作るために用いられるものと同じである。積層体25の層を形成するために用いられる顔料は、下地層21を作るために用いられる顔料と同じであっても異なっていてもよい。
【0075】
好ましくは、積層体25の異なる層22、23、24を形成する液体混合物における顔料の含有量は、0.5~10重量%である。好ましくは、液体混合物における顔料の含有量は、顔料のd90値が小さいほど高くする。したがって、積層体25の層22、23、24における顔料の密度は、顔料のd90値が大きくなるに従って、ますます低くなる。
【0076】
例えば、積層体25の第1の層22は、4~10重量%、好ましくは4~8重量%、の顔料を含む液体混合物から作られる。
【0077】
例えば、積層体25の第2の層23は、1~4重量%の顔料を含む液体混合物から作られる。
【0078】
例えば、積層体25の第3の層24は、0.5~4重量%、好ましくは0.5~1重量%、の顔料を含む液体混合物から作られる。
【0079】
図2は、本発明に係る基材1上に可視光吸収性被覆20を堆積させるための方法100におけるいくつかの主なステップを示している。
【0080】
本発明に係る堆積方法100は、基材1を用意する第1のステップ110を含む。
【0081】
本発明に係る堆積方法100は、基材1の少なくとも一部を覆う下地層21ないしベース層を堆積させる第2のステップ120を含む。この第2の堆積ステップ120は、バインダーと、溶媒と、d90値がナノメートルレベルの寸法である、例えば100nm未満である、5~10重量%の顔料とを含む第1の液体混合物の噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって行われる。
【0082】
この下地層21を堆積させるステップ120は、基材1に塗布された液体混合物から溶媒を蒸発させて、顔料のまわりにてバインダーを収縮させて被覆20の下地層21を形成するサブステップを含む。
【0083】
また、この堆積方法100は、積層体25の各層の間で粒径が異なる重なり合った複数の層22、23、24の積層体25を堆積させる第3のステップ130を含む。
【0084】
この第3のステップ130は、バインダーと、溶媒と、d90値が100nmより大きくk/10μmである0.5~10重量%の顔料とを含む液体混合物によって積層体25の第1の層22を堆積させる第1のサブステップ131を含む。ここで、kは、積層体25の2つの連続する層における顔料のd90値の間の相似係数である。
【0085】
好ましくは、第1の層22を堆積させるための前記液体混合物は、4~10重量%の顔料を含む。
【0086】
好ましくは、第1の層22を堆積させるための前記液体混合物は、4~8重量%の顔料を含む。
【0087】
この第1のサブステップ131は、噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって行われる。
【0088】
この第1のサブステップ131は、下地層21に塗布された液体混合物から溶媒を蒸発させて、顔料のまわりにてバインダーを収縮させて、下地層21上に重なり合った被覆20の第1の層22を形成するステップを含む。
【0089】
第3のステップ130は、バインダーと、溶媒と、d90値が2k/10μmである0.5~10重量%の顔料とを含む液体混合物によって積層体25の第2の層23を堆積させる第2のサブステップ132を含む。ここで、kは、第1の層22の顔料のd90値と第2の層23の顔料のd90値の間の相似係数である。
【0090】
好ましくは、第2の層23を堆積させるための液体混合物は、1~4重量%の顔料を含む。
【0091】
この第2のサブステップ132は、噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって行われる。
【0092】
この第2のサブステップ132は、第1の層22に塗布された液体混合物から溶媒を蒸発させて、顔料のまわりにてバインダーを収縮させて、第1の層22上に重なり合った被覆20の第2の層23を形成するステップを含む。
【0093】
第3のステップ130は、バインダーと、溶媒と、d90値が3k/10μmである0.5~10重量%の顔料とを含む液体混合物によって積層体25の第3の層24を堆積させる第3のサブステップ133を含む。ここで、kは、第2の層23の顔料のd90値と第3の層24の顔料のd90値の間の相似係数である。
【0094】
好ましくは、第3の層24を堆積させるための液体混合物は、0.5~4重量%の顔料を含む。
【0095】
好ましくは、第3の層24を堆積させるための液体混合物は、0.5~1重量%の顔料を含む。
【0096】
この第3のサブステップ133は、噴霧、浸漬、スクリーン印刷、印刷又はパッド印刷によって行われる。
【0097】
この第3のサブステップ133は、第2の層22に塗布された液体混合物から溶媒を蒸発させて、顔料のまわりにてバインダーを収縮させて、第2の層23上に重なり合った被覆20の第3の層24を形成するステップを含む。
【0098】
当然、堆積方法100は、被覆20の積層体25における所望の層の数に応じて、追加の層を堆積させる他のサブステップを含むことができる。
【0099】
本発明の第1の例によると、真鍮製の基材を、例えば表盤を形成するために、用いて、それに本発明に係る光吸収性被覆が塗布される。
【0100】
この真鍮製の基材の厚みは、例えば、0.27mmである。
【0101】
2gのポリウレタン樹脂(Berlacryl)、0.5gのEmperor 1600カーボンブラック顔料、及び2.8gのBerlaflex希釈剤を含む初期の液体混合物に浸すことによって、真鍮製の基材上に下地層21が塗布される。この下地層21を20分間乾燥させて希釈液を蒸発させる。
【0102】
2gのポリウレタン樹脂(Berlacryl)、0.3gのLiving Ink顔料、及び3.5gのBerlaflex希釈剤を含む第2の液体混合物に浸すことによって、下地層21上に積層体25の第1の層22を堆積させる。この第1の層22を20分間乾燥させて希釈液を蒸発させる。
【0103】
2gのポリウレタン樹脂(Berlacryl)、0.2gのNorit A ultra E153顔料、及び4gのBerlaflex希釈剤を含む第3の液体混合物に浸すことによって、第1の層22上に積層体25の第2の層23を堆積させる。この層を20分間乾燥させて希釈液を蒸発させる。
【0104】
2gのポリウレタン樹脂(Berlacryl)、0.2gのNorit SX super E153炭素顔料、1.5gの90~150μmのガラス溶球、及び4gのBerlaflex希釈剤を含む第4の液体混合物に浸すことによって、第2の層23上に積層体25の第3の層24を堆積させる。この層を20分間乾燥させて希釈液を蒸発させる。
【0105】
このような被覆によって、黒色の表面被覆と15.9の輝度成分L*を有する真鍮製の表盤が得られる。
【符号の説明】
【0106】
1 基材
10 物品
20 被覆
21 下地層
22 第1の層
23 第2の層
24 第3の層
25 積層体
200 計時器
図1
図2
図3
【外国語明細書】